2014年9月16日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
「久石譲の音楽的日乗」エッセイ連載付き。クラシックの名曲とともにお届けするCDマガジン。久石による連載エッセイのほか、音楽評論家や研究者による解説など、クラシック音楽の奥深く魅力的な世界を紹介。
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2014年9月16日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 19 ~チャイコフスキー3~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
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Posted on 2014/09/14
2014年秋、久石譲による新しいコンサート企画が始動します。「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャー」です。9月29日に記念すべき第1回が東京・よみうり大手町ホールにて開催予定です。
久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」
[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
ヴァイオリン:近藤薫 / 森岡聡 ヴィオラ:中村洋乃理 チェロ:向井航
マリンバ:神谷百子 / 和田光世 他
[曲目] (予定)
久石譲:弦楽四重奏 第1番 “Escher” ※世界初演
久石譲:Shaking Anxiety and Dreamy Globe for 2Marimbas ※世界初演
アルヴォ・ペルト:鏡の中の鏡 (1978)
アルヴォ・ペルト:スンマ、弦楽四重奏のための (1977/1991)
ヘンリク・グレツキ:あるポーランド女性(ポルカ)のための小レクイエム (1993)
ニコ・ミューリー:Seeing is Believing (2007)
他
久石譲によるオリジナル曲の世界初演もひかえています。いずれもすでに発表された曲を再構成したもので、ミニマル・ミュージックが基調、つまり現代音楽の世界です。
そして世界的な現代作曲家の作品が取り上げられています。この演奏プログラム予定を知ってから興味をもっていくつか聴いてみました。ニコ・ミューリーとアルヴォ・ペルトです。今回はアルヴォ・ペルトを掘り下げます。
〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉をひかえて、
すでに久石譲は今企画のこと、そしてアルヴォ・ペルトなどの現代音楽について語っています。
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現代音楽の今を伝えるコンサートを始める作曲家・久石譲
「現代音楽は難解というイメージが先行し、日本では演奏される機会が少ない。でも本当に難解なのか。最先端の作曲家の魅力的な作品を紹介することで、先入観を打ち破るきっかけにしたい」
9月29日によみうり大手町ホールで開く「ミュージック・フューチャー」はそんな思いから企画された。巨匠ヘンリク・グレツキから30代の俊英のニコ・ミューリーまで。アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」では、久石がピアノを演奏する。
「柱となっているのはミニマル音楽。現代音楽が生んだスタイルの中では、ポピュラーを含めその後の音楽に最も大きな影響を与えた。今回の演目で、そのことが雄弁に伝わるはずだ」
久石自身、国立音大在学中に、最小限の音型を繰り返すこの様式に感化された。宮崎駿監督作品をはじめ、オーケストラによる壮麗な映画音楽で成功してからも、折に触れミニマルの作品を生み出してきた。今回、その様式を踏襲した自作の弦楽四重奏第1番「Escher」を初演する。「一回限りの公演ではなく、現代音楽に触れられる場としてシリーズ化する」と語る。
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また、
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「ちょっと大げさだが、僕の考えでは、まずクラシック音楽は古典芸能であってはならない。過去から現代に繋がって、未来に続いていく形が望ましい。そのためにはオーケストラをはじめ演奏家は「現代の音楽」をもっと積極的に取り上げたほうがいい。作曲家兼指揮者は特にこの問題に対しては最前線にいるのだから、誰よりも積極的に取り組むべきだと考える。未来に繋がる曲を見つけ、育てることが必要だと僕は考える。」
「例えばクラスター奏法のペンデレツキ(《広島の犠牲者に捧げる哀歌》が有名)はその後、新古典主義のスタイルになるショスタコーヴィチの後継者のような音楽を書く。東欧の作曲家、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキなどはセリエル(12音技法)の書法を捨て、教会音楽や、中世の音楽をベースに調性のあるホーリーミニマリズム(聖なるミニマリズム)とカテゴライズされるスタイルに変わっていった。ただし彼らはミニマルにこだわってはいなかったのだが。」
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詳しい掲載内容は
こちら ⇒Blog. 久石譲が2014年、現代音楽のコンサートに挑む理由
こちら ⇒Blog. 「クラシック プレミアム 8 ~バッハ1~」(CDマガジン) レビュー
俄然興味をもって、CDを探してみました。
アルヴォ・ペルト(1935-)はエストニア出身の現代作曲家です。ミニマル・ミュージック、そして宗教音楽のような心洗われる世界です。コンサートでも取り上げる『鏡の中の鏡』 『弦楽四重奏のためのスンマ』この2曲が収録されていた2枚組ベスト盤(輸入盤)を聴いてみまいた。
<CD1>
1) スンマ(合唱のための) 2) 7つのマニフィカト 3) フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための) 4) フェスティーナ・レンテ(弦楽オーケストラとハープのための) 5) 鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための) 6) マニフィカト 7) 至福 8) スンマ(弦楽オーケストラのための) 9) フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための) 10) カントゥス-ベンジャミン・ブリテンの思い出に
<CD2>
11) タブラ・ラサ(2つのヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための) 12) スンマ(弦楽四重奏のための) 13) フラトレス(弦楽四重奏のための) 14) デ・プロフンディス(深き淵より) 15) カンターテ・ドミノ 16) ベアトゥス・ペトロニウス 17) ソルフェッジョ 18) ミサ・シラビカ
まずは『鏡の中の鏡』について。
1978年作品です。このCDアルバム以外にもいろいろ調べていて知ったのですが、3バージョンあります。ヴァイオリン&ピアノ版、ヴィオラ&ピアノ版、チェロ&ピアノ版です。
上記CDには、ヴァイオリン&ピアノ版が収録されています。ヴィオラ版、チェロ版も、それぞれ趣と響きが違って好みもあると思います。
単純な和音を分解したシンプルなピアノの旋律が繰り返され、そこへ弦楽器が行きつ戻りつのゆったりとした響きを奏でます。劇的な展開をするわけでもなく、ずっと一定な響きです。そこが心地よさや安心感、癒やしや静寂をもらたしてくれます。
アルヴォペルト自身が語った言葉がすべてを表しています。
私の音楽は、あらゆる色を含む白色光に喩えることができよう。プリズムのみが、その光を分光し、多彩な色を現出させることができる。私の音楽におけるプリズムとは、聴く人の精神に他ならない。/ アルヴォ・ペルト
聴く人の環境、聴く人の心情、に委ねられた音楽。どういう情景が広がるかは聴く人のイメージによる無限の世界。
コンサートでは久石譲がピアノを弾くというこの作品。果たして、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、どの楽器とのデュエットになるのでしょうか。
ぜひ3バージョンを聴いて聴き比べて堪能してください。高音(ヴァイオリン)、中音(ヴィオラ)、低音(チェロ)、それぞれいい響きです。
ヴァイオリン版は一定のテンポとピアノのソフトタッチ、ヴィオラ版は一番テンポがスローでピアノタッチがやや強め、チェロ版はヴァイオリン版のテンポに近いですが少し抑揚があり呼吸しているようなタメのある旋律。
何回も聴き比べてみたのですが、このようなささやかな違いがありました。どのバージョンも曲全体としての印象は同じような世界観です。お好みのバージョンを見つけてみてください。
※CD含め原曲自体ボリュームが小さく聴こえづらいです。ご了承ください。
『鏡の中の鏡(ヴァイオリンとピアノのための)』 Arvo Pärt – Spiegel im Spiegel
『鏡の中の鏡(ヴィオラとピアノのための)』 Arvo Pärt- Spiegel im Spiegel
『鏡の中の鏡(チェロとピアノのための)』 Arvo Part – Spiegel Im Spiegel
次に『スンマ』について。
1977年作品です。CDには3バージョンが収録されていました。
『スンマ(合唱のための)』
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』
『スンマ(弦楽四重奏のための)』
久石譲がコンサートでプログラム予定としているのは、『スンマ(弦楽四重奏のための)』です。(CD-2収録)どのバージョンも聴いた印象が全く異なる不思議な曲です。
合唱は、教会のミサのような、弦楽オーケストラは、重厚で流れるようなレガートで、弦楽四重奏は、カルテットらしくシャープに。
調べていたらもうひとつ上の3つと異なるバージョンも見つけました。弦楽オーケストラと同じ編成だとは思いますが、レガードではなく刻む奏法。
Youtubeで全4バージョンをピックアップしましたので、こちらもぜひ聴き比べてみてください。『鏡の中の鏡』よりもより鮮明に各アレンジの違いがわかると思います。
『スンマ(弦楽四重奏のための)』 Arvo Pärt – Summa, performed by Endymion
『スンマ(合唱のための)』 Arvo Pärt / Summa
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 Summa for Strings | Arvo Pärt
『スンマ(弦楽オーケストラのための)』 ?? Arvo Pärt Summa for strings
個人的には、重厚で感情の波が引いては押し寄せるような、『スンマ(弦楽オーケストラのための)』(3番目)が今気に入っています。
CD収録曲ではほかにも、おそらく代表的な作品だとは思うのですが、CD-1の『フラトレス(弦楽オーケストラとパーカッションのための)』あたりもよかったです。ミニマル・ミュージックのなかでも、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーとはまた違った、ゆっくりと聴ける宗教音楽、クラシックでいうところのバッハなどの古典音楽に近いです。
時に重厚で湧き上がるようなストリングスの展開は、チャイコフスキーの交響曲《悲愴》を思わせるようでもあります。
久石譲作品にも多くのミニマル・ミュージックがありますが、アルヴォ・ペルトの作品に近い響きのするものとしては、『悪人 オリジナル・サウンドトラック』や『かぐや姫の物語 サウンドトラック』が心が清く浄化されるような透明感のある音楽を聴くことができます。
ただただ静かで美しい音楽。
いつ聴きたいか?
聴いてどんな気持ちになるか?
すべてが聴く人に委ねられた、深く心に染み入るアルヴォ・ペルトの音楽。
このアルヴォ・ペルトの作品を知ることができたのも、久石譲が新たに始動させたコンサート企画のおかげです。やはり好きなアーティストが取り上げる、別の作曲家による作品も気になってしまいます。
〈ミュージック・フューチャー Vol.1〉コンサート当日は、どんな楽器で、どのバージョンで、どんなアレンジで、アルヴォ・ペルトの曲を演奏するのか楽しみですね。
芸術の秋、音楽の秋、今までの自分の引き出しにはなかった、新しい音楽への扉、そんな出会いもまた素敵だと思います。
– 芸術の秋 編 –
「Labyrinth Of Eden」
『ENCORE』 収録
ピアノとストリングスによるオリジナルver.(『地上の楽園』 収録)から。ピアノ・ソロにリアレンジされた楽曲。ピアノだけの音の余白、広がる空間に響き揺れる。
「Sunday」
『PIANO STORIES II』 収録
NHK「日曜美術館」テーマ曲としても使用された楽曲。ギター、ピアノ、ストリングスによる昼下がりの温かいサウンド。ゆったりとした時間の流れを味わいたくなる。
「Musee imaginaire (Orchestra Ver.)」
『空想美術館 2003 LIVE BEST』 収録
NHK「世界美術館紀行」テーマ曲としても使用された楽曲。タイトルとおり ”空想美術館” 想像が膨らみ展開していく音楽。音のパレットは色鮮やかに、そして解き放たれた世界へ。
「DA・MA・SHI・絵」
『ミニマリズム Minima_Rhythm』 収録
1980年代にシンセサイザーを駆使して作られたミニマル楽曲。フルオーケストラ・サウンドにて甦る。見えていたものが変化する、聴こえていたものが変化する。
「Sense of the Light」
『フェルメール&エッシャー Vermeer & Escher』 収録
ピアノと弦楽四重奏による、洗練された音の粒。ミニマルミュージックを原点とした知性と感性に突き刺さる楽曲。”光の魔術師”フェルメールと、”音の魔術師”久石譲の対峙。
– 収穫の秋 編 –
「風のとおり道 -Acoustic Version-」
『となりのトトロ サウンドブック』 収録
フルート、ギターを基調としたアコースティック・サウンド。フルートの温かいぬくもりと、ギターの乾いた涼しさが絶妙。どんぐりや木の実、日常生活から小さい秋見つけた。
「谷への道」
『空想美術館 2003 LIVE BEST』 収録
映画『風の谷のナウシカ』より。映画のために作られたが本編では使用されていない楽曲。チェロ9重奏による幾重にも織り重なるハーモニー。黄金色の稲穂、秋の空と風の流れは変幻自在、移りはやい。
「天地明察」
『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』 収録
秋の澄んだ夜空は、星たちの輝きもまた眩い。月と星の光のみをたよりに、秋の夜長。食べ物、生き物、あらゆる生命を感じるこの季節、宇宙もまた生きている。呼吸している。
「リンゴの奇跡」
『奇跡のリンゴ オリジナル・サウンドトラック』 収録
空気も水も透きとおるような音楽。収穫までの道のりは険しい。自然への畏敬の念。だからこそ収穫祭は盛大に祝おう。
– 紅葉の秋 編 –
「感 -FEEL-」
『Dolls』 収録
日本の紅葉には ”鮮やかなアカ” がある。世界各国の紅葉は “黄色”が占める。人々が愛してやまない日本が誇る美、紅葉。過去にも、現在にも、未来にもつながるその景観。永遠につづきそうなピアノの調べ。
「風の盆」
『風の盆』 収録
幻想的なサウンドと胡弓の哀愁漂う調べ。この奥ゆかしい音楽は、自然のそれと通じる。人の感情もまた奥ゆかしい。
「Asian Dream Song」
『PIANO STORIES II』 収録
のちにボーカルver.やオーケストラver.にも発展する名曲。ピアノや弦楽カルテットによるパッションが、凛とした旋律美をよりくっきりと浮かびあがらせる。
「山里」
『かぐや姫の物語 サウンドトラック』 収録
おじいちゃんとおばあちゃんが暮らしていた竹やぶに囲まれた山里には、虫も小鳥も草花も、子どもたち。昔むかしの風景は、今もいまもまだ日本のどこかにある。
「飛翔」
『かぐや姫の物語 サウンドトラック』 収録
西洋楽器であるオーケストラ、日本の香りのする音楽。そこには緻密なオーケストレーションと優雅なメロディー。はじめて聴く感動、どこか懐かしいノスタルジー。
– おまけ –
秋といえば、やっぱり「伊右衛門」=「Oriental Wind」。CM音源としてのオリジナル楽曲はCD化されていない。2004年から登場した四季折々のCM動画から、秋の季節をセレクト。
「伊右衛門CM これもええ秋 編」 2005年
「伊右衛門CM 月あかり 編」 2006年
「伊右衛門CM 玄米茶づくり 編」 2008年
「伊右衛門CM 鳥と舟人 編」 2011年
そして新テーマ曲になってからの秋セレクト。
「伊右衛門CM 秋の味覚 編」 2013年
※サントリー公式サイトにて2004年から歴代の「伊右衛門CM動画」視聴可能
⇒ サントリー 伊右衛門 過去CMギャラリー
2022.11 追記
2022年度版です。
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Posted on 2014/09/09
「クラシックプレミアム」第18巻は、ベートーヴェン4です。
第1巻ではベートーヴェン1として交響曲 第5番《運命》・第7番、第9巻ではベートーヴェン2として交響曲 第3番《英雄》ほか、第15巻ではベートーヴェン3としてピアノ協奏曲 第5番《皇帝》、それぞれ特集&CD収録されています。
今号は生涯を通じて創作し続けたピアノ・ソナタの中からの3大傑作です。そして毎号特集される収録曲の解説も深いですが、今回も3大ピアノ・ソナタを作品ごとに、各楽章ごとに、計5ページにわたって解説や考察が記されています。当時のベートーヴェンを取り巻く環境や時代反映にも触れながら。
【収録曲】
ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》
フリードリヒ・グルダ(ピアノ)
録音/1967年
ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2 《月光》
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
録音/1994年
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57 《情熱》
エミール・ギレリス(ピアノ)
録音/1973年
「久石譲の音楽的日乗」第18回は、
「楽譜の不完全さについて」
「音楽を伝える」というテーマで数回にわたって書き進められていました。今回がそのまとめの項となっています。久石譲が大学時代から愛蔵しているという音楽之友社刊『標準音楽辞典』。その辞典より「楽譜」や「記譜法」などの意味を紹介しながら、エッセイは進みます。さながら大学の講義を受けているような辞典からの音楽解説がつづき、それをふまえて久石譲の独自の解釈、結論へと導かれています。
一部抜粋してご紹介します。
「~中略~ 人はそれぞれの時代を生き、音楽と向かい合い、楽しみ、慈しみながらその感動を何らかの形で伝えようと書き記してきた。そしてそこに書き記されたものは間違いなく人類の財産なのである。」
「譜面とは何か?音楽を演奏者に伝えるために視覚化したもので、その視覚から入った情報を脳に伝達して、音に置き換えさせるもの。いずれにせよ音楽を視覚化したものではある。」
「プロの演奏家はこの視覚からの情報をいち早く体に伝え、身体的運動によって音に置き換える。同時に聴覚もフル活動させ音程やリズムに注意する。すべては脳でコントロールするのだが、それを経由しないで直接身体的運動にするまで修練する。まことに複雑なあるいは神秘的といっていいほどのメカニズムなのだが、この視覚と聴覚の問題は次回から書きたい。」
エッセイに登場した『標準音楽辞典』。調べてみましたら1966年に発刊された辞典で、なんと1542ページ。かなり分厚い、重い。この辞典の紹介には「音楽を極めたい人はぜひ」とほぼ書いてあります。
そんな『標準音楽辞典』も長い年月を経て改訂され、今では『新訂 標準音楽辞典 第二版』として上下巻になっています。上下巻合わせて約3500ページに、第一版の倍近くに。詳しくはわかりませんが、おそらく1970年代から2000年代の音楽の歴史、さらには音楽史に刻まれる音楽家たちが加筆されているのだと思います。
法律を学ぶ人のバイブルである六法全書のように、音楽を深く学んでいる人たちは持っているのでしょうか? 標準音楽辞典。
Posted on 2014/09/06
2014年9月3日に開催されたコンサート「久石譲&京都市交響楽団」のレポートです。
初共演となる久石譲と京都市交響楽団による演奏プログラムは?アンコールは?実際にコンサートに行かれた方からの貴重な情報をもとにレポートします。
セットリストとしてはネタバレになりますが1回限りの公演企画ですので掲載ご了承ください。
久石譲×京都市交響楽団
[公演期間]
2014/09/03
[公演回数]
1公演
京都・京都コンサートホール 大ホール
[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:京都市交響楽団
[曲目]
久石譲:Sinfonia for Chamber Orchestra
I.Pulsation
II.Fugue
III.Divertimento
久石譲:Symphonic Variation ”Merry-go-round”
—-encore—-
One Summer’s Day
—-intermission—-
チャイコフスキー:交響曲 第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」
—-encore—-
チャイコフスキー:バレエ音楽≪眠れる森の美女≫作品66より 第1幕 <ワルツ>
公演前の2日間リハーサル風景は、久石譲 オフィシャルサイト スタッフブログ にて紹介されています。写真つきでリハーサルの様子を知ることができます。こんな情報を公開してもらえるのもオフィシャルならではですね。
演奏曲順に見ていきます。
アルバム「ミニマリズム」(2009年)に収録されている、渾身のシンフォニック・ミニマルミュージックです。過去コンサートでも取り上げられている同曲ですが、そのたびに(今回もふくめ)オーケストレーションが変化している、今も進化しつづけている久石譲のミニマル真骨頂です。
Symphonic Variation 「Merry-go-round」アルバム「WORKS III」に収録されている約14分に及ぶ大曲です。メインテーマ曲「人生のメリーゴーランド」の変奏バリエーション、サウンドトラックのスコアを巧みにつなぎ再構成した壮大なフルオーケストラと久石譲によるピアノ演奏も堪能できる楽曲です。8月には、久石譲監修によるオフィシャルスコアもショット・ミュージックから発売されています。
そして、休憩をはさむこのタイミングで、なんと前半アンコール!!
映画『千と千尋の神隠し』より「あの夏へ」です。アルバム「メロディフォニー」や「The Best Cinema Music」にも収録されているピアノをメインにしっとりと聴かせるオーケストラ・バージョンにて。コンサートの定番ともいえる名曲です。どんなプログラムにも合う、いい意味でクセの強くない、美しい旋律と静かな余韻に酔いしれる響きです。
全4楽章からなるチャイコフスキー最後の大作であり、19世紀後半の代表的交響曲のひとつとして高く評価されている「悲愴」です。チャイコフスキー自身、最終楽章にゆっくりとした楽章を置くなどの独創性を自ら讃え、初演後は周りの人々に「この曲は、私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と語るほどの自信作だったと言われています。
実は久石譲も、今公演前に、同曲について語っています。CD付きマガジン「クラシックプレミアム」へ毎号連載しているエッセイにて、
「《悲愴》は9月3日に京都市交響楽団と演奏するのだが、久しぶりのチャイコフスキーである。ミニマルではないがあの怒涛のごとく押し寄せるフレーズのくり返しや美しいメロディーの中の沈黙、そして金管の咆哮は意外にも得意かもしれない。」
もっと詳細を知りたい方は、
こちら ⇒ Blog. 「クラシック プレミアム 17 ~ベルリオーズ~」(CDマガジン) レビュー
ここでプログラム本編終了です。前半でアンコール演奏もしていますので、これで公演終了もありうるなか、またまた最後にアンコールで登場です!
プログラム後半「悲愴」の流れを引き継ぐように、同じくチャイコフスキーの楽曲を。華麗な輪舞曲で幕を降ろした、ちょっぴり大人なコンサート。8月に開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」とは、また違った趣向をこらした本公演でした。
今回コンサートに行けずに残念だった方も、芸術の秋、音楽の秋。上にも紹介していますが、今回取り上げた楽曲の参考CD作品です。
コンサートのリアルタイムな臨場感と感動にはかないませんが、大音量のスピーカーで楽しみましょう。
さて、これから師走に向けて、まだまだ久石譲の活動は止まりません。
9月29日には、現代音楽を伝える新たなコンサート企画の始動「久石譲プレゼンツ「ミュージック・フューチャー vol.1」」が控えています。
ほかにも、
とコンサートに関連した動きはたくさんあります。
そして!速報です!!!!
2014年、久石譲コンサート最後を飾るのはジルベスターコンサート!!
「風立ちぬ」に「かぐや姫の物語」、「魔女の宅急便」から「風の谷のナウシカ」まで!まさに2014年多種多彩なコンサート活動の集大成的プログラム予定です。チケット各種詳細は随時更新してお知らせしていきます。
2014年も精力的なコンサート活動ですが、長野公演(10月)、ジルベスターコンサート(12月)と、プログラム本編もふくめて、各会場アンコール演奏も気になるところですね。そして京都公演、また新たにコンサート活動履歴が刻まれました。
こちら ⇒ 久石譲 コンサート 2010-
スタジオジブリ x 文春文庫 による文春ジブリ文庫 第7弾 「紅の豚」
2014年9月2日発売
制作秘話、当時のインタビュー、多彩な執筆陣による作品解説
ジブリの教科書 『紅の豚』 目次
ナビゲーター・万城目 学
豚(ポルコ)がのこしてくれた魔法 “Info. 2014/09/02 文春ジブリ文庫 ジブリの教科書 7 「紅の豚」 発売” の続きを読む
2014年9月2日 CDマガジン 「クラシック プレミアム 18 ~ベートーヴェン4~」(小学館)
隔週火曜日発売 本体1,200円+税
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“Info. 2014/09/02 [CDマガジン] 「クラシック プレミアム 18 ~ベートーヴェン4~」 久石譲エッセイ連載 発売” の続きを読む
Posted on 2014/09/01
最近TVCMで懐かしい曲が耳に入ってきました。
キムタクこと木村拓哉さんが出演しているSoftbankアクオス クリスタル のCMです。
アーティスト:Art of Noise(アート・オブ・ノイズ)
曲目:Moments In Love
他にもアート・オブ・ノイズのCM曲といえば、少し前には小泉今日子 × 松田聖子 出演CMでも別の楽曲が使われていました。
Art of Noise – Robinson Crusoe
上の2曲どちらも聴いたことない!という人でも次のこの曲は知っているでしょう。かつて一世を風靡したマジシャン:Mr.マリック。Mr.マリックのテーマ曲としても使われていたあの耳馴染みの曲です。
art of noise – Legs
【アート・オブ・ノイズについて】
1983年にデビューしたアート・オブ・ノイズの楽曲「Moments In Love」。1984年リリースの1stアルバム『Who’s Afraid of the Art of Noise?』(邦題『誰がアート・オブ・ノイズを…』 )に収められています。アート・オブ・ノイズは、本来裏方の録音エンジニアやスタジオ・ミュージシャンらが集まり、当時最新鋭の技術であったサンプリングを駆使して、車のエンジン音や物を叩く音など身のまわりのノイズを再構築し“騒音の芸術”を生みだした、革新的グループとして知られています。
80年代初頭では珍しかったデジタルシンセサイザーやサンプリングという手法を全面的に使用し、今日のアンビエント、ヒップホップ、エレクトロニカ、ワールドミュージックなどの要素を含んだ実験的な音楽で衝撃を与えた。初期の作品はフェアライトCMIを使用し、まもなくシンクラヴィアを使用するようになり、スタジオはもちろんライブでも演奏した。
やっと出てきました!久石譲との共通点。
『フェアライトCMI』
フェアライトCMI(Fairlight CMI)は、オーストラリアのフェアライト社が1979年に発表、1980年に発売した電子楽器(シンセサイザー)。CMIは 「Computer Musical Instrument」の略。
発表当初、万能電子楽器と言われ、多くのミュージシャンがとりこになりました。日本でフェアライトを所有していたのは冨田勲、坂本龍一、久石譲、など数十名で、発売価格はなんと1200万円。
久石譲の初期の作品はフェアライトがかなり全面に出たシンセサイザー音楽です。1980年代のオリジナル・ソロアルバム、サウンドトラックでも垣間見れます。
こちら ⇒ 久石譲 ディスコグラフィー 1980年代
スタジオジブリ作品 宮﨑駿監督映画も全作品久石譲が音楽を担当しています。きれいなピアノ曲、美しくて壮大なオーケストラ曲のイメージが強いかもしれませんが、そのジブリ作品においても、フェアライトは活躍しています。
初期の『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』では間違いなく使用されています。久石譲はフェアライトシリーズをII ~ IIIまで所有していましたので、『天空の城ラピュタ』の頃にはフェアライトCMIではなくて、フェアライトIIIです。
ナウシカの美しい電子的で幻想的なコーラスも、ラピュタの竜の巣も、フラップターでシータを救出する臨場感あるサウンドも、トトロのススワタリたちのかわいらしくもコミカルな音楽も、このフェアライトというシンセサイザーの音が効果的に使われています。
あっ、北野武監督作品もそうですね。『あの夏、いちばん静かな海。』『Sonatine』などなど。
久石譲作品シンセサイザー使用作品一覧
こちら ⇒ 久石譲 ディスコグラフィー シンセサイザー
(CDジャケットをクリックすると作品詳細が閲覧できます)
当時は革新的な電子楽器だったんだと思います。同じように今聴いても色褪せないというか電子音なのにいい味わいがあります。
久石譲のCDでフェアライトを隅から隅まで堪能したいのであれば、未サントラ映画音楽のメインテーマばかりを収録したアルバム『B+1』がおすすめです。これを聴けば、シンセサイザーの音の世界が楽しめます。
硬質な音を響かせるシンセサイザー、フェアライト。そこに「久石メロディー」と言われる美しい旋律が奏でられる。シンセ音 x 美メロの化学反応です。
久石譲とアート・オブ・ノイズの共通点、それは『フェアライト』というシンセサイザーでした。
Posted on 2014/08/30
「クラシックプレミアム」第17巻は、ベルリオーズです。
【収録曲】
ベルリオーズ
《幻想交響曲》 作品14a
シャルル・ミュンシュ指揮
パリ管弦楽団
録音/1967年
序曲《ローマの謝肉祭》 作品9
マリス・ヤンソンス指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音/1991年
「久石譲の音楽的日乗」第17回は、
「発想記号の使い方について」
「音楽を伝える」というテーマでエッセイが続いているなか、今号では音楽記号のなかの発想記号(強弱記号や表記記号など)を取り上げながらお話は続きます。
そして9月3日に行われるコンサート「久石譲 × 京都市交響楽団」において演奏プログラムに予定されているのが、チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」です。その準備段階のなかで執筆された今号のエッセイ内容ということになります。
一部抜粋してご紹介します。
「《悲愴》は9月3日に京都市交響楽団と演奏するのだが、久しぶりのチャイコフスキーである。ミニマルではないがあの怒涛のごとく押し寄せるフレーズのくり返しや美しいメロディーの中の沈黙、そして金管の咆哮は意外にも得意かもしれない。」
「その中で強弱を伝える記号には実は二つの側面がある。一つは物理的な意味での音量として、もう一つは心情的な意味での記号だ。例えばpは、物理的には弱く演奏するのだが、別の側面はfではなく、ということでもある。つまりfと書くと音量的な強さだけではなく力強く演奏される危険があり、あくまで優しく包み込むようなメロディーを歌う場合はpあるいはmp、mf、meno f(メノ・フォルテ=それほど強くなく)など作曲家によって様々な表現を用いる。ドビュッシーの場合はあのアンニュイな表現のためp、ppなどが多用されている。だからそのまま物理的に演奏したらまったく他の音に消されて聞こえなくなる場合も多い。」
「その点チャイコフスキーはかなり物理的な記号として書いている。《悲愴》の冒頭は6小節のテーマを2回ファゴットが演奏するのだが(それをコントラバスと後半でヴィオラが支えるというかなり大胆なオーケストレーションですばらしい)、1フレーズずつpp、p、mp、sf(スフォルツァンド=特に強く)、pと書いた上にそれぞれクレッシェンド、デクレッシェンドがついている。要は6小節にわかり、波のようにうねりながら段々盛り上がり、最後には自問するかのように小さくなるということなのだが、かなりしつこい。チャイコフスキーの性格が垣間見えるようだが、物理的な記号を駆使しながら感情的なものを伝えようと試みている。これが全楽章にわたって細かく書いてあり、あの有名な第4楽章の哀歌(個人的にそう思っている)に繋がるのである。」
「このように作曲家によって発想記号の意味はかなり異なっているのだが、彼等はその曲を作ったまたその先の理由を発想記号に込めて書き込む。音だけでは出来なかったことを含めて。」
エッセイ本文では、ほかにもベートーヴェンやマーラーの表情記号にも触れられていて、作曲家ごとに譜面の書き方、つまりは発想記号の書き方に特徴があること、その先の音楽の伝え方に個性が現れていることがわかります。そして自ら作曲した曲に、譜面のなかで、音符以外の記号(発想記号)を記すことで、その想いを伝える。
さらには誰が指揮をしても、誰が演奏しても、ある程度作曲者の意図をくみとり、音楽の再現性を実現するための記号。一概に譜面といっても、奥の深さを感じました。
またそれは同様に「文字」にも言えることなのかもしれません。目に入ってくる「文字」はあくまでも無機質なものであり、その単語・文脈・表現方法などによって、イメージをふくらませる。
記録としての文字や譜面の役割。媒体としての文字や譜面の役割。媒体には、発信元と受信先があるので、作曲家と聴衆の関係性としたときに、音によってなにかが触れ、揺れる。
そんなことを考えながら興味深く読んだ今号のエッセイでした。
久石譲という作曲家が解説するクラシック。
久石譲という指揮者が解説するクラシック。
それをコンサートで聴くことができるわけですから、今号のエッセイを頭に入れて同曲を聴けるのは贅沢かもしれませんね。
Posted on 2014/8/30
3年ぶりの復活コンサートとなった「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」。そのレポートが日本経済新聞 電子版に掲載されましたのでご紹介します。
2014年8月26日 日本経済新聞 電子版
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014 鎮魂美でる旋律美、悲しみと安らぎ宿る
スタジオジブリのアニメ映画の音楽などで知られる作曲家、久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による「ワールド・ドリーム・オーケストラ」が3年ぶりに復活した。テーマは「鎮魂」。自ら指揮とピアノを担当し、美しい旋律を奏でる自作のほか、ペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」なども演奏。深い悲しみと安らぎ、そして希望をもたらす公演を聴いた。
思いだすだけで涙が出そうになる、そんなメロディーがある。長崎原爆の日にあたる8月9日、サントリーホール(東京・港)で開かれた「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2014」。会場は若者や女性客を中心に満席だ。久石が音楽監督になって新日本フィルと2004年に立ち上げたプロジェクトだが、東日本大震災が起きた2011年を最後に公演を休止していた。3年ぶりの復活公演は「鎮魂の時」と銘打って久石が自作を中心に大管弦楽を鳴らす。終戦記念日が近づく夏、震災そして戦争の犠牲になったすべての人々の魂を鎮める願いが込められている。その音楽的魅力はもちろん、日本が世界に誇る久石譲作品の旋律美である。
この復活公演と並行して久石はもう一つ、新たなプロジェクトを立ち上げた。いわゆる現代音楽ではなく、自作を含む「現代の音楽」を幅広い層に聴いてもらうための「ミュージック・フューチャー」というコンサートだ。9月29日によみうち大手町ホール(東京・千代田)で第1回公演を開催する。この演奏会を毎秋の恒例にする考えだ。「音楽には古い新しいではなく良い悪いしかない」と久石は話す。「現代の音楽にも良いものがたくさんある。予備知識がなくても聴いて楽しんでほしい」。「弦楽四重奏第1番”Escher”」など2つの自作を世界初演するほか、アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキ、ニコ・ミューリーの作品も披露する。「復活」と「始動」の2種類のコンサートで現代作曲家としての自らの真価を世界に問う。
さて、まずは「復活」公演のほうだ。ワールド・ドリーム・オーケストラを指揮して久石が最初に鳴らしたのは、高畑勲監督のアニメ映画「かぐや姫の物語」のサントラを基にした自作「交響ファンタジー『かぐや姫の物語』」。これが世界初演だ。日本の祭りばやし風の楽想も登場する交響詩といった感じだ。ちなみに今回の公演で演奏された作品は久石の映画音楽が中心だが、その映画を全く見ていなくても音楽を十分に楽しむことができる。特定の映像を思い浮かべないほうが、音楽が生み出す世界を堪能できるとさえいえる。それだけ音楽自体が聴衆の心に直接働きかける力を持っているのだ。
2曲目から本公演のテーマである「鎮魂の時」に入る。ここから非常な衝撃と安らぎ、そして深い悲しみの音楽が続く。まずはポーランドの現代作曲家クシシュトフ・ペンデレツキの弦楽合奏曲「広島の犠牲者に捧げる哀歌」(1960年)。久石は指揮棒を持たずに指揮を始める。いきなり弦楽器群による不快極まりない不協和音がさく裂する。金切り声、悲鳴、金属的な摩擦音などを思わせるあわゆる音階による響き。ある範囲のすべての音を同時に発生させる「トーン・クラスター(房状和音)」と呼ぶ前衛手法だ。久石は指を1、2、3本と突き立てて指揮をする。旋律といえるものはない恐怖と悲鳴の音楽を、反復の回数を示すように指揮しているのだろう。不協和音は約8分続いた。
拍手をする隙もない。続けてすぐにバッハの「G線上のアリア」が始まった。ペンデレツキの曲とは打って変わって優しさと安らぎに満ちた穏やかな旋律が流れ出す。「ペンデレツキとバッハを続けて演奏する。この2曲のつなぎに最も趣向を凝らした」と久石は指揮者として語る。世界の終わりを思わせる衝撃的なトーン・クラスターの後に、鎮魂のメロディーがいつ果てるともなく流れ続ける。久石は映画音楽のイメージが強いが、国立音楽大学作曲科に在学中から現代音楽を熱心に研究していた。自ら図形楽譜を用いて前衛的な作品を書いていた時期もある。現代音楽を知り尽くした上で映画やドラマなどの「劇伴音楽」を作曲してきたのだ。しかし今は「現代音楽で既成の価値を壊す時代ではない。人々は破壊よりも安らぎを求めている」と言う。ペンデレツキの哀歌に続くバッハのアリアはこの言葉通りの演出だった。
バッハのアリアが消えるように終わったとき、久石は客席の方を向かなかった。拍手はない。聴き手も大変な衝撃と安らぎにあっけにとられたのか、全く拍手がない。そのまま久石は足早に退場する。拍手を辞退するそぶりだ。鎮魂の音楽なのである。確かにここで拍手はふさわしくない。満席の会場が静まりかえった。黙とうの時間、鎮魂の時だ。
久石がステージに戻り、指揮台に上がった。再び指揮棒を握っている。鎮魂の時は続く。今度は自作だ。福澤克雄監督の映画「私は貝になりたい」のサントラを基にした「ヴァイオリンとオーケストラのための『私は貝になりたい』」が始まった。映画を見ていなくても、深い悲しみに包まれたワルツの旋律に胸をかき乱される人は多いだろう。どしてここまで切ない旋律を書くのか。コンサートマスターの豊嶋泰嗣が哀愁のバイオリン独奏を続ける。クラシック音楽のあらゆるバイオリン協奏曲のどんな旋律よりも悲しいと言ってもいいくらいの哀歌だ。これが、どうだろう、10分、15分と続いた気がする。
久石作品の美しい短調の旋律の音楽的ツールはどこにあるのだろう。似た曲調は確かにある。例えばニーノ・ロータの「太陽がいっぱい」の映画音楽。芥川也寸志の「八つ墓村~道行のテーマ」、大野雄二の「犬神家の一族」。菅野光亮の「砂の器~宿命」といった映画音楽も聞こえてくる。ドミートリー・ショスタコーヴィチの「セカンドワルツ」を思い起こすことも可能だろう。しかし悲しみの度合いはより一層強い気がする。どこまでも誠実に悲しみに向き合う気品のようなものが感じられるのだ。
日本の童謡や演歌、歌謡曲には短調の旋律が非常に多い。昔はみんなで長調の曲を歌っていると、いつのまにか短調に変わっていた、という話を年配者に聞いたことがある。小林秀雄は「モオツァルト」の中で短調の曲を取り上げている。モーツァルトの作品は圧倒的に長調が多いにもかかわらずだ。日本は短調のメロディー大国なのだろう。こうした環境の中から久石譲作品のような世界を泣かせる「美メロ」が生まれてくるのではなかろうか。
ハンカチで目元を押さえる女性客が見受けられた。「鎮魂の時」は終わり、その後は「風立ちぬ」や「小さいおうち」などの映画音楽が続いた。久石はこの公演が自分の音楽世界のすべてだとは思っていない。「復活」と「始動」の2種類のプロジェクトのうち、半分の「始動」での「現代の音楽」は9月に明らかにされる。
ロータやショスタコーヴィチ、レナード・バーンスタインらは優れた映画音楽を書きながら、20世紀の「現代の音楽」を作曲した。彼らのようなメロディーメーカーは同時にクラシック音楽の巨匠でもあったのだ。指揮活動を通じて「ベートーベンの中に宝石がたくさんあると思うようになった」と久石は言う。今後の照準は定まっている。「古典とつながる現代の音楽を作っていきたい」と意気込む。今回の「復活」公演での美しい旋律と入念なオーケストレーションを聴いて、「始動」への期待も膨らんだ。
(編集委員 池上輝彦)
(日本経済新聞 2014年8月26日付 電子版 より)