Disc. 久石譲 『タスマニア物語 オリジナル・サウンドトラック』

1990年7月21日 CD発売 PCCA-00095
1990年7月21日 CT発売 PCTA-00057

 

1990年公開 映画「タスマニア物語」
監督:降旗康男 音楽:久石譲 出演:田中邦衛 薬師丸ひろ子 他

 

 

これぞ、正統的な映画音楽の王道です。

いろいろと調べてみましたが、バリ島だったらガムラン、インドだったらシタールのように地域差を出すためのエスニックな楽器というものが、オーストラリアにも、タスマニアにもない。オーストラリア民謡ってないんですよ。この音を聞いたら、それだけで、オーストラリアのイメージがパッと浮かんでくるような音がなかったので、ひたすら広大な大陸を連想させる、スケールの大きなシンフォニー・サウンドに徹した方がいいと思いました。

今回の音楽は、とんでもなく手間暇をかけているんですよ。1曲が4分近くあって、長い。本当に画面と、どこまで密接して作るか考えて、洋画に近い作り方をしたなあという気がします。例えばセリフが一言あるとすると、そのセリフによって、音楽が反応する。コンピュータを駆使して、5秒間に14フレーム、ピシッと入れて、4分間連続して音楽が入る。それが全部で20数曲あるという。これ以上はないほど、正統的な映画音楽の王道をゆくものになったと思いますよ。今まで僕が手がけた映画音楽の中では最大規模でやらせてもらいました。

基本的には、メインのワンテーマだけは前面に押し出して作りました。いい映画って、1曲だけで充分なんですよ。だって「ティファニーで朝食を」で、”ムーン・リバー”以外覚えていますか? 「E.T」で、あのメインテーマ以外に覚えてますか? この映画の参考のために、昔の映画を何本か見てみたんですが、みんな緻密に作ってあるんですよ。やはり、お金と時間をかけてキッチリと作っている。「E.T」にしても、あのメインテーマは、映画の3分の1以上進行しないと、出てこないんです。本当に少ない。最初に出てくるのは、自転車が空を飛ぶ場面ですからね。あのテーマは、あれだけみんな覚えているけど、そんなにひんぱんには出てこない。それほど大事に使っている。インパクトのある場面だけに、ちゃんと流すんですよ。メロディが一寸だけずつ流れる。メロディを全部キチンと流しているのは、そんなに多くない。ああいう音楽の設計の仕方、緻密さは最も大事なことです。あそこまでやらないと、映画音楽とはいえない。この映画でも、メインテーマは最初から出てこないんですよ。随所にモチーフが表れるんですが、メロディが有機的にだんだんと展開していく。それを初めて試みることができました。だから、ワンテーマで十分なんです。現在の日本の映画音楽は、みんなそうですが、メロディを4つか5つ用意すれば、3日か4日で映画音楽を作ることはできる。ワンテーマだと、よほど緻密に設計しないと飽きられちゃうんです。

画面を見ていると、これは非常に正統的な映画だと思います。田中邦衛さんの演技は、見ていても泣かせるし、全体的にも決して奇をてらっていない。特にそういう場面を用意することもなく、降旗監督は本当に大人の眼差しで、手堅く作られたという感じで、僕はすごく好きです。音楽も、それに合わせて正統的に、堂々とやりたかった。時間がなくて徹夜続きでしたが。

ただ僕自身のスタイルは全然変わらないし、監督が映画の中で何をやろうとしているのか、それに対して自分の考えを述べるのが、映画音楽のあり方でしょ。この映画の前に「ペエスケ・ガタピシ物語」をやったんですけど、あれは、わらべうたのような単純なメロディに、超アヴァンギャルド・サウンドを乗せました。それはそれで、映画へのひとつのメリハリのつけ方なんです。そういう意味では、今度はジャズ風にとか、ロック風にとか、クラシック風に作ろうとか、あんまり思わないんですよ。自分のスタイルを守りつつ、その中で、この映画だと、今回はベースドラムを入れて、ポップスっぽい扱いを全くするべきじゃない、スタイルとしては完全にフル・オーケストラで、最先端のサンプリング楽器を使って、どっちがどっちか分からないくらいに作るんです。その混ぜ具合が、作品ごとに違う。いいメロディさえ書けば、それで全て用が足りるかというと、それはそうなんですが、やっぱり同時に表現方法として、時代のテクノロジーがあるわけです。それに対して、新しい表現はどんどん出てくるわけですから、ただミュージシャンを大勢集めて、一斉に演奏してもらって、映画音楽を作るやり方には、あまり興味がありません。

Blog. 映画『タスマニア物語』(1990) 久石譲インタビュー 劇場用パンフレットより

 

 

「去年『タスマニア物語』をやった時に、一本の映画にはひとつのメロディしかないというのが正しいということにしたんです。たとえば、『ティファニーで朝食を』という映画には、当然いくつもの音楽が使われていたわけですけど、結局『ムーンリバー』しかないですよね。だったら、メインテーマですべてを押さえなければいけないということにして、それに徹したんです。実は、メロディをいくつか作っておいた方が楽なんです。メロディが一個だと、ものすごく、緻密に作らないと持たないし、本格的にそういう作り方をしようと思ったら、時間とお金が膨大に必要なんですよ。『タスマニア』ではじめてそれが出来たんです」

「だからプレッシャーもすごくあります。そこまで言いきって、予算も用意させて”なに、このくらいの音楽?”って言われたら、その瞬間が自分の終わりですから、そのためにはこちらも命をかけなきゃいけない」

Blog. 「CDジャーナル 1991年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

久石譲 『タスマニア物語 オリジナル・サウンドトラック』

1.タスマニア物語 -オープニング-
2.直子との出会い
3.タスマニア島へ出発 ~メインテーマ~
4.父と子の再会
5.正一と実の友情
6.タスマニアの動物達
7.森の銃声~栄二の決断
8.草原の子供達
9.正一と実、森の奥へ
10.闇の中のタスマニアデビル
11.正一と実の別れ
12.タスマニアの虹
13.栄二の告白
14.直子の草笛
15.父と子のふれあい
16.旅立ち -タスマニアタイガーを求めて-
17.「僕は見たんだよ、父さんのタスマニアタイガー」
18.正一と栄二、それぞれの思い
19.エピローグ
20.タスマニア物語 ~メインテーマ~

 

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