Info. 2022/02/18 GS9 Club「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」久石譲インタビュー 限定公開 【2/21 Update!!】

Posted on 2022/02/18

グランドセイコー会員制ウェブサイトGS9Clubに久石譲インタビューが公開されました。「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」コーナーです。会員限定ですが見れる方はどうぞお楽しみください。 “Info. 2022/02/18 GS9 Club「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」久石譲インタビュー 限定公開 【2/21 Update!!】” の続きを読む

Overtone.第61回 「ボイジャー マックス・リヒター・ベスト」を聴く

Posted on 2021/02/20

ふらいすとーんです。

シリーズ マックス・リヒターです。

 

 

マックス・リヒターについては、まずはガツンと1曲!代表曲「On the Nature of Daylight」を。そして、今回取り上げるベスト盤(2019)以降の最新アルバムや映画音楽を先に紹介してきました。正確にいうと、ホットな最新アルバムはあと2枚(Exiles, 2021 / Invasion TV series, 2022)あります、それはまたいつの日か機会があれば。

もし、ちょっと好奇心わいてきたなと思っていた頃の人は、おそらくこれでノックアウトしてもらえるかな?!そう思います。ベスト盤からということで、すごくボリューム感じるOvertoneかもしれませんが、曲数多め、文字数少なめ、心がけていきます。

 

 

圧倒的支持を受けるポスト・クラシカルのカリスマ、究極のベスト・アルバム

■2012年ヴィヴァルディ《四季》のリコンポーズ(再作曲)作品『25%のヴィヴァルディ』が英米独のiTunesクラシック・チャートで第1位、2015年、演奏時間8時間に及ぶ眠りのための音楽『スリープ』など、革命的な作品を発表するとともに、映画・ドラマのサントラにひっぱりだこの超売れっ子、マックス・リヒターの究極の2枚組ベスト盤。

■彼自身のオリジナル・アルバムからの代表作に加え、サントラからも選曲し、ポスト・クラシカル(ネオ・クラシカル)の代表的作曲家の作品を俯瞰できるベスト盤です。

■今年3月、15年ぶりの来日を果たし、すみだ平和祈念音楽祭2019の『マックス・リヒター・プロジェクト』で《インフラ》《ブルー・ノートブック》《メモリーハウス》とリコンポーズド《四季》など主要作を演奏し話題となった。

■9月6日公開の映画『荒野の誓い』(新宿バルト9ほか全国公開)のサントラからも1曲収録、さらに9月20日公開のブラッド・ピット主演SF映画『アド・アストラ』の音楽を担当、こちらは彼自身初のハリウッドSF大作ということで更に話題となりそうです。

(メーカー・インフォメーション / 2019 より)

 

 

補足です。

2002年ソロ・デビューから約20年にわたる音楽がきれいに網羅されています。[CD1]はオリジナル・アルバムから、[CD2]はサウンドトラックからです。また原曲発表時のオリジナル版ではなく、新たに再録音されたものが2,3曲あります。生粋のファンでもすぐには気づかないほどの奏者や音色の変化(例えばエレピがナマピに変わったとか)です。このベスト盤にしか収録されていない初出ボーナストラック2曲あります。

つまりは。「マックス・リヒター? 知ってるよ!」と言って大丈夫になる一枚です。約40枚以上のアルバムを出してきて、全部聴いたことはなくても、このベスト盤を聴いた人は、「マックス・リヒター? 聴いたことあるよ!」と胸張って言っていいくらい。あなたには、マックス・リヒター音楽に親しんだという記念スタンプがもらえます。

 

 

ボイジャー  マックス・リヒター・ベスト [SHM-CD]
VOYAGER ESSENTIAL MAX RICHTER

[CD1]

1.オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト (アルバム《ブルー・ノートブック》より)
2.午後のカタログ (アルバム《ブルー・ノートブック 15周年記念盤》より)
3.スプリング(春)0 (アルバム《25%のヴィヴァルディ》より)
4.スプリング(春)1 (アルバム《25%のヴィヴァルディ》より)
5.オータム・ミュージック 2 (アルバム《ソングズ・フロム・ビフォー》より)
6.《オーランドー》 ~モジュラー天文学 (アルバム《3つの世界:ウルフ・ワークスより》より)
7.ウラディミールのブルース (アルバム《ブルー・ノートブック》より)
8.ノヴェンバー (《メモリーハウス》より)(アルバム《マリ》(マリ・サムエルセン)より)
9.ドリーム 3  (イン・ザ・ミドゥスト・オブ・マイ・ライフ)(アルバム《フロム・スリープ》より)
10.ホープ・ストリングス・エターナル (アルバム《24ポストカード・イン・フル・カラー》より)
11.イコノグラフィー (アルバム《ブルー・ノートブック》より)
12.シモン=クルベリエ通りからの環状道路 (アルバム《24ポストカード・イン・フル・カラー》より)
13.インフラ 8 (アルバム《インフラ》より)
14.《ダロウェイ夫人》 ~戦争賛歌 (アルバム《3つの世界:ウルフ・ワークスより》より)
15.ララバイ・フロム・ザ・ウエストコースト・スリーパーズ (アルバム《24ポストカード・イン・フル・カラー》より)
16.サンライト (アルバム《ソングズ・フロム・ビフォー》より)
17.《ダロウェイ夫人》 ~庭で (Spotify シングル)
18.ブロークン・シンメトリーズ・フォー・Y (アルバム《24ポストカード・イン・フル・カラー》より)
19.慈悲(ライヴ録音) (《ヒラリー・ハーン ベスト》より)
20.ドリーム・ソロ(初出) ボーナストラック
21.パス・ソロ(初出) ボーナストラック

[CD2]

1.ビギニング・アンド・エンディング (映画《コングレス未来学会議》オリジナル・サウンドトラックより)
2.旅立ち (TV《LEFTOVERS/残された世界》シーズン1 オリジナル・サウンドトラックより)
3.容赦なく進むジェームズ (TV《TABOO タブー》オリジナル・サウンドトラックより)
4.若きマリナー (映画《ヘンリー・メイ・ロング》オリジナル・サウンドトラックより)
5.トリガー (映画《ホワイト・ボーイ・リック》オリジナル・サウンドトラックより)
6.エレナとリラ (TV《マイ・ブリリアント・フレンド》オリジナル・サウンドトラックより)
7.祝福 (TV《LEFTOVERS/残された世界》シーズン1 オリジナル・サウンドトラックより)
8.ライド・トゥ・マラソン・ステーション (映画《ホワイト・ボーイ・リック》オリジナル・サウンドトラックより)
9.失われた人生の嘆き (TV《TABOO タブー》オリジナル・サウンドトラックより)
10.心の眼 (映画《ネバー・ルック・アウェイ》オリジナル・サウンドトラックより)
11.ホエア・ウィー・ビロング (映画《荒野の誓い》オリジナル・サウンドトラックより)
12.ニュー・ジェネレーション  (映画《ふたりの女王 メアリーとエリザベス》オリジナル・サウンドトラックより)
13.オン・リフレクション (TV《ブラック・ミラー》~「ランク社会」オリジナル・サウンドトラックより)
14.裏事情 (映画《女神の見えざる手》オリジナル・サウンドトラックより)
15.ユア・リフレクション (TV《マイ・ブリリアント・フレンド》オリジナル・サウンドトラックより)
16.その場所を初めて知るだろう (TV《LEFTOVERS/残された世界》シーズン3 オリジナル・サウンドトラックより)
17.取り残された女 (映画《荒野の誓い》オリジナル・サウンドトラックより)
18.アワ・リフレクション (TV《マイ・ブリリアント・フレンド》オリジナル・サウンドトラックより)
19.ウェルシュ父子 (映画《ホワイト・ボーイ・リック》オリジナル・サウンドトラックより)
20.ミス・スローン・ソロ (映画《女神の見えざる手》オリジナル・サウンドトラックより)
21.旅立ち ((TV《LEFTOVERS/残された世界》シーズン1) アルバム《ピアノ・ブック》(ラン・ラン)より)
22.あなたのことを忘れない (映画《戦場からのラブレター》オリジナル・サウンドトラックより)

合計収録時間 | 02:36:38

 

[CD 1]

1. On the Nature of Daylight (The Blue Notebooks)
2. A Catalogue of Afternoons (The Blue Notebooks)
3. Spring 0 (Recomposed By Max Richter: Vivaldi, The Four Seasons)
4. Spring 1 (Recomposed By Max Richter: Vivaldi, The Four Seasons)
5. Autumn Music 2 (Songs From Before)
6. VI. Orlando: Modular Astronomy (Three Worlds: Music From Woolf Works)
7. Vladimir´s Blues (The Blue Notebooks)
8. November (Memoryhouse) // From Mari (Mari Samuelsen))
9. Dream 3 (in the midst of my life) (From Sleep)
10. Hope Strings Eternal (24 Postcards in Full Colour)
11. Iconography (The Blue Notebooks)
12. Circles From the Rue Simon – Crubellier (24 Postcards in Full Colour)
13. Infra 8 (Infra)
14. III. Mrs Dalloway: War Anthem (Three Worlds: Music From Woolf Works)
15. Lullaby From The Westcoast Sleepers (24 Postcards in Full Colour)
16. Sunlight (Songs From Before)
17. In The Garden (Spotify Singles)  (Three Worlds: Music From Woolf Works)
18. Broken Symmetries For Y (24 Postcards in Full Colour)
19. Mercy – Live (Retrospective – Hilary Hahn)
20. Dream Solo (new “Sleep” bonus tracks)
21. Path Solo (new “Sleep” bonus tracks)

[CD 2]

1. Beginning and Ending (The Congress (OST))
2. The Departure (The Leftovers: Season 1 (Music From the HBO Series))
3. The Inexorable Advance Of Mr. Delaney (Taboo (Music From The Original TV Series))
4. The Young Mariner (The Young Mariner)
5. Trigger (White Boy Rick (Original Motion Picture Soundtrack))
6. Elena & Lila (My Brilliant Friend (TV Series Soundtrack))
7. A Blessing (The Leftovers: Season 1 (Music From the HBO Series))
8. Ride To Marathon Station (White Boy Rick (Original Motion Picture Soundtrack))
9. Lamentation For A Lost Life (Taboo (Music From The Original TV Series))
10. The Mind´s Eye (Never Look Away (Original Motion Picture Soundtrack))
11. Where We Belong (Hostiles (Original Motion Picture Soundtrack))
12. A New Generation (Mary Queen Of Scots (Original Motion Picture Soundtrack))
13. On Reflection (Black Mirror – Nosedive (Music From The Original TV Series))
14. Wheels Within Wheels (Miss Sloane (Original Motion Picture Soundtrack))
15. Your Reflection (My Brilliant Friend (TV Series Soundtrack))
16. And Know The Place for The First Time (The Leftovers: Season 3 (Music From the HBO Series))
17. A Woman Alone (Hostiles (Original Motion Picture Soundtrack))
18. Our Reflection (My Brilliant Friend (TV Series Soundtrack))
19. Wershe & Son (White Boy Rick (Original Motion Picture Soundtrack))
20. Miss Sloane Solo (Miss Sloane (Original Motion Picture Soundtrack))
21. The Departure (The Leftovers: Season 1 (Music From the HBO Series) // From Piano Book (Lang Lang))
22. I Will Not Forget You (Testament of Youth (Original Motion Picture Soundtrack))

Total Time | 02:36:38

 

 

さてどの曲を紹介しよう。

抜かりなく包括的にセレクトされたベストアルバム全43曲です。1曲ごとの音量や音質といったミキシングも整えられていますし、原曲では曲間がつながっている曲もきれいに単曲処理されています。

リリースに連動して、マックス・リヒター本人による楽曲解説プロモーション動画があります。原版よりも1,2曲分少ないですが、日本語テロップ付き公式動画(各1分)はユニバーサルミュージックジャパンから9曲分公開されています。そんなことで偏った好みで紹介してしまうよりも、こちらを案内役におまかせしたいと思います。

 

1

Max Richter – On the Nature of Daylight

from MaxRichterMusic Official YouTube

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」

from UNIVERSAL MUSIC JAPAN

この曲についてはたっぷり語っています。永遠の代表曲です。

 

 

2

Vladimir’s Blues – The Blue Notebooks (2004)

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「ウラディーミルのブルース」

音型の動きと蝶々のヒラヒラした羽の動き、おもしろいですね。自身が音楽を担当したTVドラマ『LEFTOVERS/残された世界』にも使用されています。以降、同じように書きますが、すべてオリジナル・アルバムにオリジナル曲として発表したのちに、映画・テレビの挿入曲として新たに使用されるという流れです。原曲をそのまま使用している場合は、サントラ盤には改めて収録はしていないことがほとんどです。

唐突に久石譲。「WAVE」とい曲があります。音型の動きをみると、ひとつの大きな波が無数の小さな波の繰り返しへと、パターン音型がそうなっているようにも感じてきますね。浜辺へ寄せては返す波のように。ミ・ラ・ド#・ラ・ド#・ラ・ド#・ラ~、E-A-C#-A-C#-A-C#-A~、1度-4度-6度-4度-6度-4度-6度~

 

 

3

Richter: November

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「ノヴェンバー」

2018年ヴァイオリン奏者マリ・サムエルセンのデビューアルバム『MARI』のために再録音したヴァージョンが収録されています。ヴァイオリン・ソロと弦楽オーケストラだけなのに、竜巻のような重厚な響きは圧巻です。自身が音楽を担当した映画『ネバー・ルック・アウェイ』やTVドラマ『LEFTOVERS/残された世界』にも使用されています。フィギュアスケートの演技曲などにも使用されている人気曲です。

 

 

4

Max Richter – Dream 3 (in the midst of my life)

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「ドリーム3」

眠りに誘うための音楽『スリープ』は全曲8時間におよぶ大作です。その核となる2つの主題(Dream/Path)のうち「ドリーム」です。なんと8時間演奏するコンサートも世界各地で開催されています。日本もスケジュールに入っていたところに…いつか叶いますように。コンサートの模様やドキュメンタリーから構成された映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』もいよいよ2021年日本公開はじまりました。

代表曲のひとつです。心地よいエレクトロニクス、ゆったりとした波形を描くような音響、そして下降音形の低音ベースが深い深い眠りへと落ちていくように誘います。[CD1]ボーナストラック収録された「20. Dream Solo」「21.Path Solo」はベスト盤でしか聴けない貴重なピアノソロ・ヴァージョン。そして秀逸ヴァージョンです。

ひと口には語れない作品『スリープ』。まずはベスト盤収録の3曲を堪能してみてください。そしてかなり気に入ったら8時間版はさらにおすすめです。たしか2015年8CD-BOXしかなかったものが、2018年デジタル・リリース解禁されていたと思います。『フロム・スリープ』という1時間版CD/DLもあります(8時間版からの抜粋ではない、こちらは起きているときに聴く音楽というコンセプト、曲調は似ているけれど、違うんですね、)。またいつかゆっくり記したい作品です。

 

 

5

Richter: Iconography

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「イコノグラフィー」

オルガンとヴォイスからなる曲です。とてもシンプルなのに陳腐に聴こえない深い味わいがある。ひとつひとつの声部はシンプル音型なんだけれど、並走していると隣り合う音がぶつかるときがくる。本来なら濁ってしまう音たちも、考えぬかれた精緻な声部の織りなす流れで奥ゆかしくなる。そう、バッハや久石譲の対旋律や内声から生まれる深いハーモニーのように。

 

 

6

Max Richter – Infra 8 [Infra]

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「インフラ8」

前述したマリ・サムエルセンのデビューアルバム『MARI』(2019)には、この曲を発展させた約8分におよぶヴァイオリン独奏版、曲名改め「Vocal」が収録されています。今回整理していて気づきました。

ほんと、マックス・リヒターという人は、広くこういうことをする人なんです。ソロアルバムから映画へ使用することはかなり頻度高いです。また、ひとつの曲を編曲版や変奏版で発展させて複数のアルバム(オリジナル/サントラ/他アーティスト)に点在させる。このときに曲名が変わったりする…。いろいろな境界線を越えて、自身の音楽が関連しあいながら点線しています。すべてはつながっているかのように。

 

 

7

Richter: Lullaby From The Westcoast Sleepers

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「ララバイ・フロム・ザ・ウエストコースト・スリーパーズ」

着信音をちゃんとした音楽とするというコンセプトがおもしろいですね。オリジナル・アルバムには24曲の短い曲たちが収録されています。この曲を聴くといつも雨が恋しくなります。自身が音楽を担当した映画『男と女、モントーク岬で』にも使用されています。

マックス・リヒターはソロ・デビュー前、6人のピアニストからなるグループ「ピアノ・サーカス」として活動していて、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーらの曲を演奏・録音も残しています。ミニマル・ミュージックがひとつのルーツにあることが経歴からも曲からもちゃんとわかります。

 

 

8

Richter: Mercy (Live)

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「慈悲」

ヒラリー・ハーンのアルバム『27の小品』にセッション録音版がありますが、ここに収録されたのは『ヒラリー・ハーン ベスト』のライヴ録音版です。この曲は、のちにマックス・リヒターの『VOICE』(2020)にマリ・サムエルセンの演奏で収録されることになっていきます。とても重要な曲です。そして久石譲MFコンサートでもパフォーマンスされたことのある(Vn:豊嶋泰嗣)曲です。

ということを、たっぷり語っています。

 

 

9

The Departure

『ボイジャー』~マックス・リヒターが語る「旅立ち」

シーズン3まであるTVドラマ『LETTOVER/残された世界』のメインテーマです。短いピアノソロ曲ですが、原型はオリジナル・アルバム『メモリーハウス』(2002ソロデビュー作)の「The Twins (Prague)」、同じくピアノソロ曲であったものを、少しかたちを変えてアレンジしたものです。微細な音符の変化や配置で、どう洗練されていったのか、聴き比べてみるとおもしろいです。

 

 

3曲だけプラスしたい。

マックス・リヒター音楽は、ピアノ、ストリングス、キーボード、エレクトロニクス、ヴォイスを中心とした曲づくりが多いです。音色的トーンや雰囲気といったものも近くなってきます。プロモーション動画にそった9曲は、ほとんどがオリジナル・アルバム収録曲からでした。かつ、アコースティック中心だったので、ちょっと角度をかえた3曲をプラスでご紹介します。

 

plus1

Recomposed by Max Richter – Vivaldi – The Four Seasons, 1. Spring (Official Video)

オリジナル・アルバム『25%のヴィヴァルディ』タイトルとおり、原曲の素材を25%だけ残し、あとは新しく再構築(リコンポーズ)する手法でつくられた曲です。新たな魅力と新たな音楽ファンを発掘してみせた、マックス・リヒター人気に火がつくターニングポイントです。”昔から好きだった原曲、いつしか飽き始めていた、どうしたらもう一度《四季》を好きになれるか、再発見してみたかった” この着想からうまれた曲です。弦楽合奏なのに、なんとカラフル、なんとみずみずしい、なんと絵画的、なんと光が射しこめる。

パターンの反復、ひとつのモチーフをくり返しながら発展させていくスタイルは、ミニマル・ミュージックにも共通点あります。ひとつひとつの素材から構築されていくバロック~古典あたりまでのクラシック音楽と、ミニマル手法の現代音楽。バッハやベートーヴェンと、マックス・リヒターや久石譲。

たしかこの作品から《冬》、「久石譲 presents ミュージック・フューチャー」コンサートシリーズのわりと若い番号のとき、プログラム予定演目にもなっていたと記憶しています。諸般の事情があったのでしょう、実現は叶いませんでしたけれど。久石譲もしっかり注目していた曲、そう言われると興味わいてきますか?

 

 

plus2

Richter: Trigger (From “White Boy Rick” Soundtrack)

いろいろなトリガーがあるなと思います。良いトリガー、悪いトリガー。好ましいトリガー、望まないトリガー。引き金がはじける瞬間。なんか聴いてしまう曲です。

 

 

plus3

Richter: Wershe & Son (From “White Boy Rick” Soundtrack)

父子のテーマを描いた曲です。親子の絆のようなもの。それとは離れると思いますが、いつもイメージしてしまう光景があります。冬の朝、白い息を吐きながら公園を散歩する。澄んだ空気と自然界の音、ベンチで温かいコーヒーでも飲みながら。なんでこのイメージなのかはわかりません不思議です。

 

 

『ボイジャー マックス・リヒター・ベスト』は、公式音源も全曲公開されていたりと、お手軽に各プラットホームでフルに聴けると思います。気に入った1曲から、収録された元アルバムへと好奇心をつなげていく楽しみがあります。

また日本盤CDライナーノーツは、久石譲CD作品やジョン・ウィリアムズCD作品でもおなじみ、前島秀国さんによる楽曲解説です。11ページにも及ぶ細やかに行き届いた手引きは、きっと心強い案内人になってくれます。それもそのはず、マックス・リヒターのほとんどの日本盤CDライナーノーツ(オリジナル・アルバム/サウンドトラック)は前島秀国さんの筆によるものなんです。

あまりにも、《マックス・リヒター音楽とは》をお見事に表現されてあったので、ベスト盤ライナーノーツの冒頭の導入部から抜粋して紹介させてもらいます。

 

”せわしない日常を、スローモーションに変えてくれる落ち着いた音楽。淡々とパターンを繰り返しながら、いつの間にか身体の奥まで染み込んでいく音楽。ピアノや弦楽アンサンブルを中心としたモノクロームの音楽で奏でられるのに、色の深みを感じさせてくれる暖かい音楽。行ったことも、見たこともない風景を、蜃気楼のように浮かび上がらせる幻想的な音楽。聴こえなくなったものを改めて聴かせ、見えなくなったものを改めて見せてくれる力を持った音楽。諍いやテロで傷ついた人々を深くいたわりながら、木漏れ日のように希望を垣間見せてくれる音楽──つまり、今の時代に求められている音楽を書く作曲家が、マックス・リヒターである。”

(CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

 

 

むすび。

ベスト3はこのなかにありません。

紹介してきた計12曲のなかに、マイベスト3はありません。ベスト5まで広げると1,2曲はライクインするかもしれない。同じように、あなたの一番好きになる一曲はこのなかにはないかもしれません。

久石譲ベストアルバム『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』全28曲から、マイベスト3のアンケートをとったら、完全一致する人はそういないと思います。同じように、『ボイジャー マックス・リヒター・ベスト』全43曲から、とっておきのマイベスト3と出会ってほしいなと思います。

たとえベストアルバムから選んでも人気曲が集中しない。人それぞれのマイベストがある。そう言えちゃうほどのクオリティと魅力ある曲たちが粒ぞろい。マックス・リヒターすごいです。そして言わずもがな久石譲すごいです。

もし、ベスト盤を気に入ってもらえたなら。これからまた登場するかもしれないマックス・リヒターのOvertoneも楽しみにしていただけたらうれしいです。

 

それではまた。

 

reverb.
このボリュームで日本盤SMH-CDで2500円で愛蔵盤です♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・レポート

Posted on 2022/02/16

2月9日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサートです。当初予定からの延期公演です。プログラムも新たにアップデートされリアルチケットは完売御礼。さらに、Vol.2,3に引き続いてライブ配信もあり、国内外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4

[公演期間]  
2022/02/09

[公演回数]
1公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター/ヴァイオリン・ソロ:近藤薫

[曲目] 
レポ・スメラ:Musica Profana
久石譲:Winter Garden

—-intermission—-

ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 Op.90

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調

 

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

Future Orchestra Classicsの第4回目のコンサートを迎えることができました。大勢のお客様がご来場されたことに心から感謝いたします。

ブラームス交響曲ツィクルスの今回は第3番です。他に僕の「Winter Garden」、スメラの弦楽合奏曲「Musica Profana」といつも通り現代と古典楽曲を組み合わせたプログラムを用意しています。

ブラームスの第3番を演奏するたびに僕は高畑勲さんとのやりとりを思い出します。

映画「かぐや姫の物語」のファイナルダビングの最中、ロビーでこの第3番のポケットスコア(総譜)を勉強していたところ、通りかかった高畑さんが嬉しそうにそのスコアの最終ページを指差し、「ここですよ!ここ!第1楽章のテーマがまた出てきて!・・・・最高なんですよ!」。僕は呆気に取られていたのですが、同時に高畑さんの音楽に対しての深い造詣、もちろん映画、美術、文学に対してもそうなのですが、心から楽しんでおられた姿に感動しました。

高畑さんが愛してやまなかったこの楽曲を、今晩皆さんの前で演奏できることを本当に嬉しく思っています。

最後に、今とても長い冬が続いています。
が、春はもうすぐ訪れます。
頑張っていきましょう!

2022年2月初旬 久石譲

 

 

レポ・スメラ:Musica Profana(1997)

エストニアのレポ・スメラ(1950-2000)は、アルノルト・シェーンベルクの対位法を研究するなど、現代音楽の技法をベースに、交響曲から映画音楽まで幅広く表現してきた作曲家。晩年はコンピューターを用いた曲作りにも傾倒し、人間の心臓の鼓動を使った「Heart Affairs」を発表するなど、意欲的な試みを続けてきた。

室内楽の作曲家としても評価が高く、スメラの楽曲は世界中で演奏されている。「Musica Profana」もその一つで、イタリア語で”世俗音楽”と名付けられたこの曲は、すべてのパートが同じモチーフで力強く進行しながら、中間部より高音部パートに遅れて低音部パートが追いかける構成で、バロック時代の弦楽協奏曲を彷彿とさせながら、高揚感とエネルギーを獲得している。一方で、リズミカルな流れは突如、反射的に停止し、中断を繰り返しながら進行する。映画音楽のようなこの手法は、スメラが他の楽曲でも用いてきたもので、音の運動性を研究し尽くした作曲家ならではの魅力に溢れている。

 

 

久石譲:ウィンター・ガーデン(2014年版)
Joe Hisaishi:Winter Garden (2006/2014)
・1st movement
・2nd movement
・3rd movement

「Winter Garden」は、2006年に鈴木理恵子さんのSolo Album用にヴァイオリンとピアノのために作曲したもの(全2楽章)をベースにして、ヴァイオリン・ソロとオーケストラの小協奏曲として、2010年の改訂の際に新たに第3楽章を付け加えた。さらに2014年に大幅改訂し、よりヴァイオリンとオーケストラのコントラストを際立たせつつ、ミニマルの手法になぞらえた作品とした。

8分の15拍子の軽快なリズムをもった第1楽章、特徴ある変拍子のリズムの継続と官能的なヴァイオリンの旋律による瞑想的な雰囲気を持つ第2楽章。そして第3楽章は、8分の6拍子を基調とし、ソロパートとオーケストラが絶妙に掛け合いながら、後半はヴィルトゥオーゾ的なカデンツァをもって終焉へと向かっていく。

ヴァイオリン・ソロを担当するFOCのコンサートマスターである近藤薫の演奏を心から楽しみにしている。

久石譲

 

 

ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 作品90

*寺西基之氏による一頁楽曲解説

 

(「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

レポ・スメラ:Musica Profana(1997)

約12分の作品です。久石譲がホットに取り上げている作曲家レポ・スメラは、前回FOC Vol.3「交響曲 第2番」(2021.7開催)、日本センチュリー交響楽団定期演奏会「チェロ協奏曲」(2021.9開催)、MF Vol.8「1981 from “Two pieces from the year 1981”」(2021.10開催)、これらのプログラム歴を見てもよくわかると思います。

そして今回、この作品を聴いてみると、久石譲が取り上げている理由も説明の必要ないくらいよくわかる、肌でひしひし感じることができました。久石譲作品と並列してもなじみよく親近感すら感じてくる作品です。

楽曲解説からふれると「すべてのパートが同じモチーフで力強く進行しながら~」、ときに全奏者で一斉にユニゾンする旋律の圧力たるやすごいです。まるで太い一本の稲妻のよう。そして声部(楽器パート)が枝分かれしていくさまもまた稲妻の閃光が散っていくようです。一気に弦楽オーケストラのうねりに引き込まれていきます。

楽曲解説からふれると「中間部より高音部パートに遅れて低音部パートが追いかける構成で~」「一方で、リズミカルな流れは突如、反射的に停止し、中断を繰り返しながら~」、このあたりを言葉で眺めてみても、久石譲のあの作品もそういうところあるよね、と曲が浮かぶ人いるかもしれませんね。この作品は、どの箇所のことかすぐに見つけることができるくらい明快な構成を聴きとることができると思います。

楽曲解説からふれると「音の運動性を研究し尽くした作曲家ならでは~」、今の久石譲の志向性からも俄然近しい距離感に感じているのかもしれませんね。この1~2年で驚異の短期間に発表された久石譲:交響曲第2番・第3番も運動性をコンセプトに追求した作品づくりになっています。

ほんと弦楽オーケストラらしい作品だなと思います。たとえばデッサンを鉛筆や木炭を使って巧みに表現するような趣を感じます。弦楽合奏なので楽器の色彩感はないけれど、モノクロだけで鋭角な線を描いたり(たとえばヴァイオリンだけで鋭く)、太く(力強くユニゾンで)、ぼかしたり影をつけたり錯覚効果を狙ったり(旋律のズレやハーモニー)、輪郭線をはっきりさせたり(アクセントやフレージング)。そんなことをイメージクロスさせながら聴くと、久石譲作品「Encounter for String Orchestra」「I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~」なんかもまたおもしろい出会い方があるかもしれませんね。そして未音源化の「螺旋」という弦楽作品もまだまだ控えているのです。

現代作品であり演奏も現代的です。リズムを重視したソリッドなアプローチは一貫しています。「タ~ラッ」となりそうなところも徹底的に「タッタッ」と横に流れない縦のラインをきっちりそろえたパフォーマンスは意識向きだすと病みつきになってきます。たとえば、音楽に乗って体が横に揺れてリズムとっているなら「タ~ラッ」、一方で首を縦に振ってリズムをとっているなら「タッタッ」となる、そんなイメージです。ただこれを一貫してキープするのはとてもとてもな集中力です。たとえ聴いている人でも、一曲のなかで体は横にも縦にも動きながらリズムにのっているのが普通ですよね。

リズムを刻む動パートであっても、ゆるやかな静パートであっても、旋律に抑揚をつけたりだんだん大きくしたりしていないのは、かなり徹底していたんじゃないかなと推測です。同じ強さと大きさですーっと伸びている。あくまで高音から低音までの楽器の出し入れで音の大きさや厚みをつくっている。その効果を狙っているからこその弦楽合奏。そんなこともまた感じました。

コンサートマスターの近藤薫さんは、次の演目でヴァイオリン・ソロを担当することもあって、この作品にはいませんでした。協奏曲をプログラムしたクラシック演奏会ではよく見られる光景です。このあとに向けて集中力高めてスタンバイしているところです。

 

 

久石譲:ウィンター・ガーデン(2014年版)
Joe Hisaishi:Winter Garden (2006/2014)

約20分の作品です。そういうこともあってか久石譲は「小協奏曲」と控えめに(?)言っているのでしょうか(?)。小協奏曲の概念にはいろいろ分類パターンがあるようですが、正確には20分を切りそうなこの作品はおそらく時間的な尺度から「小」としているのだろうと思います。久石譲作品「コントラバス協奏曲」や「The Border(ホルン協奏曲)」は約25-30分の作品です。時間というのは作品の大きさを表すうえで作曲家にとって大切なひとつだと思います。ですが!!とっぱらってもらって「協奏曲」でいい!!堂々たる「ヴァイオリン協奏曲」だ!!という強い気持ちを語っていきたいと思います。

 

その前に作品経歴です。

楽曲解説からふれると「2006年に鈴木理恵子さんのSolo Album用にヴァイオリンとピアノのために作曲したもの(全2楽章)をベースにして、ヴァイオリン・ソロとオーケストラの小協奏曲として、2010年の改訂の際に新たに第3楽章を付け加えた。さらに2014年に大幅改訂し~」、このとおりです。

・2006年 CD発表(Vn&Pf版)
・2007年 WDO(Orchestra版 全2楽章)
・2010年 WDO 豊嶋泰嗣
・2014年 ジルベスター 岩谷祐之
・2016年 上海 五嶋龍
・2022年 FOC 近藤薫

すごいですね。演奏機会は少ないなか日本を代表するヴァイオリン・トッププレーヤーがこの作品を演奏してきたことがわかります。今回満を持してFOCで披露となったわけですが、同時にそれは秘められてきた珠玉の作品が光放たれる瞬間でもありました。

 

・室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra(2015)
・Contrabass Concerto(2015)
・室内交響曲第2番《The Black Fireworks》〜バンドネオンと室内オーケストラのための〜(2017)
・The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra(2020)

これから先リリースされる日が来たとしても(いや来ますよね願)、オーケストラ版全3楽章となった2010年を点としても、作品系譜としては一番若い作品になります。これは久石譲作品を線でつなげていきたい人は押さえておきたい。もし仮にいうなれば、《協奏作品 第1番》それが「Winter Garden」にほかなりません。

 

もっと。

”実はこの「Links」を作る前に「Winter Garden」というヴァイオリンとピアノのための曲を書いたのだが、変拍子のリズムと、それでも違和感が無いメロディーが合体するヒントが掴めた。それと同じアプローチでオーケストラに発展させたものが「Links」だ。この「Links」を書いたことによって、徐々に自分の中でミニマル・ミュージックへ戻るウォーミング・アップが出来た。”

(『Minima_Rhythm ミニマリズム』CDライナーノーツより 抜粋)

 

そうなんです。「Winter Garden」があったから「Links」があるんです。そして「Orbis」「The End of The World」「Sinfonia」輝かしい久石譲オリジナル作品群の新しい歴史が進んでいくことになります。「Links」も8分の15拍子の曲です。Winter Garden 第1楽章のリズムのとり方とはまた違うからおもしろい。

 

 

第1楽章
1st movement

急緩急の全3楽章の第1楽章は、口ずさみたくなるくらい印象的なモチーフから始まります。8分の15拍子を基調としていますが、リズムは2・2・3/2・3・3で取っています。モチーフを分解すると7拍と8拍(15拍子=1モチーフ)に大きく切り分けることができます。そこに斜線を入れました。ここで注目してほしいのが、後ろの8拍のところは4拍子のような2・2・2・2じゃなくて2・3・3でリズムに乗りましょう。このグルーヴ感は曲が進行するなかでよりはっきりと活きてきます。

基本モチーフはすぐにオーボエやフルートに引き継がれていって変化していきます。ソロ・ヴァイオリンはずっとメロディを歌っていることはなく、メロディとリズミカルに掛け合ったりと、ソロ楽器とオーケストラが主従関係(主旋律・伴奏)に定まらないのが久石譲協奏作品のうれしい特徴です。

オーケストラが大きくふくらむパート(1分半経過あたり)で、ティンパニやテューバがリズムを打ち鳴らしています。ここ2・2・3/2・3・3のリズムのとり方が一番わかりやすいですね。この前もこの後も、15拍子になってるところはほとんどそうです。なにかしらの楽器で伴奏的リズムを2・2・3/2・3・3で刻んでいると思います。ぜひ探してみてください。指揮姿からもわかるかもです。第1楽章に秘められた高揚感です。

ヴァイオリンをフィーチャーした「Untitled Music」という作品もそうですが、トライアングル・ピアノ・チェレスタ・ハープ・グロッケンシュピールなど、キラキラ輝いた印象のオーケストレーションが魅力的です。まるで雪が反射して煌めいているようです。さりげなく随所に配置されているピッツィカートも巧妙です。冬感たっぷりに散りばめられています。

 

第2楽章
2nd movement

緩徐楽章ともいえる第2楽章は、ヴァイオリンのたゆたう旋律に誘われるままに、なにか深いところへ深いところへと。くり返される漂うハーモニーに危うい雰囲気を感じながらもカウベルの響きが心地よさを、その両極なふたつが溶け合っていくようです。

目立ちにくい楽章ですが、こういった楽想は久石譲作品にみられるひとつの特徴です。『DEAD』より「II. The Abyss~深淵を臨く者は・・・・〜」、『The End of the World』より「II. Grace of the St. Paul」、『THE EAST LAND SYMPHONY』より「II. Air」など。メランコリックだったり瞑想的な雰囲気をもつ楽章があります。現実と夢、現実世界と異界、というようにひとつの作品に別世界を持ち込むといいますか、異なる空間軸や時間軸な次元を描くといいますか。そうして楽章間や作品そのものを有機的につなぐ役割を果たしているようにも感じてきます。あらためて気に留めてそんなことも思いながら。大切に聴きたい楽章です。

 

第3楽章
3rd movement

ワクワク止まらないイマジネーション豊かな第3楽章です。聴き惚れて満足しきり、感じたことをたくさん書きたいところですが、ちょっとぐっとこらえます。少し背伸びして音楽的にこう聴いてほしい3つに絞って進めます。感じるままに聴きたいんだ!という人もいるでしょうが、よかったらお付き合いください。

1.基本モチーフはスケールそのまま。

冒頭からヴァイオリンの基本モチーフが現れます。音をなぞっていてビックリしました。これホ長調のスケールそのままなんです。F#-G#-A-B-C#-D#-E,D#,E(ファ#-ソ#-ラ-シ-ド#-レ#-ミレ#ミ)です。文字だとわかりにくい。

 

ミからはじまる、ドレミファソラシドの響きと思ってください。イントロ導入が弦楽器トレモロのE(ミ)で通奏しているなか、基本モチーフが次のF#(ファ#)からそのまま上がっていっています。だからスケール(音階)そのままなんです。すごい!

もっとすごい!冒頭の基本モチーフは2回繰り返しています。なんと2回目は1音違っています。これは音をさらっていかないとなかなか気づかないことかもしれません。AがA#に変化しています。基本モチーフ1回目「F#-G#-A-B-C#-D#-E,D#,E」2回目「F#-G#-A#-B-C#-D#-E,D#,E」です。この一音のズレは絶妙です。生楽器で奏するからこその微妙なピッチのズレを生かした得も言われぬ揺らぎやハーモニーをつくることになります。指の位置で音程を探るヴァイオリンだからこそこの半音ズレたまりません。音程をつくる管楽器もそうですね。ピアノなどの打楽器だと鍵盤おすと誰でも同じ音程の音が出せるからまた違ってきます。気づかないほどに微細な変化、奏者や楽器ごとに生まれる音程のニュアンス、無意識な違和感をつくる仕掛けと奥ゆかしく広がるハーモニー。すごい!!

 

 

2.基本モチーフはアウフタクト。

休符からはじまります。小節の頭が1拍お休みなので、ン・F#-G#- ン・A-B- ン・C#-D#-E,D#,E ですね。それはなんとなく聴いててわかるよ。そうなんです。この第3楽章は8分の6拍子ですがリズムが裏なんです。1・2・3・4・5・6/1・2・3・4・5・6 この2小節分で基本モチーフ、休符から始まっているのでアクセントも小節の頭じゃなくて1・2・3・4・5・6/1・2・3・4・5・6 と裏拍になっています。これがシンコペーションになって躍動感を生みだしているように感じます。モチーフは転調を繰り返しながら変化していきます。8分の6拍子を基調としながら変拍子もはさみます。

3.リズムも裏拍で。

中間部の展開するパート(4分経過あたり)、低音「ド・シ♭・ド・や・す・み」と力強くどっしり刻んで進んでいきます。ふつうに聴いていると、歩くようにドン・ドン・ドン[1・2・3・4・5・6]と頭でリズムをとってしまいそうになりますが、ここも裏拍です。なので正解は(ン)ド・(ン)シ♭・(ン)ド [1・2・3・4・5・6]となります。このリズム感をつかんでくると快感すらおぼえてきます、きっと。このグルーヴ感を見失わなずにカデンツァ前までいけたらもうばっちりです。とびきりのウィンター・ガーデン広がっています。

 

とにかく聴くたびにどんどん喜び溢れてきます。発見も溢れてきます。近藤薫さんのカデンツァの完璧さに圧倒されたなんて言うまでもありません。すごすぎて体震えて目も見開いて次第に顔もほぐれて緩んでいったしかありません。雪のなかの炎のように熱かったです。

2000年代からの指揮活動も影響を与えていると感じられる色彩感に満ちたオーケストレーション。そしてストレートなミニマル手法がたっぷり堪能できる作品です。現代誇る新しいヴァイオリン協奏曲のレパートリー登場です。広く演奏してほしいずっと聴かれてほしい作品です。記憶に新しい「コントラバス協奏曲」の石川滋さん、「ホルン協奏曲」の福川伸陽さんもメンバーにいるなんて豪華すぎます。久石譲と一心一体FOCのパフォーマンスで音源化されることを心から楽しみにしています。

 

 

さて、ここからメインディッシュきます。もうお腹いっぱいですか、そしたらまた明日にでも。油っこくならない加減でご用意はしたつもりです。デザートも春めいたお味かもしれません。

 

 

ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 作品90

ブラームスは○○だ!

FOCは室内オーケストラに近いですが本公演はなんと弦8型。コンサート・パンフレットからメンバー一覧/編成表をみると第1ヴァイオリン8人、第2ヴァイオリン8人、ヴィオラ6人、チェロ5人、コントラバス5人となっています(管楽器は2管など通常編成)。交響曲第1番・第2番はたぶん弦10-12型だったと思うので、FOC史上一番コンパクトな編成で臨んだ第3番です。これがすべての感想に結びついていく最大ポイントです。

FOCは立奏スタイルなので、体で重心かけて大きく響かせられる、高い位置から音が出るので遠くまで飛ばせる、リズム重視のソリッドなアプローチにも適している、視覚的にも動き大きく見せれて躍動感や臨場感たっぷり。そんなメリットがあるように思います。そして、ブラームスも想定して書いたと言われる対向配置。よく響くホールもあいまって、プログラム前半2作品もふくめてボリュームや体感に物足りなさを感じるなんて決してなかったと思います。

第1楽章からダイナミックな音圧で迫ってきます。そして同時に、ブラームスこんなに細かく振り分けてたんだとわかってうれしくなるほどパートごとによく聴こえてきます。第2楽章の管楽器と弦楽器のかけあいもそうですが、室内楽な構成というか響きを感じる作品だとわかります。第3楽章のブラームスきっての美しい旋律も、とろけるようなホルンはもちろん、オーボエやクラリネットなど木管楽器たちがメロディを受けつないでいくさまも美しい(ライブ映像のカット割りもそうでした)。第4楽章の駆け抜けるような速さ、みなぎる推進力、そして川の流れを思い浮かべるような終結部。

交響曲第3番において、楽章ごとのコントラストが素晴らしかった。とりわけアンサンブルしているのがよくわかるFOCパフォーマンスでした。もしひと言でいうなら親密さ、そう楽器間の親密さが極上に伝わってくる。古典回帰といわれたブラームス、でもやっぱりロマンな人なんだな、それがたまらなくわかる演奏を聴かせてもらった気分です。

ブラームス交響曲ツィクルスにおいて、作品ごとのカラーをしっかり打ち出しているように思います。「ベートーヴェンはロックだ!」のようなわかりやすいキャッチコピーはありません。最もその作品を表現できる編成とアプローチでそれぞれ臨んでいるように感じます。このダイナミックさを聴かせられると、交響曲アルバムによくカップリングされる「大学祝典序曲」や「悲劇的序曲」も聴きたくなってきます。このアンサンブル力を聴かせられると、バロックの面影のこる気品「セレナード第1番・第2番」も聴きたくなってきます。そのどれもがFOCの魅力をいかんなく発揮できるとともに、新風を巻き起こしてくれそうな作品たちです。

次回のFOC Vol.5(2022.7開催予定)は、いよいよフィナーレ交響曲第4番です。ほかにどんな作品がプログラムされるのか、気は早いですがその後の展望は、ブラームス交響曲全集は、とにかく目が離せません。ブラームスは○○だ、いつか久石さんにその魅力をたっぷり語ってほしいです。

 

(余談1)

ロータリートランペットとウィーンティンパニ。前回Vol.3で気になって、それから少し学んだこと、文量が過ぎるので次回にまわしたいと思います。交響曲第3番はそんなにティンパニ炸裂しないですしね。

(余談2)

僕の隣に座っていた人、ブラームスの曲にあわせてリズムとったり体が動いていました。ブラームス好きな人が聴きに来てるんだなあとうれしくなりました。そして大きな拍手を送っているのをみてブラームス好きも大満足だったんだなあとうれしくなりました。

 

 

アンコール

ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調

緩急ある起伏に富んだ曲はFOCの個性豊かなパフォーマンスにもぴったりです。

どうしても好奇心から、なんで今回第6番を選んだんだろう(前回FOC Vol.3は第17番)と探求したくなってきます。全21曲あるハンガリー舞曲で有名なのは第5番、第6番、第1番とつづくようで、そのくらいポピュラーな曲とあります。知らなかった。もちろんそれだけではないような気もしてきます。調べていくととても興味深いことを発見しましたので、ここに背筋のばしてご報告いたしますっ。

この曲なんと1967年2月にNHKみんなのうたで放送されていた、歌になっていた曲だったんです。「ふるさとの空は」(作詞:峯陽/作曲:ハンガリー民謡)とありがちな作者クレジットになっていますが、この曲がハンガリー舞曲第6番であることもまた周知のことのようです。

歌詞に注目しました。2番の歌詞に「春を待つ 歌声聞こえて来る朝は 春が来たぞと 足を踏み鳴らして みんなで 歩き回るよ ~」とあります。久石さんとしてはこれも言いたかった、伝えたかった選曲なんじゃないかなと勝手にじんわり震えてきました。コンサート・パンフレットの挨拶むすびにこうあります「春はきっと訪れます」と。この想いを音楽に託したんじゃないかな、とそう勝手に受け取らせてください。明るく快活なこの曲、前向きに明るくなって心軽やかになってきます。いろいろなパフォーマンス動画をすぐに見つけることできる歌だと思います。春を待ちわびる気持ちで一気にこの曲第6番が好きになりました(単純です笑)。

 

 

会場では開演前の胸躍る期待や楽しみ感を表現できない昨今ですからね。「会話もなるべくお控えください」アナウンスな昨今ですからね。ちょっと緊張気味にはじまった本公演でしたが、会場もプログラムが進むごとに温まっていき、最後には熱い拍手のやまない空間となりました。そうして再登場して笑顔で応えてくれた決定的瞬間はぜひ下の公演風景(from公式SNS)から味わってください。

 

メンバーに感想を伝えたい。

クラシック・ファンには顔なじみの豪華メンバーが結集したFuture Orchestraです。FOC/MFとどちらにも登場していたり、久石譲とよく共演するオーケストラに在籍していたりと、久石譲ファンでも少しずつ顔を覚えていけそうな皆さんです。きっと、好きな奏者や好きな楽器の音色で気になっている人もいるんじゃないでしょうか。

終演後感想ツイートしていた方もいます。そこへ僕はコメント返してリアクションさせてもらいました。もちろん面識ない方が多いです。それなのにいきなり、普通なら失礼にあたるかもしれない、なんだこいつ誰、そうなんだけど、、それができるのもまたSNSです。せっかくチャンスあるなら伝えたい、感動やお礼をひと言でも伝えられるなら、勢いにまかせたっていいじゃないか!(笑)そういう温度感だけでも届けることできたならうれしいそう思っています。

メンバーは公演ごとに流動的だったり網羅はできませんので、ファンサイトのツイッターやりとりでもご参考いただけたら。[ツイートと返信]をのぞいてもらうと、どんな方がいらっしゃるかきっかけになるかもしれません。そして気になる演奏家をフォローしたら、在籍オーケストラや活動プロジェクトの情報をキャッチできるようになりますね。どんどん広がっていきます。これからはますます、届けることに意味がある、そう思ってアクティブにいきたいところです。感動や感謝を伝えられるってよくよく幸せなことだなあと。

 

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋ツイッター
https://twitter.com/hibikihajimecom

 

 

みんなの”FOC Vol.4”コンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

 

久石譲公式SNSには、それぞれに違う写真や動画が投稿されていたりします。ぜひくまなくチェックしてください。

 

リハーサル風景 / 公演風景

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

ほか

from 久石譲オフィシャルTwitter
https://twitter.com/official_joeh

 

 

ほか

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式Twitter
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

ほか

from 久石譲オフィシャルFacebook
https://www.facebook.com/JoeHisaishi.official

 

 

 

みんなの”FOC Vol.4”コンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

FOCシリーズ

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Overtone.第60回 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2022/02/15

2月9日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサートです。当初予定からの延期公演です。プログラムも新たにアップデートされリアルチケットは完売御礼。さらに、Vol.2,3に引き続いてライブ配信もあり、国内外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

今回ご紹介するのは、すっかりおなじみふじかさんです。コンサートたっぷり2時間分、そしてかたときも臨場感を失わないレポートをお楽しみいただけると思います。いつもしっかり予習をしてから演奏会に臨むふじかさんだからこそ書ける、そんな解説&感想の絶妙なブレンドで一気に音楽が立ちあがってくるようです。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4

[公演期間]  
2022/02/09

[公演回数]
1公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター/ヴァイオリン・ソロ:近藤薫

[曲目] 
レポ・スメラ:Musica Profana
久石譲:Winter Garden

—-intermission—-

ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 Op.90

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調

 

 

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS VOL.4のレポートをさせて頂きます。

2022年2月9日 東京オペラシティコンサートホール 19時開演

 

FOC演奏会も早いもので4回目。ブラームスの『Symphony No.3』を軸にしたコンサートが開催されました。

開演10分くらい前に客席に入りました。ステージ上は開演ギリギリまで練習する楽団員の姿は無く、19時ちょうどくらいに弦楽隊のメンバーのみが集結しました。チューニングののちに、久石さんが登場。いよいよコンサートが始まります。

 

Lepo Sumera : Musica Profana

弦楽オーケストラのみの編成の楽曲で、チェロとコントラバス以外は立奏で演奏されました。短い序奏ののちに、旋律の躍動と静止を繰り返す力強い演奏が始まります。うねりを感じさせるようなリズミカルな旋律が始まったと思ったら、突如静止。各パートから伝わるリズムが複合的に混ざり合い、心地よいビートを感じさせてくれます。古典とミニマルを融合させたような、どこかクラシカルな装いの本楽曲。中間部ではヴァイオリンが奏でるメロディを後から伴奏が追いかけていきます。久石さんは指揮棒を使わずに、手のみで的確に指示を出していきます。

1997年に書かれた作品なのに、まるで近年の久石さんの作品に似たような雰囲気があり、とても驚きました。旋律・モチーフの躍動と静止は近年での『2 Pieces』、書かれているリズミカルなメロディは『Encounter』を、和声を感じさせない単旋律の動きからは『Chamber Symphony No.2』を連想させます。

後半では冒頭のモチーフをさらに発展させ、疾走感と緊張感を感じさせながらフィナーレへ向かいました。

 

久石さんがステージから一度退場したときに、一旦拍手が途切れてしまい、どぎまぎする久石さんの姿も見られました(笑)

舞台替えののちに、木管・管楽器・打楽器のメンバーたちも集結。再度チューニングのちに、久石さんとコンマスの近藤さんが登場しました。

 

Joe Hisaishi『Winter Garden』

・『1st movement』

2006年のピアノとヴァイオリンのバージョンの音源を持っており、何度も何度も聴いていましたが、オーケストラ版をじっくり聴くのは初めてでした。

冒頭からミニマルとメロディを融合したフレーズが何度も顔を出します。ヴァイオリンがメロディを演奏したのちに、そのメロディを木管が受け継ぎ、ヴァイオリンは別のフレーズへ。オーケストラとソロヴァイオリンの掛け合いが最高に気持ちいいです。

聴いていくうちに、2006年版とは全くの別の作品ということを認識していきます。ただのオーケストラアレンジかと思ったら、完全にオーケストラとソロヴァイオリンの為の協奏曲へ。中盤では『崖の上のポニョ』のイメージアルバム収録の『ポニョ来る』のような雰囲気を感じさせるシーンも。冒頭のフレーズを数度繰り返したのちに、幻想的な和音で1楽章は終わりました。

 

・『2nd movement』

1楽章の幻想的な終わりを受け継ぐように、こちらも幻想的な導入から始まります。まるで冬の日の早朝を連想させる凛とした佇まい。冷たい空気の中にヴァイオリン旋律が響き渡るような感じがします。その後、曲調は少し暗い雰囲気へ。近藤さんのヴァイオリンがとても美しく、フラジオレットを使用したシーンではとても繊細に。

 

・『3rd movement』

そして姿を現す3楽章。こちらは2楽章から雰囲気は一変し、8分の6拍子にて、とても印象的で記憶に残りやすいメロディが奏でられます。その印象的なメロディは1楽章と同じようにチューバやトランペット、オーボエ、フルートなど様々な楽器へ受け継がれていきます。

ソロヴァイオリンからオーケストラへとバトンを渡すシーンでは、近藤さんが一気に久石さんへとコンタクトを取り、次の瞬間にはオーケストラの音色が一気に花開きます。この辺りは終始鳥肌が立っていました。

その後超絶技巧を伴ったソロヴァイオリンのカデンツァへ。このカデンツァは圧巻と興奮の最高のパフォーマンスでした。楽曲のハイライトと超絶技巧がソロヴァイオリンから炸裂します。会場もあまりの驚きの演奏にじっと息を殺して、注視する雰囲気がありました。久石さんも、時折うんうんとうなずきながら熱い演奏を見守ります。圧巻のカデンツァののちに、再度オーケストラの音色が花開き、華やかなフィナーレへ。

20分以上はあった楽曲でしたでしょうか?体感時間は本当に一瞬でした。冬という季節にぴったりであるとともに、世の中の雰囲気には左右されない音の運動性を追求した作品でもありました。こんなに完成度が高い楽曲がいまだに音源化されていないのが残念でなりません。今回の熱演をぜひとも収録してほしい!と強く願いました。

会場も割れんばかりの拍手!久石さんと近藤さんによる何度かのカーテンコール。途中で久石さんが指揮棒を落としてしまうハプニングもありました。

 

ー休憩ー

 

Johannes Brahms『Symphony No.3 in F major Op.90』

ステージは再度舞台替えをしていて、この曲からは近藤さんがコンマスを務めます。

 

『1楽章 Allegro con brio』

長短を感じさせる和音を感じさせる印象的な始まりから、駆け降りるようなメロディが一気になだれ込みます。その後ヴァイオリンの印象的なメロディが始まり、それを次に木管がなぞっていきます。立奏の為、楽団員の皆さんは印象的なフレーズでは大きく身体を揺らしながら、表情豊かに表現していきます。久石さんのクラシック演奏では恒例となった、提示部のリピートも今回もきっちり演奏。全体のテンポ感は少し速めな感じがしました。

提示部の繰り返しに入る部分のオーケストラの迫りくるような盛り上がりには圧倒されました。リピートが終わり、新たな展開が入ってきて、盛り上がる部分ではさらに熱気を感じました。再度、冒頭の提示部が再現されたのち、微妙に変奏しながら、1楽章のフィナーレへ向かいました。

 

『2楽章 Andante』

木管の優しいメロディが印象的な緩徐楽章。クラリネットの音色が会場をゆったりと包み込み、楽団の皆さんにも笑顔が見られました。その後は少し暗さを伴った雰囲気へと展開していきますが、その後に続く弦楽のメロディの美しさに終始うっとり。対向配置の良さを存分に活かし、万華鏡を見ているような音の交差が広がります。メロディが大きくうねりを上げるシーンでは、久石さんも客席へ振り向くくらい大きな身振りを繰り広げていました。再度冒頭のクラリネットが現れて、2楽章は静かに終わります。

 

『3楽章 Poco allegretto』

憂愁を感じさせるメロディが印象的な3楽章。チェロの導入から、ヴァイオリンへとメロディを紡いでいきます。そして木管へ。主題ののちに続く、少し明るめなフレーズとの対称もとても耳に残ります。中間部をへて、冒頭のメロディをホルンにて再現。福川さんのホルンの甘く切ない音色にとても感動しました。終盤はそのメロディをヴァイオリンのオクターブにて演奏したのち、どこかに希望を見出すような雰囲気になり、静かに幕を閉じます。

 

『4楽章 Allegro-Un poco sostenuto』

前楽章とは一転、怪しげな雰囲気から始まり、力強くダイナミックな展開が始まります。その後へ続く、チェロの力強いメロディ。スピード感もあり、手に汗握るような激しい展開が続きます。FOCの得意とするロックのような激しいクラシックがこの4楽章で一気に炸裂したような感じがしました。

盛り上がりのピークを迎え、そのままフィナーレしないのが特徴的な『Symphony No.3』。弦楽によるさざ波のような音型が繰り返されるようになり、1楽章の要素が再度顔を覗かせ、1楽章冒頭の和音を奏でながら、ゆったりと楽曲が終わりました。

 

会場の拍手に包まれる中、久石さんはゆっくりと大きくうなずいた後、お辞儀をしていました。その後は、恒例の楽団メンバーへの拍手タイム。ステージにも笑顔が溢れ、至福の時間となります。

 

Encore

Johannes Brahms『Hungarian Dance No.6』

ブラームス交響曲ツィクルスでのアンコールでは恒例となった『ハンガリー舞曲』今回は6番をセレクト。おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかな雰囲気と情熱的な中間部が印象的でした。シンバルとトライアングルのパーカッションが楽曲に彩りを添えます。打楽器が入る部分は久石さんも腕を大きく振って指示を出していました。

 

その後は久石さんが何度かカーテンコールに応じ、会場は割れんばかりの拍手に包まれました。楽団員がステージから去った後も、拍手が収まらず、コンマスの近藤さんが久石さんを引き連れて再登場。会場は熱気に包まれました。

今回のFOC公演はプログラム構成も素晴らしく、弦楽オーケストラ、協奏曲、交響曲とオーケストラの魅力を存分に楽しめる構成でした。スペシャルオーケストラのFOC第4回公演、熱気の中終演しました。

2022年2月14日 ふじか

 

 

 

当日会場でお会いすることができました。開演前は最近の久石譲活動について楽しく語り、終演後はもうコンサート一色、これファン交流あるあるですね。立ち話でしたしトータル短い時間ではありますが貴重なコンサート体験のひとピースです。

たぶん5分10分くらいですらすら読めてしまうと思います。そのくらいわかりやすいし楽しく文章が流れていきますね。でも、どう表現したらいいかとかどうしたらうまく伝わるかとか、音楽を言葉にすることもあってとてもとてもエネルギーを使っていただいていると思います。本当にありがとうございます。

ふじかさんが当日会場でリアルタイムに口にしていた感想のひと言ふた言が、ここにはそのまま入っていました。そう言ってたな、と思いながらあの時の光景がよみがえってきます。やっぱり直感や第一印象って大切にしたいですよね。コンサートで感じたこと、ライブ配信で感じたこと、初めて触れた感触はこれからもずっと残ります。

この新鮮さは、また「Winter Garden」がいよいよ音源化されたときに、ブラームス交響曲アルバムがリリースされたときに。僕はまたこのみずみずしいコンサート・レポートをきっと読みます。

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

 

reverb.
ふじかさんはマイレポートが書き終わるまでほかの人のは見ません。それよくわかります(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第59回 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・レポート by tendoさん

Posted on 2022/02/14

2月9日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサートです。当初予定からの延期公演です。プログラムも新たにアップデートされリアルチケットは完売御礼。さらに、Vol.2,3に引き続いてライブ配信もあり、国内外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

今回ご紹介するのは、韓国からライブ・ストリーミング・レポートです。「WDO2021」「新日本フィル定演」「MF Vol.8」コンサートにつづいてこの1年間で4回目の登場tendoさんです。とてもおもしろい注目の仕方と表現で、いつも対訳させてもらいながら楽しませてもらっています。きっと共感ポイントあると思いますよ。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4

[公演期間]  
2022/02/09

[公演回数]
1公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター/ヴァイオリン・ソロ:近藤薫

[曲目] 
レポ・スメラ:Musica Profana
久石譲:Winter Garden

—-intermission—-

ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調 Op.90

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ブラームス:ハンガリー舞曲 第6番 ニ長調

 

 

はじめに

F.O.C.シリーズもすでに4回目になる。今回の公演もリアルタイム・ストリーミングが決定し、日本公演を韓国で楽しむことができた。世界各国の人々とコンサートの直後に感想を交わすことができ、コンサートが終わった後もアーカイブで見ることができるので、リアルタイム・ストリーミングがこのように継続的に続いていることに感謝するばかりだ。いつの日かパンデミックの状況が良くなって会場に直接行ってパンフレットやCDなどを買って演奏を直接聴く日が来てほしい。

 

F.O.C.シリーズについて

Future Orchestra Classics(F.O.C.)シリーズは久石譲の代表的なコンサートシリーズの一つで、長野で活動していたN.C.Oを母体として再結成されたフューチャー・オーケストラが、古典クラシック作品を久石譲作品などの現代作品とともに演奏するプログラムだ。

フューチャー・オーケストラは、厳選した首席演奏家で構成されており、久石譲は指揮を兼ねる作曲家として、時代を先取りした指揮を追求している。現在はブラームスの交響曲全曲のツィクルスが進行中だ。

 

Lepo Sumera : Musica Profana

 

久石譲のファンなら、もうレポ・スメラはおなじみの名前だろう。今回のコンサートで演奏されるレポ・スメラの曲は、弦楽オーケストラで演奏される曲だ。

いつからか久石譲のコンサートには、弦楽だけで演奏される曲が少なくとも1曲は含まれているようだ。正確な理由は分からないが、金管楽器演奏者たちのクオリティーを高めるためのようでもあり、コンサートのレパートリーで小編成の弦楽からなる曲を試してみることのようでもあり、シンプルに久石譲が弦楽オーケストラを好んでよく楽しむのかも知れない。

Musica Profanaはよく演奏されるとか有名な曲ではないけど、かなり面白い曲だった。緊張感の感じられるメロディーがリズム感のあるように進んでは停止するを緊密に繰り返しながら進行される。現代曲をよく演奏する首席奏者からなるオーケストラ、ミニマル音楽を作曲している久石譲に適している曲だと思った。

何度か緩やかに進んでは再び最初の雰囲気に戻ることを繰り返すが、中断を適切に活用した曲という側面から、久石譲の「2 Pieces」という作品の第1楽章である「Fast Moving Oppositions」という曲が浮かんできた。

 

 

最後のハイライトで曲が盛り上がったとき、久石譲がキューサインを与える姿が素晴らしかった。終わりまで本当に素敵な曲だった。F.O.C. vol.3で演奏したレポ・スメラの交響曲第2番も本当に印象深かったが、今回の曲も本当にすごかった。

 

Joe Hisaishi : Winter Garden

 

Winter Gardenはヴァイオリンのための協奏曲として作曲されたミニマル曲だ。2006年にヴァイオリンとピアノのためのバージョンとして2楽章の曲として作曲され、これはアルバムとしてもリリースされたことがある。だが、以降に新たに3楽章が付け加えられたヴァイオリンとオーケストラバージョンになってから2014年に改訂されたバージョンが出てきたが、映像やアルバムなどでは残っていなかった未知の曲だ。

 

 

久石譲のミニマル曲を聴くときは最近打楽器に耳を傾ける方だが、キラキラしたグロッケンシュピール、トライアングルや欠かせないウッドブロックの音もあった。特に、後ろにあるカウベルが注目を集めた。 久石譲の「The East Land Symphony」や「Deep Ocean」に使われた楽器だ。(2017年の韓国公演でも見たうれしい楽器だ。)

コンサートマスターである近藤薫さんの素敵なヴァイオリン・ソロで始まるが、ヴァイオリンとピアノのバージョンとは違いパーカッションがヴァイオリンとともに和やかな音を出しながら始まるのが印象的だった。

第1楽章は、覚えやすいメロディーを中心に軽快な感じで進められる曲だった。全体的に明るく朗らかな雰囲気だった。最後にヴァイオリンの高音で終わりを迎えるが、その瞬間オーケストラが急にみんな静まる部分が印象的だった。

第2楽章は、先に話したカウベルとともに始まる。瞑想的な雰囲気の穏やかな曲だった。ヴァイオリンの官能的なソロ演奏が本当によかった。 ぼたん雪が少し積もった穏やかな感じで、だんだん緊張感が高まった。オーケストラがヴァイオリンをやさしく包み込んで終わる。

 

 

爽やかな雰囲気で始まる第3楽章は、ヴァイオリンのテクニックが引き立つ曲だった。オーケストラとヴァイオリンが交差し、次々と主要テーマを演奏していく。チューブラーベルが加わってさらに豊かでかっこいい雰囲気に。ソロ・ヴァイオリンのカデンツァ直前のオーケストラが力強く躍動する場面も印象的だった。

 

 

カデンツァは本当に完璧だった!ヴァイオリンのテクニックというのはこういうことなんだ!曲が終わる頃に聴こえる楽器はヴィブラフォンだろうか。 暖かい音色で包み込んで終わりを告げているが、本当に素敵な終わり方だった。

 

Brahms : Symphony No.3 in F major Op.90

 

インターミッションの後に続く曲は、今日の主人公ブラームスの交響曲第3番だ。

第1楽章は、管楽器の力強いハーモニーから始まる。この曲は全体的には明るいようでありながらも、一方ではどこか複雑微妙な感情も感じられた。時々登場する急上昇の和音部分は素敵だった。

第2楽章は、緊張した一日を降りて気楽に聴くことができる曲だった。ロマンティックで叙情的な雰囲気の曲だ。

第3楽章は、おそらくブラームスの交響曲第3番で最もよく知られている楽章ではないだろうか。 訴える力の強い濃厚なメロディーに秋の香りが漂うような感じだった。

 

 

福川伸陽さんのホルン演奏はどんなに素敵なことか!オーボエも本当によかった。最高だった!第3楽章が終わる頃には、しばらく泣きそうになった。一生覚えていたい素敵な瞬間だった。

第4楽章は、実に強烈で情熱的な演奏だった。私も知らないうちにリズムに乗っていた。第3楽章に次ぐ素敵な楽章だった。第4楽章は非常に静かに落ち着いた調子で締めくくられた。ブラームスの交響曲第3番は、すべての楽章でこのように穏やかに締めくくられているのが特徴だと感じた。

 

続くアンコール曲は、やはりブラームスのハンガリー舞曲だった!

 

Brahms : Hungarian Dance No.6 in D Flat Major

やや馴染みのない曲だったが、軽快で茶目っ気が感じられる面白い曲だった。「ドン!ドン!」という音に合わせて腕を振り回す久石譲の姿も面白かった。指揮者と演奏者の息が本当に良かったというか、素晴らしいアンコールだった!

 

 

今日のコンサートは本当に駆け引きする演奏に夢中になってしまった。FOCが始まった時は、ブラームスの交響曲に目覚める前でしたが、今は久石譲のおかげでその真価をわかってくるようになった。FOCが持っている特有の音色とアクセント、リズム感、スピードなどなど… FOCが持っている魅力は数え切れないほど多かった。

ミニマル作品とクラシック作品をつなげて紹介するコンサートはどれほどか、またこうして完成度の高い曲を聞けて本当に幸せだった。次のFOCは7月にブラームスの最後の交響曲となる。久石譲のRecomposed楽曲はどのように披露するのか、そしてまだ発表されていない曲はどんな曲なのか。

久石譲が指揮したブラームス交響曲全曲を全集で会うその日を楽しみにしてこの文を終える。

 

2022年2月11日 tendo

出典:TENDOWORKS|히사이시조 – Future Orchestra Classics Vol.4 콘서트 리뷰https://tendowork.tistory.com/77

 

 

tendoさんは韓国で久石譲活動を広く知ってもらいたいとウェブサイトで発信しています。なので、韓国の人たちに現在進行系の久石譲を伝える「はじめに」などの導入部で丁寧に解説しています。こんなライブレポートがあるとうれしいですよね。距離感を越えてぐっと身近に感じられます。

ライヴ映像をことこまかに忘れてしまっても、数年後このレポートを見たらきっとその瞬間の映像が蘇ってくるだろうな、音楽が聴こえてくるだろうな、そんなふうに思います。もうね、SNSでライブ配信直前からスタンバイしてる様子(写真付き)とかを見るだけで、なんだかこっちまでそわそわワクワクうれしくなってきます。そういう海外ファンがもっと増えたらいいですね!

tendo(テンドウ)さんのサイト「TENDOWORKS」には久石譲カテゴリーがあります。そこに、直近の久石譲CD作品・ライブ配信・公式チャンネル特別配信をレビューしたものがたくさんあります。ぜひご覧ください。

https://tendowork.tistory.com/category/JoeHisaishi/page=1

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

 

reverb.
訳しながら久石譲が使うキーワードを熟知しているなと感嘆しきり。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Info 2022/02/08 久石譲×日本センチュリー交響楽団「メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」から第4楽章」動画公開

Posted on 2022/02/08

2021年コンサート「久石譲×日本センチュリー交響楽団 特別演奏会」より、「メンデルスゾーン:交響曲 第4番 から第4楽章」のライヴ動画が公開されました。ぜひご覧ください。 “Info 2022/02/08 久石譲×日本センチュリー交響楽団「メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」から第4楽章」動画公開” の続きを読む

Info. 2022/02/08 ジョン・ウィリアムズ、90歳の誕生日を祝い、小澤征爾、久石譲らからお祝いコメントが到着(Webニュースより)

Posted on 2022/02/08

ジョン・ウィリアムズの90歳の誕生日を祝い、小澤征爾、久石譲らからお祝いコメント到着 『帝国のマーチ』など珠玉の演奏シーンを1回限りのプレミア公開 “Info. 2022/02/08 ジョン・ウィリアムズ、90歳の誕生日を祝い、小澤征爾、久石譲らからお祝いコメントが到着(Webニュースより)” の続きを読む

Blog. 「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/01/26

音楽雑誌「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」に掲載された久石譲インタビューです。その次号から「連載 久石譲の今月の気になるアイツ」(全何回/不明)もスタートしていきます。

 

 

INTERVIEW

「映画音楽で一番気を使うのは、監督のテンポ感。それが僕にとっては生命です」
久石譲

あるときはキーボード・プレーヤー、またあるときは作曲家、編曲家。映画音楽、CM音楽、アーティストのアレンジと八面六臂の仕掛人。やがて、映画『となりのトトロ』で新しい世界を聴かせてくれる人。

 

ー久石さんのお仕事は大変多岐にわたっているわけですが、まず、映像に関係したお仕事についてお聞きしたいと思います。久石さんとラピュタの宮崎駿監督とは今や珠玉のコンビといわれていますが、宮崎さんと仕事をする醍醐味のようなものをお聞かせください。

久石:
実はアニメーションは宮崎さんの作品以外はあまりやっていないんです。というのは、やっぱり宮崎作品は単にアニメーションということでなく、映像として非常に優れていると思うわけなんです。実写ものでもなかなかあそこまでは表現しきれないんじゃないですか。ラピュタはいま香港で大ヒットしてるんですよ。空前のヒットらしいです。あの時の『君をのせて』という歌を中国語と英語で吹き込みたいというオファーが来てるんです。香港といえば「アチョー!」の映画ですけど、それを超えるヒットだそうで、ラピュタなんかはもう国際的な広がりの中で十分やっていける作品だと思うんです。単にアニメだとか映画だとかそういう区別を抜きにして、大変なもんですよね。

宮崎さんとのやり方というのはけっこう特殊で、映像にかかる前に必ずイメージアルバムっていうのをつくるんですよ。音楽の打ち合わせっていうのは、どうしても抽象的になっちゃうでしょ。ここでキレイなメロディーをとかいっても、こちらの考えてるキレイと監督さんの考えるキレイとは違ったりするでしょ。それを極力避けるということで、イメージアルバムがあれば、あのテーマをこの部分のテーマにしたらどう、とか、このシーンにはあのメロディーのアレンジでどうですか、とか、非常に具体的なやり方でつっ込んで話すんですよ。だから、ナウシカにしてもラピュタにしても、とってもレベル高くできたんじゃないかと思うんです。

 

ー映像に関係したお仕事で最も気を使うのはどういうところでしょうか。

久石:
監督のテンポ感です。カット割りとか、画面の演出のテンポ、編集のテンポですね。それが僕にとっては生命です。僕の場合、台本を読んだ段階で60~70%はできていて、あとラッシュを見に行くのは、監督のテンポをつかむため。

『ドン松五郎の大冒険』っていう正月映画なんですけど、その監督が後藤秀司さん。すごくコミュニケーションうまくとてまして、台本を読んでからラッシュ見に行って、ああ後藤監督のテンポってこんな感じだなあ、で、自分なりに曲を書き出す。そうしたら、ほとんどのシーンがピタリピタリと合っていっちゃうんですよ。おもしろいもんですよ。例えばここからどっかに歩いていくだけのシーンだって、監督によって演出が全然変わるでしょ。だけど、その監督の全体を見ていくと、だいたいここではこういうカット割りになるとかって読めてくるんですよ。

それは『漂流教室』の大林監督の時もそうだし『この愛の物語』の舛田監督の時もそうだし『Wの悲劇』『早春物語』の澤井監督の時もそうですね。みんなそれぞれのテンポ感が違うし、それをつかまえるのがコツというか、一番大変なところですね。

 

ー今度の『となりのトトロ』という映画は、どういうイメージなんでしょうか。

久石:
全体に日本の古きよき時代というか、空気が汚れてなくて、山があって川があって、子供たちは目いっぱい遊んでいる、というイメージでしょうね。ただ、時代考証的に何年頃とかいうんじゃなくて、もう宮崎ワールドですから、時代とかいうものには僕はあんまりこだわらないようにしてるんです。トトロの歌のアルバムはすごくいいと思いますよ。ものすごく時間もかけましたしね。本当に素直に大きな声で歌える歌をつくってくれっていう宮崎さんの注文ですから、だからすごく大変でしたよね。まず、そういう歌手がいないんですよ、基本的には。そういう人を捜すことから始めましたからね。でも、これは楽しみにしてください。

 

ー今度はもうひとつ別の仕事、アーティストのためのアレンジャーとしての意見をお聞かせください。

久石:
日本には優秀なアレンジャーって大勢いるんですよ。だから、わざわざそこで僕も頑張ることないなとか思ったりするんだけど、ただ、例えばちょっとマニアックな、ジェネシスっぽい音だとか、ああいったアプローチでアレンジできたらベストだなあ、と思いますね。あるいはホール&オーツのようなすごくスッキリしたアレンジだとか、あんまりゴチャゴチャしないでね、キッチリした仕事だったらやってもいいなと思ってますね。最近はだんだんそういう風にやれるようになってきたんで、それなりの成果が出せてるな、という気がちょっとしてます。ただ、自分でメロディー書いた時の方がいいものができますね。アレンジだけだと、そこで主張しちゃって、やりすぎるから、あまりよくない(笑)。

 

ー15秒の世界は、どうでしょう。

久石:
CMは瞬間瞬間を切りとっていく作業だから、メロディーで勝負ってことではないですよね。論理的に解釈するには時間が短かすぎるんです。映画ってある程度論理的に解釈できるんですね、このテーマはこう使ってとかね。CMは15秒、30秒ですからね。その短い時間に時代の先端の音を切りとって入れていかなければならない。そうすると、非常にサウンド主体にしていかなければいけなくなりますよね。切り売りですよね。

全体が15秒として、音楽を聞かせられるのは頭の7秒ですからね。7秒っていうと1小節か2小節しかないですからね。頭7秒で、エッ何これってふり返らせられるかどうかが勝負だと思ってるんですよ。おもしろいけど、大変ですね。

 

ーフェアライトという楽器について、お聞かせください。

久石:
とにかく民族音楽が死ぬほど好きなんですよ。フェアライトというのは、オーストラリア製のサンプリング・マシンなんですが、前だと民族楽器なんていうのはどこかまで行ってその楽器を手に入れてこないとその音は出せなかったわけですけど、これだとデジタルで記憶させて鍵盤でその音を弾けるわけです。機械合成音っていうのはあんまり好きじゃなくて、サンプリング・マシンというのを駆使していくことによって、新しいアコースティックな世界がつくれんじゃないかと思ってるわけです。音もすべて管理できているし、ニュアンスも出しやすいんですよね。意外と完全主義者でね、曖昧なものが入ってくるのは好きじゃなくて、そういう意味では今のスタイルが自分には一番あってると思ってます。

 

ーこれからの予定を聞かせてください。

久石:
去年から懸案のピアノのソロがありまして、去年の11月にロンドンで4曲録って来てそのままなんですよ。日本で残りを録ろうとしたら、音質が違いすぎてダメなんですよ。環境も違うし楽器の鳴りが違うし、しかたがないんで、11月か12月にまたあっちへ行って残りをやるつもりです。これは、僕がやってきた映画の音楽をできるだけシンプルに一人で弾くというやつなんですよ。もちろんナウシカも入ってるしラピュタも入ってるし『Wの悲劇』『早春物語』それから『漂流教室』まで全部入れて、久石譲メロディー集みたいなね、ものになると思うんですよ。どうしてもアレンジの仕事もしてますと、いろんな音を使って壮大なサウンドをつくるみたいなのが多いでしょ。それで、できるだけ原点に戻りたくて、ピアノ1本で、しかもメロディーをケバケバしく弾きまくらないで、サティのようにシンプルにしてアルバムをつくりたいということなんですね。そのためには、音質がね、飛びぬけて深い音のするところに行かないと。ロンドンのエアー・スタジオっていうところの1スタのピアノが世界で最高だと思うんですよ。どうしてもあそこで録りたいですね。

あと、藤原真理さんとう国際的なチェリストがいますが、この人と実は春先からLPつくってんです。これもすごいゼータクでね、ちょっと録っては2~3ヵ月おいてまた録って、で、ちょっと気に入らないから全部捨ててまた録り直ししてるというね、信じられないことしてんですけど、これはすごいですよ。ナウシカ組曲というチェロとピアノのためだけの作品をつくってる最中なんです。

やり始めるとね、すべて大変になっちゃいますね。

(「Hundred ハンドレッド 1987年11月号」より)

 

 

Blog. 「Jazz Life 別冊 ピアノプレイブック No.10」(1990)久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/01/25

音楽雑誌「Jazz Life別冊 ピアノプレイブック No.10」(年4回発行/1990年10月31発行)に掲載された久石譲インタビューです。映画『タスマニア物語』のタイミングですが、これまでの経歴を掘り下げていくような内容になっています。

 

 

JOE HISAISHI INTERVIEW

『タスマニア物語』では、正統派の映画音楽をやりたかったんです。
久石譲

『タスマニア物語』を始め『風の谷のナウシカ』『魔女の宅急便』などの映画や、NHKテレビ『人体』の音楽を作曲した久石譲さん。いつも、とっても美しい音世界を感じさせてくれますが、実は学生時代から現代音楽を研究し、ミニマル・ミュージックをポップスの世界に導入した先駆者でもあるのです。そこで、久石さんの創作活動の一端を覗かせていただきました。その音楽のように、親しみやすくてピリッと辛口のスパイスが利いたインタヴューです。

 

特にアニメだからという意識はないんです

ー『風の谷のナウシカ』を始め、アニメの音楽をお書きになってらっしゃいますが、映像と結んだ音楽を始められたキッカケというのは?

久石:
やはり、小さい時から映画が好きだったということはありますね。非常に映画に親しい環境だった……たくさん見たということで。

ー印象に残っている映画というのは?

久石:
もう、すごい量を見ていますので特にこれと限定できないですよ。多すぎて…。高校とか大学の時に一番見ていましたので、その頃のというと、(フェデリコ)フェリーニとか(ミケランジェロ)アントニオーニとか、あの一連のヤツですね。『サテリコン』『王女メディア』、あのへんのは印象に残っていますね。

ー特にアニメについては?

久石:
う~ん、実はね、特にアニメというものを意識したことはないんですよ。僕にとっては、映像の延長というか…。

ー久石さんの創作活動の一部という位置づけで?

久石:
まったくそうです。たとえば、宮崎駿さん(『風の谷のナウシカ』などの監督)は、特にアニメの人とは思っていないんです。日本の有数な映画監督のひとりと捉えているんです。彼にとっての手段がアニメかもしれませんけど、僕にとっては実写のものと同じようにしかやっていない。当然アニメの方が現実の動きと違うから、その分だけ音楽が少し多めにしゃべる、ということはあっても、アニメだから…ということは思っていないですね。

 

学生時代は過激なことばかりやって

ー大学は国立音楽大学の作曲科ですよね?

久石:
ええ。

ーやはり小さい頃から音楽を?

久石:
4歳からヴァイオリンをやっていました。よく言われるんですけど、一番幸せなのは一回も他の職業を考えたことがない、ということ。

ーそんなに早く、音楽の道に進もうと思ったんですか?

久石:
4歳の時に音楽家になるって決めて、そのまんま来ていますから…。全然悩んだことがない(笑)。

ー学生時代はどんな音楽を聴いていましたか?

久石:
高校時代くらいからは現代音楽。ジョン・ケージとかシュトック・ハウゼンなど、そういうのばかり聴いていました。そのまま、超アヴァンギャルドの方に走って行ってしまいましたから…。ナウシカとはずいぶん違いますけどね(笑)。

ーアヴァンギャルドというと?

久石:
僕が学生時代やっていたのは、舞台に出て椅子をバーンと放り投げて帰って来るとか、ピアノの中にシンバルとか入れて、弾いてもまともな音にならないとか、過激なことばかりやっていました。

ー久石さんの作品には、ミニマル・ミュージックの手法などを取り入れられたものも多いですが、ミニマルはいつ頃から?

久石:
大学2年くらいかな? ある時に、テリー・ライリーの「ア・レインボウ・イン・カーヴド・エアー」というのに出会って、3日くらい寝込むくらいにショックだったんです。それまで、僕らはオーケストラのスコアをね、60段80段1個1個書いて緻密に作ってた時に、あの単純な「ア・レインボー~」を聴いて…。一瞬ロックかな?って思ったんだけど、後で最先端のアメリカの現代音楽だということがわかった瞬間に、雷に打たれたようなショックを受けたんです。

 

自分はジャンルに拘ることはない

ー今まで緻密なスコアを書いていたのが、ミニマルに変わるというと、かなりのご苦労が?

久石:
大変でした。4年くらいかかりましたね。ミニマルをやるためには、譜面を緻密に書いて”これが僕の作曲です”というんじゃ意味がないんですよ。環境から全部作って行かなければならない。それで、バンドを組んだりとか、みんなで練習して…。同じパターン延々とやるわけですから、1曲40分くらいかかる。ひとつのコンサート3曲で終わったり(笑)。そういう活動をしばらく続けていたら、僕は現代音楽の方から登って行ったんだけど、ロックの方から登って来て同じフィールドでやっている人もいっぱいいる、ということに気がついたんです。そのひとりが、マイク・オールドフィールド、あの「エクソシスト」の。それから、クラフトワークだとか、タンジェリン・ドリームだとかね。彼等もミニマル・ミュージックとテクノ…、エレクトロニクスをドッキングさせた音楽ですよね。その中でも一番ショックだったのがブライアン・イーノだったんです。

ー現代音楽とロックの両方からアプローチがあって…。

久石:
そう、それでその境がなくなっちゃったんです。僕は、その時ムクワジュというパーカッション・グループを作ったんです。高田みどりとか、日本の若手の打楽器奏者の主だった人を集めてね。そのバンドでコロムビアから『MKWAJU』というレコードを出したんです。アフリカの素材をそのまま使ってパターンを作ったものなんですけど、日本初のミニマル・ミュージックのアルバムなんですよ。ところが、それがフュージョンのジャンルで売れちゃったんです(笑)。

ーフュージョンのジャンルで!?

久石:
そう(笑)。その段階で僕が思ったことは、これ以上クラシック(の世界)っでやっていても意味がない、ということ。何故なら、リズムが違う。硬いんですね。そうした時にブライアン・イーノなどを聴いて、自分はジャンルに拘ることはないと思いました。それで、クラシックの活動をいっさいやめて、ポップスというフィールドに出て行ったんです。それまでもテレビ(の音楽)とかもやっていましたけど、基本的には現代音楽の作曲家がメインでしたから。

ーポップスの世界に出て来ていかがでしたか?

久石:
むしろ、ポップスというフィールドの方がアヴァンギャルドがいっぱいできましたね。最初に『インフォメーション』というアルバムを作ったんです。これは糸井重里さんの「おいしい生活」とドッキングして、”おいしい生活にはおいしい音楽を”というキャッチフレーズで、知的ポップスという形で出したんです。それをやった後が「ナウシカ」などの作品ですね。

 

僕のベースにはアヴァンギャルドが

ーミニマル・ミュージックは、ある意味ではリズムのおもしろさみたいなものもあると思うのですが?

久石:
そうですね。リズムにはすごく興味がありますね。ある時期はリズムしかなかった、みたいな…。僕はアフリカの音楽がすごく好きで研究して、結局ミニマルの人ってアフリカの音楽を研究しているんですよ。イーノも行ったし、スティーヴ・ライヒもそうですね。アフリカといってもガーナ。ガーナの音楽が一番複雑なんですよ。リズム構造が。

ーポリ・リズムみたいな?

久石:
ものすごいですよ。2/4と3/8、16/8とかいうリズムが同時進行…。

ーどっか一カ所で合って、あとはズレていくような?

久石:
そうそう。そういう音楽にのめりこんでいまして、その時は『アルファベット・シティ』というアルバムを出しました。これはすごかった。大アヴァンギャルド。メロディなしのリズムの洪水なんです。ニューヨークでトラックダウンしたんですけど、A&Mとセルロイド・レーベルの2社から契約したいと言ってきましたね。

ー久石さんのベースには、アヴァンギャルドの世界があるんですね?

久石:
ええ。おもしろい話がありまして、そのアルバム作っている時に、某レコード会社のアイドルをプロデュースすることになって、『アルファベット・シティ』を聴かせたんです。そうしたら、その仕事がなくなっちゃった(笑)。うちの〇〇が壊されるって(笑)。そのくらいアヴァンギャルドだったんです。

ーこれは、オフレコにしておきましょうね(笑)。

久石:
ハッハッハッ(笑)。もう時効ですよ(笑)。

 

もう1回やろうと思ってもできないですね

ーリズムという面では、たとえばナウシカの音楽にしてもかなり凝っているという印象を受けるのですが、映像とのドッキングという自由度の少ない分野でお作りになる難しさはありますか?

久石:
作曲家というのは、基本的に自分のアイデンティティというか、自分の個性とかスタイルをどう築いていくか、というのが使命なんです。しかし、それを無理やり作って行くというのは不自然ですよね。僕の場合は、学生時代からミニマル・ミュージックというものにどっぷり浸かっていたわけです。それを否定しようとするとウソになってしまうんです。だから、ポップスのフィールドでも、それが自分のベーシックにあって構わないと思うんです。

ーミニマルとかが?

久石:
そう。ただ、ポップスのフィールドで一番必要なのはメロディなんです。ミニマルやってた頃は、逆にメロディは必要なかったんですよ。ポップスの場合、そのメロディがキチッとしていれば、バックでどんなアヴァンギャルドやっても平気だし、という捉え方もあるわけです。それが、今の僕のスタイルなんですよ。映画音楽らしいものを作ろうとするより、自分なりの映画音楽を確立しようと思ってやればいいんです。

ーそういう意味でも、ナウシカの音楽というのは、印象的な美しいメロディと凝ったリズムの対比が素晴らしく、今までにない映画音楽という感じがしますが…。

久石:
そう感じていただければうれしいですね。作っている最中は、自由な音楽表現をしたつもりなんですけど、後で聴いてみると映画音楽としてオリジナリティがあるんじゃないかな? という気がしています。ある意味では、僕の中でメロディというものの存在が大きくなったのはナウシカからですね。

ーナウシカは、今まで持っていたリズムの鋭さとメロディが融合した作品?

久石:
そうかもしれませんねえ。ただ、具体的に言うとナウシカの段階では、映画音楽としてのバランスは決してよくないんですよ。つまり、打ち込みものでやった明確な部分と、ミニマルとオーケストラの部分が渾然一体していなくて、はっきり別れながら存在しているように自分では感じるんです。だから、まとまりという面では『ラピュタ』の方が好きなんです。

ーしかし、そういう部分を超えたエネルギーみたいなものを私は感じるのですが?

久石:
そういうエネルギーはあるかもしれませんね。もう1回やろうと思ってもできないですね。狙ってやれるものではないですから…。やはり、あの時期、あの時でしかできなかったことでしょうね。

 

今、ピアノに魅力を感じているんです

ーやはり、監督とのコミュニケーションも大切ですよね。

久石:
打ち合わせ徹夜が2日とか3日続いたり…。凄まじかったですよ。

ー場面場面の細かい部分まで?

久石:
やりますよ。こちらも折れないし。あそこまで緻密に(打ち合わせを)やる映画音楽はないかもしれないですね。

ー何秒と何コマ目まで音が入るとか?

久石:
ナウシカの時はそこまでやっていないですけど、ラピュタ以降はやってますね。今度の『タスマニア物語』などは、もっともっと凄まじいですよ。1秒の何十分の位置まで合わせてますので、時間がかかりました。実質半年はかかってますね。

ー『タスマニア物語』を作る時に考えたことは?

久石:
プロデューサーからの注文は、日本中が口ずさめるもの。僕が考えたのは、基本的にはやさしさと広がりですね。すごく贅沢な作り方をした音楽ですよ。シンセサイザーですむ部分をわざわざその上にオーケストラをかぶせたり。ちょっと聴いただけではわからないですけど、かなり凝っていますね。そういう意味で贅沢な作り方といえますよ。

ーそれでは最後に、今後の活動などを。

久石:
今、ピアノにすごく魅力を感じているんです。学生時代はあまり好きでなかったんですけど(笑)。最近ではハノンをまたさらったり(笑)。

ーホントに!?

久石:
45分以上はやりますね。珍しいでしょ?(笑)好きなんですよ。

ーまた、ピアノ・アルバムを出されるとか?

久石:
実は、その予定があるんです。まだプリプロダクションの段階なんですけど、これからイギリスで録音します。

ー発売は?

久石:
来年早々くらいじゃないかな? まだ、どの雑誌にも言っていない(笑)。

ー貴重な情報ありがとうございます(笑)。また、その時にお話を伺いたいと思っています。

(「Jazz Life別冊 ピアノプレイブック No.10」より)