Info. 2020/09/18 [TV] NHK Eテレ ベートーベン250開幕特番「今こそベートーベン!」 久石譲出演 【9/19 Update!!】

Posted on 2020/09/02

苦しみを乗り越え、喜びへ──歓喜への扉を開こう。
今だからこそ触れたいベートーベンの名曲や人生を、年末までほぼ毎週、お届けします。

ベートーベン生誕250年の2020年、NHKでは「ベートーベン250」プロジェクトとして、ベートーベンの名曲や人生をさまざまな形で放送していきます。 “Info. 2020/09/18 [TV] NHK Eテレ ベートーベン250開幕特番「今こそベートーベン!」 久石譲出演 【9/19 Update!!】” の続きを読む

Info. 2020/09/17 久石譲「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 3」Music Video公開

Posted on 2020/09/17

久石譲オフィシャルチャンネルに、新しいミュージックビデオ「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 3」が公開されました。

珠玉のジブリ音楽たちをコンパイルした約1時間プレイリストになっています。とりわけ『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』からのセレクトが中心になっています。ぜひご覧ください。 “Info. 2020/09/17 久石譲「Joe Hisaishi : Studio Ghibli Experience, Part 3」Music Video公開” の続きを読む

Disc. 久石譲 『Will be the wind』 *Unreleased

2020年9月15日 動画公開

 

LEXUS(レクサス中国市場向けプロモーション)
テーマ曲「Will be the wind」

中国国内メディアにて一斉に動画公開

 

 

叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。オーケストラの音源はシンセサイザーによる割合も大きいように聴こえる。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

エンターテインメントとしても、とても聴きやすい音楽になっているけれど、「ミュージック・フューチャー・コンサートシリーズ」などで、この曲をひとつの楽章として置き、多楽章な作品へと発展する可能性をも感じる、久石譲の今の作風を表した楽曲になっている。

オリジナルはシンセサイザー音源になっている。Covid-19のなか生楽器を集めてのセッション・レコーディングができない時期だったためと思われる。久石譲らしい完成度の高いデモ音源がそのまま納品されたレアケースともとれる。

 

 

公開動画について

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートにて初演された。

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

 

 

Info. 2020/09/15 久石譲新曲 LEXUS テーマ曲「Will be the wind」(中国)動画公開

Posted on 2020/09/15

久石譲がLEXUSのために書き下ろしたテーマ曲「Will be the wind」が、中国市場向けプロモーション動画として公開されました。

スマートでハイブリットな楽曲です。フル動画&フル音源(約4分)として微博(Weibo)はじめ各メディアで一斉公開されました。

ぜひご覧ください。 “Info. 2020/09/15 久石譲新曲 LEXUS テーマ曲「Will be the wind」(中国)動画公開” の続きを読む

Info. 2020/06/28 [TV] NHKBS1「家ピアノ」久石譲出演 【9/4 Update!!】

Posted on 2020/06/22

NHKの人気BS番組「駅ピアノ」「空港ピアノ」の番外編「家ピアノ」に久石が出演いたします。
コンサートの自粛が続くなか、音楽を愛する著名人が自宅のピアノで演奏を披露!
久石譲、千住明、東儀秀樹ら世界的音楽家から俳優、お笑い芸人まで!どんな曲を奏でる? “Info. 2020/06/28 [TV] NHKBS1「家ピアノ」久石譲出演 【9/4 Update!!】” の続きを読む

Info. 2020/08/26 [書籍] 「ユリイカ2020年9月臨時増刊号 総特集=大林宣彦」久石譲 寄稿

Posted on 2020/08/26

『ユリイカ』の大林宣彦監督の追悼特集へ久石が寄稿しました。

ユリイカ2020年9月臨時増刊号 総特集=大林宣彦
発売日:2020年8月26日
定価:本体1,800円+税 “Info. 2020/08/26 [書籍] 「ユリイカ2020年9月臨時増刊号 総特集=大林宣彦」久石譲 寄稿” の続きを読む

Blog. 「VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253」久石譲×Cocomi 特別対談 内容

Posted on 2020/08/25

雑誌「VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253」に久石譲とCocomiの特別対談が掲載されました。

 

 

VOGUE CHANGE PRESENTS PART.2

久石譲とCocomi──異世代が語る、「音楽が奏でる果てしない力」。

「物心ついた頃からジブリ音楽に触れ、久石さんの音楽は常に私の心にある」──作曲だけでなく、指揮や編曲も行う世界的音楽家・久石譲についてこう述べたのは、音楽家の卵でありファッションアイコンとしても皆を魅了するCocomiだ。ヴォーグ・ウェブサイトで連載中の「Cocomiが学ぶ」企画のスピンオフとして、今回、憧れのマエストロとの初対面が実現。音楽が与えるさまざまな力について語り合った。

 

ファッションアイコンとして天性のカリスマ性を見せつつ、フルート奏者としての顔も持つCocomi。そんな彼女が「最も会ってみたい方の一人」と対談を熱望していたのが、宮崎駿監督や北野武監督の映画音楽などで知られる作曲家・久石譲だ。世代は異なれど、ともに音楽に生きる二人が語る「音楽の力」とは──。

Cocomi:
私は、小さい頃からジブリの音楽に囲まれて育ったので、久石さんの音楽は常にともにあるものでした。実際、スマホのプレイリストの中には、何曲も久石さんの作品が入っています。とにかく、ずっとお会いしてみたかった憧れの方なので、今日はすごく緊張しています……。

久石:
Cocomiさんは、現在、音楽大学の1年生でフルートを専攻されているそうですね。僕は大学生くらいの方と話す機会があまりないので、今日は若い世代の音楽家たちが、音楽とどう向き合っているのかを聞かせてもらいたいです。Cocomiさんの場合、小さいときから音楽は身近だったと思いますが、始めたきっかけはなんでしたか?

Cocomi:
3歳のときにジブリ映画の『耳をすませば』を観て、登場人物の一人であるヴァイオリン職人を目指す男の子・天沢聖司さんに憧れてしまって。それがきっかけでヴァイオリンを始めました。

久石:
あ、最初はヴァイオリンをやってたんですね。実は僕も4歳から習ってたんです。

Cocomi:
え!そうなんですね。

久石:
でも、レッスンが全然好きじゃなくて、途中でやめちゃいましたけど(笑)。フルートに転向したのはなぜだったんですか?

Cocomi:
音楽教室に通っているとき、隣の部屋で年上のお姉さんがフルートを演奏しているのを見て、「きれいな楽器だな」と関心を抱いたのがきっかけです。その後、初めてフルートに触ったら、楽器自体がすごく手になじんで。「あぁ、これだ」って、しっくりきました。

久石:
「しっくりきた」という感覚はよくわかります。自分が「いいな」と思って選んだ楽器こそ、長く続けられるものだと思います。

 

中学時代から、作曲家以外の選択肢はなかった。

Cocomi:
久石さんは、作曲家になろうと思い始めたのはいつ頃だったんでしょうか?

久石:
中学生のときですね。

Cocomi:
かなり早い段階で、将来の道を決めていらしたんですね。

久石:
中学校のとき、ブラスバンドでトランペットを担当していたんです。自分で言うのもなんですが、結構演奏はうまくて(笑)。ただ、演奏も楽しいけど、知っている曲を毎晩譜面に書いて、ブラスバンド用にアレンジして、それを翌日みんなに演奏してもらうことのほうが、すごくうれしかった。それで作曲家になろうと思ったんです。

Cocomi:
中学生でそんなアレンジをしていたなんて、すごいですね……。

久石:
だから、作曲家以外の選択肢はなかったんです。中学時代まではクラシックがベースでしたが、高校時代からは、カールハインツ・シュトックハウゼンやピエール・ブーレーズ、ヤニス・クセナキス、日本人なら黛敏郎さんや武満徹さんといった前衛音楽ばかり聴くようになったんですね。それで、「現代音楽の作曲家になろう」と大学に進学したら、大学2年生のとき、知人の評論家の家で、初めてミニマル・ミュージックというものに出会ったんですよ。

Cocomi:
同じパターンの音を反復しながら、少しずつ変えていく現代音楽ですよね。アメリカ人のスティーブ・ライヒさんの楽曲などは、私も聴いたことがあります。

久石:
そうそう。僕が最初に聴いたのは、テリー・ライリーの「A Rainbow in Curved Air」という7拍子の曲だったんです。

Cocomi:
私も聴いたことがあります!

久石:
初めて聴いたとき、「こんな音楽があるのか」と、雷に打たれたようなショックを受けて。以降、20代はずっとミニマル・ミュージックの作曲をやっていました。

Cocomi:
その後、映画音楽の道へと進まれたのはなぜですか?

久石:
30歳のときに、「これ以上続けても、不毛だな」って思っちゃったんですよ。当時の現代音楽は理論と理屈にがんじがらめで、僕はそれがすごく嫌で。それで現代音楽とは決別し、エンターテインメントの世界に移りました。そして83年、僕が33歳のとき、宮崎駿さんから『風の谷のナウシカ』の映画音楽のお話をいただいたんですよ。

Cocomi:
ジブリ音楽などを多数手がける久石さんにとって、映画音楽とはどんな存在ですか? 私は、映画音楽のように、イメージや情景を描写するような物語性を感じる音楽が大好きなのですが。

久石:
映画のような物語につける音楽は、自分一人で作曲するのとは大きく違いますよね。一番の違いは、監督たちにインスパイアされ、化学反応が起きて、「自分一人だったら書かなかっただろう」と思うような曲が生まれる点。つまり、コラボレーションですよね。映画音楽は、自分の可能性を広げてくれました。

 

クラシック音楽は、古典だけど古典芸能じゃない。

Cocomi:
感覚的には、いろんな楽器で合奏するアンサンブルに近いのかもしれませんね。実は、私はアンサンブルで演奏するのが好きなんです。機会があれば、よく友達を誘って、いろんな楽器と合奏するようにしています。

久石:
それはいいことですね! アンサンブルで大切なのは、「人の音を聴く」ということだから。たとえば、同じ管楽器でも、音の出し方は違うから、何も考えずに一緒に音を出そうとすると、タイミングがどうしてもずれてしまう。合わせるためには、相手の音をしっかり聴いて、微調整を繰り返さないといけませんよね。そういう経験を重ねると、確実にご自身の音楽性が伸びていくと思いますよ。

Cocomi:
楽器によって、起きる反応が違うのがおもしろいです。個人的には、特にオーボエと一緒に合わせるのが楽しいですね。

久石:
ぜひ、オーボエとたくさん合奏してください! 僕自身もオーケストラの指揮をするとき、フルートとオーボエの呼吸がどのくらい合うかで、オーケストラの完成度が決まると感じているので。ちなみに、アンサンブルを演奏するならば、伝統を重視するドイツ音楽と、より自由度の高いフランス音楽と、どちらが好きですか?

Cocomi:
悩ましいですね。ドイツとフランスは、例えるなら盆栽と森のような違いがありますよね。一人ひとりの風がわかって、細かく微調整できる点では、私自身はフランスのほうが好きです。ただ、ドイツもかっこいいと思います。

久石:
「ドイツもかっこいい」って言えるのがかっこいいね(笑)。たしかにドイツは全体がカチッと決められていて、個々の表現というよりは、全体の中の一人として演奏する感じになりますからね。

Cocomi:
久石さんは、ドイツとフランスのどちらがお好きなんですか?

久石:
僕はどちらかというと、ドイツのほうが好きかな。少し変な言い方だけど、クラシック音楽は古典だけど、古典芸能ではないんです。古いものを型通りに続けるのが古典芸能だけど、クラシックの解釈は時代とともに変わる。たとえば、日本では「ブラームスは重い」と言われるけど、それは日本で昔から重々しい演奏をするからこそです。いま、僕がやっているのは、ベートーヴェンやブラームスを現代風に演奏すること。テンポが速いので「ロックのようだ」とも言われますが、誰かが新しいアプローチをしないと、クラシックは変わらない。だからこそ、より理論的に構築できるドイツのほうが好きなんです。

Cocomi:
私のように、まだまだ未熟な「音楽家の卵の卵」のような人間が言うのもおこがましいのですが、ときにスランプに陥ることもあります。久石さんは壁にぶつかったとき、どう対処されていますか?

久石:
作曲って、精神衛生上よい仕事ではないんですよ。「最低だ」と落ち込む日もあれば、「今日は調子がいいな」という日もある。毎日、その繰り返しなんです。

Cocomi:
久石さんのような方でも、そんなことが起こるんですね。

久石:
しかもそれが一日の中で何度も起きることがあるんです。先日も、今年9月にフランスのパリとストラスブールでやる予定だったシンフォニーに取り掛かっていたんです。4楽章中3楽章までは順調だったのが、途中から何一つ音符が浮かんでこなくなってしまって。そうすると、できない言い訳を探すんです。「書けないのはコンサートがパンデミックのために延期になったせいだ」とかね。

Cocomi:
私もまったく同じです。気持ちが乗らないときは、ついできない理由を探してしまいます。

久石:
結局、それが一番の問題なんですよね。その気持ちと戦って、自分をうまくなだめていかないといけない。多分、これを繰り返すことが苦しくなったときが、僕が作曲をやめるときだと思っています。しかも、この悩みって、実は僕が大学生の頃から変わってないんですよ。約50年間同じことを繰り返し、全然進歩していないんです(笑)。

Cocomi:
大学生の頃から……。まさに私も練習しなきゃいけないのに、「あ! 今日一回もやってないから、ゲームやろう」と逃避してしまいます。

久石:
すごくわかる! 僕も「一本くらい海外ドラマを観ようかな」と逃避してしまいます(笑)。

Cocomi:
何をご覧になるんですか?

久石:
いろいろ観ますよ。最近は『ウォーキング・デッド』をシーズン1からシーズン10まで、一気観しました。映像は昔から好きだから、映画もテレビもよく観ますね。Cocomiさんはゲームをやるんでしたっけ?

Cocomi:
私はアニメも大好きですね。ジブリ作品はもちろん、最近話題になっていた『鬼滅の刃』まで、割とジャンルは幅広いです。

久石:
自分の専門外でも、いろいろなものに触れたほうがいいですよ。僕も作曲は毎日続けていますが、いつも「何かもう一個、別のことをやれないか」と思っているんです。だから、指揮者をやったり、映画の監督をやったりしている。メインの作曲ともう一つ何か別のことを一緒にやることで、自分のバランスを保っているんです。

Cocomi:
たしかにそうですね。「もう何もしたくない」とスランプに陥った後、放心状態になって、普段は自分が聴かないような音楽を聴いたり、音楽以外のコンテンツに触れたりして、いろいろとイメージを取り入れると、自然にモチベーションが回復していくことも多いです。

久石:
Cocomiさんもフルート吹きながら、もう一つ別のことをやってみてもいいかもしれませんね。あるいは、今日お話をしてみて、しっかりした方だという印象を受けたので、海外に行かれてみてはどうでしょうか?

Cocomi:
短期で学びに行ったことはあるのですが、まだ外国の演奏家の方と一緒に演奏をしたことはないんです。

久石:
音楽は世界言語だから、海外に行くのは客観的に日本を見るいいチャンスかもしれません。実はこの数年間、僕のコンサートの半数以上は海外公演です。外国人と一緒にやると思い通りにいかないことも多いんですが、日本でやるのとは違ったものが得られる。その経験が、自分の音楽のスケールを大きくしてくれると感じます。

 

対談の終盤、「もし、ご迷惑でなければ……」とCocomiが取り出したのは、愛用のフルートと、自身で手書きした久石譲の楽曲「Princess Mononoke」の譜面。「ご本人を前に演奏するなんて、震えてしまいます」と言いながらも、ひとたび彼女がフルートを構えると空気は一変。次の瞬間、スタジオ内に凛とした旋律が響き渡り、誰もがその音色に聴き入った。

演奏直後、真剣な眼差しで拍手をしながら、久石はこう呟いた。「すばらしい。僕はね、演奏家に会うと、毎回『何を一番大切にしていますか?』と必ず聞くんです。そうすると、みんな『自分の音』と答える。今日の演奏も、ご自分の音をすごく大切にしているのが伝わってくる、しっかりした良い音でした。今日は楽しかったです。いつか一緒に演奏しましょう」

その言葉を聞いた瞬間、無言のまま目もとを手で押さえたCocomi。憧れ続けた人物からかけられた一言に、彼女が何を思ったか。頬をつたう涙がすべてを物語っていた──。日本を代表する音楽家と若き才能の奇跡のコラボを私たちが目にする日が、いまから待ち遠しい。

 

TALKING MUSIC

自分の専門外でも、いろいろなものに触れたほうがいい。僕は、作曲ともう一つ別のことを常にやることで、バランスを保っているんです。
Joe Hisaishi

アンサンブルで演奏するのが好き。楽器によって、起きる反応が違うのがおもしろいんです。
Cocomi

(VOGUE JAPAN 2020年9月号 No.253より)

 

 

from 公式サイト:VOGUE JAPAN|9月号
https://www.vogue.co.jp/magazine/2020-9

 

from 撮影チーム公式SNS

 

 

 

Blog. 「もののけ姫 サウンドトラック」(LP・2020) 新ライナーノーツより

Posted on 2020/08/22

2020年7月22日、映画公開当時はLPでは発売されていなかった「もののけ姫」のイメージアルバム、サウンドトラックが、あらたにマスタリングを施し、ジャケットも新しい絵柄にして発売されました。サウンドトラック盤には、前島秀国氏による新ライナーノーツが書き下ろされています。時間を経てとても具体的かつ貴重な解説になっています。

 

 

宮崎駿監督と久石譲の6本目のコラボレーションとなった『もののけ姫』のスコアは、最初の音楽打ち合わせからサントラ完成まで、実に1年半もの歳月を要した大作である。そのサウンドトラック盤を改めて聴き直してみると、久石の音楽が奏でる壮絶なドラマ表現、すなわち不条理な”運命”の中で葛藤する者たちのドラマ表現に深い感銘を受けるであろう。人類が地球的な規模で試練を突きつけられている2020年の現在ならば、なおさらである。

1995年11月下旬、宮崎監督との第1回音楽打ち合わせに参加した久石は、「精神的世界での危機感というテーマを踏まえると、これは『風の谷のナウシカ』以来の構え方で臨まなければいけない作品」と覚悟を決め、宮崎監督が深く尊敬していた司馬遼太郎の著作を読み漁り始めた。その後、久石は宮崎監督の世界観に基づいたイメージアルバムを録音し(本編公開の1年前にあたる1996年7月にリリース)、さらに改めて本編のための音楽を仕上げていく形でスコア全体を完成させている。

まず、サウンド的な面に注目してみると、『もののけ姫』のスコアはいくつかの対立的な要素あるいは音楽語法を意識的に衝突させ、共存させ、融合させることで構成されている。例を挙げると、西洋音楽(クラシック)と民族音楽(エスニック)、伝統的なオーケストラと現代的なシンセサイザー、器楽(インストゥルメンタル)と声楽(ヴォーカル)、あるいは調性音楽的な要素と無調音楽的な要素といった具合だ。このような並置は、物語の中で描かれる対立的な要素──生と死、文明と自然、男性社会と女性社会など──を音楽で強調していると解釈することも可能である。

しかしながら、宮崎監督がこの作品で描いた世界観は、単純な二項対立あるいは敵対関係では描き切れない複雑な要素を抱えている。つまり、久石が言うところの「精神的世界での危機感というテーマ」だ。それを表現するため、久石は以下の3つの音楽テーマを軸にしながらスコア全体を構成している。

《アシタカせっ記》
「『もののけ姫』という映画は、叙情的(リリック)というより、一大叙事詩(エピック)と呼ぶに相応しいスケールを持った作品ですから、それだけの風格に見合ったメロディが絶対に必要。その風格を表現するため、1ヶ月半くらい悩んで書いたのが《アシタカせっ記》です」

あたかも古代の詩人が雄大な叙事詩を語り始めるような荘重な面持ちで奏でられる《アシタカせっ記》は、本編の中で主人公アシタカを象徴するテーマとして何度も登場することになる。このテーマが強く印象に残るのは、単に作品全体の風格やスケールの大きさを表現しているだけでなく、アシタカが背負った悲壮な運命──後述のタタリ神との死闘でもたらされる死の呪い──を内包しているからだ。

物語の中でタタラ場に着いたアシタカは、村の人々を率いるエボシ御前に案内され、石火矢の製造に携わる病者たちと対面する。ハープと琵琶を織り交ぜたような幻想的なシンセサイザーで奏でられる《エボシ御前》の最後、コーラングレ(イングリッシュホルン)、オーボエ、アルトフルートが《アシタカせっ記》のテーマをしみじみと演奏するが、その場面で病者の長が語る本編のセリフを今一度思い出していただきたい。

「お若い方…私も呪われた身ゆえ、あなたの怒りや悲しみはよーく判る。(中略)生きることは、まことに苦しくつらい…世を呪い、人を呪い、それでも生きたい…」(病者の長のセリフ)。

さらに《アシタカせっ記》を変奏した《東から来た少年》が流れてくるシーンの後半部分、本編では次のようなアシタカのセリフを耳にすることが出来るであろう。

「みんな見ろ。これが身の内にすくう憎しみと恨みの姿だ。肉を腐らせ、死を呼び寄せる呪いだ。これ以上、憎しみに身を委ねるな」(アシタカのセリフ)。

つまり久石は《アシタカせっ記》のテーマをアシタカと病者の長に共有させることで、呪いを背負いつつも生きていかなくてはいけない人間の業──”運命”と言ってもいい──を暗に表現しているのである。

《タタリ神》
「イメージアルバムの段階で、最初に書いた曲です。映画として、いきなりあのシーンから始まるなんて、普通は絶対に思いつかない導入の仕方でしょう? まず。ここを作曲しないと次の曲に行けない、という気持ちが強くて」

タタリ神とアシタカが死闘を繰り広げるシーンで流れる《タタリ神》のテーマは、無調音楽のように敢えてメロディアスな要素を排除することで、タタリ神の持つ凶暴性を見事に表現している。だが、それ以上に注目すべきは、このテーマは祭囃子を思わせるリズム・セクションで伴奏されている点だろう。祭囃子は、タタリ神にかけられた呪い(人間に対する憎しみに由来する)が何らかの形で鎮めなければならないということを暗示している。つまり立場は異なれど、タタリ神もアシタカもそれぞれ呪いを抱えた存在なのだ。音楽語法的には《アシタカせっ記》と全く異なるが、実はこのテーマも死の呪いに起因する”運命”を表しているのである。

《もののけ姫》
もののけ姫すなわちサンのテーマである《もののけ姫》は、宮崎監督が第1回音楽打ち合わせの後にイメージを文章化した音楽メモを、歌詞のベースにする形で作曲されている。この主題歌を忘れ難くしているのは、なんと言ってもヴォーカルに起用されたカウンターテナー、米良美一の存在感であろう。

スタジオジブリへの出勤途中、カーラジオを流していた宮崎監督は米良のデビュー・アルバム『母の唄~日本歌曲集』を偶然耳にし、米良の起用を決めた。メイキング映像『「もののけ姫」はこうして生まれた。』で描かれているように、当初、米良は宮崎監督の歌詞をどのような視点で歌うべきか悩み、歌唱表現に苦しんだ。しかしながら、1997年1月に設けられた主題歌録音のセッションにおいて、米良は宮崎監督から「(この歌詞は)アシタカのサンへの気持ちを歌っている」と直々に説明を受け、ようやく納得のいく解決法を見出した。その結果が、本盤に聴かれる米良の歌唱である。

のちに久石はこの主題歌録音を振り返り、次のように筆者に語っている。

「米良さんはカウンターテナーの中でも、ちょっと変わった存在だと思うんです。独特の”運命”のようなものを表出しているような声が、この作品には合っていたんじゃないかな。宮崎監督はそういう微妙な差をとても深く理解される人ですから、普通のカウンターテナーだったらOKを出さなかったと思います。実際に米良さんで主題歌を録音してみて、宮崎さんが『このカウンターテナーで行こう』と言った理由がよくわかりました」

つまり、このテーマにおいても、米良というフィルターを通して”運命”が込められているのである。

もうひとつ、この主題歌で特筆しておきたいのは、久石の絶妙なオーケストレーションによって、まさに”霊妙”としか呼びようのない独特の浮遊感と神秘性を表現している点だ。

イメージアルバムの録音段階で、久石はこの楽曲の伴奏部分にいくつかの邦楽器を用いていた。

「ところが宮崎監督が『邦楽器は外してください』とおっしゃったので、『全部外しまします』と言って外したフリをしたんだけど、実は外していない(笑)。『♪もののけ達だけ~』という箇所の伴奏では、上の旋律線を南米のケーナという楽器が演奏していますが、その3度下の旋律線を篳篥(ひちりき)が演奏しています。単にケーナで2つ(の旋律線を)重ねたら、音楽的にはノホホンとしてしまうのですが、チャルメラ系の篳篥を重ねると不思議な浮遊感が出てくるんです」

しかも、その不思議な浮遊感は、シンセサイザーの前奏が加わることでいっそうの神秘性を獲得し、いにしえの日本を舞台にしながらも時代性や地域性に限定されない、神話的な広がりを生み出すことに成功している。西洋のクラシック音楽だけでなく、エスニックなワールド・ミュージックの語法にも精通する久石ならではの、見事な作曲アプローチと言えるだろう。

以上見てきたように、久石は《アシタカせっ記》《タタリ神》《もののけ姫》の3つのテーマによって、それぞれが抱える”運命”を三者三様に表現している。通常の映画作品や映画音楽なら、3つのテーマのうちのどれかひとつが優勢になることで物語に終止符が打たれるが、そのような安易な解決法では『もののけ姫』という作品が提示している問題提起を裏切ることになってしまう。それぞれが”運命”を抱えて対立し、闘う以上、ひとりの勝者がもたらす単純なハッピーエンドなどあり得ないからだ。

ところが、宮崎監督と久石は物語の最後において、久石のピアノ・ソロを文字通り花咲かせることで、人間と自然の共生への希望を音楽に託すという驚くべき解決法を採った。それが、本編の最後にコーダとして流れてくる《アシタカとサン》である。

「宮崎監督が『すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現出来た』と話されていたことが、とても印象に残っています」

別の言い方をすれば、久石のピアノが希望を奏でる《アシタカとサン》は、呪いの”運命”に終止符を打つ音楽である。そのような結末を迎える『もののけ姫』のスコアは、もはや映画音楽という範疇を超え、さまざまな”運命”の中で葛藤する者たちすべてに希望をもたらす、見事な普遍性を獲得した音楽ということが出来るだろう。

本作のサントラ録音で常設オーケストラ(東京シティ・フィル)を起用し、オーケストラならではの重厚な表現力を十全に引き出しながら、同時に80年代から培ってきたシンセサイザーの夢幻的なサウンドも投入し、文字通り総力戦的な作曲で久石が完成させた『もののけ姫』のサントラは、彼の音楽性そのものを劇的に飛躍させ、その後の彼の音楽活動の展開にも大きな影響を与えることになった。特に本作によって初めて試みられた「スタンダードなオーケストラにはない要素を導入しながら、いかに新しいサウンドを生み出していくか」という実験は、宮崎監督との次作『千と千尋の神隠し』において、さらに押し進められていくことになるだろう。

前島秀国 Hidekuni Maejima サウンド&ヴィジュアル・ライター
2020/5/12

(LPライナーノーツより)

 

 

 

 

もののけ姫/サウンドトラック

品番:TIJA-10025
価格:¥4,800+税
※2枚組ダブルジャケット
(CD発売日1997.7.2)

音楽:久石譲 全33曲

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のフルオーケストラによる、映画版サントラ。
主題歌「もののけ姫」(歌/米良美一)も収録。

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Kikiʼs Delivery Service”』

2020年8月19日 CD発売 UMCK-1665

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「魔女の宅急便」

Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”
Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra

魔女の宅急便がオーケストラ作品に。
世界初演の熱気そのままに音源化。

(CD帯より)

 

 

商品紹介

2019年に初演された「World Dreams」と「魔女の宅急便」の2大組曲を軸に久石メロディを堪能できるW.D.O.2019コンサートライヴ盤。

●Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”(「魔女の宅急便」組曲)
1989年公開の宮崎駿監督作品『魔女の宅急便』、初となる交響組曲。軽めのヨーロピアンサウンドを目指して書かれていたサウンドトラックを、久石譲自身が映画の世界観を追体験できる組曲に仕立て直した。

●[Woman] for Piano Harp, Percussion and Strings
アルバム『Another Piano Stories』に収録されていた3つの作品が、ピアノと弦楽オーケストラ、ハープとパーカッションによる三部作[Woman]として生まれ変わった。

●組曲「World Dreams」
World Dream Orchestra(W.D.O.)のテーマ曲として2004年に作曲された「World Dreams」に、2019年に委嘱された2つのオリジナル曲(NTV『皇室日記』より「Diary」、アイシンAW50周年祈念事業映像メインテーマ曲より「Driving to Future」)を組み入れ、3楽章に構成しなおされた。長年久石が温めてきたWorld Dreamsの組曲化の構想が実現した作品。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

解説

 久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団がワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)のプロジェクトを開始してから15周年に当たる2019年の8月1日、ツアー初日の演奏を静岡市民文化会館で聴いた時のことは、よく覚えている。茹だるような蒸し暑さを物ともせず、会場に集まった若い世代──10代から30代の聴衆──の多さに、まずは圧倒された。しかも彼ら彼女らのほとんどは、あたかもヨーロッパの夏の音楽祭に参加するかのように、瀟洒なファッションに身を包んで会場に馳せ参じている。普段からクラシックの演奏会を聴きに来ているかどうかわからないが、この日の演奏が特別なものになるに違いないと期待に胸を膨らませた聴衆の喜びと興奮は、客席を埋め尽くした洒落た装いから十分過ぎるほど伝わってきた。その若い聴衆たちが、本盤にも収録されている《Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”》《[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings》《組曲「World Dreams」》を一音も逃すまいと集中して聴き入る姿を傍から眺めていると、さまざまな記憶が頭の中に去来してきた。W.D.O.が創設された15年前といえば、おそらく聴衆のほとんどは、まだ大学生以下だったはずである。ちょうど2019年で30周年を迎えた『魔女の宅急便』公開当時は、物心がついていなかったという聴衆も多かったのではあるまいか。そういう若い世代がW.D.O.の演奏会に集うようになったのである。15年あるいは30年という時間の流れは、それなりの重みを持っている。

 2004年にW.D.O.を立ち上げた時、久石が掲げた目標のひとつは、彼なりのスタイルで日本におけるポップス・オーケストラの在り方を模索し、それを実現させることだった。久石がエンターテインメントのために書いた楽曲がプログラムに含まれるのは当然だが、それだけでなく、コンサートごとにさまざまなテーマを設定し、他の作曲家が書いた映画音楽やポップス、ロックを含めながら、そのテーマに基づく世界観でプログラム全体を統一するという、非常に凝った構成で久石流のポップス・オーケストラを実現させていった。それが2011年まで続いたW.D.O.第1期の大まかな概略だが、いま振り返っても、この時期のプログラミングと演奏はとても楽しいものだったし、こういう機会でもなければ久石が取り上げないジャンルの音楽や珍しいレパートリーが聴けたという意味でも、とても貴重な体験だったと思う。

 その後、2014年から始まったW.D.O.第2期においては、久石自身の作品をプログラムの中心に据えて曲目を構成しながら、宮崎駿監督の作品のために書いた音楽を交響組曲化し、それを世界初演していくプロジェクトがコンサートに組み入れられるようになった。これまで久石が作曲した作品だけでも膨大な数に上るし、これらをコンサート用の楽曲として演奏していくだけでも、実は”久石作品集”というひとつの大きなテーマが立派に成立する。加えて、第2期を開始した頃から、久石の楽曲の演奏状況が日本以外の各国で大きく変わり始めた。つまり、久石作品の演奏回数が世界中で急増し始めたのである。そうした状況の変化に対応するため、W.D.O.はこれまでになかったもうひとつの役割、つまり他の演奏団体が久石の作品を演奏する際の”お手本”を示すという役割も担うようになった。

 だが、それ以上にW.D.O.第2期に大きな変化をもたらした重要な要素がある。それは、クラシック作曲家/指揮者としての久石の音楽性が、より明確な形でW.D.O.に反映されるようになったという点だ。

 そうした観点から見てみると、宮崎作品の音楽の交響組曲化は──もちろん世界中から寄せられる演奏の要望に応えるという側面も有しているが──実はW.D.O.第2期のクラシカルな性格と何ら矛盾をきたさない。チャイコフスキーのバレエ曲を例に挙げるまでもなく、過去のクラシック作曲家たちは舞台のために書いた劇音楽を演奏会用組曲として再構成し、形に残すという作業を重ねてきたが、久石の場合も基本的にはそうした流れを汲んだものと言える。ここで重要なのは、単に劇音楽の聴きどころを寄せ集めた”ハイライト”を作るのではなく、物語の流れを踏まえた上で、演奏会用作品としての完成度を追求している点にある。そうした方法論は、W.D.O.第1期だったらおそらく不可能だったかもしれない。それを実現するためには、クラシック音楽家としての久石の円熟を待たなければならなかったからだ。

 したがって、W.D.O.創設の際に久石が書き下ろしたテーマ曲〈World Dreams〉が、今回3楽章形式の《組曲「World Dreams」》として装いも新たに生まれ変わったのも、先に触れたW.D.O.第2期の性格に鑑みれば、至極当然の結果と言えるだろう。ポップス・オーケストラとしての面白さを追求していた第1期ならば〈World Dreams〉ただ1曲の演奏でも充分に役割を果たしていたかもしれないが、よりクラシカルな性格を備えた第2期のW.D.O.の”顔”には、それなりの風格──つまり今回のような3楽章形式の組曲──が相応しい。同じことは、やはり本盤に収録された《[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings》についても言える。

 しかしながら、W.D.O.が第1期のような特定のプログラム・テーマを追求していくやり方を完全に止めてしまったかというと、必ずしもそうではない。本盤の場合には”ヨーロッパ”と”女性”というテーマが収録曲から浮かび上がってくる仕組みになっている(聡明にも、久石はそうしたテーマの明言を敢えて避けているが)。あるプログラムに込められた特定のテーマを、リスナーなりに読み取り、楽しんでいくのは、実は音楽の面白さのひとつでもある。ダウンロードやストリーミングでの音楽鑑賞が普及し、自分が聴きたい1曲だけを狙い撃ちして聴くのが当たり前になった現在、アルバム単位やプログラム単位で音楽を聴く習慣は、ひょっとしたら若い世代のリスナーには敷居が高いと感じられるかもしれない。だが、1時間のアルバムに込められたコンセプトや、4楽章の交響曲が表現している内容を聴き取っていくのは、1曲だけを聴くリスニングにはない喜びや満足感を与えてくれる。そこに重点を置いているのが、クラシック音楽家としての現在の久石の矜持であり、ひいてはW.D.O.が第2期で到達したクラシカルな面白さではないだろうか。

2019年で第2期を締め括ったW.D.O.が、今後第3期でどのような展開を見せていくのか──千人単位の聴衆が演奏会場を埋め尽くすコンサートの実現が難しい現時点においては──まだわからない。ただし、ひとつ確実に言えることは、本盤にライヴ収録された音楽の喜びと興奮が、第3期で再始動する時のW.D.O.の大きな原動力となるに違いない、という点である。

 

楽曲解説

Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”
交響組曲「魔女の宅急便」

本盤が世界初録音となる《Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service”(交響組曲「魔女の宅急便」)》は、これまで久石とW.D.O.が発表してきた宮崎駿監督作品の交響組曲同様、本編のために作曲された主要な楽曲を物語順に配列した上で、常設オーケストラのレパートリーとして演奏可能なように構成した作品である。

もともと『魔女の宅急便』のスコアは、オカリナ、アコーディオン、そして数々の木管楽器など、息=風(ウィンド)を吹き込む楽器が多用されているという特徴を持っている。”息=風”は、主人公キキがホウキに跨って飛ぶ”空の風”の象徴であり、彼女が暮らすコリコの街に漂う”空気感”の象徴であり、ひいては彼女自身の”生命の息吹”、つまり生命力の象徴でもある。そうした人間の生命力を肯定的に讃えながら、久石がスコアの中で表現したキキの成長物語は、アコースティックな管楽器の美しさを十全に活かした今回の交響組曲において、よりいっそう色鮮やかな魅力を発揮していると言えるだろう。

ちなみに『魔女の宅急便』の本編においては、いくつかの楽曲が未使用に終わったが(サントラ盤には収録されている)、今回の交響組曲ではそれらの楽曲も復活させ、本来の久石の作曲意図が完全に楽しめる内容となっている。また、サントラ録音時にやや軽めの編成だったオーケストラも今回はシンフォニックな厚みが加わり、シンセサイザーで代用していた楽器(オカリナなど)も今回は生楽器に置き換えたことで、クラシカルなオーケストラに相応しいダイナミックなサウンドと細やかな表現力を堪能することが出来る。たとえ映像を見なくても、今回の交響組曲を聴けば、リスナーは物語のドラマ的な要素をすべて理解出来るはずだ。

次に、組曲での登場順に各曲を紹介する。

On a Clear Day 晴れた日に…
本編冒頭、キキが旅立ちを決意するシーンで流れるワルツの楽曲で、本作の音楽全体においてはメインテーマの役割を果たしている。アコーディオン、マンドリン、ツィンバロンなど、地中海的な音楽を連想させる楽器を多用することで、舞台となる架空のヨーロッパを色鮮やかに表現する。

A Town with an Ocean View 海の見える街
前半部(イメージアルバムでの曲名は〈風の丘〉)と後半部(同じく〈ナンパ通り〉)からなる、本作のサブテーマ。前半部は、キキの目に映った街のよそよそしさを反映するかのように、木管と弦のピツィカートがメロディを折り目正しく演奏する。オーボエ・ソロを巧みに用いた間奏部分は、あたかもヴィヴァルディやバッハのオーボエ協奏曲を聴いているかのようだ。街の人々がキキの姿に感嘆の声を上げる後半部になると、カスタネットも加えたフラメンコ風の音楽となり、彼女の躍動感と期待感を高らかに表現する。

The Baker’s Assistant パン屋の手伝い
キキが、オソノさんのパン屋で働き始めるシーンの音楽で、アコーディオンを用いたコンチネンタル・タンゴ(ヨーロピアン・タンゴ。1960年代の日本で高い人気を誇った)のスタイルで書かれた楽しい楽曲。実質的にはオソノさんのテーマと見ることが出来る。

Starting the Job 仕事はじめ
曲名通り、キキの仕事はじめのシーンで流れてくる。思わず歌詞をつけて歌いたくなるような民謡風の楽曲。

Surrogate Jiji 身代りジジ
『トムとジェリー』風のアニメ音楽という設定で流れてくる楽曲で、調子っぱずれのホンキートンク・ピアノがユーモラスな楽曲。W.D.O.2019のリハーサル中に久石が語ったところによれば、20世紀前半のアメリカで流行したディキシーランド・ジャズを意識して作曲した曲だという。今回の交響組曲においては、管楽器がスタンドプレーを披露する聴かせどころのひとつとなっている。

Jeff ジェフ
どこかのんびりしたチューバが、老犬ジェフの緩慢な仕草を表現したテーマ。

A Very Busy Kiki 大忙しのキキ
Late for the Party パーティーに間に合わない
前述の〈海の見える街〉後半部のフラメンコ風の音楽を基にしたヴァリエーション。

A Propeller Driven Bicycle プロペラ自転車
実質的には、少年トンボのテーマとして書かれている。キキと仲良くなったトンボが、彼女をプロペラ自転車に乗せて走るシーンで流れてくるが、音楽が徐々にテンポを上げた後、ふたりを乗せた自転車が宙に浮かぶと、どこか田舎臭いワルツ──あるいはワルツの前身とされるレントラー──が盛大に演奏される。

I Can’t Fly! とべない!
本編未使用曲だが、今回の交響組曲で復活した楽曲。もともとはキキの魔法が弱くなり、飛べなくなってしまうシーンのために書かれたサスペンス音楽で、彼女が直面する危機を表現した「危機のテーマ」と言える。

Heartbroken Kiki 傷心のキキ
トンボからの電話にまともに答えず、ひとり部屋に籠もってホウキを作るキキをアコーディオンが優しく慰めるように演奏する。

An Unusual Painting 神秘なる絵
絵描きの少女ウルスラの小屋の中で、キキがウルスラに励まされるシーンの楽曲。本作全体の中でも特にユニークな存在感を放っている楽曲で、サントラではオカリナ風のシンセによって演奏されていたが、今回の交響組曲ではフルート奏者3人がオカリナに持ち替え、見事な三重奏を披露する。どこか太古の響きを感じさせるオカリナの音色は、生命の根源そのものの象徴であり、わかりやすく言えば生命力そのものを象徴している。そのオカリナを用いることで、人間としての自然治癒、自己回復を表現した楽曲と見ることが出来る。

The Adventure of Freedom, Out of Control 暴飛行の自由の冒険号
前述の〈とべない!〉で登場した「危機のテーマ」をテンポを速めてアレンジした楽曲。後半部は金管セクションが加わり、いやが上にもサスペンスを盛り上げる。

The Old Man’s Push Broom おじいさんのデッキブラシ
もともとは、飛行船に取り残されたトンボをキキが救いに向かうアクション・シーンのために書かれた楽曲。〈海の見える街〉前半部のテーマを007風の活劇調に変奏していくことで、手に汗握るスリルとサスペンスを見事に表現している。本編では未使用となったが、今回の交響組曲の中で最も聴き応えのあるダイナミックな楽曲となっている。

Rendezvous on the Push Broom デッキブラシでランデブー
キキが見事にトンボを救い出す大団円で流れる楽曲で、メインテーマのワルツが再現する。

Mother’s Broom おかあさんのホウキ
今回の交響組曲では、キキの旅立ちを家族や隣人たちが見送るシーンの楽曲(サントラ盤では〈旅立ち〉として収録)がエピローグとして演奏される。しっとりとしたヴァイオリン・ソロを演奏しているのは、W.D.O.コンサートマスターの豊嶋泰嗣。そのソロをオーケストラが幸せに包みこむようにして、全曲が閉じられる。

 

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings

2009年にリリースされたアルバム『Another Piano Stories ~The End of the World~』に収録されていた3つの楽曲をピアノ、ハープ、パーカッション、弦楽合奏で演奏可能なように再構成した作品。曲名通り、いずれの楽曲もすべて女性に因んでいる。

Woman
原曲は、2006年にオンエアされた婦人服ブランド「レリアン」CMのために書かれた楽曲。アルゼンチン・タンゴ、より正確には久石が敬愛するアストル・ピアソラのタンゴを意識したスタイルで作曲されている。

Ponyo on the Cliff by the Sea
さかなの子・ポニョと人間の子・宗介の出会いと冒険を描いた宮崎駿監督『崖の上のポニョ』のメインテーマ。弦楽器やハープのピツィカートとマリンバのトレモロが生み出すユーモラスな響きが、不思議にもポニョのイメージと一致する。

Les Aventuriers
久石のお気に入りの映画のひとつで、ジョアンナ・シムカス演じるヒロインを軸にしながらアラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの2人が冒険を繰り広げる『冒険者たち』から自由にイメージを羽ばたかせ、演奏者たちに5拍子という”冒険”を要求する作品。『冒険者たち』をご覧になったことがあるリスナーなら、ドロン扮するパイロットが複葉機で凱旋門をくぐり抜けようとするシーンを想起されるかもしれない。映画の中で曲芸飛行は失敗に終わるが、本楽曲においては演奏者たちが鮮やかな”曲芸飛行”を決める。

 

組曲「World Dreams」

2004年に久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろしたテーマ曲〈World Dreams〉を第1楽章に用い、全3楽章の組曲として構成した作品。

I. World Dreams
「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディが頭を過った」。”世界の夢”(World Dreams)を象徴する崇高なメロディをオーケストラが荘重に演奏する、ある意味で久石版《歓喜の歌》と呼ぶべき楽章である。

II. Driving to Future
原曲は大手自動車部品メーカー、アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 50周年記念事業映像のためのメインテーマ。メロディアスな第1楽章から雰囲気が一変し、久石の得意とするミニマル・ミュージック的な語法が中心となる軽やかな楽章。トランスミッションの歯車を思わせる精緻なリズム構造の上で、弦が滑らかな曲線を描いていく。

III. Diary
原曲は日本テレビ『皇室日記』テーマ曲。荘重なメロディが新たに登場し、格調高く演奏される。久石によれば、〈Diary〉の作曲時に〈World Dreams〉の世界観と共通するものを感じ、今回の組曲化に踏み切ったということである。

前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2020/07/07

(解説/楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツ 日・英文解説(英文ライナーノーツ封入)

 

 

 

ーテーマ曲でもある「World Dreams」が組曲になりますね。

久石:
「World Dreams」は活動を始めた2004年に作った曲です。2001年に9.11(米同時多発テロ)が起きてから、世界はバラバラになって今までの価値観ではもうやっていけなくなるという感覚が自分の中で強くありました。だからこそ、世界中の人々が違いを言うのではなく、世界を一つの国として捉えるような曲、つまり国歌のような朗々としたメロディーの曲を作りたいと思ったんです。

実は「World Dreams」を組曲にしたいという構想はこれまでもありましたが、今年テレビ番組(「皇室日記」)からオファーを受けて「Diary」を書いた時に「World Dreams」の世界観と通じるものがあると感じ組曲にしました。

~中略~

ー後半は「Woman」から始まります。

久石:
ここ数年挑んでいるピアノと弦楽オーケストラの形です。指揮者としてオーケストラと対峙する関係と違い、演奏者として一体感が高く、とても好きなスタイルです。一方、指揮者もやらなければならないので、とてもハードなスタイルでもあります。作曲家の久石譲さんは演奏家にとても厳しいので、ピアニストとしてはいつも大変です(笑)。

今回はハープともう一台のピアノ、パーカッションを入れました。「Woman」「Ponyo on the Cliff by the Sea」「Les Aventuriers」の3曲とも「Another Piano Stories」というアルバムに入っていた曲です。12人のチェロとピアノ、ハープとパーカッションという特殊な編成のバージョンをベースにしながら、今回のツアーのために書き直ししました。

ー最後は「Kiki’s Delivery Service Suite」。

久石:
W.D.O.の第2期では宮崎駿監督作品を交響組曲にするシリーズを続けてきました。今年は「魔女の宅急便」です。

映画用に書いた曲というのは、台詞や物語の流れを踏まえ、音楽があえて語り過ぎないようになっています。さらにもともとこの作品は軽めのヨーロピアンサウンドを目指して作った曲です。それをシンフォニックな曲にしてしまうのは違うと思い、ずいぶん悩みました。今から30年前に書いた曲で、譜面もまともに残っていなかったのにも苦労しました(笑)。今回のツアーではアコーディオンとマンドリンの奏者を加え、映画の世界観を追体験しながら、音楽を存分に楽しんでもらえたら嬉しいですね。

~後略~

(久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

 

 

 

2020.9 on Twitter (memo)

〈晴れた日に〉鳥たちのさえずり思わせるピッコロ・フルートが加えられたり顔ゆるむ。〈海の見える街〉ジブリコンサート版のように後半ジャジーにスイングしない、サントラ基調。Melodyphony、WORKSIV、WDO2018、いくつバージョンあってもうれしい一曲。

〈身代わりジジ〉コンサートではクラリネット、トランペット、トロンボーンが、ソロ・スタンディング演奏していて楽しい雰囲気に。サントラに比べてよりコミカルにカラフルになったなー。

〈プロペラ自転車〉2巡めテンポあがるところ、ペダルやチェーンの回転を連想させるパーカッションいい。ヴィブラスラップの連打かな? 回して鳴らすラチェット、ロータリーパーカッションとかかな? 後半もドタバタパンチ効いてる。

〈暴飛行の自由の冒険号〉〈おじいさんのデッキブラシ〉〈デッキブラシでランデブー〉ストーリーにあわせてハラハラドキドキなジェットコースター音楽。大迫力のクライマックス!大スペクタクル・サウンド!

〈かあさんのホウキ〉
A.久石譲 in 武道館 2008
B.久石譲 in パリ 2017
C.久石譲 & WDO 2019

Bは指揮に徹する。ACはコンサートマスター・ヴァイオリンを久石譲ピアノがエスコート。Aは1コーラス目のみ、Cは2コーラス目まで。ACはピアノ伴奏パターンもちがう。珠玉の名曲うっとり。

 

 

 

 

Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service” (「魔女の宅急便」組曲)
01. On a Clear Day ~ A Town with an Ocean View
02. The Baker’s Assistant ~ Starting the Job
03. Surrogate Jiji ~ Jeff
04. A Very Busy Kiki ~ Late for the Party
05. A Propeller Driven Bicycle ~ I Can’t Fly!
06. Heartbroken Kiki ~ An Unusual Painting
07. The Adventure of Freedom, Out of Control ~ The Old Man’s Push Broom ~ Rendezvous on the Push Broom
08. Mother’s Broom

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings
09. Woman
10. Ponyo on the Cliff by the Sea
11. Les Aventuriers

組曲「World Dreams」
12. Ⅰ. World Dreams
13. Ⅱ. Driving to Future
14. Ⅲ. Diary

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (solo concertmaster)

Recorded at Suntry Hall, Tokyo (August 8~9th, 2019)

Symphonic Suite ” Kiki’s Delivery Service” (Track-1~8)
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

“Mother’s Broom” Solo violin: Yasushi Toyoshima
Mandolin: Tadashi Aoyama
Accordion: Tomomi Ota

Driving to Future (Track-13)
Theme music for the 50th Anniversary Project Video of AISIN A W CO., LTD.

Diary (Track-14)
NIPPON TV PROGRAM「DIARY OF THE IMPERIAL FAMILY」THEME SONG
© 2019 by NIPPON TELEVISION MUSIC CORPORATION & WONDER CITY INC.

Recording & Mixing Engineer: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.)
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO)

Art Direction & Design: Daisaku Takahama
Artwork Coordination: Tatsuaki Ikeda (UNIVERSAL MUSIC)

and more…