Blog. 「Cinema Cinema シネマ☆シネマ 2012年8月1日号 別冊 No.38」映画『天地明察』座談会 内容

Posted on 2019/06/03

雑誌「シネマ☆シネマ Cinema Cinema 2012年8月1日号 別冊 No.38」に掲載された内容です。映画『天地明察』公開にあわせてキャストや監督、そして久石譲をまじえた座談会です。

 

 

映画『天地明察』 独占座談会!

岡田准一(主演)× 冲方丁(原作)× 久石譲(音楽)× 滝田洋二郎(監督)

『おくりびと』で米アカデミー賞外国語映画賞を獲得した名匠・滝田洋二郎監督が、岡田准一と初タッグを組み、冲方丁のベストセラー小説「天地明察」を映画化。音楽は、滝田監督と3度目のコラボとなる久石譲が務め、豪華エンターテインメントが誕生!作品のガキを握る4人の男たちの熱い想いとは?

 

岡田:
30歳の節目に、自分自身の柱になるような作品と出会えればと思っていたところに今回のオファーを頂き、運命的なものを感じました。滝田組に入れることがうれしかったですし、冲方さんとは以前対談させていただいてどんな思いでこの本を書かれたかをお聞きしていたので、喜びと同時にプレッシャーもあり、たくさんの方の思いを裏切りたくないという気持ちで現場に臨みました。

滝田:
僕がこの原作を映画化したいと思った一番の理由は天下泰平の世を舞台にしているからなんです。平和なのはよいことですが、逆に新たな志の芽を摘み、時代の息吹が失われてしまうこともある。それはまさしく今と全く同じ。でも当時の人たちは若い人を育て、後を託すことの大切さを知っていて、新たな才能を求めていく度量もあった。そこに感銘したんです。冲方さんはお若いのにスケール感のある小説をお書きになったなと。

冲方:
ありがとうございます。最初にこの小説を書こうとしたのが16歳のときで、何度も挫折しつつ、結局16年かかりました。映画化と聞いたときはうれしかったですが、本当に映画が出来上がるまでは信じないようにしようと(笑)。

滝田:
正しいと思います(笑)。

冲方:
撮影現場を拝見して、小説が映画に負けてしまうんじゃないかという危機感が生まれました。完成した映画も感動して喜んでいる自分がいる一方で、小説がノベライズと思われるのではと、おびえている自分もいて(笑)。だから、自分の原作ともう一回勝負しようと思い、文庫化に当たり改稿を加えたんです。

久石:
僕が滝田監督とご一緒するのは今回で3作目。『壬生義士伝』では簡単な意見をもらう程度だったんですが、『おくりびと』からは徐々に注文が多くなって(笑)、今回の『天地明察』では映画音楽を知り抜かれていて大変でした(笑)。でもご指摘は的確ですし、音楽の持っている力、ニュアンスを大事に扱ってくださるので、本当にやりがいがあります。

岡田:
完成した作品を見て、音楽の持つ力をあらためて感じました。美しく、感情があるメロディーに芝居をすごく助けていただいていると思いましたね。

久石:
音楽が乗る役者さんっているんですよ。逆に、書きたくないと思うこともたまにあるんですけど(笑)、岡田さんにはすごく音楽が乗りますね。素晴らしいです。曲を書きたくなります。

 

現場で解放されることでいい作品が生まれる

滝田:
岡田さんは、仕事に対する姿勢も素晴らしいし、真のプロフェッショナルですね。安井算哲は本当に難しい役だったと思います。争いを好まず、周りに好かれる人のよい囲碁打ちが、改暦事業に巻き込まれ、世の中の荒波に放り出され、挫折を繰り返して一人前の男になっていく…。それを2時間で描き切らなければいけないわけなので、もちろんリハーサルやディスカッションもたくさんしましたが、「あとは主演俳優にお任せするしかないよね」という感じでお願いしました(笑)。

岡田:
いやいや、そんなことないです(笑)。たぶん役者って少し神経質なところがあって、どんな表現ができるのか考え抜き、さらにその場の感情も大事にして演じたときに、「こうやりたいけど、やっていいのかな」って悩むことがあるんです。すると監督は、「やってみようよ!」とおっしゃる。「面白いじゃん!」って(笑)。

滝田:
ははははは。

岡田:
現場は生き物だから、面白いアイデアがあったらやってみる。そんな遊び心を監督自身が持たれていて、余裕のある中で、完璧を求めていくスタイルの現場でしたね。滝田監督をはじめ、僕の先生の世代に当たる、懐の深いスタッフの方たちが、何をしても受け止めてくれる安心感がありました。

滝田:
現場で何かに出会える、その瞬間を僕は待ってるわけで、新しい何かと出会えたらうれしい。シナリオは人の感情を理詰めで作っているので、現場ではそこから解放されるべきなんです。監督がすべて分かっていると思うのは間違いで、映画に正解なんてないから、僕自身がどう感動できるかを現場で探すしかない。いつか撮影は終わりますからね、予算もあるし、時間もあるし(笑)。その中で好きに、広くできればいいなと。

久石:
やっぱり、滝田監督が持っている人間的な魅力が磁場になって、みんな現場で解放され、いい雰囲気ができるんじゃないですかね。解放されるって重要で、例えばオーケストラでも、頭で論理的に組み立てたとおりに演奏したら全然面白くない。生きたものにならないんです。一回それをバラバラにして、直感を信じるような次元までいかないといけない。おそらく小説もそうだろうと思いますが。

冲方:
そうですね。はい。

久石:
演技も、音楽も、映画作りも、みんなそうなんじゃないですかね。

滝田:
現場でライブの感覚を楽しめばその人の一番いいところが出るし、僕も何か発見できるかもしれない。いつも自分のスタイルだけで撮ったら、毎回結局同じものしか出てこないですからね。

 

算哲の姿を自分に重ね合わせて観てほしい

岡田:
原作もそうですが、映画もすごく元気が出る、力をもらえる作品に仕上がっていると思います。作品のエネルギーを感じてもらえたらいいですよね。

冲方:
算哲は、どんな挫折を経験しても、いつかは幸福をつかめると確信している。自分の人生を信じるのはとても素晴らしいことで、誰にでもできるはずだと、10代の僕に教えてくれた人物なんですね。僕が彼の人生から得た勇気を、この映画が万人に与えてくれると確信しています。

久石:
見なきゃ損、のひと言に尽きますね。青春物語とか成長物語とかいろいろ言うことはできますが、まず作品として、ものすごくクオリティが高いので。

滝田:
特に若い人に見ていただき、岡田さん演じる算哲の姿を自分に重ね合わせてこの映画を楽しんでほしいですね。400年も前、地球が丸いことさえ確信できてなかった時代に、地道な作業を続け改暦に命を懸けた男の生き方とかロマンを感じていただければうれしいですね。

 

映画館の思い出といえば?

岡田:
箱の中で物語が流れる、特殊で大好きな空間ですね。僕が子供のころは、入れ替え制じゃなかったので一日中映画館にいられたんですよ。『ホーム・アローン』とか、ずっと観ていた覚えがありますね。あと、出演した映画をこっそり観に行くことも。『木更津キャッツアイ』は出演者そろって観に行きました(笑)。

冲方:
僕にとって映画館は心の糧を与えてくれる場所。子供のころ、映画館の存在しない国に住んでいたんですが、日本に戻り映画館に連れていってもらうたびに、「生きててよかった」と(笑)。娯楽は、直接的には人は救えないとよく言われますが、僕からすれば食べ物より大事だっていう気持ちもあるんです。

久石:
僕自身、子供のころから映画が大好きで、4歳のときには既に年間300本ぐらい見ていましたね。映画館というと、夢を見られる場所。映画のフィルムは基本的に(1秒間)24コマで、コマを切り替える際、闇になるので、実はスクリーンでは半分闇を見ていることになる。それが人間のイマジネーションを喚起するんだと思います。

滝田:
僕は、一番好きな映画が、子供のころに見た『路傍の石』なんですが、丁稚へ行った吾一少年を自分に置き換えて涙しながら見てましたから、やっぱり映画の力ってすごいと思いますね。映画館は、もっともっと楽しむ場所であり、ほかの世界を知る場所であり、刺激を与える場所になればいいなと思っています。映画はお祭りですからね。

 

 

2012.5.15 『天地明察』 製作報告記者会見 コメント

岡田准一/安井算哲役
いろんな困難を乗り越えながら、たくさんの人に支えられて事をなす、安井算哲を演じました。現場でも監督、スタッフの皆さんに支えられ、算哲同様の気持ちで作品に取り組んだのを思い出します。素晴らしい作品に仕上がったと思うので、ご期待ください。

原作・冲方丁
数百年前に生きた人間と、同じものを見ることができる。そういう人間の営みを物語にしたいとずっと思っていました。映画は(小説と)同志と言いますか、お互いにしかとらえられない視点で同じものを見たという意味で非常にうれしく、感無量です。

音楽・久石譲
時代劇というよりも、1つの夢を追い続ける人間が、夢を叶えていく。その生き方、青春に焦点を当てたいと思いました。作品としてのスケール感、希望なども重視しつつ、オーケストラ演奏により、あたかも1つのシンフォニーになるように音楽を作りました。

滝田洋二郎監督
映画の企画というのはまさに空にある星をつかむようなもの。今回、ビッグな新星・冲方丁さんの本と出会い、すぐ映画化に手を挙げました。岡田さんの素晴らしい演技と存在感で安井算哲を意欲的に描けたと思っています。渾身の作品になりました。

(シネマ☆シネマ Cinema Cinema 2012年8月1日号 別冊 No.38 より)

 

 

久石譲 『天地明察 オリジナル・サウンドトラック』

 

 

 

Blog. 「週刊アスキー 2010年11月16日号」「メロディフォニー」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/06/02

雑誌「週刊アスキー 2010年11月16日号」に掲載された久石譲インタビューです。『Melodyphony メロディフォニー』(2010)を中心に2号連続インタビューになっています。

 

 

無から何かをつくり出しているんだという感動

「100人が真剣にぶつかった音」

ー今作はオーケストラで収録。指揮の際、意識することは?

久石:
「この曲をどうしたいのかを明確に伝えることですね。クラシックを振るときも同じなんですが、指揮者が迷うとオーケストラは100人もいるのでどこを向いていいのかがわからなくなるんです。どれだけ明確に、手短にコンセプトを言葉で、もしくは指揮棒の振り方で伝えるかを絶えず考えてますね。イコールそれは曲について自分できちんとイメージをもっていないといけないってことなんです。」

-その中で大変だからこそ、生み出せるものとは何でしょう。

久石:
「100人の意識が同じ方向に向いたときのパワーは、それは本当にすごいです。電気で機械的に増幅した音とはまるで違う。100人が真剣にぶつかった音なんですよ。それがオケの魅力。会場で聴いてもCDで聴いても100人のエネルギー。それを集結させたときの歓びってすごいんです。ところが裏を返すと全員が育ちも生まれも違う。個性的で、みんな訓練を積んでいるからそれぞれの思いがある。だからこそ迷うことなくディレクションすることが大切なんだと痛感していますね。」

 

「本当の音楽って理屈じゃない」

-ところで多くの作品を生んでいますが制作の原動力とは?

久石:
「音楽が好きだからでしょうね。世界で何よりも好きで、しんどいのが作曲なんです。僕にとっていちばん達成感があって、メタメタに自分が落とされるもので。すべてが名作になるとは限らないけど、なにもないところから何かができる。こんな素晴らしいことないんですよ。”無から何かをつくり出しているんだという感動”それです。」

-その感動が制作の源だと。

久石:
「どこに音楽の神がいるのかはわからないし、たんなる音の羅列なのか、本当に音楽になっているのかもわからない。それにすごい量の作品が日々つくられるけど長い年月でほとんどが消えていく。最後に何十年も経って聴かれる音楽。それが唯一の本当の音楽だというならば、それをいつか自分で1曲でも書けたらという念は常にあります。」

-本当の音楽ですか。

久石:
「”本当の音楽って理屈じゃない、いい部分を絶えずもっているもの”だと思うんです。これは深淵なテーマで、芸術的な側面と大衆性。その両方をもっているものなんだと。今回そして前作、海外で一流の方々と仕事をして、今自分のつくっている音楽が世界の中でどのレベルなのかがわかった。自分の方向性は正しいこれでいいんだと確かめられたんです。それが本当に良かったと思っていますね。」

(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)

 

 

今週のプレイリスト
my favorite!

選曲:久石譲

前回の続きでラジオでかけている曲。あの番組ではミニマル・ミュージックだとか、びっくりするくらい自分の趣味でしか選曲していません(笑)。

1曲目
PASCAL ROGE『3つの小品』(アルバム『POULENC PIANO WORKS』収録)
プーランクのアルバムはどれも素晴らしいですから。メロディーメーカーとして最高の方。曲のもっているエスプリ、洒落た感じ、気品。彼の小品は自分がいつか書きたいと思う憧れですね。

2曲目
Donald Fagen『Ruby Baby』(アルバム『The Nightfly』収録)
つぶれたような独特のハーモニー感、音楽性の高さ、あとレコーディングテクニックの高さ。Steely Danもしくは彼のアルバムはレファレンスとして、いつもレコーディングのときにもっていました。それくらい完璧。

3&4曲目
Brahms『交響曲第1番ハ短調op.68』 Mozart『交響曲第40番ト短調K.550』(アルバム『ブラームス:交響曲第1番、モーツァルト:交響曲第40番 久石譲&東京フィルハーモニー交響楽団』収録)
交響曲の1番、これはなんといっても最高です。ブラームスは大学で学んだ原点であるクラシックにもう一度真剣に立ち向かおうと思って取り組みました。今の段階で自分の考えるクラシックを実現できたのがこの2曲。

(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)

 

 

2号連続前半

 

 

久石譲 『ミニマリズム』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

Blog. 「週刊アスキー 2010年11月9日号」「メロディフォニー」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/06/01

雑誌「週刊アスキー 2010年11月9日号」に掲載された久石譲インタビューです。『Melodyphony メロディフォニー』(2010)を中心に2号連続インタビューになっています。

 

 

やっとこれでトータルな自分の音楽が完成した

「音楽的にすべてを表現」

久石:
「つくり終わって大変満足しています。やっとこれでトータルな自分の音楽が完成したなと。なぜかと言うと去年『ミニマリズム』という作家性の強い作品をつくって。その制作中から今回のようなエンタテインメントのメロディー中心の曲をオーケストラで録りたいと思っていたんです。だから2年がかりでひとつのコンセプトが完成したという感じ。自分の持っている内生的な部分と外に向かって人を楽しませたいという部分。その両面をこれで表現できたなと思います。やはりどちらかだけではダメなんですよね。」

-映像ありきの楽曲中心の選曲。サントラと今作の違いは?

久石:
「それはですね、映像の仕事の場合、基本的には監督にインスパイアされて、すごく一所懸命曲を書くわけです。ところがやはり映像の制約というものもある。『このシーンは3分です』だとか。だから映像の中のドラマ性に合わせなくてはいけなくて。映像と音楽合わせて100パーセント、もしくは音楽がちょっと足りないくらいがいいときもある。そこから解放されて音楽自体で表現、音楽だけで100に。つまり本来曲がもっている力を音楽的にすべて表現できる。そこが今作なんです。」

 

「意識下の別の自分と出会う」

-収録曲は”旅”や”新しい世界”的な印象もありますが。

久石:
「音楽を聴くこと自体が、その瞬間日常を離れるんですよね。音楽って楽しいし、いいわけでしょう、ふだんとは違ったレベルの体験ができるというか。意識下の別の自分と出会うような、そういう意味では”旅”なのかもしれないですよね。それに音楽が人間に与える力というのも確かにあるから、それを大事にしたいんですよ。」

-聴いていると思い出や映像が脳裏に浮かんできました。

久石:
「聴くことでいろんなことが思い浮かぶってことですね。それはすごく重要。メッセージを伝えるだけではなく、自分の意識下に触れることでイマジネーションが豊かになるから。それって音楽にとっても大切だし、人間にとっても大事ですよね。」

-「音と向き合え!」と言われているような気もしたんです。

久石:
「ははは(笑)。音を聴かせてしまう部分は確かにあるかもしれないです。どうしても自分の性格で細かくつくり込んでしまうので。心地よいBGMというよりはオーケストラでガツンと世界観はきますよね。聴きやすくしようと思いながらも、鳴っているか鳴ってないかの部分までつくっているし。でもそこもある意味聴きどころなのかもしれませんね。」

※次号に続く

(週刊アスキー 2010年11月9日号 より)

 

 

今週のプレイリスト
my favorite!

選曲:久石譲

今いちばん気に入っている曲。ラジオ番組をやっているのですが、そこでもよくかけている曲ですね。

1曲目
MICHEL CAMILO & TOMATITO『SPAIN』(アルバム「SPAIN」収録)
デュエットアルバムなのですが、これがすばらしい。アルバムを一緒につくろうと話してから6年くらい経つんです。未知数のフラメンコギタリストとの共演をいつか実現させたいと考えていて、そのきっかけになった1枚。

2曲目
ベルリン・フィル12人のチェリストたち『SOUTH AMERICAN GET AWAY』(アルバム「SOUTH AMERICAN GET WAY」収録)
ブラジル風バッハやバンドネオン風のピアソラまで全部入ってます。全曲いいですね。このアルバムを聴いてチェロのアンサンブルがいかにすばらしいかを認識し『The End of the World』という僕の曲に結晶させました。

3曲目
STING『ENGLISHMAN IN NEW YORK』(アルバム「FIELDS OF GOLD-THE BEST OF STING(1984-1994)収録)
彼のアルバムは大概いいですよね。映画音楽のエンドロールに流すとしたら彼以上にいい人はいない! 声を出しただけで人生の哀愁や歓びを出せるのは彼しかいない。それくらい好きなミュージシャンです。

(週刊アスキー 2010年11月9日号 より)

 

 

2号連続後半

 

 

久石譲 『ミニマリズム』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/05/31

音楽雑誌「キーボード・マガジン Keyboard Magazine 1992年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

不特定多数の聴ける音楽が出来ればいいなあと思います

5月に東京芸術劇場で行われた久石譲のコンサートが、ライヴ・アルバムとなって発売された。ソロ活動、映画音楽から、プロデュース活動まで幅広く活動を続けるキーボーディストの彼に、今作について等、いろいろと話を聞いてみた。

 

ーライヴをこういった形でアルバムにするというのは、ライヴを行った段階で決定していたんですか?

久石:
「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

 

ーもしかしたら、CD化されなかったかもしれないわけですね?

久石:
「そういうふうに言ってて、東芝の人もみんな真っ青になってました。上がりの悪いのは外に出せないというのもあったし、みんな戦々恐々としてましたね。」

 

ー無事作品になったわけですが、率直なところ出来に関してはどのくらい満足されていますか?

久石:
「従来のソロ・アルバムとはまったく違うタイプですから、まったく違うものとして満足しています。中にはミス・タッチもあれば、オケとずれたりとか、いろんな部分があるんですが、その時、お客さんがいてオーケストラがいて僕がいてという独特の熱気、そういうのはスタジオ作品ではちょっと味わえないものがあるんですね。それが出てる部分で僕は凄く満足しています。特に本当にその場でテンポが揺れて気合で行くような時が多いライヴは、その時のエモーショナルな部分っていうのがそのまま演奏に出てくるから、そういう意味で作品がうまく再現されているということです。」

 

ー録音しているのと、していないのでは緊張感が違いますか?

久石:
「出だしは意識しました。(ライヴは2日間なので)チャンスは2回しかありませんから。ところが意識すると優等生の発表会みたいになってしまって、無理をしなくなりますでしょ。だから、途中から意識しなくなりましたね、まあいいやって。」

 

ー今回のアルバムでは宮崎駿さんの作品のためにお書きになった曲がかなり演奏されていますが、久石さんが映画音楽を多く手掛けている理由は、映像に曲を付けるという行為自体に魅力があるからですか。それとも宮崎さんの作品に惹かれる部分が大きいからですか?

久石:
「映画という表現に惹かれていることの方がやはり大きいですね。映画自体が僕は大好きですから。元々インストゥルメンタル・ミュージックをやっているという性格上、映像とは非常に結び付きやすくなる可能性があるんですね。そういう意味でも、映像で表現したいというのが自分の中の半分ぐらいありますよ。もちろん宮崎さんだからというのもありますけど、そういう意味で言うと、大林さんだから、北野たけしさんだからというのもありますから。」

 

ー少女の繊細な心理を描く大林さんと、割と激しいものを描かれるたけしさんの作品用に音楽を使い分けるというのは難しくないですか?

久石:
「難しいよね。たけしさんが本の中で書いているんだよね。”おいら、女を肯定的に捉えたようなあんな「ふたり」みたいな映画は絶対認めない。女は恐いもんなのに、あんな映画撮る人の気持ちがわからない。きっと育ちがいいんだろう。ついでに言うと、ああいう映画をやりながらおいらの映画をやるなんて信じられない”って(笑)。あっ、僕のこと言ってるって、まずいなって思ったんですけどね。確かに正反対ですもんね。彼らからすると理解できないのかもしれないけれど。ただ、大林さんって非常に音楽的な教養が高い人で、僕のメロディ・ラインを欲しがる人なんですよ。映画全体を包みこむような音楽が欲しいという、思考がハリウッド映画の人ですから。かたや、たけしさんっていうのは、非常に尖った人ですから。今回の映画でもはっきり出てるんですが、大林さんの方は非常にメロディ作家で押して、たけしさんとやる時は、元ミニマル・ミュージック作家の顔で作ってます。たけしさんは感情移入の曲を嫌ってらしたし。」

 

ーリスナーには自分のどういった部分を聴いて欲しいと思いますか?

久石:
「基本的にクオリティの高い音楽をやっているから、音楽性を求める人に聴いて欲しいですよね。でももっと大事なのは、そういう音楽性の高い人にしかわからない音楽をやってるつもりはなくて、「あら、きれいなメロディだわ、ちょっとバックに流しながらお風呂に入っちゃおう」みたいなノリでもいいんですよ。それからその人がいろんな音楽を聴いて自分の音楽的レベルが上がると「このレコードこんなこともやってるんだ」というように、なおさら楽しいレコードが自分の理想なんですよ。不特定多数の聴ける音楽ができればいいなあと思います。」

(キーボード・マガジン 1992年10月号より)

 

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

 

 

 

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/05/30

雑誌「月刊ピアノ 2000年4月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

北野(武)さんは、音楽抜きで映画を撮れたらサイコー、と思ってるんじゃないかな。

北野武、宮崎駿監督らの映画音楽の作曲で知られる久石譲は、その仕事をどう捉えているのだろうか。

一昨年から去年にかけて半年間、ピアノに向かうことをやめていたというインタビュー記事を読んだ。それはなぜだったのか。まずそのへんのことから聞いてみたい。

 

ピアノはスポーツだからまずはジムで体力づくり

ー昨年、ピアノを半年間弾かない時期があった、という記事を拝見したんですが?

久石:
「一昨年の秋のツアーを終えてから夏ごろまで、ピアノから遠ざかっていたんですよ。理由は簡単なんです。ツアーで全国10ヶ所くらいを回って、もうピアノはいいや、と思った。技術的にもうこれ以上うまくならないや、というような諦めもふくめて(笑)。一方で、もし続けるなら、いま以上のレベルにいかなければいけないという思いもあって、そのいずれかの決断の時期だったんです。そこで一度、ピアノから離れてみたほうがいい、と。そうこうしているうちに、昨年の秋、イギリスのバラネスク・カルテットとツアーを回ることになった。でも、やっぱりピアノは弾かないで、今度はジムばっかり通ってたんです(笑)。僕のピアノはというか、日本人のピアノの欠点だと思うんですけれど、リズムが弱いんですよ。ところが、彼らは弦楽四重奏でテクノ・ポップをやっちゃうようなバンドだから、圧倒的にリズムがいいんですね。彼らと1ヶ月間ツアーを回ったら、これは負ける、と思った。そこでジム(笑)。僕はピアノを弾くことはスポーツだと思っていたから、まったくスポーツと同じように、筋肉を鍛えて、身体からつくりなおしていったんです」

ーそれで、ツアーのほうはどうでしたか。

久石:
「恐れていたとおり、彼らは素晴らしかったですよ。初日から2、3日めまでは、我々日本チームのほうがいいんですよ。ところが、彼らは日々よくなる。馬力を出してくる。彼らが楽曲を理解して納得して弾いたとき、絶対に日本人はついていけない。僕はそのときに自分はどう対応するかと考えていて、一応、狙ったとおりにはできたんです。体力つけたのは正解でした」

ー狙ったとおりというのは、まずは馬力ですか。

久石:
「そう、まずは馬力でしょう。それから、リズム。ツアーではピアノはほんと打楽器だったんです。ドラムと同じ役割で、ずっとリズムをキープしつづける。16分音符で4分5分弾きつづけるというのは、すごく大変なんです。つっちゃって、つっちゃって。そのつっちゃっているときに、いきなり今度はメロディアスなものを弾かなきゃいけなかったり。チェロのニックは、腕は太いしすごくいい体格をしている。でも、自分たちの楽曲を1曲弾いたときには、もう手がつっちゃって弾けない。想像以上にきついラインナップでした。それについていくには、やっぱり一に体力でしょう」

ーバラネスク・カルテットとは新作アルバム『Shoot the Violist』でも共演なさってますよね。

久石:
「そう、彼らはほんとにすごいミュージシャンなんですよ。音楽するとは、音を出すというのはどういうことか、教わりました」

ーどういうことなんですか。

久石:
「譜面をなぞるような演奏をしていても、絶対に音楽にならないということ、なにも表現できないということが、よくわかった。多くの日本のミュージシャンたちは、このことを忘れてます。バラネスク・カルテットといっしょにやってみて、日本の演奏家と組むのはイヤだな、と正直思いました。自分の書いた曲を聴いて、あっ、こんなふうに自分の音を出してくれたのか、とその演奏家を尊敬したいし、僕自身も感動したいんですよ」

ー日本人にそれを求めるのはむずかしいですか。

久石:
「むずかしい、ほんとにむずかしい。テクニックのうまい人は山ほどいるんです。でも、じゃあ、なぜ自分はこの楽器をやって音楽をやっているのかという意識をちゃんともっている方は少ない。したがって、たぶんこの人と話したら1分で寝ちゃうだろうな、と思うような人が多すぎる(笑)。この人はこうやって生きてきて、それでこういう音が出てくるんだ、と思うと、いっしょにお酒を飲んでいても楽しいし、音楽の話もしたくなるわけです。ヨーヨー・マのインタビューを聞いていても、素晴らしいですもの。まず、人間として素晴らしい。海外では、14、5歳でジュリアード(音楽院)を卒業したなんていう人がけっこういます。彼らが偉いなと思うのは、そのあと一般の大学に入りなおして、哲学だったり美学だったり、人によっては経済だったり学んでいるんです。要するに、音楽しか知らないような狭い視野では人間としてダメだと、もっと広い知性をつけたり、もっと人間をみがかなくてはと。そうじゃないとダメなんですよ、ほんとは」

 

映画音楽に、映画を超えた壮大な広がりがあるのだろうか

ー映画音楽の作曲はどのようにして?

久石:
「映画というのは、基本的に監督のものなんです。僕はスタッフとして、自分はこう思うけれど、監督ならどうだろうというところで、決断をします」

ーすると、監督と意見がぶつかることはない?

久石:
「ないですよ。僕の場合、映画音楽では、わりと引いたところでしか仕事のスタンスをとってこなかったから。僕は、映画のなかの音楽に壮大な宇宙があるかというと、あんまりないような気がするんです。それはその監督の世界だから。だって『七人の侍』を見て、音楽が素晴らしかったとはいわないでしょう。音楽はやっぱりバックグラウンド。もちろん、そこに自分の世界を確立しなくちゃいけないし、少しはもっているつもりでいるけれど、そのこちらの世界で、たとえば今回の『Shoot the Violist』の音で、北野さんの映画を全部やろうとは思いませんよね。監督のいうことを全部聞いたうえで、それでも自分の世界が出るように、という努力の仕方なんです」

ー北野監督はどんなことをいってきますか。

久石:
「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

ー今年のはじめに映画音楽家の佐藤勝さんが亡くなりましたね。

久石:
「佐藤さんは一生、映画音楽家でしたよね。僕のお師匠さんなんです。若いころは、佐藤先生の作品を何度も手伝いましたし」

ーそうだったんですか。佐藤さんは、黒澤明監督の遺稿を映画化した『雨あがる』の音楽を手がけて、自分のもっているものを全部出しちゃった、とおっしゃったそうですが、そんなふうに全部出しちゃったと思えることってあるんですか。

久石:
「ありますね。滅多にないけれど、ありますね」

ー『Shoot the Violist』はどうですか。

久石:
「ありましたね。それまで、どちらかというと、あくまで仕事としてソロアルバムをこなしていたところがあるんですよ。はい、北野さんの映画終わった、ソロアルバムの締め切りはここ、はい、次の映画……みたいな調子で。ところが、この『Shoot the Violist』については、さあ、次になにをやろうかじゃなくて、このアルバムのなかにしか次にいく解答はない、というかんじがしています」

ー最後に、お話が戻りますけれど、いまこうしてまたピアノを弾いてらっしゃるということは、もっと上にいこうと思われたわけですね?

久石:
「いきたい、と思いましたよね。自分のスタイルをつくらなければいけない時期って、どこかでくるから。あのツアーを、レコーディングをこなしてみて、はじめて見えたところはあります。ピアノをやめることはないなと、いまは確信しています」

(月刊ピアノ 2000年4月号より)

 

 

久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

 

 

 

Info. 2019/06/05 映画『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』 CD発売決定!! 【5/29 Update!!】

久石譲が全編書き下ろした音楽を収録した、映画『海獣の子供』オリジナル・サウンドトラックの発売が決定しました。スタジオジブリ制作の『風立ちぬ』、『かぐや姫の物語』以来となる、長編アニメーション映画音楽。映画を鮮やかに、そして深海の様に神秘な音で彩る。 “Info. 2019/06/05 映画『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』 CD発売決定!! 【5/29 Update!!】” の続きを読む

Info. 2019/07/10 「スタジオジブリ 7インチ BOX」発売決定 【5/14 Update!!】

Posted on 2019/04/25

誰もが知っているスタジオジブリの名曲の7インチアナログ盤が完全復刻

映画公開から35年になる『風の谷のナウシカ』をはじめ、『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』の主題歌は、今もなお多くの人に愛され、音楽の教科書にも取り上げられていることでも知られる。 映画公開当時、それぞれ7インチレコードとしてリリースされており、オリジナル盤は今や中古市場でも人気のタイトルとなっていて、海外からも注目されている。

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Info. 2019/05/09 「音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート」(石巻日日新聞より)

音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート

指揮とピアノにうっとり

世界的作曲家で映画音楽界の巨匠・久石譲さんと仙台フィルハーモニー管弦楽団のアウトリーチコンサートが4月28日、東松島市立宮野森小学校の体育館で開かれた。オーケストラ楽器体験をはじめ、矢本第一、二中学校吹奏楽部の合同演奏もあり、多くの市民がクラシック音楽に触れた。 “Info. 2019/05/09 「音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート」(石巻日日新聞より)” の続きを読む

Info. 2019/05/07 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) プログラム 【5/9 Update!!】

Posted on 2019/05/07

2019年5月5,6日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がチェコ・プラハにて開催されました。

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。 “Info. 2019/05/07 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) プログラム 【5/9 Update!!】” の続きを読む