Blog. 「ダカーポ 1998年2月18日号 NO.391」久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/05/21

雑誌「ダカーポ 1998年2月18日 NO.391」に掲載された久石譲インタビュー内容です。『もののけ姫』『HANA-BI』そして『パラリンピック』の話題になっています。

 

 

インタビュー

久石譲

宮崎、北野作品で鍛えられた成果を長野パラリンピックで表現したい

宮崎駿作品、北野武作品などの音楽監督として知られる久石氏は、3月5日から始まる長野パラリンピックの総合プロデュースも手がけている。その一環として、ドリアン助川、猿岩石、池田聡、米良美一といった、20人以上の人気アーティストがボランティアで参加した、パラリンピック支援(トリビュート)アルバム『HOPE』を2月25日にリリースする。

 

ーアルバムの企画はどのような経緯で出てきたんだですか?

久石:
「パラリンピックの文化イベントの総合プロデューサーをやっていて、それなりに自分では十分やってたと思っていたんですけど、10月に、たまたまテレビでドキュメンタリーで清水さんという、パラリンピックの選手を20年間ボランティアで追い続けている人のドキュメンタリーを見て、感動しましてね。オレはまだ音楽家として、ちゃんとやることをやっていないかもしれないと、急に思い立って。それが去年の暮れ。でもどう見ても時間がないわけですよ。仕事っぽくなるのも嫌だったから、事務所を通さずに一人一人電話して、こういう趣旨でというのを説明して口説いて、それで始まったんですけどね」

 

ー反応はどうでしたか?

久石:
「もちろん事情でできない人もいましたけど、話をして、直接お会いして意図を説明したら、ほとんどの人がOKだったんです。印税も、何%とか面倒くさいこといわず、諸経費を除いた全額寄付する。この辺が潔いというか、そう決めたらみんな分かってくれて、とても協力的でした」

 

ーパラリンピックテーマ曲でコンビを組んだドリアン助川さんの作詞も2曲入っていますね。

久石:
「そのテーマ曲『旅立ちの時』を彼が朗読して、僕がピアノを弾く予定だったんですよ。そのつもりでスタジオに入ったら『旅立ちの時』のイントロともいえる、まったく新しい詩を書いた詞で臨んできたんです。気合が入ってるなーと思って、ドリアンさんの朗読と僕のピアノだけの、ほかは一切使わない一騎打ち勝負の『鮮やか』という新曲を2人で録りました」

 

ー猿岩石はどうでしたか?

久石:
「これがうまかった。猿岩石の『上を向いて歩こう』がすごくいい。4PMとか長渕さんとか、いろんな『上を向いて歩こう』があるけど、それとはまったく違う素朴さがあって、ストレートな青春ソングというか、すごくいい上がりでしたね。今まで聞いた『上を向いて歩こう』の中では一番好きですね」

 

ーアルバムのプロデュースに関して、統一したイメージはありましたか?

久石:
「イギリスの画家でフレデリック・ワッツという人に『ホープ』という、僕が昔から大好きな絵があるんですよ。目に包帯を巻いた女性が地球に座って、竪琴を弾いているんですね。小さな竪琴で、全部糸が切れているんです。それで1本だけ細い線が張ってあって、それに耳を近付けて聴いている。この絵をコンセプトにして、全員に送って見てもらったんですよ。

要するに、何も縛らない、ただ、この絵が持っているイメージだけ。見ようによってはすごい絶望的な絵なわけです。だけど同時に、これ以上ないような絶望の中でも希望は捨てないという、前向きな絵にも見えるわけですね。

この絵を見て、曲を書いてもらったり、パフォーマンスしてもらったんです。そうしたら、まったく違うそれぞれの個性が生きながら、全員で同じ風景を見ているような、そういう統一感のようなものが、このアルバムにはできたんです。それがすごくうれしかった」

 

ーそもそもパラリンピックの総合プロデュースをすることになったいきさつを教えてください。

久石:
「一番大きかったのは、僕も長野県出身であることだと思うんです。最初にパラリンピックのテーマ曲を書いてくれと依頼されたときに、僕は福祉を一生懸命やってきたりとか、そういうボランティアをやってきた人間ではないもので、ちょっといいメロディーを書くというだけでは、どうも重く感じてしまったんですよ。

それでしばらく待ってもらって、出た結論は、やるからにはすべて自分もかかわるということで、一スタッフとして参加しますと言ったら、今度はこういうプロデューサーをやっていただきたいと言われて。それもまたすごいヘビーでしょう。

どうしようかと思ったんですけど、その時の自然の流れで、やろうかなと。僕自身、宮崎駿さんとか北野武さんとか、いい監督と映画中心に仕事をして、ビジュアルに関しては分からない方ではないと思うので、開会式の演出を引き受けたんですよ。自分の新しい可能性も出るかもしれないし」

 

ー開会式のプランは?

久石:
「メーンが火ですからね。普通ああいう室内でやるときは火なんてそんなに使えないんですけど、盛大な火が出ますね。あと、空中戦で。いろんなバンジージャンプはあるわ、空から人は降ってくるわ。大スペクタクルですよ。

いろんな出し物をつなげるだけや、ストーリーに縛られてしまって、みんながイメージが広がらないのは嫌だから、バックストーリーを作って、それを前面に出さないで、そのストーリーから組み立てた4つのシーンという感じで構成します。イベントとしては一番手間暇かかる方法らしいですけど」

 

ー実際の競技も、見た人は一様に”半端じゃなくすごい”と言います。ドリアン助川さんも、選手たちを「超人」と評していました。

久石:
「本当に、彼らの持っている力というのは、見ているだけでわれわれも勇気づけられちゃいますよ。今の時代で、一番21世紀に近いことを考えやすいんじゃないかな」

 

ーといいますと?

久石:
「つまり、今のオリンピックは、どうしても経済性が前面に出てしまうじゃないですか。お金とかいろんなもので幸せになる環境があるなら、それもいいんですね。

だけど、どう見ても経済は破綻しているし、そういうことで幸せになることがないとしたら、逆に自分と隣の人とのかかわりとか、家族とのかかわりとか、そういうところを考え直した方がいいんじゃないかと、パラリンピックを担当したことによって、僕はものすごくそういうことを考えました。

でっかいビルを建てるよりは、車イスの人のスロープを緩やかに作ってあげるとか、きめ細かい配慮をしていることというのが、僕たちにとってもすごく幸せになるような。つまり生活環境がよくなるわけですよね。そういうことの方がいいような気がする」

 

『HANA-BI』の音楽は、大胆なアプローチで成功

ー昨年の『もののけ姫』、今年の『HANA-BI』。映画音楽監督としても話題作が続きました。

久石:
「『もののけ姫』はそれこそ足かけ3年間、イメージアルバム、サウンドトラックとかかわっていて、宮崎さんのすさまじい情熱に、こちらも負けてはいけないわけですから、こっちもパワー全開で、音楽的にも全部シンセで作ったのを、オーケストラでやり直したりとかいろいろして、やれる限りのことを尽くした。これでダメだったらごめんなさいというところまでやり切れたという満足があります」

 

ー公開中の『HANA-BI』に関しては?

久石:
「これも北野さんの映画の中では、今までの集大成みたいな部分と、新しく歩みだそうという姿勢が結実していて、ある意味で分かりやすくて、本当に人に語りかける映画ですから、完成度がすごく高かったんですね。その音楽に関して自分は、アプローチは相当大胆にやったんですよ。

あの映画には3つの要素があると思うんです。主人公の刑事と、犯人に撃たれて下半身不随になる同僚との友情。夫婦の愛。それからバイオレンス。ぼくはこのバイオレンスのシーンに、音楽を一切付けなかったんです。通常はそういうシーンにも必要になるんですけれど、これはいりませんと言い切って。同僚が画家になっていくシーンと、夫婦のシーンにしか付けなかったんです。

そのことによって、非常に徹底した音楽を書いたという思いがある。それでも0号試写を見るまで、本当にそれで良かったのか悩んでいたんですが、すごくうまくいっていた。無難な路線を選ばない、徹底したアプローチが、映画として成功したのが、自分としてはものすごく満足しましたね」

 

ー北野監督は何か?

久石:
「監督と僕というのは、そんなにああだこうだと話さないんですよ。この前一緒にテレビに出たときに言ってましたけど、自分が映像を撮って『はいどうぞ、お好きに』とぽーんと投げかける。僕はそれを『分かりました』というだけで作らなくちゃいけないから、やり方としてはしんどい」

 

ーそれだけ信頼されている?

久石:
「北野さんと宮崎さんに共通して言えるのは、すごく音楽的な感性がしっかりしている。理論的じゃなくても、感覚的にこの映像と違っているということには、あの2人は徹底的に言いますから。そうならないように僕も努力してますけど、その辺のやりとりというのは、表面は静かですけれど、壮絶な闘いというのはあるんです」

 

ー久石さんにとって宮崎さんはどういう人なんですか?

久石:
「人生の師匠ですね。よく一般の人が誤解するのは、もう何本もやっているから慣れてるでしょう、と言われるんだけど、そういうことは一切なくて、僕は一本一本が勝負で、もし一回でも期待に沿えないものができたら、次はないです。そのスタンスはお互いにすごく明確。

そういうところで仕事してきて、ふっと前を見ると、宮崎さんという人が、一映画監督という域を超えて、時代のオピニオンリーダーのようになっている。その宮崎さんと、音楽家としていいメロディーを書くということではなくて、互角に渡り合わなくてはいけない。そう思ったときに、宮崎さんが読んでいた本、影響を受けた作家、堀田善衞さんとか司馬遼太郎さんとか、全部読み直しました。それで、何でこのシーンがここにあるのかということなんかを、すごい徹底的に考えることによって、もう一度もっと偉大な宮崎さんを発見しました。僕にとって、生きていく上での座標ですね」

 

ー北野さんのすばらしさはどういうところに感じていますか?

久石:
「口で言うのはものすごく難しいんですけど、すごくシャイな人ですよね。自分という世界を本当にしっかり持っている。なおかつ、大半の日本人がなってしまっている、人頼みのところがない。達観しているところがありますよね。ある種の哲学的な深さ。口では何も言わないんだけど、いるだけでそういうものを感じさせる人です。会うと、次の映画の話ばかりしてますよ」

(「ダカーポ 1998年2月18日号 NO.391」より)

 

 

 

久石譲 『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』

 

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

 

HANA-BI サウンドトラック

 

 

 

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