Disc. 久石譲 『二ノ国 漆黒の魔導士 オリジナル・サウンドトラック』

二ノ国 漆黒の魔導師 オリジナル・サウンドトラック

2011年2月9日 CD発売 PKCF-1036

 

レベルファイブ×スタジオジブリ による任天堂DS用ゲームソフト「二ノ国 漆黒の魔導士」音楽監督を担当、そのオリジナル・サウンドトラック。

 

 

コメント

『二ノ国』に参加するきっかけは、ジブリさんから「こういう仕事があるけれど、一緒にやらないか?」という話があったからです。実際に総監督の日野(晃博)さんにお会いしたら…「これはすごくいいものができそうな現場になるな」という予感がしました。

『二ノ国』の仕事は、比較的、壁にぶつからずにスムーズにできました。毎朝起きたときにラフスケッチ(ピアノだけでメロディと伴奏)を書くのですけれど、それが毎日、同じフレーズが出てくるのです。結果、それがエンディングテーマ曲になるのですが。

そこで、まず最初に中心になる楽曲がきちんと出てきた。だから、非常に全体の曲が組み立てやすかったということもあります。

そこから…最初に21曲を7日間で全部書きました。

こういうことは稀にあり、すごく調子のいい時の傾向です。もちろん、オーケストレーションで、大変な労力、時間はかかっています。ただ、「どっちに進めばいいかわからない!」ということではなくて、行く道は見えながら、その上で「良い音楽に到達するにはどうすればいいのか?」という状態でした。

結果…音楽的にすごく密度の濃い、完成度の高い作品が作れたと思います。

ゲームとしても、音楽も、アニメーションの部分も含めて、すごくレベルが高い。世界観もハッキリしているので、多くの人の期待に応えられていると思います。ぜひ、ゲームの世界を楽しんでみてください。

久石譲

(コメント ~CDライナーノーツより)

 

 

今回はいつもの作曲の時とは違う方法で作曲が進められている。通常なら最初の作曲段階でオーケストレーションをしながら曲をスケッチしていくが、今回は全曲をまずピアノ一本で楽曲として仕上げ、それからオーケストレーションを施すという方法がとられている。音のぶつかりや和声の組み方、また主旋律とその他の役割の音の絡みなどが鮮明に聴こえ、より一音一音にシビアになれるからだとか。

 

 

ジブリ作品に通じるファンタジーでもあり、そこにRPG・冒険という世界が加わり、バリエーションに富んだ音楽世界が楽しめる作品。

(1)のメインテーマに世界観が凝縮されている。(18) (19)では、メインテーマのモチーフとしてより力強い冒険が響きわたる。(3) (6) (9) (10) (11)などは、まさにファンタジー感満載、軽快かつコミカルな曲、冒険を進めていくなかでの、ステージ世界が色鮮やかに描かれている。

この作品において、エスニックな楽器も随所に登場していて、それが作品の世界観を広げ、冒険のフィールドを大きく羽ばたかせている。

(21)主題歌は、麻衣が担当。(8)では主題歌のオーケストラによるインストゥルメンタルを聴くことができる。

メインテーマ、主題歌とならんで、主要な曲となるのが、メロディアスな美しい旋律の(5) (20)。(5)ではピアノをメインにしっとりと、(21)ではエンディングにむかう高揚感とあわせて壮大なオーケストレーション。

ひとつの新しいジブリ作品を楽しめるような、ファンタジー音楽。ジブリ作品を連想させる似た曲というものではなく、それだけ完成された新しいファンタジー世界。

(2)では、ちょっぴり「天空の城ラピュタ」でのトランペットを手に持ったパズーとシータの朝や、「魔女の宅急便」でのキキが生活をはじめた街なみを思い馳せることができるのも、それはまたファンならではの聴き方・楽しみ方かもしれない。

久石譲本人もCDライナーノーツにてこう語っている。

「ファンタジーとしてきちんとした作品になりたい。アイルランドとか格調のある音楽、懐かしくてでも未来につながるそういう音の世界観。」

 

 

 

二ノ国 漆黒の魔導師 オリジナル・サウンドトラック

1. ニノ国メインテーマ
2. 始まりの朝
3. ホットロイト
4. 事件発生
5. アリー~追憶~
6. シズク
7. 強大な魔法
8. フィールド
9. ネコ王国の城下町
10. 砂漠の王国の町
11. 帝国行進曲
12. 危機
13. 緊迫
14. バトル
15. 漆黒の魔導士ジャボー
16. イマージェン・バトル
17. 迷宮
18. 決戦へ
19. 最後の戦い
20. 奇跡~再会~
21. 心のかけら 歌:麻衣

指揮:久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

ピアノ:フェビアン レザ パネ
リュート:金子 浩
シタール:伊丹 雅博
ホイッスル:高桑 英世
タブラ・バヤ:梯 郁夫

レコーディング・ホール:横浜みなとみらいホール
ミキシング・スタジオ:Azabu-O Studio

オーケストレーション:
久石譲
宮野 幸子
足本 憲治
松波 千映子

 

Disc. 久石譲 『ラ・フォリア / パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

久石譲 『ラ・フォリア パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

2011年2月2日 CD発売 TKCA-73627
2021年11月27日 LP発売 TJJA-10044

 

2010年11月20日より、三鷹の森ジブリ美術館にて公開

三鷹の森ジブリ美術館 ジブリの森のえいが
『パン種とタマゴ姫』 上映時間 11分37秒
原作・脚本・監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

『ラ・フォリア』ヴィヴァルディ / 久石譲 編
指揮:久石譲
演奏:三浦ストリングス
コンサートマスター:三浦章宏

 

三鷹の森ジブリ美術館映画「パン種とタマゴ姫」のサウドトラック。宮崎監督がこの映画を製作している時にずっと聴いてたという、ヴィヴァルディの「ラ・フォリア」という曲を素材に、宮崎監督の映像が与えてくれるインパクトに沿う形で、古典曲を現代的なアプローチで再構築した作品。録音は2010年10月。

 

三鷹の森ジブリ美術館オリジナル短編アニメーション第8作「パン種とタマゴ姫」(2010年上映開始)のサントラ盤。本作のみ、美術館ショップ専売CDとは別に一般市販向けCDが制作された。ヴィヴァルディの「ラ・フォリア」を久石が現代的アプローチで再構築。

同美術館のショップ「マンマユート」でのみの販売されている同サントラ盤は、ジャケットだけでなく内容も一部異なっており、本盤は最終的に映画で使用された構成で収録されている。

 

 

 

『ラ・フォリア』を素材として、現代的に再構築した音楽 久石譲(音楽)

今回の音楽は、宮崎監督が『パン種とタマゴ姫』を制作している時にずっと聴いていたというヴィヴァルディの『ラ・フォリア』という曲を素材としています。宮崎監督の映像が与えてくれるインパクトに沿う形で、古典曲を現代的なアプローチで再構築してはどうかと考えました。

この映画の世界観は、宮崎監督がこの作品を作るきっかけになったというブリューゲルの絵の質感みたいなことをすごく大事にしていましたし、ヨーロッパの民謡のような印象をうけました。ヴィヴァルディが活躍した時代の”バロック音楽”(16世紀末から18世紀中ごろまでのヨーロッパ音楽)のシステマチックな部分に、僕の得意とするミニマル・ミュージックの手法を取り入れ、音の形を少しずつ変化させ反復し続けていくことで、古典的なニュアンスを保ちながらも現代のバロック曲として、この映画に合うものになるのではないかと思ったのです。宮崎監督にこうした意図をお話すると「面白い」ということになり、音楽の方向性は決まりました。

そうは言っても、最初は『ラ・フォリア』という曲が持つ暗さが、この映画に合うのだろうかと心配でもありました。でも曲を作り、僕が自分のコンサートツアーなどでいつもお願いしている弦楽合奏団、サックスとマリンバ奏者に演奏をしてもらい、映像に合わせて聞いてみると、キャラクターの持つ雰囲気と音楽のギャップが映画に深みを与え、とてもいい仕上がりになりました。

通常、映画音楽はシーンに合わせる形で何曲も作るのですが、今回は映画が12分ほどの短いものですから、音楽は変奏していく1つの楽曲という作りになっています。その意味では、音楽単独でも聴きやすいものになっていますので、映画をご覧になった後、興味のある方はCDなどで音楽そのものを楽しんで頂ければと思います。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

ヴィヴァルディの『ラ・フォリア』という曲を素材に編曲されたもの。古典的なバロック音楽と現代的なミニマル・ミュージックの融合。演奏は弦楽、サックス、マリンバとシンプルな小編成。

バロック音楽で有名な、パッフェルベルのカノンに代表されるバロック音楽を象徴する楽器、チェンバロの音も奏でられている。短編映画のため計7曲で約12分。

 

 

2021.11 update

liner notes フォリア(ラ・フォリア)とは?/ヴィヴァルディの原曲について/『パン種とタマゴ姫』のスコアについて/楽曲(主題と変奏)解説 (前島秀国)所収

 

 

 

久石譲 『ラ・フォリア パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

1. 主題
2. 第1変奏
3. 第2変奏
4. 第3変奏
5. 第4変奏
6. 第5変奏
7. 終曲

 

指揮:久石譲
演奏:三浦ストリングス
コンサートマスター:三浦章宏

レコディング・エンジニア:秋田裕之(ワンダーステーション)
レコーディングスタジオ:ビクタースタジオ・Bunkamuraスタジオ

 

Disc. 久石譲 『パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

2010年11月20日 CD発売 MDG-R-00007

 

2010年11月20日より、三鷹の森ジブリ美術館にて公開

三鷹の森ジブリ美術館 ジブリの森のえいが
『パン種とタマゴ姫』 上映時間 11分37秒
原作・脚本・監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

『ラ・フォリア』ヴィヴァルディ / 久石譲 編
指揮:久石譲
演奏:三浦ストリングス
コンサートマスター:三浦章宏

 

同美術館のショップ「マンマユート」でのみの販売されている本作サントラ盤は、ジャケットだけでなく内容も一部異なっており、本盤は最終的に映画で使用された構成で収録されている。録音は2010年10月。

本作のみ、美術館ショップ専売CDとは別に一般市販向けCDが制作された。ヴィヴァルディの「ラ・フォリア」を久石が現代的アプローチで再構築。

 

久石譲 『ラ・フォリア パン種とタマゴ姫 サウンドトラック』

 

 

2021.11 update

liner notes フォリア(ラ・フォリア)とは?/ヴィヴァルディの原曲について/『パン種とタマゴ姫』のスコアについて/楽曲(主題と変奏)解説 (前島秀国)所収

 

 

 

パン種とタマゴ姫 サウンドトラック sc

1. 主題~第1変奏
2. 第2変奏
3. 第3変奏
4. 第4変奏
5. 第5変奏
6. 終曲

レコーディングスタジオ:ビクタースタジオ , Bunkamuraスタジオ

 

La Folía – Mr. Dough and the Egg Princess Soundtrack

1.Theme
2.Variation 1
3.Variation 2
4.Variation 3
5.Variation 4
6.Variation 5
7.Coda

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2 』

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2 』

2010年11月17日 CD発売 TOCT-27010

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とするスペシャルドラマ「坂の上の雲」。日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んでいるスペシャルドラマである。音楽を手掛けるのは日本を代表するコンポーザー久石譲。

本作は「ドラマ第1部」使用曲より第1弾サントラ未収録曲と「ドラマ第2部」のために録音された新曲をまとめて一挙収録した豪華盤。視聴者の皆様からの多くのお問い合わせ・リクエストを頂いた「少年の国」などの楽曲も収録。

壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひたすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

生みの苦しみ、生みの喜び

スペシャルドラマ「坂の上の雲」は3年間におよぶ撮影、そして3年に亘る放送と、これまでの規格に収まらない番組だ。この文章を書いている時点で、この番組のプロジェクトを立ち上げてからすでに8年になる。プロジェクトを進行させてゆく面白さと裏腹に、継続させてゆくつらさも常に付きまとう。新しいことに挑戦してゆくときのある種の熱気のようなものをバネに「エイヤッ」と走り出しても、ゴールは遥か先で到底視界には入らず、そして途中棄権も許されないマラソンを走っている感じだ。しかし、短距離走よりマラソンの利点も多く、それだけ準備も撮影も周到にできる。番組をご覧いただいた方には、その質の高さを実感いただけたのではないかと自負している。

このマラソンを走る「面白さ」と「つらさ」を感じているのは私だけではなく、この番組に携わっている全てのスタッフや出演者が感じているのではないかと思う。ご本人に直接聞いたことはないが、音楽を担当していただいている久石譲さんも、同じ感覚を持っているのではないか、と勝手に想像している。

ドラマの第1部はいわば「青春編」だった。日本が国際社会という舞台に初めて立ち、主人公たちがそれぞれの道を歩き始めるというストーリーだった。第2部は「友情編」である。ロシアとの関係が緊張を増し、ついに開戦となるなか、秋山真之の二人の親友、正岡子規と広瀬武夫が壮絶な最期を遂げる。兄の好古はロシアや清国の、本来は対決するはずの人々と親交を結んでゆく。子規や広瀬の死は音楽的にも大きなテーマだし、ロシアを音楽でどう表現するのかなど、久石さんのマラソンコースの上で、難所だったに違いない。

そしてメインテーマだ。ドラマは3部構成であり、しかも3年に亘って放送する。物語は激しく展開し、時代は変わり、見ている人たちも作っている私たちも変わってゆく。ならばメインテーマも変わっていったらどうだろうか。そう思っていたのは私だけではなく、久石さんも同じだったようだ。しかし、英国の歌姫のイメージを踏襲しながら、違和感なく新しいヴァージョンを創り出すのはかなりの難産だった。けれど、森麻季さんの歌声と久石さんの手腕で素晴しい曲に仕上がった。

これがマラソンの面白さかな、と思っている。

2010年11月

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

(CDライナーノーツより)

 

 

この「オリジナル・サウンドトラック 2 」は第1部未収録楽曲となる(1)~(12)と第2部新録音楽曲となる(14)~(24)で構成されている。(13)は「オリジナル・サウンドトラック 1」(以下 サントラ1)にも収録されているため、Bonus track となっている。

主題歌でありメインテーマの『Stand Alone』は、「サントラ1」の4ヴァージョンとは別に、(5)にて、ヴァイオリンとチェロの掛け合いにハープの上品な伴奏という悠々な1曲となっている。

第2部で主題歌を歌っているのは、森麻季(24)。オーケストラアレンジは、第1部で歌ったサラ・ブライトマンのそれと同じだが、歌声が変わるだけで、また違った印象と息吹を与えてくれる佳曲。

第1部の未収録楽曲からは、(1) (2) (12)が、若者たちの青春を象徴した、希望に満ちた、豪快かつ軽快な楽曲。(3)は「サントラ1」の『(3)旅立ち』をモチーフにした吹奏楽アレンジになっていたり、(4)は「サントラ1」の『(5)青春』をモチーフにコミカルなタッチになっている。(6)は全3部で随所に聴くことができる、いわば「坂の上の雲」作品におけるレクイエムのよう。トランペットの優しくも高揚な音色が、明治という時代の様々な出来事や人々の感情を、何も語らずも一気に飲み込んでしまう、包みこんでしまう、そういう楽曲。

この曲以後、後半の第1部未収録楽曲からは、戦争や国際社会といった時代の渦に流されていく重厚な楽曲たちが並ぶ。

第2部の新録音楽曲からは、(17) (18) (19)など、この時代の混沌さを重厚に表現している。一方では(15) (16) (21)など、人々の感情を叙情的に美しくも儚く表現している。第2部はいわば「友情編」となっていて(制作サイド)、主人公たちのそれぞれの道や親友の死、またロシアや清とった国際社会が舞台になっていることからも垣間見える。それは(14)や(22)からも象徴され伝わってくる一貫した緊張感が凝縮されている。

「第1部」 「オリジナル・サウンドトラック 1 」とは、また別の世界観を堪能できる1枚。

 

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2 』

第1部:未収録楽曲より
1. 少年の国
2. ガキ大将!真之
3. 奇跡の時
4. 悪ガキ行進曲
5. Stand Alone for Violin & Violoncello
6. 疵 (キズ)
7. 偵察
8. 狼煙 (ノロシ)
9. 破局の始まり
10. 終の住処 (ツイノスミカ)
11. 少年の国 for Woodwinds & Strings
12. 広瀬 ~快活な人物~
13. Stand Alone with Piano / サラ・ブライトマン×久石 譲 Bonus track
第2部:新録音楽曲より
14. 若き精鋭たち
15. 真之と季子
16. 律 ~愛と悲しみ~
17. 強国ロシア
18. アリアズナ
19. 列強と日本
20. 奸計 (カンケイ)
21. 慕情
22. 開戦への決意
23. 広瀬の最期
24. Stand Alone 歌/森麻季(ソプラノ)

音楽/久石譲
指揮/久石譲 演奏/東京ニューシティ管弦楽団
指揮/外山雄三 演奏/NHK交響楽団 (M-24)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by 久石譲 (M13,M24)

Recorded at NHK CR-506, CR-509, Nemo Studios (M13)
Mixed at NHK CP-604, CR-506, NHK出版宇田川スタジオ (M24), Nemo Studios (M13)

 

Disc. 久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

2010年9月1日 CD発売 SRCL-7360

 

2010年公開映画「悪人」
原作/吉田修一 監督/李相日 出演/妻夫木聡 深津絵里 他

 

 

INTERVIEW

事前に手の内を明かさないように、
ニュートラルな位置から映画を推進していきたかった。

-久石さんの音楽が、映画を観る手助けをしてくれていると感じました。特に、祐一に対して。なぜか、やさしい気持ちで祐一を見つめていられる。でも、簡単に救いを与えているわけではなくて。負担を軽減してくれるというか、高度な音楽作用だと思いました。

久石:
祐一は殺人者だけど、誰もがなりえてしまう。若くて、思い通りに生きられない、大勢いる人たちのなかのひとりでもある、でも、それを音楽が肯定してもいけない。やっぱり罪を犯しているわけですから。距離はとる。けれども、彼が持っている孤独感や共感できる部分は、この映画のメインテーマになるだろうと思いました。あまり饒舌にもならず、たえず揺れる祐一の気持ちとシンクロしていくために、同じ音階を繰り返すミニマルな曲調を選びました。

-映画と音楽の距離感が絶妙です。

久石:
気持ちを煽ってしまうと、すごく安っぽくなってしまうから。あと、難しかったのが、この映画は後半、群像劇になる。房枝にしても、佳男にしても、それぞれがシチュエーションのなかで自分を乗り越えていく。一方、(祐一と光代の)ふたりの主人公は、逃避行がはじまってから、ドラマがなくなる。でも、最後には、祐一のテーマをメインにした、少しメロディアスなふたりの愛のほうに焦点を絞っていったほうが結果、観る側はこの映画にストレートに入れる。あの夕陽を見て終わっていく瞬間に、「これはふたりのラブストーリーだったんだ」ということが明確になってくれれば、観やすくなるんじゃないかと。そこに神経を使いました。

-だから、あのラストが効くのだと思います。

久石:
ラストの曲は、救い、じゃないんです。レクイエムでもない。ある種の救済的なぬくもりはある-でも、あったかいわけじゃない-それがあることで音楽的な構造は非常に明確になるんじゃないかと思いました。

-あのラストが、いわば「到着」の感慨をもたらすのは、序盤で流れる音楽が、それこそ山道の急カーブを祐一が駆る車の走りのように、どこに連れて行かれるかわからない、あらゆる「予感」だけが乱れ絡み合うドライブ、つまり多様なファクターの集積になっているからだと思います。

久石:
ある種のサスペンス。どうなっていくの? というニュアンスは絶対必要。でも、メロディアスに「これはラブロマンスですよ」と伝えるのもまったくの嘘。悲劇性が強すぎても駄目。つまり、事前に手の内を明かすような真似をしたらいけない。たえず、何かが繰り返されている。気持ちが増幅されていくかもしれないし、不安も増強されていくかもしれない。どちらにもいない、ニュートラルな位置から映画を推進していきたかったんです。

-あの雑多な「予感」は、全体に流れていますね。

久石:
李(相日)監督も(あの曲を)すごく気に入ってくれて。結果、今回は、ギリギリまで無駄をはぶいた構成になりました。

-徹底された?

久石:
そうですね。日本映画でここまで(曲のトーンを)抑えて作ったのは久しぶりですね。自分としても、「いつもだったら、こうしてしまうな」というところも全部、抑えて抑えて作った。結果的に、いままでやったことのないかたちにチャレンジができました。たいていの場合、音楽は、ある部分の感情だけを刺激するのはものすごく得意。でも、(それが何か)はっきりとは言わないで、押し上げていくようなことは難しい。音楽はどうしても、色を決めてしまうのが速い。でも今回はそこを極力避けるようにしましたね。あとは、音楽が映像と共存しつつも、映像から一歩退いたところで支えていく。たぶん、映像と音楽が(ドンピシャと)ハマってる箇所は一個もない。唯一の笑顔であるラストカットへのアプローチもやはりそうです。

-音楽そのものの可能性を追求された結果、日本映画というより世界映画と呼ぶべき作品が完成したと思います。

久石:
最も重要なのはクリエイティヴィティ。とにかく徹底的に「ほんもの」を作る。それだけです。我々はもっと危機感を持つべき。たえず挑戦するべき。この映画は間違いなく、世界に向かって放つことができるレベルの作品になったと思います。

-最後に。『悪人』というタイトルをどう捉えましたか。

久石:
人間。そう解釈しました。

(取材・文/相田冬二)

Blog. 映画『悪人』(2010) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

 

 

 

映画『悪人』の音楽制作の模様を少しだけお届けします。2月末におこなった音楽打ち合わせの内容をもとに、2週間足らずで全曲ラフスケッチを書き終えた久石は、2回目の音楽打ち合わせに臨みました。しかし、そこで重大な問題に直面することになります。久石と、監督、そしてプロデューサー、三者の音楽に対する考え、イメージ、音楽のつける対象の方向性が微妙に違うのです。また、ラフスケッチをシンセサイザーでラフに創りこんだものを元に話し合いを進める方法をとったので、そのシンセサイザーの音源から、オーケストラで演奏しているものを想像するのが難しかったらしく、また、それが方向性のずれへと発展してしまったように今考えれば思えます。

いずれにせよ、この打ち合わせの翌日から、監督が毎日久石の元へ通うという、今までにおそらくなかった事態になりました。打ち合わせの次の日から久石、監督は久石のプリプロルームに揃ってこもり、久石がラフの音楽を書き、その音楽を予定の映像箇所にあててみて、それを監督と二人でその場で話し合い、また久石が微修正をかけ、仕上げる。監督は決して口数の多い方ではないのですが、ピンポイントで要望をいう、それに久石が応える。または、監督の要望とはさらに違ったアプローチで結果、監督の要望に応える。などというやり取りが、時間のなか張りつめた状況の中続きます。久石はもちろんのこと、監督も絶対妥協はしないので、双方納得、というところにたどり着くまでとてつもない時間と労力がかかります。そのような作業が連日深夜まで繰り返されました。

また、そのようなやりとりはレコーディング後も状況は変わらず続き、トラックダウンの微修正、主題歌のアレンジの方向性、主題歌の歌手選定など全てのことが紆余曲折。気がつけば通常の倍くらいの労力をかける結果となりました。

5月8日、最後のレコーディング及びトラックダウンが都内某スタジオで行われました。今回は、久石が描き下ろした主題歌「Your Story」を歌っていただくことになった福原美穂さんの歌入れと、そのトラックダウン。実は、この『悪人』プロジェクトでのトラックダウンはこれで3回目、ちなみに最初のレコーディングは3月16日に行われています。音楽打ち合わせのときから、完成まで相当難航することがおおよそ予測はできたのですが、久石の作曲、アレンジ期間を入れると、およそ3ヶ月。早いときは、映画1本の音楽を作曲からトラックダウンまでだいたい一月くらいでこなしてしまう久石にしては珍しいくらい、長期間を要したプロジェクトとなりました。

しかし、久石、監督共々、信念にもとづき最大限の労力を結集したため、時間がかかったわけで、映画(我々としては特に音楽)の出来は、前回作品『ウルルの森の物語』とは全く違う世界観で、とてもすばらしいものとなっています。二人の天才が、妥協することなく作り上げたことを考えると当たり前と言えば当たり前なのですが、本当にみごとな仕上がりになっています。

(映画『悪人』制作レポート ファンクラブ会報 JOE CLUB vol.13 2010.06 より)

 

 

 

今までの映画音楽とは違った新しい印象を受ける。壮大ともメロディアスともミニマルとも違う佇まい。もちろんそれらの要素がないわけではないが、そのどれもが全面には出ておらず主張していない。

楽器にしても、オーケストラやピアノに加えて、アコースティックギターや、少しシンセサイザーも使わている。おそらく製作過程で通常では稀なほど監督と密にコミュニケーションを図り、シーンごとの音楽や楽器まで監督と意見交換しながら作り上げられたからゆえだろう。

物悲しい音楽が並ぶようだが、ある種人間の深い感情から祈りまで、アンビエントのような感情の揺れを巧みに表現している。(16)の主題歌は福原美穂が担当。英語歌詞。(13)では同曲のヴォカリーズ・ヴァージョンとなっているがこれが名曲。ボーカルとアンビエントなシンセサイザー伴奏のみの包み込むような音楽。まさに祈りの曲、一寸の光が射しこむような希望の曲。

(6)ではこの主題歌をモチーフにアコースティックギターやチェロがメロディーを静かに奏でている。またもうひとつの主要テーマ曲といえる(1) (4) (11) (15)などでは、ピアノの儚くも静かなメロディーが流れるように響いている。

奥深く切ない音楽、深い感動をおぼえる。自身の映画音楽としても新境地を開拓したとも言える秀逸な作品。

別のCD作品「The Best of Cinema Music」では、『(11)Villain (映画『悪人』より)』が、フルオーケストラでのライブ音源で、約11分に及ぶ組曲として映画のストーリー展開に沿って構成されている。

 

 

 

久石譲 『悪人 オリジナル・サウンドトラック』

1.深更
2.焦燥
3.哀切
4.黎明
5.夢幻
6.彷徨
7.悪見
8.昏沈
9.侮蔑
10.何故
11.彼方
12.追憶
13.Your Story ~Vocalise~ (久石譲 × 福原美穂)
14.再生
15.黄昏
16.Your Story (久石譲 × 福原美穂)

All Music and Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Tokyo New City Orchestra
Performed by Shinozaki Strings (M-13,16)
A.Guitar:Masayoshi FUrukawa
Piano:Ichiro Nagata (M-13,16)

Recorded at Sound City, Bunkamura Studio
Mixed at azabu-O Studio, Bunkamura Studio

 

Akunin

1.Shinkou
2.Shousou
3.Aisetsu
4.Reimei
5.Mugen
6.Houkou
7.Akken
8.Konchin
9.Bubetsu
10.Naze
11.Kanata
12.Tsuioku
13.Your Story – Vocalise –
14.Saissei
15.Tasogare
16.Your Story

 

Disc. 麻衣 『ウルルの唄』

麻衣 『ウルルの唄』

2009年12月16日 CDS発売 VICL-36558

 

映画「ウルルの森の物語」主題歌

 

久石譲の娘・麻衣は、この曲でメジャーデビューを果たす。なおサウンドトラック盤収録の同主題歌は映画バージョンとなっており、このシングル盤とはアレンジが少し異なる。

また、DAISHI DANCE によるremix ver.もカップリングとして収録されている。原曲の雰囲気をそのままに、打込みリズムが加わったアレンジとなっている。

 

 

麻衣 『ウルルの唄』

1.ウルルの唄
2.最上級の勇気
3.ウルルの唄 (DAISHI DANCE “EXTENDED” remix.)
4.ウルルの唄 (Karaoke)
5.最上級の勇気 (karaoke)

「ウルルの唄」
作詞:麻衣 作曲・編曲:久石譲

「最上級の勇気」
作詞:麻衣 作曲:Tony Nilsson & 枚 編曲:田上修太郎

 

Disc. 久石譲 『ウルルの森の物語 オリジナル・サウンドトラック』

2009年12月16日 CD発売 UMCK-9319

 

2007年公開映画「マリと子犬の物語」のスタッフ・キャストが再結集した映画「ウルルの森の物語」。音楽も再び久石譲が担当したフルオーケストラ・スコアによるオリジナル・サウンドトラック。

 

 

INTERVIEW

今回は家族で楽しめるエンターティメント性の強い作品なので出来るだけ分かりやすく、登場人物の心情もきちんと出るよう意識して書きました。そこで、子供とウルルの交流、家族の絆など、音楽で心情を歌う意味で分厚い音楽よりは、いろんな楽器の音色を生かしたサウンドにしたいと思い、オーケストラを50名ほどの一管編成にしました。しかし、この編成は各楽器のコンビネーションが重要になってくるので、とても難しいんです。でも、僕はどの映画でも、自分なりの音楽的な目標を設定しています。それが今回はこの一管編成でした。

メインテーマのフレーズ「♪ウルル ウルル」は繰り返し登場し、最後まで耳に残るようになっています。そしてエンドロールでそのメロディが歌になることにより、全体にまとまりを持たせました。このテーマが表とするなら、この映画の持っている暖かさを第二主題的扱いとして書いた曲にピアノでも旋律をとった曲があります。母のテーマ、今回の裏テーマです。

『ウルルの森の物語』の音楽は、子供たちの”オーケストラ入門”になってくれるといいな、と思っています。後でサントラを聞いたときに、音楽への扉が開いてくれると嬉しいです。

久石譲

 

 

父の音楽は緻密なんです。例えばウルルが歩いているところ、首を傾けているところにピッタリ音楽が合っているのは、たまたまではなく、すべて計算してるんです。それに、父の持つ”メロディの力”を感じます。「ウルルのテーマ」はまさにそうですよね。シンプルだけど強い。

作詩については、何度も書いて、父といろいろ議論もしました。そうしたプロセスがあって、良い言葉にたどり着いたような気がします。「この大地と海」というフレーズは、映画の最後に船越さんの「昴はまるで大地のような子だ」「しずくはまるで海のような子だ」という台詞があって、是非入れたいと思ったんです。

「おなじ夢をみよう」というフレーズは、ウルルが自然に帰ることは、しずくちゃんと昴くんを忘れてしまうことだけど、それを恨んだり、悲しんだりするんじゃなくて「おなじ夢をみよう」という強くて優しい心があるといいなと。仕事では厳しい父ですけど、私がレコーディング後に帰宅すると「おかえり、どうだった?」って、仕事ではあまり見せない優しい顔なんです。そういう時に、無条件に信頼できるのが”家族の絆”なんだなぁ、としみじみ思います。

麻衣

(INTERVIEW ~映画「ウルルの森の物語」劇場用パンフレットより)

 

 

麻衣:
台本を読んだとき、『ウルルの森の物語』は、見終わった後に、自分が忘れてしまった何かを思い出せてくれる映画だと思いました。主題歌もその世界を引き継いで、聞いた後に温かい気持ちが残るような、少し元気が出るようなそんな曲にしたいなと思いました。また、メロディが印象的で、最初にピアノだけのデモをきいた時点で、最初の出だし、「ドーシーラー」のところは、「ウールール」だね!と父と話していました。何度もこのフレーズが出てくるので、違う歌詞にしようとトライはしたのですが、もう「ウールール」しか、しっくりこなくなってしまって(笑)、最後は、あきらめて、すべての箇所に、「ウールール」と歌うことにしました。この歌を、聞いた回りの方々が、聞き終わった後、すぐに「ウールール」と口ずさんでいるのを見て、凄く嬉しかったです。

麻衣:
最初の出だしは、「ウールール」にしよう!というアドバイスがありました。今までレコーディングの前は、父から「もっとこうした方がよい」とか、「力が抜けていないよ」とか、「音程がよくない」とか、かなりたくさんのことを指摘されていました。でも、今回のこの「ウルルの唄」の歌い方に関しては、父から何の言葉もなく、おかしいな?と疑問に思っていました。一番はじめに、試写を観た夜に、「歌よかったね~、安心して聞けた。こういう歌い手さんがいてもいい!って初めて思えたよ(笑)」と言われ、いまでで最高の褒め言葉でした。

久石譲:
こういうエンターテイメントの映画なので、やはり最後、歌があった方が良いだろうと思いました。それと、メイン曲の「ウルル、ウルル」というすごくシンプルなフレーズが映画のオープニングから少しずつ表れて繰り返され、最後までそのメロディーが耳に残るようになっているのですが、ライトモチーフというか、ストーリーとともに音楽も成長し、最後のエンドロールの時にはその同じメロディーが歌になる。こうすることによって、非常に全体がまとまるのではないかと思い、エンドロールの音楽、主題曲を歌に決めました。また、この映画は2時間近い長さがあるので、ちょっと切り口を変えるという意味でもエンドロールには歌があった方がいいだろうと思いました。歌い手さんの候補はいろいろあったのですが、非常にシンプルなメロディーなので、出来るだけ素直な歌い方が出来る人がいいなと思っていました。そんな時、僕の作品のデモテープはだいたい娘の麻衣が歌っているのですが、このデモテープを聞いた映画関係者が「この人でいいんじゃないか?」ということをおっしゃって。ちょうど麻衣も歌のデビューとソロアルバムのリリースが決まっているということもあり、歌に全精力を注ぐという時期なので、そういう意味でも、これを歌うといいのではないかな、と思ったんです。そういう経緯ですね。

Info. 2009/11/14 ナウシカ・レクイエムを歌った久石譲の愛娘、麻衣がデビュー より抜粋)

 

 

 

ファミリー映画らしい、明るいキャッチーな楽曲が並ぶ。メインテーマとなる(1) (7) (10) などは、心躍る軽快なメロディー。また二つ目のテーマ曲といえる (3) (5) (26) なども、ワクワク・躍動感・すがすがしい。ラブテーマといえる (4) (16) (18) (27)  などは、ピアノのきれいな旋律がぬくもりを感じる。

夏の北海道の雄大さと小さな命への優しい眼差し、本作品全体から感じとれる音楽。森林の緑も、透き通った風も、青い空も、目を閉じるとそこいっぱいに広がりそうな響き。夏休みの冒険、心温まる家族愛、を大事な宝箱につめ込んだような、そんな音楽。

自身が音楽監督である「タスマニア物語」 「漂流教室」 「水の旅人 -侍KIDS-」 「マリと子犬の物語」などと並べて ファミリー映画音楽の 心も体も跳ねるような快活な音楽。

 

 

なお、麻衣はこの主題歌にてメジャー・デビューを果たす。発売されたシングルCDはサントラ盤(映画バージョン)とアレンジが異なる。

 

2009年12月16日 CDS発売 VICL-36558

麻衣 『ウルルの唄』

 

 

 

ウルルの森の物語 久石譲 麻衣

1.ウルルの森 ~プロローグ~
2.風、つかまえた
3.動物達の歓迎
4.手紙
5.家族
6.オオカミ
7.ウルルの森 ~出会い~
8.小さな命
9.夕景
10.ウルル
11.渡せなかった手紙
12.オオカミ ~予兆~
13.オオカミ ~自然のルール~
14.絶滅
15.お父さんなんかいらない! ~しずくの涙
16.おかあさん ~昴の決心~
17.真夜中の逃走
18.手紙 ~メッセージ~
19.オオカミ ~はるか東へ~
20.雨の洞窟
21.救出
22.転落
23.父子の誓い~光る沼
24.父の決断
25.別れ~生きろ!
26.大自然の讃歌
27.おかあさん ~絆~
28.ウルルの唄  (映画バージョン) 作詞・歌:麻衣

Piano:Joe Hisaishi 4. 5. 16. 18. 27.
Performed by:Tokyo Philharmonic Orchestra
Conducted by:Joe Hisaishi

Orchestration:
Joe Hisaishi
Kousuke Yamashita
Sachiko Miyano

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 1 』

2009年11月18日 CD発売 TOCT-26910

 

司馬遼太郎の長編小説を原作とする大型企画ドラマ「坂の上の雲」。

日本のテレビ史上これまでにないスケールを目指しNHKが総力を挙げて取り組んでいるドラマであり、国内21都府県でのロケおよびスタジオ収録(2009年9月現在)、海外では、2次にわたるロシアロケ、中国、フランス、イギリス等でロケを実施。そして番組はいよいよ2009年11月より3年に亘って放送される。

ドラマ「坂の上の雲」の音楽を手掛けるのは日本を代表するコンポーザー久石譲。壮大なスケール感。希望に満ちた旋律。坂の上の雲に向かってひたすらに歩み続けた明治人の世界が鮮やかによみがえるオリジナル・サウンドトラック。

サラ・ブライトマンと久石譲。奇跡の初コラボレーションによるメインテーマ「Stand Alone」収録。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

明治を生きた若者達の群像。坂の上を目指し、”凛として立つ”彼らを音楽で描く。
久石譲

今から十数年前に司馬遼太郎さんの著書を夢中で読み漁ったことがあります。いずれも名作でしたが、なかでも明治以降の日本を描いた『坂の上の雲』は、特に興味深く、この時代を生きた人々の純粋なエネルギーに心惹かれました。ドラマ化の話を聞いた時はすごく嬉しかったです。

映像のための音楽を制作する場合、いくつか方法があります。たとえば、エンターテイメント性の高いアクション映画だと、登場人物ごとにテーマ曲を作ることがあります。でも、司馬さんがこの作品で表現したかった精神世界や明治という時代の空気感を描くためには、個々の人間をクローズアップする手法ではニュアンスは伝わらない。それよりは時代に衝き動かされた若者達を群像としてとらえて、それをテーマに曲を書く方がいいと考えました。

明治は、近代日本において重要な時代です。若者を中心に長い鎖国から開放された人々は、驚くほど純粋で、素直に西洋に目を向けて世界の強国に追いつくためにひたむきに”坂の上”を目指していました。そのために西洋の文化も貪欲に取り入れようとしました。

音楽でいうと、当時はイギリスの教育を模倣し、教科書にはスコットランドやアイルランド民謡が多く載っています。その時に日本古来の文化を切り離そうとしたのは反省すべき点だとは思いますが、いずれにしても日本人が初めて西洋の音楽に触れた時代です。

『坂の上の雲』の音楽を制作するにあたり、その時代の高揚感を日本の五音階の世界観と西洋のモダンな和音の感覚を融合させながら描き出したいと考えました。そして敢えて協和音と不協和音がせめぎあう大人の音楽を目指しました。さらに音楽の手法として、僕の原点であるミニマル・ミュージックを随所で取り入れ、「激動」や「蹉跌」などでそれを前面に打ち出しています。

また、構想を練る段階でこれまでの「NHKスペシャルドラマ」の音楽にはない新しいチャレンジをしたいと考えました。そこから生まれたのが「Stand Alone」です。明日に向かって”凛として立つ”明治の人々の美しき姿を壮大なオーケストラの演奏だけではなく、普遍性のあるメロディの歌で伝えたいと思ったのです。そして、この歌を歌う最高のシンガーとしてクラシックとポップス両方の組成を持つサラ・ブライトマンさんに歌っていただきました。

このサウンドトラックには「Stand Alone」の4ヴァージョンが収録されています。サラさんの日本語の歌とヴーカリーズ、僕がピアノを弾いたボーナス・トラック、さらにオーケストラのインストゥルメンタル・ヴァージョンです。それぞれ違いを楽しんでいただけるかと思います。

今はさわやかな達成感とともに、「Stand Alone」がスタンダードとして長く歌い継がれていくことを望んでいます。

(2009年9月25日都内にて/取材・構成:服部のり子)

(CDライナーノーツより)

 

 

風が吹いた瞬間

もう正確な日付は覚えていないのだが、NHK交響楽団の演奏による録音を控えたある日のこと。久石譲さんから、何曲か音楽のデモが出来たとの連絡があり、演出家と音響効果のディレクターそして私の3人で、いささか緊張しながら久石さんの事務所へ向かった。そこは西麻布の一角にあり、六本木通りという日本でも有数の繁華な場所の近くにしては非常に閑静な住宅街の中で、もう日も暮れようとしている頃だった。

緊張していたというのは、映画音楽の第一人者のデモをその本人を前にして聞くということもあったのだが、事前の打ち合わせで、ドラマの登場人物に即した音楽は作らないと決めていたこともあって、一体どのようなプレゼンテーションになるのか予測がつかなかったからだ。例えばこのドラマで言えば、秋山真之のテーマだとか好古のテーマといったものは出来るだけ作らない。「坂の上の雲」の世界を構成するテーマを大掴みにして、そこからイメージする曲をひとつの作品として作ってゆく。打ち合わせで久石さんが提示したコンセプトはそういうことだったと思う。

予測がつかないまでも、「明治の青春」を感じさせる曲をいくつか聞けるのではないかという予想はあった。久石さんの周辺からもそんな情報が入っていたと思う。ドラマ全13本のうち初年度に放送する5本は、まさに「坂の上の雲」の「青春篇」というべきもので、生まれたばかりの「明治日本」という若い国の姿を主人公たちの青春像とが、折り重なるように描かれてゆく。その意味で青春をモチーフとした曲は重要だったし、久石さんもそういう曲から作るのではないかと想像した。

果たして、久石さんのワーキングスペースに通された私たちに渡されたリストには、「青春」や「旅立ち」といった曲名がある。そして、リストの最後には”Stand Alone”と記されていた。「???」。曲名からは何をモチーフとした曲なのかわからなかった。

その曲は美しい旋律で、デモの段階では英語の歌詞が乗っていた。大地に颯爽と立つ少年が風に吹かれている。その風は時に優しく、時に厳しく吹いているが、少年は空に輝く雲を見つめ、そこに向かって歩みを進めてゆく。そんなイメージが頭に浮かんだ。

聞き終わった瞬間、部屋の中に風が吹いた、本当に。そう感じるほど、感動していた。打ち合わせに来たはずが、最後には「久石譲コンサート」の聴衆になっていた。

そうした作品の数々が、外山雄三さん指揮によるNHK交響楽団の演奏や小山薫堂さんの歌詞、サラ・ブライトマンさんのヴォーカルという素晴しい援軍を得た。

みなさんの所にも、きっと気持ちの良い風が届けられることと思います。

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

(CDライナーノーツより)

 

 

「ああいう大型のドラマになると、大河ドラマのオープニングみたいに、「ジャジャジャ~ン!」という派手な音楽で出るのがふつうなんでしょうけれども、僕、そうはしたくなかったんです。あれだけの大作なんだから、その精神を受け止めるような、バラード的なもののほうがあの世界観が出るんじゃないかと思ったんです。」

Blog. 「週刊朝日 5000号記念 2010年3月26日増大号」久石譲×林真理子 対談内容 より抜粋)

 

 

 

 

この「オリジナル・サウンドトラック 1 」は第1部の楽曲を中心に構成されている。なんといっても、主題歌でありメインテーマの『Stand Alone』が名曲。本当に時代を越えて響き継がれていくべき名曲だと思う。この1曲だけでも、相当な原稿になってしまいそうなので、別のページに。

 

 

 

第1部で歌っているのは、サラ・ブライトマン。(1)では、オーケストラをバックに日本語歌詞を丁寧に美しく歌い上げている。(7)では、ヴォカリーズ、つまり歌詞を伴わない母音のみによって歌う歌唱方法。(13)では、ピアノ伴奏のみに歌唱はヴォカリーズ。ピアノと歌の二つの才能が競演。(12)は、オーケストラのインストゥルメンタル。主にストリングスがメロディーを優雅に奏でる。

この「オリジナル・サウンドトラック 1」では、主題歌だけでなく、作品の世界観を象徴する楽曲として(2) (3) (5)。時代の変化を感じながら生き生きと進む若者を感じる、力強く活力に満ちた楽曲。

第1部はいわば「青春編」となっていて(制作サイド)、若い国の姿と主人公たちの青春像とが折り重なるように描かれている、それを感じさせる曲たちになっている。

(9)もまたメインテーマに引けをとらない美しい曲。(10)は全3部を通して随所に聴かれる緊迫感のある、映像に張りと重みを与える曲。この曲では原点であるミニマル・ミュージックも取り入れている。

第1部から第3部のすべてを通して、登場人物ごとにテーマ曲をつくる手法ではなく、その時代に生きた若者達を群像としてとらえてそれらにテーマ曲を書く手法となっている。

 

 

 

久石譲 『坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 1 』

1. Stand Alone /サラ・ブライトマン×久石 譲
2. 時代の風
3. 旅立ち
4. ふるさと ~松山~
5. 青春
6. 蹉跌(さてつ)
7. Stand Alone (Vocalise) /サラ・ブライトマン×久石 譲
8. 最後のサムライ
9. Human Love
10. 激動
11. 戦争の悲劇
12. Stand Alone for Orchestra
Bonus Track
13. Stand Alone with Piano /サラ・ブライトマン×久石 譲

音楽/久石譲
演奏/NHK交響楽団
指揮/外山雄三
歌/サラ・ブライトマン (M1,M7,Bonus Track)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Piano by 久石譲 (M1,M7,Bonus Track)

Recorded at NHK CR-509  Nemo Studios (M1.M7.Bonus Track)
Mixed at NHK CP-604 , CR-506  Nemo Studios (M1,M7,Bonus Track)

 

Disc. 久石譲 『Sunny Et L’elephant original soundtrack』

久石譲 『Sunny et l Elephant』

2009年3月17日 CD発売 CR 141 ※輸入盤のみ (2008年12月4日 Cristal Records)

 

2008年公開 フランス映画「Sunny Et L’elephant」
監督:フレデリック・ルパージュ 音楽:久石譲

日本未公開作品

 

 

フランス映画ではあるが、タイ北部の森林地帯が舞台となった、少年と象が主人公のファミリー映画。そのためエスニックなサウンドや楽器をふんだんに取り入れた音楽となっている。

メインテーマの(1) (24) では、ピアノのアジアンテイストなメロディーを中心に、オーケストラと民族楽器やパーカッションが、快活で明るくさわやかな印象を与えている。また(5) (15)などでも、シーンに合わせたメインテーマのモチーフが展開する。

もうひとつの主要テーマ曲といえる(6) (13) (17) (23) などでは、キャッチーな愛らしいメロディーで、より少年の無邪気さや冒険心を表現したような軽快な楽曲。

その他、スリリングでダイナミックなオーケストラ・スコアとなっている。弦楽器や管楽器を中心に躍動感あふれる音楽が多く、展開性ある物語なのだろうことがうかがえる。このあたりは、各曲の英題からストーリー展開と各シーンを想像してみるのもおもしろいかもしれない。

メインテーマ含めいつもの久石メロディーに、アジアン ジャングル エスニック トロピカル といった異国情緒が加わった、親しみやすいファミリー映画ならではの音楽になっている。

 

 

久石譲 『Sunny et l Elephant』

1.Dara and Sunny, Arriving in Bangkok
2.Going to Beg
3.The Accident
4.Rescuing Dara
5.Poachers
6.Return of the Patrol
7.Happy Together
8.Fire!
9.Boon’s Death
10.By the River
11.Ready to Fight
12.Go to the Temple
13.Waterfalls
14.Mysteries
15.Sunny’s First Patrol
16.Becoming a Man
17.They Got Prisoners!
18.So Close to Danger
19.Escape
20.Final Battle
21.Baby Tigers
22.Guilty
23.Cool!
24.Dara and Sunny
25.End Credits

Original Music composed by JOE HISAISHI

Recorded at Victor Studio (Tokyo)
Mixed at On Air Azabu Studio (Tokyo)
Recording and mixing: HIROYUKI AKITA (Wonder Station, Tokyo)

 

Disc. V.A. 『スタジオジブリの歌』

スタジオジブリの歌

2008年11月26日 CD発売 TKCA-73381

 

「風の谷のナウシカ」から「崖の上のポニョ」までスタジオジブリ19作品の主題歌・挿入歌全26曲を網羅した主題歌全集

 

 

スタジオジブリの歌

ディスク:1
1. 風の谷のナウシカ(風の谷のナウシカ) / 安田成美
2. 君をのせて(天空の城ラピュタ) / 井上あずみ
3. さんぽ(となりのトトロ) / 井上あずみ
4. となりのトトロ(となりのトトロ) / 井上あずみ
5. はにゅうの宿(火垂るの墓) / アメリータ・ガリ=クルチ
6. ルージュの伝言(魔女の宅急便) / 荒井由実
7. やさしさに包まれたなら(魔女の宅急便) / 荒井由実
8. 愛は花、君はその種子(おもひでぽろぽろ) / 都はるみ
9. さくらんぼの実る頃(紅の豚) / 加藤登紀子
10. 時には昔の話を(紅の豚) / 加藤登紀子
11. 海になれたら(海がきこえる) / 坂本洋子
12. アジアのこの街で(平成狸合戦ぽんぽこ) / 上々颱風
13. いつでも誰かが(平成狸合戦ぽんぽこ) / 上々颱風

ディスク:2
1. カントリー・ロード(耳をすませば) / 本名陽子
2. On Your Mark (On Your Mark) / CHAGE&ASKA
3. もののけ姫(もののけ姫) / 米良美一
4. ケ・セラ・セラ(ホーホケキョ となりの山田くん) / 山田家の人々ほか
5. ひとりぼっちはやめた(ホーホケキョ となりの山田くん) / 矢野顕子
6. いつも何度でも(千と千尋の神隠し) / 木村弓
7. 風になる(猫の恩返し) / つじあやの
8. No Woman, No Cry(ギブリーズepisode2) / Tina
9. 世界の約束(ハウルの動く城) / 倍賞千恵子
10. テルーの唄(ゲド戦記) / 手嶌葵
11. 時の歌(ゲド戦記) / 手嶌葵
12. 海のおかあさん(崖の上のポニョ)/ 林正子
13. 崖の上のポニョ(崖の上のポニョ / 藤岡藤巻と大橋のぞみ