Posted on 2019/06/03
雑誌「シネマ☆シネマ Cinema Cinema 2012年8月1日号 別冊 No.38」に掲載された内容です。映画『天地明察』公開にあわせてキャストや監督、そして久石譲をまじえた座談会です。
映画『天地明察』 独占座談会!
岡田准一(主演)× 冲方丁(原作)× 久石譲(音楽)× 滝田洋二郎(監督)
『おくりびと』で米アカデミー賞外国語映画賞を獲得した名匠・滝田洋二郎監督が、岡田准一と初タッグを組み、冲方丁のベストセラー小説「天地明察」を映画化。音楽は、滝田監督と3度目のコラボとなる久石譲が務め、豪華エンターテインメントが誕生!作品のガキを握る4人の男たちの熱い想いとは?
岡田:
30歳の節目に、自分自身の柱になるような作品と出会えればと思っていたところに今回のオファーを頂き、運命的なものを感じました。滝田組に入れることがうれしかったですし、冲方さんとは以前対談させていただいてどんな思いでこの本を書かれたかをお聞きしていたので、喜びと同時にプレッシャーもあり、たくさんの方の思いを裏切りたくないという気持ちで現場に臨みました。
滝田:
僕がこの原作を映画化したいと思った一番の理由は天下泰平の世を舞台にしているからなんです。平和なのはよいことですが、逆に新たな志の芽を摘み、時代の息吹が失われてしまうこともある。それはまさしく今と全く同じ。でも当時の人たちは若い人を育て、後を託すことの大切さを知っていて、新たな才能を求めていく度量もあった。そこに感銘したんです。冲方さんはお若いのにスケール感のある小説をお書きになったなと。
冲方:
ありがとうございます。最初にこの小説を書こうとしたのが16歳のときで、何度も挫折しつつ、結局16年かかりました。映画化と聞いたときはうれしかったですが、本当に映画が出来上がるまでは信じないようにしようと(笑)。
滝田:
正しいと思います(笑)。
冲方:
撮影現場を拝見して、小説が映画に負けてしまうんじゃないかという危機感が生まれました。完成した映画も感動して喜んでいる自分がいる一方で、小説がノベライズと思われるのではと、おびえている自分もいて(笑)。だから、自分の原作ともう一回勝負しようと思い、文庫化に当たり改稿を加えたんです。
久石:
僕が滝田監督とご一緒するのは今回で3作目。『壬生義士伝』では簡単な意見をもらう程度だったんですが、『おくりびと』からは徐々に注文が多くなって(笑)、今回の『天地明察』では映画音楽を知り抜かれていて大変でした(笑)。でもご指摘は的確ですし、音楽の持っている力、ニュアンスを大事に扱ってくださるので、本当にやりがいがあります。
岡田:
完成した作品を見て、音楽の持つ力をあらためて感じました。美しく、感情があるメロディーに芝居をすごく助けていただいていると思いましたね。
久石:
音楽が乗る役者さんっているんですよ。逆に、書きたくないと思うこともたまにあるんですけど(笑)、岡田さんにはすごく音楽が乗りますね。素晴らしいです。曲を書きたくなります。
現場で解放されることでいい作品が生まれる
滝田:
岡田さんは、仕事に対する姿勢も素晴らしいし、真のプロフェッショナルですね。安井算哲は本当に難しい役だったと思います。争いを好まず、周りに好かれる人のよい囲碁打ちが、改暦事業に巻き込まれ、世の中の荒波に放り出され、挫折を繰り返して一人前の男になっていく…。それを2時間で描き切らなければいけないわけなので、もちろんリハーサルやディスカッションもたくさんしましたが、「あとは主演俳優にお任せするしかないよね」という感じでお願いしました(笑)。
岡田:
いやいや、そんなことないです(笑)。たぶん役者って少し神経質なところがあって、どんな表現ができるのか考え抜き、さらにその場の感情も大事にして演じたときに、「こうやりたいけど、やっていいのかな」って悩むことがあるんです。すると監督は、「やってみようよ!」とおっしゃる。「面白いじゃん!」って(笑)。
滝田:
ははははは。
岡田:
現場は生き物だから、面白いアイデアがあったらやってみる。そんな遊び心を監督自身が持たれていて、余裕のある中で、完璧を求めていくスタイルの現場でしたね。滝田監督をはじめ、僕の先生の世代に当たる、懐の深いスタッフの方たちが、何をしても受け止めてくれる安心感がありました。
滝田:
現場で何かに出会える、その瞬間を僕は待ってるわけで、新しい何かと出会えたらうれしい。シナリオは人の感情を理詰めで作っているので、現場ではそこから解放されるべきなんです。監督がすべて分かっていると思うのは間違いで、映画に正解なんてないから、僕自身がどう感動できるかを現場で探すしかない。いつか撮影は終わりますからね、予算もあるし、時間もあるし(笑)。その中で好きに、広くできればいいなと。
久石:
やっぱり、滝田監督が持っている人間的な魅力が磁場になって、みんな現場で解放され、いい雰囲気ができるんじゃないですかね。解放されるって重要で、例えばオーケストラでも、頭で論理的に組み立てたとおりに演奏したら全然面白くない。生きたものにならないんです。一回それをバラバラにして、直感を信じるような次元までいかないといけない。おそらく小説もそうだろうと思いますが。
冲方:
そうですね。はい。
久石:
演技も、音楽も、映画作りも、みんなそうなんじゃないですかね。
滝田:
現場でライブの感覚を楽しめばその人の一番いいところが出るし、僕も何か発見できるかもしれない。いつも自分のスタイルだけで撮ったら、毎回結局同じものしか出てこないですからね。
算哲の姿を自分に重ね合わせて観てほしい
岡田:
原作もそうですが、映画もすごく元気が出る、力をもらえる作品に仕上がっていると思います。作品のエネルギーを感じてもらえたらいいですよね。
冲方:
算哲は、どんな挫折を経験しても、いつかは幸福をつかめると確信している。自分の人生を信じるのはとても素晴らしいことで、誰にでもできるはずだと、10代の僕に教えてくれた人物なんですね。僕が彼の人生から得た勇気を、この映画が万人に与えてくれると確信しています。
久石:
見なきゃ損、のひと言に尽きますね。青春物語とか成長物語とかいろいろ言うことはできますが、まず作品として、ものすごくクオリティが高いので。
滝田:
特に若い人に見ていただき、岡田さん演じる算哲の姿を自分に重ね合わせてこの映画を楽しんでほしいですね。400年も前、地球が丸いことさえ確信できてなかった時代に、地道な作業を続け改暦に命を懸けた男の生き方とかロマンを感じていただければうれしいですね。
映画館の思い出といえば?
岡田:
箱の中で物語が流れる、特殊で大好きな空間ですね。僕が子供のころは、入れ替え制じゃなかったので一日中映画館にいられたんですよ。『ホーム・アローン』とか、ずっと観ていた覚えがありますね。あと、出演した映画をこっそり観に行くことも。『木更津キャッツアイ』は出演者そろって観に行きました(笑)。
冲方:
僕にとって映画館は心の糧を与えてくれる場所。子供のころ、映画館の存在しない国に住んでいたんですが、日本に戻り映画館に連れていってもらうたびに、「生きててよかった」と(笑)。娯楽は、直接的には人は救えないとよく言われますが、僕からすれば食べ物より大事だっていう気持ちもあるんです。
久石:
僕自身、子供のころから映画が大好きで、4歳のときには既に年間300本ぐらい見ていましたね。映画館というと、夢を見られる場所。映画のフィルムは基本的に(1秒間)24コマで、コマを切り替える際、闇になるので、実はスクリーンでは半分闇を見ていることになる。それが人間のイマジネーションを喚起するんだと思います。
滝田:
僕は、一番好きな映画が、子供のころに見た『路傍の石』なんですが、丁稚へ行った吾一少年を自分に置き換えて涙しながら見てましたから、やっぱり映画の力ってすごいと思いますね。映画館は、もっともっと楽しむ場所であり、ほかの世界を知る場所であり、刺激を与える場所になればいいなと思っています。映画はお祭りですからね。
2012.5.15 『天地明察』 製作報告記者会見 コメント
岡田准一/安井算哲役
いろんな困難を乗り越えながら、たくさんの人に支えられて事をなす、安井算哲を演じました。現場でも監督、スタッフの皆さんに支えられ、算哲同様の気持ちで作品に取り組んだのを思い出します。素晴らしい作品に仕上がったと思うので、ご期待ください。
原作・冲方丁
数百年前に生きた人間と、同じものを見ることができる。そういう人間の営みを物語にしたいとずっと思っていました。映画は(小説と)同志と言いますか、お互いにしかとらえられない視点で同じものを見たという意味で非常にうれしく、感無量です。
音楽・久石譲
時代劇というよりも、1つの夢を追い続ける人間が、夢を叶えていく。その生き方、青春に焦点を当てたいと思いました。作品としてのスケール感、希望なども重視しつつ、オーケストラ演奏により、あたかも1つのシンフォニーになるように音楽を作りました。
滝田洋二郎監督
映画の企画というのはまさに空にある星をつかむようなもの。今回、ビッグな新星・冲方丁さんの本と出会い、すぐ映画化に手を挙げました。岡田さんの素晴らしい演技と存在感で安井算哲を意欲的に描けたと思っています。渾身の作品になりました。
(シネマ☆シネマ Cinema Cinema 2012年8月1日号 別冊 No.38 より)