Overtone.第24回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2019/08/13

ふらいすとーんです。

8月1日静岡を皮切りに国内8公演で開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートツアー。各会場ともにスタンディングオベーションの大盛況!

今回ご紹介するのは、久石譲ファンの一人、ふじかさんのコンサート・レポートです。初日公演、まさに世界初演幕開けの瞬間、とても臨場感あふれる詳細レポートです。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019

[公演期間]  
2019/08/01 – 2019/08/12

[公演回数]
8公演
8/1 静岡・静岡市民文化会館 大ホール A
8/2 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール A
8/5 広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ B
8/6 長崎・長崎ブリックホール B
8/8 東京・サントリーホール A
8/9 東京・サントリーホール B
8/11 京都・京都コンサートホール 大ホール B
8/12 兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
【PROGRAM A】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」  *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

ad Universum *世界初演
1.Voyage
2.Beyond the Air
3.Milky Way
4.Spacewalk
5.Darkness
6.Faraway
7.Night’s Globe
8.ad Terra

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Il Porco Rosso (Pf.solo)
Merry-Go-Round

 

【PROGRAM B】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」 *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

Deep Ocean
1.the deep ocean
2.mystic zone
3.trieste
4.radiation
5.evolution
6.accession
7.the origin of life
8.the deep ocean again
9.innumerable stars in the ocean

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Summer (Pf.solo)(広島・長崎・東京)
あの夏へ (Pf.solo)(京都)
Merry-Go-Round

 

 

昨年に引き続き、WDO2019静岡公演の模様をレポートさせて頂きます。

2019年8月1日 静岡市民文化会館 18:30開演

ここ数年での久石さんと新日本フィルによるWDOツアー、静岡市内では初めての開催となりました。

早速会場に入ると、楽団の方がステージで練習をしており、いつものオーケストラの楽器はもちろん、今回はオカリナの音色も聴こえました。

開演時間を過ぎると楽団の全員がステージに集結し、チューニングが終わると束の間静寂。その後割れんばかりの拍手の中、笑顔の久石さんが登場しました。

 

組曲「World Dreams」
ⅰ.World Dreams
例年のコンサートだとアンコールでの演奏機会が多かった一楽章の「World Dreams」ですが、今回は1曲目。組曲化ということでしたが、この楽曲に関しては大きな変更等はなかったと思います。いつもよりメロディの抑揚が感じられ、最初からグッと心を掴まれてしまいました。

ⅱ.Driving to Future
某企業への書き下ろし曲がまさかの組曲の構成曲になるとは思いませんでした。楽曲自体も初めて聴くことなりました。マリンバの刻みに合わせて、メロディのような持続音のような音がチェロから紡ぎだされ、その後弦全体へと広がっていきました。ミニマルとメロディの融合を目指したようなこの楽曲は、近年の『二ノ国Ⅱ』や『海獣の子供』でも実践しており、今の久石さんを凝縮したような作品に仕上がっていました。

Ⅲ.Diary
皇室日記のテーマ曲へと書き下ろされたこの楽曲も組曲への衝撃参入でした。「ラーレー、レーミラー」とゆったりと奏でられるメロディは厳かな雰囲気もありつつ、一楽章と似た要素もあり三楽章にピッタリな楽曲となりました。中盤では一楽章を連想させるようなシーンもあり、終盤ではチューブラーベルズも響きわたり、組曲としての統一性も感じられました。

トータルで聴いてみると、この組曲は2016年WDOのテーマ「再生」の延長線上にある印象を受けました。「再生」から「希望・夢・日常」へ。今回がWDO二期の〆とパンフレットに書いてありましたが、テーマも集結へ向かった気がしました。

 

ad Universum
プラネタリウムの為に書き下ろされた楽曲達が再構成されて、コンサートで披露されました。ミニマルミュージックを軸に構成されており、反復で表現されていく様子はまさしく音のプラネタリウムでした。8曲から構成され、プラネタリウムで使用された楽曲はほとんど使用されていたのはないでしょうか? 絶え間なく演奏され、1曲ずつの感想は書けませんが、印象に残ったことを書いていきます。

冒頭(1.Voyage)では、ゆったりとしたストリングの調べから、突如マリンバのソロが入ります。そこから繰り広げられていくミニマルの刻み。『D.E.A.D』組曲の三楽章『死の巡礼』のように迫りくるリズムが続きます。

2.Beyond the Airでは『The East Land Symphony』の二楽章『Air』のような浮遊する雰囲気を感じられます。全体としてメロディの要素は少ないですが、途中で現れる「ラレド♯ー」のような特徴的なメロディの欠片からは流れ星の煌めきを連想させます。低音から高音へ、波の揺らぎのような部分からは『Deep Ocean』のような雰囲気も。

終盤(8.ad Terra)からは大迫力のミニマルワールド。ひたすら繰り返されるリズムの刻みに終始圧倒されました。大迫力のフィナーレのあと、マリンバのソロで静かに終わるのが印象的でした。

 

ここで前半終了です。

通常だと舞台替えでピアノがステージ中央に設置されますが、今回は設置されませんでした。

 

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings
今回のストリングスとピアノのコーナーは久石さんは指揮に専念する形となりました。2008年のツアー以来演奏されて来なかった『Another Piano Stories』の楽曲がドレスアップして披露されました。ピアノパートの高橋ドレミさんが力強い演奏をしておりました。

Woman
レリアンのCM曲で、軽やかなリズムと優雅なメロディが特徴的な1曲。弦の伴奏に合わせて、ピアノから紡がれるメロディが聴いていてとても心地よかったです。演奏終了後、拍手が途切れてしまって、久石さんが客席に拍手をあおる場面も笑

Ponyo on the Cliff by the Sea
『崖の上のポニョ』のメインテーマで、公開から10年以上もたちますが、久石さんのポニョマジックは健在でした。ピアノがポニョのテーマを奏でるとともに、会場からはクスクスと笑い声が。非常にキャッチ-なメロディのこの楽曲ですが、演奏風景を見ていると伴奏隊は非常に複雑な動きをしているのを改めて実感しました。

Les Aventuriers
5拍子が特徴的で、スリリングなカッコよさがあるこの楽曲はファンの中でも人気曲なのでしょうか? マリンバが5拍子の刻みに輪郭をハッキリとして、近年の久石さんの表現の仕方と相まって、非常にキレのあるかっこいい演奏に進化していました。終盤にはピアノのグリッサンドも追加され、ズチャッという最後の〆も進化していました。

 

ここで再度舞台替えがあり、ピアノが指揮台横に設置され、マンドリンとアコーディオン用の音の返しスピーカーも設置されました。

 

Kiki’s Delivery Service Suite
宮崎駿監督作品の交響組曲化の第五弾は魔女の宅急便。

構成曲は
1.晴れた日に…
2.海の見える街
3.パン屋の手伝い
4.仕事はじめ
5.身代わりジジ
6.ジェフ
7.大忙しのキキ
8.パーティーに間に合わない
9.プロペラ自転車
10.とべない!~傷心のキキ
11.神秘なる絵
12.暴飛行の自由の冒険号
13.おじいさんのデッキブラシ
14.デッキブラシでランデブー
15.かあさんのほうき

会場でメモ書きしながら聴きましたが、抜けている可能性もあります…

全体的にヨーロピアンテイストを感じられる楽曲が多い作品で、サントラの雰囲気はそのままに壮大なシンフォニーに生まれ変わっていました。マンドリン、アコーディオン奏者も加わり、よりサントラの世界観に沿った形となりました。

1.晴れた日に…での「ファー、ソー、ラー♭」と一気にオケの音色が花開くところは圧倒されてしまいました。

2.海の見える街では、コンサートでの定番となっている『Kiki’s Delivery Service 2018』等でのアレンジがあまり継承されずに、サントラに沿った形になっていました。そのため後半のスパニッシュワルツのパートは若干短くなっていました。

5.身代わりジジでは、クラリネット、トロンボーン、トランペットのソロ奏者が立ち上がって演奏する場面も。

9.プロペラ自転車では、シンセサイザーメインの楽曲が見事にオーケストレーションされ、まったく違和感なく構成されていました。

10.傷心のキキでは、アコーディオンがキキの心を表現するようにしっとりと演奏されているのが印象的です。

11.神秘なる絵ではシンセの部分にオカリナが登場し、柔らかい音色が会場を温かく包み込みます。

13.おじいさんのデッキブラシは、オケの力強い迫力がピッタリの楽曲。映画終盤でのスリリングなシーンを彷彿とさせてくれました。

15.かあさんのほうきでは、久石さんもピアノ演奏も加わり、豊嶋さんの美しいヴァイオリンソロが会場を包み込みました。アレンジとしては武道館で披露されてものが近く、組曲の最後にふさわしい極上の仕上がりでした。

 

拍手喝采のなか、アンコールへと進みます。

 

il Porco Rosso (Pf.solo)
演奏前に久石さんが、さあ弾こうか!という感じでピアノに向かったのが印象的でした。今回は久石さんによるピアノ演奏が少ないコンサートでしたが、まさかのアンコールでたっぷり堪能できました。しかも今回は国内では初披露となるil Porco Rossoのピアノソロバージョン。左足でリズムを刻みながら、ジャジーな演奏に終始うっとりしてしまいました。

この演奏が終わると、数名が久石さんに花束を渡すシーンも伊右衛門を渡され、会場に笑いが起きる場面も。

Merry-Go-Round
コンサート最後の曲は、ハープから始まる人生のメリーゴーランド、長野チェンバーオーケストラの演奏会でのアンコールとして披露されていたアレンジがWDOでも組み込まれました。終盤の転調後は、オーケストラの迫力に会場も圧倒されて、会場も熱気で包まれました。

 

演奏終了後、割れんばかり拍手の中、次々と観客が立ち上がり、スタンディングオベーションに!楽団のみなさんも帰りはじめても鳴りやまない拍手と声援に久石さんも何度もステージに登場していました。

初日の静岡公演、最高潮の熱気のまま幕を閉じました。

今回のレポートは以上です。

会場での雰囲気を少しでも感じ取ってもらえれば幸いです! 

 

ふじか

 

後日談) by ふじかさん

後日プラネタリウムをまた見ますので、楽曲聴いて改めて加筆あるかもしれないです。

 

 

8月1日 静岡公演風景

from 久石譲コンサート 2019-2020 公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」。会場ごとにプログラムはもちろん、演奏や雰囲気も違う。公演を重ねるごとに修正やバージョンアップをくり返して磨きをかけていく。そう、CDのように全く同じ演奏ってないんですよね。

初日公演だからこその緊張感や集中力ってきっとあります。そんなところ気づかなかった、なるほどそういう見方もあるよなあ、そこが印象的だったんだ。自分にはなかった新しい発見があってうれしいです。そしていつもふじかさんのレポートや着眼点はとても具体的!

ふじかさんとは2018年7月にツイッターでつながりました。全国各地の久石譲ファンとSNSをとおしてつながれる。それをきっかけにコンサート会場でお会いすることもできました。いい時代です。

2年連続のコンサートレポート、ほんとうにありがとうございます!

 

 

 

 

reverb.
コンサートのときは、拍手のメモの交互に忙しいです(^^;)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第23回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート by いっちーさん

Posted on 2019/08/13

ふらいすとーんです。

8月1日静岡を皮切りに国内8公演で開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートツアー。各会場ともにスタンディングオベーションの大盛況!

今回ご紹介するのは、久石譲ファンの一人、いっちーさんのコンサート・レポートです。台風も心配された長崎公演、無事に開催されてよかったです。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019

[公演期間]  
2019/08/01 – 2019/08/12

[公演回数]
8公演
8/1 静岡・静岡市民文化会館 大ホール A
8/2 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール A
8/5 広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ B
8/6 長崎・長崎ブリックホール B
8/8 東京・サントリーホール A
8/9 東京・サントリーホール B
8/11 京都・京都コンサートホール 大ホール B
8/12 兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
【PROGRAM A】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」  *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

ad Universum *世界初演
1.Voyage
2.Beyond the Air
3.Milky Way
4.Spacewalk
5.Darkness
6.Faraway
7.Night’s Globe
8.ad Terra

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Il Porco Rosso (Pf.solo)
Merry-Go-Round

 

【PROGRAM B】 All Music by Joe Hisaishi
組曲「World Dreams」 *世界初演
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

Deep Ocean
1.the deep ocean
2.mystic zone
3.trieste
4.radiation
5.evolution
6.accession
7.the origin of life
8.the deep ocean again
9.innumerable stars in the ocean

—-intermission—-

[Woman] for Piano, Harp, Percussion and Strings *改訂初演
Woman
Ponyo on the Cliff by the Sea
Les Aventuriers

Kiki’s Delivery Service Suite *世界初演

—-encore—-
Summer (Pf.solo)(広島・長崎・東京)
あの夏へ (Pf.solo)(京都)
Merry-Go-Round

 

 

大感動でした

2年ぶりの九州公演で台風の心配もあった公演でしたが天気も味方してくれて無事に行けたことに感謝です。

World Dreamに感涙してとにかく改めて素晴らしい演奏に感激の嵐です(´°???ω°???`)

後半も崖の上のポニョ・魔女の宅急便アンコールにハウルの動く城にSummer豪華なラインナップにまた感激

また来年も行きます スタッフさんも天候が悪いなかの会場運営お疲れ様でした

楽団の皆様毎回素敵な演奏ありがとうございます(*^^*) これからも益々のご活躍楽しみにしてます

いっちー

 

8月6日 長崎公演風景

from 久石譲コンサート 2019-2020 公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

—– お願いメモ —–

もしよかったら、ここにもっと感想をのせたいです!

コンサート行った直後に3~5ツイートくらい書いたなあ、インスタグラムに投稿したなあ、思い溢れてメモにたくさん書いてスクショアップしたなあ。

そんな感想をぜひファンサイトにご提供いただけたらうれしいです!

 

久石譲WDO2019たくさんの感想ツイートにいいね!させてもらいました。ただ、コンサート期間中は[アンコールにふれているもの(写真含む)、プログラムにふれているもの(特にチラシやパンフでプログラム詳細わかってしまう写真)、ホール内を撮影したもの]、これらはツイートしてる内容に共感しながらもいいね!はしませんでした。難しい線引きだとは思うのですが、あぁ~もっといいね!したいんだけどっ!!と思うものもたくさんありました。ご了承ください。

ツアー終了後の今、ネタバレの心配はなくなりましたので、なんでもウェルカムです!(^^)

どうぞよろしくお願いします。

どしどしお待ちしています。

8月いっぱいお待ちしています。

随時更新します。

—– お願いメモ おわり—–

 

 

8月1日 静岡公演風景

 

8月2日 愛知公演風景

 

8月5日 広島公演風景

 

8月8日 東京公演風景

 

8月9日 東京公演風景

 

8月11日 京都公演風景

 

8月12日 兵庫公演風景

from 久石譲コンサート 2019-2020 公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

 

 

〆切:8月31日(土)
久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋
コンタクトフォーム から

くわしくは【お知らせ】をご覧ください。

 

reverb.
スタオベ写真の一枚一枚に、それぞれ感想がついたらどんなに素敵だろう!

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Info. 2019/08/01 [雑誌]「Mes’s PREPPY 2019年9月号」映画『二ノ国』久石譲インタビュー掲載

雑誌「Men’s PREPPY 2019年9月号」(8月1日発売)に、映画『二ノ国』について久石譲インタビューが掲載されています。本号には主人公たちの声優を務めた山﨑賢人×新田真剣佑 スペシャル・インタビューも掲載されています。ぜひご覧ください。 “Info. 2019/08/01 [雑誌]「Mes’s PREPPY 2019年9月号」映画『二ノ国』久石譲インタビュー掲載” の続きを読む

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Spirited Away Suite』

2019年7月31日 CD発売 UMCK-1636

 

久石自身の手により生まれ変わった「千と千尋の神隠し」組曲ほか、数々の名演。あの夏の感動、再び。

(CD帯より)

 

 

9.11以後の”異界”を”だまし絵”で生き抜くオーケストラの音楽──
久石譲『Spirited Away Suite』について

本盤のタイトル曲でもある「Spirited Away Suite」(「千と千尋の神隠し」組曲)の冒頭は、ピアノのメインテーマ「あの夏へ」──主人公・千尋のテーマとも言い替えてもいい──から始まる。その演奏を収録した本盤の音源を初めて聴いたとき、今から18年前の2001年7月の記憶が頭にパッと思い浮かんだ。まさに”あの夏”とも言えるような思い出だが、当時、発刊されて間もない映画雑誌『PREMIERE』のインタビュー取材のため、とても暑い日の午後、久石の下を訪れたのである。

このとき、すなわち2001年7月、久石は宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』の音楽を書き上げ、そしてフランス人のオリヴィエ・ダアン監督の映画『Pe Petit Poucet』の音楽を完成させたばかりの頃だった。当然、インタビューの中では、その2本にも話が及んだ。

映画本編の詳しい紹介はここでは割愛するが、まず『千と千尋の神隠し』は、親元から切り離された千尋という名の少女が異世界つまり”異界”に足を踏み入れ、自分の力で生き抜いていこうとする姿を描いた成長譚である。

この取材の中で久石は、宮崎監督の独特の世界観で作られた現実の風景とまったく違う世界=”異界”をどう音楽で表現すべきか、非常に苦労したと述べていた。通常の音楽のつけ方や作曲アプローチでは表現しきれないので、例えば今回の組曲内の「神さま達」では琉球音楽、「カオナシ」ではインドネシアのガムラン風の音楽、というように、アジアの民族音楽のさまざまな要素をオーケストラの中に足す方法で作っていったのだと。しかも、日本が属する東アジアやインドネシアが属する東南アジアだけでなく、シルクロードの向こう側、遥か西のユーラシア大陸全般に至るまでアジアというものを拡大解釈し、それを西欧音楽の象徴たるオーケストラの中に放り込んでいく。わかりやすく言えば、台湾の夜市のように、ありとあらゆる要素を投入していく方法だ。そのように雑多なものをオーケストラの中に取り込むことで、なんとか宮崎監督の世界観を表現できるかもしれないというのが、取材の中で久石が語っていた作曲アプローチであった(それが、メインテーマ「あの夏へ」以外の曲がいままでコンサートで演奏されにくかった理由のひとつでもある)。18年経った現在から振り返ってみても、これは日本人でありアジア人である作曲家・久石譲だからこそなし得た、非常にユニークなアプローチであると思う。

 

「Le Petit Poucet」は、『千と千尋の神隠し』と同じ2001年に久石が手掛けたフランス映画『Le Petit Poucet』のメインテーマである。フランスの童話作家シャルル・ペローの『親指小僧』に基づく実写映画だが、実はこの作品も、『千と千尋の神隠し』と同じく親元を離れた主人公プセたちが不思議な世界、つまりは”異界”に放り込まれてさまざまな冒険を体験し、生き抜いていく物語を扱っている。

本盤には本編オープニングで流れるメインテーマのオーケストラ版が収録されているが、映画のエンドロールでは、ヴァネッサ・パラディが歌ったヴォーカル版が使用されている。そういった事情もあり、久石はこのテーマを”シャンソン”として書いたと取材の中で語っていたが、いま、このメインテーマを改めて聴き直してみると、フランス映画にふさわしい気品に満ちた”シャンソン”であると同時に、久石でなければ絶対に書けない、いかにも彼らしいメロディで作られた音楽だと思わずにはいられない。日本人であり、アジア人である作曲家・久石譲から出てきた”久石メロディ”が、ヨーロッパの昔話の真髄とも言える童話を映画化した『Le Petit Poucet』のメインテーマになっているところが、実に興味深いのである。

本盤を手に取られたリスナーは、ぜひこの機会に『Le Petit Poucet』の全編を見て頂きたいのだが(現在はDVDで容易に視聴可能)、映画本編に流れるサウンドトラックでは、尺八や和太鼓などの邦楽器がオーケストラの中にふんだんに取り入れていることに気づくだろう。

取材当時、久石は「西欧のオーケストラだけで音楽をまとめてしまうよりも、日本的なものにこだわりながら作っていった方が、自分としてはリアリティのある音楽が作れる。ペローの童話の世界は、確かにヨーロッパの世界観に属しているけれど、逆に音楽では、日本的な要素をどんどん出した方が説得力が増してくる」と述べていた。

この発言を音楽用語の”ユニゾン”という言葉を用いて言い換えてみると、ヨーロッパの童話や題材をヨーロッパ的な音楽スタイルで”なぞる”つまり”ユニゾン”で音楽を付けるのではなく、すこし違った視点で物語を捉えながら敢えて”ズラした”音楽を付けていく。そうしたアプローチを用いながら日本人の作曲家が作曲することで、童話が本来持つ怖さや残酷さ──ヨーロッパ人は子供の頃からその童話に慣れ親しんでいるので、かえって意識に上りにくくなっている──が、より際立って見えてくるということなのだ。これが『Le Petit Poucet』の音楽の素晴らしさであり、同時に作曲家としての久石の特質が遺憾なく発揮された好例というべきであろう。

 

久石が同時期に手掛けたこれら2つの映画は、全く無関係な作品であるにもかかわらず、たまたま2001年に作られ、それぞれの本国で公開された。そして偶然にも、”異界”に放り込まれた人間がどう生きるのかという題材を扱ったファンタジー作品でもあった。その当時、久石を含む映画の作り手たちは、ファンタジーの物語にリアリティを持たせるべく全力を注ぎ込み、彼らが生み出した数々のファンタジーを我々観客はエンタテインメントとして素直に受け入れ、喜び、熱中することができた時代だった──2001年の夏の段階までは。

ところがこの取材から約2ヶ月後の2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件が発生した。たった一晩で、それ以前と以後の世界がまったく変わってしまった。

旅客機が高層ビルに突っ込み炎上する──どんな映画でも描けなかった光景を、当時を生きていた久石を含む我々は、テレビを通じてリアルタイムで見てしまった。つまり、現実のほうがファンタジーよりも先をいってしまったのである。

人間がいくらファンタジーの世界を想像し、その物語にリアリティを持たせようとしたところで、あの9.11の映像を見せつけられたとき、現実のほうが遥かに凄まじいのだということを、我々はいやが上にも思い知らさせた。我々は一体何だったのだろう……と。特に、映画やテレビなど映像に携わる人間は(久石も例外なく)、これまで追い求めてきた世界とは、ファンタジーとはいったい何なのだろう、大きな疑問符を突きつけられることになった。

別に言い方をすれば、9.11をリアルタイムで体験してしまった人間は、まさに千尋やプセたちと同様、宮崎監督やダアン監督が描いた”異界”、つまりいままで自分たちが生きてきた世界とは違った世界(そして自ら望まない世界)に放り出され、その世界を現実として生きろと、無理難題な要求を突きつけられてしまったのである。その過酷な事実を新たな現実として受け入れ、生きていかねばならないにしても、我々が”異界”に適応するのは容易なことではなく、当然のことながら多くの時間を要した。誰もが皆、同じように苦しみ、考え、自分なりに答えを見つけ出していくことを余儀なくされた。

では、アーティストとしての久石は、9.11から受けた衝撃や思いをどう表現したのか? 音楽家として、今までと違う現実、9.11以後の世界という”異界”とどのように向き合うべきなのか? その回答のひとつが、2001年から3年後の2004年に立ち上げた、新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)の創設と、本盤ラストに収録されているW.D.O.のテーマ曲「World Dreams」の作曲である。その答えにおいて、久石は伝統的な西洋のオーケストラの中で、力強いメロディを”ユニゾン”で鳴らすという驚くべき結論を見出した。もちろん、久石はその結論にやすやすと達したわけではない。9.11のはるか以前から、ミニマル・ミュージックを通じて”異界”を意識化させてきたアーティスト・久石なくして、その結論に達することは出来なかっただろう。

 

改めて説明するまでもないが、久石はミニマル・ミュージックの作曲家としてキャリアをスタートさせた。話をわかりやすくするため、ミニマル・ミュージックとは「繰り返しや反復などを用いながら微細なズレを生み出し、そのズレから豊かなテクスチュアを紡ぎ出していく音楽」と仮に定義しておくが、ミニマリストとしての久石が他のミニマルの作曲家と異なるユニークな特徴のひとつは、彼がエッシャー的な視点を備えた作曲家だという点である。

久石はミニマル・ミュージックを書き始めた頃から、オランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーの作品に非常に強い関心を抱いていた。エッシャーはだまし絵(錯視画)で有名な画家だが、久石はそのエッシャーの作品から影響を受けながら、だまし絵がもたらす錯視効果とミニマル・ミュージックがもたらす錯視効果(より正確に言えば錯聴効果)の類似性に注目し、実際のミニマル・ミュージックの作曲に生かしていった。

エッシャーは、現実の世界に存在していない図形や模様があたかも存在しているように描くことによって、人間のものの見方、もっと大きく言えば、世界の捉え方そのものに対して、問題提起を行った画家である。特に晩年の作品では、あるパターンを幾重にも繰り返し、積み重ねていくことで、そこからまったく違うものが生まれていく変容(メタモルフォーゼ)を追求していくようになった。

そうしたエッシャーの特徴に久石は注目し、自身の作品においても、同じ音形やフレーズを繰り返し、少しずつズラしていきながら、全く異なるものを生み出し、音楽を変容させていくという実験を重ねていった。その方法論は、作曲家として初期の活動を始めた40年前から現在に至るまで、本質的には変わることなく受け継がれているといっても過言ではない。そうした彼のミニマル・ミュージックに対する向き合い方、言い換えればエッシャー的な方法論に基づくミニマル作品が、本盤には2曲収録されている。

まず、1985年のアルバム『α-BET-CITY』の中に収録されていた曲がオリジナルとなる、タイトルもそのままずばりの「DA・MA・SHI・絵」。そして1944年にエッシャーが描いた原画「Encounter(遭遇)」にインスパイアされて生まれた、弦楽合奏のための「Encounter」。ユーモラスな響きを持ち、同じフレーズや音型を繰り返すうちに音楽がすっかり別のものに変容してしまう、まさにエッシャーのだまし絵を見ているような感覚に非常に近い驚きや喜びを、リスナーはこの2曲から感じていただけるのではないだろうか。

作曲年代が約30年離れた、これら2曲が端的に示しているように、久石がエッシャー的なミニマル・ミュージックを書くということは、すなわち、人間の見方やものの捉え方が実のところは錯視的であり、あるいは変容していくものだということを音楽を通じて表現し、問題提起していることにほかならない。わかりやすく言えば、「いま現実に見えているものだって、突然”異界”に変容するとも限らないよ」ということである(ちなみに1992年に久石のアルバム『My Lost City』は、まさにそうした問題意識から生まれた作品である)。

40年前から、そうした問題意識を片時も忘れることなく、作曲というフィールドにその意識を生かしながら音楽を表現してきたところに、実は久石のミニマリストとしての最大の強みが存在する(ミニマルの繰り返しや反復はあくまでも技法であり、それ自体が目的ではない)。だからこそ、彼のミニマル・ミュージックが我々に強く訴えかけてくるのではあるまいか。

そういう作曲家・久石が9.11という”異界”に遭遇(encounter)したとき、単にその事件に寄り添った音楽を書いたり活動をしたりするだけではなく、今までと違った現実を生き抜くために、それに応じた音楽的姿勢を持って活動し、生きねばならないと決断したのは想像に難くない。

 

先に触れたように、久石は9.11以後の世界という”異界”への回答として、W.D.O.を創設した。なぜ、オーケストラなのか? ”異界”が現れる前の馴染み深い音世界を懐かしむとか、西洋音楽の伝統に回帰するとか、そういう話ではない。『千と千尋の神隠し』や『Le Petit Poucet』のように、敢えてオーケストラに”異界”を取り込むことで、”異界”そのものを生き抜いていこうとする、ひとつの決意表明として、オーケストラを選んだのである。そのオーケストラの中に、これまで久石が抱えてきた問題意識、つまりエッシャー的な問題意識に基づくミニマル・ミュージック的な方法論を持ち込むことで、今までとは違った現実、すなわち”異界”を生きていくことはどういうことなのか、それを追求していくためにオーケストラを選んだのである。だからこそ、オーケストラの中で「World Dreams」のような”ユニゾン”のメロディを歌う意味が生まれてくる。もし、オーケストラが”異界”の響きを表現するだけだったら、多様性に満ち溢れた音楽的にも比喩的な意味でも”不協和音”の衝突のまま終わってしまうから。

 

奇しくも9.11以後、この18年のあいだに音楽を世の中に届けていく方法そのものも大きく変わってしまった。それ以前は、アルバムやレコードといったパッケージで音楽を届けることがアーティストにとってのひとつの目標であり、またゴールでもあった。ところが18年経った現在、インターネットなどのデジタルの普及によって音楽のあり方自体が大きく変容し、ストリーミングで音楽を聴き、あるいは1曲だけダウンロードして楽しむといった聴き方が日常のものとなった。好むと好まざるとに関わらず、そういう音楽の”異界”に我々は生きているのである。

だが、”異界”は必ずしも悪いことだけではない。この現行を書いている2019年7月現在、中国で初めて劇場公開された『千と千尋の神隠し』は新作映画を上回る大ヒットを記録し、新たなファン層を生み出している。そしてこの9月には、アメリカの名指揮者デニス・ラッセル・デイヴィスがチェコ・ブルノで「DA・MA・SHI・絵」のヨーロッパ初演を振ることが決まっている。18年前、このように世界が変わることになるとは、実は久石本人ですら想像もつかなかったはずだ。

そういう”異界”を現実のものとして生きている現在の我々にとって、何を拠りどころとしながら生き、どのように世界を見つめていかなければならないのか? 本盤『Spirited Away Suite』には、その難問に対してアーティスト・久石譲が誠実に出した回答──9.11以後の”異界”を”だまし絵”で生き抜くオーケストラの音楽──が凝縮して表現されている。

前島秀国/Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2019/07/01

(CDライナーノーツより)

 

 

Spirited Away Suite
2018年の「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2018」にて初演。2001年7月20日公開の宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』から。構成楽曲は次のとおり。
あの夏へ One Summer’s Day/夜来る Nighttime Coming/神さま達 The Gods/湯屋の朝~底なし穴 View of the Morning ~ The Bottomless Pit/竜の少年 The Dragon Boy/カオナシ No Face/6番目の駅 The Six Station/ふたたび Reprise/帰る日 The Return

Le Petit Poucet
2001年、オリヴィエ・ダアン監督のフランス映画『Le Petit Poucet』(邦題:プセの大冒険 真紅の魔法靴)メインテーマより。シャルル・ペローの童話『親指小僧』をもとに実写化された映画。ヴォーカル版はヴァネッサ・パラディの歌う「La Lune Brille Pour Toi」。2001年の東北ツアーで演奏されたメインテーマを、2018年「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2018」において書き直して披露された。

DA・MA・SHI・絵
エッシャーのだまし絵にインスパイアされた1985年の作品、『α-BET-CITY』で発表された。1996年の「PIANO STORIES II ~The Wind of Life~ Part 1 Orchestra Night」の際にオーケストラ版に書き直された後、2010年『ミニマリズム』収録時にLSO(ロンドン交響楽団)の演奏による初収録された。

Encounter for String Orchestra
オリジナルは、2012年、「フェルメール光の王国展」のために書き下ろした「Vermeer & Escher」の室内楽曲。その中から4曲を選び、弦楽四重奏曲として再構成・作曲し直した「String Quartet No.1」(初演:2014年9月29日「Music Future Vol.1」)の第1曲「Encounter」を、更に弦楽合奏用に書き直した作品。2017年2月12日、久石譲指揮、ナガノ・チェンバー・オーケストラにて初演。本盤が初収録となる。

World Dreams
2004年、久石譲と新日本フィルによるW.D.O.結成時に、テーマ曲として作曲された作品。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディが頭を過った」

(楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

久石譲コメント

Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲

アメリカのアカデミー賞長編アニメーション賞を獲った作品で、海外からも一番これを演奏してほしいという要望が強いんですよね。すごく強いのですが、なぜかチャレンジをずっと避けていた曲なんです。今年本格的に取り組んでみて、思った以上に激しい曲が多くて驚きました。人間世界から異世界に迷い込んで、千尋という名前が千に変わり、両親が豚に変えられたりする中で、様々な危機が来る。当然、音楽も激しくなるわけです。一方でこの作品には「六番目の駅」に代表されるような、現実と黄泉の世界の狭間が色濃く表現されている。宮崎さんが辿り着いた死生観が漂っている気がします。でもだからこそ生きていることが大事なんだ、ということをちゃんと謳っている。その思いが伝わればいいなと思っています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」 コンサート・レポート より)

 

 

[参考]

2019年6月21日 中国劇場公開にて大ヒット「千与千寻」

 

 

久石譲コメント

Encounter for String Orchestra

数年前にフェルメール展が催され、その作曲を依頼されたのですが、僕の強い要望でエッシャーも展示されました。ミニマリストとしてはフェルメールよりも(もちろん好きですけど)だまし絵のエッシャーのほうに興味があったからです。その楽曲を中心に後に「弦楽四重奏曲第1番(String Quartet No.1)」を作曲しました。その第1曲がこの「Encounter」です。それをストリング・オーケストラとして独立した楽曲にしました。マーラーがシューベルト等の弦楽四重奏曲をオーケストラ用に書き直していますが、厚くなる部分と、ソロの部分をうまく活かしてよりダイナミックに作っている。僕もそのことを大切にしました。

レの音を中心としてモードによるリズミカルなフレーズが繰り返されます。ややブラックなユーモアもありますが、変拍子と相まって曲の展開の予想はつきにくい、したがって演奏もかなり難しいです。

曲のタイトルはエッシャーの「Encounter」という絵画(版画)からきています。もちろんインスピレーションも受けています。決して重い曲ではないので、楽しんでいただけたら幸いです。

(「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.1」コンサート・パンフレット より)

 

[参考]

Encounter /エッシャー (1944)

 

memo

エッシャーのこの絵のウィキ的解説が少なすぎてわからない。奥の方では白い人と黒い人がタイルを埋めるように平面的に当てこまれてる。そして円を描くように前の方では立体的に描かれ中央で「出会う」。ヴィオラから始まるこの曲は楽器配置も関係してるんだろうか…。白と黒に旋律的モチーフをもたせてるのだろうか…。円中央の反転や立体的人の影は、旋律の反転やなんらかしてるのだろうか…。エッシャーの「出会う」とは、音楽に置きかえたときに、ひとつの旋律を全楽器が奏でるユニゾンになる瞬間のことだろうか(数回ある)…。久石さんの言う〈ブラックなユーモア〉も音楽的にどういうことなのか、さっぱりわからない。いつか解説してくれますように。繰り返し模様とミニマルの反復、いろんな見え方と音のズレによる変化。パターンと秩序、二次元と三次元、数学的と論理的。ハーモニーを極力排除した単旋律的要素。絵を見ながら「Encounter」を聴くとなんかおもしろい気がしてくるからおもしろい。そして、「DA・MA・SHI・絵」と「Encounter」が新作CDにあわせて収録されるのはエッシャーつながりとしてもなるほどと思う。

 

 

 

本作に収録された作品のレビューは、コンサート・レポートに瞬間を封じ込め記した。

 

 

 

 

また2019年1月にTV放送された際に、映像で確認できた楽器のこと、繰り返し観れることで気づいたことなどを記した。

 

 

 

 

 

 

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
「千と千尋の神隠し」組曲

Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Spirited Away Suite

Spirited Away Suite 
1. One Summer’s Day
2. Nighttime Coming
3. The Gods
4. View of the Morning ~ The Bottomless Pit
5. The Dragon Boy
6. No Face
7. The Sixth Station
8. Reprise
9. The Return

10. Le Petit Poucet
11. DA・MA・SHI・絵
12. Encounter for String Orchestra
13. World Dreams

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Yasushi Toyoshima (Solo Concertmaster)
Solo Piano by Joe Hisaishi (Spirited Away Suite)

Recorded at
Suntory Hall, Tokyo (August 20, 2018)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (August 21, 2018)

Spirited Away Suite, Le petit Poucet
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu (Octavia Records), Hiyoyuki Akita
Mixed at Bunkamura Studio
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

【お知らせ】「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」レポートについて&レポート大募集!

当サイトでは「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートレポートおよび感想は全公演終了後に掲載予定です。

8月1日からツアースタート、コンサートに行く人には純粋に楽しんでいただけるように、そして全公演終了後に総力あげて演奏曲目(セットリスト)やアンコールなど網羅できたらと思っています。

予めご了承ください。 “【お知らせ】「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」レポートについて&レポート大募集!” の続きを読む

Info. 2019/07/26 久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る (Webニュース2種より)

久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る

山崎賢人が主人公の声優を務め、豪華キャストの集結で注目を浴びているアニメーション映画『二ノ国』(8月23日公開)。スタジオジブリ作品をはじめとする多くの映画音楽を手がけてきた久石譲が音楽を担当することも話題だ。その収録現場が5月、マスコミに公開された。 “Info. 2019/07/26 久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る (Webニュース2種より)” の続きを読む

Blog. 「レコード芸術 2019年8月号」ベートーヴェン:交響曲全集 久石譲 FOC 最新盤レヴュー・評

Posted on 2019/07/26

クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年8月号 Vol.68 No.827」、先取り!最新盤レヴュー コーナーに『ベートーヴェン:交響曲全集/久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス』が掲載されました。全集のみ収録の第4番&第6番についての評です。

ここで紹介されるものは、次月号「新譜月報」に登場するディスクから要チェックアイテムを先行紹介するもので、来月号にも期待です。

 

 

先取り!最新盤レヴュー

完結!「ミニマリスト」による未来型ベートーヴェン全集

久石譲指揮のベートーヴェン/交響曲全集が遂に完結。初出は第4番&第6番

ベートーヴェン/交響曲全集
久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス

 

遂に全集完結。進むにつれ高まった話題性と評価

推進力とスピード感にあふれた見事な演奏として話題の久石譲とナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)のベートーヴェン・プロジェクトがついに完結した。番号順に演奏された演奏会シリーズはすでに18年に終了しているが、未発だった4番と6番を組み込んでこのたび全集録音として世に出ることとなったのだ。

16年の長野市芸術館のオープンと同時に創設されたこのオーケストラは、久石が芸術館の音楽監督を引き受けるにあたって「観客の応援の対象となるアーティスト」(ブックレット所収のインタビュー。以下同)を作るために、旧知のヴァイオリニスト近藤薫(東京フィルのコンマス)を中心としてオーケストラの首席クラスを集めて結成されたもの。残念ながらNCOは長野市の予算の関係で継続が不可能になり、今後は久石が行っている「Music Future」の中で続けることになったため、この全集での名義も「フューチャー・オーケストラ・クラシックス」に変更になっている。

全集は紙ジャケット仕様で特製のボックスに収められ、40ページのブックレットが付く。中には久石のロング・インタビューが2本掲載、このプロジェクト全体と作品それぞれに対してのコンセプトが詳細に語られている。たとえばミニマルを軸とする久石が作曲家としてベートーヴェンを見ると、第5番と第6番の方法論はミニマルに近いという。多くの指揮者には変化に乏しいと思えてテンポを変化させたがる《田園》の第1楽章も「僕はミニマリストだから全く平気」と話す。そのコンセプトがベートーヴェンの工夫と密接に結びつき、説得力のある21世紀的なベートーヴェン像を作り上げているのだ。

 

初出の第4番&第6番も桁外れのパワフルさ

今回初出の2曲も名演だ。第4番はインタビューで「もっと評価されるべき」と話している通り、密度が濃く情報量が多い演奏である。他の作品での緊密なアンサンブルのレヴェルからすると、第1楽章の序奏でわずかに甘い部分があるけれど、第1楽章主部や第4楽章ではかのクライバーの名演を越えるほどの強度を聴かせる。全集で一貫しているが、鋭いアタックと非常に重い音色を両立させたティンパニ(読響首席の岡田全弘)がすごいし、木管の鮮やかな運動性、弦の艶のある音色はどんなにテンポが速くなっても決して失われることがない。

《田園》は前述したように緊密なリズムの織物としてのアプローチ。風景描写そのものよりも、それが呼び起こす感情や、そもそも人間が持っている根源的なパワーに焦点が当たっている。確かに嵐の描写もすごい(ここに限らず、バランス操作に不自然さが感じられる部分がいくつかあるが、久石の希望だという)が、そこを抜けたあとの晴れ晴れとした清涼感は稀有なものである。

「クラシック音楽もアップ・トゥ・デイトで進化するもののはず」で「未来へ向かって演奏が変わっていくべき」という久石。「スポーツカーになり得」る室内オケでミニマル的に「風通しの良い」「きっちりした演奏によるアプローチで古典音楽を現代に蘇らせる」試みを続ける彼の活動にこれからも注目すべきであろう。

西村祐

(レコード芸術 2019年8月号 Vol.68 No.827 より)

 

 

 

全集にも収録されている、既発CD盤も発売時期に取り上げられ、とても高い評価を得ています。

 

 

2019.8 追記
そして次月号「レコード芸術 2019年9月号」にて特選盤 掲載されました。

 

 

 

Disc. 久石譲指揮 フューチャー・オーケストラ・クラシックス 『ベートーヴェン:交響曲全集』

2019年7月24日 CD-BOX発売 OVCL-00700

 

久石譲 渾身のベートーヴェン・ツィクルス 完結!
──ベートーヴェンは、ロックだ!

久石譲が2016年より取り組んだベートーヴェン・ツィクルスは、かつてない現代的なアプローチが話題を集めました。作曲家ならではの視点で分析された演奏は、推進力と活力に溢れています。久石譲のもと若手トッププレーヤーが集結し、明瞭なリズムと圧倒的な表現で、新しいベートーヴェン像を打ち出しています。

──これは、聴く者の全身に活力を送り込み、五感を覚醒させるベートーヴェンだ。

 

Disc 1
交響曲 第1番 ハ長調 作品21
交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

Disc 2
交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
交響曲 第2番 二長調 作品36

Disc 3
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
交響曲 第6番 へ長調 作品68「田園」

Disc 4
交響曲 第7番 イ長調 作品92
交響曲 第8番 ヘ長調 作品93

Disc 5
交響曲 第9番ニ短調 作品125「合唱」

久石譲(指揮)
フューチャー・オーケストラ・クラシックス
(旧ナガノ・チェンバー・オーケストラ)ほか

2016年7月16日(第1番)、2016年7月17日(第2番)、2017年2月12日(第3,4番)、2017年7月15日(第5番)、2017年7月17日(第6番)、2018年2月12日(第7,8番)、2018年7月16日(第9番)
長野市芸術館 メインホールにてライヴ録音

◆特別装丁BOXケース&紙ジャケット仕様
◆豪華40Pブックレットには久石譲ロングインタビューを掲載
◆第4番&第6番は当全集にのみ収録 ※他の楽曲は再収録となりますのでご注意ください

 

 

 

【ブックレット内容】
●作品インデックス・タイム・クレジット・レコーディングデータ(P.1)
●久石譲、ベートーヴェンを語る(P.3~11)
●現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい (P.13~16)
 ~久石譲に訊く本全集のコンセプトと今後の展開~
●曲目解説 諸石幸生 (P.18~29)
●交響曲 第9番ニ短調 作品125「合唱」 原詩/訳詞 (P.30~31)
●プロフィール (P.32~34)
 久石譲、フューチャー・オーケストラ・クラシックス、ソリスト
●オーケストラ メンバーリスト (P.35~37)
 (作品ごと楽器編成・演奏者リスト)

*上のナンバリング以外は写真掲載ページ

 

 

「久石譲、ベートーヴェンを語る(P.3~11)」では、これまでに語られたことない内容を多く含む、作品ごとに指揮者としてどういった点に注目してどういったアプローチをしたのか、とても具体的に語られています。既発単品CD盤、コンサート・パンフレット、ラジオ番組など、すべてを通して振り返ってもここまで専門的に作曲家・指揮者視点で掘り下げているのは全集所収ならではです。

 

 

ここではブックレットのなかから「現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい(P.13~16)」のみを記します。こちらも全集のための初出内容を多く含むものです。

 

 

現代曲と同じ視点による古典の演奏を続けていきたい
~久石譲に訊く本全集のコンセプトと今後の展開~

ーまずはこのオーケストラ結成の経緯をお話しいただけますか。

久石:
長野市芸術館(2016年開館)の音楽監督を引き受けた段階で、観客の応援の対象となるアーティストが必要だと思いました。そこで考えたのは、1300席ほどの中ホールなので、チェンバー(室内)オーケストラを結成するのが、一番良いのではないかということ。それが了承され、ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)を結成しました。メンバーは、知り合いのヴァイオリン奏者、近藤薫さん(東京フィル、及びNCOのコンサートマスター)が中心になって集めた、N響、読響、東響など様々な楽団の首席奏者を多数含む、グレードの高い顔ぶれでした。

その時もうひとつ念頭にあったのが、「長野に文化をきちんと定着させたい」との思いです。これは長野市側の要望でもありました。ですが南の松本にはサイトウ・キネン・オーケストラ、北の金沢にはオーケストラ・アンサンブル・金沢という名楽団がある。その中間に位置する我々がオーケストラを作るとなれば、埋没することなくいずれは文化としての発信力があるものにしたいとの思いが強くありました。それで、自分の考えている理想のオーケストラができ、2年半に亘って演奏してきました。

 

ー最初にベートーヴェンの交響曲ツィクルスを行った理由は?

久石:
オーケストラも初めて集まるわけですし、文化として発信しようとするならば、しっかりしたテーマを与えなければいけないと考えたからです。ベートーヴェンという最高峰のものに挑戦することで、オーケストラとしての結束力を高め、課題を克服していく。各楽団の首席奏者であれば、能力の高さと同時に、それぞれの思いがあります。それを一本にまとめるのは、指揮者にとってもハードな作業です。なので「リズムをメインにした新しいベートーヴェンに挑む」というコンセプトで、演奏者たちに方向性を打ち出す必要がありました。

そして実際に現代的なリズムをベースにした演奏を行い、「ロックのようなベートーヴェン」というキャッチフレーズを付けました。本当は「ベートーヴェンはロックだ」なんて思ってはいませんよ(笑)。全然違いますから。しかしクラシックを聴かない人たちにアプローチをかけるとき、「ベートーヴェンはロックだ」と言った方が「どんなものだろう?」と思ってもらえます。ところがこの言葉は、意外に本質をついた部分がありました。つまりロックの基本はリズム。ですからリズムを中心にいくことを明快に打ち出した言葉だったわけです。

 

ー室内オーケストラならば、おのずと音楽もスリムな方向性になりますね。

久石:
そうですね。フルオーケストラがダンプカーであるならば、室内オーケストラはスポーツカーになり得ます。そこを踏まえて、ベートーヴェン演奏の古いしきたりを取り払いたい。その音楽を「ドイツ的」といった先入観とは関係なく伝えるために、ミニマルの楽曲のときと同じような、風通しの良い演奏をしたいと考えました。

 

ー弦楽器の編成は8型ですよね。そのように弦楽器が少なめの場合、管楽器とのバランスが難しくはないでしょうか?

久石:
これはとても重要なことですが、現代曲をやっていると、弦中心のアンサンブルは組まないんですよ。一音色として弦の各パート、一音色としてオーボエ、クラリネット…と捉えてバランスを作るので、あまり気になりません。弦の各パートをまず作って、そこに管楽器を乗せるといった従来型ではなく、このようにそれぞれが一音色という捉え方でアプローチしてきました。

 

ーベートーヴェンのメトロノーム指定は意識しましたか?

久石:
もちろん、それをベースに考えていますが、あの数字は基本的に速すぎますよね。でもロジャー・ノリントンが言っていますが、4分音符イコール60(♩=60)と書いてあれば1分間に60、すなわち1拍1秒で、120だったら2拍で1秒。これはいつの時代でも変わりませんから、あの表示がいい加減とは言いきれない。ただ、偉大なベートーヴェンに自分の経験でものを言うのは何ですが、作曲家が机上で考えたテンポと実際のテンポは間違いなく一致しません。コンピュータを使ってシミュレーションしていても生の演奏では違ってきます。ですから表記は間違っていないと言うのも、間違っていると言うのも短略的。あれはガイドなんです。その通りにする必要はないし無視してもいけない。

 

ーピリオド奏法に関するお考えは?

久石:
室内オーケストラは特にピリオド奏法と切り離すことができません。ただ近藤さんとも話した上で、最初から「ピリオドでいく」と言うのは一切やめて、自然にそうなったらそれでいいと考えました。例えば「ビブラート禁止」というのを最初から言ってはいません。それを言うことによって「じゃあいわゆる古楽奏法の室内オーケストラね」と思われるのも嫌だった。ただ問題だったのは、3番あたりになると、ロマン派的なアプローチの影響でビブラートを多用する人が出てくる。木管楽器も同じです。これをどうすべきか結構悩みました。しかしある程度アップテンポで明快なリズムを刻むと、ビブラートも自然に減ってきました。その辺が一段落して、本格的にアプローチできたのが第5番。ただ、オクタヴィア・レコードの江崎さんから「つまんないよ、歌ってなくて」と言われて、そこからまた命がけのことが始まったんですよ。

 

ーそれは最初の頃に言われたのですか?

久石:
いえ、第九の第3楽章で言われました。ノンビブラートで奏すると、表情はボウ(弓)の速度によって変わる。弓の速度でどこまでコントロールするかという問題になります。ところが日本の教育ではそれほど重要視していないとも聞きました。ビブラートに頼るからです。この問題が第九のときに出てしまった。それでもうリハーサルの合間も終わりも、弦全員で話し合いですよ。こうやろう、ああやろうって、もう凄かったです。そのときに、このオーケストラを続けるべきだと思いました。大きな課題が出たし、皆がこれだけ燃えたわけですから。

 

ーでも、ナガノ・チェンバー・オーケストラから、フューチャー・オーケストラ・クラシックスに変わることになりましたね。

久石:
残念なことにNCOは、市の予算の問題などがあって、継続が不可能になりました。そこで、僕が行っている「MUSIC FUTURE」(現代の音楽をとりあげるコンサートシリーズ)の中で続けることにしたのです。

僕はもうひとつやりたかったことがあるんですよ。既存のオーケストラは、あるプログラムでジョン・アダムズの曲を取り上げても、そのアプローチのままでベートーヴェンを演奏しません。でもクラシックは今まで通りのことをしていれば良いというならば、それは古典芸能です。クラシック音楽もup to dateで進化するもののはず。進化するということは、必然的に現代における演奏があり、さらに未来へ向かって演奏が変わっていくべきです。例えばミニマル音楽をフレーズで捉えて演奏したら縦が合わなくなりズレがわからなくなる。きっちり音価どおりに演奏しなければならない。そのきっちりした演奏によるアプローチで古典音楽を現代に蘇らせる。これをぜひ試みたかったのです。

しかも作曲家が振って、そのコンセプトを打ち出すと、必然的に古典が古臭くはならない。全体が良い化学反応を起こします。ただこのアプローチは既成のオーケストラでは難しい。やはりこのプロジェクトで初めてできると思いますし、実際それをNCOで実現してきました。そしてこれからは、Future Orchestra Classics(FOC)としてこれを続けていきたいと思っています。

 

ーFCOはどのようなオーケストラになりそうですか?

久石:
基本メンバーも、基本編成もNCOと同じです。今の計画では、(2019年7月に)お披露目でベートーヴェンの5番と7番を演奏し、上手くいったら、来年から定期的に演奏会を行い、まずはブラームスに取り組みます。1番から4番までの全交響曲。ブラームスはこの前仙台フィルと演奏しましたけど、ドイツ流のとは全然違うものになりましたし、こんな速いブラームス聴いたことないと言われました。まあ速いのがいいと言っているわけではないんですけどね。でも皆に喜んでもらえたので、FOCできちんとCDにするべきだという方向性もみえました。

蛇足なのですが、長野のことについてもうひとつ触れておくと、実は観客がつくのに5年かかると思っていたんです。ところが最後の年に7番8番、その次に9番を演奏した時の熱狂的な反応から推察すると、2年半で到達できた。物凄く嬉しかったし、長野の市民の皆さん、そしてこれをやらせてくれた長野市の関係者の皆さんには心から感謝しています。

あと、この全集をぜひ海外の人に聴いてほしい、こういう新しいベートーヴェンがあることを日本から発信するのは、最も行っていきたいことのひとつです。まだ正式ではないですが、海外で演奏する話もいくつか来ています。そういうことも踏まえて、FOCをきちんと育てたいと思っています。

(2019年5月20日)

インタビュー・構成:柴田克彦

(CDブックレットより)

 

 

 

 

 

 

なお既発盤発売時の久石譲インタビューやクラシック音楽雑誌「レコード芸術」に掲載された評などは下記それぞれご参照ください。

 

 

 

 

 

 

 

2022.06 追記

特別装丁ボックス&紙ジャケット仕様からプラスチック・マルチケース仕様にリパッケージ再発売された。

 

 

 

ベートーヴェン:交響曲全集

Produced by Joe Hisaishi, Tomiyoshi Ezaki

Recording & Balance Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Recording Engineer:Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…