Disc. 戸田信子、陣内一真 『リヴァイアサン (Soundtrack from the Netflix Series)』

2025年7月10日 デジタルリリース

Netflixオリジナルアニメーションシリーズ「リヴァイアサン / Leviathan」のオリジナル・サウンドトラック。アルバムには戸田信子と陣内一真によるオリジナル・スコアと、久石譲が書き下ろしたオリジナル・ソングも収録されている。

 

 

■主題歌:
オープニング:久石譲「ひとすじの道へ」

エンディング:久石譲 feat. ダイアナ・ガーネット 「その先の空へ」
作詞:鈴木麻実子 作曲:久石譲 編曲:戸田信子、陣内一真

Opening Theme “Paths Combine” by Joe Hisaishi
Ending Theme “The Sky Ahead” by Joe Hisaishi feat. Diana Garnet

 

Conductor:David Hernando Rico
Orchestrators:Nobuko Toda, Robin Hoffman
Orchestra:Bratislava Symphony Orchestra, Tokyo Studio Symphony
Recording Studio:Slovak Radio Concert Hall, Sony Music Studios Tokyo
Recording Engineer:Igor Baar, Satoshi Bono
Score Mixing Engineer:Suminobu Hamada 

 

 

久石譲はオリジナル・ソングとそのインストゥルメンタル・ヴァージョンなど5曲でクレジットされている。

「41. Paths Combine (Piano Duet Version)」はオープニング・テーマとして使用されている。主人公二人を象徴する楽曲とも言えるのかもしれない。”Piano Duet”となっているのも意図がうかがえる。実際には物語にそういったシーンはないが作品の求める世界観が楽曲に託されていると感じる。そのアレンジバージョン「16. Building Friendship」「32. Paths Combine (Violin and Vocal Version)」も含めて二人を描いた印象的なシーンで使用されている。

「1. The Sky Ahead (feat. Diana Garnet)」はエンディング・テーマとして使用されている。また戸田信子と陣内一真によるオリジナル・スコアのなかで「4. Deryn Is Dylan Sharp」「5. Huxley Flies Away」などで、そのメロディの一部がモチーフにもなっている。

「24. A Night in Istanbul」は第6話と第7話の重要なシーンで登場する。

全12話のなかで久石譲の書き下ろした楽曲たちは、主題歌はもちろん物語の大切なシーンでの挿入歌として迎えられているほどキーとなる箇所で効果的に使われている。

 

 

リヴァイアサン (Soundtrack from the Netflix Series)

1. The Sky Ahead (feat. Diana Garnet) – Joe Hisaishi (3:40)
2. Leviathan Main Theme (4:29)
3. Stormwalker (1:04)
4. Deryn Is Dylan Sharp (1:18)
5. Huxley Flies Away (2:26)
6. Aberdeen (0:25)
7. Deryn and Her Father (0:36)
8. Prince Aleksandar of Hohenberg (1:14)
9. Sarajevo, 1914 (0:41)
10. Clanker Army (1:44)
11. Leviathan in Paris (1:08)
12. Outbreak of War (1:28)
13. Get That Flare Off! (2:13)
14. The World at War (1:18)
15. Royal Inheritance (2:11)
16. Building Friendship – Nobuko Toda, Kazuma Jinnouchi & Joe Hisaishi (2:08)
17. Preparing for Launch (1:20)
18. SMS Kaiser (2:40)
19. SMS Herkules (1:40)
20. Bovril (0:57)
21. Parting Ways (1:51)
22. Moonlight Flight (2:27)
23. Nene (1:20)
24. A Night in Istanbul – Joe Hisaishi (1:21)
25. When the War Is Over (0:49)
26. Ottoman Empire (1:01)
27. The Turkish War of Independence (4:41)
28. Otto Klopp (2:15)
29. To End This War (1:34)
30. Anomalies (2:00)
31. Dr. Nora Barlow’s Findings (1:16)
32. Paths Combine (Violin and Vocal Version) (feat. Sharp (CV: Natsumi Fujiwara)) – Joe Hisaishi (2:06)
33. Big Whale Blues (0:41
34. Nikola Tesla’s Premiere (0:44)
35. Meeting Tesla (1:20)
36. Kidnapped (1:10)
37. No Goliath for the German Army! (2:27)
38. For the Greater Good (5:50)
39. Deryn and the Leviathan (0:40)
40. Who We Are (1:04)
41. Paths Combine (Piano Duet Version) – Joe Hisaishi (1:18)

レーベル:Netflix Music
規格品番:81232217-01-JP
発売日:2025年7月10日
配信開始日:2025年7月10日
収録曲数:全41曲
収録時間:1:12:32

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ テキスト編

Posted on 2025/07/07

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

テキスト編

これまでに語られてきたことのなかから、主題歌の条件・メロディと言葉について・歌のヒミツなどを見ていきましょう。作曲家 久石譲の流儀がそこにはあります。

 

 

about スタジオジブリ

ただ、《さんぽ》の最初のメロディだけは、打ち合わせの最中に浮かんだんですよ。そういう瞬間が訪れる時は、非常に幸せです。一方、《となりのトトロ》はお風呂に入りながら「トトロ、トトロ、トトロ……」と口ずさんで出来た曲。一番単純なのはソミドだから、「♪ソミド、トトロ、トトロ」。ソミドの次は、「♪ソミド、ソファレ……あ、いいね」。でももうちょっとリズミックに「♪トットロ、トットロ」となっていて。

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

 

「子どもから大人まで誰もが口ずさめるような歌を作ってほしいというのが宮崎さんの希望でした。そうなると、一番大事なのがメインテーマ。幸いなことに、宮崎さんとの最初の打ち合わせのときに浮かんできたんですよ。”ポ~ニョポ~ニョポニョ”っていう部分のメロディーが。でも、あまりにもシンプルなメロディーだったので、2~3カ月くらい寝かせてたんです。でも結局、それが一番良いと思ったので、デモを作って宮崎さんに渡してみたら気に入ってくださって。最大の難関になるはずのメインテーマが最初にできたというのは非常に助かりましたね」

~(中略)~

「小学校の音楽の授業で習うことですけど、音楽の中には”メロディー”と”ハーモニー”と”リズム”という三要素があるんです。僕らが音楽を作る上でも重要なのはこの三要素なんですよ。今回、メインテーマの”メロディー”が非常にシンプルで分かりやすいので、”リズム”や”ハーモニー”が相当複雑な構成になっても成立するんです。そこは良かったところですね。この曲の良さは、”ポ~ニョポ~ニョポニョさかなのこ”という最初の部分のメロディーですべて分かってしまうところ。そのメロディーを認識させるために4小節とか8小節とか必要としないですから。1フレーズだけで分かるので、どんな場面でも使えるんです。すごく悲しい感じにもできるし、すごく快活にもできるから、いくつでもバリエーションが作れるんです。メインテーマのアレンジを変えて使うという方法は、前作の『ハウルの動く城』の経験が生きましたね。今回、『崖の上のポニョ』でも徹底的にアレンジを変えました。使い回しは一つもありませんよ」

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「実は宮崎監督とスタジオジブリの鈴木敏夫代表取締役との3人で最初の打ち合わせをした2年前の11月。監督の説明を聞いていたらあのメロディーが浮かび、企画書の裏に楽譜を走り書きしました」

「そもそもポニョという言葉の勝利です。アクセントは“ポ”にあって“ニョ”で下がるからまず音程が下がる。下がった分だけ音程は上がる。僕は同じ言葉を3回繰り返すのが好きなので最初の2小節ができました」

Info. 2009/02/24 ポニョっと生まれた旋律 久石譲 ソロ・アルバム (産経ニュースより) より抜粋)

 

 

多くの人から「あの『ポーニョ、ポニョポニョ』が頭から離れない」との感想を頂戴した。メロディも「ポニョ」という言葉も実に単純なものだ。ところが、それが一体になったことで、二乗、三乗、いや三十乗くらいの力を持って、誰の耳にも入りこんでいったのだろう。こんな奇跡のような出来事が起きたことは、音楽家として本当に幸せだ。

Blog. 「文藝春秋 2008年10月号」「ポニョ」が閃いた瞬間 久石譲インタビュー より抜粋)

 

 

「「ポニョ」という言葉は新鮮で独特のリズムがある。”ポ”は破裂音で発音時にアクセントが自然につくし”ニョ”へはイントネーションが下降しているので、メロディラインも上昇形ではなく下がっていくほうが自然だ。基本的にボクは言葉のリズムやイントネーションには逆らわない方法をとる。(中略)「ポニョ、ポニョ、……」と何度か呟いているうちに自然にメロディの輪郭が浮かんできた。もちろんこの2音節だけではサビのインパクトには欠けるので何度か繰り返す方法をとった。(中略)和音の進行もシンプルなものを使用することにした。(中略)後はリズムなのだが、それは先ほど書いたように言葉のイントネーションを採用する。」

(久石譲「今、誰もが”口ずさめる歌”をつくるということ」 スタジオジブリ『熱風』2007年8月号 より抜粋)

 

 

久石:
いやあ、ぼくは逆にね、宮崎さんは、非常にすぐれた作詞家だと思ってるんですよ、で、本音を言うとですね、音楽の究極は、やっぱり歌ですよ。

鈴木:
うーん……

久石:
だって、人に何かを伝える時に、まず言葉があって、でも、言葉だけでもダメで、それと音楽とが響き合って、瞬時に人生を感じちゃったりとか、いろんなことがすべて見えたりする可能性があるわけで……。そうするとね、最後に行き着くのは、歌なんですよ。

鈴木:
歌も音楽も、生きものなんですね。

久石:
うん。結局は、そこに行き着いちゃう。生命の世界というかね……

鈴木:
何ていうのかなあ……自分の、意識の下のほうにね、太古の昔から続いてる遺伝子みたいなものがあるんじゃないかな、なんて思ってるんですよね。

Blog. 「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ 3」久石譲登場回(2008)「ジブリアニメとの25年」内容 より抜粋)

 

 

 

about 映画音楽

「映画はインストゥルメンタル(器楽)が基本であり、主題歌はインストゥルメンタル(器楽)で通用するメロディーであるのが望ましい」

(キネマ旬報 1990年9月下旬号 No.1042 より)

 

 

オードリー・ヘップバーンといえば、誰もが思い出すのが『ティファニーで朝食を』、音楽担当はヘンリー・マンシーニ、さすがにうまい。メロディも編曲も申し分ない。とりわけ凄いなと思うのは、メインテーマが歌でも、インストゥルメンタル(器楽曲)でも、どっちでもいけるというところだ。たとえば、「ムーン・リバー」、ハーモニカで吹いても、コーラスで歌っても、画面でピッタシ合うのだ。これは映画のメインテーマの理想だ。

~(中略)~

正直にいうと、本当は主題歌なんかないほうが、僕は好きだ。少なくとも、今はインストゥルメンタルのほうに興味がある。たとえば、『第三の男』、『風と共に去りぬ』、『エデンの東』、『禁じられた遊び』、『アラビアのロレンス』、『太陽がいっぱい』など、いずれも味わい深い。

しかし一方では、『いそしぎ』、『男と女』、『ティファニーで朝食を』、『卒業』など、ボーカルの付いた名作も多々あるのだ。

ところが、よく検討してみると、それらの曲は、インストゥルメンタルでも充分に通用するメロディラインであることに気づく。俗にいう歌もののメロディ(ふし)、つまり、詞をのせるためのメロディ(ふし)ではないのだ。

映画音楽というものは、言葉が付いていても、基本的にはインストゥルメンタルな音楽であるべきだと思う。楽器で演奏してさまにならなければ、意味がないのだ。

これで「ムーン・リバー」がなぜいいのか、分かっていただけたはずだ。

~(中略)~

結論としては、映画音楽はインストゥルメンタルが基本であり、主題歌はインストゥルメンタルでも通用するメロディであるのが望ましいということだ。

(久石譲著書より)

 

 

 

about 歌

「ポップスの面白みやすごさは、メロディと言葉が一体化したときに独特のものが出てくることです。特に言葉は、時代が反映されるから厳しいですね。多くのポップスミュージシャンやシンガーソングライターがコケてしまうのは、言葉なんですよ。すぐに時代に合わなくなってしまうから。」

「言葉とメロディが一体になったときに、理屈じゃないところで世界がずんと重く感じられるときがある。それがポップスの持っている圧倒的な力なんだと思います。」

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより より抜粋)

 

 

「ただ歌メロはいい曲、いい歌詞、いい編曲がそろっても歌手に左右されたりもして、必ずしも耳に残るいい音楽になるとは限らない。奥深く難しい世界です」

Blog. 「テレパル TeLePAL 1994年 6.25-7.8」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

少し補足します。映画の場合はその作品にあった声を探す、あるいは自分が決めるのではなく監督やプロデューサーが選ぶ場合もある、という趣旨のことは過去にも語られています。自作品や音楽作品にするときの声はまた別の側面で慎重に検討を重ねるとも言えるのかもしれませんね。

 

 

 

歌とインストどっちが強い?!

いかがでしたか。

歌かインストか ~鶏か卵か~、【スタジオジブリ編 1】から【ソロアルバム編】まで全方位的に見ていきました。こっちが先だったんだ、こんなバージョンもあったんだ、何か新しい出会いがあったならうれしいです。

エンターテインメントにおける音楽といえば、そこはポップスがメインストリームです。日々賑わうランキングのなかにインスト曲が入ってくることはそうそうない。映画は大ヒットに比例して注目されるのは主題歌ばかり、本編音楽が脚光を浴びることは滅多にない、悲しい。映画の印象に貢献しているのは主題歌よりもメインテーマのほうなのに!!、と映画音楽ファンはいつもハンカチを嚙んでいる…僕はしてないけどしている。

やっぱりインストより歌がつよいよなあ、インパクトもあるし印象にも残りやすいし、言葉の力や共感力ってあるしなあ…。ちょっとした劣勢感を抱きながらも、いや別にいいんだ逞しく好きでいるんだ、自分の好きな音楽を推していくんだ。そんなとき僥倖に巡り合いました。

ふとある作詞家のコメントを目にしました。「詩に音楽をつけても人々が覚えるのはメロディ」「口ずさんだりするのはメロディ。鼻歌でもそうで歌詞を覚えていなくても歌えるのはメロディ」

なるほど!!そうですか!!

メロディ劣勢と思っていたなかそちら側からはそう見えていたんだと目からウロコでした。深いですね、作詞家からは詞のほうが劣勢だと感じていたなんて思いもしませんでした。この感覚を得た日から僕は翼を得たようにメロディ愛そしてインスト愛が高く広く羽ばたいていくことになります。ずっと楽しく羽ばたいています。ぜひみなさんも風に乗ってほしい。

 

「あーあれね。知ってるよ。ちょっと待って、歌詞ど忘れしたけどタララ~ン♪でしょ」

これはあっても

「あーあれね。知ってるよ。ちょっと待って、メロディど忘れしたけど〇〇〇って歌詞でしょ」

このパターンはなかなかない気がする。

みたいな感じでしょうか。

 

 

久石譲さんの楽曲もメロディはつよい。歌詞があってもなくてもついつい口ずさんでしまうメロディ。言い換えるとメロディが充分に歌っているから歌詞を必要としないほど。こんなにすごいことってありますか、こんなにすごいことを何十年も続けているって、もう鶏と卵どちらが先かよりも、ゼロからどちらも生み出していることがすごいっていう神々しさです。

 

久石譲は稀代のメロディメーカーである。

 

 

 

Info. 2025/07/05 《速報》 「Joe Hisaishi in Concert with Singapore Symphony Orchestra」久石譲コンサート(シンガポール)プログラム

Posted on 2025/07/05

2025年7月3,4日、久石譲コンサートがシンガポールで開催されました。共演オーケストラはシンガポール交響楽団です。2020年、2023年に続いて3度目の共演になります。 “Info. 2025/07/05 《速報》 「Joe Hisaishi in Concert with Singapore Symphony Orchestra」久石譲コンサート(シンガポール)プログラム” の続きを読む

Info. 2025/07/02 [TV] NHK「午後LIVE ニュースーン」久石譲出演!! 【7/4 update】

Posted on 2025/07/02

NHK「午後LIVE ニュースーン」出演のお知らせ

NHK総合の報道・情報番組「午後LIVE ニュースーン」
7月4日(金)17時台のトークコーナー「トークシュン」に久石譲が登場いたします。 “Info. 2025/07/02 [TV] NHK「午後LIVE ニュースーン」久石譲出演!! 【7/4 update】” の続きを読む

Info. 2025/09/26 「NHKスペシャル ディープオーシャン 幻のシーラカンス王国」音楽:久石譲 Blu-ray/DVD発売決定

Posted on 2025/07/01

2025年3月2日初回放送 NHKスペシャル「ディープオーシャン 幻のシーラカンス王国」のBlu-ray/DVD発売が決定しました。 “Info. 2025/09/26 「NHKスペシャル ディープオーシャン 幻のシーラカンス王国」音楽:久石譲 Blu-ray/DVD発売決定” の続きを読む

Info. 2025/09/26 「NHKスペシャル ディープオーシャン 紅海 世界初! 深海の魔境に挑む」音楽:久石譲 Blu-ray/DVD発売決定

Posted on 2025/07/01

2023年7月23日初回放送 NHKスペシャル「ディープオーシャン 紅海 世界初! 深海の魔境に挑む」のBlu-ray/DVD発売が決定しました。 “Info. 2025/09/26 「NHKスペシャル ディープオーシャン 紅海 世界初! 深海の魔境に挑む」音楽:久石譲 Blu-ray/DVD発売決定” の続きを読む

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ ソロアルバム編

Posted on 2025/07/01

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

ソロアルバム編

久石譲は自身が手がけた映画音楽の主題歌/メインテーマを、音楽作品や演奏会用作品に再構築することで時代を超えて聴かれている曲がたくさんあります。【映画音楽編】でも触れましたが、サウンドトラックには同じメロディをして主題歌(歌曲)とメインテーマ(器楽曲)と収録されている作品もたくさんあります。

ここでは、それ以外のケースつまりソロアルバムで生まれることになった鶏?卵?な楽曲をみていきましょう。

 

 

HOPE

数ある久石譲ソロアルバムのなかでも独特な存在感を放つアルバム『地上の楽園』です。そのあまりの個性的さゆえに隠れていることに気づかない一曲があります。以前にも書いたことがあってそこから引用します。

 

この曲、実は「水の旅人 メインテーマ」と同じ曲なんです。

まったく曲調も雰囲気も違うので、またインスト曲とボーカル曲なので、突然そんなこと言われても、そうだったっけ? と半信半疑かもしれません。今から、Aメロ・Bメロ・サビ・間奏と、ふたつの曲を線でつながていきます。そう言われればそう聴こえてくるかも…。そんなレベルじゃありませんよ。ちゃんと同じ原石から分かれた、いわば二卵性双生児のようなふたつの曲。

「HOPE」
Aメロ(00:25~00:59)
Bメロ(01:00~01:20)
サビ(01:21~01:37)
間奏(02:45~03:18)

この区分けをもとに下に当てはめるとこうなります。

「Water Traveller」(水の旅人 メインテーマ)
Aメロ(01:36~02:23)
Bメロ(02:24~02:50)
サビ(04:41~05:31)
間奏(05:49~06:34)

「Water Traveller」の印象的な主題(サビのようなもの)であり幾度登場する旋律(00:26~01:09)は、「HOPE」には使われていません。

「HOPE」のサビとなっている旋律は、「Water Traveller」の中間部パートにあたるという離れ業。さらには、「HOPE」間奏はコード進行もまったく違うので一致しにくいですが、シンセストリングスで鳴っている旋律が「Water Traveller」ではホルンの旋律、まったく同じです。

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE” より)

 

地上の楽園

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

I Stand Alone

器楽曲版で有名な「Tango X.T.C.」です。映画『はるか、ノスタルジィ』の主題歌/メインテーマです。主題歌?あった? そうなるんです。だってこのメロディに歌があるなんて、少なくとも僕は聴いたことがない…。

『Melody Blvd.』は自身の代表作をセルフ・カバーしたアルバムです。”歌詞がすべて英語に差し替えられたAOR的サウンド”とあります。器楽曲「Tango X.T.C.」…じゃないんだった、歌曲「追憶のX.T.C.」は「I Stand Alone」で英語ver.リアレンジになっています。

謎です。歴史を紐解いてみました。映画をDVDで見返してみると本編オープニング/エンディング・クレジットには主題曲「追憶のX.T.C. -はるか、ノスタルジィ 愛のテーマ-」作詞:大林宣彦 作曲:久石譲 歌:石田ひかり(テイチク)と出てくるじゃないですか。でもサウンドトラック未収録、シングルカットされた痕跡もない、エンドロールにも流れていない。映画公開当時に劇場版では使われていたのか、DVDパッケージの際に他曲に差し替わったのか確認にまでは至っていません。謎のままです。

ひとつだけ確かなのは、サウンドトラック盤ライナーノーツに歌詞は掲載されていません。がしかし、『Melody Blvd.』には歌われている英語詞もオリジナルの日本語詞も掲載されています、なんと!!。そして、日本語の言葉数とメロディの音数はしっかり合っています。だから、日本語でしっかり歌うことができます。「Tango X.T.C.」を流しながら歌ってみましょう。

 

 

久石譲 『はるか、ノスタルジィ』

 

 

『Melody Blvd.』には魔女の宅急便音楽から生まれた歌曲「Hush/木洩れ陽の路地」も乾いた風心地よく収録されています。別名…イメージアルバム曲名「かあさんのホウキ」、サウンドトラック曲名「旅立ち」「オソノさんのたのみ事…」、ヴォーカルアルバム曲名「魔法のぬくもり」…ええい、みんな大好きあのメロディ「かあさんのホウキ」です。

 

 

 

長距離電話
White Night
ホワイトナイト

久石譲の冬の定番曲といえば「White Nights」、クリスマスに聴きたい曲といえば「White Night」です。ファンなら誰もが知ってるそして人にすすめたくなる人気曲です。

『Piano Stories II』に収録されていてみんなそのとき好きになりました。それはそうなんです、それでいいんです。その一年前に歌曲版「長距離電話」がリリースされていたとは、しかも楽曲提供の一曲としてひっそり?!と。歌詞もまったく別物語になっています。純粋に時系列から想像すると、楽曲提供で思わず生まれてしまった美メロを自身も大いに気に入り器楽曲でしっかり残そうとなった、そんな感じでしょうか。大英断です。ありがとう、1996年の久石さん。

池田聡さんは当時久石譲さんのカメラ趣味の先生でした。カメラ選びに付き合ってもらったりしてたエピソードも。by おそらく古き著書より

年月は過ぎ、女声コーラスグループ リトルキャロルも合唱曲としてカバーしました。「ホワイトナイト」作詞:河野清香&小池光子(Little Carol)/作曲:久石譲/編曲:松波千映子で冬の歌になっています。

 

池田聡 Saturday

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

リトルキャロル

 

 

 

Asian Dream Song
旅立ちの時 ~Asian Dream Song~

1998年長野パラリンピック冬季大会テーマ曲です。器楽曲「Asian Dream Song」は1996年に誕生し、早い段階から大会関連行事や盛り上げていくイベントなどで披露されています。久石譲コンサートで初お披露目となったのも同年です。そうして翌年1997年に歌曲「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が生まれ大会テーマソングとなりました。

こうやって見ていくと一定の時間の流れの中で歌曲版へと進化したさまは【スタジオジブリ編 1】『天空の城ラピュタ』「君をのせて」と同じタイプになります。どちらも器楽曲版のときにまだサビメロディはなく歌曲版でサビパートが誕生しています。♪夢をつかむ者たちよ~ 君だけの花を咲かせよう~ パートです。そうして1998年3月開会式での多彩なゲストミュージシャンを迎えた大演奏は感動的でした。惜しむらくはVHS時代だったこと、デジタルレガシーになってほしかった。

新しい世代の人たちは、学校の合唱定番曲として育ってきた人も多いと思います。また2016年フィギュアスケート羽生結弦選手が《Hope&Legacy》として久石譲の「View of Silence」と「Asian Dream Song」を合わせた曲を使用したことで輝き甦り、瞬く間に世界中のトレンドを席巻しました。新たな生命とファンを獲得した幸福な曲。

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

旅立ちの時 久石譲

 

久石譲 『WORKS2』

 

 

 

 

 

 

World Dreams

久石譲いわく「国歌のような格調あるメロディ」は久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)のアンセムのように誕生しました。WDOコンサートで聴けずには終われない大切な一曲です。

2011年「西本願寺音舞台」で麻衣さんの作詞を得て合唱付き版(歌曲版)が誕生しました。このバージョン”for Mixed Chorus and Orchestra”は合唱の声部構成に合わせてオーケストレーションも呼応するように改訂されています。WDO2015、WDO2023でも披露されました。

2019年には組曲「World Dreams」が誕生し全3楽章からなる大作へと膨らんでいます。

まるで現代社会や世界情勢を如実に反映するように、2022年から海外公演でもプログラムされていきます。さまざまな海外オーケストラとの共演はこの楽曲の存在をさらに大きなものにしているように感じます。フランスを皮切りにトロント、ヘルシンキ、香港、シカゴ、ロンドン、フィラデルフィアと世界をつなげています。気がつけば2024年久石譲コンサートでアンコールに選ばれた曲TOP1です。まだまだ世界に広がっていきそうです。平和に聴こえるときもあれば、厳しく聴こえるときもある。常に時代を映し出す鏡のような楽曲です。

 

原典

久石譲 『WORLD DREAMS』

 

久石譲 『W.D.O.』 DVD

 

合唱

 

対向配置

 

組曲

 

(コロナ禍や戦争や)

 

 

Joe Hisaishi – World Dreams(2004年版) Music Video

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

 

MIDORI SONG

ヴァイオリニスト五嶋みどりが理事長を務める認定NPO法人 ミュージック・シェアリングに寄贈された楽曲です。2015年に器楽曲として誕生しましたが、翌年には麻衣さんの作詞によって合唱版も生まれています。編曲はいずれもチャド・キャノンです。現時点ではミュージック・シェアリング主催コンサートなどでしか聴けないもので二つとも音源化されていません。

 

 

 

I Want to Talk to You

「合唱の祭典」のために委嘱され、書き下ろしでは初めての合唱作品になります。また「作曲の過程で思いついた弦楽四重奏と弦楽オーケストラの作品にするアイデアが現実味を帯び」と本人解説で語っているとおり間を置かずに弦楽合奏版も完成しています。コロナ禍を経験しながら、それぞれ2021年と2022年に初演を迎えて以降も少しずつプログラムされています。音源化はこれからの楽しみです。新しいバージョンの誕生をも秘めているかもしれない作品です。

”作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。” by 久石譲

 

合唱版
I Want to Talk to You 〜for Piano and Percussion〜
作曲:久石譲
1. I Want to Talk to You 作詞:麻衣、久石譲
2. Cellphone 作詞:久石譲

弦楽合奏版
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~
作曲:久石譲

*合唱版1.を再構成したもの

 

 

 

スタジオジブリ作品や映画音楽だけじゃない、ソロ作品からもこんなにたくさんあったんですね。たくさん紹介できてうれしいです。これからまた生まれ変わる曲があったならまたうれしいです。

 

 

 

Info. 2025/06/29 《速報》 「The Music of Joe Hisaishi」久石譲コンサート(フィラデルフィア)プログラム

Posted on 2025/06/29

2025年6月25~27日、久石譲コンサートがアメリカ・フィラデルフィアで開催されました。共演オーケストラはフィラデルフィア管弦楽団です。本公演は当初1月3,4日開催予定でしたが久石譲の体調不良により延期されていました。その後追加公演も加えての待ちに待った振替公演となりました。 “Info. 2025/06/29 《速報》 「The Music of Joe Hisaishi」久石譲コンサート(フィラデルフィア)プログラム” の続きを読む

Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【6/25 update!!】

Posted on 2023/09/12

キリンビバレッジのCM「よろこびがつなぐ」に久石譲「Summer」が使用されています。映画『菊次郎の夏』(1999)メインテーマとして誕生した曲です。今回のCMは映画サントラ・オリジナル・バージョンです。

キリンはJFAのオフィシャルトップパートナーです。9月12日「キリンチャレンジカップ 2023」にて地上波初O.A.となったのは「サッカー編」です。 “Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【6/25 update!!】” の続きを読む