Disc. 久石譲 『Life is』 *Unreleased

2016年7月29日 世界初演

 

エリエールブランドの大王製紙株式会社は、久石譲書き下ろしによるエリエールブランドテーマ曲を制作。当社では初めてとなる。また、同楽曲は7月29日に長野から始まる「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」において初披露。大王製紙エリエールは特別協賛をつとめている。

 

 

Life is

エリエールのブランドテーマ曲。本公演で初披露される「Life is」は、軽やかなメロディーが”Life”のように、やさしく、そして力強く躍動する。

(楽曲解説:前島秀国 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

 

Life is
とてもクラシカルな軽やかな旋律、バロック・古典音楽のような清いシンプルさ。主題を木管や金管が奏であいながら、弦楽やパーカッションを含めて壮大になっていきます。とても清涼感のある佳曲です。これがCM曲でもないブランドイメージ曲ですから、贅沢の極みですね。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2016.9.14 追記

9月21日~ CMオンエアスタート
「3日目の朝」篇

今回のTVCMの音楽は、作曲家 久石譲さんが書き下ろしたエリエールのブランドテーマ曲「Life is」をTVCM版として特別にレコーディングした曲です。

 

 

2016.9.21 追記

公式サイト:エリエール |CMライブラリ にてCM動画公開 (※2016.9.21現在)

  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 15秒
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 30秒
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 メイキング 1分
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 メッセージ 30秒 (有村架純さんコメント動画)

 

 

2016.11.14 追記

 

 

エリエール CM 久石譲 有村架純

 

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

2016年7月13日 CD発売 UMCK-1545/6
2016年7月27日 LP発売 UMJK-9062/3(完全限定生産)

 

大迫力のコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015」を完全収録!壮大な交響詩として生まれ変わった完全版「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」も初音源化!

戦後70周年の特別な年に開催された「久石譲&W.D.O.2015」。「The End of the World」(声楽と管弦楽のための)+(久石 譲リコンポーズド「The End of the World」-ヴォーカルナンバー 「この世の果てまで」)の壮大な交響作品をはじめ、日本への想いを込めて書き下ろした「祈りのうた」(ピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版)、そして長年の時を経て壮大な交響詩として生まれ変わった「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」(映画『風の谷のナウシカ』より)の完全版が満を持して音源化。

根強いファンをもつ「il porco rosso」「Madness」(映画『紅の豚』より)、「Dream More」(サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム CMテーマ曲)、さらにアンコール曲「Your Story 2015」(映画『悪人』主題歌より)、「World Dreams」(W.D.O.テーマ曲 合唱付き)まで約2時間を超える迫力のコンサートの模様を完全収録!

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

アルバム『The End of the World』に寄せて

鎮魂の鐘で始まり、希望の鐘で終わる──。2015年8月に開催された久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)の全国ツアー(以下、W.D.O.2015)と、その演奏曲を完全収録した本盤『The End of the World』の内容を要約するならば、ズバリその一言に尽きる。戦後70周年という特別な年にふさわしい、練りに練られたプログラム。ただし、そこにたどり着くまでは、約1年にも及ぶ準備期間と、絶え間ない試行錯誤の繰り返しを必要とした。

2014年、すなわちW.D.O.結成から10年目の節目の年、久石は3年ぶりのW.D.O.のコンサートを指揮した。「ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう」という結成当初からのコンセプトはそのままに、10年の間に飛躍を遂げたW.D.O.はポップス・オーケストラというカテゴリーの枠を大きく越え、”本物の音楽”を志向するオーケストラに成長していた。しかもW.D.O.は、日本人にとって特別な意味をもつ夏-広島・長崎の原爆投下と8月15日の終戦記念日を含む夏-という季節に限定してコンサートを開催する。そこで久石は、W.D.O.2014のテーマを「鎮魂の時」と位置づけ、クシシュトフ・ペンデレツキ作曲《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、J・Sバッハ作曲《G線上のアリア》、それに太平洋戦争に関連する久石の映画音楽作品-アルバム『WORKS IV』にも収録されている《ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」》《「風立ちぬ」第2組曲》《小さいおうち》の3曲-を演奏した。このW.D.O.2014の演奏会は大きな反響を巻き起こし、演奏終了直後、久石は聴衆の前で翌年のW.D.O.ツアー開催を宣言した。久石とW.D.O.が提示したメッセージが見事に伝わり、これまでになかったようなシリアスなプログラムでも聴衆に受け入れてもらえる、という確信が得られたからである。

その翌月、久石は30年来の夢だった「現代のすぐれた音楽を紹介する演奏会」、すなわち「Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE」第1回演奏会(MF Vol.1)を開催し、かねてから彼が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家、ヘンリク・グレツキとアルヴォ・ペルトの作品を演奏・紹介した。祈りに満ちた彼らの音楽は、第2次世界大戦のホロコーストの悲劇や、冷戦時代の恐怖政治の抑圧と密接な関わりを持っている。ゴレツキとペルトの演奏は、来たる2015年にやってくる戦後70周年を久石に強く意識させることになった。

MF Vol.1の演奏会が成功裏に終わったその夜、久石は早くもW.D.O.2015の実現に向けて構想を練り始め、プログラムのテーマを「祈り」とする基本方針を固めた。ツアー開催地には、久石の強い希望で広島と仙台が含まれることが決まった。言うまでもなく、2015年の原爆投下70周年と、2011年東日本大震災から立ち直りつつある東北地方を意識しての決定である(奇しくも広島公演は、8月6日の原爆の日に開催されることになった)。その際、久石が強調していたのは「単に”追悼”や”鎮魂”を掲げるのではなく、そこから先の未来に向けたメッセージも伝えなくてはならない」という点だった。それが出来なければ、W.D.O.は真の意味で「ワールド・ドリーム」を名乗る資格がない──そのような強い決意のもと、久石はW.D.O.2015のプログラミングに着手した。

プログラムの中で最初に決まったのは、《Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015》である。久石の映画音楽作品、特に宮崎駿監督作品のための音楽は、日本のみならず海外でも演奏頻度が飛躍的に高まり、ここ10年は久石以外の指揮者に演奏を委ねる機会も増えてきた。そこで久石は、宮崎作品のオーケストラ譜を完全版(Definitive Edition)の形で整え、W.D.O.で順次初演していくという計画を立てた。その先陣を切る作品としては、やはり『風の谷のナウシカ』がいちばんふさわしい。宮崎監督と久石が初めてタッグを組んだ記念すべき第1作という歴史的意義に加え、『ナウシカ』が描いている”破壊と再生”というテーマがW.D.O. 2015のプログラムにふさわしいと、久石は判断した。

では、他の曲をどうするか? どうしたら、戦後70周年にふさわしく、かつW.D.O.らしいプログラムを組み立てることが出来るか? ここから、久石の長い格闘が始まった。ある段階では、第2次世界大戦の戦没者や犠牲者のために書かれたクラシック曲、あるいはもっと広い意味で”追悼”をテーマにしたクラシック曲なども、演奏の可能性がかなり真剣に検討された。しかしながら、W.D.O.は既存の常設オーケストラと異なり、クラシックだけを演奏する団体ではあに。レクイエム(鎮魂ミサ曲)のような作品ばかり並べた”追悼演奏会”にしたのでは、W.D.O.らしさが失われてしまう。そうは言っても、W.D.O.2015はヒロシマと東北に向けたステートメントをきとんと伝えなくてはならない──。このような雁字搦めの状況の中、ありとあらゆる可能性が候補に挙がり、また破棄されていった。

そうした中から生まれてきたのが、久石が2008年に作曲した《The End of the World》を、W.D.O.2015のプログラムの中で演奏するというアイディアである。もともとこの作品は、久石が2001年同時多発テロ(9.11)に着想を得て作曲したといういきさつがある。そして、W.D.O.のテーマ曲である《World Dreams》も、久石が9.11を強く意識して作曲した作品だ。原爆投下70周年と東日本大震災、これだけでも非常に大きいテーマであるが、久石はそこに9.11を加えることで、戦後70年のあいだに我々日本人が何を体験し、何を感じてきたか、その重みを世界全体の普遍性の中で捉え、《The End of the World》に集約して表現しようと考えた。そのアイディアと軌を一にする形で、東北に向けた新作をW.D.O.2015で演奏するというプランも生まれてきた。久石が《祈りのうた》を作曲したのは、そのプランが生まれてからすぐのことである。

かくして、”祈り”をテーマにしたW.D.O.2015のプログラムは《祈りのうた》《The End of the World》《ナウシカ》の3曲を中心にして構成する、という全体の骨格が固まった。原爆投下70周年の2015年8月6日に広島で演奏しても、東日本大震災の記憶が残る仙台で演奏しても、全く恥ずかしくないプログラムである。まさに「世界の終わり」を垣間見るような重量級の内容だが、そこまで徹底的に突き詰めてこそ、W.D.O.が振り子を揺り戻すようにエンタテインメント性豊かな音楽を演奏することの意味が生まれてくる。その部分に関しては、2015年の久石の新作《Dream More》と、宮崎作品の《紅の豚》を演奏することで万全を期した。

この間、久石は2015年2月の台湾公演と4月のイタリア公演、5月の新日本フィル演奏会(ペルトの交響曲第3番など)、アルバム『Minima_Rhythm II』の準備とリリース、それらと並行して山田洋次監督作『家族はつらいよ』をはじめとする数々のエンタテインメント音楽の作曲など、凄まじいスケジュールをこなしながらW.D.O.2015の準備を進めていった。特に《The End of the World》に関しては、「祈り」というテーマにふさわしい演奏にすべく、作品の構成そのものが大幅に見直された。試行錯誤の結果、《The End of the World》はリハーサル開始まであとわずかというギリギリのタイミングで、ようやく最終的な楽章構成が確定した。

2015年8月5日の大阪公演を皮切りに、全国5都市計6回の公演がもたれたW.D.O.2015。筆者はそのうち、東京公演2回を聴いたが、プログラム第1曲の《祈りのうた》がチューブラー・ベルズで始まり、最後のアンコール曲《World Dreams》の最終和音がチューブラー・ベルズで閉じられるのを聴いて、言葉では表現しようのない感動に打ち震えた。鐘で始まり、鐘で終わるW.D.O.2015。2つの鐘は、同じではない。最初は鎮魂の鐘、最後は希望の鐘だ。この2つの鐘が象徴しているように、W.D.O.2015はプログラム全体にわたり、「鎮魂から希望へ」というトータル・コンセプトが見事に貫かれていた。これほど考え抜かれたコンサートは、久石と言えども、そうそう作り上げることが出来るものではない。だからこそ、本盤『The End of the World』のリリースに際しては、アンコールを含むW.D.O.2015の全演奏曲が1曲も割愛されることなく完全収録されることになった(収録フォーマットの関係上、CDとLPでは曲順が若干異なる)。戦後70周年にふさわしい、久石譲&W.D.O.の歴史的名盤がここに誕生した。

 

 

楽曲解説

祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-

原曲は2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGMのピアノ独奏曲として書かれた。久石がホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)の様式で初めて作曲した楽曲である。本盤に収録されているピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版はW.D.O.2015のプログラム第1番として演奏され、その際、「ヘンリク・グレツキへのオマージュ Homage to Henryk Górecki」という副題が付加された。グレツキは、アウシュヴィッツ強制収容所の悲劇-ヒロシマと共に第2次世界大戦を象徴する悲劇-をテーマにした《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》で知られるホーリー・ミニマリズムの作曲家である。冒頭、チューブラー・ベルズが弔鐘のように鳴り響くと、最初のセクションでピアノ独奏が透明感あふれる三和音のモティーフを導入し、中間部のセクションでピアノとヴァイオリンが悲しみに満ちた和音を演奏した後、嗚咽がこみ上げるような弦楽合奏が加わり、最初のセクションが再現されるという構成になっている。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
 I. Collapse - II. Grace of the St. Paul -
III. D.e.a.d - IV. Beyond the World

原曲は、久石が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象を基に作曲された。当初《After 9.11》というタイトルが付けられていたように、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。この楽曲は2008年の初演から本盤のW.D.O.2015ヴァージョンまで、かなり複雑な変遷をたどっているので、以下にその過程を列挙する。

(A)コンサート・ツアー『Piano Stories 2008』初演ヴァージョン(12本のチェロ、コントラバス、ハープ、パーカッション、ピアノのための)
I. Collapse - II. Grace of the St. Paul - III. Beyond the World の3楽章からなる組曲。

(B)アルバム『Another Piano Stories~The End of the World』(2009年2月リリース)収録ヴァージョン
上記(A)に後述のヴォーカル・ナンバー《The End of the World》(ヴォーカルは久石)を加えた4楽章の組曲版。

(C)アルバム『Minima_Rhythm』(2009年8月リリース)収録バージョン(合唱と管弦楽のための)
3楽章版(A)を大幅に加筆してフル・オーケストラ化。併せて第3楽章〈Beyond the World〉では、(A)の構想段階で終わっていた合唱の導入が初めて実現した。

(D)本盤収録のW.D.O.2015ヴァージョン(声楽と管弦楽のための)
(C)の〈Grace of the St.Paul〉と〈Beyond the World〉の合間に、新たな楽章〈D.e.a.d〉を追加。終楽章〈Beyond the World〉の後、ヴォーカル・ナンバー《The End of the World》が続き、全5楽章の組曲のように演奏される。

I. Collapse
グラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(idéefixe)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽章を持つ第2主題から構成される。

II. Grace of the St.Paul
楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。

III. D.e.a.d
原曲は、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》(曲名は”死”と、D(レ)E(ミ)A(ラ)D(レ)の音名のダブル・ミーニング)の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。今回、新たに声楽と弦楽合奏のために再構成され、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした。声楽パートをカウンターテナーが歌うことで、歌詞が特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言のように響いてくる。

IV. Beyond the World
「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように、「生への意思」に転じていくさまを、8分の11拍子という複雑な変拍子と、絶えず変化を続ける浮遊感に満ちたハーモニーによって表現した壮大な楽章。アルバム『Minima_Rhythm』録音時に、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが付加された。楽章の終わりには、チューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。

Recomposed by Joe Hisaishi The End of the World
原曲は、ポップス歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー(邦題は《この世の果てまで》)。歌詞の内容は、作詞者のSylvia Deeが14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。このヴォーカル・ナンバーは、上述の組曲《The End of the World》の作曲にも大きなインスピレーションを与えた。本楽曲のメロディーの美しさをかねてから高く評価していた久石は、アルバム『Another Piano Stories』の時と同様にヴォーカル・ナンバーをリコンポーズし、それを組曲のエピローグとして付加している。交響曲の中に世俗曲や民謡を引用した、グスタフ・マーラーの方法論にも近いと言えるだろう。〈D.e.a.d〉とは正反対に、愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うカウンターテナーと、その嘆きを暖かく包み込む崇高な合唱。その背後で静かに鳴り響くチューブラー・ベルズのリズム動機は、もはや恐ろしい”警鐘”ではなく、祈りの弔鐘”へと優しく姿を変えている。かくして9.11の悲しみは、誰もが共感し得る私たち自身の悲しみに昇華して普遍化を遂げ、戦後70周年にふさわしい世界観を獲得することに成功している。

 

紅の豚
il porco rosso - Madness

世界大恐慌のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎駿監督の冒険ロマン。物語の時代が1920年代後半に設定されていたため、久石の音楽も1920年台のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤収録の2曲のうち、前半の〈il porco rosso〉はイメージ・アルバムで《マルコとジーナのテーマ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャージーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナの”ロマンス”をノスタルジックに演出する。後半の〈Madness〉は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家フィッツジェラルドをテーマにした久石の1992年のソロ・アルバム『My Lost City』(アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)に収録されていたが、宮崎監督の強い要望で本編使用曲に決まった、という逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半のバブルの”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した〈Madness〉。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブルは『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Dream More

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリーム」のCMテーマとして作曲された、2015年の久石の新作のひとつ。CM発表会見にて、久石は「ノスタルジックで感傷的なメロディー」を「いろいろな味わいのする多重奏」に仕上げたと語っている。本盤に収録されているのは、W.D.O.2015で世界初演されたフル・ヴァージョン。《Dream More》という曲名には、現状に満足せず、さらなる夢(ドリーム)を追い求めていこうとする久石とW.D.O.の飽くなきチャレンジ精神が込められているように思われる。

 

Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
(a)風の伝説 – (b)遠い日々 – (c)ナウシカ・レクイエム – (d)メーヴェとコルベットの戦い –
(e)谷への道 – (f)蘇る巨神兵 – (g)遠い日々 – (h)鳥の人 – (i)風の伝説

最終戦争「火の七日間」が勃発し、巨神兵が破壊の限りを尽くして崩壊した巨大産業文明。それから1000年後、荒廃した世界の中で暮らす少女ナウシカは、戦乱の中で自然との共生を強く訴えかけ、自ら命を投げ出すことで世界に奇跡を起こす。久石と宮崎監督がタッグを組んだ記念すべき第1作にして、久石の代表作のひとつでもある『風の谷のナウシカ』の音楽は、久石自身のコンサートに限っても、これまでさまざまな編成によって演奏されてきた。演奏会用の管弦楽曲に関しては、メインテーマ〈風の伝説〉の単独演奏ほか、すでに2つの組曲が交響詩の形で演奏されている。すなわち、アルバム『WORKS I』収録の1997年ヴァージョン(a, b, c, d, e, g, h, i)と、BD&DVD『久石譲 in 武道館』およびアルバム『The Best of Cinema Music』収録の2008年ヴァージョン(a, b, c, d, g, h, i)である。今回の演奏に際しては、久石は『ナウシカ』のために作曲した素材をすべて検討し直し、完全版となる新たなヴァージョンを作り上げた。この完全版は、近く楽譜出版が予定されている。

(a)風の伝説
本編オープニングタイトルの音楽。衝撃的なティンパニで始まる導入部の後、久石のソロ・ピアノが万感の想いを込めてメインテーマを演奏する。そのメロディーの冒頭部分は、あたかも1980年代の映画音楽のトレンドに真っ向から抵抗するかのように、コード進行をほとんど変えない形で作曲されている。ミニマル・ミュージックの作曲家ならではのストイックな音楽的姿勢と、文字通り身を削るようなナウシカの壮絶な生きざまが重なって聴こえてくるのは、筆者ひとりだけではないだろう。

(b)遠い日々
「ラン・ランララ・ランランラン」の歌詞で知られるモティーフを、オーケストラのみで扱った部分。軽やかな木管がモティーフを提示した後、バロック風のフーガが続く。このフーガは、チェロとピアノのために書かれた《「風の谷のナウシカ」より組曲5つのメロディー》第4曲のフゲッタを発展させたものである(蛇足だが、曲のイメージと本編の印象から、「ラン・ランララ・ランランラン」のモティーフを〈ナウシカ・レクイエム〉と表記する解説がしばしば見受けられるが、それらはすべて誤り。正しくは〈遠い日々〉のモティーフである)。

(c)ナウシカ・レクイエム
自らの命を犠牲にして、虫たちの暴走を止めたナウシカを人々が嘆き悲しむシーンの音楽。バロックの作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルにも通じる力強い楽想が、聴く者に強い印象を与える。日本武道館で演奏された2008年ヴァージョンより、この部分の音楽には合唱パートが付加され、レクイエム(鎮魂ミサ曲)の〈怒りの日〉のラテン語歌詞を歌う。歌詞と訳は次の通り。「Dies iræ, dies illa 怒りの日が到来する時/solvet sæclum in favilla この世は灰燼に帰すだろう/teste David cum Sibylla ダビデとシビラの予言のように/Quantus tremor est futurus その恐ろしさは如何ばかりか」。

(d)メーヴェとコルベットの戦い
小型飛行機メーヴェを操るナウシカがトルメキア軍の大型戦闘機コルベットの追撃をかわすシーンの、ダイナミックな音楽。

(e)谷への道
サントラ録音に先立ち、久石が宮崎監督の絵コンテを基に作曲・録音した『イメージアルバム 鳥の人…』および『シンフォニー 風の伝説』に収録されていた楽曲。本編では未使用に終わったが、『ナウシカ』の世界観を表現するのに欠かせない重要な音楽のひとつである。当初からチェロの音色を意識して作曲されたという経緯もあり、本盤に聴かれる演奏でも、チェロがモティーフに豊かな膨らみを与えている。

(f)蘇る巨神兵
今回、初めて交響詩の中に組み込まれたモティーフ。不気味なグリッサンドを歌う合唱パートが新たに付加され、巨神兵の恐怖を強調する。

(g)遠い日々
本編のクライマックス、絶命したはずのナウシカが蘇る感動的なシーンの音楽。サントラ録音時、まだ4歳だった久石の娘・麻衣が「ラン・ランララ・ランランラン」を歌い、絶大な効果を上げた逸話はあまりにも有名である。W.D.O.2015の演奏に先立つリハーサルでは、「オペラ歌手のように朗々と歌わず、あくまでも気負わないで」と久石が指示を与えていたのが印象的だった。

(h)鳥の人
上の(g)に続き、人々がナウシカの再生と平和の到来を喜ぶラストの音楽。壮大な合唱が「ラララン・ランランラン」と歌い、音楽は歓喜の頂点に達する。

(i)風の伝説
オーボエが〈風の伝説〉のモティーフをしみじみと回想した後、本編エンドロールの音楽を凝縮したエピソードで全曲が閉じられる。

 

Your Story 2015

原曲は、第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀音楽賞ほか5部門に輝いた李相日監督『悪人』の主題歌。W.D.O.2015のアンコールで、テナーとカウンターテナーのための新ヴァージョンが披露された(本盤の演奏では、高橋淳が両方の声域にまたがる形で歌唱を披露している)。2011年、東日本大震災の3ヶ月後に開催されたチャリティ・コンサートでは、久石が撮影してきた被災地のスチール写真の投影と共に《Your Story》が演奏され、聴衆に深い感銘を与えた。そこには「Your Storyとはあなたたち、わたしたち日本人のストーリー」という言外の意味が込められていたように思われる。以上のような文脈を考慮し、別掲の歌詞日本語訳は、サントラ盤所収の日本語訳とは異なる形で訳出した。

 

World Dreams  for Mixed Chorus and Orchestra

2004年、久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた歳に書き下ろした、W.D.O.テーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で・・・・』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国家のような格調のあるメロディーが頭を過った」。本盤では、2011年に麻衣が作詞した歌詞を合唱が歌うヴァージョンが演奏されている。久石とW.D.O.が奏で続ける”世界の夢”(ワールド・ドリーム)を象徴した、崇高なメロディー。そこに込められた”希望の力”を、チューブラー・ベルズが心に刻みこむよういして静かに鳴り響き、W.D.O.2015の幕となる。

2016年5月27日、オバマ大統領広島訪問の日に
前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(寄稿・楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

World Dreams
作曲:久石譲 歌詞:麻衣

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の声は 希望の力
時を越え響き渡れ 愛を歌おう

哀しみにつまずけば 自由がみえる
歓びの灯が消えても 共に歩き続けよう
世界の夢よ 全ての人に
届けようこの歌声 愛を信じて

夢をみるひとすじの小さな光
千年の時を経て 明日を照らし続ける
愛を歌おう

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の夢よ すべての人よ
誇り高きこの夢に 愛を誓おう
永久(とわ)に誓おう

(「World Dreams」歌詞 ~CDライナーノーツより)

※他作品歌詞もすべてライナーノーツ掲載あり

 

 

 

「The end of the World」について

-《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。

久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。

-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。

久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。

-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。

久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

「実は、直前まで決定するのに苦しんでいて、やっと「The End of the World」というタイトルに決まったんです。この「The End of the World」には同名のスタンダード曲も存在して、「あなたがいないと私の世界が終わる」というような意味のラブソングです。でも、この曲のあなたを複数形でとらえ、あなたたちが存在していなければ、世界は終わってしまうといった、もっと広い意味で捉えると、たぶん今、僕が考えている世界観にとても近いんじゃないかと感じて、敢えてこの同じタイトルを用いた理由です。楽曲は、1楽章は4分の6拍子から始まり、最終楽章が8分の11拍子という、大変難しい曲。おまけに、絶えずピアノが鳴らす基本リズムがあり、それに他の楽器が絡み合う、本当に”世界のカオス”、まさに”混沌”を表現するような、アンサンブル自体がカオスになってしまうんじゃないかというくらいの難曲になってしまいました。」

Blog. 「久石譲 ~Piano Stories 2008~」 コンサート・パンフレット より

 

 

 

「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」について

久石譲インタビュー:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。

これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

 

 

 

 

The End of The World LP o

◆CD「The End of the World」
【DISC_1】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【DISC_2】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
5. Your Story 2015
6. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

※初回生産限定スペシャルパッケージ(スリーブ付仕様)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
(DISC 1 Track-6 Music Recomposed and Produced by Joe Hisaishi)

Conducted:Joe Hisaishi
Performed:New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Concert Master:Yasushi Toyoshima

Piano:Joe Hisaishi (DISC 1 Track-1 / DISC 2 Track-1,2,4,5)
Countertenor / Tenor:Jun Takahashi (DISC 1 Track-4,6 / DISC 2 Track-5)
Chorus:Ritsuyukai Choir (DISC 1 Track-5,6 / DISC 2 Track-4,6)
Chorus Master:Takuya Yokoyama (Ritsuyukai Choir)

Live Recorded at The
Symphony Hall, Osaka (5th August, 2015)
Suntory Hall, Tokyo (8th August, 2015)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (9th August, 2015)

Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)

Photograph:Ryoichi Saito

and more…

 

 

◆LP「The End of the World」
【Side_A】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
【Side_B】
The End of the World for Vocalists and Orchestra
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【Side_C】
1. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
【Side_D】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Your Story 2015
5. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

 

Disc. 久石譲 『Nightmare』 *Unreleased

2016年6月22日 GAME発売

 

タイトル:シノビナイトメア
ジャンル:ダンジョン探索型 大河 RPG
価格:基本無料(一部アプリ内課金あり)
プラットフォーム:iOS/Android

曲名:Nightmare

 

フルオーケストラにパーカッションを盛り込んだ壮大なメインテーマ。和の要素もありながらファンタジー要素も兼ね備えた作品になっている。変拍子による旋律と緊張感を高める展開が何度聴いても飽きさせない構成となっている。躍動感やスリリングさもありながら、ゲーム世界観の女性らしい優雅さや妖艶を表現している。

未発売楽曲であるが、下記公式サイト予告編動画にて、楽曲フルサイズ約3分を視聴可能となっている。
(2016年6月現在)

「シノビナイトメア」公式予告編動画

 

 

2018.8 追記

「ドラマCD シノビナイトメア コンプリートBOX」に楽曲収録される。

 

 

 

Disc. 久石譲 『Orbis for Chorus, Organ and Orchestra』 *Unreleased

2015年12月11日 世界初演

 

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra 
I. Orbis ~環 / II. Dum fāta sinunt ~運命が許す間は / III. Mundus et Victoria ~世界と勝利
初演:2015年12月11日 東京芸術劇場
演奏:久石譲(指揮)、読売日本交響楽団

 

 

「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」(2007)

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「Orbis」 ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~
曲名はラテン語で”環”や”繋がり”を意味します。2007年の「サントリー1万人の第九」のために作曲した序曲で、サントリーホールのパイプオルガンと大阪城ホールを二元中継で”繋ぐ”という発想から生まれました。祝典序曲的な華やかな性格と、水面に落ちた水滴が波紋の”環”を広げていくようなイメージを意識しながら作曲しています。歌詞に関しては、ベートーヴェンの《第九》と同じように、いくつかのキーワードとなる言葉を配置し、その言葉の持つアクセントが音楽的要素として器楽の中でどこまで利用できるか、という点に比重を置きました。”声楽曲”のように歌詞の意味内容を深く追求していく音楽とは異なります。言葉として選んだ「レティーシア/歓喜」や「パラディウス/天国」といったラテン語は、結果的にベートーヴェンが《第九》のために選んだ歌詞と近い内容になっていますね。作曲の発想としては、音楽をフレーズごとに組み立てていくのではなく、拍が1拍ずつズレていくミニマル・ミュージックの手法を用いているので、演奏が大変難しい作品です。

「Orbis」ラテン語のキーワード

・Orbis = 環 ・Laetitia = 喜び ・Anima = 魂 ・Sonus, Sonitus =音 ・Paradisus = 天国
・Jubilatio = 歓喜 ・Sol = 太陽 ・Rosa = 薔薇 ・Aqua = 水 ・Caritas, Fraternitatis = 兄弟愛
・Mundus = 世界 ・Victoria = 勝利 ・Amicus = 友人

Blog. 「久石譲 第九スペシャル」(2013) コンサート・プログラムより
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CD作品としては「メロディフォニー」(2010)にてロンドン交響楽団演奏でレコーディングされている。

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」(2015)

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
オルビス ~混声合唱、オルガン、オーケストラのための
I. Orbis ~環
II. Dum fata sinunt ~運命が許す間は
III. Mundus et Victoria ~世界と勝利

作詞:久石譲

 

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新版「Orbis」について
2007年に「サントリー1万人の第九」のための序曲として委嘱されて作った「Orbis」は、ラテン語で「環」や「つながり」を意味しています。約10分の長さですが、11/8拍子の速いパートもあり、難易度はかなり高いものがあります。ですが演奏の度にもっと長く聴きたいという要望もあり、僕も内容を充実させたいという思いがあったので、今回全3楽章、約25分の作品として仕上げました。

しかし、8年前の楽曲と対になる曲を今作るという作業は難航しました。当然ですが、8年前の自分と今の自分は違う、作曲の方法も違っています。万物流転です。けれども元「Orbis」があるので、それと大幅にスタイルが違う方法をとるわけにはいかない。それではまとまりがなくなる。

あれこれ思い倦ねていたある日の昼下がり、ニュースでフランスのテロ事件を知りました。絶望的な気持ち、「世界はどこに行くのだろうか?」と考えながら仕事場に入ったのですが、その日の夜、第2楽章は、ほぼ完成してしまった。たった数時間です。その後、ラテン語の事諺(ことわざ)で「運命が許す間は(あなたたちは)幸せに生きるがよい。(私たちは)生きているあいだ、生きようではないか」という言葉に出会い、この楽曲が成立したことを確信しました。だから第2楽章のタイトルは日本語で「運命が許す間は」にしたわけです。何故こんな悲惨な事件をきっかけに曲を書いたのか? このことは養老孟司先生と僕の対談本『耳で考える』の中で、先生が「インテンショナリティ=志向性」とはっきり語っている。つまり外部からの情報が言語化され脳を刺激するとそれが運動(作曲)という反射に直結した。ちょっと難しいですが、詳しく知りたい方は本を読んでください。

それにしても不思議なものです。楽しいことや幸せを感じたときに曲を書いた記憶がありません。おそらく自分が満ち足りてしまったら、曲を書いて何かを訴える必要がなくなるのかもしれません。

第3楽章は「Orbis」のあとに作った「Prime of Youth」をベースに合唱を加えて全面的に改作しました。この楽曲も11/8拍子です。

ベートーヴェンの「第九」と一緒に演奏することは、とても畏れ多いことなのですが、作曲家として皆さんに聴いていただけることを、とても楽しみにしています。

平成27年12月6日 久石譲

(「久石譲 第九スペシャル 2015」コンサートパンフレットより)
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※同パンフレットには、久石譲作詞による全3楽章の歌詞も掲載されている。ラテン語による原詞と日本語訳詞が併記されている。現時点(2015.12現在)での掲載は差し控えている。

 

 

ここからは初演感想・補足などを含むレビューである。

第1楽章、オリジナル版「Orbis」(2007)がこの楽章にあたる。新版「Orbis」(2015)には、細かな手直しは施されているが、楽曲構成は従来を継承している。一聴してわかるのはテンポが遅くなっていること、チューブラーベルが編成に加えられたことだろう。祝典序曲としての単楽曲ではなくなり、ファンファーレのように躍動感で一気に駆け抜けるところから、楽章のはじまりとしての役割に変化した。全3楽章という作品構成ゆえと、第2・第3楽章までつづくコーラスの役割に従来以上の重きをおいた結果、テンポをおさえるとこになったのではないか。実際、この第1楽章で散り放たれたキーワードたちが、後の楽章において結晶化してつながりをもってくる。そう捉えると、ここで言葉をしっかりと響かせることは必然性を帯びてくる。

第2楽章、通奏低音のようにオルガンが楽章を通してゆっくりとしたミニマルなアルペジオ旋律を奏でる。同じ動きで弦楽オーケストラが織り重なる。そこにコーラスがさとすように語りかけてくる。あえてキャッチーなメロディとしての旋律を持たせていない。混声合唱のハーモニーが厚く深く包みこむ内なる楽章。チューブラーベルの鐘の響きは静かな余韻と残響をもたらしている。

第3楽章、幻の名曲「Prime of Youth」(2010・Unreleased)が「Orbis」の楽章のひとつとして組み込まれたことが衝撃だった。強烈なミニマル・モチーフ、リズム動機を備えていた同楽曲が、コーラスを迎え後ろにひかえ従(対旋律)にまわったのである。もし「Prime of Youth」という作品をコンサートで聴いたことのある人がいるならば(おそらくほとんどいない、2010年東京・大阪2公演のみである)、これはまさにカオスである。オリジナル版が持つファンファーレのように高らかに鳴り響く冒頭から、怒涛のようにシンフォニック・ミニマルが押し寄せてくる。コーラスを配置したことでさらに魂の叫びのごとく巨大な渦をまく。中間部では第1楽章Orbisの旋律が顔をのぞかせる。時を越えてPrimeとOrbisが融合した瞬間だった。かくもここまで勇壮で威厳に満ちた久石譲オリジナル・ソロ作品があったであろうか。クライマックスのかき鳴らす弦、金管、木管は圧巻であり、高揚感を最高潮にコーラスとともに高く高く昇っていく。おさまりきれない、なにか巨大なものがその姿を現した、そんな衝撃的な閃光を象徴する楽章となったことは確かである。

歌詞について、「いくつかのキーワードとなる言葉を配置し、その言葉の持つアクセントが音楽的要素として器楽の中でどこまで利用できるか、という点に比重を置きました。”声楽曲”のように歌詞の意味内容を深く追求していく音楽とは異なります」(元「Oribis」および新版 第1楽章) この久石譲の言葉を借りるならば、新版「Orbis」第2楽章・第3楽章は明らかに異なる。ひとかたまりのセンテンス、つまり言葉に意味をもたせたのである。これは興味深い。あえて自らの作家性として作品にメッセージ性を持たせない氏が、ここでは発声による言葉の響きから、歌詞による言葉の想いを届ける手法で新たな楽章を書き下ろした。同時にこのことは、コーラスを楽器の1パートに据えるところから一気に飛躍させたことになる。これをもって管弦楽と声楽は少なくとも対等、5:5の比重を分け合うことになったのである。

 

総じて、初演一聴だけでは語ることのできない拡がりと深さがこの作品にはある。中途半端な断片的感想は未聴者に余計な先入観を与えかねず、一聴のみで作品を掌握したように語ることは作家への冒涜にもつながりかねない。それでもあえて書き記したのには理由がある。

この作品は大傑作である。久石譲が芸術性を追求した作品群にはこれまで「The End of the World」「Sinfonia」など数多く存在する。楽章構成とミニマル色を強く打ち出すという点でも共通点はある。だがしかし、「新版Orbis」はその次元を超えた。延長線上、集大成、結晶化、新境地、さまざまな言い回しがありもちろんそういった意味合いも持っている。それらをおさえてあえて言葉を選ぶならば、「そこは別世界・別次元だった」。

ひとつだけ断言できることがある。ここに「ジブリ音楽:久石譲」の代名詞は必要ない。この作品を聴いてジブリのような映像やイメージが浮かぶというなら、それはまやかしである。一線を画して聴衆は対峙しなければいけない、無心で。そうして初めて出逢えるのは、心に入ってくる音楽、魂に響く音楽、本能に直接訴えかけてくる音楽、である。なにが言いたいのか。もしかしたら遠い未来の人たちが久石譲を語るとき、真っ先にジブリ音楽でもないCM音楽でもない、「Orbis」が代名詞となっているかもしれない。

 

 

万全を期ししたレコーディング、作曲家の意思を介したトラックダウンが行われた完成版を聴く日までは、この作品の真髄はわからないだろう。混声合唱、オルガンとオーケストラ、三位一体となった”環”がその巨大な姿を現す日を待つ。今初演において未完、まだ発展や進化の余地があるのかもしれず、完全版としてのCDパッケージ化は時間がかかるのかもしれない。ただ待つのみである。

もしも叶うとするならば、未完でもいい、その時にふれた「Orbis」をかたちに残してもいいではないか。「Orbis」、「新版Orbis」、新たな新版や改訂版が連なってもいい。そもそも作品自体が暗示している。”環”はどんどん”つながり”、魂をもって創造をつづける。そこに終わりはない、永遠。

 

息をあげて主観でレビューを書くことに冷ややかな反応があることは覚悟している。だからこそ、1日でも早く、ひとりでも多くの人に「Orbis ~混声合唱、オルガンとオーケストラのための~」新版を聴いてもらえる日が来ることを切に願う。そうして少しでも共感してもらえたり、わかち合えるなにかが生まれることこそ、聴衆たちにもたらされる喜びである。

 

 

2018.12 追記

オリジナル版「Orbis」だが久しぶりのプログラムとなった感想を。

 

 

Disc. 久石譲 『東北電力』 *Unreleased

2015年10月29日 TVCM放送(東北6県+新潟県)

 

東北電力企業広告「より、そう、ちから。」
音楽:久石譲 曲名:東北電力(仮)*
*JASRAC登録名

 

CMは、東北電力「CMギャラリー」でも閲覧可能。
(※2015年10月現在)

東北電力 | CMギャラリー

同ホームページにて視聴できるのは、
・CM本編(30秒)
・メイキング映像(2分30秒)

なおメイキング映像では本楽曲のフル・バージョンを聴くことができる。

 

 

小編成オーケストラで構成された楽曲は、木管楽器が旋律を奏で、弦楽器がリズミカルに刻む、清潔感のある明るい曲調である。

メイキング映像でのフル・バージョンでは、さらにその全貌をうかがうことができる。シンプルなメロディですぐに覚えて口ずさんでしまえそうな魅力はさすが匠の技である。さらに、その裏では緻密なオーケストレーションによって管弦楽が構成されており、メロディも木管楽器、弦楽器、金管楽器へと奏で継がれていく。

同年手がけた『みずほフィナンシャルグループ みずほの丘』CM音楽にも通じる気品のある作品である。

曲名不明、未発売曲、CD作品化が期待される上質な作品である。

 

 

2017.1 追記

2017年1月4日よりニュー・ヴァージョンO.A開始。ピアノを基調としたきれいな調べ。

「よりそう地域とともに」篇 30秒

【それ以前のCM一覧】
「スローガン宣言」篇 30秒
「新料金プランはじまりました」篇 30秒
「よりそう松山さん(料金プラン)」篇 30秒

*上記3本CM音楽はオリジナル版

東北電力 | CMギャラリー にて視聴可能 (※2017.1現在)
https://www.tohoku-epco.co.jp/brand/#cm-gallery

 

 

東北電力 久石譲

東北電力 ロゴ

 

Disc. 久石譲 『Untitled Music』 *Unreleased

2015年10月4日 TV初演

 

曲名:「Untitled Music」
作曲:久石譲
指揮:久石譲
ヴァイオリン:五嶋龍
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

 

 

世界一長寿のクラシック音楽番組『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)。2015年秋、若き天才ヴァイオリニスト・五嶋龍さんを司会に迎え大胆リニューアルした。それにともない新テーマ曲「Untitled Music」を久石譲が書き下ろしている。

7月15日東京オペラシティでの公開収録にて、新司会者の五嶋龍による「題名のない音楽会」の初公開収録が行われ、作曲者である久石譲自らが指揮し日本フィルハーモニー交響楽団にて演奏された。記念すべきリニューアル第1回目(10月4日)にて放送。

番組内インタビューにて久石譲は、「伝統のあるクラシックの番組として、一番新しい才能の五嶋龍くんの強力な個性と、そのふたつを念頭において一生懸命書きました。」とコメントしている。

また演奏中のテロップ表示にて、【曲名は番組名から「題名のない音楽」。音楽会に向かうワクワク感を表現。】と紹介されている。

 

 

冒頭から華やかなオーケストラ・サウンドにて幕をあけ、ヴァイオリンの音色が心躍るように流れていく。クラシック音楽番組にふさわしい気品のある凛とした構成に、ヴァイオリンもバリエーションある奏法を駆使し、表情豊かな音色と響きで魅せる。

久石譲のミニマル・ミュージックをベースとした芸術性と、エンターテイメントで培われた大衆性、その両極性を凝縮させたような結晶化された作品である。近年の指揮活動によってさらに磨きかかったオーケストレーションと構成力によって、ヴァイオリンをいかに際立たせるか、そしてヴァイオリンという楽器の可能性を最大限に追求かつ表現した楽曲となっている。

高音域楽器のピッコロ、グロッケンシュピール、トライアングルなどを巧みにブレンドすることにより、キラキラと輝いた印象を受ける。高音域楽器の対比として、金管楽器をファンファーレ的に配置することで、格調高い華やかさがあり、ヴァイオリンの音域をとてもうまく浮き立たせている。と、個人的には感じます。また緻密でありながら余白のある音楽、主役を際立たせる巧みなオーケストレーションである。

いつもとは違うちょっとフォーマルな音楽会。いつもとは違うちょっとオシャレもして、今まで聴いたことがない音楽との出会いと体験に胸を踊らせて会場へと向かう。そんな心持ちを表現したような作品になっている。

テーマ曲としては約3分半の小品として完成されているが、ここからさらにヴァイオリン・コンチェルトとして発展させていってもおもしろそうな、そんな可能性を秘めた作品である。

 

番組オープニングでは、「Untitled Music」オープニング・パートが、番組エンディングでは同楽曲エンディング・パートがそれぞれ使用されている。これから番組の案内役として浸透していき、TVの向こう側の日常を華やかにしてくれるだろう。

披露された「Untitle Music」が久石譲コンサートで聴ける日はくるのか、久石譲 × 五嶋龍という夢のコラボレーションがCD化される日はくるのか、時間とともにこれからさらなる変化と進化を遂げていくであろうこの作品を、楽しみにその成長を見ていきたい。

 

 

2015.12 追記

久石:
「年によって比重が変わります。今年はどちらかというと、自分の作品が多いですね。でも、CMやゲーム音楽も作っていますね。あとは五嶋龍君が司会になった『題名のない音楽会』の新テーマ曲も書かせてもらいました。この「Untitled Music」という曲は自分でもすごく気に入っています。テーマ曲というだけでなく、作品としても聴いていただけると思うのですが、リズムが相当難しくて、絶対に自分では振りたくないなぁ(笑)と思ったくらい(実際は初回放送時に五嶋と共演)。でも、あの曲を書いたことで一つ吹っ切れたところがありました。」

Blog. 「月刊ぴあの 2015年12月号」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

2016.1 追記

2016年1月24日(日) 9:00-9:30 テレビ朝日系
「題名のない音楽会 -五嶋龍の音楽会-」

2015年10月番組リニューアル第1回にて発表された久石譲作曲「Untitle Music」も再びフルサイズにて放送される。

 

[五嶋龍 番組内インタビュー]

「(久石譲が)現代音楽というレッテルを貼って欲しくない、枠に入れて欲しくないとおっしゃっていた。リズムとハーモニー、そして音の並び方というのが非常にエッジー(流行の最先端)な音楽。前に進むような、音楽を過去から未来へ押していくようなイメージだと思います。」

 

[五嶋龍が語る「Untitled Music」 (演奏中画面テロップ表示)]

「冒頭からリズムが小節ごとに変わり、色々な進化を広げていくのがこの曲の特徴」

「『Untitled Music』とは『題名のない音楽』。これは無限の可能性があるというイメージにピッタリ」

「今 我々が新しい流行や新しい音楽を作っていると実感させてくれる楽曲」

「パターン化された音を繰り返す「ミニマルミュージック」も取り入れている」

 

題名のない音楽会 untitled music

 

 

2016.3 追記

2016年3月開催「久石譲&五嶋龍 シンフォニー・コンサート in 北京 / 上海」コンサート・ツアーにて、久石譲指揮、五嶋龍Vnによる「Untitled Music」が、中国にて5公演披露されている。

 

 

2016.6 追記

2016年6月5日TV番組「題名のない音楽会」にて、久石譲指揮、五嶋龍Vn、新日本フィルハーモニー交響楽団演奏にて、披露されている。リニューアル初回時の東京フィルハーモニー管弦楽団とはまた趣が異なり、ダイナミックで抑揚豊かな演奏となっている。「題名のない音楽会 久石譲が語る歴史を彩る6人の作曲家たち 前編/後編」というテーマで、2週連続でプログラムされた後編で披露されている。公開収録は4月25日。公開収録時には「Untitled Music」を録り直し、1回目の演奏に久石譲・五嶋龍のいずれかが満足できなかったのか、演奏後の短い会話を経て、その場ですぐに2回目の演奏となった。

 

(演奏中テロップ表示)

「ミニマルミュージックをヴァイオリン協奏曲のスタイルで表現した曲。」

 

 

2017.4 追記

五嶋龍から新司会者交代にともない、番組テーマ曲「Untitled Music」も3月をもって終了。今後は久石譲作品として発展していくのか、コンサートでプログラムされる機会が訪れるのか、五嶋龍との日本公演は実現するのか、いろいろな楽しみと可能性を秘めた作品であることに変わりはない。

 

 

題名のない音楽会 TOP

 

Disc. 久石譲 『MIDORI Song』 *Unreleased

2015年7月23日 発表 (寄贈先公式HP)

 

認定NPO法人 ミュージック・シェアリングに寄贈された楽曲。

「MIDORI SONG」
作曲:久石譲
編曲:Chad Cannon
演奏:USC Thornton School of Music

 

 

五嶋 みどり公式コメント

「全世界の子供たち、ボランティア、先生方、お父さん、お母さん、みんな大きな声で歌いたくなる、みんなの前で弾きたくなる「MIDORI Song」がミュージック・シェアリングに届けられました。」

「作曲者は何と、“久石 譲”。この場で公開することができませんが、お待ちください、もうすぐこのメロディーを、今度は私が貴方に届けます。」

 

 

 

約4分の小品。上記コメントにもあるとおりクラシカルでシンプルなメロディーをもった清らかな作品である。ハ長調で書かれたこの作品はまさに音楽の教本ともいうべき親しみやすい旋律と響きをもっている。

4小節のモチーフにこの作品の気品が凝縮されており、様々なかたち(楽器/調性)で展開していくが、決して奇をてらうことのない、まっすぐで正統な作品構成となっている。

中間部転調に向かう箇所がいかにも久石譲らしい躍動感を生んでいるが、楽曲全体は編曲者が他者となっているため、どこまでを基本構成として根幹を担ったのか、どこまでを編曲者に委ねたのかは不明である。

一同に介したホール録音というよりも、おそらくこの音源のためにレコーディングおよびパート録音をミックスしたであろう響きがうかがわれる。

小編成オーケストラ、チェンバロ、バイオリンソロなど、バロック音楽を思わせる、快活で弾むような晴れやかさと気品をそなえた小品である。当NPO法人の活動理念にふさわしい「子供たちが音楽を楽しむ」情景が微笑ましく浮かんでくるような、ミュージック・シェアリングを象徴する楽曲となっている。

 

 

2015年12月、一部(限定)公開された公式動画を視聴しての感想であり、活動プロモーションフィルムのように、静止画スライドショーで活動履歴や紹介映像として構成されていた。

CD作品化されていない楽曲である。

 

 

MUSIC SHARING

 

Disc. 久石譲 『みずほ』 *Unreleased

2015年3月20日 TVCM放送

 

みずほフィナンシャルグループ
音楽:久石譲 曲名:みずほ(仮)*
*JASRAC登録名

 

みずほ 〈ハートフルアクション〉
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 15秒
みずほの丘(ハートフルアクション)篇 30秒

2015年5月~
みずほの丘(東京2020)篇 15秒
みずほの丘(東京2020)篇 30秒

 

 

公式サイトにてCM動画試聴可能 (2015.3月現在)
公式サイト〉〉みずほフィナンシャルグループ ブランド広告

※公開終了2016.3

 

 

CM音楽らしい印象的な旋律。15秒、30秒という尺のなかで、その世界観を表現するとともに、いかにひっかかりやインパクト、印象を残すかという匠の技において、久石譲はやはりさすがである。

小編成のオーケストラ楽器で構成された楽曲は、めずらしくもピアノは登場しない。弦楽器、金管楽器、木管楽器と、そのメロディーを引きついていく展開となっている。CM映像のイメージ同様、とても新鮮で清潔で爽やかな印象を受けつつも、ただ軽快なメロディというわけでもなく、そこには落ち着いた風格すら感じられる。映画「風立ちぬ」のサウンドトラックに見られたような、品格のある小編成オーケストラサウンドに通じるものがある。

30秒版でも後半楽曲が展開されるなか終わるが、もちろん楽曲として完成されているであろうその先の展開が気になる。

未発売曲、CD作品化が期待される上質な作品である。

 

 

 

Disc. 久石譲 『弦楽オーケストラのための《螺旋》』 *Unreleased

2010年2月26日 世界初演

 

2010年2月26日開催コンサート「久石譲 Classics Vol.2」にて初演。

2011年9月7日開催コンサート「久石譲 Classics Vol.4」にて披露。

2014年10月12日開催コンサート「久石譲×新日本フィルハーモニー交響楽団」長野公演にて披露。

2015年2月25,26日開催コンサート「世紀音樂大師-久石譲 Maestro of the Century – Joe Hisaishi」(台北/台南)にて改訂初演。

 

 

 

久石譲:弦楽オーケストラのための「螺旋」

弦楽オーケストラのための「螺旋」は、2010年2月16日に行ったコンサート《久石譲 Classics Vol.2》のために書いた作品である。作曲は、2010年1月20日より2週間という短い期間で一気に書き上げ、その後直しを含めて時間の許す限り手を加えた。ミニマル・ミュージックの作家としてコンテンポラリーな作品を書きたいという思いが強かったのかもしれない。

曲は、8つの旋法的音列(セリー)と4つのドミナント和音の対比が全体を通して繰り返し現れる。もちろんミニマル・ミュージックの方法論で作曲したが、その素材として上記の12音的なセリーを導入しているため結果として不協和音が全体の響きを支配している。

心がけたことは、感性に頼らず決めたシステムに即して音を選んでいくことだった。もちろんそのシステムを構築する土台は(それが良いと決めたこと自体)個人的な感性である。

曲の構成は日本の序・破・急(※)の形をとり、第1部は遅めのテンポの中で様々なリズムが交差し、第2部では同じセリーのスケルツォ的躍動感を表現している。第3部の前には、もう一度基本セリーによる静かな神秘的な部分があり、その後、急としての激しい空間のうねりが展開される。

曲のタイトルとして Spiral という言葉を最初考えていたが、この急の部分を作曲したときに「螺旋」という日本語が最もふさわしいと確信した。

(※)序・破・急 = 音楽・舞踊などの形式上の三区分。序と破と急と。舞楽から出て、能その他の芸術にも用いる。

(2011年9月7日《久石譲 Classics Vol.4》 曲目解説より一部補筆し転用)

Blog. 「久石譲&新日本フィルハーモニー交響楽団」(長野) コンサート・レポート

 

 

 

約14分の作品。3.11に大きな影響を受け、本名の藤澤守として発表した「5th Dimension」と同時期に書き下ろされた作品もあってか、現代音楽、芸術性という、大衆性とは表裏一体の一面をのぞかせた久石譲の意欲作。

本人による楽曲解説にもあるとおり、”不協和音が全体の響きを支配している”なか、ミニマル・ミュージック特有のリズム、躍動感と神秘性をかねそなえた、弦の響きが360度まさにスパイラルしている響きがそこにはある。

渦を巻いた弦楽オーケストラの響きには圧倒される。コンテンポラリーな久石譲作品として後世に残るべき重要な作品である。

2010年の世界初演から、2015年の改訂初演まで、これまでにコンサートで数回披露されたのみで未音源化作品である。

 

 

Disc. 久石譲 『Winter Garden』 *Unreleased

2006/2022年 作品

 

2006年ヴァイオリニスト鈴木理恵子のために久石譲が書き下ろし収録された作品。第1楽章と第2楽章が収められている。

 

◇ウィンター・ガーデン / 久石譲

2006年作。このアルバムにあわせて書きおろされた楽曲。ミニマリスティックで疾走感のある第1楽章と、それとは対照的に瞑想的な雰囲気を持つ第2楽章の2つの楽章からなる。

1.第1楽章
8分の15拍子の中で多彩にフレーズが変化を見せる。ピアノとヴァイオリンの鋭いパッセージが互いの旋律を模倣しながら交錯してゆき、ねじれる様に絡み合いながらもお互いに歩み寄ることで再現へと向かう。

2.第2楽章
純度の高い硬質な和音の上に、ヴァイオリンが叙情的に歌い始める。次第に不安と緊張を増してゆく旋律を、助長する様に響きが変容してゆく。

(CDライナーノーツ 楽曲解説より)

 

 

 

 

2007年コンサート「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ There is the Time」にて久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)編成、「Winter Garden 1st&2nd movement」、つまり上記第1楽章・第2楽章が演奏される。

 

 

2010年コンサート「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ ニューイヤーコンサート」にて、第3楽章が新たに加えられ初披露される。

 

Winter Garden
・1st movement
・2nd movement
・3rd movement

ミニマル・ミュージックの手法をベースに、ヴァイオリンとピアノのために書き下ろした2006年の作品『Winter Garden』を、今回はヴァイオリン・ソロとオーケストラの小協奏曲に改訂、新たに第3楽章が付け加えられた。8分の15拍子の軽快なリズムをもった第1楽章、特徴ある変拍子のリズムの継続と官能的なヴァイオリンのメロディによる第2楽章。そして初披露となる第3楽章は、8分の6拍子を基調とし、ソロパートとオーケストラが絶妙に掛け合いながら、後半はヴィルトゥオーゾ的なカデンツァをもって終焉へと向かっていく。W.D.O.コンサートマスターの豊嶋泰嗣のヴァイオリン・ソロでおくる。
*2006年版の『Winter Garden』は、ヴァイオリニスト鈴木理恵子のアルバム『Winter Garden』に収録されている。

(コンサート・パンフレット 楽曲解説より)

 

 

2014年コンサート「久石譲 ジルベスターコンサート 2014 in festival hall」にて、2010年版をベースに全3楽章が改訂初演される。

 

 

 

2022.2 追記

2022年2月開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサートにてプログラムされた。

 

久石譲:ウィンター・ガーデン(2014年版)
Joe Hisaishi:Winter Garden (2006/2014)
・1st movement
・2nd movement
・3rd movement

「Winter Garden」は、2006年に鈴木理恵子さんのSolo Album用にヴァイオリンとピアノのために作曲したもの(全2楽章)をベースにして、ヴァイオリン・ソロとオーケストラの小協奏曲として、2010年の改訂の際に新たに第3楽章を付け加えた。さらに2014年に大幅改訂し、よりヴァイオリンとオーケストラのコントラストを際立たせつつ、ミニマルの手法になぞらえた作品とした。

8分の15拍子の軽快なリズムをもった第1楽章、特徴ある変拍子のリズムの継続と官能的なヴァイオリンの旋律による瞑想的な雰囲気を持つ第2楽章。そして第3楽章は、8分の6拍子を基調とし、ソロパートとオーケストラが絶妙に掛け合いながら、後半はヴィルトゥオーゾ的なカデンツァをもって終焉へと向かっていく。

ヴァイオリン・ソロを担当するFOCのコンサートマスターである近藤薫の演奏を心から楽しみにしている。

久石譲

(「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・パンフレットより)

 

 

久石譲:ウィンター・ガーデン(2014年版)
Joe Hisaishi:Winter Garden (2006/2014)

約20分の作品です。そういうこともあってか久石譲は「小協奏曲」と控えめに(?)言っているのでしょうか(?)。小協奏曲の概念にはいろいろ分類パターンがあるようですが、正確には20分を切りそうなこの作品はおそらく時間的な尺度から「小」としているのだろうと思います。久石譲作品「コントラバス協奏曲」や「The Border(ホルン協奏曲)」は約25-30分の作品です。時間というのは作品の大きさを表すうえで作曲家にとって大切なひとつだと思います。ですが!!とっぱらってもらって「協奏曲」でいい!!堂々たる「ヴァイオリン協奏曲」だ!!という強い気持ちを語っていきたいと思います。

 

その前に作品経歴です。

楽曲解説からふれると「2006年に鈴木理恵子さんのSolo Album用にヴァイオリンとピアノのために作曲したもの(全2楽章)をベースにして、ヴァイオリン・ソロとオーケストラの小協奏曲として、2010年の改訂の際に新たに第3楽章を付け加えた。さらに2014年に大幅改訂し~」、このとおりです。

・2006年 CD発表(Vn&Pf版)
・2007年 WDO(Orchestra版 全2楽章)
・2010年 WDO 豊嶋泰嗣
・2014年 ジルベスター 岩谷祐之
・2016年 上海 五嶋龍
・2022年 FOC 近藤薫

すごいですね。演奏機会は少ないなか日本を代表するヴァイオリン・トッププレーヤーがこの作品を演奏してきたことがわかります。今回満を持してFOCで披露となったわけですが、同時にそれは秘められてきた珠玉の作品が光放たれる瞬間でもありました。

 

・室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra(2015)
・Contrabass Concerto(2015)
・室内交響曲第2番《The Black Fireworks》〜バンドネオンと室内オーケストラのための〜(2017)
・The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra(2020)

これから先リリースされる日が来たとしても(いや来ますよね願)、オーケストラ版全3楽章となった2010年を点としても、作品系譜としては一番若い作品になります。これは久石譲作品を線でつなげていきたい人は押さえておきたい。もし仮にいうなれば、《協奏作品 第1番》それが「Winter Garden」にほかなりません。

 

もっと。

”実はこの「Links」を作る前に「Winter Garden」というヴァイオリンとピアノのための曲を書いたのだが、変拍子のリズムと、それでも違和感が無いメロディーが合体するヒントが掴めた。それと同じアプローチでオーケストラに発展させたものが「Links」だ。この「Links」を書いたことによって、徐々に自分の中でミニマル・ミュージックへ戻るウォーミング・アップが出来た。”

(『Minima_Rhythm ミニマリズム』CDライナーノーツより 抜粋)

 

そうなんです。「Winter Garden」があったから「Links」があるんです。そして「Orbis」「The End of The World」「Sinfonia」輝かしい久石譲オリジナル作品群の新しい歴史が進んでいくことになります。「Links」も8分の15拍子の曲です。Winter Garden 第1楽章のリズムのとり方とはまた違うからおもしろい。

 

 

第1楽章
1st movement

急緩急の全3楽章の第1楽章は、口ずさみたくなるくらい印象的なモチーフから始まります。8分の15拍子を基調としていますが、リズムは2・2・3/2・3・3で取っています。モチーフを分解すると7拍と8拍(15拍子=1モチーフ)に大きく切り分けることができます。そこに斜線を入れました。ここで注目してほしいのが、後ろの8拍のところは4拍子のような2・2・2・2じゃなくて2・3・3でリズムに乗りましょう。このグルーヴ感は曲が進行するなかでよりはっきりと活きてきます。

基本モチーフはすぐにオーボエやフルートに引き継がれていって変化していきます。ソロ・ヴァイオリンはずっとメロディを歌っていることはなく、メロディとリズミカルに掛け合ったりと、ソロ楽器とオーケストラが主従関係(主旋律・伴奏)に定まらないのが久石譲協奏作品のうれしい特徴です。

オーケストラが大きくふくらむパート(1分半経過あたり)で、ティンパニやテューバがリズムを打ち鳴らしています。ここ2・2・3/2・3・3のリズムのとり方が一番わかりやすいですね。この前もこの後も、15拍子になってるところはほとんどそうです。なにかしらの楽器で伴奏的リズムを2・2・3/2・3・3で刻んでいると思います。ぜひ探してみてください。指揮姿からもわかるかもです。第1楽章に秘められた高揚感です。

ヴァイオリンをフィーチャーした「Untitled Music」という作品もそうですが、トライアングル・ピアノ・チェレスタ・ハープ・グロッケンシュピールなど、キラキラ輝いた印象のオーケストレーションが魅力的です。まるで雪が反射して煌めいているようです。さりげなく随所に配置されているピッツィカートも巧妙です。冬感たっぷりに散りばめられています。

 

第2楽章
2nd movement

緩徐楽章ともいえる第2楽章は、ヴァイオリンのたゆたう旋律に誘われるままに、なにか深いところへ深いところへと。くり返される漂うハーモニーに危うい雰囲気を感じながらもカウベルの響きが心地よさを、その両極なふたつが溶け合っていくようです。

目立ちにくい楽章ですが、こういった楽想は久石譲作品にみられるひとつの特徴です。『DEAD』より「II. The Abyss~深淵を臨く者は・・・・〜」、『The End of the World』より「II. Grace of the St. Paul」、『THE EAST LAND SYMPHONY』より「II. Air」など。メランコリックだったり瞑想的な雰囲気をもつ楽章があります。現実と夢、現実世界と異界、というようにひとつの作品に別世界を持ち込むといいますか、異なる空間軸や時間軸な次元を描くといいますか。そうして楽章間や作品そのものを有機的につなぐ役割を果たしているようにも感じてきます。あらためて気に留めてそんなことも思いながら。大切に聴きたい楽章です。

 

第3楽章
3rd movement

ワクワク止まらないイマジネーション豊かな第3楽章です。聴き惚れて満足しきり、感じたことをたくさん書きたいところですが、ちょっとぐっとこらえます。少し背伸びして音楽的にこう聴いてほしい3つに絞って進めます。感じるままに聴きたいんだ!という人もいるでしょうが、よかったらお付き合いください。

1.基本モチーフはスケールそのまま。

冒頭からヴァイオリンの基本モチーフが現れます。音をなぞっていてビックリしました。これホ長調のスケールそのままなんです。F#-G#-A-B-C#-D#-E,D#,E(ファ#-ソ#-ラ-シ-ド#-レ#-ミレ#ミ)です。文字だとわかりにくい。

 

ミからはじまる、ドレミファソラシドの響きと思ってください。イントロ導入が弦楽器トレモロのE(ミ)で通奏しているなか、基本モチーフが次のF#(ファ#)からそのまま上がっていっています。だからスケール(音階)そのままなんです。すごい!

もっとすごい!冒頭の基本モチーフは2回繰り返しています。なんと2回目は1音違っています。これは音をさらっていかないとなかなか気づかないことかもしれません。AがA#に変化しています。基本モチーフ1回目「F#-G#-A-B-C#-D#-E,D#,E」2回目「F#-G#-A#-B-C#-D#-E,D#,E」です。この一音のズレは絶妙です。生楽器で奏するからこその微妙なピッチのズレを生かした得も言われぬ揺らぎやハーモニーをつくることになります。指の位置で音程を探るヴァイオリンだからこそこの半音ズレたまりません。音程をつくる管楽器もそうですね。ピアノなどの打楽器だと鍵盤おすと誰でも同じ音程の音が出せるからまた違ってきます。気づかないほどに微細な変化、奏者や楽器ごとに生まれる音程のニュアンス、無意識な違和感をつくる仕掛けと奥ゆかしく広がるハーモニー。すごい!!

 

 

2.基本モチーフはアウフタクト。

休符からはじまります。小節の頭が1拍お休みなので、ン・F#-G#- ン・A-B- ン・C#-D#-E,D#,E ですね。それはなんとなく聴いててわかるよ。そうなんです。この第3楽章は8分の6拍子ですがリズムが裏なんです。1・2・3・4・5・6/1・2・3・4・5・6 この2小節分で基本モチーフ、休符から始まっているのでアクセントも小節の頭じゃなくて1・2・3・4・5・6/1・2・3・4・5・6 と裏拍になっています。これがシンコペーションになって躍動感を生みだしているように感じます。モチーフは転調を繰り返しながら変化していきます。8分の6拍子を基調としながら変拍子もはさみます。

3.リズムも裏拍で。

中間部の展開するパート(4分経過あたり)、低音「ド・シ♭・ド・や・す・み」と力強くどっしり刻んで進んでいきます。ふつうに聴いていると、歩くようにドン・ドン・ドン[1・2・3・4・5・6]と頭でリズムをとってしまいそうになりますが、ここも裏拍です。なので正解は(ン)ド・(ン)シ♭・(ン)ド [1・2・3・4・5・6]となります。このリズム感をつかんでくると快感すらおぼえてきます、きっと。このグルーヴ感を見失わなずにカデンツァ前までいけたらもうばっちりです。とびきりのウィンター・ガーデン広がっています。

 

とにかく聴くたびにどんどん喜び溢れてきます。発見も溢れてきます。近藤薫さんのカデンツァの完璧さに圧倒されたなんて言うまでもありません。すごすぎて体震えて目も見開いて次第に顔もほぐれて緩んでいったしかありません。雪のなかの炎のように熱かったです。

2000年代からの指揮活動も影響を与えていると感じられる色彩感に満ちたオーケストレーション。そしてストレートなミニマル手法がたっぷり堪能できる作品です。現代誇る新しいヴァイオリン協奏曲のレパートリー登場です。広く演奏してほしいずっと聴かれてほしい作品です。記憶に新しい「コントラバス協奏曲」の石川滋さん、「ホルン協奏曲」の福川伸陽さんもメンバーにいるなんて豪華すぎます。久石譲と一心一体FOCのパフォーマンスで音源化されることを心から楽しみにしています。

(以上、2022.2追記ここまで)

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.4」コンサート・レポート より抜粋)