Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 45 ~フォーレ/サン=サーンス~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/9/27

クラシックプレミアム第45巻は、フォーレ / サン=サーンスです。

 

【収録曲】
フォーレ
レクイエム 作品48 (オリジナル版:第2稿)
キャサリン・ボット(ソプラノ)
ジル・カシュマイユ(バリトン)
アラステア・ロス(オルガン)
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
モンテヴェルディ合唱団 / ソールズベリー大聖堂少年合唱団
録音/1992年

サン=サーンス
組曲 《動物の謝肉祭》

マルタ・アルゲリッチ、ネルソン・フレイレ(ピアノ)
ギドン・クレーメル、イザベル・ファン・クーレン(ヴァイオリン)
タベア・ツィマーマン(ヴィオラ)
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ゲオルク・ヘルトナーゲル(コントラバス)
イレーナ・グラフェナウアー(フルート)
エドゥアルト・ブルンナー(クラリネット)
マルクス・シュテッケラー(シロフォン)
エディット・ザルメン=ヴェーバー(グロッケンシュピール)
録音/1985年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第43回は、
最もシンプルな音楽の形式は?

前号にてWDO2015の編集部ルポルタージュをはさみ久石譲音楽講義の再開です。

超多忙なスケジュールも垣間見れ、一人何役こなしてるんだろうかと感嘆の想いです。また今号のエッセイでは、クラシック音楽の基本、とりわけ形式を理解するうえでもとてもわかりやすい解説です。

一部のみをかいつまんで抜粋してしまうと、理解できなくなるおそれがあり、意図に反することになりかねませんので、限りなくすべてを紹介させていただきます。

 

「この夏のコンサート・ツアーのため、しばらく原稿書きから遠ざかっていたら文章が浮かんで来ない。まあプロの文筆家ではないから仕方ないのだが、頭が音符でいっぱいになると他のことはできなくなるのだろうか? はたまた単にブランクが原因か? もしブランクなら作曲が心配になる。ツアーをしている間は、さすがに作曲するのは無理だ。とするとここにもブランクができている。」

「5月のコンサート以来約2ヶ月半、毎日自宅と仕事場の往復だけの日々は至って地味でシンプルだった。何日も何も書けず泥沼を這いずり回ったような苦しい時期もあったが、今振り返ると確実に曲はできていたのだった。毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。さあ、作曲に戻るためにも早く原稿を上げよう。」

「前回、ホモフォニー(ハーモニー)の時代は機能和声の確立によって音楽はよりエモーショナルな表現が可能になったと書いた。この『クラシック プレミアム』で取り上げる楽曲の大半がそうであるように、多くの人が今日耳にするいわゆるクラシック音楽はこの時代の音楽である。」

「構造は至ってシンプル、メロディーラインとそれを支える和音が主になる歌謡形式に近いものだ。つまり8小節(これが7でも10小節でも同じ)のフレーズが基準になる。もちろんシェーンベルクの《浄められた夜》のように複雑な対旋律やリズムも加わるものもあるからそんなに単純ではない、と言われてもしょうがないのだが、ベーシックな構造は同じなのである。ヴィヴァルディや初期のハイドンを想像してもらえばわかりやすいかもしれない。もちろん8小節では20秒前後で曲が終わってしまうので、これをいくつも組み合わせて一つのまとまった曲にしていくわけだが。」

「ここで重要なのが形式だ。何となくダラダラとメロディーが続いていても、聴き手には何も訴えてこないし、締りがない。なんらかの約束事であるその音たちを受けるお皿のようなもの、あるいは容器がいる。それが形式である。」

「音楽は論理性が大事だ。ドだけでは意味を持たず、それに続く音の連なりがあって初めて音楽として成立する。この連続性には時間が必要なので論理的であると前に書いた。その一つの固まりが先ほどの8小節のメロディーあるいはモティーフなのだが、それを組み合わせ、時間軸の上で構築していくのに必要な約束事が形式なのだ。最もシンプルなものは三部形式である。こう書くとまた講義かと思われるから別の言いかたをする。」

「宇宙人に遭遇したらあなたはどうしますか?…はあ?…この質問に作曲家の武満徹氏は確か「相手の言ったことを繰り返す」というような意味のことを答えていたと思う。随分前に読んだ本なので記憶が定かではないのだが、僕も多分同じことをすると思う。その根拠は「わからなかったら繰り返す」ということだ。」

「そしてこれが三部形式の大前提なのである。あるメロディーから始まった、しばらく経ってからまた最初のメロディーが聞こえた。そうすると多くの人は一つのまとまったもの、あるいは完結したものと認識する。つまりa-b-aということになる。これは古今東西を問わずあらゆる音楽の基本形態であると言っていい。もう一度繰り返す、あるいはもう一度聞こえたということが人間の生理に合致しているのである。じゃあ先ほどの宇宙人は繰り返すのか? などと余計な質問をしてはいけない…これは人間の生理の話なのだから…なんとか収めたのだから蒸し返してはいけない(笑)。」

「さて8小節のメロディーがa-b-aで24小節前後になったとしても多くの場合は(テンポにもよるが)40~50秒くらいにしかならない。それでa-a’-b-a’とかa-b-a’-c-b-a-b-a’など様々な工夫をしながら音楽は徐々に大きな建物になっていった。その極致が交響曲である。特にその第1楽章が最たるものである。10~15分、マーラーに至っては30分もかかるその楽曲はどう作られているのか?」

「それがソナタ形式という形であり、実はこれもa-b-aの拡大版三部形式なのである。具体的にはまずテーマを演奏する提示部(a)、それからそのテーマを様々に変奏する展開部(b)、そしてもう一度最初のテーマを演奏する再現部(a)で構成されているのだが、ごらんのとおりa-b-aの三部形式になる。もちろんそんなに単純ではなく、提示部には第1主題と第2主題があり、それぞれもっと細かく約束事があるのだが、それは次回に書く。」

「重要なのは、ホモフォニー音楽は根がシンプルな分、情緒に訴える力が強く、それゆえ様々な約束事を作ることで大きな建造物にしていったということ。だが、それもやがて行き詰まっていくのである。」

 

 

そういえば最近読んだ本におもしろいコラムがありました。ワーグナーの「ニーベルングの指環」を取り上げてだったと思います。

ワーグナーはライトモチーフという手法を用いたことでも有名で、このメロディーは登場人物Aを表す、このメロディーは登場人物Bを表す、つまりスター・ウォーズの”ダースベイダーのテーマ”でも有名な手法がライトモチーフです。

さらにストーリーがある作品なので、状況によって、喜怒哀楽の表情へと変奏されます。これが上のエッセイにも書かれているa-a’、さらにはa-a’-a”などと連なっていく。

膨大なモチーフと、かつ膨大な変奏が入り乱れる作品において、ワーグナーは聴衆がついていけるか理解できるか心配で、あちこちにストーリーやライトモチーフを復習する場面を設けたというわけです。だから「ニーベルングの指環」などあれだけの長い演奏時間がかかることになったと。

おもしろいと最初に書いたのは、そのコラムに『ワーグナーが聴衆を信じていないさまが、異常にしつこいという人間性が表れている』と書かれていたからです。そういう捉え方もあるのかと、おもしろかったです。

たしかに時代もあります。CDもDVDもない時代に聴衆がその演奏会だけで作品を理解してくれるか、心配になるのもわかります。ちょうど今号での”形式”の講義と、直近で読んだ本の内容とがつながったのでご紹介まででした。

 

最後に。今回のエッセイ冒頭にさらっと書かれている久石譲の言葉は名言ですね。

 

”毎日こつこつと同じことをする、あるいは定期的なサイクルで繰り返し、同じことを続ける。もちろんそれは演奏でも作曲でも文章を書くのでも同じことで、続けること、それが一番。これぞミニマルな生活だ。”

ミニマルな生活、なかなかいい表現だなあと気に入ってしまいました。

ミニマルな生活
~シンプルに
~ミニマル(最小限)とは、選択と集中で優先順位をつけて
~ミニマル(音形)とは、モチーフつまり最も大切な核なこと
~繰り返し続ける

そう勝手に解釈いたしました。

なんだかとても力をもらった気がします、勝手な解釈でもって。

 

クラシックプレミアム 45 フォーレ サン=サーンス

 

Blog. 久石譲 「WORKS・I」 レコーディング日誌 (1997 コンサート・パンフレットより)

Posted on 2015/9/17

久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-」1997年に開催されたアンサンブル構成の全国ツアーです。

 

公式パンフレットによる演奏プログラムや楽曲解説は

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’97」 コンサート・パンフレットより

 

 

同パンフレットに特集掲載された『WORKS・I』のロンドン・レコーディング日誌をご紹介します。

 

 

Making in LONDON

10月リリースのNew Album 「WORKS・I」のレコーディングが、8月中旬にロンドンで行われた。現地での様子を、同行したスタッフによるレコーディング記と写真でお伝えしよう。

【レコーディング記】

8.14 第1日目
ロンドン着。さっそくスタッフミーティングを行う。今回は生の録音が中心であることをふまえ、音のポイント、曲順など、久石さんのアイディアをもとにスタッフの意見をまとめる。明日はエンジニア、指揮者を含めたミーティングを行う予定である。

8.15 第2日目
朝9:20、Air Studios入り。メインホールのコントロールルームでスタッフミーティングを行う。譜面上で重要なポイントを確認したり、マイキングの説明を受けたり。午後、久石さんはピアノに向かい約2時間のリハーサル。明日から本番が始まる。

8.16 第3日目
10:00ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団(LPO)のメンバーがスタジオ入り。緊張感が高まる。久石さんの紹介のあといよいよスタート。いきなり音の迫力に圧倒される。1曲目の「交響詩曲ナウシカ」は18分にもおよぶ大曲。久石さんは、コントロールルームから指示を出したり、譜面の確認や楽員からの質問があるたびに、コントロールルームとホールを何度も往復して、大変な様子。

8.17 第4日目
イギリスのSundayの習慣に合わせ、off。

8.18 第5日目
オーケストラ録り2日目。「ソナチネ」からスタート。しかし、譜面の一部が抜けてしまっていたために、急きょ「Two of Us」からのレコーディングに。スタッフのミスにより、アーティストに迷惑をかけてしまったことを深く反省。オーケストラが昼食の間も久石さんの音のチェックは続く。この日はほかに「Tango X.T.C.」「Silent Love」を収録。「Silent Love」の弦の美しさはとても魅力的だった。LPOとのセッションはこれで終了。

8.19 第6日目
Air Studiosメインホールでの作業最終日。LPO以外の楽器や歌のレコーディングを行う。久石さんのピアノも録る。音色、音の響き、ともにとても良い結果となった。「交響詩ナウシカ」のボーイ・ソプラノの録りもあったが、先生と一緒にやってきた12歳の少年がとてもかわいらしく、澄んだ歌声を聴かせてくれた。19:00全レコーディングを終了。

8.20 第7日目
本日よりTD(トラックダウン/音をまとめる作業)に入る。スタジオもメインホールよりTD用の第2スタジオに移動。まずは「交響詩ナウシカ」から。音の微妙なズレ、ノイズなどをデジタル技術で補整しながら編集しなおす。また、久石さん、プロデューサー、エンジニアが相談しながらベストテイクを選ぶ作業が続けられる。22:00TD初日は「交響詩ナウシカ」のみで終了。

8.21 第8日目
TD2日目。「ソナチネ」からスタート。ホールで得た、あの響きを逃さないよう何度も聴きなおし比べながら編集していく。長時間にわたる作業にも久石さんの集中力はまったく衰えない。真のプロの姿を目の当たりにした。続いて「Madness」「For You」を作業、22:00終了。時間のペース配分も予定通り。

8.22 第9日目
TD最終日。「Tango X.T.C.」「Two of Us」「Silent Love」の順でTD作業は進む。バランスのとりかたで意見が飛び交い、一時息が詰まるようなムードが流れたが、ディスカッションの成果は仕上がりに反映された。TD終了後、即マスタリングの準備に入る。23:00終了。

8.23 第10日目
The Townhouseにてマスタリング。16:00全て終了。

(久石譲 PIANO STORIES ’97 コンサート・パンフレットより)

 

 

この「WORKS・I」のレコーディング記は、当時の旧久石譲オフィシャルサイトでももっと詳しく見ることができました。今はすでに残っていなくて残念です。

 

久石譲 works レコーディング

(指揮者のNick Ingman(中央奥)と 古い教会を改築したAir Studiosにて)

 

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES ’97」 コンサート・パンフレットより

Posted 2015/9/17

久石譲の過去のコンサートから。「PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-」1997年に開催されたアンサンブル構成の全国ツアーです。1997年という年が、久石譲の音楽活動においてどういう1年だったか。それはコンサートパンフレット冒頭に寄せた、久石譲のメッセージからわかります。

 

 

”「パラサイト・イヴ」にはじまり、「もののけ姫」、「HANA-BI」まで、とにかく今年は映画に明け暮れた。

うれしいことに、宮崎駿監督の「もののけ姫」は空前のヒットとなり、北野武監督の「HANA-BI」は、このほどベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得した。

すばらしい作品と出会え、かけがえのない1年になった。映画にかけてきた情熱とエッセンスを今夜は生の音楽で表現してみたい。”

久石譲

 

 

PIANO STORIES ’97 CINEMA WORKS JOE HISAISHI -Ensemble Night-

[公演期間]21 PIANO STORIES ’97
1997/10/02 – 1997/11/01

[公演回数]
10公演
10/2 長野・長野県県民文化会館中ホール
10/6 新潟・新潟テルサ
10/15 横浜・関内ホール
10/17 島根・島根県民ホール
10/19 広島・広島国際会議場フェニックスホール
10/24 栃木・鹿沼市民文化ホール
10/25 東京・ゆうぽうと簡易保険ホール
10/29 大阪・シアター・ドラマシティ
10/31 名古屋・名古屋市民会館中ホール
11/1 兵庫・神戸新聞松方ホール

[編成]
ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:後藤勇一郎
ヴァイオリン:杉浦清美
ヴィオラ:桑野聖
チェロ:近藤浩志
コントラバス:斉藤順
木管:吉田治
パーカッション:福島優美

[曲目]
MKWAJU
TIRA-RIN
Modern Strings

アシタカせっ記 (映画『もののけ姫』より)
もののけ姫
アシタカとサン

Two of Us (映画『ふたり』より)
Tango X.T.C (映画『はるか、ノスタルジィ』より)

Sonatine (映画『ソナチネ』より)
Silent Love (映画『あの夏、いちばん静かな海。』より)
HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
Kids Return (映画『キッズ・リターン』より)

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song

—–アンコール—–
風のとおり道(Piano & Violin) (映画『となりのトトロ』より)
Parasite EVE (映画『パラサイト・イヴ』より)
Madness

 

 

 

【楽曲解説】 Ensemble Night Program

MKWAJUより
I. MKWAJU
IV. TIRA-RIN
Modern Strings
オープニングはアルバム「MKWAJU」(ムクワジュ)からの2曲。アフリカの多重的なリズムを取り入れ、その構造を”見せる”かのような仕上がりが特徴的だ。ミニマル・ミュージックの面白さも味わえるのが聴きどころ。ストリングスのカッティングが耳に残る「Modern Strings」はソロ・アルバム『I am』(1991)から。

アシタカせっ記
もののけ姫
アシタカとサン
ここでは、今年7月に公開され空前の大ヒットとなった宮崎駿監督の『もののけ姫』から3曲を演奏する。日本を舞台に繰り広げられる”一大冒険時代活劇”を彩るサウンド・トラックは、広大なスケールとその深いメロディ・ラインが印象的。冒頭で響くメロディはメインテーマの「アシタカせっ記」。おなじみの挿入歌「もののけ姫」、そしてラストシーンでは「アシタカとサン」のピアノの音色が感動的なストーリーをしめくくる。今回のスタイルでは、コンサート初演。

Two of Us
Tango X.T.C.
この2曲は、大林宣彦監督作品からの選曲。「Tango X.T.C.(エクスタシー)」(映画『はるか、ノスタルジィ』より)、「Two of Us」(映画『ふたり』より)は、いずれもソロ・アルバム『My Lost City』(1992)に収録されている。

Silent Love
Sonatine
HABNA-BI
Kids Return
『あの夏、いちばん静かな海。』『Sonatine』『Kids Return』そして来年公開の『HANA-BI』と、久石さんは北野武監督作品の話題作も担当した。「Silent Love」は、『あの夏、いちばん静かな海。』の主人公ふたりの”無音の世界”を包みこむような神秘的なサウンドが印象深い。コンサートでは「Kids Return」とともにストリングスなどで演奏され、人気が高いナンバーでもある。スリリングなメロディラインが耳に残る「Sonatine」は、今回のアンサンブルのスタイルでは初演。今年9月に開催されたベネチア国際映画祭でのグランプリ受賞作品「HANA-BI」は、来年の映画公開とサントラ発売に先がけてのタイムリーな初演。

794BDH
Les Aventuriers
Asian Dream Song
「Les Aventuriers」は昨年リリースのソロ・アルバム『PIANO STORIES II ~ The Wind of Life』から。ストリングス、木管、パーカッションによるアンサンブルが斬新なサウンドを聴かせてくれる。アコースティク・インストの魅力を充分に堪能できる構成。
「Asian Dream Song」は来年の長野パラリンピック冬季競技大会のテーマソングのインスト・バージョン。

(【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

コンサート会場で販売されたこの公式パンフレットには、楽曲解説のほか小池聰行(オリコン社長)寄贈文なども収録されています。さらには映画『もののけ姫』の音楽レコーディング記が、レコーディング・スタジオの写真風景とともに記されています。

 

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このあたりの記録は、『もののけ姫は、こうして生まれた。』(DVD)にも収録されています。

 

 

もうひとつの特集は、『WORKS I』のロンドン・レコーディング日誌です。

Blog. 久石譲 「WORKS・I」 レコーディング日誌 (1997 コンサート・パンフレットより)

 

 

この時期の久石譲コンサートのスタイルは、ピアノ・ソロ、アンサンブル、オーケストラ、バンドなど、とてもバラエティに富んだ構成を循環していました。あらためてパンフレットを振り返って、「Silent Love」「Sonatine」の本公演構成での、アコースティック・アンサンブルは今となっては貴重ですね。

シンセサイザー基調のオリジナル版、オーケストラ・シンフォニーとして昇華した「WORKS・I」、そしてコンサートのみで披露されていたアンサンブル・バージョン。

楽曲解説を見ても、「HANA-BI」が当時公開前でのお披露目だったんです。とても新鮮な感覚で聴いていたということになります。1990年代後半を象徴するコンサートスタイルとその内容です。

パンフレットをパラパラめくっていたら、アンコールで披露された楽曲をメモしていました。懐かしい。でも、どの会場で聴いたんだろう、と思いながら。

 

 

久石譲 97 コンサート 3

久石譲 97 コンサート 2

久石譲 97 コンサート 1

 

Blog. 宮崎駿 × 久石譲 対談(1996)コンサート・パンフレットより

Posted on 2015/9/14

1996年の宮崎駿×久石譲 対談より。

1996年開催「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Life」オーケストラ、アンサンブル、ピアノソロ、という3編成にて、3ヶ月間にわたって全国で開催されたコンサート・ツアーです。

Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」 コンサート・パンフレットより

 

同じパンフレット内での対談になります。

1996年というと映画「もののけ姫」(1997)の公開前年にあたり、イメージアルバムが完成した段階の頃です。この対談では「もののけ姫」の話というよりも、「となりのトトロ」制作当時の話や、その他ざっくばらんな内容になっています。

 

 

対談:宮崎駿 × 久石譲

音楽が映像を生かし、映像が音楽を生かした。
名作は、観る人すべでの心にしみて、送り手たちのもとを離れながら
いつまでも、いつまでも生きつづける。

久石:
はじめにお会いしたのは「風の谷のナウシカ」のときで83年ですから、もう13年も前ですね。以来、何本かやらせてもらってますけど、当時から宮崎さんのお仕事のスタンスって、基本的に変わらないですね。

宮崎:
そう、制作しながらなかなか結末が見えない。シナリオを作らないのは僕の悪いクセなんですよ。

久石:
最初お会いしたときも阿佐ヶ谷の仕事部屋に背景になるセルが張ってあって、で、宮崎さんはいきなり夢中になって説明をはじめて、僕はまだなにも把握してないんで、ハッ、ハッ、って言いながら全部聞いてる。それはもう、毎回同じ(笑)。

宮崎:
シナリオがないからこういう感じの世界ですって説明するしかないんですよね。本当ならアニメーションの場合は、とにかく絵コンテを全部揃えて、さぁこれを作るぞってみんなに示して、そこから準備期間がはじまるわけなんです。ある作業の段階を完結させてから次のステップにいくほうがたぶん生産性もいいし混乱もないでしょうけど、そうはいかないんですよね。

久石:
それはありますね。僕のケースだと、曲が全部書き終わってアレンジも決まって、それからレコーディングをスタートするのが理想なんですけど、たいがい1、2曲しか決まってないままワッと始めるんで、やりながら右往左往してるって感じです。その段階で僕が一番大切にすることは、”モノを作るときに視点がずれないように作りたい”ということなんですよね。日本では、アクションものの中にホームドラマ的要素が入ったりして、変わってしまうような映画やドラマが多いと思いますが、それだと本当の意味のリアリティがなくなっちゃうと思うわけです。だから音楽は絶対にそうならないようにしようと思っています。その場合、全体が見えないと5倍か10倍苦しむ感じがします。

宮崎:
ましてやこっちの方向でいいだろうと思ってレールを敷いて、方向を間違えてたらこれは深刻だしね。だからこの方向で間違ってないかどうかってのは、日々さいなまれながらやってますよね。


久石:
「もののけ姫」のイメージアルバムを作ったんですが、いつもなら考えるのに1ヶ月、制作に1ヶ月だったのが、今年のアタマから考えて実際に3月からレコーディングに入って6月までかかってしまった。今の自分が提供できる音楽的なラインはこれだろうと決めて、日本的な要素などを考えながら視点がずれないように音楽を作っていくと、5、6曲まではすぐいけますが、残りが非常に厳しいんです。

宮崎:
それは、僕が思うにCDなんぞができたせいですね。つまりね、音楽を作るっていうのと、CDの容量と関係あるでしょ。

久石:
ええ、大いにありますね。

宮崎:
だからみんなレコード時代よりも量的にいっぱい作んなきゃいけないでしょ。漫画でいうと、週刊で描いてる人がホントにのめり込むとね、それでパーになっちゃう。眠くならないアンプル飲んで5日間寝ないで描いたっていうんですね。これはね、才能の”大根おろし状態”というかね、そういう感覚になるんじゃないかなと思いますね。

久石:
CDだと1枚の収録時間が今はもう70分くらいですし。このままDVDになったら、音だけならものすごい容量ですからね。

宮崎:
そんなもん作ったら死んじまうんじゃない? どんどん多消費になって、そのことがホントにいろんな人の才能を脅かしてるって思うんですね。

久石:
だからそういうものに使われちゃわないで、いろんなアイデア出すしかないんですね。たとえばDVDがコンピューターとうまく連動できるならば、素材の音をそのまま全部入れてしまってユーザーが自分でミックスできるとか、映像の方でも未編集のものを入れておいて、これは監督の考えた編集、あなたはあなたの編集で映画を作ってください、というように。みんないろいろ新しい手を考えるでしょうね。


久石:
今年ずいぶん宮崎さんの本を読ませてもらったんですが、「時代の風音」という対談集では司馬遼太郎さん、堀田善衛さんとお話されてましたね。

宮崎:
ええ。司馬さんと堀田さんってぜんぜん違う人なんですよ。堀田さんは、日本人という視点からじゃなくて人間とか歴史とかいう視点で世界を見ていて、その中で日本も見ている。でも司馬さんという人は逆に、日本人であるというところから世界を眺める。徹底的に日本人であろうとすることにこだわってきた人です。

久石:
僕がふっと思ったのは堀田さんと司馬さんと宮崎さん、どなたも私小説と縁のない人だなってことです。日本の文学ってどうしても私小説がメインで始まっているじゃないですか。そういう意味でいうと堀田さん、司馬さんの作品に日本的な私小説の感覚はないし、宮崎さんの作品も私小説じゃない。もしかしたら僕のやってる音楽もあんまり私小説的な世界にこだわってないな、と思ったんです。

宮崎:
音楽をそういうふうに見る努力を僕はぜんぜんしてないから、音楽に関して言葉がないですね。

久石:
でも言葉といえば音楽って抽象的すぎて、音で何か言いたいと思っても無理ですよね。僕のようにピアノだとか弦だとか、インストゥルメンタルでやっている人間が、たとえばこの時代に対して僕の意見を言いたいと思ったら、ベートーヴェンのように1時間ぐらいの作品を書かなきゃならない。でも、それはエンターテイメントやポップスというフィールドから逸脱して、芸術家の方にいってしまう。それは僕のフィールドとは違うと思ったときに、インストゥルメンタルで音楽をやっていくことにすごく限界を感じますね。

宮崎:
仕事に関していうなら、僕は自分たちの仕事を駄菓子屋の商売だと決めてるんです。それはどういうことかというと、子供に一瞬”買い食い”の楽しみを与えられればそれでいいんだということです。ただ、駄菓子屋といってもいろんなものがある。売れりゃなんでもいいんだって、いいかげんな色素とか保存料とかじゃかじゃかつっこんで作っちゃうんじゃなくて、とにかく”駄菓子屋として一生懸命作りました”という駄菓子屋です。そういうことじゃなくて、名の通った、うまくはないんだけどすごいんだっていう和菓子を作りたいのなら、この場所は違うって思うんですね。

宮崎:
若いときはもう少し青くさく、「この映画さえできれば世の中変わる」なんて本気で思ってましたけどね、出来上がってみると何も変わらないんですよ。そういうときに自分たちのつっかえ棒はなんだろうと考えたら、この仕事の過程で自分たちがどれだけのことを手に入れたかってことくらい。メッセージを伝えるために映画を作るんだったら、書きゃいいんですもんね。

久石:
あっ、そうですね。

宮崎:
久石さんもそうでしょうけど、インタビューなんかでね”この作品のメッセージはなんですか”なんて聞かれるでしょ、黙って見てくれとしか言いようがないですよね。つまんなかったら途中で帰っていいし。もし少しでも心にひっかかることがあったら、それはなんだろうと感じたり、ときどき思い出してみてくれたらいいわけで。「テーマは? メッセージは? どこが見どころですか?」って言うけど、見どころ以外のとこは見どころじゃないのかって(笑)。

久石:
どんなことを思って作られましたか、というたぐいの質問は僕もよく受けますけど、言葉で説明するんじゃなくて、音楽を聴いてわかってもらいたいですね。

宮崎:
「紅の豚」のときね、お金もいっぱいかけちゃったし、罪ほろぼしにキャンペーンに協力しますって、日本全国を歩いたんです。そうすると1日に何回も、「なぜ主人公は豚なんですか?」「いつも空を飛ぶんですね」って聞かれるんで(笑)、だんだんハラがたってきてみんな違う答えをしたりしてね。

久石:
ハハハハッ! 大きなお世話ですよね。


久石:
「となりのトトロ」では、”トトロ”が登場するシーンで7拍子の音楽から音を抜いたことがありましたね。宮崎さんが「ここもう少し音うすくなりませんか」とか「少なくなりませんか」とかおっしゃって。僕もなんだかちょっと、”too much”だと感じてて、あのときにそれを指摘する宮崎さんて、すさまじいなあと思いました。

宮崎:
いやいや、久石さんの技術ですよ。久石さんがあの機械がいっぱいならんでる部屋にすわって、「音を1個ずつ抜きましょう」って、ひとつおきに抜いたんでしたね。それでトトロが現れてくる絵にあわせたら、余韻があって不思議にピッタリだった。こんなこともあるんだって思いましたよね。

久石:
あのとき、いったんは”音楽なし”ってことになったのが、ミーティングの翌日に電話をいただいて、まだ悩んでいらしたんですよね。やっぱり音楽を考えてほしいって。でも入れない可能性もあるけどいいですか、とおっしゃってた。それだけすごく難しいシーンでしたね。

宮崎:
トトロでは、打合せのとき確か”子供たちが歌ってくれる歌をぜひ作りたい”って話をしたんでしたね。

久石:
ええ。実は「さんぽ」は教科書に載るようになったんですよ。僕の唯一の、子供公認曲です(笑)。

宮崎:
それはすごいなぁ。この前ね、僕が時々行く山小屋の近くで「ラピュタ」の映画会をやった人たちがいるんですよ。最後に「君をのせて」の大合唱になって主催者が感動してました。おまけに蛍が飛んできたりして!

久石:
うれしいですねぇ。僕は、自分の子供が小さい時期にギンギンの現代音楽をやっていて、3、4歳の自分の子を見ながらアイデアが出る一番重要なときに子供の曲を作れなかったんです。それを今でもすごく後悔してるんですけど、トトロをやらせてもらったことで、その世界の仕事を残せたことが特にうれしいんです。

宮崎:
子供のいい歌が作られて残っていくというのはいいことですよね。

久石:
はい。ぜひ「もののけ姫」もいいものにしたいです。その制作がピークのときに、こうしてお話させていただいて、今日は本当にありがとうございました。

(PIANO STORIES II ~The Wind of Life 1996 コンサート・パンフレットより)

 

 

Related page:

 

 

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Blog. 「久石譲 PIANO STORIES II Part.1-3」(1996)コンサート・パンフレットより

Poated on 2015/9/13

久石譲の過去のコンサートから

「久石譲 PIANO STORIES II ~The Wind of Lie」
Part.1 Orchestra Night (2公演)
Part.2 Ensemble Night (7公演)
Part.3 Piano Solo Night (11公演)

なんとこの1996年は、当時最新作ソロアルバム『PIANO STORIES II』を引き下げ、上のように3タイプでのコンサートが精力的に開催されました。オーケストラ編成、アンサンブル編成、ピアノ・ソロ、しかもこれが10-12月という3ヶ月間のなかで、怒涛のように全国で開催されていたわけで伝説的です。

演奏プログラムもそれぞれの編成を活かした当時の久石メロディー満載のラインナップです。当時は小ホールもそうですが、短大や学園祭でも演奏していたんですね。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/10/14-15

[公演回数]
2公演 Bunkamuraオーチャードホール(東京)

[編成]
ピアノ:久石譲
指揮:金洪才
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
タスマニア物語

『My Lost City』より
1920
冬の夢
Madness

『もののけ姫』より
アシタカせっ記
シシ神の森

DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Highlander
Kids Return
Asian Dream Song

【Melody Fair】
魔女の宅急便
「水の旅人」より FOR YOU
「水の旅人」より THEME

—–アンコール—–
Two of Us
「ナウシカ組曲」より 鳥の人

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/11/1-22

[公演回数]
全国7公演
11/1 長野県民文化会館中ホール(長野)
11/9 山口芸術短期大学(山口)
11/15 赤坂BLITZ(東京)
11/20 シアタードラマシティ(大阪)
11/21 草津文化芸術会館(滋賀)
11/22 関内ホール(横浜)

11/3 国立音楽大学講堂大ホール [国立音楽大学芸術祭]

[編成]
ピアノ:久石譲
String Quartet
Contra Bass
Marimba
Wood Wind

[曲目]
794BDH
Venus

『MKWAJU』より
MKWAJU
SHAK SHAK
LEMORE
TIRA-RIN

Tango X.T.C
Modern Strings

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends<ピアノソロ>
Angel Springs
Kids Return
Highlander
Les Aventuriers
Asian Dream Song

DA・MA・SHI・絵

—–アンコール—–
君だけを見ていた<ピアノソロ>
Madness

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

[公演期間]20 PIANO STORIES II
1996/12/10-27

[公演回数]
全国11公演
12/10 柏崎市民会館(新潟)
12/11 砺波市文化会館(富山)
12/12 松本市文化会館(長野)
12/14 パナソニック・グローブ座(東京)
12/15 パナソニック・グローブ座(東京)
12/16 仙台電力ホール(仙台)
12/19 米子市文化ホール(鳥取)
12/21 広島アステールプラザ(広島)
12/24 中野市民会館(長野)
12/26 しらかわホール(名古屋)
12/27 いずみホール(大阪)

[編成]
ピアノ:久石譲

[曲目]
The Inners
Dream
君だけを見ていた

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
Friends
Angel Springs
Kids Return (MIDI)

Fantasia for Nausicaä
Drifting in the City

Cape Hotel
Tango X.T.C
※東京公演のみゲスト。
2曲差し替え<ゲスト:茂木大輔(Oboe)>
Two of Us
DA・MA・SHI・絵

『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』より
The Wind of Life
Les Aventuriers (MIDI)
Asian Dream Song (MIDI)

—–アンコール—–
風のとおり道
Labyrinth of Eden

 

 

この伝説的コンサートを紐解くべく、当時会場で販売されたコンサート・パンフレットから、いくつかご紹介していきます。

 

 

【message】
-これは、まるでトライアスロンのような、
刺激的で、かつ知的な『久石譲の世界』だ。
”Orchestra Night 〈10月〉”
”Ensemble Night 〈11月〉”
”Piano Solo Night 〈12月〉”
漕いで、泳いで、そして走る。
エネルギーをそそいだパワフルなステージから
”最高の音楽”を演出していく、音楽の”トライアスロン”そのものなのである。

10月は『DA・MA・SHI・絵』の初演など、シンフォニックなサウンドで贅沢な響きを、11月ではミニマルを中心とした前衛的なアンサンブルで斬新なステージ構成を、12月はじっくりと落ち着いた雰囲気を醸し出すピアノ・ソロ。それぞれに個性的な表情が新鮮だ。

あの『Piano Stories』のリリースから8年。新譜『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』で、再び”原点”であるピアノに戻った久石譲が、ピアノとストリングスによる”良質”のアコースティック・インストゥルメンタルを提案している。

新作・初演に、これまで親しまれてきた曲を加えた、その1曲1曲が、ポップでアヴァンギャルドなアレンジメント・センスによって、限りなくピュアなメロディを創り出していく。

 

【楽曲解説】

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 1 Orchestra Night

■オープニングを飾る”タスマニア物語”は映画「タスマニア物語」(降旗康男監督)のメインテーマ。3拍子のリズムによって醸し出される雄大なスケール感が印象的。

■1920年代、”アール・デコ”の時代にインスピレーションを得たアルバム「My Lost City」(1992)からは”1920” ”冬の夢” ”Madness”の3曲。シンフォニック・コンサートにおいてもたびたびプログラムに取り上げられ、その美しいメロディと重厚なオーケストレーションの響きがみごとな統一感を出している。

■「もののけ姫」は1997年夏に公開予定の宮崎駿監督作品。公開に先がけてすでにイメージアルバムが発売されており、コンサートでは初演となる。”アシタカせっ記”(メインテーマ)他が演奏される予定。-「もののけ姫」は日本にとどまらず、これから世紀末を迎える、世界中のすべての人々に向けて創られるものだと思う。その音楽を手がけることになって、いま一番考えていることは、日本人としてのアイデンティティーをどう保ち、どう表現するかということである。映画の公開まで、宮崎監督との豪速球のキャッチボールが続きそうだ。「もののけ姫 イメージアルバム」より

■アルバム「α-BET-CITY」に収録されている”DA・MA・SHI・絵”はオーケストラ・バージョンでは初演となる。サンプリングを使用したミニマル的な原曲を再構成、弦・管楽器の広がりのある響きと爽快なリズムのコンビネーションが小気味良さを生み出している。

■今秋10月下旬発売予定の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」より、5曲演奏される。オーケストラでの演奏はもちろん初演。”Friends”はトヨタ「クラウンマジェスタ」CMで、”Angel Springs”はサントリーウイスキー「山崎」CMで、それぞれなじみ深いメロディとなっている。また”Kids Return”は今年7月に公開された北野武監督の最新作「Kids Return」のメインテーマ。”Asian Dream Song”は、久石譲が総合プロデューサーを務める「長野パラリンピック冬季競技大会」(1998年開催)の大会テーマ曲として作曲された。

■Melody Fairでは、これまでに発表された数多くの作品の中から印象的なメロディ3曲を取り上げる。久石譲の魅力を再認識させてくれるような曲ばかりである。”魔女の宅急便”は1989年宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」のテーマ曲。「水の旅人」(1993年公開/大林宣彦監督作品「水の旅人 ~侍Kids~」)はオーケストラとピアノによって、よりシンフォニックに再現されたスケールの大きい作品。”THEME”は文字通り、この映画のメインテーマ、”FOR YOU”はエンディングで中山美穂が歌って話題になったが、インストとしてもとても美しい曲。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 2 Ensembles Night

■オープニングの”794BDH”はマツダ「ファミリア4WD」CM曲。後にCM曲を集めたアルバム「CURVED MUSIC」に収録。”Sonatine”は1993年公開の北野武監督の話題作「Sonatine」メインテーマ。スリリングなメロディラインが印象的。”Modern Strings”はアルバム「I am」(1991)の中でも、ストリングスの裏アップ・ビートのカッティングが耳に残る、過激な作品。センチメンタルなタンゴの響きが懐かしい”Tango X.T.C.”は1992年のソロアルバム「My Lost City」に収録。

■『MKWAJU(ムクワジュ)』と題したこのコーナーでは、1981年にリリースされたアルバム「MKWAJU」から4曲演奏される。パーカッション・グループ、ムクワジュ・アンサンブルのために書かれたこの組曲は、アフリカの民族音がうから得た音型をもとに、アフリカのリズムが持っている多重的なリズム要素を、構造として”見せる”ことを目的として作曲した作品。ミニマル・ミュージックのおもしろさも味わえる。

■この秋の新譜「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」は、ピアノ&ストリングスの編成を中心としたアコースティック・インスト・アルバム。このコンサートでは、久石譲のプロデュース&アレンジによるストリングス、木管等のアンサンブルが、斬新なサウンドを聴かせてくれる。『アンサンブルの魅力』を充分に堪能できる構成となっている。

■”DA・MA・SHI・絵”はアルバム「α-BET-CITY」の中の1曲。原曲は、ミニマル的なサンプリングによる弦楽器、管楽器の響きが心地よい、オーケストラ的な広がりを持つ作品。

 

 

PIANO STORIES II 〜The Wind of Life〜 Part 3 Piano Solo Night

Part 3 Piano Solo Nightでは、これまでリリースしてきた代表的なアルバムの中からセレクトした曲を、ピアノソロそして、ピアノプレーヤーとのジョイントによる演奏で構成していく。「MKWAJU」「I am」「PIANO STORIES」「PIANO STORIES II ~The Wind of Life」等は、いずれも、その音のイメージひとつひとつが吟味され表現されたアルバム。久石譲の感性が光るメロディ・ラインが、独自のピアノ・ワールドを創り上げる。

■ピアノプレーヤーとの”協演”
〈ピアノ・ソロ・ナイト〉で独自の世界を表現するのは、一人と一台の織りなす美しいハーモニー。ピアノプレーヤーがひとつのテーマを繰り返し、そこに生で演奏されるピアノが絡んでゆく。”久石ワールド”が2台のピアノによって紡ぎ出される。

「ピアノプレーヤーは、人間の可能性をより拡大するシステム。たとえば同じテーマを、ずっと同じテンポで弾くという、難しい部分を担当させています」 -久石譲

(【message】【楽曲解説】 ~コンサート・パンフレットより)

 

 

楽曲解説からもわかるとおり、コンサート編成に合わせて楽曲を再構成するという、久石譲のスタンスの土台がつくられていった、そんな時代のような気もします。

これがのちの、オーケストラ作品であれば「WORKSシリーズ」「ミニマリズム・シリーズ」、アンサンブル作品であれば、「PIANO STORIESシリーズ」や「Shoot The Violist」など。

現在からこの20年近く前を振り返れば、簡単にそう言い表せてしまうのですが、やはり久石譲音楽活動において、コンサートというのは作品になる前段階もふくめた、重要な実験の場、創作活動の源、楽曲が成長していく場のような気がしてきます。

作品化されるまでに5年以上経過するものも常ですが、コンサートで披露(しかも幾度にわたって)された作品たちは、これからもいつか作品化されていくのではないか、と。。。

たとえば、「DA・MA・SHI・絵」。オリジナルが「α-BET-CITY」(1985)に収録されているわけですが、この1996年にオーケストラ初演されてから、その後も数々のコンサートで取り上げられてきて、オーケストラバージョンとしてCD作品化されたのは「ミニマリズム」(2009)。なんと13年という月日が流れています。

アンサンブル・バージョンもおそらくこのツアーあたりが原型だと思うのですが、コンサート演奏、修正・改訂を重ね、CD作品化されたのは…「Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~」(2000)。

久石譲の音楽と歩んでいくというのは、そういうことなんじゃないかと、そんな心境で当時のパンフレットを見返していました。久石譲のエネルギーが四方に爆発し、かつそれを収拾つけるかのように多種多彩な創作活動と演奏活動。そんな当時40代の走りつづける久石譲を感じます。

 

 

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Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

Posted on 2015/9/10

クラシックプレミアム第44巻は、ヤナーチェクとバルトークです。

いろいよ終盤は近代に突入しています。

 

【収録曲】
ヤナーチェク
《シンフォニエッタ》
クラウディオ・アバド指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1987年

バルトーク
管弦楽のための協奏曲 Sz.116
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
シカゴ交響楽団
録音/1980年

《ルーマニア民俗舞曲》 Sz.68
エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1964年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」 ルポルダージュ
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015 リハーサルを取材

今号では久石譲によるエッセイ(音楽講義?)はお休みです。

ルポルタージュとして、8月に開催されたW.D.O.コンサートの、クラシックプレミアム編集部によるルポルタージュとなっています。前年(W.D.O. 2014)のルポルタージュにつづき今年も。うれしい限りです。

こちら ⇒ Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 クラシックプレミアム編集部 ルポルタージュ

ルポルタージュでは、普段わからない舞台裏が垣間見れることが一番です。2日間のリハーサル風景や、楽曲が仕上がっていく過程が、たっぷりと語られています。今年はどんな舞台裏だったのでしょうか。

 

 

昨年に続いて、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のコンサートが8月に開催。今年は8年ぶりの全国ツアーで、大阪(8月5日)を皮切りに、広島(6日)、東京(8日・9日)、名古屋(12日)、仙台(13日)をめぐる。そのリハーサル(3日・4日)のようすを編集部が取材した。

今回の「ワールド・ドリーム・オーケストラ」のプログラムは、久石さんが昨年から構想を練り、ぎりぎりまで検討したプログラムだという。それは戦後70年の大きな節目の年に行う「ワールド・ドリーム・オーケストラ」に、特別の想いを込めていることの表れなのだろう。その結果、すべて自作品で構成され、その大半が世界初演だ。ツアーでめぐる都市に広島や仙台があることからも想いの強さが伺える。

挨拶をしようとリハーサル直前の楽屋に向かう。中へ招じられるとそこには楽譜に向かって集中している久石さんの背中が見えた。気安く声をかけられるような雰囲気ではない。が、一瞬の後、くるりと振り向くと笑顔だ。

 

【15時 リハーサル開始 セッション①】

演奏会は2部構成で、第1部は、久石さんのピアノとチューブラー・ベルと弦楽合奏による《祈りのうた》に始まり、4楽章からなる交響作品《The End of The World》、続けて1962年に発表されたスタンダードナンバー《The End of the World》(邦題「この世の果てまで」)を久石さんが再構成した作品で終わる。

リハーサルの最初は大曲《The End of The World》第1楽章だ(リハーサルでは曲の楽器の編成等で演奏の順を決める)。その冒頭から久石さんの指示が飛びリズムの刻み方のこまかいニュアンスを伝えていく。このリズムは曲全体を覆うことになる重要なモティーフなのだ。指示される前と後の演奏を比べると、アクセントの置き方の微妙な違いで、これほど表情が変わるのかと驚く。巨大な音の魂が押し寄せてくるような楽章だ。この《The End of The World》の原曲は、2008年、久石さんが「9.11」に衝撃を受けて作曲した作品なのだ。

第2楽章は、中東風のメロディーを歌うチェロのソロとティンパニの応答で始まる。濃厚でエキゾティックな香り。やがてアルト・サクソフォーンのソロでジャズ風の展開となり、オーケストラ全体がスウィングしてくる。それを先導して久石さん自身がスウィングしている。身体全体からリズムが溢れているようだ。16時15分に休憩。

 

【16時35分~17時45分 セッション②】

久石さんのピアノとオーケストラによる《紅の豚》から始まる。これは第2部で演奏される曲。そしてテレビCMで聴きなれた《Dream More》。メロディーは聴きなれた曲だが、久石さんの新たな書き下ろしによる豊饒な響きのオーケストラ作品になっている。速い分散和音の繰り返しを異なる楽器で分けて受け持つという離れ業を聴かせる。それが楽器を変えながらメロディーを支えていくのだが、ぴたりとリズムが合う時の爽快感は格別だ。1時間の食事休憩。

 

【18時45分~19時45分 セッション③】

ここからオーケストラに混声合唱とカウンターテナーが加わる。《Symphonic Poem “NAUSICCÄ” 2015》は、映画『風の谷のナウシカ』の音楽を演奏会用の作品として発表してきたもののいわば集大成ともいえる交響詩。演奏会では第2部の冒頭に演奏される。破壊と再生の叙事詩が、レクイエムのディエス・イレ(怒りの日)や壮大なフーガ、低弦が唸る不気味な音、清澄な女声合唱などで綴られていく。そして《The End of The World》の第3楽章。カウンターテナーの高橋淳さんの深く強靭な声が印象的だ。

 

【20時~21時 セッション④】

引き続き、オーケストラと混声合唱とカウンターテナー。《The End of The World》の壮大な第4楽章。次いで久石さん再構成版《The End of the World》で、オーケストラと混声合唱にカウンターテナーという珍しい組み合わせなのだが、心に強く訴えてくるものがある。そしてこの日の最後に《祈りのうた》。久石さんのピアノとチューブラー・ベルの応答に弦楽合奏が加わる静謐な音楽だ。今回の演奏会が、この曲から始まる意味は大きい。

 

翌日の4日のリハーサルにも顔を出した。前日と同じ《The End of The World》の第1楽章から始まる。するとオーケストラの音がまったく違う。音は厚く豊かになり、複雑なリズムもソリッドになっている。たった1日のリハーサルでここまで仕上がるのかと驚く。休憩時に垣間見た久石さんの表情も高揚したなかに確信がみなぎっていた。21時までリハーサルが続き、そのまま大阪入りするのだという。いよいよツアーが始まる。

(クラシックプレミアム 第44巻 より)

 

 

2日間にわたる濃厚なリハーサルだったようです。2日間ぶっ通しではあるものの、2日間で仕上げる集中力は、久石譲も新日本フィルも、さすがはプロだなと感嘆します。

さて、今年2015年の一大イベントとなった「W.D.O.2015」ですが、コンサート・レポートや、公式パンフレット内久石譲インタビューなど、興味のある方はそちらもぜひご覧ください。

そしてその歴史の1ページを刻んだコンサートの、WOWOW放送も日にちが迫ってきました。

 

WDO2015 Related page:

 

久石譲 コンサート 2015 W

 

クラシックプレミアム 44 ヤナーチェク バルトーク

 

Blog. 「かぐや姫の物語をつくる」ドキュメンタリーより 久石譲音楽制作軌跡

Posted on 2015/9/5

2013年公開 映画『かぐや姫の物語』スタジオジブリ作品宮崎駿監督の全作品を手がけた久石譲が、初めて高畑勲監督とタッグを組むことになった作品です。

 

2013年12月6日 22:00-【前編】
2013年12月13日 22:00-【後編】
WOWOW ドキュメンタリー番組 ノンフィクションW
「高畑勲、「かぐや姫の物語」をつくる。 ジブリ第7スタジオ、933日の伝説」

 

この番組にて映画制作現場が特集放送されました。そして、2014年12月には、映像を大幅に付け加えて再編集した新しい作品として『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』がブルーレイ/DVD化されています。

タイトルの「第7スタジオ」は、今作のために新設されたスタジオ、「933日」は、現場にカメラが入った2011年5月5日から公開日までの日数です。その2年半にわたる制作過程がなんと200分にも及ぶドキュメンタリーとなっています。

WOWOW放送時にはあまり登場しなかった久石譲も、この映像作品では計40分以上特集されているところがポイントです。

この映画に関わった多くの関係者が登場します。そしてリアルな現場、ものごとが決まる瞬間、白熱したバトルなど、、いろいろな貴重な映像が収められています。映画『かぐや姫の物語』を深く読み解くうえで、その密着取材は渾身の記録だと思います。そんな歴史を刻んだドキュメンタリー映像から、久石譲に焦点をあててご紹介していきます。

 

 

【音楽:久石譲になるまで】 (チャプター:二〇一三年 一月)

かぐや姫の物語 933 1

高畑:
「悪人」の音楽は成功したと思っている。(以後、その説明)そういうものを要求するんだったら、新しい境地を拓くことができると思う。ドドーンとひとつやってくださいというね。

僕は久石さんについては、同じジブリでやってるのにね、宮さんとのコンビが確立されている以上、久石一色にするのはあまり良くないんじゃないか、やっぱりどんなに優れていてもコンビがあるなら違うほうがいいんじゃないかなって思うんだよね。ジブリにとってもそうじゃないかなって。

スタッフ:
そこで選択肢がせばまるのはあまりよくないんじゃないかと…

高畑:
難しいんですよ

 

悩んだ末、2012年暮れ久石譲に音楽をお願いすること決断、2013年1月4日、スタジオジブリにて高畑勲と久石譲の最初の打ち合わせ。

かぐや姫の物語 933 2

ここで挨拶と、映画『悪人』での音楽の話、そして『かぐや姫の物語』でどういう音楽が必要かという話など。

イメージをつかむためにその時点で出来ている映像を試写。(主に予告編で使われていたシーンなど)試写後の談話中、ここで「天人の音楽」の構想が高畑勲監督から飛び出す。

かぐや姫の物語 933 3

補足)
このエピソードに関しては数多くのインタビューでも久石譲から語られています。興味のある方はご参照ください。

 

打ち合わせ後、高畑勲監督は映画『風立ちぬ』制作現場の宮崎駿監督を訪ね、「久石さんに音楽をお願いすることにしました」と一言伝える。

このあたりがお二人の監督の親密な関係性と、かつ尊重と礼儀を重んじると感じる瞬間でした。

かぐや姫の物語 933 4

 

劇中でかぐや姫で琴を奏でるシーンは、音に絵を合わせる必要があるため、まずはその楽曲からの音楽制作および収録という流れに。

高畑監督のオーダーは、古い中国楽器「古琴(こきん)」で、それよりも新しい「古箏(こそう)」とどちらなのかなど確認する電話場面も。ただ「古琴」で実際に録音しようとすると困難や制約も多く、一般の人も知らないので音は「古箏」を使ってもいいのではと高畑監督。

そして楽曲収録。

「古箏」を使うことになったが、金属の弦を使った古箏では音が響きすぎることが問題に。タオルを数箇所につめ残響を減らす効果や、演奏用爪を外し、音を柔らかく近づける。

そういった試行錯誤から実際の楽曲録音までが一部始終収録されているかなり貴重なレコーディング風景、まさにその瞬間をとらえた内容です。

かぐや姫の物語 933 5

かぐや姫の物語 933 6

ここまで約20分間

 

【音楽:久石譲】 (チャプター:同)

最初の打ち合わせから半年、再び音楽打ち合わせが始まる。

ピアノスケッチをもとに、実際このシーンにどうかなと想定した場面にデモ音源を流していく。すべての楽曲が貴重なピアノスケッチであるということ、そして制作過程なので、実際に映画では使用されなかった、そんな幻の楽曲も登場します。

例えば、都にやってきたかぐや姫がうれしさのあまりはしゃぐシーン。当初、かぐや姫の感情の高ぶりを軽快な音楽で表現したピアノスケッチが流れます。

これに対して高畑監督は、「この子が喜んでる感じもほしいけれど、同時にそれを外から見ている感じがあったほうが…多分ふさわしいんだろうなって。運命というか一体どうなるのかなという感じがつきまとったほうがいいなと。この子に(音楽を)付けないで。その方が必要なんだという感じがしてたんです。」と。

これをうけてその場ですぐ久石譲が、準備してきたものからチョイスした別の楽曲(ピアノスケッチ)をあててみます。満場一致でその楽曲に決定する瞬間が収められています。

かぐや姫の物語 933 7

かぐや姫の物語 933 8

 

映画終盤、かぐや姫と幼なじみ捨丸が再会し飛翔するシーン。

このシーンにつける音楽がとりわけ難航します。

久石譲の事務所スタジオに高畑監督やプロデューサーが訪ねて、打ち合わせや映像と音楽を合わせながら検討するという場面です。

久石譲の心臓部ともいえる事務所スタジオが登場するのもかなり希少です。どんな部屋模様なのか、どんな機材が設けられているのか、はたまた本棚に並んでいる本は、壁に飾ってある額は、そんなところにまでつい目をこらしてしまいます。 (余談でした)

ここでは最終形であるオーケストラを想定して、ピアノスケッチで決定した楽曲素材たちが、シンセサイザーによる肉付け、アレンジされたデモ音源となっています。少しですがそういったシンセ版かぐや姫の音源も聴くことができるシーンです。

 

この密着取材シーンはキャプチャはおやすみするとして、そのやりとりが忠実に再現されている小冊子「熱風」での久石譲インタビューから。このエピソードにおける制作過程の四苦八苦、長時間に及ぶ紆余曲折とその結末、久石譲自身によって語られています。

 

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(中略)高畑さんに事務所まで来てもらったんです。そのとき、7時間半かけて全曲手直ししてやっと見えたので心底ほっとしました。そして、「ちょっとここは後で直して欲しい」という曲があったので翌日直しを送ったんです。そしたら、その翌日の夜11時に高畑さんが飛んで来て「やっぱりあそこの音楽は、ああ言っちゃいましたけどほかの曲か前に出ているテーマのほうが」って(笑)。

「来たーー!」って、「おとといの7時間半はなんだったんだ」って。ゼロからつくり直しですよ、そのときだけは、さすがに僕もムッとしましたね(笑)。ただあのときは、高畑さんも作画チェックを全部やっていて、効果音もまだ決まっていない状態で、監督って基本的に決定することが一日に何百ってあるんです。そのすさまじい量をこなしていた最中でしたから。一番大変な時期だったのではないかなと思います。
Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より 抜粋)
////////////////////////////////////////////

 

この対談でも語られていました。よっぽど印象的な音楽制作エピソードとなったのでしょう。

//////////////////////////////////////////////
高畑:
むしろ難しかったのは、捨丸とかぐや姫が再会する場面の曲です。それまで出てくる生きる喜びのテーマより、もうひとつ別のテーマが必要だと思ったんです。命を燃やすことの象徴として男女の結びつきを描いているので、幼少期の生きる喜びのテーマとは違う喜びがそこに必要ではないかと。それで別のテーマを依頼して書いていただいたのですが、やっぱり違うと思ってしまった。それで元に戻って、再び生きる喜びのテーマをここで高鳴らした方がいいと久石さんにお伝えしたら「最初からそう言ってましたよ」って(笑)。

久石:
直後に天人の音楽という今までの流れとはまったく違うテーマが出てきますからね。捨丸との再会シーンで切り口を替えちゃうと、ちょっと過剰になるんじゃないかという印象を持っていました。それで元通りでいきましょうということになったら、逆にものすごい勢いの曲が生まれましたよね。
Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)
////////////////////////////////////////////

たしかに久石譲は”最初からそう言っていた”ことが、このドキュメンタリー映像で記録として証拠として残っていたりします。

 

ドキュメンタリーからかいつまんで経緯を説明すると、

このシーンに思い入れの強かった高畑勲監督は、制作期間を経るにつけて、ここには既成の主要テーマ曲からの変奏ではなく、新しいメロディーが必要だ、このシーンのためだけのラブテーマがほしいとオーダー。

それをうけて久石譲はこれまで当てていた仮音源から、新しい楽曲をつくることに。

数日後。

久石:
47 48(飛翔の曲)非常に困ってまして。というのは、新曲を書こうということにこの前なったんですが…。ラブテーマ的な要素もあるという話もあったんだけれど…僕はちょっと、かぐや姫は捨丸を好きだったんだけれど、恋愛対象と思ってたのかどうか…自分のすごくいい時だった象徴として捨丸がいるとすると、何か泣かせてもあまり意味ないねという感じになっちゃうと…じゃあ楽しくてかつていい時代だったら、前の”歓びの音楽”の延長にも近くなってくる…。その辺を高畑監督と相談してから書いたほうがいいんじゃないかと。

ここで久石譲が迷いながらも提案した音楽は、新たなメロディで感情の高ぶりを表すのではなく、場面全体を包み込むような音楽だったようです。

(ここでの幻の楽曲たちは流れません)

それからまた数日が経過し、楽曲の直しを聴いた高畑監督は、前回糸口が見えたはずの音楽にまた違和感を覚えてしまう。

要は包みこむような音楽だとムードミュージックになってしまって、やはりここには湧き立つようなメロディが必要だと、考えが二転三転して……。

この後、久石譲のもとへ直接お詫びと話をしに行ったようです。「直接行って話をしないと悪いでしょう。いろいろな意味で。」と深くつぶやく監督。

 

2013年10月8日 音楽レコーディング風景

かぐや姫の物語 933 9

かぐや姫の物語 933 10

東京交響楽団によるホール録音の模様から、上述「飛翔」シーンの音楽レコーディングを1曲まるまる聴くことができます。

ナレーション:
物語の前半、里山での暮らしの豊かさを表す音楽、久石が奏でたのはそれをアレンジしたメロディだった。幼いかぐや姫がなにげない日常のなかで抱いていた幸福感、クライマックスの”生きる喜び”につながった。

ここまで約20分間

 

最後に、2013年10月30日初号試写の模様が収められています。久石譲も同席した初号試写では、試写後のふたりの会話も少し収録されています。

高畑:
聴いてても本当によかった。何回聴いてもいいですから。

久石:
共同でやってるから。

と笑顔で握手をかわす二人の巨匠。

かぐや姫の物語 933 11

 

スタジオジブリ映画は、最新作公開ごとに、ドキュメンタリーも制作され、TV放送などもされていますが、ここまで久石譲にスポットを当てて、かつ記録として公開(作品化)されたのは、映画『もののけ姫』のドキュメンタリー以来ではないかというくらいの充実ぶりです。

宮崎駿監督との全10作品でも、このくらい久石譲音楽制作現場が映像記録として見ることができると、ファンとしてはありがたい限りなのですが。ドキュメント・フィルムは残っているとは思うのですが、世に出ることはないのでしょうね、残念です。

とはいえ、このドキュメンタリー映像作品は、このように久石譲音楽が誕生するまでの軌跡が刻まれています。

世に送り出された完成品がすべて、多くを語らず、それでももちろよいとは思うのです。でもこのような制作過程や記録を見ると、やはり完成版の作品への受け止め方や聴き方がかわってきます。記録として残すにふさわしい、残されるべき、そんな映画『かぐや姫の物語』にまつわるドキュメンタリーでした。このドキュメンタリー映像の活字版ともいえる、久石譲インタビューや高畑勲監督との対談も下記ご参照ください。

 

 

『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』

【チャプター】

  • この映画は声から始まった
  • 十四年の理由
  • 天才と職人と演出家
  • 高畑勲という現場
  • 二〇一二年 十二月
  • 二〇一三年 一月  (久石譲登場)
  • 主題歌、二階堂和美
  • プロデューサー、西村義明
  • 映画監督、宮崎駿
  • 音楽、久石譲  (久石譲登場)
  • 二〇一三年 十月  (久石譲登場)

 

 

Related Page:

 

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。 DVD

高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。

 

Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 43 ~ラヴェル~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/8/31

クラシックプレミアム第43巻は、ラヴェルです。

 

【収録曲】
ピアノ協奏曲 ト長調
サンソン・フランソワ(ピアノ)
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音/1959年

《亡き王女のためのパヴァーヌ》
《水の戯れ》
サンソン・フランソワ(ピアノ)
録音/1967年

《ラ・ヴァルス》
《ボレロ》
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音/1961年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第42回は、
和音が音楽にもたらしたもの

まだまだ深い音楽講義はつづきます。ラストスパートといったところでしょうか。今回は和音の歴史について。

一部抜粋してご紹介します。

話の展開上、なかなか一部抜粋が難しい内容でしたため、今回はほぼ網羅しています予めご了承ください。

 

「クラウディオ・モンテヴェルディというイタリアの作曲家がいる。16~17世紀にかけて活躍した人なのだが、現代でも比較的演奏される機会があり、歴史上重要な作曲家の1人だと僕は思っている。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者でもあった。この楽器は16~18世紀によく使われた楽器で、擦弦楽器である。ヴァイオリンを鈍くしたような音色で、風情がありヨーロッパの大理石の壁に馴染む音、と言ったら多少イメージを感じてもらえるだろうか。ただ弾き方はチェロのように縦にかまえるのでヴァイオリン属とは全く別系列であると言われている。以前、中国映画でこの楽器を使ってスタジオで録音したが(なんで中国映画にヴィオラ・ダ・ガンバか? という疑問を感じる方もいると思われるが、長くなるので説明は省略)、音が小さくすぐピッチが悪くなるので、演奏よりもチューニングに時間がかかった記憶がある。だが、間違いなくヴァイオリンと同一視するべきではないと思った。」

「それはさておき、1607年、モンテヴェルディのオペラ《オルフェオ》が初演された。もちろんギリシャ神話のあのオルフェオとエウリディーチェの話である。このオペラは今も取り上げられることはあるので、是非観てほしいのだが、その中に〈天上のバラ〉というアリアがある。主人公オルフェオが愛する妻エウリディーチェを讃える喜びのアリアである。一聴してすぐわかるのは、ここでは明確なメロディーラインとそれを伴奏するハープなどの和音がしっかりあることだ。つまりポリフォニー音楽のような横に動くモティーフがいくつか組み合わされるのではなく、一つのメロディーを和音が伴奏するといった形態で、当時としてはそれまでにない音楽だった。もちろん彼が創始したのではない。大勢の作曲家がその時代に同じ方法を採用していたのは言うまでもない。」

「ハーモニー(ホモフォニー)音楽の時代が到来したのである。構造はいたって簡単、明確な旋律にわかりやすい歌詞、それを器楽奏者が伴奏するのだから(モノディ様式というらしい)、聴き手にとっても理解しやすい。僕はDVDで観たのだが、音楽が輝いており、屈折してなく、音楽の可能性を心から信じていた時代だったと思われる。DVD自体は当然近年に撮影されたものなのだが、オーケストラ・ピットの奏者が当時を思わせる服装で演奏していて、何かとても華やいだ気分になれた。いつか演奏してみたいと思ったのだが、《オルフェオ》では作曲家の各声部への楽器指定が徹底しており(その前は即興的に集まった奏者が演奏することが多かった)、そういう意味では最初の本格的にオーケストレーションされた作品だったかもしれない。」

「このホモフォニー音楽の意味は横に動く各声部の関係よりも、和音自体の進行が音楽をリードしていくことにある。その約束事は16世紀に確立された機能和声である。ドとソの表の5度とドと下のファの裏の5度が重要だと前に書いたが、この倍音からできたトライアングルが機能和声でも重要になる。それぞれの音を基音とした三和音(根音の3度上と5度上の音)の進行が音楽を決定する。」

「その①I-V-I(ド-ソ-ド)。これは学校などの朝礼で起立、礼、着席というときによく使う和音進行である。あれ?今の時代そんなことをする学校はあるのだろうか? まあいいや、次、その②I-IV-I(ド-ファ-ド)。これは教会などで最後にアーメンという時に使う和音進行で別名アーメン終止とも言われている。その③I-IV-V-I(ド-ファ-ソ-ド)。これは今の時代のポップスやジャズを含めた調性音楽の大半を占めている和音進行と言っても過言ではない。もちろんそれぞれの代理和音があるのでもっと複雑だが、考え方(基本)は同じだ。」

「そしてその要は長音階と短音階である。ポリフォニー音楽の時代に主流だった旋法はほぼこの長・短音階に集約され、機能和声は生まれた。この長音階と短音階からできる三和音をよく見ると構成音のうちドとソは同じである。違いは真ん中の3度の音ミである。このミがそのままか、半音下がるミ♭(フラット)かで、和音の性格がまるで変わる。長三和音と短三和音というのだが、身近にある楽器で弾いてみていただきたい。ドミソは明るい、そしてドミ♭ソは暗い。これに異論のある方は…かなり個性的であると僕は認定します(笑)。」

「ここで重要なのは音楽に感情が持ち込まれたということである。明るい、暗いと感じる和音が音楽の発展とともに、歓喜を表現したり、暗い悲しみを表現できるようになる。バロック、古典派、ロマン派、そして後期ロマン派時代へと時空を経るにつけ、音楽はよりエモーショナルなものへと変貌していき、機能和声自体がもはや機能しなくなるのだが、今はまだそれに言及しない。さて最後に具体的な話、ミが329Hz、ミの♭が311Hzでその差はわずか18Hz!この差が音楽を大きく変えたのだ。」

 

 

クラシックプレミアム 43 ラヴェル

 

Blog. 「クラシック プレミアム クラシック プレミアム 42 ~マーラー~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2015/8/23

クラシックプレミアム第42巻は、マーラーです。

マーラーを引用した久石譲インタビューは過去にもありますが、とりわけ本号収録の「交響曲 第5番 嬰ハ短調」については、映画『ベニスに死す』の考察とともに論じているものがあります。

 

Blog. 久石譲 「日本経済新聞 入門講座 音楽と映像の微妙な関係 全4回連載」(2010年) 内容紹介

 

 

【収録曲】
交響曲 第5番 嬰ハ短調
レナード・バーンスタイン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1987年(ライヴ)

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第41回は、
ハーモニーのための革命的方法論 - 平均律

ここ数号エッセイと思って読んだら火傷するようなとても難しい音楽講義がつづいています。理解するには何回も読まないと、もしくは理解できない、そんなことも実際多いのですが。

でもこういった音楽理論を知るということは、その作曲家がこのようなバックボーンをふまえて、自分の作品をどう作り上げているのか。音楽理論や音楽上のルールというのは、創作活動のきっかけとなる発着点になったり、いい意味での制約をもうけることになるからです。

これは久石譲における音楽創作活動においてもそうです。過去のコンサートパンフレットなどの楽曲解説や、最新のオリジナル・アルバム『ミニマリズム2』においても、そういったことを垣間見ることができます。

いかに理論・ルール・制約のうえで、独創的で新しい音楽を生みだすか。これは作曲家にとって永遠のテーマなのだと思います。そういった思考の発展ができたらおもしろいと思います。

一部抜粋してご紹介します。

 

「ポリフォニー音楽というのは複数の独立した声部で成り立っているのだが、旋律に対して別の旋律を付ける場合、そこには約束事がある。その約束事(技法)を対位法という。もちろん前回書いたとおり最初に理論があったわけではなく後付け、あるいは同時進行的に決め事とされていくのだが、ノエル=ギャロン、マルセル・ビッチュ共著の『対位法』(矢代秋雄訳)によれば、「旋律線、およびそれ等の累積に関する学問である。それは音楽を水平次元より考察する。これに対し、音楽を垂直次元より考察するのが和声法であり…」などと書いてある。」

「目が点になるような言い回しなのだが、学術理論書なのだから仕方ない。音大生だった頃、独学でこの本を勉強したのだが、なぜか授業を受けた記憶がない。授業があったのかどうか? あまり真面目な学生ではなかったから単にサボっただけなのかもしれないのだが。」

「今日の我々を取り巻く音楽、ポップスを含めてその大半が長音階と短音階でできている。それは1オクターヴに12の音があり、その数だけ、いや正確にいうとそれぞれの音の長音階と短音階の分だけ移調が可能である。つまりどの音からも同じ音階が得られる。このシステムはいつできたのか? 誰が1オクターヴを12に分けたのか? そんなこと気にならない方は、ここから先は読まないほうががいいかもしれない(笑)。」

「一つの説は紀元前500年ほどの古代ギリシャ時代のピタゴラスが作った音律。これは仮にドの音を決め、そこから5度上のソの音を決める。これは整数比で2対3である。今度はそのソをまたドと読み替えて5度上の音を決める。それを12回繰り返すと大本のドにほぼ戻る。もろん誤差は生じるのだが。おそらく弦を張り、軽く指で押さえながらよい音のするところ(前に書いた倍音)の整数比を求め、それを繰り返しながら数学として、あるいは自然科学として研究分析したものだと思われる。鍛冶屋の金槌からヒントを得たという説もあるがそれはどうだろうか? 金属はいろいろな雑音や複雑な共鳴をするため、その整数比を割り出すのはかなりの無理がある。この12音律は古代の中国にもすでにあったとされているので、根本は倍音の構造(構成音)を人類が探り当てていった結果だと僕は思っている。」

「この整数比で純正音程を求めていった結果できる音階が純正律である。ドとソが2対3、ドとファが3対4、ドとミが4対5というふうに、ある基準音を元に整数比で割り出した音律である。古い教会のオルガンなどがこの純正律なのだが、大変純粋な響きが得られるといわれている。が、問題がある。ある調にはよいのだが、他の調では基準音が違うため音程が変に聞こえる。いわゆる調子っぱずれなのだ。これでは転調や移調は困難だ。」

「それを解消したのが、今日我々が使っている12平均律という音律なのである。なんだか本当に難しくなってきたが「音楽の進化」を語るとき、どうしても通らねばならない、いわば関所のようなところである。もう少し辛抱をお願いする。」

「1オクターヴは整数比で1対2である。このことは前に書いた。今日の国際基準であるラの音は440Hzで、下のラの音は220Hzだから周波数の整数比は1対2である。オーケストラの演奏会に行くと楽団の人がオーボエに合わせて最初にチューニングする音である。実際には441または442Hzまで上がってきているのだが、それはやはりピッチが高いほど張りがあるというか輝かしいというか、抜けがよく聞こえるからではないかと思われる。」

「話を戻して、上のラの音(440Hz)から下のラの音(220Hz)を引くと220、つまり1オクターヴは220Hzということになる。これは12で割ることができない。先ほどの純正律はそれでも整数比でなんとか音程を選んだが、12の音すべてに誤差を設定することで12の音すべてを均一化したのが12平均律である。これによって転調や移調は自由になり音楽は飛躍的に表現力を増した。それは新しい音楽、ハーモニーの時代を支えた革命的な方法論だった。」

 

 

そういえば、本号巻末の「西洋音楽史 42」((岡田暁生:著)には、このようなことが書いてありました。

 

「私が思うに、音楽史の中で突出して格違いの存在は、バッハとモーツァルトとベートーヴェンである。おそらく多くの人々がこれには同意してくれるはずだ。ただし彼らが「別格」であるその根拠は、互いにかなり異なっていて、これが面白い。まずバッハ。よく音楽を感情表現だと誤解している人がいるが、「気持ち」だけでは絶対に曲など作れない。感情よりも前に、まず音の建築術ともいうべきものをマスターしていないことには、作曲家にはなれない。それはすなわち、きちんと調和するように音を組み合わせていく設計の技術の類である。バッハの作品はいわば、音楽という建物の作り方の百科全書である。作曲家の主観だの表現だのといったことと無関係なところで成立しているバッハの音楽は、その法則性や客観性の点で科学と近いという言い方をしてもいいだろう。その意味でバッハは人間的な世界を超越した存在であり、人類が死滅した後の地球にあってもなお響き続けるだろう音楽を書いた人とすら言えると思う。」

なにかつながるところがあります。

 

クラシックプレミアム 42 マーラー

 

Blog. 久石譲 「もののけ姫」インタビュー 劇場用パンフレットより

Posted on 2015/8/17

1997年公開 スタジオジブリ作品 宮崎駿監督
映画『もののけ姫』

2013年4月より創刊した「文春ジブリ文庫 ジブリの教科書シリーズ」。それぞれの映画作品を詳しく知るための解説本として、豪華執筆陣が深く作品の世界を解説しています。

そんな書き下ろしもあったり、過去のインタビュー掲載などの情報をまとめ、再編集しているのがこのシリーズです。映画公開前後の新聞や、関連本など、散らばった秘話たちを、作品ごとにまとめたものになります。

 

そのような企画ですので、もちろんそこには久石譲のインタビューも収められています。過去「ジブリの教科書 シリーズ」においては、映画公開と同年発売の「ロマンアルバム」という書籍での、久石譲音楽インタビューが再録されていることが多かったのですが、「ジブリの教科書10 もののけ姫」においては、「もののけ姫 ロマンアルバム」からではなく、「映画もののけ姫 劇場用パンフレット」からのインタビュー編集となっています。

ロマンアルバムでのインタビュー内容はこちら
⇒ Blog. 久石譲 「もののけ姫」 インタビュー ロマンアルバムより

 

同じようにこちらも1995-1997年音楽制作当時の貴重なインタビューになっています。

 

 

オーケストラをベースに非常に骨太な世界を望んだんです。

-まず、久石さんがこの作品について最初に宮崎監督からお話を伺った時に感じられた印象から伺いたいのですが。

久石:
「『なぜ今の時代に宮崎さんがこの作品を作るのか』という、作る重みをすごく感じました。あれだけの戦闘シーンや凄惨シーンを正面きって宮崎さんが描かれたのは初めてですしね。『二十一世紀にはもう夢も希望もないけれども、真剣に生きなければならない。とにかく今は現実を受け入れて、前向きに生きろ』という宮崎さんからの強いメッセージがこの作品の中にあるんじゃないかと思いました」

-そのような作品メッセージに対して、どのような音楽作りを考えられましたか?

久石:
「この映画の件で、初めて宮崎さんとお話した時に、直感的に今回、一番ベースになるのはオーケストラだろうと感じました。ですから二管編成の、六十六人によるオーケストラに、ほとんど全ての曲に入ってもらい、そこにエスニックな民族楽器と、隠し味的な電気楽器系をプラスするという形で作っていきました。こんなに大編成でやったのは、宮崎作品では初めてですよ。つまり非常に骨太の世界を望んだんです」

-今回、作品が日本を舞台にしているということで、音楽的にも日本的なものを取り入れたのでしょうか。

久石:
「自分にとって日本は非常に大切な要素だったので、もちろん積極的に取り入れました。ただ琵琶や尺八のように、その音がした瞬間に侍が出てきそうな音は極力引っ込めて、本当に音楽の骨格の中での日本的なものを相当意識して、五音音階と言いますか、西洋的なコード進行よりは、むしろアイルランド民謡に近い感じのものをベースに置きました」

-戦闘シーンの音楽作りについては。

久石:
「極力『これが戦闘シーンだ』というようなものは避けましたね。戦闘シーンの後で、そうならざるを得ないんだというような心境を歌うというような方向に考えて、レクイエムのように心情を表現するために音楽があるという考えを基本に作りました」

-この作品の音楽的構成についてはいかがですか。

久石:
「本当はワンテーマで押し切れれば良かったんですけど、二つのテーマ曲を要所要所にちりばめた形で構成しました」

-そのテーマ曲についてですが。

久石:
「一つは米良(美一)さんが歌った『もののけ姫』という曲から発生したバリエーションで、あの曲を器楽的に構成したものです」

-米良さんが歌われた曲はどういう風に作られたのですか。

久石:
「毎回、イメージアルバムを作る時に、作曲の手がかりになるような言葉を宮崎さんから頂くんです。その中の一つに、あの曲の詩のような言葉があったんです。宮崎さん本人は、きっと詩のつもりで書かれたわけではないと思うんですが、僕がこれは曲になるんじゃないかと思って、”歌”として仕上げたものです」

-もう一つのテーマ曲は。

久石:
「イメージアルバムの1曲目の『アシタカせっ記』という曲です。『幸せは来ないかもしれないけど、自分から生きろ』というような、のたうちまわっている登場人物たちを俯瞰して見ているような音楽として、映画の冒頭とラストに流れています。そうなると、この曲の方が本当のメインテーマとしての重みを持っていると僕は思いますね」

-最後に、ずっと宮崎監督の作品音楽を担当されてきて、久石さんがご覧になった宮崎監督の印象をお聞かせください。

久石:
「宮崎さんと僕の関係は、地方の大店の跡取り息子と、都会に出て遊んでいる次男坊という感じかな(笑)。僕にとっての宮崎さんという人は、自分の生き方の手本みたいな人。例えば僕は、綺麗な曲を書きたくて音楽をやっているわけじゃないんです。『じゃあなぜ曲を書いているのか』と考えた時に、宮崎さんの、自分はエンターテインメントであって、自分が作った映画を見おわった後に、何かちょっと残るものがあってほしいっていうスタンスは、ものを作る人間にとっての原点で、僕が常に曲を作りながら考えていることなんです。それを宮崎さんは作品の中に理想的な形で、実際に描かれているんです。

それともうひとつは、宮崎さんの人間としての生き方ですね。宮崎さんがいろんなところで発言されているものを読むと、この人は本当に世界を思い、日本を思い、自分を思い、あるいは自分の周りのジブリの若いスタッフを養うとか、いろんなことを抱え込んで、のたうち回っているのがよく分かるんですよね。それでいながら精神的には子供のままの純粋さを全然失っていない。そういう宮崎さんの姿を見ていると、『なるほど、こうやって生きる方法があるのか』と教えられたような気がするんです。」

(劇場用パンフレット(1997年) および ジブリの教科書10 もののけ姫 より)

 

 

2015年7月10日 発売

ジブリの教科書10『もののけ姫』 目次

ナビゲーター・福岡伸一
『もののけ姫』の生態史観

Part1
映画『もののけ姫』誕生
スタジオジブリ物語 未曾有の大作『もののけ姫』
鈴木敏夫 知恵と度胸の大博打! 未曾有の「もののけ」大作戦
宮崎 駿 荒ぶる神々と人間の戦い ~この映画の狙い~
宮崎 駿イメージボードコレクション

Part2
『もののけ姫』の制作現場
[原作・脚本・監督] 宮崎 駿
海外の記者が宮崎駿監督に問う、『もののけ姫』への四十四の質問
[作画監督] 安藤雅司
宮崎監督の隣で仕事がやれたというのは僕にとってとても勉強になりました。
[美術] 山本二三×田中直哉×武重洋二×黒田 聡×男鹿和雄
宮崎さんのイメージを絵にするのが僕らの仕事
[CG・撮影]
菅野嘉則×百瀬義行×片塰(かたあま)満則×井上雅史×奥井 敦
新技術(デジタル)の導入でセルアニメーションの表現法が広がった。
[音楽] 久石 譲
オーケストラをベースに、非常に骨太な世界を望んだんです。
出演者コメント
松田洋治(アシタカ)/石田ゆり子(サン)/田中裕子(エボシ)
小林 薫(ジコ坊)/西村雅彦(甲六)/上條恒彦(ゴンザ)
美輪明宏(モロ)/森 光子(ヒイさま)/森繁久彌(乙事主)
島本須美(トキ)/佐藤 允(タタリ神)/名古屋 章(牛飼い)
映画公開当時の掲載記事を再録!

from overseas
ニール・ゲイマン
フォルムを見て真の比類なき映画だと感じ、
ぜひ参加したいと 思ったのです。

Part3
作品の背景を読み解く
・viewpoint・宇野常寛
「生きろ。」と言われてウザいと感じた人のための『もののけ姫』の読み方
荻原規子 二人の女の板ばさみ
小松和彦 森の神殺しとその呪い 森をめぐる想像力の源泉をさぐる
永田 紅 生命力の輪郭からあふれ出たもの
小口雅史 北方の民=エミシ・エゾの世界の実像と『もののけ姫』
網野善彦 「自然」と「人間」、二つの聖地が衝突する悲劇
大塚英志『もののけ姫』解題

出典一覧
映画クレジット
宮崎 駿プロフィール

 

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ジブリの教科書10 もののけ姫