Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容

Posted on 2020/01/22

音楽雑誌「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」に掲載された久石譲インタビュー内容です。

オリジナル・ソロアルバム『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』について、たっぷり語られた貴重な内容になっています。

 

 

久石譲
New Album 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』 Interview

オリジナル・アルバムとしては『Piano Stories』から8年ぶり。久石さんの新作は『Piano Stories II』と題されている。ピアノとストリングスという、久石ミュージックのいちばんの魅力がたっぷりと味わえる、注目の1枚だ。コンサートやレコーディングで大忙しの久石さんに、今後の活動予定も含めてお話をうかがった。

 

自分にとって原点になるべきところ、それが「ピアノとストリングス」。

 

●”生もどき”の音 (?!)

ーオリジナル作品としては『Piano Stories』から8年ぶりのアルバムですが、この時期に II を出された理由は?

久石:
8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。

そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。

 

ー生楽器のみを使っていらっしゃる?

久石:
生ですね。あと”生もどき”(笑)。基本的に言うと、耳につくところは全部生だと思いますよ。

ただ4リズムという形態、つまりギター、ドラム、ベース、ピアノなんかは、音の存在感やアタック感も、すごく表現しやすいんです。それが弦とピアノとなると、「キックドラム」に相当する低域のパワー感を、弦だけでは出し切れなくなったりするわけです。けっして「きれいきれい」な世界を表現したいわけじゃなくて、そういうパワーも含めた「弦とピアノでここまで行ける」ということをちゃんと出したかった。

そのために、弦は「8-6-6-6-2(第1ヴァイオリン-第2ヴァイオリン-ビオラ-チェロ-コントラバス)」という特殊な編成で、低域をすごく厚い編成にしました。なおかつ、たとえばMIDIミニのようなシンセサイザーのベース音を隠し味で薄く入れたり。そういう意味では、限りなく生に近いんだけどそれをリッチに聞かせるための味付けを、他の楽器でもやっていますね。

 

ー個人的には3曲め「Asian Dream Song」が特に好きなんですが…。

久石:
これは、今年アトランタで行われたパラリンピックのテーマ曲とした書いた曲です。

 

ー「Angel Springs」では、ピアノだけの部分でハミングが入っているような…。

久石:
1枚のアルバムの中で必ず1個所出るんだよね(笑)。バイエルを習っている人でも弾けるようなシンプルなメロディなんですが、そういうところって逆にすごくツライ。簡単なフレーズは誰でも弾けるから、「もっと歌わなきゃ」なんていろいろ思うと、気づくとなんかノイズが入っているんです(笑)。

 

ーノイズですか?

久石:
あはは…そうかな。『Piano Stories』の方にもあるよ、何個所かね。

 

●弦の魅力と難しさ

ー「Kids Return」では、ストリングスがかなりギュンとうなっている感じですね。

久石:
たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。

でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。

弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。

ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。

 

ー4分の5拍子の曲もありますね。

久石:
「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。

ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。

 

●到達点でもあり、出発点でもある作品

ー6曲めはまったくピアノだけですが。

久石:
「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。

ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。

次のアルバムでは、こういった響きの曲も少しずつ増えてくるんじゃないかな…という予感はしていますね。すごく大事な曲です。12月のコンサートは、この曲をしっかりとピアノ・ソロでやる予定です。

 

ーアルバムを作り終えた、感想をひとことで言うなら?

久石:
このアルバムは、今までやってきたことの到達点でもあり、同時に出発点みたいな感じです。たとえば、作曲家として書いた弦のスコアはおそらく今までの中で最高だと思う。本当に3段階ぐらいレベルアップした感じがします。もちろん全部過渡期だけどね。安全を狙うというよりは攻撃的な弦を書けたから、それがすごくうれしかったですね。

細かいところまで考えれば、自分が狙っていたところが100%うまくいったとは言い切れない部分もあるけど、アルバムとしては100%うまくいったと思う。その中で課題はいくつか残ったので、それは次の時にチャレンジしますよ。

 

●スコアの上にメロディが”見えて”くる

ーコンサートのアレンジも、ご自身でなさっているんですか?

久石:
1曲残らず全部やるよ。だから、大変なんです。筆圧が強いから、(楽譜を書いた後は)ピアノなんて弾けない状況の手になる。コンサート直前まで書いてたから、死にそうになったよ(笑)。

ホントは大嫌いなんだけどね、スコアを書くのは。学校で放課後に残されて宿題をやっているような感じで、悲しくなりますよね。できるだけ逃げているんだけど、スコアに没頭して入り込んじゃった時には、本当にメロディが絵みたいに見えてくるんですよ。だから、書いている瞬間には「世界でいちばん俺がうまいな」と思いながら書いてますよね(笑)。また1時間後に「ダメだオレ、才能ないかもしれない」となったりしながら。

 

ーBunkamuraオーチャードホールのリサイタルも拝見したのですが、フル・オーケストラの音に感動しました。

久石:
オーケストラって想像以上におもしろいと思います。

 

ーコンサートって、いい音がしている時は演奏している人もすごくカッコよく見えますよね。

久石:
そうだと思う。アレンジがよくない場合、メロディが全部第1バイオリンにいってしまって、演奏者は大勢いるのにひとりしか動いていない…みたいな光景もあるじゃない(笑)。だけど、メロディがいろんなところにきちんとあって、必然性さえあればオケってすごく美しく見えるんですよ。

それにコンサートって、その時の編成や雰囲気で同じ曲でもまったく違う演奏になりますよね。次の11月のコンサートでも、「今回の演奏を聴いておかないとヤバイよ」という部分を、ちゃんと出すつもりです。

(KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143 より)

 

 

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