Disc. リトルキャロル 『The Christmas Album』

2006年11月8日 CD発売 WRCT-1011

 

久石譲の娘、麻衣が中心となり、元NHK東京放送児童合唱団のメンバーによって結成された女性コーラス・グループ、Little Carolの、色褪せることのないクリスマスの名曲の数々を洗練された芸術性と歌声で奏でる、クリスマス・アルバム。

 

久石譲作曲/リトルキャロル作詞「ホワイトナイト」収録。

 

 

曲目解説

1曲目の「Carol of the bells」は「鐘のキャロル」と表記されることもあります。クリスマス・キャロルとしては、特に有名な歌ではないですが、世界各国の合唱団のクリスマス・アルバムの中に、この曲を見付けるのは珍しい事ではありません。鐘の音を象徴する独特の、どこか哀愁漂う旋律が日本人には懐かしさを感じるのではないでしょうか?ウクライナの伝承曲とも言われますし、Mykola Leontovich(1877~1921年)がウクライナのメロディーに基いて作った、とも言われています。イエス様がお生まれになった時、世界中の鐘がいっせいに鳴った…という伝説と結びついているのでしょう。すべてア・カペラで歌われているこの曲は、2005年の久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの「12月の恋人たち」というコンサートに「リトルキャロル」も参加した時、久石譲指揮により歌いました。今回も、この歌は久石譲が指揮をしています。

2曲目の「We wish  you a Merry Christmas」は、おそらくどなたもご存知の、イギリスの古くから伝えられたクリスマス・ソングです。「あなたにも、あなたにも、あなたにも、楽しいクリスマスを!そして新年おめでとう!」という歌を聴いたとたん、誰もがウキウキと嬉しくなってしまいますね。

3曲目の「クリスマス」は谷川俊太郎・作詞/林光・作曲の歌です。ずっとNHK東京児童合唱団が歌ってきましたが、音源化するのはこれが初めてだそうです。導入部の可愛らしい歌詞がほほ笑ましいのですが、聴いていると深い意味が込められていることに気が付きドキッとします。

4曲目の「The Christmas Song~Chestnuts roasting on an open fire」も、ナット・キング・コールをはじめ、たくさんの有名な歌手によりカヴァーされている歌です。作詞・作曲はMel TormeとRobert Wells。作曲年は1944年とも46年とも言われています。タイトルを日本語に訳すと「発砲で焼ける栗」となり歌詞(叙事詩…なのだそうです)も日本人にはシュールな内容です。でも美しい旋律は一度聴けば忘れられないほど印象的ですね。

5曲目の「White Christmas」も、定番中の定番と言っても過言ではないクリスマス・ソングです。同タイトルのビング・クロスビーのレコードでもお馴染みですが、そもそもは1954年の映画「ホワイト・クリスマス」の中の主題歌的な歌です。今見ても心温まる素敵な映画ですので、ぜひ一度ご覧下さいね。

6曲目の「Zither Carol」はチェコの民謡で、海外の合唱団にはよく歌われていますが、日本のアルバムでは珍しいですね。「ズ、ズィン、ズィン…」とリズムを刻む導入部からして楽しい曲ですが、歌う側からすると「早口のソロ」と「二人のソロの対比が面白かった」そうです。なるほど聴くよりも、歌ってみたくなる曲かもしれません。チェコやブルガリアの民謡には、拍子が変則的にクルクル変わる面白い歌が多いです。

7曲目の「Ave Maria」ですが、グスタフ・ホルスト(1874-1934)といえば、組曲「惑星」を思い出します。最近学会で「冥王星」を惑星から外すという大騒ぎがありましたが、ホルストの組曲「惑星」には「冥王星」は入っていません。そのホルスト作曲の「アヴェ・マリア」ですが、世の中には数えきれないほどたくさんの「アヴェ・マリア」があります。「リトルキャロル」が、何故あえてシューベルトやグノーといった有名な曲ではなくホルストの「アヴェ・マリア」を選んだのか、個人的にとても不思議でした。歌うのには複雑で大変難しい曲ですし。選択した理由を尋ねてみると、答えは頼もしいものでした。この曲のもつ難しさに、あえて挑戦したのだそうです。アルバムではかなりの人数で歌っているように聴こえますが、実際は僅か26人で歌ったときいて驚きました。「自分たちでどこまで表現できるか」大変悩んだり、苦労したとか。そんな裏話が信じられないほど美しく歌いあげています。八声部の構成による合唱という難しい曲なので、久石譲の指揮により歌っています。どんな大ベテランの合唱団でも、この曲を指揮者無しで演奏するのは難題でしょう。

8曲目の「God rest ye merry gentlemen」は、日本では賛美歌第二篇128番「世のひと忘るな」という題名のほうが分かりやすいかもしれません。イギリスの伝承曲とされていますが、古くからの歌詞や旋律を今日の形に編集したのは、1867年John Stainerによるものと言われています。イギリスの聖歌隊のクリスマス・アルバムには、よく取り入れられています。(「God rest you merry, gentlemen」という表記が正しい、とする説もあります)

9曲目の「Angels we have heard on high」は、日本では賛美歌106番「荒ら野の果てに」として知られていますが、同名の曲がふたつあります。もちろん「荒ら野の果てに」のほうが世界的に有名です。本来はフランスの古いキャロル「Les anges dans nos campagnes」ですが、表記の英題も知られています。歌の中で繰り返される印象的な「グローリア、イン・エクセルシス・デオ…」という言葉は「いと高きところに神の栄光あれ」という意味です。

10曲目の「Prayer of St.Francis」は、日本では「聖者フランシスコの祈り」と題されています。「アッシジの聖者フランシスコ」の話は有名ですね。この曲は彼自身の手によって書き下ろされたものではなく、彼の生き方とその精神を映した祈りの言葉と解釈しましょう。平和への祈りの歌としてキリスト教信者には知られている曲ですが、一般的にはさほど有名ではないが…と、また不思議に思い選曲理由を尋ねました。答えは「イギリスのダイアナ妃の葬儀の時に歌われていて印象に残った」のだそうです。ダイアナ妃の葬儀のときは、アビー聖歌隊によっていろいろな曲が歌われましたが、私は「I vow to thee my country」やパーセル作曲の「我らの心の秘密をご存知の主よ(メリア女王の葬送の音楽より)」くらいしか覚えていません。葬儀の時のダイアナ妃に贈った歌と考えると「Prayer of St.Francis」の優しく柔らかな旋律は、かえって哀しさが心に広がってきます。

11曲目の「Deck the Hall」は賛美歌第二篇129番「ひいらぎ飾ろう」という題名で、「荒ら野の果てに」や「もろびとこぞりて」などと同様に親しまれている賛美歌ですね。楽しい旋律どおりに、歌詞も「ひいらぎを飾ろうファララ…晴れ着を着てファララ…聖歌を歌おうファララ…」という子供たちの可愛いキャロルです。

12曲目の「ジングル・ベル」は、解説の必要はないほど世界中に知れ渡っているクリスマスを代表する1曲です。アメリカのボストンの教会の牧師J・ピアポイントが作詞した曲で当時の題名は「One horse open sleigh」だったとか。その後この歌が評判を呼び、題名も「ジングル・ベル」と変わったそうです。…といった背景よりも「リトルキャロル」の歌を聴くと分かるとおり、よく耳にするリズミカルな「ジングル・ベル」ではなく、導入部は聖歌のように優しく始まり、中間部には元気いっぱい「雪やこんこ」の旋律を背後に入れて楽しく歌っています。編曲(南安雄)の面白さを楽しみましょう。

13曲目の「すばらしいなクリスマス」は原題を「The wonderful world of Christmas」といい、1971年に制作されたエルビス・プレスリーのアルバムに入っていることが有名です。もちろんルイ・アームストロングほか様々な歌手も歌っていますが、何故かこの歌というと「エルビスが歌った」ことで知れ渡っています。今回は歌詞を日本語で歌っていますので、あらためて内容を説明する必要もないでしょう。

14曲目の「When Christmas come to town」は、映画「ポーラー・エクスプレス」のサウンドトラック曲の中のひとつです。映画は「パフォーマンス・キャプチャー」という独特のCGを使ったアニメーション作品で、原作は有名な絵本です。クリスマスをテーマにしたファンタジックな物語で、音楽もオリジナル曲とポピュラーなクリスマス・ソングが、合わせて効果的に使われています。「When Christmas come to town」はオリジナル曲ですが、映画を見た方は「この曲が一番好き!」とよく言います。「リトルキャロル」の洗練されたソロ+合唱による歌と、映画の子供たちの歌はイメージは違いますが、物語性のある美しい旋律から受ける感動は同じものでしょう。

15曲目の「ホワイトナイト(久石譲作曲/Sayaka&Mitsuko作詞)」はオリジナルのクリスマス曲です。久石譲の有名なアルバム「PIANO STORIES II」の中の8番目の曲「White Night」にリトルキャロルのメンバーが歌詞をつけたものですね。終始静かで優しく、もともとキャロルか賛美歌か…?と思うほどの透明感は、旋律に良く合った日本語歌詞から受ける印象かもしれません。

(文中敬称略)

増山法恵【児童合唱評論家/作家】

(曲目解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

Profile

「天使の声楽隊」、「究極の癒し」。
リトルキャロルは、1996年、元東京放送児童合唱団(現NHK東京児童合唱団)のメンバーによって結成された女性コーラスグループ。現在30名のメンバーで構成され、児童合唱でも女声合唱でもなく、またゴスペルでもない、ポップスとクラシックが融合した独自の世界観を築きあげている。2005年の久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラのコンサート「12月の恋人たち」や、1998年から2005年までの間、毎年12月23日に行われる日本ユニセフ協会主催のチャリティーイベント「ハンド・イン・ハンド」に出演。その他でも、2006年10月4日に発売の久石譲のニューアルバム「Asian X.T.C.」収録曲「Venuses」(カネボウホームプロダクツ「いち髪」CM曲)に参加、子どもでも大人でもない神秘的な歌声で表現している。そして、2006年12月20日には、東京オペラシティ コンサートホールにてクリスマスコンサートを開催予定。

(プロフィール ~CDライナーノーツより)

 

 

 

リトルキャロル

1.Carol of the bells
2.We wish you a Merry Christmas
3.クリスマス
4.The Christmas Song~Chestnuts roasting on an open fire
5.White Christmas
6.Zither Carol
7.Ave Maria
8.God rest ye merry gentlemen
9.Angels we have heard on high~Hark! The herald angels sing
10.Prayer of St.Francis
11.Deck the Hall
12.ジングル・ベル
13.すばらしいなクリスマス
14.When Christmas comes to town
15.ホワイトナイト

All Performed & Produced by Little Carol

Conducted by Joe Hisaishi (M-1,7)

Recorded at Wonder Station

「ホワイトナイト」
Words:Sayaka & Mitsuko (Little Carol) Music:Joe Hisaishi
Arranged by Chieko Matsunami

 

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