Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年8月号 No.139」久石譲インタビュー内容

Posted on 2018/10/25

音楽雑誌「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年8月号 No.139」に掲載された久石譲インタビュー内容です。

北野武監督映画『Kids Return』についてのとても具体的な音作りについて語られた貴重な内容です。

 

 

今年ほど日本ということを意識したことはない。

久々に映画のサウンド・トラックを手掛けた久石譲さんの新作『Kids Return』がリリースされた。この作品のサウンドの背景には”日本”を強く感じ、今までの久石サウンドとは少し異なる印象を与えてくれた。久石さん自身の心境の変化、また次に控える宮崎駿さんの映画のサウンド・トラックのお話を含めて、彼の今の音楽観について語っていただいた。

 

●日本を意識した音

-今回のアルバム『Kids Return』は映画のサントラですね。

久石:
「そうです。僕も映画への復帰は2年ぶりです。ほとんど映画の仕事を断っていたから(笑)。ちょっと「日本の映画は終わったなあ」と感じていたんです。それで、しばらく休もうと思ってたんですよ。でも、日本の映画の状況は、もっと悪くなってきて、休んだからってよくはならないなと思ってね。やっぱり、ちゃんとやるところはやっておかなきゃ、と思っていた矢先にたけしさんの映画の話と、宮崎駿さんの次回作、ほとんど同時にオファーがあって…。「あ、これはやっぱり復帰するタイミングだな」と思ったんです。」

-今回のアルバムを通して聴いて、映画を観ていなくても”絵”が浮かんでくるような感じがしました。

久石:
「今回は、主人公が若い2人で、片方はヤクザの親分になって、片方はボクシングのチャンピオンになろうとするんだけど、両方とも挫折するという映画でね。だから、ある意味じゃ青春映画なんですけど。で、どういうスタンスを取ろうかなと考えてたんです。以前にたけしさんが作った『ソナチネ』は、けっこう虚無的な世界感だったんだけど、今回は青春映画だから違うだろうと思っていた。台本読んだ段階でも「違うな」と思っていたんですよ。でも、上がりはまったく同じだったという(笑)。」

-アルバムからはアジアの香りを感じたのですが…。

久石:
「それは、僕の今年のテーマなんですが…たとえば、パラリンピックのテーマを担当するんですが、この大会は、オリンピックの影に隠れてしまうし、規模も全然小さいんだけども、世界中の人々が注目する大会なんですよ。それが初めてアジアに来たわけですが、日本はいちばん福祉の遅れているところだから、日本人がいちばんその重大さをわかっていない。

そうすると、テーマを書く僕は、自分のアイデンティティやオリジナリティ、日本人であるということを、すごく一生懸命考えてしまうんです。そういう意味で、わりと”5音音階”とかに今年は積極的に取り組んでいるんです。

このことは、そのまま次の宮崎駿さんの自作のサントラの『もののけ姫』までつながるんです。ストーリーは日本が舞台だしね。だから、すごく今年ほど日本ということを意識したことはなかった。でも、たとえば「5音音階を使ったら日本風」とか、やたらアジアを出したりとかはしない。そういう決め事はないんだけれど、”自然に出てきて納得するもの””シンプルに作ってそうなるなら、いちばん望ましい”という発想でやっています。」

 

●こだわりの音色

-このアルバムの重要なポイントに、パーカッションがあると思うんですが、全部生での録音ですよね。

久石:
「それは企業秘密(笑)。でも、教えてもみんなマネできないから、教えてもいいんですけどね(笑)。

いわゆる通常のリズム・サンプリングをやっているんですよ。ただ、そうとうな数の組み合わせと、エスニックのミュージシャンを入れて、1パートは全部生なんです。いい意味でも悪い意味でも、生の持っている人間臭さと、そういうリズム・ループやなんかを使った時のメカニカルな部分、その両方が好きなんですよ。

音楽というのは、時間の上に作っていく構築物だから、出だしとおしまいというのは絶対違うわけです。それなのに全コーラス同じようにいこうとする…たとえば、メロディが1コーラス、2コーラス、3コーラスと出てきますよね。1コーラス始まって2コーラスに入る瞬間に、リセットする。なんで単に2回3回繰りかえさなきゃならないの? と思うんです。「衣装変えて、出てこいよ」という感じがあるじゃないですか(笑)。インストというのは実はそのへんがとても重要なんですよ。」

-今回のアルバムでも、いろいろなピアノの音が入っていると感じたのですが…。

久石:
「実は、今回の『Kids Return』も、最後の最後まで生のピアノって1回も弾かなかったんですよ。全部ふつうにコンピュータで、サンプリング中心に作っていた。で、今の質問が出たということは、ピアノの音が印象に残られたでしょ?」

-ええ、一瞬のフレーズとか…。

久石:
「あれは本当に、最後の最後に録った。ピアノは、実際に弾いて入れた音はすごく少ないんですよ。でも、それが印象に残るぐらい、生の存在感ってあるんですよね。それはプレイヤーの質もあるけどね。でも、結果的にピアノが目立ってくれて、僕自身は本当にほっとしているし、嬉しく思いますね(笑)。」

-クラリネットがメロディを取っている曲がありましたが、あれは生ですか?

久石:
「”ミニマル”っぽいやつね。あれは、すごく苦労しました。ヤマハのVP-1とVL-1に、いくつか音色をブレンドして、あの空気感が出るまでやってみたんです。だから、あれを聴いた人はなかなか打ち込みとは思わないと思う。」

-てっきり生だと思っていました。

久石:
「でしょ? うん、そう(笑)。あのぐらいやると、打ち込みとは思わないだろうと、僕も思いながら作ったから。そう思ってくれたなら、嬉しいですよ。人間やればできるって(笑)。」

 

●5年ぶりの宮崎作品

-宮崎さんの次回作の音楽もやられるということで、今はどのぐらいまで進んでいるんでしょうか。

久石:
「ほぼ、できているんですけどね。さっきも言ったように、わりと今年は日本人としてどう生きようかとか、そういうことを考えていた時期なんです。哲学の本とか司馬遼太郎さんの本をたくさん読んでいて、宮崎さんが対談なさっている本とかね。で、そういう中での巡り合わせのようなものですよね。『Kids Return』もそうなんですけど、”この時期になぜ自分が作るのか”、そういう意味をすごく考えながらやっています。

宮崎さんは『紅の豚』から監督はなさっていませんでした。プロデュースだけです。そうすると、宮崎さんとしては5年ぶりの作品で…だから僕とのコンビも5年ぶりということですが、そうすると、宮崎さんの今世紀の集大成の作品なわけです。その熱気がすごすぎて、こっちもそれに負けずに頑張らないと大変だなという感じです。

聞くところによると制作費が20億(!)だそうで。とにかく日本映画の枠の話じゃないですよね。当然、海外にもすぐに封切られるだろうし…。だから、そういう意味では大変な作品になりますよ。」

-楽しみですよね。

久石:
「絶対楽しみにしておいたほうがいいと思う。すさまじいですよ、内容もすごいし。本当に宮崎さんが、人生で考えてこられたことが全部凝縮されているから。

すでに、音楽の制作期間が4ヵ月越しているんですよ、しかも単なるイメージ・アルバムだけで。まだサウンド・トラック自体に手を付けていないのに…イメージだけに4ヵ月。それで、まだできていないんですから。みんな、目がつり上がりながら待ってますよ(笑)。」

(KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年8月号 No.139 より)

 

 

なお、本誌には『Kids Return』のエンジニア浜田純伸の話も内容濃く掲載されています。使用機材、音色の特徴、パーカッションの音の秘密、ピアノの音の秘密。専門的に精通している人が見たらきっと唸ってしまうディープで貴重なサウンド分解です。

 

 

久石譲 『Kids Return』

 

 

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