Disc. 久石譲 『二ノ国 II レヴァナントキングダム』 *at game release

2018年3月23日 PS4/PC GAME発売

 

*at game release
これはゲームソフト発売後まもなく、サウンドトラック盤リリース情報の前にまとめたものである。

 

 

レベルファイブ「二ノ国」シリーズ最新作。『二ノ国 漆黒の魔導士』(2010・Nintendo DS)、『ニノ国 白き聖灰の女王』(2011・PlayStation 3)にひきつづき本作も久石譲が音楽担当。

2015年12月「PlayStation Experience 2015」にて発表、同時に公開された1stトレーラー(約3分)では久石譲による本作のための書き下ろし音楽を聴くことができた。以降順次トレーラー公開され、コアスタッフによる特別インタビュー動画なども公開された。

映像集で使用された久石譲音楽についてもふれたいので映像リストをまとめる。

 

【公式映像集】

  • 1stトレーラー(約3分)2015/12 公開
  • 2ndトレーラー(約2分)2016/12 公開
  • 3rdトレーラー(約1分半)2017/6 公開
  • 4thトレーラー(約1分半)2017/8 公開
  • TGS 2017トレーラー(約1分半)2017/9 公開
  • 声優紹介トレーラー(5thトレーラー)(約5分)2017/12 公開
  • 特別インタビュー映像 第1弾「アニメーション編」(約3分半)2017/12 公開
  • 特別インタビュー映像 第2弾「キャラクター編」(約3分半)2018/1 公開
  • ゲームプレイ映像 システム紹介篇(約3分)2018/2 公開
  • 特別インタビュー映像 第3弾「音楽編」(約3分半)2018/2 公開
  • 特別インタビュー映像 第4弾「ゲームシステム編」(約3分半)2018/2 公開
  • 特別インタビュー映像 第5弾「アート編」(約3分半)2018/3 公開
  • ファイナルトレーラー(約1分半)2018/3 公開
  • コマさんと風丸一郎太の二ノ国II大冒険・前編(約6分) 2018/3 公開
  • コマさんと風丸一郎太の二ノ国II大冒険・後編(約6分)2018/3 公開
  • TVCM『二ノ国II レヴァナントキングダム』王に集いし英傑篇(15秒)2018/3 公開
  • TVCM『二ノ国II レヴァナントキングダム』アニメの世界を旅する篇(15秒)2018/3 公開

(レベルファイブ公式サイト/公式Youtubeにて視聴可能 ※2018年4月現在)

 

音楽にフォーカスして掘りさげる。

 

【公式映像集/使用楽曲】

  • 1stトレーラー(約3分)2015/12 公開
    「クーデター The Toppled Throne」「希望 There is Hope」をもとに構成されたトレーラー専用音楽
  • 2ndトレーラー(約2分)2016/12 公開
    「The Zodiarchs」「The Wrath of the White Witch」「Kokoro no Kakera -Pieces of a Broken Heart- (English Version)」※Ni No Kuni: Wrath Of The White Witch Original Soundtrack
  • 3rdトレーラー(約1分半)2017/6 公開
    「戦闘開始 Let Battle Commence」「二ノ国 II メインテーマ Theme from Ni no Kuni II」
  • 4thトレーラー(約1分半)2017/8 公開
    「守護神 Kingmaker’s Theme」
  • TGS 2017トレーラー(約1分半)2017/9 公開
    「ボスバトル Boss Battle」「キングダム Evan’s Kingdom」
  • 声優紹介トレーラー(5thトレーラー)(約5分)2017/12 公開
    「命運をかけた戦い Fateful Encounter」「勇ましき進軍 To Arms!」「果てしない空 The Boundless Skies」
  • 特別インタビュー映像 第1弾「アニメーション編」(約3分半)2017/12 公開
    「二ノ国 II メインテーマ Theme from Ni no Kuni II」
  • 特別インタビュー映像 第2弾「キャラクター編」(約3分半)2018/1 公開
    「キングダム Evan’s Kingdom」「戦闘開始 Let Battle Commence」
  • ゲームプレイ映像 システム紹介篇(約3分)2018/2 公開
    「キングダム Evan’s Kingdom」「戦闘開始 Let Battle Commence」「勇ましき進軍 To Arms!」「命運をかけた戦い Fateful Encounter」
  • 特別インタビュー映像 第3弾「音楽編」(約3分半)2018/2 公開
    「希望 There is Hope」「The High Seas 大海原」「果てしない空 The Boundless Skies」
  • 特別インタビュー映像 第4弾「ゲームシステム編」(約3分半)2018/2 公開
    「戦闘開始 Let Battle Commence」「The High Seas 大海原」「闇の呪文歌 Dark Rite」
  • 特別インタビュー映像 第5弾「アート編」(約3分半)2018/3 公開
    「ボスバトル Boss Battle」「広大な大地 The Great Outdoors」
  • ファイナルトレーラー(約1分半)2018/3 公開
    「守護神 Kingmaker’s Theme」「戦闘開始 Let Battle Commence」「夢の中の少年 The Curious Boy」
  • コマさんと風丸一郎太の二ノ国II大冒険・前編(約6分) 2018/3 公開
    「キングダム Evan’s Kingdom」「果てしない空 The Boundless Skies」「命運をかけた戦い Fateful Encounter」「欲望の町 City of Hunger」「ネズミ王国の城下町 In the Kingdom of the Mice」「フニャ Here Come the Higgledies!」「脱出 The Escape」「The High Seas 大海原」
  • コマさんと風丸一郎太の二ノ国II大冒険・後編(約6分)2018/3 公開
    「キングダム Evan’s Kingdom」「勇ましき進軍 To Arms!」「クーデター The Toppled Throne」~(曲間つなぎめ1stトレーラー専用音楽version)~「守護神 Kingmaker’s Theme」「広大な大地 The Great Outdoors」
  • TVCM『二ノ国II レヴァナントキングダム』王に集いし英傑篇(15秒)2018/3 公開
    「勇ましき進軍 To Arms!」
  • TVCM『二ノ国II レヴァナントキングダム』アニメの世界を旅する篇(15秒)2018/3 公開
    「二ノ国 II メインテーマ Theme from Ni no Kuni II」

 

 

上記【公式映像集】から取り上げたいことは3つ。

1stトレーラー
本作のために書き下ろされた主要テーマ・メインテーマが初公開となった2015年12月。そして見逃してはいけないこと、1stトレーラー用音楽はこの映像のためだけに構成された音楽であるということ。目まぐるしくテンポよくカット割りされ小出しにされる映像に合わせて、音楽も展開しながら緩急つけて多楽曲から構成されている。映像集がでそろいゲームソフトが発売になり全貌がわかる今だからこそ、気づくことができる貴重な発見。これについては後にも詳しく掘りさげたい。

2ndトレーラー
全映像集が久石譲による「二ノ国 II」新作音楽から使用されているなか、2dnトレーラーだけは前作音楽からの使用になっている。

特別インタビュー映像 第3弾「音楽編」
久石譲インタビューが公開された貴重な記録。レコーディング風景や日野晃博氏のインタビューもまじえた久石譲が語る二ノ国 II。

【日本語テロップ】

自分の中でいろいろ考えていって、どうしてもやっぱりゲームの音楽っていうのは音楽の数が多いので、それをどうやってまとめるかなということと、ちょうど今、割とリズムをオーケストラでしっかり出すやり方をしているから、それで全体をやってみようという、そういうつもりでやりましたね(久石)

今回は2回目なので、日野さんのこともすごく尊敬しているので、これはやろうと(久石)

ジブリ作品のファンじゃないですか、皆、僕も含め。だからやっぱり久石さんにお会いしたら、もう凄いオーラで緊張しまくったんですけれども、久石さん熱い人なので正面からちゃんと付き合おうという形でやらしていただきましたね(日野)

日野さん本当にいろいろ考えられて作ったゲームなので、(僕も)精一杯作ったし、比較的全体の様子が見えてたので、作り易かったですよね(久石)

ちょっとメゾフォルテなんで、ちょっと大きめにフォルテに吹いてもらって良いですか?それで22小節目でメゾフォルテを下げて行く感じで(久石)

前作の二ノ国に比べてちょっと音楽的なレベルを上げたというか、難しいという訳じゃないんだけど、知的レベルを上げたアプローチ。ですからちょっとかなりオーケストラは難しいんですよ演奏が。だけど本当、東フィルさん(東京フィルハーモニー交響楽団)が一生懸命やってくれてとてもいい録音ができましたね(久石)

ゲームの常識を超えたところでいろいろ音楽を作ってこられるので、戦闘シーンの音楽も普通のRPGの戦闘とは一線を画すものだし、ゲームを超えた音楽性だと思いますね(日野)

ゲーム音楽はどうしても繰り返して聴く訳ですよね。ですから、繰り返して聴く(曲を作る)方法と通常に作る方法とちょっと違うんですよ。その中で音楽とそのゲームにはまってもらうと嬉しいかなというか浸ってもらうと嬉しいかなと思います(久石)

(動画より書き起こし)

 

 

 

《得意技を封印した新境地》

「二ノ国 II レヴァナントキングダム」の音楽は、久石譲の得意技をことごとく封印したなかで新境地を切り拓いた快作である。ポイントは久石譲インタビューにもあるとおり”くり返し聴かれる”ことを想定した音楽づくり。

  • 展開しない音楽 ~起承転結を排除した構成~
  • 歌えないメロディ ~リズムモチーフと違和感~
  • 音楽三要素の優先順位 ~一般常識の真逆~
  • ミニマル手法の封印 ~くり返す手法は同じはず なのに~

 

展開しない音楽 ~起承転結を排除した構成~

ゲーム音楽はオープニングやエンディングを除き、プレイ中に同じ音楽をくり返し聴くことが多い。それは本作のようなRPGであっても同じである。「二ノ国 II」の楽曲の多くは、Aメロ-Bメロ-サビ-転調-大サビなどと展開しない、起承転結を排除したAメロ-BメロもしくはA-B-Cをループするような音楽構成になっている。同時に最小限に展開するA-B-Cなど一曲のなかにおいても、雰囲気が大きく変わる曲想にはつくられていない。曲の終止部はフェードアウトや接続的フレーズ、くり返しイントロに戻ってもつながりやすい音楽づくりがされている。

「二ノ国 II メインテーマ Theme from Ni no Kuni II」はコーラスを編成した構成になっている。より大きく広がりのある世界観になっていて、前二作からの変化も聴き比べるとおもしろい。本作では混声合唱を巧みに使った楽曲群も複数ある。メインテーマでありゲームオープニングで華やかに流れる同曲と、メインテーマのバリエーションでプレイ中に聴くことができる「広大な大地 The Great Outdoors」「キングダム Evan’s Kingdom」。この3楽曲をもっても、展開する音楽(メインテーマ)と展開しない音楽(バリエーション2曲)の組み立て方の違いをわかりやすく感じとることができる。

話は音楽全体に戻して、くり返し聴くことを目的としたという点では、起承転結しない展開しないことはまっとうな手法である。だがデメリットとしてこれを表面的に施しただけでは単調になり、くり返されることで飽きてしまう音楽になりうる。

 

歌えないメロディ ~リズムモチーフと違和感~

どの楽曲もそれぞれに性格のはっきりしたバリエーションに富んだもの。印象に残るにもかかわらず実は歌えるメロディは少ない。歌心のある・ドラマティックに展開する、そういった主役的メロディは意図的に排除されている。

なにで推しきっているかといえばリズムであり、リズム動機・リズムモチーフのような旋律を配置していること。メロディのない曲という見方もあるけれど、それだと陳腐なBGMと勘違いされるので、そうではない、モチーフや旋律はしっかりと存在する。そしてこの手法において、ハーモニーとぶつかる違和感のある旋律も多い(一瞬の不協和音のようなもの)。旋律としてもリズムとしてもより輪郭がはっきりし、アクセントやインパクトもクリアする。さらにこれらモチーフのキャッチーさと違和感のさじ加減こそ、くり返し聴かれる飽きのこない音楽という久石譲の絶妙のバランス感覚といえる。

 

音楽三要素の優先順位 ~一般常識の真逆~

音楽三要素はメロディ、ハーモニー、リズム。ポップスで言えば、歌(メロディ)があって伴奏(ハーモニー)があってドラム(リズム)があって成立するし、楽曲として成立させるうえでの優先順位も当然この順番になる。

しかし、本作で久石譲が切り拓いた新境地は一般常識の真逆ともいえる音楽構成である。リズムにもっとも重点がおかれている。先に書いたリズム動機・リズムモチーフに徹底していることはもちろん、ほかにも随所にある。

展開しない音楽において飽きを克服するべく、テンポに変化をつけている。同一楽曲内で曲想が変化したり、パートが展開していけば、もちろんテンポも変わってくる。でもそういった作り方をしていないなかで、曲想やフレーズの変化によるものではない、聴き流していて自然すぎて気づかない範囲でテンポ変化を施している。つまり曲の緩急をテンポによって実現している。ダンス・ミュージックのように均一なテンポを刻みつづける趣とは異なる、人が聴いていて心理的・生理的に心地よいと感じる流れ。それは人の呼吸や脈が一定リズムではないことと同じ無意識下に本能的に気持ちいいと感じる、極めてレベルの高いテクニック。しかも、くり返すことを前提にしたテンポバランスなのだから、これはもう。

リズムに重点というと、パーカッション群が大活躍しているのかと思うがそうではない。旋律そのものがリズムの役割も果たしているのでパーカッションはむしろ少ない方である。誤解を生むので、一般的でオーソドックスなパーカッションの種類と量であり、久石譲独特のパーカッション群や緻密に飛び交うパーカッション群は少ない。つまりメロディとリズムを切り離した三要素ではなく、メロディ=リズムなのだ。メロディでありながらリズムを刻んでいる。

このような意図があったときに、大変になってくるのがその演奏。まるで映像にあわせるように繊細で心地いいテンポ変化をつけること、しかしながら、メロディに抑揚やアクセントをつけてしまわないこと。メロディでありリズムであることの持ち味を実現する、東京フィルハーモニー交響楽団に求められた音楽レベル・知的レベルの難易度のひとつではないかと推測している。ついつい演奏に気持ちや力が入ってしまわないこと、きっちりそろえること、奏法やビブラートもふくめてあくまでもフラットであること。悠々と歌うような旋律も、横揺れして流れてしまわないように、しっかりとブレスしてフレーズごとに切っている楽曲たち。

たとえば歌でいうと、2番はこぶしが入りました。それは悪いことではない、同じフレーズでも単純にくり返すよりも表現方法を変える。楽曲が展開している、ピークにもっていくための、一般的である。でも、本作の音楽においてそれをしてしまうとくり返し聴くという制約に叶わない。こぶしが入ったり表現(奏法)に凹凸が出過ぎるとループがきれいに流れないからだ。くり返しのどの場所にあるか気づきやすくなってしまう。やはり音楽的アプローチの肝は「きっちりそろえる」こと。

 

まだまだある。

楽曲が展開するというのは、メロディの変化でもあり、コード進行の展開でもあり転調でもあったりする。本作の楽曲群がシンプルな音楽構成といえるのは、これらが施されていないからであることは書いてきた。

いま一度「シンプル」ということに重点を置くと、本作の楽曲たちと前二作において大きく異なるのが、緻密で密度の濃いつくり込まれた音楽か否かである。くり返し飽きのこない音楽にするために余白のある音楽にしているとも言える。でもそれだけではないようにも思う。ここで登場するのがハーモニー、本作の音楽にはハーモニーを意図的に避けているように聴こえる。メロディをハモるということではなく、メロディに絡めた複雑な対旋律や内声といったものが緻密で密度の濃い久石譲音楽たらしめているとしたら。

リズムを最優先する手法をとるために、リズムの輪郭を一本際立たせるために、別のリズムやテンポ感・フレーズ感といったものを誘発させる対旋律や内声を配置していない。そしてまたメロディと異なるフレーズを絡めるこということは、必然的に和音やコード感といったハーモニーを生んでしまうのである。実際に楽曲群の多くは旋律が入りくんでいないし、複数の楽器で奏されているけれど同じ旋律のユニゾンも多い。なぜハーモニーを抑えたかは、くり返すこと・展開しないことに軸(コードが進行することは楽曲の起承転結を促す)があるし、先に書いたメロディ・モチーフそのものにハーモニーとぶつかる不協和音的エッセンスを散りばめているから。ん?ということは、あえて違和感のある音をぶつけているのは、メロディや曲が展開しないようにくい止めている効果もあるのか?!曲がきれいに流れていかないですよと宣言している音たちなのか?! そうこの考察もループしてしまう。

もちろん最小限に配置された対旋律たちも最大の効果をあげている。本作でのハーモニーの役割は、和声感やコード感といった響きではなく、ハーモニーもリズムであり、リズムのためのハーモニー(複旋律)である。そう、すべてはリズムのために。

 

ミニマル手法の封印 ~くり返す手法は同じはず なのに~

くり返し聴くことが目的ならば、まさに久石譲の真骨頂ともいえるミニマル手法があるではないか。ミニマル・ミュージックは最小限の音型(モチーフ)がくり返したりズレたりするもの。

本作の楽曲群では、なんとこのミニマル手法は使われていない。なぜだろう?と疑問に思い考えてみる。そうすると意外な一面が見えてきたように思う。ミニマル音楽はただくり返しているわけではない。ズレや変化といった展開することと同居している。ただくり返すだけならそれはミニマル・ミュージックではないとも言える。久石譲のオリジナル作品や映画音楽などあらゆる音楽のなかなら、ミニマル手法が炸裂している楽曲を思い浮かべると、共通して覚醒的に陶酔的に音楽は展開している。シンプルにくり返すことがミニマル・ミュージックなのだけれど、変化や展開のないそれは持ち味がなくなり、ミニマルとしてのアイデンティティを失ってしまうということなのかもしれない。

 

 

前二作の緻密で密度の濃い音楽は、音楽完成度からすると非常に高い。本作ではさらに一歩推し進めて、あえて自身の持ち味得意技を封印し新しい境地に挑んでいる。

イメージをかきたてる起承転結のはっきりしたドラマティックな音楽、一度聴いたら耳から離れない歌いたくなる心揺さぶるメロディ、緻密なオーケストレーションと独特の楽器編成でつくりこまれた密度の濃い音楽、原点であり真骨頂でもあるミニマル手法を盛りこんだオリジナリティある音楽。

久石譲音楽が久石譲音楽たらしめているこれらの得意技をすべて封印して挑んだのが「二ノ国 II レヴァナントキングダム」の音楽。そして結果、それは同じように久石譲音楽ブランドをしっかりとまとい、新しい可能性をも提示してくれた新境地にして傑作。

 

 

1stトレーラー専用音楽

ちょっと力を抜いて、百聞は一見にしかず。1stトレーラーの音楽だけがそれ専用につくられた音楽だということは冒頭に書いた。

今現在視聴することができる公式動画をもとに進める。本作楽曲より「クーデター The Toppled Throne」をもとに構成された音楽で、0:50~1:25、1:45~2:00のパートはゲーム本作には採用されていない。ちょっとした数十秒の間で繰り広げられる展開やフレーズといった曲想の変化こそ、上に書いたいつもの久石譲音楽たらしめているかたちのひとつである。2:00以降の「希望 There is Hope」もゲームにはないバージョン、壮大に盛り上がっていく展開が聴けるのはこの1stトレーラーならでは。

つらつらだらだらと考察してきたことを、百聞は一聴にしかず。この人はこういうことを言いたいのかなぁ、そのひとつ少しでも伝わっていただけたら幸いです。

 

【二ノ国II レヴァナントキングダム】1st トレーラー 約3分
レベルファイブ公式Youtubeチャンネルより

 

 

エンディングテーマ「希望の未来」

久石譲作曲/編曲による楽曲で、前2作とは異なり歌曲ではない。麻衣のヴォイスによるヴォカリーズになっている。(前作テーマ曲「心のかけら」作詞:鈴木麻実子 歌:麻衣)

オリエンタルな旋律と前衛的でアヴァンギャルドな音やリズム構成。民族音楽からのヴォイス・サンプリングも織り交ぜた、今の久石譲からは耳を疑うような斬新な楽曲に驚く。「オリエントへの曵航」(オリジナルアルバム「illusion」(1988)収録)の再来かと錯覚するようなニンマリしてしまうようなアグレッシブな楽曲。

クレジットにはないが、久石譲本人のヴォイスも隠し味として入っている気がする、そんなパートが数箇所ある。いや、きっと入っていると思う。

なんという凝りに凝ったリズムアレンジだろう、エネルギーが湧き出るようなグルーヴ感と最先端のリズムパーカッション・プログラミング。このリズムアレンジは共作となっている。手がけたのは、ガブリエル・プロコフィエフ、松浦晃久、久石譲。久石譲の好奇心・実験・挑戦のつまった渾身の楽曲になっている。体の底から心の底から覚醒する快感を味わえる楽曲。

興味深いのが、この楽曲ベースラインがまったく動かない。拍子も刻まないほどに。これだけリズム感があり躍動的な曲なのにである。そしてうねるような低音は曲中盤に集約されている。ここだけ一気に乱れ狂い重厚重音な渦をまく。怒涛の低音ミニマル。そう、この楽曲はリズム・アレンジが要なのだ。リズムで大きく楽曲を支え疾走する。その他フィーチャーされた楽器群による構成も相乗効果で素晴らしい。なんだか「こんなのどうですか?」と新しいギフトを自信たっぷりに差し出された気分だ。

ガブリエル・プロコフィエフ、どこかで聞き覚えのある名前と思ったら、久石譲ともつながりの深い音楽家。久石譲が興味を抱き、刺激を受け、出会い、共作し、別作品を自身のコンサートで取り上げ、そんな歩みを紐解くことができる。音楽家同士の共鳴と一期一会の結晶のひとつ、今だからこそ作ることができた楽曲、それが「希望の未来」。

 

以下、ガブリエル・プロコフィエフ氏にフォーカスして掘り下げる。

 

◇2014年 WEB「REAL SOUND」掲載インタビュー

――先ほどもお話に出ましたが、久石さんが刺激を受けるクリエイターを何人か挙げていただけますか。

久石:
最近だと、アメリカの32歳のニコ・ミューリー。彼はいいですね、完全にポストクラシカルの人間で、ビョークのプロデュースをしたり、メトロポリタンオペラというアメリカで一番大きな歌劇場でも曲を書いています。技術力もある。こういう新しい世代がガンガン出てきています。セルゲイ・プロコフィエフの孫にあたるガブリエル・プロコフィエフも面白いと思います。

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより 抜粋)

 

◇2014年 雑誌「モーストリー・クラシック 2015年2月号」掲載 インタビュー

「僕の作曲の根本にはミニマルミュージックがありますが、正統派のミニマル・ミュージックの作曲家は、ライリー、ライヒなど4人だけで、あとはポスト・ミニマルやポスト・モダンで、いまポスト・クラシカルというクラシックの範疇にとどまらないミューリーや大作曲家の孫のガブリエル・プロコフィエフといった人達が出ている。そんなミニマルの与えた影響や流れなどは、大きな意味があるのに日本では聴くことができない。それをもっと紹介したいし、自作も書きたいということで始めました。集客は大変ですが、今後も続けていきます」

Blog. 久石譲 「モーストリー・クラシック 2015年2月号」 インタビュー内容 より抜粋)

 

◇2016年 NHK WORLD 「Joe Hisaishi Special Program」

ガブリエル・プロコフィエフ氏本人がインタビュー出演し、久石譲音楽の魅力を語る。

Blog. NHK WORLD 「Joe Hisaishi Special Program」 久石譲特番放送内容

 

◇2017年 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vol4」コンサート

ガブリエル・プロコフィエフ:弦楽四重奏曲第2番 (2006)
Gabriel Prokofiev:String Quartet No. 2

ガブリエル・プロコフィエフの《弦楽四重奏曲第2番》もクラブシーンの影響を受けながらも祖父譲りの強い音の構成力と感情を揺さぶる強い力があります。そう、今年は「くり返す」ということと「揺さぶられる感情」あるいは「揺れ動く感情」がテーマです。

このお三方とは今年ニューヨークやロンドンで直接お会いしてそれぞれの楽曲へのアドバイスをいただきました。また作曲家どうしの話題はとても刺激的で至福の時間でもありました。

(久石譲)

Blog. 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー vol.4」 コンサート・レポート より抜粋)

 

休憩を挟んで3曲目に演奏された『弦楽四重奏曲第2番(ガブリエル・プロコフィエフ/2006』では、ヴァイオリンが弦を激しく叩いてビートを紡ぐといった斬新な演奏を披露。楽器こそクラシック系だが、これはもはやEDM等のダンスミュージック。作者のガブリエル・プロコフィエフは、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフの孫。祖父のDNAを引き継ぎポスト・クラシカル系の作曲家でありながら、DJとしても活動し、クラブミュージックとの競作も発表しているほど。

Info. 2017/10/26 「久石譲 ミュージック・フューチャーVol.4コンサート開催」(Webニュースより) 抜粋)

 

 

「二ノ国 II レヴァナントキングダム」の音楽は公式にクレジットのあるもので全31曲。ただし、追加音楽の明記もあるので、全31曲が久石譲によるものではないと推測している。といっても、他者による追加音楽は1曲程度だろう。こういう書き方をするのは楽曲ごとの作者が不明だからである。またゲーム内では久石譲作曲をベースにしたシンセサイザー・アレンジ楽曲(他者による編曲)や追加楽曲、ジングルもふくめるとトータル約60曲にも及ぶ。

ひとつ確かな手引きとなること。冒頭に紹介した公式映像集に使用された楽曲たち、また下記紹介する海外限定版にのみ付属するLPやCDに収録された楽曲たち。これらは間違いなく久石譲が作曲したものであり、同時に「二ノ国 II」の音楽を語るうえで主要なテーマ曲ということになる。ゲーム発売にともなう完全なるオリジナル・サウンドトラック盤CDには至っていない。

久石譲が約30曲も本作のために書き下ろし、こんなにも素晴らしいクオリティの音楽なのに、ゲーム愛好家しか聴けないというのは非常にもったいない。2015年12月に初めて耳にした時から、約2年越しにようやくその全貌を現した「二ノ国 II」音楽。待ち望んだ二ノ国ファン、ゲームファン、久石譲ファンのためにも、ぜひCD化を熱望している。オリジナル・サウンドトラック完全盤として。そのとき1stトレーラー専用音楽などもボーナス・トラックで収録してくれたなら、歓喜にふるえる。

くり返し聴くことを目的とした音楽づくりは完成度が低いのだろうか。決してそうではないことは書いてきた。もし制作段階からサントラ盤を出す意図がなかったとしたら、それはとても残念に思う。今の久石譲がいっぱいにつまった快作、実験と挑戦で新しい可能性を響かせてくれた傑作。

いつの日か久石譲コンサートによって、組曲として壮大に起承転結する音楽作品へと昇華されることも夢みる。「二ノ国 II レヴァナントキングダム」音楽は、CD化されること・コンサートで披露されることではじめて完結する。着地できない優れた楽曲たちに、とびっきりのゴールをつくってほしい。

 

注)
「Ni No Kuni: Wrath of the White Witch - Original Soundtrack」は、2011年「二ノ国 白い聖灰の女王」(日本・PS3)を経て2013年1月海外版ゲームソフト発売に連動するように発売された。

 

 

商品パッケージについて

音楽に関連する商品情報のみピックアップする。いずれも日本国内版にはない特典で本作の海外人気をうかがわせる。

「Ni No Kuni II: Revenant Kingdom: King’s Edition (PS4) / (PC DVD) EU版」には、二ノ国 IIからの2楽曲が収録されたアナログレコード(LP)が付属している。

 

(LPジャケット)

 

(LP盤)

 

The Sound of NI NO KUNI II: REVENANT KINGDOM

Track 01. Theme from Ni no Kuni II
Track 02. The Curious Boy

Music Composed and Directed by Joe Hisaishi
Performed by the Tokyo Philharmonic Orchestra in Tokyo, Japan.

 

 

「Ni No Kuni II: Revenant Kingdom – Premium Edition (北米版)」には、二ノ国 IIからの4楽曲が収録されたCDが付属している。

 

(ケース CD盤)

 

Ni no Kuni II: Revenant Kingdom Music CD Collection

01 Theme from Ni no Kuni II 3:59
02 The Boundless Skies 3:19
03 Evan’s Kingdom 2:52
04 There is Hope 1:55

Artist: Joe Hisaishi
Genre: Original Soundtrack
Published by: BANDAI NAMCO Entertainment America
Release Region: North America
Release Date: 2018/3/23

Composed & Conducted by Joe Hisaishi
Orchestration: Chad Cannon, Kosuke Yamashita, Joe Hisaishi
Performed by the Tokyo Philharmonic Orchestra
Chorus: Ritsuyukai

Recording & Mixing Engineer: Mikio Obata
Sound Manipulator: Yusuke Yamashita (WONDER CITY)
Recording Studio: AVACO CREATIVE STUDIO, SOUND INN STUDIO
Mixing Studio: SOUND INN STUDIO

 

 

(日本国内版 PS4)

 

楽曲情報

・二ノ国 II メインテーマ Theme from Ni no Kuni II
・クーデター The Toppled Throne
・別れ Leavetaking
・闇の呪文歌 Dark Rite
・広大な大地 The Great Outdoors
・大海原 The High Seas
・果てしない空 The Boundless Skies
・脱出 The Escape
・危険な谷 Treacherous Valley
・神秘の森 Forest of Mysteries
・海底洞窟 Deep Sea Cave
・ファクトリー The Factory Floor
・キングダム Evan’s Kingdom
・欲望の町 City of Hunger
・進化の大都市 City of the Future
・水の都 Kingdom by the Sea
・ネズミ王国の城下町 In the Kingdom of the Mice
・滅びの王国 The Lost Kingdom
・戦闘開始 Let Battle Commence
・苦闘 Into the Fray
・ボスバトル Boss Battle
・命運をかけた戦い Fateful Encounter
・守護神 Kingmaker’s Theme
・ラストバトル The Final Showdown
・夢の中の少年 The Curious Boy
・のどかな日常 Carefree Days
・勇ましき進軍 To Arms!
・希望 There is Hope
・切ない思い出 Painful Memories
・フニャ Here Come the Higgledies!
・希望の未来 Happily Ever After

 

ミュージック・クレジット

音楽:久石譲
オーケストレーション:チャド・キャノン 山下康介 久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:栗友会
指揮:久石譲

エンディングテーマ「希望の未来」
作/編曲:久石譲
リズム・アレンジ:ガブリエル・プロコフィエフ 松浦晃久 久石譲
ヴォイス:麻衣
コーラス:東京混声合唱団
パーカッション:和田光代
ケルティック・ティンホイッスル:野口明生
ハープ:堀米綾
ピアノ:鈴木慎崇
ストリングス:真部ストリングス

レコーディング&ミキシングエンジニア:小幡幹男
マニピュレーター:山下祐介(ワンダーシティ)

レコーディング・スタジオ:AVACO CREATIVE STUDIO SOUND INN STUDIO
ミキシング・スタジオ:SOUND INN STUDIO

追加音楽:西郷憲一郎
サウンドデザイナー:山中大 西浦智仁 橋詰友美子 畑田浩孝
サウンド制作サポート:森下真都香 吉田祐也 柴田陽介

 

※ミュージック・クレジット項はゲーム本作エンドロールクレジットより。編集記載のため紹介順序は異なる。

 

 

【商品情報】
対応機種:PlayStation®4/PC
発売日:2018年3月23日(金)
CERO:B(12才以上対象)
価格:
[通常版] 8,000円(税別)
[初回限定版「COMPLETE EDITION」] 10,000円(税別)
[シーズンパス] 2,000円(税別)
制作・発売:株式会社レベルファイブ
海外発売:株式会社バンダイナムコエンターテインメント

【キャスト】
エバン役:志田 未来
ロウラン役:西島 秀俊
シャーティー役:門脇 麦
シャリア役:木村 文乃
セシリウス役:山崎 育三郎
ラティエ役:吉谷 彩子

ガットー役:吉田 鋼太郎

【スタッフ】
ストーリー/ゼネラルディレクター:日野 晃博
キャラクターデザイン:百瀬 義行
音楽:久石 譲

©LEVEL-5 Inc.

 

 

2018.6.6 release

 

 

Disc. 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 『ベートーヴェン:交響曲 第2番&第5番「運命」』

2018年2月21日 CD発売 OVCL-00655

 

精鋭メンバーが集結した夢のオーケストラ! ベートーヴェンはロックだ!!

長野市芸術館を本拠地として結成したオーケストラ「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」は、音楽監督久石譲の呼び掛けのもと、日本のトッププレーヤーが結集してスタートしました。当ベートーヴェン・ツィクルスは、”音楽史の頂点に位置する作品のひとつ”と久石がこよなく愛する「第九」に至るまで、2年で全集完成を目指します。第1弾アルバムでは、作曲家ならではの視点で分析し”例えればロックのように”という、かつてない現代的なアプローチが好評を博しました。今回も高い演奏技術とアンサンブルと、圧倒的な表現力で、さらに進化したベートーヴェンを聴かせます。

(CD帯より)

 

 

エネルギーと駆動力に充ちたベートーヴェン 柴田克彦

本作は、第1番&第3番「英雄」に続く、久石譲 指揮/ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)のベートーヴェン交響曲シリーズのCD第2弾。NCOは、2016年に開館した長野市芸術館を本拠とする楽団で、長野県出身の久石は、同ホールの芸術監督とNCOの音楽監督を務めている。メンバーは在京オーケストラの首席奏者を多く含む国内外の楽団やフリーの奏者など、若い世代を中心とした名手たち。彼らがホール開館直後から行っている「ベートーヴェン 交響曲全曲演奏会」(全7回)は、2016年7月の第1番に始まり、本作の第2番は2016年7月17日の第2回定期、第5番「運命」は2017年7月15日の第4回定期のライヴ録音である。

当シリーズにおける久石のコンセプトは、「作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」、「往年のロマンティックな表現もピリオド楽器の演奏も、ロックやポップスも経た上で、さらに先へと向うベートーヴェン」であり、演奏もそれを具現している。そしてもう1つ見逃せないのが、NCOの表現意欲の強さだ。

コンサートマスターの近藤薫(東京フィルのコンサートマスターでもある)に話を聞いた際、彼は「クラシックは、伝統と確信が両立しなければいけないと思う。その点NCOは、ベテランから伝統を教わると同時に、少し何かが見えて次の展開に胸躍らせている30代が中心。それゆえ両方を併せもち、誰もがそうした立場を楽しんでいる。いわば演奏家ではなう音楽家の集合体。多様性があって、何にもでなれる。NCOの特徴は、この”皆が生きている”ところではないか」との旨を語っていた。

本作はまさに、久石のアプローチと、その意を自己表現に昇華させ得る”音楽家たち”のパフォーマンスが融合した、きわめて”Live”なベートーヴェンである。

ここでは番号順に特徴をみていこう。

第2番は、緩やかな序奏からリズムとアタックや細かな動きが鮮明に打ち出され、すでにムーヴしている。主部に入ると、弦楽器の生き生きとした刻みが推進力を倍加させ、絶え間なく前進を続ける。木管楽器の瑞々しい表現やティンパニの激しい打ち込みも効果的。これは本作の2曲全体に亘る特徴であり、前記の表現意欲の具体例でもある。第2楽章も緩徐楽章といえど動きが躍動し、それでいてしなやかな歌が流れていく、そのバランスが絶妙だ。第3楽章もリズムと音の動きが明確で、第4楽章は元々動的な音楽がより鮮烈に表出される。特に後半のダイナミズムは圧巻。この演奏を聴くと、まだ初期に属する第2番が、第3番に繋がる英雄様式と、第5番に通じる激しさを内包していることがよく分かる。

第5番は、第2番より熟達した中期の傑作であり、しかも1年後の演奏だ。にもかかわらず、ここで聴く両曲に質的な違和感が全くない。これは、当シリーズのコンセプトの揺るぎなさを証明している。

第5番は、当然のことながら前進性抜群で、テンポの速さが際立っている。だがそれは、メトロノームの指定に拠るものではなく、曲がもつ駆動力やエネルギーを表すための必然的な速さと言っていい。第1楽章は、動機の連鎖が生み出す活力や推進力が通常以上に強調される。第2楽章も速いテンポで弛緩なく進行。第3楽章がこれほど生気に富んでいるのも珍しい。そして第4楽章は圧倒的な勢いと力が横溢し、大管弦楽を凌ぐ迫力で突き進む音楽が、熱い感動を呼び起こす。久石は「巨大なオーケストラが戦艦やダンプカーだとすれば、NCOはモーターボートやスポーツカー」と語っていたが、この第5番は、まさしく強力なモーターボートで疾走するかのようだ。

ベートーヴェンの交響曲は1曲ごとに違った顔をもつ。それはむろん確かだが、当シリーズを聴くと、第1番や偶数番号の曲にも清新なパワーが通底し、どれもが”先へ先へと向っている”ことに気付かされる。やはりベートーヴェンは”ロックに通じる音楽”なのだ。

(しばた・かつひこ)

(CDライナーノーツより)

 

※諸石幸生氏による3ページにわたる曲目解説は割愛。詳細はCD盤にて。

 

 

 

 

 

[ベートーヴェン・ツィクルス第2弾]
ベートーヴェン:交響曲 第2番&第5番「運命」
久石譲(指揮)ナガノ・チェンバー・オーケストラ

ベートーヴェン
Ludwig Van Beethoven (1770 – 1827)

交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」
Symphony No.5 in C minor Op.67
1. 1 Allegro con brio
2. 2 Andante con moto
3. 3 Allegro
4. 4 Allegro

交響曲 第2番 ニ長調 作品36
Symphony No.2 in D major Op.36
5. 1 Adagio molto – Allegro con brio
6. 2 Larghetto
7. 3 Scherzo. Allegro
8. 4 Allegro molto

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (conductor)
ナガノ・チェンバー・オーケストラ
Nagano Chamber Orchestra

2016年7月17日(5.-8.)、2017年7月15日(1.-4.)
長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音
Live Recording at Nagano City Arts Center Main Hall, 17 Jul. 2016 (5-8), 15 Jul. 2017 (1-4)

 

Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Nagano Chamber Orchestra
Concertmaster:Kaoru Kondo

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineers:Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 久石譲 『南极之恋 TILL THE END OF THE WORLD』 *Unreleased

2018年2月2日 中国公開

 

映画:南极之恋 TILL THE END OF THE WORLD
公開:2018年2月2日 中国
監督:吴有音
音楽:久石譲
主演:赵又廷、杨子姗

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
録音:ビクタースタジオ

*日本公開未定

 

 

映画公開に先がけて2月1日に「南极之恋 久石譲 MV / Original Music Score by Joe Hisaishi」動画が公開された。映画本編とレコーディング風景を編集した映像に、この映画のために書き下ろされたメインテーマを聴くことができる。

オーケストラを基調とした大きく包みこむような音楽。愛のテーマともいえる久石譲によるピアノ旋律。南極を舞台にした世界観を反映し、澄みきった壮大な曲想である。

またフルオーケストラのなか、エッセンスとしてデジタル音も低音域や効果音的に配置するなど、NHKシリーズ・ディープオーシャンをはじめとした直近の指向性が反映されている。

 

劇中音楽もあまり分厚くなりずきず歌いすぎず、リアリティを増す音楽設計がされている。それでもさすがエンターテインメント、盛り上げるところは盛り上げ、スリリングで緊迫感のある音楽、ミニマル手法を駆使した楽曲などが随所に詰め込まれている。

映画「花戦さ」や先に書いた「ディープオーシャン」の音楽を発展させたもの(手法として)、そこからつながる今の久石譲が大作映画・南極という舞台に置き換え、弦楽を前面に出した王道の映画音楽をつくりあげている。

ぜひとも映画日本公開そしてサウンドトラック盤の発売を叶えてほしい久石譲音楽である。

 

映画は現時点で日本未公開作品、サウンドトラック盤も発売されていない。

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』

2017年11月22日 CD発売 OVCL-00640

 

『久石譲 presents MUSIC FUTURE II』
久石譲(指揮) フューチャー・オーケストラ

久石譲主宰Wonder Land Records × クラシックのEXTONレーベル夢のコラボレーション第2弾!未来へ発信するシリーズ!

久石譲が“明日のために届けたい”音楽をナビゲートするコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、アルバム第2弾が登場。

2016年のコンサートのライヴ・レコーディングから、選りすぐりの音源を収録した本作には、“現代の音楽”の古典とされるシェーンベルクの《室内交響曲第1番》に加え、アメリカン・ミニマル・ミュージックのパイオニアであるライヒの人気作《シティ・ライフ》、そして久石譲の世界初演作《2 Pieces》が並びます。新旧のコントラストを体感できるラインナップと、斬新なサウンド。妖・快・楽──すべての要素が注ぎこまれた究極の音楽を味わえる一枚です。

日本を代表する名手たちが揃った「フューチャー・オーケストラ」が奏でる音楽も、高い技術とアンサンブルで見事に芸術の高みへと昇華していきます。レコーディングを担当したEXTONレーベルが誇る最新技術により、非常に高い音楽性と臨場感あふれるサウンドも必聴です。

「明日のための音楽」がここにあります。

ホームページ&WEBSHOP
www.octavia.co.jp

(CD帯より)

 

 

解説 小沼純一

2016年におこなわれた「MUSIC FUTURE」、久石譲が始めたこのシリーズ、第3回目のコンサートで演奏された3作品を収録したのがこのアルバムとなります。初回が2014年で、「Vol.1」はヨーロッパの作品を、「Vol.2」ではアメリカ合衆国の作品を、そして今回、「Vol.3」ではヨーロッパの20世紀音楽の「古典」と、20世紀の終わりから21世紀現在のアメリカ、そして久石譲の作品をプログラムしています。

「MUSIC FUTURE」では、コンサート・ステージにはなかなかのらない「現代」の作品がプログラムされています。もしかしたら動画サイトなどで聴くことができる音楽もあるでしょう。でも、たくさんの音源がならんでいるなかから、ひとつの楽曲を選び、聴く、ことは容易ではありません。いえ、聴くことはできるでしょうが、何らかの見取り図のなかで聴いてみる、ある歴史性のなかで聴いてみる、というのはコンサートだからできる、コンサートという90分から2時間の「枠」のなか、誰かコーディネイトをする人がいてこそ、単独の楽曲がランダムにならぶだけではない、立体的な構成ができることではないでしょうか。そして、演奏する人たちの表情、姿、しぐさ、ナマでむこうやこっちからやってくる音とともに、そばにいる人たちが感じているもの、反応が、空気を媒介にして肌に届いてくる、そんななかで「聴く」ことが新しい体験になる。「MUSIC FUTURE」にはそんな意図があるようにおもえます。そして、ただコンサートで終わるだけではなく、ひとつの記録としてのCDアルバムができ、そういえばこの前のコンサートでおもしろかったあの曲を、とホールで手にとることができ、自宅で聴くことができれば、どうでしょう。コンサートでとはまた異なった体験が得られるかもしれないし、はじめてではわからなかったことに気づけるかもしれません。コンサートがあり、録音がある、とは、こうした体験の輻輳化が可能になることです。

アルバムでは、「Vol.3」のコンサート当日に演奏された5作品のなかから、3曲を収録しています。演奏された楽曲の数と、CDでの録音の数とは、「Vol.2」とおなじです。

ちょっと耳にすると小難しい、とりとめがない、そんな「現代音楽」を最初につくったといわれているひとり、シェーンベルク(1874-1951)の初期の作品から、21世紀も10年代になって発表された久石譲(1950-)の新作、最後に、20世紀もすぐ終わりといった時期のライヒ(1936-)の作品へ。

小難しい、とりとめのなか、そんな「現代音楽」という言い方をしました。でも、このアルバムに収められているシェーンベルクの作品は、そうした小難しさやとりとめのなさはありません。そんなふうになる「以前」の作品なのです。そして、その意味では、ほぼ110年の広がりを持つヨーロッパ・アメリカ合衆国・日本で生まれた作品ではありますけれど、ひとつの調性システム、ドレミファを基本に据えた音楽のさまざまなかたち、ということができるでしょう。「現代音楽」と呼ばれながらも、その広がりもまたかなりある。そんなことがこのコンサート、アルバムから知ることができるのです。

 

シェーンベルク:
室内交響曲第1番 ホ長調 作品9

「室内楽」ということばがあります。「交響曲」ということばもあります。その両方がくっついたような「室内交響曲」がここにあります。それほど多くはありませんが、いまでは「室内オーケストラ(管弦楽団)」もあります。ところが、20世紀になるまで、このフォーマットの作品はなかったのです。いえ、ダンスの音楽やソングの伴奏などにはあったのです。しかし、シリアスな作品がならぶコンサートではありませんでした。シェーンベルクは「室内交響曲」を2曲つくっていますが、これはその「第1番」で、その意味では世界ではじめて「室内楽」としてはちょっと大きい、「オーケストラ」としてはかなり小さい楽器編成で、代替のきかない音楽作品を生みだしたのです。「MUSIC FUTURE」は、(1管編成の)室内オーケストラに拘ったプログラミングをしてきていますから、そうした室内オーケストラの原点といえるシェーンベルク《室内交響曲第1番》をとりあげているのはひじょうに意味があります。

編成はピッコロ/フルート、オーボエ、コーラングレ、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット、コントラファゴット、ホルン2、弦楽四重奏(ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ)、コントラバスの15人。ただ人数が少ない、というだけではありません。それぞれの演奏家はアンサンブルの一員であるとともに、ソリストとしての責任を課されています。そこも新しいところです。そして、作曲者自身というところの音色旋律(Klangfarbenmelodie)を用いて、通常のメロディーとは違った、音色の変化そのものがメロディーとして認識されるといった手法が用いられています。シェーンベルクがここまで試してきたさまざまな作曲上の技法が、ここでは綜合されている、とみる人もいます。

全体はひとつの楽章からなっていますけれども、提示—スケルツォ—展開—アダージョ—終曲の5つの部分からなっています。いわば、1楽章のソナタのかたちと多楽章のかたちとをひとつに集約したとみられ、モデルとしてはフランツ・リストの《ピアノ・ソナタ》を挙げられます。

作曲は1906年。翌1907年にウィーンで作曲者自身の指揮で初演。1913年にも自身が指揮し、そのときは弟子のアントン・ヴェーベルン《6つのバガテル》とアルバン・ベルク《アルテンベルク歌曲集》の一部もプログラムにあって、一種のスキャンダルになりました。またアメリカ合衆国に亡命後、1935年にはより大きな編成のオーケストラに改変、「作品9-b」としてロスアンジェルスで演奏しています。

 

久石譲:
2 Pieces for Strange Ensemble

「MUSIC FUTURE Vol.3」、2016年10月に初演された作品です。タイトルをみると、それだけで「?」となるかもしれません。「Strange Ensemble」って何だろう?と。2つの対照的な楽曲がならびます。はじめは休止のはいり方、音のなくなり方で、ちょっとどきっとします。休止符は、そう、ときに、とても聴き手を驚かせるものなのです。〈Fast Moving Opposition〉は、まさにそうした休止を、反復音型のあいまになげこむことで、「聴き始め」のショックを与えます。そこからふつうのリズム・パターンになりますが、すると逆に、変化のないパターンに足で1拍1拍をとりながら、べつの音型の出現や休止、音色の変化などに上半身で反応してゆく、といったふうになります。〈Fisherman’s Wives and Golden Ratio〉は、画家サルバドール・ダリの作品からタイトルをとっていて、しかも、曲そのものとはつながりがない、と久石譲はプログラムノートに記していました。ここでは複数のリズムと、楽器「以外」の音色とがないまぜになります。ある意味、先のシェーンベルク《室内交響曲第1番》での音色旋律を現代風に踏襲しているといえるかもしれません。

 

スティーヴ・ライヒ:
シティ・ライフ

1936年生まれのスティーヴ・ライヒは、ここであらためて紹介するまでもなく、現代アメリカ合衆国を代表する作曲家というだけでなく、1960年代に生まれた「ミニマル・ミュージック」の創始者のひとりです。振り子が行ったり来たりするなかでスピーカーがハウリングをおこす作品や、2人のピアニストがおなじ音型を反復しながら少しずつずれてゆく作品といった、ひじょうにラディカルな「ミニマリズム」から、ほぼ50年、その音楽は、反復性を基本としながらも、大きく変化してきました。そして《シティ・ライフ》は、狭義の「ミニマル・ミュージック」では測りきれない独自性をもった作品です。

タイトルどおり、この作品は、都市での生活がテーマになっています。作曲者自身が住むニューヨークの街の音、環境音がサンプリングされ、作品のなかでひびきます。ピアノやマリンバといった楽器によるリズムは人びとの歩いたり生活したりするリズムを、管楽器や弦楽器による持続音はビル街の存在感や活気のある街の空気を、そしてサンプリングされた音は、楽器音のなかにより具体的な都市間をつくりだす──そんなふうにみることもできるでしょう。でもそうだとしたら、サンプリングされた都市の音はただの素材にすぎません。それだけではなく、ここにあるのは、聴く人が、コンサートホールで演奏を聴いたり、自室のステレオで録音を聴いたりという環境と、一歩外にでて街のなかを歩くことがパラレルになっている、その二重三重の、いわばヴァーチャルな音環境が「作品」化されているところになります。《シティ・ライフ》は心地良い音楽です。他方、こういう環境があたりまえで、かつ心地良いというのはどういうことなのか、人が生きている、生活しているときにかかわる音や音楽はどうあったらいいのか、そんなことも作品は問い掛けてきます。つまりは、カナダの作曲家、マリー.R.シェーファーが提起した、「サウンドスケープ」という概念を、音楽作品をとおして、喚起している──そんなふうに言ったら、うがちすぎでしょうか。

1995年、3つの国の現代音楽アンサンブル(ドイツのアンサンブル・モデルン、イギリスのロンドン・シンフォニエッタ、フランスのアンサンブル・アンテルコンタンポラン)からの共同委嘱により作曲。全体は5つの部分からなります。奇数の楽章には声のはいったサンプリングが用いられるのも特徴です。

編成はフルート2、オーボエ2、クラリネット2、ピアノ2、サンプリング・キーボード2、パーカッション3または4、弦楽四重奏、コントラバス、です。

(こぬま・じゅんいち)

(「MUSIC FUTURE II」CDライナーノーツ より)

 

 

~「MUSIC FUTURE Vol.3」コンサートプログラムより

挨拶 久石譲

今年で3回めを迎えることができて、主催者として大変うれしい限りです。本来インディーズとして小さな集いでしか発表できない現代の楽曲をこの規模で行えることは、評論家の小沼純一さん曰く「世界でもあり得ないこと」なのだそうです。徐々に皆さんからの支持をいただいていることは、多くの優れた演奏家から出演してもいいという話をいただくことからも伺えます。新しい体験が出来るこの「MUSIC FUTURE」をできるかぎり継続していくつもりです。

自作について

《2 Pieces for Strange Ensemble》はこのコンサートのために書いた楽曲です。当初は「室内交響曲第2番」を作曲する予定でしたが、この夏に《The East Land Symphony》という45分を超す大作を作曲(作る予定ではなかった)したばかりなので、さすがに交響曲をもう一つ作るのは難しく、それなら誰もやっていない変わった編成で変わった曲を作ろうというのが始まりでした。

ミニマル的な楽曲の命はそのベースになるモチーフ(フレーズ)です。それをずらしたり、削ったり増やしたりするわけですが、今回はできるだけそういう手法をとらずに成立させたい、そんな野望を抱いたのですが、結果としてまだ完全に脱却できたわけではありません、残念ながら。発展途上、まだまだしなくてはいけないことがたくさんあります。

とはいえ、ベースになるモチーフの重要性は変わりありません。例えばベートーヴェンの交響曲第5番「運命」でも第7番でも第9番の第4楽章でも誰でもすぐ覚えられるほどキャッチーなフレーズです。ただ深刻ぶるのではなく、高邁な理念と下世話さが同居することこそが観客との唯一の架け橋です。

ベートーヴェンを例に出すなどおこがましいのですが、今回の第1曲はヘ短調の分散和音でできており、第2曲は嬰ヘ短調(日本語にすると本当に難しそうになってしまう、誰か現代語で音楽用語を作り替えてほしい)でできるだけシンプルに作りました。しかし、素材がシンプルな分、実は展開は難しい。どこまでいっても短三和音の響きは変わりなくさまざまな変化を試みるのですが、思ったほどの効果は出ない。ミニマルの本質はくり返すのではなく、同じように聞こえながら微妙に変化していくことです。大量の不協和音をぶち込む方がよっぽど楽なのです。その壁は沈黙、つまり継続と断絶によって何とか解決したのですが、それと同じくらい重要だったのはサウンドです。クラシカルな均衡よりもロックのような、例えればニューヨークのSOHOでセッションしているようなワイルドなサウンド(今回のディレクターでもあるK氏の発言)を目指した、いや結果的になりました。

大きなコンセプトとしては、第1曲は音と沈黙、躍動と静止などの対比、第2曲目は全体が黄金比率1対1.618(5対8)の時間配分で構成されています。つまりだんだん増殖していき(簡単にいうと盛り上がる)黄金比率ポイントからゆっくり静かになっていきます。黄金比率はあくまで視覚の中での均整の取れたフォームなのですが、時間軸の上でその均整は保たれるかの実験です。

というわけで、いつも通り締切を過ぎ(それすらあったのかどうか?)リハーサルの3日前に完成? という際どいタイミングになり、演奏者の方々には多大な迷惑をかけました。額に険しいしわがよっていなければいいのですが。

1.〈Fast Moving Opposition〉は直訳すれば「素早く動いている対比」ということになり、2.〈Fisherman’s Wives and Golden Ratio〉は「漁師の妻たちと黄金比」という何とも意味不明な内容です。

これはサルバドール・ダリの絵画展からインスピレーションを得てつけたタイトルですが、すでに楽曲の制作は始まっていて、絵画自体から直接触発されたものではありません。ですが、制作の過程でダリの「素早く動いている静物」「カダケスの4人の漁師の妻たち、あるいは太陽」が絶えず視界の片隅にあり、何かしらの影響があったことは間違いありません。ただし、前者の絵画が黄金比でできているのに対し、今回の楽曲作りでは後者にそのコンセプトは移しています。この辺りが作曲の微妙なところです。

日頃籠りがちの生活をしていますが、こうして絵画展などに出かけると思わぬ刺激に出会えます。寺山修司的にいうと「譜面(書)を捨てて街に出よう」ですかね(笑)

いろいろ書きましたが、理屈抜きに楽しんでいただけると幸いです。

(ひさいし・じょう)

(「MUSIC FUTURE II」CDライナーノーツ より)

 

 

フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのもと、久石譲の世界初演作のみならず、2014年の「Vol.1」ではヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルト、ニコ・ミューリーを、2015年の「Vol.2」ではスティーヴ・ライヒ、ジョン・アダムズ、ブライス・デスナーを、2016年の「Vol.3」ではシェーンベルクのほか、マックス・リヒターやデヴィット・ラング等の作品を演奏し、好評を博した。”新しい音楽”を体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

久石譲:2 Pieces for Strange Ensembleについて

編成は、クラリネット、トランペット、トロンボーン、ヴィブラフォン、パーカッション、ドラムス、ピアノ 2、サンプリング・キーボード、弦楽四重奏 チェロ、コントラバス、だったと思います。こちらもスティーヴ・ライヒ作品にもあったような、アコースティック楽器(アナログ)とサンプラー(デジタル)の見事な融合で、至福の音空間でした。デジタル音は低音ベースや低音パーカッションで効果的に使われていたように思います。一見水と油のような特徴をもったそれらが、よくうまく溶け合った響きになるものだと感嘆しきりでした。CDならば、ミックス編集などでバランスは取りやすいかもですが、コンサート・パフォーマンスで聴けたことはとても貴重でした。

例えば、ピアノを2台配置することで、ミニマル・フレーズをずらして演奏している箇所があります。ディレイ(エコー・こだま)効果のような響きになるのですが、CDだと、コンピューターで編集すれば、ピアノ1の音色をそのまま複製して加工すればいい、などと思うかもしれません(もちろん割り振られたフレーズが完全一致ではないとは思いますが)。そういうことを、アコースティック・ピアノ2台を置いて、互いに均一の音幅と音量で丁寧にパフォーマンスしていたところ、それを直に見聴きできたことも観客としてはうれしい限りです。

1.「Fast Moving Opposition」は、前半12拍子と8拍子の交互で進みます。これも指揮者を見る機会じゃないとおそらく聴いただけではわかりません。この変拍子によって久石譲解説にもあった今回の挑戦である「音と沈黙、躍動と静止、継続と断絶」という構成をつくりだしているように思います。中盤からドラムス・パーカッションが加わり、4拍子独特のグルーヴ感をもって展開していきます。

2.「Fisherman’s Wives and Golden Ratio」は、こちらも指揮者を見ても拍子がわからない変拍子でした。「黄金比率の時間配分で構成」についてはまったくわかりませんでした、難しい。管楽器奏者が口にマウスピースのみを加えて演奏するパートもありました。声なのか音なのか、とても不思議な世界観の演出になります。

言うなれば、贅沢な公開コレーディングに立ち会っている感覚すら覚えたほどです。アコースティック楽器とデジタル楽器、スタジオ・レコーディングならば、1パートずつ録音していくようなそれを、一発勝負で響かせて最高のテイクを奏でるプロたち。スコアを視覚的に見て取るように「あ、今のこの音はこの楽器か」とわかるところも含めて、贅沢な公開レコーディングに遭遇したような万感の想いです。

おそらくとても難解、いやアグレッシブな挑戦的なこと高度なことをつめこんでいる作品だろうと思います。一聴だけでは、第一印象と目に見えた範囲のことでしか語れないので、あまり憶測やふわっとした印象での見解は控えるようにします。1年後?CD作品化された暁には、聴けば聴くほどやみつきになりそうな、味わいがにじみ出てくるような作品という印象です。

 

素早く動いている静物
《素早く動いている静物》 (1956年頃) サルバドール・ダリ

 

カダケスの4人の漁師の妻たち、あるいは太陽
《カダケスの4人の漁師の妻たち、あるいは太陽》 (1928年頃) サルバドール・ダリ

 

Blog. 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー vol.3」 コンサート・レポート より所感抜粋)

 

 

 

CD鑑賞後レビュー追記

全編をとおして、耳が喜ぶ刺激、そんな音楽です。レコーディングとしても非常にクオリティの高い最高音質には脱帽です。よくぞここまで刻銘に記録してくれました!という言うことでしか表現が浮かびません。

コンサートで聴いたときとはまた違う、収まりのいい録音という音響だからこそ、見えてくる緻密さや聴こえてくる前後左右からの音、新しい発見がたくさんあります。小編成コンサートのシャープでソリッドで立体的な響き、作品の特性もあるのかときにむきだしなほどに鋭利な楽器の音たちは、それだけでも一聴の価値があるほど、ふだんの日常生活ではまた日常音楽では聴くことのできないものです。

 

久石譲作品について。

重厚でパンチの聴いたサンプリング・ベースがかっこいい。この作品を支配する大きな軸になっていると思います。クラブ・ミュージックを彷彿とさせながらも、音と沈黙によって一筋縄ではいかない、踊り流れておわってしまうことのない不思議な世界観を醸しだしています。またこの作品で追求した構成やサンプリング音(低音や金属音の種)は、その後「ダンロップCM音楽」(2016)やNHK「ディープ・オーシャン」(2016-2017)といったエンターテインメント音楽へも派生していきます。そういう点においても、実験的な試みをしただけにとどまらず、今久石譲が求める音を追求したワイルドなサウンドまで。具現化した完成度の高さでこの作品が君臨したからこそ、その先へつながっていると思うと、重要なマイルストーンとなる作品です。なにはともあれ、理屈うんぬんかっこいい!聴けば聴くほどに味がでる、今までに聴くことのできなかった新鮮で刺激的な音楽に出会えたことはたしかです。これがこれから長い時間をかけて聴きなじみ自分のなかへ吸収されていくとしたら、それはまさに快楽といえるでしょう。

 

 

 

アルノルト・シェーンベルク
Arnold Schönberg (1874-1951)
1. 室内交響曲 第1番 ホ長調 作品9 (1906)
 Chamber Symphony No.1 in E major, Op.9

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
2 Pieces for Strange Ensemble (2016) [世界初演]
2. 1. Fast Moving Opposition
3. 2. Fisherman’s Wives and Golden Ratio

スティーヴ・ライヒ
Steve Reich (1936-)
シティ・ライフ (1995)
City Life
4. 1 Check it out
5. 2 Pile driver / alarms
6. 3 It’s been a honeymoon – can’t take no mo’
7. 4 Heartbeats / boats & buoys
8. 5 Heavy smoke

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (Conductor)
フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

2016年10月13日、14日、東京、よみうり大手町ホールにてライヴ録音
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 13, 14 October, 2016

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE II

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Future Orchestra
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 13, 14 October, 2016

Produced by Joe Hisaishi
Recording & Mixing Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu
Mixed at EXTON Studio, Tokyo
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)
Cover Desing:Yusaku Fukuda

and more…

 

Disc. 久石譲 『Minima_Rhythm III ミニマリズム 3』

2017年8月2日 CD発売 UMCK-1580
2018年4月25日 LP発売 UMJK-9083/4

 

「ミニマル × 管弦楽」久石譲の真髄がここに宿る。

スケールも迫力も全開!刺激的なミニマリズム・シリーズ第3弾!

全世界に熱狂的なファンを持つ「ミニマリズム」シリーズ第3弾!! 久石譲が本格的に書き下ろした長大な交響曲「THE EAST LAND SYMPHONY」の世界初演音源を完全収録!W.D.O.2016の感動が蘇ります。イントロダクションには、久石が芸術監督を務める長野市芸術館の柿落し公演で発表された祝祭感満載の「TRI-AD」を初音源化。ミニマル・ミュージックと管弦楽を融合させた久石作品の魅力を余すことなく詰め込んだ1枚。

(CD帯より)

 

 

TRI-AD for Large Orchestra

作曲にあたって、最初に決めたことは3つです。まず祝典序曲のような明るく元気な曲であること、2つめはトランペットなどの金管楽器でファンファーレ的な要素を盛り込むこと。これは祝祭感を出す意味では1つめと共通することでもあります。3つめは6~7分くらいの尺におさめたいと考えました。

そして作曲に取りかかったのですがやはり旨くいきません。コンセプトが曖昧だったからです。明るく元気といったって漠然としているし、金管をフィーチャーするとしてもどういうことをするのかが問題です。ましてや曲の長さは素材の性格によって変わります。

そんなときに思いついたのが3和音を使うことでした。つまりドミソに象徴されるようなシンプルな和音です。それを複合的に使用すると結果的に不協和音になったりするのですが、どこか明るい響きは失われない。ファンファーレ的な扱いも3和音なら問題ない。書き出すと思ったより順調に曲が形になっていきました。そこですべてのコンセプトを3和音に置きました。それを統一する要素の核にしたのです。

2016年3月末からの中国ツアーの前にピアノスケッチを作り、帰ってきてから約2週間で3管編成にオーケストレーションしました。

「TRI-AD」とは3和音の意味です。曲は11分くらいの規模になりましたが、明るく元気です。2016年5月に長野市芸術館こけら落としのコンサートで初演されました。

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

THE EAST LAND SYMPHONY

「THE EAST LAND SYMPHONY」は全5楽章で約42分かかる規模の大きな作品です。3管編成でソプラノも入ります。以下、各楽章について解説していきます。

1.The East Land」は5年前に作曲しました。そのときは、自らの交響曲第1番とマーラーの交響曲第5番を演奏する予定でしたが、この楽曲しか発表することができませんでした。今回若干の手直しをして演奏します。核になっていることはセリー(音列)*的な要素とミニマルを合体することでした。全体を覆う不協和音はそのためです。中間部を過ぎてからアップテンポになるのですが、そこで炸裂する大太鼓はまるでクラブのキックドラムのようで個人的には気に入っています。

2.Air」は鍵盤打楽器が大気の流れのように止め処なく、くり返されます。少し抽象的な表現をすると「時間の進行を拒否した」ような佇まいです。5年前に作曲し大方のオーケストレーションもできていたのですが、そこから進まなかった。何度も書き直しをしているのですが、まったくフォームを変えようとしない。そこで気がついた、このままでいい! そういう曲なんだと。全5曲の中でもっとも時間がかかり、最後まで手を入れていた楽曲です。

3.Tokyo Dance」はソプラノが入ります。自分と自分の周りだけが大切、世界なんかどうでもいい! というような風潮のガラパゴス化した今の日本(東京)を風刺したブラックなもの、そして日本語で歌うというコンセプトで娘の麻衣に作詞を依頼しました。何回か書き直しをしていく中で数え歌というアイディアが浮かび、いわば「東京数え歌」ともいえる前半ができました。ロンド形式のように構成しましたが、中間部、後半部は英語とミックスしながら『平家物語』のような諸行無常を歌っています。何故こういう曲を書いたのか?あるいは書こうとしたのかわかりません。たぶん数年後には腑に落ちるかもしれません。

4.Rhapsody in Trinity」は当初「東京ダンス」という仮のタイトルで作曲を始めたのですが、前曲にタイトルを譲りました。日本語で書くと「三位一体の狂詩曲」ということですが、前曲と同じくブラックな喜遊曲です。実は悲劇と喜劇は表裏一体です。本当の悲哀や慈しみはチャップリンの映画や山田洋次監督の『男はつらいよ』シリーズを観れば一目瞭然、喜劇が適しています。ただしそれを作るのは本当に難しい。音楽も同じです。悲しい曲はまあ誰でも作れますが(作れない人もいますが)楽しく快活に音符が飛び回っている向こう側で何かただならぬものを感じていただく、ということはいわば俯瞰、ある意味で神の視点が必要です。いや、そういう哲学的知恵が必要だということです。僕はまだそこに至っていないので(到底無理なのかもしれませんが)チャレンジし続けるしかないと思っています。11/8拍子という何とも厄介なリズムが全体を支配しています。

5.The Prayer」は今の自分が最も納得する曲です。ここのところチャレンジしている方法だいうことです。最小限の音で構成され、シンプルでありながら論理的であり、しかもその論理臭さが少しも感じられない曲。すべての作曲家の理想でもあります。もちろん僕ができたということではありません。まあ宇宙の果てまで行かないと実現できそうもないことなのですが、志は高く持ちたいと思っています。ソプラノで歌われる言葉はラテン語の言諺から選んでいます。もちろん表現したかったこと(それは言わずもがな)に沿った言葉、あるいは感じさせる言葉を選んでいます。後半に現れるコラールはバッハ作曲の「マタイ受難曲第62番」からの引用です。このシンフォニーを書こうと考えたときから通奏低音のように頭の中で流れていました。

タイトルの「THE EAST LAND」は「東の国つまり日本」であり、その日本の中の東の国は、「東北地方」を指します。もちろん社会的な事象を表現しようと思って作曲した訳ではありません。ありませんが、あれから5年、本質は何も変わっていない、我々はどこに行くのだろうか?という思いはあります。それでも生きる勇気と力を表現したい。世界のカオス(混沌)の中でも自分を見失わない日本人であってほしいという思いもあります。奇しくも5年前に作り出した楽曲をこの夏、完成できたことは、あのときから「あらかじめ予定されていたこと」だったのかもしれません。

久石譲

*セリー:音列のこと。特に十二音技法においては、すべての音を1回ずつ用いて構成する。

注)この文章は2016年の夏に行われたW.D.O.コンサートのパンフレットに書かれた本人の文章を再構成しています。

(CDライナーノーツ より)

 

 

なお「TRI-AD for Large Orchestra」「THE EAST LAND SYMPHONY」の上述久石譲楽曲解説はCDライナーノーツにて英文テキストも収載されています。「THE EAST LAND SYMPHONY」はオリジナル日本語詞とあわせて英訳詞も収載されています。

中島信也氏(東北新社取締役/CMディレクター)による寄稿文は現時点で割愛しています。ぜひCDを手にとってご覧ください。

 

 

 

「これはすごく悩みます。シンフォニーって最も自分のピュアなものを出したいなあっていう思いと、もう片方に、いやいやもともと1,2,3,4楽章とかあって、それで速い楽章遅い楽章それから軽いスケルツォ的なところがあって終楽章があると。考えたらこれごった煮でいいんじゃないかと。だから、あんまり技法を突き詰めて突き詰めて「これがシンフォニーです」って言うべきなのか、それとも今思ってるものをもう全部吐き出して作ればいいんじゃないかっていうね、いつもこのふたつで揺れてて。この『THE EAST LAND SYMPHONY』もシンフォニー第1番としなかった理由は、なんかどこかでまだ非常にピュアなシンフォニー1番から何番までみたいなものを作りたいという思いがあったんで、あえて番号は外しちゃったんですね。」

「そうですね。EAST LANDっていうのは東の国ですから、日本ですね、はっきり日本ですね。なんかねえ、これを作ってた時にずっと「日本どうなっちゃうんだろう」みたいな思いがすごく強くて。第三楽章の「Tokyo Dance」っていうのは、ほんとにちょっとブラックな、風刺ですよね、ちょっと「こんなに日々良ければそれでいいみたいな生き方してていいのか」みたいな、そんなような思いもあって。」

「第三楽章は僕の娘の麻衣が書きまして。第五楽章は自分でラテン語の辞書あるいはラテン語の熟語集の中から「祈り」にふれてる言葉をいろいろ選びまして、それを組み合わせて作りました。」

「この『THE EAST LAND SYMPHONY』を作ってる間、ずうっと合間に聴いてたのがマタイ受難曲だったんですね。なんかあれを聴くと、音楽の原点という気がして。はい。」

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

 

THE EAST LAND SYMPHONY
例えば、マーラーは交響曲の中に世俗曲や民謡の要素を盛り込んでいる作品が多くあります。久石譲が西洋音楽/古典音楽に対峙するとき、”現代作曲家”として”日本の作曲家”として、ひとつの導き出した答え、それが「THE EAST LAND SYMPHONY」という作品なのかもしれません。『現代の音楽』として響かせた記念すべき大作です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

「TRI-AD」 for Large Orchestra
2016年に書きおろした作品のひとつです。「三和音」をコンセプトにしていますが、とても演奏難易度の高い曲だと思います。あらためて聴いてこの作品の末恐ろしさを感じました。ミニマル・ミュージックとしても大作ですし、祝典序曲のような華やかさと躍動感もすごいです。さらに今回、ひしひしと感じたのがうねりです。「音がまわる」立体音空間です。とりわけ、ラストの螺旋状に昇っていくような各セクションの音の織り重なりは圧巻です。ファンファーレ的な金管楽器に、弦楽器や木管楽器が高揚感をあおり、粒きれいに弾ける打楽器・パーカッション。オーケストラの音がステージから高くスパイラルアップして響き轟く立体的な音空間。これはぜひコンサートで生演奏を体感してほしい、臨場感を味わえる楽曲です。

オーケストラも対向配置なので各セクションが輪郭シャープに、メリハリある前後左右の音交錯を体感できます。近年久石譲コンサートはそのほとんどが対向配置をとっています。ただ、それに輪をかけて、秘めたる潜在パワーをもった作品のような気がします。長野公演から半年以上経って、今回新しく感じたこと。これは久石譲の楽曲構成とオーケストレーションの強烈なマジックなのかもしれない、と。独特なうねりです。

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

 

2018年4月25日 LP発売 UMJK-9071/2
完全生産限定盤/重量盤レコード/初LP化

 

 

 

2018.10 追記

 

 

 

 

1. TRI-AD for Large Orchestra
  THE EAST LAND SYMPHONY
2. I.The East Land
3. II.Air
4. III.Tokyo Dance
5. IV.Rhapsody of Trinity
6. V.The Prayer

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Track 1 《TRI-AD for Large Orchestra》
Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
       Yasushi Toyoshima (Concertmaster)

Recording Engineer:Tomoyoshi Ezaki (Octavia Records)
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu (Octavia Records), Keiji Ono (Octavia Records)
Recorded at Sumida Triphony Hall, Tokyo (16 May, 2016)

Track 2-6 《THE EAST LAND SYMPHONY》
Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
       Yasusi Toyoshima (Concertmaster)
       Yoko Yasui (Soprano)

Recording Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu (Octavia Records), Keiji Ono (Octavia Records)
           Hiroyuki Akita, Tomotaka Saka

Live Recorded at
Niigata-City Performing Arts Center “RYUTOPIA” (Concert Hall), Niigata (30 July, 2016)
Fukuoka Symphony Hall, Fukuoka (2 August, 2016)
Suntory Hall, Tokyo (5 August, 2016)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (6 August, 2016)
Aichi Prefectural Arts Theater (The Concert Hall), Nagoya (8 August, 2016)

Mixing Engineer:Peter Cobbin, Kirsty Whalley
Mixed at:Abbey Road Studios (UK), Sweet Thunder Studio (UK)
Mastering Engineer:Christian Wright (Abbey Road Studios)
Mastered at Abbey Road Studios (UK)
Coordination in London:Hideaki Takezawa (BlicKingUK)

and more…

 

Disc. 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 『ベートーヴェン:交響曲 第1番&第3番「英雄」』

2017年7月19日 CD発売 OVCL-00633

 

長野市芸術館を本拠地として、2016年、新たなオーケストラ「ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)」が誕生しました。音楽監督久石譲の呼び掛けのもと、日本のトッププレーヤーが結集してのベートーヴェン・ツィクルスが開始。“音楽史の頂点に位置する作品のひとつ”と久石がこよなく愛する「第九」に至るまで、2年で全集完成を目指します。作曲家ならではの視点で分析する”例えればロックのように”、かつてない現代的なアプローチによる久石譲&NCOのベートーヴェン・ツィクルス、第1弾。

精鋭メンバーが集結した夢のオーケストラ!ベートーヴェンはロックだ!!

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)は長野市芸術館(2016年にオープン)を本拠地とした新しいオーケストラです。若くて優秀なうえに経験も豊富です。

僕がそこの芸術監督として最初に取り組むプロジェクトをベートーヴェンの交響曲全曲演奏&CD化にしました。我々のオーケストラは、例えればロックのようにリズムをベースにしたアプローチで誰にでも聴きやすく、それでいて現代の視点、解釈でおおくりすることができます。つまり新たなベートーヴェンです。今回お届けするのは第1回、第3回定期演奏会で演奏された楽曲です。

楽しんでいただければ幸いです。

2017年6月 久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

前進し躍動するベートーヴェン 柴田克彦

これは、聴く者の全身に活力を送り込み、五感を覚醒させるベートーヴェンだ。今回の交響曲全集プロジェクトにおける久石譲のコンセプトは、「作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」。これに、著名オーケストラの首席クラスが集い、海外一流楽団やフリーの名手も加わった「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」が全力で応えたのが、本作の演奏である。

長野市芸術館で両曲のライヴを体験した際には、久石のソリッドなアプローチと、若い世代を中心とする精鋭たちの表現意欲が相まった、躍動感と生気あふれる音楽に感銘を受けた。”小回りの効く編成”ゆえに浮上する音やフレーズの綾も実感した。そしてリアルかつバランスの良いCD録音をあらためて聴くと、それらに加えて、細かなリズムの意味深さや、音塊一体で前進する強烈なエネルギーを再認識させられる。

両曲ともに速めのテンポでキビキビと運ばれ、緩徐楽章であろうと全く停滞しない。だが快速調であっても勢い任せではなく、各フレーズがこまやかに息づいている。第1番は、推進力と力感の中に、若きベートーヴェンの前向きの意志が漲っている。この曲は先達の進化形である以上に、未来を見据えた作品なのだ。第3番は、リズムが躍る鮮烈な音楽。特にシンコペーションや弦の刻みが効果を上げる。第4楽章前半部分での弦楽器陣の室内楽的な絡みも新鮮だ。そして重厚長大なイメージの「エロイカ」が、実は第7番を先取りするビートの効いた曲であることに気付かされる。

往年のロマンティックな表現や分厚い響きも、次のピリオド楽器演奏も、あるいはまたロックやポップスも経た上で、さらに先へと向うベートーヴェンの交響曲がここにある。

(しばた・かつひこ)

(CDライナーノーツより)

 

※諸石幸生氏による3ページにわたる曲目解説は割愛。詳細はCD盤にて。

 

 

 

久石譲インタビュー

「ベートーヴェンはやはりクラシック音楽の最高峰。何をどう頑張っても最後はここに行き着くんです。別の音楽を何回か経験した後に挑む方法もありますが、最初にベートーヴェンの交響曲全曲演奏を経験し、あるときにまた挑戦すればいい — 僕はそう考えました。演奏者もベートーヴェンをやるとなれば気持ちが違いますし、新たにスタートしたナガノ・チェンバー・オーケストラでも、メンバーの結束の強さが変わってきます。これはとても重要なことだと思っています」

「我々の演奏は、日本の人たちが通常やっているベートーヴェンではないんですよ。アプローチは完全にロックです。さらに言うとベートーヴェンが初演したときの形態でもあります。現代のオーケストラは、ワーグナー以来の巨大化したスタイルであり、ドイツ音楽は重く深いものだと思われています。しかしベートーヴェンが初演した頃は、ナガノ・チェンバー・オーケストラくらいの編成なんです。巨大なオーケストラが戦艦やダンプカーだとすれば、ナガノ・チェンバー・オーケストラは、モーターボートやスポーツカー。小回りが効くし、ソリッドなわけです。我々は、ベートーヴェンが本来意図した編成を用いながら、現代の解釈で演奏します。なぜなら昔と違ってロックやポップスを聴いている今の奏者は、皆リズムがいいからです。そのリズムを前面に押し出した強い音楽をやれば、物凄くエキサイティングなベートーヴェンになる。我々のアプローチはそういうことです」

「何十回もやって慣れてきたスタイルと全く違うので、メンバーも興奮していますよ。別に特別な細工をしたわけではありません。先に申し上げたように、編成はオリジナルに近づけて、リズムなどは現代的な解釈を採用しただけです。皆が色々な音楽を聴いている今は、その感覚で捉えなかったら、ベートーヴェンをやる意味はないと思うのです。ですから本当に、だまされたと思って一度聴きに来てください」

Blog. 「NCAC Magazine Opus.4」(長野市芸術館) 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

 

 

[ベートーヴェン・ツィクルス第1弾]
ベートーヴェン:交響曲 第1番&第3番「英雄」
久石譲(指揮)ナガノ・チェンバー・オーケストラ

ベートーヴェン
Ludwig Van Beethoven (1770 – 1827)

交響曲 第1番 ハ長調 作品21
Symphony No.1 in C major Op.21
1. 1 Adagio molto – Allegro con brio
2. 2 Andante cantabile con moto
3. 3 Menuetto. Allegro molto e vivace
4. 4 Adagio – Allegro molto e vivace

交響曲 第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」
Symphony No.3 in E-flat major Op.55 “Eroica”
5. 1 Allegro con brio
6. 2 Marcia funebre. Adagio assai
7. 3 Scherzo. Allegro vivace
8. 4 Finale. Allegro molto

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (conductor)
ナガノ・チェンバー・オーケストラ
Nagano Chamber Orchestra

2016年7月16日(1.-4.)、2017年2月12日(5.-8.)
長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音
Live Recording at Nagano City Arts Center Main Hall, 16 Jul. 2016 (1-4), 12 Feb. 2017 (5-8)

 

Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Nagano Chamber Orchestra
Concertmaster:Kaoru Kondo

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineers:Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 久石譲 『Our Time Will Come(明月几时有)』 *Unreleased

2017年7月1日 映画公開

 

中国・香港合作映画
「Our Time Will Come (明月几时有/明月幾時有)」

公開:中国 2017年7月1日 / 香港台湾 2017年7月6日
監督:アン・ホイ(許鞍華)
音楽:久石譲

※日本公開未定

 

 

アン・ホイ監督とは映画「おばさんのポストモダン生活」(2007年・中国)につづいて2作目のタッグである。

この映画のために書き下ろされた音楽は決して多くはない。メインテーマはバグパイプがメロディを奏でていてとても強いアクセントになっている。それでもそこにはアジアを感じる悠々とした大きな流れがある。弦楽へと引き継がれていくこのメロディは、展開することのない印象的な旋律をくりかえすものだが、シンプルであるからこそ強く迫ってくるもの、大きな余韻を残すものがある。

このメインテーマはいろいろな楽器で奏でられ、またいろいろなバリエーションによって数パターン登場している。メインテーマ以外にもいくつかの主要テーマ曲が散りばめられている。

音楽全体としては、フルオーケストラというよりも小編成オーケストラによるもので、緻密なオーケストレーションというよりもシンプルにしっとりと聴かせる音楽が基調となっている。もちろんクライマックスではメインテーマが壮大に響き、広がり奥ゆきある展開をしている。

 

映画は現時点で日本未公開で、サウンドトラック盤も発売されていない。

 

 

2018.4 追記

 

 

2018.5 追記

久石譲香港公演のアンコールにて、同作品メインテーマが初披露されました。音楽賞受賞をうけてともとれるタイムリーなギフト、同公演には監督の姿もあったようです。いつか日本でも演奏されますように。

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』

2016年10月21日 CD発売 OVCL-00620

 

『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』
久石譲(指揮) フューチャー・オーケストラ

久石譲が主宰するWonder Land RecordsとEXTONレーベルが夢のコラボレーション!未来へ発信する新シリーズがスタート!

現在、日本を代表する作曲家久石譲と、EXTIONによる夢のコラボレーション。久石譲が2014年に始動させ好評を博す現代の音楽のコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、2015年のコンサートから厳選されたライヴ・レコーディング盤です。ミニマル・ミュージックの代表的作曲家スティーヴ・ライヒ、彼に影響を受けたジョン・アダムズ、久石譲の3人の曲を収録。1970年代から現代にかけての音楽の軌跡、熱量を感じ取ることが出来るでしょう。まさに「新たなる音楽体験」を感じさせる楽曲たちです。また、日本を代表する名手たちが揃った「フューチャー・オーケストラ」の演奏も注目。難易度MAXのこれらの楽曲を、高い技術とアンサンブルで見事に芸術の高みへと昇華していきます。未来へと発信される新シリーズのスタートです。「明日のための音楽」がここにあります。

ホームページ&WEBSHOP
www.octavia.co.jp

(CD帯より)

 

 

解説 小沼純一

このアルバムは、久石譲によるコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」の「Vol.2」(2015)で演奏された作品3つによって構成されています。

コンサート・シリーズは2014年から始まり、「Vol.1」はアルヴォ・ペルトやヘンリク・グレツキなどのヨーロッパの作品を、「Vol.2」ではアメリカ合衆国の作品を中心にプログラムが組まれました。作品は20世紀から21世紀にかけてのものが中心で、いずれも久石譲という作曲家が関心を持ち、また影響を受けた作品です。しかしかならずしもコンサートで、ライヴ演奏でふれる機会は多くありません。録音をとおして知っているだけのおとも多々あります。そうした作品を、このようなかたちでステージにのせ、聴き手の方がたにじかにふれてもらおうという試みが、「MUSIC FUTURE」です。そしてはじめて聴いたけどおもしろい、あるいは、新しい体験となった、そんなことをおもってもらえればいい、そんな意図があるようにおもえます。

アルバムでは「Vol.2」で演奏された5作品のなかから、3曲を収録しています。CDはコンサートとはまたべつの提示ができるメディアです。この選曲は、ある意味、久石譲自身がたつ位置そのものを音楽的に要約しているようにみえます。つまり、1960年代から70年代にかけてアメリカ合衆国で「ミニマル・ミュージック」と呼ばれることになる音楽が生まれる。代表的な作曲家としてスティーヴ・ライヒ(1936-)がいる。つぎの世代はライヒの音楽にふれ、こうした音楽を書いてもいいんだと、ひとつの自由さを得る。それがジョン・アダムズ(1947-)であり、久石譲(1950-)だった──。ただライヒらの音楽をただ真似しているのではなく、次世代はミニマル・ミュージックを音楽的思考の土台にしながら新たな道へと歩み始めます。ここにある3曲は、ライヒの1979/1983年から1992年、2015年と、ある音楽スタイルの軌跡が、ほぼ10年間隔で、提示されている。そんなふうにみることができるでしょう。

 

 

久石譲
《室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra》

コンサート当日、前2014年にひらいた「MUSIC FUTURE Vol.1」でプログラムしたニコ・ミューリー作品でのエレクトリック・ヴァイオリンを自作でもつかってみようと考えた、と久石譲はMCで語っていました。結果的にこの楽器はとてもアメリカ的なひびきであること、それによってこのコンサートがアメリカの音楽を中心にプログラムされている、また同時に、久石譲が自身のうちのアメリカ、アメリカ音楽の影響を確認することになったのだ、とも。実質的には協奏曲(コンチェルト)であるのに、「室内交響曲」というタイトルであるのは、エドゥアール・ラロの有名な《スペイン交響曲》にならってとのことです。

ここで用いられているエレクトリック・ヴァイオリンはすこし特殊で、6弦からなっています。通常のヴァイオリンより低い音域が可能で、また、操作によってエレクトリック・ギターのようなひびきがだせるのが特徴です。エレクトリック・ギターをそのままオーケストラと共演させると、ときに両者のサウンドが調和しないことがあります。しかし、このエレクトリック・ヴァイオリンはアコースティックなところとエレクトリックなところを両方を持つハイブリットな性格によって、またさらにサクソフォンの音色の強調によって、「室内交響曲」を一歩拡張しています。

全体は急-緩-急の3楽章をとります。エレクトリック・ヴァイオリンは室内オーケストラのひびきを外からまわりこむかたちをとることが多く、またアンサンブルのなかではサクソフォンが時折クローズアップされます。特に第3楽章半ばからあとのところでしょうか、こまかい音型がゆきかうなかで息のながいサクソフォンの線は、そこに注目するなら、先のライヒやアダムズとは異なったものとして聴けるかもしれません。

 

スティーヴ・ライヒ
《エイト・ラインズ》

もともとオクテット(八重奏曲)というタイトルで1979年に発表されましたが、後により演奏しやすいかたちに手を加え、1983年に改訂、現在は《エイト・ラインズ》として知られています。全体が5つの部分に分かれたり、とか、70年代半ばくらいにライヒが学んでいたユダヤ教の唱法の影が落ちていたり、とか分析的なことはいろいろあります。ありますけれど、そんなことよりこの5拍子の途切れることないビート感、ドライヴ感をこそ、体感すべきでしょう。そして、2台のピアノそれぞれの短く上下するフレーズ、木管楽器のメロディックなフレーズ、弦楽器の息の長いフレーズ、それぞれどこに耳の視点(聴点?)を置くかで、音楽の聴こえ方が変わってくる、聴き方による音楽の変化をこそ知っていただければとおもいます。

 

ジョン・アダムズ
《室内交響曲》

1992年に作曲、翌年1月作曲者自身の指揮でオランダのデンハーグで初演された作品です。

オーストリア出身で、20世紀の音楽を大きく前進させ、「12音音楽」を創始した作曲家、アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)に《室内交響曲》作品9という20世紀初頭の名作があるのですが、その楽器編成をもとにしながら、金管楽器と打楽器、サンプラーを加えてより現代的なサウンドをつくりだしています。またシェーンベルクが単一楽章であるのに対し、アダムズは3つの楽章(古典的な急-緩-急)に分け、また各楽章にサブタイトル──〈雑種のアリア〉〈バスの歩行を伴うアリア〉〈ロードランナー〉──をつけてもいます。

アダムズ自身はこんなことを言っています。曰く、シェーンベルクのスコアを読んでいたとき、隣の部屋では当時7歳の息子が1950年代カートゥーン(アニメーション)をテレヴィでみていた。そのがちゃがちゃどたばたした音が整然としたスコアにオーヴァーラップしてきたのだ、と。コンサートで久石譲は「おもちゃ箱をひっくりかえしたような」と語っていましたが、打楽器のリズムやリズムと一体化した音色は、管楽器や原画機の複雑な音のうごきがありながら、しっかり聴き手をつなぎとめてゆきます。

ちなみにアダムズは2007年に《室内交響曲の息子(Son of Chamber Symphony)というのも作曲していて、ちょっと紛らわしいので、ご注意のほど。

(こぬま・じゅんいち)

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。

”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのもと、久石譲の世界初演作のみならず、2014年の「Vol.1」ではヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルト、ニコ・ミューリーを、2015年の「Vol.2」ではスティーヴ・ライヒ、ジョン・アダムズ、ブライス・デスナーの作品を演奏し、好評を博した。”新しい音楽”を体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。

(CDライナー・ノーツ より)

 

 

久石:
「エレクトリック・ヴァイオリンというのは実は6弦なんですね。ヴァイオリンはふつう4弦ですよね。ソ・レ・ラ・ミなんですけれども、一番低いソの音の五度下のド、そこからまた五度下のファ。ですからあと四度でほとんどチェロの帯域カバーですね。という6弦のエレクトリック・ヴァイオリン、どうしてもこの6弦使ったヴァイオリンと室内オーケストラの曲を書きたいと思って書いた曲です。」

西村:
「拝聴していて、前半の部分は第一期の後のいわゆるポスト・ミニマルわりに自由なストーリー性をもっていて、むしろミニマルで蓄えられたような非常に魅力的なエレメントがたくさんあるんですけれど、組み立てとしては自由なストーリー性があるような感じですよね。ところが、後半になると再び一種そのミニマルの縛りとしてのシングルラインが現れてきますよね。ここはだから、ポスト・ミニマルのさらにポストという感じが非常にするわけですよね。」

久石:
「いやあ、もうねえ、西村さんのようにすごく尊敬してる作曲家にこうやって一生懸命聴かれるととても緊張するんですけどね(笑)。」

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

 

「ミュージック・フューチャー Vol.2」のために書き下ろされた室内交響曲。6弦エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーし、全3楽章で構成された作品(約30分)。

第1楽章の冒頭から衝撃が走る。まさにエレクトリック(電子的)な響き。ペダル式エフェクター/フットコントローラーを駆使して、音を歪ませるディストーションを利かせたり、それはまさにロックのよう。さらにはルーパーと言われる、今演奏したプレイをその場でループ演奏させる機能も使い、ループさせたフレーズに新しい旋律を重ねていくという技法も。これがヴァイオリンの音か、ヴァイオリンの演奏かと常識を覆される。エレクトリック・ヴァイオリンはひずませた音色のなかにもヴァイオリンならではの艶やかさがあるから不思議。尖った音色のなかにも心地よさをかねそなえた響き。ソロ奏者のすぐ後ろに置かれたギターアンプから響く硬質なヴァイオリンとアコーステックな管弦楽の音色とが、違和感なく絡みあう一体感を演出。

耳に残りやすい親しみやすい旋律やモティーフがある作品ではないが、そこは”調性とリズム”を重んじるだけあって、魅惑的な世界へと惹き込まれる。途中、管楽器奏者たちが、楽器からマウスピースだけを外し、口にくわえて吹くというおもしろい一面も。歌っているのか吹いているのか、声なのか音なのか、そんな演出も。

第3楽章ではリズム動機も際立っていて、例えば初期作品の「MKWAJU」収録楽曲たちを思わせるような、音が1つずつ増えていく減っていく、1音ずつズレていくというミニマル的要素もふんだんに盛り込まれ、クライマックスへと盛り上がっていく。

たとえば「DA・MA・SHI・絵」や「MKWAJU」という楽曲は、全体がリズムによって構成されている”動”なのだが、「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」で新たに魅せた久石譲のミニマル的手法は、”動”だけで突き進むのではなく、”静”パートもあり、緩急とメリハリがそこに生まれている。そのためより一層”動”パート(ミニマルなリズム動機)が浮き彫りになってくる、そんな新しい境地を開拓した作品ではないか。

ソロ奏者にとってはエレクトリック・ヴァイオリンを手(弦/弓)で足(フットコントローラー/エフェクター)で操るという難易度の高い演奏を求められる作品である。エレクトリック・ヴァイオリンという独奏楽器を主役にすえた実験的要素の強い斬新な野心作となっている。

 

 

 

 

 

 

久石譲 Presents MUSIC FUTURE 2015 CD

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための 室内交響曲 (2015)
Chamber symphony for Electric Violin and Chamber Orchestra
1. Mov.1
2. Mov.2
3. Mov.3

スティーヴ・ライヒ
Steve Reich (1936-)
4.エイト・ラインズ (1983) Eight Lines

ジョン・アダムズ
John Adams (1947-)
室内交響曲 (1992)
Chamber Symphony
5. 1 Mongrel Airs
6. 2 Aria with Walking Bass
7. 3 Roadrunner

久石譲(指揮)
フューチャー・オーケストラ
2015年9月24、25日 よみうり大手町ホールにてライヴ録音

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Future Orchestra
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 24, 25 Sep. 2015

Produced by Joe Hisaishi
Recording & Mixing Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu
Mixed at EXTON Studio, Tokyo
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)
Cover Design:Yusaku Fukuda

and more…

 

Disc. 久石譲 『Deep Ocean』 *Unreleased

2016年8月28日 TV放送

 

『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン 潜入!深海大渓谷 光る生物たちの王国』

音楽:久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

全3回シリーズ ※第二集、第三集は来年夏以降の放送を予定

 

 

久石譲インタビュー

「深海の中でこんなに光るものがあるんだっていうのは驚きでしたよね。発光生物だとか、深海の映像がとても強いすばらしい映像だったので、イメージはすごいつけやすかった。作曲も実はそんなに時間かからないで一気に作れた。全部ミニマル・ミュージックでやったというのは初めてで、うまくいくかどうか非常に不安だったんですけども、生の音で聞いていけばいくほどこれで良かった、おそらく映像ともかなりマッチングするんじゃないか、そこがやっていてすごくうれしかったですね。」

■久石譲インタビュー動画(約2分)
https://www.nhk.or.jp/nature/video/43426.html (2016.8現在)
久石譲インタビューおよびレコーディング風景

より書き起こし

 

 

番組テーマ音楽は緻密で躍動感のあるミニマル・ミュージックで構成されている。管弦楽の各パートや楽器特色を活かしたアンサンブルに近いシャープでソリッドなオーケストレーションが印象的である。番組BGMも数曲書き下ろされており、メインテーマをモチーフとしたり派生させたり、と統一感のある楽曲群が並ぶ。いずれもキャッチーなメロディを持たない、ミニマル手法であるところに注目したい。

2013年TV放送され話題となった「深海プロジェクト」。その最新シリーズとなる「ディープオーシャン」。スタッフが再集結し企画された今プロジェクトには、前回音楽担当した久石譲も名を連ねることになった。そして、『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』で使われた主要楽曲たちも、「ディープオーシャン」では変奏ヴァージョンとして披露されている。こちらもまたメロディや旋律を極力抑えたアレンジとして手が加えられている。またシンプルでソリッドが楽器編成となっている。

「ディープオーシャン」メインテーマと本編BGMの書き下ろし、「深海の巨大生物」からの再構成、新旧あわせて織りこみながらも、今最も旬な久石譲音楽(楽器編成、奏法、構成)が堪能できる作品となっている。

次集以降とあわせて、サウンドトラック盤の発売に大いに期待が高まる作品である。

現時点で未CD化、曲名不明である。

 

 

 

2017.1 追記

2016年12月31日開催「久石譲ジルベスターコンサート2016」にて世界初演。

Deep Ocean *世界初演
1.the deep ocean
2.mystic zone
3.radiation
4.evolution
5.accession
6.the deep ocean again
7.innumerable stars in the ocean

 

久石譲コメント

「「Deep Ocean」は今夏NHKでオンエアーされたドキュメンタリー番組のために書いた曲を今回のジルベスターのためにコンサート楽曲として加筆、再構成しました(リハーサルの10日前に完成、相変わらず遅い)。ですから世界初演です。7つの小品からできており、ミニマル特有の長尺でもないので聴きやすいと思いますし、ピアノ2台を使った新しい響きは僕自身ホールで聴いてみたかったのです。でも真冬になぜ深海?寒そうなどといってはいけない、あと半年で夏がきます。」

(「久石譲ジルベスターコンサート パンフレットより)

 

レビュー

本公演のサプライズ的演目でした。まさかこの作品が聴けるとは、しかも小編成オーケストラとピアノ2台という大掛かりなステージ配置変更をしての演奏です。「ミュージック・フューチャー vol.3」でも別新作をピアノ2台と室内アンサンブル編成で聴かせてくれたばかりです。ここは小ホールとは違い大ホール。ステージ前面ギリギリのところでセッティング、指揮者も奏者も前面中央に密集、少しでも微細な響きが客席奥や2、3階席まで届くようにと配慮されてのことかもしれません。

ミニマル・ミュージックの心地よいグルーヴ感と、神秘的な世界観。多彩な打楽器や管楽器の特殊奏法などで、目をとじて耳をすませたくなる深海の世界が広がっていました。かなり忘れたくない余韻で気になったので、録画していたTV番組を見返してみました。「ダイオウイカ」シリーズからではなく、「ディープオーシャン」として新しく書きおろした音楽は、ほぼ演奏されたんじゃないかなあ、と記憶をふりしぼっています。2017年夏には第2回以降のTV放送も予定されています。サウンドトラックも発売も待ち遠しい作品です、いやホントしてくれないと困る作品です(強く)。

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2017.7 追記

2017年7月16日(日)21:00~21:49 NHK総合テレビ
第2集「南極 深海に巨大生物を見た」

音楽:久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

 

TV放送鑑賞後レビュー。なんと驚いたことに第2集用に新曲が数多く書き下ろされている。世界観は第1集を引き継ぎ、小編成ながら緻密な音楽構成を充分に堪能することができる。さらに驚いたことに新曲ではサンプラーを使用した電子音も巧みに織り込まれている。近年ではオーケストラ楽器による生音にこだわった音作りがされてきたなか、2017年のCM曲(ダンロップ・伊右衛門Newヴァージョン)などに目を向けると、エッセンスやアクセント、また隠し味としての電子音を聴くことができる。これは、おそらく2014年からつづいている”現代の音楽”を届けるコンサート企画「Music Future」を経ての結実のように思われる。現代音楽家の他作はもちろん、同演奏会で初演される久石譲新作にも楽器も楽器編成も垣根を越えた新しい音世界が広がっている。「2 Pieces for Strange Ensemble」(2016年 同 Vol.3コンサートににて初演)もそういった点と線の流れにある。

コンパクトな室内楽オーケストラでソリッドながら広さ深さのある立体的な音楽。既存曲のバリエーションも違った表情をみせる。第1集と路線を同じく明確なメロディは持たない楽曲が際立っている。それはイメージをかきたて想像を広げるうえに、深海の奥深い神秘な世界観を演出している。

メインテーマは第1集と同じものが堂々と君臨しているが、改めて聴くとミニマル・ミュージックの緻密なズレと楽器セクションごとの交錯がすばらしい。TV音源ですらステレオで聴くとピアノ2台もきれいに左右から、弦楽セクションも右と左で交錯していることがわかる。エンターテインメント音楽(TV番組メインテーマ)としては贅沢なほどに作り込まれた完成度。久石譲オリジナル作品という位置づけでもまったくおかしくない最新の久石譲がたっぷりつまった名曲。

第3集も新曲があるのか待ち遠しいし、W.D.O.2017コンサートでのプログラム予定「Deep Ocean」も期待が高まる。「ジルベスターコンサート2016」で披露されたのは第1集からの音楽を演奏会用に再構成したもの。もちろんこれが聴けると思うだけでも心躍るし、第2集からのサプライズなんてあったらこれまた驚かされる。いずれにしてもコンサートプログラム大歓迎の作品。

またこの極上のミニマル・ミュージックはコンサートで体感することと、緻密なオーケストレーションの結晶をCDステレオ音源で聴けてこそ!第3集(8月放送)で今シリーズは完結予定であるけれど、ディープオーシャン・サウンドトラックが出るまではファンとしては完結しない!こんな傑作がCD化されないと思うだけで…。楽器ごとの音もおもしろい、決して飽きるとは無縁な聴く人色に染まってくれる楽曲たち。この至福の音楽世界にどっぷりとつかりたい。最高音質で。

 

 

 

2017年8月27日(日)21:00~21:49
第3集「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」

 

なお、2016年TV放送シリーズ第1回はDVD/Blu-ray化され発売されている。

 

 

 

2017.8 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」にて2楽曲を追加した9つの小品からなる作品としてリニューアル初演。

Deep Ocean
1. the deep ocean
2. mystic zone
3. trieste
4. radiation
5. evolution
6. accession
7. the origin of life
8. the deep ocean again
9. innumerable stars in the ocean

 

久石譲コメント

「Deep Ocean」は同名のNHKドキュメンタリー番組のために書いた曲をコンサート楽曲として加筆、再構成したものです。去年の大阪ジルベスターコンサートで初演しましたが、今年の夏に最終シリーズとしてオンエアーされる楽曲を新たに加えてリニューアルしています。ミニマル特有の長尺ではないので聴きやすいと思いますし、ピアノ2台を使った新しい響きをお楽しみください。

 

レビュー

2016年から2017年にかけて全3回シリーズで放送される「NHKスペシャル シリーズ ディープオーシャン」のために書き下ろされた楽曲を演奏会用にまとめたものです。2016年大晦日ジルベスターコンサートで事前予告なく初披露されサプライズとなりましたが、今回「3.trieste」「7.the origin of life」が追加され9つの小品からなる作品へと再構成されています。久石譲の最も旬ソリッドなミニマル・ミュージックが堪能できる作品です。

小編成オーケストラとピアノ2台という大掛かりなステージ配置変更をしての演奏は、楽器ひとつひとつの微細な音、普段なかなか見聴きできない打楽器群、特殊奏法による音色のおもしろさ、ミニマル特有のズレをあますことなく体感できる贅沢な音空間です。冒頭から一瞬で神秘的な深海の世界へと誘ってくれます。

気になる追加された2楽曲は、どうもコンサートで初めて聴くような。7月にオンエアされたばかりの第2集からの音楽ではなく、8月にオンエア予定の第3集からのものかもしれません。「3.trieste」は明るく清らかなミニマル音楽だった印象で、「7.the origin of life」は生命の起源にふさわしく音楽の起源バロック音楽まで遡ったような優美な旋律だった印象。第2集はTV放送後何回もリピートしています、たぶん流れていなかったと思います。

エンターテインメント音楽(TV番組メインテーマ)としては贅沢なほどに作り込まれた完成度、楽器編成としても意欲作。久石譲オリジナル作品という位置づけでもまったくおかしくない最新の久石譲がたっぷりつまったメインテーマをはじめ、久石譲独特のミニマル・グルーヴを感じる楽曲群。TVでなんとか耳をすませ、コンサートで臨場感たっぷりに体感し、それでファンとして終われるはずがありません。もしオリジナル・サウンドトラックが発売されたとき、それは久石譲ミニマルアルバムという肩書きでもおかしくない逸品ぞろいです。「これサントラのクオリティ超えてるよね!久石さんのオリジナルアルバムかと思った!」なんて言いたい、そんな日がきっと訪れますように。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2017.9 追記

久石譲インタビュー

「やっぱり人間が住む世界とはちょっと違いますよね。だから「異空間」という、そういう感じを音楽でも表現できたらいいかなという気はしてましたね。6500m 7000m 海の底っていうのはすごいわけですよね。そういうところにいる生物、それを少し音楽でも手助けしてそういう雰囲気が出せるといいなと、そう思いました。」

「僕は本来、現代音楽として「ミニマルミュージック」というのをやっているので、その方法論をかなり思いっきり導入したというか、同じフレーズを何度も繰り返すような方法で、たぶんあまりテレビの番組でこういうものを音楽で起用することはないと思うんですけれども、結構実験的にそれをやらせてもらって、音楽的には非常に満足した仕事をさせていただいた。」

「最初のダイオウイカの時から始めて、そこで作ってきた音楽もだんだん回を重ねるごとに進化してきていて、とても映像との関係性も含めて新鮮なものができたと思うので、ぜひ皆さん楽しみにしていただきたいと思います。」

(久石譲さん「超深海は人が住む世界ではない、異空間」インタビュー~NHK公開動画より 書き起こし)

 

(動画よりキャプチャ)

 

 

 

 

レビュー

8月27日放送、第3集「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」を観て。最終回にあたる第3集でも新たな書き下ろし曲満載。「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2017」で披露された追加楽曲「3.trieste」「7.the origin of life」は、この第3集からのものでありTV放送に先駆けてコンサート初演であったことが確認できた。

第2集でもそうだったように、第3集新曲においてもオーケストラサウンドだけでなく、デジタルサウンドの比重が大きく多彩な音色を聴くことができた。今までにはない音や使い方をしていたのが興味深い。それは「NHK人体」シリーズなどでも堪能できる従来の久石譲デジタルサウンドではない。ラテンパーカッションやヴォイスをシーケンスしたような音ではない、これまでとは異なる種類の電子音。シンプルであり無機質であるといえるかもしれない。たとえばそれを聴いて懐かしさや情感をおぼえるようなことはない、同時にそれはポップス色を消す・エンターテイメント性を消すという相反するけれども確信めいた狙いも感じる。

2016年10月開催「ミュージック・フューチャー Vol.3」コンサートにて、新作オリジナル作品「2 Pieces for Strange Ensemble」が初演された。そのときの久石譲解説に「ニューヨークのSOHOでセッションしているようなワイルドなサウンド(今回のディレクターでもあるK氏の発言)を目指した、いや結果的になりました」とあったのを思い出した。デジタル音として求める音の志向性が変化していることを感じとれると同時に、それはオーケストラや生楽器というアコースティック音との融合においても、着実に進化しているのかもしれない。

そう想いめぐらせると、ますますこの「ディープオーシャン」シリーズのために書き下ろされた楽曲たちは、エンターテイメント音楽と久石譲オリジナル作品のクロスオーバー的ポジションが色濃く浮かびあがってくる。全3回放送のために作られた楽曲はおそらく15~20曲近くになるのではないか。CD盤1枚に完全網羅収まるか溢れるほどの質と量。ぜひ一旦の完結をみたこのタイミングにオリジナル・サウンドトラック盤のリリースを強く願っている。

メインテーマの別バージョンも第3集では聴くことができる。それはストリングス・パートを抜いたものもしくはそれぞれの楽器バランスをMIX調整したものなのか、変奏バージョンとして新たに構成されたものなのか。木管楽器が主体となったミニマル・サウンドで、これまた格別新しい表情を見せてくれる。バリエーション豊かなメインテーマの全バージョン全貌も気になってやまない。

 

 

第2集・第3集は、2017年11月DVD/Blu-ray化発売予定
(久石譲インタビュー動画も特典映像 収録予定)

 

 

2017.12 追記

 

なおこの放送回は2018年5月DVD化されている。

 

 

 

2018.6 追記

6月25日~29日ディープオーシャン関連番組が放送された。そのなかでも「ディープオーシャン 絶景 南極の海」(25日放送回)は30分間にわたって久石譲音楽とテロップのみによる放送という貴重な回となった。ナレーションなしで久石譲の音楽をたっぷりと堪能することができる。選曲はおなじみの深海シリーズ・ディープオーシャンシリーズはもちろん、これまでに聴いたことがない新曲もあったように思う(以後4回も同じく)。TV放送ながら音質もよく映像は既出からの再編集ではあるが、サウンドトラック盤がいまだ世に出ていない現状、永久保存版の放送なのは間違いない。

シリーズ・ディープオーシャンは、今後もつづくことを予感させる関連番組。そしてシリーズ完結を迎えるそのとき、サウンドトラックも発売されるのであろうと期待と希望がふくらむ。

 

 

 

 

 

2018.8 追記

久石:
ドキュメンタリーは個人的に大好きなんですよ。ディープオーシャンの話をいただいて、深海シリーズですね。すごく宇宙と同じぐらい海の中って広がりがあるんだなというので。どの作品も一生懸命作りますけれども、これももちろん一生懸命作って。ディープオーシャンは最終シリーズになるのかな、これに関していうと、初めてと言っていいぐらい全編ミニマルで推したんですよね。テーマのところから全部ミニマルで推した。深海シリーズの1、2はちゃんとしたメロディの普通だったんですが、ディープオーシャンの最後のシリーズに関しては完全にミニマルで推したんですよ。それがね、自分が想像した以上にナレーションといろんな映像とのマッチングがすごく良かったんですよ。なかなか自分の新しい挑戦がね、ちゃんとかたちになるケースって少ないんですけど、これはすごくかたちになった。やったあ!これで新しい音と映像の世界ができた!これからいっぱいそういう注文くるかなあと思ったけど1回も来ないねえ(笑)。なんかこうミニマルの仕事いっぱい来るかなあと思ったけど、なんもこないです(笑)。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

2019.8 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」にて披露。

Deep Ocean 【B】
2017年コンサートでも披露された作品。ピアノ2台をオーケストラが囲むというなかなかお目にかかれない編成の魅力。音階をもったカウベル(チューンドカウベル)や珍しいパーカッション群、いつもの楽器が特殊奏法で効果音のようだったりと、生楽器だけで多彩な音世界を魅せてくれる作品です。今回編成が少し大きくなっていました。弦14型(14.12. ~ 7.)と通常オーケストラサイズ、音やフレーズが追加されていたり、厚みが増していたり。……でもこれは、もしかすると編成が変わったことでのバランスの変化、今まで聴こえなかった音が聴こえてきた……気のせいかもしれません……内心気のせいだとは思っていない自分がいますけれども。テレビサントラはまだかな、コンサート音源はまだかな、とずっと追っかけている作品です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

NHKスペシャル

 

Disc. 久石譲 『Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE』 *Unreleased

2016年7月29日 世界初演

 

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE

宮崎駿監督が構想16年、製作日数3年を費やして完成された『もののけ姫』から。タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。そしてアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせていくうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める。

本日世界初演される「Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE」は、昨年初演された「Symphonic Poem NAUSICCÄ 2015」に続き、宮崎監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾。楽曲構成は次の通り。まず、アシタカが登場するオープニング場面の「アシタカせっ記」。アシタカがタタリ神と死闘を繰り広げる場面の「TA・TA・RI・GAMI」。大カモシカのヤックルに跨ったアシタカが、エミシの村から西の地に向かう場面の「旅立ち」(ここで「もののけ姫」のメロディーが初めて登場する)。負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが、森の精霊コダマと遭遇する場面の「コダマ達」。傷ついたアシタカを森のシシ神に癒やしてもらうため、サンがアシタカをシシ神のもとに連れて行く場面の「シシ神の森」。サンの介抱によって体力を回復したアシタカが、人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍う場面で流れる主題歌「もののけ姫」(本日は、ソプラノ歌手によって歌われる)。エボシ御前とサンの争いを仲裁したアシタカが、自ら負った瀕死の重症を顧みず、サンを背負って森に向かう場面の「レクイエム」。そして、久石のピアノ・ソロが登場する「アシタカとサン」は、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽である。

(楽曲解説:前島秀国 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

 

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE 【A】
スタジオジブリ作品の交響組曲化シリーズ第2弾です。まずは作品の軌跡を紐解きます。

2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

 

『交響組曲 もののけ姫』(1998)
映画公開翌年、久石譲がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団とともに完成させた作品。サウンドトラック盤の楽曲群を、映像やストーリーから解き放たれた音楽作品へ再構成した、もののけ姫交響組曲全8章です。今回の2016年版の原型ともいえるものです。あえて記すと、「もののけ姫」も「アシタカとサン」もフル・オーケストラによるインストゥルメンタル・ヴァージョンであり、2016年版 d)コダマ達 は、未収録楽曲でこのときには構成されていません。交響組曲もののけ姫歴史の始まりであり骨格をなす50分大作。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
f) もののけ姫 (inst.)
e) シシ神の森
g) レクイエム
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『交響組曲 もののけ姫』

 

『WORKS II』(1999)
『交響組曲 もののけ姫』から4楽曲を選りすぐり、短縮なく忠実に再現したLiveヴァージョン。

a) アシタカせっ記
f) もののけ姫 (inst.)
b) TA・TA・RI・GAMI
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『WORKS2』

 

『真夏の夜の悪夢』(2006)
W.D.O.一夜限りのスペシャルコンサートを収録したLiveヴァージョン。『交響組曲 もののけ姫』より3楽曲を抜粋再構成した《もののけ姫組曲》として約8分半の作品に。主題歌の旋律はヴァイオリンをフィーチャー。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (inst.)

久石譲 WDO 『真夏の夜の夢』

 

『久石譲 in 武道館』(2008)
『真夏の夜の悪夢』で披露した組曲構成をほぼ継承したLiveヴァージョン。主題歌が林正子さんのソプラノによって歌われました。3楽曲すべてに迫力のあるコーラスが編成されています。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo)
*a) ~ f) with Chorus

またアンコールに、合唱版が初披露され大きな話題となりました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

『The Best of Cinema Music』(2011)
『久石譲 in 武道館』を継承した構成で、主題歌は英語詞によるヴォーカル・ヴァージョンが披露されています。合唱編成あり。東日本大震災のチャリティーコンサートを収めたLiveヴァージョンです。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo) English ver.
*a) ~ f) with Chorus

『久石譲 in 武道館』での記憶が甦る日本語合唱版も披露されました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

 

 

以上、《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》の軌跡をたどりました。

 

 

《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

2016年版では、f) もののけ姫 でのソプラノ歌手にくわえ、h) アシタカとサン においても久石譲によるピアノ演奏とソプラノ歌手による歌唱でフィナーレを迎えます。どちらも日本語詞で歌われ、h) アシタカとサンは『久石譲 in 武道館』(2008)の同歌詞(作詞:麻衣)です。d) コダマ達 は、これまでサウンドトラック盤のみに収録されていた楽曲で、太古の森をオーケストラによる弦楽ピッツィカート・木管・鍵盤打楽器・打楽器を中心に表現されていました(サウンドトラック盤はオーケストラ+シンセサイザープログラミング)。

a) アシタカせっ記のオープニングからすでに高揚感はピークに達し、b) TA・TA・RI・GAMIに象徴されるけたたましい金管と和太鼓の響きに圧倒され、久石譲ファンのなかでは秘めたる名曲として名高いc) 旅立ち もめでたく交響組曲に組み込まれました。e) シシ神の森では緊張感と威厳のある重厚さに、コントラバスなどの弓を弦に強くぶつけて発せられる効果音的演出。g) レクイエムは、『交響組曲 もののけ姫』(1998)収録の同曲が、あますところなく盛り込まれていました。曲後半はサウンドトラック盤にはない新たに築かれた世界観であり、それが2016年版に引き継がれたことは、もののけ姫の世界を一層壮大にしています。

久石譲が宮崎駿監督との約30年の歴史を経て、新たに取り組んでいるジブリ交響作品シリーズ。国内外からのニーズに応えるべく楽譜出版も並行される同企画は、まさに久石譲が未来へつなげる音楽と言えます。ジブリ作品は日本屈指のエンタテインメントであり、やはりそこには歌の持つ力が重要視されているようにも思います。聴かれつづけること、演奏されつづけること、そして歌い継がれること。久石譲が古典的オーケストラ編成に固執することなく、あらゆる独奏楽器・特殊奏法、そして歌による声や歌詞。音楽的素材を総動員することで、もうひとつのジブリ作品を築きあげる。豊かな表現、巧みなオーケストレーション、そして作品構成力。これは総決算とは決して言いたくない、今なお進化しつづける久石譲音楽です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2018.10 追記

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」にて 交響組曲「もののけ姫」2021 として構成楽曲新たに披露された。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

1997年のアニメーション映画「もののけ姫」に書いた音楽をもとに交響組曲として再構成した。数年前にW.D.O.で取り上げたのだが、何かしっくり来なかったので、今回再チャレンジした。

大きく変えた箇所は新たに世界の崩壊のクライマックスを入れたこと、それとスタジオジブリフィルムコンサート世界ツアーで使用しているオーケストレーションを関連楽曲に導入したことなどである。再構成したことでより宮崎さんが目指した世界に近づけたように思え、僕は満足している。

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・パンフレットより)

 

構成楽曲およびレビュー

 

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

もののけ姫 タイトルバック