Disc. 久石譲 『ENCORE』

久石譲 『ENCORE』

2002年3月6日 CD発売 UPCH-1142
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9071

 

自身が手がけた映画音楽やCM音楽をセルフカバーしたアルバム。
スタジオジブリ 宮崎駿監督作品や北野武監督作品など
オーケストラ映画音楽をシンプルかつ透明感あるピアノソロアルバムに。
名曲たちに新しい輝きを与えたベスト盤とも言える内容。

高音質・ダイレクトカッティング盤

 

 

2018年4月25日 LP発売 UMJK-9071
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

 

 

久石譲 『ENCORE』

1. Summer (映画「菊次郎の夏」より)
2. Hatsukoi (映画「はつ恋」より)
3. One Summer’s Day (映画「千と千尋の神隠し」より / あの夏へ)
4. The Sixth Station (映画「千と千尋の神隠し」 / 6番目の駅)
5. Labyrinth Of Eden (アルバム「地上の楽園」より)
6. Ballade (映画「BROTHER」より)
7. Silencio de Parc Güell (アルバム「I Am」より)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」より)
9. Ashitaka and San (映画 「もののけ姫」より)
10. la pioggia (映画「時雨の記」より)
11. Friends (アルバム「Piano Stories II」より)

封入特典:「Summer」譜面

Recorded at Tokyo Opera City (Oct 12 , Dec 27・28 2001 and Jan 8 2002)

Piano:YAMAHA CF III S

 

Disc. 久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

2001年6月21日 CD発売 UPCH-1086

 

北野映画全6作のサウンドトラックより、久石自ら選りすぐられたベストアルバム。トヨタ・カローラCM曲”Summer”収録。北野武監督寄稿+森昌行プロデューサーによるライナーノーツなど、数々の特典を盛り込んだ力作。オフィス北野作品サウンドロゴを初収録。

 

 

” joe hisaishi meets kitano films ” に寄せて

このアルバムを聴いていると、それぞれの作品に取り組んでいた時の自分自身の気持ちの流れみたいなものが蘇ってくる。それぞれ違う曲なんだけど、何か一貫した匂いを発しているし、今までの作品の映像を再編集して、ここにある曲を全部使って一本の映画を作ってしまうってえのはどうだい?・・(笑) そのくらいトータルな世界がここには存在している。それにしても、いずれ劣らぬ名曲揃いだね。お見事!です。

北野武

(CDライナーノーツより)

 

 

北野映画のプロデューサー森昌行氏(オフィス北野社長)が語る、久石音楽と北野作品の接点と相関関係

北野監督という人は、もともと映画を撮りたくて撮り始めたわけではないといういきさつを含めて、基本的に映画の文法にのっとってものを考えるところがなかったんですね。だから映画音楽に関しても、正直言ってあまり深く考えていなかったと思うし、どちらかといえば既にあるものの中から使っていこうという意識が強かったと思う。

「その男、凶暴につき」はエリック・サティですしね。「3-4×10月」の時も、ジャン・リュック・ポンティだったりエリック・ドルフィだったり。著作権の問題で使えなかったという事情もあり、それなら逆に音楽を全部やめてしまおうという経緯もあって、あの作品では映画音楽というものをまったく使っていないんですよ。

映画音楽のいろはを知らないわけではないんですけど、自分の作品のイメージを意識にて曲を作ってもらうという発想がなかったんですね。ですから、映画音楽というものと正面から向き合ったのは「あの夏、いちばん静かな海。」での久石さんが初めてでした。

武さん自身、いろんなコンポーザーの方々を知っているわけではなかったし、スタッフの間でふと久石さんの名前が挙がったのが発端で…。久石さんといえば、宮崎(駿)作品とのコラボレーションの印象のせいか、どうしてもアニメーション映像のキャラクターに命を吹き込むような、素朴でセンシティヴな音楽のイメージが強いので、一見、武さんとは接点がなさそうに思えますよね。ですが、映画制作において常套手段を持たず、文法を外して考える武さんのやり方には、久石さんが持っているテイストのほうが合うかも知れないと思えたんですね。

久石さんには、世界観についてあれこれディスカッションして音楽をつけてもらうというよりも、映画そのものが持つキャラクターのようなものを客観的に見ていただけるんじゃないか、なおかつ的確な音楽をつけていただけるんじゃないかという思惑もそれなりにありましたし。武さんが描いている世界には、久石さんの素朴ふうなエッセンスのほうが与しやすいんじゃないか、それがミスマッチであればあるほど、ひょっとしたらハマるんじゃないか、と。だから、動機としてはきわめて不純でしたね(笑)。

初めてご一緒させていただいた作品の「あの夏~」の主人公には台詞がないという特殊なケースでしたけど、台詞の代わりにあのキャラクターに世界観を持たせたり肉づけしていくのは音楽なのかなあという気もしてましたし、そこでこそ久石さんの手腕が生きるかなという期待もあって、お願いしたわけなんですけどね。

われわれの中では、北野武 VS 久石譲という組み合わせは、かなりセンセーショナルでスリリングなコラボレーションだったわけですよ。

ただ、久石さん自身は相当難儀をされたと思います。なぜなら、武さんは本来音楽がつかないような場面に音楽をつけようと言いだしたり、ありきたりな発想を排除した観点でリクエストしますから。しかも打合せの段階で、どのシーンにどんな音楽をつけてほしいというリクエストをしておきながらも、武さんはダビングの段階でそれを根底から覆したりもしますし(笑)。そもそも、何度も何度もディスカッションを重ねて、映像にマッチする音楽を決めていくやり方は、武さん的ではないわけです。ある程度任せられながら、久石さんが北野ワールドの当たらずとも遠からずのヒントを見つけていくという方法が主流なんですが、いざ任せられる立場の久石さんの心中を察すると、かなりの苦労を抱え込んでいるんじゃないんでしょうか。任せられたとはいえ、まったく違った世界を示すわけにもいきませんからね。

つまり、共通言語を持ちえない者同士がなんとか共通言語を模索するような難しさが潜んでいるわけです。でも久石さんは、武さんのそういうわがままに近いこだわりを許すだけじゃなくきちんと認めてくれて、なおかつ理解と納得もしていただいてる。

それに久石さんは、北野映画の”削ぎ落とし”の手法をよく理解して下さってますね。あれこれフルにスタンバイさせながらいろんなカットを撮っても、どんどん削ぎ落としてシンプルにしていく。音楽でも同じようなことをしているんです。贅沢なスコアを書き上げてもらうんですが、武さんはそれをどんどん削ろうとする。でも久石さんはそれを客観的に見つめながら、最終的にもうこれしかないというところまでもっていく作業を楽しんでいただいているみたいです。おそらく、二人とも同じようなテーマを抱えているからこそ理解し合えるんだと思うんですが…。

つまり武さんは、台詞がないシーンや一見演出が何もないようなシーンに何を感じさせるかということを大切にして、そのために必要な絵を撮る。久石さんも同様に、必要な場面に必要な音楽をつけるという映画音楽の基本をふまえつつも、音楽のないシーンにいかに音楽を感じさせるかということのために音楽をつけるという考え方を持っている。そのスタイルやスタンスの近さが、二人をより強固に結びつけていつ部分でもあるような気がします。

既に久石さんも北野組の一員といいますか、北野作品には欠かせない存在になっていることは確かですが、二人の関係は求め合って寄り添い合う粘着型の関係性ではなく、適度な距離感を持った関係といえるんじゃないでしょうか。お互いの才能をリスペクトし合いつつも、一方ではライバル意識に近い気持ちを持って接している。そこでの摩擦熱のようなものが、北野作品のクォリティを高めているんだと思いますね。

その摩擦熱が一気にヒートアップしたのが最新作の「BROTHER」でした。武さんはここまでの映画人としての総括だと言い、われわれは北野監督によるエンタテインメント作品のスタート地点と位置づけ、久石さんはその狭間でなんとかよりよい着地点を見つけ出そうと苦悶していたように思います。その結果として、まずメインテーマを奏でるリード楽器を決めあぐねることになり、しかも旋律を疑問視する意見も出てきたことも事実です。

特に英国側のプロデューサーでもあるジェレミー・トーマス氏からは、音楽が作品を難しくしていないかという意見が投げかけられ、それに対してこちら側の生理としては、これまでの流れの中に位置づけられることだけは拒否しなければいけないという気持ちもあって、猛反発したんです。仮に心地好いピアノの旋律が流れてそこに武さんが登場してくるなら、これまでの作品と何ら代わりばえしないと思うんです。

そうじゃなく、「BROTHER」は新しい環境の中で新しく作られたエンタテインメント作品なんだという部分を主張するためにも、音楽はこれじゃないとダメなんだ、とジェレミーにも納得していただきました。そういったやりとりを経てこの作品を公開できたことで、武さんと久石さんの関係は更に密になったような気がします。武さんが久石さんに要求するレベルは高くなり、同様に、久石さんの北野映画を掘り下げる眼力もより高くなったでしょうから。

ただ、総じて言えるのは、要は久石さんが醸すメロディラインが、シンプルな中に非常に美しい旋律と音色を秘めているということ、そしてそういう久石さんのセンスと才能をきちんと理解したうえで、しかもそれが大好きだから北野映画の音楽監督をお願いしているという点は、過去も現在も揺るぎがないところです。表現は陳腐ですが”シンプル・イズ・ベスト”とでも言いますか…。

そういう久石さんの音楽作品がセレクトされた作品集を聞かせてもらうと、そこには一つの確かな流れが存在していて、間違いなく久石さんの世界ではあるんですが、同時に北野武の世界でもあることを感じるんです。つまりは、久石さんが武さんの映像からインスパイアされて築きあげる世界には、その独特の匂いを知らず知らずのうちに共有していて、しかも同じ匂いを久石さん自ら発しているということだと思うんですよ。そういう意味では、久石譲、北野武の両者の世界観を堪能できる、他にはちょっと見当たらない価値あるサウンドトラック集なんじゃないでしょうか。

 

あの夏、いちばん静かな海。
A Scene at the Sea
1991.10.12 公開
出演:真木蔵人、大島弘子

〈episode 1〉
この作品に関しては、監督自身も認めているように、もともと主人公の2人(生まれながらの聴覚障害者)に台詞がないところへもってきて、後半は台詞も何もなく、この作品そのものをふり返るように、主人公たちの思い出が日記帳のごとく滔々と連ねられているわけですが、あそこはどう考えても音楽がないと成立しない部分といいますか、音楽にあれこれ語ってもらったカットなんですね。

つまり最初から音楽を入れ込むことを想定して意識的に撮ったシーンなんです。武さんが自らの映像にあれほど音楽を求めたことは珍しいんじゃないですかね。久石さんとのコラボレーションはこの作品が最初だったわけですけど、登場人物の台詞が極端に少ないぶん、音楽がもたらす効用への期待感は、ほかのどの作品よりも高かったと思いますし、それだけに久石さんは苦労されたんじゃないでしょうか。結果的に、言葉(台詞)以上に主人公の感情や作品自体の情感を雄弁に物語るかのような音楽をつけていただいて、作品のクォリティや価値を随分高めていただいたような気がします。

 

ソナチネ
Sonatine
1993.6.5 公開
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣、逗子とんぼ、矢島健一、南方英二

〈episode 2〉
これは久石さんと武さんの間で”ミニマル”というテーマ性で見事なコンセンサスがとれた作品じゃないでしょうか。「あの夏~」ってミニマル的要素はありながらも、決してミニマルな作品じゃありませんでしたけど、この「ソナチネ」は徹底的に”ミニマル”ですよね。

そういう意味では久石さんにとって本領発揮の場だったと思いますし、2人が真剣に勝負をし合った作品という印象が強いですね。武さんは音楽の専門家ではありませんから”ミニマル”という言葉をどこまで把握していたかはわかりませんが、基本的にシンプルなものの繰り返しという手法は、彼自身すごく好きですからね。例えば「あの夏~」の、主人公たちが歩いた同じ道を、次は違う登場人物が同じように歩いていくシーンとか。繰り返しながら、ちょっとずつ変化させる手法。そこに関しては、久石さんの得意とするミニマル・ミュージックがピッタリ合ったという印象でした。お互いが、本質的に好きな世界なんだと思います。

ただ、武さん自身も言っているように、この作品は、平均点でいえばたいした点ではないというか、国立大学は無理だねというような(笑)点だけど、勝負に出ている場面がある。本人曰く、目茶苦茶凄いシーンと、ありゃりゃ?というシーンが混在している。ゴルフに例えるなら、OBもあるんだけど、バーディどころかイーグルも幾つかある感じ。ホールによっては大勝負をかけたりもしている、ある意味とても実験的な試みをしている作品ですから、それに対して久石さんも自身の本領をミニマルでしっかりぶつけてきましたし、その結果としてあの独特の世界観が醸し出されたんだと思います。サンプリングも駆使されてますし、北野作品の中ではいちばん実験的な音楽といってもいいでしょうね。映画の中身以外の部分ではかなりの火花を散らしている作品といいますか…。そこが、多くの人に名作と言わしめたゆえんでしょうし、イギリスのBBC放送による「映画・世界の100本」に選出された要因なんじゃないでしょうか。ただ、世界中(公開された国の中)で日本人がいちばん見ていない作品で、興行的にはやや不幸な作品ではありましたが…(笑)。

 

キッズ・リターン
Kids Return
1996.7.27 公開
出演:金子賢、安藤政信

〈episode 3〉
特にこの作品のエンディングは、かなり印象的なシーンに仕上がりましたね。主人公の2人が「もう俺たち終ったのかな」「まだ始まってもいねぇよ」と言った瞬間にドーンとテーマ音楽とエンド・ロールが入ってくる。普通ロール・チャンスというと、映画の本編が終わり、ポツポツと立ち上がるお客さんに向けた”どうぞお帰り下さい”の合図みたいになりがちですが、でも「まだ始まってもいねぇよ」の台詞のあとにきわめて激しく飛び込んでくるこの作品の音楽は、ロール・チャンスをも作品の一部として取り込んでしまうほどの迫力があるし、それがあるから直前のシーンもより生きてくるという相乗効果をもたらしていると思うんです。メインテーマのキャッチーさでいえば、「菊次郎~」とともに、メロディメイカーとしての久石さんの力量を再認識させられます。

 

HANA-BI
1998.1.24 公開
出演:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進

〈episode 4〉
この作品の、例えばタクシーをパトカーに作り変えていくシーンには、組曲のようなものすごく長い音楽がついていますが、久石さんがかなり悩まれた証のようにも思えますね。そのシーン以外にも、武さん自身が描いた絵を、映像の中に巧みにインサートしている場面があって…。「キッズ・リターン」でも自分で描いた絵をポスターに使ってましたけど、ここではかなりの数の絵をカットの一つとして使っている。あの世界と対決するのは大変だったと思いますよ。当然あそこには音をつけてくれというカットですからね。無音でしかも動きのない絵を、いろんなカメラワークを駆使して撮っていますから、それときっちり向き合える音楽をつけるとなると、結構思案しますよね。われわれ自身も両者のイメージをすり合わせるために、かなり大変な思いをした記憶があります。ただどんなに陰惨な場面でも、そこに流れる久石メロディの美しさがインパクトにつながっている気がします。

 

菊次郎の夏
Kikujiro
1999.6.5 公開
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

 

BROTHER
2001.1.27 公開
出演:ビートたけし、オマー・エプス、真木蔵人

〈episode 6〉
この作品では、メインテーマのリード楽器を何にするか、かなり苦労しました。武さんはリード楽器にことのほか強い拘りを持っていて、しかも自分自身がピアノをやっていることもあって、ピアノという楽器が好きなんですね。だけど久石さんのセンスとして、こっちの楽器を使ったほうがこんな広がりが出ますよという主張を返してくる。そこはある意味闘いでした。結果的に、リード楽器としてフリューゲルホルンを選択したわけですが、これは非常に大きなチャレンジだったと思います。監督自身、フリューゲルホルンという楽器は全然予想もしてなかったでしょうし。

予定調和的にピアノで奏でておけば、これといった苦労もせずに済んだとは思いますけど、この作品自体が持つ意味合いといいますか、日英合作という国際的なプロジェクトによる映画であること、ハリウッドの撮影システムを導入したことなど、新しい映画作りの結果として新しい映画が生まれるという流れに見合う試みが、音楽にも必要だったわけですね。ご覧いただいてわかるとおり、主役ビートたけしのビジュアルといいますかファッション・センスは、この「BROTHER」も「HANA-BI」も「ソナチネ」も一様なんです。別に何部作といわれるような関連した作品ではないんですけど、開襟のシャツにダークカラーのスーツ、そしてサングラスというスタイルは共通している。しかし、だから音楽もピアノで、という考えはそぐわない。内容に対する音づけという意味ではなく、新しいやり方で新しい作品が生まれるという意味合いを音楽でどう表現するかという点は、われわれにとってもそうでしたけど、久石さんにとっても大きなテーマだったと思うんです。その部分では、久石さん自身、相当悩まれたんじゃないかと思います。現に、ロスの撮影現場までお見えになって、時間が許す限り監督と話し合って、もっとも相応しい接点を探していましたから。メロディとか旋律の問題ではなく、新しさをどういった世界観で示すかということにおいて。といいつつメロディに関しても、絵面との整合性においてはかなり難しかったと思いますよ。ジャジーな要素や、半音が結構使われていることが、そのことを雄弁に語っているような気がします。

デニー役のオマー・エプスのモノローグによるこの作品のエンディングは、音楽を入れ込んだ「あの夏~」のエンディングの対極にあるといってもいいくらいのシーンで、音楽をまったくはずしてしまっている。本来は武さんのリクエストで久石さんに饒舌で分厚い情感豊かな音楽をつけていただいたんですけど、最終段階で音楽をとってしまった。もちろん音楽が気に入らなかったわけではなく、音楽は音楽として成立したんでしょうけど、作品のテーマを示す流れのうえでは、饒舌すぎたのかもしれないですね。ただそのあとエンドロールで再びメインテーマが呼び込んでいることを考えると、あの音楽のないエンディングこそ、音楽を削ぎ落としたシーンでいかに音楽を感じさせるかの典型と言えるんじゃないでしょうか。

(解説・各作品エピソード/森昌行 ~CDライナーノーツより)

 

 

〈サウンドトラック制作進行ノート〉

あの夏、いちばん静かな海。 発売日:1991年10月9日
1991年7月 ワンダーステーション六本木にてレコーディング。

ソナチネ 発売日:1993年6月9日
1992年6月1日 北野監督の次回作の音楽の依頼がある。出演者等詳細は未定。11月辺りの音楽制作の予定。
1992年7月31日 北野監督とロケ前に顔合わせ。音楽の方向性の打ち合わせをする。今回は石垣島がテーマになる模様。
1992年9月17-19日 久石氏石垣島のロケに同行。
1992年10月26日 当初11月頭から音楽制作に入る予定であったが、編集作業の進行の影響で中旬に変更となる。
1992年11月13日 ワンダーステーションにて音楽作業開始。
1992年11月19日 18時半に北野監督来訪、テーマ曲を決定。
1992年11月20-24日 ワンダーステーションにてダビング作業。
1992年11月25日 Dolby 4chのT/D。この日北野監督が再編集に入り、M14のシーンが全カットになり、M15に変更が入ったとの知らせあり。21時に監督がワンダーシティに確認のため来訪。
1992年11月26日 映画音楽作業終了。
1993年3月21-22日 ロンドンにあるTHE TOWN HOUSEにてCD用のMIXを行う。
1993年3月23日 Abbey Road Studiosにてマスタリング。

Kids Return 発売日:1996年6月26日
1995年10月27日 調布にっかつ撮影所にて前半部のラッシュを見る。その後打ち合わせ。
1996年2月16日 にっかつ撮影所にてオールラッシュ。監督を交え最終打ち合わせ。
1996年2月29日 代々木にあるワンダーステーション2st.にて音楽制作開始。
1996年3月13日 音楽制作日程終了。

HANA-BI 発売日:1998年1月1日
1997年6月9日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1997年6月11日 調布にっかつ撮影所にて監督と打ち合わせ。
1997年6月12-19日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング。
1997年6月22日 ポリグラムスタジオAst.にて弦のレコーディング。
1997年6月23-24日 ワンダーステーション代々木スタジオにて映画用のT/D。
1997年7月10-11日 ワンダーステーション六本木スタジオにてCD用のT/D。

菊次郎の夏 発売日:1999年5月26日
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

BROTHER 発売日2001年1月17日
2000年3月29日 にっかつスタジオにてオールラッシュ。
2000年4月3-14日 音楽制作プリプロ~レコーディング。
2000年4月8日 監督とテーマ曲について打ち合わせ。
2000年4月14日 監督とサントラについて打ち合わせ。
2000年4月22日 墨田区トリフォニーホールにて新日本フィルの演奏で録音。
2000年4月23-25日 映画用のT/D。
2000年5月15-17日 CD用のT/D。
2000年9月27-28日 マスタリング。

(サウンドトラック制作進行ノート ~CDライナーノーツより)

 

 

joe hisaishi meets kitano films ジャケット 裏

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「編集し終えて嬉しい発見だったのは『あの夏~』から『BROTHER』まで、実に各々の底辺が共通性を持っていた、ということ。頭では常に北野監督の映画のために音楽を提供することを第一に作ってきたつもりだったけれど、気がつけば自分のソロアルバムを作るような気持ちで携わってきたんだ、という明快な結論に達した。時には、ソロから一歩踏み出した表現もしていたりするこの一枚には、僕自身のここ数年の姿勢が見事に反映されていた。そしてこの一、二年の中で、僕自身にとっても、まさにベストな一枚と言える仕上がりだと思う」

「省略の人、だね。引き算の映像美。従来の映画の概念にとらわれずに独自の世界観を展開するのは並大抵ではない。北野監督はそういう登場をして見せて、今もそう在り続けている。一〇秒間のシーンだけで彼の作品だと分かる、というのは、やはり尊敬に値する。

北野監督とは、やりとりとか詳しく話したりすることなんてほとんどない。ヒントのような一言、二言だけ。『あの夏、いちばん静かな海』の時は、『シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんです』って。『HANA-BI』では『暴力シーンが多いんだけど音は綺麗なのがほしいな』で、『菊次郎の夏』は『さわやかなのがいいな』とか毎回そんな感じ。『BROTHER』に至っては『おまかせ』でしたから。他にその時手掛けている作品の事で、顔を合わせる際に二人で話すことといえば、決まって次回作のアイデア。こんな具合で互いのスタンスが明確に保たれている。とてもシビアだけど、だからこそ信頼感や、やり甲斐も非常に大きいと言える。

北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今回のベスト盤は僕にとって重要な作品です。北野監督のために書いてきた音楽が、実は自分のソロアルバムのための音楽と呼べるものでもあった、という面を含んでいます」

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

久石:
北野監督って映画の撮り方を変えたんですよね。世界的にも結構影響を与えた。それはどういうことかというと、しゃべっている台詞のある人以外の人たちが、いかにもそこにいるような演出を一切しなかったんですね。みんな家族写真のようにただそこにいるだけにさせた。普通演出の人は、いかにも自然のように演出して動かす。それをしなかった。そのやり方っていうのはその後世界中の若い監督に影響を与えて。要するに、無理やりに演技らしいことはしないんでいいんだと。それをつくった画期的な監督でしたね。

久石:
どちらかというと、引き算の映画。どんどん加えていくんじゃなくて、結果無駄なものを全部外していった。そういう意味では非常にミニマルな映画ですよね。

久石:
個人的な区分けでいうと、初期のほうは宮崎さんの映画は基本的にメロディ中心だったんですよ。北野さんのほうはミニマルをベースにしたんです。ですからやり方をすごく変えて臨んでた。途中からちょっとメロディを増やしましたけれども。フランスとかでインタビュー受けていると必ず聞かれるんですよね。まずあり得ないと。映画音楽で宮崎さんのような作品をやっている人が、どうしてバイオレンスの映画を担当しているのかが、同じ人間がやってるのが想像できないと。インタビュー受けるたびにそういう質問ばっかりだったんですよね。僕のほうからすると、なんにも不自然じゃないんですよ。なんでかっていうと、片側にミリマリストとしてやってきたこと、もう一方にメロディメーカーとしてやってきたこと、それを実はちょっと使い分けてやっていた。そういうやり方だけだったんですよ。あれ風これ風でやるのは本物にはならないからね。だから自分がいいと思うことしかやらない、ということですかね。

久石:
北野さんの映画は、表面上ではバイオレンスとかいろいろあるんですが、根底には人間の儚さとか哀しさがあったんですね。その辺で僕もすごく共感して作っていたところがあります。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

1. INTRO:OFFICE KITANO SOUND LOGO
2. Summer (菊次郎の夏)
3. The Rain (菊次郎の夏)
4. Drifter…in LAX (BROTHER)
5. Raging Men (BROTHER)
6. Ballade (BROTHER)
7. BROTHER (BROTHER)
8. Silent Love (Main Theme) (あの夏、いちばん静かな海。)
9. Clifside Waltz III (あの夏、いちばん静かな海。)
10. Bus Stop (あの夏、いちばん静かな海。)
11. Sonatine I ~act of violence~ (Sonatine)
12. Play on the sands (Sonatine)
13. KIDS RETURN (KIDS RETURN)
14. NO WAY OUT (KIDS RETURN)
15. Thank you,…for Everything (HANA-BI)
16. HANA-BI (HANA-BI)

All songs composed, arranged and produced by JOE HISAISHI

 

Disc. 久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』

久石譲 『WORKS2』

1999年9月22日 CD発売 POCH-1830

 

コンサートツアー「Piano Stories ’98 Orchestra Night」での名演を収録した7年振りの貴重なオーケストラ・ライブ録音

24bitデジタル・レコーディングによるナチュラルなサウンドで臨場感を余さず収録

 

 

寄稿

いい音楽には永遠の生命力がある。

時代とか流行、様式とか国籍…そうしたものすべてを超えて存在する音楽。「WORKS」と名づけられたシリーズは久石譲という稀有な才能を持った音楽家の”仕事”を数々の映画音楽の曲を中心にオーケストラとの共演という形で再構築していくものだが、新たに録音された曲を聞くと、改めてその音楽性の高さとオリジンルな魅力を実感することができる。一度聞いただけで記憶の奥底に刻みつけられてしまう美しいメロディと卓抜したアレンジ、それにピアニストとしての力量。今回の「WORKS II」は7年ぶりのオーケストラ・コンサートのライブ録音という形になっているが、ひとつひとつの音符の鳴り方、そこから紡ぎ出されたハーモニーの美しさは、驚くほどに完成度が高い。

だから、僕は出来ることなら可能な限りの音量でこのアルバムを聞いて欲しいと思う。収録された13曲は、インストゥルメンタルでありながら大量生産、大量遺棄されるヒット曲とは一線を画す本物の”唄”というのはどんなものかを教えてくれるし、ロマンティシズムとダイナミズムが完璧な形で同居し、輝ける結晶体になっていることがわかる。

そして、次にはそこに自分自身の記憶や思いを重ね合わせていくといい。映像は形になって残っているが、いい音楽というのはそこから離れて空間の中で旋回し始めるのである。「WORKS」はいい仕事の理屈抜きの証拠品である。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲 『WORKS2』

交響組曲「もののけ姫」より
1. アシタカせっ記
2. もののけ姫
3. TA・TA・RI・GAMI
4. アシタカとサン
5. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
6. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
7. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
9. Sonatine (映画「Sonatine」より)
10. Tango X.T.C (映画「はるか、ノスタルジィ」より)
11. Madness (映画「紅の豚」より)
12. Friends
13. Asian Dream Song (長野パラリンピック冬季競技大会テーマ曲)

ピアノ:久石譲
指揮:曽我大介
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団 (大阪)
録音:1998年10月19日 東京芸術劇場
録音:1998年10月27日 ザ・シンフォニーホール

 

WORKS II Orchestra Nights

1.The Legend of Ashitaka (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
2.Princess Mononoke (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
3.TA-TA-RI-GAMI (The Demon God) (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
4.Ashitaka and San (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
5.Nostalgia
6.Cinema Nostalgia
7.la pioggia
8.HANA-BI
9.Sonatine
10.Tango X.T.C.
11.Madness
12.Friends
13.Asian Dream Song

 

Disc. 久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』

1999年5月26日 CD発売 POCH-1788
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9006
2017年3月29日 CD発売 UPCY-9673
2021年11月27日 LP発売 PROS-7035

 

1999年公開 映画「菊次郎の夏」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

~STORY~

今日から楽しい夏休み。
しかし正男(関口雄介・子役)には宿題を見てくれたり、遊びに連れていってくれる人もいない。
たったひとりの家族であるおばあちゃん(吉行和子)はパートで忙しい。
そこで正男は遠くで暮らすお母さんに会いに行くことを決心、
わずかな小遣いを握りしめて飛び出した。
心配した近所のおばさん(岸本加世子)は、旦那・菊次郎(ビートたけし)に
正男を母親の元まで送り届けるように命令する。
しかし根っからの自由人である菊次郎は出発するなり競輪で旅費を使い果たし、
あげくの果てには正男の小遣いも奪ってしまいスッカラカンに。
そんなこんなで二人の珍道中は始まった…。

 

 

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

北野武さんの作品では、「あの夏、いちばん静かな海」から音楽を担当させていただいていますが、あの映画のときに北野さんと話したのは「通常音楽を入れるところは一切抜きましょう」ということ。例えば、盛り上がるシーンだからといって、盛り上げるための音楽を入れるのはやめましょうと。そういうのってすごく北野さんらしいところだと思うのですが、いわゆる劇伴的なものは本人が望んでいませんし、必要もないんですよ。

「菊次郎の夏」でも、メロディアスだけど絶対ベタベタした感じにならないように心がけました。北野さんの映画は、とにかく立ち振る舞いがすごくきれいで品があるんです。だから、音楽も下品になったり、表現しすぎてはいけない。それが、最も大切にしなければならないところでしょうね。「菊次郎の夏」に関しては、北野さんから「リリカルなピアノものでいきたい」というリクエストがあったんです。最初は、こんなにギャグの多い映画なのにいいのかな?と思ったんですが、実際にやってみたら、ギャグの中に、人間の孤独とか寂しさみたいなものが表現できた。もちろん、北野さんはそれを最初から狙っていたわけで「やっぱりこの人は天才だな」って思いましたね。

そして、北野さんのすごい点は、やはり個性的だということに尽きるでしょう。特に、海外での評価は絶大ですが、それはなぜかというと、個性があるからですよ。独特の映像美、たくさんの要素を入れない、ムダのない引き算のような絵作り……それが、あそこまで徹底できる人って、世界に何人もいません。ものすごく強い意志が必要なんだと思うのですが、北野さんはそれをやり抜いている。本当にすさまじい作業であり、ある意味、周囲のだれよりも孤独だと思うのですが、それをやり抜く意志の強さは本当に素晴らしい。だからこそ、”世界の北野武”なんでしょうね。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

「これが困ったんですよ。監督に聞いたんですけど「いままでうまく行ってるからいいんじゃない」それだけで終わってしまった。でも爽やかなピアノ曲というイメージはお持ちだったし、それは分かるなと。エモーショナルと言うよりは少年が主人公だし、ピアノ曲なんだけどリズムがあり、という感じで作ったんですけどね。あの映画で困ったのはギャグが満載なので、どうするんだと、実はちょっと思っていたんですよ。そうしたら武さんは大胆なことをおやりになった。「大ギャクをやっているところに悲しい音楽を流してみたら」って言って。大丈夫ですかね、と言って、長めに流したんですよ。そうしたら面白かったのは、それまでは、やってるやってる、というギャグが、全部悲しく見えるんですよ。「ああ武さん、これをやりたかったんだ!」と思って。菊次郎とか少年の持っている悲しみみたいなものが、画面が明るいだけにどんどん出て来ちゃって。あの時に「この映画、やった!」と音楽的にも思いましたね。あの辺を計算していたとしたら、北野さんはすごい人だと思います。普通に笑いを取るために笑いを取る音楽を付けたら自殺行為ですよね。人を好きだという時に、「好きだ」という台詞を書いたらバカ臭いじゃないですか。その時に「お前なんか嫌いだ」と書いた方が、そいつは好きかもしれないというのがあるじゃない。音楽もそういうのがあって、予定調和でこういうシーンだから、こういう音楽流せばと流してしまったら、コンクリートで固めたみたいで、そこから何も立ち上ってこない。ものを作るってそのくらい面白いものだと、最近思います。小説でも、「この主人公、こう動くな」と思っていて、その通りに動いたら、引きますよね。それがこちらの想像を超えていってくれるから引き込まれる。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

菊次郎の夏 サウンドトラック

1. Summer
2. Going Out
3. Mad Summer
4. Night Mare
5. Kindness
6. The Rain
7. Real Eyes
8. Angel Bell
9. Two Hearts
10. Mother
11. River Side
12. Summer Road

All music composed, arranged, produced & performed by 久石譲

Guest Musicians:潘寅林ストリングス(Strings)、鈴木理恵子(Violin Solo)、諸岡由美子(Cello solo)

Recording Engineers:浜田純伸・石原裕也(ワンダーステーション)
Mixing Engineer:浜田純伸(ワンダーステーション)
Assistant Engineers:秋田裕之(ワンダーステーション)、川下輝一(ポリグラム・スタジオ)

Recording Studio:ワンダーステーション、ポリグラム・スタジオ
Master Engineer:藤野成喜(ポリグラム・スタジオ)
Mastering Studio:ポリグラム・スタジオ DMR-1

 

Disc. 久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』

久石譲 『PIANO STORIES 3』

1998年10月14日 CD発売 POCH-1731

 

1988年から続くピアノ・ストーリーズ・シリーズ第3弾
北イタリアの情景をモチーフに作られた作品

 

 

イタリアには唄がある。
伸びやかなメロディーは人生の哀歓や、ユーモアをおりまぜひらすら唄う。
ふと、幸せという名前の思い出を数えてみた。
そのすきまからこぼれおちる哀しみの時間(とき)。
イタリアっ子は言うだろうな「Quel che sara sara -なるようになるさ」。
そして今日もまた唄っている。たぶん・・・・

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

久石:
「Nostalgia」は、イタリアで現地のオーケストラとレコーディングしましたけど、オケには機能性よりも『唄』を望みました。多少荒っぽくても、そこには『唄』があるというアルバムを作りたかった。だからイタリアにしたんです。

次に自分のソロアルバムを、と考えたとき、根底に『唄』を表現したいということがありました。それは、去年「HANA-BI」でベネチアへ行って、公式記者会見で外国人記者から「音楽がすごくイタリア的なメロディだ」と指摘されて、「ああ、そうなのかな」と思ったのがきっかけです。確かにベネチアで「HANA-BI」を観たとき、自分でも「この音楽、イタリア的に聴こえるなあ」と思いました。そのあたりですね。イタリア的な『唄』を表現しようと思ったのは。

それと、今回のアルバムでは、イタリアというテーマの中でカヴァーをやってみたいと思って、サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」の有名なアリア(アルバムでは「バビロンの丘」)とニノ・ロータの「太陽がいっぱい」を、最もイタリア的な香りのするメロディということで選びました。アレンジという部分も自分の中の大事な要素ですから、人のメロディを借りてきても自分の世界が作れるというところにチャレンジしてみたかったのです。

技術的な面でも現時点で可能な限りの最先端の技術で録るという、徹底的にハードディスク・レコーディングを行いました。ここが大事なところなんだけど、古臭いやりかたでノスタルジックな音を録ったら、本当に古臭くなってしまう。それは僕の欲してる音ではないんですよ。それで、オケがそのレコーディング方式に不慣れだったってこともあって、レコーディングの2日目からは予定外に僕がピアノを弾いて、オケをひっぱるという、同時録音に切り替えざる得なかったんです。でも、そのうちに現場の雰囲気が一変して、オケがピタッとついてくるのがわかりました。そういう意味では柔軟性のある若いオーケストラでよかったですね。

イタリアにはやっぱり、日本のオーケストラにも、またイギリスのオーケストラにもない、独特のおおらかなメロディーの唄い方がありました。結果をみても、これはイタリアに行かなかったら成立しないアルバムだったと、今、改めて思っています。

(久石譲インタビュー ~「久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」 コンサートパンフレット より)

 

 

「サウンドはガッチリと構築するスタイルなのですが、このスタイルを一回壊してみたい。メロディに集約し直してみたい。僕の場合、作曲もアレンジも演奏も自分でやってしまいますから、少し荒っぽくてもいいから原質が出るような、そういうアルバムを作ってみたいなというのが一番根底にありました。で、北野武監督『HANA-BI』ベネチア映画祭出品の間などでイタリアへ行って、イタリア的ニュアンスなんだというのが自分なりに分かりましてね。イタリアというとカンツォーネだとかオペラだとか、歌という感じがありますね。何かそういうところのアプローチをしたいなという……。

タイトルが『ノスタルジア』だからといって、郷愁といったニュアンスでは作っていないんです。われわれふだんレコーディングしていると、どうしてもドンカマで作っていく傾向がすごく多い。そればっかりだと、揺らぎのある音楽から遠ざかっちゃうんですね。歌のエスプリみたいなものが最近の音楽では、ほとんど聴くことが出来ませんよね。今、忘れがちになっているそういう重要な要素に、もう1回スポットを当ててみたい。それが最も新鮮なんじゃないか。そういうのが大まかなコンセプトです」

Blog. 「FM fan 1998 No.25 11.16-11.29」 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

 

サウンドもアコーディオンやハーモニカがフィーチャーされイタリアンテイストたっぷりに仕上がっている。イタリア的な「唄」をコンセプトに、自身の作曲作品のみならず、イタリア名作映画からの映画音楽も選曲。

1998年、イタリアの古都モデナにて。「時代の波に流されずにひたむきに生き、個々それぞれの世界を築き上げた人々を描きたい」という久石譲はアルバムのイメージとしてこう語っている。

時代設定は「1930年台のイタリアを中心とするヨーロッパ」。そこでレコーディングはイタリアで行われることになった。「音楽の原点の”歌”に戻って」制作したというこのアルバムでは、ピアノが1930年イタリアという時空で交錯する人々の思いを、雄弁に語っている。

 

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 3』

1. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
2. 旅情
3. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
4. il porco rosso (映画「紅の豚」より)
5. Cassanova
6. 太陽がいっぱい
7. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
8. Nocturne
9. バビロンの丘
10. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)

指揮:レナート・セリオ 演奏:フェラーラ管弦楽団

Composed by JOE HISAISHI , except 6. 9.

Piano:JOE HISAISHI
Orchestra:ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
Conductor:RENATO SERIO

Piano,Rhodes:MASAHIRO SAYAMA 4.

(アコーディオン 2. / バンドネオン 6.)

Musicians
ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
RENATO SERIO(Conductor)
Nobuo Yagi(Harmonica)
Fumihiko Kazama(Accordion)
Chuei Yoshikawa(Guitar)
Hideo Yamaki(Drum)
Kunimitsu Inaba(W.Bass)
Masahiro Sayama(Piano Rhodes)
Tomonao Hara(Flugel Horn)
Ryota Komatsu(Bandoneon)
etc.

Recorded at:
TEATRO STORCHI DI MODENA,KIOI HALL,Wonder Station
August-September, 1998

 

NOSTALGIA – PIANO STORIES III

1.Nostalgia
2.Sentimenti di Viaggio
3.Cinema Nostalgia
4.il porco rosso
5.Casanova
6.Plein Soleil
7.HANA-BI
8.Nocturne
9.A Hill of Babylon
10.la pioggia

 

Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1996年10月25日 CD発売 POCH-1604

 

 

【MEMORANDUM】

Friends
子供の頃思った。「お酒飲んでたばこ吸って、それにカウンターに座って寿司だっていつか食べてやる」気づいたらバーの片隅に一人座っていた。

Sunday
日曜日の午後、ふらっと画廊を訪れるのもよい。スコーンととびきり上等のアフターヌーンティーを飲みながら眺めるワッツの絵画は、本物の英国の香りがする。

Asian Dream Song
滔々と流れる黄河、人を寄せ付けないヒマラヤの山々、砂漠の民ベドウィン、インドの過去から未来に連なる永遠の時間の流れ、モダンでほんとうはヨーロッパよりも深い歴史と近代性をもっていた日本。僕はアジアの一員でしかも日本人であってほんとうによかった。

Angel Springs
6年間もあるウイスキーのコマーシャルにつき合った。何も足さない、何も引かない、このコンセプトは美しい。人が手を加えないことは現代では極めて難しい。例えばひとりの少年がいる。手を加えて型にはめるより、ほうっておいて発酵するのを待つ。もしかして天才が生まれるかも知れませんよ。

Kids Return
ミニマルミュージックの香りのする青春音楽。クールでどこか切なげ、ワイルドで繊細、淡々としているのに衝撃的、二律背反の世界、それが僕だ。僕の白は限りなく黒を連想させ、優しさは限りなく毒を含んでいる。見せかけのヒューマンは独裁者の心を隠し、愛と感動のメロディーは限りなく前衛の心の鎧となる。

Rain Garden
ふと、ラヴェルが弾きたくなった。その響きが心に微かな波紋となって広がっていく。フランス印象派は空ろいゆく時の陽炎(かげろう)。

Highlander
地図で見る英国は左の上の端にある。そのまた上の方にHighlanderがある。寒くて荒涼とした土地、手が届きそうに低く垂れ下がった天空。ケルトの里は何処か毅然としていて生きる厳しさと尊さを教えてくれる。

White Night
夕暮れ、密やかに闇が訪れ、家々の窓には灯がともる。空からは軽やかなダンスを踊っているかのような温かい(心の)雪が舞い降りている。もしかしたらマッチ売りの少女は幸せだったんだ。

Les Aventuriers
「冒険者たち」という映画があった。男はこの言葉が好きだ。冒険に乗りだす時の昂揚感、細心の注意と計画。大胆にも繊細な神経、思いがけない緊張感。でも実際の映画はふたりの男と一人の女の友情と愛情の物語り。はしゃぐ大人たちは幼稚な子供心を引きずったピノキオ。でもリノバンチュラだったら良いか?
PS.演奏が難しすぎた。プロのミュージシャンがほとんど弾けなかった。5拍子なんて人間の生理に合わないのか?でも「Take 5」や「Mission impossible」はとても心地良いのに…。ええい!一気の緊張、極限のスイードもありなんだよ。

The Wind of Life
日々の積み重ねの上に人の一生は成り立つ。淡々と繰り返される日々、でもその日々が大変だ。泣いたり怒ったり絶望したり歓喜の涙をこぼしたり誠に忙しい。でも同じ日は二度と来ないのだから日々を受け入れ真摯な精神で生きる事が肝心だ。生命の風、人の一生を一塵の風に託す。陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。風のように生きたいと思った。

(【メモランダム】 久石譲)

 

 

 

「難しかったんだよね。それまでガッチリとコンセプトを組んできたんだけれど、最後の最後で自分を信じた感覚的な決断をしたということです。あの弦の書き方って異常に特殊なんです。普通は例えば8・6・4・4・2とだんだん小さくなりますね。それを8・6・6・6・2と低域が大きい形にしてある。なおかつディヴィージで全部デパートに分けたりして……。チェロなんかまともにユニゾンしているところなんて一箇所もないですよ。ここまで徹底的に書いたことは今までない。結果として想像以上のものになってしまって、ピアノより弦が主張してる……ヤバイ……と(笑)。」

「僕は戻りって性格的にできないし、オール・オア・ナッシングなんですね。時代って円運動しながら前へ進んでいると思うんですが、自分にとってのミニマルとか弦とか、原点に立ち返るというのは前に戻るのではなく、そのスタイルをとりながら全く新しいところへ行くことだと。そうでなければ意味がない。単なる懐古趣味に終わってしまうでしょう。ピアノというコンセプトでソロアルバムを作るということに変わりはなかったけれども、思い切りターボエンジンに切り替える必要があったわけです。」

Blog. 「キネマ旬報 1996年11月上旬特別号 No.1205」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。」

「たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。」

「「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。」

「「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

The Wind of Lifeは、「JOE HISAISHI PIANO STORIES 2000 Pf solo & Quintet」コンサートなどにおいて、原曲とは少し異なるアレンジ(和音)にて演奏されている。

 

 

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1. Friends (トヨタクラウンマジェスタCMより)
2. Sunday (NHK「日曜美術館」テーマ曲)
3. Asian Dream Song (TOTATAカローラCMより / 1998年長野パラリンピックテーマ曲)
4. Angel Springs (サントリーウイスキー 山崎CMより)
5. Kids Return (映画「キッズ・リターン」より)
6. Rain Garden
7. Highlander
8. White Night
9. Les Aventuriers
10. The Wind of Life

Musicians
Pan Strings
Yuichiro Goto String Quartet
Daisuke Mogi(Oboe)
Takashi Asahi(Flute)
Masayoshi FUrukawa(Guitar)
etc.

Recorded at:
Wonder Station
Victor Studio
Sound City

 

Disc. 久石譲 『(全日空 ANA B-777)CM音楽』 *Unreleased

1995年 CM放送

 

全日空 ANA B-777 キャンペーン「出かけよう、日本へ。」
全日空 ANA B-777 「就航・九州キャンペーン」

CM音楽:久石譲「(曲名不明)」

 

ザ・久石メロディを堪能できる楽曲。ピアノのメロディにリズムプログラミングとオーケストラサウンドによるもの、フルオーケストラサウンドを基調としたもの、複数のバージョンがある。いずれにおいても壮大な空のイメージを表現した隠れた名曲である。

CDには収録されていない、曲名不明の楽曲である。

 

 

Disc. 久石譲 『My Lost City』

My Lost City

1992年2月12日 CD発売 TOCT-6414
2003年7月30日 CD発売 TOCT-25122

 

1920年代、アール・デコの時代にインスピレーションを抱いた会心作

ロンドンのストリングス、パリのバンドネオン、最高の音楽を求めて
久石譲のピアノは、1920年代を、そして世紀末を彷徨った。

 

 

Prologue
僕にとってのピアノとストリングス、それは永遠に彷徨う旅人の心を歌うには最も相応しい形態だ。
新しい旅の始まり。

漂流者 ~Drifting in the City
都市の漂流者。行く場所さえない心のさすらい人。
「彼は自分の身勝手さを重々承知しながらも芸術家になるための戦いから身を退くことができず、
そのせいで彼の人生は何処か悲劇的気高さを帯びるに至ったのである。」

1920 ~Age of Illusion
バリエーション、音の変奏、それはうつろいゆくもの。
映画のカメラで言えば、特徴を使って絶えず移動するようなもの。
交通機関と一緒で都市と都市の間を結ぶ、移動祝祭空間だ。
そしてテーマは、主役、立ち止り確認すること。音の都市なのだ。
テーマからテーマへ、人から人へ、絶えずうつろい行く、それがバリエーションだ。
そこには予想もつかない未来のように、スリリングな展開となる。

Solitude ~in her・‥
それは不可能な試みだった。芸術行為とは自我の放出だ。
発生する自我と放出される自我のバランスを常に一定に保つことなど不可能なのだ。
実現不可能な目標に向けてなされる超人的努力の行き着く先は、精神と肉体の崩壊だ。

Two of Us
幸せの時は流れて・‥Floating

Jealousy
人はえてして合い反する感情のなかに自分の身を置く。
優しさ────傲慢さ センチメンタリズム────シニシズム
楽天性────自己破壊への欲望 上昇志向────降下感覚
そんな合い反する感情の向かう先は…

Cape Hotel
リビエラ、ジェラルド・マーフィとセーラ・マーフィの夫婦は何を考えていたのだろうか?
サティの作品は文学的に縛られていたのだろうか?
表層的な都市で育つ音楽はその資源的な根を絶たれる。
明快で表面のみからなる音楽は文学的な表現とは違う土壌にある。

狂気
目標を達成することで自分を駆り立てていた悪霊を統御できるはず。
自己を証明することによって平安を得られる。

冬の夢
魂の孤独な旅、寒い「氷の宮殿」を抜けて何処へ行くのか?
人は様々な感情のなかで成功と失敗を繰り返して、何処へ行くのか?
シューベルトの「冬の旅」から「白鳥の歌」には深い人生への慈愛と悲しみに満ちている。

Tango X.T.C.
なぜ1920年代のタンゴはセンチメンタルなのか?
ブエノスアイレスは。世紀末から都市化されたのであり、ニューヨークとほとんど同じなのだ。
とすれば20年代に置いてこの都市は
大自然の平原から引き抜かれた根なし草の悲哀を味わっていた
パンパ────ブエノスアイレス────パリ、これはタンゴの道そのものだ。
20年代のタンゴには草原から切り離されて、
再び戻ることのできない都市生活者の悲しみが響いている。

My Lost City
彼を描くのが目的ではない。
彼を通して自分を見つめるのが目的なのだ。
それはあたかも意志を持った鏡のように(彼と僕が同じだということ、又は似ている事ではなく)
そこで乱反射されたものを受けとることなのだ。
つまり僕が彼という鏡を通して写る姿を見たときまで見えなかった自分が
写しだされるかも知れないのだ。
そこは何処までも果てしなく続くビルの谷間ではなかった。
そこには限りがあった。
想像の世界に営々と築き上げてきた光り輝く宮殿は、脆くも地上に崩れ落ちた。

久石譲

 

 

アビーロード・スタジオでの録音、深い絆で結ばれたマイク・ジャレット(エンジニア)、チェロ版ナウシカ組曲などでも有名な藤原真理(チェロ)による「Two of Us」「冬の夢」、リチャード・ガリアーノ(バンドネオン)による「Jealousy」「Tango X.T.C.」、そして久石譲の決意表明にして渾身の名曲「漂流者 -Drifting in the City」。最高の音楽を求めて、当時できうるすべてを注ぎこんだ作品。

当時の久石譲が純度高く封じ込まれている本作品は、当時の著書にも詳しく書かれている。1920年代という時代について、MY LOST CITY・漂流者というキーワードやコンセプトについて、バンドネオンやタンゴへのこだわりについて。

「漂流者—Drifting in the City」の出だしの音型を決めるのに10日以上悩んだとあるとおり、人に受けようとするのではなく、自分が納得するものを追い求めた決意表明のようなもの渾身の楽曲。非常にシンプルなメロディで8分も展開していくための厳選されたメロディ、出たしからその世界観が広がるような強いメロディ。

当時久石譲はこのように語っている。「華やかでなくて、でも優しくて、それで寂しくて、乾いていて、激しくて、劇的で、人間の強さと脆さ、優しさと哀しさ、すべてを持っていて、すべてから距離を保っている、そういうメロディに行き着きたいという思いが、ずっとあった。いろんな人にいろんな感情を抱いてもらう。そのためには、こちら側は自分の感情をぶつけないことだ。ぎりぎりまでテンションを盛り上げたところで作れば、聴く人にいろんなインスピレーションを持ってもらえる。」

 

 

 

My Lost City

MY LOST CITY
HOMMAGE A Mr. SCOTT FITZGERALD

1. PROLOGUE
2. 漂流者~DRIFTING IN THE CITY
3. 1920〜AGE OF ILLUSION
4. SOLITUDE〜IN HER・‥
5. TWO OF US
6. JEALOUSY
7. CAPE HOTEL
8. 狂気 MADNESS
9. 冬の夢 WINTER DREAMS
10. TANGO X.T.C.
11. MY LOST CITY

Recorded at Abbey Road Studio, London etc
Recording Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixing Engineer: Mike Jarratt(Abbey Road Studio)

Musicians are
Piano:Joe Hisaishi
Strings:Gavyn Wright Londons Strings (14Vioins,4Violas,2Cello,2Bass)
Flute:Andy Findon 3. 8.
Bandonéon:Richard Galliano 6. 10.
Cello:Mari Fujiwara 5. 9.

Musicians
Gavyn Wright London Strings
(Strings Conductor:Mick Ingman)
Andy Findon(Flute)
Mari Fujisawa(Cello)
Masatsugu Shinozaki(Violin)
Gavyn Wright(Violin)
Wilf Gibson(Violin)
George Robertson(Viola)
Anthony Pleeth(Cello)
Chris Laurence(Dble Bass)
Richard Galliano(Bandoneon)
Phil Todd(Sax)
Frank Ricotti(Vib.)

Recorded at:
Abbey Road Studio,London
Studio Guillame Tell,Paris
Wonder Station,Tokyo
Onkio Haus,Tokyo
Sedie Studio,Tokyo
Marine Studio,Kannon-zaki

 

Disc. 久石譲 『Dream』 *Unreleased

1990年 CM放送

 

サントリー 「ピュアモルトウイスキー 山崎」 60秒

音楽:久石譲「Dream」

 

 

幻想的なフェアライトのヴォイスとピアノで始まり、メロディもピアノを基調とした優雅で美しい旋律。後半にかけてシンセサイザーによるストリングス・ヴォイスが重なり、神秘的でもあり上品な世界観を演出している。

曲名「Dream」であることから、オリジナルアルバム『I am』収録の「Dream」と基本は同曲である。ただし異なる箇所の多い。

メロディの旋律が異なる、調性が異なる、アレンジが異なる。

CM版は変ホ長調でありCD版はト長調、調性が異なるだけでも雰囲気は変わってくる。またCM版の音色・アレンジ・構成は上記のとおりで、CD版はアコースティックなピアノと弦楽合奏を基調としている。おそらくCM版の完成が先であり、その後アルバム収録に際して楽曲を練り直したために、結果メロディも多少異なる動きとなったのだと推測される。

CMヴァージョンもとても完成度が高く、CD化してほしいほどの幻の名曲である。

 

 

(CM映像より)

 

Disc. 久石譲 『Sunny Shore』 *Unreleased

1990年 CM放送

 

日産 サニー CM音楽を久石譲が担当している。

音楽:久石譲「Sunny Shore」

 

1990年1月13日~
日産サニー B13サニー
「サニーの夢は、ひとつじゃない。」篇
「スモールの革命が、はじまった。」篇

Version.1
陣内孝則(出演)のアカペラではじまり、途中から小編成オーケストラによる伴奏が入る。前半は英語歌詞、後半はハミングである。

Version.2
陣内孝則(出演)ナレーションのバッグに、流れるようなしっとりとしたオーケストラバージョンとなっている。

Version.3
躍動的なオーケストラパーカッションに刻む弦楽、リズミカルに駆け抜けるなか、後半に壮大なメロディを奏でる。

 

全バージョンともに、ベースはシンセサイザー音源で作られている。

ちなみに、オリジナルアルバム『I am』に収録されている「Sunny Shore」と同一楽曲であるが、アレンジはすべてCMオリジナルバージョンになっている。

 

 

(CM映像より)