Disc. 久石譲・高畑勲 『かぐや姫の物語 ~女声三部合唱のための~』

2015年1月21日 CD Single 発売

2013年公開 映画『かぐや姫の物語』
監督:高畑勲 音楽:久石譲

スタジオジブリ作品において、高畑勲と久石譲の初タッグとなった作品。その劇中歌「わらべ唄」と「天女の歌」が女声三部合唱曲として映画の世界を超えて新たに誕生した。

さらに映画本編における主要テーマ曲のひとつ「なよたけのテーマ」に、高畑勲が新たに詞を書き下ろし、「なよたけのかぐや姫」として、インストゥルメンタル楽曲からこちらも女声三部合唱曲として生まれ変わる。

 

久石譲作曲「なよたけのテーマ」は主要テーマ曲であり、高畑勲作曲「わらべ唄」は映画本編の核となる曲であった。映画冒頭でもこのふたつのメロディは久石譲の絶妙なオーケストレーションにより互いに織り重なりかけ合うように流れていたのが印象的。

そんな日本美を感じる旋律と日本語歌詞の楽曲たちが、日本古来の童謡というよりも、さらにおしすすめた未来へ歌い継がれる、現代の合唱曲として緻密につくりこまれた作品となっている。

「なよたけのかぐや姫」は7分に及ぶ合唱曲大曲に仕上がっている。日本語の美しい歌詞とその響きが、女声三部合唱の優美なハーモニーで。複雑に絡み合う旋律と日本語歌詞。ミニマル的な要素や複雑なハーモニーもあって、神秘的で叙情的な調べ。まさに日本語による”ミニマル合唱” “ミニマルコーラス” “ミニマルクワイア”という新しい息吹きが吹きこまれた楽曲である。

今回の女声三部合唱をベースとして、今後「弦楽四重奏版」や「弦楽オーケストラ版」が誕生してもおかしくない、そんな憶測さえ醸しだす、単なる合唱曲ではない、力作かつ意欲作となっている。

 

「わらべ唄」は、映画本編でもおなじみの楽曲である。こちらも女声三部合唱として、メロディーである主旋律を大切にしつつも、三声が追っかけ、かけあい、織りなすハーモニー。4分半の楽曲のなかに「天女の歌」も中盤に盛り込まれるかたちとなっている。

 

 

かぐや姫の物語 ~女声三部合唱のための~

1. なよたけのかぐや姫
作詞:高畑勲 作・編曲:久石譲
2.わらべ唄
作詞:高畑勲・坂口理子 作曲:高畑勲 編曲:久石譲

プロデュース:久石譲
合唱:東京混声合唱団
指揮:山田茂
ソプラノ・ソロ:佐藤祐子 (なよたけのかぐや姫)

音楽収録:すみだトリフォニーホール 2014年12月17日

 

 

「なよたけのかぐや姫」

なよたけの かぐや姫
なぜに こころ ふさぐ
風になり 野をかけた
あの夏の日の におい
うすれてゆく 遠くなる
いつか 帰るゆめをみる
いつか 帰るゆめをみる
あの山をこえ

なよたけの かぐや姫
なぜに こころ さわぐ
さよならも せぬままの
あの秋の日の わかれ
置きわすれた 籠のなか
だれが 食べてくれたやら
だれが 食べてくれたやら
あの山ぶどう

 

「わらべ唄」

まわれ まわれ まわれよ 水車まわれ
まわって お日さん 呼んでこい
まわって お日さん 呼んでこい
鳥 虫 けもの 草 木 花
春 夏 秋 冬 連れてこい
春 夏 秋 冬 連れてこい

まわれ まわれ まわれよ 水車まわれ
まわって お日さん 呼んでこい
まわって お日さん 呼んでこい
鳥 虫 けもの 草 木 花
咲いて 実って 散ったとて
生まれて 育って 死んだとて
風が吹き 雨が降り 水車まわり
せんぐり いのちが よみがえる
せんぐり いのちが よみがえる

 

「天女の歌」

まわれ めぐれ めぐれよ 遥かなときよ
めぐって 心を 呼びかえせ
めぐって 心を 呼びかえせ
鳥 虫 けもの 草 木 花
人の情けを はぐくみて
まつとしきかば 今かへりこむ

 

ちなみに、「わらべ唄」の歌詞にある「せんぐり」とは、
京ことばで【次々に 順番に 順繰り】という意味。

「天女の歌」の歌詞にある「まつとしきかば 今かへりこむ」は、
百人一首 中納言行平の句にも登場する。
映画本編でも台詞として
【本当にあなたが待っていてくれるなら、すぐにでもここへ帰ってきます】と。

 

<タイアップ楽譜>
Score. 久石譲・高畑勲 「かぐや姫の物語~女声三部合唱のための~」 [声楽]

プリント

 

Disc. 久石譲 『柘榴坂の仇討 オリジナル・サウンドトラック』

2014年9月17日 CD発売

2014公開 映画『柘榴坂の仇討』
監督:若松節朗 音楽:久石譲 出演:中井貴一・阿部寛 他

 

 

『柘榴坂の仇討』への想い

脚本を読んで最も心に残ったのは”武士としての矜持”、即ち、何があっても揺るぐことのない武士の魂でした。「メインテーマ」ではその”潔さ”を音楽でも表現しようと心を砕きました。そして仇討を表す「宿命のテーマ」と金吾とセツの「夫婦のテーマ」を含めた三つのテーマをできるだけ立体的に、観る人に広がりを感じてもらえるように構成しました。若松監督は登場人物の心の流れを丁寧に撮られていたので、音楽は芝居から一歩引いて、それぞれの気持ちに寄り添うような形で組み立てたつもりです。映像と距離をとろうと心がけたことが、ささやかな”音楽家としての矜持”だったと言えるかもしれません。
冒頭の曲が書けたときに、今までにない時代劇の音楽の形を作れるのではないかという予感がありました。映像と音楽が一体となって、観客の皆さんの心に届いてくれるならば、とても嬉しく思います。

(久石譲インタビュー CDライナーノーツより)

 

 

上記インタビューにもあるとおり、一言で言えば”押しころした”音楽となっている。

”寄り添う音楽” ”立体的な広がり” ”映像と距離をとる” という言葉のとおり、決してインパクトのある旋律たちではないけれども、その分観る人、聴く人の受け止め方や感じ方に委ねる音楽といえる。

小編成なオーケストラサウンドを基調とし、ひかえめながらも、そこには緊迫感や緊張感という糸がぴんと張っている。一定に刻むストリングスをはじめとして、そこには脈を打つ鼓動のような、息をころす、気配をころすといった、そして激動の瞬間を生きた登場人物たちの宿命や覚悟のようなものが感じられる。

時代の脈打ちともいえるこの一定のリズムが、ただならぬ物語の、そして歴史の1ページを浮き上がらせているよう。”今までにない時代劇の音楽” という言葉にあるとおり、まさにその時代を生きた、それぞれの武士たちの、それぞれの信念や正義、全体をとおして聴いてみると、その鎮魂曲のような響きがしてくる。

 

 

2015年4月3日発売DVD 『柘榴坂の仇討 -特装限定版-』
特典DISCにて「監督・若松節朗×音楽・久石 譲 対談」が収録されている。

約30分にも及ぶスペシャル対談において、本映画の音楽について、随所にそして具体的に語られている。

 

【「雪」を音楽にする】

若松:
最初にオーダーしたのは、「雪」を音楽にするということ。いろいろな雪がイメージできるが、久石さんがどのような雪の音楽を作ってくるのか楽しみだった。

最初に聴いた本編冒頭のM1で驚いた。夢の中で起こる事件の話だったが、サスペンス的な音楽かなと想像していたら、久石さんの楽曲は、とても温かい音楽でまさに雪の音楽だった。

久石:
メインテーマは別にもあるが、この映画ではM1がすごく重要だったかもしれない。

いわゆる時代劇のような音楽ではないほうがこの映画にはいいと思った。時代劇とするよりは、たまたま設定が時代劇で、現在の自分たちととても近いものとしたほうが。

【秋元邸で金吾が涙を流すシーン】

若松:
音楽の止める場所とかものすごく学ぶことが多かった。

久石:
構成の問題もあって、あのあと最後の決闘シーンが控えている。登場人物たちの心情を表現するとしても、音楽はそこにとっておく必要がある。なのでこの場面はあえて突き放して音がないほうがいいと思った。

【映画音楽の作り方】

久石:
今ハリウッドでやっている映画音楽は「効果音楽」。そのシーンごとに切り取ったらぴたっとはまるけれど、全体としては残らない。そこには全体の構成がないから。

これはあまりにもデジタル技術が発達したため、つまりシュミレーションが簡単にできるようになったために起こっている現象だと思っている。

【俯瞰した音楽をつくる】

久石:
映画音楽は一般的に「状況に音楽をつける」「登場人物の心情に音楽をつける」という大きく二つの方法がある。最近はそのどちらでもなく、もう一歩引いたところから、「俯瞰して音楽をつける」ということをしている。そうすることによって作品が言いたいことがより伝わりやすくなったり、より立体的になるように思っている。

以上、インタビュー内容を一部抜粋書き起こし。

 

 

柘榴坂の仇討 サウンドトラック

1. 悪夢
2. 夫婦
3. 敬愛
4. 予兆
5. 宿命
6. 悲愴
7. 決意
8. 本懐
9. 呵責
10. 本分
11. 安息
12. 時代
13. 前夜
14. 永遠
15. 悔恨
16. 寒椿
17. 邂逅
18. 逡巡
19. 覚悟
20. 出発

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』

スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX

2014年7月16日 CD-BOX発売

『風の谷のナウシカ』から2013年公開の『風立ちぬ』まで。
久石譲が手掛けた宮崎駿監督映画のサウンドトラック12作品の豪華BOXセット。
スタジオジブリ作品サウンドトラックCD12枚+特典CD1枚

【商品内容】
<ジャケット>
「風の谷ナウシカ」「天空城ラピュタ」「となりのトトロ」「魔女の宅急便」は発売当時のLPジャケットを縮小し、内封物まで完全再現した紙ジャケット仕様。

<特典CD「魔女の宅急便ミニ・ドラマCD」>
1989年徳間書店刊「月刊アニメージュ」の付録として作られた貴重な音源。

<ブックレット>
徳間書店から発売されている各作品の「ロマンアルバム」より久石譲インタビューと、宮崎駿作品CDカタログを掲載。

<収録CD>

DISC1-12 HQCD (Hi Quarity CD)
DISC1,3,4 LP復刻 紙ジャケット&ライナー
DISC2 LP復刻 紙ジャケット&パズーとシータの複製セル画
DISC5-12+特典CD オリジナル紙ジャケット
34ページブックレット付き

紙ジャケット/封入特典:カタログ・ブックレット/特典CD付

 

 

Disc 1 風の谷のナウシカ サウンドトラック盤 はるかな地へ・・・
久石譲による宮崎駿監督作品最初のサウンドトラック盤。イメージアルバム「鳥の人・・・」、シンフォニー「風の伝説」を基に新たに録音された映画用BGMを収録。1984年2月録音。「レクイエム」のヴォールは当時4歳の麻衣が担当している。

4ページカラーグラフ&スコアーつき(風の伝説 メインテーマ / ナウシカのテーマ)

風の谷のナウシカ LP復刻

 

Disc 2 天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎
映画本編で使用されたBGMを収めたサントラ盤。挿入歌「君をのせて」も収録。ラピュタは4chドルビーステレオを初めて採用した宮崎作品であり、音楽もそれにふさわしく壮大なスケールの内容になった。1986年6~7月かけて制作。

天空の城ラピュタ LP 復刻

 

Disc 3 となりのトトロ サウンドトラック集
映画で使用されたBGMを収録したサントラ盤。「ナウシカ」「ラピュタ」とは一味違った、ほのぼのとした温かさをもつ久石音楽が心ゆくまで楽しめる。オープニング主題歌「さんぽ」、エンディグ主題歌「となりのトトロ」収録。 録音は1988年2 ~3月。

となりのトトロ LP 復刻

 

Disc 4 魔女の宅急便 サントラ音楽集
映画本編で使用された全楽曲を収録したサントラ盤。高畑勲が本作では音楽演出を担当している。録音は1989年6~7月ソロアルバムの作業で渡米していた久石の帰国直後に行われた。CDとLPのジャケットは同一。荒井由実の挿入歌2曲も収録。

魔女の宅急便 LP 復刻

 

Disc 5 紅の豚 サウンドトラック 飛ばねぇ豚は、ただのブタだ!
映画本編で使用された楽曲を収録したサントラ盤。アコースティックなサウンドにこだわり、ほぼ70名のフルオーケストラで録音。収録は1992年5~6月に行われた。加藤登紀子の歌2曲も収録。本作から、LPの発売は行われなくなった。

久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』

 

Disc 6 もののけ姫 サウンドトラック
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のフルオーケストラによるサントラ盤。録音は1997年5月。映画本編の楽曲を米良美一の主題歌も含め完全収録。本作の主題歌で久石は日本レコード大賞作曲賞を受賞。アルバム自体も企画賞を受賞している。

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

 

Disc 7 千と千尋の神隠し サウンドトラック
映画本編の楽曲を収録したサントラ盤。新日本フィルハーモニー交響楽団のフルオーケストラによりサントラでは初めて、コンサートホールでライブ収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2001年5月。木村弓の主題歌も収録。

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

Disc 8 Castle in the Sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン・サウンドトラック~
ディズニーが2003年に北米でリリースした「ラピュタ」の英語吹替版用に久石自らが、ハリウッド映画音楽のオーケストラを率いて壮大なスケールと迫力あるサウンドで再録音したニュー・サントラアルバム。一部書き下ろしの新曲も含まれている。

久石譲 『Castle in the sky 天空の城ラピュタ・USAヴァージョン』

 

Disc 9 ハウルの動く城 サウンドトラック
新たに作曲されたテーマ「人生のメリーゴーランド」を中心に構成された映画本編の楽曲を収録。新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏で今回もホールでライブ収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2004年6月。倍賞千恵子の主題歌も収録。

ハウルの動く城 サウンドトラック

 

Disc 10 崖の上のポニョ サウンドトラック
映画本編の楽曲を収録。新日フィルハーモニー交響楽団の演奏に加え、本作では栗友会合唱団による大編成のコーラスが加わり“海と生命”をダイナミックに表現している。録音は2008年5月。林正子、藤岡藤巻と大橋のぞみの主題歌も収録。

久石譲 『崖の上のポニョ サウンドトラック』

 

Disc 11 ラ・フォリア / パン種とタマゴ姫 サウンドトラック (ジブリ美術館公開)
三鷹の森ジブリ美術館映画「パン種とタマゴ姫」のサウドトラック。宮崎監督がこの映画を製作している時にずっと聴いてたという、ヴィヴァルディの「ラ・フォリア」という曲を素材に、宮崎監督の映像が与えてくれるインパクトに沿う形で、古典曲を現代的なアプローチで再構築した作品。録音は2010年10月。

久石譲 『ラ・フォリア パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

 

Disc 12 風立ちぬ サウンドトラック
読売日本交響楽団によるフルオーケストラ演奏ほか、バラライカ・マンドリン・バヤン・アコーディオ等の民族楽器での楽曲も印象に残るサウンドトラック。荒井由実の歌う主題「ひこうき雲」も収録。録音は2013年5月。

久石譲 『風立ちぬ サウンドトラック』

 

特典Disc 魔女の宅急便 ミニ・ドラマ「元気になれそう」 (詩:宮崎駿/ナレーション:高山みなみ)
1989年徳間書店刊「月刊アニメージュ」の付録として作られた貴重な音源。

魔女の宅急便 元気になれそう

 

定価:¥ 21,600(税込)
品種:CD 13枚組
商品番号:TKCA-74104
発売日:2014/07/16
発売元:(株)徳間ジャパンコミュニケーションズ
JAN:4988008160246

 

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スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX

スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラCDBOX

 

Disc. 久石譲 『Ghibli Best Stories ジブリ・ベスト ストーリーズ』

2014年3月12日 CD発売

1984年3月11日に公開された「風の谷のナウシカ」から30年。
久石譲が再編曲した名曲達をまとめた初のジブリ・ベストセレクション!

久石譲は当初、レコード会社からの提案に「過去を振り返るのは嫌いなので作りたくなかった」と感じたそうだが、「出来上った盤を聴いてみると、これはこれで一つの世界があり、納得できた」とコメントしている。ソロアルバム用に録音してきた編曲の中から、ピアノをメインにリアレンジされた楽曲、ロンドン交響楽団が演奏した「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」など13曲を収録。

ジブリ映画を彩った名曲達を久石譲が再編曲・プロデュースした作品を集めたベストアルバム! 公開30周年(2014年時)を迎える『風の谷のナウシカ』から『崖の上のポニョ』まで、初CD化音源も含めた、ジブリ映画音楽の決定盤。

 

30年という時間

僕が宮崎さんと一緒に仕事をするようになって、30年という時間が過ぎた。本当は宮崎駿監督とお呼びしなければいけないのだが、彼の明るく飾らない人柄のせいか、周りの人や僕は宮崎さん、あるいはもっと親しい人は宮さんと呼んでいる。

『風の谷のナウシカ』から最新作『風立ちぬ』まで10作品、そのひとつひとつに制作上のドラマがあり、葛藤があり、真の喜びがあった。そのエピソードを語るつもりはない。が、世界中の人たちに観ていただき、音楽を聴いていただいたということは、結果として宮崎さんの作品に少しは貢献できたものとして安堵しているし、心から感謝している。

このアルバムは、その30年間に僕のソロアルバムとして制作してきた中から、宮崎さんの映画のために書いた曲を集めたものである。ピアノを中心に、アルバムごとのコンセプトに即してリアレンジしたものなのでサウンドトラックとは違う。だが、どんな状況でも(オーケストラの演奏でも、ピアノ一台でも、あるいは街を歩いている子供の鼻歌でも)そこには宮崎さんがいて僕がいる。そのような強い楽曲を作れたのはもちろん僕の力だけではなく、多くの関わった人たち、特に鈴木敏夫さんの力がなければできなかったであろう。

過去を振り返るのは嫌いなのでこのようなベストアルバムは作りたくはなかったが、レコード会社の強い要望で(最近ソロアルバムを作っていないので)出すのを了承した。

だが、出来上がった盤を聴いてみると、これはこれで一つの世界があり、存在していいものだと納得した。多くの関係者に感謝する。彼らがいなかったらこのアルバムは存在しなかった。

そして僕はというと、ピアノの音と音の間の沈黙から30年という時間の流れにのって宮崎さんの満面の笑顔が浮かんでくるのを観てニンマリとしているのである。

久石譲 -ライナーノーツより

 

 

ピアノ、ミニマル、オーケストレーション
宮崎駿監督作における久石譲の音楽について

今から30年前の1984年3月11日に公開された宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』で、久石譲は映画音楽作曲家としての第一歩を踏み出した。それ以前の彼は、テリー・ライリーやスティーヴ・ライヒといったアメリカン・ミニマリズムの作曲家やドイツのクラフトワークに刺激を受けた、彼独自のミニマル・ミュージックの可能性を模索する作曲活動を地道に続けていた。ミニマル・ミュージックとは──『MKWAJU ムクワジュ』(1981)や『INFORMATION』(1982)といった彼の初期のアルバムに聴かれるように──シンプルなリズムパターンを繰り返し、時には拍をずらすことによってパルス(=拍動、脈動)の存在を聴き手に強く意識させる音楽である。アフリカやインドの伝統音楽に見られるような、音楽を最小限(=ミニマル)の構成要素から組み立てていく手法をとるので、フレーズやメロディを中心に発展してきた西洋音楽史全体に挑戦状を叩きつけることに繋がりかねない。そんな過激な姿勢を貫く日本人作曲家は、1980年代初頭の時点で久石以下ごく少数しか存在しなかったし、ましてや、それを劇映画の音楽に応用しようなどと無謀なことを考える作曲家は、世界中見渡してもほとんど存在しなかった。

そんな彼の『INFORMATION』が高畑勲監督と鈴木敏夫プロデューサーの目に留まったことで、久石は『風の谷のナウシカ』のイメージアルバムを録音することになり、結果として『風の谷のナウシカ』の本編そのものの音楽も手がけることになった。

では、実際に久石は『風の谷のナウシカ』をどのように作り上げたのか?

まず彼は、ピアノという楽器でメインテーマ──《風の伝説》の曲名で知られている──のメロディを導入する。当時の一般的な観客が予想し、期待したであろうヴォーカルを一切用いることなく、である。しかも、そのメロディの冒頭部分は、当時のポップスのトレンドに真っ向から対抗するように、コード進行をほとんど変えず、ストイックに提示される。そして本編の物語が進むにつれ、久石はシタールのようなインドの民族楽器から後期ロマン派風のオーケストラにいたるまで、死力を尽くしてありったけの音色を投入するのだ。実験的なミニマル・ミュージックと商業用の映画音楽という、ある意味で対極的な二項対立の狭間に立たされた久石は、自己のアイデンティティを殺すことなく、ギリギリのところで壮大な音楽ドラマを書き上げてみせた。そうした彼のストイックな音楽的姿勢が、ナウシカというヒロインの壮絶な生きざまに重なって聴こえたのは、著者ひとりだけではないだろう。そして、その後30年にわたって彼が書き続けることになる宮崎作品の音楽の原型が、『風の谷のナウシカ』の中にすべて含まれていると言っても過言ではないのだ。

メロディの導入にあたり、演奏家としての久石の力量が遺憾なく発揮されるピアノ(1)。音楽の構成要素を最小限まで切り詰めていくミニマル的な手法(2)。そして、多種多様な楽器やアンサンブルを駆使していくオーケストレーションの多様性(3)。『風の谷のナウシカ』の音楽を特徴づけるこれら3つの要素は、時には単独の形で、時には三位一体の形で、宮崎作品の重要なエッセンスを表現していくことになる。そのエッセンスが何かと問われれば、おそらく次のように要約することが出来るだろう。

久石自身の演奏楽器である(1)のピアノは、メロディを生み出す母体となることで、物語における叙情的な要素──とりわけ宮崎作品のヒロインたち──を強調する役割を果たす。これに対し(2)のミニマル的な手法は、リズムパターンを剥き出しにする場合に、根源的な生命(力)の存在──『となりのトトロ』の雨中のバス停の場面が有名──を示すことが多い。そして(3)のオーケストレーションの多様性は──フランス印象派を思わせるダイナミックな三管編成を駆使した『崖の上のポニョ』が端的に示しているように──宮崎監督の世界観の確立に貢献する役割を果たす。仮に(1)のピアノを”女性的”な要素、(3)のオーケストレーションを”男性的”な要素、(2)のミニマルを久石自身の”生命”、と読み替えてみるならば、少し飛躍があるかもしれないが、このように結論づけることも出来るだろう。すなわち宮崎作品における久石の音楽は、(1)ピアノという”ヒロイン”の”君をのせて”、(3)オーケストレーション(オーケストラ)という”ヒーロー”が奏でていく、(2)ミニマルという”生命”から生まれたドラマなのだ。

そのドラマにおいて、特にヒロインが恋に落ちる時、彼女たちがピアノのメロディと共に登場するのは決して偶然ではない。謎の少年・ハクに惹かれる『千と千尋の神隠し』の千尋。魔法使いハウルを愛し続ける『ハウルの動く城』のソフィー。身を削って夫・二郎への愛を貫く『風立ちぬ』の菜穂子。彼女たちの存在感が大きくなるにつれ、メロドラマ的な要素が物語に占める割合も大きくなっていく。ここで想起しておきたいのは、そもそもメロドラマという言葉が古代ギリシャ語の「メロス(歌)」と「ドラマ(劇)」を語源としているという点である。そうした根源的な意味において、久石のピアノのメロディは”ヒロイン”という女性的な要素と結びついていると見るべきだ。つまり、宮崎作品におけるメロドラマとは、文字通り「歌(メロディ)による劇(ドラマ)」なのである。

本盤『ジブリ・ベスト ストーリーズ』には、久石が宮崎作品のために書いた楽曲をソロアルバム用にアレンジし直した演奏が収録されているが、サントラのアレンジに比較的近いものもあれば、アルバムのコンセプトに沿って大胆にアレンジし直されたものもある。ここで是非とも確認しておきたいのは、そもそも久石の映画音楽は──映画公開以前に録音されたイメージアルバムの中で表現されているように──先に触れたようなエッセンスを直接的に表現するところから作曲がスタートしているという点だ。個々の場面に後付けする伴奏とは、発想の出発点が根本的に違う。別の言い方をすれば、映像と音楽は協調関係(対位法的な対立関係を含む)を結ぶことはあっても、主従関係に陥ることはない。つまり、音楽が特定の映像に縛られないので、映画が完成した後も、さらに音楽が発展する余地が残されている。と同時に、それらの楽曲が映画とは異なる文脈でアレンジされることで、サントラを聴くだけでは判らなかった潜在的な意味が浮かび上がってくる。だからこそ、彼が宮崎作品の音楽をリアレンジし、演奏する必然性が生まれてくるのだ。

以下の楽曲解説は、そうしたリアレンジの文脈も知っていただきたく、敢えてCDをの収録順とは異なり、出典元となったソロアルバムの録音年代順でお読みいただくことにした。そのほうが、本編とは異なる世界観を表現したオーケストレーションの醍醐味と、アーティストとしての久石が辿った30年の変遷が、明瞭に浮かび上がってくるからである。

 

『Piano Stories』(1988)より
4.The Wind Forest
6.Fantasia (for NAUSICAÄ)

ミニマル作曲家・久石が、旋律作曲家としての自己を強く意識し始めた時期のアルバム。ミニマル風の前奏の後、日本音階のメロディが続く《The Wind Forest》(風のとおり道)は、その意味で極めて象徴的な楽曲と言えるだろう。一方の《Fantasia (for NAUSICAÄ)》は、先に触れた《風の伝説》を幻想曲としてリアレンジしたもの。久石が著者に語ったところによれば、この時期の彼のピアノのタッチは、高校時代から敬愛するジャズ・ピアニスト、マル・ウォルドロンの影響を強く受けていたという。

『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)より
7.il porco rosso

イタリア・モデナで録音された『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』は、『紅の豚』で描かれたアドリア海の陽光と青空を久石に懐古させる、注目すべき成果をもたらした。イメージアルバムの段階で《マルコとジーナ》というタイトルが付けられていた《il porco rosso》(帰らざる日々)は、後半部分にストリングスを加えることで、原曲以上にノスタルジックなジャズへと生まれ変わり、ホテル・アドリアーノに漂う”大人のロマン”を優雅に演出している。

『WORKS II』(1999)より
11.もののけ姫

宮崎作品のサントラ録音で初めて常設の交響楽団(東京シティ・フィル)を起用した『もののけ姫』以後、久石は大編成を用いた演奏に意欲を燃やし始める(その論理的な帰結が、2000年から始める彼の指揮活動だ)。有名なヴォーカル盤では、ケーナや篳篥といった民族楽器を隠し味として使っていたが、この東京シティ・フィルのライヴではそれらを排除し、伝統的なオーケストラサウンドの枠内で『もののけ姫』の世界観を再現している。

『ENCORE』(2002)より
12.アシタカとサン

久石初の全曲ピアノソロアルバム『ENCORE』は、マイクの設置場所にミリ単位までこだわった入魂作。”破壊された世界の再生”を描く、『もののけ姫』の重要なラストにおいて、久石はそれまで鳴り続けていたオーケストラを止め、シンプルなピアノだけで希望のメロディを奏でてみせた。その意味では《風の伝説》と対をなす楽曲と言えるかもしれない。

『Castle in the Sky』(2002)より
3.Confessions in the Moonlight

『天空の城ラピュタ』の北米版のために、久石が本編全体のスコアをリアレンジ・追加作曲し、シアトルの教会で録音した演奏から。オリジナル版の電子楽器を排除し、豊かなオーケストラサウンドにこだわって宮崎作品の世界観を再構築していくという点では、先に触れた《もののけ姫》の方法論の発展と見ることも可能だ。冒険活劇といえば長調の明るいメインテーマ、というハリウッド的な常識に真っ向から反旗を翻すように、『天空の城ラピュタ』のメインテーマ《君をのせて》は変ホ短調で書かれている。その表現の奥深さを示した例のひとつが、飛行船の上でシータがパズーに不安を打ち明ける場面の《Confessions in the Moonlight》(月光の雲海)だ。空間の響きを活かした久石のピアノソロが、オリジナル版以上に《君をのせて》の旋律をしっとりと浮かび上がらせている。

『空想美術館』(2003)より
5.谷への道

フルオーケストラとチェロ九重奏の演奏を交互に並べた野心作『空想美術館』収録の《谷への道》は、もともと『風の谷のナウシカ』イメージアルバムのために作曲された楽曲。のちにチェロ独奏を前提とした《ナウシカ組曲》の第5楽章に組み込まれた。独奏部分だけでなく、伴奏部分まですべてチェロの音色に統一するという発想は、作曲家ヴィラ=ロボスの《ブラジル風バッハ第5番》チェロ八重奏の先例を彷彿とさせるだけでなく、ミニマル作曲家ライヒのカウンターポイントシリーズ(チェロ9声部で書かれた《チェロ・カウンターポイント》など)にも通じるところがある。なおかつ、ここでのチェロ九重奏の大らかな響きは、『風の谷のナウシカ』の豊かな世界観と何ら矛盾をきたしていないのだ。

『Piano Stories Best ’88-’08』(2008)より
10.人生のメリーゴーランド -Piano Solo Ver.-

『ハウルの動く城』は、スコアのほぼすべてをワルツ主題とその変奏だけで押し通す久石の音楽設計が、そのまま宮崎監督の演出意図を表現したユニークな作品。ここに聴かれる演奏では、前半がワルツのテーマ、後半にその変奏を聴くことが出来るが、ヒロインのソフィーも同様に──ハウルへの変わらぬ恋心を抱きながら、18歳から90歳まで年齢が変化し続けるという点で──”主題と変奏”というべきキャラクターなのだ。

『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009)より
8.Ponyo on the Cliff by the Sea

『崖の上のポニョ』公開後にピアノ、チェロ12本、コントラバス、マリンバ、打楽器、ハープ2本という編成によるツアーと連動して録音されたアルバムから。伝統的な管弦楽法からは絶対に思いつかない発想だが、チェロのピツィカートとマリンバの倍音が生み出すユーモラスな響きは、不思議とポニョのイメージに合う。宮崎作品のエッセンスを的確な音色で表現していく、久石のオーケストレーションの凄さが現れた演奏のひとつ。

9.海のおかあさん(CD初収録)

『崖の上のポニョ』本編では1コーラスしか聴くことの出来なかったオープニング主題歌を、今回初めて2コーラスのフルヴァージョンで収録したもの。”母なる大地”ならぬ”母なる大海”と読むことができるグラン・マンマーレは”母性”そのものというべき存在である。それを表現するため、久石はクラシックのソプラノ歌手(林正子)を起用した。彼女が歌うベルカントの豊かな声量は、”母性”の象徴であると同時に、広大な海の象徴でもある。

『Melodyphony』(2010)より
1.One Summer’s Day
2.Kiki’s Delivery Service
13.My Neighbour TOTORO

2009年のアルバム『Minima_Rhythm』に続き、久石がロンドン交響楽団を指揮したアルバムから。《One Summer’s Day》(あの夏へ)と《Kiki’s Delivery Service》(海の見える街)は、それまでの日常と異なる世界──『千と千尋の神隠し』の場合は湯屋の町、『魔女の宅急便』の場合は大都会コリコ──に足を踏み入れようとするヒロインが、そこはかとなく感じる期待と不安を表現しているという点で、対をなす2曲と言えるかもしれない。しかも、《Kiki’s Delivery Service》のリアレンジでは久石のピアノソロがメロディをくっきりと演奏しており、《One Summer’s Day》のニュアンスに富んだピアノソロと見事な対照を生み出している。

そして《My Neighbour TOTORO》(となりのトトロ)は、組曲《オーケストラストーリーズ 「となりのトトロ」》の終曲を演奏したもの。近年はクラシックの古典曲を積極的に指揮している久石にとって、ロンドン響での録音は大きな意味があった。ロンドン響はクラシックの超一流オケである以上に、ライヒやジョン・アダムズといったミニマル作曲家の演奏で比類なき能力を発揮するオケなのだ(つまり、世界で一番ミニマルを理解しているオケ)。《My Neighbour TOTORO》のコーダ部分に聴かれる圧倒的な歓喜の音楽は、ミニマル・ミュージックの作曲家、宮崎作品の作曲家、そしてクラシックの指揮者という久石の3つの側面が統合された、ひとつの到達点なのである。(文中敬称略)

前島 秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター) -ライナーノーツ・楽曲解説より

 

 

ジブリ・ベスト ストーリーズ 久石譲 収録曲

1. One Summer’s Day (千と千尋の神隠し)
2. Kiki’s Delivery Service (魔女の宅急便)
3. Confessions in the Moonlight (天空の城ラピュタ)
4. The Wind Forest (となりのトトロ)
5. 谷への道 (風の谷のナウシカ)
6. Fantasia (for NAUSICAÄ) (風の谷のナウシカ)
7. il porco rosso (紅の豚)
8. Ponyo on the Cliff by the Sea (崖の上のポニョ)
9. 海のおかあさん 歌 / 林 正子 (崖の上のポニョ) *初CD化
10. 人生のメリーゴーランド -Piano Solo Ver.- (ハウルの動く城)
11. もののけ姫 (もののけ姫)
12. アシタカとサン (もののけ姫)
13. My Neighbour TOTORO (となりのトトロ)

■初回プレス分のみ「スリーブケース」仕様

 

[選曲CD作品]

久石譲 piano stories
『Piano Stories』(1988年)

4.The Wind Forest 6.Fantasia (for NAUSICAÄ)

 

久石譲 PIANO STORIES 3
『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998年)

7.il porco rosso

 

久石譲 WORKS2
『WORKS II Orchestra Nights』(1999年)

11.もののけ姫

 

久石譲 ENCORE
『ENCORE』(2002年)

12.アシタカとサン

 

久石譲 Castle in the sky 天空の城ラピュタ・USAヴァージョン
『Castle in the sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン・サウンドトラック~』(2002年)

3.Confessions in the Moonlight

 

久石譲 空想美術館 2003 LIVE BEST
『空想美術館 ~2003 LIVE BEST~』(2003年)

5.谷への道

 

久石譲 『Piano Stories Best ’88-’08』
『Piano Stories Best ’88-’08』(2008年)

10.人生のメリーゴーランド -Piano Solo Ver.-

 

久石譲 Another Piano Stories
『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009年)

8.Ponyo on the Cliff by the Sea

 

久石譲 メロディフォニー
『Melodyphony メロディフォニー』(2010年)

1.One Summer’s Day 2.Kiki’s Delivery Service
13.My Neighbour TOTORO

 

Related page:

 

Disc. 久石譲 『小さいおうち オリジナル・サウンドトラック』

小さいおうち 久石譲

2014年1月22日 CD発売

2014年公開 映画「小さいおうち」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:松たか子 他

 

 

インタビュー

-今回の『小さいおうち』は、前回にも増して音楽の曲数が多いと思いました。

久石:
単純に、本編の内容から出てくる違いです。『東京家族』は非常にシリアスな内容の作品でしたので、音楽を少なめにした方がよいという判断がありました。それに対し、『小さいおうち』はラブストーリー的な側面が強い作品ですから、音楽も当然増えてきます。山田監督からも「今回は音楽を多くしたい」という要望をいただきました。それと、「非常に甘みのあるメロディが欲しい」という要望も。

-それが、冒頭の火葬場で流れてくるメインテーマですね。

久石:
本編全体を見てみると、最初はタキの葬儀の場面から始まり、ラストシーンもタキがある重要な役割を果たしています。平成から激動の昭和へ、たとえ物語の時空が自由に飛んだとしても、タキの”目線”だけは変わらない。そのタキの”目線”のテーマ、わかりやすく言えば、タキの”運命のテーマ”です。ただし、そのメインテーマだけだと音楽全体が非常に重くなってしまうので、もう1曲、別のテーマを作曲しました。

-アコーディオンで演奏されるワルツのテーマですね。

久石:
こういう作品にワルツが似合うかどうかはともかく、結果的には、ワルツによって”昭和という時代に対する憧れ”や、”小さいおうちの住人に対する憧れ”を表現できたのでは、と思っています。昭和ロマンに憧れるワルツ、という意味では、松たか子さん演ずる”時子のワルツ”と呼んでよいのかもしれません。その”時子のワルツ”と、メインとなるタキの”運命のテーマ”のデモ2曲を最初に作曲したところ、山田監督から早々にOKをいただきました。

Blog. 映画『小さいおうち』(2014) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

音楽収録でのインタビューにて久石譲は、
「基本的にはメーンとなるテーマ曲は2つなんです。その時代を生きてきたタキのテーマみたいなものと、もうひとつは意表をつくようなワルツ調の曲。深い根拠はないんですが、直感みたいなもので、ある種の軽やかさが出たらいいなと思ったんです。守りに入るよりは、こちらも冒険させてもらったんですが、それが結果的に良い形になればいいなと思っています。」と語っている。

Info. 2013/08/10 山田洋次監督最新作「小さいおうち」 久石譲音楽レコーディング より抜粋)

 

 

赤い屋根の小さな家で働く女中・タキの目線を通し、昭和から平成へと激動の時代を生き抜いてきたタキの自身のテーマでもある“運命のテーマ”と、アコーディオンの甘美なメロディが印象的な“ワルツのテーマ”を主軸に構成。昭和モダンのノスタルジックな雰囲気が満載のサウンドトラック。

2つのテーマにより構成されたサウンドトラックは、
”運命のテーマ” (1) (2) (3) (5) (8) (10) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21)
”時子のワルツ” (4) (6) (7) (9) (11) (12)

”運命のテーマ”はときにピアノの単音で、ときにフルートやオーボエの木管で、ときに弦楽やピッツィカートで、ギターなども加わりとてもシンプルなアコースティックサウンド。シンプルなというか極限まで削ぎ落としたメロディと言っていい。

”時子のワルツ”はアコーディオンの旋律が特徴的だが、こちらもトラックごとに、ピッツィカートや木管編成、ピアノにより構成されている。

エンドクレジットにあたる(22)は、この主要な2つのテーマが、”運命のテーマ”から”時子のワルツ”へと引き継がれ幕をとじる。その(22)を除く、すべての楽曲が1-2分程度の長さであり、サウンドトラック全体としても30分程の音楽となっている。

ここで注目すべきは、映画本編2時間として音楽が約半分以下の時間しか流れていないということ、まさに山田洋次監督がオーダーした”空気のような音楽”ということである。

久石譲はセリフを重視する山田監督の演出に配慮するため、本編用のスコアでは特徴的な音色を持つ楽器(ダルシマーなど)を効果的に用いている。ハンマー・ダルシマーは「ピアノの先祖」とも言われる楽器である。

しかしながら、主要テーマのどちらもメロディの長さは短くも、とても印象的で、記憶に残らない耳に残らないということは決してない。これこそが久石譲のメロディの強さであり、かつ効果的にモチーフを2つに絞り込んで、あらゆるバリエーションで効果的な楽器編成で配置した結果といえる。

 

この後、久石譲「WORKS IV」にて、フルオーケストラ用にオーケストレーション、メインテーマ(22)は、楽曲構成はほぼ同じとしながらも、ギター、アコーディオン、マンドリンが加わり、サウンドトラックにはないオーケストラの華やかさと優雅さに磨きがかかっている。ひかえめながらも力強い華麗な輪舞曲(ロンド)に仕上がっている。全体の構成は、久石のソロ・ピアノによる序奏に続き、タキが象徴する激動の昭和を表現した「運命のテーマ」、そして時子が象徴する昭和ロマンを表現した「時子のワルツ」となっている。

 

 

映画「東京家族」につづく山田洋次監督とのタッグは久石譲にも大きな変化をもたらしている。

具体的には、別項にて紹介しているが、
Blog. 映画「小さいおうち」 山田洋次監督 x 久石譲 レコーディング風景動画 / 音楽試聴

一部抜き出すと下記とおり。

 

山田洋次監督との仕事はとても貴重だったようで、前作『東京家族』の音楽制作をきっかけに、”映画音楽に対する向き合い方も変化があった”、と久石譲本人も各方面で語っています。

具体的には、

  • オーケストラなどで音楽が主張をすることをひかえたつくり方
  • 空気のような音楽、雰囲気を邪魔しない音楽、芝居や映画と共存する音楽
  • 小編成にシンプルに、おさえるけれど、ただうすいだけにならないつくり方
  • 登場人物や観客の気持ちを煽るような音楽をつけない
  • より映画にコミットするかたちで音楽をつける

“今まではどうしても映画音楽としても主張してしまう自分がいたけれど、その力みがなくなった”といつかのインタビューでも語っています。

 

今後の久石譲映画音楽制作の分岐点になるであろう作品である。

 

 

小さいおうち 久石譲

1. プロローグ
2. 僕のおばあちゃん
3. 上京
4. 赤い屋根のおうち
5. 昭和
6. タキと時子
7. 雨の日も風の日も
8. 南京陥落
9. 師走
10. 正治と恭一
11. 嵐の夜
12. タキの幸せ
13. 本当の所
14. タキの悲しみ
15. 開戦
16. 事件
17. 別れ
18. 手紙
19. B29
20. イタクラ・ショージ記念館
21. 時効
22. 小さいおうち

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi (Track 1,11,20)
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute,Oboe&E.Horn,Clarinet,Bassoon,Guitar,Hammered Dulcimer,Accordion,Percussion,Harp,Piano&Celesta,Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『かぐや姫の物語 サウンドトラック』

かぐや姫の物語 サウンドトラック

2013年11月20日 CD発売

2013年公開 スタジオジブリ作品 映画「かぐや姫の物語」
監督:高畑勲 音楽:久石譲 主題歌:二階堂和美
演奏:東京交響楽団

宮崎駿監督の全10作品の音楽を担当した久石譲が
30年の時を経てついに初タッグとなる高畑勲監督の音楽担当

 

 

特別対談 [監督] 高畑勲 × [音楽] 久石譲
映画と音楽、その”到達点”へ。

高畑:
僕はこれまで久石さんにわざとお願いしてこなかったんです。『風の谷のナウシカ』以来、久石さんは宮崎駿との素晴らしいコンビが成立していましたから、それを大事にしたいと思って。でも今回はぜひ久石さんに、と思ったのですが、諸事情で一度はあきらめかけた。しかし、やはり、どうしても久石さんにお願いしようという気持ちが強くなったんです。

久石:
まずは絵を描くために必要な琴の曲を作るところから始めましたよね。

高畑:
その琴の曲がものすごくよかったんです。大事なテーマとして映画音楽としても使っていますが、初めて聴いたとき、お願いしてよかったと、心から安心したのを覚えています。

久石:
ビギナーズラックみたいなものですよ。大変だったのはそのあと。高畑さんから「登場人物の気持ちを表現してはいけない」「状況につけてはいけない」「観客の気持ちをあおってはいけない」と指示があったんです。

高畑:
久石さんは少しおおげさにおっしゃっています(笑)。でも主人公の悲しみに悲しい音楽というのではなく、観客がどうなるのかと心配しながら観みていく、その気持ちに寄り添ってくれるような音楽がほしいと。久石さんならやっていただけるなと思ったのは『悪人』(李相日監督)の音楽を聴いたからです。本当に感心したんですよ。見事に運命を見守る音楽だったので。

 

高畑:
阿弥陀来迎図という阿弥陀さまがお迎えにきてくれる絵があります。平安時代以来、そういう絵がたくさん残っているんですけれど、その絵の中で楽器を奏しているんですね。ところが描かれている楽器は正倉院あたりにしかないような西域の楽器ばかりで、日本ではほとんど演奏されていない。だから絵を見ても当時の人には音が聞こえてこなかったと思います。でも、打楽器もいっぱい使っているし、天人たちはきっと、悩みのないリズムで愉快に、能天気な音楽を鳴らしながら降りてくるはずだと。最初の発想はサンバでした。

久石:
サンバの話を聞いたときは衝撃的でした。「ああ、この映画どこまでいくんだろう」と(笑)。でも、おかげでスイッチが入っちゃいましたね。映画全体は西洋音楽、オーケストラをベースにしたものなんですけど、天人の音楽だけは選曲ミスと思われてもいいくらいに切り口を替えようと。ただ完全に分離させてしまうのもよくないので、考えた結果、ケルティック・ハープやアフリカの太鼓、南米の弦楽器チャランゴなどをシンプルなフレーズでどんどん入れるアイデアでした。却下されると思って持っていったのですが、高畑さんからは「いいですね」って。

高畑:
むしろ難しかったのは、捨丸とかぐや姫が再会する場面の曲です。それまで出てくる生きる喜びのテーマより、もうひとつ別のテーマが必要だと思ったんです。命を燃やすことの象徴として男女の結びつきを描いているので、幼少期の生きる喜びのテーマとは違う喜びがそこに必要ではないかと。それで別のテーマを依頼して書いていただいたのですが、やっぱり違うと思ってしまった。それで元に戻って、再び生きる喜びのテーマをここで高鳴らした方がいいと久石さんにお伝えしたら「最初からそう言ってましたよ」って(笑)。

久石:
直後に天人の音楽という今までの流れとはまったく違うテーマが出てきますからね。捨丸との再会シーンで切り口を替えちゃうと、ちょっと過剰になるんじゃないかという印象を持っていました。それで元通りでいきましょうということになったら、逆にものすごい勢いの曲が生まれましたよね。

久石:
自分にとって代表作になったということです。作る過程で個人としても課題を課すわけです。これまでフルオーケストラによるアプローチをずいぶんしてきたのが、今年に入って台詞と同居しながら音楽が邪魔にならないためにはどうしたらいいかを模索していて、それがやっと形になりました。

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

久石 「2012年の暮れに鈴木(敏夫)さんから「『かぐや姫の物語』の公開が延期されたので、『風立ちぬ』共々ぜひやってほしい」とご依頼をいただきました。そのときはビックリしましたね。まさか高畑さんとご一緒できるとは思ってもいませんでしたから。でも、僕は高畑さんをとても尊敬していましたし、高畑さんとご一緒できるのだったら、ぜひやりたいと、返事をさせていただきました。」

久石 「打ち合わせでは、Mナンバーで53まであったんですよ。53曲もあるということは、裏返せば、音楽が絶えず映像と共存していて、鳴っていることを意識させない書き方をしていかなければいけないということですね。ですから、音楽の組み立て方も大変でした。曲数が多い場合、メロディーを強調したりして音楽が主張し過ぎると、浮いちゃうんですよ。映像もムダをはぶいた省略形ですし、効果音も決して多くない。その意味でも、音楽は極力エッセンスみたいなもので勝負しないと映像との共存ができなくなってしまいますし、全体を引き算的な発想で作っていかないといけませんでした。そして、音もできるだけ薄く書く方法をとりました。もちろん、薄く書くというのは決して中途半端に書くということではありません。逆に、それに見合うメロディーを書かなければなりませんし、和音とか一切なくても成立するものを作らなければいけません。ワンフレーズを聴いただけで特徴が捉えられるようなものを、ですね。ペンタトニックのフリをしているんですけれども、実はコードに関してはかなり高等なことをやっています。」

久石 「高畑さんさんは音楽への造詣が深い方です。前に高畑さんが書かれた映画音楽についての文章を拝読したことがあるんですが、そこでは最終的な映画音楽の理想として「音楽と効果音が全部混ざったような世界」というようなことを書かれていました。なかなかそういうところまで理解する人はいませんし、そういうことも今回はできるという嬉しさを感じましたね。「光の音」についてはピアノを中心に、ハープ、グロッケン、フィンガーシンバル、ウッドブロックなどを掛け合わせて表現しています。今回は弦の特殊奏法も多いです。それは最近、現代音楽も手がけていることも含めた自分のパレットの中で、やれることは全部やろうとした結果ですね。その意味では比較的、自由に書いています。トータルで、今まであまりなかった世界に持ち込めたらいいなというのはありましたね。」

久石 「これは非常に重要なところなんですが、高畑さんから持ち出された注文というのが「一切、登場人物の気持ちを表現しないでほしい」「状況に付けないでほしい」「観客の気持ちを煽らないでほしい」ということでした。つまり、「一切感情に訴えかけてはいけない」というのが高畑さんとの最初の約束だったんです。禁じ手だらけでした(笑)。例えば「”生きる喜び”という曲を書いてほしいが、登場人物の気持ちを表現してはいけない」みないな。ですから、キャラクターの内面ということではなく、むしろそこから引いたところで音楽を付けなければならなかったんですね。俯瞰した位置にある音楽といってもいいです。高畑さんは僕が以前に手がけた『悪人』の音楽を気に入ってくださっていて、「『悪人』のような感じの距離の取り方で」と、ずっとおっしゃっていました。『悪人』も登場人物の気持ちを表現していませんからね。」

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ビジュアルガイドより 抜粋)

 

 

久石:
今回の場合、高畑さんご自身で作詞作曲された”わらべ唄”という曲がすでにありました。それがもう5音音階でつくられてしまっているんです。”わらべ唄”は結構重要なシーンで使われるので、そうすると、それを加味した上でトータルの音楽をどうつくっていくかというふうに考えます。であるならば、必然的にこちらもある程度5音音階を使用したものをつくらないと整合性が取れない。ただ5音音階というのは下手すると本当に陳腐なものになりやすいので難しいですね。全体として日本の音階が主体になっているんですが、それを感じさせないようにするにはどうするかというのがかなり大変でした。例を挙げるとマーラーの “大地の歌” 。あれは李白の詩を使って、出だしから非常に5音音階的なんです。マーラーのような、同じ5音音階を使っても全然別口に聴こえるようなアプローチであるとか、そういうようなものを考えました。あとは、アルヴォ・ペルトという現代の作曲家なんですが、すごくシンプルで単純な和音を使う人のものとか。そういうものを参考にしながら全体を高畑さんが考えられている世界に近づけるようにしていく作業でしたが、それがだんだんと、高畑さんに似てきてしまって。僕も相当論理的に考えるほうなので、思考法が似てる、などと言うと偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、ひとつひとつ理詰めでつくっていきました。でも普通なら、今回のように主題歌がついて、大事なところで使われる曲もすでにあったら間違いなく断っています。いろいろなものをくっつけられてしまうと最終的に音楽全部に責任持てないですから。でも高畑さんのことはとても尊敬していたので今回はお引き受けしたんです。

久石:
書いた曲のチェックは、高畑さんは「想像できるのでピアノスケッチで大丈夫です」と言ってくださっていたので、ピアノスケッチを送っていました。だんだんとそれにオーケストラの色をつけたものをまた送る。これを六十数曲ずっと繰り返したわけです。送るたびにバッと修正オーダーが来る。高畑さんの場合は特に多く、「また来たか」みたいな。「またこんなにですか(笑)」とか。ところがある時期を越えたら、台詞とぶつかると音楽が損だからと、台詞とメロディーの入るタイミングをちょっと遅らせて欲しいとか、そういう修正が多くなってきたんです。その辺りから完全に高畑さんとシンクロしましたね。

久石:
例えば、台詞とぶつかると音楽は小さくせざるを得ない。台詞が聞こえないと困るから。だから「音楽が損だから遅らせましょう、そうしたら小さくしないで済む」ということを具体的に言う監督は数えるほどしかいない。これは音楽を大切にしていただいている証拠です。どう考えても映画ですから、何をしゃべっているのか分からないとマズい。だから台詞は聞かせないといけない、でも音楽をそのために小さくするのは忍びない、だから、タイミングを変えて欲しい。という言い方ですから、これはもうほんとうにありがたいですよね。おかげで音楽は変拍子だらけになりましたけど、こんな素晴らしい人はそうそういません。

久石:
今作のような、ああいう絵のタッチは、音楽をつくるのにも完全に影響しましたね。あの絵は引き算の発想ですね。全部写実するより無駄なものを外す、ということは、音楽も同じなんです。効果音もそうですし、要するにすべて、必要最低限にシンプルにつくらなければいけない。つまり、オーケストラでガーンと派手にいくより、エッセンスをどこまで薄くするか。で、最初の打ち合わせでは五十数曲必要と言われたけれど、最終的には40曲ぐらいに落ち着くだろうと思っていた。一応ピアノのスケッチを書くけど、どうせ削られるのであれば、もう異様に薄く書いてしまおうと思って、薄く書いたんですよ。そしたら、全部採用になってしまって。でも考えれば、最初から高畑さんも極力シンプルにするということはおっしゃっていましたし、構築された音楽よりも、非常にシンプルなんだけど、力強いものがいいって。

久石:
いわゆる省略形の、すごく引いたもの。その発想というか思想というか考え方は、音楽にも効果音にもすべてに徹底されるなと思ったので、自分も引き算の発想でつくったんです。そうしないと音楽が浮いてしまう。感情を押し付けて「ここは泣くように」という感じの音楽を「泣きなさい」と書くよりは、その悲しみを受け止めつつも3歩ぐらい引いたところで書くと、観客のほうが自動的に気持ちがそこにいくんですよね。高畑さんは今回それをかなり何度もおっしゃっていて、僕もいちばん気を付けたところですね。

久石:
でも高畑さん、意外にオーケストラの音などにはこだわっていないんです。良けりゃオーケストラでもいいんですという感じでしたね。だから、こちらからもどんどん変えたりもしました。途中でリュート、ルネッサンスのギターみたいなものを使いますと提案したときも、絶対変えたほうが高畑さんは喜ぶと確信していたから。それで実際に変えても、なにも言わないというか「あ、いいです、いいです。これでいいです」だけ。音楽的なことで、今回ものすごく注意したのは、メロディーの楽器をフルートだとか弦などのように音がピーと伸びる楽器を極力少なくしたんです。ピアノやハープだとかチェレスタとか、要するに弾いたら音が全部減衰していく楽器、アタックを抑えたそれらを中心に据えました。そうすると、ポンと鳴るけれども消えていくから、台詞を食い辛いんですよ。もちろん五十数曲と多いので「音楽うるさいな」となると終わってしまうから、うるさくしないための方法なんですが。ただ、そうすると、ピアノ、ハープ、チェレスタ、グロッケンなどと楽器が限られちゃうので、それでもうひとつさっき言ったリュートというのを加えることで、その辺の音色をちょっと増やして、できるだけ台詞と共存できるように組んでいったんです。だから発想としては「リュートの音っていいよね」ではないんです(笑)。感覚的じゃなくて、減衰系の楽器で色が必要だ、と。そういうふうに論理的に決めたんです。高畑さんみたいでしょ?たぶんそこは似てるんだと思います。高畑さんと同じというとおこがましいから、ちょっと似ている程度で(笑)。

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より 抜粋)

 

 

鈴木:最高の作品は、運も味方につける
『ナウシカ』と『天空の城ラピュタ』で、宮崎☓久石の名コンビが世間にも認知された。どちらも音楽担当をしていた高畑さんは、「だから自分が映画を制作するときには、久石さんに音楽を頼むことはできない」と話していたんです。ところが、突如『かぐや姫の物語』の音楽は、久石さんにお願いしたいと言い出した。

当初、『風立ちぬ』との同日公開を目論んでいた僕は、困ってしまった。その両作を久石さんがやるのはどうかと。

そこで宮さんがどう思うかと話しに行きました。「久石さんもかぐや姫の音楽をやりたがってるし、高畑さんもお願いしたいと言っている」と。そういうとき、宮さんはすこしキレ気味に、決まってこう言うんです。

「そんなことは、久石さんが決めればいいんだ!俺の知ったこっちゃない」

このときもそう話した途端に、「久石さんやっちゃうよな~。マズイよ、鈴木さん。久石さんを阻止してよ。『風立ちぬ』だけでいいよ!パクさん(高畑勲)は他の人がいっぱいいるじゃん」と言うんですよ。

結局、『かぐや姫』のほうの制作が遅れて、公開が4ヵ月延期されることになり、改めて久石さんにお願いしました。同日公開はできなかったけれど、作品として、これは本当に運が良かった。

Blog. 「オトナの!格言」 鈴木敏夫x久石譲x藤巻直哉 対談内容紹介 より)

 

 

 

 

 

日本の純音楽、忘れていた日本古来の旋律や楽器の響き。絶妙のさじ加減で古来の伝統音楽と現代の音色が織り重なっている。美しい旋律、独特な日本の美を感じさせる和楽器。

高畑勲監督による約14年ぶり、8年の構想期間を費やしたこの作品は、日本アニメーション界に大きな布石を打つことは間違いない。そしてそれは久石譲によるこの映画音楽も同じだと思う。

この作品には日本の文化が詰まっている。現代人が忘れていたもの、失くしたものが、ここには眩く輝いている。日本人で良かった、日本を誇りに思う、そんな作品。

 

 

 

 

かぐや姫の物語 サウンドトラック

1.はじまり
2.光り
3.小さき姫
4.生きる喜び
5.芽生え
6.タケノコ
7.生命(いのち)
8.山里
9.衣
10.旅立ち
11.秋の実り
12.なよたけ
13.手習い
14.生命(いのち)の庭
15.宴
16.絶望
17.春のめぐり
18.美しき琴の調べ
19.春のワルツ
20.里への想い
21.高貴なお方の狂騒曲(ラプソディ)
22.真心
23.蜩(ひぐらし)の夜
24.月の不思議
25.悲しみ
26.運命(さだめ)
27.月の都
28.帰郷
29.帰郷
30.天人の音楽Ⅰ
31.別離(わかれ)
32.天人の音楽Ⅱ
33.月
34.いのちの記憶 (唄:二階堂和美)
– – – – – – – – – – – – –
35.琴の調べ
36.わらべ唄 (作曲:高畑勲)
37.天女の歌 (作曲:高畑勲)

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

指揮:久石譲
ピアノ:久石譲 (Track 12,31,33)
演奏:東京交響楽団
ゲスト・コンサートマスター:近藤薫
Lute:金子浩 (Track 10,15,26,28)
古箏:姜小青 (Track 18,23,25)

天人の音楽 (Track 30,32)
Whistle,Charango,Guitar,Celtic Harp,Harp,W.Bass,Percussion,篳篥,竜笛

録音:ミューザ川崎シンフォニーホール、Bunkamura Studio
ミキシング:Bunkamura Studio

 

 

【初回プレス限定特典】特典ディスク
・映画「かぐや姫の物語」音源 (ジャケットと別絵柄の紙ジャケ仕様)
・映画収録曲よりサウンドトラック未収録音源5曲を収録
・紙ジャケット仕様 Discプリントはレコード盤デザイン

かぐや姫の物語 サウンドトラック 特典CD

1. なよ竹のかぐや姫(古筝)
2. 名付け披露(田楽)
3. タカラモノ(古筝)
4. 公卿たち(雅楽)
5. レンゲ草(古筝)

 

Disc. 久石譲 『風立ちぬ サウンドトラック』

久石譲 『風立ちぬ サウンドトラック』

2013年7月17日 CD発売

2013年公開 スタジオジブリ作品 映画「風立ちぬ」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲
演奏:読売日本交響楽団

宮崎・久石コンビ最後の長編作品。本作はサントラ盤のみが制作された。映画本編はモノラルだがCDはステレオ収録。

読売日本交響楽団によるフルオーケストラ演奏ほか、バラライカ・マンドリン・バヤン・アコーディオ等の民族楽器での楽曲も印象に残るサウンドトラック。荒井由実の歌う主題「ひこうき雲」も収録。録音は2013年5月。

 

 

「まずは、オーケストラを小さな編成にしたことです。宮崎さんも「大きくない編成が良い」と一貫して言っていました。それから鈴木プロデューサーから出たアイデアで、ロシアのバラライカやバヤンなどの民族楽器や、アコーディオンやギターといった、いわゆるオーケストラ的ではない音をフィーチャーしたことです。それによっても、今までとは違う世界観を作り出せたんじゃないかと思います。」

「オープニング曲は、飛行機が飛び立つまでは、ピアノがちょっと入るくらいで、あとは民族楽器だけです。大作映画では、頭からオーケストラでドンと行きたくなりますけど、それを抑えたのが凄く良かったですね。二郎の夢の中なので、空を飛んだとしても派手なものになるわけではないと、宮崎さんは言っていましたし、僕としても、観る人の心を掴むオープニングに出来たと思っています。この曲があったから、映画全体の音楽が「行ける!」と感じました。」

「モノラルは一カ所から音が出るから、それぞれの楽器の微妙なバランス調整が必要になるんです。通常よりも細かい作業が必要で、不眠不休の状態が続きました。でも左右が無く、遠近だけというところに面白さがあって、上手く行くとパァッと音の空間が広がるんです。やっぱりレコーディングの基本はモノラルにあると思いました。良い経験をすることが出来ました。」

「効果音というのは、普通は人間の生理とは無関係の音なんです。でも、それを人間が口で作ると生理的な音になって、音楽に割り込んで来る。そこは宮崎さんとも話をして、色々調整しました。最終的には効果音も加工が入ってシンプルになり、音楽、セリフと調和して良い感じになったと思います。ここでも、モノラルで音の出どころを一点に集中したことが良かったですね。」

Blog. 久石譲 「風立ちぬ」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「自分と映画が同化するくらい真剣になって書くようになったんですよね。音楽家として映画に携わったというスタンスよりも、自分が映画の一員になり、監督の分身になるくらいに入り込む。以前は音楽家としての野心みたいなものも強かったけれど、『悪人』(2010年)以降かな、引くことを覚えた。映画と音楽が一体化したとき、どう観客に訴えかけるか、どう伝えるかを中心に考えるようになったんです。音楽はドレミファソラシドと半音を足して、12個の音の組み合わせでしかない。それにリズムとハーモニーでしょ。しかも映画音楽では調性やメインテーマが求められるわけだし、映像やセリフ、効果音などとのバランスや制約もある。やれる範疇が決まってるんです。非常に限定されているなかでオリジナリティを出すのは、本当に大変な作業なんですよ」

Blog. 久石譲 「風立ちぬ」 インタビュー月刊ピアノ2013年8月号より 抜粋)

 

 

「結構苦しみましたし、大変でした。というのも、今までのファンタジーとは違って、今回は実写に近い。そういう場合、テーマ曲はどうあるべきなのかをつかむまでに時間がかかった」

「宮崎さんの作品は世界中の人が待っていますからね。音楽にも格が必要だと思っていたので、今回もですが、ホール録音が多いんです。でも、『今回は大きくない編成がいいんだ』というので、そのスタイルを切り替えた。これはかなり難しかった。オーケストラにはないものをフィーチャーし、結果的に一番小さい編成になった。今までとは違う世界観を持ち込んだつもり」

「作曲というのは点ではなく線。一つの仕事をすると、必ずやりきれなかったことや反省が出てくる。弦の使い方が良くなかったなとか、ちょっとうるさく書きすぎた、とか。それを次の作品でクリアしていく。クリアしても、次の問題が出てくる。宮崎さんの作品はほぼ4年に1度。オリンピックのようなもの。節目節目でクリアしなければいけない課題が出てくるんです」

Blog. 久石譲 「風立ちぬ」 インタビュー スポーツ報知特別号より 抜粋)

 

 

久石:
あとね、実はドルビー・サラウンドっていうのは劇場の中でも真ん中の数メートル以外関係ないんですよ。(4人だけ、)そこで聴かない限りは完全なサラウンドってわからないんですよ。どちらかによっちゃうから。ところがモノラルって一番隅でも一番前でも後ろでも右でも左でも、まったく同じなんですよ。だからそういう意味でいうと、モノラルっていうのは本来、実は「ナウシカ」がモノラルだったですよね公開、でもそんなの誰も感じない、すごくいいんですよ。ところがその技術がもうなくなっちゃって、モノラルレコーディングを全然体験していない人たちでモノラルを作るわけだから、これ逆に言うと非常に労力がかかる。だってその技術は廃れてなくなってたはずなんだよね、それをあえてモノラルでいくってなると、そのための準備がまたすごくかかった。(効果音には人の声も使った)ちょっと音程があったんで一部直してもらったんですよね。声でやっちゃうとどうしても音程が出ちゃうところがあったんで、直してもらって、それで全体がわりと音楽となじむようにしてもらうっていう経過はあります。

久石:
(バラライカ、バランなどの民族楽器を使ったのは)これは鈴木さんのアイデアなんですよね。「ドクトル・ジバゴ」でしたっけ、ちょっとね全体にああいうロシア的な匂いをさせたらどうかみたいな話があって。僕も、大きい大河ドラマのように動いてる話なんだけど、個人にスポットを当てるような話なので、そこで翻弄されるでもなく、ちゃんと自分を保ってる個人の人間にスポットを当てるっていったときに、音楽はどういうところに焦点絞るかなっていうところで、それはわりと鈴木さんとよく話し合いましたね。で、ちょっとロシア調にしようか、みたいなのはちょっとありました。

鈴木:
宮崎が好きだと思ったんですよ。音色に弱いから(笑)。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

いつもの品格あるジブリ音楽であり、これまでとは次元の違う新しい世界観。

「ファンタジーはやらない」と公言していた宮崎駿監督だけに、壮大な二管編成フルオーケストラでファンタジー感を演出するのとは対極に、シンプルな小編成の音楽がリアリズムの演出に功を奏している。

オープニングから流れる印象的なメインテーマ「旅路」は、主人公 二郎のテーマであり、宮崎駿監督の『今回のテーマは「旅」である』という構想をもとにされている。美しいメロディーもさることながら、その旋律を凛と立たせている楽器は、ロシアの代表的な弦楽器である「アルトバラライカ」や同種のマンドリン、同じくロシアのアコーディオン「バヤン」といった民族楽器。

メインテーマ「旅路」はストーリー展開やそのシーンに寄り添うように、時にストリングスに、時に管楽器にと、そのモチーフも色彩豊かに表現されている。同じメロディーでもここまで印象が違うものかと感嘆させられる。昭和の日本の香りがするかと思えば、イタリアの爽やかな風が吹いてくる。まさに魔法の旋律である。

もうひとつのテーマである「菜穂子」では、切なくも美しい清く生きた女性の姿が、ピアノやストリングスで涙腺にふれる。

「カプローニ」では美しい夢をもった者の誇り、時空を超えた対峙が、勇壮な旋律で高揚感ある鼓動が響いている。

「隼班」「紙飛行機」などでは、研ぎ澄まされたミニマル・ミュージックを堪能できる。ピアノとヴァイオリンの高音が緊張感と気品を見事に表現している。ここまでシンプルながらも、相反する張り詰めた躍動感を感じる術はすごい。

まさに至高の映画音楽。上品なバロック音楽、室内楽のようなクラシカルな響きであり、日本とイタリア、夢と現実、男と女、生と死、と言った二極的な世界を、最高のメロディーと最高の楽器編成により表現されている。

久石譲本人は「ひとつの作品にこれだけ長く時間をかけたのは初めてだし、一番苦しんだ作品かもしれない。」とその約2年間にも及んだ制作過程を振り返っている。

また劇中音楽はすべてモノラル音源となっている。「全体にわたって細部のバランスを調整しないといけなくなり、通常よりも細かい作業が大変だった。それがうまくいくと空間が広がっていく。」と久石譲本人も語っているとおり、新しい試みとなっている。

本作品はもちろんステレオ音源だが、【先着購入特典CD】には映画本編で使用されたモノラル音源にて、旅路(夢中飛行) / 菜穂子(めぐりあい) の2曲が特別収録されている。音楽の原点はモノラルというとおり、確かに懐かしさもあり、心地良い音の広がりも感じることができる。1ヶ所からしか鳴っていない音にも関わらず、各楽器や各旋律の広がりや奥ゆきを体感することができる贅沢な特別収録。

また映画「風立ちぬ」では過去のスタジオジブリ作品 宮崎駿監督では恒例となっていたイメージアルバムも制作されていない。

映画同様、音楽も新しい挑戦にして現時点での最骨頂とも言えるのではないだろうか。まさに「風立ちぬ」の音楽世界を堪能するには唯一にて至高の1枚となる。

 

 

久石譲 『風立ちぬ サウンドトラック』

1. 旅路 (夢中飛行)
2. 流れ星
3. カプローニ (設計家の夢)
4. 旅路 (決意)
5. 菜穂子 (出会い)
6. 避難
7. 恩人
8. カプローニ (幻の巨大機)
9. ときめき
10. 旅路 (妹)
11. 旅路 (初出社)
12. 隼班
13. 隼
14. ユンカース
15. 旅路 (イタリアの風)
16. 旅路 (カプローニの引退)
17. 旅路 (軽井沢の出会い)
18. 菜穂子 (運命)
19. 菜穂子 (虹)
20. カストルプ (魔の山)
21. 風
22. 紙飛行機
23. 菜穂子 (プロポーズ)
24. 八試特偵
25. カストルプ (別れ)
26. 菜穂子 (会いたくて)
27. 菜穂子 (めぐりあい)
28. 旅路 (結婚)
29. 菜穂子 (眼差し)
30. 旅路 (別れ)
31. 旅路 (夢の王国)
32. ひこうき雲 歌:荒井由実

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

指揮:久石譲
ピアノ:久石譲 (Track 5,18,27,28,29)
演奏:読売日本交響楽団
バラライカ & マンドリン:青山忠
ギター:千代正行、古川昌義
バヤン & アコーディオン:水野弘文

音楽収録:東京芸術劇場、ビクタースタジオ
ミキシングスタジオ:Bunkamura Studio

 

 

【先着購入特典CD】
サントラCDはステレオ録音商品
「風立ちぬ」の映画音楽はすべてモノラル音源
特典CDは映画で使用されたモノラル音源を特別に収録
収録曲:旅路(夢中飛行)/菜穂子(めぐりあい) 以上2曲
紙ジャケット仕様 Discプリントはレコード盤デザイン

風立ちぬ サウンドトラック 特典CD MONO

1.旅路(夢中飛行)≪MONO≫
2.菜穂子(めぐりあい)≪MONO≫

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月26日 CD発売

NHKスペシャル シリーズ「深海の巨大生物」
2013年1月13日放送 第一部
「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」
第二部
■第1回「伝説のイカ 宿命の闘い」
放送日時:2013年7月27日(土)午後7時30分~ NHK総合
■第2回「謎の海底サメ王国」
放送日時:2013年7月28日(日)午後9時00分~ NHK総合

音楽:久石譲 演奏:NHK交響楽団 東京ニューシティ管弦楽団

 

 

久石譲さんインタビュー
番組音楽にかけた想い

NHK 深海 1

「深海」は当然のことながら、地上ではない。我々は地上で生きていますから、そこから考えると、とても深いところ、遠い次元になりますよね。音楽的に言うと、実は深海は宇宙の物語、宇宙と同じ空間であるということが大事なんです。

ただ、宇宙と深海の大きな違いは「水」ですから、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうというのが最初の狙いでもありましたね。

このハープがさまざまなパッセージを奏でているところに、和音感などの凝った形を取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかなと考えました。

NHK 深海 2

今回は「ダイオウイカ」に続いて、「サメ」の曲をつくるということで、最初は苦しむのではないか…という嫌な予感がありましたね(笑)。サメと聞けば、あまりにも有名なジョン・ウィリアムズが作曲した映画『ジョーズ』のテーマ曲がありますから、それしか頭に浮かばないのではないかと思っていたんです。

ところが映像を見せてもらうと、メガマウスは想像していたどう猛なサメとはまったく違っていた。プランクトンを食べたり、サクラエビを食べたり、とても草食系な感じを受けたんです。メガマウスの優しい性格と、時間軸を超えたようなゆったりした広がりをその映像から感じ取ったときに、これならできると思って。メガマウスのイメージをつかめた瞬間から、対比としてどう猛なカグラザメには、不協和音を思いっきりぶつけたり、現代音楽的なアプローチを広げることができて、とても取り組みやすくなりました。

NHK 深海 3

さらに今回、プロデューサーの岩崎弘倫さんから、生きものの連鎖、輪廻を表現してほしいという依頼がありました。

話を伺う中で、いろんな生きものが他のものを食べ、それらがまた他のものを食べるという光景が、ある種宗教的、哲学的なテーマに感じましたね。その普遍的なテーマに対して僕自身も興味を持ち、力を入れて書きました。

書き上がったものは、かなりゆっくりした楽曲なのですが、NHK交響楽団の方々が素晴らしい演奏をしてくださり、とても満足できる作品に仕上がっています。 映像と音楽のめぐり逢いを楽しんでいただきたいですね。

NHK 深海 4

(久石譲インタビュー 出典元:NHK 深海プロジェクト 番組にかけた想い より)

 

 

メインテーマ(1)は、神秘的な深海の世界をあますことなく表現している。フルオーケストラの壮大かつ悠々とした広がりのある響きと、各楽器たちが織りなす旋律が、まさに多種多様な深海の生き物たちを、そして未知の世界の不思議さを感じとることができる。

メインテーマにも関わらず、いい意味でつかみどころのない不思議なメロディーが、未だなお解明されていないことの多い深海の世界、つまりは海の宇宙に対してこれからも探究が続いていく世界であることを予感させる。

ミステリーとロマンの大航海を彷彿とさせる(2)「ミステリー&ロマンへの誘い」、変拍子のリズムがまるで生き物のような躍動感を放つ(3)「海の世界」、シンセサイザーの不思議な音色と旋律が深く深く神秘の世界へ誘う(7)「神秘の海中」、悠々としたストリングスがその品格と高貴さを感じる(11)「ダイオウイカのテーマ」、ピアノで美しく優しく語りかけてくる(13)「達成~メインテーマ~」など、深海の魅力がぎっしりとつまっている。

第二部からも、寄せては返す波のように、解明してはまた新しい謎が現れるというくり返し、そんな深海の迷宮をダイナミックに表現した(16)「深まる謎」、どう猛なカグラザメと優しい性格のメガマウスをうまく対比した(18)と(20)、そして生き物の輪廻、生命の尊厳を高らかに讃歌する(21)「輪廻」、と、その魅力は尽きない。

久石譲本人も本作品の制作について、「音楽的に言うと、実は深海は宇宙の物語、ただ宇宙と深海の大きな違いは「水」、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうとしたのが狙いでもある。ハープが様々なパッセージを奏でているところに、和音感などの凝ったかたちを取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかと考えた。」と語っている。

またプロデューサーからの「生き物の連鎖、輪廻を表現してほしい」との依頼からそれに応えるべく「ある種宗教的、哲学的、そして普遍的」なテーマに対して、魅力のある壮大な音楽世界を築きあげている。

世界も大注目のビッグニュースとはいえ、ひとつの番組において、ここまでの音楽的世界観の作り込みとしては贅沢な作品である。

映画「崖の上のポニョ」映画「海洋天堂」映画「水の旅人」などもそうだが海や水の世界観の表現は本当にすばらしい。そこにはダイナミックな躍動感と、緻密で精細なオーケストレーションという、ふたつの対極的な要素が見事に融合している。

ダイナミクスな海、宇宙、巨大生物から、ミクロな微生物やプランクトン、得体のしれない未知の生命体、そして化石まで命あるすべてのものが、ひとつひとつの旋律に楽器に宿っている。

 

 

久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』

第一部
1.NHKスペシャル深海 メインテーマ
2.ミステリー&ロマンへの誘い
3.海のテーマ
4.科学者たち
5.世紀の大調査
6.ダイブ開始
7.神秘の海中
8.初めての発見
9.セカンドコンタクト
10.挑戦
11.ダイオウイカのテーマ
12.深海へ帰る
13.達成~メインテーマ~
第二部
14.海に生きる大きな生物
15.奇跡の大陸ニッポン
16.深まる謎
17.海の生命力
18.深海の強者 カグラザメ
19.科学者たち~愛~
20.メガマウスのテーマ
21.輪廻
22.NHKスペシャル深海 エンディングテーマ

All Music Composed and Produced by Joe Hisaishi

Performed by Tokyo New City Orchestra
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by NHK Symphonic Orchestra (except M-1,8,20,21,22,23,24) ?
Conducted by Junichi Hirogami (except M-1,8,20,21,22,23,24) ?

Recorded at NHK509Studio , NHK506Studio
Mixed at NHK604Studio

Orchestration:Joe Hisaishi , Junichi Nagao

 

Disc. 久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

2013年6月5日 CD発売

2013年公開 映画「奇跡のリンゴ」
監督:中村義洋 音楽:久石譲 出演:阿部サダヲ 菅野美穂 他

 

 

コンセプトは、”津軽のラテン人”でした。

-今回の音楽設計はどのようになされたのですか。

久石:
台本を読んだら、単なるハートウォーミング路線の映画ではなくて、しっかり人間が描かれていました。そこで、まず全体をつなぐメインテーマとして「リンゴのテーマ」のようなものと、夫婦愛が出てくるので愛のテーマが必要だろうと。それを一旦書いたんですけど、青森ロケを見学させていただいたときに幸か不幸か、木村さんにお会いしちゃいまして(笑)。あの天真爛漫さを出すには、もうひとつ別のテーマを作らなければいけないと思ったんです。そこから結構、悩みました。結果としてたどり着いたコンセプトが「津軽のラテン人」(笑)。オーケストラのほかにマンドリンとウクレレ、口琴(ジューズハープ)を使って、なんとか木村さんの陽気さを出せないかと工夫しました。どちらかというとイタリア的なラテン感覚ですね。そんな感じの明るさが音楽で出せたらいいなと。

 

-ご苦労された部分となると、どのあたりでしょうか。

久石:
夫婦愛やリンゴ栽培の難しさを描く部分と、木村さんのキャラクターをどう両立させるか、ですね。ジューズハープって、一歩間違えると漫画チックになってしまうでしょう。あと、山崎努さん演じる父親のラバウルの話をどれだけきっちり書くか、山へ木村さんが自殺を図りに行くくだりの長いシーンをどうするかという配慮は大変でした。何より、エンターテインメントに落とし込まなければいけない作品ですからね。実は観客が一番シビアにご覧になるジャンルです。中途半端なことをやってしまうと一発で見抜かれます。そういう意味では全力、かつ、できるだけ客観的に臨まないといけない作品でした。エンターテインメントは、しっかりした形で作ろうとすると、意外に手間暇がかかりますし、思うほど簡単ではないんです。この映画は、ちょうど昨年の7月からの3~4ヶ月で映画3本を立て続けにやった時期の最後の作品だったんですが、集中していた分、いいものができたのかなとも思っています。少なくとも、あの時点でできることは100%やったという実感は確実にあります。個人的には結婚式のシーンが好きですね。音楽的にもうまくできたと思いますし、とてもいい感じだなと、完成した作品を観て思いました。

Blog. 映画『奇跡のリンゴ』(2013) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「それはいちばん重要なところです。映画を2時間で構成するとなると、どこに音楽を入れ、どこに音楽を入れない箇所を作るかが重要になります。今回は、冒頭はエンターティメントでいかなければいけません。中盤は、(主人公の状況が悪い方向に)落ちていく。ただ、落ちたときに悲しげな音楽を入れてしまうと、その音が救いになってしまいます。だから音楽は抜くことにしました。普通なら「ここに音楽が入るな」という箇所もありましたが、あえて「抜きましょう」という話になって。そういう設計的な部分の考え方に関しては、中村義洋監督とも一致しました。だから、とてもやりやすかったですね。」

Blog. 「東洋経済オンライン」 久石譲 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

「驚いたことに、『どこに音楽を入れるべきか』という意見が僕と監督でほとんど完璧に一致したんです。映画音楽を深く理解している監督で、一緒に仕事をするのは楽しかった。だから僕も一所懸命にやってしまいましたよ(笑)」

「まず第一は、リンゴのテーマですね。人類が何千年にもわたって苦労して栽培してきた、普遍的な果物としてのリンゴのテーマ音楽。それからもうひとつはこの映画の主題である愛のテーマ。木村さんと奥さんの夫婦の愛、それを包みこむ愛のテーマが必要です。本来ならこのふたつで行きたかったんですが、映画の撮影現場を訪ねた時に、映画のモデルになった木村秋則さんというとんでもなく個性的な方に会ってしまったんです。それですぐに気づいた。この人にリンゴのテーマだけでは太刀打ちできないなと」

「たどりついたのは『津軽のラテン人』というコンセプトでした。マンドリンとウクレレと口琴というあり得ない編成で、木村さんの天真爛漫で明るい雰囲気を出せないかと考えたんです。それでちょっと奇妙でコミカルなテーマ音楽が生まれた。ただ、雰囲気で決めたわけではない。この映画にはどういう音楽が必要なのかを考え抜き、詰め将棋のように緻密に、必要な音楽を作って組み立てる作業のなかで、あのテーマもできあがっている。映画音楽は大変ですから、1本作り上げようとすると、魂を入れるような作業が必要なんです。だから、あまり本数をやるべきじゃないと思っているんですけど(笑)」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

全編において特徴的なのが、その軽快なタッチ。主要な2つのテーマを作曲しながらも、主人公になっている実在の方にお会いしてから、その陽気なキャラクターを表現するために別のテーマ曲も作曲。

コンセプトは「津軽のラテン人」という能天気な明るいイメージから、マンドリン、ウクレレ、口琴などの楽器をオーケストラと合わせる構成になっている。本来ならば「日本 津軽」という舞台にも関わらず、その音楽世界が「異国 南国 ラテン」の香りがするのはそのためだろう。そのギャップが結果として見事に功を奏していると思う。

ちなみに口琴という楽器にだけ触れる。口琴は、原始的な楽器で古くから世界各地に分布。日本では古くから北海道や津軽などでアイヌ民族が好んで用いていた。そのビヨ~ンという独特の音色は、飛び跳ねる動き等を表現する効果音としてもよく使われる。アニメ『ど根性ガエル』の主題歌といえば、一番想像しやすい。

というわけで、マンドリンやウクレレといった「ラテン」を意識しながらもそこに口琴を組み合わせることによって「ラテン+津軽」を、そして「陽気さ 明るい」空気感を演出している妙。いつもの久石メロディーが、よりパッと明るくなっている作品である。

メインテーマ、そしてそれをモチーフとした(1) (6) (9) (13) (21) (23) (25)はまさに自然の音楽。壮大というよりは、空気も水も透きとおるような音楽。日本だけでなくヨーロッパの田園、畑、山脈なども連想できる、心地のよい曲。

モチーフによって、フルート、ホルン、ストリングスなどの楽器が旋律を奏でることからも、そういった連想や世界が広がるのかもしれない。

主人公のテーマ、そしてそれをモチーフとした(2) (4) (10) (12) (14) (27)などは、冒頭に書いた「津軽のラテン人」をコンセプトに、その楽器たちをうまく組み合わせた軽快な曲。マンドリン、ウクレレ、口琴、オーケストラが、モチーフごとにその旋律を軽やかに彩っている。いろんなCMにも使用できそうな、短いメロディーながらもインパクト十分な、陽気な明るい曲。

ラブテーマ、そしてそれをモチーフとした(5) (20) (22)は、ピアノをメインにしたシンプルな旋律。少しメインテーマを垣間みるような音階が特徴的。

そして、最後の(28)にて、ラブテーマ~主人公のテーマ~メインテーマと上の3つのテーマを1曲として繋いで聴くことができる。映画のエンドクレジットに華を添えている、そして余韻が香る。

 

 

久石譲 『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』

1.奇跡のリンゴ
2.運命の始まり
3.母親の言葉
4.東京の空
5.祝言の夜
6.津軽の風物詩
7.安全の代償
8.幸福の訪れ
9.答えへの入口
10.挑戦の始まり
11.試練の訪れ
12.挑戦の決意
13.ラバウルの記憶
14.挑戦の日々
15.悪夢
16.三等分の想い
17.約束の光
18.現実の地獄
19.雛子倒れる
20.薄暮の背中
21.暗闇の出口
22.人間の証
23.挑戦の再開
24.困窮の果て
25.ありがとうの言葉
26.小さな希望
27.挑戦の続き
28.リンゴの軌跡

All Music Compose, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Madolin:Tadashi Aoyama
Guitar & Ukulele:Mikihiko Matsumiya
Jew’s Harp:Ikuo Kakehashi

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

2013年4月3日 CD発売

2013年4月5日,6日 二夜連続連続放送フジテレビ系ドラマ「女信長」
原作:佐藤賢一 監督:武内英樹 音楽:久石譲 出演:天海祐希 他

 

 

民放のTVドラマの音楽を手がけることも近年珍しいけれど時代劇ものとしても『壬生義士伝』や『天地明察』くらいしかない。

混声合唱や和楽器も使用している。フルートと尺八、ハープと琴など、和楽器と西洋楽器の近い音をうまく組み合わせて織りこんでいるところに、そこまでコテコテの時代劇感を演出しないさじ加減があるのかもしれない。

フルート・尺八・ハープ・琴・ピアノに混声合唱と、高音の楽器、また音域に幅のある楽器を随所にちりばめているところが、信長という重厚感に、今回のキーワードである“女信長”という女性らしさがうかがえる。

印象的なメロディーというよりも、こういった演出が気になった作品。全体的な緊迫感迫る音楽は、『坂の上の雲』の音楽に近いかもしれない。

(4) (31)のメインテーマをモチーフにシーンに合わせてアレンジしたもの、(15) (22) (28) (30)などの女性心をテーマにした曲に加え、(3) (8) (23) (24)など戦国時代ならではの厚みのある曲もならぶ。

1曲1曲が短いのは、TVドラマだからかもしれない。ぜひコンサートなどで、ひとつの絵巻のような組曲として聴いてみたい作品。

 

 

久石譲 『女信長 オリジナル・サウンドトラック』

1. イスパニアからの使者
2. 絶体絶命
3. 奇襲
4. 女信長
5. 運命の子
6. 嫡男として
7. 哀れな宿命
8. 暴君
9. 御濃
10. 父の死
11. 信長誕生
12. 野望
13. 合戦
14. 城下町
15. 恋心
16. 京上洛
17. 服部半蔵
18. 奏愛
19. 御市
20. 明智光秀
21. 天命
22. 信長の哀しみ
23. 決戦
24. 地獄絵図
25. 最強の敵~武田軍~
26. 悲壮な決意
27. 信長と光秀
28. 本能寺~愛のテーマ~
29. 家康の初恋
30. 信長からの解放
31. 新しい時代

All Music Composed, and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Gu-Zheng:Jiang Xioa-Qing
Japanese transverse flute:Kohei Nishikawa
Shakuhachi:Jun Watanabe
Lute:Hiroshi Kaneko
Tin Whistle:Tkashi Yasui

Recorded at Victor Studio

Orchestration:Kosuke Yamashita , Sachiko Miyano , Joe Hisaishi