Posted on 2018/11/27
ピアノ楽譜付きマガジン「月刊ピアノ 2006年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。
オリジナル・ソロアルバム『Asian X.T.C』の発表、活発となったアジア映画音楽の仕事、アルバムを引き下げての国内ツアーに、アジア五都市でのオーケストラ・ツアーです。
Pianist interview
久石譲
最新CDはアジアをテーマに、秋にはコンサート・ツアーで全国をまわる
次はアジアでいこう、という方向に風が吹いてきた
つねに新しい”何か”をテーマにかかげ、独自の音楽、そして映画を彩る音楽を次々と作り続けてきた久石が、今回、形にしたものは”アジア”。韓国の大ヒット映画『トンマッコルへようこそ』をはじめ、中国、韓国映画の音楽を数多く手掛けたこともきっかけとなり、彼は、自分の原点を探ることにベクトルを向けたのだった。
Depapepe、いいでしょう? 音楽に年齢は関係ないからね
-アジアをテーマにしたアルバムを作ろうという考えはいつごろからあったんですか?
久石:
「たとえば、トトロの中の『風のとおり道』だってそうだし、いま流れている伊右衛門のCM曲だってそうだし、アジア的なものをモダンな視点で作る、というコンセプトはずっとあるんです。今回は、もっとコアなところで、自分のなかのアジア的なものをきちんと確認して、それをアルバムとして表現しようと思ったんですよ。ここ数年、韓国映画や中国映画の音楽をやる機会が続いて、漠然と、次はアジアだなって決めていたところもあったし、そういう時期がきたな、という」
-自分のなかのアジア的なものを確認する、というのは具体的には?
久石:
「音楽をやっていると、目がどうしてもヨーロッパやアメリカに向いてしまって、そっち経由で見ちゃうところがあるんですよ。ピアノだって西洋楽器なわけだからね。そういう意味でいうと、アジアというのは近いのに最も遠い国、という感じなんです。でもぼくはアジアの一員で、自分自身を確認するうえでも、音楽的に自分がアジア人として何ができるのかをすごく考えたんですよね」
-確かにアジア的なサウンドですが、いままでの久石さんの世界から大きく逸脱した印象はありませんね。
久石:
「中国とか東南アジアの楽器を使えばアジア的になるかっていったら、そういうものでもなくて、結果的に使うのはいいんだけど、元々、音楽のコンセプト自体が西洋っぽいところに、そういう楽器を使ったからって、アジアにはならないんですよ。自分のなかのアジアを確認するということは、まずぼくの音楽の原点を考える、ということだったんです。そうしたら、ミニマルミュージックをもう1回作品として取り組みたいという強い意識が出てきたんですよ。学生時代はフィリップ・グラスやマイケル・ナイマン、スティーヴ・ライヒなんかを追いかけていたわけですけど、それをそのままやるわけじゃない。ミニマルが自分のアイデンティティを通ったときに、イギリス人でもアメリカ人でもない、アジア人が作ったミニマルになるわけですよね。それをいま、きちんとやるべきだと思ったわけです」
-韓国の大ヒット映画『トンマッコルへようこそ』(日本では10月公開)のテーマ曲がニューアレンジで収録されていますが、Depapepeのギターサウンドが新鮮でした。
久石:
「いいでしょう? たまたま、ぼくが通っているジムの受付の女性にDepapepeっていいですよ、って言われてね。でも、知らなかったんだよ、そのとき。で、すぐにCDを聴いてみたら、本当によくて。なんか一緒にやりたいなあと思ったんですよね。ぼくと彼らと3人だけで、どんなふうになるのかなと思ったんだけど(笑)すごくいい感じだった」
-きっと、ふたりは緊張したでしょうね。いきなり久石さんからのオファーで。
久石:
「音楽に年齢は関係ないからね。もし自分を中途半端に巨匠だなんて思ってるようなところがあったらできなかったかもしれないけど、そんなこと思ったらそこで終わっちゃう。ぼくは新しい出会いを大事にしたいし、彼らもすごく伸び伸び演奏してくれて、和気あいあいとやれましたよ」
-ワールドワイドになっていく活動のなかで、久石さんのフットワークはどんどん軽く、自由になっているように感じます。
久石:
「変なこだわりがなくなってるのかもしれないですね。自由になるためにはチャレンジしていくしかないし。やりたい、と思ったことも多少実績を積んできたことで、前よりも実現しやすくなってるのも確かだし」
-年末にはテーマの仕上げとしてアジア五都市でのツアーもありますが、その前の国内のツアーはどんな内容になるんですか。
久石:
「今回はバラネスクカルテットと一緒にやります。彼らとは6、7年前にも一緒にやったんですけど、そのとき、とてもいろいろなことを勉強したんですよ。演奏に関して。彼らはぼくが考えうる現代的なカルテットのなかではナンバーワンなんです。ロック、ポップスのようなリズム感から、クラシカルな実力も全部あわせ持ってる。自分が求めている音楽を最も表現できる弦楽四重奏団ですね」
-その直後はアジア五都市で、しかも各地のオーケストラと共演するそうですね。
久石:
「台北で始まって、北京、香港、上海、年明けはソウル。去年からやってきたアジアというテーマの仕上げとして、アジア各地でやりたいという気持ちは強くあって、あといろんなオーケストラとやることで、文化の交流ができればいいなと……なんて言っちゃうと大げさだけど、ダイレクトに、自分の音楽を、ぼくの指揮で彼らがどう演奏するか、どういう反応がくるのかすごく楽しみなんです。アジアといっても、各国全然違いますからね。そんな多様なアジアの魅力を存分に楽しみたいと思っています」
(月刊ピアノ 2006年10月号 より)