Overtone.第57回 「アド・アストラ サウンドトラック/マックス・リヒター」を聴く ~本編音楽と予告編音楽 I~

Posted on 2022/01/09

ふらいすとーんです。

シリーズ マックス・リヒターです。

 

 

映画『アド・アストラ』(2019)は、ブラッド・ピット主演のスペース・アクション映画です。マックス・リヒターは、いわゆるハリウッド超大作の音楽を担当するのはこれが初めてになります。そのこともあってか、本作で初めてグラミー賞にもノミネートされました。

テレビを見ていると、いろいろな番組でBGMに使われていることの多いマックス・リヒターの曲たち。それだけ印象的だし、映像になじみやすい、いろんな解釈や感情に喚起できる、そんな魅力があるのかもしれません。もちろんこのサントラからも使われていたことあります。これまでマックス・リヒターを聴いたことがない、そう思っている人でも、実は知らない間に耳にしていた可能性はいっぱいにあります。

『アド・アストラ サウンドトラック』は、2枚組CD・2時間というボリュームで、スコアを担当したマックス・リヒターをメインに、ローン・バルフとリルス・フラームという作曲家による追加音楽も収録されている本編音楽完全盤です。アルバムは輸入盤のみとデジタル配信です。

 

さて今回は。

サントラからマックス・リヒター音楽の魅力を紹介したいです。ですけれど、話はそれて宇宙空間を彷徨うことになりそう…なりそうでしたから、2回にわけることになります。前編は、サントラに収録されている本編音楽から。

 

 

AD ASTRA
Score by MAX RICHTER

DISC 1
01. To The Stars
02. Encounter
03. Cosmic Drone Gateway
04. I Put All That Away
05. A Trip To The Moon
06. Terra Incognita
07. Ex Luna Scientia – Requiem
08. Journey Sequence
09. The Rings Of Saturn
10. The Wanderer
11. Erbarme Dich
12. Forced Entry
13. Preludium
14. Resonantia
15. Let There Be Light
16. Ursa Minor – Visions
17. Event Horizon
18. Musurgia Universalis
19. You Have To Let Me Go

DISC 2
01. Tuesday (voiceless)
02. Opening
03. Briefing
04. Space Journey
05. Rover Ride
06. Pirate Attack
07. Orbs
08. Underground Lake
09. Trip To Neptune
10. Says

Music by:
マックス・リヒター
except
ローン・バルフ(DISC 2: Track2-9)
ニルス・フラーム(DISC 2: Track10)

 

 

1.To The Stars

from Max Richter Official YouTube

映画メインテーマです。弦楽オーケストラの広がりが、大きな宇宙空間へと誘ってくれます。時空の感覚を麻痺させるような滞空時間の長いストリングスに、無重力に浮遊するようなピアノの調べがのります。反比例的に重力感のある低音が、身を委ねたくなる安心感と心地よさをもたらしてくれます。

ずばり言ってしまうと眠りに最適、そんな音楽ですね。からだのリズムに沿うような浮遊感、深く深く降りていくような彷徨感。耳を傾けるというよりも、体ごとどっぷりと音楽に浸る、そんな感覚です。瞑想や深呼吸したくなるかもしれません。眠りというキーワードは、マックス・リヒター音楽のひとつの大きなテーマを持っているのですが、その話はまたいつか。

 

 

5.A Trip To The Moon

同じ映画メインテーマからです。エレクトロニックな音響が、無重力空間を演出してくれているようです。なんとなし、いま自分以外の周りすべての時間も空間もフリーズしている、そんな錯覚におぼれます。

 

メインテーマの別アレンジ曲はほかにもあります。「10. The Wanderer」、「1.To The Stars」とまったく同じじゃないかと聴き流してしまいそうですが、微細な音像バランスの違いがあります。並べて聴くとわかりやすいです。「10. The Wanderer」はコントラバスとチェロのレベルが強調されていて、後半に進むにつれかなり低弦によった音響になっています。同じ音源からミキシング調整して、ニュアンスの差異を出しているんじゃないかなと思います。こういうところ、マックス・リヒターの心理下に忍びこんでくる巧みさ。たぶん聴く人は、低音のことを意識していなくても、Track1.か10.か無意識にどちらが好みか選んでいる。そんな気がします。

「19. You Have To Let Me Go」、シンセサイザー重低音を土台に、澄みきったコーラスと弦楽オーケストラになっています。さきほどの「10. The Wanderer」とは変わって、高音・高弦を中心としたつくりになっています。彼方まで光がうすく伸びていきそうな果てしない広がりを感じます。

 

 

11.Erbarme Dich

バッハ:マタイ受難曲 第39曲アリアをアレンジした曲です。ゆるやかな波長のシンセサイザーに、オルゴールのような音色を使ったメロディ。たぶん、原曲にもともとある旋律(声部)だけを使っていて、アレンジのための新しい旋律は加えていないと思います。マックス・リヒターはバッハ音楽にとても造詣が深い、リスペクト感の伝わってくるアレンジ手法です。

 

Johann Sebastian Bach – Zweiter Teil, 39. Aria (Alt) Erbarme dich

原曲です。バッハのマタイ受難曲は引用されるバイブルみたいなものなのかもしれませんね。久石譲も、自作品『THE EAST LAND SYMPHONY』の第5楽章The Prayerで、バッハ:マタイ受難曲 第62曲コラールを引用しています。どんなかたちで登場するのか、ぜひ聴いてみてくださいね。

 

 

12.Preludium

こちらもバッハ「平均律クラヴィーア曲集」からプレリュードをアレンジした曲です。原曲とは異なる短調な響きが印象的です。これだけ聴くと、ベートーヴェン「月光」からかな?と思ってしまいそうですが、バッハです。

 

Tzvi Erez plays Bach: Prelude 1 in C Major BWV 846 from the Well-Tempered Clavier

原曲です。なかなかこの両極端な明るさと暗さを変換して頭のなかで一致させるのって難しいですよね。もしサントラ曲名に「プレリュード」って書いてなかったら気づかなかったかもしれません。

 

 

17.Event Horizon

ひとつのマックス・リヒター音楽のかたち。真髄というかスタイルと言っていいようなもの。ミニマルな音型を主題としてただひたすらにくり返す。でも同じことのループや変化しない音楽ではない。くり返しながら、潮の満ち引きのように音の濃淡を表現し、微細に音の厚みや薄さで呼吸させていく。旋律を加えることでドラマティックさやエモーショナルさを一瞬のぞかせる。そうですね、音像を揺らしていく、そんな秘技なのかもしれませんね。

 

これは、「1.Tuesday(Voiceless)」(Disc2)にも言える手法です。とりわけ20分近いその曲では、壮大な音楽の満ち引きを感じてもらえると思います。そしてどこを切り取っても涙腺を刺激されてしまうから不思議です。その人が今思っていることや思い巡らせなかで起こる感情の起伏をそのまま音楽にのせたような。なにかを深く考えたいときとか。

もともとは『3つの世界 / Three World』(2017)というバレエのために制作された音楽です。そのアルバムからの同曲音源をそのまま使っています。映画『アド・アストラ』で再び使用するにあたって、原曲頭30秒間のナレーションや波のSE音をきれいにカット処理しているので、映画サントラ盤では「1.Tuesday(Voiceless)」という表記になっています。

 

 

Ad Astra – Score by Max Richter | Pt. 1 JOURNEY (約3分)

マックス・リヒターのインタビューとレコーディング風景動画です。英語はスルーしてしまうのが残念なところです。映像見ながらコントラバス奏者8人もいるとびっくりです。一般的なオーケストラでも4~5人くらい、久石譲コンサートだと7~8人くらいでしょうか。「宇宙の音も使ってるよ」そんなことも言っています、ざっくりすぎるすいません。

 

 

サントラまとめ。

全曲ともメインテーマ「1.To The Stars」のような楽器編成を基調としています。ピアノ&ストリングスやプラスシンセサイザーの楽曲たちです。マックス・リヒター音楽の大きな特徴になっている独特な重低音シンセサイザー。強いアクセントで出ているときもあれば、実はどんな曲にもうっすらと入ってるじゃないかなと思うことあります。「1.To The Stars」弦楽オーケストラ曲ですが、もしかしたら低音シンセを人の耳にはなかなか聴こえない配合でブレンドしてるんじゃないかなとか。低音波?無意識下?潜在的心地よさみたいなものを感じてしまっているのかもしれません。好んで聴いているのか、好まされてしまっているのか。

[Disc1] Track-1,5,10,11,12,17,19 & [Disc2] Track-1。サントラ盤から、ゆっくりリラックスできるような音楽を中心に紹介しました。聴きやすいのは、ほかには [Disc1] Track-4,8,14あたりでしょうか。どの曲も、一曲ずっとリピートしていても飽きない音楽です。マックス・リヒターの最小音型でシンプルに構成された音楽は、聴くシチュエーションを限定しない無限な広がりをもち、作品を超えた再利用にも値することはすでに多く証明されています。

あとの曲たち…、アクシデントや恐怖を誘発するような、不協和音だったり、急にびっくりするようなそんな音楽もあります。怖くて落ち着いて聴けないかもアルバムの通しプレイでは。ぐっすり眠りにつきたいときや、安らかタイム・くつろぎタイムのプレイリストにはご用心です。

 

このサントラ音楽は「2021 NHK プロフェッショナル 庵野秀明 エヴァンゲリオン」でも何曲か使用されてました。とても効果的かつ印象的に。[Disc1] 「2.Encounter」「9. The Rings of Saturn」「14.Resonantia」& [Disc2] 「Tuesday (Voiceless)」。今回ふれていない曲ばかりです。ぜひサントラ聴いてみてください。思い出す曲あるかもしれません。

 

 

いつもなら。

ここから久石譲音楽につながって話をすすめたくなります。…久石譲キャリア初のプラネタリウム音楽について。『ad Universum』は…と。久石譲ミニマルを貫いた極上の宇宙空間が広がっています…と。今はまだ一緒に共感しあえない音楽です……。いつかオリジナル音源がリリースされることを大きく宇宙に願って。

 

マックス・リヒターは、作品のほとんどをロンドンAir Studiosで録音しています。久石譲作品でいうと『WORKS・I』や『水の旅人 -侍KIDS- オリジナル・サウンドトラック』が同じスタジオです。さらには、『アド・アストラ サウンドトラック』のコーラスはLondon Voicesです。久石譲作品でいうと『Minima_Rhythm』収録の「The End of the World III.Beyond The World」や『Melodyphony』収録の「Orbis」のコーラスはLondon Voicesです。ご縁あります。……だから?!…なに?!…、えっと、しっかり名門を選びぬいて作品をのこしてきた、ということを言わせてください。

 

 

話はそれます。(怒)

 

映画『アド・アストラ』予告編 9月20日(金)公開 (約1分)

映画公開3ヶ月前の予告です。この時点でマックス・リヒターが音楽担当することはわかっていました。ベートーヴェン「月光」の旋律が聴こえてくる!しかもどんどん劇的に展開していってる! これマックス・リヒター??

 

……

……

 

ここから宇宙空間を彷徨うことになります。何光年も彼方に行ってしまって、簡単には戻ってこれなさそうでした。書いてたら、調べてたら、だんだん腹が立ってきて。積年の思い辛みに拍車がかかってしまいそうで。次回は、予告編音楽・トレイラー音楽にスポットを当てたい、そんな後編です。

 

マックス・リヒターが手がけた現時点で一番新しい映画『アド・アストラ』(2019)サウンドトラックです。ぜひゆっくり聴いてみてください。

 

それではまた。

 

reverb.
映画の内容は覚えていません。長かったなあという印象はあるかなあ。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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