Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in Festival Hall」 コンサート・パンフレットより

Posted on 2018/01/04

毎年恒例!大晦日に開催される特別なコンサート「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in Festival Hall」。2014年から続く今年は「風の谷のナウシカ」と「カルミナ・ブラーナ」というプログラム。また先立って20日には同プラグラムを引き下げ仙台フィルと初共演。なぜカルミナ・ブラーナだったのか? そんな想いのつまった久石譲プログラムノートです。

 

 

久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall

[公演期間]  
2017/12/31

[公演回数]
1公演 (大阪 フェスティバルホール)

[編成]
指揮:久石 譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
ソリスト:安井陽子(ソプラノ)、鈴木 准(テノール)、萩原 潤(バリトン)
合唱:大阪センチュリー合唱団、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団、Chor.Draft
児童合唱:岸和田市少年少女合唱団

[曲目] 
久石譲:Symphonic Poem Nausicaä 2015

—-intermission—-

カール・オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」
—-encore—-
One Summer’s Day (Pf.Solo)

 

 

久石譲のプログラムノート

「カルミナ・ブラーナ」は「第9」に取って代われるか?

年の暮れに「カルミナ・ブラーナ」を演奏する、というアイデアは数年前からありました。隔年で僕もベートーヴェンの「第9」を演奏させていただいていましたが、「暮れって第9だけ?」という素朴な疑問があったからです。もちろん「第9」はとても好きですし、来年の夏!に演奏(初めてベーレンライター版で臨みます)も決まっています。しかしこの小さな列島から12月に放出される「第9」の熱量は全世界の1年分の熱量をはるかに超えていると思われます。

なぜこれほど日本人は「第9」が好きなのか?これを語りだすと本が一冊書けるくらいなので、ここでは触れずに強の本題『「カルミナ・ブラーナ」は「第9」に取って代われるか?』について書きます。つまり「第9」以外に年の暮れに演奏して聴衆が納得できる楽曲を探した結果が「カルミナ・ブラーナ」だったわけです。

 

「第9」は全4楽章からなり「苦悩から歓喜へ」という構造です。対して「カルミナ」は全25曲(冒頭とラストは同じ曲)で「春に」とか「酒場で」や「愛の法廷」とか大きな塊はありますが、止めどなく続きます。

かたやフロイデ(歓喜)と人類愛を歌い上げるのに対してこちらは「春が来てうれしい」という歌や「振られた女への思い」「紅を買って男の子にモテたい」はたまた「丸焼きにされた元白鳥の嘆き」「イングランドの女王を抱きしめたい」などもう何でもあり!もちろん美しいソプラノのラブソングもありますが、高邁さに関しては形勢不利です。これはテキストをドイツのバイエルン地方の修道院で寄せ書き帳から取っているからです。訪れた老若男女のそれぞれの勝手な思い(今でいうところのツイッターみたいなものですかね)から作曲者のカール・オルフが選んだわけなのでそれは当然シラーの詩(第9)とは訳が違います。

両曲とも1時間を越すくらいの演奏時間で、合唱を使っているのは同じですが「第9」の合唱は第4楽章のみに入り、その3分の1の約10分強の長さを歌うだけと効率がいいのですが(それなのに存在感が大きい)、「カルミナ」の方はほぼ全編にコーラスや歌が入ります。おまけにラテン語や古いドイツ語の歌詞なので意味を調べるだけで一苦労、しかも超早口言葉のところもあって合唱団の人たちはかなり大変です。

あれ、「カルミナ」の良さをアピールするつもりが逆を書いてますね、まずい。気を取り直して今度はソリストについて。「第9」は4人なのに対してこちらは3人、これはコストパフォーマンスが良い(オーケストラのコンサートは大人数なのでこういうことは大事です)のですが、テノールは1曲のみ、しかもカウンターテナー(とても高い音で歌う)の音域で先ほどの「丸焼き元白鳥」の心情を歌うだけ。そのうえ児童コーラスが入りオーケストラの編成も大きい。バリトンは「第9」に負けず活躍しているのですが、はたして効率が良いのか悪いのか?

こう書いていると失点ばかりくり返しているようなのですが、実は違います。

この1曲しか歌わないテノールだからこそ、その存在は大きいし聴く人にインパクトを与えます。演出が入る場合もあり、まるで違う世界に連れて行ってくれます。またラテン語や古いドイツ語であることは言葉の内容とは関係なく、発音の面白さや響きが楽しめます。「第9」ほど高邁な言葉ではないですが、人々の日常の悩み、願望、怒りや希望がストレートに表現されています。

そう、これは「世俗カンタータ」です。宗教的なものではなく、一般庶民の日常のエネルギー、下世話なバイタリティーを表現したたくましい曲なのです。そして実は構成も巧みにできていて、お定まりな方法を捨てているのでわかりやすいのに今なお実験的であり、前衛的でもあります。カール・オルフの面目躍如です。

日本人(僕だけかもしれませんが)は暮れに1年を振り返りあれこれ考えますが、年が明けたら気分も新たに出直します。そういう暮れに「いろいろあったけどさー、飲んで騒いで、まあ明日(新年)頑張ろう」というポジティブな人間賛歌である「カルミナ・ブラーナ」は「第9」とともに演奏されていくべき楽曲だとつくづく思います。

 

「Symphonic Poem Nausicaä 2015」は1984年に公開された映画『風の谷のナウシカ』をもとにして新たに交響組曲としてつくった楽曲です。またこれは宮崎さんのために最初に書いた音楽でもあるので、人一倍思い入れがあります。

よく宮崎さんとの映画でどれが一番好きですか?と聞かれます。僕は「全部好きですが、あえて選ぶなら『風の谷のナウシカ』です、ここから始まったんですから』と答えます。

あれから33年が経ち宮崎さんは新作を作り出した。挑戦はまだまだ続きます。

以上のプログラムです。明るい元気な暮れの一夜になりますように、一同張り切って演奏します。楽しんでいただければ幸いです。

2017年12月16日
久石譲

(「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in Festival Hall」コンサート・パンフレット より)

 

*なおコンサート・パンフレットには「カルミナ・ブラーナ」の全歌詞(原語詞/日本語詞)も掲載されています。

 

 

カテゴリーBlog

コメントする/To Comment