Disc. 久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス 『ベートーヴェン:交響曲全集』

2019年7月24日 CD-BOX発売 OVCL-00700

 

久石譲 渾身のベートーヴェン・ツィクルス 完結!
──ベートーヴェンは、ロックだ!

久石譲が2016年より取り組んだベートーヴェン・ツィクルスは、かつてない現代的なアプローチが話題を集めました。作曲家ならではの視点で分析された演奏は、推進力と活力に溢れています。久石譲のもと若手トッププレーヤーが集結し、明瞭なリズムと圧倒的な表現で、新しいベートーヴェン像を打ち出しています。

──これは、聴く者の全身に活力を送り込み、五感を覚醒させるベートーヴェンだ。

 

Disc 1
交響曲 第1番 ハ長調 作品21
交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

Disc 2
交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
交響曲 第2番 二長調 作品36

Disc 3
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
交響曲 第6番 へ長調 作品68「田園」

Disc 4
交響曲 第7番 イ長調 作品92
交響曲 第8番 ヘ長調 作品93

Disc 5
交響曲 第9番ニ短調 作品125「合唱」

久石譲(指揮)
フューチャー・オーケストラ・クラシックス
(旧ナガノ・チェンバー・オーケストラ)ほか

2016年7月16日(第1番)、2016年7月17日(第2番)、2017年2月12日(第3,4番)、2017年7月15日(第5番)、2017年7月17日(第6番)、2018年2月12日(第7,8番)、2018年7月16日(第9番)
長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音

◆特別装丁BOXケース&紙ジャケット仕様
◆豪華40Pブックレットには久石譲ロングインタビューを掲載
◆第4番&第6番は当全集にのみ収録 ※他の楽曲は再収録となりますのでご注意ください

 

 

 

【ブックレット内容】
●作品インデックス・タイム・クレジット・レコーディングデータ(P.1)
●久石譲、ベートーヴェンを語る(P.3~11)
●現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい (P.13~16)
 ~久石譲に訊く本全集のコンセプトと今後の展開~
●曲目解説 諸石幸生 (P.18~29)
●交響曲 第9番ニ短調 作品125「合唱」 原詩/訳詞 (P.30~31)
●プロフィール (P.32~34)
 久石譲、フューチャー・オーケストラ・クラシックス、ソリスト
●オーケストラ メンバーリスト (P.35~37)
 (作品ごと楽器編成・演奏者リスト)

*上のナンバリング以外は写真掲載ページ

 

 

「久石譲、ベートーヴェンを語る(P.3~11)」では、これまでに語られたことない内容を多く含む、作品ごとに指揮者としてどういった点に注目してどういったアプローチをしたのか、とても具体的に語られています。既発単品CD盤、コンサート・パンフレット、ラジオ番組など、すべてを通して振り返ってもここまで専門的に作曲家・指揮者視点で掘り下げているのは全集所収ならではです。

 

 

ここではブックレットのなかから「現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい(P.13~16)」のみを記します。こちらも全集のための初出内容を多く含むものです。

 

 

現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい
~久石譲に訊く本全集のコンセプトと今後の展開~

ーまずはこのオーケストラ結成の経緯をお話しいただけますか。

久石:
長野市芸術館(2016年開館)の音楽監督を引き受けた段階で、観客の応援の対象となるアーティストが必要だと思いました。そこで考えたのは、1300席ほどの中ホールなので、チェンバー(室内)オーケストラを結成するのが、一番良いのではないかということ。それが了承され、ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)を結成しました。メンバーは、知り合いのヴァイオリン奏者、近藤薫さん(東京フィル、及びNCOのコンサートマスター)が中心になって集めた、N響、読響、東響など様々な楽団の首席奏者を多数含む、グレードの高い顔ぶれでした。

その時もうひとつ念頭にあったのが、「長野に文化をきちんと定着させたい」との思いです。これは長野市側の要望でもありました。ですが南の松本にはサイトウ・キネン・オーケストラ、北の金沢にはオーケストラ・アンサンブル・金沢という名楽団がある。その中間に位置する我々がオーケストラを作るとなれば、埋没することなくいずれは文化としての発信力があるものにしたいとの思いが強くありました。それで、自分の考えている理想のオーケストラができ、2年半に亘って演奏してきました。

 

ー最初にベートーヴェンの交響曲ツィクルスを行った理由は?

久石:
オーケストラも初めて集まるわけですし、文化として発信しようとするならば、しっかりしたテーマを与えなければいけないと考えたからです。ベートーヴェンという最高峰のものに挑戦することで、オーケストラとしての結束力を高め、課題を克服していく。各楽団の首席奏者であれば、能力の高さと同時に、それぞれの思いがあります。それを一本にまとめるのは、指揮者にとってもハードな作業です。なので「リズムをメインにした新しいベートーヴェンに挑む」というコンセプトで、演奏者たちに方向性を打ち出す必要がありました。

そして実際に現代的なリズムをベースにした演奏を行い、「ロックのようなベートーヴェン」というキャッチフレーズを付けました。本当は「ベートーヴェンはロックだ」なんて思ってはいませんよ(笑)。全然違いますから。しかしクラシックを聴かない人たちにアプローチをかけるとき、「ベートーヴェンはロックだ」と言った方が「どんなものだろう?」と思ってもらえます。ところがこの言葉は、意外に本質をついた部分がありました。つまりロックの基本はリズム。ですからリズムを中心にいくことを明快に打ち出した言葉だったわけです。

 

ー室内オーケストラならば、おのずと音楽もスリムな方向性になりますね。

久石:
そうですね。フルオーケストラがダンプカーであるならば、室内オーケストラはスポーツカーになり得ます。そこを踏まえて、ベートーヴェン演奏の古いしきたりを取り払いたい。その音楽を「ドイツ的」といった先入観とは関係なく伝えるために、ミニマルの楽曲のときと同じような、風通しの良い演奏をしたいと考えました。

 

ー弦楽器の編成は8型ですよね。そのように弦楽器が少なめの場合、管楽器とのバランスが難しくはないでしょうか?

久石:
これはとても重要なことですが、現代曲をやっていると、弦中心のアンサンブルは組まないんですよ。一音色として弦の各パート、一音色としてオーボエ、クラリネット…と捉えてバランスを作るので、あまり気になりません。弦の各パートをまず作って、そこに管楽器を乗せるといった従来型ではなく、このようにそれぞれが一音色という捉え方でアプローチしてきました。

 

ーベートーヴェンのメトロノーム指定は意識しましたか?

久石:
もちろん、それをベースに考えていますが、あの数字は基本的に速すぎますよね。でもロジャー・ノリントンが言っていますが、4分音符イコール60(♩=60)と書いてあれば1分間に60、すなわち1拍1秒で、120だったら2拍で1秒。これはいつの時代でも変わりませんから、あの表示がいい加減とは言いきれない。ただ、偉大なベートーヴェンに自分の経験でものを言うのは何ですが、作曲家が机上で考えたテンポと実際のテンポは間違いなく一致しません。コンピュータを使ってシミュレーションしていても生の演奏では違ってきます。ですから表記は間違っていないと言うのも、間違っていると言うのも短略的。あれはガイドなんです。その通りにする必要はないし無視してもいけない。

 

ーピリオド奏法に関するお考えは?

久石:
室内オーケストラは特にピリオド奏法と切り離すことができません。ただ近藤さんとも話した上で、最初から「ピリオドでいく」と言うのは一切やめて、自然にそうなったらそれでいいと考えました。例えば「ビブラート禁止」というのを最初から言ってはいません。それを言うことによって「じゃあいわゆる古楽奏法の室内オーケストラね」と思われるのも嫌だった。ただ問題だったのは、3番あたりになると、ロマン派的なアプローチの影響でビブラートを多用する人が出てくる。木管楽器も同じです。これをどうすべきか結構悩みました。しかしある程度アップテンポで明快なリズムを刻むと、ビブラートも自然に減ってきました。その辺が一段落して、本格的にアプローチできたのが第5番。ただ、オクタヴィア・レコードの江崎さんから「つまんないよ、歌ってなくて」と言われて、そこからまた命がけのことが始まったんですよ。

 

ーそれは最初の頃に言われたのですか?

久石:
いえ、第九の第3楽章で言われました。ノンビブラートで奏すると、表情はボウ(弓)の速度によって変わる。弓の速度でどこまでコントロールするかという問題になります。ところが日本の教育ではそれほど重要視していないとも聞きました。ビブラートに頼るからです。この問題が第九のときに出てしまった。それでもうリハーサルの合間も終わりも、弦全員で話し合いですよ。こうやろう、ああやろうって、もう凄かったです。そのときに、このオーケストラを続けるべきだと思いました。大きな課題が出たし、皆がこれだけ燃えたわけですから。

 

ーでも、ナガノ・チェンバー・オーケストラから、フューチャー・オーケストラ・クラシックスに変わることになりましたね。

久石:
残念なことにNCOは、市の予算の問題などがあって、継続が不可能になりました。そこで、僕が行っている「MUSIC FUTURE」(現代の音楽をとりあげるコンサートシリーズ)の中で続けることにしたのです。

僕はもうひとつやりたかったことがあるんですよ。既存のオーケストラは、あるプログラムでジョン・アダムズの曲を取り上げても、そのアプローチのままでベートーヴェンを演奏しません。でもクラシックは今まで通りのことをしていれば良いというならば、それは古典芸能です。クラシック音楽もup to dateで進化するもののはず。進化するということは、必然的に現代における演奏があり、さらに未来へ向かって演奏が変わっていくべきです。例えばミニマル音楽をフレーズで捉えて演奏したら縦が合わなくなりズレがわからなくなる。きっちり音価どおりに演奏しなければならない。そのきっちりした演奏によるアプローチで古典音楽を現代に蘇らせる。これをぜひ試みたかったのです。

しかも作曲家が振って、そのコンセプトを打ち出すと、必然的に古典が古臭くはならない。全体が良い化学反応を起こします。ただこのアプローチは既成のオーケストラでは難しい。やはりこのプロジェクトで初めてできると思いますし、実際それをNCOで実現してきました。そしてこれからは、Future Orchestra Classics(FOC)としてこれを続けていきたいと思っています。

 

ーFCOはどのようなオーケストラになりそうですか?

久石:
基本メンバーも、基本編成もNCOと同じです。今の計画では、(2019年7月に)お披露目でベートーヴェンの5番と7番を演奏し、上手くいったら、来年から定期的に演奏会を行い、まずはブラームスに取り組みます。1番から4番までの全交響曲。ブラームスはこの前仙台フィルと演奏しましたけど、ドイツ流のとは全然違うものになりましたし、こんな速いブラームス聴いたことないと言われました。まあ速いのがいいと言っているわけではないんですけどね。でも皆に喜んでもらえたので、FOCできちんとCDにするべきだという方向性もみえました。

蛇足なのですが、長野のことについてもうひとつ触れておくと、実は観客がつくのに5年かかると思っていたんです。ところが最後の年に7番8番、その次に9番を演奏した時の熱狂的な反応から推察すると、2年半で到達できた。物凄く嬉しかったし、長野の市民の皆さん、そしてこれをやらせてくれた長野市の関係者の皆さんには心から感謝しています。

あと、この全集をぜひ海外の人に聴いてほしい、こういう新しいベートーヴェンがあることを日本から発信するのは、最も行っていきたいことのひとつです。まだ正式ではないですが、海外で演奏する話もいくつか来ています。そういうことも踏まえて、FOCをきちんと育てたいと思っています。

(2019年5月20日)

インタビュー・構成:柴田克彦

(CDブックレットより)

 

 

 

 

 

 

なお既発盤発売時の久石譲インタビューやクラシック音楽雑誌「レコード芸術」に掲載された評などは下記それぞれご参照ください。

 

 

 

 

 

 

 

2022.06 追記

特別装丁ボックス&紙ジャケット仕様からプラスチック・マルチケース仕様にリパッケージ再発売された。

 

 

 

ベートーヴェン:交響曲全集

Produced by Joe Hisaishi, Tomiyoshi Ezaki

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Recording Engineer:Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 久石譲 『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』

2019年6月5日 CD発売 UMCK-1626

 

2019年公開映画『海獣の子供』
原作:五十嵐大介「海獣の子供」
監督:渡辺歩 
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師「海の幽霊」

 

五十嵐大介によるマンガ「海獣の子供」が長編アニメーションとして映画化。2019年6月7日公開。約150館規模。「マインド・ゲーム」「鉄コン筋クリート」などで知られるSTUDIO4℃が制作を担当。本作は他人とうまく接することができない中学生の少女・琉花が、ジュゴンに育てられた不思議な2人の少年、“海”“空”と出会う海洋ファンタジーだ。第38回日本漫画家協会賞優秀賞、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を獲得している。

音楽は日本国内外を問わずグローバルに活躍する久石譲が担当。この映画を鮮やかに、そして深海の様に神秘な音で彩る。

<CAST>芦田愛菜(安海琉花)、石橋陽彩(海)、浦上晟周(空)

(UNIVERSAL MUSIC JAPAN メーカーインフォメーションより)

 

 

■ 久石譲コメント

この映画の面白さは、ストーリーとして予測できないところにあります。哲学的であるともいえます。全編を通してミニマルミュージックのスタイルを貫いたので、映画音楽としてはかなりチャレンジをしたと思います。
宇宙の記憶の息遣い、生命の躍動感など見る人のイマジネーションを駆り立てる作品です。音楽と映像によって見る人の感覚が開放されて楽しめることを期待します。

出典:「海獣の子供」公式サイト|NEWSより

 

■スタッフ メディアインタビューより

渡辺監督は「久石さんは最初の話し合いの時点で原作を読み込まれて、イメージを掴んでいらっしゃっていて、『シーンや心情に寄り添って、ストーリーを煽るような音楽よりは、ちょっと客観的なもの。それだったらできる』とおっしゃっていたんです。僕も久石さんが初期に作られていたような、ミニマル・ミュージックな路線でいけたらと思っていたから、それがうまく合致した」とやり取りを明かし、「久石さんとしても挑戦的な、久しぶりというより新しい扉をもう一度開きなおすような意気込みで臨まれた」とコメント。また最初に久石から音楽のスケッチを受け取ったときのことを「フィルムに一気に色が増すような感動を覚えました」と話し、「その感動が皆さんにも伝わっているとうれしい」と客席に笑顔を見せる。

出典:「海獣の子供」ワールドプレミア、総作画監督&CGI監督は“作画とCGとの境目”に自信|コミックナタリー より抜粋
https://natalie.mu/comic/news/332061

 

 

-そうしてできあがった映像をごらんになった、五十嵐先生の感想をお聞きしたいです。

五十嵐 完成に近い映像を見せていただいたのは、音楽収録の時ですね。映像を流しながら演奏するということで、見学にお邪魔したのですが……久石譲さん指揮の生演奏と合わせて観たということもあって、震えるような衝撃を受けました。もちろん、絵の密度や色彩も素晴らしかったのですが、細かい演出にも感心させられました。とにかく全てがすばらしかったです。

-久石譲さんのお名前が出てきたところで、音楽についてもお聞きしたいです。久石さんの参加は、どういったきっかけで実現したんでしょうか。

渡辺 いやあ、ダメ元ですよ(笑)。元よりファンだったこともあって、「もしできるのであれば」と相談したところ、さまざまな方のご協力もあって、奇跡的に実現することができました。

五十嵐 いや、震えましたね。素晴らしい音楽でした。

渡辺 実は久石さん、顔合わせの段階で、原作を深く読み込んできてくださったんですよ。それで「この作品には完全に感情に寄り添うような音楽ではなく、客観的な音楽の方が情感が引き立つのではないか」とご提案くださって……。私も同様のイメージを持っていたので、とても感激いたしました。『海獣の子供』は、そうした劇伴、効果音や声も含め“音の映画”としても魅力的だと考えています。

出典:【es】エンタメステーション|海獣の子供インタビュー より抜粋
https://entertainmentstation.jp/446925

 

 

久石譲音楽についてのスタッフコメントや、主題歌「海の幽霊」/米津玄師についてなどはこちらをご参照ください。

 

久石譲インタビューは「劇場用パンフレット」に1ページ収載されています。

 

 

「今なんか、もうこういう電気機材がすごい発達してるから、もういくらでも細かくやってほとんど音楽がハリウッドでもそうですけど効果音楽になっちゃってるからね、効果音の延長になっちゃってるからね。そのてのつまんないものはね、やっても仕方がないんで。自分が想像してる以上に、世界はソーシャルメディアで変革されてきすぎっちゃってるんですね。そういうなかで結局、映画という表現媒体のなかで、アニメーションというものが持ってるものと、例えばゲームとかね、そういうものが持ってる力を、もう過小評価してはやっていけないだろうと。表現媒体に対する制作陣が昔のイメージで凝り固まって、作品とはこんなもんだっていうことで作っていくやり方が、もう時代に合わない。やはりアニメーションというのはある種の可能性があるわけだから、それをもっと若い世代の人とやっていく、あるいはその時に自分も今までの音楽のスタイルではないスタイルで臨む、今回みたいにミニマルで徹するとかね。そういう方法で新しい出会いがあるならば、これは続けていったほうがいいなあ、そういうふうに思います。」

「観る人のイマジネーションをきちんと駆り立てる。だからそれをアンテナを張ってればこれほどおもしろい作品はない。だからこれでたぶん1回観た2回観た、なんかそうするとちょっと別の景色が見えてきて。変に感情的に訴えかけてくるんではないんだけども、なんかそのなかで自分の感覚みたいなものが開放されたときに、ああこの映画に出会ってよかったって思える、そういう作品だと思います。」

Info. 2019/06/14 映画『海獣の子供』久石譲メイキングインタビュー 動画公開 より抜粋)

 

 

「スタイルとしては、徹底的にミニマル・ミュージックで通しています。一昨年からのNHKのドキュメンタリー(『シリーズ ディープ・オーシャン』)や去年、プラネタリウム(コニカミノルタプラネタリア TOKYO)の音楽を書いた頃から「この作品はミニマルでいける」と思ったら、ミニマルでブレずに書くようにしているんです。映画音楽では、メロディがあって、ハーモニーがあって、リズムがあるという手法が通常なんですけど、そういうスタイルから離れてもっとミニマル作曲家として先をいきたかったんです。ミニマルは変化が乏しくなってしまう可能性がありますけれど、多少コミカルに、エモーショナルになってもスタイルを変えずに最後までできたという点で、個人的にはとても満足しています。」

「シンセサイザーも使っていますが、そんなに分厚くしていない室内楽の形をとりつつ、それでいてしっかり鳴る方法をとっています。ハープや鍵盤楽器の響きを大事にしているところを含めて、最近の自分のやり方を通している感じですね。音色がカラフルに飛び込んでいくようになっているといいなって思っています。」

Blog. 「海獣の子供 公式ビジュアルストーリーBook」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

ここからレビュー。(2019.6.11 記)

 

久石譲の今の音がつまった、ミクロマクロの音楽設計図

こんなにも新鮮な感動につつまれた幸せ。思い返せば、この新鮮さは”点”ではない。『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン』や『プラネタリアTOKYO To the Grand Universe 大宇宙へ』でミニマル・ミュージックを軸に貫いた音楽。その流れの先にあるのが本作『海獣の子供』音楽になっている。しかし、挙げたふたつの作品はいずれも今現在未CD化、ようやく久石譲の今の音がつまったエンターテインメント作品が手元に届けられた感動はひとしお。

2013年公開スタジオジブリ作品『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』以来6年ぶりの長編アニメーションの音楽を手がけた本作。定着したジブリ音楽カラーがあるならば、同じアニメーション映画でも振りきりよく裏切ってくれている。一方で、小西賢一(キャラクターデザイン・総作画監督・演出)は『かぐや姫の物語』作画監督など、笠松広司(音響監督)は『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』音響監督など、ジブリとゆかりのあるスタッフも多い。久石譲音楽をわかっている、音楽の見せ場や聴かせどころを尊重してくれるスタッフが多く関わった作品とも言えるかもしれない。

空間と時間を飛び越えるようなスケールの大きい音楽世界。無限の広がりとループ。ミニマル・ミュージックでありながら、淡白で無機質なくり返しではない、エモーショナルで有機的な結びつきによる音楽。実写やアニメーションというジャンルを超えたところにある、新しい映画音楽のかたち。久石譲の新しい到達点であり、いまなお進化しつづけているその瞬間を見せつけられた高揚感と清々しい気分でいっぱい。

 

予告1・特報1・特報2で使用された楽曲は「星の歌」「孤独な世界」「海」、そのまま使用しているものもあれば、加工編集しているものもある。

 

全体をとおして。

神秘的で色彩豊かな音楽世界。小編成オーケストラにシンセサイザーの混ぜ合わせ。おそらく生のオーケストラにほぼシンセサイザーの音も重ねていると思う。弦楽+シンセストリングスというように。これは生オーケストラのみのソリッドさよりも、広がりをもたせる効果を狙っていると思われ、シンセサイザー特有の音もあるなか、ひょっとしたら5:5くらいの混ぜ具合かもしれない。そのくらいの新しい感覚をおぼえる。

本編111分、音楽43分。映像の3分の1に音楽を配置したことになる。収録曲のいくつかは、別シーンでも使用されていたり(Track2.3.など複数登場する)、楽曲の一部パートを巧みに配置しているシーンもある。メロディー重視ではないミニマル・モチーフで構成された楽曲群だからこそ、切り取り感のない音楽をすっと映像や時間になじみこませる。

CGと手描き、生楽器とシンセサイザー、映像も音楽もアナログとデジタルの混合で、浮いてしまうことなく密着し融合している。効果音やセリフとの折り合いもよく、音響SEから音楽へのスムーズな流れ、クライマックスは映像×音楽のダイナミックなコラボレーション。サウンドトラック時間以上に、音楽がのこすインパクトは圧倒的な映像美と堂々と対峙している。さながら音楽映画の要素をおびた印象をも与えてくれる。

 

以下は、収録曲をフラットに並べて、久石譲の音楽設計図を紐解いてみたい。

音楽を中心に置いているけれど、どうしても必要な箇所は、原作からの引用(【 】)をしています。あくまでも個人の見解です。これを見てくれた人から新しい発見や声があるとうれしいです。

 

1. ソング
7. 宇宙の記憶
15. 空との別れ
18. 宇宙の誕生
19. 生命の理由
23. 海との別れ
一番多く登場するモチーフで作品の世界観につけたメインテーマといえる。「1.ソング」幻想的で一気に引き込まれる。「7.宇宙の記憶」しっかりとモチーフは鳴っていて、このメインテーマを構成している旋律のいくつかが引き算で奏でられる。また弦のこするような音を効果音のように使っている。「15.空との別れ」「23.海との別れ」は近い曲想になっているけれど、音符の数が違っていたり(ミニマル・モチーフを4分音符/8分音符/16分音符で刻むか)、編成パート数も違っていたり(23.は楽器数も多くバックで流れる旋律数も多い)と、聴き比べるとおもしろい。7.冒頭のハープ分散和音も23.に引き継がれ、後半部もふくめてモチーフが響きあう集合体になる。

「18.宇宙の誕生」「19.生命の理由」は映画本編で切れめなく流れるクライマックス。まるでビックバンのようなエネルギーの爆発を浴びせらせる。さも自分が体験しているような感覚、美しさと恐さに呑み込まれる。18.こそほぼ生オーケストラのみで構成されたソリッドな音響になっているので、他の楽曲とのコントラストがわかりやすい。18.のみ現れるミニマルの下降音型と、19.ほかで聴かれるミニマルの上昇音型。高い音から低い音へうつる下降音型は宇宙から降りてくるようでもあり、低い音から高い音へうつる上昇音型は海から湧きあがってくるようでもある。こういう見方もおもしろい。

このように、メインテーマの楽曲を紐解いてみると、「ミニマル・ミュージックで貫かれた映画音楽」というもののなかに整理ができてくる。”くり返しやズレ”を基調とした一般的なミニマル音楽をベースとしながらも、久石譲のそれは、一辺倒な方法論だけではない。”最小限の音型を足し算・引き算しながら変化させること”、”音(楽器)を豊かに変化させること”、これが久石譲の言うところのミニマル・ミュージック・ベースだと思っている。

 

原作では「ソング」とはザトウクジラの発する音・うたう歌とされている。【世界が生まれたときからの時間や記憶】【同じ旋律のくり返し……「ソング」だ】【聞いたことのない…「ソング」?】といったセリフが登場し、【そこら中あちこちに潜んでいるうたを、鯨が傍受して形を与える。それを海がマネする。そうやってあのうたがいつか世界を満たす……】(第4巻)ともある。

全巻において出現する「ソング」は、原作の柱であり有機的に交錯している。象徴的でありながら抽象的というとても難しいかたち。音階やメロディをもっているとは表現されていない。映画では音響SEとしての「ソング」も響く。久石譲は、「ソング」を音楽化した。【同じ旋律のくり返し】というミニマル音型をベースにしながらも、【聞いたことのない「ソング」】かたちの定まらない音型の足し算・引き算の変化。そうやって、旋律になりそうでなりきらない【あちこちに潜んでいるうた】を、【鯨が形を与える】ように音たちが集まり導かれ楽曲後半に悠々と重厚な旋律が奏でられる。冒頭に戻る、一番多く登場するモチーフで作品の世界観につけたメインテーマといえる。

 

2. 孤独な世界
少ない音符の数、メロディのない旋律のなかにおいても、たしかな情感をあたえてくれる。ピアノの残響に添うようにシンセサイザー音をしのばせる。ピアノ高音はハンマー強く、低音は丸みのある音像。ハープも同じく高音は弦のはじく音が強く発せられ、低音はこもりがちなやわらかい音。少ない音符と楽器、ニュアンス豊かに表情をつけている。

 

3. ひとりぼっちの夏休み
ベーシックなミニマル・ミュージックのズレをゆっくり聴くことができる曲。ピッツィカートも生音でここまでふくよかな表情は出せない、シンセサイザーと巧みにブレンドされていると思う。またハープの特徴は「2.孤独な世界」に同じ。もし生音だけでピッツィカートを鳴らしたら、ハープの音に近くなり溶け合ってしまうだろう。ピアノ、ハープ、ピッツィカート、グロッケンシュピールのたゆたう調べ。

 

4. 海と琉花
6. 海に連れられて
9. 出航
13. 海と琉花 ~出会い~
3人の主人公〈琉花〉〈海〉〈空〉の交流を描いたシーンで使われている。出だしから聴かれるモチーフたちを楽曲ごと楽器を置き換えることでカラフルにしている。軽快なミニマル音型のズレ、楽器の出し入れによるくっきりとした多重奏。同じモチーフでもピッツィカートの均一な音幅で奏でられるのと、管楽器ののびやかなフレージング。映画シーンごとに主人公の心情や場面の変化にあわせているというよりも、決して同じものはない・同じところにとどまることのない人や場所や時間の変化という俯瞰と客観性かもしれない。バリエーションを意味づけするよりも、変化することが自然とでもいうように。

 

5. 海
14. 光る夜の海へ
短い音型が小さな上昇・下降をくり返しながら渦を巻くように上がっていく。ピュアな螺旋を描いて昇りつめ、今度は少しの不協音をおびて一気に下降する。「14.光る夜の海へ」ここでもハープが効果的に使われ、また呼吸をするように音型のテンポが一定でないのも印象深い。映画と照らしあわせると、海の世界観・海のもつ生命力のような、大切なシーンで使われている。出番は少なくても象徴的な位置におかれた主要テーマ曲のひとつといえる。

 

8. 星の歌 ~ケーナ version~
12. 星の歌 ~シンセサイザー version~
17. 星の歌 ~ケーナ&ムックリ version~
22. 星の歌
聴いた瞬間にとりこになってしまう曲。あまに言葉にしないほうがいい。

原作を読んだとき「星のうた」にどんなメロディをつけるのか、大きな期待と楽しみで膨らんでいた。この歌には言葉がある。【星の。星々の。海は産みの親。人は乳房。天は遊び場。】。映画のなかで「星の歌」メロディ全貌が登場するのは「12.星の歌 ~シンセサイザー version~」から。「8.星の歌 ~ケーナ version~」のときには【星の。星々の。海は産みの親。】というところまでの言葉が登場する。12.のときにはじめてそのつづき【人は乳房。天は遊び場。】がセリフとして出てくる。そう、しっかりメロディにこの言葉たちが歌詞としてのっかる。節まわしできれいに言葉がハマる旋律になっている。頭のなかで歌ってみると鳥肌が立つ。メロディの出し方と言葉の出し方(前半部分・全貌)が暗黙のようにリンクしている。

原作には「星のうた」についていろいろなエピソードが散りばめられているので、中途半端に持ち出すのはよくない。それでも曲につながるのではと思う(最低限の)いくつかを紹介させてもらう。

【むかしこのうたを聞いた人間が、自分たちの言葉に置きかえた……形をかえたから力を失ったけど、これは特別なうた。】(第4巻)。【”語ってはならない神話”や”うたってはならないうた”を冒涜しようとしているから。】(第4巻)。原作で「星のうた」は「ソング」を聴いた人間たちが置きかえたものだと語られている。久石譲が書き下ろした「ソング」と「星の歌」のモチーフに音楽的つながりを見つけることはできなかったけれど、もしかしたら発見もあるかもしれない。もちろん、人間が置きかえてしまったもの、とするならば、つながっている必要もない。

本作はミニマルモチーフの楽曲群が多いなか、「星の歌」はえもいわれぬ旋律美で深く染みわたる。そして、歌詞をのせて歌われることはしなかった。メロディの力で映画と原作を補間し大きく包みこむ。心ふるわせ涙腺ゆるむのは、初めて聴いた感動というよりも、もともと体のなかに持っていた、昔から受け継いできたものが反応しているよう。「22.星の歌」メロディが枝分かれし、時間軸で交錯している。「ソング」を人間たちが置きかえたものは「星のうた」だけではないのかもしれない。いくつもの言葉と旋律がこれまで形をかえて生まれては消え、伝え遺り。メロディの紡ぎあいは、そんなことにまで想い馳せさせてくれる。原作では「星のうた」について【旅の道標】【誕生の物語り】などとも出てくる。

楽器についても考察したかったが、なぜケーナが選ばれたのか? ムックリについては映画とリンクしているのでぜひご鑑賞を。

 

10. ジンベエザメ
低弦を基調とした太いラインと、まわりに散らばり飛び交う音たち。群れが集まり互いに交信しているような情景が浮かぶ。変な言い方にはなるけれど、要素が同じミニマルでも久石譲オリジナル作品ではこうはならない、エンターテインメント音楽だからこそ、という曲の展開をしてくれている。しっかり求められているものに応えているというか。

 

11. 嵐の中のふたり
24. 私の夏の物語
往年の久石譲ミニマル・スタイルがつまっている。音もハーモニーも。音数・楽器・旋律が増殖したり浸食したり、ずっと眺めていられる雲の流れや海の満ち引きのよう。この楽曲を聴いて楽しいとも悲しいとも押しつけることはない。独特の和音感でありながら長調とも短調ともはっきりしない。映画を観る聴く人または体感するタイミングによって何色にでも染まることができる。「11.嵐の中のふたり」映画ではいくつかの場面が切り替わっていたと思うが、音楽は約3分半通奏で流れていた。結構大胆な使い方をしているな、という印象を受ける。登場人物や状況に合わせない、映像に合わせて音楽を展開させたり切り替えたりしない、突き放したその一例といえる。

 

16. 星の消滅
20. 生命の繋がり
「16.星の消滅」ピアノのみで奏でられた楽曲は、「20.生命の繋がり」前半部ではシンセサイザー+弦楽合奏が重なり引き継がれる。映画ストーリーでは「ソング」をモチーフにもつ「19.生命の理由」からの流れで躍動感あふれるクライマックスの一端を担っている。また後半部に力強く鳴りおろされる”ラミー””シファー”という音型(1:17~)は、「2.孤独な世界」に出てくる”ラミー”(0:03~)”シファー”(0:44~)と共鳴しているのかもしれない。この4度の動きが交錯している「2.孤独な世界」がある種〈琉花〉のモチーフだとしたときに、ここで力強く鳴らされているものは、しっかりと繋がってくるように思えるから。

 

21. 生命の源
異色を放つシンセサイザーとそのヴォイスによるもの。楽曲のなか常にどこかに”ファ”の音が聴こえてくるような気がする。遠くまでの伸びるシンセサイザーの一線や、吐くヴォイスの音程に。

原作で「ソング」や「星のうた」と同じく注目していた3つめの音楽的ポイント。【698.45ヘルツの音波のような】【「ファ」の音】【生まれる場所からの声】【星が死ぬときの音】と出てくる音。映画のなかでは超音波のような凄まじい音圧の音響効果で圧倒されるシーンがある(この楽曲箇所ではなかったような)。それがファの音を帯びていたか記憶が薄いけれど、原作にあるこの音を表現した効果音は必ずどこかに登場している。同じように、久石譲がこれらのキーワードから音楽化したものが、この楽曲だと思っている。

 

25. エピローグ
(1. ソング/2. 孤独な世界)
「ソング」のモチーフをハープで〈琉花〉のモチーフをピアノで織りかさなっている。終曲において、久石譲は物語をとおして《たしかに何かが起こった》ことを暗示した。だからふたつの異なる旋律が同時進行する対位法のように絡みあう。それは同時に、映画を観る前と観た後に起こる《観客の変化(感じたこと・行動すること・ものの見え方)》にもつながる。壮大で哲学的な『海獣の子供』世界は難解でひとつの正解はない。だからこそ最後はシンプルに帰する、神話を経てリアルな今に返る、そしてまたひとりひとりからはじまる。ひとりぼっちだった〈琉花〉のモチーフがひとりではなくなったように、あるいは、ひとりではなかったことに気づいたように。

またこの曲は、映画本編に使用されたバージョンと少し異なる。

 

 

 

1. ソング
2. 孤独な世界
3. ひとりぼっちの夏休み
4. 海と琉花
5. 海
6. 海に連れられて
7. 宇宙の記憶
8. 星の歌 ~ケーナ version~
9. 出航
10. ジンベエザメ
11. 嵐の中のふたり
12. 星の歌 ~シンセサイザー version~
13. 海と琉花 ~出会い~
14. 光る夜の海へ
15. 空との別れ
16. 星の消滅
17. 星の歌 ~ケーナ&ムックリ version~
18. 宇宙の誕生
19. 生命の理由
20. 生命の繋がり
21. 生命の源
22. 星の歌
23. 海との別れ
24. 私の夏の物語
25. エピローグ

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Yusuke Yanagihara
Oboe:Hokuto Oka
Clarinet:Emmanuel Neveu
Bassoon:Mariko Fukushi
Horn:Akane Tani, Misaki Haginoya, Sachiko Furuya
Trumpet:Cheonho Yoon, Tomoki Ando
Trombone:Yuri Iguchi
Bass Trombone:Koichi Nonoshita
Timpani:Akihiro Oba
Percussion:Hitomi Aikawa, Shoko Saito
Harp:Kazuko Shinozaki
Piano & Celesta:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings
Quena:Hideyo Takakuwa
Mukkuri (Jew’s Harp):Leo Tadakawa

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio
Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)
Director & Manipulator:Yasuhiro Maeda

and more…

 

Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

1.The Song
2.Isolated World
3.Loneliness Summer Break
4.Umi and Ruka
5.Umi
6.Be Brought By Umi
7.Memories of The Universe
8.The Song of Stars (Quena Version)
9.Setting Sail
10.Whale Sharks
11.Two In the Typhoon
12.The Song of Stars (Synthesizer Version)
13.Umi and Ruka (Encounter)
14.To The Glowing Sea
15.The Time Has Come
16.A Star Extinct
17.The Song ff Stars (Quena & Mukkuri Version)
18.Big Bang
19.The Reason of Life
20.Connection of The Lives
21.The Origin of Life
22.The Song of Stars
23.Goodbye Umi
24.My Own Summer Story
25.Epilogue

 

Disc. 久石譲 『Diary』 *Unreleased

2019年5月5日 TV放送

 

曲名:Diary
作曲:久石譲
演奏:読売日本交響楽団

 

日本テレビ系TV番組「皇室日記」(毎週日曜日、朝6:00-6:15)新テーマ曲として書き下ろされた楽曲。2019年5月1日、時代は平成から令和へ。

いくつかのBGMが使われる番組ではあるが、久石譲が手がけたのは新テーマ曲の1曲。番組オープニングやエンディングを主に内容にあわせて使用されている。

 

先がけて3月10日放送回にて、新テーマ曲について久石譲インタビューやレコーディング風景をまじえて紹介された。録音は2月川崎市にて。またフルバージョン(約3分)もオンエアされた。ナレーションもなく回想映像音もない、録音映像と皇室映像をまじえたPVのように、その音楽だけがきれいに聴けた貴重な回となっている。

 

 

久石譲 談

「『皇室日記』という番組でもあることもあってできるだけひと言で言ってしまえば堂々とした曲。天皇の代も替わるしいろんな意味で新しい時代が来ると。新しい時代の風みたいなそういうような感じに仕上がるといいなとは思いましたね。」

「大っきいこう大河が流れてくような楽曲にしたい。そうするとメロディーが高いほうできらびやかにするよりは、こうお腹の底からと言いますかね、割と低いほうからガツっと音楽を支えたほうがいい。それでやはりヴィオラが何かね、あの音域のメロディっていうのはとても自分にとっては今回合うなと思いまして。」

「皇太子さまがヴィオラ弾かれてるっていうのは何となく風のうわさでは聞いてましたけども、意図したわけではないんですがいい具合に一致したのはとてもありがたいです。」

(3月10日放送回より 書き起こし)

 

 

 

久石譲による言葉がこの楽曲の特徴を語ってくれている。高い品格をまとった曲で、ヴィオラの音域が堂々とかまえ悠々と流れる大河のように旋律を奏でる。それはヴァイオリンなどが高らかに歌うのとは違う、同じ高さ(目線)で語りかけてくれるようでもある。テーマを1回奏した次の中間部では、ソリッドな手法でひとつのモチーフが弦楽・管楽と交錯する。まるで幾重にも織り編まれる時間を刻んでいるようで、まるで幾重にも交わる人のつながりが果てしないように、綴られていく日記。その後2回目のテーマが奏され、1回目よりも弦楽による刻みや低音のリズムがしっかり強調される、力強く前向きに。だがしかし、ドラマティックになりすぎない展開は劇的さを望まず、最後にチューブラーベルの鐘の音がくっきりと響きわたる。

 

未CD化楽曲。これから先、読売日本交響楽団との共演コンサートなどで初演を迎えてほしい。

 

 

 

2019.8.14 追記

2019年8月1日「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」にて世界初演された組曲「World Dreams」の第3曲として組み込まれた。

 

組曲「World Dreams」 
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

 

実は「World Dreams」を組曲にしたいという構想はこれまでもありましたが、今年テレビ番組(「皇室日記」)からオファーを受けて「Diary」を書いた時に「World Dreams」の世界観と通じるものがあると感じ組曲にしました。

(久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

第3曲「Diary」はTV番組『皇室日記』の新テーマ曲として2019年5月から使用されている楽曲。TV版は約3分の楽曲として一度だけO.A.されたことがありますが、それとは異なる組曲用の再構成、大幅にドラマティックに加筆されていました。第1曲のキメのフレーズが再循環で登場したりと、組曲を統一するにふさわしい壮大なオーケストレーション。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

2020.08.19 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートライヴ盤がCD発売された。

 

 

 

 

Disc. 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 『ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱」』

2019年1月23日 CD発売 OVCL-00699

 

精鋭メンバーが集結した夢のオーケストラ!ベートーヴェンはロックだ!!

音楽監督久石譲の呼び掛けのもと、長野市芸術館を本拠地として結成したオーケストラ「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」は、日本の若手トッププレーヤーが結集し、ダイナミックで溌剌としてサウンドが魅力です。作曲家ならではの視点で分析した、”例えればロックのように”という、かつてない現代的なアプローチが話題となったベートーヴェン・ツィクルスの最後を飾った「第九」。さまざまな異なる個性が融合し、推進力と活力に溢れたベートーヴェンをどうぞお楽しみください。

(CD帯より)

 

 

自然に流れながら
未来へと向かう音楽
 柴田克彦

2018年7月の第7回定期をもって、久石譲指揮/ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)のベートーヴェン交響曲全曲演奏会が完結した。久石が音楽監督を務めるNCOは、長野市芸術館を本拠とする室内オーケストラ。首席奏者を多数含む国内外の楽団のメンバーなど、30代をコアとする腕利きの精鋭が揃っている。彼らがホール開館直後の2016年7月から行ってきたシリーズの最後を飾ったのが、この第9番「合唱」(第九)。併せて録音されたライヴCDの中で本作は、第1番&第3番「英雄」、第2番&第5番「運命」、第7番&第8番に続く4作目となる。

当シリーズにおける久石のコンセプトは、「作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」、「往年のロマンティックな表現もピリオド楽器の演奏もロックやポップスも経た上で、さらに先へと向かうベートーヴェン」である。既出のCD解説との重複を承知の上でこれを記したのは、第1~8番の交響曲とは別次元の重厚な大作とみられている「第九」では、より強い意味を放つからだ。

本作の弦楽器の編成は、ヴァイオリンが全体で16名、ヴィオラが6名、チェロが5名、コントラバスが4名。前作より低弦が増えてはいるが、「第九」としてはかなり小さい。久石とNCOは今回も、それを生かした引き締まった響きで、細かな動きを浮き彫りにしながら、推進力と活力に溢れた演奏を展開している。アーティキュレーションの揃い方は変わらず見事。当シリーズに一貫したリズムの強調はここでも効力を発揮し、ベートーヴェンの交響曲は「第九」といえどもリズムが重要な要素であることを知らしめる。そして何より、従来の小編成演奏と大きく異なるのは、のびやかに呼吸しながら川の流れのように推移していく、自然で瑞々しい音楽である。テンポは速いが音楽はしなやか……。つまりこれは(今回も)、重厚長大な往年のアプローチでは無論なく、それに対するアンチでさえもない、「すべてを咀嚼した上で先へと向かう」ベートーヴェンなのだ。

第1楽章冒頭の弦の刻みからすでに歯切れよく、あらゆるフレーズやリズムが明瞭に現れる。木管楽器の動きやティンパニの強打もいつになく鮮明。特にティンパニが第2楽章だけでなく全編で重要な働きをしていることを実感させる。そしてあたかも第5番「運命」の第1楽章のような推進力をもって終結に至る。

第2楽章は「タンタタ」のリズムが明示されつつ快適に運ばれ、そのリズムの積み重ねは第7番を、急速なトリオの軽やかさは第8番を想起させる。通常突出するティンパニも、ここでは逆にリズムを担う一員となり、自然な流れを生み出している。

第3楽章は、各声部が明瞭に絡み合い、柔らかく呼吸しながら、淀みなく流れていく。緩徐楽章であってもリズムが浮き彫りにされ、ホルンのソロ付近のピッツィカートも新鮮だ。

第4楽章もひと続きの音楽としてスムーズに表現される。前3楽章を否定する場面はインテンポで進み、それゆえか間合いの後の「歓喜の歌」の提示がすこぶる美しい。声楽部分では、まず最初のバリトンのソロと、そこに絡む木管楽器が豊かな表情を作り出す。ソロの四重唱、合唱とオーケストラとのバランスも絶妙だ。次の場面での管弦楽の鮮やかなフーガはNCOの真骨頂。以下の各場面の清々しいテンポ感、最後のごく自然な大団円も特筆される。

久石の要求以上とも思えるNCOメンバーの積極的な表現も快演に大きく貢献。ちなみに本作のコンサートマスターは近藤薫(東京フィル・コンサートマスター)、ソロで活躍するオーボエは荒絵理子(東響首席)、ホルンは福川伸陽(N響首席)、ティンパニは岡田全弘(読響首席)が受け持っている。

「第九」は、突然変異の大作ではなく、第1~8番と同じ作者が、その延長線上で創作した「交響曲第9番」であり、それでいてやはり「未来へ向かう清新な音楽」である。本作を聴いているとそう思えてならない。

(しばた・かつひこ)

(CDライナーノーツより)

 

※諸石幸生氏による3ページにわたる曲目解説は割愛。詳細はCD盤にて。

※原詩/日本語訳詞 掲載。ナガノ・チェンバー・オーケストラ メンバーリスト掲載。

 

 

 

こんなに爽快で清々しい「第九」は聴いたことがない。リズムをベースにアプローチした久石譲&NCOの集大成。きびきびとタイトで引き締まった演奏は、精神性を追求したものとは一線を画する解放された突き抜け感がある。

第1楽章冒頭弦の刻みから顕著で、最小限の音型という小さい要素たちが集合体となって大きな有機物を創りあげるようなイメージ。ベートーヴェン特有のリズム動機やモチーフが、まるで細胞分裂をくり返しながら意思をもつ生命となり、最後には巨大な生き物がその姿を現す。ミニマル・ミュージックをはじめ現代の音楽を作曲・演奏する久石譲だからこそ、同じアプローチで挑み具現化できる手法。感情表現やエモーショナルに横揺れするフレーズ表現(弧を描くような)とは対極にある、リズムを重視した音符や音幅や強弱といったものをきっちりとそろえるアプローチ。

CDライナーノーツ寄稿、柴田克彦さんによる第1楽章から第4楽章までの本演奏の聴きどころや解説もピンポイントでわかりやすい。実際に道しるべとしながら聴くとすっと入ってくる。そして、コンサートレポートで記していたことが感覚的に間違っていなかったことや、そのアンサー解説のようにもなっていてとてもうれしくありがたい。(その時に書いていたのはティンパニの役割や第3楽章のテンポ設定について思ったことなど)

 

本作録音のコンサートを体感した感想や、久石譲がこれまでベートーヴェンについて語ってきたこと、ナガノ・チェンバー・オーケストラ定期演奏会の全プログラムリスト。

 

 

もし「第九とはかくあるべきだ」という愛聴家が聴いたなら、なかなか刺激的で受け入れがたいものもあるかもしれない。でも、ここにこそ久石譲の狙いがあり、久石譲が表現したい「第九」があると思う。約58分という1時間を切る快演。ただ速ければいいというものではない、快速を競っているわけでもない。速いテンポ設定が必然だった。スコアの細部まで明瞭に聴かせることで構造がはっきりと見える。聴かせたいフレーズだけを前面に出したりニュアンスに偏ることのない、整然とした数式的な「第九」はこのテンポ設定じゃないと実現しなかったと思う。これほどまでに知的な「第九」は潔い、フレッシュみずみずしい音楽そのものを聴かせてくれているように僕は受け取った。圧巻の集中力と気迫で駆け抜ける久石譲&NCO版、純度と燃焼度はすこぶる高い。第4楽章クライマックスの木管楽器の上昇音形の炸裂も素晴らしい。リズムをベースとした快速「第九」は、密度を高めれば高めるほど鮮明に浮かび上がってくることを証明してくれている。

「第九」の平均演奏時間は約65~70分。とすれば、本作はひとつの楽章が抜け落ちるくらい、たとえば第1楽章・第2楽章の次が第4楽章に飛んでしまうくらいの時間差がある。けれども、久石譲版はスコア忠実にすべてのコーダ(くり返し)も演奏してのタイム58分35秒。決して息切れしそうなほどせっかちに急いでいるわけでもないし、決して足がもつれて転びそうなほど心と身体が分離しているわけでもない。快速であることは快感、アドレナリンが湧きあがる喜び。エネルギーに満ち溢れた塊となって聴き手を揺さぶり迫ってくる、鼓動する「第九」。

 

作品に込める精神性を表現するヨーロッパ的アプローチと真逆に位置する、作曲家視点・譜面重視・リズムに軸を置いた久石譲の《第九》。そこにはベートーヴェン作曲当時(歴史が「第九」という作品を肉づけしていく前)の純粋無垢な透明感がある。スコアはベーレンライター版。

 

 

 

 

 

[ベートーヴェン・ツィクルス第4弾]
ベートーヴェン:交響曲 第9番「合唱」
久石譲(指揮)ナガノ・チェンバー・オーケストラ

ベートーヴェン
Ludwig Van Beethoven (1770 – 1827)

交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱」
Symphony No.9 in D minor Op.125 “Choral”
1. 1 Allegro ma non troppo, un poco maestoso
2. 2 Molto vivace
3. 3 Adagio molto e cantabile
4. 4 Finale, Presto

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (conductor)
ナガノ・チェンバー・オーケストラ
Nagano Chamber Orchestra

安井陽子(ソプラノ)
Yoko Yasui (soprano)
山下牧子(メゾ・ソプラノ)
Makiko Yamashita (mezzo soprano)
福井敬(テノール)
Kei Fukui (tenor)
山下浩司(バリトン)
Koji Yamashita (baritone)

栗友会合唱団
Ritsuyukai Choir
信州大学混声合唱団
Shinshu University Chorus
市民合唱団
Special Chorus

2018年7月16日 長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音
Live Recording at Nagano City Arts Center Main Hall, 16 July 2018

 

Produced by Joe Hisaishi, Tomiyoshi Ezaki

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Recording Engineers:Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 久石譲 『ad Universum』 *Unreleased

2018年12月19日 公開

 

コニカミノルタプラネタリアTOKYO
オープニング記念作品
DOME2 プラネタリウムドームシアター作品
『To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲』

上映期間:2018年12月19日~2019年12月18日
上映時間:約40分
上映時刻:12時/14時/16時/18時/20時
音楽:久石譲
ナレーション:夏帆

 

コニカミノルタプラネタリウム“天空”in 東京スカイツリータウン
上映期間:2019年10月12日~ *

*台風のため10月12日は休館。初上映は10月13日 15時~の回より。

 

 

プラネタリウムの音楽を書き下ろすのはキャリア初、全編書き下ろし。自らタクトを振るい『宇宙』をテーマにオーケストラ編成による壮大なサウンドスケープ。本作は最新の立体音響システム「SOUND DOME®」に対応、まるで実際に目の前でオーケストラが演奏しているかのような、重厚かつ繊細な音響空間を構築。本作のテーマは、宇宙飛行士が体験した“本当の宇宙”。日本人宇宙飛行士の土井隆雄さん、山崎直子さん、大西卓哉さんの体験を元に、そこから見える宇宙の光景(すがた)を、コニカミノルタプラネタリウムの最新投映機「Cosmo Leap Σ(コスモリープ シグマ)」と全天周CG映像で再現。

43.4ch音響。SOUND DOMEは、ドーム裏側に配置された43個のスピーカーと、壁背面の4個のウーファーで構成した立体音響システム。前後左右に加え上下や回転といった、きめ細かな音像移動を表現。オーケストラによる演奏や環境音を忠実に再現することで、リアルな体験を提供。

(作品案内より)

 

 

To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲 約30秒

コニカミノルタプラネタリウム Official YouTubeチャンネル より (※2018年12月19日現在)

 

 

 

12月17日ラジオJ-WAVE「GOOD NEIGHBORS」に生出演した際には、本作品の音楽について語られ、エンディングに流れる「AD UNIVERSUM」(約3分)楽曲がオンエアされた。

 

「結果的に書いてよかったです。自分が書きたいミニマルベースな方法論で書けました。地面じゃない音楽っていう言い方は変かな、例えば深海シリーズとかディープオーシャン、ちょっと日常ではない世界、宇宙とかね、そういう音楽って意外に音楽の持っている力がけっこう発揮しやすい。そういう意味では、わりと書きたいように書かせていただいたし、この間試写を観たときにすごく「あっ、これはかなりいいねえ」と僕は思いました。」

「宇宙は実は一個問題があって、キューブリックの『2001年宇宙の旅』という映画があって、なぜか宇宙空間になると(あのワルツの)パターンができちゃってるんで、これを壊さなきゃいけないというのがちょっとありますよね。やっぱり僕はすごいと思う、あのアイデアはね。そういう方法をとらないで、ミニマルをベースにしたので大丈夫だったんですが、やっぱり宇宙だと一回ああいう衝撃的な音のつくり方をされると、これけっこうみんな残っちゃいますよね。」

「まだちゃんとしたミックスもしてなくて音質も悪いです。ただ一番レアなものだということで聴いていただけたらいいかなあと思います。タイトル言いましょうか。「To The Grand Universe」よりエンディングを聴いてください。」

(J-WAVE GOOD NEIGHBORS 出演トークより 一部書き起こし)

 

 

 

2019.1.8 追記

レビュー

久石譲のラジオインタビューにあるとおり、ミニマル手法をベースに全編音楽構成された作品。メインテーマがありオープニングやエンディングで流れ本編ではそのバリエーション(変奏・アレンジ)が流れるという構成ではなく、全編書き下ろされた楽曲になっているのも大きな特徴と言える。

主張するようなはっきりとした性格をもったメロディではないけれど、ミニマルという最小限のモチーフながら広がりや無限さを感じさせる巧みな音づくり。聴き飽きることのない音楽、ずっとループしていたいような音楽宇宙。アプローチとしては深海シリーズやディープオーシャンに通じる小編成オーケストラで、切れ味のよいソリッドな響き、リズミックな刻みが心地いい。ピアノ・マリンバ・ハープといった久石譲のミニマル・エッセンスに欠かせない楽器たちが絶妙なバランスでブレンドされている。

たとえば、プラネタリウムから連想するきれいで優しくてゆったりとした、楽器でいうとストリングスが悠々と流れシロフォンがキラキラと輝き。そんなイメージを打破してくれる久石譲のモダンでミニマルな音楽構成はとても新鮮で、新しい表現を提示してくれたこと、見事に映像と音楽で宇宙を描けていることは画期的とも言える。

ひとつだけ例をあげると、満点の星空がゆっくりと時間をかけて一周するシーンがある。久石譲のミニマル・ミュージックだけで約数分間静かに確かに推しきっている。そしてこれは星の動きが終わりなく永遠であること、ミニマルの調べもまた永遠であることと強く共鳴し印象的なシーン。

良い意味で映画のように制約が少ない音楽づくりは、とても久石譲がやりたいイメージで伸び伸びと発揮されているように思うし、映画ではここまでミニマル・ミュージックを貫けないだろうという点でも貴重な音楽作品。ナレーション付きだけれど、しっかりと音楽だけを聴かせる箇所も複数あり、効果音がうるさくぶつかることも少ない。まるでMusic Videoを観ているように久石譲音楽をたっぷりと聴くことができる。上映作品名に久石譲の名前がついているだけあって、音楽を大切につくられたプラネタリウム作品であることが伝わる。

映画サウンドトラックよりも、久石譲の明確なアプローチやコンセプトをもった、オリジナルアルバムに近い位置づけとできる音楽たち。上映時間約40分中、音楽は2/3以上配置されている。ぜひミニアルバムなどのCD化を強く願っている。また「Deep Ocean組曲」のように演奏会用音楽作品としても再構築され、コンサートで演奏されることも期待したい。それほどまでに現在進行形の久石譲が凝縮された最先端の音楽が届けられたとうれしさ満点。

エンドロールがとても駆け足で音楽関連情報をほとんど把握することができなかった。演奏はオーケストラ団体名はなく、Violin誰々というように全楽器奏者の個人名がクレジットされていた。おそらく約40人規模ぐらいの編成だったのではないかと思う。もうひとつ取り上げたいのが、公式PVで映像がはさまれていたレコーディング風景の1コマ2コマ、奏者の服装に半袖や腕をまくった人が多かったこと。この時は、秋にかけてレコーディングしたのかなと推察していた。そしてエンドロールのクレジットを組み合わせる。オーケストラ団体名ではなかったのは、今回のレコーディングメンバーは、ナガノ・チェンバー・オーケストラのメンバーがベースとなっているのではないだろうか。時期的にも「第九」公演にて完結した2018年夏からまもなくであり、久石譲の現代的アプローチを見事に表現できる室内オーケストラ、3年間久石譲と互いに磨きあげた信頼関係と演奏技術。まったくの勝手な推測の域を出ないけれど、この作品の音楽の”音”を思い出すたびにそんな気がしてくる。いつか演奏者や合唱団についての詳細が明らかになるとうれしい。

 

久石譲が紡ぎあげる宇宙空間。こんなにも贅沢な非日常イマジネーション豊かな音楽を、飽きのこない広がりある心地よい無重力ミニマル・ミュージックを、日常生活のなかでいつも包まれ聴きたい。

 

プラネタリアTOKYOオープニング作品(期間限定)、再上映予定なし、未CD化作品。

 

 

 

2019.8.14 追記

2019年8月1日「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ」にて組曲化、世界初演。

 

ad Universum
1.Voyage
2.Beyond the Air
3.Milky Way
4.Spacewalk
5.Darkness
6.Faraway
7.Night’s Globe
8.ad Terra

 

ーAプロでは次の曲が「ad Universum」です。

久石:
今年オープンしたプラネタリウム(コニカミノルタ プラネタリウム)のために書いた曲を組曲として構成し直しました。宇宙がテーマだったので、ミニマル・ミュージックでありながら聴きやすさを大事にして作った曲です。つまり相反する要素を一つの曲の中で表現している。そういう意味ではBプロで演奏する深海をテーマにした「Deep Ocean」の続編としての側面もあります。

(久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

 

ad Universum 【A】
コニカミノルタプラネタリアTOKYO『To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲』のために書き下ろされた曲たちが『ad Universum』というタイトルで組曲化されました。この作品についてはとても曖昧な印象、な話になってしまいます。現在もロングラン上映中かつ未CD化のオリジナル楽曲たちだからです。

おそらくほとんどの曲が組曲化で盛り込まれているような気はします。小さい編成のオーケストラ+シンセサイザーで組み立てられたオリジナル版は、ミニマル手法を貫いた楽曲たちです。コンサートの印象では、やや編成を大きくし、アクセントやパンチの効いたダイナミックなオーケストレーションも施され、あくまでも管弦楽をベースとして必要最小限のキーボードによる電子音使用、まさに演奏会用の音楽作品に再構成されているんだろうと思います。静かな曲での電子音はエッセンスとしてとても効果的で、オーケストラも厚すぎず、散りばめられた星たちが適度な距離感でまたたくように、音たちもそれぞれの距離感で奏であい、、やっぱり曖昧な印象になってしまう。

エンディングに流れる曲はオリジナル版では合唱編成あり、この楽曲だけラジオO.A.音源として聴くことができます。コーラスの厚みが金管楽器などに置き換わっていました。さすが演奏会用に昇華されたダイナミックなエンディング曲です。ということで、、プラネタリウム鑑賞時のレビューのほうが各楽曲について細かく記しているかもしれません。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

ad Universum
プラネタリウムの為に書き下ろされた楽曲達が再構成されて、コンサートで披露されました。ミニマルミュージックを軸に構成されており、反復で表現されていく様子はまさしく音のプラネタリウムでした。8曲から構成され、プラネタリウムで使用された楽曲はほとんど使用されていたのはないでしょうか? 絶え間なく演奏され、1曲ずつの感想は書けませんが、印象に残ったことを書いていきます。

冒頭(1.Voyage)では、ゆったりとしたストリングの調べから、突如マリンバのソロが入ります。そこから繰り広げられていくミニマルの刻み。『D.E.A.D』組曲の三楽章『死の巡礼』のように迫りくるリズムが続きます。

2.Beyond the Airでは『The East Land Symphony』の二楽章『Air』のような浮遊する雰囲気を感じられます。全体としてメロディの要素は少ないですが、途中で現れる「ラレド♯ー」のような特徴的なメロディの欠片からは流れ星の煌めきを連想させます。低音から高音へ、波の揺らぎのような部分からは『Deep Ocean』のような雰囲気も。

終盤(8.ad Terra)からは大迫力のミニマルワールド。ひたすら繰り返されるリズムの刻みに終始圧倒されました。大迫力のフィナーレのあと、マリンバのソロで静かに終わるのが印象的でした。

Overtone.第24回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート by ふじかさん より抜粋)

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』

2018年11月21日 CD発売 OVCL-00685

 

『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』
久石譲(指揮) フューチャー・オーケストラ

久石譲主宰Wonder Land Records × クラシックのEXTONレーベル 夢のコラボレーション第3弾!未来へ発信するシリーズ!

久石譲が“明日のために届けたい”音楽をナビゲートするコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、アルバム第3弾が登場。2017年のコンサートのライヴを収録した本作は、よりエッジの効いた衝撃力のある作品が選ばれています。ミニマル特有のフレーズの繰り返しや重なりが、感情を揺さぶる力となり、新たな感覚と深い衝撃を与えます。日本を代表する名手たちが揃った「フューチャー・オーケストラ」が奏でる音楽も、高い技術とアンサンブルで見事に芸術の高みへと昇華していきます。レコーディングを担当したEXTONレーベルが誇る最新技術により、非常に高い音楽性と臨場感あふれるサウンドも必聴です。「明日のための音楽」がここにあります。

ホームページ&WEBSHOP
www.octavia.co.jp

(CD帯より)

 

 

解説 松平敬

本アルバムは、『MUSIC FUTURE』と銘打ったコンサート・シリーズからのライヴ録音である。「現代音楽」を超越した「未来音楽」を目指していこうという心意気の感じられる、野心的なネーミングだ。

2014年の「Vol.1」以来、毎年継続されているこの企画において終始一貫しているのは、ミニマル音楽への強烈なまでのこだわりだ。前衛音楽を経由し、「繰り返し」という音楽の原点に立ち返ったこの作曲技法は、もはや現代音楽の古典としての地位を確立している。実際、このジャンルの第一世代であるスティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらの名前は、いまやクラシック音楽以外のファンにも広く知られている。そして、このコンサートのプロデューサーである久石譲も、筋金入りのミニマリストである。ミニマル音楽にこそ音楽の未来への希望が詰まっており、その魅力を日本の幅広い聴衆へ伝えたい、という彼の信念が、このコンサート・シリーズ、そして本アルバム制作への原動力となっている。前述のライヒ、グラスなどのミニマル音楽の「古典」、そして彼らの精神を受け継ぎ、音楽の未来を切り拓いていこうとする、より若い世代の作曲家の作品、そして久石自身の新作という3つの核で、毎回のコンサートの選曲がなされている。

ところで、ミニマル音楽は、短い要素の繰り返しを作曲の基礎に置いていることから、ただ繰り返すだけなら演奏は簡単なのでは、と誤解されることが多い。しかし、実際は全くその逆である。例えば、ライヒの『クラッピング・ミュージック』のような小さな作品ですら、奏者の一瞬の気の緩みによって演奏全体が破綻してしまう危険を孕んでおり、その演奏には常に極度の緊張感を伴うことになるからだ。そして、そのスリルがあるからこそ、ライヴ演奏の高揚感も格別なものとなる。久石のこだわりの選曲による作品が、彼自身の指揮による、緊張感みなぎるライヴ録音で収録された点も、本アルバムの聴きどころとなるだろう。

2017年に開催された「MUSIC FUTURE Vol.4」からのライヴ録音を収めた本盤には、久石、ラング、G.プロコフィエフの3人の作品が収録されている。この三者に共通するのは、映画音楽、クラブ・ミュージックなど、ジャンルの壁を軽やかにすり抜けていく音楽性だ。多種多様な音楽を吸収してきた彼らの作品を聴き比べることによって、ミニマル音楽の多面的な魅力を楽しむことができるだろう。

 

デヴィット・ラング:
pierced

チェロ、ピアノ、パーカッションと弦楽合奏のための作品。作品全体は、続けて演奏される2つのセクションから構成されている。

ヘ短調の前半セクションを支配しているのは、ヴィブラフォン、チェロ、ピアノがユニゾンで奏でるジグザグとしたメロディーだ。この独特な造形感覚は、頻繁に跳躍する音程構造以上に、メロディーのリズム構造が鍵を握っている。例えば、各拍の分割(連符)は、2-3-2-3-4-3-2-3-4-5-4-3-2…というようにシステマティックに決定され、拍ごとに体感テンポが変化する仕掛けになっている。さらに、このリズムのいくつかの音が休符に置き換えられることで、リズム構造は、さらに入り組んだ様相を呈することになる。この特徴的なメロディーを弦楽合奏によるトレモロの持続音と、キック・ドラムとピアノの低音による不規則なリズム・パターン(これもまたシステマティックに構成されている)が支える。ちなみに、後者のリズムは後半セクションにも引き続き使用されることで、作品の統一を図る役割を果たす。

後半セクションでは、調性がイ短調に変わるだけでなく、音楽の装いも大きく変わる。ここで中心となるのは、チェロが奏でる、むせび泣くような息の長いメロディー。下行する半音によるたった2音のメロディーの繰り返しから、独特の悲哀が浮かび上がる。このシンプルさは、前半の、跳躍を多用した複雑なメロディー・ラインとのコントラストを意識したものでもあろう。ちなみにスコアには、むせび泣くニュアンスを出すために、このメロディーにグリッサンド的な処理を自由に加えることが指示されている。本録音でソリストを務める古川展生がどのように「泣いている」かは、録音でお楽しみいただきたい。後半セクションでは、これまでひたすら音楽的背景に徹していた弦楽合奏が、音楽の前面に現れる。パルスが加速するかのような同音連打の音形が、第1、第2ヴァイオリンとヴィオラの3声部で、エコーのように重なり合って演奏される。

 

ガブリエル・プロコフィエフ:
弦楽四重奏曲 第2番

彼の祖父は、ソ連の高名な作曲家セルゲイ・プロコフィエフ。『ターンテーブル協奏曲』を作曲するなど、クラブ・ミュージックからの影響が強いガブリエルであるが、祖父の疾走感溢れる音楽を思い起こせば、両者に同じ血筋が感じられるだろう。

『弦楽四重奏曲 第2番』は、クラシック音楽の王道と言えるこのジャンルにテクノ的な要素を持ち込もうとした作品である。

「極めてメカニカルに(テクノ風に)」と記された第1楽章を貫くのは、パルス状に繰り返される16分音符のリズムだ。このリズムが、はじめは間を置きながら短く提示され、それがグルーヴ感溢れる長いうねりへと盛り上がっていく展開は、まさにテクノ的。無機質な同音反復や、規則的なリズムで楽器のボディを叩くアイデアはドラム・マシンを彷彿とさせる。4分音ずれた音を重ねることで電子的なエフェクトを模倣する発想もおもしろい。

スケルツォ的な役回りを担う第2楽章では、ヴィオラがリフ的な短いフレーズを繰り返し、そこに他の楽器によるノイジーな音響が絡み合う。本楽章の基調をなすのは、8分音符で刻む規則的なリズム。要所要所で、そこに付点音符のリズムを拮抗させるアイデアが、シンプルながら効果的だ。

緩徐楽章となる第3楽章は、最も非テクノ的といえる。しかし、この楽章の要となる、気だるい3拍子のメロディーを伴奏するピッツィカートの音形には「オルゴールのネジを巻くように」と記され、やはり機械的な発想が明らかだ。

第4楽章は、ギターを掻きむしるかのような、ヴィオラのアグレッシヴなリズム・パターンで始まる。反復を基調とした要素が次々と出入りする発想こそテクノ的であるが、野性的な弦楽器の音色はむしろ民族音楽を想起させる。この楽章の最終セクションでは、第1楽章のパルス的な音楽が回帰する。はじめはゆっくりとしたテンポで、そして徐々にオリジナルのテンポへ加速する疾走感はSL機関車さながらだ。

 

久石譲:
室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》

3つの楽章からなるこの作品を貫くのは、久石が「Single Track」と呼ぶ、単旋律を主体として楽曲全体を構成する作曲技法だ。

第1楽章は、バンドネオンとピアノ、そして弦楽器の交替によって演奏される短いメロディーの繰り返しで始まる。このメロディーが変容していく過程で、メロディーのいくつかの音が木管楽器で演奏され、単一のメロディーに少しずつ色彩感が加わっていく。ホケトゥス(「しゃっくり」の意)と呼ばれるこのアイデアによって、単旋律から複数の旋律が浮き上がって聞こえる錯覚的な効果が生まれる。

楽章中盤以降、短音ばかりで構成されていたメロディーのいくつかの音が、残響音のように長く引き伸ばされ、メロディーに和声的な彩りを加える。さらにその後、メロディーのいくつかの音がパルス状に繰り返されることで、今度は「人力エコー」が実現される。

第2楽章は、ピアノとヴィブラフォンによる、うねるようなメロディーから始まる。バンドネオンは、このメロディーのいくつかの音を引き伸ばしながら、それぞれを「結び合せ」、長くゆったりとした、そして物憂げな新しいメロディーを導き出す。冒頭のテンポ感は一見、第1楽章のそれと類似しているが、バンドネオンのゆったりとしたメロディーが浮き上がることによって、第1楽章とのキャラクターの違いが明確となり、この曲が実質的な緩徐楽章であることが示唆される。

「Tango Finale」と題された第3楽章は、単旋律を主体とした先行楽章と異なり、まさにタンゴを彷彿とさせる、弦楽器による和音の繰り返しで始まる。しかしそれは、直後に演奏されるバンドネオンのメロディーの構成音を、和音へとまとめたものであることが、明らかとなる。バンドネオンの音色と、前述した弦楽器の和音の刻み、そして、時折現れるカスタネットによる合いの手など、タンゴ的な要素が醸し出す肉感性と、ミニマル音楽特有のメカニックなグルーヴ感が融合した、独特な質感を持つ音楽となっている。本作品は、今回の初演に参加している三浦一馬のバンドネオンを想定して作曲されている。特にこの第3楽章においては、彼の流麗な演奏そのものが、楽曲の一部になっているとも言えるだろう。

「室内交響曲」と銘打ちながら、あえてシンフォニックな響きを回避したシンプルな音作りに徹しているところも興味ぶかい。全曲を通じてバンドネオンがソリスト扱いされているものの、超絶技巧をひけらかしてオーケストラと対峙するのではなく、バンドネオンのメロディーに、様々な楽器の音色が塗り絵状に重なっていくことで、オーケストラとの融合が目論まれている。このコンセプトは、「音の調和」を意味する「シンフォニー(交響曲)」の語源に回帰しているとも言えるだろう。

(まつだいら・たかし)

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。

”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのもと、久石譲の世界初演作のみならず、2014年の「Vol.1」ではヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルト、ニコ・ミューリーを、2015年の「Vol.2」ではスティーヴ・ライヒ、ジョン・アダムズ、ブライス・デスナーを、2016年の「Vol.3」ではシェーンベルク、マックス・リヒター、デヴィット・ラングを、本作に収録された「Vol.4」では、フィリップ・グラスやガブリエル・プロコフィエフの作品を演奏し、好評を博した。”新しい音楽”を体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲 (1950-)
室内交響曲第2番《The Black Fireworks》
~バンドネオンと室内オーケストラのための~
バンドネオンでミニマル!というアイデアが浮かんだのは去年のMFで三浦くんと会ったときだった。ただコンチェルトのようにソロ楽器とオーケストラが対峙するようなものではなく、今僕が行っているSingle Trackという方法で一体化した音楽を目指した。Single Trackは鉄道用語で単線ということですが、僕は単旋律の音楽、あるいは線の音楽という意味で使っています。

普通ミニマル・ミュージックは2つ以上のフレーズが重なったりズレたりすることで成立しますが、ここでは一つのフレーズ自体でズレや変化を表現します。その単旋律のいくつかの音が低音や高音に配置されることでまるでフーガのように別の旋律が聞こえてくる。またその単旋律のある音がエコーのように伸びる(あるいは刻む)ことで和音感を補っていますが、あくまで音の発音時は同じ音です(オクターヴの違いはありますが)。第3曲の「Tango Finale」では、初めて縦に別の音(和音)が出てきますが、これも単旋律をグループ化して一定の法則で割り出したものです。

そういえばグラスさんの《Two Pages》は究極のSingle Trackでもあります。この曲から50年を経た今、新しい現代のSingle Trackとして自作と同曲を同時に演奏することに拘ったのはそのためかもしれません。

全3曲約24分の楽曲はすべてこのSingle Trackの方法で作られています。そのため《室内交響曲第2番》というタイトルにしてはとてもインティメートな世界です。

また副題の《The Black Fireworks》は、今年の8月福島で中高校生を対象にしたサマースクール(秋元康氏プロデュース)で「曲を作ろう」という課題の中で作詞の候補としてある生徒が口にした言葉です。その少年は「白い花火の後に黒い花火が上がってかき消す」というようなことを言っていました。その言葉がずっと心に残り、光と闇、孤独と狂気、生と死など人間がいつか辿り着くであろう彼岸を連想させ、タイトルとして採用しました。その少年がいつの日かこの楽曲を聴いてくれるといいのですが。

久石譲

(「ミュージック・フューチャー vol.3」コンサート・パンフレット より)

 

Blog. 「久石譲 presents ミュージック・フューチャー vol.4」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

1曲目の『The Black Fireworks』では、オーケストラ各々の楽器が反復を奏で、それが幾重にも幾重にも重なり独自のグルーヴ感を生む。2曲目の『Passing Away in the Sky』では奥底にオリエンタルな響きを聴かせながら、突き刺さるように随所に入ってくるパーカッションが聴くものを覚醒させる。最後の『Tango Finale』では、前の2曲では最下層の音を支えてきたバンドネオンが縦横無尽に炸裂。これに併せるように各楽器の反復音が唸りを上げて暴れ出すや、ステージは美しい混沌状態となる。観客も息を呑む圧倒的な凄まじさだ。

Info. 2017/10/26 「久石譲 ミュージック・フューチャーVol.4コンサート開催」(Webニュースより) 抜粋)

 

 

 

[作品のアイデア]

「発表する場の問題はすごく大きいと思います。「MUSIC FUTURE」は、新しい、まだ誰もやってないようなことをチャレンジする、日本で聴かれない音楽を提供する場と考えています。そこで、古典的なスタイルよりは、たまたま今自分がやっているようなシングルトラックというか単旋律から組みたてる、この方法で、バンドネオンを組み込めないかというのが、最初のアイデアではありました。」(久石譲)

[作品のプロセス]

この作品、「8月の中旬まで全く手がつけられなかった」という。久石氏のことばを要約する。まず、2か月強でしあげなくてはならない。はじめは3つの楽章で、「最後はタンゴのエッセンスを入れた形に仕上げようと思った。だけど曲を書き出した段階で全く検討がつかなくなって……」2つの楽章を書いて、それぞれ異なった方法をとっているし、これで完成と考えた。すでに楽譜も送った。しかし何かが足りない。これがリハーサルの10日前。そしてこのあいだに1週間で最後の楽章を書き上げた。「これは今までにやったことがない」。

[作品について]

「ミニマル・ミュージックをベースにした曲はどうしても縦割りのカチカチカチカチしたメカニカルな曲になりやすいんです。でもなんかもっとエモーショナルでも絶対成立するんだというのがあって、それをチャレンジしたかったんですね。ミニマルなものをベースにしながらも広がりのあるものを、あるいはヒューマンなものを今回けっこう目指しました。」(久石譲)

[バンドネオンに対する固定概念]

「コンサートを終えてみて、バンドネオンという楽器に対して、自分の中で新しいものを獲得したという感覚がすごく大きい。今まで弾いてきたいろいろな曲のどれからも得られなかったものです。バンドネオンにはある種の固定概念がつきまとう。それが運命だし、どこか宿命にある楽器なんです。それをここまで強烈にバン!と影響を与えてくれる曲が今までなかったんでしょうね。ですからコンサートが終わって、何日かしても、ちょっと鼻歌で口ずさんじゃうくらい身体に入り続けているし、バンドネオンそのもので考えても、やっぱりタンゴとかそういうものとは違う奏法がやっぱり必要とされていたんだと思うんです。またミニマル・ミュージックという新しいジャンルが、僕にとってはじめて扉を開けた世界で、そこに足を踏み入れ皆さんとご一緒することができた。今度は僕が普段やってる音楽も考え方がちょっと変わってくると思うんです。バンドネオンのチラシとか、8割がた「魅惑の~」とか「情熱の~」とか「哀愁の~」とか入ります。そういうことじゃなく、フェアに楽器として考えるっていうのは常日頃から思っていることです。嬉しかったですね。」(三浦一馬)

 

Blog. 「LATINA ラティーナ 2018年1月号」 久石譲 × 三浦一馬 対談内容 より抜粋)

 

 

「結局、音楽って僕が考えるところ、やはり小学校で習ったメロディ・ハーモニー・リズム、これやっぱりベーシックに絶対必要だといつも思うんですね。ところが、あるものをきっちりと人に伝えるためには、できるだけ要素を削ってやっていくことで構成なり構造なりそれがちゃんと見える方法はないのかっていうのをずっと考えていたときに、単旋律の音楽、僕はシングル・トラック・ミュージックって呼んでるんですけれども、シングル・トラックというのは鉄道用語で単線という意味ですね。ですから、ひとつのメロディラインだけで作る音楽ができないかと、それをずっと考えてまして。ひとつのメロディラインなんですが、そのタタタタタタ、8分音符、16分音符でもいいんですけど、それがつながってるところに、ある音がいくつか低音にいきます。でそれとはまた違った音でいくつかをものすごく高いほうにいきますっていう。これを同時にやると、タタタタとひとつの線しかないんだけど、同じ音のいくつかが低音と高音にいると三声の音楽に聴こえてくる。そういうことで、もともと単旋律っていうのは一個を追っかけていけばいいわけだから、耳がどうしても単純になりますね。ところが三声部を追っかけてる錯覚が出てくると、その段階である種の重奏的な構造というのがちょっと可能になります。プラス、エコーというか残像感ですよね、それを強調する意味で発音時は同じ音なんですが、例えばドレミファだったらレの音だけがパーンと伸びる、またどっか違う箇所でソが伸びる。そうすると、その残像が自然に、元音型の音のなかの音でしかないはずなんだが、なんらかのハーモニー感を補充する。それから、もともとの音型にリズムが必ず要素としては重要なんですが、今度はその伸びた音がもとのフレーズのリズムに合わせる、あるいはそれに準じて伸びた音が刻まれる。そのことによって、よりハーモニー的なリズム感を補強すると。やってる要素はこの三つしかないんですよね。だから、どちらかというと音色重視になってきたもののやり方は逆に継承することになりますね。つまり、単旋律だから楽器の音色が変わるとか、実はシングル・トラックでは一番重要な要素になってしまうところもありますね。あの、おそらく最も重要だと僕が思っているのは、やっぱり実はバッハというのはバロックとかいろいろ言われてます、フーガとか対位法だって言われてるんですが、あの時代にハーモニーはやっぱり確立してますよね、確実に。そうすると、その後の後期ロマン派までつづく間に、最も作曲家が注力してきたことはハーモニーだったと思うんです。そのハーモニーが何が表現できたかというと人間の感情ですよね。長調・短調・明るい暗い気持ち。その感情が今度は文学に結びついてロマン派そうなってきますね。それがもう「なんじゃ、ここまで転調するんかい」みたいに行ききって行ききって、シェーンベルクの「浄夜」とか「室内交響曲」とかね、あの辺いっちゃうと「もうこれ元キーをどう特定するんだ」ぐらいなふうになってくると。そうすると、そういうものに対してアンチになったときに、もう一回対位法のようなものに戻る、ある種十二音技法もそのひとつだったのかもしれないですよね。その流れのなかでまた新たなものが出てきた。だから、長く歴史で見てると大きいうねりがあるんだなっていつも思います。」

 

(The Black Fireworksについて)

「一昨年夏にサマーセミナーみたいなものがありまして、福島でやったんですけど、震災にあわれた子供たちの夏のセミナーだったんですけどね。午前中に詞を作って午後に曲を作って一日で全員で作ろうよっていう催しだった。夏の思い出をいろいろそれぞれ挙げてくれっていった中に、一人の少年が「白い花火が上がったあとに黒い花火が上がってそれを消していく」っていう言い方をした。つまり普通は花火っていうのはパーンと上がったら消えていきますよね。あれ消えていくんじゃなくて、黒い花火が上がって消していく。うん、僕は何度もそれ質問して「えっ、それどういう意味?」って何度も聞いたんだけども「黒い花火が上がるんです」って。うん、それがすごく残ってましてね。彼には見えてるその黒い花火っていうのは、たぶん小さいときにいろいろそういう悲惨な体験した。彼の心象風景もふくめてたぶんなんかそういうものが見えるのかなあとか推察したりしたんですが、同時に生と死、それから日本でいったら東洋の考え方と言ってもいいかもしれません。死後の世界と現実の世界の差とかね。お盆だと先祖様が戻ってきてとか。そういうこう、生きるっていうのとそうじゃない死後の世界との狭間のような、なんかそんなものを想起して、もうこのタイトルしかないと思って。」

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

 

2014年から始動した「久石譲 presents MUSIC FUTURE」コンサート。披露された作品が翌年シリーズ最新コンサートにあわせるかたちでCD化、満を持して届けられている。本作「MUSIC FUTURE III」は、コンサート・ナンバリングとしては「Vol.4」にあたる2017年開催コンサートからのライヴ録音。約500席小ホールではあるが、好奇心と挑戦挑発に満ちたプログラムを観客にぶつけ、二日間満員御礼という実績もすっかり定着している。

ライヴ録音ならではの緊張と迫真の演奏、ホール音響の臨場感と空気感をもコンパイルしたハイクオリティな録音。新しい音楽を体感してもらうこと、より多くの人へ届けること。コンサートと音源化のふたつがしっかりとシリーズ化されている、久石譲にとって今の音楽活動の大切な軸のひとつとなっている。

 

 

本作品に収録された「MUSIC FUTURE Vol.4」コンサート(2017)の、コンサート・レポートはすでに記している。初対面となった作品たち当時思うがままの感想、コンサート・パンフレットに掲載された内容、久石譲が追求する「Singe Track(単旋律)」の補足、コンサート会場の様子など。

 

 

CDリリースされた今は、この域を出ない。コンサート・パンフレット、CDライナーノーツ、雑誌インタビュー、これらによる作品解説が充実している。まずはじっくり音楽に耳を傾け、解説をゆっくりそしゃくしていくところから始めたい。これから先、新しい発見・新しい理解、思うところがしっかりと浮かびあがったときに、追記したい。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE III

デヴィット・ラング
David Lang (1957-)
1. pierced (2007) [日本初演]
 pierced

ガブリエル・プロコフィエフ
Gabriel Prokofiev (1975-)
弦楽四重奏曲 第2番 (2006)
String Quartet No.2
2. 1 Very Mechanical (alla techno)
3. 2 Allegro (freddo ma appassionato)
4. 3 fragile
5. 4 Allegro aggressivo ma sfacciato

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》
~バンドネオンと室内オーケストラのための~ (2017) [世界初演]
Chamber Symphony No.2
“The Black Fireworks” for Bandoneon and Chamber Orchestra
6. 1 The Black Fireworks
7. 2 Passing Away in the Sky
8. 3 Tango Finale

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (Conductor)
フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

古川展生(チェロ) 1.
Nobuo Furukawa (violoncello)

三浦一馬(バンドネオン) 6. – 8.
Kazuma Miura

2017年10月24、25日、東京、よみうり大手町ホールにてライヴ録音
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 24, 25 October, 2017

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE III

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Future Orchestra
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 24, 25 October, 2017

Produced by Joe Hisaishi
Recording & Mixing Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed at EXTON Studio, Tokyo
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)
Mastered at UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO
Cover Desing:Yusaku Fukuda

and more…

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite Castle in the Sky』

2018年8月1日 CD発売 UMCK-1605

 

「天空の城ラピュタ」が壮大なシンフォニーに生まれ変わった。
海外でも絶賛された「ASIAN SYMPHONY」とのカップリングによる至高の作品集。

(CD帯より)

 

 

昨年、国内5都市と韓国ソウルにて開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」コンサートツアーで初演された、2大作品が待望のCD化。

【1】Symphonic Suite “Castle in the Sky”(交響組曲「天空の城ラピュタ」)
宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』のサウンドトラックを約30分におよぶ壮大な交響組曲として蘇らせた。「ハトと少年」「君をのせて」「大樹」など、映画を彩る名曲たちが、ラピュタの世界へ誘います。

【2】ASIAN SYMPHONY(全5楽章)
2006年に発表された「アジア組曲」をもとに再構成。新たな楽章を加え、全5楽章からなる約30分の組曲として、メロディアスなミニマル作品に生まれ変わりました。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

アルバムに寄せて

このアルバムは2017年8月2日から16日まで国内5都市と韓国ソウル(2回公演)を巡ったコンサートツアー「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」で初演されたSymphonic Suite “Castle in the Sky”(交響組曲「天空の城ラピュタ」)とASIAN SYMPHONYを収めている。ファン待望の内容といえよう。

ところで、不思議なことがあるものだ。このところ書庫の雑物を始末しているのだが、その中に、久石譲グループが出演している西武美術館コンサート’78『現代音楽の変容』のチラシと六本木の俳優座劇場でのムクワジュ・アンサンブル・ファースト・コンサートのそれこそチラシを三つ折りしたような簡素なプログラムが混ざっていた。荒瀬順子の奏するマリンバ”ミトラ”の独特なうなり音を思い出しながら、何とはなしに横に除けておいた。そうしたら3日も経たないうちにこのCDの原稿依頼の電話を頂戴したのだった。

ファンの方はご存じだろうが、久石譲は70年代後半ミニマル・ミュージックの作曲と演奏に取り組んでいた。今は存在しない西武美術館コンサート・シリーズへの出演はその当時の記録である。そうした彼のレコード・デビューは1981年に作曲とプロデュースを手掛けたアルバム『MKWAJU』のLPであった。同年6月24日の旧俳優座劇場コンサートは、LPの発売記念を兼ねて演奏の中心メンバーであった荒瀬順子・定成庸司・高田みどりのパーカッション・トリオが「ムクワジュ・アンサンブル」の名前で催したものである。

もう40年近くも経っている。なんとも懐かしいとしか言いようがなかった。

俳優座劇場のプログラムに掲載されている久石譲の挨拶文には、「…まだ名前もついていないこのグループと僕は、新しいアンサンブルを作る事を話し合っていた。『20世紀に於ける音楽の大きな特徴はアフリカを中心としたリズムである。しかるにクラシックでは、19世紀の古びた感覚のままリズムをないがしろに…』などと話しつつ、僕はこのアンサンブルの必要性を説いた。」とあって、アフリカないしアフロ・リズムへの当時抱いていた強い関心のほどを示している。確かに、美術館コンサートの演目には『アジダ・ダンス』というガーナ音楽が含まれているし、LPのタイトルピースである”MKWAJU”(ムクワジュ)とは、アフリカ原産の常緑樹タマリンドのスワヒリ語というから、アフリカへのこだわりが良く出ている。

もうひとつ興味ぶかいのは、この挨拶文の最後の方で、LPとコンサートの音の様相との違いに触れている個所である。「レコードでは僕が今最も望んでいる音の状態として、よりポップな世界に仕上げているが、コンサートでのMKWAJU、Pluse In My Mindは、昨年最初に作曲した段階でのオリジナルコンセプトをそのまま例示する形で演奏される事になる。どうか聞き比べてみてください。」とある。たしかにLPでは、上記のトリオ以外にペッカーのラテン・パーカッションや久石自身のキーボード、さらには当時YMOのコンピュータ・プログラマーを務めていた松武秀樹も参加しており、ポップな感覚での処理が際立っている。このポップな世界への急接近がこのアルバムであったことは間違いない。

この美術館コンサートのチラシとムクワジュ・アンサンブル・ファースト・コンサートのプログラムを手にしながら、今回のアルバムを聴いて、いろいろと感ずるところがあった。なかでも、確かなことは、”MKWAJU”以降の転身先であるポップス界に於いて大きく青々と枝葉を広げた久石譲の存在感の大きさである。それと同時に、彼が自分の音楽的出自にしっかりと根を張って、いわばミニマル・ミュージックを自分にとっての飛行石のような大事な宝ものとして抱きかかえている姿であった。

重ねていえば、樹高20メートルに達するという常緑高樹ムクワジュは、ラピュタの大樹を思わせるが、同時に音楽家としての久石譲そのものにも思われた次第である。

 

Symphonic Suite “Castle in the Sky”
(交響組曲「天空の城ラピュタ」)

1960年代から70年代初めのアメリカでは、人種問題の複雑化、ベトナム戦争の泥沼化、公害問題の深刻化など、行き詰まりを見せる社会の支配文化に敵対し、反逆するカウンター・カルチャーの波が起こった。相似た状況は日本にもあったわけだが、全般的には支配体制への反逆、抵抗、異議申し立て、社会的逸脱から生み出された思想、価値観、ライフスタイルは、未来への展望を生み出すことはなかった。

しかし「科学がまだ人を不幸にするとは決まっていないころ、そこではまだ世界の主人公は人間だった」という人間に対する、あるいは人間を含む生命ある世界そのものの価値や意義を前提とする宮崎駿の冒険物語は、時代批判と過去への反省を込めながら、次世代のあるべき姿や心に描くべき夢を語っている。

1986年に公開されたスタジオジブリ作品、監督宮崎駿、音楽久石譲の映画『天空の城ラピュタ』は、まさしく方便でない正義、遊びでない愛、通貨に換算されぬ宝、そして発見の驚きや新しい出会いを、あるいは希望を熱く語り、自己犠牲や献身をとおして絆を深めてゆく冒険物語であり、久石譲の音楽も、古典的な骨格を備えてとてもシンフォニックなものである。てらいなく朗々と、あるいは心に染むように情緒深く、さらには軽やかに伸びやかに、そして堂々と要所要所で、映像とコラボレートする見事なものである。

映画のサントラ盤は同年8月に挿入歌「君をのせて」を含めたLPが、9月にCDが発売された。この好評を受けて、全8曲をシンフォニー化した「天空の城ラピュタ シンフォニー編 ~大樹~」のLPが同年12月に、翌年1月にはCDが発売された。さらに映画『天空の城ラピュタ』の評価は国際的なものとなり、2002年10月には北米での英語吹替版に合わせたニュー・サントラアルバム「Castle in the Sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン・サウンドトラック~」が発売された。

このSymphonic Suite “Castle in the Sky”(交響組曲「天空の城ラピュタ」)は、Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015(交響詩「風の谷のナウシカ」)、Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE(交響組曲「もののけ姫」)に続くスタジオジブリ交響作品化プロジェクトの第3弾に当たるもので、前述の3つのスコアを参照したうえで、構成されており、以下のような展開となっている。

01. Doves and the Boy ~ The Girl Who Fell from the Sky / ハトと少年~空から降ってきた少女
シンフォニー編のプロローグ。パズーの毎朝の日課はトランペットで「朝の曲」を奏でてからハトにパンくずをあげること。このトランペットから組曲は始まる。物語の中では、シータがパズーに助けられた翌朝、トランペットの音で彼女が穏やかに目覚めるシーンで奏でられる。「空から降ってきた少女」はいうまでもなくメインテーマである。

02. A Street Brawl ~ The Chase ~ Floating with the Crystal / 愉快なケンカ~追跡~飛行石
パズーが暮らすスラッグ渓谷の住民とドーラ一家のケンカとトロッコ列車を舞台にしたドーラ一家とシータたちの追いかけっこ。シンフォニー編の「大活劇」。アメリカ版のA Street BrawlとThe Chase。そして飛行石に救われるパズーとシータ。

03. Memories of Gondoa / ゴンドアの思い出
シンフォニー編では「母に抱かれて」のサブ・タイトルがある。物語の最後の方、シータがムスカに追い詰められて玉座の間で言ったセリフと「ゴンドアの谷の歌」が科学力を極めたラピュタが滅亡した理由を物語っている。

04. The Crisis ~ Disheartened Pazu / 危機~失意のパズー
サントラ盤の「ゴンドアの思い出」、ラスト部分。迫り来る危機。ムスカに囚われたパズーはラピュタの探索を諦めるようシータに言われて失意の中、要塞を去っていく。アメリカ版のDisheartened Pazu。

05. Robot Soldier ~ Resurrection – Rescue ~ / ロボット兵(復活~救出)
アメリカ版のRobot Soldier ~Resurrection – Rescue~。ラピュタ人が作った「兵器」だが、あくまで「自分を持たない忠実で無垢な存在」。

06. Gran’ma Dola
シンフォニー編。欲望を隠すことなく、またなりふり構わず突き進む魅力的な悪人である空中海賊ドーラ一家のバアさま。物語の後半ではパズーとドーラは一族の母艦であるタイガーモス号の乗員となる。

07. The Castle of Time / 時間(とき)の城
サントラ盤の「天空の城ラピュタ」の後半部。

08. Innocent
「空から降ってきた少女」のピアノ独奏版である「Innocent」をほぼ使用している。作曲家自身のとてもしっとりとした演奏が味わえる。

09. The Eternal Tree of Life / 大樹
アメリカ版のThe Eternal Tree of Lifeのオーケストレーションを採用している。いうまでもなくラピュタの庭園の大樹。ラピュタを浮上させていた飛行石の巨大な結晶体はこの大樹の根に囲まれており、シータとパズーの唱えた滅びの言葉「バルス」によって城は崩壊するが、大樹とその大樹に支えられて残った城の上層部はさらに高度へと上昇しながら飛び去って行く。

 

 

ASIAN SYMPHONY

ミニマル・ミュージックの誕生は、いずれも1930年代後半生まれのラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなどのアメリカの作曲家たちに帰せられる。伝統を背負ったヨーロッパでなくアメリカの民俗音楽研究やサブ・カルチャーに出自をもつ音楽家たちであったことが重要である。

日本におけるミニマル・ミュージックの受容は、1968年の第2回「オーケストラル・スペース」でライヒの『ピアノ・フェイズ』、1970年の大阪万博鉄鋼館でのライリーの『イン・C』の演奏紹介に始まるが、1977年にはライリーが初来日し、狭山湖のユネスコ村で真夜中の2時ころから明け方まで、電子オルガンで長大なドローンに載せた即興演奏を繰り広げた。注)久石も当時その会場で聴いていた。

少なくともそれまでの現代音楽に聴くことのできなかった単調な音型やリズム・パルスの反復と心地よいハーモニーの同居。それはそれは新鮮に聴こえたものであった。創作の上でのミニマル・ミュージックの日本的受容も70年代には顕著なものとなっていた。

もちろん『ピアノ・フェイズ』を最初に紹介した一柳慧(1933~)の『ピアノ・メディア』(1972)のような、年長組の例もあるが主体は、本場の創始者たちのちょうど一回り下の、戦後生まれの1940年代後半から50年代前半の世代にあった。ロック世代でもあるし、アフリカ開放をうたうミンガスやローチの思想的ジャズの流行に心躍らせたりした世代でもあるし、ちょうど日本における民族音楽のフィールドワーク研究成果が盛んに紹介されるようになった時期に出合った世代でもある。

それぞれ背景も作風も目指した方向も異なったが『リタニア』(1973)の佐藤聰明(1947~)、『線の音楽』(1973)の近藤譲(1947~)、『ムクワジュ』(1981)の久石譲(1950~)、『ケチャ』(1979)の西村朗(1953~)等々、いずれも国際的な評価を受ける日本の代表的作曲家となったことは、嬉しいことである。

この久石譲の新作ASIAN SYMPHONYのベースとなっているのはソロ・アルバムの「Asian X.T.C.」(2006年発売)の収録曲である。このアルバムはメロディアスな前半6曲を陽side(Pop side)とし、ミニマル色を強く打ち出した後半4曲を陰side(Minimal side)に分けている。この後半に収録されていたアンサンブル編成の4曲は、その後フルオーケストラ編成に拡大されて2006年から2007年のアジアツアーにおいて「Asia組曲」として披露された。このASIAN SYMPHONYは新たに1曲(映画『花戦さ』の赦しのモティーフ)を加え、配列も新たに整えて全5楽章構成の交響曲として完結させたものである。なかでも1・4・5楽章は、リズム操作とオーケストレーションとで聴きごたえある作品となっている。

石田一志(音楽評論家)
2018年6月16日

(アルバムに寄せて ~CDライナーノーツより)

 

*CDライナーノーツ 英文併記

 

 

CDライナーノーツで紹介された1978年当時のコンサートチラシ (参考資料として)

 

 

 

久石譲コメント

最後に「天空の城ラピュタ」について。先日高畑勲監督と『かぐや姫の物語』の上映前にトークイベントをおこなったのですが、このラピュタについての話題がもっとも長かった。それだけ思い入れがあったわけです。考えてみれば宮崎監督、高畑勲プロデューサーという両巨匠に挟まれてナウシカ、ラピュタを作っていたわけですから、今考えれば恐ろしいことです。

今回すべてのラピュタに関する楽曲を聴き直し、スコアももう一度見直して、交響組曲にふさわしい楽曲を選んで構成しました。約28分の組曲ができました。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より)

 

 

「主題歌を作るときに宮崎監督からいただいた詩がありました。ただちょっと文章(の文字量)が足りなかったりして、それを高畑さんと2人で、メロディーにはめていく作業を何日もやりました。ですから今、世界中の人に歌ってもらっている『君をのせて』という曲は、宮崎さんと僕と、実は高畑さんがいなかったら完成しなかった曲です」

Info. 2018/05/15 「高畑勲 お別れの会」三鷹の森ジブリ美術館で開かれる より)

 

 

2018年5月開催「JOE HISAISHI IN CONCERT」にて香港初演。以下久石譲コメント。

Castle in the Sky は1986年に製作された映画で宮崎さんとのコラボレーションは2回目の作品です。プロデューサーは「ナウシカ」に続いて高畑勳氏でした。考えてみれば両巨匠に挟まれて作っていたわけですから、今考えれば大変恐ろしいことです(笑)。

主題歌の「君をのせて」は多くの人々に歌われ、親しまれ作曲者としては嬉しい限りです。31年後の2017年、僕と新日本フィルハーモニーが主催 する World Dream Orchestra のコンサートのために交響組曲として再構成しました。

その際にすべての楽曲を聴き直し、スコアももう一度見直しました。原作の持つ夢への挑戦と冒険活劇的な要素を活かしたとても楽しい約28分の組曲ができました。

曲目解説:久石 譲

(JOE HISAISHI IN CONCERT コンサート・パンフレット より)

 

 

ASIAN SYMPHONY 軌跡

2006年5月10日開催「「名曲の旅・世界遺産コンサート」〜伝えよう地球の宝〜」のために書き下ろされ、同コンサートにて「Asian Crisis」がオーケストラ作品(二管編成)として初演。

2006年8月10日開催「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ サイコ・ホラーナイト 一日だけのスペシャルコンサート 真夏の夜の悪夢」においても演奏され、三管編成へと再構築されている。

2006年10月4日発売オリジナル・ソロアルバム『Asian X.T.C.』では、「Asian Crisis」他アジアをテーマとした楽曲が多数収録される。編成はバラネスク・カルテットやパーカッションなどによるアンサンブル構成。

同アルバム収録曲から選ばれたアジアン・ミニマル楽曲、2006年からの「アジアツアー2006」を経て、2007年3月5日開催「アジアオーケストラツアーファイナルコンサート」まで、オーケストラ作品として披露された4曲「Dawn of Asia」「Hurly-Burly」「Monkey Forest」「Asian Crisis」を総称して《アジア組曲》と呼ばれている。(=久石譲自身がそう名付けている)

 

 

「タイトルは『Asian Crisis』。この楽曲を作曲していた久石は実に楽しんで作曲していた。不協和音ギリギリの官能的な楽曲に細かい作業が続き、体力の限界にもかかわらず、終始笑顔が絶えなかった。去年は、「『D.E.A.D.』、今年はこれが出来たからもういいや」という声が出るくらい出来上がりに満足していた。「6分前後だけど、本当は12分前後の曲だな」とも言っていた。~(略)~”危機(Crisis)の中の希望”と久石がいっていた通り、核心に迫るような、官能的なイメージが頭をよぎる。」

(名曲の旅・世界遺産コンサート レポートより ファンクラブ会報 JOE CLUB 2006.6)

 

 

「今回、このコンサートのために新曲を書き下ろしたのは、今、作家として自分が書かなくてはいけないと思っていたテーマと、このコンサートの企画意図が同じだと感じたからなんです。実はこの夏、アジアをテーマにしたアルバムを作るつもりなんですよ。ここ数年、韓国映画や香港映画の音楽を担当する機会に恵まれ、”アジア”という地域の存在が、自分の中で大きくなってきた。ちょうど「自分もアジア人の一人なんだ」という意識が高まっていたときだったんですね。お話をいただいたときも、まさに中国で映画の仕事をしていたんです。そのために今回の新曲にかけられる時間は実質10日間だったのですが、基本テーマが非常に明確だったために、とても満足できる作品になりました。「Asian Crisis」は、”危機”とは言え、未来への希望につながる楽曲になったらいいなと思って書きました。世界遺産を守ることは大切ですが、危機にあるからといって人間の立ち入りを禁じるだけでは意味がない。人類の遺産は時間の流れととも変わるものだから、両者が共存していくことが本来のあり方だと思うんです。アジアには危機にひんした世界遺産が多くあるという認識を持ったうえで、厳しさの中にある”希望”のようなものを感じ取ってもらえたらうれしいなと思います。」

(NHKウィークリーステラ 2006年5/27~6/2号より)

 

 

2007/3/5 東京・サントリーホール with 新日本フィルハーモニー交響楽団

「ピアノソロコーナーの後はアルバム『Asian X.T.C』の中から。「Dawn of Asia」、続いて「Hurly-Burly」「Monkey Forest」と、勢いのある3曲が続きました。駆け上がるようなフレーズがたたみかけるように続くのが特徴的なこの「Dawn of Asia」、実はリハーサルで最も時間を割いた曲なのです。続いての「Hurly-Burly」は遊び心満載な楽曲です。オリジナルはサクソフォーンが印象的でしたが、オーケストラバージョンも更に力強く、題名のとおり大騒ぎを物語る作品になりました。弦楽器だけという編成で演奏された「Monkey Forest」、テンポも速いし、複雑なリズム。他の楽曲にも増してしっかりと指揮をしなくては、と、久石は本番前に構えていました。「Asian Crisis」、後半に行くにつれての緊張感は圧巻でしたね。」

(久石譲 アジアオーケストラツアー ファイナルコンサート レポートより ファンクラブ会報 JOE CLUB 2007.6)

 

 

久石譲コメント

「ASIAN SYMPHONY」は2006年におこなったアジアツアーのときに初演した「アジア組曲」をもとに再構成したものです。新たに2017年公開の映画『花戦さ』のために書いた楽曲を加えて、全5楽章からなる約28分の作品になりました。一言でいうと「メロディアスなミニマル」ということになります。作曲時の上昇カーブを描くアジアのエネルギーへの憧れとロマンは、今回のリコンポーズで多少シリアスな現実として生まれ変わりました。その辺りは意図的ではないのですが、リアルな社会とリンクしています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より)

 

 

 

本作に収録された2大作品のレビューは、コンサート・レポートに瞬間を封じ込め記した。

 

 

 

本作は、初演されたコンサートからのライヴ・レコーディングではなく、CD化のために改めてセッション・レコーディングが行われている。コンサートを経てスコアに修正が施された箇所もある。臨場感と緻密な音づくりを極めたクオリティ、圧巻と貫禄のパフォーマンス、作品完成度を追い求めここに極めた渾身のCD作品化。満を持して世に送り届けられる。

 

 

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「天空の城ラピュタ」

Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Symphonic Suite Castle in the Sky

Symphonic Suite “Castle in the Sky”
01. Doves and the Boy ~ The Girl Who Fell from the Sky
02. A Street Brawl ~ The Chase ~ Floating with the Crystal
03. Memories of Gondoa
04. The Crisis ~ Disheartened Pazu
05. Robot Soldier ~ Resurrection – Rescue ~
06. Gran’ma Dola
07. The Castle of Time
08. Innocent
09. The Eternal Tree of Life

ASIAN SYMPHONY
10. I. Dawn of Asia
11. II. Hurly-Burly
12. III. Monkey Forest
13. IV. Absolution
14. V. Asian Crisis

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (Concertmaster)
Solo Piano by Joe Hisaishi (Track-08)

Recorded at Sumida Triphony Hall, Tokyo (April 6th, 2018)

Symphonic Suite “Castle in the Sky”
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon, Joe Hisaishi

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)
Assistant Engineer:Hiroyuki Akita
Mixed at Bunkamura Studio
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Disc. 久石譲指揮 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 『ベートーヴェン:交響曲 第7番&第8番』

2018年7月18日 CD発売 OVCL-00666

 

精鋭メンバーが集結した夢のオーケストラ!ベートーヴェンはロックだ!!

音楽監督久石譲の呼び掛けのもと、長野市芸術館を本拠地として結成された「ナガノ・チェンバー・オーケストラ」は、日本の若手トッププレーヤーが結集し、ダイナミックで溌剌としてサウンドが魅力のオーケストラです。2年で全集完成を目指すベートーヴェン・ツィクルスは、作曲家ならではの視点で分析した、”例えばロックのように”という、かつてない現代的なアプローチが話題となっています。さまざまな異なる個性が融合し、進化を続ける久石譲とNCOのベートーヴェンをどうぞお楽しみください。

(CD帯より)

 

 

リズムとカンタービレの共存 柴田克彦

本作は、第1番&第3番「英雄」、第2番&第5番「運命」に続く、久石譲指揮/ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)のベートーヴェン交響曲シリーズの第3弾。長野市芸術館を本拠地とし、久石が音楽監督を務めるNCOは、在京オーケストラの首席奏者を多く含む国内外の楽団やフリーの奏者によって構成されている。彼らは、ホール開館直後の2016年7月から2018年7月にかけて、ベートーヴェンの交響曲の全曲演奏(全7回)及びライヴ録音を行っており、本作には2018年2月12日の第6回定期の2演目が収録されている。

当シリーズにおける久石のコンセプトは、「作曲当時の小回りが効く編成で、現代的なリズムを活用した、ロックのようなベートーヴェン」。弦楽器の編成(本作)は、ヴァイオリンが全体で16名、ヴィオラが6名、チェロが4名、コントラバスが3名とかなり絞られている。久石とNCOは、これを生かしたソリッドな響きで、細かな音の綾を浮き彫りにしながら、推進力と躍動感溢れる演奏を聴かせてきた。

さて第7番と第8番は同時期の作。サイズや曲想こそ違えども、リズムが強調されている点、純粋な緩徐楽章がない点など、双生児的な面をもっている。共にいわば”ビートが効いた、停滞しない音楽”だ。久石は当初から「ロックやポップスを聴いている今の奏者は皆リズムがいい。そのリズムを前面に押し出した強い音楽をやれば、物凄くエキサイティングなベートーヴェンになる」と語っていたし、これまでの演奏からみても、彼らのアプローチに最も適した作品であるのは間違いない。

実際に聴くと、まさしくその通り。快速テンポでビートの効いた躍動的な演奏が展開されている。だがここで重要なのは、第7番では”カンタービレ”、第8番では”ユーモアや和み”との共生が成就されていること。ベートーヴェンが狙ったのは、そこではなかったか? 本公演前、NCOのコンサートマスター・近藤薫(東京フィルでも同職にある)に話を聞いた際、「久石さんは、流行や世が求めるアプローチよりも、ベートーヴェンが交響曲で何をしたかったのか?との視点で考えている。作曲家ゆえに、音符を通して対話し、構造を読み解こうとしているように思う」との旨を語っていた。本作を聴くと、この言葉を思い出す。

もう1つ感心させられるのは、奏者たちの生き生きとした反応と積極性だ。短いフレーズの応答や合いの手における絶妙な会話と相まって、全体に覇気が漂っている。特に木管楽器の存在感が抜群。オーボエの荒絵理子(東響首席)をはじめとするNCOメンバーの妙技も、本作の魅力の1つだ。

第7番は、第1楽章の遅い序奏部からすでに駆動力が示され、何かが起こりそうな予感が漂っている。主部に入ると、「ターン・タタン」の基本リズムが明確に描かれ、前向きに進みながらも、音楽の流れはしなやかだ。この”リズムはくっきり、フレージングはなめらか”は、全曲に亘る特徴でもある。第2楽章は精妙なダイナミクスで奏される弦楽パートの室内楽的な絡み合いが見事。しかも「アレグレット」の歩調はキープされている。第3楽章は溌剌と進行し、トリオもレガートだが停滞はしない。第4楽章は超速テンポの畳み込みが凄まじい。「タンタカタン」のリズムや細部の動きは明瞭で、終盤のバッソ・オスティナートも通常以上の凄みを発揮する。

第8番の第1楽章は軽やか且つ力強い。ここもリズムが明確で、ティンパニ等の強烈なアタックも耳を奪い、圧倒的な推進力が第7番と双生児たることを明示する。第2楽章は木管の瑞々しい刻みとしなやかな弦楽器群の対比が絶妙。第3楽章は流動的な運びに添えられるアクセントが効果的で、ホルン2本を筆頭にしたトリオの美しさも特筆される。第4楽章はむろん軽快だが、やはり細部まで入念に表出され、勢い任せになることはない。

”爽快なエネルギーと高揚感”に充ちた本作を聴くと、残る3曲への期待がいやが上にも膨らむ。

(しばた・かつひこ)

(CDライナーノーツより)

 

※諸石幸生氏による3ページにわたる曲目解説は割愛。詳細はCD盤にて。

 

 

 

 

 

 

 

2020.02 Update

 

 

 

[ベートーヴェン・ツィクルス第3弾]
ベートーヴェン:交響曲 第7番&第8番
久石譲(指揮)ナガノ・チェンバー・オーケストラ

ベートーヴェン
Ludwig Van Beethoven (1770 – 1827)

交響曲 第7番 イ長調 作品92
Symphony No.7 in A major Op.92
1. 1 Poco sostenuto -Vivace
2. 2 Allegretto
3. 3 Presto
4. 4 Allegro con brio

交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
Symphony No.8 in F major Op.93
5. 1 Allegro vivace e con brio
6. 2 Allegretto scherzando
7. 3 Tempo di menuetto
8. 4 Allegro vivace

久石譲(指揮)
Joe Hisaishi (conductor)
ナガノ・チェンバー・オーケストラ
Nagano Chamber Orchestra

2018年2月12日 長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音
Live Recording at Nagano City Arts Center Main Hall, 12 Feb. 2018

 

Produced by Joe Hisaishi, Keiji Ono

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Nagano Chamber Orchestra
Concertmaster:Kaoru Kondo

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Recording Engineers:Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 久石譲 『二ノ国 II レヴァナントキングダム オリジナルサウンドトラック』

2018年6月6日 CD発売 AVCD-55174

 

ゲーム音楽の枠を超えた最高傑作!!
久石譲が紡ぐ 王道ファンタジーRPGがここに!

(CD帯より)

 

Message
久石譲

「二ノ国 II レヴァナントキングダム」は前回につづき音楽を担当しました。日野さんとも気心が知れているし、すんなり作曲に入ることができたと思います。

ゲームの音楽は必要とされる曲数が非常に多く、繰り返し聴く性質のものなので、今回の楽曲をどうやってまとめるか考え、リズムを中心に全体を組み立てて作っていきました。

加えて今回は、前作に比べて音楽的なレベルを上げた知的なアプローチもしています。もちろんエンターテイメント性は大切にしたうえでのことです。東京フィルハーモニー交響楽団の熱演もあり良い録音ができました。

このサウンドトラックを聴いて、音楽と一緒に「二ノ国 II レヴァナントキングダム」の世界に浸ってもらえると嬉しいです。

(Message ~CDライナーノーツより)

 

 

 

2018年3月発売PS4 / PC ゲームソフト「ニノ国」シリーズ最新作のサウンドトラック。『二ノ国 漆黒の魔導士』(2010・Nintendo DS)、『ニノ国 白き聖灰の女王』(2011・PlayStation 3)にひきつづき本作も久石譲が音楽担当。

 

ゲームプレイ音源よりも、広がりあるサウンドかつみずみずしい楽器の音色たち。さすがサウンドトラック用にマスタリングされた最高音質の仕上がりになっている。二ノ国II音楽はサウンドトラック盤でめでたく完結する。

それぞれの楽曲とも音の配置やバランスが見事に調整されている。「2.クーデター」はゲームプレイ音源ではループ用となっていたが、サウンドトラック盤は【1st トレーラー】音源で聴くことができた終部になっている。「8.苦闘」「27.滅びの王国」「28.闇の呪文歌」も終部が異なる。前提として繰り返し聴かれることを目的とした音楽づくりのため、どの曲も終部はフェードアウトや冒頭に自然に戻れるような接続的終部になっているなため、上の4曲はサウンドトラック盤ならではのはからい。

CDには”all composed by JOE HISAISHI”のクレジットはない。これについては下記の *at game release にてゲームソフト・エンドクレジットから詳細記している。

短い楽曲群ながら、ゲームには膨大な曲数を必要とするという久石譲の言葉とおり、実にクオリティ高くバリエーション豊かな全31曲がならぶ。今の久石譲だからこその曲想、音作り、ノンビブラートに近い奏法やソリッドなオーケストレーションなど、現代的な響きに溢れている。

ファンタジーというスタジオジブリ作品との共通点もあれば、戦いやフィールドがめまぐるしく変化していくというスタジオジブリ作品にはない世界感もある。そしてそれは音楽にも同じように言える。久石譲による二ノ国ワールドを音楽だけでも十分に楽しめる、渾身の作品になっている。

 

 

久石譲インタビュー、ゲーム音楽を聴いての各楽曲レビュー、印象的なエンディングテーマ、世界各国にゲーム本体特典として付属したCD盤やLP盤など。ゲームソフト発売後まもなく、サウンドトラック盤リリース情報のまえにまとめたもの。詳細はこちらに記した。

 

 

 

 

1. 二ノ国II メインテーマ
2. クーデター
3. 脱出
4. 戦闘開始
5. 別れ
6. 夢の中の少年
7. 広大な大地
8. 苦闘
9. フニャ
10. 危険な谷
11. ボスバトル
12. 勇ましき進軍
13. 神秘の森
14. 欲望の町
15. 希望
16. のどかな日常
17. 大海原
18. 水の都
19. 海底洞窟
20. 命運をかけた戦い
21. 切ない思い出
22. 進化の大都市
23. ファクトリー
24. 果てしない空
25. ネズミ王国の城下町
26. 守護神
27. 滅びの王国
28. 闇の呪文歌
29. ラストバトル
30. キングダム
31. 希望の未来

 

音楽:久石譲
オーケストレーション:チャド・キャノン 山下康介 久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:栗友会
指揮:久石譲

エンディングテーマ「希望の未来」
作・編曲:久石譲
リズム・アレンジ:ガブリエル・プロコフィエフ 松浦晃久 久石譲
ヴォイス:麻衣
コーラス:東京混声合唱団
パーカッション:和田光代
ケルティック・ティンホイッスル:野口明生
ハープ:堀米綾
ピアノ:鈴木慎崇
ストリングス:真部ストリングス

レコーディング&ミキシングエンジニア:小幡幹男
レコーディング・スタジオ:アバコクリエイティブスタジオ サウンドインスタジオ
ミキシング・スタジオ:サウンドインスタジオ
マスタリング・エンジニア:藤野成喜(ユニバーサルミュージック)
マスタリング・スタジオ:UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO

 

初回封入特典:二ノ国II レヴァナントキングダム スペシャルステッカー ※全2種中1種ランダム封入

 

 

輸入盤同時発売

WORLDWIDE RELEASE JUNE 6TH 2018

WAYO-010

Ni no Kuni II : Revenant Kingdom Original Soundtrack

1. Theme from Ni no Kuni II
2. The Toppled Throne
3. The Escape
4. Let Battle Commence
5. Leavetaking
6. The Curious Boy
7. The Great Outdoors
8. Into the Fray
9. Here Come the Higgledies!
10. Treacherous Valley
11. Boss Battle
12. To Arms!
13. Forest of Mysteries
14. City of Hunger
15. There is Hope
16. Carefree Days
17. The High Seas
18. Kingdom by the Sea
19. Deep Sea Cave
20. Fateful Encounter
21. Painful Memories
22. City of the Future
23. The Factory Floor
24. The Boundless Skies
25. In the Kingdom of the Mice
26. Kingmaker’s Theme
27. The Lost Kingdom
28. Dark Rite
29. The Final Showdown
30. Evan’s Kingdom
31. Happily Ever After

Performed by the Tokyo Philharmonic Orchestra 
Composed and arranged by Joe Hisaishi
Voice by Mai
31 tracks, 1 disc, 24-page booklet – English text

 

初回特典:二ノ国II 公式ミニ色紙 *先着限定

 

 

Disc. 久石譲×辻井伸行 | 世武裕子 | 辻井伸行『羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL』

2018年6月6日 CD発売 AVCL-25966/7

 

2018公開映画『羊と鋼の森』
監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
音楽:世武裕子
出演:山崎賢人、鈴木亮平、三浦友和 他

 

映画『羊と鋼の森』久石譲×辻井伸行によるエンディングテーマ「The Dream of the Lambs」を含むサウンドトラック+音楽集というCD2枚組。DISC1には久石譲×辻井伸行によるエンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」、世武裕子による本編音楽を、DISC2には映画の中で主役の一部を務めるピアノ作品を、辻井伸行の演奏で完全収録した超豪華なスペシャル盤。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

世界的作曲家で、映画音楽界の巨匠でもある久石譲がエンディング・テーマを書き下ろし、世界的ピアニストである辻井伸行がソロピアノを演奏!

映画『羊と鋼の森』(2018年6月公開)の世武裕子によるサウンドトラックに加え、映画に登場する主要なピアノ曲を辻井伸行の演奏で収録した超豪華オフィシャル・アルバム!

(CD帯より)

 

 

映画『羊と鋼の森』エンディング・テーマ
久石譲 × 辻井伸行 The Dream of the Lambs

久石譲 | 作曲

ピアニストはいろいろなピアノに出会わなければならない。ピアノによってタッチがそれぞれすごく違います。調律師は求める音を表現してくれる、本当に大事な存在で、音は出さないけど立派な音楽家だと思います。そんな調律師を描いた原作を、オファーをいただく前に読ませていただきました。成長譚の美しくてとても良い話。だからこそ、綺麗なだけで終わらないように、映画の奥行を出せるように、シビアなミニマル的な部分とメロディアスな部分の交差する曲を作るように意識しました。

その曲を辻井くんと一緒に作ることができて嬉しく思います。古典的なスタイルをとりつつ、現代的な曲を作ったのですが、見事に弾いてくれました。辻井くんは本当に素晴らしいピアニストで、特にリズム感が凄いです。無駄なものが無いきちんとしたリズム。これを活かしたいと思って指揮をしました。演奏をしていて、とても楽しかったです。辻井くんとはまたぜひ一緒に演奏させていただきたいですね。

 

辻井伸行 | ピアノ

オファーをいただく前に原作を点字の本にしてもらって読んでいましたが、ピアノをやっている人なら皆さん興味のある話だと思います。曲にもたくさんのイメージがあったり、ピアノには壮大でカッコいいところがあったり、いろいろな面白いことが分かる素晴らしい物語です。そんな映画の演奏を、久石さんとご一緒させていただけたのは本当に光栄でした。久石さんの大ファンで、素晴らしい曲をずっと聴いていたので、本当に嬉しかったです。

久石さんに楽譜をいただいた時に、どのような気持ちで作曲されたのか想像し、また映画のイメージを自分の中で膨らませて、できる限りのことをしようと思って練習し、本番に挑みました。お会いするまでは緊張しましたが、本当にお優しい方で、合わせやすく、またいろいろと勉強させていただきました。この曲は感動的で、美しく、弾いていて本当に楽しかったですし、収録があっという間でした。また是非ご一緒させていただきたいです。

ピアノの調律師さんは僕にとってなくてはならない存在です。ピアニストは演奏するときは一人ですが、調律師さん、観客の皆さんと一緒にコンサートを作り上げていると思っています。

国内外のさまざまな場所で調律師さんと出会うのですが、いろいろなタイプの調律師さん、そして会場のピアノと出会えるのは楽しいですね。

(久石譲・辻井伸行コメント ~CDライナーノーツより)

 

 

DISC 2 ピアノ作品 曲目解説:
ラヴェル、モーツァルト:道下京子
ベートーヴェン:柴田克彦
ショパン:伊熊よし子

(CDライナーノーツ収載)

 

 

from
Info. 2018/06/08 映画『羊と鋼の森』エンディング曲「The Dream of the Lambs」 久石譲&辻井伸行 初タッグ

 

 

「The Dream of the Lambs」、久石譲曰く「綺麗なだけで終わらないように、映画の奥行を出せるように、シビアなミニマル的な部分とメロディアスな部分の交差する曲を作るように意識しました」とあるとおり、とても作り込まれた楽曲であり強く印象に残る楽曲である。エンターテインメントならがここまで音楽的にも表現した楽曲は稀有。古典クラシックにも通じるオーケストラ編成ながら、モチーフやリズムは現代的で、ソリッドなオーケストレーションもまた現代的な響き。辻井伸行が弾くことを想定して書かれたピアノパートはとても難易度が高く、見事に表現した演奏は何度聴いても聴き惚れてしまう。コンチェルト風ともとれる構成は、ピアノとオーケストラが対等に呼応する。

映画公開に先がけて5月に行われた映画完成披露試写会や、6月放送TV番組「ミュージック・ステーション」では、ピアノソロ・ヴァージョン(約2分)もお披露目されている。

 

 

またこの豪華コラボレーションは、映画公開記念コンサートとして、一夜限りの共演も実現している。そのコンサートの模様とコンサートレポートは記した。

 

聴き手の意識で無理にミニマルとメロディを融合させようとしたり溶け合わせようとしなくていいのかな、と。はじめから二面性として顕在化されている。そう思えたのは生演奏を聴いたからで、CD盤だと整然と行儀よく音が配置されバランスがきれいに取られていることからの裏返しかもしれません。CD盤の完璧なパフォーマンスはすでにすり減るくらい愛聴しています。それとは別のところ、生演奏ではじめて感じとれる何か、きっかけがあるとしたら。

音楽はすばらしい、音楽はきびしい。──「音楽」という言葉を「夢」におきかえても同じ。相反する二面性を堂々を据えおくことで、耳なじみよく聴きやすいだけの曲にはしたくなかったのかもしれない。

子羊たちの夢。──悩みもがき輝く成長の過程、決してまだ成熟することのないその瞬間、あえて不完全で不安定なリアリティを楽曲にとじ込めたのかもしれない。痛々しいほど鋭利に、もろいほど繊細に、踏み歩くほど力強く、拓けるほど輝かしく。

音楽はすばらしい。音楽はきびしい。ゆえに音楽は追い求める価値がある。

僕にはそういう聴こえかたがしてきた。まだまだこの曲に対して深い森の中。わからないし理解できていないことのほうが多いけれど、新しい感じ方ができたこと、ミニマルとメロディはそこにそのままいていいんだ、しっかりとふたつがそれぞれに存在していれば、そのバランスや濃淡は聴く人に聴く心境にそれぞれ委ねられていいものだ。今は、そう思っています。

Blog. 映画『羊と鋼の森』公開記念「辻井伸行 特別コンサート」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

サウンドトラックも、シンプルであり映像を邪魔することのない主張しすぎない音楽になっている。またクラシック曲を映画用に編曲した数曲も、原曲を尊重した上品なものになっている。

DISC2に収録されたピアノ作品集は、映画で登場するピアノ曲を、辻井伸行の演奏でコンパイルしたもの。収録曲はすべて既出CD作品からのものではあるけれど、ピアノ入門・クラシック入門としても、聴き馴染みのものから本格的な作品まで最適である。辻井伸行という日本が誇る世界的ピアニストを知る機会、聴くきっかけとしても、ここからまた新しいピアノの世界が広がる一枚。

 

 

2020.09 Update

 

 

 

DISC 1
映画『羊と鋼の森』 エンディング・テーマ
久石譲×辻井伸行
1. The Dream of the lambs
久石譲(指揮) 東京交響楽団 ピアノ:辻井伸行

映画『羊と鋼の森』のための音楽 (オリジナル・サウンドトラック) 
2. 『羊と鋼の森』メインテーマ
3. ピアノスケッチ
4. たまご
5. モーツァルト:きらきら星(連弾) 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
6. 明るく静かに澄んで懐かしい
7. 思い出
8. ショパン:小犬のワルツ 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
9. 移りゆく季節
10. 家族の肖像
11. 外村の戸惑い
12. 森のお葬式
13. いつも、そうやって
14. 森の音がする
15. みたことのない世界
16. 好きって気持ち
17. ピアノを弾くひと
18. メンデルスゾーン:結婚行進曲 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
19. シューベルト:楽に寄す 『羊と鋼の森』サウンドトラック Version
20. 夢のように美しい

世武裕子 作曲:2-4, 6, 7, 9-17, 20 編曲:5, 8, 18, 19

 

DISC 2
辻井伸行 『羊と鋼の森』のためのピアノ作品集
1. ラヴェル:水の戯れ
2. ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
3. モーツァルト:きらきら星変奏曲
4. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第1楽章
5. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第2楽章
6. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57《熱情》 第3楽章
7. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第1楽章
8. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第2楽章
9. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第3楽章
10. ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58  第4楽章

ピアノ:辻井伸行

 

DISC 1
エンディング・テーマ「The Dream of the Lambs」
Music:久石譲
Conductor:久石譲
Piano:辻井伸行
Orchestra:東京交響楽団

Engineers:浜田純伸 (Sound Inn) 村松健 (Octavia Records)
Recorded at 武蔵野市民文化会館
Mixed at Bunkamura Studio

サウンドトラック
Music:世武裕子
Producer:北原京子 (東宝ミュージック)
Engineer:田中信一
Recorded & Mixed at Onkyo Studio, sound inn
Piano recorded at Sound City Setagaya (Tr.5,8,18,19)
Piano:世武裕子 (Tr.8 & other) 石橋愛 (Tr.5,18,19) 内田野乃夏 (Tr.5) 松村優吾 (Tr.8)

DISC 2
Recorded at Teldex Studio Berlin (Tr.1, 3-10)
Recording producer & editing:Friedemann Engelbrecht (Teldex Studio Berlin)
Recorded at Salamanca Hall (Tr.2)
Recording producer & editing:Tak Sakurai (Pau)

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