Blog. 「KEYBORD LAND キーボード・ランド 1989年10月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2021/09/04

音楽雑誌「KEYBORD LAND キーボード・ランド 1989年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。アルバム『PRETENDER』発売に合わせた時期になっています。

 

 

日本人っていつも何かのフリをしている人が多い
その姿を客観的に表したかった

久石譲

『風の谷のナウシカ』や、『となりのトトロ』など映画音楽やCMソング、他のアーティストの曲の作・編曲の他、キーボード・プレーヤーとしてっも幅広い活動をしている久石譲。彼が3年ぶりの自分自身のアルバム『PRETENDER』をニューヨークで制作した。

久石といえばフェアライトなどの最新テクノロジーを積極的にとり入れたキーボーディストというイメージがあるが、今回のアルバクでは生の楽器が多く使われている。

「今までは90%くらいは電気楽器、打ち込みものとかが多かったのですが、今回は逆に85%近くは生のピアノやドラム、ベースなどを前に出して非常にバンドっぽくあげたかったんです。打ち込みだとジャストでしょ。ジャストだとニュアンスがないからつらい部分があって…。そういう意味では今回はリズムのノリもいいし、かなり欲しいニュアンスが録れたなと感じますね。中には1曲めと5曲めのように部分的に打ち込みを使った曲もありますが、後は全部生です。その打ち込みの部分も、生の音との違いがほとんどわからないくらい精密に、フェアライトで作っていったんですよね。今回はバンドっぽいサウンドということをコンセプトにおきましたから、そういう意味でのカラーの統一をしたかったんです」

彼の言葉どおり、アルバム全体を通してライブ感覚のノリが溢れている。が、そこには人間臭さは不思議となく、都会的なドライさが感じられる。

「今回は全体に乾いた音を中心にして、日本人特有のウェットな部分をできるだけ切り捨てようと思ったんです。そういう意味からもロンドンよりは絶対ニューヨークの方が合っているという気がして行ったんです。ロンドンの音楽は、どちらかというとウェットという部分では、日本のものと似ていますからね」

アルバム1曲1曲は、60年代風のロックあり、ラテンあり、ジャズあり、バラードあり、生ピアノと生弦中心のインストありと実に多彩。しかもラテン風のサウンドひとつとっても、それに東洋的なメロディがのっているような、型にはまらない久石独自の自由なアソビ感覚が伝わってくる。

「1曲1曲、思いっきりパワーを持つように作ったんです。今回はインストとボーカルものを混ぜてしまったし、下手するとバラバラになっちゃうような非常に難しいアルバムだったんですよ。ただ正解だったのはバンドっぽい音ということで、リズム体を変にサンプリングで入れ替えたりして凝りすぎないで、全曲、素直に通したんです。曲の表わし方の個性をどうつけるかでジャジイなものがあったり、ピアノ曲があったりするけど、その上でもっと大きな個性で結実しないかなという思いはありました」

1つの型に凝り固まらず、いろいろなジャンルの音楽をいろいろなノウハウで作り上げてきた彼だけに、実力に裏付けされた確かな自信がうかがえた。その彼の自信作は9月21日NECアベニューより発売される。またライブは10月4、5日インクスティック芝浦ファクトリーで行われる予定。

(「KEYBORD LAND キーボード・ランド 1989年10月号」より)

 

 

久石譲 『PRETENDER』

 

 

 

Blog. 「音楽の友 1998年4月 特大号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2021/09/03

クラシック音楽誌「音楽の友 1998年4月 特大号」に掲載された久石譲インタビュー内容です。連載コーナー「この一曲が好き!」に登場しました。久石譲が選んだのは「マーラー:アダージェット」、そして当時公開されたばかりの映画『HANA-BI』の話まで。

 

 

この一曲が好き!

第37回 マーラー/アダージェット 久石譲(作曲、演奏、プロデューサー)

各界の著名人に、自分の一番好きな「この一曲」について、熱い告白をしていただこうという好評連載!今月は、現代音楽の作曲家として出発しながらも、ポップス、映画音楽のフィールドで高い支持を得ている久石譲さんです。

 

昔、学生時代はマーラーはあまり好きではありませんでした。ところが、ロンドンに2年ほどいたときに『水の旅人』という映画のサウンド・トラックを、ロンドン・シンフォニー・オーケストラで、フルの3管編成でレコーディングしようとした(93年4月)んですが、いわゆる管弦楽法の本とかはみんな東京に置き忘れてきてしまった。そのとき手元にあったのは、マーラーの5番のスコアだけだったんですよ。そのスコアをずっと参考にして、ヴォイシング、音の配置を舐めるように見た。それで、マーラーの5番に親しんだのがとても記憶に残っています。

特にアダージェットは、『ヴェニスに死す』という映画のテーマ曲になりましたね。これだけ映画を見ているし、映画音楽をやってきたにもかかわらず、実は『ヴェニスに死す』は見ていなかったんですよ。で、去年、北野武さん監督の『HANA-BI』という映画がベネチア国際映画祭で金獅子賞を取りました。それでその前後であわてて『ヴェニスに死す』を見たんです。とても恥ずかしかったんですが、ヴィスコンティのあの映画に圧倒されて、同時にアダージェットという曲の持っている凄さに、もう一度心酔したんですね。

今回、長野パラリンピックのトリビュート・アルバム『HOPE』を作ったときに、ポップスの人から、ジャズ、クラシック、いろんなジャンルから参加していただきました。クラシックでは藤原真理さんと、オーボエの茂木大輔さん、カウンターテノールの米良美一さん、和太鼓の林英哲さんです。

で、どの曲をやろうかという段階で、チェロとピアノでは不可能かなと思いつつ、アダージェットをやってみたいという提案をしたんですね。真理さんと改めてもう1回聴いてみて、はたしてこれはチェロとピアノになるんだろうか、どうなるかわからないけれども、とにかく置き換えてみます、と編曲を始めたんです。

ところが、弦のスタティックな曲だから、音符がのびないとサマにならないんですね。弦は音を延ばすことは可能だけれども、ピアノはどうしても音が減衰していっちゃいますからね。原曲の響きや世界観をいかに変えずにピアノに置き換えるかで、ずいぶん苦しんだんですよ(笑)。そのレコーディングは相当うまくいって、これからきっとチェロの人のレパートリーに入るんじゃないか、それくらいのアレンジはできたし、自分も納得してるんです。もちろん原点にあったのは、あのアダージェットという楽曲の持っているすばらしさです。

これを書いた時のマーラーは、おそらく精神的に相当きつい状況だったと思うんです。メロディ自体はメイジャーの曲ですよね。でも、心底落ち込んだ、精神状態が最悪のときに、かえってメイジャーなメロディを書くというのは、何段階か人間として器が大きくなるというのでしょうか。辛いときに辛い曲、悲しい時に悲しい曲を書くほど、つまらないことはないんで(笑)。それをつき抜けた絶望の渕の明るさ、そして何かを求めるというようなところが、この曲にはある。ある意味でシューベルトの《白鳥の歌》に近いような、とても死を見据えた強さを、このアダージェットには強く感じるんです。第9番の第4楽章もすごくいいんですが、あれはオーケストラとしても劇的に構成され過ぎている。それに較べると第5番の第4楽章は、ハープと弦だけですよね。シンプルな中に本当に突き抜けた世界観をもっている。そういう意味でもこれはすばらしい。

もともとはブラームスがすごい好きなんです。ブラームス独特の、重たくなるくらいに低音を重ねてしまう、そういうもののほうが本当は好きなんですけれども、ただやっぱり、マーラーは指揮者としても一流でしたよね。ですから、小手先に走る、オケの効果に走る、構成上の弱さを持っているんだけれども、基本的には、オケの鳴らせ方、響かせ方に関しては、作曲部屋にこもって作っている人と、毎日オケの前でやっていた人との違いはある。マーラーの場合、譜面上では、えっ、これで大丈夫なのかな、というのが、実際音を出してみるととてもいいんですよね。この辺は、机上の作曲とまったく違うものがあって、ものすごく参考になります。

ブラームスは、彼の引き裂かれ方が好きなんです。体質はロマン派のくせに、頭の中は構成がっちりの古典派のベートーヴェンなんかに憧れきってる。そのバランスの悪さは、いつ聴いても面白い。第4シンフォニーなんて、音型、モティーフという捉え方でどう頑張っても、メロディにはロマンの香りがしちゃいますよね。ブラームスは一生そのことで闘って悩んでいた。そのことが露骨に見えるのが、ブラームスの一番破綻しているところでもあり、僕が好きなところでもあるんです。

人間の中にも、物事を論理的に考えたいというところと、ものすごいエモーショナルに動きたいというところと、みんな持っているじゃないですか。だからそれを大きなタームで捉えてみると、クラシックの流れ自体が、古典派、ロマン派、新古典派、十二音技法、現代音楽と、絶えず人間のなかの感覚的な部分と、理性的な統御の部分とが、交互に揺れ動いて来ていますよね。

 

僕の学生時代は、ミニマル・ミュージックが最先端の音楽だったんですね。1964年くらいですね。僕らはそれまではペンデレツキやクセナキスの流れで、不協和音を重ねるクラスターという書き方をしていました。あれは正直言ってだれもわからないんですよね。もっといえば、だれでも書ける。ものすごい大きなスコアに、「第1ヴァイオリン」という表記ではなく、ひとりひとりの奏者のヴァイオリン何10本に半音だ4分音だとぶつけていけばいいんだから。そんなに苦労はない。あれは机上の音楽でしかなかった。

実際に創造してるものとは違うはずなんです。それをちゃんとやりきれている作曲家は基本的にいないと思うんです。そういうものをただただ追求していくことが作曲の指南になり、あれだけの大量の音符の量を不確定理論とかでやっても、それが飽和状態まできてるような気がしていた。そこへ、ポンとミニマルを聴いたときに、あの形になってるというのは、僕にとって、ものすごく新鮮だったのね。ミニマルの方が自分たちのリアリティがあった。もちろん、スティーヴ・ライヒたちはいきなりそれを作ったんじゃなくて、いろんなムーヴメントのなかでやってきていますが。

当時、作曲家どうしが集まったときに話すことは、他人の批評ばかりだったわけです。あれはだめだ、これもだめだ、と。つまり、彼らの言い方というのは、他のものはすべてだめ。だから自分が正しい、という理論。赤ちょうちんで飲んで課長の悪口言ってるサラリーマンと何ら変わらない。だから体質的に現代音楽の連中のもっている雰囲気が大嫌いだったんです。音符で証明すればいいのに口で証明しているような奴らとやってもしようがない、と思った。そのときにふっと横を見ると、ロキシー・ミュージックから出てきたブライアン・イーノが、芸術論なんかぶたなくても、充分やっているという姿がすごくうらやましかったんですよ。それならこのまま現代音楽をやっているよりはポップスのフィールドに行った方が自分はいいと。

そこで「作品を書く」というのはやめたんです。そのかわり、ポップスのフィールドに行ってからはもっと自由にできるようになった。あっちは面白ければ正義ですから。もうひとつは売れなければ正義にもならないんだけど。それさえきちんとしていればやりたいことはやれる。だいたい我々の世代でも、才能のあった人物が、ほとんどみんなポップスとか、他のフィールドに流れちゃいましたよね。

映画音楽を作るときは、よほどのことがない限りは、台本を読んで、ラッシュを見て、それからどういう世界観にするかを通常決めて行きます。『HANA-BI』のときは、わりと早い時期から、北野さんから大体の内容は聞いていたし、「今回はアコースティックで行きたい」と言われていた。北野さんとやってきた映画音楽は、『HANA-BI』で4本目なんですけど、それまでのものは実はミニマル的な扱いが多かったんですよ。感情表現というよりは引いてしまって、最少単位の音型が繰り返されるような。具体的にいうと、シンセサイザーをだいたいメインにして作ってきた。『HANA-BI』の場合は、暴力的なシーンでも、弦とかできれいな音楽が流れているようなのはどうですか、という話があった。それがキーワードになりました。ただ、弦を使っていると、どうしてもメロディラインがついて、エモーショナルな部分に走りやすくなるんですよ。北野さんの世界では、おいおい泣いたりするような、感情表現の場って少ないんですよ。そういうところにエモーショナルな音楽を付けると、ものすごくダサくなったり、かえって北野ワールドを壊してしまうんじゃないか、というのが一番心配だったですね。弦を使ってやっていくときに僕が大事にしたのは「格調」。一、二歩引いて、主人公たちの精神状態を奏でるというところから全体を構成していった。通常僕らが映画音楽を書くときは、映画1本で25~30曲くらい、各シーンに入れていくんです。だけど今回は10曲だった。短くなったと喜んでいたんですが、1曲1曲が8分だったり6分だったり長いんですよ。だから、音楽全体の長さは結局45分くらい、いままでと全く変わっていなかった。その分、入れるときはドンと入れる。抜くときは思い切り抜く。映画としての音楽的なメリハリはつけられたという気がします。

以前見たスティーヴ・ライヒの《ザ・ケイヴ》はすごくショックでした。いつかこういうのにチャレンジしてみたいというのはありましたから。ただ、彼は現代音楽のフィールドだけど、僕は、ポップスのフィールドだから、斬新なもの、それでいてエンターテインメントとして楽しめるもの。そういう作品をこれから作っていきたいですね。変に芸術家というと、山の中に篭っていて自分の気にいった音符を書いていれば成り立つかもしれないけれど、僕がいまいる世界は、人様に見て聴いていただいて初めて成立する世界だから。自己満足では完結しないんですよ。それに対して出資してくれる人がいたり、レコード会社や映画会社がいる。そういう人たちは資本をしっかり回収し(笑)、なおかつ人々をただただ楽しませるだけでじゃなくて、もうひとつ上のランクのもの見せられるというのが理想ですから。それを一番やっているのはたぶん宮崎駿さんです。その人とずっと仕事させてもらったし。身の回りに北野さんとか凄い人が大勢いるもんで、いまでもいろいろ勉強させてもらっています。

(「音楽の友 1998年4月 特大号」より)

 

 

久石譲 『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』

 

HANA-BI サウンドトラック

Disc. 久石譲 『HANA-BI』

 

 

 

Info. 2020/11/16 日本センチュリー交響楽団×久石譲 2021-2022 シーズンプログラム 発表 【9/2 Update!!】

Posted on 2020/11/16

【速報!日本センチュリー交響楽団 新シーズン(2021-2022)プログラム発表!!】

日本センチュリー交響楽団の来シーズンのラインナップが決定いたしました!!

飯森範親首席指揮者、秋山和慶ミュージックアドバイザー、そして2021年4月から就任する久石譲首席客演指揮者とともに、より一層魅力的な楽団として飛躍して参る所存です。 “Info. 2020/11/16 日本センチュリー交響楽団×久石譲 2021-2022 シーズンプログラム 発表 【9/2 Update!!】” の続きを読む

Info. 2021/09/19 「久石譲×日本センチュリー交響楽団 姫路特別演奏会」開催決定!! 【9/2 Update!!】

Posted on 2021/03/17

アクリエひめじオープニングシリーズ
久石譲、待望の姫路公演が新ホールで実現!

日本センチュリー交響楽団とともに、クラシック、ジブリの名曲の数々をたずさえ、新文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」のオープニングを華やかに飾ります。 “Info. 2021/09/19 「久石譲×日本センチュリー交響楽団 姫路特別演奏会」開催決定!! 【9/2 Update!!】” の続きを読む

Blog. 「LUCi ルーシィ 2007年4月号」久石譲×SHIHO 対談内容

Posted on 2021年8月31日

雑誌「LUCi ルーシィ 2007年4月号」に掲載された久石譲対談です。「SHIHOのドキドキ♥対談」コーナーです。当時発売されたアルバム『Asian X.T.C.』などのエピソードを中心に話は進みます。

 

 

SHIHOのドキドキ♥対談

今回のゲスト
音楽家 久石譲

宮崎駿監督の映画音楽をはじめ、CM音楽、コンサート活動などでも活躍する久石譲さんが今月のゲスト。有名な曲をつくった時の裏話や久石さんの人となりなど、じっくりとうかがってきました。

SHIHO:
はじめまして。今日はよろしくお願いします。

久石:
こちらこそ。もうこの対談はずいぶん長くやっているんですか?

SHIHO:
4年近くになります。

久石:
いいですね。素敵な人ばかりにお会いできて。なぜ僕が呼ばれたのかは、よくわからないけど(笑)。

SHIHO:
何をおっしゃいますか(笑)。私、テレビはほとんど見ないのに、最近テレビをつけると必ず久石さんの音楽が目や耳に入ってくるんです。本屋に行っても久石さんの記事に目がいったり。とにかくすごいです!

久石:
そうかな。そんなに仕事してないと思うけど(苦笑)。

SHIHO:
宮崎駿監督や、北野武監督の映画音楽を手がけていたり。絶対に誰もが耳にしたことのある音楽ですよね。

久石:
ありがとうございます。

SHIHO:
仕事のペースは、あまり変わらないんですか?

久石:
そうですね。1年を通して映画を何本かと、自分のアルバムをつくって、それを持ってツアーを回る。あと、最近は新日本フィルとやっている「新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ」の音楽監督もやっているから、それでコンサートを回ったり。コンサートの量は確かに増えていますね。

 

完成図が見えていたら、モノづくりは面白くない

SHIHO:
人の心に残る仕事って、簡単にできることじゃないと思うんですが、どうしてできるんですか?

久石:
どうして…って(笑)。たまたま目の前にある仕事を一生懸命やったら、その結果としてついてきたという感じかな。

SHIHO:
今あることを…ですね。

久石:
自分が書いたものをいちばん最初に聴くのは、自分ですよね。だから、まず自分が喜べる、興奮できるものを書こうということはいつも考えていますね。自分が興奮できれば、周りにもその気持ちが伝わるし、ひいては観客にも伝わる。

SHIHO:
何もないところから、どうやってつくり始めるんですか? たとえば、昨年出されたアルバム『Asian X.T.C.』もすごくよかったです。

久石:
自分のアルバムは、ほぼ毎年出しているんだけど、毎回、”自分にとっての次の大事なテーマは何か?”を考えるんです。このアルバムをつくる前は、韓国映画の『トンマッコルへようこそ』や、中国映画、香港映画の依頼が同時に来たんですね。その時に「あれ?」と思って。

SHIHO:
アジアが来てる、と(笑)。

久石:
うん。前にスケジュールが合わなくてお断りしたものもあるけど、今回は3本同時に来ちゃった。じゃ、3本まとめてやろう。アジアの風が吹いたぞと。

SHIHO:
流れに乗ったんですね。

久石:
そう! 僕、「流れ」はすごく大事にするから。次の自分のアルバムはアジアをテーマにするべきだと思ったの。

SHIHO:
そういう流れなんだ、と。

久石:
うん。でも考えたら、僕がやっているピアノとかオーケストラって、ヨーロッパのもので、アジアのことはビックリするぐらい何も知らなかった。そこで、ヨーロッパとアジアとの違いはなんだろうと考えた時に、考え方だと思ったのね。

SHIHO:
はい。

久石:
キリスト教もしかりだと思うけど、ヨーロッパの文化では、善はいいもので悪は悪いもの。排他的な発想なのね。でも日本の仏教は、南無阿弥陀仏と唱えれば、誰でも救われるとされる。バリ島のケチャダンスにいい神と悪い神が出てくるのも、悪いものがなければ世界は成立しないという考え方だからなんですね。

SHIHO:
表があれば裏がある。光があるから陰がある。陰陽ですね。

久石:
そうそう。それはヨーロッパ的ではないから、そこをテーマにしたらつくれるなと思って。で、アルバムの前半は明るい陽サイド。後半は陰サイドとして、明確に分けちゃった。これでアジアの二面性みたいなものが出ればいいなと。

SHIHO:
そう! 後半ちょっと怖い感じになるんですよね(笑)。そういうテーマって、どの作品にもあるんですか?

久石:
やりながら…。

SHIHO:
できていく…?

久石:
そう。地図が全部見えていたら、ものってつくれないと思うんです。つまり、すべてが見えていたら面白くない。こっちに行ったら何かあるんじゃないかなと思って進むうちにだんんだん見えてきて、「そういうことだったんだ!」と、最後にやっと到達するというのかな。

SHIHO:
絵描きがキャンバスに向かって絵を描きながら方向を定めていくような感じなんですね。

久石:
そう。で、終わったあとにたくさんインタビューを受けると、最初からそう考えていたような気持ちになると(笑)。話をするうちに、自分のなかの考えがまとまっていくことは多いですから。だから、よどみなく話している時は、なんだかインチキ臭いぞ、答えが定型化されているなと思ってください(笑)。

SHIHO:
アハハハ。じゃ、実際の「つくり始め」は、ピアノに向かってとにかく弾いてみることから始めるんですか?

久石:
そうですね。弾きながら、こういうフレーズがいいなと思う時もあるし…。コマーシャルの時などは、イメージがあるだけでもいいです。「ほんわかしているけど、尖った感じのアプローチ」とか、輪郭だけでも見えるともう大丈夫。

SHIHO:
へえ。本木雅弘さんと宮沢りえさんが出ているサントリーの有名な「伊右衛門」のCM音楽の時は?

久石:
あれは、中国で言えば黄河のような、すごく大きな河がとうとうと流れているような音楽をつくろうと。商品と絵コンテだけだったけど、それを見ていたら、たっぷり水があって、ゆったりと流れる大河のような浪浪としたメロディーを、大人数のストリングオーケストラが全員で演奏するというアイディアがひらめいて。そこに、画面に寄り添うような静かなピアノの旋律を乗せようと考えたのね。

SHIHO:
あぁ、今すぐあのCMを見て、大河の流れを感じたい!(笑)

久石:
アハハハ。

SHIHO:
でも、すごく漠然としたイメージからつくり始めるんですね。

久石:
刺しゅうをやる時って、最初に柄の中心から針を入れていくんだって。それを仕事に置き換えると、映画を1本やる場合、30曲とかすごい量の曲を作るんですね。でも、ただ雑多に書いていってはダメで、中心となる顔の部分をきちんと決めないと、全体がよくならない。映画で言うなら、メインテーマですよね。

SHIHO:
あ! いちばん表現したいことは何か?ということですね。

久石:
うん。「この映画なら、これ」みたいなもの。アルバムでも、中心になる曲があるわけです。でも、その曲がアルバムのメインの曲だとは限らないのね。『Asian X.T.C.』で言うと…。

SHIHO:
ど、ど、どれですかっ?

久石:
(笑)最後に入っている「Dawn of Asia」ができた時に、「このアルバムがつくれるぞ」という確信がもてたんですね。で、結果的にこのアルバムのなかでいちばん実験して、最も大切にしているのが「Monkey Forest」という曲かな。

SHIHO:
いつ頃できたんですか?

久石:
「Dawn of Asia」が最初にできて、「Monkey Forest」が…最後のほうかな。

SHIHO:
へえ…。曲順は「Monkey Forest」のほうが先だけど、このアルバムは「Dawn of Asia」に始まり、「Monkey Forest」に終わるんですね(笑)。

久石:
そう。

SHIHO:
よく聞かれることかもしれませんが、創作のアイディアがなくなるかもしれない不安って、久石さんんいも浮かんだりしますか?

久石:
しょっちゅう(笑)。あ、もう今日これで終わりかなって。1時間に1回は考えますよ。もうダメだぁって(笑)。

SHIHO:
い、1時間に1回? 1日に何度も感じるっていうことですか?

久石:
そういうこともありますね。曲をつくっている時じゃなくても。でも、ちょっといいのが浮かんで、バッと書けるじゃない。そうすると「すごい…。やっぱりおれって天才」って(笑)。

SHIHO:
極端ですね。そんなものなんですかね(笑)。

久石:
そんなものだと思います(笑)。最近、インプットする時間があまり多くないんですよ。アウトプット、つまり出しっぱなしだから(笑)。少し気になるよね。

SHIHO:
久石さんにとっての、ベストなインプットの方法って?

久石:
暇なこと(笑)。年に1か月とか2か月とか、暇な時間があったほうがいい。

SHIHO:
へえ。

久石:
仕事がないと焦るじゃない。おれはこのまま終わっちゃうんじゃないかって。それで2か月ぐらい暮らしてごらん。人生変わりますよ。真剣になる。

 

「久石譲」の名前をもらったのは…!?

SHIHO:
でも…ここ最近、暇な時なんてありました?

久石:
去年の1、2月は入っていた映画が飛んだので、2か月間、毎日CD聴いて、本読んで、映画見て…。仕事ばかりで切れてしまっていた友達を片っ端から誘って、飲んで、友達活動にいそしむと(笑)。そうしているうちに、やらないといけないことが見えてくるの。だから、何もしない1か月ってあったほうがいいと思う。ヨーロッパの人たちが…。

SHIHO:
あ、休暇に1か月ぐらい行きますよね。

久石:
ね。あれってすごく大事だと思う。休みなんて、取ることないでしょ?

SHIHO:
私、結構取りますよ。週に1日半と、2か月に1回は1週間休むようにしているんです。

久石:
あ、いいなぁ(笑)。

SHIHO:
でも…その時間をボーッと過ごすのか、目的をもって過ごすかで違ってきませんか?

久石:
いや…。ボーッと…。

SHIHO:
するのもいいのかなぁ。私あんまりボーッとできない性分なんです。

久石:
あ、そういうタイプ?(笑)

SHIHO:
ハイ、まさに(笑)。オフの日でもスケジュールはすごいですよ。午前中は何をして、お昼は何をして、午後は誰に会って何をする、みたいな。1分1秒も無駄にしない(笑)。

久石:
アハハハ。それじゃ全然オフにならないじゃない(笑)。

SHIHO:
それを最近やっと変えたんです。1日中家にいることが、やっとできるようになって、悪くはないな、と(笑)。本を読んだり、料理をしてみたり。

久石:
料理はいいですよね。僕はあまりやらないけど、曲ってああいう瞬間に浮かびやすいんです。

SHIHO:
料理をやらない久石さんは、どういう時に曲が浮かぶんですか?

久石:
トイレ、風呂場、ベッドの上(笑)。起き抜けや、夜寝ようとしている時とか。「つくろう、つくろう」としている時っよりも、フッとした時に浮かぶんです。いちばん多いのは、仕事場に行くまでの車の中ですね。そのへんの紙やメモ帳にバッと五線を引いて、頭の中に浮かんだ2小節とかを音符で残す。これがいちばん曲になりやすいんだよね。

SHIHO:
そういえば…久石さんのお茶目な話を聞きました。音楽で表舞台に立つなら、名前をそれなりのものにしないといけないって…。クインシー・ジョーンズをもじったんですって?

久石:
くいし・じょー、久石譲(笑)。スタジオのバイトをしている時に、尺八吹いてる友人と名前を変えようかなぁって飲み屋で話してて(笑)。そいつが「映画音楽とかやってる好きな作曲家、いない?」って言うから、『スパイ大作戦』の音楽をやってたラロ・シフリンって言ったの。それを漢字に当てはめたら、「裸」に風呂の「呂」…。語呂が悪いからこれはやめよう!って(笑)。

SHIHO:
アハハハ。

久石:
で、結局さほど心酔していたわけではないけれど、ブラックコンテンポラリーでは気に入っていたクインシー・ジョーンズになって。で、久石譲。「いいんじゃない? これで!」って(笑)。音大3年生の時に、友達と飲みながらいい名前はないかあなとノリで決めたんです(笑)。

SHIHO:
カンタ~ン(笑)。

久石:
ね(笑)。

SHIHO:
子供の頃からクラシック音楽を聴いていたんですか?

久石:
子供の頃は、なんでも聴きました。絶えず歌っているか、楽器を弾いている子供だったので、「職業」として音楽を選んだつもりはなく、やるのが当たり前だと思っていましたね。それ以外のことは考えたことがないぐらい。

SHIHO:
親の職業とは関係なく?

久石:
まったく。父親は高校の化学の教師でしたから。

SHIHO:
やっぱり好きなことを伸ばしてあげたほうがいいんですね。

久石:
大学を卒業してからは、24歳から33歳ぐらいまで、仕事はなんでもやりましたよ。テレビや記録映画の音楽、レコーディングのアレンジ…。アレンジはすごい量をやりましたね。あまり知られていないけど、「ダンスはうまく踊れない」「飾りじゃないのよ涙は」が入ってる井上陽水さんのアルバム『9.5カラット』は、僕がアレンジしているんです。

SHIHO:
でも、その後、幅広いお仕事のオファーが来るようになって…。それがすごいですよね。すべて自分からアプローチして勝ち取ったんですか?

久石:
いや。この仕事は絶対に取るぞと決めると、来るの。なんの根拠もないのに、友人とかんいは次はこれをやる!とは言いますよね。だから、自分で「こうなりたい」と思ったら、口に出して言ったほうがいいって。

SHIHO:
ホントですね。そういえば、また映画音楽をやられているとか…?

久石:
中国の有名な役者さんで、監督もやってるチャン・ウェンという人の映画音楽を手がけています。あと、ペ・ヨンジュさんが出る韓国ドラマの音楽をやるので、韓国に打ち合わせに行ったり。

SHIHO:
「アジアの風が吹いてる」って予測したとおり、ビュービューに吹いてますねぇ(笑)。

久石:
映画でもなんでも、いい作品に出合うには自分のテリトリーを広げないと。

SHIHO:
そっか…。私も頑張ります。今日はどうもありがとうございました!

久石:
こちらこそ、楽しかったです。

(「LUCi ルーシィ 2007年4月号」より)

 

 

 

Disc. クミコ 『十年/人生のメリーゴーランド』

2021年8月25日 CDS発売 COCA-17909

 

中島みゆき書き下ろし楽曲『十年』、映画『ハウルの動く城』テーマ曲に詞をのせた『人生のメリーゴーランド』、クミコが歌う大人のポップス2曲収録

 

 

2007年のアルバム『十年~70年代の歌たち~』の収録曲として発表した中島みゆきの書下ろしによる『十年』と、2006年のアルバム『わが麗しき恋物語』の収録曲として発表したジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲『人生のメリーゴーランド』。

「『十年』は、中島みゆきさんが書き下ろしてくださったのに、シングルにしないままおいてしまっていたし、『人生のメリーゴーランド』はせっかく宮崎駿監督にお許しをいただいて詞をつけたのに、ボーナストラックのようにアルバムに収録してしまっていたので、どちらも申し訳ないなと(笑)。今までもったいない扱いをしてしまっていた2曲を新録でリリースしました」

~(中略)~

一方『人生のメリーゴーランド』は、ジブリ映画『ハウルの動く城』の主題歌。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメントを提供することになり、映画を鑑賞したところ、スクリーンに響く楽曲に大感動。自ら監督に日本語詞をつけて歌わせてほしいと依頼し、快諾のもと実現した一曲だ。

アルバム収録時は、アレンジはバンド的なカルテットだったが、今回は、『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』などジブリ作品の楽曲を手がけ、映画『64-ロクヨン-前編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を2年連続受賞した村松崇継がリアレンジ。詩人で作詞家の覚和歌子の詞の世界観と、村松らしいシンフォニックなアレンジが一体となり、スケール感のある作品に仕上がっている。

「村松さんには、映画を観て私が感動した、どこの国かわからないけれど、ヨーロッパの匂いのするワルツを再現するようなアレンジにしてほしいとお願いしました。レコーディングでは難しい命題がいろいろあって、『村松、歌いにくいぞーーー!』って(笑)苦労したんですけど、でも苦労がないとつまらないし、苦労した分、愛着も湧いています」

出典:うたびと より一部抜粋
https://www.utabito.jp/interview/8744/

 

 

 

歌手のクミコが、2007年のアルバム『十年~70年代の歌たち~』の収録曲として発表した「十年」と、06年のアルバム『わが麗しき恋物語』の収録曲として発表した「人生のメリーゴーランド」の2曲を新たに録音し、シングルとして8月25日に発売。

2曲ともクミコファンからシングル化を待ち望む声が多かった楽曲。10年間片想いし続ける女性の気持ちをつづった「十年」は、日本在住のブラジル人プロデューサーRenato Iwai氏を起用し、ブラジルの一流ミュージシャンが集結。ブラジルと日本をリモートで結んでのレコーディングが実現した。

「十年は長い月日か 十年は短い日々か」と歌詞にあるように、クミコは2011年3月11日に石巻で被災し、その後、両親の介護、そしてコロナ禍での音楽生活と、人生は順風満帆にはいかず、さまざまな出来事に苛まれた。そんな思い通りにならない人生の悲哀をラブソングに込めた1曲として仕上がっている。

クミコは「思えばこの十年は東日本大震災からの十年でもあり、その時『石巻』という甚大な被害を受けた街に、私はコンサートのために伺っていました。音楽は、歌は、いったい何の役にたつのだろうか。この問いは2021年の今も、コロナ禍の中で繰り返される問いになりました。『十年』は片恋の歌です。思いどおりにならない片思いの歌です。でも最後に主人公は『明日』への希望を持ちます」と楽曲について語っている。

一方「人生のメリーゴーランド」は、ジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲として制作された楽曲。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメント提供することとなり、映画を鑑賞したクミコが楽曲に惚れ込み、宮崎監督に日本語詞をつけて歌わせて欲しいと依頼した。監督の快諾のもと、詩人で作詞家の覚和歌子によって詞がつけられ、2006年に「人生のメリーゴーランド」として発表された。今回、村松崇継氏がリアレンジを担当している。

この曲を歌いたいと宮崎監督に願い出ると、監督は「クミコさんの『人生のメリーゴーランド』にしてください」は快諾してくれたと振り返るクミコ。「監督とのご縁をつないでくれた覚和歌子さん(「いつも何度でも」の作詞者)の言葉で2006年に出来上がったこの歌は、その年に発表したベストアルバムの中に入りました。この歌の主人公もまた思い通りにならない人生を生きていて、やはり最後に『明日』を見ます」と、「十年」と共通のテーマがあるようだ。

(WEBニュースより)

 

 

 

1.十年
作詞・作曲:中島みゆき 編曲:Renato Iwai
2.人生のメリーゴーランド
作詞:覚和歌子 作曲:久石譲 編曲:村松崇継
3.十年 (Instrumental)
4.人生のメリーゴーランド (Instrumental)

 

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