Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」日本経済新聞 レポート記事より

Posted on 2014/8/30

3年ぶりの復活コンサートとなった「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」。そのレポートが日本経済新聞 電子版に掲載されましたのでご紹介します。

 

 

2014年8月26日 日本経済新聞 電子版

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014 鎮魂美でる旋律美、悲しみと安らぎ宿る

スタジオジブリのアニメ映画の音楽などで知られる作曲家、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が3年ぶりに復活した。テーマは「鎮魂」。自ら指揮とピアノを担当し、美しい旋律を奏でる自作のほか、ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」なども演奏。深い悲しみと安らぎ、そして希望をもたらす公演を聴いた。

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思いだすだけで涙が出そうになる、そんなメロディーがある。長崎原爆の日にあたる8月9日、サントリーホール(東京・港)で開かれた「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014」。会場は若者や女性客を中心に満席だ。久石が音楽監督になって新日本フィルと2004年に立ち上げたプロジェクトだが、東日本大震災が起きた2011年を最後に公演を休止していた。3年ぶりの復活公演は「鎮魂の時」と銘打って久石が自作を中心に大管弦楽を鳴らす。終戦記念日が近づく夏、震災そして戦争の犠牲になったすべての人々の魂を鎮める願いが込められている。その音楽的魅力はもちろん、日本が世界に誇る久石譲作品の旋律美である。

この復活公演と並行して久石はもう一つ、新たなプロジェクトを立ち上げた。いわゆる現代音楽ではなく、自作を含む「現代の音楽」を幅広い層に聴いてもらうための「ミュージック・フューチャー」というコンサートだ。9月29日によみうち大手町ホール(東京・千代田)で第1回公演を開催する。この演奏会を毎秋の恒例にする考えだ。「音楽には古い新しいではなく良い悪いしかない」と久石は話す。「現代の音楽にも良いものがたくさんある。予備知識がなくても聴いて楽しんでほしい」。「弦楽四重奏第1番”Escher”」など2つの自作を世界初演するほか、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキ、ニコ・ミューリーの作品も披露する。「復活」と「始動」の2種類のコンサートで現代作曲家としての自らの真価を世界に問う。

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さて、まずは「復活」公演のほうだ。ワールド・ドリーム・オーケストラを指揮して久石が最初に鳴らしたのは、高畑勲監督のアニメ映画「かぐや姫の物語」のサントラを基にした自作「交響ファンタジー『かぐや姫の物語』」。これが世界初演だ。日本の祭りばやし風の楽想も登場する交響詩といった感じだ。ちなみに今回の公演で演奏された作品は久石の映画音楽が中心だが、その映画を全く見ていなくても音楽を十分に楽しむことができる。特定の映像を思い浮かべないほうが、音楽が生み出す世界を堪能できるとさえいえる。それだけ音楽自体が聴衆の心に直接働きかける力を持っているのだ。

2曲目から本公演のテーマである「鎮魂の時」に入る。ここから非常な衝撃と安らぎ、そして深い悲しみの音楽が続く。まずはポーランドの現代作曲家クシシュトフ・ペンデレツキの弦楽合奏曲「広島の犠牲者に捧げる哀歌」(1960年)。久石は指揮棒を持たずに指揮を始める。いきなり弦楽器群による不快極まりない不協和音がさく裂する。金切り声、悲鳴、金属的な摩擦音などを思わせるあわゆる音階による響き。ある範囲のすべての音を同時に発生させる「トーン・クラスター(房状和音)」と呼ぶ前衛手法だ。久石は指を1、2、3本と突き立てて指揮をする。旋律といえるものはない恐怖と悲鳴の音楽を、反復の回数を示すように指揮しているのだろう。不協和音は約8分続いた。

拍手をする隙もない。続けてすぐにバッハの「G線上のアリア」が始まった。ペンデレツキの曲とは打って変わって優しさと安らぎに満ちた穏やかな旋律が流れ出す。「ペンデレツキとバッハを続けて演奏する。この2曲のつなぎに最も趣向を凝らした」と久石は指揮者として語る。世界の終わりを思わせる衝撃的なトーン・クラスターの後に、鎮魂のメロディーがいつ果てるともなく流れ続ける。久石は映画音楽のイメージが強いが、国立音楽大学作曲科に在学中から現代音楽を熱心に研究していた。自ら図形楽譜を用いて前衛的な作品を書いていた時期もある。現代音楽を知り尽くした上で映画やドラマなどの「劇伴音楽」を作曲してきたのだ。しかし今は「現代音楽で既成の価値を壊す時代ではない。人々は破壊よりも安らぎを求めている」と言う。ペンデレツキの哀歌に続くバッハのアリアはこの言葉通りの演出だった。

バッハのアリアが消えるように終わったとき、久石は客席の方を向かなかった。拍手はない。聴き手も大変な衝撃と安らぎにあっけにとられたのか、全く拍手がない。そのまま久石は足早に退場する。拍手を辞退するそぶりだ。鎮魂の音楽なのである。確かにここで拍手はふさわしくない。満席の会場が静まりかえった。黙とうの時間、鎮魂の時だ。

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久石がステージに戻り、指揮台に上がった。再び指揮棒を握っている。鎮魂の時は続く。今度は自作だ。福澤克雄監督の映画「私は貝になりたい」のサントラを基にした「ヴァイオリンとオーケストラのための『私は貝になりたい』」が始まった。映画を見ていなくても、深い悲しみに包まれたワルツの旋律に胸をかき乱される人は多いだろう。どしてここまで切ない旋律を書くのか。コンサートマスターの豊嶋泰嗣が哀愁のバイオリン独奏を続ける。クラシック音楽のあらゆるバイオリン協奏曲のどんな旋律よりも悲しいと言ってもいいくらいの哀歌だ。これが、どうだろう、10分、15分と続いた気がする。

久石作品の美しい短調の旋律の音楽的ツールはどこにあるのだろう。似た曲調は確かにある。例えばニーノ・ロータの「太陽がいっぱい」の映画音楽。芥川也寸志の「八つ墓村~道行のテーマ」、大野雄二の「犬神家の一族」。菅野光亮の「砂の器~宿命」といった映画音楽も聞こえてくる。ドミートリー・ショスタコーヴィチの「セカンドワルツ」を思い起こすことも可能だろう。しかし悲しみの度合いはより一層強い気がする。どこまでも誠実に悲しみに向き合う気品のようなものが感じられるのだ。

日本の童謡や演歌、歌謡曲には短調の旋律が非常に多い。昔はみんなで長調の曲を歌っていると、いつのまにか短調に変わっていた、という話を年配者に聞いたことがある。小林秀雄は「モオツァルト」の中で短調の曲を取り上げている。モーツァルトの作品は圧倒的に長調が多いにもかかわらずだ。日本は短調のメロディー大国なのだろう。こうした環境の中から久石譲作品のような世界を泣かせる「美メロ」が生まれてくるのではなかろうか。

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ハンカチで目元を押さえる女性客が見受けられた。「鎮魂の時」は終わり、その後は「風立ちぬ」や「小さいおうち」などの映画音楽が続いた。久石はこの公演が自分の音楽世界のすべてだとは思っていない。「復活」と「始動」の2種類のプロジェクトのうち、半分の「始動」での「現代の音楽」は9月に明らかにされる。

ロータやショスタコーヴィチ、レナード・バーンスタインらは優れた映画音楽を書きながら、20世紀の「現代の音楽」を作曲した。彼らのようなメロディーメーカーは同時にクラシック音楽の巨匠でもあったのだ。指揮活動を通じて「ベートーベンの中に宝石がたくさんあると思うようになった」と久石は言う。今後の照準は定まっている。「古典とつながる現代の音楽を作っていきたい」と意気込む。今回の「復活」公演での美しい旋律と入念なオーケストレーションを聴いて、「始動」への期待も膨らんだ。

(編集委員 池上輝彦)

(日本経済新聞 2014年8月26日付 電子版 より)

 

Blog. 「クラシック プレミアム 16 ~オペラの時代1 アリア集~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/08/28

「クラシックプレミアム」第16巻は、オペラの時代1 アリア集 です。

第21巻がオペラの時代2 序曲・間奏曲集 として登場予定です。ロッシーニ、ヴェルディからビゼー、プッチーニまで、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて聴衆を熱狂させた名作オペラ。その極め付きのアリアを、パヴァロッティ、カレーラス、ドミンゴの3大テノールをはじめ、グルベローヴァやフレーニなど当代きっての名歌手たちの輝かしい歌声で。今号では収録された全16曲の各解説のみならず、歌詞対訳(イタリア語歌詞 / 日本語訳詞)がきれいに収められています。

 

【収録曲】
ヴェルディ
《リゴレット》より〈女心の歌〉
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
リッカルド・シャイー指揮 / ボローニャ市立歌劇場管弦楽団

《リゴレット》より〈慕わしい人の名は〉
エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)
ジュゼッペ・シノーポリ指揮 / サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団

《椿姫》より〈乾杯の歌〉
イレアナ・コトルバス(ソプラノ) / プラシド・ドミンゴ(テノール)
カルロス・クライバー指揮 / バイエルン国立管弦楽団 バイエルン国立歌劇場合唱団

《アイーダ》より〈清きアイーダ〉〈勝ちて帰れ〉
プラシド・ドミンゴ(テノール) / カーティア・リッチャレッリ(ソプラノ)
クラウディオ・アバド指揮 / ミラノ・スカラ座管弦楽団

ドニゼッティ
《愛の妙薬》より〈人知れぬ涙〉
ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール)
リチャード・ボニング指揮 / イギリス室内管弦楽団

ロッシーニ
《セビリャの理髪師》より〈私は町の何でも屋〉
ドミトリー・ホロストフスキー(バリトン)
イオン・マリン指揮 / フィルハーモニア管弦楽団

ビゼー
《カルメン》より〈ハバネラ〉〈花の歌〉
アグネス・バルツァ(メゾ・ソプラノ) / ホセ・カレーラス(テノール)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 / パリ・オペラ座合唱団

《真珠採り》より〈耳に残るは君の歌声〉
プラシド・ドミンゴ(テノール)
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 / ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

プッチーニ
《トスカ》より〈歌に生き、恋に生き〉〈星は光りぬ〉
ミレッラ・フレーニ(ソプラノ) / プラシド・ドミンゴ(テノール)
ジュゼッペ・シノーポリ指揮 / フィルハーモニア管弦楽団

《蝶々夫人》より〈ある晴れた日に〉
ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)
ジュゼッペ・シノーポリ指揮 / フィルハーモニア管弦楽団

《ジャンニ・スキッキ》より〈私のお父さん〉
ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)
ロベルト・アバド指揮 / フェニーチェ歌劇場管弦楽団

《トゥーランドット》より〈誰も寝てはならぬ〉
プラシド・ドミンゴ(テノール)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 / ウィーン国立歌劇場管弦楽団

ヴェルディ
《ナブッコ》より〈行け、わが思いよ、金色の翼に乗って〉
クラウディオ・アバド指揮 / ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第16回は、
「《広島の犠牲者に捧げる哀歌》を指揮する」

8月9日,10日開催コンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」での演奏曲目でもあるペンデレツキ:《広島の犠牲者に捧げる哀歌》。この現代音楽の譜面について、そして、W.D.O.コンサートで選曲された経緯など、読み応え満点です。

一部抜粋してご紹介します。

 

「1960年に書かれたこの曲はまあ図形楽譜と言っていいと思うけれど、特殊奏法満載の弦楽器のみで演奏される。音楽を伝える、ということでの楽譜として興味深いので、今回はこの曲を取り上げる。」

「冒頭から黒塗りの三角形印が各パートに現れ、それに線が右にずっと続いている。これは一番高い音をずっと弾き延ばすということだ。次に現代アートを思わせる図形が現れ(これが特殊奏法)打楽器のような音やおもちゃ箱をひっくり返したような変わった音がしたかと思うと、今度は黒く塗りつぶされた太めの線が現れ、突然たんこぶのように大きく盛り上がり、また線に戻っていく。弦の各パートがそれを繰り返すのだが、これはいわゆるトーン・クラスターといって、ある音域を半音の半分のピッチまですべて埋め尽くす不協和音の何とも強烈な音のする書き方なのだ。以後もずっと左向き三角形などが続いていて、視覚的に実におもしろいと思うが演奏するのは大変だ。ただ意外に音の指定ということではしっかり書いてあり、音価(音の長さ)に対しては不確定だが、後半にはそれも書いてあるところが出てくる。本人はそれを電子音楽の制作で学んだと言っている。僕は大学時代にその譜面の一部を観たことがあり、前衛的な書き方に大きく共感したが、いざ自分で演奏することになった今、少ないリハーサルで団員にいかに効率よく伝えるか、それと作曲家が振るということで、より高い解釈を求められるのではないか?などとどうでもいいことを考えてしまう。経験を積むということは良いことばかりではない。」

「この曲は8月に3年ぶりに新日本フィルハーモニー交響楽団と行う「ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)」で演奏することになっている。おかげさまでというべきかチケットは発売5分で2回分4000枚が完売したそうだ。ありがたいと思っている。だが同時に発売した9月のミュージック・フューチャー Vol.1は現代の音楽のせいか500の席が売り切れない。まことに観客は正直である。日本初演の曲も多く、まさに現代を知るには本当におもしろいと思うのだけれど……今日の音楽、未来につながる音楽を伝える道は厳しい。」

「話を戻して今年のW.D.O.はノルマンディー上陸70周年、来年は戦後70周年と、ともすれば忘れがちな戦争の傷跡をこの平和ボケした国で、そうしてまたまたきな臭くなってきたこの国で、もう一度しっかり考えたいということで鎮魂というテーマのコーナーを設けた。このコーナーでは他にバッハの《G線上のアリア》、僕の《私は貝になりたい》という曲を選んだ。その音楽的意図は強力な不協和音のペンデレツキから天国のようなバッハの曲に繋がるとき、どんな化学変化が起きるか?つまり曲の順番によってそれぞれの曲の意味が変わってくるのでそれがどうなるか?恣意的な目論みは全くないので実際のコンサートで体感することを楽しみにしている。他の曲はまあ自分の映画音楽が中心なので、交響曲を振るほど勉強しないでいいかと高をくくっていたのだが、この曲があるせいで何だか大変になってしまった。」

 

現代音楽の図形楽譜の話から、W.D.O.コンサートの構成とプログラム、はたまたチケット売れ行き状況の裏話まで。とても濃いエッセイ内容でした。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」に関しては、いろいろな情報をお伝えしていますので、BlogやInformationをご覧いただくか、検索窓で『W.D.O. 2014』などで検索してみてください。たくさんの記事がHitすると思います。

 

クラシックプレミアム16 オペラの時代

 

Blog. 「クラシック プレミアム 15 ~ベートーヴェン3~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/08/26

「クラシックプレミアム」第15巻は、ベートーヴェン3です。

第1号はベートーヴェン1にて、交響曲《第5番》 《第7番》 ほか、第9号はベートーヴェン2にて、交響曲《第3番》 《エグモント》ほか、収録されています。

今号に収められたピアノ協奏曲 第5番 《皇帝》。ベートーヴェンはこの作品において従来のピアノ協奏曲の概念を打ち破る新機軸を打ち出し、文字どおりピアノ協奏曲の歴史を大きく変えたと言われています。

それは雄大なるスケール感と色彩感が圧倒的であり、聴き手の度肝を抜く斬新な演奏手法も画期的、第1楽章を行進曲を思わせる逞しい作風とするなど、まさに新しい時代の幕開けを告げるかのように作曲された作品。

 

【収録曲】
ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73 《皇帝》
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
ホルスト・シュタイン指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1970年

ピアノ、ヴァイオリン、チェロのための三重協奏曲 ハ長調 作品56
マーク・ゼルツァー(ピアノ)
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ヨーヨー・マ(チェロ)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1979年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第15回は、「伝統か人口的かということ」

今号では、新しい中国映画の音楽を担当することになり、そのロケ地である上海から車で2時間くらいのことろにある烏鎮(ウーチン)を訪れた際のエピソードや思いを中心に書かれています。

人工的でありながら自然に近づけた町烏鎮、そこで暮らす人々のこと。バリ島のケチャダンス、「ラーマーヤナ」の歴史、伝統を発展させて今のケチャとなったエピソードなど、伝統を人工的でこそあれ継承していくことの背景やその意味。そういったことが今回の訪問先での出来事を織り交ぜて進みます。

一部抜粋してご紹介します。

 

「随分昔ではあるが、アフリカの中西部にあるマリ共和国に行ったときのことだ。ここでも伝統を人工的に作り替える試みがされていた。~中略~ マリの北部、中部、南部にはそれぞれ別の民族音楽があり、使われる楽器も異なっている。僕が会ったマリ大学の音楽教授はこの異なる3つの民族音楽を一つにしようと研究し、学生たちに楽器の改良や実際の演奏をさせていた。」

「僕はやや疑問を持って彼に質問した。「伝統はあるがままの方が良くないですか?」もちろん通訳を介してである。すると「いや、伝統は放っておいたらすぐに廃れます。誰も演奏も聴くこともしなくなります。時代に合わせながら3つの伝統芸能を一つにする。それがマリの生き残る道です。」」

「この言葉にはもう一つの意味がある。マリ共和国はフランス植民地時代を経て独立したのだが、その後ずっと内戦が続いている。長い軍事独裁体制や2012年の北部紛争など現在に至っても治安は悪化し続けている。21世紀は大同団結ではなく、違いを主張する時代だ。この国の中で、異なる伝統を一つにすることで国が一つになる手助けをしたい、彼にはおそらくその当時からそんな思いがあったのではないか。」

 

エッセイのなかには、こんなことも書かれていました。

「ガムラン、ケチャの発祥の地、バリ島のウブドゥは世界で最も好きな場所の一つである。だから《モンキー・フォレスト》という曲まで作っている(ケチャのことをモンキーダンスともいうことがある)。突然降りだす激しい雨は文字通りバケツをひっくり返したようであり、夜の闇は本当に漆黒なのである。食べ物はおいしく、人々の笑みには謎があり……まさにストレンジャー・ザン・ウブドゥなのだ。」

 

《モンキー・フォレスト》2006年発表作品『Asian X.T.C.』に収録されています。アジアをテーマにした壮大なコンセプトのソロ・アルバムです。同曲はまさしくミニマル・ミュージックとガムランのリズムが織り交ざった魅惑の曲。

思わずベートーヴェンを傍らに置いて、久しぶりに聴く『Asian X.T.C.』から「Monley Forest」に聴き入ってしまいました。ちょうど真夏のこの季節にもぴったりでしたね。

 

クラシックプレミアム 15 ベートーヴェン3

 

Blog. 「クラシック プレミアム 14 ~バッハ2~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/08/24

「クラシックプレミアム」第14巻は、バッハ2です。

第8巻のバッハ1では、《トッカータとフーガ》 《G線上のアリア》 《無伴奏チェロ組曲》などが収録されています。今号は、音楽による小宇宙を現出させたバッハの精緻な管弦楽作品となっています。古楽演奏の先駆者アーノンクールと後継者たるコープマンで聴くバッハ。

「古楽」とは、作品の再現にあたっては、作曲者が聴いていたように演奏するのがベストであるという考え方に基づく演奏です。音楽作品を演奏するに際して、作曲者自身が念頭におき、また実際に演奏していた楽器で、しかもその時代の演奏技法と演奏習慣に基いて演奏するという考え方です。

時代ごとに、音楽の在り方も、演奏楽器も、ピッチ(音の高さ)も、オーケストラの規模も、演奏法も異なっていたわけで、それをその作品時代の姿に忠実に再現しようとするのが「古楽音楽」です。

 

【収録曲】
管弦楽組曲
第2番 ロ短調 BWV.1067
第3番 ニ長調 BWV.1068

ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェルトゥス・ムジクス
録音/1966年

ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV.1050
トン・コープマン(チェンバロ、指揮)
アムステルダム・バロック管弦楽団
録音/1983年

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第14回は、
「演奏における自由度 -ジャズとクラシックの違い」

音楽の伝達方法としての譜面。前号はその究極の簡略された表記方法であるジャズのコードネームについてエッセイが進んでいました。

今回はそのコードネームの話から派生していき、ジャズとクラシックの違い、それぞれの約束事や自由度について。少し音楽をかじったことのある人ならわかる内容ですが、ちょっと長くて言葉だけでは難しいかもしれませんが、とても端的でわかりやすく書かれていましたので、一部抜粋してご紹介します。

 

「ジャズにおける簡略化された表記方法によって演奏者にはかなりの自由度が与えられる。例えばCというコードを弾く場合、構成音はド・ミ・ソなのだがどのような配置にするか音域にするかは奏者に委ねられる。もちろんド・ミ・ソを素直に弾くのはアマチュアでしかなく、プロのミュージシャンはそこに色々な音を加えていく。そのテンションコード(緊張感のある高い非和声を含む和音)や和音進行に伴うパッシングコード(経過的和音)のスリリングなやり取りがジャズの醍醐味である。」

「演奏者への自由度ということは実はクラシックでも重要だ。基本的には作曲者が書いた音符を演奏するのだが、そのまま音にしたのでは即物的でおもしろくない。その曲をどう聴衆に伝えるかということで解釈が生まれる。その解釈できる自由度がクラシックの醍醐味でもある。1時間を超すシンフォニーでも演奏頻度が多い場合は演奏者に余裕が生まれ解釈の範疇は広がる。日本における《第9》がそれに当たる。もちろん指揮者の意向も相当大きいが、直接音を出しているのは演奏者だからこの自由度は音楽を豊かにする。」

「またジャズとクラシックの大きな違い、あるいは特徴はその編成にも表れる。例えば四重奏(カルテット)で考えると、ジャズではリズム隊と呼ばれるドラム、ベース、ピアノにメロディー楽器としてサックス、あるいはトランペットなどが入る。この場合、どの奏者がどんなに好き勝手に激しく演奏しても各楽器の音色は聞き分けることができる。」

「他方、クラシックでの四重奏というと弦楽四重奏が最もスタンダードな編成である。~中略~ 大きな特徴は音色の均一化だ。2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという組み合わせは楽器の大小の違いはあるにせよ、同じ弦楽器で同質の響きを得られる。つまり音が混じるのである。そのため繊細なメロディーや微細なハーモニーの演奏でもお互い目まぐるしく入れ替わっても違和感はない。この自由度は大きい。」

「この混じらないが故の演奏の自由度と混じるが故の限定された表現の自由度が音楽を伝える上でのジャズとクラシックの差である。どちらがいいか良くないかという話ではない。それぞれ独自の表現があり、それ故の譜面上の自由度も違うのである。」

 

バッハの、規則正しい管弦楽組曲を聴きながらもあいまって、さながら音楽の授業のようです。

 

クラシックプレミアム 14 バッハ2

 

Blog. 「クラシック プレミアム 13 ~ブラームス1~」(CDマガジン) レビュー

Posted on 2014/08/23

「クラシックプレミアム」第13巻は、ブラームス1です。

クライバー指揮による奇跡の録音と称されているブラームス 交響曲第4番が収録されています。クライバーはこの録音に向けてほぼ1年間を費やして作品の研究に没頭したそうです。ブラームスの自筆譜を研究し、ただただブラームスと対話し、作品の全体から細部に至るまで吸収、咀嚼し、来るべき演奏と録音に対して、万全を尽くしていたそうです。

クライバー、交響曲のスタジオ録音第4弾にして、最後のスタジオ録音。ベートーヴェンの第5番、第7番、シューベルトの第3番と未完成に続く。

ブラームスは、知名度も高く完成までに22年を費やした第1番よりも、この「交響曲 第4番」が一番好きな自身の交響曲であると死の間際に伝えているとも。そんないろいろな作曲家と指揮者の思いや背景のつまったブラームス 交響曲 第4番 ホ短調 作品98 です。

 

【収録曲】
交響曲 第4番 ホ短調 作品98
カルロス・クライバー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1980年

《悲劇的序曲》 作品81
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1989年(ライヴ)

ハイドンの主題による変奏曲 作品56a
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1990年

 

 

巻末の音楽史では、前号での「バッハはお好き?」につづいて、さらに深く切り込んで「対位法の難しさ」について書かれています。

何度が読んでようやく理解できたような気がしますが、バッハが「音楽の父」と言われる所以や、偉大なフーガの名手であったこと、バッハの作曲技法の凄さが最も端的にあわられるのが対位法であること、そういったことがわかりやすく具体的に紹介されています。

ちなみに「対位法」の反対語は「和声的音楽」です。メロディーがあって、ハーモニーが伴奏する音楽。要するに今私たちが慣れ親しんでいるほぼすべての音楽です。

対位法の説明で、小学校の時に歌った「しずかな湖畔」の輪唱を例えにした解説がわかりやすかったです。同じメロディーが次々に等間隔で遅れて入ってきて、ぐるぐる回る。これはいわゆるカノンで、対位法の最も簡潔なかたち。そしてこれがもっともっと複雑になったものがフーガ。

カノンやフーガを書く難しさはここにあるんですね。一度そのメロディーと、入ってくる間隔を決めたら、変更してはならない。つまりどんどん旋律が重なりあったとしても、絶対に不協和音が生じてはいけない。

なるほど、そういうことか。

こう書かれています。

「バッハのフーガは、どれも神業のような小宇宙だ。まるで物理学の法則のように、法則から外れたことは何一つ生じず、それ自体で完璧に調和している。大小の無数の歯車が精巧にかみあわされて、一分の狂いもなく時を刻み続ける時計に似ているといえるかもしれない。」

なるほど。

こんなことも。

「モーツァルトにしても大バッハの作品を知ったのは晩年になってからであったが、この出会いは彼にとってとてつもない衝撃を与えたようである。モーツァルトの交響曲第41番《ジュピータ》の第4楽章は、バッハへの熱烈にてい壮大なオマージュである。ソナタ形式でできた楽章だが、その展開部、つまり真ん中のあたりで、長大なフーガになるのである。しかもこれは、バッハのような厳しいフーガではない。しなやかで生きる喜びに満ち溢れ、華やかで壮大でいて、機知に富み、ときめきで弾けるようなフーガ。これはモーツァルトとバッハの出会いから生まれた奇跡のような音楽である。」

ワーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー(名歌手)》というオペラでも、ルネサンス時代の舞台から、至る所に対位法的音楽を配置することで、古風で厳しい雰囲気を巧みに作り出している、ともありました。

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第13回は、「伝達方法としての譜面について」

「音楽を伝える」ということについて、直近のエッセイはつづいてきましたが、今回は譜面について書かれています。

一部抜粋してご紹介します。

 

「話を戻して、自由な即興ということではないが、作曲家が演奏者に委ねる枠のような表記方法がある。バロック時代の数字付き低音がそれである。これは主にチェロなどの低音楽器の音符に数字が書かれてあり、それに則ってチェンバロが和音を弾くのである。例えばドの音に5(書かない場合もある)とあれば下からドミソ、6とあればミソド、64とあればソドミということになる。これは便利な方法で譜面の簡略化に大きく貢献している。このような記号は和声学でも別の表記方法があるが、その究極はジャズのコードネームだと僕は思っている。」

 

クラシックの譜面にもいろいろな表記方法があるんですね。ギターなどにもタブ譜という表記方法があります。ジャズのコードネームとは、いわゆるC,D,Eなどのことでしょうか。現在ではポップス音楽含め、一般的な楽譜およびコード表記は、これが使われていますね。

 

クラシックプレミアム 13 ブラームス1

 

Blog. 「クラシック プレミアム 12 ~モーツァルト3~」(CDマガジン) レビュー

クラシックプレミアム 12 モーツァルト2

Posted on 2014/08/22

「クラシックプレミアム」第12巻は、モーツァルト3です。

第2巻では、モーツァルト1として《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》などを、第6巻では、モーツァルト2として3大交響曲の第39番・第40番・第41番を、そして今回は、最後のモーツァルト特集として、ピアノ・ソナタ集となっています。

 

【収録曲】
ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
録音/2010年

ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330
内田光子(ピアノ)
録音/1984年

ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331 《トルコ行進曲つき》
マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)
録音/1990年

 

 

巻末の岡田暁生さんによる西洋音楽史、今回もおもしろかったです。「バッハはお好き?」というタイトルで、バッハの音楽について、わかりやすい切り口で解説されています。

少し紹介しますと、

「そもそも音楽とは、まったく対照的な、二つの矛盾した顔を持つ芸術である。一方でそれは人の情念や本能に激しく訴えかける神秘的な魔術である。しかし他方で音楽は、数学に極めて似ている。抽象的な秩序であり、構造であり、最も科学的な芸術なのだ。実際、弦の長さの比率と音程の関係を発見したピタゴラスをはじめ、古代ギリシャにおいて音楽は一種の科学だと思われていた。また中国の古代思想のように、音楽を宇宙の構造の模像のように考える伝統も珍しくない。バッハの中には、こうした数学的な音楽感が、色濃く残っている。彼の作品、とりわけフーガの類は、音で組み立てられた一つの「小宇宙」であり、「世界」の構造の鳴り響くミニチュアなのである。」

「今日の私たちは、音楽といえば人間の自己表現であり、人間の楽しみであると思い込んでいる。だが忘れてはならない。その考え方の背後にあるのは、極めて近代的な人間中心主義である。これは長い歴史の中では比較的新しく出てきた音楽観であり、決して普遍的なものではないのだ。」

「周知のように、ほとんどすべての音楽の起源は、ほぼ例外なく宗教儀式である。音楽は神に奉納されるものだったのだ。相撲などと同じである。つまり音楽は神に楽しんでいただくものであり、人間が手をつけていいものなどではなかった。神の作った宇宙を褒め称えるための、その鳴り響くミニチュアであり、音楽で人間の感情を表現するなど冒瀆であった。」

 

おもしろいですね。こういう読みものとの出会いで少しずつ見識が広がっていきます。

 

 

「久石譲の音楽的日乗」第12回は、「神が降りてきた」

今号でのエッセイは、今年5月に開催された台湾でのクラシックコンサートの話題を絡めながら進みます。

「Joe Hisaishi Special Concert with Vienna State Opera Chorus」と題されたこの台湾コンサートでは、「風立ちぬ 第2組曲」などに加えて、ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125 「合唱付き」などが演奏されています。

さて、エッセイタイトルになっている「神が降りてきた」どういうことだったのでしょうか。一部抜粋してご紹介します。

 

「神が降りてきた。そう思える演奏を僕はまだしたことがなかったのだが、台湾での2日目の《第9》のコンサートで体験した。これも音楽を伝えるという重要なテーマの一つと考えるので今回はそのことを中心に書きたい。」

「その日会場の1800人の観客のほか、場外に大きなスクリーンを設置して入場できなかった人が観られるようにしたのだが、何と2万人が詰めかけて辺りは交通渋滞、警察の出動という事態になった。クラシックがメインのコンサートでは異例のことで、翌日新聞テレビなどで大きく報道された。そしてここが大事なのだが、ほとんど聞いたことがない《第9》を屋外で観ていた観客はしんと静まり返り、真剣に聴いていた。それを俯瞰すれば、音楽を創ったのは指揮者やオーケストラだけではなく、その場に居合わせた多くの観客を含めた特別な空間だ。民族学的な言いかたをすると「祝祭的空間」ということになる。その磁場のような場所だから、想像以上の力を発揮でき、より強い音楽を伝えることもできた。そのことを人は「神が降りてきた」という。」

「多くの現代の作曲家は《第9》がベートーヴェンの他のシンフォニーに比べ、第4楽章の「合唱付き」に違和感があり、全体のフォームを崩しているという。実際僕もそう思ってきたのだが、あの第4楽章を演奏しているとき、次々に訪れるシークエンスの勢いたるや凄まじく、言葉に言い尽くせないカタルシスがあった。理屈ではないのである。全体のフォームがどうのこうのと言っていること自体が意味をなさない。だとすれば、僕ら作曲家や音楽学者が言っている、音楽の善し悪しの基準は何なのか?音楽を伝えるとは何なのか?深く考えさせられたが、音楽漬けの1週間は本当に幸せだった。」

 

 

ぜひともその場に居合わせたかった、聴衆の一人でいたかった、と思わせてくれます。聴いてみたかった、体感してみたかったですね。

もともと論理的な久石譲だと思うのですが、そんな人でも、論理的な言葉を織り交ぜながらも、ここまで感情が表現された言葉たち。「神が降りてきた」という経験が、いかに説明しづらいものなのか、むしろ言葉で説明するには足らないものなのか、というのが少し垣間見れた気がします。

最後の言葉も印象的です。

「音楽の善し悪しの基準は何なのか?音楽を伝えるとは何なのか?」

永遠のテーマなのかもしれませんが、それを自分の言葉として言い現すことができたとき、何か音楽というものを俯瞰的につかんだ境地になるのではないかなあと思います。もちろん、作曲家も演奏家も、そして聴き手としても。

 

 

クラシックプレミアム 12 モーツァルト2

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 コンサート・パンフレットより

Posted on 2014/08/21

2014年開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」コンサートパンフレットより楽曲解説など。

 

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014

[公演期間]WDO 2014 表紙
2014/08/09,10

[公演回数]
2公演
東京・サントリーホール
東京・すみだトリフォニーホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バラライカ/マンドリン:青山忠
バヤン/アコーディオン:水野弘文(8/9) 大田智美(8/10)
ギター:千代正行

[曲目]
久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 *世界初演

[鎮魂の時]
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
バッハ:G線上のアリア
久石譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

—-intermission—-

久石譲:バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 *日本初演
久石譲:小さいおうち *世界初演

[Melodies]
久石譲:水の旅人
久石譲:Kiki’s Delivery Service for Orchestra *日本初演
久石譲:World Dreams

—アンコール—-
One Summer’s Day
風の谷のナウシカ

 

JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2014

【曲目解説】

1 交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 (世界初演)
『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』でプロデューサーを務めた高畑勲監督が、旧知の久石に初めてスコアを依頼した記念すべき作品。今回初演される曲は、本編の主要曲をかぐや姫の視点で繋げ、オーケストラ作品として書き改めたもの。木管が演奏する「なよたけのテーマ」と高畑監督が作曲した「わらべ唄」を対位法的に扱う〈はじまり〉の後、〈光り〉のセクションをはさみ、東洋的な曲想が特徴的な〈生きる喜び〉の音楽へ。その後、3拍子のピアノが〈春のめぐり〉の音楽を導入するが、曲想が一転し、前衛的な語法を用いた暗い〈絶望〉に変わる。再び木管が「なよたけのテーマ」を演奏すると、オーケストラが〈飛翔〉の音楽を高らかに演奏し、久石エスニックの真骨頂〈天人の音楽〉へと続く。最後の〈月〉では「なよたけのテーマ」「わらべ唄」など主要テーマが再現し、幕となる。

 

2 広島の犠牲者に捧げる哀歌
ポーランドの作曲家クシシュトフ・ペンデレツキ(1933-)が1960年に作曲した現代音楽の古典的名作。弦楽器がさまざまな音程を密集的に鳴らすトーン・クラスター(音塊)技法が特に有名で、指揮者用総譜ではパートが真っ黒に塗りつぶされている。もともとは演奏時間をそのまま曲名にした《哀歌、8分26秒》というタイトルが付けられていたが、実演を聴いた作曲者本人がトーン・クラスターの効果に衝撃を受け、何か特定の悲劇の犠牲者に曲を捧げたいと発案。当時ペンデレツキと親交のあった作曲家・松下眞一の助言を受け、広島の原爆犠牲者に曲を捧げたという逸話がある。

 

3 G線上のアリア
原曲はヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)がケーテンの宮廷楽長を務めていた時期に作曲した《管弦楽組曲》の第3番「エール(アリア)」。19世紀、ヴァイオリンのG線(第4線)だけで演奏できる編曲がなされたことから、《G線上のアリア》の名で親しまれるようになった。魂を浄化するような美しい旋律を持つゆえ、追悼行事などで演奏されることも多い。

 

4 ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」
太平洋戦争に従軍した心優しい理髪師・清水豊松が米軍捕虜殺害の容疑で逮捕され、BC級戦犯として死刑に処せられる不条理の悲劇を描いた、橋本忍脚本の4度目の映像化作品。曲の冒頭で独奏ヴァイオリンがワルツ主題を導入する〈メインテーマ〉の後、ヴァイオリンが狂おしい重音奏法を駆使する〈判決〉の激しい中間部をはさみ、再びワルツ主題が再現する三部形式で構成されている。

 

5 バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 (日本初演)
太平洋戦争前夜、戦闘機開発に従事する堀越二郎と妻・菜穂子が懸命に生きる姿を描いた、宮崎駿監督作品『風立ちぬ』より。本日演奏される《第2組曲》(今年5月台湾にて初演)は、昨年12月に世界初演された《小組曲》と異なり、ストーリーの流れに縛られることなく主要曲を音楽的に再構成したもの。バラライカ、バヤン(ロシアのアコーディオン)、ギターが主人公の遙かなる旅情を表現した「旅路のテーマ」と、久石のピアノが凛としたヒロインを表現した「菜穂子のテーマ」の2つを中心に据えた、ロンド形式による夫婦愛の組曲と見ることも出来る。全曲の構成は〈旅路(夢中飛行)〉、〈菜穂子(出会い)〉、勇壮な行進曲〈カプローニ(設計家の夢)〉、ミニマル的な推進力に溢れた〈隼班〉と〈隼〉、〈旅路(結婚)〉、関東大震災で逃げ惑う人々を描いた〈避難〉、〈菜穂子(会いたくて)〉、カストルプと共に日支事変を憂う二郎の許に菜穂子発熱の報が届く場面の〈カストルプ(魔の山)〉、〈菜穂子(めぐりあい)〉、〈旅路(夢の王国)〉となっている。

 

6 小さいおうち (世界初演)
『東京家族』に続き、久石が山田洋次監督作のスコアを担当した第2作。激動の昭和を生き抜いた元女中・タキの回想録に綴られた中流家庭の奥方・時子の道ならぬ恋と、彼女たちの運命を狂わせた太平洋戦争と東京大空襲の悲劇を描く。本日初演されるヴァージョンはギター、アコーディオン、マンドリンを使用して作品化し、楽器編成的にも時代背景的にも『風立ちぬ』との関連を強調している。前半はタキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、後半は昭和ロマンへの憧れを表現した「時子のワルツ」で構成されている。

 

7 水の旅人
一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦と小学生・悟の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督のSFX大作。サントラ演奏を担当したロンドン交響楽団を意識して作曲した大編成の勇壮なテーマ曲は、大河の如く滔々と溢れる数々のメロディと相まって、その後の久石の演奏会に欠かせない人気曲のひとつに。

 

8 Kiki’s Delivery Service for Orchestra (日本初演)
魔女の見習い・キキが宅急便で生計を立てながら、逞しく成長していく姿を描いた宮崎駿監督『魔女の宅急便』から、キキが大都会コリコを初めて訪れるシーンの音楽〈海の見える街〉を演奏会用にアレンジしたもの。本日使用される新ヴァージョン(今年1月台湾にて初演)は、管弦楽のみの演奏でメロディを優雅に表現し、よりクラシカルな味わいを深めている。

 

9 World Dreams
2004年、久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろした、W.D.O.のテーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調のあるメロディが頭を過った」。
久石とW.D.O.が願ってやまない”平和”という世界の夢(ワールド・ドリーム)を込めたメロディがそこにある。

TEXT:前島秀国 (サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」コンサート・パンフレット より)

 

 

なお、同パンフレット内の久石譲インタビューは下記掲載しています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 久石譲インタビュー

 

WDO 2014 表紙

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2014/08/21

8月9日,10日に行われたコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」に寄せての久石譲インタビュー内容です。

 

 

2014年7月某日。「JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2014」を約1ヶ月後に控えるなか、久石譲はコンサートの曲順に頭を悩ませていた。

「2時間のコンサートはいわば1本の映画。それぞれ別の曲をどう並べるかで聴こえ方がまったく変わってくるんだよね。」

今年、3年ぶりに活動を再開する久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団によるプロジェクト「WORLD DREAM ORCHESTRA」(W.D.O)。コンサートにかける思いを聞いた。

-久々の復活ですね。

久石 「やっぱりオーケストラの奏でる音が好きだし、その魅力を伝えていくことが自分にとって大事な役目だという気持ちがずっとあったので、嬉しいですね。1998年に長野パラリンピック冬季競技大会でプロデューサーを務めた際、「Asian Dream Song」という曲が生まれて、次は”世界の夢”を目指そうと、プロジェクトが始まった2004年にW.D.O.のテーマ曲「World Dreams」を書いたのですが、当時と世界の姿が変わってきていると感じています。

一言でいうと、世界が狭くなっている。かつて世界は羽ばたける場所、あるいは夢の対象だったのが、紛争も止まず、小さな違いばかりが際立っているように感じます。だから”世界”と表現した瞬間にすごく小さなものをイメージするようになってしまっている。そういうなかで、「World Dreams」という曲のタイトルそのままに、このコンサートを通じてもう一度音楽家として夢を見られる場所として”世界”を表現したいという気持ちが強くなってきました。」

-演奏する曲目にも反映されていますか。

久石 「そうですね。前回までのW.D.O.は、世界にある素晴らしい音楽をオーケストラ作品として紹介していこうとプログラムを組んでいました。大きくその思いは変わりませんが、これからはもっと自分の曲を演奏しようと思っています。要望が多かったということもありますが、今、世界をどうとらえるかと考えた時、自分の曲をきちんと届けていくことから再開したかったんです。そこから今回のテーマと重なる楽曲が見えてきました。」

-そのテーマとは。

久石 「全体を”鎮魂”という文脈でとらえたいということです。来年戦後70周年を迎えますが、今、日本を見渡すと、なにやらきな臭いムードが漂い始めています。僕は現在を戦後ではなく戦前の雰囲気ととらえているところがあり、そういう状況を踏まえ、戦争があったことを忘れないために「鎮魂の時」というセクションを作りました。ペンデレツキ「広島の犠牲者に捧げる哀歌」、バッハ「G線上のアリア」、そして僕の「私は貝になりたい」の3曲をつづけて演奏します。」

-「広島の犠牲者に捧げる哀歌」はプログラムの中で異彩を放っていますね。

久石 「W.D.O.は基本的にエンターテインメントにしたいのですが、根が作曲家なので、やっぱりコンサートを通じて何を伝えていくべきか考えてしまうんです。「広島の犠牲者に捧げる哀歌」はもともと「哀歌、8分26秒」というタイトルで、原爆とは関係のないものでした。しかし、この曲を聴いた日本の作曲家の助言で、現在のタイトルになったそうです。いわゆる図形楽譜の曲で、音を塊で演奏するトーンクラスターという技法をはじめ、特殊奏法が多く、日本ではあまり演奏されてきませんでした。譜面をどうとらえるか、解釈の幅が広いので、指揮者としても演奏家としても苦労しますが、これ以上ない不協和音を経て、「G線上のアリア」が始まる瞬間に何が見えるのかを想像したら、どうしても入れたくなりました。」

-一方、「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」「小さいおうち」は新しい編曲となりますね。

久石 「2013年は宮崎(駿)さん、高畑(勲)さん、山田(洋次)さんという3人の巨匠と向い合って映画を作るという非常にヘビーな年でもありました。この3作品を披露することは、今回のコンサートのもう一つの重要な要素です。いずれも”映画的”に作った曲ばかりで、台詞の邪魔をしないように構成しているため非常に音が薄いんです。それをコンサートで演奏する作品として書き直すのは、ゼロからリニューアルするのと一緒で本当に大変でした。特に「かぐや姫の物語」は昨年秋に公開されたばかりの作品で、まだそれほど時間が経っていない。自分の中でも消化しきれていない状態で作品化に取り組んだので、今までコンサート用に作品化した中で一番と言ってもいいくらい苦労しましたが、手ごたえはあります。」

-W.D.O.として今後の展望は?

久石 「まずは今回のコンサートを最高の形にして、観客の皆さんはもちろん、オーケストラのメンバーにも本当によかったと思ってもらうことが全てではないでしょうか。もちろんせっかくプロジェクトを再開したし、続けばいいなという気持ちはありますが、毎回「これが最後だ」と思って臨みたいのです。」

実は曲順で最も悩んでいたのは「World Dreams」だった。それがインタビューが終わった途端、順番が決まった。

「やっと分かった。これですっきりしたよ」

この曲がどう登場するかが、今回のコンサートの鍵といえるだろう。

(以上 コンサートパンフレットより)

 

 

なお初日の東京・サントリーホール公演の模様は9月23日(火・祝)にWOWOWでオンエアされます。

また10月8日に久石のニューアルバム「WORKS IV」がリリースされることも決定。今作には初日公演と2日目の東京・すみだトリフォニーホール公演からのライブ音源が収録される予定となってます。

 

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久石譲 WDO 3

 

Blog. 久石譲ファンの方からメッセージをいただきました!

Posted on 2014/08/14

久石譲ファンの方からこのサイト「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」へメッセージをいただきました!ありがとうございます!思わずすぐにこちらもお礼の返事をしてしまいました。

最近このサイトを見つけていただいたようで、「同じファンレベルでの情報把握と、同じように久石譲をチェックされていて、うれしいです」とメッセージをいただきました。とてもご丁寧で久石譲へのファン度、玄人さが伝わる内容で、とてもうれしく拝見させてもらいました。おそらく管理人よりも玄人スペシャリストな方だとお見受けしました。

その方はブログへのコメント欄ではなく、コンタクトページからメッセージをいただきましたので、公開したい気持ち満々ですが、管理人の胸にそっとしまっておきます。

もちろんブログコメントも、みなさんお気軽にお願いします!

 

先日書いたBlog. 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014 演奏プログラム レポを受けてのメッセージでもあり、

本文中に

「風の谷のナウシカ」はおそらくフルオーケストラだと思うのですが。ピアノ・ソロ? フルオーケストラ?どちらだったんでしょうか。

と書いていたのですが、その方はWDOコンサートに実際行かれたようで、その情報も教えていただきました。

  • アンコールのナウシカアレンジは「鳥の人」 ミニマリズムツアーのアレンジと同じだったよう
  • 墨田トリフォニーでは最後に来年もWDOあるから来て的なメッセージがありました

とのことです。ありがとうございます。そうなんですね。来年こそはコンサート行きたいですね。いただいた情報は、上記レポにも追記させていただきました。

 

 

さて、今日は、たまには管理人らしいことを書いていきたいと思います。

「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」サイトを立ち上げてちょうど1年を過ぎたくらいです。久石譲も音楽活動30年以上になるかと思いますが、昔からのファンとしてずっとその音楽や情報は追っかけています。

昔はファンサイトのようなものがもっとたくさんあったのですが今では減ってしまいました。ファンの一人として、定期的にチェックしては、お世話になり楽しく見ていたサイトもいくつかあります。そして『今の久石譲』、最新の久石譲を追っかけているサイトが、減ってしまいました。

そこで自分のマニア心に火がついたというわけです。情報チェック、情報整理を自分がしたいがために、だったら自分でサイトを運営してしまえば一石二鳥だ!という安易な発想です。

 

オフィシャルサイトでは取り扱わない、取り扱えない、大小問わない久石譲関連情報をアップしていこうと始めました。オフィシャルサイトの情報だけだと、どうしてもすべてを網羅することは難しいんですね。

例えば、毎号ごとにシリーズでレビューしている、CD付きマガジン「クラシックプレミアム」でのエッセイ連載内容などもそうですし、楽譜情報コンサート情報(チケット情報含む)もそうかもしれません。あとは情報公開のタイミングもあるのですが。。

 

アンオフィシャルサイトなら、気兼ねなくいろいろな情報を公開していくことができます。もちろん公式ではなく非公式でこそあれ、そこは節度とモラル、責任をもって運営していく所存です。「かゆいところに手が届く」そんな質と量を満たした有益なファンサイトになっていけるよう育てていきたいと思っています。

 

今回の久石譲ファンの方からいただいたコンタクトですが、実は記念すべき第1号なんです!サイトの1周年記念として誕生日プレゼントをいただいた気分です。本当にありがとうございます。これからも有益な情報を追っかけられるようにがんばります。

 

まだまだ情報の整理が追いついていません。いろいろと追加していかないといけない情報(主に初期~中期)が。近年の最新活動情報は、追いついているのですが、過去のデータベースがまだ整理しきれていません。情報源が減ってしまっているのもあるのですが、なかなか時間がかかるものなので、これから少しずつ埋めていきたいと思います。

バイオグラフィー コンサート履歴 ディスコグラフィー 楽譜 など基本情報は最低限の掲載はできています。

ここで言っている過去のデータベースとは、細かい当時のインタビュー内容や、コンサート企画秘話、CM音楽一覧、未発売音源・未CD化(まだまだあるんです) 廃盤音源 etc…

CD作品にしてもコンサート活動にしても、活動当時のリアルな鮮度の高い情報や久石譲の言葉たちを。こういったものが過去のコンサートパンフレットには掲載されていたりするので、随時書き起こしてアップデートを。

 

またはWebを駆使して、いろいろな情報を収拾したりと。こちらが結構苦戦しそうなのですが。ウェブサイトも、管理者や発信元がサーバーから削除してしまえば、過去の情報は消えてしまいます。気づいた時や知りたいときには、すでに情報がなくなっている、なんてこともよくあります。

インターネットの世界も過去のすべてが蓄積されていくわけではなく、やはりタイミングを見て整理整頓されています。だから、早めに収拾していかないといけないのですが。。

 

ディスコグラフィーもまだまだCD作品ごとのレビューが一向に進んでいません。特集ページでも、いろんなきっかけで久石譲を知った方へ、その入門編や手引きなればと思って少しずつ追加していきます。

 

そのような感じで、「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」はまだまだ発展段階です。これからももっともっと広く深く久石譲に迫っていきます。そして巨大な久石譲コミュニティに育てていきます。

 

これから増やしたいコンテンツやメニューもあります。鋭意勉強中です。

BBSや掲示板の設置予定は今のところありませんが、もう少し落ち着いたら、ファンの方同士がいろいろな情報交換ができるページも、追加できたらと思っています。

アンケート集計 みんなの演奏動画 オフ会案内 etc…

 

今日は純粋な管理人の言葉として、書きました。本当に見てくださる方がいるだけで、うれしく励まされます。そこにコメントやメッセージもいただけたら、もっともっとがんばります!? 笑

これからもどうぞよろしくお願いします。

そして、ぜひお気軽にブログへのコメントや、コンタクトページからのメッセージお待ちしています。

「その情報間違ってるよ」
「私のほうが詳しく知っているよ」
「もし知っていたら教えてほしい」 などなど

久石譲やファンの方への誹謗中傷以外でしたら、なんでもどしどしお待ちしています。

世界でも活躍している久石譲だけに、海外からのアクセスもあります。本当にうれしい限りです。だからこそ、久石譲の音楽を、久石譲の情報を、もっと多くの人に正しく詳しく知ってもらいたいと思っています。

そこには、管理人だけではなく、みなさんのご協力もいただければ心強いです。久石譲の音楽やあしあとを記録する一大絵巻のように。みんなで久石譲の音楽でつながって、広がって、そう、ここは『久石譲の音楽が響きはじめる部屋』にしたいんです。

そうなっていけたらいいなと思っています。

 

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 管理人

pyrenees

 

Blog. 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014 演奏プログラム レポ

Posted on 2014/08/12

2011年以来3年ぶりに復活を遂げた「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」。

そのコンサートが先日8月9日,10日に開催されました。行かれた方、会場で体感した方はうらやましい限りです。コンサートの演奏曲目&アンコールなどプログラム詳細が出回ってまいりましたので、整理して一挙に情報をお届けしたいと思います。

今後これからのお楽しみ特大情報もあります!

 

コンサートデータとしては以下のとおりです。セットリストはネタバレになってしまいますが、すでに終了したコンサート企画(2公演のみ)です。ご愛嬌ということで。

 

久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014

[公演期間]
2014/8/9,10

[公演回数]
2公演(東京・サントリーホール / 東京・すみだトリフォニーホール)

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ

[曲目]
久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 ※世界初演
【鎮魂の時】
ペンデレツキ:広島の犠牲者に捧げる哀歌
バッハ:G線上のアリア
久石 譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

久石 譲:
バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 ※日本初演
「小さいおうち」

【My Melodies】
「水の旅人」
「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」 ※日本初演
「World Dreams」

—アンコール—-
One Summer’s Day
風の谷のナウシカ

 

かなり力の込もったコンサート企画だったことは、この演奏プログラムから見てもよくわかりますね。

 

演奏曲順に見ていきますと、

  • 久石譲:交響ファンタジー「かぐや姫の物語」 ※世界初演

映画『かぐや姫の物語』の音楽も組曲のように、主要な曲たちをつないでリアレンジされたのではないかと。しかも「交響ファンタジー」。どんな仕上がりになっているのかすごく興味があります。

映画本編は小編成でのオーケストラ、シンプルな構成だっただけに「交響ファンタジー」と銘打っているということは、そこもフルオーケストラの大編成版にスケールアップしたということでしょうか。

 

ペンデレツキの現代音楽や、バッハの古典クラシックをはさんで、

  • 久石 譲:ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」

ヴァイオリンがフィーチャーされた構成ということですよね。すごく叙情的な美しい旋律だけに、ヴァイオリンの音色がより涙腺を刺激してしまうのではないかと。

 

  • 久石 譲:バラライカ、バヤン、ギターと小オーケストラのための「風立ちぬ」第2組曲 ※日本初演
  • 久石譲:「小さいおうち」

日本に先駆けて台湾で行われたコンサート(5月2日,3日)にて世界初演された「風立ちぬ」第2組曲です。23分にも及ぶ壮大な音楽絵巻になっているようで、そのあたりの第2組曲誕生秘話はこのように語られています。

こちら ⇒ Blog. 「クラシック プレミアム 9 ~ベートーヴェン2~」(CDマガジン) レビュー

 

山田洋次監督との映画『東京家族』に続く2回目のタッグとなった映画『小さいおうち』。こちらもコンサート初披露だと思います。そして「風立ちぬ」と「小さいおうち」では、映画『風立ちぬ』本編でもメインテーマのアルトバラライカを演奏していた、青山忠さんがコンサートでも参加されています。

昨年2013年12月に行われたコンサート「久石譲 第九スペシャル」でも「風立ちぬ 小組曲」にて演奏されています。そのときの「小組曲」15分版から、今回の「第2組曲」23分版。気になります!

 

  • 「水の旅人」
  • 「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」 ※日本初演
  • 「World Dreams」

「水の旅人」はこれまでも多くのコンサートで演奏された定番にして名曲。コンサートの盛り上がりをピークへもっていく壮大な曲です。

「Kiki’s Delivery Service for Orchestra」、映画『魔女の宅急便』より「海の見える街」という曲ですが、これも今年1月に日本に先駆けて台北で開催されたコンサートで改訂初演としてお披露目されています。

おそらく2010年に発表されたCDアルバム「メロディフォニー」のアレンジをベースに、書きなおされていると思います。どのように変化、進化したのか、聴いてみたいです。

 

「WORLD DREAMS」は、久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラを象徴する曲です。序曲のような格式高い名曲です。余談にはなりますが、「WORLD DREAMS」発足当時の、この企画にかける熱い想い。

こちら ⇒ Blog. 「World Dream Orchestra 2004」 コンサート・パンフレットより

 

 

そして気になるアンコールは、

  • One Summer’s Day
  • 風の谷のナウシカ

というスタジオジブリ 宮崎駿監督作品から贅沢な2曲だったようです。

「One Summer’s Day」は映画『千と千尋の神隠し』より「あの夏へ」です。コンサートのアンコールでは、ピアノソロとして、演奏されることの多い「One Summer’s day」。ピアノ・ソロアルバムとして人気の高い「ENCORE」にバッチリ収録されていますが、最近では「メロディフォニー」というアルバムでピアノとオーケストラのためにリアレンジされていて、オーケストラ編成でのコンサートではこちらもよく披露されています。今回は久石譲のピアノ・ソロだったようです。

 

「風の谷のナウシカ」はおそらくフルオーケストラだと思うのですが。ピアノ・ソロ? フルオーケストラ?どちらだったんでしょうか。それにしてもナウシカで締めるとは!なんて至福なフルコース!

 

以上です。

演奏プログラムやアンコールに誤情報はないと思いますが、これからオフィシャルHPやスタッフブログなどでも、もっと詳細や舞台裏がわかってくるかもしれませんので、こまめにチェックしていきます。

 

 

特大情報1!!

この2公演のみという貴重なコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」だったわけですが、なんとWOWOWにて放送決定です。

9月23日(水) 午後5時20分~

番組時間が現時点でわからないので、どのくらい抜粋されるのか、縮小版での放送かはわかりません。コンサート全編が放送されることは、まずないかとは思いますが。それでもこのコンサートをナマで体感できなかった人も多いわけで、それがTVであっても鑑賞できるのはうれしい限りですよね。

そういえば、コンサートに行かれた方のレポートのなかにも、録画用TVカメラが入っていたとありましたので、そういうことだったのでしょう。評判が良ければブルーレイ/DVD化して発売していただけるとさらにうれしいんですけどね。

コンサートDVDの発売となれば、2008年に開催された奇跡の一大コンサート「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」以来5年以上ぶりになります。

まずはWOWOWでの放送を期待して待ちましょう!

 

 

特大情報2!!

なんと今秋、久しぶりのニューアルバムが発売されます。

オリジナルアルバムとしては…実は2010年の「メロディフォニー」以来4年ぶりとなります。

それ以降も、
坂の上の雲 二ノ国 フェルメール 天地明察 奇跡のリンゴ
風立ちぬ かぐや姫の物語 etc…

サウンドトラックや企画ものはもちろんたくさん出されていますが。

こちら ⇒ ディスコグラフィー 2010年~

 

どんなコンセプトのオリジナル・アルバムなんでしょうか。

詳細不明ですが…

アルバムのタイトルは…

「WORKS IV」!!

 

そう、「WORKS」シリーズの第4弾なんですね。

「WORKS」シリーズといえば、自身が手掛けたその時折の映画作品やCM音楽などを、オーケストラを主体とした音楽作品に再構築したものです。楽器編成やアレンジも手を加えられ、組曲のような大曲になることもあります。

過去の第1弾~第3弾までの収録ラインナップを見たら、そのベストアルバムのような豪華さは一目瞭然です。オーケストラベストとして発売されている「メロディフォニー」も、ベストとはいえ、全楽曲リアレンジされた新録音になりますので、「WORKS」シリーズの流れをくむものと捉えることもできます。

ということは、もしかしたら、もしかしますけれど、今回の「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」の演奏プログラムが大きなヒントになるのかもしれません。コンサートで世界初演、日本初演、改訂初演され、新しい息吹きを放った近年の名曲たちが、収録されるのかもしれませんね。

「風立ちぬ」に、「かぐや姫の物語」に、近年のシンフォニーとして書かれている、久石譲オリジナルの新作も収録されるのでしょうか?!「WORKS IV」10月8日発売予定 です。今後もこちらの情報が入りましたら、随時更新していきたいと思います。

 

 

長くなりましたが、

  • 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014 セットリスト
  • WOWOW 9月23日 放送決定
  • 久石譲ニューアルバム「WORKS IV」 10月8日 発売決定

という内容でした。

 

 

追記:
ファンの方からメッセージ

  • アンコールのナウシカアレンジは「鳥の人」 ミニマリズムツアーのアレンジと同じだったよう
  • 墨田トリフォニーでは最後に来年もWDOあるから来て的なメッセージがありました

ありがとうございます。

 

追記:
8月26日付 日本経済新聞 Web内での同コンサートレポートです。

こちら ⇒ 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014 鎮魂奏でる旋律美 悲しみと安らぎ宿る

久石譲 ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014