Overtone.第3回 羽生結弦×久石譲 「Hope&Legacy」に想う

Posted on 2017/01/20

ふらいすとーんです。

忘れもしない2016年9月半ば。フィギュアスケートの羽生結弦選手が、久石さんの楽曲を使用するというニュースが飛び込んできました。日を追うごとに少しずつ明らかになる情報、久石譲ファンサイトとして楽曲「Hope&Legacy」~(「View of Silence」+「Asian Dream Song」)についてインフォメーションしました。そして更新修正をくり返し、たくさんの人に見てもらうことができました。

初期段階で、僕の推測が間違ってしまいご迷惑をおかけしました。…だって、まさかライヴ盤とレコーディング盤を組み合わせるなんて…すいませんでした。多くのフィギュアファン、羽生選手ファンの皆さんにブログやツイッターで紹介してもらい、その拡散パワーはすさまじいものでした。

「Hope&Legacy」ってこういう曲らしいよ、と紹介してもらうたびに。羽生選手が各大会で演技するたびに、瞬間的にこのファンサイトに大きな波が押し寄せてきます。あらためて、フィギュアスケートの人気、羽生結弦選手の人気に圧倒されています。

ある一日の「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」アクセス数です。1日で23,102人、普段の何倍なんだ!? 羽生選手のインフォメーションが17,850人と他を引き離し、他を引き上げて、その関心の高さを数字でも見せつけられました。使用楽曲が収録されたCD/DVD情報も引っ張られるように上位にきています。年間アクセスランキングでもケタ違いでNo.1だったことは言うまでもありません。

 

 

 

 

さて、『Hope&Legacy』にはどういう想いが込められているんでしょうか。僕はそこにずっと関心があるんですけど、なかなか羽生選手本人が語っている情報も見つけられず、悶々としています。『なんでこの2曲だったのかな?なんでこの2曲を組み合わせたのかな?』という点に尽きるんです。もちろん久石さんが口を開くこともなく。わかっている情報をパズルのピースのように並べてみました。

  • 「View of Silence」楽曲制作で想いやコンセプトは語られたことがない(久石さん)
  • 1998年は羽生選手がスケートを始めた年、長野パラリンピック冬季競技大会開催年
  • 羽生選手本人の強い希望でこの楽曲が選ばれた

これだけしかない。でもここから紐解いてみます。

  • 「View of Silence」はゼロベースで新しい解釈やイメージをつくることができる
  • 「Asian Dream Song」は「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」ver.として
  • 歌詞の言葉もふくめて特別な想いや思い出があるのかもしれない(合唱曲でもある)

こんなふうに飛躍解釈して…

 

「静寂の景色」、そこはまさに氷の上。何も聴こえてこない沈黙の場所。果てしない夢を抱き、静寂と鼓動で揺れる。「旅立ちの時」、夢を追いかける時。一人の夢、みんなの夢。かつて夢をつかんだ人たちが遺してくれたもの。そして今。自分が夢をつかんで未来に遺していくもの。『Hope&Legacy』。はじまりの場所にふたたび。でもあの時の景色とは違う。いろいろな音が声が想いが聴こえてくる。いつもここから始まる、いつもここへ帰ってくる。そのたびに新しい景色が見える。そしてまた旅立つ時はくる。HopeもLegacyも終わらない、継がれていくものだから。

 

と、勝手に楽曲コンセプトを解釈しました。振付や衣装もふまえて羽生選手ファンは、もっと深い解説ができるのだと思います。見当違いな解釈だったらごめんなさい、大変お粗末さまでした。(^^;)

久石ファンとしては憤慨しているのです。あんな名曲ふたつを切り貼り編集しちゃって…。「Hope&Legacy」を聴くたびに、ふだん向うはずの展開に曲が進まないので、あれっ、とつまずきそうになるのが治りません。そのくらい原曲が染みついちゃってる。

でもこうやって「Hope&Legacy」に新しい解釈と想いを馳せてみると、すっと受け入れられて、新しい聴こえ方がしてくるような気がします。「View of Silence」「Asian Dream song」とは違う、『Hope&Legacy』という作品として、新しい命を得た幸運な楽曲なのかもしれないと。

 

 

久石さんサイドからもう少しタイムスリップ紐解きます。

 

「HOPE」

長野パラリンピックは、アジアで初めて開催される冬季競技大会であり、20世紀最後の大会となります。大きな時代の変わり目の時、開会式は希望「HOPE」をテーマにしました。

そして、このテーマの出発点となったのが、フレデリック・ワッツの描いた一枚の絵「HOPE」です。今回このアルバムに参加して頂いたアーティストには、この絵を見てもらったイメージから新曲を作って頂いたり、演奏して頂いたりしています。

(「長野パラリンピック支援アルバム HOPE」 CDライナーノーツより)

久石譲 『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』

 

「HOPE」

ワッツが19世紀の終わりに描いた作品でイギリス・テートギャラリーに収められています。

HOPE 地上の楽園

「Hope」(1886)
GEORGE FREDERIC WATTS
Oil on canvas, 142.4×111.8cm
Tate Gallery (N 01640)

 

地球に座った目の不自由な天女がすべての弦が切れている堅琴に耳を寄せている。でもよく見ると細く薄い弦が一本だけ残っていて、その天女はその一本の弦で音楽を奏でるために、そしてその音を聞くために耳を近づけている。ほとんど弦に顔をくっつけているそのひたむきな天女は、実は天女ではなく”HOPE”そのものの姿なんだって。 -抜粋

 

この絵について(上の抜粋文章)は、書籍『パラダイス・ロスト』(久石譲著)にも、アルバム『地上の楽園』CDライナーノーツにも、同じように記されてします。『地上の楽園』のアルバムジャケットにも使いたかったほどの強い思い入れがあったようです。諸々の事情で叶いませんでしたが、『パラダイス・ロスト』の装丁にはこの絵が使われています。

 

地上の楽園

 

『地上の楽園』(1994)は、約2年近く音楽制作に費やしたオリジナル・ソロアルバムです。長野パラリンピック(1998)までつながっていくテーマ「HOPE」。久石さん自身あの時代を象徴するような、特別な想いがこのテーマと絵に込められているように思います。実際、久石さんが楽曲制作するお部屋には、大きな「HOPE」が壁に飾られています。おそらく今も。

 

 

 

「HOPE & LEGACY 希望と遺産」

長野パラリンピックの開会式は「Hope 希望」をテーマに、閉会式は「Hope & Legacy 希望と遺産」をテーマに行われました。久石さんは式典の総合プロデューサーを務めていました。開会式フィナーレでは、盛大な演出のもと「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が披露されています。

 

 

久石さんが長野パラリンピック冬季競技大会に込めた想い「HOPE」「HOPE & LEGACY」。それは大会テーマソング「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」として花ひらきました。その同じ年、羽生結弦選手はフィギュアスケートに出会った。咲いた花と、新しい種。この出来事もまた、”希望と遺産”のひとつなのかもしれません。

時を越えて、羽生選手は新しい『HOPE &LEGACY』を、「View of Silence」と「Asian Dream Song」を組み合わせることで、新次元の世界をつくりあげました。新しい解釈が吹き込まれることは、新しい命が吹き込まれることです。

久石さんが作りだしたもの、羽生選手が継いだものと命を吹きこんだもの。世代もジャンルも異なるふたりのプロフェッショナルが、それぞれに抱いた『HOPE & LEGACY』。かけがえのない時の流れを感じます。変わらないもの、変わっていくもの、時代の風にのる『HOPE & LEGACY』そのものなのかもしれない、と。

久石さんの音楽がもっと多くの人に響き希望となりますように。羽生結弦選手の演技が想いが、もっと多くの人に夢と感動をあたえつづけますように。僕らは今、ふたつの光り輝くステージを目の前に、熱狂し歓喜する、めぐまれたオーディエンスです。観客は、未来への語り手として『HOPE & LEGACY』の一役を与えられている、同じ舞台に立つキャストでもあると思っています。

 

 

『HOPE & LEGACY』 からのギフト

この楽曲が僕にくれたもの。1つは、話題をきっかけに多くの人がサイトを訪れてくれたこと。1つは、久石さんファンとのかけがえのない出逢いがあったこと。1つは、久石さんがコンサートでも披露してくれたこと。そう、「久石譲ジルベスターコンサート2016」で、「View of Silence」「Asian Dream Song」が演奏されました。往年の名曲でこそあれコンサート披露されるなんて、約10年ぶりくらいと言っても言い過ぎではありません。

いや、そこはちゃんと調べないといけませんね。「Asian Dream Song」、「久石譲ジルベスターコンサート2008」以来8年ぶり、「View of Silence」、「Joe Hisaishi Concert ~a Wish to the Moon~ Etude&Encore PIANO STORIES 2003」以来13年ぶり、 でした。なんとDVD収録盤あのコンサート以来だったんですね。これだけでも羽生結弦さんに感謝しないといけませんね。コンサートにプログラムしたきっかけ、そのひとつにはなっていると思いますから。そんなスペシャルコンサートについてはレポートしています。

 

「決定盤!フィギュアスケート・ベスト2016-2017」(2016/12/7発売CD)には、「View of Silence」「Asian Dream Song」の2曲がオリジナル版で収録されています。*「Hope&Legacy」としての音源ではありません。また「Asian Dream Song」はFS楽曲ヴァージョンではありません。(リンクURLは貼っていません)

 

同じく楽譜もたくさん出ています。それぞれ1曲ずつとしても、「Hope & Legacy」としても、ピアノ譜はたくさん出版されているみたいですね。ぜひ調べてみてください。

実は「HOPE」には、もうひとつ久石さんエピソードがあります。ありますが、それはまた別の機会に。ちゃんと調べなおしたい、紐解きなおさないといけない。今回は「羽生結弦×久石譲」「Hope&Legacy」に想う。2016年秋以降、いつか記したいと思いながら、ここにようやくOvertoneとなりました。

それではまた。

 

 

2017.7 追記

Web「VICTORY -ALL SPORTS NEWS」に掲載された記事。フィギュアスケート 音響デザイナーの矢野桂一さん、羽生結弦選手や宇野昌磨選手などトップスケーターのプログラム音源の編集を手がけている方です。これまでの仕事内容から、羽生結弦『SEIMEI』そして『HOPE & LEGACY』の誕生エピソードが語られています。プログラム音源ができるまでの各方面での苦労、久石譲から特例として許可を得ることになった経緯など、さすが当事者と関係者ならではの読みごたえのある貴重な秘話です。ジャンルを超えた一流プロたちのそれぞれの想いと共鳴、協力と理解、尽力と厚意によって誕生したフィギュアスケートのためのもうひとつの作品「Hope & Legacy」。関係者による公式のようなエピソードが盛りだくさんで、これまで見えなかったところが少し知ることができて感謝です。

 

 

reverb.
Hope&Legacyを紐解く情報あったら、ぜひ教えてくださいね!お待ちしてます(^^)!!

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第2回 映画『君の名は。』 音楽としての情報量

Posted on 2017/01/12

ふらいすとーんです。

最初からえらいもんをぶっこんできたな、なんて思ったりもしますが、まあまあ落ち着いていきましょう。2016年No.1映画『君の名は。』(監督:新海誠 音楽:RADWIMPS)、スタジオジブリ映画独占だった興行ランキング、その牙城を崩した作品です。公開から約半年、ここまで社会現象になれば観ている人も多いでしょうが、観ていない人もいると思います。ストーリーの内容には一切触れることなく、ネタバレすることもなく、安全に?!音楽の話だけをしてみたいと思います。

宮崎駿×久石譲、新海誠×RADWIMPS、監督からも音楽からもスタジオジブリ作品と比較されることの多いこの作品。興味深いとも思い、比較するものじゃないとも思い、影響がないわけないとも思い。スタジオジブリ作品が培ってきたものがあって、そのアニメーション映画の延長線上に、映画『君の名は。』は誕生することができた、と僕は思っています。ゼロから生み出された映画というよりも、先人の巨匠たちの職人たちの歴史があって、その地ならし(観客もふくめて)のうえに、新しい作り手たちが受け継いだもの。それが今、巨大な共感と一体感を巻き起こしたのだろうと。

だから同じ天秤にのせても、意味がないし、のせてみたいのもわかるし、うーん、でも時間的重みを加味したら、アドバンテージがちがうしなあ、なんて思ったりしながら、比べることは放棄します。良い悪いではなく、どちらも”それぞれの作品”として尊重されるものですからね。仮に比べることで新しい側面が発見できるのなら、それはすごく支持します。そう、その流れで進めます。

 

 

映画『君の名は。』を観て、音楽面で気になったのは《音楽としての情報量》です。「夢灯籠」「前前前世」「スパークル」「なんでもないや」というRADWIMPSの4つの主題歌がクローズアップされ、強烈なインパクトを放っている音楽。その他の本編BGM、インストゥルメンタル楽曲って、あまり印象に残りにくい。サントラ盤も第一印象は、なんか薄い、音数も少ない、メロディーの幅や広がりもない、展開も抑え気味、全体的にいたってシンプル…言いたい放題ですが、要はすごく違和感があったんですね。4つのヴォーカル曲との作り込みというか密度の差が非常に激しい。これはなんだろう?

 

 

この映画は、映像そしてストーリーにおいて、最も比重が大きい、とてつもない情報量が詰め込まれています。おそらく観客は映像美に見惚れながらも、その内容を理解しながら追っかけることで2時間ノンストップ集中します。作品構成、スピード感、展開のはやさ、伏線の収拾において、息つくひまを与えないすごい映画だなあと思います。

だらかです。だからゆえに、音楽は情報量を抑えたんじゃないか。例えばピアノ曲は、ピアノを習っている子供ならすぐに弾けてしまうほどのシンプルなメロディのくり返し。サントラ全体の楽器編成も、ヴォーカル曲を除いて、とても小編成なアコースティック楽器とエッセンスとしてのシンセプログラミング。起伏や緩急をもって展開することのない、シーン(場面)のための背景音楽。膨れあがる情報量(映像・ストーリー)から、一歩引いたところにある音楽。あえて情報量を減らし、密度を薄くすることで、そのバランスを保った音楽とも言えるんじゃないかなあと、僕は思います。

たとえば、久石さんとRADWIMPS、どちらが映像のための音楽か、映像を補完する音楽かと言われれば、RADWIMPSのほうでしょう。一方で、どちらが映像にシンクロした音楽かと聞かれれば、それは間違いなく久石さんでしょう。「ラピュタ」にしても「トトロ」にしても、どの宮崎駿作品にも、必ずどこかに、映像と完全にシンクロして、マッチングしている楽曲があります。

このあたりがおもしろいところで、久石さんは『登場人物や映像につけているわけではなく、世界観に音楽をつけている』というスタンスです。僕が言いたいのは、すごく深いことなんです。久石さんは世界観につけた音楽という核があって、一見映像とシンクロして聴かれるそれらの楽曲たちは、核の完成度が高いからこその手法のひとつ、引き出しのひとつ、遊び心のひとつ。だから表面的にシンクロした音楽がすごいのではなく、奥深い音楽としての核が、やっぱりすごいんです。伝わりますか? すいません、文章力がない。

 

 

映画『君の名は。』 音楽における最大の功績は、RADWIMPSというロックバンドが映画のための音や言葉を紡ぎだし、純粋無垢な疾走感を演出し、声と声質によって、主人公の内なる声を浮かび上がらせることでコラボレーションしたことだと思います。《音楽としての情報量》その役割を、「言葉と声」に集約させたことが一番の核だと思います。

少し具体的に分けて見ていきましょう。

 

【ヴォーカル曲】

4つの主題歌は、いずれも”ここしかない”という絶好の場面で流れます。相乗効果はもちろん、それはもう映画の一部です。自分たちの音楽性をこの映画のために捧げた、映像のために作曲され楽想も構成された音楽。これまでの主題歌・挿入歌という枠とセオリーをぶち壊した監督とアーティストの化学反応で、それはひとつの偉業だと思います。

ヴォーカルの声と声質が主人公とダブらせ、紡ぎ出される言葉やシャウトが、主人公の内なる声を浮かびあがらせる。『せーの』『ハイタッチ』『革命前夜』『旗を立てる』『美しくもがく』『権利』『叶えたい夢』『追い越したんだよ』…。若い世代の日常生活に駆け巡るキーワード、若い時代だからこそ光輝く言葉たち、痛いくらい眩しいくらい、汚れを知らないときの純粋無垢な言葉たち。そして、まっすぐに届けられる突き抜けた声。

オリジナルアルバム『人間開花』に収録された「スパークル (original ver.)」や「前前前世 (original ver.)」と聴き比べてみました。両曲movie ver.は、エレキギターもベースも、ボリュームをおさえ、音質もクリアに近いものを選び音の歪みをおさえています。かき鳴らしたいところをカッティングに徹したエレキギター、動きまわりたいところを単音連打で駆けおさえるベース。映画のためという制約のあるなかで、いかにロック性を失わないか、緻密に作り込まれ、音が選ばれているように思います。

映画の邪魔をしてはいけないから当然、という見方もできますね。でもそのなかで主人公、疾走感、高揚感、刹那感を表現するということは、そう簡単なことではないと思います。映画のため、それはアーティスト性として大きな賭けでもありリスクもともないます。ファンを増やすこともあれば、ファンを裏切ることにもなりかねません。本来のテクニックを発揮できないことは、見限られるという紙一重でもあります。

「前前前世」は(movie ver.)とも(original Ver)とも違うヴァージョンが本編では使われています。(original ver.)の歌詞が本編には追加されていますが、楽曲アレンジは(movie ver.)の延長線にあります。「スパークル」は(movie ver.)では映画に広がりをもたせる弦楽が使われていますが、(original ver.)は本来のギターサウンドを前面に打ち出しています。このように、サントラ盤だけでRADWIMPSの音楽性を測ってしまわずに、オリジナル作品と聴き比べることで、RADWIMPSの「映画に100%寄り添った音楽」とその解放がそれぞれの場所に着地しています。

RADWIMPSの楽曲が、ストーリー展開に影響を与えたこと、歌詞の言葉から台詞が変わったシーンがあること、音楽待ちだった映像制作現場、などなど。映像の長さを音楽に合わせるほどに、”ここしかない”場面でRADWIMPSのサウンドと言葉をぶつける手法。登場人物たち、いや主人公と同じくらいの扱いをもって迎えられていることがわかるエピソードですね。

 

【インスト曲】

たとえば、明快でわかりやすいのは、4つの主題歌をメインテーマとしてインストゥルメンタルでBGMを散りばめることです。そうすることで、音楽全体として統一感のある世界をえがくことができます。でも、主題歌の旋律を聴くことができるのは、「夢灯籠」のメロディをピアノや弦楽が奏でる「かたわれ時」だけです。そうまでして主題歌とBGMを切り離したかった、主題歌をピークに浮き上がらせたかったということなんだと思います。

もうひとつは、映像・ストーリーとの密度のバランスです。それを具現化するように、シンプルな楽曲構成になっています。鳴っている音の数も少ない、メロディの幅や広がりが小さい、急な大きな展開をのぞまない緩やかな繰り返し。音の動きや音の増減は、瞬間的に意識がそっちにいってしまいます。あえてそうさせたくなかったのが、これらインスト曲の役割であり、主題歌におけるギターやベースの立ち位置だったように見えてきます。

ちょっと映像に寄り添いすぎた音楽かなともとれます。明るいシーンに明るい曲、泣かせるシーンに泣かせたい曲、という単純な意味ではないです。久石さんが嫌いな言葉なので普段使わないですが、”劇伴”という表現がしっくりきます。あくまでも映像を引き立てるため、もちろんそこにも大きな意味はあります。見事にその役割をまっとうしたのがRADWIMPSの本編BGMです。

「デート」「三葉のテーマ」「デート2」は同じモチーフをもった楽曲です。とてもシンプルなピアノ曲です。でしゃばらないけれど、そっと近寄ってすっと印象に残るような佳曲です。「三葉のテーマ」を軸にみたときに、「デート」「デート2」は映像の奥にあるもの、心のなかでは気持ちのうえでは誰とデートしているのか? そういったところもしっかりと描かれて音として紡がれています。

この3楽曲の旋律のなかに「♪ドソドソド~、ドソドソド、ドソドソド~」と繰り返しているメロディ箇所、このコードの展開が似ているシーンがあります。主題歌「スパークル」で、長い間奏のあと静かになって再び歌声が戻ってくる「♪愛し方さえも~、君の匂いがした~」。頭の中でピアノのメロディを重ねてみたら、なんとなくダブってくるから不思議です。これは意図していることかわからないので、僕の勝手な解釈です。なんだか物語と一緒に音楽においても伏線、からまって、結びを感じてしまいます。もしよかったら、がんばってイメージして重ね響かせてみてください。

 

 

 

新海誠監督はインタビューで、「宮崎さんと同じ方向に行っても絶対追い越せないので、宮崎さんとは違うものを出していきたい。例えば、宮崎さんには久石譲さんという完璧なコンポーザーがいて、完璧な映像と音楽のマッチングがあります。であるなら、全然違う方向の音楽じゃないと手触りが違う魅力のある作品にならない。じゃあ、ロックバンドの疾走感のある音楽をベースに、音楽を聴きながら作品を作ろうと思いました。これからも違うものを差し出していきたいという気持ちです」と語っています。

まさにこの言葉に凝縮されていますね。そして、その挑戦が見事に成功したエポック的作品になっていくと思います。道なき道をつくった、新しく切り拓いた、これからの映画界の布石になっていくんだろうと。

ロックについてはどうでしょうか。おそらく予想を越えて老若男女が映画館に足を運んだこの作品。ある世代には響いた音楽も、耳になじまない世代や観客もいたでしょう。さらには海外での大ヒット、監督の狙った「ロック」「言葉と声」という画期的な音楽演出は、今後は果たして?

ふと、思い出したのが、久石さんが最近のインタビューで語っていた言葉です。ジブリ映画・ジブリ音楽が海外でも大きく支持されていることについて。「一番良かったと思うのは、中途半端なインターナショナルとか中途半端なグローバリゼーションとか一切無関係で、超ドメスティックに作り続けてきた。それで、超ドメスティックであることが、実は超インターナショナルだった。結果、そうだったような気がします。」(NHK WORLD TVより)

いろいろなものが交錯して見えておもしろいなあと思います。新海誠監督は今作で得た手応えと、大ヒットすることで見えてきたものがあるとするなら。『君の名は。』と同じ音楽手法をさらに突き進めてみるのか、もしくはまた違ったアプローチに挑んでくるのか。もうすでに次回作の構想は、静かに始まっているのかもしれませんね。

 

宮崎駿×久石譲では生み出すことのできなかったものが、新海誠×RADWIPMSによって確信犯的に生み出された。違う手法を選ぶことで、新しい可能性を示した。セオリーを取っぱらい、突っ込んで、振り切った映像×音楽のコラボレーション。映画『君の名は。』は、過去から遡っても、未来から振り返っても、”ここしかない”タイミングに誕生した作品、そんな気がします。

RADWIMPSにしかできない音楽があって、久石さんにしかできない音楽がある。出発点も方向性も違う作品が、どちらもその時代と共鳴し、大きな共感と渦をもって社会現象を巻き起こす。宮崎駿×久石譲、新海誠×RADWIMPS、その両方を楽しめる観客としては、これはとても幸せなことですよね。

「久石さんが音楽だったらよかった」「新海誠×久石譲をみてみたい」なんてのを目にすると、うんうん、と一瞬思ってしまったことは白状します。でも、こうやって整理して書いてみて、やっぱりこれはRADWIMPSでよかったんだ、映画『君の名は。』は新海誠×RADWIMPSがよかったんだと、心からそう思います。かけがえのない作品をありがとうございます。あーっ、また映画館に行きたくなってきた。何回目かは聞かないでくださいね。

それではまた。

 

reverb.
「君の名は。」のサントラ、僕のプレイリスト年間再生回数 上位でした (  ̄3 ̄)~♪

 

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Overtone.第1回 「響きはじめの部屋」へようこそ

Posted on 2017/01/05

ふらいすとーんです。

「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」へようこそ。

いつもご覧いただきありがとうございます。このたび新しいコーナーをはじめます。直接的には久石譲に関係のない情報や話題でも、もしかしたら《関連する・つながる》かもしれない。もっと広い範囲のお話を書いていきたい、そんな思いからスタートします。”Info.(インフォメーション)”や”Blog.(ブログ)”の項では、これまでどおり、ダイレクトに久石譲を発信するため、そことは別部屋にしたほうがいいだろうということになりました。

久石譲のことを知りたくて、「響きはじめの部屋」にたどり着いたのに、まったく関係のないことがごちゃまぜにあったらイヤですよね、僕はイヤです。そんなことない人もいるでしょうね。もちろんこれは、「久石譲ファンサイト」という看板を掲げているからの問題でもあります。できれば久石譲以外のことは混ぜたくない、久石譲のことさえ伝わればそれが一番いいと思ってサイト運営していますので、今までどうすみ分けできるのかなと足踏み状態でした。

個人的な日記を書く場所ではありません。あくまでも久石譲音楽を楽しむことが中心にある生活のなかで、《関連する・つながる》かもしれないことをテーマに、音楽話、サイト話、ジャンルを越えた作家やアーティスト、久石譲ファンとの交流など多岐に記していきます。話と話が交錯することで、本来話していない別のことが見えてきたり、つながって連鎖して新しいことが見えてくる。「Overtone」のように。そして音楽を楽しむことがより広く深く豊かになっていく。間接的な話題が、結果”久石譲”にはね返って共鳴する、新しい楽しみ方ができる。そんなコーナーになれたらいいなと思っています。

 

 

さて、「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」。察しのいい人はすでにご存知だと思います、これはとある名称からきています。三鷹の森ジブリ美術館の常設展示室「動きはじめの部屋」です。”アニメーションはどうやってできているのか?” 絵や人形が命を吹き込まれて動き出す様子を、原始的にわかりやすく展示した部屋です。

『久石譲の音楽が響きはじめる部屋』、作り出される過程(インフォメーション、インタビュー、コンサート、ライナーノーツ)を記録したサイトである。『久石譲の音楽が響きはじめるきっかけになる部屋』、あなたのなかで久石譲の音楽を聴くきっかけになるコンテンツを提供するサイトである。ほかにもあったかな? そんな想いをつめこんで、あやかって、表札とさせてもらいました。

ところがこれ、日本語ではまあなんとなくニュアンスは伝わっても、英語でなんと言ったらいいものか…。「動きはじめる」とは言っても、「響きはじめる」なんて、なかなか日本語でも違和感のある表現ですよね。しかも「響きはじめ”の”」。最初、意訳もふくめて”The room begin to resound with joe hisaishi music.”と記していました。”久石譲音楽が響きはじめる部屋”というつもりだったんです。おそらく間違ってるだろうな、と思いながら随分放置していました。ずっと気になっていたので、ある機会に英語が堪能な人に診てもらいました。そしたら案の定おかしい英語ですね、と言われてしまった。

”The room begin to resound with joe hisaishi music.” 「これは主語が部屋なので、響いているのは音楽じゃなくて部屋になりますね」「”resound”ってあまり一般的に使わない英語、調べてみたら”大きな音が鳴っている、エコーのようにわんわん鳴り響く”っていうような”響く”です」……。恥ずかしい。

やりとりしながら導きだしてもらったのが”The room filled with Joe Hisaishi music.” よく使われる英語表現に”◯◯ filled with love” 「愛が満たされた・たくさん詰まった◯◯ (プレゼント/人生etc)」というのがあるようで、『久石譲の音楽が満たされた部屋』というニュアンスになります。うん、意図するところもふくめて万事納得!ただいまこちらのサブタイトルを使っています。あれっ?ジブリ美術館の「動きはじめの部屋」ってどう英語表記されてるんだろう? 参考にすればよかった、検索してもわからない、知ってる人いたら教えてください。

 

 

余談ですけど、僕のペンネーム「ふらいすとーん」。とぼけたポカンとした名前だな、なんて思うんですけど、ふらいすとーん、Fly Stone、飛行石です(笑)。いや、これはちっぽけな名誉のために、飛行石の英語として正しくないです。映画『天空の城ラピュタ』英語版でも、台詞としても、飛行石は”Levitation Stone”と英語表現されています。『Castle in the Sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン』サウンドトラックには、「3.The Levitation Crystal」というオリジナル盤にはなかった追加楽曲がありますね。正確にはオリジナル盤「2.スラッグ渓谷の朝」を再構成した前半部分です、気になった方は聴き比べてみてくださいね。

レビテーション・ストーン、かたい。フライング・ストーン、なんかちがう。フライ・ストーン、ふらい・すとーん、ふらいすとーん…、うん、ほんわかしてていいんじゃないかな。かなり勝手な解釈、響きのインスピレーションで、そうしちゃいました。でも、「ふらいすとーんです」なんて書いたことないから、ペンネーム知ってる人なんていないでしょうね。たまーに「響きはじめさん」と言われるくらいですから(笑)

 

久石譲 『Castle in the sky 天空の城ラピュタ・USAヴァージョン』 久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック』 

 

 

くだらない話をしてしまいました。今回、新コーナーロゴも友人に頼んで作ってもらいました。えらく気合入ってますね、いいえ、カタチから入るんですね。強気に言って続けていくための決意表明、弱気に言って願かけやおまじない。口うるさい細かいオーダーにも快く、修正をくり返し、素敵なデザインをカタチにしてくれました。とても気に入っています。

 

 

「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」を続けていくためには、僕にとって必要な場所でした。いつまで続くかわかりませんが、その比重は決して小さくありません。久石さん以外のことをもっと広く見る、聴く、感じる、整理して書くという過程が、結果ファンサイトを続けていくエンジンになる。そんな思いでささやかにスタートします。

それではまた。

 

reverb.
書きはじめのコーナー、今月は2~3回の掲載がんばります φ(. .)

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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