Disc. 久石譲 『Untitled Music』 *Unreleased

2015年10月4日 TV初演

 

曲名:「Untitled Music」
作曲:久石譲
指揮:久石譲
ヴァイオリン:五嶋龍
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

 

 

世界一長寿のクラシック音楽番組『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)。2015年秋、若き天才ヴァイオリニスト・五嶋龍さんを司会に迎え大胆リニューアルした。それにともない新テーマ曲「Untitled Music」を久石譲が書き下ろしている。

7月15日東京オペラシティでの公開収録にて、新司会者の五嶋龍による「題名のない音楽会」の初公開収録が行われ、作曲者である久石譲自らが指揮し日本フィルハーモニー交響楽団にて演奏された。記念すべきリニューアル第1回目(10月4日)にて放送。

番組内インタビューにて久石譲は、「伝統のあるクラシックの番組として、一番新しい才能の五嶋龍くんの強力な個性と、そのふたつを念頭において一生懸命書きました。」とコメントしている。

また演奏中のテロップ表示にて、【曲名は番組名から「題名のない音楽」。音楽会に向かうワクワク感を表現。】と紹介されている。

 

 

冒頭から華やかなオーケストラ・サウンドにて幕をあけ、ヴァイオリンの音色が心躍るように流れていく。クラシック音楽番組にふさわしい気品のある凛とした構成に、ヴァイオリンもバリエーションある奏法を駆使し、表情豊かな音色と響きで魅せる。

久石譲のミニマル・ミュージックをベースとした芸術性と、エンターテイメントで培われた大衆性、その両極性を凝縮させたような結晶化された作品である。近年の指揮活動によってさらに磨きかかったオーケストレーションと構成力によって、ヴァイオリンをいかに際立たせるか、そしてヴァイオリンという楽器の可能性を最大限に追求かつ表現した楽曲となっている。

高音域楽器のピッコロ、グロッケンシュピール、トライアングルなどを巧みにブレンドすることにより、キラキラと輝いた印象を受ける。高音域楽器の対比として、金管楽器をファンファーレ的に配置することで、格調高い華やかさがあり、ヴァイオリンの音域をとてもうまく浮き立たせている。と、個人的には感じます。また緻密でありながら余白のある音楽、主役を際立たせる巧みなオーケストレーションである。

いつもとは違うちょっとフォーマルな音楽会。いつもとは違うちょっとオシャレもして、今まで聴いたことがない音楽との出会いと体験に胸を踊らせて会場へと向かう。そんな心持ちを表現したような作品になっている。

テーマ曲としては約3分半の小品として完成されているが、ここからさらにヴァイオリン・コンチェルトとして発展させていってもおもしろそうな、そんな可能性を秘めた作品である。

 

番組オープニングでは、「Untitled Music」オープニング・パートが、番組エンディングでは同楽曲エンディング・パートがそれぞれ使用されている。これから番組の案内役として浸透していき、TVの向こう側の日常を華やかにしてくれるだろう。

披露された「Untitle Music」が久石譲コンサートで聴ける日はくるのか、久石譲 × 五嶋龍という夢のコラボレーションがCD化される日はくるのか、時間とともにこれからさらなる変化と進化を遂げていくであろうこの作品を、楽しみにその成長を見ていきたい。

 

 

2015.12 追記

久石:
「年によって比重が変わります。今年はどちらかというと、自分の作品が多いですね。でも、CMやゲーム音楽も作っていますね。あとは五嶋龍君が司会になった『題名のない音楽会』の新テーマ曲も書かせてもらいました。この「Untitled Music」という曲は自分でもすごく気に入っています。テーマ曲というだけでなく、作品としても聴いていただけると思うのですが、リズムが相当難しくて、絶対に自分では振りたくないなぁ(笑)と思ったくらい(実際は初回放送時に五嶋と共演)。でも、あの曲を書いたことで一つ吹っ切れたところがありました。」

Blog. 「月刊ぴあの 2015年12月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

2016.1 追記

2016年1月24日(日) 9:00-9:30 テレビ朝日系
「題名のない音楽会 -五嶋龍の音楽会-」

2015年10月番組リニューアル第1回にて発表された久石譲作曲「Untitle Music」も再びフルサイズにて放送される。

 

[五嶋龍 番組内インタビュー]

「(久石譲が)現代音楽というレッテルを貼って欲しくない、枠に入れて欲しくないとおっしゃっていた。リズムとハーモニー、そして音の並び方というのが非常にエッジー(流行の最先端)な音楽。前に進むような、音楽を過去から未来へ押していくようなイメージだと思います。」

 

[五嶋龍が語る「Untitled Music」 (演奏中画面テロップ表示)]

「冒頭からリズムが小節ごとに変わり、色々な進化を広げていくのがこの曲の特徴」

「『Untitled Music』とは『題名のない音楽』。これは無限の可能性があるというイメージにピッタリ」

「今 我々が新しい流行や新しい音楽を作っていると実感させてくれる楽曲」

「パターン化された音を繰り返す「ミニマルミュージック」も取り入れている」

 

題名のない音楽会 untitled music

 

 

2016.3 追記

2016年3月開催「久石譲&五嶋龍 シンフォニー・コンサート in 北京 / 上海」コンサート・ツアーにて、久石譲指揮、五嶋龍Vnによる「Untitled Music」が、中国にて5公演披露されている。

 

 

2016.6 追記

2016年6月5日TV番組「題名のない音楽会」にて、久石譲指揮、五嶋龍Vn、新日本フィルハーモニー交響楽団演奏にて、披露されている。リニューアル初回時の東京フィルハーモニー管弦楽団とはまた趣が異なり、ダイナミックで抑揚豊かな演奏となっている。「題名のない音楽会 久石譲が語る歴史を彩る6人の作曲家たち 前編/後編」というテーマで、2週連続でプログラムされた後編で披露されている。公開収録は4月25日。公開収録時には「Untitled Music」を録り直し、1回目の演奏に久石譲・五嶋龍のいずれかが満足できなかったのか、演奏後の短い会話を経て、その場ですぐに2回目の演奏となった。

 

(演奏中テロップ表示)

「ミニマルミュージックをヴァイオリン協奏曲のスタイルで表現した曲。」

 

 

2017.4 追記

五嶋龍から新司会者交代にともない、番組テーマ曲「Untitled Music」も3月をもって終了。今後は久石譲作品として発展していくのか、コンサートでプログラムされる機会が訪れるのか、五嶋龍との日本公演は実現するのか、いろいろな楽しみと可能性を秘めた作品であることに変わりはない。

 

 

題名のない音楽会 TOP

 

Blog. 「Music Voice」久石譲 ミュージック・フューチャー Vol.2 記事内容

Posted on 2015/10/1

9月28日、Web「Music Voice」に掲載された記事です。

9月24,25日に開催された「久石譲 プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.2」のコンサート・レポートとして各楽曲の詳細が写真付きで紹介されています。

貴重な記録です。

 

 

久石譲、ミュージック・フューチャー・コンサート開催
現代の音楽を奏でる

音楽家・久石譲が主宰する『ミュージック・フューチャー Vol.2』コンサートが9月24日・25日に、東京・よみうり大手町ホールにて開催された。

これは『未来につながる音楽を紹介する場』として昨年からスタートしたコンサート・シリーズ。前回は東欧系のミニマル・ミュージックやポストクラシカル系で構成されていたが、今年はアメリカ系でプログラムした。

難しい音楽ジャンルと思われがちだが、先入観なしで純粋に現代の音楽を楽しんで貰おうと始めたもの。冒頭、ステージに立った久石はこの日の演奏曲をわかりやすく解説し、「理屈はどうでもいいです。聴いて面白かったとか、興奮したとか。みなさんがそれぞれが感じて貰って聴いて欲しい。寝ない程度にね(笑)」と緊張気味の客席を和ませる。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載1

 

1曲目はミニマル・ミュージックの古典的作品でスティーヴ・ライヒの「エイト・ラインズ」。2台のピアノがリズム楽器となり、禅の修行僧のように淡々とストイックにビートを刻む。その上を弦楽器と管楽器がかくれんぼしてるように、消えたり出てきたりと変化自在に飛び回る。むず痒いような、くすぐったいような、それでいて心地よい不思議な感覚を体感。

2曲目は3つの楽章で構成されるジョン・アダムズの「室内交響曲」。隣の部屋で息子がカートゥーン・アニメを見ている時に作曲したそうで、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさが詰まった曲だ。

第1楽章「雑種のアリア」は、各楽器が好き勝手な音を奏で賑々しく始まる。その間を縫うようにパーカッションが様々な音を喧しく立てて大活躍。まさに子供部屋にいるような感覚だ。

第2楽章「バスの歩行を伴うアリア」はタイトル通り、バスーンとコントラバスが忙しく動き回る。なんだか秘密の地下室に迷い込んだ時の、怖いけど先に進んでみたい。そんな感じを思い起こさせてくれる曲だ。

第3楽章「ロードランナー」は、運動会に参加してるかのような楽しげな楽曲。各楽器が勝手気ままに演奏するも、ポイントにパーカッションが入りキリリと締め、気がついたら高揚感が高まってくる。タクトを振る久石もリズミカルで実に楽しそう。ここまでが第1部。いずれの曲も次に何が飛び出して来るかのドキドキやワクワクの連続で、実にスリリングだ。

インターミッション明けの第2部はポストクラシカルの若手作曲家、ブライス・デスナーの「Aheym」。デスナーはNYブルックリンのロックバンド、The Nationalのギタリストとしても活動する異色の経歴で、やはりポップ・フィールドでも活動する久石とは立ち位置が近い。ここでは弦楽四重奏で演奏。弦楽器4つで演奏するという制約があるだけで、時にはチェロがリズム楽器になったりと自由自在に飛び回る。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載2

 

続いては久石譲の「Single Track Music1」。8月にリリースされた『ミニマリズム2』に収録された楽曲で、サックス四重奏と打楽器で演奏を担う。終始、単音のユニゾンで構成され、少しづつズレていくのが聴いてて心地よい。

ここで久石は再び指揮に立ち、最後の「室内交響曲」にのぞむ。本コンサートの為に書き下ろされた新曲で、まだ世界でも稀な6弦のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした全3楽章から成る大作だ。

昨年のこのコンサートで、ニコ・ミューリーの「Seeing is Believing」を演奏するために、この珍しいヴァイオリンを購入。『せっかく買ったので、(この楽器使って)なんか曲を書かなきゃ』という動機で作曲したそう。ステージにはクラシック系ホールでは珍しいギターアンプが置かれている。昨年の公演ではラインを通じてPAから音を出していたが、コンサートマスターでもあり奏者の西江辰郎は、今年はエレクトリック・ヴァイオリンを直接アンプに繋ぐ手法に打って出た。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載3

 

第1楽章は、ディストーション(ひずみ)をたっぷり利かせたエレクトリック・ヴァイオリンがホール内に高らかと響き渡るド派手なオープニングで幕を開けた。かつてウッドストックでジミ・ヘンドリックスが弾いた「星条旗よ永遠なれ」に匹敵する程の衝撃が客席を走る。

第2楽章ではステージからは女性コーラスのような、あり得ない音がきこえてくる。これはブラス隊の3人がマウスピースを直接口にくわえて作り出した仰天の奏法。こんな茶目っ気たっぷりの悪戯を仕掛けるところが、いかにも久石らしい。

第3楽章では金管、木管、パーカッションにピアノの音が一斉に花開いたように宙を飛び交い、うなりを上げて客席に突き刺さる。プレイヤーひとりひとりの技と技がぶつかり合いながら爆ぜる、凄まじささえ感じさせる演奏。混沌の美学、ここに極まれり。そして再び、エレクトリック・ヴァイオリンが顔を出しエコーマシンを駆使したトリッキーなプレイまでもを披露し、ザラザラとした硬質のディストーション・サウンドで締めた。

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載5

 

実に攻撃的で緊張感を強いられる曲でありながら、聴いた(もしくは体感)後に残るのは興奮と爽快感。オーディエンスも、ただただ圧倒され万雷の拍手で応える。クラシック系の楽器でこそ編成されてはいるが、これはもはやプログレッシブ・ロック。久石譲が主宰するミュージック・フューチャー・コンサートは羊の皮を被ったオオカミだ。果たして、来年は何を仕掛けてくるか―。

 

 

■セットリスト

▽第1部
スティーヴ・ライヒ「エイト・ラインズ(1983)」
ジョン・アダムズ「室内交響曲(1982)」
ブライス・デスナー「Aheym(2009)」(日本初演)

▽第2部
久石譲「Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion」(世界初演)
久石譲「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」(世界初演)

▽出演
久石譲(指揮)、西江辰郎(Future Orchestra コンサートマスター)、崎谷直人(弦楽四重奏)ほか

 

久石譲 ミュージク・フューチャー Vol2. 掲載4

(Music Voice より)

公式サイト:Music Voice 久石譲 ミュージック・フューチャー

 

Related page:

 

Info. 2015/10/01 [web] 「Music Voice」久石譲「ミュージック・フューチャー Vol2.」掲載

Music Voice(ミュージックヴォイス)に先日開催された
「久石譲 プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.2」の記事が掲載されています。

コンサート・レポートとして各楽曲が詳細に、
そして貴重なコンサート模様の写真付きで紹介されています。

“Info. 2015/10/01 [web] 「Music Voice」久石譲「ミュージック・フューチャー Vol2.」掲載” の続きを読む

Score. 久石譲 「Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion」 [スコア]

2015年10月1日 発行

《Single Track Music 1》(2014/2015)は、浜松市の吹奏楽イベント「バンド維新」の委嘱によって作曲された同名の吹奏楽曲(2015年2月22日にアクトシティ浜松で初演)を、作曲者自身がサクソフォン四重奏と打楽器のアンサンブル版として書き直したもの。演奏時間は約6分。

曲は、単音から24音まで増殖する単旋律がユニゾンで演奏され、その中のある音が高音や低音に置き換わることによって別のフレーズが浮かび上がるという、シンプルな構造によって作られています。あくまでもモノフォニックなアプローチによって、ミニマル・ミュージック特有のズレや変化の発生を試みた作品であり、鉄道の“単線”を意味する「Single Track」という題名もそれに由来している。

初演は2015年9月24日、よみうり大手町ホールで催された久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー Vol.2」において、林田和之(S.Sax)・田村真寛(A.Sax)・浅見祐衣(T.Sax)・荻島良太(B.Sax)・和田光世(Perc.)の演奏によって行われた。

(メーカー・インフォメーションより)

 

 

Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion

アメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たち、特にスティーヴ・ライヒはミニマル特有のズレ(とそこから生まれる変化のプロセス)を生み出すため、バッハ以来おなじみのポリフォニック(多声音楽的)な書法、具体的にはカノンのような手法で声部を重ね合わせる実験を試みたが、本作において久石は、そうしたポリフォニックな手法に頼らず、あくまでも単旋律のユニゾンにこだわりながらズレを生み出す試みにチャレンジしている。つまり多声という”複線”を走るのではなく、あくまでもユニゾンという”単線”を走り続けるわけだ。鉄道の”単線”を意味する《Single Track》という曲名はそこに由来しているが、その際、フレーズ内の音が高音や低音に配置されることで生まれる別のフレーズは、車窓から見えるビルの窓ガラスや川の水面に映る自分の反射した姿(の変形)と考えると、分かりやすいかもしれない。

本盤に収録された演奏において、パーカッショニストがヴィブラフォンを演奏するセクションから中間部となるが、そこに聴かれる和音らしき響きは、あくまでもフレーズの持続音(サステイン)が伸びた結果生まれたものであって、決して意図したものではないという。喩えて言うならば山間部を走る列車の走行音や警笛がこだまし、それが偶発的なハーモニーを生み出すようなものである。

ユニゾンのフレーズの音が時間軸上でズラされることで生まれるさまざまな音風景は──久石は本作を鉄道の標題音楽として書いているわけではないが──車窓から見える多種多様な光景が自分の中のさまざまな記憶を呼び起こしていく、そんな自由連想的な聴き方をリスナーに許容している。最初のユニゾンのフレーズが、民謡のようにもジャズのようにも、あるいはわらべ唄のようにも聴こえてくる面白さ。そういう面白さを実現するためには、最初のフレーズが思わず口ずさみたくなるような親しみやすさを持ちながら、同時に高度な可塑性に耐えうる可能性を潜在的に秘めていなけれなならない。こういうフレーズは、ポップスフィールドで感性を徹底的に鍛え上げられた、久石のような作曲家でなければ絶対に書けないフレーズだと思う。そういう意味で本作は、久石のポストクラシカル的な在り方をこれまでになく明瞭に示した楽曲と言えるだろう。

(CDライナーノーツ 楽曲解説より)

 

 

WORLD PREMIÈRE:
September 24, 2015 -Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, JAPAN
Kazuyuki Hayashida(soprano saxophone), Masahiro Tamura(alto saxophone), Yui Asami(tenor saxophone), Ryota Ogishima(baritone saxophone), & Mitsuyo Wada(percussion)

 

JOE HISAISHI
SINGLE TRACK MUSIC 1
FOR 4 SAXOPHONES AND PERCUSSION

久石譲
Single Track Music 1 サクソフォン四重奏と打楽器

フルスコア(パート譜別売)
28ページ
菊倍判(227×303mm)
定価:1,700円(税別)
注文番号: SJH 008
ISBN: 978-4-89066-178-7
ISMN: M-65001-256-0
JAN: 1923073017005
出版社: Schott Music Tokyo

 

 

◎音源は久石譲『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』に収録されています。

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.2」 コンサート・レポート

Posted on 2015/9/30

9月24,25日に開催された「久石譲 プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.2」。2014年久石譲によって新しく企画された「ミュージック・フューチャー」シリーズは年1回開催、今年で2回目となります。「ミュージック・フューチャー」とは?どういうコンセプトと想いによってスタートしたのか?

まずは公式コンサートパンフレットより。

 

 

久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー
Joe Hisaishi Presents  Music Future

国立音楽大学在学中よりミニマル・ミュージックに興味を持ち、現代音楽作曲家として活動を開始した久石譲は、今から30年以上前、自ら演奏会を企画し、当時最先端のミニマル・ミュージックを積極的に演奏・紹介していた。『風の谷のナウシカ』以降、彼が映像音楽を中心とする音楽に活動の軸足を置くようになっても、自身のルーツであるミニマル・ミュージックの作曲を継続してきた経緯は、多くのファンの知るところである。さらに、近年指揮者としても本格的な活動を開始すると、久石は作曲家出身の指揮者という立場から、現代に書かれた優れた音楽を紹介していきたいと強く願うようになった。そんな彼が現代屈指のミニマリストという視点で最先端の音楽を自らセレクト・紹介すべく始めたコンサートシリーズが「Music Future」である。

本シリーズの開始に際して決められた大まかな指針は、次の通りである。まず”未来に伝えたい古典”というべき、評価の定まった重要作を紹介すること。併せて、久石より若い世代に属する注目の作曲家を必ず紹介すること。一人よがりの難解な語法で書かれた音楽ではなく、基本的に調性システムも組み込んで書かれた聴衆と高いコミュニケーション能力を持つ音楽──具体的には親しみやすいメロディーやハーモニーで書かれ、クラシックならではの美しいアコースティックな響きを持ちながら、シンプルで力強く、聴く者の心にダイレクトに訴えかけるミニマル・ミュージックのような作品──を紹介すること。欧米で高い評価を受けながら、まだ日本で初演されていない作品/作曲家を紹介すること。久石の新作を世界初演、または演奏すること。

 

2014.9.29 Yomiuri Otemachi Hall
Music Future Vol.1

このようなコンセプトに基いて昨年開催された「Vol.1」は、久石の新作《弦楽四重奏曲第1番》と《Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2 Marimbas》の世界初演を中心に据えながら、彼がかねてから強いシンパシーを寄せている作曲家、欧米では”ホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)”と呼ばれている東欧の作曲家2人がフィーチャーされた。ポーランド出身のヘンリク・グレツキ作曲《あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム》(久石は指揮のほか、ピアノパートも一部担当)と、エストニア出身のアルヴォ・ペルト作曲《スンマ~弦楽四重奏のための》及び《鏡の中の鏡~チェロとピアノのための》(ピアノパートは久石)である。さらに久石が注目する若手作曲家として、アメリカ人ニコ・ミューリーの作品から、珍しい6弦エレクトリック・ヴァイオリンを独奏に用いた《Seeing Is Believing》が久石の指揮で日本初演された。ビョークとのコラボレーションからメトロポリタン・オペラの委嘱オペラまで幅広い活動をみせているミューリーの管弦楽曲を日本で初紹介したこと、さらに6弦エレクトリック・ヴァイオリンを用いたクラシック作品を日本で初演奏したこと、という点からも「Vol.1」がもたらした成果は極めて大きかったと言えるだろう。

前回の「Vol.1」が”ヨーロッパ(東欧)”に焦点を当てていたとするならば、今回開催との「Vol.2」では”アメリカ”が中心的テーマを担っている。”アメリカン・ミニマル・ミュージック”と呼ばれるミニマリスト第1世代の作曲家の中で、日本でも特に人気の高いスティーヴ・ライヒの代表作《エイト・ラインズ》(邦人プロ演奏家による日本初の演奏)。第1世代に直接影響を受けた”ポスト・ミニマリズム”の作曲家で、久石同様指揮者としても活動しているジョン・アダムズの《室内交響曲》。そして、彼らの影響を受けた”ポストクラシカル”の注目株にして、インディーズ・バンド「ザ・ナショナル」のギタリストとしても知られるブライス・デスナーの弦楽四重奏曲《Aheym》(日本初演)。これら3曲の演奏によって、ミニマリスト第1世代から最先端の”ポストクラシカル”へと続く、ミニマルを中心としたアメリカ音楽過去30年の軌跡を明快に辿ることが出来るだろう。

そして「Vol.2」の目玉となる久石の世界初演作品は、《Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion》と《室内交響曲 for Electric Violin and Camber Orchestra》の2曲を予定。前者は久石が今後展開していくミニマル・ミュージックの方法論を具体的に示した最重要作、そして後者は上述の《Seeing In Believing》の6弦エレクトリック・ヴァイオリンに刺激を受けた久石が、初めてこの楽器の作曲に挑戦した野心作である(同楽器のためにクラシック作品を書いた作曲家は現時点でミューリーのほか、ジョン・アダムズやテリー・ライリーなど、ごくわずかしか存在しない)。

ここ30年の音楽シーンにおいて、なぜミニマル・ミュージックが広く受け入れられるようになったのか。そして、なぜ久石の音楽が日本にとどまらず、を世界中で受け入れられるようになったのか。前回同様、今回も”音楽の未来”を鮮やかに示してくれるであろう「Music Future Vol.2」に中に、必ずやその答えを見つけ出すことが出来るはずだ。

文:前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(コンサート・パンフレットより)

 

 

いつもの久石譲、とりわけ映画音楽やジブリ作品での久石譲とは、まったく趣向の異なるコンサート企画です。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.2

[公演期間]  久石譲 ミュージックフューチャー Vol.2
2015/09/24,25

[公演回数]
2公演
東京・よみうり大手町ホール

[編成]
指揮:久石譲
ヴァイオリン:西江辰郎(Future Orchestraコンサートマスター)
管弦楽:Future Orchestra 他

[曲目]
スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ
ジョン・アダムズ:室内交響曲
I. Mongrel Airs
II. Aria with Walking Bass
III. Roadrunner

—-intermission—-

ブライス・デスナー:Aheym *日本初演
久石譲:Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion *世界初演
久石譲:室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra *世界初演
I. Mov.1
II. Mov.2
III. Mov.3

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、他作品も多い本公演の楽曲解説をコンサート・パンフレットより紐解いていきます。

 

 

【楽曲解説】

スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ

[作曲者によるノート]
《エイト・ラインズ》は5つのセクションからなり、類似関係にある第1セクションと第3セクションではピアノ、チェロ、ヴィオラ、バス・クラリネットが動きまわるような音形を演奏する。これに対し、やはり類似関係にある第2セクションと第4セクションでは、チェロがロングトーンを保ちながら演奏する。最後の第5セクションは、全ての音素材が結合する。セクションからセクションへの移行は、互いにオーバーラップしながら可能な限りスムーズに行われる。従って、前のセクションがいつ終わり、次のセクションがいつ始まったのか、正確に聴き分けるのは困難である。第1、3、5セクションでは、フルートとピッコロ(またはそのどちらか)にやや長い旋律線が登場する。より短いパターンが撚られて生まれる、そうした長い旋律線に対する関心は、私の初期の作品や、1976年から77年にかけて研究したヘブライ語聖書の朗唱(詠唱)に源流がある。 -スティーヴ・ライヒ

 

ジョン・アダムズ:室内交響曲

[作曲者によるノート]
15の楽器を用いた演奏時間22分の《室内交響曲》は、同名の先行作品、すなわちシェーンベルクの作品9と疑わしい類似性がある。私の作品ではシンセサイザー、パーカッション(トラップ・セット)、トランペット、トロンボーンが含まれるが、楽器編成はほぼシェーンベルクに従っている。しかしながら、シェーンベルクの曲が中断されない単一構造で演奏されるのに対し、私の曲は第1楽章《雑種のアリア Mongrel Airs》、第2楽章《バスの歩行を伴うアリア Aria with Walking Bass》、第3楽章《ロードランナー Roadrunner》と、3つの独立した楽章に分かれている。それぞれ楽章名は、音楽の大まかな雰囲気を表している。

私は長きにわたり、巨大なエネルギーを表現するため、大キャンバスの上の極太の絵筆で描くような音楽を作曲してきた。それは交響曲だったりオペラだったり、あるいは《フリジアン・ゲート》《シェイカー・ループス》《グランド・ピアノラ・ミュージック》のような小規模の作品であっても、基本的にはソノリティの集積が生み出す力強い音響を追求してきた。それに対し、本質的にポリフォニックで、各楽章を平等に扱わなくてはいけない室内楽の作曲は苦手だった。しかし、シェーンベルクの作品がきっかけとなり、交響作品の重量感が室内楽特有の透明感や敏捷性と結びつき得るような、作曲フォーマットの可能性がひらけた。また、アメリカのカートゥーン音楽の伝統も、ここぞとばかりに技巧を駆使するポリフォニー音楽の新たなモデルを示していた。演奏家として私が親しんできた、20世紀前半の作品にもヒントがあった。例えばミヨーの《世界の創造》、ストラヴィンスキーの《八重奏曲》と《兵士の物語》、そして知名度は低いが『レンとスティンピー』を約60年も先取りしたような、ヒンデミットの素晴らしい木管五重奏曲《小さな室内音楽》などである。

私の《室内交響曲》はユーモアに溢れた曲にも関わらず、驚くべきことに演奏困難だということが判明した。基本的に全音階で作曲した《フリジアン・ゲート》や《グランド・ピアノラ・ミュージック》と異なり、《クリングホファーの死》以後の語法で書かれたと言える本作は、直線的で、半音階を用いた音楽である。各楽器は、トラップ・セットの容赦ないクリック音と頻繁に向き合いながら、途方もなく至難なパッセージと驚くほど速いテンポを切り抜けなければならない。だが、そこにこの作品のひねくれた魅力が存在すると思う(第1楽章のタイトルは当初「しつけとおしおき Discipliner et Punire」だったが、私の音楽を「育ちが悪い」を批判したイギリス人批評家に敬意を表し、「雑種のアリア」に変えた)。 -ジョン・アダムズ

 

ブライス・デスナー:Aheym

[作曲者によるノート]
「Aheym」とはイディッシュ語で「家路に向かって」を意味するが、この作品は”逃亡”や”移住”といった概念を音楽で表現した曲である。子供の頃、私はきょうだいと共に祖母のもとで過ごし、祖母がアメリカに渡ってきた経緯を詳しく訊いた(父の家族はポーランド/ロシアから渡ったユダヤ系移民だった)。祖母はごく断片的にしか語ってくれなかったが、その言葉は私たち家族みんなの思い出となり、やがては私たち自身の文化的アイデンティティとなって、過去と結びついていった。ニューヨーク・バーナード大学教授でワルシャワ・ゲットーの数すくない生き残りのひとりでもある、イディッシュ系アメリカ詩人イリナ・クレフィシュIrena Klepfiszは、「家路への旅 Di rayze aheym」という詩の中で、「異邦人に中に、彼女の故郷がある。まさにここが、彼女の生きるべき場所。彼女の記憶は、やがて記念碑になる」と書いている。《Aheym》は私の祖母サラー・デスナー(Sarah Dessner)に捧げられた。 -ブライス・デスナー

 

久石譲
Single Track Music 1  for 4 Saxophones and Percussion

原曲は、毎年ウィンド・アンサンブルの新作を委嘱初演する浜松市の音楽イベント「バンド維新」のために書かれた吹奏楽曲(2015年2月22日アクトシティ浜松にて初演)。久石自身の解説によれば、単音から24音まで増殖するフレーズがユニゾンで演奏され、その中のある音が高音や低音に配置されることで別のフレーズが浮かび上がってくるという、シンプルな構造で作られている。アメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たち、特にスティーヴ・ライヒはミニマル特有のズレ(とそこから生まれる変化のプロセス)を生み出すため、バッハ以来おなじみのポリフォニック(多声音楽的)な書法、具体的にはカノンのような手法で声部を重ね合わせる実験を試みた。だが、久石は本作においてそうしたポリフォニックな手法に頼らず、あくまでも単旋律のユニゾンにこだわりながらズレを生み出す試みにチャレンジしている。つまり”複線”を走るのではなく、ひたすら”単線”を走り続けるわけだ。鉄道の”単線”を意味する「Single Track」という曲名はそこに由来しているが、その際、フレーズ内の音が高音や低音に配置されることで生まれる別のフレーズは、車窓から見えるビルの窓ガラスや川の水面に映る自分の反射した姿(の変形)と考えると、分かりやすいかもしれない。

今回世界初演されるサックス四重奏&打楽器版において、パーカッショニストがヴィブラフォンを演奏するセクションから中間部となるが、久石自身の解説によれば、そこに聴かれる和音らしき響きはあくまでもフレーズの持続音(サステイン)が伸びた結果生まれたものであって、決して意図したものではないという。喩えて言うならば、山間部を走る列車の走行音や警笛がこだまし、それが偶発的なハーモニーを生み出すようなものである。ユニゾンのフレーズの音が時間軸上でズラされることで生まれるさまざまな音風景は──久石は本作を鉄道の標題音楽として書いているわけではないが──車窓から見える多種多様な光景が自分の中のさまざまな記憶を呼び起こしていく、そんな自由連想的な聴き方をリスナーに許容している。最初のユニゾンのフレーズが、民謡のようにもジャズのようにも、あるいはわらべ唄のようにも聴こえてくる面白さ。そういう面白さを実現するためには、最初のフレーズが思わず口ずさみたくなるような親しみやすさを持ちながら、同時に高度な可塑性に耐えうる可能性を潜在的に秘めていなけれなならない。こういうフレーズは、ポップスフィールドで感性を徹底的に鍛え上げられた、久石のような作曲家でなければ絶対に書けないフレーズだと思う。そういう意味で本作は、現代音楽作曲家としての久石のスタンスをこれまでになく明瞭に示した楽曲と言えるだろう。 -前島秀国

 

久石譲
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

作曲者本人が当日解説予定。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

ここからは実際に演奏会を体感しての内容になります。

 

久石譲MC

コンサート冒頭に久石譲による挨拶と本コンサートに関するMCがありました。マイクを持ったのはこの1回のみ、伝えたい大切なことはここですべて語られています。演奏プログラムの各楽曲の解説がメインとなっています。楽曲解説は重複しますので割愛しますが、久石譲の言葉でわかりやすく語られ、その都度リアクションを起こす聴衆とのやりとりが印象的でした。

そしてコンサート・パンフレットには掲載されていなかった久石譲新作「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」について解説がありました。

要点としては、

「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのためのコンチェルト(協奏曲)だが、古典クラシック音楽にも「スペイン交響曲」(ラルゴ作曲)のように実質にはヴァイオリン・コンチェルトとなっている作品もある。」

「昨年Vol.1の演奏曲のために日本にはない6弦エレクトリック・ヴァイオリンを購入した。他者の作品を演奏するために買って、自分の曲を書かないのもないんじゃないかと思い新たに書き下ろすことにした。エレクトリック・ヴァイオリンの音は完全にアメリカン。そしてサクソフォンなどフィーチャーしたのもあり全体がすごくアメリカンに仕上がった。今年はアメリカ音楽を取り上げ、自分のなかのアメリカも確認する。そんなコンサートになったのではないか。」

「新しい体験をしていただく。今までに聴いたことがない音楽を聴いた。そこにあるのはおもしろかったかおもしろくなかったか、新しい体験ができたかできなかったか。ぜひ皆さんにこのコンサートがこれから新しい体験になっていただけるとありがたい。」

 

スティーヴ・ライヒ:エイト・ラインズ

まさかこの楽曲が日本のコンサートで生で聴けるとは、と感慨深い人も多いのではないでしょうか。さらにはミニマル作曲家であるライヒ × 久石譲という楽曲をつないでの夢のコラボレーション。オリジナル版に忠実な演奏になっていて、約18分に及ぶミニマル音空間を飽きさせることなく、ノンストップでリズムを刻んでいきます。これぞコンサートの醍醐味である視覚的に演奏を体感できることもあって、目で耳で味わうことができる、楽器や旋律が入り乱れ微細にズレていく音の変化、この楽曲ならではの堪能です。オリジナル版CDも多数リリースされています。

 

ジョン・アダムズ:室内交響曲

本当におもちゃ箱をひっくり返したような、どこから音が飛び出てくるか、どんなフレーズが突然鳴りだすかわからない、そんな不思議な作品です。原曲のオリジナル版も予習して臨みましたが、やはり聴くだけよりは鳴っている楽器を見て楽しめる作品です。視覚的に今鳴っている楽器を追えるだけでなく、この楽器からこんな音を響かせていたんだと新たに気づけるところもあります。聴くだけでは掴みどころがないような印象も、何かわからないけどおもしろいねという感覚へと変化します。ヴァイオリンやヴィオラは時に身を乗り出すようにリズミカルに演奏し、木管楽器は奏者たちが複数楽器をパートごとに使い分け。好奇心旺盛で気が散漫な子供心のようにいろんな音色が飛び交います。ジョン・アダムズが指揮したものも含め数バージョンがCDとしてリリースされています。

 

ブライス・デスナー:Aheym

久石譲も「この楽曲はロックだ」と語っていたとおり、イントロから凄まじい弦楽四重奏のパッセージです。オリジナル版(輸入盤CD)よりはややテンポが遅めだったかもしれません。その分、細部のフレーズや息のあったかけ合い、さまざまな表情や演奏技法による弦の響きを堪能できた楽曲です。4本の弦楽器すべてが主役と言ってもいいくらい、主旋律、対旋律、ハーモニー、リズムが、それぞれに交錯して突き進みます。原曲は若干エコーがかかっていますが(ホール録音か音編集のため)、本コンサートではよりアコースティックにシャープに音が削がれていて、4本の弦パートがそれぞれくっきりと浮かび上がっているのが印象的でした。約10分間糸を張りつめたような緊張感で圧巻のセッション。ロック・ミュージシャンでもある作曲家が、世界的有名な弦楽四重奏団クロノス・カルテットが委嘱した作品です。

 

久石譲
Single Track Music 1 for 4 Saxophones and Percussion

最新アルバム「ミニマリズム2」に収録されています。単旋律のユニゾンにこだわった斬新な楽曲ですが、こちらもCDで聴くだけではわからない、生演奏ならではのおもしろさと発見があります。

 

久石譲
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

本公演の目玉と言ってもいい、久石譲新作にして本邦初公開の世界初演作品です。本コンサートのために書き下ろされた室内交響曲。6弦エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーし、全3楽章(約30分)で構成された作品。6弦エレクトリック・ヴァイオリンのための作品ですから、そこをどのようにフィーチャーして全体を構成した作品となっているのか。また久石譲が語った”アメリカな仕上がり”とは。

第1楽章の冒頭から衝撃が走ります。まさにエレクトリック(電子的)な響き。これがヴァイオリンの音か、これがヴァイオリンの演奏か、と目を見張る耳を疑います。ペダル式エフェクター/フットコントローラーを駆使して、音を歪ませるディストーションを利かせたり、それはまさにロックのよう。さらにはルーパーと言われる、今演奏したプレイをその場でループ演奏させる機能も使い、ループさせたフレーズに新しい旋律を重ねていくという技法も。音だけを耳にしたらエレキギターじゃないかと思うくらいですが、そこはエレクトリック・ヴァイオリン。ひずませた音色のなかにもヴァイオリンならではの艶やかさがあるから不思議です。尖った音色のなかにも心地よさをかねそなえた響き。奏者のすぐ後ろに置かれたギターアンプから響く硬質なヴァイオリンとアコーステックな管弦楽の音色とが、違和感なく絡みあう一体感を演出するから不思議です。

なかなか耳に残りやすい親しみやすい旋律やモチーフがある作品ではありませんが、そこは調性とリズムを重んじるだけあって、魅惑的な世界へと惹き込まれます。途中、管楽器奏者たちが、楽器からマウスピースだけを外し、口にくわえて吹くというおもしろい一面も。歌っているのか吹いているのか、声なのか音なのか、そんな演出もありました。

第3楽章ではリズム動機も際立っていて、例えば初期作品の「MKWAJU」収録楽曲たちを思わせるような、音が1つずつ増えていく減っていく、1音ずつズレていくというミニマル的要素もふんだんに盛り込まれ、クライマックスへと盛り上がっていきます。

たとえば「DA・MA・SHI・絵」や「MKWAJU」という楽曲は、全体がリズムによって構成されている”動”なのですが、「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」で新たに魅せた久石譲のミニマル的手法は、”動”だけで突き進むのではなく、”静”パートもあり、緩急とメリハリがそこに生まれます。そのためより一層”動”パート(ミニマルなリズム動機)が浮き彫りになってくる、そんな新しい境地を開拓した作品ではないかと思います。

奏者の西江辰郎さんは、エレクトリック・ヴァイオリンを手(弦/弓)で足(フットコントローラー/エフェクター)で操るというとても難易度の高い演奏を完璧に披露されていました。エレクトリック・ヴァイオリンという独奏楽器を主役にすえた実験的要素の強い斬新な野心作です。

 

以上が各楽曲ごとの補足と感想になります。

総評するならば、とにかくアンサンブルのレベルの高さにただただ感動です。本コンサートのために編成されているFuture Orchestraをはじめ総勢29名の奏者。特筆すべきは、楽曲によって奏者が違うということです。

つまりは大編成のライヒ、アダムズ、久石譲新作はFuture Orchestraで、弦楽四重奏およびサックス四重奏はそのための編成と奏者です。それぞれの楽曲に対してほぼ1曲入魂に近いという、なんとも贅沢な編成になっているわけです。

オーケストラとは異なる、アンサンブルならではの緊張感もあり、音の細部、絶妙なかけあい、演奏技法と響きの余韻まで。観客のみなさんもおそらくそれを楽しむために来たんだと言わんばかりに、楽曲ごとに拍手が鳴り止まない、大人な至福の空間です。

 

 

久石譲プレゼンツということで、久石譲の登場シーンは、
冒頭MC
エイト・ラインズ(ライヒ) 指揮
室内交響曲(アダムズ) 指揮
室内交響曲(久石譲) 指揮

(弦楽四重奏では指揮者は立ちません)

 

 

久石譲のコンサートに行ったことがないならば、やはり久石譲音楽が堪能できるプログラムがいいでしょう。ジブリ音楽やCM音楽で久石譲を好きになり、それらが聴けないなら久石譲のコンサート行かない!と、食わず嫌いせず、今企画のようなコンサートにも触れることは大切だなと痛感。

本当に新しい体験ができます。久石譲の作品ではないけれど、久石譲が選んだ作品たちです。そこにはやはり何かつながりや見えないところで音で結ばれています。こんな音楽もあるんだ、こんな楽器や演奏方法、響きがあるんだ、きっと一聴の価値はあります。

そしてそんな音楽体験があればこそ、耳なじみのある久石譲音楽にも変化があらわれます。相乗効果となって、新しい久石譲音楽の聴こえ方がしてくるかもしれません。ぜひ来年以降も継続開催してほしいシリーズです。

”久石譲が今最もこだわっている音楽”がひっくるめて堪能できるそれがミュージック・フューチャーです。

 

 

最新のWebインタビューでも久石譲本人は語っています。

「今、僕が作っているのは、何か新しい体験をするための音楽。あ〜面白かったね、と素朴に感じてもらえるような音楽。色々な人に聴いてもらえればと思っています」

「クラシックをよく知っているとか、ミニマル・ミュージックに詳しいとかは全然関係ない! なんだかわからなかったけど、もの凄く面白かった! と、そういう感覚を味わってもらえるだけで、いいと思います! その体験が、もう一回こういった音楽を聴いてみたいというきっかけになれば嬉しい」

(Music Voice Webインタビューより)

 

 

Related page:

 

久石譲 ミュージックフューチャー Vol.2

 

Blog. 「Music Voice」 Web 久石譲インタビュー内容

Posted on 2015/9/30

9月19日、Web媒体「Music Voice」に久石譲インタビューが掲載されました。

ミニマル・ミュージックについて、最新オリジナル・ソロアルバム『ミニマリズム2』について、最新コンサート「ミュージック・フューチャー Vol.2」について、年末にかけての演奏会予定について。

そんな旬な話題について語られています。

 

 

久石譲に聞くミニマル音楽とは、難解か?ポップか?
聴き易さの秘密を解説

ミニマル・ミュージックという音楽がある。最小限の音を、同じパターンで反復させながら少しずつズラしていく音楽の手法で、現代音楽のジャンルのひとつに数えられる。なんだか難しい音楽みたいで、ちょっと近寄り難い雰囲気があるのは否めない。

そんなところへ、数々の映画音楽やCM音楽を世に送り出してきた作曲家の久石譲が“バリバリ”のミニマル・ミュージックのアルバム『ミニマリズム 2』を8月にリリースした。

そうした先入観もあって、恐る恐る久石に話を聞いてみると「あれ? 意外にも難しくない!」。クラシック音楽の要素にプログレッシブ・ロックやジャズ&フュージョンが加わり、さらにリズムやビートが入っていて、とっても聴き易い。何よりもポップで、ドキドキワクワクするような高揚感すら感じる。

 

Music Voice 1

 

アルバムタイトルの「ミニマリズム」という言葉は、ミニマル(Minimal)とリズム(Rhythm)を組み合わせた造語だという。キーワードは「リズム」か?。

久石に尋ねると「小さい音型が何度も繰り返されるだけなので、最初はあれ? と思ってしまうかもしれない。でも、実はリズムを基調にした上で組み立てていますので、ロック音楽にも共通項があって、根はそんなに難しいものではないんですよ(笑)」と聴き易さの秘密を明かしてくれた。

初期の前衛的なミニマル・ミュージックは、ズレを聴かせる、いわゆる難解なものが多かったそうだ。久石は現代音楽といわず、あえて“現代の音楽”と呼ぶ。

「リズムというのは音楽の垣根を崩して、誰にでも理解できるものになるんです。このリズムがあるおかげで、ワクワクするとか躍動感といった感覚が生まれ、“現代の音楽”は垣根を崩して入り易くなる」。

確かに、このアルバムを聴いているとジャンルや垣根といったカテゴライズがどうでもよくなってくるから不思議だ。

 

Music Voice 2

 

「今、僕が作っているのは、何か新しい体験をするための音楽。あ〜面白かったね、と素朴に感じてもらえるような音楽。色々な人に聴いてもらえればと思っています」

久石は昨年より、“未来につながる音楽を紹介する場”として『Music Future』コンサートを主宰しており、第2回の今年は9月24日と25日に東京・よみうり大手町ホールで開催される。

ミニマル・ミュージックの古典から、ポストクラシカルと呼ばれる“現代の音楽”気鋭の作曲家に加え、このコンサートの為に久石は新曲を書き下ろす。まだ世界でも稀な6弦のエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした全3楽章から成る大作だ。

「第1楽章は、6弦のエレクトリック・ヴァイオリンでディストーションを利かせた“ロック”。衝撃的な出だしになります!」と新曲の構想に目を輝かせながら話す。

「クラシックをよく知っているとか、ミニマル・ミュージックに詳しいとかは全然関係ない! なんだかわからなかったけど、もの凄く面白かった! と、そういう感覚を味わってもらえるだけで、いいと思います! その体験が、もう一回こういった音楽を聴いてみたいというきっかけになれば嬉しい」。

クラシック系のホールでプラグド・サウンドが響き渡るとは。想像するだけでも楽しそう。

さらに年末に開催される『第九スペシャル -2015-』や、『ジルベスターコンサート2015 in festival hall』では、第九の序曲として演奏される「Orbis~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」で、新たな楽章を書き加えた完全版を披露する予定だという。こちらもミニマル・ミュージックの手法で書かれ、変拍子を多用しているため演奏者にとっては至難の曲になりそうだ。

 

Music Voice 3

 

公式サイト:Music Voice ミュージックヴォイス 久石譲

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」WOWOW放送内容

Posted on 2015/9/29

2015年夏8年ぶりの全国ツアーとなった「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2015」(W.D.O.2015)昨年につづいて今年もWOWOW放送されました。

 

久石譲 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 WORLD DREAM ORCHESTRA 2015
2015年9月23日(水・祝) 15:00- WOWOWライブ

番組紹介/解説
久石譲×宮崎駿の原点である「風の谷のナウシカ」が交響詩となって登場。終戦70周年の2015年、日本と世界が抱える「祈り」をテーマにしたプログラムも披露する。

内容/物語
作曲活動、スタジオワークのみならず、ピアノソロ、アンサンブル、オーケストラといったさまざまな演奏活動で高い人気を誇る音楽家・久石譲。そんな彼が、2004年に新日本フィルハーモニー交響楽団と立ち上げた「ワールド・ドリーム・オーケストラ」は、ジャンルを超えた幅広い音楽性で人気を博している。その全国ツアーの中から、2015年8月8日、東京 サントリーホールでのコンサートを放送する。

2015年、大きな話題となっているのが、宮崎駿監督作品の楽曲をオーケストラ組曲として表現するシリーズのスタートだ。第1弾は「風の谷のナウシカ」の交響組曲。久石譲が宮崎作品と初めて関わることになった記念すべき楽曲のオーケストラ組曲が世界初演される。誰もが耳にした名曲がスケール感豊かに鳴り響くさまは必聴。さらに、終戦70周年に当たる今年、日本と世界が抱える「祈り」をテーマにしたオリジナルプログラムも世界初披露する。

 

 

もちろん完全版、プログラム全曲(アンコール含む)を完全ノーカットで、加えて久石譲のインタビューもまじえながらの永久保存版的内容でした。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015

[公演期間]
2015/8/5 ~ 2015/8/13

[公演回数]
6公演
8/5 (大阪 ザ・シンフォニーホール)
8/6 (広島 上野学園ホール)
8/8 (東京 サントリーホール)
8/9 (東京 すみだトリフォニーホール)
8/12 (名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール)
8/13 (仙台 東京エレクトロンホール宮城)

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ (W.D.O.)
カウンター・テノール:高橋淳
合唱:栗友会合唱団 ※東京公演のみ (8/8.9)
合唱:W.D.O.特別編成合唱団 ※大阪公演のみ (8/5)

[曲目]
久石譲:祈りのうた ~ Homage to Henryk Górecki~ ※世界初演
久石譲:The End of The World for Vocalists and Orchestra ※世界初演
I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d
IV. Beyond the World
久石譲編:The End of the World (Vocal Number) ※世界初演

—-休憩—-

久石譲:紅の豚 Il porco rosso ~ Madness (映画『紅の豚より)
久石譲:Dream More ※世界初演 (「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズ・ドリーム」CM曲)
久石譲:Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015 ※世界初演 (映画『風の谷のナウシカ』より)

—-アンコール—-
久石譲:Your Story 2015 (映画『悪人』より)
久石譲:World Dreams

※合唱編成曲
・The End of the World
・Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015
・World Dreams

 

 

詳しい楽曲解説やコンサート・レポートはすでに書いています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 コンサート・レポート

 

 

WOWOW放送を観ての追加補足です。

【久石譲インタビュー内容】(約6分)

主に公式コンサート・パンフレットでも語られている内容と重複しますが、”ツアーコンセプト””カウンターテナー起用””宮崎作品交響組曲シリーズ”に関して、こぼれ話などありました。

【歌詞】

コンサート・レポートにも書きましたが、アンコール曲「World Dreams」は合唱版での披露でした。(東京/大阪)また「The End of The World 第3楽章《D.e.a.d》」も、今回書き下ろされた歌詞です。

どちらも歌詞は麻衣さんが担当されていますが、WOWOW放送では歌詞テロップが表示され、より深く理解することができたのは大きな収穫です。歌詞は掲載しませんが、上記2曲歌詞ともに公式コンサート・パンフレットにも掲載されておらず、そういう点でもとても貴重な保存版となると思います。

 

 

WOWOW LIVE放送は、とても上品な映像美、複数台によるカメラアングルで、指揮者、オーケストラ奏者と、楽曲や旋律にあわせてフォーカスされるところが醍醐味です。もし今回の放送を見逃した方は、再放送:2014年10月23日(金)19:00- がすでに決定しています。

余談になりますが、昨年のW.D.O.2014は初回放送から再放送をふくめて、約1年間の間に計3-4回は放送されています。おそらく今年のW.D.O.2015も数回再放送されると思います。やはり久石譲のコンサートは会場で体感できるのが一番ですが、行けなかった方や、細部復習したい方など、TV放送されることはとてもありがたい限りです。

エンドクレジットでも「音楽監修:久石譲」となっていたとおり、映像カット割りもそうですが、音響に関しても久石譲のチェックが入っている、WOWOWコンサート放送です。そんな編集にも手をかけ、クオリティーを高めた放送が、数回だけというのは非常にもったいない限りです。

録音用マイクもステージには相当数セットされていましたので、もちろんこのWOWOW放送用だとも思いますが、CD/DVD化できるクオリティで保管できているのではないか?!と。

昨年のリハーサルから本番まで計6回を録音し、CDとしてもクオリティーを追求した渾身のライヴ盤「WORKS IV」。ここまではできないかもしれませんが、それでもLive盤としては作品化してもおかしくない演奏と完成度です。むしろ瞬間封印したようなその鮮度こそ、一期一会な演奏こそ、Live盤の醍醐味でもあります。

作品化された暁には、WOWOWテプッロ表示のみとなっている、麻衣さんによる上記2曲の歌詞も刻まれるかもしません。何度も深く読み返すことができるようになります。とりわけ「World Dreams」は、普遍的な”希望の歌””愛の歌”として時代を超えて、歌い継がれたい合唱作品に昇華されていると思います。そういった要望も各方面から舞い込むくらい浸透するといいですね。

 

最後に、重ねて忘れないように。

再放送:2014年10月23日(金)19:00-

 

 

Related page:

 

WDO 2015 WOWOW

 

Info. 2015/09/29 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 46 ~ショスタコーヴィチ~」 久石譲エッセイ連載 発売

2015年9月29日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 46 ~ショスタコーヴィチ~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税

「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。

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Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 45 ~フォーレ/サン=サーンス~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/9/27

クラシックプレミアム第45巻は、フォーレ / サン=サーンスです。

 

【収録曲】
フォーレ
レクイエム 作品48 (オリジナル版:第2稿)
キャサリン・ボット(ソプラノ)
ジル・カシュマイユ(バリトン)
アラステア・ロス(オルガン)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
モンテヴェルディ合唱団 / ソールズベリー大聖堂少年合唱団
録音/1992年

サン=サーンス
組曲 《動物の謝肉祭》

マルタ・アルゲリッチ、ネルソン・フレイレ(ピアノ)
ギドン・クレーメル、イザベル・ファン・クーレン(ヴァイオリン)
タベア・ツィマーマン(ヴィオラ)
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ゲオルク・ヘルトナーゲル(コントラバス)
イレーナ・グラフェナウアー(フルート)
エドゥアルト・ブルンナー(クラリネット)
マルクス・シュテッケラー(シロフォン)
エディット・ザルメン=ヴェーバー(グロッケンシュピール)
録音/1985年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第43回は、
最もシンプルな音楽の形式は?

前号にてWDO2015の編集部ルポルタージュをはさみ久石譲音楽講義の再開です。

超多忙なスケジュールも垣間見れ、一人何役こなしてるんだろうかと感嘆の想いです。また今号のエッセイでは、クラシック音楽の基本、とりわけ形式を理解するうえでもとてもわかりやすい解説です。

一部のみをかいつまんで抜粋してしまうと、理解できなくなるおそれがあり、意図に反することになりかねませんので、限りなくすべてを紹介させていただきます。

 

「この夏のコンサート・ツアーのため、しばらく原稿書きから遠ざかっていたら文章が浮かんで来ない。まあプロの文筆家ではないから仕方ないのだが、頭が音符でいっぱいになると他のことはできなくなるのだろうか? はたまた単にブランクが原因か? もしブランクなら作曲が心配になる。ツアーをしている間は、さすがに作曲するのは無理だ。とするとここにもブランクができている。」

「5月のコンサート以来約2ヶ月半、毎日自宅と仕事場の往復だけの日々は至って地味でシンプルだった。何日も何も書けず泥沼を這いずり回ったような苦しい時期もあったが、今振り返ると確実に曲はできていたのだった。毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。さあ、作曲に戻るためにも早く原稿を上げよう。」

「前回、ホモフォニー(ハーモニー)の時代は機能和声の確立によって音楽はよりエモーショナルな表現が可能になったと書いた。この『クラシック プレミアム』で取り上げる楽曲の大半がそうであるように、多くの人が今日耳にするいわゆるクラシック音楽はこの時代の音楽である。」

「構造は至ってシンプル、メロディーラインとそれを支える和音が主になる歌謡形式に近いものだ。つまり8小節(これが7でも10小節でも同じ)のフレーズが基準になる。もちろんシェーンベルクの《浄められた夜》のように複雑な対旋律やリズムも加わるものもあるからそんなに単純ではない、と言われてもしょうがないのだが、ベーシックな構造は同じなのである。ヴィヴァルディや初期のハイドンを想像してもらえばわかりやすいかもしれない。もちろん8小節では20秒前後で曲が終わってしまうので、これをいくつも組み合わせて一つのまとまった曲にしていくわけだが。」

「ここで重要なのが形式だ。何となくダラダラとメロディーが続いていても、聴き手には何も訴えてこないし、締りがない。なんらかの約束事であるその音たちを受けるお皿のようなもの、あるいは容器がいる。それが形式である。」

「音楽は論理性が大事だ。ドだけでは意味を持たず、それに続く音の連なりがあって初めて音楽として成立する。この連続性には時間が必要なので論理的であると前に書いた。その一つの固まりが先ほどの8小節のメロディーあるいはモティーフなのだが、それを組み合わせ、時間軸の上で構築していくのに必要な約束事が形式なのだ。最もシンプルなものは三部形式である。こう書くとまた講義かと思われるから別の言いかたをする。」

「宇宙人に遭遇したらあなたはどうしますか?…はあ?…この質問に作曲家の武満徹氏は確か「相手の言ったことを繰り返す」というような意味のことを答えていたと思う。随分前に読んだ本なので記憶が定かではないのだが、僕も多分同じことをすると思う。その根拠は「わからなかったら繰り返す」ということだ。」

「そしてこれが三部形式の大前提なのである。あるメロディーから始まった、しばらく経ってからまた最初のメロディーが聞こえた。そうすると多くの人は一つのまとまったもの、あるいは完結したものと認識する。つまりa-b-aということになる。これは古今東西を問わずあらゆる音楽の基本形態であると言っていい。もう一度繰り返す、あるいはもう一度聞こえたということが人間の生理に合致しているのである。じゃあ先ほどの宇宙人は繰り返すのか? などと余計な質問をしてはいけない…これは人間の生理の話なのだから…なんとか収めたのだから蒸し返してはいけない(笑)。」

「さて8小節のメロディーがa-b-aで24小節前後になったとしても多くの場合は(テンポにもよるが)40~50秒くらいにしかならない。それでa-a’-b-a’とかa-b-a’-c-b-a-b-a’など様々な工夫をしながら音楽は徐々に大きな建物になっていった。その極致が交響曲である。特にその第1楽章が最たるものである。10~15分、マーラーに至っては30分もかかるその楽曲はどう作られているのか?」

「それがソナタ形式という形であり、実はこれもa-b-aの拡大版三部形式なのである。具体的にはまずテーマを演奏する提示部(a)、それからそのテーマを様々に変奏する展開部(b)、そしてもう一度最初のテーマを演奏する再現部(a)で構成されているのだが、ごらんのとおりa-b-aの三部形式になる。もちろんそんなに単純ではなく、提示部には第1主題と第2主題があり、それぞれもっと細かく約束事があるのだが、それは次回に書く。」

「重要なのは、ホモフォニー音楽は根がシンプルな分、情緒に訴える力が強く、それゆえ様々な約束事を作ることで大きな建造物にしていったということ。だが、それもやがて行き詰まっていくのである。」

 

 

そういえば最近読んだ本におもしろいコラムがありました。ワーグナーの「ニーベルングの指環」を取り上げてだったと思います。

ワーグナーはライトモチーフという手法を用いたことでも有名で、このメロディーは登場人物Aを表す、このメロディーは登場人物Bを表す、つまりスター・ウォーズの”ダースベイダーのテーマ”でも有名な手法がライトモチーフです。

さらにストーリーがある作品なので、状況によって、喜怒哀楽の表情へと変奏されます。これが上のエッセイにも書かれているa-a’、さらにはa-a’-a”などと連なっていく。

膨大なモチーフと、かつ膨大な変奏が入り乱れる作品において、ワーグナーは聴衆がついていけるか理解できるか心配で、あちこちにストーリーやライトモチーフを復習する場面を設けたというわけです。だから「ニーベルングの指環」などあれだけの長い演奏時間がかかることになったと。

おもしろいと最初に書いたのは、そのコラムに『ワーグナーが聴衆を信じていないさまが、異常にしつこいという人間性が表れている』と書かれていたからです。そういう捉え方もあるのかと、おもしろかったです。

たしかに時代もあります。CDもDVDもない時代に聴衆がその演奏会だけで作品を理解してくれるか、心配になるのもわかります。ちょうど今号での”形式”の講義と、直近で読んだ本の内容とがつながったのでご紹介まででした。

 

最後に。今回のエッセイ冒頭にさらっと書かれている久石譲の言葉は名言ですね。

 

”毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。”

ミニマルな生活、なかなかいい表現だなあと気に入ってしまいました。

ミニマルな生活
~シンプルに
~ミニマル(最小限)とは、選択と集中で優先順位をつけて
~ミニマル(音形)とは、モチーフつまり最も大切な核なこと
~繰り返し続ける

そう勝手に解釈いたしました。

なんだかとても力をもらった気がします、勝手な解釈でもって。

 

クラシックプレミアム 45 フォーレ サン=サーンス

 

Info. 2015/10/04 「題名のない音楽会」新テーマ曲 久石譲『Untitled Music』 TV出演 【9/21 update】

テレビ朝日『題名のない音楽会』の新テーマ曲を久石が担当しました。

世界一長寿のクラシック音楽番組『題名のない音楽会』が、
2015年秋、若き天才ヴァイオリニスト・五嶋龍さんを司会に迎え大胆リニューアル。
その新テーマ曲「Untitled Music」を久石が担当しました。
放送は、2015年10月からの予定です。ぜひご期待ください。 “Info. 2015/10/04 「題名のない音楽会」新テーマ曲 久石譲『Untitled Music』 TV出演 【9/21 update】” の続きを読む