Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月26日 CD発売 UMCK-1450

 

NHKスペシャル シリーズ「深海の巨大生物」
2013年1月13日放送 第一部
「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」

第二部
■第1回「伝説のイカ 宿命の闘い」
放送日時:2013年7月27日(土)午後7時30分~ NHK総合
■第2回「謎の海底サメ王国」
放送日時:2013年7月28日(日)午後9時00分~ NHK総合

音楽:久石譲 演奏:NHK交響楽団 東京ニューシティ管弦楽団

 

 

久石譲さんインタビュー
番組音楽にかけた想い

NHK 深海 1

「深海」は当然のことながら、地上ではない。我々は地上で生きていますから、そこから考えると、とても深いところ、遠い次元になりますよね。音楽的に言うと、実は深海は宇宙の物語、宇宙と同じ空間であるということが大事なんです。

ただ、宇宙と深海の大きな違いは「水」ですから、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうというのが最初の狙いでもありましたね。

このハープがさまざまなパッセージを奏でているところに、和音感などの凝った形を取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかなと考えました。

NHK 深海 2

今回は「ダイオウイカ」に続いて、「サメ」の曲をつくるということで、最初は苦しむのではないか…という嫌な予感がありましたね(笑)。サメと聞けば、あまりにも有名なジョン・ウィリアムズが作曲した映画『ジョーズ』のテーマ曲がありますから、それしか頭に浮かばないのではないかと思っていたんです。

ところが映像を見せてもらうと、メガマウスは想像していたどう猛なサメとはまったく違っていた。プランクトンを食べたり、サクラエビを食べたり、とても草食系な感じを受けたんです。メガマウスの優しい性格と、時間軸を超えたようなゆったりした広がりをその映像から感じ取ったときに、これならできると思って。メガマウスのイメージをつかめた瞬間から、対比としてどう猛なカグラザメには、不協和音を思いっきりぶつけたり、現代音楽的なアプローチを広げることができて、とても取り組みやすくなりました。

NHK 深海 3

さらに今回、プロデューサーの岩崎弘倫さんから、生きものの連鎖、輪廻を表現してほしいという依頼がありました。

話を伺う中で、いろんな生きものが他のものを食べ、それらがまた他のものを食べるという光景が、ある種宗教的、哲学的なテーマに感じましたね。その普遍的なテーマに対して僕自身も興味を持ち、力を入れて書きました。

書き上がったものは、かなりゆっくりした楽曲なのですが、NHK交響楽団の方々が素晴らしい演奏をしてくださり、とても満足できる作品に仕上がっています。 映像と音楽のめぐり逢いを楽しんでいただきたいですね。

NHK 深海 4

(久石譲インタビュー 出典元:NHK 深海プロジェクト 番組にかけた想い より)

 

 

メインテーマ(1)は、神秘的な深海の世界をあますことなく表現している。フルオーケストラの壮大かつ悠々とした広がりのある響きと、各楽器たちが織りなす旋律が、まさに多種多様な深海の生き物たちを、そして未知の世界の不思議さを感じとることができる。

メインテーマにも関わらず、いい意味でつかみどころのない不思議なメロディーが、未だなお解明されていないことの多い深海の世界、つまりは海の宇宙に対してこれからも探究が続いていく世界であることを予感させる。

ミステリーとロマンの大航海を彷彿とさせる(2)「ミステリー&ロマンへの誘い」、変拍子のリズムがまるで生き物のような躍動感を放つ(3)「海の世界」、シンセサイザーの不思議な音色と旋律が深く深く神秘の世界へ誘う(7)「神秘の海中」、悠々としたストリングスがその品格と高貴さを感じる(11)「ダイオウイカのテーマ」、ピアノで美しく優しく語りかけてくる(13)「達成~メインテーマ~」など、深海の魅力がぎっしりとつまっている。

第二部からも、寄せては返す波のように、解明してはまた新しい謎が現れるというくり返し、そんな深海の迷宮をダイナミックに表現した(16)「深まる謎」、どう猛なカグラザメと優しい性格のメガマウスをうまく対比した(18)と(20)、そして生き物の輪廻、生命の尊厳を高らかに讃歌する(21)「輪廻」、と、その魅力は尽きない。

久石譲本人も本作品の制作について、「音楽的に言うと、実は深海は宇宙の物語、ただ宇宙と深海の大きな違いは「水」、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうとしたのが狙いでもある。ハープが様々なパッセージを奏でているところに、和音感などの凝ったかたちを取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかと考えた。」と語っている。

またプロデューサーからの「生き物の連鎖、輪廻を表現してほしい」との依頼からそれに応えるべく「ある種宗教的、哲学的、そして普遍的」なテーマに対して、魅力のある壮大な音楽世界を築きあげている。

世界も大注目のビッグニュースとはいえ、ひとつの番組において、ここまでの音楽的世界観の作り込みとしては贅沢な作品である。

映画「崖の上のポニョ」、映画「海洋天堂」、映画「水の旅人」などもそうだが海や水の世界観の表現は本当にすばらしい。そこにはダイナミックな躍動感と、緻密で精細なオーケストレーションという、ふたつの対極的な要素が見事に融合している。

ダイナミクスな海、宇宙、巨大生物から、ミクロな微生物やプランクトン、得体のしれない未知の生命体、そして化石まで命あるすべてのものが、ひとつひとつの旋律に楽器に宿っている。

 

 

久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

第一部
1.NHKスペシャル深海 メインテーマ
2.ミステリー&ロマンへの誘い
3.海のテーマ
4.科学者たち
5.世紀の大調査
6.ダイブ開始
7.神秘の海中
8.初めての発見
9.セカンドコンタクト
10.挑戦
11.ダイオウイカのテーマ
12.深海へ帰る
13.達成~メインテーマ~
第二部
14.海に生きる大きな生物
15.奇跡の大陸ニッポン
16.深まる謎
17.海の生命力
18.深海の強者 カグラザメ
19.科学者たち~愛~
20.メガマウスのテーマ
21.輪廻
22.NHKスペシャル深海 エンディングテーマ

All Music Composed and Produced by Joe Hisaishi

Performed by Tokyo New City Orchestra
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by NHK Symphonic Orchestra (except M-1,8,20,21,22,23,24) 
Conducted by Junichi Hirogami (except M-1,8,20,21,22,23,24) 

Recorded at NHK509Studio , NHK506Studio
Mixed at NHK604Studio

Orchestration:Joe Hisaishi , Junichi Nagao

 

 

クレジット誤植の可能性あり

推測する正しくは

Performed by NHK Symphonic Orchestra (M-1,15,16,17,18,20,21) 
Conducted by Junichi Hirogami (M-1,8,20,21,22,23,24) 

exceptでもない

 

理由

JASRACより(形式:JASRAC番号 – タイトル – ディスク番号)
引用:
M-01 NHKスペシャル深海 メインテーマ (01)
M-02 NHKスペシャル深海 エンディングテーマ (22)
M-03 海のテーマ (03)
M-04
M-05 海に生きる大きな生物 (14)
M-06 ダイブ開始(06)
M-07 神秘の海中 (07)
M-08 海の生命力 (17)
M-09 世紀の大調査 (05)
M-10 挑戦 (10)
M-11 達成~メインテーマ~ (13)
M -12 深海へ帰る (12)
M-13 高温&ロマンへの誘い (02)
M-14 ダイオウイカのテーマ (11)
M-15
M-16 初めての発見 (08)
M-17 セカンドコンタクト (09)
M -18 科学者たち (04)
M-19 科学者たち~愛~ (19)
M-20 輪廻 (21)
M-21 深海の強者カグラザメ (18)
M-22 奇跡の大陸ニッポン (15)
M-23 未知の謎 (16)
M-24 メガマウスのテーマ (20)

 

 

Disc. 久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月5日 CD発売 UMCK-1449

 

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。」

Blog. 「東洋経済オンライン」 久石譲 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

全編において特徴的なのが、その軽快なタッチ。主要な2つのテーマを作曲しながらも、主人公になっている実在の方にお会いしてから、その陽気なキャラクターを表現するために別のテーマ曲も作曲。

コンセプトは「津軽のラテン人」という能天気な明るいイメージから、マンドリン、ウクレレ、口琴などの楽器をオーケストラと合わせる構成になっている。本来ならば「日本 津軽」という舞台にも関わらず、その音楽世界が「異国 南国 ラテン」の香りがするのはそのためだろう。そのギャップが結果として見事に功を奏していると思う。

ちなみに口琴という楽器にだけ触れる。口琴は、原始的な楽器で古くから世界各地に分布。日本では古くから北海道や津軽などでアイヌ民族が好んで用いていた。そのビヨ~ンという独特の音色は、飛び跳ねる動き等を表現する効果音としてもよく使われる。アニメ『ど根性ガエル』の主題歌といえば、一番想像しやすい。

というわけで、マンドリンやウクレレといった「ラテン」を意識しながらもそこに口琴を組み合わせることによって「ラテン+津軽」を、そして「陽気さ 明るい」空気感を演出している妙。いつもの久石メロディーが、よりパッと明るくなっている作品である。

メインテーマ、そしてそれをモチーフとした(1) (6) (9) (13) (21) (23) (25)はまさに自然の音楽。壮大というよりは、空気も水も透きとおるような音楽。日本だけでなくヨーロッパの田園、畑、山脈なども連想できる、心地のよい曲。

モチーフによって、フルート、ホルン、ストリングスなどの楽器が旋律を奏でることからも、そういった連想や世界が広がるのかもしれない。

主人公のテーマ、そしてそれをモチーフとした(2) (4) (10) (12) (14) (27)などは、冒頭に書いた「津軽のラテン人」をコンセプトに、その楽器たちをうまく組み合わせた軽快な曲。マンドリン、ウクレレ、口琴、オーケストラが、モチーフごとにその旋律を軽やかに彩っている。いろんなCMにも使用できそうな、短いメロディーながらもインパクト十分な、陽気な明るい曲。

ラブテーマ、そしてそれをモチーフとした(5) (20) (22)は、ピアノをメインにしたシンプルな旋律。少しメインテーマを垣間みるような音階が特徴的。

そして、最後の(28)にて、ラブテーマ~主人公のテーマ~メインテーマと上の3つのテーマを1曲として繋いで聴くことができる。映画のエンドクレジットに華を添えている、そして余韻が香る。

 

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

1.奇跡のリンゴ
2.運命の始まり
3.母親の言葉
4.東京の空
5.祝言の夜
6.津軽の風物詩
7.安全の代償
8.幸福の訪れ
9.答えへの入口
10.挑戦の始まり
11.試練の訪れ
12.挑戦の決意
13.ラバウルの記憶
14.挑戦の日々
15.悪夢
16.三等分の想い
17.約束の光
18.現実の地獄
19.雛子倒れる
20.薄暮の背中
21.暗闇の出口
22.人間の証
23.挑戦の再開
24.困窮の果て
25.ありがとうの言葉
26.小さな希望
27.挑戦の続き
28.リンゴの軌跡

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Madolin:Tadashi Aoyama
Guitar & Ukulele:Mikihiko Matsumiya
Jew’s Harp:Ikuo Kakehashi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

2013年4月3日 CD発売 PCCR-00561

 

2013年4月5日,6日 二夜連続連続放送フジテレビ系ドラマ「女信長」
原作:佐藤賢一 監督:武内英樹 音楽:久石譲 出演:天海祐希 他

 

 

民放のTVドラマの音楽を手がけることも近年珍しいけれど時代劇ものとしても『壬生義士伝』や『天地明察』くらいしかない。

混声合唱や和楽器も使用している。フルートと尺八、ハープと琴など、和楽器と西洋楽器の近い音をうまく組み合わせて織りこんでいるところに、そこまでコテコテの時代劇感を演出しないさじ加減があるのかもしれない。

フルート・尺八・ハープ・琴・ピアノに混声合唱と、高音の楽器、また音域に幅のある楽器を随所にちりばめているところが、信長という重厚感に、今回のキーワードである“女信長”という女性らしさがうかがえる。

印象的なメロディーというよりも、こういった演出が気になった作品。全体的な緊迫感迫る音楽は、『坂の上の雲』の音楽に近いかもしれない。

(4) (31)のメインテーマをモチーフにシーンに合わせてアレンジしたもの、(15) (22) (28) (30)などの女性心をテーマにした曲に加え、(3) (8) (23) (24)など戦国時代ならではの厚みのある曲もならぶ。

1曲1曲が短いのは、TVドラマだからかもしれない。ぜひコンサートなどで、ひとつの絵巻のような組曲として聴いてみたい作品。

 

 

 

久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

1. イスパニアからの使者
2. 絶体絶命
3. 奇襲
4. 女信長
5. 運命の子
6. 嫡男として
7. 哀れな宿命
8. 暴君
9. 御濃
10. 父の死
11. 信長誕生
12. 野望
13. 合戦
14. 城下町
15. 恋心
16. 京上洛
17. 服部半蔵
18. 奏愛
19. 御市
20. 明智光秀
21. 天命
22. 信長の哀しみ
23. 決戦
24. 地獄絵図
25. 最強の敵~武田軍~
26. 悲壮な決意
27. 信長と光秀
28. 本能寺~愛のテーマ~
29. 家康の初恋
30. 信長からの解放
31. 新しい時代

All Music Composed, and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Gu-Zheng:Jiang Xioa-Qing
Japanese transverse flute:Kohei Nishikawa
Shakuhachi:Jun Watanabe
Lute:Hiroshi Kaneko
Tin Whistle:Tkashi Yasui

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer: Hiroyuki Akita

Orchestration: Kosuke Yamashita, Sachiko Miyano, Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『Ni No Kuni: Wrath of the White Witch - Original Soundtrack』

2013年2月1日 CD発売 WAYO-003~4 ※輸入盤

 

DS版『二ノ国 漆黒の魔導師』につづき、PS3版『二ノ国 白い聖灰の女王』の音楽担当。

 

メインテーマ、シズクのテーマ、バトルなど、DS版サウンドトラックに収められていた主要曲も、スケールアップしたフルオーケストラサウンドで楽しめる。

また本作品用の新録曲は、(5)~(11)となっている。(5)The Horror of Manna に象徴されるように、ミニマル色の強い、シリアスでスリリングな楽曲が並んでいる。

ゲーム世界の様々な場面を彩った、バラエティーに富んだDS版の音楽に比べ、より緊迫感のあるひきしまった冒険サウンドとなっている。とりわけ終盤を迎える(10)The Final Battle Against the White Witch は圧巻である。女王を彷彿とさせるコーラスは麻衣が担当。

ゲームではシンセ曲や本作品未収録曲も使用されているが、あくまでも久石譲作曲およびオーケストラサウンドによるサウンドトラックとなっている。

ゲーム用販促プロモーション映像(PV)にて使用されていたPS3版音楽は、本作品にすべて収録されている。輸入盤のみ2枚組CDで発売され、1枚目収録楽曲は、『二ノ国 漆黒の魔導師 サウンドトラック』と同一。

 

本作品未収録のシンセサイザー楽曲解説については下記参照。

 

 

二ノ国 ninokuni 2 

二ノ国 ninokuni 3

 

二ノ国 ninokuni 4 

二ノ国 ninokuni 5

 

 

二ノ国ninokuni

Disc 1

01. Ni no Kuni: Dominion of the Dark Djinn — Main Theme
02. One Fine Morning
03. Motorville
04. The Accident
05. In Loving Memory of Allie
06. Drippy
07. Magic with Oomph
08. World Map
09. Ding Dong Dell – The Cat King’s Castle
10. Al Mamoon – Court of the Cowlipha
11. Imperial March
12. Crisis
13. Tension
14. Battle
15. Shadar, the Dark Djinn
16. A Battle with Creatures
17. Labyrinth
18. The Lead-Up to the Decisive Battle
19. The Showdown with Shadar
20. Miracle – Reunion
21. Kokoro no Kakera (Japanese Version)

Disc 2

01. Ni no Kuni – Wrath of the White Witch (Main Theme)
02. The Fairyground
03. Mummy’s Tummy
04. Battle II
05. The Horror of Manna
06. Unrest
07. Blithe
08. Sorrow
09. The Zodiarchs
10. The Final Battle Against the White Witch
11. The Wrath of the White Witch
12. Kokoro no Kakera – Pieces of a Broken Heart (English)

Performed by the Tokyo Philharmonic Orchestra
Composed by Joe Hisaishi
Japanese vocals by Mai
English vocals by Archie Buchanan

33 tracks, 2 discs, 20-page booklet

その他ゲスト演奏者/録音はDS版記載に準ずる

 

Disc. 久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

2013年1月16日 CD発売 UMCK-1442

 

2013年公開 映画「東京家族」
山田洋次監督50周年記念作品
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

インタビュー

-これまでの久石さんの映画音楽のアプローチは音と画を拮抗させ、そのぶつかり合いのなかから某かのものを醸し出す方法論が多かったと思いますが、今回は驚くほど奥に引いています。それはある意味、挑戦だったのではないでしょうか?

久石:
そうですね。まず台本を読んだ段階で、今回はあまり音楽を前に出さず、包み込むようなものが良いだろうとは思ったんです。山田監督とお話させていただいた時も「空気のように、劇を邪魔しないものを」という注文がありました。現にラッシュ(撮影済みで未編集のフィルムや映像)を観ても音楽が入る余地が全然ない(笑)。これはもう劇を受け止めるような音楽を書かなければ駄目だなと。

-しかし、少ないながらも入る箇所は的確で、音楽が流れるごとにあの老夫婦の心情と呼応し支え合い、じわじわと相乗効果がもたらされていくのがわかります。

久石:
最終的にはお母さんが亡くなり、お父さんが独り残される。そのことをメインに据えて、そこに至るまでをどう行くかというのが、今回はプランとして非常に大事でした。例えば病院の屋上でお父さんが次男に「母さん、死んだぞ」と言うところまでは、ピアノを一切使ってないんですよ。逆にその後からは、ピアノを自分で弾いています。音楽が少ないからこそ、そのなかで効果的な変化をつけたかったんですね。

-『東京物語』(53)が「人生は無である」と説いた映画だとすれば、『東京家族』は「人生は決して無ではない」と説いている映画だと思います。だからあのお父さんが独りになって終わるラストも、厳しくはあれどこか明るい感触を受けますし、エンドタイトルの高らかな音楽はその後押しとして、観る者まで前向きな気分にさせてくれます。

久石:
そういう風に捉えていただけると嬉しいですね。僕も『東京物語』は大好きな映画なのですが、『東京家族』はそれと同じストーリーラインではありながら、やはり山田監督独自の世界観でしたので、こちらも特に意識することはなかった…と言いますか、先ほど申しましたように意識するどころではないほど大変だったわけです。今回は本当にオーケストラを薄く書いているんですけど、痩せないように書く方法とでもいいますか、その作業も難しかったし、40秒の曲を書くのに普段の3分以上の曲を書くのと同じ労働量を必要としました。でもその代わり、新しい技もいくつか開発しましたので、もう次からは何が来ても怖くない(笑)。何よりも今回は憧れの山田作品に自分の音楽を入れさせていただくことができたわけですから、本当に光栄でした。

Blog. 映画『東京家族』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

今回、監督作品81作目にして初めて久石譲に音楽を依頼したが「もちろん(久石が担当した)作品は拝見していましたし、ぜひ一度、お仕事させていただきたいと思ってました。映画音楽は映画が好きな人じゃないとダメなんです」と念願かなってのタッグ実現を嬉しそうに振り返った。だが映画監督にとっては音楽家との仕事はなかなか気疲れするもののようで「最終的なイメージは作曲家の中にあるんでね。とても気を使うんです。お見合いのようにドキドキします」と語る。

一方の久石譲は今回の仕事について「苦労しましたよ!」と告白。「普通、2時間の映画にだいたい50分から60分くらい音楽が付くんですが、今回は2時間半くらいの映画で音楽は25分くらい。平均して40秒から50秒くらいの曲が多いんです。短い音楽を書くのは難しいんです」と述懐する。しかも監督からは「空気のような音楽」というリクエストがあったとか。「芝居の邪魔にならずにそれでもどこかで共存するものとして考えました。いかに薄く書くか? でも痩せちゃいけない…。工夫する中で新たな発見がありました」と明かす。

Info. 2013/01/25 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

「空気のような音楽、雰囲気を邪魔しないような音楽と言われていました。今回はあまりたくさんの音楽を必要としない、芝居を邪魔しないで共存出来る音楽なんだと思いました。」

「今回は2時間半ぐらいの映画なんだけど、曲は全部で25分ぐらいしかないんです。いかにうすく書くか、でもやせすぎちゃいけない…そんな色々な工夫をしていくうちに、こんな技があるんだと、3つぐらい新しい技を発見しました。」

Blog. 映画「東京家族」 山田洋次監督 × 久石譲 スペシャルトークセッション より抜粋)

 

 

 

シンプルで素朴なメロディーのメインテーマ。オーケストレーションも小編成。曲も1-3分程度の短いものが多く、そっと映像に寄り添うような音楽。

メインテーマ(15)、メインテーマをモチーフに編曲した(1) (2) (3) (7) (10) (13)、メインテーマ以外だと(4) (5) (11)など、管楽器、とりわけオーボエやファゴットをうまくメロディーラインに取り込み、それにより、素朴な、温かみのある、空気感を演出している。

特に邦画作品を手がけるときにはよく見られる。音をつめすぎない、余白のある音楽。これにより映像やストーリー、風景、俳優さんの感情や観る人の感情に寄り添うかたちで、かつ、印象的に際立つのかもしれない。

また近年の作品に多いが、変拍子のメロディが増えている。でも、なぜか不思議と変拍子としての違和感がない。そのままきれいにメロディとしてリズムとして流れているので不思議。曲構成として映像のいわゆる細かい尺に合わせるために、タイミングやタイムを要所要所で合わせることはあってもメロディラインとしてここまで変拍子がきれいに成立しているのはすごい。特に今作品のようなシンプルな主題曲だと、シンプル=簡単のように思ってしまうが、いざ譜面を見たら、おそらく聴いた印象よりも標記の多い楽譜になっているはず。

メインテーマをピアノにメロディラインを配置しているあたりがこの作品を象徴しているのかもしれない。しかも、メロディの冒頭は、まさに片手で、数本の指で弾けるくらいの、メロディ旋律のみを大胆にもってきているアレンジ。メロディが凛と立っているからこそ、できる業なのかもしれない。

春に聴けば桜が舞い、夏は木漏れ日、秋は紅葉と秋桜、冬は暖を囲む居間、そんな四季折々の日本家族や日常生活を表現した音楽。

 

 

久石譲 『東京家族 オリジナル・サウンドトラック』

1. プロローグ
2. 初めての東京
3. 夫婦
4. 丘の公園
5. 東京観光
6. うなぎ屋の親子
7. ホテル
8. 観覧車
9. 孤独
10. 若者たちへ
11. 約束
12. 母さんの死
13. 病院の屋上で
14. 紀子へ
15. 東京家族

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio, ABS Recording

Recording & Mixing Engineer: Hiroyuki Akita
Manipulator: Yasuhiro Maeda (Wonder City Inc.)

and more

 

Disc. 久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

2012年9月12日 CD発売 UMCK-1414

 

2012年公開 映画「天地明察」
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 出演:岡田准一 宮﨑あおい 他

 

 

INTERVIEW

監督との共同作業は、音楽をつくるうえで理想的な環境でした

滝田洋二郎監督とご一緒するのは3作目になります。『壬生義士伝』(02)と『おくりびと』は自分にとっても大事な作品になりましたから、今回のお話をもらったときも、一も二もなくやらせていただきたいと思いました。

通常、音楽は撮影後に制作することが多いのですが、『おくりびと』のときに、主人公の弾くチェロの曲だけは先に必要で撮影前に書いたんです。滝田監督は、先にテーマとなる音楽があると現場で表現できることの幅が広がる、作品を象徴する世界観の全体像を掴むことができる、と喜んでくれて、今回も早い段階から曲づくりに取りかかりました。撮影の途中にピアノだけのサウンドスケッチを1曲つくり、お送りしたのですが、うえを見あげ跳躍するような、シンプルだけどメロディの出だしに特徴のある曲にしました。監督に気に入っていただいて、結局その曲がメインテーマになったんです。

今回は、時代劇というよりも、ひとつの夢を追い続ける人間が夢をかなえていく、青春ドラマの側面に焦点を当てて楽曲をつくりました。もちろんメインテーマのさびの部分には、日本音階的な雰囲気を入れていますが、滝田監督もいかにも時代劇風の音楽は望まれていませんでしたし、僕自身も、これは現代の人に見てもらう映画ですから、時代劇にはこだわらないようにしようと。スケール感や希望を感じさせることを大切にしつつ、オーケストラによって、あたかも全体がひとつのシンフォニーのようになればと思いました。

これまでに、さまざまな監督の作品に参加させていただいてきましたが、滝田監督はとても丁寧な演出をなさるので、僕の音楽がなくともお客さんを魅了できると思うところもあるんです。だから、僕の役割は一歩引いたスタンスから、滝田監督の撮られた映像を包み込む音楽をつけることだと思っています。僕は、芝居がよければ音楽は極力入れないほうがいいと思っているんですよ。芝居で伝えている感情を音楽でなぞる必要はないですから。芝居がよければ、引いた感じの音楽を載せるだけで相乗効果が生まれます。『おくりびと』のときはそれこそ引き算で、どれだけ音楽をつけないかというのが僕にとってのテーマだったりもしたんです。ただ『天地明察』は青春ドラマの要素もあるので、音楽の量は若干増やしましたけど、基本的には画角を支える存在でありたいというスタンスで音楽をつけていきました。

それから今回は、音楽で芝居のリズムに変化をもたらせないかと考えました。具体的に言うと、安井算哲が梅小路を走るシーンでラテン系の音楽が流れるのですが、クライマックスへの導入部分でもある場面なので、物語の句読点、アクセントになればと思い、提案させていただきました。

滝田監督は音楽を知り抜かれていますから、求められるハードルも高いんです。でも、音楽を大切に扱ってくださるからやりがいがあります。特に今回、いままでよりもさらに明確なビジョンを音楽に対しておもちでしたし、僕からも具体的な提案ができました。映画音楽をつくるうえでの共同作業としては、理想的な環境でしたね。

(映画「天地明察」劇場用パンフレット インタビューより)

 

 

 

 

全編フルオーケストラ。江戸時代という時代背景ながらも、天文学というストーリーからか、天を仰ぎ見るような、澄みきった音楽たち。

メインテーマの(25) (27)、(25)が純粋なフルオーケストラなのに対して、(27)はリズムパーカッションが加わる。そればかりかオーケストレーション・構成・編曲も異なる。メロディーラインを奏でる楽器が違うかと思えば、それに合わせてアレンジも変わっている。

どちらもしっかりと成立した芯のある2曲だけれど、どちらかと言われれば(27)のほうが起伏に富んだダイナミクスな構成にはなっている。少し聴いただけでは(25)と(27)のこまかい違いはわからない。聴き比べると、聴きこむと、そしてなぜ2曲を並べたのか考察するのもおもしろい。

メインテーマをモチーフにした(1) (3) (8) (9) (13) (14)、心温まる美しい旋律のラブテーマともいえる(6) (18) (21)、星空を天体観測しているような高音の旋律がまばゆく輝いている。

またこの作品ならではの佳曲(2) (4) (15)などは、天文学的、数学、そこからミニマル・ミュージックの要素が垣間見える。全面にではなく、アクセント、隠し味くらいのさじ加減。

 

 

久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

1. プロローグ
2. 好奇心
3. 初手天元
4. 真剣勝負
5. 予感
6. えん
7. 北極出地-開始-
8. 星の申し子
9. 見事なる誤問
10. 北極出地-不穏-
11. 北極出地-建部-
12. 任命
13. 観測
14. 確信
15. 三暦勝負
16. 襲撃
17. 挫折
18. 祝言
19. 発見
20. 勅使
21. 約束
22. 最終勝負
23. 決断
24. 運命の刻
25. 天地明察
26. フィナーレ
27. TENCHI MEISATSU

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

2012年5月1日 CD発売 PSC-0001

 

2012年公開 映画「この空の花 -長岡花火物語」
監督:大林宣彦 主題曲:久石譲 主題歌:伊勢正三
挿入曲:パスカルズ サックス演奏:坂田明 映画音楽:山下康介
出演:松雪泰子 高嶋政宏 他

 

 

映画物語が、音楽で紡がれる。
學 草太郎(映画音楽作家)

01 これまでのように心地良く抒情的な音楽ではなく、何か心にゴツーンとくるような、拳を強く握りしめたような音楽を、という監督のオーダーに久石譲が応えて、黒人霊歌のようにシンプルなメロディーだが祈りを籠めた主題をボレロのように繰り返す、というコンセプトで作曲されたメインテーマがこれ。映画の冒頭部、メインタイトル部分に物語の序章として誘うように忍び込んでくる。一気に映画に吸い込まれていく痺れ感が魅力。久石譲が17年の空白を経て大林映画に復帰した、その緊張感が聴く者に至福感を醸造する。それがこの導入部の枝となっている。

02 映画全編が、冒頭で呈示された久石譲によるメインテーマの繰り返しである。それが大林映画によって発見され、久石譲が去った後の大林映画を17年に渡って担当して来た「天才少年」山下康介の名アレンジによって、見事な映画音楽として物語を紡いでゆく。物語のヒロイン、長崎原爆の被爆二世である天草の新聞記者・遠藤玲子が、ワンダーランド長岡を訪れ、様ざまな戦争についての出来事を知り、この里に迷い込んでゆく。その最初の一日目の不思議を描いた部分。山下康介は久石譲のメインテーマをモチーフに、押さえた表現で以降の展開に期待をつないでゆく。山下は実は近年、久石音楽のアレンジャーを勤めてもいたのである。監督と音楽家とのジョイント役として、完璧で見事な安定した滑り出しを音楽で造形し、音楽劇の演出として楽しんで戴きたい。

03 死者の霊がいまも目覚めて呼び掛けてくる。柿川の辺りを地元の新聞記者・井上和歌子に案内され、この川で一才半で死んだ少女から、いまは忘れられた戦争の物語に引き寄せられてゆく。そしてこの里を襲った中越地震、更には戊辰戦争の記憶が、玲子の現在は戦争に深く係っていると実感させてゆく。様ざまなモチーフがメインテーマの巧みな返送で綴られ、聴者の感情は揺さぶられ続ける。

04 東日本大震災から避難してきた少年との出逢い。若者の未来を望む明るさが光る。

05 古里の山の豊かな自然の恵みと、自然災害の中で生きる知恵。音楽は物語に溶け込み、意識に昇らぬまま感情を支える。映画音楽の古典的手法をじっくり味わって欲しい。

06 いよいよ物語の舞台は主題の中核へ。冒頭の密やかなアメリカ国歌から、敵機来襲の悲劇へと急速に落ちてゆく。以降、07、08と過去の記憶と現代の日常との間を激しく往き来する場面の中を音楽が重層的に結んでゆく。殊に09の坂田明演ずる片腕のサックス演奏と空襲の惨劇とのコラボレーションが生む劇的興奮は、思わず息を飲むエモーション。

10 花火による古里再生への祈りから、伝説の花火師・野瀬清治郎のシベリア抑留と、アムール川での追悼の花火打ち上げを描く11へ。

12 そして、かつて玲子が東京で共に若き日を過ごした片山健一が指導する、甦りの子どもたちが演じる戦争の劇。いまこの記憶を伝え切れば、次に起こるかも知れない戦争から未来を救えるか。間に戦争の記憶を挟んで、互いに見つめ合う玲子と健一。メインテーマが交叉する中を、音楽は強く思いを伝えてゆく。

13 山下清演じる石川浩司とパスカルズのメンバーが奏でる劇中曲。B-29から投下される焼夷弾が、過去を伝え未来を生きる子どもらの祈りによって、次つぎと美しいこの空の花、花火に変わってゆく。パスカルズのメンバーがこの映画にプレゼントした『花火』は、人間の祝祭を称え、未来の希望を紡ぎつつ、久石譲のテーマに結びついて14の大団円に帰する。めくるめく音楽的眩暈の時。

15 それぞれの最終章。別れは次なる出逢いの準備であるのか。久石譲のテーマが永遠の時を醸し出す。淡淡と、穏やかな日常に。

16 大林=伊勢の映画三作目のジョイントにして初のオリジナル。正やんはこの作詞に半年を苦吟した。監督と共に大人として、未来を生きる子らに過去を伝え、希望を手操り寄せようと。エンディングに歌われるこの歌は、そのまま久石譲のメインテーマと結び合って映画のエンドマークの無い未来へ向う。大林=久石=伊勢=山下の魅惑の最終章。

BONUS TRACKとして、17は正やんに代ってご自身で歌いながら、この映画の中を彷徨ってください。18は譲さんのプレゼントのメインテーマ・単独ヴァージョン。長岡花火「この空の花」の打ち上げ時に、永遠の平和を祈る。

(CDライナーノーツより)

 

 

主題曲 メインテーマとなる(1) (18)のみを担当している。ガラス玉のような、故郷のよき夏を連想させるメロディーからはじまる。懐かしさと、子供の頃の夏のワクワク感、陽が沈むのが遅い長い夏を。ボレロのようなリズムが、その胸の鼓動を打つよう。

(18)ではこのメインテーマがより躍動的になっている。変拍子のリズムが、緩急よく、また間髪入れずに打ち上がっては花開く、さまざまな打ち上げ花火の風景を。ボレロのリズムで一体感を持ち、メインテーマが展開していく。弦の細かい高音の粒たちが、空に高く舞い上がっていく花火の瞬間を。

夏の名曲が『Summer』ならば、『この空の花』(1) (18)は、まさに“夏の花火”の名曲。隠れた渾身の1曲だと思う。

 

 

久石譲 『この空の花 -長岡花火物語 オリジナル・サウンドトラック』

1. この空の花(久石譲によるメインテーマ)
2.戦争からの手紙
3.柿川の少女の記憶
4.東日本から来た少年
5.古里に生きる
6.1945年8月1日の敵機襲来
7.想像力と生と死と
8.空襲と舞踏と母
9.焼夷弾をサックスで(坂田明 作・演奏)
10.自然災害と空に咲く花
11.祈りと再生の叙情詩
12.まだ戦争には間に合いますか
13.花火(パスカルズ 作・演奏)
14.世界中の爆弾を花火に
15.お別れは一度だけ
16.それは遠い夏(伊勢正三 作・歌)
&この空に祈りを(久石譲によるエンディング)
BONUS TRACK
17.それは遠い夏(歌唱用楽曲)
18.この空の花(久石譲 作曲)

#2~16,18 久石譲のモチーフによる山下康介 作・編曲映画ヴァージョン
#17 伊勢正三のモチーフによる山下康介 編曲ヴァージョン

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』

2012年2月22日 CD発売 TOCT-28060

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とするスペシャルドラマ「坂の上の雲」。日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んだスペシャルドラマである。音楽を手掛けたのは日本を代表するコンポーザー久石譲。

本作は2009-2011年に発表されたサウンドトラック3作品より第1・2・3部の番組メインテーマを一挙収録&人気の高い楽曲を中心に収録した総集編。

壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひらすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

『坂の上の雲』の音楽

スペシャルドラマ『坂の上の雲』の音楽担当の話が来たのはもう7、8年前になります。司馬遼太郎さんの原作が大好きでしたから、ぜひ担当したいとお引き受けしました。

『坂の上の雲』についてはトータルで約80曲作りました。自分ではテレビドラマというより映画音楽として考えて作りました。通常のテレビドラマの音楽は1分とか1分半などの短い曲をたくさん作るようですが、僕は3分前後の曲を多く書いたので、実質膨大な量になりました。今回の作品は現代音楽からメロディアスな音楽まで、自分が作ってきたすべてを総動員して力を入れて作りました。今は3年間の放送を終えてとても嬉しい気持ちです。

最も重要だったのはやはりメインテーマです。番組の顔に相当するメインテーマをどう作るのか一番時間をかけて悩みました。

明治という時代には前体制が壊れて新しい体制に向かっていく楽天主義的な夢がたくさんある。そういう世界観を描きたい。最初にスコットランドやアイルランドの民謡が頭に浮かびました。素朴でどこか懐かしい。いつまでも心に残るような。そんなテーマ曲が書けないかと思いました。

そしてこれだけスケール感あるドラマなら音楽はシンプルにしたい。特にメインになる曲はどこまでシンプルにできるかにこだわりました。また、この物語は「英雄物語」ではなく、一生懸命生きた人間が巨大な戦争に巻き込まれていく話です。歴史の重要な1ページを描くには品格のある音楽を、しかもドラマティックすぎずに描かなくてはいけない。結果として誕生した曲がメインテーマ「Stand Alone」でした。そしてこれだけシンプルだったら、ぜひ皆さんに歌っていただきたいと思い、映画『おくりびと』の脚本家、小山薫堂さんの詞を得て”歌”にしました。

考えてみると、小学校の教科書には「蛍の光」「ロンドンデリーの歌」といったスコットランドやアイルランドの民謡が載っています。江戸から明治に時代が変わるとき、イギリス文化が取り入れられました。そして音楽教育のベースにもそういった音楽があったんです。僕たちは小さい頃からそういった音楽で育っているんですね。意識していなかったのですが、スコットランド民謡のような曲を書こうと思ったこと、最初にイギリス人歌手であるサラ・ブライトマンを起用しようと思ったこと、『坂の上の雲』の音楽を作るにあたってすべてが”イギリス”に向いていました。自分の中にある”イギリス”は『坂の上の雲』の音楽を作らせた大きな要因の一つでした。

昨年震災が起こりました。モノを創る人間として大変大きな衝撃がありました。何を目指して作っていけばよいのか、みんな分からなくなってきています。また、21世紀に入ってから今までの価値観ではやっていけないという事実に直面しています。そんな中、今回の音楽にかけて言うなら大事なのは”Stand Alone”という境地ではないかと感じています。

”Stand Alone”とは独りで立つということ。個人主義ではなく、自分は孤独で独りである、と認識すること。そうすれば人にやさしくすることも、人と力を合わせることも喜びに感じる。僕は最近、「目ざせ、Stand Alone」ということを懸命に考えています。

久石譲

(本原稿は2011年12月3日大阪府東大阪市:司馬遼太郎記念館/特別講演会「坂の上の雲と音楽」より談話を一部抜粋・加筆して再構成したものです)

(CDライナーノーツより)

 

 

「音の光」

知人から、時々こんなことを言われる。
「Stand Aloneというタイトルが、まず素晴らしいですね」

実はこのタイトルは僕がつけたものではない。作曲者の久石譲から曲をいただいたとき、すでに「Stand Alone」という素敵なタイトルがつけられていた。

久石さんの曲を聴く前に、まず脚本を読むことにした。イメージを膨らませて、言葉の欠片をできるだけたくさん頭の中に並べ、すでに出来上がっている曲とお見合いさせようと思ったからだ。

しかし、物語は壮大過ぎた。人間の尺度で話は紡がれるが、それは国、やがては時代のスケールで語られる。この世界観をそのまま歌にするのはとても難しい。それでも、時を経ても色褪せることのない普遍的な楽曲にしたい、と思った。

言葉に行き詰まってしまった時、初めて楽曲を聴いた。背筋をピンと伸ばし、誰もいない仕事場で大きく深呼吸して、CDプレイヤーのプレイボタンを押したのを覚えている。

それから先、どういう想いのもとにこの詞が完成したかは、あえて伏せておくことにしよう。ドラマの主題歌として皆さんがそれぞれのイメージを抱いている今、その誕生秘話を語るなんて野暮な話だ。

ただ…、ひとつだけ明かすとするならば、僕の頭の中にはずっと「光」のイメージがあった。闇の中にいる人たちにとって、この歌が「光のような存在」になればいいと思った。

光を一方的に求めているだけでは何も始まらない。人間ひとりひとりが自分なりの光を見つけ出し、それを仲間と共有したときはじめて、私たちは大きな光に照らされるのである。

そう、「Stand Alone」とは、音の光。もしこの楽曲が、あなたの心を照らすささやかな光になっているとするならば、僕がこれ以上語ることは何もない。

小山薫堂

(CDライナーノーツより)

 

 

「私がNHKの知り合いのディレクターから「坂の上の雲」の音楽担当を依頼されたのは、もうずいぶん前のことです。大好きな作品だし、ぜひやりたいと思った。2011年で放映3年目。司馬さんは他の作品にも通じますが、秋山好古、真之兄弟のように、本当のエリートではなく2番手3番手に光を当てるのがとてもうまいですね。最初の第1部は青春期、第3部は二◯三高地の戦いと日本海海戦と決まっていましたから、第2部は少し心配していたんですが、子規の死にポイントをあててうまくいった。渡辺謙さんのナレーションと、よく合っていました。番組の最後に流れるテーマ曲「スタンドアローン」は、第1部はサラ・ブライトマンのスキャット、第2部は森麻季さんの歌、第3部はコーラスを入れました。第3部は「救済の音楽」。希望の見える音楽をテーマにしています。」

Blog. 「週刊 司馬遼太郎 8」(2011) 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』

1. Stand Alone for Orchestra
2. 時代の風
3. 旅立ち
4. 青春
5. Human Love
6. Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲
7. 少年の国
8. アリアズナ
9. 終の住処
10. 広瀬の最期
11. Stand Alone 歌/森麻季(ソプラノ)
12. 第三部 序章
13. 絶望の砦 ~二〇三高地ニ起ツ~
14. 天気晴朗ナレドモ波高シ
15. 日本海海戦
16. Stand Alone 久石譲×麻衣

ボーナス・トラック
17. Saka No Ue No Kumo

Total Time:約83分

音楽/久石譲
指揮/外山雄三 演奏/NHK交響楽団 (M1-6, M11, M15-17)
指揮/久石譲 演奏/東京ニューシティ管弦楽団 (M7-10, M12-14)

All Music Composed and Produced by 久石譲

Piano by 久石譲 (M6, M11)

Orchestrated by 山下康介 宮野幸子 久石譲

Recorded at
NHK CR-506, CR-509 (M1-6, M11, M15-17)
Nemo studios (M6)

Mixed at NHK CP-604, CR-506

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』

2011年11月9日 CD発売 TOCT-28020

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とするスペシャルドラマ「坂の上の雲」。日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んできたスペシャルドラマである。音楽を手掛けるのは日本を代表するコンポーザー久石譲。

本作は「ドラマ第3部」のために録音された新曲と「ドラマ第1部・第2部」使用曲より第1弾・第2弾サントラ未収録曲をまとめて一挙収録した豪華盤。視聴者の皆様から人気の高い「Stand Alone」の新ヴァージョンも収録。

壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひたすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

寄稿

曲が自分を追い越していきました。

身体を通過して、物語を通過して、知らないうちに久石さんの音楽が物語の高揚感とか、もしくは後味みたいなものを先導している形になっていました。

一言でいえば頼もしいというか、守られているというか。ドラマの撮影中「Stand Alone」にそんな不思議な力を感じていました。

本木雅弘

(NHK BS「ザ☆スター」インタビューより談話抜粋・一部加筆修正)

(CDライナーノーツより)

 

 

久石譲さんのマジック

スペシャルドラマ「坂の上の雲」第3部は戦争を描いている。映像では砲煙が立ち込め、激しく土煙が舞い上がる。銃口からは火花が散り、何隻もの軍艦が波しぶきを立てながらターンしてゆく。戦争の映像を作るために、制作現場も戦争のようになっている。最新の映像合成技術は凄まじく、リアルな戦場の映像を作り出してゆく。しかしドラマ制作の手間が減った訳ではない。コンピューターのキーを叩けば映像が生み出されるものではなく、結局は手作業だ。多くのスタッフが精魂込めて作業している。職人仕事の積み重ねで映像ができてゆく。この10年間で、撮影から放送にいたるドラマの制作環境はデジタルへと変わったが、やることは変わらない。デジタルを使ったアナログな作業だ。議論と試行と失敗とを積み重ね、現場から番組が生まれる。

音楽も同じであると思う。久石譲さんとわれわれスタッフが議論を積み重ね、できるだけ音楽イメージを共有しようとする。音楽という言葉にならないものについて話し合っている現場は、傍からはかなり滑稽に見えるかもしれない。しかし、音楽が生まれる端緒はそういう現場である。

議論の場における、われわれのある種滑稽な言葉と未完成の映像が、久石さんのもとに残される。そこからは久石さんの作曲家としての孤独な作業だ。ドラマは大勢のスタッフと出演者の共同作業によって作られるが、その中でも孤独な仕事を強いられるのが脚本家と作曲家である。しかし、その孤独な仕事から生み出されるものは素晴らしい。脚本家の原稿の一行が迫真の映像となり、作曲家のスコアは大編成のオーケストラが奏でる美しい音響となる。

第3部の音楽では、ひとつだけわがままを言った。メインテーマである「Stand Alone」を麻衣さんに歌ってほしいということである。麻衣さんは久石さんの娘さんで、3年前に「Stand Alone」のデモを聴いたときに歌っていたのが麻衣さんだった。そのときの鮮烈な印象が忘れられず、是非にとお願いした。

新しい「Stand Alone」を聴いたとき、「鎮魂の祈り」と「未来への希望」という言葉が浮かんだ。このドラマの締め括りにふさわしい音楽になった。ひとつの曲がドラマの各部ごとに変貌を遂げたというだけでなく、この3年間の社会の変化を敏感に反映しているように感じる。久石さんのマジックである。

2011年9月

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

(CDライナーノーツより)

 

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』

第3部:新録音楽曲より
1. 第三部 序章
2. 孤影悄然
3. 大地と命と
4. 煉獄と浄罪
5. 二人の将
6. 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~
7. 海と命と
8. 天気晴朗ナレドモ波高シ
9. AIR
10. 運命の死地
11. 日本海海戦
12. 終曲
13. Stand Alone 久石譲×麻衣

第1部:未収録楽曲より
14. 少年の国 III
15. 夢
16. Stand Alone for Clarinet & Glockenspiel

第2部:未収録楽曲より
17. 大英帝国のテーマ
18. 獣たちの宴
19. 赤い花

ボーナス・トラック
20. Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲
21. Saka No Ue No Kumo

Total Time:約72分

音楽/久石譲
指揮/外山雄三 演奏/NHK交響楽団 (M11, 第3部メインテーマ:M13, M21)
指揮/久石譲 演奏/東京ニューシティ管弦楽団

All Music Composed and Produced by 久石譲

Piano by 久石譲 (M20)
Vocal by 麻衣 (M9, M13)
Chorus by 栗友会合唱団 (M13, M18)

Orchestrated by 山下康介 宮野幸子 久石譲

Recorded at NHK CR-506, CR-509 (M11, M13, M21) Nemo Studios (M20)
Mixed at NHK CP-604, CR-506

 

Disc. 久石譲 『The Best of Cinema Music』

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

2011年9月7日 CD発売 UMCK-1404

 

2011年6月9日東京国際フォーラムにて開催された「久石譲 3.11 東日本大震災チャリティー・コンサート」を収録したライブ音源。スタジオジブリ作品、北野武監督作品など自作の映画楽曲を中心に演奏。舞台上に大スクリーンを設置し、映像と音楽によって作品世界を演出。スクリーンに映し出される名場面とオーケストラによるテーマ曲たちの競演。

 

 

もう今は夢を語るときではない
- 東日本大震災に寄せて -

久石譲

(CDライナーノーツ および コンサート・パンフレット 同掲載)

 

 

”ぼくたちのストーリー”を語り始めた久石さんの音楽

「オーケストラは社会の鏡(An orchestra is a reflection of society)」という言葉がある。オーケストラは弦楽器、管楽器、打楽器など、個性溢れるさまざまな楽器が集まり、共に手を携え、ひとつのハーモニー(調和)を生み出していく。では、オーケストラの楽器が欠けたらどうするか? 例えば、オーケストラが海外公演をする際、手荷物の不着なので楽器が届かなかった場合には、現地のオーケストラが手を差し伸べ、楽器を貸し出すのが普通である。ぼくたちが生きる現実社会についても、同じことがあてはまる。今回の東日本大震災において、”日本という名のオーケストラ”は本当に多くの支援-あたたかいメッセージや義援金など-を世界中から受け取った。だから、震災で楽器を失った子供たちのために、久石さんが楽器購入支援のチャリティーコンサートをオーケストラと共に(ここが重要だ。その気になれば、ピアノ一台でもチャリティーコンサートは出来るのだから)開催するというニュースを知った時、映画音楽とクラシックの演奏活動を通じてオーケストラと日常的に接している久石さんならではの、とても素晴しいアイディアだと思った。子供たちに再び楽器を与えることは、音楽の喜びを取り戻すだけでなく、アンサンブルをすることの大切さを通じて-それがバンドであれ、吹奏楽であれ、オーケストラであれ-子供たちが社会というものを意識していく、強力な手段のひとつとなるからだ。

しかも久石さんは、今回のコンサートを単なる”自選ベスト”にはしなかった。3年前の武道館コンサートの時のように、舞台上に大スクリーンを設置し、映画と音楽が生み出す相乗効果-それこそが映画音楽の真の醍醐味である-を生の形で再現しようとしたのだ。幸運にもぼくは6月9日の東京公演を見ることができたが、『風の谷のナウシカ』~《風の伝説》のティンパニの強打で始まった約2時間のコンサートは、とても感慨深く、また新鮮な驚きに満ち溢れていた。映像付きの再演は困難と思われていた『THE GENERAL(キートンの大列車強盗)』の優雅なワルツが、白塗りのキートンの無表情と共に再び聴けたのは望外の喜びだったし、『Let the Bullets Fly(譲子弾飛)』の勇壮なマーチが、ダイナミックな銃撃戦の映像と共に演奏されるのを聴けば、一刻も早く本編を見たくなるのが人情というものである。

だが、コンサートはそれだけでは終わらなかった。

驚くべきことに、久石さんが指揮する音楽と、スクリーンに映し出された名場面の数々は、単に映画音楽の魅力と楽しさを伝えるだけでなく、映画の本編とは別の”もうひとつのストーリー”を語り始めたのである。

『風の谷のナウシカ』-暴走する王蟲の大群に呑みこまれたナウシカと、彼女に再生の力を与える《遠い日々》の清らかなコーラス。

『もののけ姫』-技術のために森を切り崩した傲慢な人間に襲いかかる、《タタリ神》の凶暴な和太鼓とホルンの咆哮。

『菊次郎の夏』-健気に生きていく天涯孤独の少年を温かく見守る、《Summer》の軽やかなピアノのメロディ。

『Brother』-閉塞した現状の中で怒りを爆発させるような、《Raging Men》の荒々しいパーカッション。

『Kids Return』-「俺たち、もう終わっちゃったのかなあ」「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねえよ」というラストのセリフと共に始まる、躍動感溢れるミニマルビート……。

そう、このコンサートで演奏された曲たちは、震災を体験した”ぼくたちのストーリー”を語り始めていたのだ。社会の鏡たるオーケストラが、映画という鏡を通じて”今ここにある現実”を映し始めたのである。

そのことに気づいた瞬間、ぼくはとてつもなく大きな衝撃を受けた。これまで30年近くに渡ってリアルタイムで親しみ、熟知してきたはずの久石さんの映画音楽が、全く違って聴こえ始めたからだ。「音楽は、あらゆる哲学や知識よりも高度な啓示である」とはベートーヴェンの言葉だが、この日演奏された曲たちは”今ここにある現実”を改めて目の前に突きつけたという点で、まさにひとつの啓示だった。ある人はそれを「既視感」と呼ぶかもしれないし、別の人はそれを「現実とのシンクロ」と表現するかもしれない。いずれにせよ、久石さんの指揮する音楽とスクリーン上に映し出された映像は、エンタテインメントという名の現実逃避から遠く離れ、”日本という名のオーケストラ”が置かれた現状を、ぼくたちに必死に認識させようとしていた。

コンサートの終わり近く、久石さんはソプラノの林正子さんと共に『悪人』~《Your Story》を演奏し、久石さんが被災地で撮影してきた生々しい写真をスクリーン上に映し出した。

What we both long a place, sweet home
If I could un-wine the time and stay with you
僕たちが求めるもの、それは安らげる安堵の場
もっと側にいたい、時計の針を戻せるのなら

この歌詞が歌われた瞬間、《Your Story》は映画音楽という枠を越え、”ぼくたちのストーリー”と完全に同化した。その場に居合わせた聴衆のすべてが、《Your Story》に込められた痛切な想いを”My Story”として受け止めたのである。おそらく、ポーランドでも大阪でもパリでも北京でも、聴衆の気持ちは同じだったはずだ。

でも、久石さんは、震災の悲劇を嘆き悲しむだけでコンサートを終わらせなかった、「ともに生きること」の大切さを高らかに歌い上げた『もののけ姫』~《アシタカとサン》のコーラス。土の中から芽を出したドングリの大樹そのままに、明るく壮大な響きを奏でた『となりのトトロ』のオーケストラ。ぼくにはそれが、これから”日本という名のオーケストラ”が鳴らしていくべき”復興のシンフォニー”の序奏のように思えてならなかった。

ぼくは、このコンサートを一生忘れないだろう。

前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

(CDライナーノーツより)

 

 

本作はライブ音源なので、スタジオ録音されたもの、本作の楽曲構成に近い過去参考CD/DVDを中心に解説。

(1) NAUSICAÄ (映画『風の谷のナウシカ』より)
オープニング「風の伝説」~レクイエム~メーヴェとコルベットの戦い~遠い日々~鳥の人
約10分に及ぶ壮大な組曲。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-ray)と同構成。ライブ映像音源。「WORKS I」17分にも及ぶ交響詩全3部として収録。本作はここからのダイジェスト版に相当する。

(2) Princess Mononoke (映画『もののけ姫』より)
アシタカせっき~タタリ神~もののけ姫(Vo:林正子)
約8分に及ぶ組曲。本作では主題歌『もののけ姫』が英語歌詞になっている。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。日本語歌詞。「真夏の夜の悪夢」同構成ライブ音源。主題歌『もののけ姫』はオーケストラ・インストゥルメンル。「交響組曲 もののけ姫」メドレーとなった3曲の各々オーケストラスコアをチェコ・フィルの演奏にて。「WORKS II ~Orchestra Nights~」「交響組曲 もののけ姫」の同構成各曲ライブ音源。

(3) THE GENERAL (映画『THE GENERAL(キートンの大列車追跡)』より)
「WORKS III」Movement1~Movement5 として組曲で構成。本作ではメインテーマを中心に抜粋。

(4) Raging Men (映画『Brother』より)
「WORLD DREAMS」新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラの演奏。「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」同構成ライブ音源。

(5) HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
「WORKS II ~Orchestra Nights~」同構成ライブ音源。「WORLD DREAMS」ピアノが編成から外れた違った表情豊かなフルオーケストラ。

(6) Kids Return (映画『Kids Return』より)
「SUPER ORCHESTRA NIGHT 2001」同構成ライブ音源。

(7) Let The Bullets Fly (映画『譲子弾飛』より)
初フルオーケストラ。

(8) Howl’s Moving Castle (映画『ハウルの動く城』より)
Symphonic Variation 「Merry-go-round」~Cave of Mind
約11分に及ぶ組曲。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。「WORKS III」原型となる約14分の組曲を新日本フィルの演奏にて。

(9) One Summer’s Day (映画『千と千尋の神隠し』より)
「メロディフォニー」ロンドン交響楽団の演奏。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay) 平原綾香(Vo) 本作と「メロディフォニー」では、ピアノをメインにしたしっとりと聴かせるオーケストラ・アレンジ。

(10) Summer (映画『菊次郎の夏』より)
「メロディフォニー」ロンドン交響楽団の演奏。「空想美術館」ライブ音源。

(11) Villain (映画『悪人』より)
初フルオーケストラ。約11分に及ぶ組曲、映画のストーリー展開に沿って構成。クライマックスの主題歌『Your Story』ヴォーカルはソプラノ歌手:林正子。「悪人 オリジナル・サウンドトラック」では福原美穂がヴォーカル担当。

(12) Ashitaka and San (映画『もののけ姫』より)
本作でも日本語歌詞合唱。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)と同構成。ライブ映像音源。「交響組曲 もののけ姫」「WORKS II ~Orchestra Nights~」 (2)同様参照。

(13) My Neighbour TOTORO (映画『となりのトトロ』より)
本作では主題歌『となりのトトロ』のみを英語歌詞合唱。

「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)風のとおり道~さんぽ withコーラス~となりのトトロ withコーラス メドレー。こちらではもちろん『さんぽ』『となりのトトロ』日本語歌詞合唱。

「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」映画『となりのトトロ』のすべての楽曲をオーケストラアレンジした作品。『風のとおり道』もフルオーケストラにて聴くことができる。オープニング/エンディング曲『さんぽ』『となりのトトロ』はオーケストラ・インストゥルメンタル。『さんぽ』においては、オーケストラの楽器紹介をかねた構成になっていて1番を木管楽器、2番を金管楽器、3番を弦楽器、4番を弦楽器、そして最後に全員フルオーケストラで、という趣向のある1曲になっている。

「メロディフォニー」主題歌『となりのトトロ』のみをロンドン交響楽団による演奏にて。コーラスなしのオーケストラ・インストゥルメンタル。(「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」収録同曲と同構成)

 

このチャリティーコンサートは、東京・大阪・パリ・北京にて公演されている。プログラムはほぼ同じと思うが、本作に収録されていない楽曲ももちろんある。

そのなかでも映画『崖の上のポニョ』からの組曲『Ponyo on the Cliff by the Sea』。本作に収録されたジブリ作品は、「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~」(DVD&Blu-lay)でのそれに近いが、組曲『Ponyo on the Cliff by the Sea』においてはかなり変更、進化している。組曲となる曲目構成も変更されていて、より緻密でダイナミクスなオーケストレーションになっている。クライマックスを飾る主題歌『崖の上のポニョ』もオーケストラがメロディーを奏でていて、サビは英語歌詞のコーラスにて大合唱となっている。収録されなかったのが非常に残念、ぜひ別の機会にでもCD/DVD化してほしい。

このチャリティーコンサート公演と本作CDの収益は東日本大震災で楽器を失った子供たちのために寄付されている。

 

 

 

 

なお、CD帯裏にはこのような記載がありCD発売当時Web閲覧することができた。

「久石譲3.11 チャリティーコンサート」で上映した久石譲監修による東日本大震災へ寄せたメッセージ映像の一部を期間限定特設サイトで公開しております。詳細は商品にてご確認下さい。

 

 

 

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

1.NAUSICAÄ (映画『風の谷のナウシカ』より)
2.Princess Mononoke (映画『もののけ姫』より)
3.THE GENERAL (映画『THE GENERAL(キートンの大列車追跡)』より)
4.Raging Men (映画『Brother』より)
5.HANA-BI (映画『HANA-BI』より)
6.Kids Return (映画『Kids Return』より)
7.Let The Bullets Fly (映画『譲子弾飛』より)
8.Howl’s Moving Castle (映画『ハウルの動く城』より)
9.One Summer’s Day (映画『千と千尋の神隠し』より)
10.Summer (映画『菊次郎の夏』より)
11.Villain (映画『悪人』より)
12.Ashitaka and San (映画『もののけ姫』より)
13.My Neighbour TOTORO (映画『となりのトトロ』より)

All Music Composed, Conducted & Produced by Joe Hisaishi
Piano by Joe Hisaishi

Orchestra:Tokyo New City Orchestra , Kansai Philharmonic Orchestra
Soprano:Masako Hayashi 2. 11.

Recorded at
Tokyo International Forum Hall A (June 9, 2011)
Osaka-jo Hall (June 18, 2011)