Blog. 「レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811」青春18ディスク 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/09/19

クラシック音楽雑誌「レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811」に掲載された久石譲インタビュー内容です。巻頭カラー連載「青春18ディスク」コーナーに登場、前号3月号では前編・本号4月号は後編、2回にわたっていろいろなエピソードとともに思い出のディスクが紹介されています。

 

 

青春18ディスク
私がオトナになるまでのレコード史 (4)

今月の人●久石譲 後編

協和音もリズムもあって反復する音楽を”これが最先端”なのだと突きつけられた瞬間、世界がひっくり返るくらいに驚いた

ききて・文:飯田有抄

 

ミニマム・ミュージックとの衝撃的な出会い

現代音楽とジャズにすっかり魅了される高校時代を過ごした久石譲。新しい音楽のレコードを積極的に聴く姿勢は、国立音楽大学作曲科に入学後も続いた。

「シェーンベルク、ウェーベルン、ベルク、そしてブーレーズの作品へ……と音楽史の動き通りに追っていました」

大学では入野義朗氏のもので十二音技法を学ぶなど最新の音楽語法に触れていく。そんな学生時代も後半になると、自作品によるコンサートを開くようになった。

「作曲家の北爪道夫さんや長与寿恵子さんらと作品を持ち寄って、N響の打楽器奏者・有賀誠門さんなど一流の方に演奏をお願いしていました。300席ほどあった朝日生命ホールにお客さんの姿はポツン、ポツン……僕の親戚、あいつの親戚という具合(笑)。奏者の方にはなんとかギャラをお支払いし、アルバイト代でホール使用量を払う日々を送っていました」

そんな中、衝撃的なレコードに出会った。テリー・ライリーの『A Rainbow in Curved Air』だ。

「あまりのショックで3日間くらい寝込んだと思う。自分たちは不協和音や非拍節的な音響を用いて新しいことをやっていたつもりだったのに、協和音もリズムもあって反復する音楽を”これが最先端”なのだと突きつけられた瞬間、もう世界がひっくり返るくらいに驚いた。これがミニマム・ミュージックとの衝撃的な出会い。自分にとっての完全なターニング・ポイントでした。そこからはフィリップ・グラスの『The Photographer』やスティーヴ・ライヒの『ドラミング』から始まる一連の作品など、とにかくたくさんミニマムを聴きました」

 

UKポップスシーンを追う

同時にミニマルは、イギリスのポップスに積極的に取り入れられていった。

「ブライアン・イーノの『Music for Airports』、クラフトワークの『TRANS-EUROPE Express』、マイク・オールドフィールドの『チューブラー・ベルズ』、タンジェリン・ドリームのアルバムなど、ミニマルの影響を受けたポップスをよく聴くようになりました」

大学を卒業する頃には、テレビの音楽やアレンジの仕事を手がけるようになっていた。

「その頃はスティーリー・ダンの『Aja』やドナルド・フェイゲンの『The Night Fly』もよく聴いた。彼らは徹底的にこだわり抜いたレコーディングをしているので音質が最高。ジャケットも当時のアメリカの雰囲気が出ていて素晴らしく、ひとつの『表現』になっていました。今のCDのジャケットは小さすぎて、『表現』ではなく『情報』になってしまった」

UKポップスの代表格として、スティングを挙げる。

「イギリスのミュージシャンはクラシックがベースにある人が多い。スティングの《イングリッシュマン・イン・ニューヨーク》もガーシュウィンの《パリのアメリカ人》を捩っていますしね。『ブルー・タートルの夢』はジャズミュージシャンを起用して作ったアルバム。ジャズ的なモードを使い、政治的な言葉や環境問題なども歌に盛り込む。恋愛ばかりを歌うポップスとは一線を画しています」

 

青春の終わり

青春時代を彩る最後の3枚としてあげたのは自身のアルバムだ。

「ミニマルに出会ってから、すでに7、8年が経過していましたが、81年にムクワジュ・アンサンブルのために作曲した『ムクワジュ』で、やっと初めてミニマル作品らしい作品を作ることができました。これを境に、いったん僕はクラシック音楽と決別した。当時の日本の作曲家たち(=現代音楽界)は、何か新しいことをしようとすると、まず他人の論理を潰すことばかりに終始していた。相手を論破し、自分の論理がいかに正しいかを訴え、お客さんに音楽を聴いてもらうということは全然考えていなかった。僕はそんな世界がつくづく嫌になり、ポップスの世界に行った方が”やりたいことができる”と思った。

 そして1982年、僕の正式なデビュー盤である『インフォメーション』を作りました。ミニマルというベースは変えていないけれど、ここから僕の現住所はポップスです、という宣言をした。ロック的な要素やレゲエも取り入れています。年齢的にはすでに30代に入っていたけれど、方向性を探っていたという意味でまだ僕にとっては青春時代です。

 そして最後は『風の谷のナウシカ~イメージアルバム』。実際に映画で使う音楽は、もっと名のある方が担当するはずだったのですが、無名だった僕のイメージアルバムを聴いたプロデューサーの高畑勲さんが、”ここに素材がすべて出揃っている”と推してくださった。そこから映画音楽の道が拓かれていきました。だからこのイメージアルバムまでが、僕の青春時代なのです」

そして今、再び「本籍を完全にクラシック音楽に戻した」と語る。

「1960、70年代は、既成概念を壊し、権力に楯突くことがアーティスティックな行為だったけれど、それはある種の共同幻想だった。伝統や本道があるからこそ、潰そうと思える対象があった。今は本道が失われ、それぞれが好き勝手にやって世界中が分裂したような状態。21世紀はむしろ本道を模索していかなければ世界も音楽も衰退してしまう。歴史上の古典の名曲を敢えて否定してきた僕も、今はその伝統に向き合い、その延長線上にいる自分をきちんと据え直したい。その活動の一つとして今、ナガノ・チェンバー・オーケストラでベートーヴェンの交響曲全曲演奏と録音をしている真っ最中です」

(レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811 より)

 

 

テリー・ライリー / A Rainbow in Curved Air
〈録音:1967年、1968年〉
[OCTAVE/CHERRY REDⓈOCTD4846]

「作曲家仲間の長与寿恵子さんの夫・吉田耕一さんから聴かせてもらい、世界がひっくり返るような大きな衝撃を受けた。このアルバムを聴いて、さっそく自分も4、5人のグループを作って、オルガンを使ったディレイの奏法などを試みた。」

 

フィリップ・グラス / The Photographer
〈録音:1982年〉
[CBSソニーⓈ25AP2504(LP)]
[ソニークラシカルⓈSICC129]

「ミニマル・ミュージックの世界に近づくために、グラスやライヒらの多くのレコードをひたすら聴いた。楽譜として買えるものはまだ少なくしかも高額だった。そんな当時、とても世話になっていたのが大学の図書館。誰も借り手がつかないような現代曲の楽譜ばかり借りていた。」

 

ブライアン・イーノ / Music for Airports
〈録音:1978年〉
[ポリドールⓈMPF1229(LP)]
[ユニバーサル・ミュージックⓈVJCP98051]

「実際に聴いていたのはもう少し後かもしれないが、ミニマルを取り入れたポップス系のアルバムとして非常に影響を受けた一枚。新しい音楽を求め、この頃の嗜好はイギリス系にシフトしていった。」

 

クラフトワーク / TRANS-EUROPE Express
〈録音:1976年〉
[キャピトルⓈECS80833]
[パーロフォンⓈWPCR80041]

「クラフトワークの最初の頃のアルバムで、テクノ・ポップ。当時の彼らのステージは、舞台上には人形が置かれ、バックステージで彼らが演奏するという画期的なスタイルだった。」

 

ドナルド・フェイゲン / The Night Fly
〈1982年発売〉
[ワーナーミュージックⒹP11264(LP)]
[ワーナーミュージックⒹWPCR17866]

「徹底したレコーディングにより、楽器のバランスも最高。僕がスタジオで録音する際にはバランスを知るためにこの音源をリファレンスとしてかけてみて、調整をはかっていた。そんな最高峰の一枚。ジャケットも惚れ惚れするほど格好良い。」

 

スティング / ブルー・タートルの夢
〈1984年発売〉
[A&MⒹUICY20212]

「スティングはUKポップスのド本道と言える。大量に所蔵しているUKポップスの中でも、とりわけ大好きなアーティストでもある。比較的、政治や環境問題などメッセージ性のある言葉を選び、サビはみんなで口ずさめるようなシンプルな構造だが、知的レベルは高い。」

 

久石譲 / ムクワジュ・ファースト
〈録音:1981年〉
[デンオンⒹCOCB54240]

「2年間、毎週のようにリハーサルをおこなって録音した渾身のアルバム。ここでいったんクラシックに決別した。打楽器、キーボード、コンピューター・プログラミングによる作品。」

※2018年1月31日発売。最新リマスタリング盤

 

久石譲 / インフォメーション久石譲 『INFORMATION』
〈録音:1982年〉
[ジャパン・レコードⒹTKCA73444]

「作曲家としてのフィールドをポップスに移し、エンターテインメント作品第1弾として制作したソロ・アルバム。基本はミニマル・ミュージックというスタンスは変えていない。」

※2018年4月21日にアナログ復刻盤[TJJA10003]が発売

 

久石譲 / 風の谷のナウシカ~イメージ・アルバム久石譲 『風の谷のナウシカ イメージアルバム 鳥の人』
〈1983年発売〉
[スタジオジブリⒹTKCA72716]

「1984年の映画公開に先立ち1983年にリリースされた。当時は、映画本編のサウンドトラックとは別物の「イメージアルバム」が作られることが多くあった。ストーリーもよくわからないままにオファーを受けて作った記憶が。打ち込みや当時の流行りの音などを多用。実はギターに布袋寅泰さんが参加している。」

(レコード芸術 2018年4月号 Vol.67 No.811 より)

 

 

前編
Blog. 「レコード芸術 2018年3月号 Vol.67 No.810」久石譲インタビュー内容

 

 

 

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