Disc. 久石譲 『地上の楽園』

地上の楽園

1994年7月27日 CD発売 PICL-1085

 

洗練された都会派ポップスとしてのテイスト
ゲストにビル・ブラフォードやビル・ネルソンらを迎え、
クオリティの高いスタンダードなシティポップ・サウンドに。

 

 

やっと君に手紙を書く気になったよ。
できたんだ。いや正確に言うともうすぐできそうなんだアルバムが。
覚えているかな? エクスワイアの連載
~それは漠然とした思いであったし、形のない意志でもあった。
「なにかを変えなければ…」。
不満があったわけでもないし(もちろんないわけでもないが)、
作曲家・アーティストとして大きな問題を抱えていたわけでもない。
でももう一人の自分が赤色の信号を点滅させる。
「昨日と同じ自分であってはならない。」と。
そして僕はロンドンに渡った。 (Esquire Paradise Lost 連載より)~

 

1992年夏の終わり、秋風が吹き始めた頃同時にソロアルバムもスタートした。楽勝だと思った、ほんとに。アルバムのコンセプトは前作の制作中にできていたしね。君が好きだった「マイ・ロスト・シティ」-根なし草の都市生活者、文明社会になじまないで生きる人間の孤独と魂を歌った-より一歩踏み出して、ニヒリズムに走らない前向きなアルバムを作りたかったんだ。「地上の楽園」というタイトルだってできていたんだから。でも、何かを変えようと思ったロンドン生活は返って自分の矛盾を拡大し、分裂しちゃって創作活動ができなくなった。もちろんその間、僕だって黙って何もしなかったわけじゃない。数本の映画を担当し、ロンドン・シンフォニー・オーケストラ(85名)やビッグ・セールスの歌手のプロデュースもやった。内容には満足しているし仕事の量も人の3倍はやったと思う。でもソロ・アルバムだけはできなかった。時として人は自意識が強くなり過ぎて本来しなければならない、あるいは力を発揮しなければならないときに空回りするもんだね。東京とロンドンの異常な往復がそれに拍車をかけたと思う。10数回は往復しているんだから、疲れたよまったく。

早いよね、あれから2年が過ぎ、今僕はロンドン・タウン・ハウス・スタジオにいる。今日は「The Dawn」のミックス・ダウンだ。遅れていたヴォーカルを録り、今リアル・ドラムとマシン関係のリズムの調整中だ。信じられるかい? あのビル・ブラッフォードだぜ!そう君が好きだったキング・クリムゾンのドラマーさ。夜の12時を少し回ったところ、これからミックスだ。そう、もう何日も寝てないんだ。今年に入ってからずっとさ。中毒のことをこちらではホリックっていうんだけど僕なんか正しくスタジオ・ホリックって呼ばれているよ。毎朝11時から明け方4時か5時まで、異常だよまったく、珍しく早く東京に帰りたいよ。でも、ふと考える、曲も書けずにロンドンの街を彷徨った日々を思うとどんなに幸せかと。もちろん今だってトラブル続きで頭に来る毎日だが、それだってあの寒々しい所を誰にも頼れず送った日々に比べたらまるで天国だ。でもやっとわかった。曲が書けなかったんではなくて頭の中で書きたかったテーマに対して僕がついていけなかったんだっていうことに。だから時間がかかった。バリ島にも行ったしアフリカのサバンナにも行った。そして僕は理解したよ。このアルバムは僕自身の楽園を目指すための試練なんだと、ちょっと大袈裟かな。もちろんこれは反意語だ。心の中の楽園を希求するアルバムであって楽園賛歌ではない。フォーク・ソングという言葉がすでに故郷を離れた人からしか言えないように楽園にいる人は楽園を歌うことはない。このアルバムには様々のスタイルの曲が収められて、それは3年かかった僕の心の軌跡であり変化でもある。でも94年の春、覚悟のレコーディングに入って数曲のBasic Recordingを終えたとき僕は悟った。すべては-DEAD 死-人間にとっての死をテーマにしていたと。それは決して恐れるものでも暗いものでもないし、むしろそれを身近に感じることによって死と隣り合わせの生を感じる、生を生きることなのだと。その意味でこれはコンセプト・アルバムだよ。といってもそんなに難しいものじゃない。むしろすごくポップだよ。例えば「HOPE」あのビル・ネイソンが詞を書いて歌ってもいるよ。すごくいい仕上がりだ。きっと君も気に入るはずだ。もともと「HOPE」は19世紀のイギリスの画家ワッツが描いたものなんだけど、地球に座った目の不自由な天女がすべての弦が切れている堅琴に耳を寄せている。でもよく見ると細く薄い弦が一本だけ残っていて、その天女はその一本の弦で音楽を奏でるために、そしてその音を聞くために耳を近づけている。ほとんど弦に顔をくっつけているそのひたむきな天女は、実は天女ではなく”HOPE”そのものの姿なんだって。いいだろう、だからほんとはその絵をこのアルバムのジャケットにしたかったんだよ。何故か無理だったけどね。他のも一見関係なさそうに見える曲がそのテーマのまわりをまるで走馬灯のように、音楽的に言えばロンドのようにぐるぐるまわっているんだ。ミルトンの「失楽園」や坂口安吾の「桜の森の満開の下」などから歌詞のコンセプトを得たのもその為だ。すべてはこの世紀末の価値観が崩れる時代だからこそ必要な表現だった。興奮するよ、僕が作ったんじゃなくて誰かに作らされたような気がする。でもそんなことは僕の問題でしかないのかも知れない。おそらく56分前後の長いアルバムになるはずだ。でもこれは僕と君とのロング・ディスタンスの後としてはあまりに短い。僕はもっと君に語りたい。取りあえずこのアルバムを聞くことから始めてくれないか? そしたら少しは僕たちの間は公園のベンチの隣どうし位は近い存在になれるかも知れない。君の返事を待ってるよ。又、会おうよ、いつかきっと…何処かで。

Joeより愛をこめて

(CDライナーノーツより)

 

 

HOPE 地上の楽園

『HOPE』(1885) George Frederic Watts

 

 

1. The Dawn
夜明け、魂が最も肉体から離れるとき。
地上をさす光と天井にともる星のイルミネーション。
やがて希望の光が地上を覆い現実の世界が白日のもとに晒される。
そして人々はそれから目を背ける。

2. She’s Dead
あの娘が死んだ。ディンドンとベルが鳴りオレは叩き起こされた。
刑事は疑っている。アリバイ? そんなものはない。
何も覚えてないんだ、何も・・・。
でもオレはやってない、がやってない証拠もない。記憶にないっていうことは・・・
とにかく-あの娘は死んだ。

3. さくらが咲いたよ
山賊は惚れた、女があまりに美しすぎて。やがて自分を失う。
7人の妻を殺し、京に上り毎夜女の為に首を取る。 (坂口安吾「桜の森の満開の下」より)

4. HOPE
その日、僕はテイトギャラリーにある「HOPE」の前に立った。1886年、WATTSが描いたそれはいつもと変わりなく僕を迎える。
地球に座った目の不自由な天女「HOPE」が奏でる音楽を聞きたいと君はいった。

5. MIRAGE
時々砂漠の夢を見る。
都会の(夜も更けた頃)汚れた歩道を歩いているとそれが果てしなく続き、やがては砂漠に辿り着く。
そして僕は口ずさんでいる。
金と銀の鞍をつけたラクダはすでに死に、焼けた砂を踏みしめながらゆっくり僕は歩く。
蜃気楼の地平線をめざして。

6. 季節風 (Mistral)
サウスイーストの季節風にのって君は現れた。
運命的な出会いは案外さりげなくやってくる。仄かな潮の香りが肌から立ち昇る。
忘れていた熱い情熱が蘇る。
いつか終わりが来て、けだるい孤独だけが残ることを僕は知っている。
でも賭けてみようか?

7. GRANADA
ざくろの実が割れたものをじっと見たことがありますか?
すごく鄙猥でいかがわしくて何だか吸い込まれそうで、まるで地獄だ。
その真っ赤な血のような汁の海に人間がのたうち回っている。芥川風に一本の糸が垂れて人々がそれに飛び付く。
それを遥か彼方の上空からたのしそうに見ている天使たち。笑顔の中の瞳は何の感情も浮かんではいない。
そこが世界の始まりかも知れない。

8. THE WALTZ (For World’s End)
「ねえ、一緒に逃げようよ。どこまでもさー、この世の果てまで、なんか追われるって素敵だよね。
そしたら俺達もう一度やり直せるかもしれない。二人しかいないんだ、他にはなにもない、物音一つしない・・・。
ねえ、踊ろうよそこでタンゴを。何なら・・・ワルツだっていいんだ、君さえよかったら」
タキシードの僕は一人で踊った、砂の上で・・・・。

9. Lost Paradise
ミルトンの失楽園は何を問いかけているのか? サタンは最も人間的な存在なのか?
東洋の阿修羅、西洋のサタン、伝説は人の心の裏返し。
「すべてはサタンの誘惑から始まった」

10. Labyrinth of Eden
迷宮への誘い(いざない)。
死-それは一つの終わりであって始まりでもある。

喜びは次に来る悲しみを産み、怒りは自己嫌悪を産む。
哀しみはいつまでも心の片隅に残り、楽しみは突然襲ってくる空しさを産む。
そのすべてから解き放たれたとき、魂は浄化され人間は初めて自由を得る。

永遠の罪を背負って砂漠を旅するアダムとイヴ。
ただひたすら、ラクダに揺られて・・・。
(僕は歩く、魂の砂漠を。たった一人で・・・・。)

11. ぴあの (English Version)
そこには音楽があった。
こわれたおもちゃのピアノ。
ソの音は低く、シの音は限りなくドに近い。
でもそこには音楽があった。やさしく哀しく、
そして、温もりをもって・・・。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

「そうですね。今、僕といっしょにやってくれてるブルー・ウィバーは、ビー・ジーズのワールド・ツアーとかを死ぬほどやったひとりだから、歌の伴奏の極致のようなワザを持っていて、ロンドンでやる時は彼と相談しながら作っていったんです。歌モノが中心なので、アレンジは複雑なポリフォニックなリズムとかではなく、もっと直線的な扱いになりましたが、いわゆる日本の歌伴奏的なものではないエレメントが欲しかったので、とてもいい勉強になりましたね。メロディ・ラインをボーカル・ラインに切り換えたことにも通じるんですが、この数年間は弦とピアノのピュアな世界を作ってましたから、今度はカオス…混沌とさせるぐらいにいろんな要素が入ってるサウンドということで、限定する作業から開放する作業に切り換えたんです。」

「バンドネオンという楽器にこだわりがあって、前回の「タンゴ・エクスタシー」に引き続き、今回も1曲やりたいと思ってたんです。あれだけ色の濃い楽器はないでしょ? アコーディオンはシャンソンで象徴されるように比較的洗練された楽器だけれども、バンドネオンはアタックが想像以上に強くてキレがすごいから、鳴ってるだけで世界観がひとつできてしまうようなところがあるし…。ちなみに、この曲「THE WALTZ(For World’s End)」は映画「女ざかり」のテーマに使われています。」

「ドラムで言うと、みんなやっているようにパーセンテージで細かく見ていくとか、ハイハットもベロシティで変化が出るようにする。中でもドラムで難しいのはフィル・インなので、タムやシンバルはローランドのオクタパットでリアルタイムでやるようにしてますね。音に関しては、3、4種類のキックをうまく使い分けていくやり方。ただし、僕は生のシミュレートは時間のムダづかいと思ってるのでやりません。たとえば今回参加してもらったビル・ブラッフォード(キング・クリムゾン)にしても、彼独特のスネアの音とフィーリングが欲しければ彼に頼んだほうがよいわけだから。」

「漂った感じを出したい時やパッド的な扱いの時はシンセ・ストリングス。そのほうが奥ゆき感が出たりするんですよ。僕の場合、フェアライトの音源やK1000とかだけで成り立つぐらいのクオリティの音を作っておいたものに、生の弦を入れるやり方で、いつも両方コンバインしながら作っていくんですが、生弦に関しては今回はロンドン・シンフォニーということもあって、シンセはいっさい足してません。」

「フェアライトIIの時代のいちばん誰も使わない音を、あえて使ってるんです(笑)。ハダカで聴いたらクオリティの悪い音だけれども、実はその音が持ってる不思議なエキゾチックな世界観が僕にとってはすごく大切なんですよ。ただし、あの音を支えるためにかなりのストリングスがユニゾンで鳴っていて、ほとんど聴けないぐらいの状態でM1もなぞってるはず。何を際立たせるかによって、いろんなものを組み合せて考えていく方法を僕はとってます。」

[使用機材]
☆マスター・キーボード
AKAI MX76
☆シーケンサ
Macintosh Quadra 610/Vision Ver 2.02
☆音源
Fairlight SERIES III/SEQUENCIAL CIRCUIT Prophet-5/YAMAHA DX7/YAMAHA DX7 II FD/MIDI MINI/KORG i2/KORG WAVESTATION SR/KORG M1R/KURTZWEIL K1000/KURTZWEIL K1000PX Plus/E-MU Proformance/YAMAHA TX81Z

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1994年9月号 No.116」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「じつは3年前、今井美樹のアルバムのプロデュースが終わったあとロンドンのスタジオにこもって『地上の楽園』というコンセプトで何曲か創ったんですけど、どうも納得できない部分があってアルバム作りを中断したんです。あの時期は自分の中ではっきりと音への志向性が変わっていきつつあることが感じられて…一時期、ボクは完全にスランプに陥っていましたね。映画やテレビのスタッフワークの中からはいくらでもアイデアは出るんですけれど、ソロアルバムとなると自分の中にたまったものが勝負になる。それがあのときの自分には少なかった」

「歌メロをやっていく中で、これまでのインストゥルメンタルの活動がいかに重要だったか痛感させられましたね。というのも、たとえば歌詞で簡単に〈愛してる〉と歌うところをインストゥルメンタルだとかなり細かく、かつ量も豊富にメロディーを積み重ねて聴いてくれる人を説得するわけですよね。細かい音創りが求められるわけです。そうした経験がどんな内容の歌詞が乗ろうと十分に聴きごたえのある音創りに生かされる。ボクはつねづね日本でもデイヴィッド・フォスターやクインシー・ジョーンズのようなメロディー作家が出てくるべきだと思ってた。彼らは自分で作詞も演奏もしなくてもでき上がってきたアルバムには彼らの個性が貫かれている。ひとつにまとまったプロジェクトを組んでアルバム作りをしているからなんですけど、そうしたスタイルをボクは日本でも定着させたいんですよ」

Blog. 「テレパル TeLePAL 1994年 6.25-7.8」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

地上の楽園

1. The Dawn
2. She’s Dead
3. さくらが咲いたよ
4. HOPE
5. MIRAGE
6. 季節風 (Mistral)
7. GRANADA
8. THE WALTZ (For World’s End) (映画「女ざかり」より)
9. Lost Paradise
10. Labyrinth of Eden
11. ぴあの (English Version) (NHK連続テレビ小説「ぴあの」より)

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi
(except “Piano” Strings Arranged by Nick Ingman)

Musicians
Iain Ballamy,Bill Bruford,
Hugh Burns,Dabid Cross,Lance Ellington,
Motoya Hamaguchi,Mitsuo Ikeda,Rap Jonzi,
Michel Mondesir,Bill Nelson,Tessa Nile,
Jackie Sheridan,Kenji Takamizu
The London Session Orchestra,Gavyn Wright

Recorded at:
Townhouse Studio,London
Abbey Road Studio,London
Music Inn Yamanakako
Crescente Studio Tokyo
Wonder Station Tokyo

Pre-produced at Blue Weaver Studios, London
Mixing & Recording Engineer:Stuart Bruce
Alan Douglas(3,7)
Mastering Engineer:Tony Cousins(at Metropolice Studio)
Recording Engineer:Richard Evans(Real World)
Darren Godwin(Abbey Road Studio)
Suminobu Hamada, Tohru Okitsu, Eiichi Tanaka
(Wonder Station)
Assistant Engineer:Mark Hayley, Lorraine Francis
(Townhouse Studio)
Tomonori Yamada, Ayato Taniguchi
(Wonder Station)
Shinpachirou Kawade(Music Inn Yamanakako)
Mitsuo Sawanobori(Crescente Studio)

 

Disc. 久石譲 『Symphonic Best Selection』

久石譲『Symphonic Best Selection』

1992年9月9日 CD発売 TOCT-6675
1992年12月2日 MD発売 TOYT-5018
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25123

 

東京芸術劇場にて公演されたシンフォニックコンサートのライブ音源

 

 

寄稿

それまではスクリーンやブラウン管の向こう側に見え隠れしていた姿をかなりはっきりさせた形で一般の音楽ファンに見せたのが『I AM』だとしたら、久石譲は『MY LOST CITY』という力作を通過していよいよその巨大な姿を見せてしまった。

僕は今、完成したライブ・アルバムを聞いてはっきりとそう思う。5月20日と21日の両日、東京芸術劇場大ホールのステージで金洪才の指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団をバックにピアノを弾く姿を見ながらもそのことは十分過ぎるほど予感はしていたが、CDというひとつの形になった時に、作曲家としても、編曲家としても、ピアニストとしても久石譲が稀有な魅力と才能の持主であることをこの最新作は理屈抜きで示している。

そして『MY LOST CITY』のオープニング・ナンバー「プロローグ」について、彼自身が書いた「僕にとってのピアノとストリングス、それは永遠に彷徨う旅人の心を歌うには最も相応した形態だ。新しい旅の始まり。」というコメントを引き合いに出せば、この最新作は彼が映像と音楽という無限の荒野を歩んできた長い旅のひとつの集大成でもある。演奏されているどの曲にも例外なく永遠の生命力がみなぎっているのも”いい音楽”が流行や傾向といったものに関係なく存在し続けることの証しと言えるだろうし、スケールの大きさと繊細さ、オーソドックスと前衛がうまく同居したストリングスの編曲の巧みさについては、リスナーに聞くたびに新たな発見の喜びをもたらしてくれるだろう。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

「従来のソロ・アルバムとはまったく違うタイプですから、まったく違うものとして満足しています。中にはミス・タッチもあれば、オケとずれたりとか、いろんな部分があるんですが、その時、お客さんがいてオーケストラがいて僕がいてという独特の熱気、そういうのはスタジオ作品ではちょっと味わえないものがあるんですね。それが出てる部分で僕は凄く満足しています。特に本当にその場でテンポが揺れて気合で行くような時が多いライヴは、その時のエモーショナルな部分っていうのがそのまま演奏に出てくるから、そういう意味で作品がうまく再現されているということです。」

「基本的にクオリティの高い音楽をやっているから、音楽性を求める人に聴いて欲しいですよね。でももっと大事なのは、そういう音楽性の高い人にしかわからない音楽をやってるつもりはなくて、「あら、きれいなメロディだわ、ちょっとバックに流しながらお風呂に入っちゃおう」みたいなノリでもいいんですよ。それからその人がいろんな音楽を聴いて自分の音楽的レベルが上がると「このレコードこんなこともやってるんだ」というように、なおさら楽しいレコードが自分の理想なんですよ。不特定多数の聴ける音楽ができればいいなあと思います。」

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

(MDパッケージ)

 

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

「ナウシカ組曲」
1. 風の伝説
2. 谷への道
3. 鳥の人
「I am」より
4. DREAM
「MY LOST CITY」
5. PROLOGUE〜DRIFTING IN THE CITY
6. 1920〜AGE OF ILLUSION
7. SOLITUDE〜IN HER…
8. CAPE HOTEL〜MADNESS
9. 冬の夢
10. TANGO X.T.C.
「MELODY FAIR」
11. 魔女の宅急便
12. レスフィーナ
13. 天空の城ラピュタ
14. タスマニア物語

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi

Produced by Naoki Tachikawa
Recording & Mixing Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixed at Wonder Station, Tokyo

Musicians are:
Joe Hisaishi / Piano
Kim Hang Je / Strings, Conductor
Yasushi Toyoshima / Violin Solo (N.J.P)
Mitsuo Ikeda / Bandonéon
New Japan Philharmonic

ピアノ:久石譲
指揮:金洪才
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
録音:1992年5月21,22日 東京芸術劇場

 

Disc. 久石譲 『君だけを見ていた』

久石譲 『君だけを見ていた』

1992年3月4日 CDS発売 TODT-2810

 

1992年放送 フジテレビ系ドラマ「大人は判ってくれない」

オープニング・テーマ曲「君だけを見ていた」
エンディング・テーマ曲「Tango X.T.C」

 

 

両A面シングルとして発売された。「Tango X.T.C.」は約1ヶ月前にリリースされたオリジナル・ソロアルバム『My Lost City』収録と同曲である。

「君だけを見ていた」はファンのあいだでも人気の高い幻の名曲である。幻と言われる所以は、このシングル盤しか存在せず、アルバム等には未収録楽曲だからである。またオリジナル版のみならず、リアレンジなどでも収録はなく、唯一コンサートDVDにて久石譲ピアノ・ソロ・ヴァージョンを聴くことができる。

そのピアノ版をも今となっては貴重な記録となっている。

 

 

 

 

 

 

久石譲 『君だけを見ていた』

1.君だけを見ていた
2.TANGO X.T.C.

「君だけを見ていた」
Joe Hisaishi:Paino & SYnth.
Kisyoshi Hiyama:Chorus
Fujimaru Yoshino:Guitar
Fumihiko Kazama:Accordion
Masatsugu Shinozaki:Strings
Recorded at
Wonder Station, Tokyo
Hitokuchizaka Studio, Tokyo

「Tango X.T.C.」
Joe Hisaishi:Piano & Synth.
Richard Galliano:Bandonéon
Phil Todd:Sax
Chris Laurence:Bass
Recorded at
Abby Road Studio, London
Studio Guillame Tell, Paris

 

Disc. 久石譲 『My Lost City』

My Lost City

1992年2月12日 CD発売 TOCT-6414
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25122

 

1920年代、アール・デコの時代にインスピレーションを抱いた会心作

ロンドンのストリングス、パリのバンドネオン、最高の音楽を求めて
久石譲のピアノは、1920年代を、そして世紀末を彷徨った。

 

 

Prologue
僕にとってのピアノとストリングス、それは永遠に彷徨う旅人の心を歌うには最も相応しい形態だ。
新しい旅の始まり。

漂流者 ~Drifting in the City
都市の漂流者。行く場所さえない心のさすらい人。
「彼は自分の身勝手さを重々承知しながらも芸術家になるための戦いから身を退くことができず、
そのせいで彼の人生は何処か悲劇的気高さを帯びるに至ったのである。」

1920 ~Age of Illusion
バリエーション、音の変奏、それはうつろいゆくもの。
映画のカメラで言えば、特徴を使って絶えず移動するようなもの。
交通機関と一緒で都市と都市の間を結ぶ、移動祝祭空間だ。
そしてテーマは、主役、立ち止り確認すること。音の都市なのだ。
テーマからテーマへ、人から人へ、絶えずうつろい行く、それがバリエーションだ。
そこには予想もつかない未来のように、スリリングな展開となる。

Solitude ~in her・‥
それは不可能な試みだった。芸術行為とは自我の放出だ。
発生する自我と放出される自我のバランスを常に一定に保つことなど不可能なのだ。
実現不可能な目標に向けてなされる超人的努力の行き着く先は、精神と肉体の崩壊だ。

Two of Us
幸せの時は流れて・‥Floating

Jealousy
人はえてして合い反する感情のなかに自分の身を置く。
優しさ────傲慢さ センチメンタリズム────シニシズム
楽天性────自己破壊への欲望 上昇志向────降下感覚
そんな合い反する感情の向かう先は…

Cape Hotel
リビエラ、ジェラルド・マーフィとセーラ・マーフィの夫婦は何を考えていたのだろうか?
サティの作品は文学的に縛られていたのだろうか?
表層的な都市で育つ音楽はその資源的な根を絶たれる。
明快で表面のみからなる音楽は文学的な表現とは違う土壌にある。

狂気
目標を達成することで自分を駆り立てていた悪霊を統御できるはず。
自己を証明することによって平安を得られる。

冬の夢
魂の孤独な旅、寒い「氷の宮殿」を抜けて何処へ行くのか?
人は様々な感情のなかで成功と失敗を繰り返して、何処へ行くのか?
シューベルトの「冬の旅」から「白鳥の歌」には深い人生への慈愛と悲しみに満ちている。

Tango X.T.C.
なぜ1920年代のタンゴはセンチメンタルなのか?
ブエノスアイレスは。世紀末から都市化されたのであり、ニューヨークとほとんど同じなのだ。
とすれば20年代に置いてこの都市は
大自然の平原から引き抜かれた根なし草の悲哀を味わっていた
パンパ────ブエノスアイレス────パリ、これはタンゴの道そのものだ。
20年代のタンゴには草原から切り離されて、
再び戻ることのできない都市生活者の悲しみが響いている。

My Lost City
彼を描くのが目的ではない。
彼を通して自分を見つめるのが目的なのだ。
それはあたかも意志を持った鏡のように(彼と僕が同じだということ、又は似ている事ではなく)
そこで乱反射されたものを受けとることなのだ。
つまり僕が彼という鏡を通して写る姿を見たときまで見えなかった自分が
写しだされるかも知れないのだ。
そこは何処までも果てしなく続くビルの谷間ではなかった。
そこには限りがあった。
想像の世界に営々と築き上げてきた光り輝く宮殿は、脆くも地上に崩れ落ちた。

久石譲

 

 

アビーロード・スタジオでの録音、深い絆で結ばれたマイク・ジャレット(エンジニア)、チェロ版ナウシカ組曲などでも有名な藤原真理(チェロ)による「Two of Us」「冬の夢」、リチャード・ガリアーノ(バンドネオン)による「Jealousy」「Tango X.T.C.」、そして久石譲の決意表明にして渾身の名曲「漂流者 -Drifting in the City」。最高の音楽を求めて、当時できうるすべてを注ぎこんだ作品。

当時の久石譲が純度高く封じ込まれている本作品は、当時の著書にも詳しく書かれている。1920年代という時代について、MY LOST CITY・漂流者というキーワードやコンセプトについて、バンドネオンやタンゴへのこだわりについて。

「漂流者—Drifting in the City」の出だしの音型を決めるのに10日以上悩んだとあるとおり、人に受けようとするのではなく、自分が納得するものを追い求めた決意表明のようなもの渾身の楽曲。非常にシンプルなメロディで8分も展開していくための厳選されたメロディ、出たしからその世界観が広がるような強いメロディ。

当時久石譲はこのように語っている。「華やかでなくて、でも優しくて、それで寂しくて、乾いていて、激しくて、劇的で、人間の強さと脆さ、優しさと哀しさ、すべてを持っていて、すべてから距離を保っている、そういうメロディに行き着きたいという思いが、ずっとあった。いろんな人にいろんな感情を抱いてもらう。そのためには、こちら側は自分の感情をぶつけないことだ。ぎりぎりまでテンションを盛り上げたところで作れば、聴く人にいろんなインスピレーションを持ってもらえる。」

 

 

 

My Lost City

MY LOST CITY
HOMMAGE A Mr. SCOTT FITZGERALD

1. PROLOGUE
2. 漂流者~DRIFTING IN THE CITY
3. 1920〜AGE OF ILLUSION
4. SOLITUDE〜IN HER・‥
5. TWO OF US
6. JEALOUSY
7. CAPE HOTEL
8. 狂気 MADNESS
9. 冬の夢 WINTER DREAMS
10. TANGO X.T.C.
11. MY LOST CITY

Recorded at Abbey Road Studio, London etc
Recording Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixing Engineer: Mike Jarratt(Abbey Road Studio)

Musicians are
Piano:Joe Hisaishi
Strings:Gavyn Wright Londons Strings (14Vioins,4Violas,2Cello,2Bass)
Flute:Andy Findon 3. 8.
Bandonéon:Richard Galliano 6. 10.
Cello:Mari Fujiwara 5. 9.

Musicians
Gavyn Wright London Strings
(Strings Conductor:Mick Ingman)
Andy Findon(Flute)
Mari Fujisawa(Cello)
Masatsugu Shinozaki(Violin)
Gavyn Wright(Violin)
Wilf Gibson(Violin)
George Robertson(Viola)
Anthony Pleeth(Cello)
Chris Laurence(Dble Bass)
Richard Galliano(Bandoneon)
Phil Todd(Sax)
Frank Ricotti(Vib.)

Recorded at:
Abbey Road Studio,London
Studio Guillame Tell,Paris
Wonder Station,Tokyo
Onkio Haus,Tokyo
Sedie Studio,Tokyo
Marine Studio,Kannon-zaki

 

Disc. 久石譲 『I am』

久石譲 『i am』

1991年2月22日 CD発売 TOCP-6610
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25121

 

クラシックやイージー・リスニングではなく、ニュー・エイジミュージックでもない。
ポップだけれど、アヴァンギャルド…
屈指のメロディー・メーカー、久石譲のピアノ・ワールド。
ロンドン・ストリングスとの華麗でスリリングなセッションを経て、
どんなジャンルにも属さない久石譲の世界が完成。

 

 

INTERVIEW

Q.今回のアルバムに収録されている「Venus」や「Echoes」に聴かれる民族音楽との出逢いはいつ頃でしょうか?

久石:
民族音楽はもともと最初から好きだったんですね。エスニックな音楽が大好きで、そこから得る要素は自分の体験外のものなので……。と同時に、僕がやってきた「ミニマル・ミュージック」の音楽的な構造が民族音楽と近い要素を持っていますからね。ミニマル・ミュージックを始めた頃、アフリカ民族音楽のリズム構造を研究したり、中近東のインド音楽に聴ける16拍子の曲や複雑なリズム構成とか、同時にその音楽の時間の流れなど、特殊な時間の流れですよね。そうやって研究していくうちに民族音楽の魅力に魅せられて、気づいてみたらクラシックの勉強と同じかそれ以上ぐらい、自分の中にエスニック的な要素が色濃く染み付いていましたね。

民族音楽的な要素をシンセサイザーで表現する場合、比較的そのニュアンスは出しやすいんだけど、今回のような”ピアノ”と”ストリングス”という「西洋音楽の王者」みたいな楽器編成で演奏する場合、難しいことなんですね。当初は、エスニック的な要素を取り入れられなくて悩んでいたんです。悩んでいたというよりは、取り入れられないだろうなって思ってましたから……。作品を仕上げていく段階で、結果的に「Venus」や「Echoes」の中に、本来の自分らしさを出せたので、とても嬉しいですね。

 

Q.今回のアルバムのコンセプトを教えてください。

久石:
基本的には、現在の商業ベースで作られている音楽の典型的なことはいっさいやめようと……。例えば、誰が聴いてもみんな同じように聴こえるようなものは意味がないしね。全曲に共通していえることなんですけど、基本ラインとして”ピアノだけで表現する(音楽性を保たせる)”ことがポイントなんですね。そして、そこに弦楽のアレンジを入れると。つまり、弦楽を入れて曲を保たせるのではなく、あくまでも”ピアノ”がメインということですね。それに、ぜいたくに弦楽の音色を必要最小限に加えるというコンセプトです。

アルバムをピアノと弦楽だけで作り上げることは非常に難しいことです。なぜ難しいかというと、その編成に耐えうるだけの強力なメロディーを生み出せなければならないし……。そういう意味でいえば、自分には”Hisaishi Melody”とみなさんがおっしゃってくれてるものもあるし、チャレンジできるのではないかなって……。

作品を作り上げていく段階で、一歩間違えるとそれが単にイージ・リスニングになってしまう可能性があるし、イージ・リスニングにしない為には、自分を含めて共演者の持っている確固たるアーティスト性やパーソナリティーがなくてはいけないわけですよ。つまりとても危ういところで作りあげていて、山岳の崖っぷちを歩いているようなものですね。例えば、一歩間違ったらリチャード・クレイダーマンになってしまうし、その反対に踏み外してしまえば、非常に難解なものにもなってしまう。また、要素を剃り落としている分だけ、飽きてしまう可能性も出てきます。

そんな中で、生み出すメロディーを信じて、そして、余計なものをどこまで剃り落とすか? という作業をしながら、例えば、「エスニック的なものが好き」という自分の志向する要素を含めたところでの、削り採る作業とっていいのかな? 音楽的な無駄を排除し、必要最小限の音で作り上げる……これが今回のアルバムで一番重要なことでしたね。

 

Q.完成されたアルバムを客観的に聴きかえしてみてどのような感想をお持ちになりましたか?

久石:
そうですね。初めて完成されたソロ・アルバムを作ったなって印象を持ちましたね。レコーディング中に、何百回、何千回って聴いていますから、トラック・ダウンが終了した頃には、あまり聴きたくないんですよね。でも今回のアルバムに関しては、その後、何度も繰り返して聴いても飽きないんです。それは、「完成されているアルバム」で、僕が創造したという意識を超えて、聴いていられる。

なんていったらいいのかな、不思議なもんでね、アルバムの完成度が高ければ高いほど、その作った作家から作品は離れて行くんですよ。とても客観的な作品になってしまう。そういう意味でいうと、自分の作品であっても、もう僕の作品じゃないっていうような、自分でいうのも変だけど、すぐれた作品に仕上がったと思いますね。

作品を完成させる段階で、ものすごく苦しんだり、悩んだりしました。微妙なコード進行の変化や、1音を付け加えるか、加えないかによって、その曲の雰囲気が変わってしまう……そういう微妙なところで物凄く苦しんだわけです。端の人はどんなことで、どうして苦しんでいる理由が分からないような細かいことで悩んでいたわけでしょ、ところが、苦しんで苦しんだほど、そうやって生まれ出てきた作品にはその苦しんだあとかたもないんですよ。そうして完成した作品は素晴らしいわけです。つまり、作家が苦しんだ形跡が見えるような作品にはろくなものがない。苦しんだ形跡が分かる作品は、カッコが悪いわけで、そして完成度が低い。

完成した作品は、「おお、ここでこんなことをやってる、凄いことやってるな」、「何だこのコード進行は? 何だこのモードは?」ってなプロ志向的な聴き方もできるし、反対に音楽に詳しい方でなくとも、さり気なくBGMとして流したり、「まあ綺麗なメロディーね、楽しい!」というような音楽本来の楽しむ為の聴き方もできるんですね。そんな僕が考える音楽の理想的なことがこのアルバムでできたなって気がしますね。

 

Q.作家の手から離れて行った作品がスタンダードになっていくわけですね? そして聴き続けられると同時に、弾き続けられていくと……?

久石:
できたらね、そういうスタンダードになって欲しいという願いを込めて作ったアルバムですね。例えば、前作『Piano Stories』は、日々アルバムがみなさんの手元に送り出されているわけで、そして、その楽譜もみなさんの手元に届いて、僕の曲を復習(さら)っていてくれると、そうするとその曲は定着しますよね。そのことは、作家にとってとても幸せなことですよ。

今回のアルバムの一つ一つの作品を完成するにあたっても、例えば、とんがり過ぎちゃえば1回聴いて(弾いて)、「おもしろかったな」で終わっちゃう。そういうことのないように、何度も聴いて(弾いて)楽しめる、そう意図して作り上げました。そういう意味では、現代のスタンダードを目指したといってもいいかも知れませんね。

「Piano Solo 久石譲/アイ・アム (I am)」楽譜 インタビュー より抜粋)

 

 

楽曲曲想
演奏解釈のための楽曲イメージ Commentary by 久石譲

Deer’s Wind
本楽曲は来年(1991年)のゴールデン・ウィークに東宝系全国一斉公開される映画『仔鹿物語』のメイン・テーマです。少年と仔鹿との「心の交流」をモチーフにした映画で、楽曲のテーマは、自然の中で繰り広げられる少年と仔鹿との「心の交流」を現す「優しさ」と、それを包む「大自然」を歌ったものです。優しさと同時に、大作映画の「おおらかさ」と「大自然」のスケール感を意識して仕上げてみました。

On The Sunny Shore
この曲は、前作『Piano Stories』に収録されている「Lady of Spring」とサウンド的にも、コード的にも同じ系列に入る曲です。曲のコンセプトとしては、隙間があって、その合間を縫うような淡々としたメロディーが奏でられる……。そして、モードを駆使したような響きと、その中に大人の優しさが出てくれば、と思って書き上げてみました。特に、弦楽のアレンジに関していえば”超スペシャル・アレンジ”で、トレモロや様々な要素を多様し、凝縮しています。アレンジの雰囲気は”空気感”。空気に漂っている”浮遊感”をものすごく意識してみました。今後アレンジャーを目指す方は、是非ともこのアレンジを研究してみてください。また、原曲では「ハーモニカ」が特徴的なフレーズを演奏していますので、メロディー・ラインを他の楽器で奏でてみるのもよいでしょう。いろいろな編成で演奏してみてください。

Venus
この楽曲は、8年ぐらい前に実は作った曲で、3~4回レコーディングをしています。どうも自分の中では形態がなかなか定まらなかったのですが、今回のアルバムでは”エスニック的”な要素を玩味した形態で成り立ち、やっと居場所を見つけ、完成しました。左手のオスティナートを続けながら、右手にロマンティックな割りには、とても器楽的なフレーズが続く不思議な曲です。本来の自分らしさの一部である”エスニック志向”がムクムクと出てきた1曲です。

Dream
本楽曲は、心の奥深い所での響きというか、その包みこむような優しさや味わい深さが出せればと思って書き上げました。Intro.やサビで使っている「Em」のメロディーのところを特に”ジャジー”なイメージにして、大人のけだるさというか、そのような感じを出してみたかったところです。原曲の弦楽のアレンジがかなり凝っていて、後半のピアノと弦楽が非常にダイナミックに絡むところは是非聴いて欲しいところですね。

Modern Strings
この曲は今回のアルバムに収録している曲の中で、もっとも”アヴァンギャルド”的な要素を多様した作品です。「単に驚かす為に」…というアヴァンギャルド的なものはカッコ悪いわけで、むしろ楽曲を聴いていくうちに「エッ?」と思う、本当の意味で深い味わいがあるアヴァンギャルドを打ち出した楽曲です。原曲の弦楽アレンジを具体的に言いますと、冒頭から弦楽が頭打してない点が特徴です。全部が裏拍になっていて、よく聴いていないと分からないかもしれませんね。そして、その「裏拍」がいったん分かると、この楽曲の変な魔力にひかれてしまいます。その魔力といい、スピード感といい、とてもたまらない曲になるんじゃないかと……。原曲の後半でピアノと弦楽が絡むところがとてもスリリングな響きになっています。楽曲のイメージやメロディーの雰囲気が「フランス映画」の感じで、その工夫として、レコーディングの時に、ピアノのタッチや音色を「鼻にかかる音色(鼻音的な音質)」に変えてみました。原曲でサックスを吹いているミュージシャンは”Mr.Steve Gregory”で、彼は「ワム!のケアレス・ウィスパー」で、あの印象的なサックスを吹いている方なのです。「泣ける、大人の味わい」をとても気持ちのいいサックスで演奏してくれていますので、じくりと聴いてみてください。

Tasmania Story
本楽曲は今年(1990年)の夏に東宝系全国一斉公開された映画『タスマニア物語』のメイン・テーマです。サントラ盤では、ピアノとオーケストラでしたが、本ヴァージョンは、ピアノとストリングスをメインにして、スケールの大きなフレーズの中から、そのしっとりした優しさを引き出してみました。レコーディングでのストリングス・セクションは、ロンドンの精鋭達が一同に会して、そのストリングスは、演奏の随所で歌ってくれて、狙い通り以上の演奏が展開できて非常に満足した仕上がりになっています。また、ピアノ自体のアレンジもサントラ盤とは違うヴァージョンです。

伝言
この曲は数年前にオンエアされたTVドラマのメイン・テーマです。当時の僕、というか”Hisaishi Melody”とみなさんに言われていた、典型的なスタイルの楽曲で、伴奏形式やメロディーにそれが現れています。今回のレコーディングでは、ピアノをメインにし、ストリングス・アレンジを最小限におさえて仕上げてみました。また、原曲のハーモニカもじっくりと聴いてみてください。

Echoes
本楽曲は、僕自身は、今回のアルバムのメイン曲だと思っています。オリエント・ミュージック(僕が付けた呼称です)を現した「アジアの夜明け」、「アジアのこだま」というような意味で作り上げた曲で、とても大切にしている曲でもあります。原曲には民族楽器のタブラーと胡弓が入っています。ピアノの特徴としては、ベーゼンドルファーのピアノでしか出せない超低音を出しており、その深い響きの中で、胡弓がメロディーを奏でる箇所はとても印象的で、僕自身とても気に入っています。原曲で胡弓が奏でるメロディーが終わった後に出てくる、ストリングスの不思議なコード進行も味わってみてください。微妙に変化していくコードの響きが特徴です。

Silencio de Parc Güell
ピアノ・ソロ作品として、あたかもシューベルトの「楽興の時」を思わせるような、さりげない優しい小品をイメージして仕上げてみました。曲のタイトルの「パルク・グエル」は、スペインのバルセロナにある”グエル公園”からです。スペインの鬼才、建築家”アントニオ・ガウディ”が作った印象的な公園で、その「静けさ」にとても感動して、曲名を付けました。

White Island
本楽曲は、テレビ朝日開局30周年記念特別番組の、メイン・テーマ曲です。「南極」をテーマにしたスペシャル・ドキュメンタリーで、この特別番組の為に作曲したものなのですが、放映時からとてもみなさんにご好評いただいた曲だったので、今回のアルバムに収録することになりました。メロディーが持っている親しみやすさ、優しさと同時に、スケール感あふれる形態を兼ね備えている楽曲なので、本アルバムの最後を飾るのがふさわしいのではないかと……。じっくりと聴いてみてください。

楽曲曲想 ~「Piano Solo 久石譲/I AM」楽譜より)

 

 

「ストリングスはロンドン・シンフォニーとロンドン・フィルのメンバーに協力してもらいました。ロンドンの──特に弦の音は、僕の求めている音に合うんです。録音はアビィ・ロード・スタジオ。あそこはね、ルーム・エコーが非常にいいんですよ。ピアノのパートは日本で録音しました。ピアノはベーゼンドルファー・インペリアル。低音部分にこだわってみたので」

「結構ね、難しいことやってるんですよ。普通だったら使わないような手法とか。でもさすがに向こうの人たちはその意図をわかってくれて、のってやってくれた。イギリス人のユーモアというか、あけっぴろげなアメリカとはまた違って、楽しい共同作業になりました」

Blog. 「ショパン CHOPIN’ 1991年3月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

東芝日曜劇場 「伝言」 テーマ曲 TV Original Versionについては下記ご参照。

Disc. 久石譲 『The Passing Words』 *Unreleased

 

CM曲に使用された楽曲のCMオリジナルヴァージョンについては下記ご参照。

「Sunny Shore」 日産『サニー』
「Dream」 サントリー『ピュアモルトウイスキー 山崎』

 

 

久石譲 『i am』

1.Deer’s Wind (from Main Theme of“Kojika Story”) (映画「仔鹿物語」より)
2.Sunny Shore
3.Venus
4.Dream
5.Modern Strings
6.Tasmania Story (映画「タスマニア物語」より)
7.伝言~Passing The Words (東芝日曜劇場「伝言」より)
8.Echoes
9.Silencio de Parc Güell
10.White Island (TV「南極大陸1万3000キロ」より)

Musicians
Gavyn Wright London Strings
(Strings Condactor:Nick Ingman)
Toshihiro Nakanishi String Quartet
Tommy Reiry(Harmonica)
Steve Gregory(sax)
Pandit Dinesh(tabla)
Jia Peng Fang(kokyu)
Chuei Yoshikawa(A.Guitar)
Motoya Hamaguchi(L.Prec.)
Toshihiro Nakanishi(E.Vl.)
Hideo Yamaki(Drums)

Recorded at:
Abbey Road Studio London
Taihei Recording Studio Tokyo
Music Inn Yamanakako Studio Yamanashi
Wonder Station Tokyo

 

Recorded at ABBEY ROAD STUDIOS, LONDON
TAIHEI RECORDING STUDIO, TOKYO
MUSIC INN YAMANAKAKO STUDIO, YAMANASHI
WONDER STATION, TOKYO
Produced by JOE HISAISHI
Co-Produced by NAOKI TACHIKAWA
Arranged by JOE HISAISHI

Executive Produced by KEI ISHIZAKA (TOSHIBA EMI)
ICHIRO ASATSUMA (FUJI PACIFIC MUSIC INC.)
MAMORU FUJISAWA (WONDER CITY)
Recording Engineer:
MIKE JARRATT (ABBEY ROAD STUDIO)
YASUO MORIMOTO (ONKIO HAUS)
ATSUSHI KAJI (HEAVY MOON)
SUMINOBU HAMADA (WONDER STATION)
TOHRU OKITSU (WONDER STATION)
Mixing Engineer: MIKE JARRATT (ABBEY ROAD STUDIO)
Mastering Engineer: STEVE JOHNS (ABBEY ROAD STUDIO)

Musicians are: JOE HISAISHI-Piano
GAVYN WRIGHT LONDON STRINGS
(Strings Condactor: Nick Ingman)
TOSHIHIRO NAKANISHI STRING QUARTET (“Venus”)
TOMMY REIRY-Harmonica (“On The Sunny Shore”, “Rumor”)
STEVE GREGORY-Sax (“Venus”, “Modern Strings”)
PANDIT DINESH-Tabla (“Echoes”)
JIA PENG FANG-Kokyu (“Echoes”)
CHUEI YOSHIKAWA-Guitar (“On The Sunny Shore”, “Venus”)
MOTOYA HAMAGUCHI-L.Perc. (“Venus”, “White Island”)
TOSHIHIRO NAKANISHI-E. VI. (“Echoes”, “White Island”)
HIDEO YAMAKI-Drs. (“Modern Strings”)

 

Disc. 久石譲 『PRETENDER』

久石譲 『PRETENDER』

1989年9月21日 CD発売 N29C-703
1989年9月21日 CT発売 N25K-703
1992年12月21日 CD発売 NACL-1506

 

鋭敏なエレクトリック・サウンドと生の声のミックス NY録音

 

 

INTERVIEW

Q.ニュー・アルバム『プリテンダー』のコンセプトの「原点」に戻る……ということについて、くわしく教えてください。

久石:
今回のコンセプトである「原点」に戻るということは、いわゆる本当の根本的な「原点」に戻るということではなく、自分が今ままでやってきた事で、例えば、『α-Bet-City』というアルバムをニューヨークでレコーディングした時、「フェアライトをこれだけ使うのはZTTかHisaishiだけだな」みたいな感じで、レコーディングしている最中にA&Mレコードやセルロイドから引き合いがきたり、自分が今までやってきた「インストゥルメンタル」、「音楽」、「世界レヴェルで通じるもの」を今回徹底して作ってみたいと思っていました。ヴォーカルものは英語詞で歌ったり、歌ってもらったし……。日本語だとどうしてもローカルになってしまうしね。「世界のフィールドで自分がどれだけ通用するか?」ということが一番根底にあったし、それがいわゆる「原点」ですね。

 

Q.海外のアーティストやミキサーと一緒に作り上げた今回のレコーディングのエピソード等がありましたら教えてください。

久石:
今回のレコーディングに参加してくれたミュージシャンを始め、ミキサーや各スタッフ達が日本発売とは思ってなくて、当然、世界発売……すくなくとも自分達の国の音楽だと思って、レコーディングに参加してくれたことが非常に嬉しかったことですね。

例えば、どのチャートを狙うのか、日本国内のチャートではなく、全米のブラコンやディスコ・チャートなのか、ポップス・チャートなのか。「どのチャートを狙うんだ」と、僕のところに親身になっていろいろと相談してくれて、「ブラコンやディスコ・チャートを狙うんだったら、良いミキサーを紹介するよ」って、いろいろ助言してくれたことが印象に残っています。

 

Q.国内とは違う環境でのレコーディングで何か変化や影響がありましたか? また、共演したアーティストやミキサーから触発されたものがありましたでしょうか?

久石:
一番は電話がかかってこないということですね。ふたつ目は、集中して音楽を創り上げられるということです。

基本的には国内でレコーディングしても同じだと思ってました。「海外でレコーディングをする」という意味は例えば、「海外でレコーディングした」ということは、もうアルバム・セールスにおいて「売りになる時代」にはならないし、それだけでインパクトがあるとも思っていないので、重要なファクターではないと思ってます。

今年(1989年)の3月にニューヨークに行って調べたミュージシャンやミキサーと知り合って、例えば、ドラムのノリ等の細かい点で、国内のドラマーが参加すると「こうなってしまう」とか、ある程度先が見えてしまう…海外のアーティストの場合、あるミュージシャンに参加してもらうと、その細かいリズムのノリや仕上がり具合がわかる。そういう意味では、海外でのレコーディングは必然的であったということだと思います。

根本的には海外でレコーディングしたから、今回のアルバムが出来たという気持ちはないけれど、それなりの+αはあったという感じはしています。

 

Q.『プリテンダー』で使用した主要なキーボード系、デジタル系(リズム・マシン、サンプラー、エフェクター等)の楽器を教えてください。

久石:
今回のアルバムでは、ほとんど生の楽器を多様しているし、生リズムで録ったのでシンセサイザーの使用頻度は少なめですが、使用した楽器はフェアライトIII、カーツェルやジュノー、DX7、S1000等の通常使用しているものです。

レコーディングに入る前にフェアライトIIIに全部のパートを打ち込んでおいて、本番ではそれを生の楽器に差し替えて録音しました。実際、レコードに収録されているフェアライトIIIの音や使用頻度は、全体の2~3割程度ですね。

曲のスケッチ段階で、ドラム・パートやベース・パート等すべてを打ち込んでおいて、それは、アルバムで聴けるフレーズや曲の感じの差はあまり変わってないということは、今回のフェアライトIIIの役目としては「縁の下の力持ち」になったということになります。

 

Q.最後に読者に対してコメントをお願いします。

久石:
今回の『プリテンダー』は、自分にとっても非常に大切なアルバムに仕上がりました。「日本」という独特な土壌の中で、日本の人々に受ける(日本人に受けるという言い方も変だけど)、つまり「国内向けに日本的なものを創る」というのではなくもっと乾いた「ウェットな部分ではない部分」を出したいというのがあって、そういう意味でいうと自分なりに納得するアルバム、「洋盤として納得するアルバム」に仕上がったと思ってます。

「聴き手」と「作者としての自分」の関係が「ベタベタ」したものではなく、むしろお互いに「対等」にあるような関係があって、自分の中ではとてもおもしろいチャレンジが出来たし、非常に納得したという部分があるので、その辺を感じながら聴いてもらえるとありがたいと思います。同時に、音楽的にもかなり高度な部分と、それを分かり易く噛み砕いてやている部分とがあるので、その辺がわかっていただけると幸いだし、また、本書を利用して演奏していただけると嬉しいと思います。

「ピアノ弾き語り 久石譲/プリテンダー +BEST」 楽譜所蔵インタビューより 抜粋)

 

 

【楽曲解説】 Music Commentary by Joe Hisaishi

Meet Me Tonight
この曲は古き良きアメリカ、或いはビートルズ・エイジの人々が非常に懐かしく感じるようなメロディ・ラインを意識して作りました。

都会というよりは、田舎のハイスクールの学生が彼女のことを思うというような、ノスタルジックな暖かさを含んだ楽曲です。ニューヨークでレコーディングをしている時にも、ミュージシャンが思わず口ずさんでしまうという感じで、自分達の国の音楽として受け入れられた曲です。サビのコーラスの部分が特に自分でも気に入っています。

True Somebody
これはブリティッシュ・ロック系の曲を意図して作った楽曲ですが、ベーシックなリズム・ラインにはモータウンのリズムを取り入れました。ヴォーカルに黒人のヴォーカリスト(N.David “Tigger” Whitworth)を起用しており、世界的なマーケットでも通用するような曲に仕上がっていると思います。

Wonder City
この楽曲は、7~8年前にリリースした僕のソロ・アルバムの中に収められていたものです。当時、自分でも納得いかなかった部分もありましたが、今回の再度のチャレンジでかなり納得のいく仕上がりとなりました。自分でも、とっても気に入っている曲です。今年(1989年)の2月に行ったコンサートでもこの曲は非常に評判が良かった曲です。

Maria
これはシングル用に作った楽曲で、バラードの路線を狙って作りました。僕の音楽の特徴は、メロディ・ラインが非常に器楽的だということがありますが、それを強調してみようということで、音域の広い曲になっています。『秋の夕日が落ちていく海辺……』そんなイメージ。

All Day Pretender
このアルバムのタイトル『PRETENDER』が象徴するように、この曲が全体のコンセプト曲になっています。「いつも”ふり”をしている人」という意味をもったこの曲は、出だしの”モード”っぽいところからサビにいくまで、自分の中でも非常に納得した仕上がりになっています。ある意味では自分の原点的な楽曲といえます。

Manhattan Story
これは、古い新しいということではなく、スタンダードできちんとしたメロディを書きたいと思って書いたものです。都会派のメロディ・ラインを意識して作りました。

Holly’s Island
この曲は、「東洋的なメロディ・ラインとラテン的なサウンドをドッキングさせたらどうなるか?」ということを考えて作った楽曲です。アイランド的といいますか、非常にほのぼのとした感じが出ているので、自分でもとても好きな曲です。タイトルの”Holly’s”というのは、ドラマーのスティーヴ・ホリーと、「Holly Night(聖なる夜)」からきています。

Midnight Cruising
これはインストゥルメンタルの曲で、メロディも非常にクールなハードボイルド・タッチを意識して作った楽曲です。曲の中間部では、ジャズ・ワルツのような部分もあって、演奏面からいっても非常に難しいものなのですが、共演のミュージシャン達もノリにノッて素晴らしい演奏をしてくれました。

View of Silence
これはピアノとストリングス(ニューヨーク・フィルのメンバーとの共演)の楽曲です。

アルバム『Piano Stories』以来、ピアニストとしての僕は、前作品の『illusion』に引き続き、必ず最後にピアノの作品を入れていこうという意図で作った楽曲です。いわゆる映画音楽をひくるめて作ってきた、「僕なりのメロディ」というものの延長線上にあるものです。

今回はストリングス・セクションもニューヨークで録るということで、特に力を入れてアレンジをしました。「内なる情熱」というようなエモーショナルな部分が引き出せたと思います。

(【楽曲解説】 「ピアノ弾き語り 久石譲/プリテンダー +BEST」楽譜より)

 

 

「今回は「節」になるメロディーはやめようという考えがあったんです。日本のメロディーってみんな「節」でしょ? AがあってA’がきてBメロ、サビのC……という具合に分かれてて、それをビルト・アップしていく感じ。『イリュージョン』ではそれをやったんですよね。いかにも日本風のやつをやってみようと思ったから。だけど、今回はもっとシンプルなことをやりたかったんですよ。要するにリフの繰り返しでいけるようなことをしたい。非常にモードっぽくいきたい、と。日本だと1つのパターンで全曲押し切るっていうのはなかなかできないじゃない? 一度、そういうところでのメロディーのチャレンジをしてみたかったということなんです。外国の曲では当たり前のことなのに、日本では一生懸命コード変えたりとかするでしょ? 簡単に言うと、今回はできるだけ情報を整理したかった。情報量を最小限にして、ゴテゴテさせないっていう考えはありましたね。」

「「オールデイ・プリテンダー」という曲は全曲を通して「ラミシミレミラミ」というシーケンスがずっと鳴ってるんです。これはどちらかというとAmモードっぽいですよね? ところが、ベースは出だしからDの音なんです。レミファソ……といって、ラはなかなか出てこない。でも、「ラミシミ……」と鳴ってベースがDだとDのモードにも聞こえる。ベースがEに行くと、Esus4にも聞こえる。Fに行くとF△7の変形にも聞こえるし、Gに行くとG6……。基本的に要素が少ないでしょ? 右手はずっと同じだから。ベースの音が1個変わるだけで世界がパッと変わる。そういうのがやりたかったんです。「ワンダー・シティ」は最初から最後までベースが同じですからね。音が1つも変わってない。省エネの極致だね(笑)。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1990年1月号」久石譲連載 第2回 ドからド。それだけで作れる音楽 より抜粋)

 

 

「今までは90%くらいは電気楽器、打ち込みものとかが多かったのですが、今回は逆に85%近くは生のピアノやドラム、ベースなどを前に出して非常にバンドっぽくあげたかったんです。打ち込みだとジャストでしょ。ジャストだとニュアンスがないからつらい部分があって…。そういう意味では今回はリズムのノリもいいし、かなり欲しいニュアンスが録れたなと感じますね。中には1曲めと5曲めのように部分的に打ち込みを使った曲もありますが、後は全部生です。その打ち込みの部分も、生の音との違いがほとんどわからないくらい精密に、フェアライトで作っていったんですよね。今回はバンドっぽいサウンドということをコンセプトにおきましたから、そういう意味でのカラーの統一をしたかったんです」

「1曲1曲、思いっきりパワーを持つように作ったんです。今回はインストとボーカルものを混ぜてしまったし、下手するとバラバラになっちゃうような非常に難しいアルバムだったんですよ。ただ正解だったのはバンドっぽい音ということで、リズム体を変にサンプリングで入れ替えたりして凝りすぎないで、全曲、素直に通したんです。曲の表わし方の個性をどうつけるかでジャジイなものがあったり、ピアノ曲があったりするけど、その上でもっと大きな個性で結実しないかなという思いはありました」

Blog. 「KEYBORD LAND キーボード・ランド 1989年10月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「そうですね。今回一番思ったことは、確かに向こうの人はすごい体力もあるし音もすごいからハデな曲を持ってった方がいい、という発想はあったんだけど、逆にこういう「マンハッタン・ストーリー」とか遅い曲も彼らはすごくうまいんですよ。で、ワーッと思ってね、テンポが8つくらい、128ぐらいだったのを110いくつくらいにしたのかな、すごい量を落としたんです。中間のファンクっぽい部分が成立するギリギリのテンポまで落としました。

それで、ほとんどの曲が東京で組んだテンポのままなんですよ。せいぜいひと目盛り下がるかどうかという……。それに関してもかなりシビアにやってったから、ほとんど変わんなかった。唯一変わったのが「マンハッタン……」。それがドドド……って落ちたっていう……。この辺がやっぱりノリのすごさなんだなっていうことを思いましたね。」

 

「そう、最初にまずピアノを録って、それから弦のアレンジして弦を録ったんです。ピアノを録る前の日に曲ができましたからね……。

あの「ヴュー・オブ……」は今までの自分のメロディーらしいメロディーと、同時にちょっと踏み出してるんですよ。メロディーの中でのキーのチェンジが激しいですからね。一歩間違うと今回のコンセプトに合わない曲なんですよ。あの曲を外すかどうか迷いましたね。

で、アルバムに入れた中では唯一ミニマルっぽい扱いですね。途中からピアノが一つのフレーズの繰り返しで押し切って、それとは別に弦が動く。あそこらへんからモードっぽい進行に切り換えることによって、やっとアルバムに入ったんですよ。辻褄が合うようにした。それがすごい難しかったね。

コード進行にそった形でピアノのアルペジオを入れるといちばん僕らしくなるんだけど、今回それをやるとちょっと違うんじゃないかっていう感じがあって。それがちょっと苦しかったとこですね。「ヴュー……」は楽曲的には自分でも納得いってたから、今回入れるためには他の曲とのつなぎの接点でモードというのを使ったんです。そういう方法というのは全体にあるんです。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1989年11月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

「MARIA」は幻のシングル・バージョンが存在する。発売には至らなかった。

 

 

 

久石譲 『PRETENDER』

1. MEET ME TONIGHT
2. TRUE SOMEBODY
3. WONDER CITY
4. HOLLY’S ISLAND
5. MARIA
6. MIDNIGHT CRUISING
7. ALL DAY PRETENDER
8. MANHATTAN STORY
9. VIEW OF SILENCE

Lyric:宇多田照實 1. 2. 3. 7.

Musicians
Steve Holly(drums)
Brian Stanley(Bass)
Paul pesco(Guitars)
Steve Thornton(Percussions)
Steve Elson(Saxophone)

Recording:Sorcerer Sound,Sanctuary Recording,RCA Studio,Wonder Station
April 1989~June 1989

 

MEET ME TONIGHT

Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Chorus: Kysia Bostick,
N.David “Tigger” Witworth
Vocal: Joe Hisaishi

TRUE SOMEBODY

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Joe Hisaishi
Vocal: N.David “Tigger” Whitworth

WONDER CITY

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Tabla: Adam Rudolph
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Joe Hisaishi
Vocal: Joe Hisaishi

HOLLY’S ISLAND

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Saxophone: Steve Elson
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth

MARIA

Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Saxophone: Steve Elson
* String Section
Violin: David Nadian (Concertmaster), Marti.J.Sweet
Harry Lookofsky, Arnold Eidus
Richard Sortomme, Sol Greitzer
John Pintavalle, Charles Libove
Barry Finclair, Lamar Alsop
Viola: Elena Barer, Jan Mullen
Cello: Charles P.McCracken, Richard Locker
String Arrangement: Ed Bilous
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Vocal: Joe Hisaishi

MIDNIGHT CRUISING

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Guitars: Paul Pesco
Percussions: Steve Thornton
Piano: Joe Hisaishi
Saxophone: Steve Elson

ALL DAY PRETENDER

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Chorus: Kysia Bostick
N.David “Tigger” Whitworth
Vocal: Joe Hisaishi

MANHATTAN STORY

Drums: Steve Holly
Bass: Brian Stanley
Keyboards: Joe Hisaishi
Piano: Joe Hisaishi
Saxophone: Steve Elson
String Section: *
String Arrangement: Ed Bilous
Vocal: Kysia bostick

VIEW OF SILENSE

Piano: Joe Hisaishi
String Section: 
String Arrangement: Joe Hisaishi
Executive Producer: Masaharu Honjon
(NEC Avenue)
Mamoru Fujisawa
(WONDER CITY)
Producer: Joe Hisaishi
Co-Producer: Thomas Hiruta
(WONDER CITY)
Akira Shimabukuro
(NEC Avenue)
Ed Bilous
Recording Engineer: Roger Moutenot
Kennon Keating
Don Wershba
Suminobu Hamada
Mixing Engineer: Roger Moutenot
Mastering Engineer: Tony Dawsey
(Masterdisk)
Assistant Engineer: Jim Goatley
Judy Kirscher
(Sorcerer Sound)
Eric Hurtig(Sanctuary)
Anthony Sanders
Soundtrack)
Fairlight/Synth Programmer: Joe Hisaishi
Bill Seery
Steve Rimland
All songs composed and arranged
by Joe Hisaishi
Recording Studios: Sorcerer Sound
Sanctuary Recording
RCA Studio
Wonder Station
Mixing down Studio: Soundtrack
Mastering Studio: Masterdisk
Co-ordination: The MEDIUS Corporation, NY
Recorded on April 1989~June 1989

Object Manufacturer: Eisaku Kitoh
Photographer: Katsumi Takada
Design: Rieko Kanno (AC Project)
Art Co-ordinator: Yumi Horie(NEC Avenue)
Special Thanks: Jin Tamura (Inner Photo)
PARCO (Obje TOKYO-TEN 1989)

 

Disc. 久石譲 『冬の旅人』

1989年1月10日 EP発売 N07E-702
1989年1月10日 CDS発売 N10C-702

 

フジテレビ系ドラマ「華の別れ」主題歌『冬の旅人』

 

作曲はもちろん、久石譲本人による歌唱楽曲である。1988年12月21日発売、オリジナル・ソロアルバム「illision」からのシングル・カットである。アルバム版とシングル版では歌詞が異なっている(作詞家は同じ)。

カップリングにはオリジナル・ソロアルバム「Piano Stories」より、「Green Requiem」が収録されている。これは映画「グリーン・レクイエム」のメインテーマ曲を、ピアノソロ作品にアレンジしたものである。

 

ちなみにTVドラマ本編BGMでは、「冬の旅人」アコースティックなインストゥルメンタルver.(未音源化)や、「A Summer’s Day」「Green Requiem」などオリジナルソロアルバム『Piano Stories』から複数の楽曲が使用されている。「illusion」(同名アルバム曲)も使用されている。

 

 

冬の旅人 LP corect

(EPジャケット)

 

1.冬の旅人
作詞:松本一起 作曲・編曲:久石譲 歌:久石譲
2.Green Requiem (Instrumental)
作曲・編曲:久石譲 ピアノソロ:久石譲(「Piano Stories」より)

 

Disc. 久石譲 『illusion』

久石譲 『illusion』

1988年12月21日 LP発売 N28U-702
1988年12月21日 CD発売 N32C-702
1988年12月21日 CT発売 N28K-702
1992年11月21日 CD発売 NACL-1505

 

「都市生活者の孤独と幻想」をテーマに、メロディ、ボーカル、アレンジともにハイセンスな音世界を展開。

 

1988年8月21発売シングル「Night City」は同アルバムからの先行シングルとなっている。

久石譲 Night City シングル

 

 

1989年1月10日発売シングル「冬の旅人」は同アルバムからのシングル・カットである。ドラマ「華の別れ」主題歌起用によるもので、アルバム版とシングル版では歌詞が異なっている。

冬の旅人 LP corect

 

 

「前作の『ピアノ・ストーリーズ』なんかは、聴く側が勝手に心象風景を自分たちで投影しやすかった。こちらから押し付けがましいメッセージがない分ね。今までそうやって作ってきたんですけど、長年やってくると、もっと直接的にメッセージを訴えかけたくなる。それには歌の表現がいちばん適切なんです。僕は井上陽水さんとか中島みゆきさんとか、非常に歌のうまい人の仕事をいっぱいさせてもらっていたんで、中途半端に歌はやりたくなかった。で、今回いろいろやってみて、何とかいけそうじゃないかということで。アレンジャーだとかいろんな人が、サウンドの一部として歌を歌うみたいなのがありますけど、あのてのものはやりたくなかったんですよ。どうせ歌うなら、徹底して歌をやる」

「このアルバムに入る直前までの、僕の弦のスタイルというのは確率されていたんですね。いろんな人の歌のときのバックのスタイルとか、あるいは、フル・オーケストラで8-6-4-4とか(注1)6-4-2-2とかいう編成で歌用、オーケストラ用、映画用とか、自分なりの癖が確立されていた。ですから、またゼロから、全く弦が書けない状態に戻して、普通ならこうくる、というのを極力排除してアレンジしました。もう1回クラウス・オガーマンとか、あのへんの弦アレンジを聴いたりとか。そういうのを徹底しましたね」

Blog. 「キーボード・マガジン 1989年3月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石譲 『illusion』

1. Zin-Zin
2. Night City
3. 81/2の風景画
4. 風のHighway
5. 冬の旅人
6. オリエントへの曵航
7. ブレードランナーの彷徨
8. L’ étranger
9. 少年の日の夕暮れ
10. illusion

Guest Duet:Mai Fujisawa 9.

Musicians
Hideo Saitoh(E.Guitar)
Fujimaru Yoshino(E.Guitar)
Kenji Takamizu(Bass)
Motoya Hamaguchi(Percussion)
Masashi Shinozaki Group(Strings)
Asuka Kaneko Group(Strings)
Mai Fujisawa(Special Duet)
etc.

Recording:Wonder Station,Sound Inn Magnet Studio,Freedom Studio,Taihei Studio,MarineStudio,Studio Sky
April 1988~October 1988

 

Disc. 久石譲 『Night City』

1988年8月21日 EP発売
1988年8月21日 CDS発売 N10C-701

 

久石譲作曲はもちろん本人歌唱による楽曲である。

1988年12月21日発売、オリジナル・ソロアルバム「illision」にて同2曲ともに収録されている。同バージョンである。

 

久石譲 Night City シングル

(CDジャケット)

 

1. Night City
2. L’ étranger

 

Disc. 久石譲 『Piano Stories』

久石譲 『piano stories』

1988年7月21日 CD発売 N32C-701
1988年7月21日 LP発売 N28U-701
1988年7月21日 CT発売 N28T-701
1992年11月21日 CD発売 NACL-1504
2000年12月6日 CD発売 WRCT-1001

 

数々の映画音楽をピアノソロ用にアレンジした
ピアノ・ソロアルバム、そのシリーズ第1作であり代表作

砂は湿り、水も冷たい。かもめが波しぶきの間をあてもなく飛び交う。
上昇、下降をくり返す。5:00am夏の日の浜辺。

 

 

ピアノ・ストーリーズについて

「Piano Stories」というアルバムは、日頃シンセサイザーを使用する仕事の多い僕が、一度原点に戻りたいということで制作したアルバムです。それがピアノソロだったわけで、まず虚飾を取り去り、表現をシンプルにする。そしてそれを如何に一枚のアルバムとして構成するか……それが、この作品の鍵となっていたわけです。

僕の音楽というのは、言ってみれば鏡のようなものです。

情緒や感性だけに流されずに表現したい……それはどんな作品でも必ず自分が心がけていることです。虚飾を取り去ったぎりぎりの音に出会った時、聴く人は自分のその時の状況、心境、その他いろいろな思い入れをそこに投影させることが出来る。しかし、逆に作家が思い入れを激しくすると、聴き手にその気持ちを限定してしまうということが起こるわけです。

このアルバムに関してもそれが言えて、ともするとメロディーに感情を込め過ぎて流されるところを、例えば左手の伴奏ひとつにしても出来るだけ表現をシンプルにして、右手で歌う。そういうシンプルさを心がけることによって、通常のピアノアルバムとは違った世界が作れるのではないかと考えたのです。

レコーディングには約3年程かかりました。1986年秋、ロンドンのサームウェストスタジオで、Resphoina、Lady of Spring、Green Requiem、そしてInnocentの4曲をベーゼンドルファーのピアノで、残りの曲はその後1988年1月、東京でスタインウェイのピアノで録音することが出来ました。

演奏方法は、かなりラフなスケッチを用意して、スタジオに入ってから即興的に演奏をしながら録音を進めていきました。それで出来るだけ自然に聴こえるように心がけたのです。

この楽譜を演奏するにあたって、特別に注意する点はありません。むしろ、音をひとつひとつ大切に、味わうように弾いて頂ければ曲の良さは出ると思います。ただ多少くせがあるのは、通常のクラシックのように3度とか6度などの指の配置からできているのではなく、比較的4度関係の音程が出てくるので、その点を心がけてもらえれば、僕が好んで出す響きについて、とてもわかりやすくなると思います。

ピアノという楽器は大変素晴らしい楽器で、たった一人のオーケストラと言われているように表現力が豊かです。これからも「Piano Stories 2」「Piano Stories 3」と、どんどん発展させていけたら、と思っています。そして皆さんに、それを一部でも弾いていただければ幸せです。

1989年1月 久石譲

(「Piano Stories -オリジナル・エディション」楽譜より 寄稿文)

 

 

「実は、僕の『Piano Stories』(1988年)を聞いて、タッチにマル・ウォルドロンと共通するものがあると指摘した友人が少なくなかった。いわれてみると、そうかもしれない。マルの曲はずいぶんコピーして弾いたことがあるからだ。たとえば、『レフト・アローン』の全曲、「オール・アローン」、ビリー・ホリデイに捧げたいくつかの曲だ。もちろん、アドリブのパートも含めてだ。だから、いつもまにか、マル風のピアノの弾き方が身に付いてしまっているのにちがいない。」

(書籍「I am 遙かなる音楽の道へ」 より 抜粋)

 

 

-この『ピアノ・ストーリーズ』というタイトルの由来は。

久石:
「映画のテーマを集めてはいるんですけど、その映画を見た人がああこの音楽はあの映画で見た時が懐かしかったね、と思うために作っているのではなくて、逆に映画で扱われた事を全然無視して、聞いた人が新たにストーリーを再構成するといいますか、新たに架空のサウンド・トラックみたいな感じでとらえて欲しい、ということで『Piano Stories』としたんです。」

Blog. 「キネマ旬報 1988年8月下旬号 No.991」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

2000年12月6日 リマスター盤CD発売

ジャケットをオリジナルデザインに完全復刻。
さらに音源もリマスターを加え、久石譲の原点が最新技術によりここに甦る。

銘器スタインウェイとベーゼンドルファーが深い陰影を刻む久石譲のピアノソロ。
RECORDING:1986.11~1988.1

Things left behind time

誰にも、過ぎ去った時の彼方に置き忘れてきたものがある。
それは心の奥深くに沈澱して、振り返られる時を静かに待ちつづけている。
久石譲の音楽は、心理時間と心理空間を共振させる重力場だ。
そこではもはや時間と空間は意識を失う。その重力場に足を踏み入れた者は出会うだろう。
忘れかけていたもの、忘れていたはずのものと。

 

「メロディこそが、送り手と聴き手の橋渡しになってくれるんです。どんなに複雑なアレンジの曲でも、しっかりしたメロディがあれば、それは人の心に残る。それはメロディが、時間軸と空間軸上の記憶回路だからなんですね。だから今はしっかりしたメロディを作ることを根本にしています。いいメロディさえあれば、バックがたとえどんなにアバンギャルドであっても許されると思うんです」(久石譲/1989年)

(デジタルリマスター盤 CDライナーノーツより)

 

 

久石譲 『piano stories』

Prologue:
1. A Summer’s Day [サマーズ・デイ]
Act 1:
2. Resphoina [レスフィーナ] (映画「アリオン」より)
3. W Nocturne [Wの悲劇] (映画「Wの悲劇」より)
Act 2:
4. Lady of Spring [早春物語] (映画「早春物語」より)
5. The Wind Forest [風のとおり道] (映画「となりのトトロ」より)
6. Dreamy Child [ドリーミー・チャイルド]
Act 3:
7. Green Requiem [グリーン・レクイエム] (映画「グリーン・レクイエム」より)
8. The Twilight Shore [砂丘] (映画「恋人たちの時刻より)
Act 4:
9. Innocent [空から降ってきた少女] (映画「天空の城ラピュタ」より)
10. Fantasia (for Nausicaä) [風の伝説] (映画「風の谷のナウシカ」より)
Epilogue:
11. A Summer’s Day [サマーズ・デイ]

Produced by JOE HISAISHI

All songs Composed and Arranged by JOE HISAISHI

Recorded at:
Sarm West Studio London
Hitokuchizaka Studio Tokyo
Taihei Studio Tokyo
Wonder Station Tokyo

Recorded on November 1986 ~ January 1988