2002年12月26日 CD発売 CPC8-3055
2003年公開 映画「壬生義士伝」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:中井貴一 佐藤浩市 他
コメント
久しぶりに”かっこの良い男の仕事ぶり”を見た。音楽録りに立ち会った私は、待ちに待った音楽を聴くより、目の前のオーケストラを率いて、自信に満ち溢れ、自分の曲に浸り、自分だけの至福の瞬間(とき)を求め続ける、圧倒的指揮者久石譲に見惚れてしまった。今、この男を撮ってみたとも思ったくらいだ。
そして、この曲は一生忘れない。
初号の翌日に旅立ってしまったこの映画の編集マン・盟友冨田功の通夜の席、不意にこの曲が流れた時、言葉にならない感動を覚えた。東京国際映画祭のオープニングでも冨田功追悼演奏をしていただき、最高の音楽で彼を送り出すことが出来て、感謝しております。久石さん 本当に「オモサゲナガンス」。
滝田洋二郎
コメント
この仕事は僕にとっては久しぶりの時代劇であった。王道を行くこの作品には、奇をてらわない正統派の音作りがふさわしいと考え、オーケストラの起用を決めた。とはいえ、和太鼓、アイルランド民族楽器・ホイッスルなどで独特のサウンドを心がけた。また、家族愛、郷土愛、男女の愛、友情と、多くの愛情がテーマであるため、音楽が情感に流されないよう気を付けた。以前から滝田監督の作品が好きだった僕としては、今回、監督やスタッフのみなさんとの素晴らしいコラボレーションが実現し、とても嬉しく思っている。
久石譲
(コメント ~CDライナーノーツより)
インタビュー
音楽・久石譲
数々の映画音楽を手がけてきた久石譲だが、本格的な時代劇は初めて。
さらに監督滝田洋二郎とも初顔合わせ。
「王道をいく映画にふさわしい音楽を作りたかった」と語る笑顔の中に、
日本映画の面白さを知る久石ならではの自信がのぞいていた。
-本格時代劇にチャレンジしたご感想は?
久石:
滝田監督の映画が以前から好きだったので、これはいい機会だな、と思いましたね。時代劇は『福沢諭吉』(91)でやってはいますが、いわゆる本格的時代劇にチャレンジしてみたかったんです。とはいえ、時代劇だから特に何かが違うというわけではなく、あくまで内容に即するものを作りたい。今回はいい意味でオーソドックスな王道をいく作品なので、それにふさわしい音楽をつけたいという想いがありました。具体的にはオーケストラが一番向いていると思って、そこから入りましたね。
-オーソドックスということで、ご苦労された点は?
久石:
時代劇と言っても、現在作っているんだという点を出さなきゃいけない。そして10年後、20年後に観ても古く感じないようにしなくてはならない。それがオーソドックスということですよね。ですから、オープニング・タイトルが出るときの和太鼓にも、シンセサイザーを入れたりしています。また、この映画には非常にいろんな”情”が出てくるんですね。男と女の情だったり、家族愛や郷土愛、友情。そこにベタベタに音楽をつけてしまうと情緒に流されやすいので、ある意味、音楽はちょっと引いた感じにしました。泣かせるところに泣かす音楽をつけるのではなく、むしろそこは引いて、精神的なものを感じるように音楽をつけていく。そこが一番大変な作業でした。
-メロディの美しさとあわせて、今回はリズムを強く感じました。
久石:
そうですね。アクション・シーンが結構ありますからね。ただ、通常のリズムの音ではつまらないので、非常にエスニックなリズム、たとえば和太鼓とか、アフリカや中近東の太鼓も実は入っています。あくまでこの映画の独特の雰囲気を出すために、使ったんですけれど。
-『壬生義士伝』や北野武監督のような男の世界を描いた映画と、宮崎駿監督のアニメなどを、交互に手がけているのは意識されてのことですか?
久石:
あまり気にしてないですよ。あくまで作品に対して自分がどう思うか、同時に、作品からイマジネーションをどれだけ豊かにできるか、そこが一番大切。宮崎さんのアニメーションであろうと、なんであろうと、僕の中では普通にやっているんです。でも、幅はありますよね。ひとりの人間の中にもいろんな顔がありますから。心温まる作品のときは、必然的にメロディ・ラインが大事になってきますし、突き放したような映画のときには、自分の中にもそういう部分はありますから、極力音楽がでしゃばらないように作る。共通するのは、画面をなぞるような音楽は作らない、ということ。あくまで、もしかしたら絵で表現しきれなかったものを表現する、というようにしています。音楽って非常に怖いんですよ。世界観とかムードを決定してしまうところがありますから。
-ご自身の監督経験は、音楽にも影響がありましたか。
久石:
簡単に言えば、功罪半ばって感じです(笑)。『カルテット』(01)を撮った直後は、監督の気持ちがわかってしまい、「ここはきっと大事にしているな」なんて思うと、音楽をやたら抑えちゃったんですよ。気づいたら、絵に音楽が近づき過ぎている。でも本来、音楽が鳴るなんて異質なんですよ。だって、日常では鳴るわけないんですから。やっぱり距離をとっておいたほうがいい、と反省しました。だから多少、監督が大事にしているシーンだろうがなんだろうが、無視しようと(笑)。お互いの軋轢から、相乗効果が生まれるようにしないといけない。どちらかが寄り添っちゃうと、そのダイナミズムは出ないな、と気づきましたね。今回は、音楽がでしゃばりもせず、けれど主張するところでは主張する、という点はうまくいった気がします。
-最後に観客の方へ一言お願いします。
久石:
メインテーマも含めて、映画音楽の王道をいく音楽をつけたと自分では思っていますので、映像と音楽が一緒になったときのダイナミズム、あるいはサウンドトラックCDで音楽だけを聞いて、両方の楽しさを味わっていただければと思います。
(聞き手・構成 石津文子)
(Blog. 映画『壬生義士伝』(2003) 久石譲 インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)
「ハリウッドでいえば『ブレイブハート』や『グラディエーター』ですよね。日本で古典活劇をやるとするなら時代劇ですから、当然、音楽家としてはチャレンジしておきたいジャンルですし、それをきちんとこなせる日本人でいたいと思いましたね。音楽の持つダイナミズムを、映像に乗せてこれだけ表現できるんだぞってね」
「主人公の吉村貫一郎って、とにかく魅力的なんですよ。エンドロールに流れるテーマ曲は、いわばあの時代に生きた人々への鎮魂曲です。でも、映画の音楽って、あまりドラマに共感しても実はダメなんです。僕の場合、あまり共感していない。むしろぐっと対象化しています。この映画でも醒めた意識を持って取り組んだからこそ、全体がしっかり見えたと思うんです。映像では出演者がガンガン泣いていますけど、僕としてはそこから少し距離をとって高潔な感じで包み込むようにしました。本来ならもう少し情緒を盛り込むところを、今回は吹っ切って作ってるんですね。それがやり甲斐であり、大きな課題でもありました」
(Blog. 「キネマ旬報 2003年1月下旬号 No.1372」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)
1. 雪の降る夜に
2. 壬生の狼
3. 雨の宴(えん)
4. 「おもさげながんす」
5. ふるさと-南部盛岡-
6. 討入
7. 蛍
8. 愛しき人へ
9. 別離(わかれ)
10. 時代の足音
11. 義への道
12. 友よ
13. 旅立ち
14. 故郷へ
15. 壬生義士伝
All songs are written, arranged, produced by JOE HISAIHIS
Performed by TOKYO CITY PHILHARMONIC ORCHESTRA
Additional musicians:
Whistle:TAKASHI YASUI
Guitar:MASAYOSHI FURUKAWA
和太鼓:AUN
Recorded at WONDER STAION, AVACO CREATIVE STUDIOS