Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

2016年7月13日 CD発売 UMCK-1545/6
2016年7月27日 LP発売 UMJK-9062/3(完全限定生産)

 

大迫力のコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015」を完全収録!壮大な交響詩として生まれ変わった完全版「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」も初音源化!

戦後70周年の特別な年に開催された「久石譲&W.D.O.2015」。「The End of the World」(声楽と管弦楽のための)+(久石 譲リコンポーズド「The End of the World」-ヴォーカルナンバー 「この世の果てまで」)の壮大な交響作品をはじめ、日本への想いを込めて書き下ろした「祈りのうた」(ピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版)、そして長年の時を経て壮大な交響詩として生まれ変わった「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」(映画『風の谷のナウシカ』より)の完全版が満を持して音源化。

根強いファンをもつ「il porco rosso」「Madness」(映画『紅の豚』より)、「Dream More」(サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム CMテーマ曲)、さらにアンコール曲「Your Story 2015」(映画『悪人』主題歌より)、「World Dreams」(W.D.O.テーマ曲 合唱付き)まで約2時間を超える迫力のコンサートの模様を完全収録!

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

アルバム『The End of the World』に寄せて

鎮魂の鐘で始まり、希望の鐘で終わる──。2015年8月に開催された久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)の全国ツアー(以下、W.D.O.2015)と、その演奏曲を完全収録した本盤『The End of the World』の内容を要約するならば、ズバリその一言に尽きる。戦後70周年という特別な年にふさわしい、練りに練られたプログラム。ただし、そこにたどり着くまでは、約1年にも及ぶ準備期間と、絶え間ない試行錯誤の繰り返しを必要とした。

2014年、すなわちW.D.O.結成から10年目の節目の年、久石は3年ぶりのW.D.O.のコンサートを指揮した。「ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう」という結成当初からのコンセプトはそのままに、10年の間に飛躍を遂げたW.D.O.はポップス・オーケストラというカテゴリーの枠を大きく越え、”本物の音楽”を志向するオーケストラに成長していた。しかもW.D.O.は、日本人にとって特別な意味をもつ夏-広島・長崎の原爆投下と8月15日の終戦記念日を含む夏-という季節に限定してコンサートを開催する。そこで久石は、W.D.O.2014のテーマを「鎮魂の時」と位置づけ、クシシュトフ・ペンデレツキ作曲《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、J・Sバッハ作曲《G線上のアリア》、それに太平洋戦争に関連する久石の映画音楽作品-アルバム『WORKS IV』にも収録されている《ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」》《「風立ちぬ」第2組曲》《小さいおうち》の3曲-を演奏した。このW.D.O.2014の演奏会は大きな反響を巻き起こし、演奏終了直後、久石は聴衆の前で翌年のW.D.O.ツアー開催を宣言した。久石とW.D.O.が提示したメッセージが見事に伝わり、これまでになかったようなシリアスなプログラムでも聴衆に受け入れてもらえる、という確信が得られたからである。

その翌月、久石は30年来の夢だった「現代のすぐれた音楽を紹介する演奏会」、すなわち「Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE」第1回演奏会(MF Vol.1)を開催し、かねてから彼が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家、ヘンリク・グレツキとアルヴォ・ペルトの作品を演奏・紹介した。祈りに満ちた彼らの音楽は、第2次世界大戦のホロコーストの悲劇や、冷戦時代の恐怖政治の抑圧と密接な関わりを持っている。ゴレツキとペルトの演奏は、来たる2015年にやってくる戦後70周年を久石に強く意識させることになった。

MF Vol.1の演奏会が成功裏に終わったその夜、久石は早くもW.D.O.2015の実現に向けて構想を練り始め、プログラムのテーマを「祈り」とする基本方針を固めた。ツアー開催地には、久石の強い希望で広島と仙台が含まれることが決まった。言うまでもなく、2015年の原爆投下70周年と、2011年東日本大震災から立ち直りつつある東北地方を意識しての決定である(奇しくも広島公演は、8月6日の原爆の日に開催されることになった)。その際、久石が強調していたのは「単に”追悼”や”鎮魂”を掲げるのではなく、そこから先の未来に向けたメッセージも伝えなくてはならない」という点だった。それが出来なければ、W.D.O.は真の意味で「ワールド・ドリーム」を名乗る資格がない──そのような強い決意のもと、久石はW.D.O.2015のプログラミングに着手した。

プログラムの中で最初に決まったのは、《Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015》である。久石の映画音楽作品、特に宮崎駿監督作品のための音楽は、日本のみならず海外でも演奏頻度が飛躍的に高まり、ここ10年は久石以外の指揮者に演奏を委ねる機会も増えてきた。そこで久石は、宮崎作品のオーケストラ譜を完全版(Definitive Edition)の形で整え、W.D.O.で順次初演していくという計画を立てた。その先陣を切る作品としては、やはり『風の谷のナウシカ』がいちばんふさわしい。宮崎監督と久石が初めてタッグを組んだ記念すべき第1作という歴史的意義に加え、『ナウシカ』が描いている”破壊と再生”というテーマがW.D.O. 2015のプログラムにふさわしいと、久石は判断した。

では、他の曲をどうするか? どうしたら、戦後70周年にふさわしく、かつW.D.O.らしいプログラムを組み立てることが出来るか? ここから、久石の長い格闘が始まった。ある段階では、第2次世界大戦の戦没者や犠牲者のために書かれたクラシック曲、あるいはもっと広い意味で”追悼”をテーマにしたクラシック曲なども、演奏の可能性がかなり真剣に検討された。しかしながら、W.D.O.は既存の常設オーケストラと異なり、クラシックだけを演奏する団体ではあに。レクイエム(鎮魂ミサ曲)のような作品ばかり並べた”追悼演奏会”にしたのでは、W.D.O.らしさが失われてしまう。そうは言っても、W.D.O.2015はヒロシマと東北に向けたステートメントをきとんと伝えなくてはならない──。このような雁字搦めの状況の中、ありとあらゆる可能性が候補に挙がり、また破棄されていった。

そうした中から生まれてきたのが、久石が2008年に作曲した《The End of the World》を、W.D.O.2015のプログラムの中で演奏するというアイディアである。もともとこの作品は、久石が2001年同時多発テロ(9.11)に着想を得て作曲したといういきさつがある。そして、W.D.O.のテーマ曲である《World Dreams》も、久石が9.11を強く意識して作曲した作品だ。原爆投下70周年と東日本大震災、これだけでも非常に大きいテーマであるが、久石はそこに9.11を加えることで、戦後70年のあいだに我々日本人が何を体験し、何を感じてきたか、その重みを世界全体の普遍性の中で捉え、《The End of the World》に集約して表現しようと考えた。そのアイディアと軌を一にする形で、東北に向けた新作をW.D.O.2015で演奏するというプランも生まれてきた。久石が《祈りのうた》を作曲したのは、そのプランが生まれてからすぐのことである。

かくして、”祈り”をテーマにしたW.D.O.2015のプログラムは《祈りのうた》《The End of the World》《ナウシカ》の3曲を中心にして構成する、という全体の骨格が固まった。原爆投下70周年の2015年8月6日に広島で演奏しても、東日本大震災の記憶が残る仙台で演奏しても、全く恥ずかしくないプログラムである。まさに「世界の終わり」を垣間見るような重量級の内容だが、そこまで徹底的に突き詰めてこそ、W.D.O.が振り子を揺り戻すようにエンタテインメント性豊かな音楽を演奏することの意味が生まれてくる。その部分に関しては、2015年の久石の新作《Dream More》と、宮崎作品の《紅の豚》を演奏することで万全を期した。

この間、久石は2015年2月の台湾公演と4月のイタリア公演、5月の新日本フィル演奏会(ペルトの交響曲第3番など)、アルバム『Minima_Rhythm II』の準備とリリース、それらと並行して山田洋次監督作『家族はつらいよ』をはじめとする数々のエンタテインメント音楽の作曲など、凄まじいスケジュールをこなしながらW.D.O.2015の準備を進めていった。特に《The End of the World》に関しては、「祈り」というテーマにふさわしい演奏にすべく、作品の構成そのものが大幅に見直された。試行錯誤の結果、《The End of the World》はリハーサル開始まであとわずかというギリギリのタイミングで、ようやく最終的な楽章構成が確定した。

2015年8月5日の大阪公演を皮切りに、全国5都市計6回の公演がもたれたW.D.O.2015。筆者はそのうち、東京公演2回を聴いたが、プログラム第1曲の《祈りのうた》がチューブラー・ベルズで始まり、最後のアンコール曲《World Dreams》の最終和音がチューブラー・ベルズで閉じられるのを聴いて、言葉では表現しようのない感動に打ち震えた。鐘で始まり、鐘で終わるW.D.O.2015。2つの鐘は、同じではない。最初は鎮魂の鐘、最後は希望の鐘だ。この2つの鐘が象徴しているように、W.D.O.2015はプログラム全体にわたり、「鎮魂から希望へ」というトータル・コンセプトが見事に貫かれていた。これほど考え抜かれたコンサートは、久石と言えども、そうそう作り上げることが出来るものではない。だからこそ、本盤『The End of the World』のリリースに際しては、アンコールを含むW.D.O.2015の全演奏曲が1曲も割愛されることなく完全収録されることになった(収録フォーマットの関係上、CDとLPでは曲順が若干異なる)。戦後70周年にふさわしい、久石譲&W.D.O.の歴史的名盤がここに誕生した。

 

 

楽曲解説

祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-

原曲は2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGMのピアノ独奏曲として書かれた。久石がホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)の様式で初めて作曲した楽曲である。本盤に収録されているピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版はW.D.O.2015のプログラム第1番として演奏され、その際、「ヘンリク・グレツキへのオマージュ Homage to Henryk Górecki」という副題が付加された。グレツキは、アウシュヴィッツ強制収容所の悲劇-ヒロシマと共に第2次世界大戦を象徴する悲劇-をテーマにした《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》で知られるホーリー・ミニマリズムの作曲家である。冒頭、チューブラー・ベルズが弔鐘のように鳴り響くと、最初のセクションでピアノ独奏が透明感あふれる三和音のモティーフを導入し、中間部のセクションでピアノとヴァイオリンが悲しみに満ちた和音を演奏した後、嗚咽がこみ上げるような弦楽合奏が加わり、最初のセクションが再現されるという構成になっている。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
 I. Collapse - II. Grace of the St. Paul -
III. D.e.a.d - IV. Beyond the World

原曲は、久石が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象を基に作曲された。当初《After 9.11》というタイトルが付けられていたように、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。この楽曲は2008年の初演から本盤のW.D.O.2015ヴァージョンまで、かなり複雑な変遷をたどっているので、以下にその過程を列挙する。

(A)コンサート・ツアー『Piano Stories 2008』初演ヴァージョン(12本のチェロ、コントラバス、ハープ、パーカッション、ピアノのための)
I. Collapse - II. Grace of the St. Paul - III. Beyond the World の3楽章からなる組曲。

(B)アルバム『Another Piano Stories~The End of the World』(2009年2月リリース)収録ヴァージョン
上記(A)に後述のヴォーカル・ナンバー《The End of the World》(ヴォーカルは久石)を加えた4楽章の組曲版。

(C)アルバム『Minima_Rhythm』(2009年8月リリース)収録バージョン(合唱と管弦楽のための)
3楽章版(A)を大幅に加筆してフル・オーケストラ化。併せて第3楽章〈Beyond the World〉では、(A)の構想段階で終わっていた合唱の導入が初めて実現した。

(D)本盤収録のW.D.O.2015ヴァージョン(声楽と管弦楽のための)
(C)の〈Grace of the St.Paul〉と〈Beyond the World〉の合間に、新たな楽章〈D.e.a.d〉を追加。終楽章〈Beyond the World〉の後、ヴォーカル・ナンバー《The End of the World》が続き、全5楽章の組曲のように演奏される。

I. Collapse
グラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(idéefixe)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽章を持つ第2主題から構成される。

II. Grace of the St.Paul
楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。

III. D.e.a.d
原曲は、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》(曲名は”死”と、D(レ)E(ミ)A(ラ)D(レ)の音名のダブル・ミーニング)の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。今回、新たに声楽と弦楽合奏のために再構成され、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした。声楽パートをカウンターテナーが歌うことで、歌詞が特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言のように響いてくる。

IV. Beyond the World
「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように、「生への意思」に転じていくさまを、8分の11拍子という複雑な変拍子と、絶えず変化を続ける浮遊感に満ちたハーモニーによって表現した壮大な楽章。アルバム『Minima_Rhythm』録音時に、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが付加された。楽章の終わりには、チューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。

Recomposed by Joe Hisaishi The End of the World
原曲は、ポップス歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー(邦題は《この世の果てまで》)。歌詞の内容は、作詞者のSylvia Deeが14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。このヴォーカル・ナンバーは、上述の組曲《The End of the World》の作曲にも大きなインスピレーションを与えた。本楽曲のメロディーの美しさをかねてから高く評価していた久石は、アルバム『Another Piano Stories』の時と同様にヴォーカル・ナンバーをリコンポーズし、それを組曲のエピローグとして付加している。交響曲の中に世俗曲や民謡を引用した、グスタフ・マーラーの方法論にも近いと言えるだろう。〈D.e.a.d〉とは正反対に、愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うカウンターテナーと、その嘆きを暖かく包み込む崇高な合唱。その背後で静かに鳴り響くチューブラー・ベルズのリズム動機は、もはや恐ろしい”警鐘”ではなく、祈りの弔鐘”へと優しく姿を変えている。かくして9.11の悲しみは、誰もが共感し得る私たち自身の悲しみに昇華して普遍化を遂げ、戦後70周年にふさわしい世界観を獲得することに成功している。

 

紅の豚
il porco rosso - Madness

世界大恐慌のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎駿監督の冒険ロマン。物語の時代が1920年代後半に設定されていたため、久石の音楽も1920年台のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤収録の2曲のうち、前半の〈il porco rosso〉はイメージ・アルバムで《マルコとジーナのテーマ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャージーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナの”ロマンス”をノスタルジックに演出する。後半の〈Madness〉は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家フィッツジェラルドをテーマにした久石の1992年のソロ・アルバム『My Lost City』(アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)に収録されていたが、宮崎監督の強い要望で本編使用曲に決まった、という逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半のバブルの”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した〈Madness〉。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブルは『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Dream More

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリーム」のCMテーマとして作曲された、2015年の久石の新作のひとつ。CM発表会見にて、久石は「ノスタルジックで感傷的なメロディー」を「いろいろな味わいのする多重奏」に仕上げたと語っている。本盤に収録されているのは、W.D.O.2015で世界初演されたフル・ヴァージョン。《Dream More》という曲名には、現状に満足せず、さらなる夢(ドリーム)を追い求めていこうとする久石とW.D.O.の飽くなきチャレンジ精神が込められているように思われる。

 

Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
(a)風の伝説 – (b)遠い日々 – (c)ナウシカ・レクイエム – (d)メーヴェとコルベットの戦い –
(e)谷への道 – (f)蘇る巨神兵 – (g)遠い日々 – (h)鳥の人 – (i)風の伝説

最終戦争「火の七日間」が勃発し、巨神兵が破壊の限りを尽くして崩壊した巨大産業文明。それから1000年後、荒廃した世界の中で暮らす少女ナウシカは、戦乱の中で自然との共生を強く訴えかけ、自ら命を投げ出すことで世界に奇跡を起こす。久石と宮崎監督がタッグを組んだ記念すべき第1作にして、久石の代表作のひとつでもある『風の谷のナウシカ』の音楽は、久石自身のコンサートに限っても、これまでさまざまな編成によって演奏されてきた。演奏会用の管弦楽曲に関しては、メインテーマ〈風の伝説〉の単独演奏ほか、すでに2つの組曲が交響詩の形で演奏されている。すなわち、アルバム『WORKS I』収録の1997年ヴァージョン(a, b, c, d, e, g, h, i)と、BD&DVD『久石譲 in 武道館』およびアルバム『The Best of Cinema Music』収録の2008年ヴァージョン(a, b, c, d, g, h, i)である。今回の演奏に際しては、久石は『ナウシカ』のために作曲した素材をすべて検討し直し、完全版となる新たなヴァージョンを作り上げた。この完全版は、近く楽譜出版が予定されている。

(a)風の伝説
本編オープニングタイトルの音楽。衝撃的なティンパニで始まる導入部の後、久石のソロ・ピアノが万感の想いを込めてメインテーマを演奏する。そのメロディーの冒頭部分は、あたかも1980年代の映画音楽のトレンドに真っ向から抵抗するかのように、コード進行をほとんど変えない形で作曲されている。ミニマル・ミュージックの作曲家ならではのストイックな音楽的姿勢と、文字通り身を削るようなナウシカの壮絶な生きざまが重なって聴こえてくるのは、筆者ひとりだけではないだろう。

(b)遠い日々
「ラン・ランララ・ランランラン」の歌詞で知られるモティーフを、オーケストラのみで扱った部分。軽やかな木管がモティーフを提示した後、バロック風のフーガが続く。このフーガは、チェロとピアノのために書かれた《「風の谷のナウシカ」より組曲5つのメロディー》第4曲のフゲッタを発展させたものである(蛇足だが、曲のイメージと本編の印象から、「ラン・ランララ・ランランラン」のモティーフを〈ナウシカ・レクイエム〉と表記する解説がしばしば見受けられるが、それらはすべて誤り。正しくは〈遠い日々〉のモティーフである)。

(c)ナウシカ・レクイエム
自らの命を犠牲にして、虫たちの暴走を止めたナウシカを人々が嘆き悲しむシーンの音楽。バロックの作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルにも通じる力強い楽想が、聴く者に強い印象を与える。日本武道館で演奏された2008年ヴァージョンより、この部分の音楽には合唱パートが付加され、レクイエム(鎮魂ミサ曲)の〈怒りの日〉のラテン語歌詞を歌う。歌詞と訳は次の通り。「Dies iræ, dies illa 怒りの日が到来する時/solvet sæclum in favilla この世は灰燼に帰すだろう/teste David cum Sibylla ダビデとシビラの予言のように/Quantus tremor est futurus その恐ろしさは如何ばかりか」。

(d)メーヴェとコルベットの戦い
小型飛行機メーヴェを操るナウシカがトルメキア軍の大型戦闘機コルベットの追撃をかわすシーンの、ダイナミックな音楽。

(e)谷への道
サントラ録音に先立ち、久石が宮崎監督の絵コンテを基に作曲・録音した『イメージアルバム 鳥の人…』および『シンフォニー 風の伝説』に収録されていた楽曲。本編では未使用に終わったが、『ナウシカ』の世界観を表現するのに欠かせない重要な音楽のひとつである。当初からチェロの音色を意識して作曲されたという経緯もあり、本盤に聴かれる演奏でも、チェロがモティーフに豊かな膨らみを与えている。

(f)蘇る巨神兵
今回、初めて交響詩の中に組み込まれたモティーフ。不気味なグリッサンドを歌う合唱パートが新たに付加され、巨神兵の恐怖を強調する。

(g)遠い日々
本編のクライマックス、絶命したはずのナウシカが蘇る感動的なシーンの音楽。サントラ録音時、まだ4歳だった久石の娘・麻衣が「ラン・ランララ・ランランラン」を歌い、絶大な効果を上げた逸話はあまりにも有名である。W.D.O.2015の演奏に先立つリハーサルでは、「オペラ歌手のように朗々と歌わず、あくまでも気負わないで」と久石が指示を与えていたのが印象的だった。

(h)鳥の人
上の(g)に続き、人々がナウシカの再生と平和の到来を喜ぶラストの音楽。壮大な合唱が「ラララン・ランランラン」と歌い、音楽は歓喜の頂点に達する。

(i)風の伝説
オーボエが〈風の伝説〉のモティーフをしみじみと回想した後、本編エンドロールの音楽を凝縮したエピソードで全曲が閉じられる。

 

Your Story 2015

原曲は、第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀音楽賞ほか5部門に輝いた李相日監督『悪人』の主題歌。W.D.O.2015のアンコールで、テナーとカウンターテナーのための新ヴァージョンが披露された(本盤の演奏では、高橋淳が両方の声域にまたがる形で歌唱を披露している)。2011年、東日本大震災の3ヶ月後に開催されたチャリティ・コンサートでは、久石が撮影してきた被災地のスチール写真の投影と共に《Your Story》が演奏され、聴衆に深い感銘を与えた。そこには「Your Storyとはあなたたち、わたしたち日本人のストーリー」という言外の意味が込められていたように思われる。以上のような文脈を考慮し、別掲の歌詞日本語訳は、サントラ盤所収の日本語訳とは異なる形で訳出した。

 

World Dreams  for Mixed Chorus and Orchestra

2004年、久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた歳に書き下ろした、W.D.O.テーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で・・・・』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国家のような格調のあるメロディーが頭を過った」。本盤では、2011年に麻衣が作詞した歌詞を合唱が歌うヴァージョンが演奏されている。久石とW.D.O.が奏で続ける”世界の夢”(ワールド・ドリーム)を象徴した、崇高なメロディー。そこに込められた”希望の力”を、チューブラー・ベルズが心に刻みこむよういして静かに鳴り響き、W.D.O.2015の幕となる。

2016年5月27日、オバマ大統領広島訪問の日に
前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(寄稿・楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

World Dreams
作曲:久石譲 歌詞:麻衣

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の声は 希望の力
時を越え響き渡れ 愛を歌おう

哀しみにつまずけば 自由がみえる
歓びの灯が消えても 共に歩き続けよう
世界の夢よ 全ての人に
届けようこの歌声 愛を信じて

夢をみるひとすじの小さな光
千年の時を経て 明日を照らし続ける
愛を歌おう

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の夢よ すべての人よ
誇り高きこの夢に 愛を誓おう
永久(とわ)に誓おう

(「World Dreams」歌詞 ~CDライナーノーツより)

※他作品歌詞もすべてライナーノーツ掲載あり

 

 

 

「The end of the World」について

-《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。

久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。

-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。

久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。

-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。

久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

「実は、直前まで決定するのに苦しんでいて、やっと「The End of the World」というタイトルに決まったんです。この「The End of the World」には同名のスタンダード曲も存在して、「あなたがいないと私の世界が終わる」というような意味のラブソングです。でも、この曲のあなたを複数形でとらえ、あなたたちが存在していなければ、世界は終わってしまうといった、もっと広い意味で捉えると、たぶん今、僕が考えている世界観にとても近いんじゃないかと感じて、敢えてこの同じタイトルを用いた理由です。楽曲は、1楽章は4分の6拍子から始まり、最終楽章が8分の11拍子という、大変難しい曲。おまけに、絶えずピアノが鳴らす基本リズムがあり、それに他の楽器が絡み合う、本当に”世界のカオス”、まさに”混沌”を表現するような、アンサンブル自体がカオスになってしまうんじゃないかというくらいの難曲になってしまいました。」

Blog. 「久石譲 ~Piano Stories 2008~」 コンサート・パンフレット より

 

 

 

「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」について

久石譲インタビュー:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。

これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

 

 

 

 

The End of The World LP o

◆CD「The End of the World」
【DISC_1】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【DISC_2】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
5. Your Story 2015
6. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

※初回生産限定スペシャルパッケージ(スリーブ付仕様)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
(DISC 1 Track-6 Music Recomposed and Produced by Joe Hisaishi)

Conducted:Joe Hisaishi
Performed:New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Concert Master:Yasushi Toyoshima

Piano:Joe Hisaishi (DISC 1 Track-1 / DISC 2 Track-1,2,4,5)
Countertenor / Tenor:Jun Takahashi (DISC 1 Track-4,6 / DISC 2 Track-5)
Chorus:Ritsuyukai Choir (DISC 1 Track-5,6 / DISC 2 Track-4,6)
Chorus Master:Takuya Yokoyama (Ritsuyukai Choir)

Live Recorded at The
Symphony Hall, Osaka (5th August, 2015)
Suntory Hall, Tokyo (8th August, 2015)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (9th August, 2015)

Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)

Photograph:Ryoichi Saito

and more…

 

 

◆LP「The End of the World」
【Side_A】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
【Side_B】
The End of the World for Vocalists and Orchestra
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【Side_C】
1. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
【Side_D】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Your Story 2015
5. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

 

Disc. 久石譲 『Nightmare』 *Unreleased

2016年6月22日 GAME発売

 

タイトル:シノビナイトメア
ジャンル:ダンジョン探索型 大河 RPG
価格:基本無料(一部アプリ内課金あり)
プラットフォーム:iOS/Android

曲名:Nightmare

 

フルオーケストラにパーカッションを盛り込んだ壮大なメインテーマ。和の要素もありながらファンタジー要素も兼ね備えた作品になっている。変拍子による旋律と緊張感を高める展開が何度聴いても飽きさせない構成となっている。躍動感やスリリングさもありながら、ゲーム世界観の女性らしい優雅さや妖艶を表現している。

未発売楽曲であるが、下記公式サイト予告編動画にて、楽曲フルサイズ約3分を視聴可能となっている。
(2016年6月現在)

「シノビナイトメア」公式予告編動画

 

 

2018.8 追記

「ドラマCD シノビナイトメア コンプリートBOX」に楽曲収録される。

 

 

 

Disc. 航空自衛隊航空中央音楽隊 『究極の吹奏楽 ~ジブリ編 vol.2』

2016年4月20日 CD発売 POCS-1421

 

世界に発信できる高い音楽性と高品質な録音が特徴な『究極の吹奏楽シリーズ』第7作目は好評を博したジブリ編の続編。

 

 

1.ジブリ・メドレー【空編】
ハトと少年(天空の城ラピュタ)~ふたたび(千と千尋の神隠し)~旅路(風立ちぬ)~時代の風(紅の豚)~月夜の飛行(となりのトトロ)~鳥の人(風の谷のナウシカ)

2.「崖の上のポニョ」Highlights
深海牧場~ポニョの飛行~母の愛~いもうと達の活躍~母と海の讃歌~崖の上のポニョ

10.「紅の豚」Highlights
セピア色の写真~セリビア行進曲~ピッコロの女たち~遠き時代を求めて~荒野の一目惚れ~時代の風-人が人でいられた時-~Porco e Bella~Ending~

12.ジブリ・メドレー【森編】
あの夏へ(千と千尋の神隠し)~Arrietty’s Song(借りぐらしのアリエッティ)~ねこバス(となりのトトロ)~テルーの唄(ゲド戦記)~アシタカせっ記(もののけ姫)

 

 

 

1.ジブリ・メドレー【空編】
2.「崖の上のポニョ」Highlights
3.人生のメリーゴーランド (「ハウルの動く城」より)
4.「ルージュの伝言」 (「魔女の宅急便」より)
5. 「やさしさに包まれたなら」 (「魔女の宅急便」より)
6.「アシタカとサン」 (「もののけ姫」より)
7.「アシタカとせっき」 (「もののけ姫」より)
8.「ハトと少年」 (「天空の城ラピュタ」より)
9.「平成狸合戦ポンポコ」Highlights
10.「紅の豚」Highlights
11. 「風になる」 (「猫の恩返し」より)
12.ジブリ・メドレー【森編】
13.「カリオストロの城」Highlights  (Bonus Track)

Composed by:
Joe Hisaishi (01~03, 06~08, 10)
Yumi Arai (04, 05)
Yoko Ino, Kouryuu, Manto Watanobe (09)
Ayano Tsuji (11)
Joe Hisaishi , Simon Caby, Cecile Corbel, Hiroko Taniyama (12)
Yuji Ohno (13)

Arranged by:
Hideaki Miura (01, 10)
Hiroki Takahashi (02)
Masahiko Yamada [山田 雅彦] (03, 08)
Tsutomu Tajima [田嶋 勉] (04, 05, 11)
Takamasa Sakai (06, 07)
Tohru Kanayama (09)
Takashi Hoshide (12)
Naohiko Hatano [波田野 直彦] (13)

Performed by:
Japan Air Self-Defense Force Central Band

Conducted by:
Katsuo Mizushina [水科 克夫]

 

Disc. 久石譲 『三井ホーム』 *Unreleased

2016年4月16日 TVCM放送

 

三井ホーム「TOP OF DESING」
音楽:久石譲 曲名:三井ホーム

 

・「TOP OF DESIGN」 美しさが育つ家篇 (京都) 15秒
・「TOP OF DESIGN」 美しさが育つ家篇 (仙台) 15秒
・「TOP OF DESIGN」 人生を築く家篇 (15秒)
・「TOP OF DESIGN」 人生を築く家篇 (30秒)

CMは、三井ホーム公式サイト内「広告ライブラリー」にて閲覧可能
(※2016年4月現在)

三井ホーム「広告ライブラリー」

 

同ホームページにて視聴できるのは、上の4本すべてである。

また久石譲コメントも一緒に掲載されている。

「三井ホーム、およびCM制作のみなさまの厚い理解により、恐らく日本初の本格的なミニマル音楽でのCMが完成しました。アート性と高級感、それに親しみやすさが感じられるように作曲しました。楽しんで頂けると幸いです。」

(三井ホーム 広告ライブラリーより)

 

 

久石譲本人のコメントにもあるとおり、ミニマル・ミュージックによる刺激的で鮮烈な印象が残る音楽になっている。

麻衣のヴォイスと、弦楽、マリンバ、木管など小編成のアンサンブルにて、小刻みに弾けるようなアコースティック・グルーヴを堪能することができる。

CD作品でいうならば「ミニマリズム2 Minima_Rhythm 2」(2015)、さらに言うなれば2014年から新たなコンサート企画として始動した「ミュージック・フューチャー シリーズ」(毎年1回開催)。これらの活動の延長線上、はたまたその進化系として新たに生まれた久石譲の”今旬な”カタチでのミニマル・ミュージックとなっている。

上質で心地よい、ミニマル・ミュージックだからこそ、15秒や30秒ではもちろん足らず、エンドレスで聴き浸りたい音楽であり、転調やズレなど、さらなる楽想としての発展も興味深い作品である。

 

未発売曲、CD化が期待される上質な作品である。

 

 

 

2016.10追記
三井ホーム「広告ライブラリー」(上記紹介)にて、WEB限定動画が配信される。そのなかでCMでは15秒版・30秒版でしか聴くことができなかった同曲が、約1分間視聴可能となった。楽曲の展開の先が少し垣間見れる貴重な動画である。

「震度7に60回耐えた家。」研究員篇 (15秒)
「震度7に60回耐えた家。」インタビュー篇 (15秒)
「震度7に60回耐えた家。」WEB限定動画 (約2分)
菅野美穂 WEB限定インタビュー動画 (約1分)

CMテーマ音楽を約1分間視聴できた動画は、「菅野美穂 WEB限定インタビュー動画 (約1分)」である。

 

 

 

もうひとつが2016年一番新しいCM音楽として発表された『三井ホームCM音楽』。ソリッドに研ぎ澄まされたミニマル・ミュージック全開で、CM音楽におけるインパクトとしては抜群ですが、キャッチーさを求めるならば真逆な作品といえます。

最初聴いたときに「えらく(ミニマルサイドに)振り切った作品だな」とびっくりしたのを覚えています。ただ、これまた考察をもとにすると違う発見があります。マリンバ・ピアノのミニマル伴奏にコーラスが旋律として構成されたこの作品。随所にピッコロとグロッケンシュピールによる装飾が出てくると思います。そしてピッコロはとてもシャープな強く息を吹きかける奏法になっています。

…これがなかったとしたときに?

ミニマル・ミュージックの躍動感は維持されますが、一見すごく耳あたりのいいサウンドともなります。心地よいグルーヴ感と優美なコーラス・メロディ。本来ならば、これだけのミニマル音楽がテレビから流れてきただけでもひっかかりは強いですね。普段聴き慣れない音楽としてインパクト充分です。がしかし、やはりあの高音域装飾(ピッコロ・グロッケン)が、強烈すぎるアクセントになっている。あのフレースがあった時点で、久石譲の勝ちだな、と思ってしまうくらいの凄み。

従来の久石譲アンサンブル手法からだった場合、おそらくあのパートはピアノ、サックス、ハープなどの楽器で別の装飾モチーフとして奏でられていた、かもしれません。それが、今の久石譲の手にかかるとあの完成形となるわけで。ない場合、従来手法の場合、そしてお茶の間に響いた楽曲。イメージするだけでも響きの違いは雲泥の差。15秒・30秒の音楽を聴いて、久石譲という作曲家の感性と論理性をまざまざと魅せつけられた思いです。

もっとマニアックな見解をさせてください。

弦楽器や管楽器は持続音です。弾いている・吹いている間、一定の音が鳴り続けます。一方で、ピアノやマリンバ・シロフォン(木琴の種)・グロッケンシュピール(鉄琴の種)などは減衰音です。叩いたときに音が発せられそのあとは減衰していきます。

さて、ここで減衰音のグロッケンと、持続音のピッコロをブレンドして編成する。かつピッコロの奏法を息を強く吹きかける、つまりは音の立ち上がりを強くすることで、フッと息をするようにシャープになり減衰音と同じような音の減衰を期待できます。そうすることで、メロディという主旋律の邪魔をすることなく、もちろんナレーションやセリフの邪魔をすることもなく、かつ瞬間的に強烈なインパクトを印象づけることができる。ほんと久石譲という人が末恐ろしくなってくる数十秒間です。

一連のピッコロ、シロフォン、グロッケンシュピール、トライアングルという高音域楽器をブレンドした妙技は、『コントラバス協奏曲』でもいかんなく発揮されています。またこのことは、”余白のある音楽・そぎ落とした構成”と表現した同作品にもつながります。持続音を減らすことで音厚になりすぎず、減衰音と同じ効果を期待できるパーカッションをふくめ巧みにオーケストレーションしているからです。

Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 2 より抜粋)

 

 

2019.1.9追記
三井ホーム「広告ライブラリー」(上記紹介)にて新しい動画公開。同じ曲が使用されている。

「TOP OF DESIGN」 人生を築く家 湖畔篇 (30秒)
「TOP OF DESIGN」 人生を築く家 湖畔篇 (15秒)

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック』

2016年3月9日 CD発売 UMCK-1538

 

2016年公開 映画「家族はつらいよ」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

国民的映画 『男はつらいよ』から『家族はつらいよ』

「男はつらいよ」シリーズは、1969年から1995年まで計48作品にわたって公開された、国民的シリーズ映画。観客動員数はのべ8000万人以上、時代が変わっても色あせない永遠の喜劇として、現在も多くの人に愛され続けています。本作は、その「男はつらいよ」の生みの親である山田洋次監督が、新たに取り組んだ喜劇作品。日本中に笑顔と感動を届け続けた”寅さん”に通じる家族の物語が、ついに到来します!

 

映画「東京家族」(2013)のキャスト8人が再結集。「この最高のアンサンブルで、今度は現代の家族を”喜劇”で描きたい」という山田洋次監督の強い想いの下に、新たに豪華キャストも加わり、このメンバーでしか紡ぎ出せない最高の喜劇が完成。

 

 

コメント

今までコミカルな場面の音楽を作曲することは多々ありましたが、本格的な喜劇は初めてでした。喜劇映画の音楽は、どうしても伴奏音楽になりがちです。テーマ曲やその他の旋律がしっかりと劇に絡み、単なる伴奏ではなくきちんと映画と融合する音楽を目指しました。ホンキートンク・ピアノ(※)を使ったところ、山田監督も気に入られ、結果、その音が本作の色にもなったのがとても嬉しかったです。喜劇というのは、ある意味、悲劇の裏返しだと思います。ドタバタの中でも人間の哀しみが滲み出るような、俯瞰で見る神のような視点も必要。その点でもうまくいったと思います。

※1930~40年代頃のジャズの前身の頃によく使われ、少しチューニングが狂ったような調子っぱずれの音色を出す。

(コメント ~映画「家族はつらいよ」劇場用パンフレット内 久石譲コメントより)

 

家族はつらいよ パンフレット

(パンフレット)

 

 

山田洋次×久石譲のタッグは、「東京家族」(2013)、「小さいおうち」(2014)に続いての3作目。山田洋次監督の20年ぶりの喜劇に対して、久石譲にとっても本格的な喜劇映画の音楽担当は初となる。

楽器編成のクレジットにもあるとおり、ホンキートンク・ピアノやパーカッションを効果的に使用した、小編成かつ短いモチーフの楽曲構成となっている。

 

 

補足

豪華俳優陣は『東京家族』(2013)と同キャストの再集結であり、久石譲の音楽担当も『東京家族』『小さいおうち』に続いて3作目となる。なお撮影は2014年9月から11月に行われている。また第28回東京国際映画祭(2015年10月開催)にて上映されている。

このことからも久石譲音楽制作は2015年前半もしくは2014年にはすでに完成していることになる。いよいよそれを聴くことができるのが2016年3月ということである。

 

 

家族はつらいよ オリジナル・サウンドトラック 久石譲

1. はじまり はじまり
2. 家族はつらいよ オープニング
3. なんだこれ
4. 憲子さん
5. 八つ当たり
6. ご帰宅
7. ラブ・ストーリー
8. ヒガイシャ
9. 夫婦になりたい
10. 探偵事務所
11. 心配
12. こりゃどうも
13. 哀れな父さん
14. 潜入調査
15. ま・さ・かの再会
16. 級友
17. 本気なのよ
18. やけ酒
19. 家族会議
20. 富子の告白
21. サラリーマン
22. 髪結いの亭主
23. これが目に入らぬか!
24. ためらい
25. もしものとき
26. 孫
27. 「ハーイ」
28. 空っぽの部屋
29. 義父へ
30. 周造の告白
31. 家族はつらいよ

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Yuna Okubo
Clarinet:Masashi Togame
Bassoon:Mina Higashi
Trumpet:Sho Okumura
Trombone:Kanade Shishiuchi
Percussion:Marie Oishi
Guitar:Akira Okubo
Bass & Contrabass:Jun Saito
Drums:Yuichi Togashiki
Piano & Honky Tonk Piano:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

 

Disc. 久石譲 『Orbis for Chorus, Organ and Orchestra』 *Unreleased

2015年12月11日 世界初演

 

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra 
I. Orbis ~環 / II. Dum fāta sinunt ~運命が許す間は / III. Mundus et Victoria ~世界と勝利
初演:2015年12月11日 東京芸術劇場
演奏:久石譲(指揮)、読売日本交響楽団

 

 

「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」(2007)

/////////////////////////////////////
「Orbis」 ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~
曲名はラテン語で”環”や”繋がり”を意味します。2007年の「サントリー1万人の第九」のために作曲した序曲で、サントリーホールのパイプオルガンと大阪城ホールを二元中継で”繋ぐ”という発想から生まれました。祝典序曲的な華やかな性格と、水面に落ちた水滴が波紋の”環”を広げていくようなイメージを意識しながら作曲しています。歌詞に関しては、ベートーヴェンの《第九》と同じように、いくつかのキーワードとなる言葉を配置し、その言葉の持つアクセントが音楽的要素として器楽の中でどこまで利用できるか、という点に比重を置きました。”声楽曲”のように歌詞の意味内容を深く追求していく音楽とは異なります。言葉として選んだ「レティーシア/歓喜」や「パラディウス/天国」といったラテン語は、結果的にベートーヴェンが《第九》のために選んだ歌詞と近い内容になっていますね。作曲の発想としては、音楽をフレーズごとに組み立てていくのではなく、拍が1拍ずつズレていくミニマル・ミュージックの手法を用いているので、演奏が大変難しい作品です。

「Orbis」ラテン語のキーワード

・Orbis = 環 ・Laetitia = 喜び ・Anima = 魂 ・Sonus, Sonitus =音 ・Paradisus = 天国
・Jubilatio = 歓喜 ・Sol = 太陽 ・Rosa = 薔薇 ・Aqua = 水 ・Caritas, Fraternitatis = 兄弟愛
・Mundus = 世界 ・Victoria = 勝利 ・Amicus = 友人

Blog. 「久石譲 第九スペシャル」(2013) コンサート・プログラムより
/////////////////////////////////////

 

 

CD作品としては「メロディフォニー」(2010)にてロンドン交響楽団演奏でレコーディングされている。

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」(2015)

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
オルビス ~混声合唱、オルガン、オーケストラのための
I. Orbis ~環
II. Dum fata sinunt ~運命が許す間は
III. Mundus et Victoria ~世界と勝利

作詞:久石譲

 

/////////////////////////////////////
新版「Orbis」について
2007年に「サントリー1万人の第九」のための序曲として委嘱されて作った「Orbis」は、ラテン語で「環」や「つながり」を意味しています。約10分の長さですが、11/8拍子の速いパートもあり、難易度はかなり高いものがあります。ですが演奏の度にもっと長く聴きたいという要望もあり、僕も内容を充実させたいという思いがあったので、今回全3楽章、約25分の作品として仕上げました。

しかし、8年前の楽曲と対になる曲を今作るという作業は難航しました。当然ですが、8年前の自分と今の自分は違う、作曲の方法も違っています。万物流転です。けれども元「Orbis」があるので、それと大幅にスタイルが違う方法をとるわけにはいかない。それではまとまりがなくなる。

あれこれ思い倦ねていたある日の昼下がり、ニュースでフランスのテロ事件を知りました。絶望的な気持ち、「世界はどこに行くのだろうか?」と考えながら仕事場に入ったのですが、その日の夜、第2楽章は、ほぼ完成してしまった。たった数時間です。その後、ラテン語の事諺(ことわざ)で「運命が許す間は(あなたたちは)幸せに生きるがよい。(私たちは)生きているあいだ、生きようではないか」という言葉に出会い、この楽曲が成立したことを確信しました。だから第2楽章のタイトルは日本語で「運命が許す間は」にしたわけです。何故こんな悲惨な事件をきっかけに曲を書いたのか? このことは養老孟司先生と僕の対談本『耳で考える』の中で、先生が「インテンショナリティ=志向性」とはっきり語っている。つまり外部からの情報が言語化され脳を刺激するとそれが運動(作曲)という反射に直結した。ちょっと難しいですが、詳しく知りたい方は本を読んでください。

それにしても不思議なものです。楽しいことや幸せを感じたときに曲を書いた記憶がありません。おそらく自分が満ち足りてしまったら、曲を書いて何かを訴える必要がなくなるのかもしれません。

第3楽章は「Orbis」のあとに作った「Prime of Youth」をベースに合唱を加えて全面的に改作しました。この楽曲も11/8拍子です。

ベートーヴェンの「第九」と一緒に演奏することは、とても畏れ多いことなのですが、作曲家として皆さんに聴いていただけることを、とても楽しみにしています。

平成27年12月6日 久石譲

(「久石譲 第九スペシャル 2015」コンサートパンフレットより)
/////////////////////////////////////

 

※同パンフレットには、久石譲作詞による全3楽章の歌詞も掲載されている。ラテン語による原詞と日本語訳詞が併記されている。現時点(2015.12現在)での掲載は差し控えている。

 

 

ここからは初演感想・補足などを含むレビューである。

第1楽章、オリジナル版「Orbis」(2007)がこの楽章にあたる。新版「Orbis」(2015)には、細かな手直しは施されているが、楽曲構成は従来を継承している。一聴してわかるのはテンポが遅くなっていること、チューブラーベルが編成に加えられたことだろう。祝典序曲としての単楽曲ではなくなり、ファンファーレのように躍動感で一気に駆け抜けるところから、楽章のはじまりとしての役割に変化した。全3楽章という作品構成ゆえと、第2・第3楽章までつづくコーラスの役割に従来以上の重きをおいた結果、テンポをおさえるとこになったのではないか。実際、この第1楽章で散り放たれたキーワードたちが、後の楽章において結晶化してつながりをもってくる。そう捉えると、ここで言葉をしっかりと響かせることは必然性を帯びてくる。

第2楽章、通奏低音のようにオルガンが楽章を通してゆっくりとしたミニマルなアルペジオ旋律を奏でる。同じ動きで弦楽オーケストラが織り重なる。そこにコーラスがさとすように語りかけてくる。あえてキャッチーなメロディとしての旋律を持たせていない。混声合唱のハーモニーが厚く深く包みこむ内なる楽章。チューブラーベルの鐘の響きは静かな余韻と残響をもたらしている。

第3楽章、幻の名曲「Prime of Youth」(2010・Unreleased)が「Orbis」の楽章のひとつとして組み込まれたことが衝撃だった。強烈なミニマル・モチーフ、リズム動機を備えていた同楽曲が、コーラスを迎え後ろにひかえ従(対旋律)にまわったのである。もし「Prime of Youth」という作品をコンサートで聴いたことのある人がいるならば(おそらくほとんどいない、2010年東京・大阪2公演のみである)、これはまさにカオスである。オリジナル版が持つファンファーレのように高らかに鳴り響く冒頭から、怒涛のようにシンフォニック・ミニマルが押し寄せてくる。コーラスを配置したことでさらに魂の叫びのごとく巨大な渦をまく。中間部では第1楽章Orbisの旋律が顔をのぞかせる。時を越えてPrimeとOrbisが融合した瞬間だった。かくもここまで勇壮で威厳に満ちた久石譲オリジナル・ソロ作品があったであろうか。クライマックスのかき鳴らす弦、金管、木管は圧巻であり、高揚感を最高潮にコーラスとともに高く高く昇っていく。おさまりきれない、なにか巨大なものがその姿を現した、そんな衝撃的な閃光を象徴する楽章となったことは確かである。

歌詞について、「いくつかのキーワードとなる言葉を配置し、その言葉の持つアクセントが音楽的要素として器楽の中でどこまで利用できるか、という点に比重を置きました。”声楽曲”のように歌詞の意味内容を深く追求していく音楽とは異なります」(元「Oribis」および新版 第1楽章) この久石譲の言葉を借りるならば、新版「Orbis」第2楽章・第3楽章は明らかに異なる。ひとかたまりのセンテンス、つまり言葉に意味をもたせたのである。これは興味深い。あえて自らの作家性として作品にメッセージ性を持たせない氏が、ここでは発声による言葉の響きから、歌詞による言葉の想いを届ける手法で新たな楽章を書き下ろした。同時にこのことは、コーラスを楽器の1パートに据えるところから一気に飛躍させたことになる。これをもって管弦楽と声楽は少なくとも対等、5:5の比重を分け合うことになったのである。

 

総じて、初演一聴だけでは語ることのできない拡がりと深さがこの作品にはある。中途半端な断片的感想は未聴者に余計な先入観を与えかねず、一聴のみで作品を掌握したように語ることは作家への冒涜にもつながりかねない。それでもあえて書き記したのには理由がある。

この作品は大傑作である。久石譲が芸術性を追求した作品群にはこれまで「The End of the World」「Sinfonia」など数多く存在する。楽章構成とミニマル色を強く打ち出すという点でも共通点はある。だがしかし、「新版Orbis」はその次元を超えた。延長線上、集大成、結晶化、新境地、さまざまな言い回しがありもちろんそういった意味合いも持っている。それらをおさえてあえて言葉を選ぶならば、「そこは別世界・別次元だった」。

ひとつだけ断言できることがある。ここに「ジブリ音楽:久石譲」の代名詞は必要ない。この作品を聴いてジブリのような映像やイメージが浮かぶというなら、それはまやかしである。一線を画して聴衆は対峙しなければいけない、無心で。そうして初めて出逢えるのは、心に入ってくる音楽、魂に響く音楽、本能に直接訴えかけてくる音楽、である。なにが言いたいのか。もしかしたら遠い未来の人たちが久石譲を語るとき、真っ先にジブリ音楽でもないCM音楽でもない、「Orbis」が代名詞となっているかもしれない。

 

 

万全を期ししたレコーディング、作曲家の意思を介したトラックダウンが行われた完成版を聴く日までは、この作品の真髄はわからないだろう。混声合唱、オルガンとオーケストラ、三位一体となった”環”がその巨大な姿を現す日を待つ。今初演において未完、まだ発展や進化の余地があるのかもしれず、完全版としてのCDパッケージ化は時間がかかるのかもしれない。ただ待つのみである。

もしも叶うとするならば、未完でもいい、その時にふれた「Orbis」をかたちに残してもいいではないか。「Orbis」、「新版Orbis」、新たな新版や改訂版が連なってもいい。そもそも作品自体が暗示している。”環”はどんどん”つながり”、魂をもって創造をつづける。そこに終わりはない、永遠。

 

息をあげて主観でレビューを書くことに冷ややかな反応があることは覚悟している。だからこそ、1日でも早く、ひとりでも多くの人に「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」新版を聴いてもらえる日が来ることを切に願う。そうして少しでも共感してもらえたり、わかち合えるなにかが生まれることこそ、聴衆たちにもたらされる喜びである。

 

 

2018.12 追記

オリジナル版「Orbis」だが久しぶりのプログラムとなった感想を。

 

 

Disc. V.A. 『スタジオジブリの歌 増補盤』

2015年11月25日 CD発売 TKCA-10171

 

スタジオジブリ設立30周年記念!
これ一枚でスタジオジブリの全てが分かる!

スタジオジブリ設立から30年を記念して、
ジブリ映画の楽曲を網羅した究極のアニバーサリー盤が登場!

2008年リリース、「崖の上のポニョ」までのスタジオジブリ代表作の主題歌・挿入歌を網羅したオムニバス「スタジオジブリの歌」。このアルバムに「借りぐらしのアリエッティ」「コクリコ坂から」「風立ちぬ」「かぐや姫の物語」「思い出のマーニー」の5作品を追加した、ファンには嬉しいアニバーサリー盤が高音質のHQCDとして登場。全ての世代に愛されるスタジオジブリの永久保存版として一家に一枚。

全楽曲同内容のオルゴール盤『スタジオジブリの歌オルゴール -増補盤-』も同時発売された。

 

早期購入特典:スタジオジブリ特製ポスター (全作品を1枚ポスターとして特製)

スタジオジブリの歌 特典 1

 

早期同時購入特典:スタジオジブリ復刻チラシ21枚セット(全作品劇場公開時)
(『スタジオジブリの歌-増補盤-』+『スタジオジブリの歌オルゴール -増補盤』同時購入)

24作品中「On Your Mark」のチラシは制作されておらず、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」、「猫の恩返し」と「ギブリーズ episode2」 は公開時にそれぞれ2本立てだったため2作を1枚で制作のため、21枚セットとなっている。

スタジオジブリの歌 特典 2

 

 

 

 

 

 

スタジオジブリの歌 増補版

[DISC.1]
01. 風の谷のナウシカ(風の谷のナウシカ) 安田成美
02. 君をのせて(天空の城ラピュタ) 井上あずみ
03. さんぽ(となりのトトロ) 井上あずみ
04. となりのトトロ(となりのトトロ) 井上あずみ
05. はにゅうの宿(火垂るの墓) アメリータ・ガリ=クルチ
06. ルージュの伝言(魔女の宅急便) 荒井由実
07. やさしさに包まれたなら(魔女の宅急便) 荒井由実
08. 愛は花、君はその種子(おもひでぽろぽろ) 都はるみ
09. さくらんぼの実る頃(紅の豚) 加藤登紀子
10. 時には昔の話を(紅の豚) 加藤登紀子
11. 海になれたら(海がきこえる) 坂本洋子
12. アジアのこの街で(平成狸合戦ぽんぽこ) 上々颱風
13. いつでも誰かが(平成狸合戦ぽんぽこ) 上々颱風
14. カントリー・ロード(耳をすませば) 本名陽子
15. On Your Mark (On Your Mark) CHAGE and ASKA
16. もののけ姫(もののけ姫) 米良美一
17. ケ・セラ・セラ(ホーホケキョとなりの山田くん)山田家の人々ほか
18. ひとりぼっちはやめた(ホーホケキョとなりの山田くん) 矢野顕子

[DISC.2]
01. いつも何度でも(千と千尋の神隠し) 木村弓
02. 風になる(猫の恩返し) つじあやの
03. No.Woman, No Cry (ギブリーズepisode2) Tina
04. 世界の約束(ハウルの動く城) 倍賞千恵子
05. テルーの唄(ゲド戦記) 手嶌葵
06. 時の歌(ゲド戦記) 手嶌葵
07. 海のおかあさん(崖の上のポニョ) 林昌子
08. 崖の上のポニョ(崖の上のポニョ) 藤岡藤巻と大橋のぞみ
09. The Neglected Garden [荒れた庭](借りぐらしのアリエッティ) セシル・コルベル
10. Arrietty’s Song (借りぐらしのアリエッティ) セシル・コルベル
11. 夜明け~朝ごはんの歌(コクリコ坂から) 手嶌葵
12. 上を向いて歩こう(コクリコ坂から) 坂本九
13. さよならの夏~コクリコ坂から~ (コクリコ坂から) 手嶌葵
14. ひこうき雲(風立ちぬ) 荒井由実
15. いのちの記憶(かぐや姫の物語) 二階堂和美
16. わらべ唄(かぐや姫の物語)
17. 天女の歌(かぐや姫の物語)
18. Fine On The Outside (思い出のマーニー) プリシラ・アーン

HQCDリマスター音源

全56ページオールカラーブックレットつき
<ブックレット内容>全映画の●作品データ●公開当時ポスター絵柄●全曲歌詞

 

Disc. V.A. 『スタジオジブリの歌オルゴール 増補盤』

2015年11月25日 CD発売 TKCA-74303

 

スタジオジブリ設立30年を記念したアニバーサリー盤が登場。誰もが知ってる、口ずさめるスタジオジブリの数々の名曲を癒しのオルゴールの音色で。

2008年発売『スタジオジブリの歌 オルゴール』に、『借りぐらしのアリエッティ』『コクリコ坂から』『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』の5作品を追加収録。

全楽曲同内容のオリジナル歌唱盤『スタジオジブリの歌 -増補盤-』も同時発売された。

 

早期購入特典:スタジオジブリ特製ポスター (全作品を1枚ポスターとして特製)

スタジオジブリの歌 特典 1

 

早期同時購入特典:スタジオジブリ復刻チラシ21枚セット(全作品劇場公開時)
(『スタジオジブリの歌-増補盤-』+『スタジオジブリの歌オルゴール -増補盤』同時購入)

24作品中「On Your Mark」のチラシは制作されておらず、「となりのトトロ」と「火垂るの墓」、「猫の恩返し」と「ギブリーズ episode2」 は公開時にそれぞれ2本立てだったため2作を1枚で制作のため、21枚セットとなっている。

スタジオジブリの歌 特典 2

 

 

スタジオジブリの歌 オルゴール 増補版

[DISC.1]
01. 風の谷のナウシカ(風の谷のナウシカ)
02. 君をのせて(天空の城ラピュタ)
03. さんぽ(となりのトトロ)
04. となりのトトロ(となりのトトロ)
05. はにゅうの宿(火垂るの墓)
06. ルージュの伝言(魔女の宅急便)
07. やさしさに包まれたなら(魔女の宅急便)
08. 愛は花、君はその種子(おもひでぽろぽろ)
09. さくらんぼの実る頃(紅の豚)
10. 時には昔の話を(紅の豚)
11. 海になれたら(海がきこえる)
12. アジアのこの街で(平成狸合戦ぽんぽこ)
13. いつでも誰かが(平成狸合戦ぽんぽこ)
14. カントリー・ロード(耳をすませば)
15. On Your Mark (On Your Mark)
16. もののけ姫(もののけ姫)
17. ケ・セラ・セラ(ホーホケキョとなりの山田くん)
18. ひとりぼっちはやめた(ホーホケキョとなりの山田くん)

[DISC.2]
01. いつも何度でも(千と千尋の紙隠し)
02. 風になる(猫の恩返し)
03. No.Woman, No Cry (ギブリーズepisode2)
04. 世界の約束(ハウルの動く城)
05. テルーの唄(ゲド戦記)
06. 時の歌(ゲド戦記)
07. 海のおかあさん(崖の上のポニョ)
08. 崖の上のポニョ(崖の上のポニョ)
09. The Neglected Garden [荒れた庭](借りぐらしのアリエッティ)
10. Arrietty’s Song (借りぐらしのアリエッティ)
11. 夜明け~朝ごはんの歌(コクリコ坂から)
12. 上を向いて歩こう(コクリコ坂から)
13. さよならの夏~コクリコ坂から~ (コクリコ坂から)
14. ひこうき雲(風立ちぬ)
15. いのちの記憶(かぐや姫の物語)
16. わらべ唄(かぐや姫の物語)
17. 天女の歌(かぐや姫の物語)
18. Fine On The Outside (思い出のマーニー)

全56ページオールカラーブックレットつき

 

Disc. 久石譲 『栃木市民の歌 -明日(あす)への希望-』 *Unreleased

2015年11月13日 発表

 

市歌「栃木市民の歌 ~明日(あす)への希望~」
作曲:久石譲 作詞:麻衣

 

栃木市市制5周年記念式典にて発表。麻衣の歌唱により初披露、小学生との合唱も披露された。

 

麻衣は、太平山を何度も訪れたことがあったという。市歌の制作が決まってからはさらに構想を練るため、渡良瀬遊水地や市中心部の巴波川など市を3度訪問。「父とたくさん話し合い、栃木の人たちの地元への思いを表現した」と語る。

市長は市歌について「地元を離れた人の郷愁を誘う曲になるとうれしい」と期待を寄せている。

 

市歌はCDを市図書館などで貸し出すほか、市ホームページで試聴もできる。
https://www.city.tochigi.lg.jp/soshiki/8/121.html

 

栃木市ホームページによって視聴・ダウンロードできるのは下記4項目である。

  • 栃木市民の歌~明日への希望~(歌:麻衣)
  • 栃木市民の歌~明日への希望~(ピアノ伴奏)
  • 譜面(メロディ譜)
  • 譜面(ピアノ伴奏)
  • 譜面(混声四部合唱)
  • 歌詞カード

 

 

老若男女が歌えるシンプルで清らかな歌曲である。

楽譜にも「Giocoso」と明記されているが、《陽気に、楽しく》という音楽用語であり、市民みんなで楽しく歌いあってほしいという表れであろう。

また珍しい点といえば、シンプルな旋律ながら付点8分音符が多く見られ、このことがリズミカルで快活な歌曲/合唱曲への一役を担っているといえる。(8分音符の連続の場合”タタタタ”となり、付点8分音符の連続の場合は”タータタータッ”となる)

これから先市民の歌として愛されるなかで、同市で久石譲コンサートなどが企画された際には、オーケストラと合唱での共演などの可能性もあるかもしれない。

 

 

 

2018.3 追記

 

 

 

栃木市

 

栃木市民の歌 アスへの希望 ジャケット 2

 

Disc. 久石譲 『東北電力』 *Unreleased

2015年10月29日 TVCM放送(東北6県+新潟県)

 

東北電力企業広告「より、そう、ちから。」
音楽:久石譲 曲名:東北電力(仮)*
*JASRAC登録名

 

CMは、東北電力「CMギャラリー」でも閲覧可能。
(※2015年10月現在)

東北電力 | CMギャラリー

同ホームページにて視聴できるのは、
・CM本編(30秒)
・メイキング映像(2分30秒)

なおメイキング映像では本楽曲のフル・バージョンを聴くことができる。

 

 

小編成オーケストラで構成された楽曲は、木管楽器が旋律を奏で、弦楽器がリズミカルに刻む、清潔感のある明るい曲調である。

メイキング映像でのフル・バージョンでは、さらにその全貌をうかがうことができる。シンプルなメロディですぐに覚えて口ずさんでしまえそうな魅力はさすが匠の技である。さらに、その裏では緻密なオーケストレーションによって管弦楽が構成されており、メロディも木管楽器、弦楽器、金管楽器へと奏で継がれていく。

同年手がけた『みずほフィナンシャルグループ みずほの丘』CM音楽にも通じる気品のある作品である。

曲名不明、未発売曲、CD作品化が期待される上質な作品である。

 

 

2017.1 追記

2017年1月4日よりニュー・ヴァージョンO.A開始。ピアノを基調としたきれいな調べ。

「よりそう地域とともに」篇 30秒

【それ以前のCM一覧】
「スローガン宣言」篇 30秒
「新料金プランはじまりました」篇 30秒
「よりそう松山さん(料金プラン)」篇 30秒

*上記3本CM音楽はオリジナル版

東北電力 | CMギャラリー にて視聴可能 (※2017.1現在)
https://www.tohoku-epco.co.jp/brand/#cm-gallery

 

 

東北電力 久石譲

東北電力 ロゴ