Blog. 「レコード芸術 2021年12月号」久石譲 presents MUSIC FUTURE V 新譜月評・評

Posted on 2021/11/21

クラシック音楽誌「レコード芸術 2021年12月号 Vol.70 No.855」(11月20発売)、新譜月報コーナーに『久石譲 presents MUSIC FUTURE V』が掲載されました。

 

 

新譜月評
久石譲 presents ミュージック・フューチャー V

 

準 長木誠司
久石譲主宰のシリーズ7回目のコンサートのライヴ。CDとしては第5集になる。久石自身の作品を含め、ミニマルのスタイルを基本とする作品が演奏されている。久石の《2 Pieces 2020》は第2集に含まれていた同曲の改訂版。ノリのよい反復が続く。マウスピースのみの使用による人声的な金管のアイディアなど、機転を利かせた取り組みは、聴きやすさのなかにほんのちょっと楔を入れる。アダムズの《Gnarly Buttons》はクラリネット・ソロのジャジーなパッセージが快適だし、トロンボーンなどとのかけあいも楽しいが、サンプリング・キーボード2台をはじめ、けっこう手間のかかる曲。《クリングホファー》以降の1990年代のアダムズを特徴づけるネックとも言える作品で、それだけを論じた博士論文さえ書かれている逸品。タイトルはクラリネットを木のフシや瘤のようなボタン付きの楽器に見立てたもので、アルツハイマーによる父親の死がきっかけのようだが詳細は不明。演奏は異なった気風の3楽章とも、ミランダのソロ、アンサンブルともに見事。デスナーの《Skrik Trio(叫びの三重奏)》は弦楽トリオ編成だが、いわゆるミニマルの反復から若干はずれた強い表出力を持つもので、このシリーズで採り上げられる作品のスタイルの幅を示していて、なかなか濃厚な口直し。最後の久石の《Variation 14 for MFB》はもともと交響曲第2番の第2楽章。琉球音階めいた南方的素材の補塡的リズムによる、緊張を伴う展開。

 

準 白石美雪
久石譲の自作自演を軸とする「ミュージック・フューチャー」シリーズの第5集目。昨年11月、よみうり大手町ホールでのコンサートのライブ録音である。久石の近作とミニマル・ミュージックの流れをくむ作曲家の曲をまとめた聞きやすいラインアップに魅力がある。久石が7年前に創設したミュージック・フューチャー・バンドはミニマリストの多様な作品を演奏してきたためか、ここでもこなれたレアリゼーションをみせている。アダムズの《Gnarly Buttons》はいわゆるポスト・ミニマルの書法から、作曲家が解き放たれていく時期の作品。反復音型は使われているものの、意匠を凝らしたミニマリズムというより、アメリカニズムを彩る伴奏音型の一つとなっている。第2楽章に現れるバンジョーの響き一つで、砂ぼこりのたつアメリカの平原とか、干し草が積まれた農家の納屋などが目に浮かぶ。アダムズの少年時代へのノスタルジーを感じさせる音楽で、「アメリカらしさ」にこだわった1曲。M・P・ミランダの独奏クラリネットが曲の魅力を引き出している。デスナーの《Skrik Trio》はロックのテイストを感じさせる曲。テクスチュアは意外に複雑で聴き応えがある。久石の《2 Pieces 2020 for Strange Ensemble》はごつごつした肌合いの音楽。ぼこぼこと穴の開いたユニークな音響空間は特殊な楽器の組み合わせから生まれるのだろう。《Variation 14 for MFB》はエスニックな楽想を織り交ぜた抒情的な部分が面白い。

 

[録音評] 山ノ内正
多様な楽器の組み合わせながら全パートの動きを細部まで聴き取ることができる。特にギターやマンドリンなど、相対的に音量が小さい楽器の音が他に埋もれず浮かび上がることに注目したい。アダムズの作品ではクラリネットやトロンボーンなど重要な役割を演じる楽器を鮮明にとらえるとともに、アンサンブル全体の響きが偏ることはなく、作品の構造を把握しやすい。SACDは管楽器群の音色が柔らかく、発音の明瞭さと楽器イメージに立体感が両立する。DSD11.2MHzにおるライヴ録音。

(「レコード芸術 2021年12月号 Vol.70 No.855」より)

 

 

 

 

 

 

 

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