Overtone.第15回 「人生は単なる空騒ぎ -言葉の魔法-/鈴木敏夫 著」を読む

Posted on 2018/01/12

ふらいすとーんです。

スタジオジブリ・プロデューサー鈴木敏夫さんの著書はたくさんあります。内容もおもしろい、語り口も独特で味がある、なにより学ぶことが多い、頭と心のストレッチ体操で読後ほぐれる心地いい感覚。

「人生は単なる空騒ぎ -言葉の魔法」(2017年12月28日刊)、鈴木敏夫プロデューサーの手書きの「書」をまとめたもので、格言からジブリ映画コピー・イラスト・絵まで、手書きと言葉のもつ力強さやメッセージを込めた大型本です。

ひと言で言えば、個展にある図録のような装い佇まい(実際個展も開催しているはず)。それほどに見事な「書」であることはもちろん、過去から現在まであらゆる「書」が収められています。言葉を選ぶこと、その言葉にどんな想いをのせて表現するのか。ゆっくり眺めるとほんとうに奥が深い世界だなあと思います。そしてさすがエンターテインメント、見ているだけでもおもしろいのが鈴木敏夫プロデューサーの個性溢れる「書」。

中身をお見せできないのが残念ですが、ぜひ書店で見かけたら手にとってみてください。

 

 

今回は目次をなぞりながら、その章で印象に残ったことを個人の備忘録よろしく記していきます。いつかどこかで、なにかつながるときがくる、そう思っています。

 

【目次】

はじめに

1 読む話す好きな言葉

 

本のタイトルにもなっている「人生は単なる空騒ぎ。意味など何ひとつない。」、もとになっているのは映画のセリフだそうです。鈴木プロデューサーのコメントに「もともと人生に意味はない。だったら意味を付ければいい。自分の人生は自分で決められる。」と補足がありその真意がわかりやすく伝わった気がします。

 

この章で強く印象に残った文章を一部抜粋させてもらいます。

言葉を集める

「人間が何かを考え、論理を組み立てるとき、その単位となるのは言葉です。おもしろいのは、頭の中で考えるだけじゃなくて、声に出してみると、自分の考えがまた違う響きを持って聞こえること。それについて何度も考え、口にするうちに、気がつけばその言葉に支配されている自分がいる。不思議なものです。ぼくは学生時代から”言葉”が好きで、気にいった文章に出会うと、ノートに書き写すということをよくやっていました。とくに大学時代は本を読むときは必ず傍らにノートを置いていた。本に線を引っ張ったり書き込んだりはしないで、いいなと思った言葉はノートに書き写す。そうすると文章が自分の体に入ってきて、しっかり記憶に刻まれる。」(以後つづく)

 

 

2 映画を作るときに書いてきたこと

 

スタジオジブリ映画のこれまでのキャッチコピーや名セリフの数々が「書」で収められています。『バルス!』も1ページまるまる力強い筆で。文章頁では【映画を伝える/「生きる」というテーマ/監督の話を聞く】というプロデューサー論やその仕事が垣間見えるエピソード満載です。

ちなみに「ハウルの動く城」をはじめ、いくつかの映画タイトル(題字)も鈴木プロデューサーによるものであることは有名です。

 

この章で強く印象に残った文章を一部抜粋させてもらいます。

「お客さんに喜んでもらいたい──これに尽きます。映画作りって、ぼくはラーメン屋と同じだと思うんです。いろんなお店がありますけど、本当にいい店はやっぱりお客さんのことを考えている。間違っても、自己表現だとか、自分のこだわりに走っちゃいけない。いつも受け取る相手のことを考える。そうすれば迷わないし、こちらも楽しくなってくる。エンターテインメントってそういうものだと思います。」

 

 

3 自分のためではなく 他人のために

 

スタジオジブリ作品以外で依頼された「書」がまとめられています。「男鹿和雄展」や「24時間テレビ」、宮崎駿監督がいちばん褒めてくれたという絵、LINEスタンプのキャラクター絵一覧まで。

 

NHKでTV放送された「終わらない人 宮崎駿」、この番組題字もそうだったんですね。本にはその原書が収められています。

 

そして久石譲パリ公演の題字、鈴木プロデューサーのメッセージも。観客に配られたパンフレットや会場特設巨大パネル、ステージ巨大スクリーンにと、海外ファン新鮮インパクト絶大!

「英文の題字は大文字と小文字が交じったアルファベットに苦労した。何枚も書いた」というエピソードが語られていました。原書はご紹介できないのでコンサートで使われたものを。日本発信のスタジオジブリ映画・スタジオジブリ音楽。コンサートに華を添える筆文字のおもてなし。

 

Info. 2017/06/11 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート Music from スタジオジブリ宮崎アニメ」(パリ) プログラム 【6/12 Update!!】 より)

 

 

4 分からないことはそのままで

 

鈴木プロデューサーの生い立ちや少年期の作品まで。よくここまで状態よく保管されているなあと感心したわけです。作ったもの(作品)を大切にするという職人気質が、小さい頃からすでにあったのかもしれないと思わずにはいられません。学生時代の「分からないことはそのままにしておく」というエピソードも学びの種をもらい、アニメージュ編集者時代のマニュアル一覧表もすごかった。言葉の表記や校正のルールがまとめられています。まちがえやすい送り仮名・漢字・仮名づかい、数字表現(漢数字/算用数字)ルール、カッコ類の使い方、などなど。学校では教えてくれない?!ような実用性の高いものばかりで、食い入るように見ていました。文章を書く機会の多い人、文章を書くことが好きな人は、見て損はない「おっ、こいつの文章は一応の教養はあるな」と思ってもらえる型がつまっています。

 

 

5 ジブリにまつわるエトセトラ

 

ジブリ映画の企画書、製作時期の作業工程表、宣伝計画表、選考段階のキャッチコピー、ポスターラフスケッチ、映画タイトルロゴ、CM用コンテなどなど。時に便せん用紙に、時に原稿用紙に、時に白紙にと、すべて鈴木プロデューサーの手書きのものが収められています。ジブリ映画本「ロマンアルバム」やジブリ美術館に展示されているような貴重な関連資料と言ったらわかりやすいかもしれません。

ユーモアあふれる筆跡やイラスト、デザインとしてもバランスいい優れた資料とも見れます。一方では絵に描いた餅にならない説得力と計算性をもった内容。このあたりのアート性と論理性が研ぎ澄まされた究極のバランス感覚が、鈴木プロデューサーの一流たる所以であり、一貫するエンターテインメント力なんだろうなあと感嘆しきりです。

 

 

6 書は体を現わす

おわりに

 

今さながら、本著至極の「書」にどんな言葉があるのか、どんな筆で表現されているのか、その言葉へのコメントは紹介できていませんが、それは本を開いてのお楽しみということで。

僕は常々、数々の言葉たちは、鈴木プロデューサーから生まれた言葉だと思っていたのですが、そうではないんですね。先人たちの格言をそのままだったり、鈴木プロデューサーのフィルターを通って言葉が少し変換されていたりと。もちろん日常のやりとりのなかで生まれた言葉もたくさんあります。

日本語、英語、韓国や台湾で開催されるジブリ展示会のための各国語題字。鈴木プロデューサーの「書」は書道の精神を現わすというよりも、全体のデザインが巧みで文字のアクセントやバランスの妙を感じます。絵がうまいことも要因でしょうし、エンターテインメント性のあるデッサンや動き出しそうな字たち。精神よりも生身、生きた字を感じるのかもしれません。

 

この章で強く印象に残った文章を一部抜粋させてもらいます。

創作と制約

「昔の芸術家は、発注者の注文に応じで作品を作っていました。ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ミケランジェロ、みんなそうです。そういう意味でいえば、プロデューサーとしてのぼくは発注者にあたります。実際に作品を作るのは、監督である高畑勲や宮崎駿です。発注者としての経験から思うのは、作る人が自由に好きなものを作ると、なかなかいい作品ができないということです。むしろ、ある制約をかけられて、それを克服しながら作ると、いいものができる。」(以後つづく)

昨日の自分は、過去の遺人

「ぼくは昔から過去のことに興味がありません。雑誌も映画も、作り終わったあとはもう過去のこと。見返すことはないし、まわりの人から「あのときこんなことがあった」と言われても、よく覚えていないことが多い。今回、こうして自分が過去に書いたものを並べてみても、「へえ、こんなものを書いていたんだ」と他人事のように見ている自分がいる。ぼくにとっては、昨日の自分はもう他人なんです。~略~ 過去の出来事は思い出せても、そのときの感情は思い出せない。過去の自分は叩いてもつねっても、痛くも痒くもない。つまり、もはや歴史上の人物と同じ。ぼくにとって、過去の自分とはそういう存在です。」

「ぼくが書に向かうのは、いま、ここに集中したいからなのかもしれません。じつをいえば、宮崎駿という人も、いつも、いま、ここの人です。」

 

 

久石さんファンとして。

僕は久石さんのファンでよかったなと強く思うことがあります。それは久石さんの周りにいる人たちからも多くのことを学ぶことができる。鈴木敏夫プロデューサー、高畑勲監督、宮崎駿監督、をはじめつながる方々の本やインタビューを読む機会にめぐまるからです。仕事論、プロ論、人生論、どれも一流です。突きつめてきた人たち、走りつづけてきた人たち、切り拓いてきた人たち、そこから生まれる具体的なエピソードや教訓、時に失敗談や笑い話。生き生きとしていて、羨ましくもあり、希望や勇気をもらえる。「自分の今の壁なんてまだまだ!」とか「自分もこんな眺め(心境)を味わいたい!」と、先を照らしてくれる灯りのようです。半端なビジネス書を読んでふわっとした額ぶちオチなら、断然スタジオジブリ関連書籍をおすすめしますっ。

これらの人から語られる言葉・考え方は、長年付き合っている久石さんの耳にもきっと入っている。本からではなく直に接する会話やりとりのなかで。とすると、久石さんの血肉にもなっているかもしれない思考(少なくとも影響は受けているものはある)、そのおすそ分け知る学ぶことができる書籍はとても貴重でかけがえのないものです。

 

久石さんからでる言葉に「?」となったとき。なぜこの言葉?なぜこの言い回し?なぜ今?…

本からの鈴木プロデューサーの言葉を借りれば。「分からないものはそのままにしておく。──現在進行系で起きている事柄を捉えようとするとき、分かることと、分からないことが出てくる。もちろん分かろうと努力はするものの、全部は分からない。 ~略~  いまは分からなくても、いつか分かる日が来る。だから、そのまま大事にとっておこう。」

まさに、この心境そのままに記しました。

いつかどこかで、なにかつながるときがくる、そう思っています。

それではまた。

 

 

reverb.
書も収められいた言葉に「どうにもならんことは どうにもならん  どうにかなることは どうにかなる」、いい言葉だなあとからだの深くに染みこんでいきます♪

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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