Blog. 久石譲はお好きですか? -独白-

Posted on 2025/12/01

久石譲はお好きですか?

私は久石譲の音楽をこよなく愛するファンの一人だ。どのくらい好きかと聞かれたら、それはもう人生そのものだ。ズームアップしてみる。自分の人生の中で起きた出来事をその時々の主旋律とするなら、久石譲の音楽はその時々の対旋律だ。どんな小さなメロディも豊かにしてくれるカウンターメロディ、絡み合い寄り添い共に歩むことができている。

生活するうえで「衣食住」は基盤だが、「衣音住」であったらいいなとすら思う。音楽を食べるように味わいたい。音楽が体や心の栄養になって補給してくれたらどれほど潤い満たされるだろう。

久石譲の熱烈なファンはグローバルに星の数ほどいる。応援する輝きもさまざまだ。私といえば「一応おさえている」という程度ではないことは確かだと思う。周りがどのように思い、どのような印象を抱いているのかはわからない。突然こんな話を聞かされても引くと思うがいったん話をさせてほしい。もしよければ聞いてほしい。

私がこれから言うことはシンプルで最強である。《久石譲コンサートはオール久石譲プログラム》で聴きたい。

 

 

一. 実録

2025年9月26日、大阪 ザ・シンフォニーホールで「日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #292」が開催された。久石譲が登場するコンサートはSOLD OUTに国際色豊かな観客層、この二つはもう名物と言っていい。近年、私が足を運んだコンサートでも座席の両隣が海外客、あるいは前後左右を見渡して世界地図のようにバラエティな海外客に囲まれることも珍しくはない。

だが、その日は一点だけが異なっていた。私の隣に座ったのは欧米人の若い男性二人組だった。その一人がめちゃくちゃ果敢に話しかけてくるのだ。英語でしゃべれると思った?最初に何か話しかけてきた時それ理解してそうな顔してた?、レベルは察知したようで一生懸命に日本語を頭の上で探しながら、また話かけてくる。私は私で一生懸命に英語を頭の上で探しながら、なんとか応えようとする。欧米人は拙い日本語で、日本人は拙い英語で、となんともちぐはぐな会話で暴投よろしくキャッチボールを繰り返した。

お互いの悪送球をカバーリングするとこうだ。

「写真撮影はOKですか?」~「この公演は写真撮影NGです」/「みんなが撮影している時はOKですか?」~「基本NGです。終演後とか舞台に誰もいない時は一枚くらいはいいかもね メイビーだけど」/「でもそれだと久石譲はいませんね」~ お互いに顔を見合わせ苦笑い

「久石譲の曲がたくさん聴けると思ってました」「私はこのプログラム(クラシック)の曲を知りません」「残念です」「スタジオジブリの曲はやりますか?」「私はそれで好きになりました」「残念です」「あなたも久石譲の曲が聴きたかったでしょ」~「そうですね」 お互いに顔を見合わせ苦笑い

あとは、休憩時間に入った時、何分くらいか?後半はどのくらいの時間か?とか。アンコールが終われば、今の曲はなんていう曲?とか。入口に掲示してると思いますよって言ったつもりだが伝わったのどうかは怪しいところだ。

 

 

一. クラシック作品との並列

久石譲は作曲家視点でクラシック音楽を読み解き現代的アプローチで演奏することの意義を、そして何百年と残ってきたクラシック作品と現在の自作品をプログラムで並べることの意義を語り、実際に2009年から本格的に実践してきた。この16年間でそれはもう証明できた、と私はどの立場から物を言ってもそう思っている。久石譲指揮 ベートーヴェン交響曲全集など賞も受賞し高い評価を得ている。

久石譲はもうそこの人じゃない。他作品ばかりで自作品をやらないのは、結果的に自作品の価値を下げていることにはならないだろうか。いい曲ありますからそっちをやりますとされたら、久石譲のよりもそっちのほうがすごいんだ、だって本人が自分の曲を差し置いてそっちを選んでるんだから、ってならないだろうか。そんなことはない!それは絶対に違う!この文章を書きながら頭を左右に振りすぎて少しくらくらする。

新しいフェーズは他者が並列プログラムするかをぜひ時代の必見ポイントにしたい。日本の海外の指揮者・オーケストラが、クラシック音楽と久石譲音楽を並べた演奏会を積極的に開催する。しびれる展開だ。きっとその未来は近づいていると確信している。

 

 

一. コンセプトとプログラム

なぜこの作品をプログラムするのか。意図や狙いがしっかりとあるものもある。ベートーヴェン交響曲と久石譲、ブラームス交響曲と久石譲、スティーヴ・ライヒと久石譲、などはすぐに思い当たる。そればかりか、久石譲コンサートで取り上げることでその作品の再評価を促したり、世界初録音もしくはそれに近い役割を果たすケースもある。だがしかした。だからゆえにだ。なんともその輝きすぎる功績に悩ましい限りだ。

久石譲が振るクラシックは新しい魅力で妙にたまらないのだ。昔からあったベートーヴェンに心躍らされわくわくしてしまう。今はじめて知った音楽に豊かな体験をさせられてしまう。どんな作品を取り上げても、その音楽のどこかに久石譲らしさを感じてしまうのだ。録音が音源化されるとあれば条件反射で浮かれてしまう。いけない、心を強く持て。私の高揚感よ鎮まれ。

その時代のために作品を書き、しかも作品の価値が時代を超えることの素晴らしさがある。「ベートーヴェン:第九」と並べることで傑作際立つ「久石譲:Orbis」しかり、「ライヒ:砂漠の音楽」と並べることで存在感膨れる「久石譲:The End of the World」しかり。時空でつながるリスペクトと境地への相乗効果だ。だからこそ今一番演奏されるべきは久石譲作品であると言いたい。いまの時代のために作品を書いているのだから。

MUSIC FUTUREコンサート・シリーズはその限りではない。

 

 

一. クラシック演奏会

久石譲は日本のみならず世界の名立たるオーケストラのシーズンプログラムで定期演奏会/特別演奏会に登場している。一口にクラシック演奏会だ。そこでこそ自作の交響曲・交響作品・協奏曲・室内楽が聴きたい。こんなことは誰にでも出来ることではない。作曲家自らが指揮をする。これに勝る価値と喜びはない。

スタジオジブリ作品からアンコール演奏されることもある。観客の無言の期待値は計り知れない。そうしてサービス感が満たされることもある。いや、もっていかれることもあるかもしれない。ライブラリを訪ねるとアンコール候補は360度くまなくある。周知の事実だ。久石譲が手掛けたエンターテインメント音楽はタイアップを知らない世代もいる。しかるにそれは、色眼鏡のない純粋に素晴らしい音楽として観客は楽しめるということ。どうしてこの曲を選んだんだろう? いい曲だからだ。

グラモフォンから世界リリースされたベスト盤2枚からセレクトするなら、コンサート会場での物販にも好影響だろう。コンサートの思い出を持ち帰れることにも好影響だろう。

仮に演目が変更になっても問題ないクラシック作品を挙げるのは心からもったいない。

 

 

一. 作曲家と指揮者

久石譲よりも若い世代の日本人作曲家が、自作の交響曲とマーラー交響曲を並べるコンサートを開催するなどニュースを耳にする。彼らもまた映画・ドラマで引っ張りだこの作曲家だ。久石譲が進んできた道のりには、いい風をつかまえることができる。もしまだ追随できないものがあるとするなら、それは書き下ろした作品を指揮者とオーケストラに託すかどうかだ。

自らの意思でその細部までコントロールして思うままのサウンドを作りあげる。他者の解釈が混ざらないピュアゴールドの輝きだ。あるいは、それは一流シェフが存分に腕を振るう特別ディナーみたいなもので、出されたものをただもう美味しくいただくしかない。作曲家久石譲・指揮者久石譲の演奏を余すところなく堪能できるのは時代のギフトだ。

 

 

一. ジョン・ウィリアムズ

映画音楽の世界的巨匠だ。たとえ映画は見たことがなくてもその音楽は聴いたことある。そんな人も世代とともに広がりをみせる。ジョン・ウィリアムズの映画音楽をプログラムしたコンサートは世界各地で開催されている。そして自ら指揮を振るコンサートとあらばその熱狂ぶりはプレミアものだ。

もし、自国にジョン・ウィリアムズが来てくれて待望のコンサートを開催したときに、そこで映画音楽をしなかったらがっかりする。それでも自作の交響曲や協奏曲が聴けるなら純度100%でうれしい。ジョン・ウィリアムズの音楽とわかるコンサートだ。その時「これは素晴らしい曲なんですよ」と全く他作品ばかりされたら心からがっかりする。はたまた、ジョン・ウィリアムズの母国に海外旅行中に運よくコンサートも開催される。そこでも同じことが起こる。せっかくのラッキーチャンスも目減りする。どうして自分の曲をやらないんだろうと純粋な疑問と不思議で頭の中はいっぱい帰国することになる。

上の文章からジョン・ウィリアムズを久石譲に置き換えてもセンテンスは成立するだろうか。

 

 

一. ポップスで考える

もし、宇多田ヒカルや米津玄師が「この曲に影響受けました」「めっちゃいい曲だから聴いてほしい」とライブでカバー曲ばかりしたらどうなるだろうか。インタビューなどで影響のバックボーンを知ることはファンにとってうれしい。リスナーの音楽フィールドも広がる。私ならすぐに曲を探して聴く。ライブのセットリストで1,2曲ならやってくれた希少さと喜びに沸くだろう。好きなアーティスト色に染まって聴ける曲はなんとも贅沢だ。しかしながら、セットリストの半分もそれ以上もカバー曲だったらファンは納得しないだろう。私たちはその流れを受けて生まれたあなたの曲が聴きたい。だって今を生きているのだから。

 

 

一. オーケストラ界

映画音楽は今や作曲家にとってのメインストリームだ。モーツァルト、ベートーヴェン、チャイコフスキー、彼らの序曲・歌劇・組曲は映画音楽のドラマティックさに匹敵する。時代が違えは映画音楽を書いただろう。それ以降続くオペラ・ミュージカル・バレエもそうだ。全てが当時のメインストリームであり歴史の中でクラシックになったのだ。時代のエンターテインメントがアートとなり遺ったのだ。はっきり言う。オーケストラの魅力を発揮する作品であるならばクラシックも映画音楽も素晴らしさは変わらない。

今の時代の作品をやってやってやって、それでもベートーヴェンが残る未来なら受け入れよう。でも現状はきっとそうじゃない。スポーツ界にもレジェンドはたくさんいる。そして今をときめくスーパースターもいる。昔の偉人はすごいよ、それはわかる、リスペクトも惜しまない。彼らがいたから今があるのだとしたら受け継いだものにこそ時代の共感性は最大限に生まれるのではないか。順番が逆だ。スーパースターが輝いてこそレジェンドにも光が伸びる。そう信じたい。

今のこの状況をどう了解するのがよいのかわからなくなる。

 

 

一. オフィシャルスコア

近年、久石譲作品のオフィシャルスコアも少しずつではあるが充実をみせている。ショット・ミュージックや全音楽譜出版社に加えてブージー・アンド・ホークスと音楽出版契約を結び演奏団体へのスコアレンタルも基盤が整う。これは同時に、世界中でどの久石譲作品が演奏されているのか把握できるというメリットもある。今年演奏された作曲家ランキングのようなニュースはこうした公式楽譜を管理する出版契約あっての統計だ。非公式楽譜のプログラムは含まれない。

ファンとしては片手にアルバム、片手にスコアを並べて心ゆくまで久石譲音楽を楽しみたいところだ。まずは、演奏してくれる人たちへの紹介と環境づくりはもっともだ。願わくは原典版から進化した改訂版が存在することを、その音源とスコアのアップデートもしっかりと形にしてほしい。びっくりするほど素晴らしい改訂版があるのに、いつまでも何十年も前のバージョンが演奏されたりそれが広まったり、そんな未来は想像したくない。作曲家として名を残し十全な作品ラインナップを実現してほしい。

 

 

一. スティーヴ・ライヒ

『スティーヴ・ライヒ対談集』その中で彼の2024年インタビューにこうあった。「現在、出版社のブージー・アンド・ホークス社に、今後予定されているコンサートを確認したところ、97のコンサートがあるとのことだ。そのうち7~9公演がアメリカで、残りの90公演ほどは世界中、主にヨーロッパで開催される」(p.430)ミニマル・ミュージックに代表される彼の作品はすでに古典になっている。

また別出典では「2022年欧米で最も作品が演奏された現代作曲家」は演奏回数順に1.アルヴォ・ペルト/2.ジョン・ウィリアムズ/3.ジョン・アダムズ/4.トーマス・アデス/5.フィリップ・グラスとあった。彼らの現代音楽と商業音楽はおそらく分け隔てなくカウントされている。

 

 

一. はじめまして/ありがとう

いつ誰に何があるかはわからない。誰かにとっては初めてのコンサートになるだろう。誰かにとっては最後のコンサートになるかもしれない。SNSで実感するのは5割以上が「はじめまして」じゃないかと思うほど客層とファンの絶え間ない広がりだ。初恋も初デートも、それがどんなに空を飛ぶようにうれしかったものでも、それがどんなに甘酸っぱく苦かったものでも、しっかりと刻まれることになる。その思い出は一人に一つしかない。

もし私がおすすめする機会があるなら、その人にとってキラキラになるコンサートをすすめたい。

 

 

一. まことの主題

まことの主題は久石譲によって生み出された旋律だ。これほど心をうごかされる美しさはおぼえたことがない。名曲も新作も私の目は好奇心で潤い輝いている。いつも未知の歓びがある。

日本公演でのスタンディングオベーション、海外公演での熱狂的な歓迎ぶりはクラシック/現代音楽の範疇を超えている。世界中が久石譲の音楽を聴きたがっている。久石譲 presents オール久石譲プログラム、それはエンターテインメントとアートが創る音楽世界だ。ワン・アンド・オンリーだから夢中になる。いつか満たされる日などは来ない。

もしクラシックよりも自作を振ったほうが充実していると思われるなら是が非でも待機万全だ。好機を得たらクラシックとのプログラム比率を再考する瞬間が訪れてほしい。コンサートのサイクルが変われば、リリースのサイクルもまた変わるだろうか。それもまた待機万全だ。

 

 

一. 極めて独白

久石譲は作曲家である。久石譲は指揮者としても個性を放つ。久石譲のピアノは心にたまる。45年以上のキャリアで第一線であり続けることは本当に稀有だ。常に作品を書き続けていることには、言葉ではとてもとらえきれない尊さと価値がある。作曲のためならやりたいことをやってほしい。やりたいことをやったその結実で私は常に新しい久石譲音楽を楽しめていることもまた事実だ。

私は未熟だ。いかなる思慮深さをもったとしてもまず初めに思うことはそうだし、納得を示したとしても最終的に思うこともまた同じである。あなたの曲が聴きたい。

私の独白はここで留める。ただただファンの一人という小さな一滴の自分が楽しみたいことを最優先に置いている。視野を狭めることでファンを謳歌している。とうてい模範的で最良のファンにはなれない。私はどこまでも久石譲の音楽を偏愛する。

作曲家自らの指揮による自作交響曲全曲演奏会シリーズ!交響曲全集パッケージ!こんな未来を想像させてくれる作曲家を私は知らない。

幸せをこめて

2025年12月 ふらいすとーん

 

 

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最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「JOE HISAISHI SPECIAL CONCERT 祈りのうた2025」コンサート・レポート 【10/28 update】

Posted on 2025/09/07

2025年8月23~27日開催「JOE HISAISHI SPECIAL CONCERT 祈りのうた2025」コンサートツアーです。4月から日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就いています。「音楽監督就任披露演奏会」として愛知・大阪・兵庫・東京の4都市を巡りました。

プログラムはスティーヴ・ライヒ作品から久石譲作品まで濃厚です。「就任記念」というお祝いムードではない「就任披露」、戦後80年の今年にふさわしい渾身と気迫の演奏会は全公演とも満員御礼&スタンディングオベーションで熱狂的でした。

 

 

Joe Hisaishi Special Concert 祈りのうた 2025
日本センチュリー交響楽団 音楽監督就任披露演奏会

[公演期間]  
2025/08/23 – 2025/08/27

[公演回数]
4公演
8/23 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
8/25 大阪・フェスティバルホール
8/26 兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
8/27 東京・東京オペラシティ コンサートホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
ヴォーカル:テオ・ブレックマン
合唱:東京混声合唱団

[曲目]
スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽 *Chamber version with brass *日本初演

—-intermission—-
久石譲:祈りのうた(映画『君たちはどう生きるか』より)
久石譲:The End of the World

—-encore—-
Ask me why (Pf.Solo)(大阪・東京)
One Summer’s Day (Pf.Solo)(兵庫)
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

[参考作品]

 君たちはどう生きるか サウンドトラック 久石 The End of The World LP o

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

ご来場の皆さん、作曲家で指揮もする久石譲です。

「祈りのうた2025」と題した今回のツアーは戦後80年としてのメモリアルなものになっています。日本人である僕の”The End of the World”は2001年の9.11をテーマにしていて、アメリカ人であるSteve Reichの”The Desert Music”は日本に落とされた原爆の実験場の砂漠がタイトルの意味になっています。普段は論理的な構造を好む僕でも「縁」を強く感じます。他に”祈りのうた”も用意しています。

また2025年から日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任することになりました。古典から現代曲まで幅広く演奏し、楽しい痛快なオーケストラとして団員と協力して活動していく所存です。

皆様に楽しんでいただけると幸いです。

2025年 夏
久石譲

(「JOE HISAISHI SPECIAL CONCERT 祈りのうた2025」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

会場で配布されたプログラムには「スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽」の楽曲解説2ページ/歌詞・日本語訳詞4ページ(サウンド&ヴィジュアル・ライター 前島秀国氏 筆)と、「久石譲:祈りのうた」~「久石譲:The End of the World」の楽曲解説2ページ/歌詞・日本語訳詞2ページ(サウンド&ヴィジュアル・ライター 前島秀国氏 筆)が収められた充実した内容になっています。最新アルバム『Joe Hisaishi Conducts』のフィジカル盤(2026年3月27日発売予定/デジタル:2025年8月8日発売)が出た時にはブックレットにそのまま掲載されてほしいくらいの超重要ナビゲーターです。

スティーヴ・ライヒ作品については同じ前島秀国さんによるコラム、久石譲作品についても同じ前島秀国さんによるCDライナーノーツにも同旨たっぷり掲載されています。ぜひご参考ください。

 

出典:ミニマリスト久石譲がスティーヴ・ライヒの大作“砂漠の音楽”日本初演を担う意義とは? | Mikiki by TOWER RECORDS
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/38133

 

 

 

久石譲×日本センチュリー交響楽団

その共演歴は約15年以上になります。2008年太王四神記イベント、2012年大阪ひびきの街コンサート、2013年第九スペシャルコンサート、そして2015年,2017年,2019年ジルベスターコンサートなどがあります。2021年には日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任し、それから毎年のように定期演奏会/特別演奏会に登場することになります。大阪を拠点とした関西エリアで精力的にコンサートを開催、2024年にはマカオ公演も実現しました。演奏会プログラムは古典作品への新しいアプローチ、現代作曲家の作品、そして自作品という3つの軸で、常に新しい観客を取り込みながら満員御礼の大盛況です。

2025年4月に日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任しました。プロの常設オーケストラの音楽監督に就くのは初です。就任について「1度はオーケストラと深く関わる仕事をしてみたいと思っていました。たくさんのお客様に受け入れられた上で高い音楽性を維持できるよう努めます。」とコメントしています。任期は3年です。楽団の年間プログラムや中長期的な音楽戦略などに関わりながら、演奏会への出演もこれまで以上に増える予定とのことで期待です。

音楽監督就任1年目の2025/2026シーズンでは、全ての定期演奏会でベートーヴェン交響曲と現代の音楽を組み合わせるプログラムになっています。また親子で楽しめるファミリーコンサートや、小編成アンサンブルで最先端の音楽を届ける「Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE with JCSO」など多彩なコンサートが開催されます。

 

 

これから!まだ間に合う!

 

 

久石譲は今シーズン自ら指揮する定期演奏会でコンサートマスターを松浦奈々さんの一人に固定しています。これについて「1回目で最高の音は出し切れない。数回、演奏することで高いレベルに到達できる」と狙いを語っています。

日本センチュリー交響楽団は約50人の小規模編成です。久石譲は「スポーツカーみたいで、スピード感と切れ味が売り。世界の潮流もそうだ。一人でも多くの観客の心をつかみたい」と意気込みを語っています。室内オーケストラでアンサンブルを磨くスタイルは久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS(FOC)とも共通していますね。

 

 

さていよいよ。

〈JOE HISAISHI SPECIAL CONCERT 祈りのうた2025〉プログラムは、戦後80年を迎えた今年、原爆をもテーマにした「スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽」、9.11に影響を受けた「久石譲:The End of the World」、太平洋戦争の中を生きた映画『君たちはどう生きるか』から「祈りのうた」の三作品です。ここからひとつの大きな〈祈り〉をテーマにしていると感じます。

決して優しくはないプログラムですから、普段のSNSなら「何かわからなかったけどすごかった」みたいな感想も目にしていいはずなのに、今回はコンサートの満足感と納得感を投稿したものがとても目立ちましたね。とりわけ、本演からアンコールまでのプログラムの大きな流れやテーマに感嘆したり、しっかり受け止めている声はとても多かったです。

それからオーケストラ+合唱という圧倒的なパワーです。ステージ後方にずらっと並ぶほどの大所帯でもない約27人の混声合唱でしたが、オーケストラとのバランスも素晴らしく合唱の力に心揺さぶられました。あまり語れる機会もないからはっきり言いたい。久石譲のオーケストレーションの凄さはもうたくさんの人がわかってる。合唱の声部の緻密さや構成もかなり凄い。オーケストラでメロディにたくさんの対旋律やフレーズが交錯するのと同じようなことが合唱でも起こっている。ハモったりするだけじゃない、メロディと内声で層のように歌っているだけじゃない。そう思っているから、ステージの大迫力の合唱も立体的に響いてきて堪能しきりです。

 

 

スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽 *Chamber version with brass

スティーヴ・ライヒといえばミニマル・ミュージックを代表する作曲家の一人です。世界中でたくさんの作品が演奏されていますが、1984年のこの作品はあまりの規模の大きさと難しさからこれまで日本では演奏されていませんでした。日本初演を飾ったのは「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.7」コンサート(2024)です。オーケストラと合唱の約150人という大編成でオリジナル版が披露されました。

本公演では「金管付き室内オーケストラ版」がこれまた日本初演されました。ショット・ミュージックの総譜案内には《ライヒ/ピアソン:砂漠の音楽 ― 金管付き室内楽版 ― 増幅(アンプリファイ)された10の声、縮小オーケストラと金管のための(Boosey & Hawkes)》とあるとおりでこの表記が全てを言い当てているように思います。アラン・ピアソンによる編曲版で、より演奏会でプログラムしやすい編成規模になっています。

僕は、ほぼ中央寄りの一列目で鑑賞したため(座席運に感謝!)、舞台奥の楽器編成がうまくわかりませんでした。オリジナル版も3つのグループに分かれる弦楽セクションですが、室内楽版は3つのカルテットと2人のコントラバスという極めて削ぎ落とされたゾクゾクする編成でした。そのほか、オリジナル版と共通する2人のティンパニ、2台のピアノ+4台のキーボード、本演では27人による混声合唱などとなっていました。

こじんまりとしたものをイメージしますか? 全くもってです。より鋭くなった各楽器や各パートの音はゾクゾクする音像でした。そしてブラスがとても効いていた。素晴らしかったです。圧倒的に飲み込まれる感覚はオリジナル版と同じです。さらにスコアを見るように明瞭に聴こえてくる楽器たちは、アンサンブルフリークにはたまらないものです。弦楽3つのグループも各首席奏者がそれぞれ引っ張っていてしびれました。打楽器だけで10人もいることも、パーカッションフリークにはたまらないものです。本演と同じか近い演奏はCD録音や演奏会動画などでも探すことができます。

 

 

〈JOE HISAISHI SPECIAL CONCERT 祈りのうた2025〉プログラムの「砂漠の音楽」と「The End of the World」は、今年8月BBCプロムスでもロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団との共演で演奏されました。久石譲初出演です!それに関連して公開されたインタビュー動画では、「砂漠の音楽」についてスティーヴ・ライヒさんから「第二次世界大戦後80年に原爆を作った国の作曲家が書いた曲を、落とされた国の作曲家・指揮者が演奏する。これはとてもある種の縁があるというか意味のあることではないか。運命を感じる」とメッセージをもらったと語っています。

久石譲コンサートでは、これまでにスティーヴ・ライヒ作品から「エイト・ラインズ」「クラッピング・ミュージック」「シティ・ライフ」「デュエット」を演奏しています。2024-2025年夏には「砂漠の音楽」、そして今年10月には「18人の音楽家のための音楽」がMUSIC FUTURE Vol.12で予定されています。この作品もライヒ代表作のひとつで「砂漠の音楽」と同じ手法で書かれていることも大きな特徴です。演奏者18人の精鋭アンサンブルに期待です。

 

次いつ聴けるかわからない大作「砂漠の音楽」です。2024年日本初演のオリジナル版のライヴ音源が音源化されたばかり!聴くたびに走馬灯のようによみがえってくる録音芸術はうれしい。そして久石譲ファンでいることがいろいろな作品に豊かに出会えてうれしい。

 

 

 

ー休憩ー

 

 

久石譲:祈りのうた(映画『君たちはどう生きるか』より)

2015年1月5日宮崎駿監督の誕生日に贈られたピアノ曲です。久石譲は「東日本大震災の影響も受けて、祈りとしての分散和音だけで作った曲」とも語っています。三鷹の森ジブリ美術館の展示室用音楽としても使用されるピアノ版は『Minima_Rhythm II』に収録されています。

2015年、戦後70年となった年のWDO2015コンサートでピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版(『The End of the World』収録)が世界初演されました。映画『君たちはどう生きるか』の「祈りのうた(産屋)」はこのバージョンが元になっています。

コンサートホールに響く水を打ったようなピアノの音は、神聖な空気につくり出します。本演では序盤の繰り返しがカットされていたと思います。冒頭から終結まで聴こえるチューブラーベルズも、様々な想いが倍音となって胸に響きます。祈りや黙とうを捧げる時間を音楽のかたちにしたようなこの曲、大切な一曲です。

 

あっと驚くことに、演奏後の緊張感を保ったまま次のプログラムは続けて演奏されました。

 

久石譲:The End of the World

I. Collapse
II. Grace of the St.Paul
III. D.e.a.d *
IV. Beyond the World ◇
Recomposed by Joe Hisaishi: The End of the World *◇

*ヴォーカル ◇合唱 

2007年にニューヨークの9.11跡地を訪問したことがきっかけとなって作曲された作品です。2008年に全3楽章の組曲が誕生し、その後スタンダードナンバー「The End of the World」と自作品『DEAD』の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉を組み込みながら、こちらも戦後70年にあたる2015年に全5楽章が初演されました。約40分からなる交響作品です。

2025年8月BBCプロムスでも演奏された作品です。久石譲はそのインタビュー動画でスタンダードナンバー「The End of the World」について「”あなたに愛されてなかったら世界は終わる”というラブソングだったんですが、この場合の一人称のラブソングの”あなたに”を”あなたがたに”とかそう捉えていったときに、これってとても大きい人類の曲になるんじゃないかと思って」と語っています。

今年はこの作品を最新アルバム『Joe Hisaishi Conducts』とBBCプロムスのライブラジオそして本公演で聴くことができて、それぞれのパフォーマンスを楽しめるという贅沢さでした。ヴォーカルはマイクを使用していましたが、テオ・ブレックマンさんの歌唱法を聴けばそれもまた納得です。独特なスモーキーな声色は、とても繊細に濃淡にフレーズを歌い分けていました。光や希望というよりも、今のこの世界の悲痛さのほうをより感じました。

日本センチュリー交響楽団の演奏も素晴らしかった。勢いがすごかった!全員野球ならぬ全員演奏といった結束力と集中力が伝わってきました。僕はわりと欲しがるわがままさで何でもコンサート音源化してくださいと言いがちなタイプなんですけれど、この演奏はそれとはまた違う感覚でした。録音にはそぐわないライヴらしい演奏、ほんとそうで勢いとそのパワーは体感することでしか味わえない高揚感がありました。こんな生演奏が聴けるなら録音されなくてもウェルカムだよ!!みたいな手放し感ですね。鼓膜が震えるほどの合唱のエネルギーもすごかった。録音には収まり切れない快演をたっぷり浴びました。9月にはまたピッツバーグ交響楽団と共演予定になっています。世界中で響きわたる大作です。

 

 

The End of the Worldの変遷

久石譲 『Another Piano Stories』

3楽章からなる特殊編成版とスタンダードナンバーは久石譲が歌唱しています。

 

久石譲 『ミニマリズム』

3楽章のオーケストラ版となって合唱パートも加わりました。

 

「d.e.a.d」楽章が組み込まれスタンダードナンバーまでの全5楽章になりました。

 

2015年版ですが第2,5楽章などで新たにアップデートしています。詳しくはFOCvol.7コンサートレポートをご覧ください。

 

さらに言うと、本公演および直前にBBCプロムスで演奏された『The End of the World』は、これまた「Recomposed by Joe Hisaishi: The End of the World」で新たな修正を聴くことができました。『Joe Hisaishi Conducts』収録の2024年ライヴ版までは、歌詞を歌う後半パートから合唱が登場しますが、今回は前半からコーラスのハーモニーが書き加えられていました。まだまだ底の知れない進化をつづける作品です。

 

 

ーアンコールー

 

君たちはどう生きるか
Ask me why (大阪・東京)

久石譲によるピアノソロです。〈祈りのうた2025〉では少し曲尺が短くなっていました。1コーラス~間奏と行ってAメロに戻ってきますが、そのAメロ終わりでrit.して、次のサビには進まずに一気にアウトロの最終和音へと飛びます。アンコールサイズとしては、もしかしたらこれから定着していくバージョンになるのかもしれませんね。

 

あの夏へ(兵庫)

会場ごとにアンコール曲を変えてくるなんてうれしい!久しい!大好き! この曲を聴けた人たちもまたうっとりだったでしょうね。

〈久石譲&ロイヤル・フィル スペシャルツアー 2025 オーケストラ・コンサート〉でも披露されたこの曲は、そのコンサートレポートでは、2001年7月20日公開『千と千尋の神隠し』、その2ヶ月後に起こった9.11米同時多発テロについて少し触れました。

「あの夏へ/One Summer’s Day」「ある夏の日」という言い方もできますね。”One Day”は”ある日”ですけれど、過去と未来、両方の「いつか」を表すことができます。未来にしか使えない”Someday”の「いつか(いつになるか分からないけれど)」は遠い未来または不確かや不特定なニュアンスになるのに対して、”One Day”は「いつか(必ず)」という確信や強い願いや意志を込めたニュアンスになります。

「あの夏へ/One Summer’s Day」は、過去のあの夏へ想いを馳せることもできる。そして未来のあの夏へと強く思い描くこともできる。そこへ向かって行く意志や引き寄せる努力、つまり未来へ祈ることもできる曲だと思うのです。久石譲がこの曲をとりわけ好んでいることには、そういった時空を超えたテーマもあるのではないか(My one answer)と思っています。

 

組曲「World Dreams」第一楽章
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

2004年に久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)のテーマとして書き下ろされた楽曲です。その後、時代の変化とともに楽曲の位置づけも変化していきました。今ではWDOの枠を超えて様々なコンサートで演奏され、海外オケとの共演機会も増えている楽曲です。歌詞をつけた合唱版が初披露されたのは2011年東日本大震災が起こった年の10月です。この版は合唱のためのキーになっているほか、オーケストレーションも混声合唱の各声部と呼応するようになっています。

本公演の「The End of the World」と同じく9.11を強く意識した楽曲でもあります。原版、合唱版、組曲版、ライヴ音源を含めて複数のアルバムに収録されています。その全ての楽曲解説ページで久石譲のメッセージは紹介されています。

”「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で・・・・』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国家のような格調のあるメロディーが頭を過った」”(CDライナーノーツより)

 

 

本演からアンコールまで、大きなテーマとストーリーを持ったプログラムは圧巻でした。「砂漠の音楽」から「World Dreams」までオーケストラと合唱の巨大なエネルギーは圧倒的でした。作品ごとに響くチューブラーベルズも、警鐘、弔鐘、鎮魂の鐘、そして希望の鐘。

アンコールの会場掲示も注目すべきかもしれません。「Ask me why」ではなく「君たちはどう生きるか」とまさに言葉とおりに聴衆に投げかけています。「World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra」ではなく「組曲 第一楽章」とまたここから始まるんだということを強く示唆しているようにも感じました。(本来の組曲版は合唱編成はありません)

 

大阪

兵庫

from SNS (ご提供いただきありがとうございます)

 

 

祈り

祈りとは決意です。広辞苑によると、日本語の「祈り」の語源には「生きる(い)ことを宣(の)る」つまり「自分の意志を宣言すること」の意味があるそうです(詳しくは検索!)。そう考えていくと、「平和の祈り」とは平和を願うことはもちろん、自身の平和への意志を宣言しそれを実現するための具体的な行動を伴う決意表明とも言えます(詳しくは検索!)。なんだかスケールが大きい話にも聞こえますね。でもたぶんそんなこともないです。

日常的なニュースを目にすれば、簡単に人を傷つけてもいい、簡単に人を殺してもいいと思っている人は確かにいるとわかります。それが個人なのか団体なのか国なのか、その数の大きさや影響の大きさが問題なのか、日々さまざまな争いごとは起こっています。じゃあ自分はどうすると自問自答。まずは自分が周囲の人と争いを起こさないように努力する、何かが起きた時は歩み寄り平和的解決へ努力する、この半径3メートルの世界からまた始めたいと気持ちを新たにしました。

戦後80年は、再び戦争に向かわせなかった先人たちの意志と努力のおかげでもあります。次は戦後100年、いや戦後100年を迎えられるかは自分たちにかかっているのかもしれません。まったく無関係ではいられないのは確かだと思うとちょっと身震いちょっと怖い。

2025年夏、久石譲3大コンサート〈スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル〉〈オーケストラ・コンサート〉〈祈りのうた2025〉その全てのプログラムで演奏されたのは『君たちはどう生きるか』(Ask me why/祈りのうた)です。久石譲は音楽をとおして、多彩なプログラムをとおして自分はこう思うけどあなたはどう思う?と問いかけたのだと思います。そうして、これから”君たちはどう生きるか”と返された大切な夏でした。「Ask me why(〇〇の決意)」、〇〇に久石譲コンサート2025に足を運んだ人数分一人一人の名前が入ったら、それはきっととてつもない祈りのエネルギーになる。音楽は無力じゃないし、音楽家に「音楽は無力だ」とは言わせたくはない。音楽に力を持たせられるのもまた聴く人だ、と前向きな希望も持ちました。祈り、そしてさらに一歩踏み出して決意、心震える夏でした。

 

 

 

”音楽は世界を変えられるわけではないし、戦争を止めることもできません。ただ、音楽には人間を人間たらしめる重要な価値があり、(平和のために)できることがある。僕はそう信じています。”(久石譲)

Info. 2025/01/01 [新聞] 「戦後80年 音楽で問う 作曲家・久石譲さん【平和をつなぐ】」(岐阜新聞ほか) より抜粋)

 

 

 

みんなのコンサート・レポート

もう48回目の久石譲コンサートレポートになるんですね。ずっと追いかけててずっと記していてすごいです。SNSでも紹介させてもらったときに「Lv.48の着眼点で楽しいタメになる!!」と何気なしに書いていたら、そこから周りの久石譲ファンの皆さんの自身のレベル投稿が始まっておもしろかったですね。僕もレベル見たんですけれど3回計算して3回とも違ったのでその間をとることにしました(テキトー)。Lv.64でした。行ったことを忘れてるものもあるし、行った気になってるものもあるし、最近では配信で見たものを参戦したつもりになんて注意しないと記憶の改ざんが勃発しています。

回数もいいけど、行くたびにレベルアップしてる感じがいいですよね。音楽の経験値は上がるし豊かになります。あなたはレベルいくつですか? どんな値だったにしろ、きっとわかった瞬間ちょっとした充実した気持ちになると思いますよ。

 

久石譲夏の3大コンサート完全制覇のふじかさんです。最後まで気迫と充実の漲るレポートはさすがです。作品ごとに僕もそう思う!と共感するところがあったり、The End of the World第2楽章は、まさに自分も今回改めてそのカオス感や末恐ろしさを感じたりしたから、こうやって言葉にしてくれて感謝!と思ったり。コンサートから受け取ったメッセージも同じように感じた人はいると思いますが、ちょっとしたニュアンスはやっぱり一人一人のものだから一言でも二言でも言葉にするとすっと入ってきます。

 

 

2025.10.28 update

(Updated up to here on Oct. 28, 2025)

 

 

リハーサル風景

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https://x.com/joehisaishi2025

 

 

ほか

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https://www.instagram.com/theobleckmann/

 

 

公演風景

愛知公演

大阪公演

兵庫公演

東京公演

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ほか

公演風景動画(砂漠の音楽)もあります

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https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

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バックステージ

ほか

from テオ・ブレックマンInstagram

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.12」コンサート・レポート

Posted on 2025/10/27

10月22,23日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.12」コンサートです。今年は久石譲とスティーヴ・ライヒという世界を代表するミニマル作曲家の作品が並ぶ豪華競演です。東京・長野で開催されました。

 

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.12

[公演期間]  
2025/10/22,23

[公演回数]
2公演
10/22 東京・東京オペラシティ コンサートホール
10/23 長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Music Future Band
ピアノ:滑川真希

[曲目]
久石譲:The Circles  ※世界初演

久石譲:Piano Sonata
I. Heavy Metal
II. Blues Invention
III. Toccata

—-intermission—-

スティーブ・ライヒ:18人の音楽家のための音楽

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

2025年のMUSIC FUTURE Vol.12はいよいよスティーヴ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」を演奏します。日本人奏者を中心としたこの楽曲の演奏はこれが初めてです。また前半は今回のために作曲した僕のThe Circles(世界初演)とPiano Sonataの東京初演も行います。

そのまた前に行う18時半からのYoung Composer’s Competitionでは全世界から130曲近くもの応募が寄せられました。これはもう国内のコンクールの域を脱しており我々関係者はその想いを受け止め、真摯に向かい合わなければならないと思っています。

12年続いたこのMUSIC FUTUREは来年から海外でももっと積極的に行っていきます。さらなる飛躍を目指して進化していきますので応援してください。

2025年10月
久石譲

 

Joe Hisaishi:The Circles ※世界初演

2025年10月4日土曜日にやっとThe Circlesのスコア制作が終わった。コンサートの2週間前で演奏者にはすまないと思っている。

変拍子のリズミックな楽曲を作ろうと考えたのはスティーヴ・ライヒの「The Desert Music」の気が遠くなるほど続く変拍子を指揮した結果「そのような曲を自分は書いてない」と思い今回チャレンジした。

即興的な短いフレーズを積み重ねていく方法を取ったのだが、思ったより軽やかな曲想となりフレンチテイストな楽曲になった。クラリネット2、パーカッション2、ピアノ2、とストリングカルテットというシンプルな編成で約7分の楽曲になった。

The Circlesというタイトルは、楽曲が途中から冒頭に向かって短いフレーズごとに逆行していき最後は一つの大きなリングになるためそれを表したものである。

久石譲

 

Joe Hisaishi:Piano Sonata

Piano Sonataはピアニストの滑川真希さん、フィルハーモニー・ド・パリ、Festival Ars Electronica、MIT Center for Art, Science & Technologyの共同委嘱で2020年の秋にフィルハーモニー・ド・パリで予定されていたコンサートのために作曲した。

が、COVID-19のため延期され、2022年に第3楽章のToccataのみフィルハーモニー・ド・パリで初演された。込み入ったテクスチュアのため何度か書き直しを提案したが、真希さんは果敢に挑戦され、今年の大阪万博で世界初演された。東京では今回のMusic Futureが初めてである。

Piano Sonataは1. Heavy Metal、2. Blues Invention、3. Toccataの3楽章で構成した。タイトルが示す通りリズムを重視した作曲を目指し、メインモチーフを単に繰り返すのではなく様々に変容していく構成を取った。そのため機械的な演奏になりがちなのだが、真希さんはとても情熱的でヒューマンな演奏をすることで楽曲の内在するパワーをGroove(グルーヴ)を表現した。またハーモニーではなくポリフォニックな方法をとっているためバロック音楽に近いと僕は思っている。言わば現代バロック音楽(Contemporary Baroque Music)である。

久石譲

 

Steve Reich:Music for 18 Musicians

*スティーヴ・ライヒ 訳・編:前島秀国氏(サウンド&ヴィジュアル・ライター)による楽曲解説が掲載されています

 

 

Music Future Band 2025

Violin 1 郷古 廉
Violin 2 横島 礼理
Viola 中村 洋乃理
Violoncello 櫃本 瑠音
Clarinet 亀井 良信、マルコス・ペレス・ミランダ
Percussion 内田 真裕子、神谷 百子、高瀬 真吾、東 佳樹、藤井 里佳、二ツ木 千由紀、 和田 光世
Piano 石川 良子、今村 尚子、鈴木 慎崇、三又 瑛子

Voices
東京混声合唱団
Soprano 稲村 麻衣子、大沢 結衣、小巻 風香
Alto 小林 音葉

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.12 コンサート・パンフレット」より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

開場18:00、開演19:00、その開場時間内の18:30からYCC優秀作品の評と演奏が行われました。審査を務めた久石譲さん、前島秀国さん、足本憲治さんが登壇され、それぞれお話しされました。久石譲挨拶にもありましたが約130曲もの応募があったそうです。過去最多なのはもちろんのことコンペ規模として相当なものです。コンサート・パンフレットにも講評が掲載されています。また公式サイトには一時審査通過作品も含めた講評と冒頭音源が公開されています。どんな作品が集まったのかぜひご覧ください。

第6回 Young Composerʼs Competition|久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー Vol.12
https://joehisaishi-concert.com/comp2025-jp/

 

第6回 Young Composer’s Competition 受賞曲
Luca Pettinato「Fiore di un giorno」

東京公演で演奏されました。とてもゆったりとリラックスして聴ける曲で、奇をてらわない展開というか流れゆくままに気持ちよく進んでいく音楽でした。クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、プリペアドピアノという編成で約7分の曲は、奏法や響きにも細かい意図があり、観客らが席へ移動する開場時間のなか静かに皆さん耳を傾けていました。演奏は国立音楽大学の学生によるもので、演奏後には作曲者であるLuca Pettinatoも客席から登壇され大きな拍手が送られました。

 

久石譲:The Circles ※世界初演

構成や楽器編成については久石譲の楽曲解説にあるとおりです。とても魅力的な作品でした。「フレンチテイスト」というキーワードは的を得ています。楽想的には「Woman」「Les Aventuriers」をさらに複雑にした感じ、「イザベラ・バードの日本紀行」(ラジオ音楽:未音源化)のような品のあるモダンさも感じます。フェルメール&エッシャーの「Circus」とかも感じたかもしれません。曲はマリンバとシロフォンも効いていたし(だったよね?)、ソリッドな弦楽器はアコーディオンのようにシャープな音像でした。とても聴きやすい&聴きごたえのある曲でもっと聴きたかったです。久石譲は本公演でこの作品のみ指揮しています。

 

久石譲:Piano Sonata

約22分の作品。5月にEXPO大阪2025で世界初演されました。満を持してのプログラムです。そもそもこの作品の経緯はとてもユニークです。2020/2022年に作曲され2025年に初演を迎える間、「MUSIC FUTURE用に書き直せないか?」という久石譲の着想から2024年MUSIC FUTURE Vol.11でアンサンブル作品「The Chamber Symphony No.3(室内交響曲第3番)」として別の作品にも仕上げられています。

この2つの作品、ピアノ・ソナタと室内交響曲は姉妹作品と言えます。全体構成はほぼ同じだと思いますが、楽器編成からくる組み立てる構造の差異はあると思います。前年Vol.11で同作品を聴いていたので、今回聴きながら思い出すフレーズもたくさんありました。とにかく卓越したピアノパフォーマンスは素晴らしかった。

久石譲の楽曲解説にこうあります。

”Piano Sonataは1. Heavy Metal、2. Blues Invention、3. Toccataの3楽章で構成した。タイトルが示す通りリズムを重視した作曲を目指し、メインモチーフを単に繰り返すのではなく様々に変容していく構成を取った。そのため機械的な演奏になりがちなのだが、真希さんはとても情熱的でヒューマンな演奏をすることで楽曲の内在するパワーをGroove(グルーヴ)を表現した。またハーモニーではなくポリフォニックな方法をとっているためバロック音楽に近いと僕は思っている。言わば現代バロック音楽(Contemporary Baroque Music)である。”

何回でも読みたい、まさにこの通りの作品と演奏なんだろうと思います。どの楽章もそれぞれに印象的なメインモチーフが執拗に現れカノン風に展開したりモチーフが変容していったりします。滑川真希さんの演奏も力強くありながら狂いのない正確さでたたみかけるかと思えば、第2楽章ではモチーフに合わせてハミング(グレン・グールドがバッハを弾く時ように)したりとヒューマンな演奏も魅せてくれました。楽章間の静寂も作品の一部となった緊張感は得難い体験です。

タイトルにも目を向けてみます。

The Chamber Symphony No.3
I. Symphonia
II. Invention for two voices
III. Toccata

Piano Sonata
I. Heavy Metal
II. Blues Invention
III. Toccata

第1,2楽章のタイトルがそれぞれ変わっています。バッハの有名なピアノ曲に「インヴェンションとシンフォニア」という曲集があります。インヴェンションは2声、シンフォニアは3声です。Piano Sonataだけを見ると、おそらく第1,3楽章は3声、第2楽章は2声で構成されているように聴こえました。ひとつのモチーフ(メロディ)を右手で弾き、そのあとに左手で追いかけたり(カノン)、曲が進むにつれて右と左の2声でモチーフが変容していくのがバッハのインヴェンションです。同じ構造をもっているのがII. Blues Inventionと言えるのかもしれません。そして印象的なメインモチーフがブルースのそれを連想させたりもする。全体を通してわかりやすく言うと、右手も左手もフレーズをバリバリに弾きまくり縦横無尽に手がクロスしている。一方で一般的に右手でメロディ弾いて、左手で和音を弾くのがホモフォニー(ハーモニー)です。

もう一度、久石譲の楽曲解説に戻ってみてください。”現代バロック音楽(Contemporary Baroque Music)である”とはっきり書かれていますね。曲はバッハの時代の人たちがびっくりするくらい難しいです。I. Heavy Metal ヘビメタの概念もまだないから髪の毛逆立つかもしれません。トッカータ(伊: toccata)は、【主に鍵盤楽器による、速い走句(パッセージ)や細かな音形の変化などを伴った即興的な楽曲で、技巧的な表現が特徴。(Wikipediaより)】です。

 

 

バッハ「インヴェンション 第1番」

ひとつのモチーフ(A)が最初に右手で登場して、次に左手で追いかけて、また右手と左手で繰り返しながら、モチーフ(A’)に変容したりしながら。おもしろい点は左手だけ弾いても成立する旋律になっていることです。対等なんですね。右手と左手の2つの声部だけで構成されています。

(a public domain classical piece)

 

スーパーマリオで言うと。バッハのインヴェンションは、マリオとルイージがコンビネーションで力を合わせて進んでいくよ!そんな感じですね。

(a public domain classical piece)

 

そしてバッハのシンフォニアは、キノピオも加わって活躍するよ!そんな感じですね。

これがモーツァルト「トルコ行進曲」になると、右手はメロディを左手は伴奏を弾くホモフォニーになります。ズン・チャッチャッの伴奏だけだと何の曲かハッキリはしませんよね。メロディがあって曲になります。マリオカートで言うと、マシンだけじゃダメ、乗る人がいなきゃ!そんな感じですね。聴いてみて違うと思う!、そう思ってもアカこうらぶつけないでくださいね。

 

(a public domain classical piece)

 

 

「久石譲:Piano Sonata」仕組みが少しわかって聴くと、僕は好きです。バッハの音楽は理系に人気があると聞いたことがあります。数式が美しいとか、構造が面白いという感覚に近いんでしょうか。数式が美しいか、言ってみたいですね。Piano Sonata、また聴きたい!

 

 

この番組でポリフォニーの紹介も少しされていました。その時に冒頭のさわりで演奏していたのは上の楽譜の「バッハ:インヴェンション第1番」です。

 

 

Piano Sonataの姉妹作品にあたるThe Chamber Symphony No.3は、久石譲が提唱するSingle Track Music(単旋律)の手法が使われています。その説明は「ここ数年僕は単旋律の音楽を追求しています。一つのモチーフの変化だけで楽曲を構成する方法なので、様々な楽器が演奏していたとしても、どのパートであっても同時に鳴る音は全て同じ音です(オクターヴの違いはありますが)」(久石譲)とあるとおりです。

The Chamber Symphony No.3の第2楽章は「II. Invention for two voices」です。つまりタイトルそのまま2声のインヴェンションで作られている。そこに単旋律の手法が加わることで、ある音だけ同時に複数の楽器で鳴っていたり、ドとかレとか同じ音だけどオクターヴ高いまたは低い音でこれもまた必ず同時に鳴っていたり。

バッハのインヴェンションで例えるならこういうイメージです。

 

単旋律の手法を使うと

 

Piano SonataもThe Chamber Symphony No.3も第2楽章は2声で書かれていると思います。単旋律の手法を取り入れることで複数のモチーフ(声部)があるような錯覚効果もありながら、実は上のように同じ音が重なっていてモチーフ自体は2声になることをタイトル「II. Invention for two voices」が示しています。また楽器の出し入れで楽想がカラフルになることもあってPiano Sonataの「II. Blues Invention」からくるブルースの雰囲気はなくなっていると感じました。いろいろな意図やコンセプトでタイトルが変わっているのかもしれません。

 

 

待望の音源化!「MUSIC FUTURE  Vol.11」でプログラムした「The Chamber Symphony No.3」収録!

 

 

 

久石譲×滑川真希 共演歴

Joe Hisaishi: Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra 約20分

Joe Hisaishi: Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra (2019)
1. (00:03)
2. (07:30)
3. (10:05)

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.6”
October 25, 2019 at Kioi Hall, Tokyo
[world premiere]
Joe Hisaishi (condoctor)
Maki Namekawa & Dennis Russel Davies (piano duo)
Future Band (concertmaster: Tatsuo Nishie)

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

同作品は2022年に同じく指揮:久石譲、ピアノ:滑川真希 & デニス・ラッセル・デイヴィスでチェコ初演もされています。

 

 

 

 

20分間の休憩を挟んで後半です。大掛かりな舞台転換(楽器セッティング)も行われて期待は高まります。1時間もある大作ですから本公演のひとつのメインディッシュです。

演奏に先立ってまずは登壇した久石譲からMCがありました。「この作品は来年で50周年を迎えること」「ずっとやりたかった作品であること」「日本の演奏団体でのパフォーマンスは初であること」「日本人のきめ細やさも出ていて世界に通用すると思っていること」「指揮者のない作品で演奏者たちが自発的に作り上げていったこと」、とても素晴らしい演奏ですと太鼓判を押していました。

 

スティーブ・ライヒ:18人の音楽家のための音楽

本公演での楽器編成は、ヴァイオリン、チェロ、クラリネット2(兼バスクラリネット)、女声4、ピアノ4、マリンバ3、シロフォン2、ヴィブラフォン、マラカスでした。Music Future Bandから19名ですね。プログラムノートにも、「この作品は最小限で18人で演奏可能、通常は18~22人で演奏されることが多い」とありました。また「声楽と一部の楽器に限り、マイクの増幅を使用する」ともありました。

 

もう、こんなコンサート、こんな楽器布陣のステージなんて、一生に一度あれば幸運かもしれない。

from 久石譲コンサート2025公式X(Twitter)

 

映像や音源で聴いたことはありましたけど、この曲を生演奏で体感できるなんてミニマル・ラブです。演奏者の集中力と主体性がストレートに伝わってきました。無機質な側面もあるミニマル・ミュージックも、演奏者が合図したり体を揺らしたり、全身で表現していて見ていても飽きません。マリンバ1台を正面からと反対側からも連弾?するという離れ業なんかも目と耳を疑いながら信じられない。

本公演は記録用のカメラとマイクもしっかりありました。こういうコンサートこそ未知の扉、映像を初めて見て芽生える好奇心なんかもあるんじゃないかなと思います。新しい映像も音源も常に世界中から更新されている作品です。ぜひ興味あったら探してみてください。このMusic Futureパフォーマンスもいつかそんな日が来るといいですね。日本ですごいコンサートやってる!日本でこんなすごい演奏してる!って。満員の会場からは拍手とブラボーの大盛況ぶりで、何度もカーテンコールに応えていました。

実は、久石譲作品にもスティーヴ・ライヒと共鳴するような素晴らしい作品はたくさんあります。過去の久石譲作品からもつながりはたくさん見つけることはできます。近年でいうと「Deep Ocean」「プラネタリウム」の音楽などはとりわけ!ですがいずれも未音源化です。スティーヴ・ライヒ作品を演奏したい人たちがいるように、久石譲作品を演奏したい人たちはいっぱいいます。えっ、久石譲のこんな作品あるの?って早く世界中に知られてほしい。まずは音源かスコアで存在することを証明してほしい。スタジオジブリ音楽と同じように、久石譲のほかの作品たちも日に当たってほしい。もったいなさ過ぎる現状に開いた口が十年近く塞がっていません。心から望んでいます。

 

 

今年だけでも久石譲コンサートに足を運んだ人は、ミニマルに出会えた人、ミニマルにハマった人もきっといると思います。MUSIC FUTURE Vol.12も圧巻のミニマルアワーでした。

近年は東京以外や海外でも開催が増えてきたMUSIC FUTUREコンサートです。久石譲挨拶にも「12年続いたこのMUSIC FUTUREは来年から海外でももっと積極的に行っていきます。さらなる飛躍を目指して進化していきますので応援してください。」とありました。期待しかありません!応援しかありません!音源化希望しかありません!ここまで作品を作り続けている現代作曲家って他にいないんじゃないでしょうか。

 

 

みんなのコンサート・レポート

 

 

 

 

リハーサル風景

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https://x.com/joehisaishi2025

 

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公演風景(東京)

from 久石譲コンサート2025公式X(Twitter)

 

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

東京公演、終演‼️ご来場の皆さま、ありがとうございました…!
素晴らしい経験をさせていただいております✨
ピアニスト鈴木慎崇さんも一緒です😊

from 東京混声合唱団公式X(Twitter)

 

 

長野公演

from 久石譲コンサート2025公式X(Twitter)

 

from 東京混声合唱団公式X(Twitter)

 

(「久石譲:The Circles」演奏メンバー)

from 中村 洋乃理 Hironori Nakamura X(Twitter)
https://x.com/Nakanakaviola

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Music Future Series

 

Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第292回 定期演奏会」コンサート・レポート

Posted on 2025/09/28

2025年9月26日、「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第292回 定期演奏会」が開催されました。日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任したシーズン、2度目の登場となる定期演奏会です。ベートーヴェン交響曲からは前回は第6番を、今回は第1番をプログラムしています。

翌27日には同内容プログラムでの北摂定期演奏会・高槻公演も開催されました。

 

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #292

[公演期間]  
2025/09/26

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
合唱:日本センチュリー合唱団

[曲目]
久石譲:シンフォニア ~室内オーケストラのための~ から 第3楽章 ディヴェルティメント
ベートーヴェン:交響曲 第1番 ハ長調 作品21

—-intermission—-
ラヴェル:ダフニスとクロエ 第2組曲 ※合唱付き
ラヴェル:ボレロ

—-encore—-
フォーレ:パヴァーヌ

[参考作品]

久石譲 ミニマリズム 久石譲 ベートーヴェン 交響曲全集

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

Program Notes

1960年代に生まれた幾何学的で装飾を削ぎ落とした「ミニマル・アート」になぞらえ、同時代に誕生した”少ない素材の反復”を基調とする現代音楽を「ミニマル・ミュージック」と呼ぶようになった。ところが時代が進むほどに、素材の少なさ(≒ミニマリズム[最小限主義])は必ずしも重要視されなくなり、反復されるリズムを主体にした音楽へと姿を変えていく。それらは「ポスト・ミニマリズム」「ポスト・ミニマル」などと呼称されている。久石譲は20代だった頃にミニマル・ミュージックと出会い、現在に至るまで多大な影響を受けてきた。そうした作曲家は他にもいるが、指揮者としてルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)などのクラシック音楽を振る際にもミニマリズムの視点を持ち込むのは久石だけだろう。現代的な表現をすれば、ポピュラー音楽における「グルーヴ」のような推進力のある心地よいリズム感でクラシック音楽をあたらしく読み解き直すのである。「第九」第1楽章冒頭のようなベートーヴェンに内在するミニマル・ミュージック的な部分に着目することで、新しい音楽を生み出すのも実にユニークだ!

 

久石譲:シンフォニア ~室内オーケストラのための~ から第3楽章 ディヴェルティメント

「Sinfonia for Chamber Orchestra」は、音楽的な意味での、例えば複合的なリズムの組み合わせであるとか、冒頭に出てくる四度、五度の要素をどこまで発展させて音楽的な建築物を作るか、ということを純粋に突き詰めた。三和音などの古典的な要素をきちんと取り入れてミニマル・ミュージックの作品にした。今回演奏する第三楽章「Divertimento」は、2009年の「久石譲Classics vol.1」で初演した曲。そのときは弦楽オーケストラだったが、その後アルバム「Minima_Rhythm」のために管楽器などを加えて再構築した。ティンパニやホルンなどが入ったので、より一層シンフォニックなニュアンスが強調された。(久石譲)

 

*他作品の掲載は割愛しています

(導入、ベートーヴェン、ラヴェル:小室敬幸)

(「日本センチュリー交響楽団 第292回定期演奏会/北摂定期演奏会~高槻公演~」コンサートプログラム冊子より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

プログラム前半はベートーヴェン・セットとも言えそうな統一感ある構成でした。「久石譲:Sinfonia」もベートーヴェン交響曲から強く影響のある作品です。弦10型の室内オーケストラはベートーヴェンの時代に演奏されていた大きさとほぼ同じです。2つの作品ともラージオーケストラと室内楽の中間にあるいい塩梅で、とてもフレッシュで清涼感のあるアンサンブルを聴くことができました。小ぶりさのメリットは久石譲のアプローチがダイレクトに奏者から跳ね返ってくる音像です。「ベートーヴェン:交響曲第1番」はバロックティンパニとコルネットを使用した小気味よさもあって、音楽は若々しく駆け抜けていきます。第三楽章なども、モチーフをリズム動機のように強調しながら(それは第5番のダダダダーンの連鎖するモチーフのような)しっかり指揮者とオーケストラが同じ方向性で進んでいく感じがとても印象的でした。

久石譲の交響曲や交響作品は、楽章ひとつを取り上げても箸休めのようなちょっとした小皿感はないはっきりとした性格と美味をもっています。本公演の第三楽章「Divertimento」もプログラムの冒頭に置かれることで序曲のような輝きを放っていました。次回はシンフォニア、フルコースで聴きたい。

プログラム後半は2025年に生誕150年を迎えるラヴェル作品が並びます。オーケストラもぐっと拡大して「ダフニスとクロエ 第2組曲」では合唱との濃密な世界に魅了されました。「ボレロ」は言わずと知れた名曲で、とにかく本能的に心が放っておきません。いつの間にか引き込まれる魔術的なものがあります。神聖さと野性さが共にあるような感じで、神が人に近づくとき、人が神に近づくときこういう感じなのかなあと思ったりします。久石譲のミニマルなアプローチとも相性抜群に、ひたすら繰り返すなか巨大に膨れ上がっていき極みに達します。もう終わった瞬間の爆発力もすごかったけど、観客からの大きな拍手がずっと小さくならない、カーテンコールを繰り返すなか強弱波打たない大喝采のフェルマータ、すごかったです。とてもいい雰囲気でアンコール「フォーレ:パヴァーヌ」で合唱パートも加わりながら美しく終演となりました。

演奏会に行くたびにどんどん久石譲×日本センチュリー交響楽団がパワーアップしてように感じて楽しくてゾクゾクして、これからもワクワクです。

 

 

 

翌日には同内容プログラムにて高槻公演が開催されました。

 

 

 

リハーサル風景

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

リハーサル風景

“今回も対向配置!
荒井英治、篠原悠那のダブルコンサートマスターでお届けします🎻”

from 日本センチュリー交響楽団公式X(Twitter)/Facebook
https://x.com/Japan_Century 
https://www.facebook.com/JapanCentury

 

 

from 日本センチュリー合唱団公式X(Twitter)
https://x.com/jcchor2019

 

 

公演風景

“終演しました!
久石マエストロのタクトが導く自身の作品「シンフォニア」、ミニマルのリズムと古典の雰囲気を纏った美しい楽曲から開幕し、ベートーヴェンの若々しい交響曲第1番は精緻なアンサンブルが躍動。後半はセンチュリー合唱団も加わってのラヴェル「ダフニスとクロエ」。オーケストラと合唱が溶け合い、色彩豊かな音楽に会場が包まれました✨「ボレロ」では各セクションの持ち味を発揮した大熱演でフィナーレでした🔥”

from 日本センチュリー交響楽団公式X(Twitter)/Facebook

 

 

 

from SNS (ご提供いただきありがとうございます)

 

 

公演風景(高槻)

”終演しました!
昨日に続き同プログラムで、久石~ベートーヴェン~ラヴェルを満席のお客様と共有しました。

終演後、約2年半前にオープンしたまだ新しいホールの舞台裏に久石マエストロのサインが刻まれました👏”

from 日本センチュリー交響楽団公式X(Twitter)/Facebook

 

 

from 高槻城公園芸術文化劇場【公式】X(Twiteer)
https://x.com/TATbunka

 

 

 

 

Blog. 「久石譲&ロイヤル・フィル スペシャルツアー 2025 オーケストラ・コンサート」コンサート・レポート

Posted on 2025/08/08

2025年7月24,25日開催「久石譲&ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 スペシャルツアー 2025 オーケストラ・コンサート」です。久石譲がComposer-in-Associationを務めるロイヤルフィルとの日本公演が実現です。ジブリフィルムコンサート・ツアーファイナルat東京ドーム、ソウル公演を経てツアー最終日まで熱く駆け抜けたこの夏へ。

久石譲&ロイヤルフィルの世界最高水準で溢れる音楽はまさにスペシャルな体験です。オール久石譲プログラムはこの夏VIPなフルコース!たっぷり心ゆくまで世界クラスを堪能!ライブ配信も叶いました。

 

 

Joe Hisaishi Royal Philharmonic Orchestra Special Tour 2025
Orchestra Concert at Suntory Hall

[公演期間]  
2025/07/24,25

[公演回数]
2公演
東京・サントリーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ハープ:エマニュエル・セイソン

[曲目]
久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)
I. existence
II. where are we going?
III. substance

—-intermission—-

久石譲:Harp Concerto ※日本初演
Movement 1
Movement 2
Movement 3

—-Soloist Encore—-
ドビュッシー:月の光 (7/24)

久石譲:Symphonic Suite The Boy and the Heron for piano and orchestra
    交響組曲「君たちはどう生きるか」 ※日本初演

—-Orchestra Encore—-
One Summer’s Day (for Piano and Harp) (7/25)
Merry-go-round (for Piano and Orchestra) (7/24,25)

[参考作品]

君たちはどう生きるか サウンドトラック 久石

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

皆さん今晩は。

先週の東京ドームに続いてロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(RPO)とのオーケストラコンサートを韓国ソウルと東京サントリーホールで行う事ができることを心から嬉しく思っています。今回は自作のミニマル楽曲を中心に聞いていただきます。海外ではこちらの方がジブリフィルムコンサートより多く演奏しています。

RPOでは2024年から僕がコンポーザー・イン・アソシエーションを務めていてアルバム「A Symphonic Celebration」の録音や来月のロンドンでのPROMSでも共演することになっています。僕がとても信頼しているオーケストラです。また今日演奏するHapr Concertoはロサンゼルス・フィルハーモニックなどの共同委嘱作品ですが、これを演奏するエマニュアル・セイソンとまた共演できることを楽しみにしています。それからドイツグラモフォンもライブレコーディングする予定です。

ご来場された皆様に楽しんでもらえると幸いです。

2025年 夏
久石譲

 

 

Metaphysica(交響曲 第3番)

Metaphysica(交響曲第3番)は新日本フィル創立50周年を記念して委嘱された作品。新作は2021年4月末から6月にかけて大方のスケッチを終え、8月中旬にはオーケストレーションも終了し完成した。前作の交響曲第2番が2020年4月から2021年4月と1年かかったのに比べると約4ヶ月での完成は楽曲の規模からしても僕自身にとっても異例の速さだった。

楽曲は4管編成(約100名)で全3楽章からなる約35分の長さで、この編成はマーラーの交響曲第1番とほぼ同じであり、それと一緒に演奏することを想定して書いた楽曲でもある。

Metaphysicaはラテン語で形而上学という意味だが、ケンブリッジ大学が出している形而上学の解説を訳すと「存在と知識を理解することについての哲学の一つ」ということになる。要は感覚や経験を超えた論理性を重視するということで、僕の場合は音の運動性のみで構成されている楽曲を目指した。

I. existence は休符を含む16分音符3つ分のリズムが全てを支配し、その上にメロディー的な動きが変容していく。

II. where are we going? は26小節のフレーズが構成要素の全て。それが圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏していく。

III. substance は ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音が時間と空間軸の両方に配置され、そこから派生する音のみで構成されている。ちなみにこれはナンバープレースという数字のクイズのようなゲームからヒントを得た。

 

 

Harp Concerto

Harp Concertoは、ロサンゼルス・フィルハーモニック(LAフィル)とボルドー国立オペラ、フィルハーモニー・ド・パリ、シンガポール交響楽団の共同委嘱として作曲を依頼された。LAフィルに在籍しているハープ奏者のエマニュエル・セイソンが演奏する前提の依頼である。

2023年の夏にハリウッドボウルで初めてLAフィルと共演して(その時は17500人の会場はSold Outになった)、エマニュエルとも最初のセッションを持った。早く作曲を開始したかったが過密なスケジュールのため翌年の2月から作曲を開始した。2024年5月に来日した彼とほぼ完成した第1楽章を聞きながら修正の方向を確認し7月にハープパートを完成し、9月中旬にオーケストレーションがも終了した。約30分の全3楽章の楽曲になった。

第一楽章はロ短調の分散和音を主体としたAllegroで構成し、一番最後に完成した第2楽章はニ短調6/8+7/8のゆったりしたリズムによる緩徐楽章になり、カデンツァを経て第三楽章のヘ短調Allegroのトッカータでクライマックスに到達する。通常イメージするハープは優雅で優しく穏やな音楽なのだが、このコンチェルトは激しく、荒々しく、躍動的で今までの概念とはだいぶ異なっていると思う。それはエマニュエルの演奏スタイルに感化されたこともあり自分が望んでいたことでもある。

約9ヶ月に及ぶ作曲期間は(もちろん思考していた時間も入れたら1年半以上になる)自分にとってはかなり長い期間である。もちろんその間多くのコンサートがあったため時間を取られたこともあるが、その分、曲を吟味する時間もあったことも事実だ。多くの関係者に感謝するとともに、これから演奏を通して楽曲が育っていくことを心から期待する。

 

 

Symphonic Suite The Boy and the Heron for piano and orchestra

Symphonic Suite The Boy and the Heron for piano and orchestraは宮﨑駿氏の2023年に制作された同名映画に書いた音楽をコンサート楽曲として再構成した作品だ。

映画の構成は前半が当時のリアルな現実描写になっていて、後半は少しダークなファンタジーになっている。それを音楽で繋げるために僕のベースであるミニマルミュージック的な手法で全体を構成する方法を採った。ミニマルミュージックは短いフレーズを繰り返しながら変化していく音楽の手法である。そしてこの映画は、宮﨑さんの個人的な内面世界を表現していると思われたので、自分が弾くピアノを音楽の中心に据えてオーケストラも控えめに作曲した。

そのため、劇的効果をねらった音楽的表現を省き、画面で展開されているドラマからも距離をとることで監督の考えがよりクリアに表現できるよう心がけた。その結果、宮﨑監督に喜んでもらえたことは幸いである。

そして2025年4月、ドイツ・グラモフォンからリリースするため、ロンドンのエア・スタジオとアビー・ロード・スタジオでロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と自作のSymphony No.3、そしてこのThe Boy and the Heronを組曲としてレコーディングした。その演奏やレコーディングは素晴らしく我々のチームが機能した成果である!と思っている。

組曲としては映画の進行に即して構成し、より音楽的な表現になるようオーケストレーションにも手を加えた。今までの交響組曲とは違った世界が展開されることを願っている。

久石譲

(「Joe Hisaishi Royal Philharmonic Orchestra Special Tour 2025 Orchestra Concert」パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

2025年の久石譲&ロイヤルフィルスペシャルツアーは、久石譲スタジオジブリフィルムコンサートを皮切りにソウル公演と本公演へと続いてきました。東京ドーム12万人、ロッテコンサートホール4,000人、サントリーホール4,000人の大反響です。「おそらく海外からやって来たオーケストラの単年での日本動員記録更新となるだろう」(Mikikiコラム)とも言われています。

そしてなんと8月には久石譲×ロイヤルフィル、BBC Proms 2025に登場します。まさに世界中を駆け巡っています。今後もコンサートやレコーディングそして新作委嘱などパートナーシップに注目が集まっています。本公演のパンフレットからも新情報!アルバム発売とライブレコーディングがさらりとアナウンス、さらりどころじゃないうれしさ爆上がりです!

 

久石譲指揮はオーケストラの対向配置(古典配置/両翼配置)をとっています。ベートーヴェンの時代(古典)もそうでした。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右対称に位置すること(両翼)などが特徴です。本公演では作品ごとにオーケストラの大きさを変えながら最もふさわしいオーケストラ編成でプログラムは進んでいきます。

(対向配置の参考図)

 

 

久石譲コンサートといえば国際色豊かで幅広い観客層におなじみのSOLD OUT!この二つはもう名物だから取り立てて言うまでもないかもしれない。僕の座った席も右隣は欧米カップル、左隣はジブリフィルムコンサートに行ってきた若い女性たちでした。余韻冷めやらぬトークが漏れすぎて聴こえてきました。

何回も言ってしまいそうだから、最初に完全に言っておこう。ロイヤルフィル素晴らしい!日本にいながら世界水準の音を聴けるなんて贅沢この上ない。演奏が上手いとか全ての楽器のバランスが素晴らしいとかクオリティが高すぎるとか、そんなことしか言えないのですが、オーケストラからは「そんなの当たり前だよ、これが普通さ」みたいな貫禄のオーラがまたまぶしい。

休符が上手いというか休符の処理が上手い。だから全ての楽器から奏でられる音が邪魔されない埋もれない。響きの良いサントリーホールのなかで、音楽がバタバタバターとかぐちゃぐちゃぐちゃーとか粗く流れていかない。弦楽器・木管・金管・パーカッションとそれぞれが最高プレイな上に他セクションの音もよく聴いてる、そんな最高チームプレイでした。

 

本公演は究極のオール・ミニマル・コンサートです。

 

Metaphysica(交響曲 第3番)

日本での2021年初演と2023年再演は弦16型でしたが、本公演では弦14型4管編成でした。ホルン7本は過去一かもしれない(初演時は6本)。

プログラムノートの久石譲の言葉から音楽を感じとるのが一番です。もちろんそれは完成後に書かれたものです。その前に語られたことからもヒントが隠れているかもしれません。また深い一面が見えてきそうです。

 

「最終的なオーケストレーションの段階です。曲は交響曲第3番(仮)で、全3楽章約35分の作品。第2番と姉妹作ですが、自然をテーマにしたような第2番に比べると内面的で激しく、リズムはより複雑になっています。加えてミニマル的な構造の中にもう一度メロディを取り戻したいとも考えました。編成は後半のマーラーに合わせた4管編成でホルンは1本少ない6本。自分だけ見劣りしたくないというのは作曲家の性ですね。また作曲家は皆そうですが、大編成になると逆に弦の細分化など細部にこだわるようになります。あと50周年は意識しながらも、現況から祝典風ではなく力強さを織り込んだつもりです」

Info. 2021/08/18 久石譲 現代曲同様のアプローチでクラシックを活性化したい (ぶらあぼ より) より抜粋)

 

 

I. existence

カオスな楽章です。冒頭から力強い速いパッセージのモチーフが核となってミニマルなフレーズが幾重にも交錯します。長さを変えたり(圧縮)、ヴァリエーション(変奏)したりで息つく暇がありません。激しいパーカッションも怒涛のように追い立ててきます。かなりの密度です。プログラムノートにもありますが、ミニマル・ミュージックとは短いフレーズを繰り返しながら変化していく音楽の手法です。その上で、久石譲ミニマル・ミュージックを言うなれば、同音型や律動の反復と変化による劇的緊迫とエモーショナルの創出です。

この作品ではアプローチが見事に結実しています。それはミニマル音型ではない、ある種メロディラインのような息の長いフレーズがモチーフとなり変化し発展していることです。インタビューのなかの「ミニマル的な構造の中にもう一度メロディを取り戻したい」という構想は通して貫かれています。各楽章ともにテーマとなっているモチーフは執拗に繰り返され性格もはっきりしていて印象に残りやすい。

 

II. where are we going?

きびしく美しい楽章です。ゆっくりとした弦楽合奏から始まり久石譲指揮は手で音楽を導いていきます。中間部から楽想はリズミックになり指揮棒を取りシビアに音楽をまとめあげていきます。そして最後のトランペットによる旋律がまた美しい。

これら全てに聴かれるのは同じモチーフからのヴァリエーション(変奏)です。プログラムノートにも「26小節のフレーズが構成要素の全て」とあります。極限に磨かれたモチーフが徐々に膨れあがっていき、満ちたるエネルギーのなかで強固に結晶化しています。荘厳なエモーショナルです。中盤で現れる弦楽四重奏メインのパートも近年の作風にみられる一つです。新しく取り入れる手法が作品群を線でつないでいます。

初演時から最愛でしたが、やはり何度聴いても胸に迫ってくるものがあります。数ある久石譲交響曲・協奏曲のなかで傑作楽章の一つだと思っています。

 

III. substance

ミニマル・ビッグバンな楽章です。核となるモチーフが絡み合いながら壮大な世界を築いています。「ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音」からなるモチーフは強力なフックになっています。ここでもモチーフが「圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏して」いますが最終楽章にふさわしいカタルシスです。

マクロな大編成のなかにミクロな弦の細分化もまたすごい。対向配置を最大限に活かした扇型が前後や左右に波打つような音像は必見必聴です。クライマックスまで複雑と密度を極めた音楽は爆発しています。高次元な存在に震えてきます。

僕はこれまでに2回この作品に立ち会っていますが、あまりの巨大さに受け止めきれていなかったことを知りました。いくつかの楽器が書き加えられているような印象も受けました。間違いなく最高傑作の一つです。「音の運動性」をコンセプトにしていますが、おそらく強いメッセージが込められた作品じゃないかとも改めて強く感じました。

久石譲&ロイヤルフィルの豪華な日本公演で「Metaphysica(交響曲 第3番)」が選ばれたのは本当に良かった。心からそう思いました。海外では2024年にトロント交響楽団、シカゴ交響楽団とプログラムしています。2025年は本公演ロイヤルフィルのほか9月にクリーヴランド管弦楽団とプログラム予定です。世界各地で久石譲交響曲が荒れ狂う。グラモフォンから今後リリースされた時の世界の反応もまた楽しみです。こういう作品はまず局地的に熱狂的に盛り上がるのが一番ふさわしい!楽しみです。

 

今すぐにでも聴きたくなった人はこちら。

 

 

 

Harp Concerto

2024年ロサンゼルスでの世界初演から、2025年この夏シンガポール初演と韓国初演を巡りいよいよ日本初演です。

プログラム前半の「Metaphysica(交響曲 第3番)」は弦14型4管で「Harp Concerto」は弦12型2管になっていました。ハープとオーケストラにふさわしい規模ということでしょうか。約25人くらいのオーケストラ奏者の変化があります。

さて、何から書いたらいいでしょう。それはもう素晴らしい作品でした。こんなハープ曲聴いたことない驚きと、こんなハープ曲をたっぷり聴けた感動でいっぱいです。聴いた人は好きになる、終わってすぐ話題にしたくなる、十人十色な感想が止まらなくなる。個人的にも、最高だった!の一言で終わりたい。でもご容赦ください。思い巡らせていたら広がっていった個人の彷徨にこれからどうぞお付き合いください。

 

プログラムノートの久石譲の言葉から音楽を感じとるのが一番です。「通常イメージするハープは優雅で優しく穏やな音楽なのだが、このコンチェルトは激しく、荒々しく、躍動的で今までの概念とはだいぶ異なっている」、本当にそのとおりでした。ハープの固定概念を覆すには十分すぎるほどで、18世紀のヘンデルに始まったハープ協奏曲の歴史において21世紀に新たなマスターピースが加わりました。ただ並べられたわけじゃありません。それは現代の音楽として新境地を切り拓いています。

主役を務めるハーピストがまた素晴らしい。作品のもつ潜在エネルギーを最大限に高めています。エマニュエル・セイソンさんの演奏スタイルは力強くしなやか、幅広い音色と豊かな表現力で魅せてくれます。体づくりがハープを演奏するうえでの音楽づくりにもしっかりなっていると感じたほどです。ハープを奏でる反射神経や敏捷性、そして体の軸や重心の強靭さがしっかりと音として伝わってきました。すごい。

 

「Harp Concerto」プログラムノートを見て一番の疑問だったのはコンセプトやキーワードがわからないことです。「Metaphysica(交響曲 第3番)」には「形而上学/音の運動性/マーラー」などといった聴く助けになるキーワードもあれば作品タイトルも楽章タイトルもある。そのほか久石譲交響曲や室内楽から協奏曲までを眺めてみても、ここまで隠された作品は「コントラバス協奏曲」くらいしかすぐに思い浮かびません。もちろんコントラバスやハープそれ自体がコンセプトだよと言われればそうなのですが。

はっきり言ってしまうと、久石譲のメッセージが全くわからない作品なんですね。楽章ごとの音楽的な構造が少し書かれいるだけです。唯一読み解こうとすると「2024年/激しく、荒々しく、躍動的/自分が望んでいた」という数少ないピースたちです。これはなぜか。どうしても人は言葉やキーワードも合わせて音楽を聴いたりそこからイメージしていきます。久石譲が最も望んだことはイマジネーションの解放なんじゃないかと思っています。曲名やキーワードや創作イメージまで一切を封じる。何の先入観もなしに音楽だけで提示したかった。聴いてどう感じるか。こんなにイマジネーションをかき立ててくれる音楽はありません。そして素晴らしい出会い方に心から感謝しています。だってそのくらい考えてしまったし、これからも考えつづける音楽になり得たからです。

 

Movement 1

中央に置かれた黄金色のハープのグリッサンドからオーケストラとの一発の最強音で音楽は始まります。「ロ短調の分散和音を主体とした」モチーフは、流れるように転調を繰り返しながら緩めることなく進んでいきます。

西洋の音階で繰り広げられる楽想は、少し落ちつきをみせる中間部あたりで分散和音のヴァリエーション(変奏)がちょうどヨナ抜きのようなモチーフに変化して聴こえます。日本的なのはもちろん広く民俗的な印象も醸し出しています。そこから先で弦を強くかき鳴らす奏法は、何を強く訴えかけるようで何かに抗うさまのようで。その後に一音一音ゆっくりと奏でられていくスケール(音階)には半音階が含まれています。西洋とは違うものの暗示のよう。そしてまた楽章は分散和音をモチーフとして激しく進んでいきます。

僕はこの作品を、今を生きる現代の作曲家が書くべくして書いた作品だと聴いていくことになります。Mov.1は望むと望まざるにかかわらず歴史の激動に翻弄されるものたち。

 

Movement 2

心を打つ緩徐楽章です。久石譲の自作品のなかでメロディアスなミニマルというのはそんなに多くはありません。まるで久石譲の映画音楽のときに聴けるそんな楽想でもあります。ヴァイオリンの旋律も心の琴線に触れます。実際に映像にもマッチすると思いますね。

冒頭や中盤以降でも登場する不穏な半音階がとても印象的です。Harp Concertoを聴いてすぐにイメージ飛んだのは「ディープオーシャンII」の音楽でした。深海シリーズの一つで「紅海」をテーマにしたNHKドキュメンタリー番組です。そこはまさに中東に位置しています。思い巡らせながら好奇心で調べていくと、「ディープオーシャンII」の音楽はアラビックスケール(アラビアンスケール/オリエンタルスケール)で書かれているのではと辿り着きました。詳しい深海話は、公式動画紹介も含めて追記したこちら。

 

中東はイスラエルとパレスチナも位置しています。この作品を聴いて覆われることになった印象はここへとつながります。一方では、全楽章において数あるアラビックスケールの中から取り入れられているのか、残念ながら解き明かせる耳はありませんでした。ただ添えるとすると、西洋の音階とは異なり民族音楽のスケールは種類も多く呼び方もいろいろです。民族や地域を越えることもしばしばで、例えばアラビックスケールの一つはジブシースケールの一つとも同じだけど別々の名前で呼ばれていたりする。民俗的なメロディを辿っていけば日本的な音階とも共通点が出てくる。つまりエスニックと感じる音楽や音階は世界にまたがっている、そんな感じなんでしょうか。Mov.2は憂いです。

「The End of The World」第2楽章の冒頭もまた中東風のチェロのメロディにティンパニが鳴っています。

 

Kadenza

約2~3分間のカデンツァです。特殊奏法もいっぱいでした。プリペアド・ピアノは、ピアノの弦にゴム・金属・木などを挟んだり乗せたりして独特な音色効果を生んだり何かの音に見立てたりする手法です。このカデンツァでハープはプラスティックのような細い棒で一本の弦を上下にこすったり、弦を手の面で叩いたり、銀紙のようなものを弦に当てた状態で音を鳴らしたりしていました。

ここも色濃くエスニックなパートになっています。銀紙を弦に当てたときのハープの質感は、まるでウード(中東)やシタール(北インド)やリュート(ヨーロッパ)などといった民族楽器らを模しているようにも聴こえてきます。先ほどの「ディープオーシャンII」音楽では撥弦楽器のウード、笛のナーイ、打弦楽器のサントゥールなど、中東・アラビアの民族楽器が取り入れられています。それぞれの楽器や音色は、公式動画紹介も含めて追記したこちら。

 

tendoさんのレポートにも、韓国の伝統音楽をさす「国楽」にも通じるような民俗的なメロディと感じた、とありました。郷愁を誘う私たち全てに向いている音楽なのかもしれません。このカデンツァは人々の生活、そこに根づいている一人一人の日常がありありと浮かび上がってくるようです。

 

Movement 3

冒頭からハープとオーケストラの力強いエネルギーです。「トッカータ」技巧を駆使した華麗なパッセージと速いリズムで推進力がすごいです。片手で弦を奏でながら片手でボディーを叩くハープも躍動的です。少しユーモアなフレーズ(それは例えば「久石譲:Encounter」のような)も登場して楽想はカラフルになっていきます。

この楽章でも執拗に繰り出される半音階を含んだモチーフは印象的です。そうして、いろいろな性格をもったモチーフたちとまるでごった煮で飛び交い行き交っています。

ハープは世界最古の楽器の一つとも言われています。歴史の連鎖、人類の性、そして希望。

 

 

なぜ今「Harp Concerto」を世界各地で精力的にプログラムしているのか。ハープ奏者のエマニュエル・セイソンさんが演奏する前提となっていて、久石譲の多忙さとLAフィル在籍のエマニュエル・セイソンさんと合わせたスケジュールや公演調整も決して容易ではないはずです。今どうしてもしておきたい作品、今あらゆる世界各地でリアルに聴いてほしい作品、そんな印象すら受けます。

僕はこの「Harp Concerto」をMovement1「激動」Movement2「憂い」Kadenza「生活」Movement3「希望」と聴きました。今だからこう聴こえたのかもしれないし、こう聴かないといけないと思ったところもあるのかもしれない。でも聴けば聴くほど、そこからまたさらに広がって、これは誰にでも突如として起こり得る激動や悲劇であり、誰しも自分ごとの音楽として聴けてしまう、そして何かを見出せる先がある、ものすごい音楽だと感じました。

どう読み解くか、どう聴きとるかはリスナーに委ねられています。一人一人の感想に正解はないけれど、それがいつか新しい真実に近づくかもしれない。自分の感想や感情がその小さな小さなきっかけになるのならそれはもう嬉しいことです。イマジネーションの広がる作品は本当に素晴らしいと思います。

 

最後に。この作品を聴いて浮かんだのはこの絵でした。

 

“HOPE” GEORGE FREDERIC WATTS (1886)
Tate Gallery (NO1640)

 

“もともと「HOPE」は19世紀のイギリスの画家ワッツが描いたものなんだけど、地球に座った目の不自由な天女がすべての弦が切れている堅琴に耳を寄せている。でもよく見ると細く薄い弦が一本だけ残っていて、その天女はその一本の弦で音楽を奏でるために、そしてその音を聞くために耳を近づけている。ほとんど弦に顔をくっつけているそのひたむきな天女は、実は天女ではなく”HOPE”そのものの姿なんだって。”

from 『地上の楽園』CDライナーノーツ

 

 

パンフレットの久石譲メッセージにあるとおり、本公演がドイツ・グラモフォンでライブレコーディングされるならば「Hapr Concerto」との再会は約束されました。また会えるとわかってうれしい。一日でも早く聴きたい。

 

About Harp Concerto

 

 

 

About Harp Concerto episode

出典:The Moments That Move Me with Emmanuel Ceysson | LA Phil
https://www.laphil.com/about/watch-and-listen/the-moments-that-move-me-with-emmanuel-ceysson

 

 

 

どこに置いたらいいかわからなかったからここに。

久石譲はインタビューで「エンターテインメントで試したものや身についたものを、現代音楽やクラシックの作品のなかでより深めていける。両側があるおかげで両方とも上がっていける」という趣旨を語っています。実際に自分は「ディープオーシャン」と「Harp Concerto」でまた強く感じました。だからこそ、久石譲から生み出される全ての音楽はきちんと音源化されて現代に届けられるべきだ、未来に遺されるべきだ、そう強く思います。今回「ディープオーシャンII」の音楽を振り返れる史料(動画)がなかったらと思うと、ぞっとします。僕はHarp Concertoの感動にこれほどまで出会うことはできなかったと。

誰かが、久石譲の音楽をより理解できる誰かが、この先きっと現れます。リスナー、評論家、研究家、音楽家。それでまた久石譲の楽曲は”いい音楽”(長く聴かれる音楽)になっていきますね。どうぞ音楽が手にとれる環境づくりもよろしくお願いします。

 

 

 

久石譲コンサートではプログラムごとに舞台替えが行われることも珍しくありません。「Harp Concerto」のあと短い時間のなかでソリスト用ハープの移動、そして久石譲が弾くピアノが中央に運ばれてきます。しかも今回はいつもと向きが違う。鍵盤が観客席側を向いている。モーツアルトの時代などでもあったピアノ演奏中も指揮者と同じようにオーケストラを正面から見渡せる配置になっています。ピアノと指揮の弾き振りです。

 

 

Symphonic Suite The Boy and the Heron for piano and orchestra

交響組曲「君たちはどう生きるか」です。約15分にまとめられた組曲の構成曲はこのようになっていました。

Ask me why(疎開)/青サギのテーマ/ワナ/ワラワラ/火の海/祈りのうた(産屋)/大王の行進/大崩壊/Ask me why

(下線曲は厳密なサントラ曲名ではありません)

 

“for piano and orchestra”でピアノが一貫して主役になるジブリ交響組曲は初です。「ワラワラ」「大崩壊」の2曲を除いて久石譲はピアノを弾いています。指揮もしています。

「Ask me why(疎開)」やはりこの曲から始まりますよね。映画メインテーマながらメロディはまだ流れない、そのシルエットだけで惹かれる一曲目です。交響組曲となったこの作品はいずれの曲も豊かな音色パレットに広がっています。この曲では弦楽の複雑なハーモニーがより現代的になっていたことも印象的でした。

「青サギのテーマ」四度の二音からなる究極のミニマルです。サントラで聴かれる「青サギI,II,III および 青サギの呪い」から二音の構成をまとめたようなパートになっています。

「ワナ」久石譲は両手でピアノを弾きながら目くばせで合図を送ったり、片手でピアノを弾きながら指揮もしたりとこの曲でもそうです。オーケストラピアノ奏者とも連携している交響組曲です。

「ワラワラ」南国風で幻想的な世界が広がります。ガムランやゴングといった打楽器も楽想を彩っています。金管楽器奏者がマウスピースのみで演奏する人声とも効果音ともとれる不思議なSE効果もアクセントになっています。サウンドトラックにあったサンプリングボイスまでオーケストラで完結しうる構成はさすがです。

「火の海」女声コーラスのパートが久石譲のピアノに置き換わっています。激しく速いパッセージの連続はよりダイナミックに緊張感を増しています。

「祈りのうた(産屋)」静まりかえったなか久石譲のピアノの音だけが鳴る導入部は息をのみます。シンプルな語法で磨かれたこの曲は、冒頭からピアノの音が一音一音ゆっくりと水面にしずくが一滴一滴と落ちていくような神聖さがあります。2015年に初めて聴いたときは、こんな運命を辿る曲になるとは想像もしていませんでした。深いものが宿っています。

「大王の行進」起伏に富んだ交響組曲はここで大きく推進力をもちます。この交響組曲はピアノをメインに据えながらもオーケストラ弦14型2管と決して小さくはない標準タイプを維持しています。サントラよりもテンポアップした感のあるこの曲では、指揮者久石譲とオーケストラが漲っています。

「大崩壊」大叔父のテーマともなっている楽曲です。久石譲の高音と低音を司る重厚なピアノとオーケストラの荘厳な響きが拮抗しています。もっとサントラから「大叔父の思い」なども加えながら大きく大叔父のテーマとして長く聴きたいと思ったほどです。

「Ask me why」光の綾のようなストリングスに美しい反射光を照らす木管金管は至芸です。そしてサントラでは叶わなかったAsk me whyフルバージョンです。コンサートではピアノソロで披露された機会もありました。これまたサントラにはないピアノ&オーケストラの珠玉ピースで完成をみました。つい先日の久石譲スタジオジブリフィルムコンサートでアンコール披露された特別バージョンとおそらく同じか限りなく近いか、かな。

ジブリ交響組曲シリーズのなかで、久石譲ピアノに始まり久石譲ピアノに終わるのは「One Summer’s Day」の『千と千尋の神隠し』、「Bygone Days / il Porco Rosso」の『紅の豚』に続くものです。

 

tendoさんのソウル公演レポート(下に紹介)にもありましたけれど、別でシンガポール公演時の観客SNSだったかもしれませんが「The Boy and The Heron」のパート譜表紙に「Short ver.」と見つけることができました。Long ver.を聴ける日は訪れるのか?アルバムはどちらのバージョンなのか?またひとつ謎と楽しみができました。

スタジオジブリ×久石譲の一大プロジェクトはジブリフィルムコンサートとジブリ交響組曲シリーズです。今まさに歴史のど真ん中にいます。そして今年ひとつのツアーファイナルとひとつの新交響組曲を迎えた。同じ時代を生きるファンは幸せものです。

 

ジブリ交響組曲シリーズの歩み

『風の谷のナウシカ』(1997/2015年版)『もののけ姫』(1998/2016/2021年版)『千と千尋の神隠し』(2001/2018年版)『となりのトトロ』(2002・改訂未音源)『ハウルの動く城』(2005)『風立ちぬ』(2014)『かぐや姫の物語』(2014・改訂未音源)『天空の城ラピュタ』(2017)『魔女の宅急便』(2019)『紅の豚』(2022・未音源化)『崖の上のポニョ』(2023・未音源化)『君たちはどう生きるか』(2025・音源化決定)です。

 

 

アンコール

One Summer’s Day(for Piano and Harp)

カーテンコールが続くなかエマニュエル・セイソンさんのハープがキャリアに乗ってステージに運ばれてきます。中央にある久石譲のピアノの横に二つの楽器が対話するように並びます。スペシャルギフトです。

この楽曲は「ピアノとデュオのための」と言えるもので、ジブリフィルムコンサートではピアノ&ヴォーカル版、WDO2022ではピアノ&バンドネオン版を聴くことができました。

1コーラス目は久石譲のピアノが主役と言わんばかりに、なんとハープはミュート奏法になっていました。ハープには弦楽器や管楽器のように専用の弱音器はないようです。またピアノの場合はソフトペダルを使って音を小さくまろやかな響きに切り換えることができますが、ハープにはそのような一瞬にして切り換わる便利なペダルはないみたい。おそらく巧みなペダル操作で音を柔らかく小さくしたミュート奏法を実現しているのではないかなあと想像しています。

2コーラス目はハープの豊かな響きが広がっていきます。ピアノ&ヴォーカル版も1コーラス目はスキャット(歌詞のない歌唱法で声を一つの楽器として表現する方法)で2コーラス目は歌詞をもって歌っています。1コーラス目と2コーラス目のハープの立ち位置や寄り添い対話する変化ははっきり演出されたものだろうと思いながら聴いていました。終結部のこぼれるような美しいグリッサンドまでスペシャルギフトです。

 

2001年7月20日に公開された映画『千と千尋の神隠し』、この年は激動でした。約2ヶ月後に9.11米同時多発テロが起こったからです。2019年新たに作られた「久石譲:One Summer’s Day」ミュージック・ビデオはニューヨーク撮影で、映像にもニューヨークの様々な景色が映っています。

 

Joe Hisaishi – One Summer’s Day

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

Merry-go-round

わざわざソリスト用ハープをまた舞台袖に移動させての再びアンコールです。わざわざ、ほんとそうでそこまでしてくれてアンコール二曲をやってくれた、そんな気持ちです。

久石譲コンサートのアンコール定番曲にもなっている「Merry-go-round」ですが、本公演はバージョンが違いましたね。多くの久石譲ファンが気づくほど驚いたのは中盤にも久石譲によるピアノメロディがあったからです。ジブリフィルムコンサートで聴けるバージョンとも違います。「交響組曲 君たちはどう生きるか」からの流れでピアノが中央にあったらの大サービス、もちろんそう思っていいくらいうれしい。

2001年の激動で世界は大きな変化へと突き進みます。2004年公開の映画『ハウルの動く城』は戦火を描いています。物語の最後でサリマン先生が「このバカげた戦争を終わらせましょう」と言うセリフも印象的でした。

今回のバージョン、実は「人生のメリーゴーランド ’05」と題して「Joe Hisaishi Symphonic Special 2005」コンサート(WOWOW放送)などで演奏していたものと構成が同じです。つまり久石譲のピアノ登場回数が同じです。

久石譲は近年のコンサートで定番にしている「Merry-go-round」ではなく、あえて当時披露していた2005年バージョンをもってきたことに意味はあるのでしょうか。僕はしっかりとその意味が見出せそうな気がしています。誰もが喜ぶ選曲だよ、純粋にエンターテインメントだよ、もちろんそういう楽しみかたも十分にできますよね。終わってみたら盛大なスタンディングオベーションでした!

 

 

「Metaphysica(交響曲第3番)」「Harp Concerto」からアンコールまで、音楽文化を通して現代社会・世界の動きを色濃く滲ませたのではないか、というのは終わってみての個人の感想です。特にシリアスなイメージを押しつけたいものではありません。8月開催「祈りのうた2025」スペシャルツアーまで、何か大きな線で結ばれている気はしています。エンターテインメントの顔をしてある一面も隠し持っている。将来に振り返ったら何かあぶり出てくるものがあるかもしれませんね。

久石譲、その進化の最前線はコンサートにあります。とにかく久石譲&ロイヤルフィルはスペシャルだった。アルバム情報も飛び出し楽しみは尽きない。これからは『A Symphonic Celebration』を聴いても、さらに「Hapr Concerto」が音源化されたときも、あの夏聴いたオーケストラだとぐっと距離も音楽も近づいてひとしお感慨深い。とても素晴らしい経験ができました。

 

 

コンサートの雰囲気までたっぷり味わえるのはこちら。

 

みんなのコンサート・レポート

 

 

 

リハーサル風景

from ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団公式X(Twitter)/Facebook/Instagram
https://x.com/royalphilorch
https://www.facebook.com/royalphilharmonicorchestra
https://www.instagram.com/royalphilorchestra

 

 

公演風景

from 久石譲コンサート2025公式X(Twitter)
https://x.com/joehisaishi2025

 

 

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

from ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団公式X(Twitter)/Facebook/Instagram

 

 

from エマニュエル・セイソン公式インスタグラム
https://www.instagram.com/emmanuel_ceysson/

 

 

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「久石譲スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル」コンサート・レポート

Posted on 2025/07/27

7月16,17日開催「久石譲スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル at 東京ドーム」です。武道館コンサートから17年ぶりとなったジブリフィルムコンサートは久石譲×ロイヤル・フィルという豪華な日本公演で実現しました。2017年から始まった世界ツアーの集大成であり世紀の凱旋公演です。

3月の開催発表から一気に盛り上がりをみせ、その後の追加公演発表やオフィシャルグッズ予約開始、ライブ配信発表など当日へと向かう4ヶ月はSNSを中心に賑わい続けました。一人でも多くの人にと公演日直前まで追加席販売や公式リセールも行われました。

 

 

Joe Hisaishi Royal Philharmonic Orchestra Special Tour 2025
Studio Ghibli Film Concert Tour Final at Tokyo Dome

[公演期間]  
2025/07/16,17

[公演回数]
7/16 1公演
7/17 2公演
東京・東京ドーム

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
合唱:東京混声合唱団/ブルックリン・ユース・コーラス/リトルキャロル
ソプラノ : エラ・テイラー
ヴォーカル:麻衣
マンドリン:マリー・ビュルー
マーチング:陸上自衛隊東部方面音楽隊
      陸上自衛隊第1音楽隊
      海上自衛隊東京音楽隊
      航空自衛隊航空中央音楽隊
      航空自衛隊中部航空音楽隊

[曲目]
風の谷のナウシカ
1. “NAUSICAÄ OF THE VALLEY OF THE WIND”

魔女の宅急便
2. “KIKI’S DELIVERY SERVICE”

もののけ姫
3. “PRINCESS MONONOKE”

風立ちぬ
4. “THE WIND RISES”

崖の上のポニョ
5. “PONYO ON THE CLIFF BY THE SEA”

天空の城ラピュタ
6. “CASTLE IN THE SKY”

紅の豚
7. “PORCO ROSSO”

ハウルの動く城
8. “HOWL’S MOVING CASTLE”

千と千尋の神隠し
9. “SPIRITED AWAY”

となりのトトロ
10. “MY NEIGHBOR TOTORO”

—–encore—-
Ask me why (for Piano and Orchestra)(映画『君たちはどう生きるか』より)
Madness(映画『紅の豚』より)
Ashitaka and San(映画『もののけ姫』より)

[参考作品]

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD A Symphonic Celebration

 

*プログラムの楽曲リストは、コンサートページや上のDVD/CD作品ページをご参照ください

 

 

 

オフィシャルグッズの会場販売はなんと17日昼公演でほぼ完売御礼という大盛況ぶりで、急遽オフィシャルSNSから追加販売のお知らせが発信されるほど歴史は一ページ一ページと着実に刻まれていきます。公演パンフレットには、久石譲メッセージや出演者プロフィール、世界ツアーの公演記録や動員数が収められています。追加インターネット通販ふくめ配送受取は【8月下旬より順次】となっています。会場で購入して手元にある人を除いてまだ届くのを楽しみにしている人もたくさんいると思います。

 

 

ここからはレビューになります。

 

2017年世界ツアー版ジブリフィルムコンサートは宮崎駿監督10作品の音楽をプログラムしたスペシャルコンサートです。『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』です。2025年ツアーファイナルを迎えた本公演では『君たちはどう生きるか』もスペシャルアンコールで披露されて宮崎駿監督全11作品が大集合する歴史的瞬間となりました。

2025年スタジオジブリは設立40周年を迎えました。おめでとうございます!その直前にあたる『風の谷のナウシカ』から数えて世界的に見渡しても一人の映画監督と一人の作曲家がタッグを組み続けた成功例はほとんど存在しません。スピルバーグとジョン・ウィリアムズくらいでしょうか。そのスピルバーグ監督も作品ごとに作曲家を替えていたりもします。映画、音楽、アニメーション、エンターテインメント、あらゆるジャンルを超えてスタジオジブリ作品は日本の誇るレガシーです。

映画を彩る名曲たちがコンサート本編28曲アンコール3曲と演奏されます。作品ごとに公開順ではなく趣向を凝らした多彩な音楽構成で届けられます。すべて世界ツアーのためのスペシャルバージョンです。久石譲は構成や演出についてインタビューでこのように語っています。

「一番最初は「ナウシカ」はやっぱり自分が一番最初に宮崎さんと記念すべき作品なので一番頭にする。これを決めて、その後できるだけ前半をシンフォニックに、オーケストラとコーラスの素晴らしさというものを徹底的に表現する。もちろんそのなかで交響曲のように第1楽章、第2楽章、第3楽章、第4楽章のように順番を決めていきます。後半はむしろ「Porco Rosso」だったり、ヴォーカルとピアノだけの「Spirited Away」だったりとか、あるいは「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」のように各楽器の紹介をするような、とてもこう通常のオーケストラ・コンサートとは違うスタイルをとりながらまとめていく。」(from『A Symphonic Celebration』インタビュー動画)

 

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2017年からスタートした世界ツアーは2024年までの8年間で延べ18都市21会場51公演を達成しています。動員数は30万人以上を誇ります。会場は2,000人規模のコンサートホールから22,000人規模のアリーナやスタジアムそして野外公演もあります。音楽において世界三大聖地と呼ばれる「米・ロックの聖地 マディソン・スクエア・ガーデン」「音楽の殿堂 カーネギーホール」「英・ロックの聖地 ウェンブリー・スタジアム」も制覇!ほかにもニューヨーク・ラジオシティ・ミュージックホールやパリ・ラ・デファンス・アリーナなど世界中の会場で熱狂的に迎えられ瞬く間にSOLD OUT!!

ツアーファイナルは東京ドーム2days3公演12万人です。約118万通の応募という大反響です。世界ツアーの到達点にふさわしい超特大です。2008年武道館コンサートは2days3公演3万人だったことを思い起こすと17年後に辿り着いた景色は祝福に満ちています。久石譲にとっても国内でのドーム公演は単独コンサートとしてはキャリア初になると思います。オーケストラによる公演が東京ドームで行われるのもまた史上初とニュースにもありました。

ツアーファイナルも加えた総動員数は442,528人(※公演パンフレットより)です。開催データと動員記録は《速報》をご覧ください。

 

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7月17日昼、会場には開演前からただならぬ高揚感でいっぱいでした。ドームのあらゆるエリアに設けられた豪華なLEDビジョンには何種類かのツアービジュアルがそれぞれ映し出され、フラッグやポスターにテーピングと東京ドームをラッピングするように各所にデコレーションされた夢の祭典です。すでに多くのファンがグッズ購入や記念写真で活気に満ち溢れています。

昼公演は40,000人のジブリファン・久石譲ファンが集結し観客層は全世代型!もう男女比はとか年代層はとか海外層はとか言っていられない、日本中のそして世界各地からスタジオジブリを愛する人々が、思い思いのマイグッズを連れてこの日を迎えた様子はSNSにもたくさん投稿されていました。ジブリ愛がほとばしっているから見ていて楽しく幸せな気分になります。現地の高まりはすごく熱風が吹いていました。

チケットを手に指定ゲートから入場します。当日は快晴、熱さへの配慮もあって開場時間は繰り上がりました。もともと開場11:30/開演13:00と時間はたっぷりあったなか、ファンたちはまだまだ会場外の空気を楽しみたい雰囲気でグッズ販売コーナーには長い行列、記念写真スポットには順番待ちの人だかり、もうコンサートを全力で楽しむ一日は始まっています。

いよいよ入場します。ゲートを進んで会場を見た瞬間の驚きと一気に湧いてきた夢のような現実感は一生忘れることはないと思います。ドーム内の広さ、グラウンドに所狭しと並べられたアリーナ席、ぐるっと約240°を囲んだスタンド席、異様な存在感を放つステージ、そしてそびえ立つ3つの巨大スクリーン。今から本当にここでコンサートが始まるんだ、この喜び驚き楽しみ感激信じられないぐちゃぐちゃな感情は一生忘れません。

 

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出演者

久石譲

JOE HISAISHIです。作曲・指揮・ピアノ・プロデュース。どれをとっても特別です。久石譲から生まれるメロディそしてオーケストラサウンドは格別です。流麗なストリングス、煌びやかなヴァイオリンにここぞと聴かせどころのあるヴィオラ・チェロ・コントラバス、飛び跳ねるピッツィカート、軽やかに戯れる木管、咆哮する金管に豊潤なホルン、躍動するパーカッション、メロディだじゃないキャラの立ったフレーズたち。これら全てが絡み合う音色と旋律は、鳴ってほしい音が一番ふさわしい楽器と旋律で奏でられる。こぼれそうな気品と美しさ、圧倒される絢爛な色彩効果に耳をうばわれてしまいます。これぞ久石譲の魔法です。

久石譲指揮はオーケストラの対向配置(古典配置/両翼配置)をとっています。ベートーヴェンの時代(古典)もそうでした。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右対称に位置すること(両翼)などが特徴です。本公演では弦14型3管編成のオーケストラ約90人に合唱・ユースコーラス約150人、マーチング約200人も合わせて総勢438名にのぼります。

久石譲にしか出せないピアノの音があります。久石譲のピアノでしか伝えることのできないスタジオジブリの世界があります。ジブリファンにとっても神セトリですが、久石譲ファンにとっても神セトリです。

 

久石譲によるピアノ演奏

  • 風の伝説 / The Legend of the Wind
  • 旅路(夢中飛行)/ A Journey (A Dream of Flight)
  • 帰らざる日々 / Bygone Days
  • Symphonic Variation “Merry-go-round + Cave of Mind”
  • あの夏へ / One Summer’s Day
  • となりのトトロ / My Neighbor Totoro
  • Ask me why
  • Madness
  • アシタカとサン / Ashitaka and San

 

ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

2024年4月久石譲はロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のComposer-in-Associationに就任しました。コンサート共演を重ねながら『A Symphonic Celebration』も録音しています。2025年のスペシャルツアーでは、本公演を皮切りにソウル公演やサントリーホール公演と続いていきます。そしてなんと8月には久石譲×ロイヤルフィル、BBC Proms 2025に登場します。

『A Symphonic Celebration – Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』はクラシック名門のドイツ・グラモフォンからの記念すべき第一弾アルバムです。ツアーファイナルと同じ久石譲×ロイヤルフィルのロンドン録音です。アルバムジャケットには宮崎駿監督作品からの原画が使われています。

同アルバムは快挙尽くしです。2024年第38回日本ゴールドディスク大賞「クラシック・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。クラシック・アルバム部門で1年間で最も売れた作品です。海外でも米ビルボードClassical AlbumsとClassical Crossover Albumsで堂々の1位を獲得したほか、フランス「Classique Chart」1位、イギリス「Specialist Classical Chart」でも2位など世界のクラシックチャートを席巻!またドイツの総合アルバムチャートでは6位にランクインも果たしています。

そして今夏、久石譲×ロイヤルフィルはまた一つ記録を打ち立てるようです。「おそらく海外からやって来たオーケストラの単年での日本動員記録更新となるだろう」(Mikikiコラム)すごいことが起こっています。

 

東京混声合唱団

素晴らしい合唱の力でした。合唱によって会場が膨れあがり、重厚な影を生み出し、合唱が大いなる光になる。久石譲コンサートではFOC Vol.7(2024)で共演のほか、今年8月には「祈りのうた 2025 スペシャルツアー」でも久石譲指揮、日本センチュリー交響楽団と愛知・大阪・兵庫・東京を巡ります。

 

ブルックリン・ユース・コーラス

初共演です。清らかに澄んだなかに厳しさも現出させた瑞々しい歌声でした。グラミー賞受賞の合唱団で、現代を代表する作曲家たちの世界初演も数多くしているようです。またいつの日か久石譲作品やコンサートで共演が実現することを強く願っています。

 

リトルキャロル

麻衣主宰の女声コーラスグループです。数多くの久石譲コンサートやアルバムに参加しています。スタジオジブリ作品では『崖の上のポニョ』『君たちはどう生きるか』でそのまっすぐに伸びるコーラスワークを聴くことができます。

 

エラ・テイラー

この声好きだ、素晴らしい歌唱だ、そう思った人きっといますね。パンチの効いた声量やインパクトを武器としないタイプの確かな表現力と秘めたる奥ゆかしさを感じる歌唱に惹かれます。世界ツアーなどで共演を重ね、FOC Vol.7(2024)を音源化した『Joe Hisaishi Conducts』(2025.8.8)もいよいよリリースされます。「久石譲:The End of The World」を収録しています。欲しがる相性の良さにどんなアルバムを出しているか探したほどです。これからどんどん久石譲作品と共演してほしいです。

 

麻衣

久石譲の愛娘です。『風の谷のナウシカ』の少女の歌声から共に歩んでいます。一度聴いたら忘れない透き通った歌声と、さりげなく和を感じさせるこぶしの歌唱法が心を揺さぶります。麻衣&リトルキャロルで久石譲ソングを歌い継いでほしい、しっかり音源も残していってほしい。久石譲の世界を表現する第一人者です。

 

マリー・ビュルー

初共演です。こちらもまたどんなアルバムを出しているか探したほどです。聴けるものは聴きましたよ。これからどんどん久石譲作品と共演してほしいです。

 

マーチング

陸・海・空の自衛隊音楽隊が結集するなんて国家行事以外にあるんでしょうか。世界ツアーでは現地のプロ・アマらが集い合同マーチングを構成していましたが、ツアーファイナルは国家的イベント!?に勲章を授ける最高音楽隊です。

 

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開演10分前から会場BGMが流れはじめました。1曲目は三鷹の森美術館オリジナルBGM1「Musica del Museo」です。2001年開館に合わせて久石譲から贈られた楽曲で展示室「動きはじめの部屋」BGMにもなっています。ほか1,2曲ほど続けて流れましたが初めて聴く曲でした。いずれも慣例的に宮崎駿監督へ誕生日プレゼントした曲だと思います。勝手な想像にはなりますが、もし初めて渡した1曲目と一番新しく渡した曲という粋な演出だったら、すごいですよね。

巨大スクリーンにはスタジオジブリの背景画たちがゆっくりと流れて会場の雰囲気も醸成されていきます。合唱団から順番にステージに姿を見せ始めると温かい拍手が送られいよいよ開演です。

 

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風の谷のナウシカ

イントロのティンパニの轟きと巨大スクリーンに映し出されるタイトルバック。すべてはここから始まった。スタジオジブリ×久石譲の歴史のはじまりです。もうこの瞬間だけで鳥肌もの泣きそうになります。改めて感嘆したのは全く古さを感じさせないこと。ポップスコンサートでデビュー曲を演奏したらやはりそれなりの時代感を醸し出すような気がします。回顧もふくめて。ナウシカの音楽はもちろん懐かしさもあるけれど現代感もある、そして近未来の世界を聴いているような感覚にすらなる。そんな時代を超越した音楽はまさにクラシックです。

 

とても壮大に丁寧に音楽は奏でられていました。風の谷のナウシカに限らず本公演すべてのプログラムに言える大きな特徴です。例えばお祭りのように「宮崎作品を全部やるよ!一気にやるよ!」という勢いやハイテンションとは違う、ページを一つ一つゆっくりとめくっていくように、約40年で到達したこの瞬間をオーディエンスと一緒にかみしめていくように、プログラムは一つ進むごとに感慨を増幅させていきます。

 

魔女の宅急便

コリコの街やキキの魅力、思春期の繊細でこまやかな感情の揺れ動きまで伝わってきます。「Mother’s Broom」(かあさんのホウキ)はソロヴァイオリン奏者ごとにキャラクター輝くパートです。魔女の服はおしゃれできない。それでも髪を丁寧にとかすキキの姿、心を込めてホウキを作るキキの姿、そんな光景が浮かぶような気持ちを込めた美しい響きでした。

 

もののけ姫

幾度聴いても初めて聴いた時の衝動が迫ってくるもののけ姫です。まず最初に書いたという「The Demon God」(タタリ神)、一ヶ月半かけて書き下ろしたという「The Legend of Ashitaka」(アシタカせっ記)、宮崎監督の詩がふとメロディを書かせた「Princess Mononoke」(もののけ姫)、宮崎駿×久石譲凄まじい二人の鬼才を鮮やかに封じ込めています。見る者を圧倒する歴史的遺産のように聴く者を圧倒し続ける音楽です。

 

風立ちぬ

世界ツアーから新たに加わったプログラムです。感無量です。ピアノを弾く久石譲の後ろ姿に笑顔で視線を送りながら息を合わせた演奏をし、指揮をする久石譲に笑顔でアイコンタクトを絶やすことなく粒のきれいなマンドリンを聴かせてくれました。ジブリのヒロイン像を見ているようで、ラブでした。「A Journey (A Kingdom of Dreams)」(旅路(夢の王国))は久石譲コンサートのアンコールピースになってほしいくらい。起伏に富んだ楽想と聴き終わった後すっと心に沁み入る深い感動があります。

 

崖の上のポニョ

すぐ驚愕したのは巨大スクリーンに映し出された手書きの勢いです。崖の上のポニョは当時の可愛らしい映画のイメージから映像も音楽も時間とともに一番変化を遂げた作品かもしれません。主題歌もそうで可愛らしい歌がスケール感に満ちた交響曲になった。日本の第九として年末に聴きたい、そう思うほど格調高い。生きることを肯定する命の讃歌に輝いています。生命力に溢れたこの曲のエネルギーはもっともっと日本で世界で響かせてほしい。

 

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天空の城ラピュタ

「Doves and the Boy」(ハトと少年)「Carrying You」(君をのせて)「The Eternal Tree of Life」(大樹)まで世界ツアー完全版を聴くことができました。ツアーファイナルのための陸・海・空の自衛隊音楽隊は最高の勲章です。巨大空間の音速すらもコントロールする鍛え抜かれたチームは誇りと威厳にまぶしすぎます。ユースコーラスと合唱もふくめて、想いを込めてたっぷりと演奏されるラピュタ、心からありがとう。オーケストラのラピュタはまたコンサートで聴けるかもしれない。このスペシャルギフトは一生に一度きり。円盤化されたときにはこの曲を抱いて眠ろう。万感の思いです。

 

紅の豚

たっぷりと一曲を聴かせてくれます。ジャジーなアンサンブルです。リキュールに添えたフルーツのようにフィンガースナップも効いています。不思議とほかのプログラムと並べてもその満足感は変わらない、演出:久石譲です。全てのプログラムが僕にとってのハイライト。(なんかのキャッチコピーみたい)

 

ハウルの動く城

本編全プログラムのなかで唯一フルオーケストラ・オンリーです。「Merry-go-round of Life」(人生のメリーゴーランド)のメロディが10以上のバリエーションで奏でられ心ゆくまで陶酔します。あまりに気を許してしまうと心臓まで取られかねません。映画の名シーンとリアルタイムなライブ映像も交えながら臨場感いっぱいです。ため息が出るほど美麗なオーケストラサウンドにしっかり胸に手をあて鼓動をたしかめます。

 

千と千尋の神隠し

イントロから久石譲ピアノの千と千尋の神和音です。40,000人に取り囲まれた空間のなかでピアノとヴォーカルだけで「One Summer’s Day」(あの夏へ)を織りあげていく光景はただただ美しい。そして「Reprise」(ふたたび)伸びやかな歌声にオーケストラが翼となってどこまでも彼方に連れていってくれる。麻衣の歌声には少女とも大人とも定めない独特の神秘性があります。それがまたこの作品にぴったりです。

 

となりのトトロ

夢にまで見た光景。夢だけど、夢じゃなかった瞬間。自分史上最高のコンサートが塗り替えられたかもしれない。そう思った人は東京ドームにどれほどいたでしょう。エラ・テイラーと麻衣も華を添えた「My Neighbor Totoro」(となりのトトロ)まで終わってみればあっという間。祝福のフィナーレ!再会のフィナーレ!希望のフィナーレ!でした。

 

世界ツアーでは曲ごとに日本語ver.と英語ver.で歌われています。スクリーンに映る英語詞も世界ツアー版の演出です。気がづけば宮崎監督が作詞(補作詞)したもの「もののけ姫」「海のおかあさん」「君をのせて」「となりのトトロ」はすべて日本語で歌われています。宮崎監督の世界を伝えるうえで言葉もまた大切なひとつなんですね。

東京ドームというオーケストラ演奏会には超アウェイな場所でプロフェッショナルを尽くす出演者たち。ふたを開けてみたら凄かった!しっかり素晴らしかった!そしてカンペキを超えた、音楽が音楽になる瞬間がありました。こんな体験ができるのは人生に一度でもあればもう幸せです。

 

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アンコール

Ask me why

予想は裏切っても期待は裏切らない!まさかのスペシャル・アンコールです。最新作『君たちはどう生きるか』から特別バージョンです。会場中の人々が五感の全てで久石譲のピアノの音を感じようとしている。光の綾のようなストリングスに美しい反射光を照らす木管金管は至芸です。まだこんな新しい感動が待っていたなんて幸せ!そんなにファン心を射止めないで!と思った久石譲ファンも多かったことでしょう、はい!

時に背中を押してくれる、時に傷を癒やしてくれる、時にそっと寄り添ってくれる、時に一緒に泣いてくれる、時に風を運んできてくれる。これからの人生をこの曲と共に歩んでいきたい。そう思える一曲でした。心から感動です。

 

Madness

会場が赤に染まるライティングとボルテージ全開のオーケストラがたたみかけてきます。『紅の豚』で飛行艇が運河を疾走するシーンで使用された楽曲です。ツアーファイナルでは本編映像は使わずにライブ映像のみで一気にピークに昇りつめ、終わった瞬間に金銀テープがパーンッ!!と舞いあがった。興奮と驚きと歓声で会場は一時騒然となります。まるでジブリのあの名シーンのように光の飛沫の舞う金銀テープはそのボリュームもケタ違いでした。

 

Ashitaka and San(アシタカとサン)

たった一音でものすごく耳をつかまれる瞬間があります。『もののけ姫』からエバーグリーンな名曲です。もうこれが本当にエンドロールなんだな。会場中の人々が息を凝らして久石譲の音楽を聴きとろうとしています。中間部では久石譲からのメッセージが映し出されて、オーケストラと合唱が加わりたっぷりを余韻をのこすように終わりを迎えます。英語ver.で歌われて最後までしっかり世界ツアーのスタイルを貫くことがまた素晴らしい。

 

I am so grateful to be here with you.
We are back together again.
To my fellow music lovers,
I wish you all the health and happiness in the world.

– Joe Hisaishi

 

ひとつひとつの拍手が光になって会場が明るくなっていきます。最後には出演者がふたたびステージに登場し感動と祝福に包まれたスタンディングオベーションです。ありがとう宮崎駿監督、ありがとうスタジオジブリ、ありがとう音楽を奏でてくれたすべての人たち、ありがとう公演を実現させてくれた人たち、ありがとう久石譲さん。この日、生きる力や生きる喜びを深く刻まれた体験になりました。

 

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スタジオジブリ×久石譲の一大プロジェクトはこれからどこへ向かうのでしょうか。ツアーファイナルは大成功で幕を下ろしました。早速ですが2026年1~3月フランスツアー16公演!!という情報も飛び込んできています。久石譲本人の出演予定はありません。映像が使われるのか不明な点もあり全貌はこれから。シンフォニー・コンサートとして次のステージへと継がれていくのかもしれませんね。世界ツアーを共にした主催者のひとつと共演オーケストラになっています。今のところはご参考まで。

Les musiques de Joe Hisaishi en concert symphonique | Tournée France 2026 | Lyon, Strasbourg, Amnéville, Paris, Orléans, Nantes, Pau, Toulouse, Bordeaux, Lille, Reims, Dijon, Montpellier, Nice, Toulon
https://www.u-play.fr/lesmusiquesdejoehisaishi

 

 

開催してくれて大感謝です。でも3公演でも足りないというのは応募118万人が証明しています。ジブリがいっぱいコレクションに永久保存盤を熱望します!本編からアンコールはもちろんバックステージやメイキングまで完全収録してくれたらうれしい。ジョン・ウィリアムズ×ウィーン・フィルの世紀のコンサートはCD(マイク音響)とBlu-ray/DVD(会場音響)でもれなく円盤化されました。音楽作品でも映像作品でも充実させてほしい。ぜひ期待しています!世界中が待っています!未来でもまた夢を叶えてください。

 

 

みんなのコンサート・レポート

 

 

公式写真と出演者SNSで綴るコンサート記録!写真計81枚!+α

 

 

メディアニュース(動画あり)

 

 

 

 

武道館コンサートから世界ツアーの軌跡

 

 

 

 

武道館コンサートのときはファンサイトはじめるってまさか思ってもなかったです。感謝!

響きはじめの部屋があってワールドワイドに交流できるようになってほんと感謝!! 英語中国語韓国語….挨拶くらい勉強するぞー

韓国の友人にも届けてくれてありがとうございます!

 

from 久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋X(Twitter)
https://x.com/hibikihajimecom

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ テキスト編

Posted on 2025/07/07

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

テキスト編

これまでに語られてきたことのなかから、主題歌の条件・メロディと言葉について・歌のヒミツなどを見ていきましょう。作曲家 久石譲の流儀がそこにはあります。

 

 

about スタジオジブリ

ただ、《さんぽ》の最初のメロディだけは、打ち合わせの最中に浮かんだんですよ。そういう瞬間が訪れる時は、非常に幸せです。一方、《となりのトトロ》はお風呂に入りながら「トトロ、トトロ、トトロ……」と口ずさんで出来た曲。一番単純なのはソミドだから、「♪ソミド、トトロ、トトロ」。ソミドの次は、「♪ソミド、ソファレ……あ、いいね」。でももうちょっとリズミックに「♪トットロ、トットロ」となっていて。

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

 

「子どもから大人まで誰もが口ずさめるような歌を作ってほしいというのが宮崎さんの希望でした。そうなると、一番大事なのがメインテーマ。幸いなことに、宮崎さんとの最初の打ち合わせのときに浮かんできたんですよ。”ポ~ニョポ~ニョポニョ”っていう部分のメロディーが。でも、あまりにもシンプルなメロディーだったので、2~3カ月くらい寝かせてたんです。でも結局、それが一番良いと思ったので、デモを作って宮崎さんに渡してみたら気に入ってくださって。最大の難関になるはずのメインテーマが最初にできたというのは非常に助かりましたね」

~(中略)~

「小学校の音楽の授業で習うことですけど、音楽の中には”メロディー”と”ハーモニー”と”リズム”という三要素があるんです。僕らが音楽を作る上でも重要なのはこの三要素なんですよ。今回、メインテーマの”メロディー”が非常にシンプルで分かりやすいので、”リズム”や”ハーモニー”が相当複雑な構成になっても成立するんです。そこは良かったところですね。この曲の良さは、”ポ~ニョポ~ニョポニョさかなのこ”という最初の部分のメロディーですべて分かってしまうところ。そのメロディーを認識させるために4小節とか8小節とか必要としないですから。1フレーズだけで分かるので、どんな場面でも使えるんです。すごく悲しい感じにもできるし、すごく快活にもできるから、いくつでもバリエーションが作れるんです。メインテーマのアレンジを変えて使うという方法は、前作の『ハウルの動く城』の経験が生きましたね。今回、『崖の上のポニョ』でも徹底的にアレンジを変えました。使い回しは一つもありませんよ」

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「実は宮崎監督とスタジオジブリの鈴木敏夫代表取締役との3人で最初の打ち合わせをした2年前の11月。監督の説明を聞いていたらあのメロディーが浮かび、企画書の裏に楽譜を走り書きしました」

「そもそもポニョという言葉の勝利です。アクセントは“ポ”にあって“ニョ”で下がるからまず音程が下がる。下がった分だけ音程は上がる。僕は同じ言葉を3回繰り返すのが好きなので最初の2小節ができました」

Info. 2009/02/24 ポニョっと生まれた旋律 久石譲 ソロ・アルバム (産経ニュースより) より抜粋)

 

 

多くの人から「あの『ポーニョ、ポニョポニョ』が頭から離れない」との感想を頂戴した。メロディも「ポニョ」という言葉も実に単純なものだ。ところが、それが一体になったことで、二乗、三乗、いや三十乗くらいの力を持って、誰の耳にも入りこんでいったのだろう。こんな奇跡のような出来事が起きたことは、音楽家として本当に幸せだ。

Blog. 「文藝春秋 2008年10月号」「ポニョ」が閃いた瞬間 久石譲インタビュー より抜粋)

 

 

「「ポニョ」という言葉は新鮮で独特のリズムがある。”ポ”は破裂音で発音時にアクセントが自然につくし”ニョ”へはイントネーションが下降しているので、メロディラインも上昇形ではなく下がっていくほうが自然だ。基本的にボクは言葉のリズムやイントネーションには逆らわない方法をとる。(中略)「ポニョ、ポニョ、……」と何度か呟いているうちに自然にメロディの輪郭が浮かんできた。もちろんこの2音節だけではサビのインパクトには欠けるので何度か繰り返す方法をとった。(中略)和音の進行もシンプルなものを使用することにした。(中略)後はリズムなのだが、それは先ほど書いたように言葉のイントネーションを採用する。」

(久石譲「今、誰もが”口ずさめる歌”をつくるということ」 スタジオジブリ『熱風』2007年8月号 より抜粋)

 

 

久石:
いやあ、ぼくは逆にね、宮崎さんは、非常にすぐれた作詞家だと思ってるんですよ、で、本音を言うとですね、音楽の究極は、やっぱり歌ですよ。

鈴木:
うーん……

久石:
だって、人に何かを伝える時に、まず言葉があって、でも、言葉だけでもダメで、それと音楽とが響き合って、瞬時に人生を感じちゃったりとか、いろんなことがすべて見えたりする可能性があるわけで……。そうするとね、最後に行き着くのは、歌なんですよ。

鈴木:
歌も音楽も、生きものなんですね。

久石:
うん。結局は、そこに行き着いちゃう。生命の世界というかね……

鈴木:
何ていうのかなあ……自分の、意識の下のほうにね、太古の昔から続いてる遺伝子みたいなものがあるんじゃないかな、なんて思ってるんですよね。

Blog. 「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ 3」久石譲登場回(2008)「ジブリアニメとの25年」内容 より抜粋)

 

 

 

about 映画音楽

「映画はインストゥルメンタル(器楽)が基本であり、主題歌はインストゥルメンタル(器楽)で通用するメロディーであるのが望ましい」

(キネマ旬報 1990年9月下旬号 No.1042 より)

 

 

オードリー・ヘップバーンといえば、誰もが思い出すのが『ティファニーで朝食を』、音楽担当はヘンリー・マンシーニ、さすがにうまい。メロディも編曲も申し分ない。とりわけ凄いなと思うのは、メインテーマが歌でも、インストゥルメンタル(器楽曲)でも、どっちでもいけるというところだ。たとえば、「ムーン・リバー」、ハーモニカで吹いても、コーラスで歌っても、画面でピッタシ合うのだ。これは映画のメインテーマの理想だ。

~(中略)~

正直にいうと、本当は主題歌なんかないほうが、僕は好きだ。少なくとも、今はインストゥルメンタルのほうに興味がある。たとえば、『第三の男』、『風と共に去りぬ』、『エデンの東』、『禁じられた遊び』、『アラビアのロレンス』、『太陽がいっぱい』など、いずれも味わい深い。

しかし一方では、『いそしぎ』、『男と女』、『ティファニーで朝食を』、『卒業』など、ボーカルの付いた名作も多々あるのだ。

ところが、よく検討してみると、それらの曲は、インストゥルメンタルでも充分に通用するメロディラインであることに気づく。俗にいう歌もののメロディ(ふし)、つまり、詞をのせるためのメロディ(ふし)ではないのだ。

映画音楽というものは、言葉が付いていても、基本的にはインストゥルメンタルな音楽であるべきだと思う。楽器で演奏してさまにならなければ、意味がないのだ。

これで「ムーン・リバー」がなぜいいのか、分かっていただけたはずだ。

~(中略)~

結論としては、映画音楽はインストゥルメンタルが基本であり、主題歌はインストゥルメンタルでも通用するメロディであるのが望ましいということだ。

(久石譲著書より)

 

 

 

about 歌

「ポップスの面白みやすごさは、メロディと言葉が一体化したときに独特のものが出てくることです。特に言葉は、時代が反映されるから厳しいですね。多くのポップスミュージシャンやシンガーソングライターがコケてしまうのは、言葉なんですよ。すぐに時代に合わなくなってしまうから。」

「言葉とメロディが一体になったときに、理屈じゃないところで世界がずんと重く感じられるときがある。それがポップスの持っている圧倒的な力なんだと思います。」

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより より抜粋)

 

 

「ただ歌メロはいい曲、いい歌詞、いい編曲がそろっても歌手に左右されたりもして、必ずしも耳に残るいい音楽になるとは限らない。奥深く難しい世界です」

Blog. 「テレパル TeLePAL 1994年 6.25-7.8」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

少し補足します。映画の場合はその作品にあった声を探す、あるいは自分が決めるのではなく監督やプロデューサーが選ぶ場合もある、という趣旨のことは過去にも語られています。自作品や音楽作品にするときの声はまた別の側面で慎重に検討を重ねるとも言えるのかもしれませんね。

 

 

 

歌とインストどっちが強い?!

いかがでしたか。

歌かインストか ~鶏か卵か~、【スタジオジブリ編 1】から【ソロアルバム編】まで全方位的に見ていきました。こっちが先だったんだ、こんなバージョンもあったんだ、何か新しい出会いがあったならうれしいです。

エンターテインメントにおける音楽といえば、そこはポップスがメインストリームです。日々賑わうランキングのなかにインスト曲が入ってくることはそうそうない。映画は大ヒットに比例して注目されるのは主題歌ばかり、本編音楽が脚光を浴びることは滅多にない、悲しい。映画の印象に貢献しているのは主題歌よりもメインテーマのほうなのに!!、と映画音楽ファンはいつもハンカチを嚙んでいる…僕はしてないけどしている。

やっぱりインストより歌がつよいよなあ、インパクトもあるし印象にも残りやすいし、言葉の力や共感力ってあるしなあ…。ちょっとした劣勢感を抱きながらも、いや別にいいんだ逞しく好きでいるんだ、自分の好きな音楽を推していくんだ。そんなとき僥倖に巡り合いました。

ふとある作詞家のコメントを目にしました。「詩に音楽をつけても人々が覚えるのはメロディ」「口ずさんだりするのはメロディ。鼻歌でもそうで歌詞を覚えていなくても歌えるのはメロディ」

なるほど!!そうですか!!

メロディ劣勢と思っていたなかそちら側からはそう見えていたんだと目からウロコでした。深いですね、作詞家からは詞のほうが劣勢だと感じていたなんて思いもしませんでした。この感覚を得た日から僕は翼を得たようにメロディ愛そしてインスト愛が高く広く羽ばたいていくことになります。ずっと楽しく羽ばたいています。ぜひみなさんも風に乗ってほしい。

 

「あーあれね。知ってるよ。ちょっと待って、歌詞ど忘れしたけどタララ~ン♪でしょ」

これはあっても

「あーあれね。知ってるよ。ちょっと待って、メロディど忘れしたけど〇〇〇って歌詞でしょ」

このパターンはなかなかない気がする。

みたいな感じでしょうか。

 

 

久石譲さんの楽曲もメロディはつよい。歌詞があってもなくてもついつい口ずさんでしまうメロディ。言い換えるとメロディが充分に歌っているから歌詞を必要としないほど。こんなにすごいことってありますか、こんなにすごいことを何十年も続けているって、もう鶏と卵どちらが先かよりも、ゼロからどちらも生み出していることがすごいっていう神々しさです。

 

久石譲は稀代のメロディメーカーである。

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ ソロアルバム編

Posted on 2025/07/01

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

ソロアルバム編

久石譲は自身が手がけた映画音楽の主題歌/メインテーマを、音楽作品や演奏会用作品に再構築することで時代を超えて聴かれている曲がたくさんあります。【映画音楽編】でも触れましたが、サウンドトラックには同じメロディをして主題歌(歌曲)とメインテーマ(器楽曲)と収録されている作品もたくさんあります。

ここでは、それ以外のケースつまりソロアルバムで生まれることになった鶏?卵?な楽曲をみていきましょう。

 

 

HOPE

数ある久石譲ソロアルバムのなかでも独特な存在感を放つアルバム『地上の楽園』です。そのあまりの個性的さゆえに隠れていることに気づかない一曲があります。以前にも書いたことがあってそこから引用します。

 

この曲、実は「水の旅人 メインテーマ」と同じ曲なんです。

まったく曲調も雰囲気も違うので、またインスト曲とボーカル曲なので、突然そんなこと言われても、そうだったっけ? と半信半疑かもしれません。今から、Aメロ・Bメロ・サビ・間奏と、ふたつの曲を線でつながていきます。そう言われればそう聴こえてくるかも…。そんなレベルじゃありませんよ。ちゃんと同じ原石から分かれた、いわば二卵性双生児のようなふたつの曲。

「HOPE」
Aメロ(00:25~00:59)
Bメロ(01:00~01:20)
サビ(01:21~01:37)
間奏(02:45~03:18)

この区分けをもとに下に当てはめるとこうなります。

「Water Traveller」(水の旅人 メインテーマ)
Aメロ(01:36~02:23)
Bメロ(02:24~02:50)
サビ(04:41~05:31)
間奏(05:49~06:34)

「Water Traveller」の印象的な主題(サビのようなもの)であり幾度登場する旋律(00:26~01:09)は、「HOPE」には使われていません。

「HOPE」のサビとなっている旋律は、「Water Traveller」の中間部パートにあたるという離れ業。さらには、「HOPE」間奏はコード進行もまったく違うので一致しにくいですが、シンセストリングスで鳴っている旋律が「Water Traveller」ではホルンの旋律、まったく同じです。

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE” より)

 

地上の楽園

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

I Stand Alone

器楽曲版で有名な「Tango X.T.C.」です。映画『はるか、ノスタルジィ』の主題歌/メインテーマです。主題歌?あった? そうなるんです。だってこのメロディに歌があるなんて、少なくとも僕は聴いたことがない…。

『Melody Blvd.』は自身の代表作をセルフ・カバーしたアルバムです。”歌詞がすべて英語に差し替えられたAOR的サウンド”とあります。器楽曲「Tango X.T.C.」…じゃないんだった、歌曲「追憶のX.T.C.」は「I Stand Alone」で英語ver.リアレンジになっています。

謎です。歴史を紐解いてみました。映画をDVDで見返してみると本編オープニング/エンディング・クレジットには主題曲「追憶のX.T.C. -はるか、ノスタルジィ 愛のテーマ-」作詞:大林宣彦 作曲:久石譲 歌:石田ひかり(テイチク)と出てくるじゃないですか。でもサウンドトラック未収録、シングルカットされた痕跡もない、エンドロールにも流れていない。映画公開当時に劇場版では使われていたのか、DVDパッケージの際に他曲に差し替わったのか確認にまでは至っていません。謎のままです。

ひとつだけ確かなのは、サウンドトラック盤ライナーノーツに歌詞は掲載されていません。がしかし、『Melody Blvd.』には歌われている英語詞もオリジナルの日本語詞も掲載されています、なんと!!。そして、日本語の言葉数とメロディの音数はしっかり合っています。だから、日本語でしっかり歌うことができます。「Tango X.T.C.」を流しながら歌ってみましょう。

 

 

久石譲 『はるか、ノスタルジィ』

 

 

『Melody Blvd.』には魔女の宅急便音楽から生まれた歌曲「Hush/木洩れ陽の路地」も乾いた風心地よく収録されています。別名…イメージアルバム曲名「かあさんのホウキ」、サウンドトラック曲名「旅立ち」「オソノさんのたのみ事…」、ヴォーカルアルバム曲名「魔法のぬくもり」…ええい、みんな大好きあのメロディ「かあさんのホウキ」です。

 

 

 

長距離電話
White Night
ホワイトナイト

久石譲の冬の定番曲といえば「White Nights」、クリスマスに聴きたい曲といえば「White Night」です。ファンなら誰もが知ってるそして人にすすめたくなる人気曲です。

『Piano Stories II』に収録されていてみんなそのとき好きになりました。それはそうなんです、それでいいんです。その一年前に歌曲版「長距離電話」がリリースされていたとは、しかも楽曲提供の一曲としてひっそり?!と。歌詞もまったく別物語になっています。純粋に時系列から想像すると、楽曲提供で思わず生まれてしまった美メロを自身も大いに気に入り器楽曲でしっかり残そうとなった、そんな感じでしょうか。大英断です。ありがとう、1996年の久石さん。

池田聡さんは当時久石譲さんのカメラ趣味の先生でした。カメラ選びに付き合ってもらったりしてたエピソードも。by おそらく古き著書より

年月は過ぎ、女声コーラスグループ リトルキャロルも合唱曲としてカバーしました。「ホワイトナイト」作詞:河野清香&小池光子(Little Carol)/作曲:久石譲/編曲:松波千映子で冬の歌になっています。

 

池田聡 Saturday

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

リトルキャロル

 

 

 

Asian Dream Song
旅立ちの時 ~Asian Dream Song~

1998年長野パラリンピック冬季大会テーマ曲です。器楽曲「Asian Dream Song」は1996年に誕生し、早い段階から大会関連行事や盛り上げていくイベントなどで披露されています。久石譲コンサートで初お披露目となったのも同年です。そうして翌年1997年に歌曲「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が生まれ大会テーマソングとなりました。

こうやって見ていくと一定の時間の流れの中で歌曲版へと進化したさまは【スタジオジブリ編 1】『天空の城ラピュタ』「君をのせて」と同じタイプになります。どちらも器楽曲版のときにまだサビメロディはなく歌曲版でサビパートが誕生しています。♪夢をつかむ者たちよ~ 君だけの花を咲かせよう~ パートです。そうして1998年3月開会式での多彩なゲストミュージシャンを迎えた大演奏は感動的でした。惜しむらくはVHS時代だったこと、デジタルレガシーになってほしかった。

新しい世代の人たちは、学校の合唱定番曲として育ってきた人も多いと思います。また2016年フィギュアスケート羽生結弦選手が《Hope&Legacy》として久石譲の「View of Silence」と「Asian Dream Song」を合わせた曲を使用したことで輝き甦り、瞬く間に世界中のトレンドを席巻しました。新たな生命とファンを獲得した幸福な曲。

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

旅立ちの時 久石譲

 

久石譲 『WORKS2』

 

 

 

 

 

 

World Dreams

久石譲いわく「国歌のような格調あるメロディ」は久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)のアンセムのように誕生しました。WDOコンサートで聴けずには終われない大切な一曲です。

2011年「西本願寺音舞台」で麻衣さんの作詞を得て合唱付き版(歌曲版)が誕生しました。このバージョン”for Mixed Chorus and Orchestra”は合唱の声部構成に合わせてオーケストレーションも呼応するように改訂されています。WDO2015、WDO2023でも披露されました。

2019年には組曲「World Dreams」が誕生し全3楽章からなる大作へと膨らんでいます。

まるで現代社会や世界情勢を如実に反映するように、2022年から海外公演でもプログラムされていきます。さまざまな海外オーケストラとの共演はこの楽曲の存在をさらに大きなものにしているように感じます。フランスを皮切りにトロント、ヘルシンキ、香港、シカゴ、ロンドン、フィラデルフィアと世界をつなげています。気がつけば2024年久石譲コンサートでアンコールに選ばれた曲TOP1です。まだまだ世界に広がっていきそうです。平和に聴こえるときもあれば、厳しく聴こえるときもある。常に時代を映し出す鏡のような楽曲です。

 

原典

久石譲 『WORLD DREAMS』

 

久石譲 『W.D.O.』 DVD

 

合唱

 

対向配置

 

組曲

 

(コロナ禍や戦争や)

 

 

Joe Hisaishi – World Dreams(2004年版) Music Video

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

 

MIDORI SONG

ヴァイオリニスト五嶋みどりが理事長を務める認定NPO法人 ミュージック・シェアリングに寄贈された楽曲です。2015年に器楽曲として誕生しましたが、翌年には麻衣さんの作詞によって合唱版も生まれています。編曲はいずれもチャド・キャノンです。現時点ではミュージック・シェアリング主催コンサートなどでしか聴けないもので二つとも音源化されていません。

 

 

 

I Want to Talk to You

「合唱の祭典」のために委嘱され、書き下ろしでは初めての合唱作品になります。また「作曲の過程で思いついた弦楽四重奏と弦楽オーケストラの作品にするアイデアが現実味を帯び」と本人解説で語っているとおり間を置かずに弦楽合奏版も完成しています。コロナ禍を経験しながら、それぞれ2021年と2022年に初演を迎えて以降も少しずつプログラムされています。音源化はこれからの楽しみです。新しいバージョンの誕生をも秘めているかもしれない作品です。

”作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。” by 久石譲

 

合唱版
I Want to Talk to You 〜for Piano and Percussion〜
作曲:久石譲
1. I Want to Talk to You 作詞:麻衣、久石譲
2. Cellphone 作詞:久石譲

弦楽合奏版
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~
作曲:久石譲

*合唱版1.を再構成したもの

 

 

 

スタジオジブリ作品や映画音楽だけじゃない、ソロ作品からもこんなにたくさんあったんですね。たくさん紹介できてうれしいです。これからまた生まれ変わる曲があったならまたうれしいです。

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ 映画音楽編

Posted on 2025/06/25

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

映画音楽編

久石譲が音楽担当する映画そのケースのひとつに主題歌も含めたその全てをトータルコーディネートすることがあります。映画全体から音楽設計することで主要テーマ曲のメロディが主題歌(歌曲)やメインテーマ(器楽曲)となって多彩に本編に登場してきます。このときその歌とインストは同時に誕生していると言えます。

例えば、ワールドベスト盤に収録されている「Innocent」も「My Neighbour TOTORO」も「Ponyo on the Cliff by the Sea」も。それから「FOR YOU」「TWO OF US」「Tango X.T.C.」も。映画主題歌の器楽曲版とも言えますが、初めのサウンドトラックからインストゥルメンタルver.があります。ワールドベスト盤にあるのは、映画のための曲想や曲尺といった制約から解放された自身の音楽作品(ソロアルバム)や演奏会用作品へと昇華させたものたちです。

だから今回のテーマ「鶏が先か、卵が先か」でピックアップできるような曲はそんなにありません。

 

 

 

 

それもそのはず!

「映画はインストゥルメンタル(器楽)が基本であり、主題歌はインストゥルメンタル(器楽)で通用するメロディーであるのが望ましい」by 久石譲

とはっきり明言しています。そのスタンスは映画音楽を始めた1980年代から一貫しています。なるほど久石譲が手がけた映画音楽には主題歌(歌曲)とメインテーマ(器楽曲)の両方で楽しめるものが多いということですね。これまでに語られてきた中から久石譲の映画音楽・歌の流儀については【テキスト編】でみていきましょう。

 

 

『おくりびと』

この映画のメインテーマといえば「おくりびと/Departures」です。チェロの美しい旋律はただただ耳を傾けたくなります。心を寄せたくなります。久石譲の映画音楽年表にとって欠くことのできないエポックな作品です。しっかりと自身のライフワークであるピアノストーリーズ・シリーズや集大成アルバムにもそのメロディを刻み込んでいます。

実はこの曲、映画主題歌にはなっていませんがイメージソングがあります。12本のチェロと1管編成のアンサンブルにのせてAIが歌詞をつけたものです。その作られた経緯やエピソードも当時からあまり触れられていないため、歌曲版が存在することを知らない人も多いかもしれません。サウンドトラックと発売日は同じです。

 

久石譲 『おくりびと オリジナル・サウンドトラック』

 

 

久石譲 『Another Piano Stories』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

映画『海洋天堂』にはメインテーマに歌詞をつけたイメージ・ソング「海洋天堂」があります。映画『川流不“熄”(A Summer Trip)』には主要テーマ曲に歌詞をつけたプロモーション・ソング「慢慢(Slowly)」があります。どちらも映画本編では使われていませんし、編曲は久石譲の手を離れて楽曲制作されています。音源化されていないのでこの話はしません(キッパリ)。

 

 

 

カバー

NHK連続テレビ小説「ぴあの」(1994)は音楽:久石譲です。主演と主題歌も務めた純名里沙の翌年アルバムでは映画『アリオン』から珠玉のメロディ「レスフィーナ」に新たな歌詞をつけた歌曲版「愛の果て」が誕生しています。また『魔女の宅急便』から「めぐる季節」もカバーしています。久石譲プロデュース作品です。

 

 

 

映画から飛び出して新しく生まれた、となったらこのくらいじゃないかなあと思っていますが、何かあったら教えてくださいね。

映画『菊次郎の夏』メインテーマ「Summer」は久石譲の代名詞、いや夏の定番曲、いざ夏の主旋律です。この曲にはコーラスバージョンがあります。!? ほんとです。2022年リトルキャロルのコンサートで初披露されています。音源化はされていません(まだ聴いたことはありません)。器楽曲をコーラス版にしたもので歌詞はありません。編曲は麻衣さん。いつか聴ける日が来たらアップデートして紹介できたらうれしい。

麻衣さんが中心となる女声コーラスグループ リトルキャロルには、スタジオジブリや映画音楽の枠を超えて久石譲のメロディを残していってほしいなと願っています。

 

 

とにもかくにも!

久石譲が映画やドラマのために書き下ろした、その作品のための替えの効かない珠玉の主題歌/メインテーマです。サウンドトラックはそのメロディを歌曲版/器楽曲版で楽しむことができる作品がたくさんあります。

『坂の上の雲』『この世界の片隅に』『ウルルの森の物語』『ぴあの』『LE PETIT POUCET』などなど、イニミニマニモ~

 

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ スタジオジブリ編 3

Posted on 2025/06/20

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

スタジオジブリ編 3

『崖の上のポニョ』

映画冒頭タイトルバックで流れる「海のおかあさん」です。イメージアルバムは歌6曲・インスト4曲の全10曲です。ここで「海のおかあさん」はインスト曲です。豊嶋泰嗣さんのヴァイオリンソロによってメロディが奏でられています。あえて、です。

映画本編では林正子さんのソプラノで印象的に歌われています。これから始まる物語への期待とまるで海のゆりかごのように大きく優しく包み込む一曲です。

 

曲ができるまでのエピソードをご紹介します。

 

新しい海の唄の誕生 ~覚 和歌子作「さかな」より翻案

宮崎監督は、「崖の上のポニョ」で、これまでにない”新しい海の唄”を作りたいと考えていました。これまで海の唄というと「うみはひろいな 大きいな」(文部省唱歌「うみ」)という唱歌に代表されるように、海を風景や舞台として捉えた唄ばかりでした。監督は今回の作品のために、”海そのもの”を歌った唄を作りたいと思い悩んでいたのです。そんなある日、覚和歌子さんの詩集『海のような大人になる』(理論社刊)の中の一編の詩「さかな」に出会い衝撃を受けます。その詩には、監督が思い描いていた”海そのもの”が表現されていたからです。そして、宮崎監督はこの詩を元に、「海のおかあさん」の歌詞を書き上げたのでした。後日、音楽担当の久石譲氏に手渡された音楽ノートには、歌詞とともに次の一文が添えられていました。《これは覚和歌子さんの詩集『海のような大人になる』の一編「さかな」を元にしました。》こうして、宮崎監督と覚和歌子さんと久石譲さんによる全く新しい海の唄、「海のおかあさん」が生まれたのです。

海のおかあさん
歌:林正子 作詞:覚和歌子 宮崎駿 ~覚和歌子作「さかな」より翻案 作・編曲:久石譲

(CDライナーノーツより)

 

覚和歌子さんの詩をもとにしたイメージ・ポエムを宮崎さんからいただいた時、「文部省唱歌ではない”海の唄”が、もっと日本にはあってもいいですね」と宮崎さんがおっしゃっていたんです。それで出来上がったのが《海のおかあさん》ですが、「今回はクラシックもありですね」と宮崎さんにお話しして、林さんに歌っていただいたら非常に良かった。これを映画冒頭に使ったのは、プロデューサーの鈴木さんのアイディアです。「この曲で映画が始まるとすごいぞ!こんなことは今まで誰もやっていない」という、鈴木さん独特の嗅覚ですね。そのアイディアを宮崎さんも気に入られて、実は去年の夏の前には、オープニングは林さんのソプラノでいくと決まっていたんですよ。イメージアルバムを制作した段階では、本編をご覧になった時のお楽しみということで、敢えてヴァイオリンのインストゥルメンタルで録音しましたが。

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

 

久石譲 『崖の上のポニョ イメージアルバム』

 

久石譲 『崖の上のポニョ サウンドトラック』

 

2012年、ジブリ楽曲たちを集めたアルバムで「海のおかあさん」フルバージョンが初音源化されました。

 

 

『スタジオジブリの歌』(2008)、そして以降の5作品を追加した『スタジオジブリの歌 増補盤』(2015)に収録されている「海のおかあさん」はサウンドトラックと同一約2分半です。フルサイズ約4分半は『ジブリ・ベスト ストーリーズ』だけです。

 

スタジオジブリの歌

 

 

 

ジブリフィルムコンサートでも欠かせない一曲になっています。

 

 

 

そのほかイメージアルバムの時には歌曲だったものが、サウンドトラックでは器楽曲(スキャット含む)になっていろいろな曲に登場しています。

 

イメージアルバム → サウンドトラック 曲名の変化

  • 海のおかあさん → 海のおかあさん, 流れ星の夜, 母と海と讃歌
  • フジモトのテーマ → 浦の町(中間部), 人間になる(後半部), フジモト, トンネル(後半部)
  • いもうと達 → いもうと達
  • ポニョの子守唄 → ポニョの子守唄
  • ひまわりの家の輪舞曲 →嵐のひまわりの家, 水中の町

 

 

 

『かぐや姫の物語』

映画公開から2年後、久石譲が紡ぎだした主要テーマ曲のひとつ《なよたけのテーマ》に高畑勲監督自ら新しい歌詞をつけて歌曲版「なよたけのかぐや姫」が誕生しました。ミニマルな声部を駆使した女声三部合唱で約7分からなる大曲です。

《なよたけのテーマ》そのメロディは、サウンドトラック盤「はじまり」「小さき姫」「なよたけ」「蜩の夜」「悲しみ」「飛翔」「別離」「月」など使われたシーンと曲ごとにいろいろな装いを映す旋律になっています。

サウンドトラック初回プレス限定特典ディスクには、映画収録曲よりサウンドトラック未収録音源5曲が収録されています。その名も「なよ竹のかぐや姫(古筝)」と「レンゲ草(古筝)」の2曲が《なよたけのテーマ》のメロディです。フリークにはぜひその全てを聴いてほしい。

 

かぐや姫の物語 サウンドトラック

 

(初回プレス限定特典)

 

 

 

 

カバー

ジブリソングはたくさんの愛溢れたカバー曲があります。

井上あずみはオリジナル歌唱の「君をのせて」や「となりのトトロ」などのほかに【スタジオジブリ編1】でも紹介した『魔女の宅急便』から生まれた歌曲版などもカバーしています。

 

1. さんぽ(となりのトトロより)
2. めぐる季節(魔女の宅急便より)
3. わたしのこころ(魔女の宅急便より)
4. 想い出がかけぬけてゆく(魔女の宅急便より)
5. 何かをさがして(魔女の宅急便より)
6. 魔法のぬくもり(魔女の宅急便より)
7. 風のとおり道/Instrumental(となりのトトロより)
8. まいご(となりのトトロより)
9. おかあさん(となりのトトロより)
10. ドンドコまつり(となりのトトロより)
11. となりのトトロ(となりのトトロより)
12. 君をのせて(天空の城ラピュタより)
13. 風のとおり道/Voice Edit

井上あずみ 君をのせて

 

新しいジブリ作品が生まれていくなか年代ごとに新たなカバーも録音しています。その最新アルバムは2023年です。

1. いのちの名前(千と千尋の神隠し)
2. となりのトトロ(となりのトトロ)
3. 風になる(猫の恩返し)
4. 君をのせて(天空の城ラピュタ)
5. さよならの夏(コクリコ坂から)
6. Arrietty’s Song(借りぐらしのアリエッティ)
7. ルージュの伝言(魔女の宅急便)
8. 鳥になった私(魔女の宅急便)
9. ひこうき雲(風立ちぬ)
10. テルーの唄(ゲド戦記)
11. さんぽ(となりのトトロ)
12. 風のとおり道(となりのトトロ)

 

 

麻衣×DAISHI DANCEによる「君をのせて」(英語ver./日本語ver.)も隠れた人気曲です。またリトルキャロルの久石譲ソングも素敵なハーモニーで優しく歌われています。麻衣さんが中心となった女声コーラスグループです。

 

DAISHI DANCE the ジブリ set

 

 

 

 

すべてをピックアップできてはいませんが、いろいろなカバー曲も見つけて楽しんでみてください。

 

 

 

 

久石譲はインタビューで「宮崎さんから頂く詩っていうのは、何故かこうメロディーが浮かんでしまうものですから」と語っています。宮崎監督の詩が久石譲に新しいメロディを、時代を超えて愛されるメロディを書かせている根源なのかもしれませんね。ジブリメロディは宮崎駿×久石譲でできている、そう言ってきっと大丈夫です。