Disc. 久石譲 『Piano Stories』

1988年7月21日 CD発売 N32C-701
1988年7月21日 LP発売 N28U-701
1988年7月21日 CT発売 N28T-701
1992年11月21日 CD発売 NACL-1504
2000年12月6日 CD発売 WRCT-1001

 

数々の映画音楽をピアノソロ用にアレンジした
ピアノ・ソロアルバム、そのシリーズ第1作であり代表作

砂は湿り、水も冷たい。かもめが波しぶきの間をあてもなく飛び交う。
上昇、下降をくり返す。5:00am夏の日の浜辺。

 

 

ピアノ・ストーリーズについて

「Piano Stories」というアルバムは、日頃シンセサイザーを使用する仕事の多い僕が、一度原点に戻りたいということで制作したアルバムです。それがピアノソロだったわけで、まず虚飾を取り去り、表現をシンプルにする。そしてそれを如何に一枚のアルバムとして構成するか……それが、この作品の鍵となっていたわけです。

僕の音楽というのは、言ってみれば鏡のようなものです。

情緒や感性だけに流されずに表現したい……それはどんな作品でも必ず自分が心がけていることです。虚飾を取り去ったぎりぎりの音に出会った時、聴く人は自分のその時の状況、心境、その他いろいろな思い入れをそこに投影させることが出来る。しかし、逆に作家が思い入れを激しくすると、聴き手にその気持ちを限定してしまうということが起こるわけです。

このアルバムに関してもそれが言えて、ともするとメロディーに感情を込め過ぎて流されるところを、例えば左手の伴奏ひとつにしても出来るだけ表現をシンプルにして、右手で歌う。そういうシンプルさを心がけることによって、通常のピアノアルバムとは違った世界が作れるのではないかと考えたのです。

レコーディングには約3年程かかりました。1986年秋、ロンドンのサームウェストスタジオで、Resphoina、Lady of Spring、Green Requiem、そしてInnocentの4曲をベーゼンドルファーのピアノで、残りの曲はその後1988年1月、東京でスタインウェイのピアノで録音することが出来ました。

演奏方法は、かなりラフなスケッチを用意して、スタジオに入ってから即興的に演奏をしながら録音を進めていきました。それで出来るだけ自然に聴こえるように心がけたのです。

この楽譜を演奏するにあたって、特別に注意する点はありません。むしろ、音をひとつひとつ大切に、味わうように弾いて頂ければ曲の良さは出ると思います。ただ多少くせがあるのは、通常のクラシックのように3度とか6度などの指の配置からできているのではなく、比較的4度関係の音程が出てくるので、その点を心がけてもらえれば、僕が好んで出す響きについて、とてもわかりやすくなると思います。

ピアノという楽器は大変素晴らしい楽器で、たった一人のオーケストラと言われているように表現力が豊かです。これからも「Piano Stories 2」「Piano Stories 3」と、どんどん発展させていけたら、と思っています。そして皆さんに、それを一部でも弾いていただければ幸せです。

1989年1月 久石譲

(「Piano Stories -オリジナル・エディション」楽譜より 寄稿文)

 

 

「実は、僕の『Piano Stories』(1988年)を聞いて、タッチにマル・ウォルドロンと共通するものがあると指摘した友人が少なくなかった。いわれてみると、そうかもしれない。マルの曲はずいぶんコピーして弾いたことがあるからだ。たとえば、『レフト・アローン』の全曲、「オール・アローン」、ビリー・ホリデイに捧げたいくつかの曲だ。もちろん、アドリブのパートも含めてだ。だから、いつもまにか、マル風のピアノの弾き方が身に付いてしまっているのにちがいない。」

(書籍「I am 遙かなる音楽の道へ」 より 抜粋)

 

 

-この『ピアノ・ストーリーズ』というタイトルの由来は。

久石:
「映画のテーマを集めてはいるんですけど、その映画を見た人がああこの音楽はあの映画で見た時が懐かしかったね、と思うために作っているのではなくて、逆に映画で扱われた事を全然無視して、聞いた人が新たにストーリーを再構成するといいますか、新たに架空のサウンド・トラックみたいな感じでとらえて欲しい、ということで『Piano Stories』としたんです。」

Blog. 「キネマ旬報 1988年8月下旬号 No.991」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

2000年12月6日 リマスター盤CD発売

ジャケットをオリジナルデザインに完全復刻。
さらに音源もリマスターを加え、久石譲の原点が最新技術によりここに甦る。

銘器スタインウェイとベーゼンドルファーが深い陰影を刻む久石譲のピアノソロ。
RECORDING:1986.11~1988.1

Things left behind time

誰にも、過ぎ去った時の彼方に置き忘れてきたものがある。
それは心の奥深くに沈澱して、振り返られる時を静かに待ちつづけている。
久石譲の音楽は、心理時間と心理空間を共振させる重力場だ。
そこではもはや時間と空間は意識を失う。その重力場に足を踏み入れた者は出会うだろう。
忘れかけていたもの、忘れていたはずのものと。

 

「メロディこそが、送り手と聴き手の橋渡しになってくれるんです。どんなに複雑なアレンジの曲でも、しっかりしたメロディがあれば、それは人の心に残る。それはメロディが、時間軸と空間軸上の記憶回路だからなんですね。だから今はしっかりしたメロディを作ることを根本にしています。いいメロディさえあれば、バックがたとえどんなにアバンギャルドであっても許されると思うんです」(久石譲/1989年)

(デジタルリマスター盤 CDライナーノーツより)

 

 

久石譲 『piano stories』

Prologue:
1. A Summer’s Day [サマーズ・デイ]
Act 1:
2. Resphoina [レスフィーナ] (映画「アリオン」より)
3. W Nocturne [Wの悲劇] (映画「Wの悲劇」より)
Act 2:
4. Lady of Spring [早春物語] (映画「早春物語」より)
5. The Wind Forest [風のとおり道] (映画「となりのトトロ」より)
6. Dreamy Child [ドリーミー・チャイルド]
Act 3:
7. Green Requiem [グリーン・レクイエム] (映画「グリーン・レクイエム」より)
8. The Twilight Shore [砂丘] (映画「恋人たちの時刻より)
Act 4:
9. Innocent [空から降ってきた少女] (映画「天空の城ラピュタ」より)
10. Fantasia (for Nausicaä) [風の伝説] (映画「風の谷のナウシカ」より)
Epilogue:
11. A Summer’s Day [サマーズ・デイ]

Produced by JOE HISAISHI

All songs Composed and Arranged by JOE HISAISHI

Recorded at:
Sarm West Studio London
Hitokuchizaka Studio Tokyo
Taihei Studio Tokyo
Wonder Station Tokyo

Recorded on November 1986 ~ January 1988

 

コメントする/To Comment