Disc. 久石譲 『魔女の宅急便 ドラマ編』

1989年9月25日 CD発売 22ATC-185~6
1989年9月25日 CT発売 18AGC-2068~69
1996年11月21日 CD発売 TKCA-71032

 

1988年公開 スタジオジブリ作品 映画「魔女の宅急便」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

本作品は映画本編を映像なしの音声のみで聴く作品である。BGMはもちろんセリフや効果音などもそのまま収録されている。

 

 

ものがたり

キキは魔女の血を引く女の子。とてものどかな田園の村に育ち、今年13歳になりました。魔女は古くからのしきたりで、13歳になったら一年親元を離れ修行の旅にでかけなくてはなりません。キキはそれがうれしくてうれしくてしようがありませんでした。満月の昇った晩あこがれの大都会に向けて旅立ちます。かあさんのほうきにまたがって。

キキが見つけたのは、人や車がごったがえす大きな街でした。都会にあこがれる少女にとっては願ってもない場所です。しかし思ったようにはいきません。都会での風当たりはとかく厳しいもので、大きく膨らんでいた期待感はみるみるしぼんで、すっかりおちこんでしまいました。そんな時、キキはパン屋のオソノさんに出会います。オソノさんはキキを気に入ってくれて空き部屋を提供してくれました。こうしてキキの都会での暮らしが始まったのです。

キキはさっそく商売を始めます。それは唯一の魔法、空を飛ぶ力を利用した宅急便でした。いろいろ失敗しながらも老犬のやさしさにふれたり、きさくなお姉さんウルスラと友達になったり、あるいは老婦人の真心に心打たれたりしながらキキは少しずつ成長していきます。男の子の友達もできました。トンボというその少年の破天荒な明るさは、最初キキを戸惑わせましたが、大空を飛びたいと願う少年の純粋な心が徐々にキキをうちとけさせたのでした。

ある日、キキは魔法の力を失います。ジジの言葉がわかりません。大空も飛べません。自分の取柄を失ったキキは途方に暮れ、じたばたと辛い毎日を送るのでした。そんな時ウルスラが訪ねてきて、森のログハウスにキキを誘ってくれたのです。初め気もそぞろだったキキも、いつしか笑顔を取戻し楽しい時を過ごすのでした。心がなごみキキはウルスラに自分の気持ちを打ち明けます。ウルスラは、自分にも同じことがあったと語ります。自分も苦しんだのだと…。

キキは少し大人になりました。

翌日、街はパニックに陥りました。夏の突風が海岸に停泊していた飛行船を舞い上げ、一本のロープにトンボ少年をぶら下げたまま街の上空に流されてしまったのです。トンボの危機をニュースで知ったキキは、トンボを救いたい一心でデッキブラシにまたがり念じます。そして、再びキキは大空へ舞い上がったのでした。

 

◆ ◆ ◆

このCDに記録されているのは正真正銘、劇場公開された《魔女の宅急便》のサウンド・トラックである。こうしてサウンドだけを抽出して聞いてみようとなさる方は、きっと映画をご覧になって体感なさった音を存分に堪能してやろうと思っていらっしゃるのではあるまいか。

さて、ここに収められているサウンド・トラックの中身とは実は、我々録音作業に携わったスタッフ一人一人の血のにじむような努力と格闘の日々の全記録なのである。ああ、たれが知る、百尺下の水の心…。(大仰な…。)そう、何を隠そう我等こそ『魔女宅に彼等あり。』とうたわれた録音スタッフ軍団なのであ~る。(ホントかよ。)

今回のテーマは”ある普通の女の子の数週間の日常”である。宮崎監督はアニメーションでは御法度(?)とされている”普通”と”日常”というテーマに真っ向から取り組み勝負を挑まれた。勿論すべてうまく運んだわけではない。話を作っていく過程でさまざまな難問が飛びだし、ご苦労も多かったようだ。画が大変となれば音もそれに比例してしっかり大変になる。我々録音スタッフは、映像に、追従するサウンドの3つの要素、Voice、Sound Effect、Musicを、あーだこーだ混ぜ合わせて、映像に対してその表現が充分発揮されるよう蔭になり日向になりしてお助けする使命を与えられていると言っていい。勿論、宮崎監督は音作りの段階でも大変熱心にその過程にかかわり表現一つ一つに対してイメージ違いがあればビシバシ駄目だしをなさる。特に、役者の声の質や表現力についての注文は厳しく、おメガネにかなうキャラクターを見付け出すのは容易なことではない。「魔女宅」では、声に対してこれまで以上に難しい注文がだされ、我々録音スタッフは、配役を決定するまでにかなりの時間を費やし、いくつもの曲折を経なければならなかった。監督が求めるキャラクターは、果たしてこの世に存在し得るのだろうか? 我々はなかなか目指す人材と接触できず、監督もさぞ気をもまれたに違いない。だがついに、ついに我々録音スタッフは、数奇石を…。姓は高山、名はみなみ、人呼んで”誰も気付かなかった意外な人物”。そう、彼女がキキとウルスラの二役をあれほど見事に演じわけてくれるとは、まさに前代未聞の珍事、とても幸運な事だったと思う。

彼女はまだ若く、役者歴も浅い。2年程続いているTVアニメで主役の少年を演じているくらいで、女の子など一度もやったことがなかったそうだ。本人も、また両親や知人にいたるまで、この役が決まったことが信じられなかったと言う。とうとうARまで一カ月と迫ったある日、我々録音スタッフな何度目かのオーディションを行い、ウルスラ役で高山みなみを呼んだのだが、我々のほうでは彼女ならウルスラでいけるだろうとにらんでいた。案の定、監督をはじめ作画スタッフのみなさんにお聞かせしたところ、大変喜んでくださり、ウルスラは高山さんに満場一致で即決定したのだった。ではなぜキキ役に? キキというのは、限りなくヒロインに近いただの娘である。この”ただ”という部分に監督は一貫してこだわっていらした。だが”ただ”という前に”限りなくヒロインに近い”という修飾語がついている。この点が非常に難しかったと言えるだろう。ところが彼女は、その壁をいとも簡単にうち砕いてくれた。ウルスラのテープを監督と共に聞いたときはっとするものがあったのだ。監督も感じられたそうだが、それは”この子をキキにすれば”という直感であった。-ともあれ高山みなみの出現は「魔女宅」の仕上がりに大きな影響を与えたと言えるだろう。今後、彼女がどんな役者に成長していくか大いに期待したい。

ところで宮崎監督はSEに対しての要求も大変熱心で細かい。何よりも自然な音を求められる。ところがこれが実にやっかいなのだ。アニメーションではそもそも音がない。まったくの無から作りあげねばならない。これは効果音を担当する者にとってはまさに力のみせどころ、が同時に限られた時間の中で、膨大な量の音を用意し、決めなければならない苦しみが伴うのである。しかもそれが自然や日常の再現となると、些細な嘘も通用しない。現実の音などいくらでもころがっているように思いがちだが、あたりまえの音というのは決して目立ってはいけないものであり、さりげなく、それでいて空間に存在感を持たせる音でなくてはダメなのである。いわゆる背景音、あるいは環境音というのは、具体性がないだけにプランを立てにくく仕上がりを予測しにくい。これが効果泣かせの由縁でもある。また、自然な動きを再現するために効果さん自身がラッシュにあわせて人や動物を演じることも多々ある。ナチュラルなサウンド作りは大変地味であるが実は、どのような音作りよりも奥が深く、幾重にも塗り重ねる油彩画を描くがごとく、丹念な仕上げが求められるものなのだ。それゆえたくさんの苦労がつきまとう。今回の効果音を担当した佐藤氏の努力は並々ならぬものであったに違いない。本当によくやってくださったと思う。雷や雨の音、カモメたちの声、都会の喧そう、床のきしみ、etc……。そんなキキを取り巻く様々な音に是非耳を傾けて戴きたい。

(ものがたり/解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

魔女の宅急便 ドラマ編

DISC 1
1. 旅立ち〜海の見える街
ルージュの伝言
詩・曲・歌:荒井由実
(by the courtesy of ALFA RECORDS,INC)
2. 空とぶ宅急便

DISC 2
1. キキとトンボ
2. 元気になれそう
やさしさに包まれたなら
詩・曲・歌:荒井由実
(by the courtesy of ALFA RECORDS,INC.)

 

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