Disc. シエナ・ウインド・オーケストラ 『SUPER SOUND COLLECTION スタジオジブリ吹奏楽』

2017年6月14日 CD発売 AVCL-25934

 

シエナ・ウインド・オーケストラの演奏による吹奏楽ポップス盤の新シリーズ「SUPER SOUND COLLECTION」! 2016年に続き、2017年も新作をリリース。今作はスタジオ・ジブリ作品にて使用された楽曲をフォーカス。

シエナ・ウインド・オーケストラの熱演による「スーパーサウンド」は聴きごたえ満点の全16曲。今作はスタジオ・ジブリ作品にて使用された楽曲をフォーカス。吹奏楽の定番から新たな新境地へ、吹奏楽の枠を超えた新シリーズの登場!!

全国の吹奏楽ファンが「聴いて」満足するのは勿論、ウインズスコアより楽譜が発売、吹奏楽部員が「弾いて」満足できる充実の内容です♪

(メーカーインフォメーションより)

 

 

1. 崖の上のポニョ -Brass Rock Ver.-
(作曲:久石譲 編曲:金山徹)

スーパー・サウンド・コレクション Vol.2 ~魔女の宅急便組曲~
2. 晴れた日に…
3. 仕事はじめ
4. 海の見える街
5. 旅立ち
(作曲:久石譲 編曲:福田洋介)

6. 人生のメリーゴーランド -Jazz Ver.-
(作曲:久石譲 編曲:三浦秀秋)
7. Cave of Mind -Trumpet Solo Feature-
(作曲:久石譲 編曲:宮川成治)
8. アシタカとサン -Piano Solo Feature-
(作曲:久石譲 編曲:西條太貴)

千と千尋の神隠し組曲
9. あの夏へ
10. 竜の少年
11. 神さま達
12. ふたたび
13. いつも何度でも
(作曲:久石譲 9~12、木村弓13 編曲:石毛里佳)

14. 君をのせて
(作詞:宮崎駿 作曲:久石譲 編曲:西條太貴)
15. ひこうき雲
(作曲:荒井由実 編曲:郷間幹男)

16. Jazz コレクション Vol.1 ~映画「となりのトトロ」より~
[さんぽ~風のとおり道~ねこバス~となりのトトロ]
(作曲:久石譲 編曲:辻峰拓)

指揮:オリタ ノボッタ
演奏:シエナ・ウインド・オーケストラ

合唱:Collegium Cantorum YOKOHAMA (8,14)

ピアノ&キーボード:美野春樹 (1,6,8~14)
ギター:古川 望 (1,6)
エレキベース&ウッドベース:一本茂樹
ドラムス:伊藤史朗 (1,6,15)
ドラムス:福長雅夫 (16)

〈ソロ演奏〉
アルトサクソフォンソロ:オリタ ノボッタ (5)
トランペットソロ:佐藤友紀 (6,7)
テナーサクソフォンソロ:松原孝政 (6)

録音:(1~15) 2017年3月8日&9日&10日 サウンドシティ
(16) 2015年12月15日 サウンドシティ

 

Disc. 久石譲 『花戦さ オリジナル・サウンドトラック』

2017年5月31日 CD発売 UMCK-1568

 

2017年公開 映画「花戦さ」
監督:篠原哲雄 音楽:久石譲 出演:野村萬斎、市川猿之助、中井貴一、佐藤浩市 他

 

 

久石譲コメント

花に命を懸けた池坊専水さんという人の気持ちが、観客に伝わるようにするにはどうしたら良いかを一番に考えました。結果的に琴を使うというイメージが核になりましたが、ただ和風なものを取り入れるだけでは底が浅いものになる。琴とオーケストラを融合した、新しい世界が出来ないかと考えました。そして脚本では、花が題材でもあるので、アート的にも仕上げられるとワクワクしましたね。篠原監督、プロデューサーとも、今までやったことないことをやろうと話して、お二人とも何度かご一緒したことがあったのでその点では安心感がありました。僕は映画音楽も書きますが、ミニマル・ミュージック(音の動きを最小限に抑えて同じパターンで反復させる音楽の手法)も作っています。映画ではあまりアプローチされない手法ですが、『花戦さ』では、琴を使った日本独特のミニマル・ミュージックにチャレンジできるんじゃないかと、作曲家としての野望を抱いてしまいまして。こちらのやりたいことを、エンタテインメントの世界でどうやってやるかを気を付けながらチャレンジさせていただきました。

今回の音楽は「静と動」という捉え方をしています。映像とは距離を取り、通常だと音楽が入りそうなところを外したり、台詞の邪魔にならないように、いるか分からないくらいに馴染むものと、はっきり琴を使うところに分けて作りました。琴を2本使っていますが、1本だといかにも「和風に入れました」となってしまう。効果音のようになるのは寂しいので、伴奏もメロディも主体的に琴を使って、そこに弦などが入ってくる作り方をしています。映画音楽はすごく難しくて、音が入ると音楽が鳴ってるよね、となってしまうんです。芝居の台詞の間合いと、そこに音楽が入っても崩れないフォームをずっと研究していて、特に静のほうは自分でも納得する感じに仕上がっているかなと思います。

音楽は流行りのサウンドを使うと、今はウケるのですが、今の時代だけにフィットさせると10年後には古くなってしまうんです。流行りのやり方に寄り添いすぎると、本物になりきれなくなる。今の時代であることは大切ですが、その中に普遍的なテーマを見つけることが大事なんだと思います。

(映画「花戦さ」劇場パンフレットより)

 

 

 

 

以下レビュー

A.メインテーマ・モチーフ
映画「花戦さ」のメインテーマで何が画期的かといえば使われているモチーフ。Aメロ・Bメロと展開するわけでもない、たった数小節たらずの短いモチーフ(基本音型としては2小節!)。これがありとあらゆる手法で変幻自在に奏でられている。通常であればどんどん曲想が展開し旋律がうたい盛り上がりへと向かう、それとはまったく正反対のことを堂々とやってのけ、当たり前のように高い完成度をもって成立しているところがすごい。

「2. 花僧・専好登場!」「4. 野花の囁き」「6. 京の町、花の町」「12. れんと専好」「14. こらまた…」「19. 当然の報い」などの楽曲でモチーフを聴くことができる。

変幻自在その一、琴はもちろんピアノ・弦楽・ハープといったバリエーション豊かな楽器で奏でられている。変幻自在その二、休符が巧みに奏でられている。《音と沈黙、躍動と静止、継続と断絶》というように、モチーフが流れ沈黙がおとずれまた流れる。基本的には変拍子になっている箇所は少なく、一般的な4拍子のなかで巧みに音を配置することで音と沈黙を実現している。違和感がないどころか余白の心地よさをおぼえるほどに。

確信犯なメインテーマ・モチーフ。それは8分音符で書かれ数小節たらずであること。琴という楽器は音が持続しない、弦をはじいて音が減衰していく。8分音符という粒の細かい音符を刻むことで効果的に奏でることができる。同じ効果を発揮できる楽器がピアノ、弦楽ピッチカート、ハープなどとなる。《琴とオーケストラの融合》を実現するのに大きく貢献しているのがピッチカートとハープ。「弦をはじく楽器および奏法」を絶妙に配置しブレンドすることにより、琴の音色がうまく溶け込み調和しているように思う。とりわけ、ハープを通常よりも強くはじく奏法をしているように聴こえ、ハープにしては尖った響きになる一方、琴が少し丸みを帯びたような響きにも聴こえてくる。そこにピッチカートも加わり、よくよく聴かないかぎり何の楽器か区別が難しくなるほどに「弦をはじく楽器」たちが共鳴し、結果融合と調和を実現させているように思う。ここにグロッケンなどの打楽器を混ぜあわせ、管楽器もふくめて音粒の細かい響きを飛び交わせている。(ここまでが変幻自在その一補足)

琴にしろピアノ、ピッチカート、ハープにしろ、音が持続しない楽器ということは、《音と沈黙、躍動と静止、継続と断絶》といった音楽構成を築くことにも効果を発揮する。もっというと楽器本来の響きがそうなのだから、沈黙がおとずれたとしても違和感がない。あれ、急に止まったという感覚にさせないので、結果音と沈黙が心地よさをもたらす。(ここまでが変幻自在その二補足)──だから確信犯なメインテーマ・モチーフなのである。このモチーフ基本音型が書き下ろされた時点で久石譲の勝ち(勝負ごとではないけれど)、数小節たらずの旋律で映画「花戦さ」の映画音楽はほぼ完成されていると言っても過言ではない。

 

B.天下人と対峙するモチーフ
物語のなかで天下人と対峙するおよび象徴するシーンで流れるモチーフ。「5. 織田信長」「13. 太閤殿下の大茶会」「15. 花、笑う」「22. 花をもって」。映画も鑑賞しサウンドトラックをくり返し聴きながら、なんでここであのモチーフなんだろう?と思って書き出すと意味あいがわかることもある。ということで、ここでは便宜上”天下人”というキーワードでくくっている。ここでも久石譲の映画音楽設計の職人技をみることができる。あとは映画を鑑賞して糸がつながっていただければ。

 

C.利休のモチーフ
映画「花戦さ」において重要な登場人物である利休、こう整理してみるとモチーフの登場は少ない。「9. 利休と専好」ピアノとハープによるつつましいミニマル・ミュージックのあと静謐な弦楽へと流れていく。この楽曲はとても重要で、メインテーマ・モチーフの変奏もしくはそこから派生したバリエーションと聴くこともできる。特殊拍子(5拍子と6拍子)によって奏でられるミニマル音型。主人公と利休に相通じるものがある、また互いに心通い合い感情や人物そのものが交錯するようである。利休のモチーフとしているが、楽曲タイトルとおりの「利休と専好」を巧みに描きだしている。

 

D.メインテーマ「花戦さ」エンドクレジット
結論からいうと、この楽曲は上に述べてきたA-B-C-Aで構成されている。短いメインテーマモチーフがたたみかけ織り重なるような冒頭から度肝を抜かれる(A)。そして天下人とのやりとりを象徴した(B)へと進み、利休への想いをはせ(C)、ふたたびメインテーマへ(A)。つまり約4分半の楽曲で映画本編をフラッシュバックし、もう一度振り返りながらストーリーを凝縮したもの、それが「23. 花戦さ」である。久石譲の凄みとしかいいようがない。映画音楽設計の極みであり、論理性の結晶ともいえる。そしてまたそれを理屈っぽくなくエンタテインメント性として成立させていること。ひとつの楽曲として心躍らせ、また聴きたいしっかり聴いてみたいと思わせる音楽。普段あまり耳馴染みのない強烈なモチーフ、やみつきになるほどのインパクトと余韻で貫禄の響き。久石譲がやりたいことと観客の高揚感が見事にフィットし結実したことは、各媒体映画レビューや感想での観客の映画音楽への反応、コメント、人気からもうかがえる。

 

少しひとり言、どうもこの映画の音楽は似た空気や雰囲気をもつ楽曲が多く(当然といえばそう)なかなか掌握ができず結構な時間対峙することになった。楽曲をそれぞれ整理しモチーフをセグメントした過程が(A)~(C)であり、それによって(D)に辿り着けたときには、そういうことか!とちょっとうれしい気分にもなった。特に(C)は曲想が大きく異なるのですぐには気づけなかった…。利休の想い・利休への想いが万感に奏でられている。私の推測があっていたらの場合ではあるけれど……。分析してわかった気になりたいのではなく、分析してその音楽に向き合って新たな発見ができることはとてもおもしろい。

 

E.静謐なミニマル・ミュージック
全編をとおしてミニマル要素が盛り込まれた本作品であるが、そのなかでも明確かつ際立つのが「3. 天に昇る龍の如く」。静謐なミニマル音楽が包みこむ。ミニマルとは相反するはずの情緒を感じさせるのはズレを念頭においた緻密なハーモニーの構成ゆえだろうか。日本の美・和の心を感じさせてくれる佇まい。

映画本編でも印象的なシーンで使われるこの音楽、「18. 梅の花」でピアノやハープを主軸として再登場する。これはストーリーにおける伏線の演出だと思うが、一見結びつかないシーンでこの音楽が使われているというところに、久石譲の映画音楽設計の緻密さと配慮を感じる。言葉では語らない、説明はしないけれど、音楽がそれを示唆している。それはそのときの登場人物の感情なのかもしれないし、これから起こるであろう展開を予感させるものかもしれない。映像やストーリーにおける音楽の重要性を感じさせる。

 

F.静の音楽
久石譲コメントにあった映画音楽における「静と動」について。サントラ盤を聴きながら思ったのは、それは”空気のような音楽”や”表情のような音楽”なのかもしれないということ。映像を補間するもしくは盛り上げるための映画音楽でもなく、感情を表現するための音楽でもない。ちょっとした空気の動き、ちょっとした表情の動き、それをふと音にしたらそう奏でられたというような音楽ではないだろうか(と勝手に推察している)。旋律としての音楽と散在する音の狭間のようなもの。「7. れんの瞳に」「10.一輪にて」などを聴いて。楽曲として成り立たせたいならばメロディを奏でたほうがもっともでありらしくもなる。正反対に位置しているのが「静の音楽」とするならば、これはなかなか難易度が高い。浅いところでやれば陳腐な効果音のようなものになるし、なくてもいい・いらないものともなりかねない。ある(鳴っている)ことを主張しないけれど、ある(鳴っている)ことが重要な音楽。

よくよく耳をすますと、「10.一輪にて」はメインテーマ・モチーフの限りなく音をぬいた音運びと聴くこともできる。もしそのように映画の核となるモチーフを素材としているならば、それは”なくてもいい・いらないもの”とはなるはずもなく、ある(鳴っている)ことが重要な静の音楽となる。

注)久石譲が意図する「静の音楽」が、どの楽曲・手法・範囲を示唆しているのかは定かではないので、ここで挙げた2楽曲はひとつの解釈として。

 

G.華道・茶道 ~時間と空間~
日本伝統の美しさを感じるこの映画は、花も茶も絵もその道の精神を注ぎこんだような作品になっている。花も茶も「つかのまのひととき」である。いけばなも生けては枯れ、お茶も淹れては呑む。音楽もまた奏でては終わる。

映画インタビューで主演の野村萬斎さんが「花は時間と空間を映す」と言われているのをみて、なるほどそうかと思った。華道には生けて朽ちるまでの時間軸と表現し景観となる空間軸。茶道には淹れて呑むまでの時間軸と作法と間を共有する空間軸。そういった捉え方をしてみると、音楽には旋律が流れる時間軸と響く空間軸がある。久石譲も常々「音楽は時間軸と空間軸で成立する」という格言をのぞかせる。見方や捉え方は道により人によりそれぞれだろうが、なにかしらの共鳴を感じる。

華道・茶道・音楽などアートの世界に共通するもの、日本伝統の奥ゆかしさに共通するもの、それが”諸行無常”。そうであるならば、「つかのまのひととき」であるからこそその瞬間がかけがえのないもの、美しいものである。諸行無常の心をさとすような「16. 最期のもてなし」「21. 赦し」。そっと手をさしのべられるような、言葉少なにそっと寄り添ってくれるような、慈愛に包まれた楽曲。悠々と感情たっぷりに歌うのではなく、弦楽の弦のすすりが聴こえる涙腺の解放。

 

映画作品としてはもちろん映画音楽としてもあらゆる賞の受賞を予感させる。

 

 

 

2017.8 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」にて「ASIAN SYMPHONY」の一楽章として「赦し」(Track-21)が組み込まれ世界初演。

ASIAN SYMPHONY
1. Dawn of Asia
2. Hurly-Burly
3. Monkey Forest
4. Absolution
5. Asian Crisis

久石譲コメント

「ASIAN SYMPHONY」は2006年におこなったアジアツアーのときに初演した「アジア組曲」をもとに再構成したものです。新たに2017年公開の映画『花戦さ』のために書いた楽曲を加えて、全5楽章からなる約28分の作品になりました。一言でいうと「メロディアスなミニマル」ということになります。作曲時の上昇カーブを描くアジアのエネルギーへの憧れとロマンは、今回のリコンポーズで多少シリアスな現実として生まれ変わりました。その辺りは意図的ではないのですが、リアルな社会とリンクしています。

 

レビュー

2006年初演から長い沈黙をまもってきた大作、ついにその封印がとけた瞬間でした。久石譲解説に「メロディアスなミニマル」とあります。当時の言葉を補足引用すると「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味でも久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的な、わずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捉える旋律を表現できないか…」(CD「Asian X.T.C.」ライナーノーツより)、久石譲が現代の作曲家として強い意志をもって創作した作品「アジア組曲」改め「ASIAN SYMPHONY」です。

めまぐるしいアジアの成長と魅惑を時代の風でかたちにした2006年版「アジア組曲」、それはまさに天井知らずのエネルギーの解放であり同時に先進国が辿ってきた発展後にある危機(Crisis)を警鐘したものとなっていました。それから11年、現代社会におけるアジア、世界におけるアジアは、今私たちがそれぞれ感じとっているすぐ隣にある現実です。

久石譲が「ASIAN SYMPHONY」への進化でリコンポーズしたもの。既出4楽曲は大きな音楽構成の変化はありません。それでも当時の「アジア組曲」の印象とは変わった空気を感じる。溢れ出るエネルギーのなかに無機質な表情で鼓動する怒涛のパーカッション群、パンチの効いた鋭利な管楽器群。躍動的で快活なのに決して手放しで笑ってはいない。そんなシリアスな変化を感じとったような気がします。

そしてもうひとつ注目すべきは、映画『花戦さ』のために書かれた音楽から「4. Absolution」として組み込まれた楽曲。映画サウンドトラック盤では「赦し」(Track-21)として収録されています。そっと手をさしのべられるような、言葉少なにそっと寄り添ってくれるような、慈愛に包まれた楽曲。悠々と感情たっぷりに歌うのではなく、弦楽の弦のすすりが聴こえる涙腺の解放。”罪を赦す”というように、過去の過ちをも包みこみ苦しまなくていい安らかな気持ちで生きていきなさい、そんな意味あいになるのかなあと思います。”相手を赦す・自らを赦す”、そして前向きに未来へ歩んでいく。映画音楽のために書き下ろされた、誤解をおそれずにいえば「エンターテインメントのための楽曲」がこうやって「久石譲オリジナル作品の一部」として組み込まれる。これはこれまでにはなかったことで、とても重要なポイントなのかもしれません。それだけに「4. Absolution / 赦し」という楽曲に対する久石譲の納得と確信を感じます。見方をかえれば、映画音楽の一楽曲としては時とともに流れてしまう可能性のあるものが、オリジナル作品の一楽章として新しい命を吹きまれた、そして未来へとつながっていくもうひとつの機会を得ることのできた楽曲。そう思いめぐらてみるとこの楽曲が加えられたことに深い感慨をおぼえます。

そして、赦しのあとの警鐘。同じ過ちをくり返す危機(Crisis)、今までになかった新しい危機(Crisis)。そんな現実を僕たちは力強く生きていかなければいけない。久石さんは、当時のインタビューで「危機(Crisis)の中の希望」というフレーズを口にしています。危機を警鐘するだけではない、その中から希望をつかんで切り拓いていく、そんなエネルギーを強く打ち響かせる作品です。

壮大な大作「ASIAN SYMPHONY」の「アジア組曲」からの変遷は、時系列でまとめていますので、ぜひ紐解いてみてください。どんな音楽が気になった人はCD作品「Asian X.T.C.」でアンサンブル版を聴いてみてください。2016年「THE EAST LAND SYMPHONY」につづき2017年「ASIAN SYMPHONY」。こうやって久石さんの”シンフォニー”がひとつでも多く着実に結晶化している喜びをひしひしとかみしめながら聴きいっていました。そして1年後には…CD化が実現してくれることを強く願っています。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2018.8.1 追記

2017年国内5都市と韓国ソウルにて開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」コンサートツアーで初演された、2大作品が待望のCD化。「Symphonic Suite “Castle in the Sky”」「ASIAN SYMPHONY」収録。

 

 

 

 

1. 戦国ラプソディー
2. 花僧・専好登場!
3. 天に昇る龍の如く
4. 野花の囁き
5. 織田信長
6. 京の町、花の町
7. れんの瞳に
8. 花の力や
9. 利休と専好
10. 一輪にて
11. 黄金の茶室
12. れんと専好
13. 太閤殿下の大茶会
14. こらまた…
15. 花、笑う
16. 最期のもてなし
17. どないならはるんやろ
18. 梅の花
19. 当然の報い
20. 吉右衛門の最期
21. 赦し
22. 花をもって
23. 花戦さ

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Hiroshi Arakawa
Oboe:Ami Kaneko
Clarinet:Yusuke Noda
Clarinet & Bass Clarinet:Yurie Honda
Bassoon:Takaaki Tsuboi
Horn:Jonathan Hammill, Yuta Ohno
Trumpet:Kenichi Tsujimoto
Trombone:Shinsuke Torizuka
Bass Trombone:Ryota Fujii
Timpani:Akihiro Oba
Percussion:Harumi Furuya, Shinya Matsushita
Harp:Ayano Kaji
Piano & Celesta:Takehiko Yamada
Koto:Akemi Yamada, Miho Jogasaki
Strings:E”K”S Masters Orchestra

Recorded at Victor Studio
Mixed at SOUND INN

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada(Sound Inn)
Manipulator:Yasuhiro Maeda

and more…

 

Disc. 久石譲 『家族はつらいよ2 オリジナル・サウンドトラック』

2017年5月31日 CD発売 UMCK-1567

 

2017年公開 映画「家族はつらいよ2」
監督:山田洋次 音楽:久石譲 出演:橋爪功 吉行和子 他

 

 

オープニングから喜劇舞台の幕開け、まるで舞台の緞帳があがっていくようなどっしりとこぶしの効いた「はじまり はじまり 2」。観客たちを呼び集めはじまりを告げ、どんな物語がくり広げられるのか期待を膨らませるメインテーマのモチーフ。

前作ではホンキートンク・ピアノが効果的に使われていたメインテーマ、今作ではその役割がイリアン・パイプスという楽器になっている。アイルランドの民俗音楽などに使われるこの楽器が、今作では強烈なアクセントとなり、新しいカラーとしてメインテーマを新調している。

バグパイプの一種であるイリアン・パイプス。調べてみると、一般的なバグパイプに比べて音量が小さく室内での演奏や他楽器との合奏もしやすい楽器とある。また他のバグパイプは音を止めることができないのに対し、イリアン・パイプスは音を止めることができるため、スタッカートや休符など音楽表現の幅も広いという特徴をもっている。

メインテーマのバリエーションも多彩に収録され、ここまで広がりのある旋律であったことに感嘆してしまう。前作が管楽器やパーカッションを巧みに使用していたのに対し、今作では弦楽器・ハープ・チェレスタといった楽器が表情を豊かにしている。

前作主要テーマ曲のひとつ(前作:「ためらい」「孫」「周造の告白」のモチーフ)は、今作でも引きつがれ装い新たに奏でられている(今作:「憲子と周造」「とちった」「若い二人」)。

映画音楽としては本編の約3分の1につけられた音楽ということで少なめではあるが、その分鳴ったときの相乗効果も高い。またフィクションでありながらファンタジーやラブストーリーとは趣の異なる、リアリティのある喜劇であり起こりうる日常。このあたりも考慮して音楽をあえて減らしていると思われる。物語のリアリティ追求と、音楽によるドラマティックな効果(それによる非現実的効果)を意図的に排除することがこの映画における映像と音楽の合意形成のように。逆説的に考えると、それだけにピンポイントに求められる音楽への要求も高いということになり、それが山田洋次監督の久石譲への確固たる信頼の現れと見ることもできる。

また前作にひきつづきオーケストラ・サウンドではない、アンサンブル・サウンドとなっている点も上に書いた音楽の役割を具現化したときの音楽構成なのだと思う。そんななかでも、前作のホンキートンク・ピアノや管楽器・パーカッションをメインとした編成よりも、今作はより一層の多重奏、多彩なアンサンブルを奏でている。主要役者8名のアンサンブルが前作以上に絡み合い、絶妙なブレンドをみせるように、音楽においても。

ひとつ付け加えておきたいこと。「家族はつらいよ」「家族はつらいよ2」において、久石譲の凄みを感じるのは、映画音楽と効果音の一体化である。映像にマッチングした音楽、動きにシンクロした音楽というものから進化したところ。音楽であり効果音でもあるという映像に必要な音の境界線をとっぱらったような音楽構成。これは旋律というよりも、音そのものや楽器奏法によるところが大きく、またそこにどの楽器を選んでいるかというのが久石譲の凄みである。前作でなぜあそこまで管楽器やパーカッションにこだわった音楽づくりだったのか、それが今作ではどのようにバリエーション豊かに変化しているのか。サンプラーの音も効果的なアクセントとなっている楽曲もある。

最後に。古き良き時代、往年の名作映画を思わせるようなメインテーマ。シンプルでありながら変幻自在な顔をもち、1作目・2作目それぞれ本編にあった表現をしている。役者のアンサンブルと音楽のアンサンブル、シリーズごとの変化を楽しめるのはそう多くないこと。そんな佇まいをもったメロディがこれからパート3以降など新たな装いで聴くことができるなら、まだまだ楽しみのつきない音楽である。

 

追記
CD盤には実際にクレジットにないトラック21が収録されている。これはボーナストラックやシークレットトラックの類と思われる。映画予告編で使われていた音楽をボーナストラックとして収録したのではないかと推測している。トラック20「家族はつらいよ2」の曲のあと約8秒間無音があり、トラック21へとつづいていく(CD盤:トラック20 [3:50]/トラック21 [0:58])。配信版には収録されておらずトラック20も無音時間がないためタイムが異なっている。公式発表は今のところ確認できないが、トラック21は「予告編用音楽」をボーナスとして収録してくれたものでCD盤のみの特典である。ちなみに、メインテーマと主要テーマをあわせた構成でアレンジとしてもどの楽曲とも同一のものではない。

 

 

1. はじまり はじまり 2
2. 日常の朝
3. 夫婦の生き甲斐
4. 車買うの?
5. 父さん怒った
6. 憲子と周造
7. 崩壊!
8. 独身貴族
9. ダンプカー
10. とちった
11. お出掛け
12. 若い二人
13. 旧友
14. 丸田の死
15. 取り調べ
16. 大騒動終了
17. 丸田の部屋
18. 出発
19. 丸田くん、さいなら
20. 家族はつらいよ2
21.

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Jiro Yoshioka
Oboe:Satoshi Shoji
Clarinet:Hidehito Naka
Clarinet & Bass Clarinet:Yuki Sudo
Bassoon:Takaaki Tsuboi
Horn:Chie Matsushima
Trumpet:Masato Sawada
Trombone:Hisato Yamaguchi
Percussion:Tomohiro Nishikubo
Percussion:Mitsuyo Wada
Percussion:Akihiro Oba
Harp:Ayano Kaji
Piano:Febian Reza Pane
Celesta & Sampler:Fuyuka Kusa
Uilleann Pipes:Akio Noguchi
Strings:WATARU MUKAI with friends strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada(Sound Inn)

and more…

 

Disc. EXILE ATSUSHI & 久石譲 『天音』

2017年5月17日 デジタルリリース

 

2017年公開映画『たたら侍』(監督:錦織良成)主題歌

 

EXILE ATSUSHIと久石譲によるコラボレーションは2013年『懺悔』(日本テレビ開局60年「特別展 京都」テーマソング)につづく2作目である。

 

 

EXILE ATSUSHI コメント
■久石譲と楽曲を制作することになった経緯
以前、懺悔という作品でご一緒させていただいた時の衝撃が、いちアーティストとして胸の中にずっと残り続けていて、今回たたら侍の映画の主題歌のお話をいただいた時に、またもう一度、久石さんとご一緒させていただけたら、良いものができるのではないかという想いで、お願いすることになりました。

■久石さんの作った曲を最初に聞いたときの感想
前回の懺悔の時もそうだったのですが、音楽的に卓越し過ぎていて、僕の想像力を遥かに超えたところにゴールがある感じでした。信頼と確信の元に歌詞を綴り始め、その歌を歌ってみた時に初めて、こういう事だったのかと納得させられまして、久石さんの音楽家としての圧倒的な魅力に引き込まれていく感覚でした。

■歌詞に込めた想い
日本独自の文化や歴史など、いろいろなものからヒントを得ています。また音や言葉、記号やマークにはどんな想いが隠されているのか。それらに対する、人間の業や、人々の想い、嘆きは、またどんな意味を持つのか。そして最終的には、人間はどのようにして万物の霊長に成り得ることができるのかを問いかける意味にもなっています。そして何よりも、平和への願いが込めさせていただきました。

■主題歌に決まったときの率直な感想
題材がとても特別なものですし、日本独特なものでしたのですごく責任を感じましたが、同時に使命感みたいなものを感じ制作させていただきました。

■主題歌を通して、映画を観る方に何を感じてほしいか
いりいろなものが便利になった世の中で、僕たち人間たちが、肌で感じて、どんな想いで行動するべきなのか、それを考えなければならない時代が来ているのかもしれないということを、少しでも感じていただけたら、これ以上の幸せはありません。

(公式サイトコメントより)

 

 

 

楽曲を象徴するヴァイオリン。通常の4弦のよりも2本多い6弦エレクトリック・ヴァイオリンである。つややかさとあでやかさをもつその響きは、この作品の崇高で奥深い世界観の核となっている。特徴はアコースティック・ヴァイオリンの優美さに加え、アンプをとおしたディストーション(ひずみ)など表現の豊かさにある。また弦数が多いぶん音域も広くなり、通常のヴァイオリンよりも低い音域が可能となっている。

久石譲が最先端の”現代(いま)の音楽”を発信するコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE Vol.1」(2014)において、ニコ・ミューリー作曲「Seeing is Believing」がプログラムされた。日本では珍しい6弦エレクトリック・ヴァイオリンを独奏に用いた作品で、久石譲はこの演奏会のために楽器を調達している。

翌年「MUSIC FUTURE Vol.2」(2015)では、この楽器に刺激を受け自らの新作「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」を書き下ろし披露。こちらは同名CD作品としてLIVE盤となり、久石譲公式チャンネルでもその斬新な野心作を見て聴いて体感することができる。(※2017年5月現在)

そして、今回ポップス・ミュージックでも響きわたらせてしまった。2014年のそれは同楽器日本初演奏であり、2015年の自作をふくめ6弦エレクトリック・ヴァイオリンを使った作品は世界においても数少ない。ということは、今作「天音」によってPOPS音楽で同楽器をフィーチャーするのは日本初ということになる、と思われる。

 

そんないわくつきの楽器の紹介をしたうえで、「天音」に耳を傾けてみる。

イントロから優美なヴァイオリンの音色、通常のヴァイオリンではなし得ない低音域、そしてザラザラした硬質なディストーション。イントロ数小節で6弦エレクトリック・ヴァイオリンの魅力を伝えきっている。曲の展開は進み中間部ではエレクトリック・ギターと聴き間違うほどの魅惑的なディストーション、エンディングまで一貫して奏でられるその響きは、この作品のもうひとつのコラボレーションと言ってもいいほどである。

そして、対位法的というか対照的なのが、主役であるEXILE ATUSHIの透明感ある包みこむような澄んだ歌声と、久石譲のピアノ。6弦エレクトリック・ヴァイオリンの独特な響きが、結果ふたつの主役を一層引き立たせていて、まさにふたつの白い光のような”天音”を浮かび上がらせているようにすら思う。

付け加えると、6弦エレクトリック・ヴァイオリンはそのものが多重な響きを醸し出している。そのため通常のヴァイオリンと異なり、ビブラートを効かせる奏法をあまりとっていないと思う。太く厚みのある音をまっすぐにのばすことで、ヴォーカルの遠く広がるビブラートとぶつかりあうことがない。ゆっくりと深く波打つヴォーカルのビブラートに改めて感嘆しながら、それを気づかせてくれたのはこの楽器との響きあいゆえ。実は歌曲と相性がいいのか、もちろんそこには表現力に優れた歌い手であることが求められる。それをも見据えた久石譲の音楽構成か、見事である。

小編成アンサンブルも楽曲に彩りをあたえ、アコースティック楽器とエレクトリック楽器の融合は本来容易ではないはずなのだが、そこは上記コンサートもふまえた実演と響きを熟知した久石譲の妙技といえる。

 

ほとんど6弦エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーしたレビューとなってしまったが、それだけの存在感と重要な役割を担っている。それは”あったから使ってみた”のではなく、この楽器でなければならなかった必然性と久石譲の確信を聴けば聴くほどひしひしと感じる。

6弦エレクトリック・ヴァイオリンの特性を知ることで、聴いたことのない響きだけれど得も言われぬ心地のよい響き、ときに尖りときにしなやかに奏でる音色、広がりと深さをもって大きく包みこむ世界観。今まで体感したことのない新しい響きをきっと受けとることができる。

卓越した表現力をもったヴォーカリストとピアノ、そこに拮抗し独特な距離感と溶け合いをみせるヴァイオリン。それぞれ個の個性が強いからこその凛とした絡み合い。共鳴しあう至福を感じる楽曲である。三位一体なのかもしれない。

 

 

2019.4.26 追記

本楽曲初CD化

『TRADITIONAL BEST / EXILE ATSUSHI』CDライナーノーツより

Word:ATSUSHI
Music, Arranged & Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi

Electric Violin:Tatsuo Nishie

Flute:Hiroshi Arakawa
Oboe:Satoshi Shoji
Clarinet:Kimie Shigematsu
Bassoon:Toshitsugu Inoue
Horn:Takeshi Hidaka
Trumpet:Kazuhiko Ichikawa
Trombone:Naoto Oba
Bass Trombone:Ryota Fujii
Percussion:Makoto Shibahara, Akihiro Oba
Piano:Febian Reza pane
1st Violin:Nobuhiro Suyama
2nd Violin:Tshkasa Miyazaki
Viola:Shinichiro Watanabe
Cello:Takayoshi Okuizumi
Contrabass:Tsutomu Takeda
Instruments Recorded by Hiroyuki Akita at Bunkamura Studio
Vocal Recorded by Naoki Kakuta at avex studio
Mixed by Suminobu Hamada at Sound Inn Studio
Mamipulator:Yasuhiro Maeda (Wonder City Inc.)

and more..

 

 

 

 

天音(アマオト) / EXILE ATSUSHI & 久石譲
作詞:EXILE ATSUSHI 作曲:久石譲

 

Disc. 久石譲 『DUNLOP』 *Unreleased

2017年1月21日 TVCM放送

 

ダンロップ(DUNLOP)新CMに久石譲が音楽を書きおろしている。

出演:福山雅治
音楽:久石譲  曲名:DUNLOP

 

テレビCM
・LE MANS V(ル・マン ファイブ)「誕生」篇 15秒
・ダンロップ低燃費タイヤシリーズ「選べるダンロップ」篇 15秒

ラジオCM
・「我が子のための発明」篇 80秒
・「我が子のための発明」篇 60秒
・LE MANS V(ル・マン ファイブ)「誕生」篇 20秒
・選べるダンロップ「ひとりひとりに一番合ったタイヤを」篇 20秒

ダンロップCMギャラリーにてCM動画視聴可能 (※2017年1月現在)

公式サイト:ダンロップタイヤ | ダンロップCMギャラリー

 

 

「音と沈黙」による、今もっとも旬な久石譲ミニマル・ミュージックのかたち。2016年「ミュージック・フューチャー Vol.3」コンサートで世界初演された新作 『2 Pieces for Strange Ensemble』の流れを彷彿とさせる、斬新な楽曲である。

室内アンサンブルの編成ではあるけれど、その響きはクラシックというよりもロックのようなワイルドさ。これもまた上述新作にて追求したサウンドが活かされているように思う。「音と沈黙、躍動と静止、継続と断絶」によっても曲のリズムやグルーヴ感は失われておらず、時間軸としての凹凸感がみえておもしろい。

あえて言うならば、台詞やナレーションも必然的に「音と沈黙」があるわけで、互いの「音と沈黙」で意識が散漫になる危険性はあるのかもしれない。一般的に音楽が通音で鳴っている上に台詞や言葉がのっかる、というものとの違いのことである。そんな事象も折り込み済みで、狙っているのなら、意見するところではない。

一般的にCM音楽に不可欠とも思われるキャッチーなメロディはそこにはない。がしかし、聴こえた瞬間に耳に意識を集中させてしまうほどの、手を止めてしまうほどの強烈なインパクトのある楽曲。一瞬にして日常生活にはない違和感のあるサウンドで、強く印象に刻まれることはもちろん、ヴィンテージ感や高級感といった品格の佇まいすら感じる。

近年、CM音楽においても、メロディー系ではなく本格的なミニマル・ミュージックを投じることがふえた傾向にある。そのなかでも、久石譲が今もなお進化していることを証明する、アヴァンギャルドな楽曲である。

最長80秒を視聴することのできる楽曲。その先の展開や着地も気になる、ぜひフルサイズで聴いてみたい作品である。

 

 

2019.11.1 Update

「Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra」(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.6」コンサート)の第3曲に組み込まれる。

 

 

Disc. 久石譲 『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』

2016年10月21日 CD発売 OVCL-00620

 

『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』
久石譲(指揮) フューチャー・オーケストラ

久石譲が主宰するWonder Land RecordsとEXTONレーベルが夢のコラボレーション!未来へ発信する新シリーズがスタート!

現在、日本を代表する作曲家久石譲と、EXTIONによる夢のコラボレーション。久石譲が2014年に始動させ好評を博す現代の音楽のコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、2015年のコンサートから厳選されたライヴ・レコーディング盤です。ミニマル・ミュージックの代表的作曲家スティーヴ・ライヒ、彼に影響を受けたジョン・アダムズ、久石譲の3人の曲を収録。1970年代から現代にかけての音楽の軌跡、熱量を感じ取ることが出来るでしょう。まさに「新たなる音楽体験」を感じさせる楽曲たちです。また、日本を代表する名手たちが揃った「フューチャー・オーケストラ」の演奏も注目。難易度MAXのこれらの楽曲を、高い技術とアンサンブルで見事に芸術の高みへと昇華していきます。未来へと発信される新シリーズのスタートです。「明日のための音楽」がここにあります。

ホームページ&WEBSHOP
www.octavia.co.jp

(CD帯より)

 

 

解説 小沼純一

このアルバムは、久石譲によるコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」の「Vol.2」(2015)で演奏された作品3つによって構成されています。

コンサート・シリーズは2014年から始まり、「Vol.1」はアルヴォ・ペルトやヘンリク・グレツキなどのヨーロッパの作品を、「Vol.2」ではアメリカ合衆国の作品を中心にプログラムが組まれました。作品は20世紀から21世紀にかけてのものが中心で、いずれも久石譲という作曲家が関心を持ち、また影響を受けた作品です。しかしかならずしもコンサートで、ライヴ演奏でふれる機会は多くありません。録音をとおして知っているだけのおとも多々あります。そうした作品を、このようなかたちでステージにのせ、聴き手の方がたにじかにふれてもらおうという試みが、「MUSIC FUTURE」です。そしてはじめて聴いたけどおもしろい、あるいは、新しい体験となった、そんなことをおもってもらえればいい、そんな意図があるようにおもえます。

アルバムでは「Vol.2」で演奏された5作品のなかから、3曲を収録しています。CDはコンサートとはまたべつの提示ができるメディアです。この選曲は、ある意味、久石譲自身がたつ位置そのものを音楽的に要約しているようにみえます。つまり、1960年代から70年代にかけてアメリカ合衆国で「ミニマル・ミュージック」と呼ばれることになる音楽が生まれる。代表的な作曲家としてスティーヴ・ライヒ(1936-)がいる。つぎの世代はライヒの音楽にふれ、こうした音楽を書いてもいいんだと、ひとつの自由さを得る。それがジョン・アダムズ(1947-)であり、久石譲(1950-)だった──。ただライヒらの音楽をただ真似しているのではなく、次世代はミニマル・ミュージックを音楽的思考の土台にしながら新たな道へと歩み始めます。ここにある3曲は、ライヒの1979/1983年から1992年、2015年と、ある音楽スタイルの軌跡が、ほぼ10年間隔で、提示されている。そんなふうにみることができるでしょう。

 

 

久石譲
《室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra》

コンサート当日、前2014年にひらいた「MUSIC FUTURE Vol.1」でプログラムしたニコ・ミューリー作品でのエレクトリック・ヴァイオリンを自作でもつかってみようと考えた、と久石譲はMCで語っていました。結果的にこの楽器はとてもアメリカ的なひびきであること、それによってこのコンサートがアメリカの音楽を中心にプログラムされている、また同時に、久石譲が自身のうちのアメリカ、アメリカ音楽の影響を確認することになったのだ、とも。実質的には協奏曲(コンチェルト)であるのに、「室内交響曲」というタイトルであるのは、エドゥアール・ラロの有名な《スペイン交響曲》にならってとのことです。

ここで用いられているエレクトリック・ヴァイオリンはすこし特殊で、6弦からなっています。通常のヴァイオリンより低い音域が可能で、また、操作によってエレクトリック・ギターのようなひびきがだせるのが特徴です。エレクトリック・ギターをそのままオーケストラと共演させると、ときに両者のサウンドが調和しないことがあります。しかし、このエレクトリック・ヴァイオリンはアコースティックなところとエレクトリックなところを両方を持つハイブリットな性格によって、またさらにサクソフォンの音色の強調によって、「室内交響曲」を一歩拡張しています。

全体は急-緩-急の3楽章をとります。エレクトリック・ヴァイオリンは室内オーケストラのひびきを外からまわりこむかたちをとることが多く、またアンサンブルのなかではサクソフォンが時折クローズアップされます。特に第3楽章半ばからあとのところでしょうか、こまかい音型がゆきかうなかで息のながいサクソフォンの線は、そこに注目するなら、先のライヒやアダムズとは異なったものとして聴けるかもしれません。

 

スティーヴ・ライヒ
《エイト・ラインズ》

もともとオクテット(八重奏曲)というタイトルで1979年に発表されましたが、後により演奏しやすいかたちに手を加え、1983年に改訂、現在は《エイト・ラインズ》として知られています。全体が5つの部分に分かれたり、とか、70年代半ばくらいにライヒが学んでいたユダヤ教の唱法の影が落ちていたり、とか分析的なことはいろいろあります。ありますけれど、そんなことよりこの5拍子の途切れることないビート感、ドライヴ感をこそ、体感すべきでしょう。そして、2台のピアノそれぞれの短く上下するフレーズ、木管楽器のメロディックなフレーズ、弦楽器の息の長いフレーズ、それぞれどこに耳の視点(聴点?)を置くかで、音楽の聴こえ方が変わってくる、聴き方による音楽の変化をこそ知っていただければとおもいます。

 

ジョン・アダムズ
《室内交響曲》

1992年に作曲、翌年1月作曲者自身の指揮でオランダのデンハーグで初演された作品です。

オーストリア出身で、20世紀の音楽を大きく前進させ、「12音音楽」を創始した作曲家、アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)に《室内交響曲》作品9という20世紀初頭の名作があるのですが、その楽器編成をもとにしながら、金管楽器と打楽器、サンプラーを加えてより現代的なサウンドをつくりだしています。またシェーンベルクが単一楽章であるのに対し、アダムズは3つの楽章(古典的な急-緩-急)に分け、また各楽章にサブタイトル──〈雑種のアリア〉〈バスの歩行を伴うアリア〉〈ロードランナー〉──をつけてもいます。

アダムズ自身はこんなことを言っています。曰く、シェーンベルクのスコアを読んでいたとき、隣の部屋では当時7歳の息子が1950年代カートゥーン(アニメーション)をテレヴィでみていた。そのがちゃがちゃどたばたした音が整然としたスコアにオーヴァーラップしてきたのだ、と。コンサートで久石譲は「おもちゃ箱をひっくりかえしたような」と語っていましたが、打楽器のリズムやリズムと一体化した音色は、管楽器や原画機の複雑な音のうごきがありながら、しっかり聴き手をつなぎとめてゆきます。

ちなみにアダムズは2007年に《室内交響曲の息子(Son of Chamber Symphony)というのも作曲していて、ちょっと紛らわしいので、ご注意のほど。

(こぬま・じゅんいち)

(解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

フューチャー・オーケストラ
Future Orchestra

2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。

”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのもと、久石譲の世界初演作のみならず、2014年の「Vol.1」ではヘンリク・グレツキやアルヴォ・ペルト、ニコ・ミューリーを、2015年の「Vol.2」ではスティーヴ・ライヒ、ジョン・アダムズ、ブライス・デスナーの作品を演奏し、好評を博した。”新しい音楽”を体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。

(CDライナー・ノーツ より)

 

 

久石:
「エレクトリック・ヴァイオリンというのは実は6弦なんですね。ヴァイオリンはふつう4弦ですよね。ソ・レ・ラ・ミなんですけれども、一番低いソの音の五度下のド、そこからまた五度下のファ。ですからあと四度でほとんどチェロの帯域カバーですね。という6弦のエレクトリック・ヴァイオリン、どうしてもこの6弦使ったヴァイオリンと室内オーケストラの曲を書きたいと思って書いた曲です。」

西村:
「拝聴していて、前半の部分は第一期の後のいわゆるポスト・ミニマルわりに自由なストーリー性をもっていて、むしろミニマルで蓄えられたような非常に魅力的なエレメントがたくさんあるんですけれど、組み立てとしては自由なストーリー性があるような感じですよね。ところが、後半になると再び一種そのミニマルの縛りとしてのシングルラインが現れてきますよね。ここはだから、ポスト・ミニマルのさらにポストという感じが非常にするわけですよね。」

久石:
「いやあ、もうねえ、西村さんのようにすごく尊敬してる作曲家にこうやって一生懸命聴かれるととても緊張するんですけどね(笑)。」

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

 

「ミュージック・フューチャー Vol.2」のために書き下ろされた室内交響曲。6弦エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーし、全3楽章で構成された作品(約30分)。

第1楽章の冒頭から衝撃が走る。まさにエレクトリック(電子的)な響き。ペダル式エフェクター/フットコントローラーを駆使して、音を歪ませるディストーションを利かせたり、それはまさにロックのよう。さらにはルーパーと言われる、今演奏したプレイをその場でループ演奏させる機能も使い、ループさせたフレーズに新しい旋律を重ねていくという技法も。これがヴァイオリンの音か、ヴァイオリンの演奏かと常識を覆される。エレクトリック・ヴァイオリンはひずませた音色のなかにもヴァイオリンならではの艶やかさがあるから不思議。尖った音色のなかにも心地よさをかねそなえた響き。ソロ奏者のすぐ後ろに置かれたギターアンプから響く硬質なヴァイオリンとアコーステックな管弦楽の音色とが、違和感なく絡みあう一体感を演出。

耳に残りやすい親しみやすい旋律やモティーフがある作品ではないが、そこは”調性とリズム”を重んじるだけあって、魅惑的な世界へと惹き込まれる。途中、管楽器奏者たちが、楽器からマウスピースだけを外し、口にくわえて吹くというおもしろい一面も。歌っているのか吹いているのか、声なのか音なのか、そんな演出も。

第3楽章ではリズム動機も際立っていて、例えば初期作品の「MKWAJU」収録楽曲たちを思わせるような、音が1つずつ増えていく減っていく、1音ずつズレていくというミニマル的要素もふんだんに盛り込まれ、クライマックスへと盛り上がっていく。

たとえば「DA・MA・SHI・絵」や「MKWAJU」という楽曲は、全体がリズムによって構成されている”動”なのだが、「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」で新たに魅せた久石譲のミニマル的手法は、”動”だけで突き進むのではなく、”静”パートもあり、緩急とメリハリがそこに生まれている。そのためより一層”動”パート(ミニマルなリズム動機)が浮き彫りになってくる、そんな新しい境地を開拓した作品ではないか。

ソロ奏者にとってはエレクトリック・ヴァイオリンを手(弦/弓)で足(フットコントローラー/エフェクター)で操るという難易度の高い演奏を求められる作品である。エレクトリック・ヴァイオリンという独奏楽器を主役にすえた実験的要素の強い斬新な野心作となっている。

 

 

 

 

 

 

久石譲 Presents MUSIC FUTURE 2015 CD

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための 室内交響曲 (2015)
Chamber symphony for Electric Violin and Chamber Orchestra
1. Mov.1
2. Mov.2
3. Mov.3

スティーヴ・ライヒ
Steve Reich (1936-)
4.エイト・ラインズ (1983) Eight Lines

ジョン・アダムズ
John Adams (1947-)
室内交響曲 (1992)
Chamber Symphony
5. 1 Mongrel Airs
6. 2 Aria with Walking Bass
7. 3 Roadrunner

久石譲(指揮)
フューチャー・オーケストラ
2015年9月24、25日 よみうり大手町ホールにてライヴ録音

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Future Orchestra
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 24, 25 Sep. 2015

Produced by Joe Hisaishi
Recording & Mixing Engineer:Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineer:Takeshi Muramatsu
Mixed at EXTON Studio, Tokyo
Mastering Engineer:Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)
Cover Design:Yusaku Fukuda

and more…

 

Disc. 久石譲 『Deep Ocean』 *Unreleased

2016年8月28日 TV放送

 

『NHKスペシャル シリーズ ディープ オーシャン 潜入!深海大渓谷 光る生物たちの王国』

音楽:久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

全3回シリーズ ※第二集、第三集は来年夏以降の放送を予定

 

 

久石譲インタビュー

「深海の中でこんなに光るものがあるんだっていうのは驚きでしたよね。発光生物だとか、深海の映像がとても強いすばらしい映像だったので、イメージはすごいつけやすかった。作曲も実はそんなに時間かからないで一気に作れた。全部ミニマル・ミュージックでやったというのは初めてで、うまくいくかどうか非常に不安だったんですけども、生の音で聞いていけばいくほどこれで良かった、おそらく映像ともかなりマッチングするんじゃないか、そこがやっていてすごくうれしかったですね。」

■久石譲インタビュー動画(約2分)
https://www.nhk.or.jp/nature/video/43426.html (2016.8現在)
久石譲インタビューおよびレコーディング風景

より書き起こし

 

 

番組テーマ音楽は緻密で躍動感のあるミニマル・ミュージックで構成されている。管弦楽の各パートや楽器特色を活かしたアンサンブルに近いシャープでソリッドなオーケストレーションが印象的である。番組BGMも数曲書き下ろされており、メインテーマをモチーフとしたり派生させたり、と統一感のある楽曲群が並ぶ。いずれもキャッチーなメロディを持たない、ミニマル手法であるところに注目したい。

2013年TV放送され話題となった「深海プロジェクト」。その最新シリーズとなる「ディープオーシャン」。スタッフが再集結し企画された今プロジェクトには、前回音楽担当した久石譲も名を連ねることになった。そして、『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』で使われた主要楽曲たちも、「ディープオーシャン」では変奏ヴァージョンとして披露されている。こちらもまたメロディや旋律を極力抑えたアレンジとして手が加えられている。またシンプルでソリッドが楽器編成となっている。

「ディープオーシャン」メインテーマと本編BGMの書き下ろし、「深海の巨大生物」からの再構成、新旧あわせて織りこみながらも、今最も旬な久石譲音楽(楽器編成、奏法、構成)が堪能できる作品となっている。

次集以降とあわせて、サウンドトラック盤の発売に大いに期待が高まる作品である。

現時点で未CD化、曲名不明である。

 

 

 

2017.1 追記

2016年12月31日開催「久石譲ジルベスターコンサート2016」にて世界初演。

Deep Ocean *世界初演
1.the deep ocean
2.mystic zone
3.radiation
4.evolution
5.accession
6.the deep ocean again
7.innumerable stars in the ocean

 

久石譲コメント

「「Deep Ocean」は今夏NHKでオンエアーされたドキュメンタリー番組のために書いた曲を今回のジルベスターのためにコンサート楽曲として加筆、再構成しました(リハーサルの10日前に完成、相変わらず遅い)。ですから世界初演です。7つの小品からできており、ミニマル特有の長尺でもないので聴きやすいと思いますし、ピアノ2台を使った新しい響きは僕自身ホールで聴いてみたかったのです。でも真冬になぜ深海?寒そうなどといってはいけない、あと半年で夏がきます。」

(「久石譲ジルベスターコンサート パンフレットより)

 

レビュー

本公演のサプライズ的演目でした。まさかこの作品が聴けるとは、しかも小編成オーケストラとピアノ2台という大掛かりなステージ配置変更をしての演奏です。「ミュージック・フューチャー vol.3」でも別新作をピアノ2台と室内アンサンブル編成で聴かせてくれたばかりです。ここは小ホールとは違い大ホール。ステージ前面ギリギリのところでセッティング、指揮者も奏者も前面中央に密集、少しでも微細な響きが客席奥や2、3階席まで届くようにと配慮されてのことかもしれません。

ミニマル・ミュージックの心地よいグルーヴ感と、神秘的な世界観。多彩な打楽器や管楽器の特殊奏法などで、目をとじて耳をすませたくなる深海の世界が広がっていました。かなり忘れたくない余韻で気になったので、録画していたTV番組を見返してみました。「ダイオウイカ」シリーズからではなく、「ディープオーシャン」として新しく書きおろした音楽は、ほぼ演奏されたんじゃないかなあ、と記憶をふりしぼっています。2017年夏には第2回以降のTV放送も予定されています。サウンドトラックも発売も待ち遠しい作品です、いやホントしてくれないと困る作品です(強く)。

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2017.7 追記

2017年7月16日(日)21:00~21:49 NHK総合テレビ
第2集「南極 深海に巨大生物を見た」

音楽:久石譲
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

 

TV放送鑑賞後レビュー。なんと驚いたことに第2集用に新曲が数多く書き下ろされている。世界観は第1集を引き継ぎ、小編成ながら緻密な音楽構成を充分に堪能することができる。さらに驚いたことに新曲ではサンプラーを使用した電子音も巧みに織り込まれている。近年ではオーケストラ楽器による生音にこだわった音作りがされてきたなか、2017年のCM曲(ダンロップ・伊右衛門Newヴァージョン)などに目を向けると、エッセンスやアクセント、また隠し味としての電子音を聴くことができる。これは、おそらく2014年からつづいている”現代の音楽”を届けるコンサート企画「Music Future」を経ての結実のように思われる。現代音楽家の他作はもちろん、同演奏会で初演される久石譲新作にも楽器も楽器編成も垣根を越えた新しい音世界が広がっている。「2 Pieces for Strange Ensemble」(2016年 同 Vol.3コンサートににて初演)もそういった点と線の流れにある。

コンパクトな室内楽オーケストラでソリッドながら広さ深さのある立体的な音楽。既存曲のバリエーションも違った表情をみせる。第1集と路線を同じく明確なメロディは持たない楽曲が際立っている。それはイメージをかきたて想像を広げるうえに、深海の奥深い神秘な世界観を演出している。

メインテーマは第1集と同じものが堂々と君臨しているが、改めて聴くとミニマル・ミュージックの緻密なズレと楽器セクションごとの交錯がすばらしい。TV音源ですらステレオで聴くとピアノ2台もきれいに左右から、弦楽セクションも右と左で交錯していることがわかる。エンターテインメント音楽(TV番組メインテーマ)としては贅沢なほどに作り込まれた完成度。久石譲オリジナル作品という位置づけでもまったくおかしくない最新の久石譲がたっぷりつまった名曲。

第3集も新曲があるのか待ち遠しいし、W.D.O.2017コンサートでのプログラム予定「Deep Ocean」も期待が高まる。「ジルベスターコンサート2016」で披露されたのは第1集からの音楽を演奏会用に再構成したもの。もちろんこれが聴けると思うだけでも心躍るし、第2集からのサプライズなんてあったらこれまた驚かされる。いずれにしてもコンサートプログラム大歓迎の作品。

またこの極上のミニマル・ミュージックはコンサートで体感することと、緻密なオーケストレーションの結晶をCDステレオ音源で聴けてこそ!第3集(8月放送)で今シリーズは完結予定であるけれど、ディープオーシャン・サウンドトラックが出るまではファンとしては完結しない!こんな傑作がCD化されないと思うだけで…。楽器ごとの音もおもしろい、決して飽きるとは無縁な聴く人色に染まってくれる楽曲たち。この至福の音楽世界にどっぷりとつかりたい。最高音質で。

 

 

 

2017年8月27日(日)21:00~21:49
第3集「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」

 

なお、2016年TV放送シリーズ第1回はDVD/Blu-ray化され発売されている。

 

 

 

2017.8 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」にて2楽曲を追加した9つの小品からなる作品としてリニューアル初演。

Deep Ocean
1. the deep ocean
2. mystic zone
3. trieste
4. radiation
5. evolution
6. accession
7. the origin of life
8. the deep ocean again
9. innumerable stars in the ocean

 

久石譲コメント

「Deep Ocean」は同名のNHKドキュメンタリー番組のために書いた曲をコンサート楽曲として加筆、再構成したものです。去年の大阪ジルベスターコンサートで初演しましたが、今年の夏に最終シリーズとしてオンエアーされる楽曲を新たに加えてリニューアルしています。ミニマル特有の長尺ではないので聴きやすいと思いますし、ピアノ2台を使った新しい響きをお楽しみください。

 

レビュー

2016年から2017年にかけて全3回シリーズで放送される「NHKスペシャル シリーズ ディープオーシャン」のために書き下ろされた楽曲を演奏会用にまとめたものです。2016年大晦日ジルベスターコンサートで事前予告なく初披露されサプライズとなりましたが、今回「3.trieste」「7.the origin of life」が追加され9つの小品からなる作品へと再構成されています。久石譲の最も旬ソリッドなミニマル・ミュージックが堪能できる作品です。

小編成オーケストラとピアノ2台という大掛かりなステージ配置変更をしての演奏は、楽器ひとつひとつの微細な音、普段なかなか見聴きできない打楽器群、特殊奏法による音色のおもしろさ、ミニマル特有のズレをあますことなく体感できる贅沢な音空間です。冒頭から一瞬で神秘的な深海の世界へと誘ってくれます。

気になる追加された2楽曲は、どうもコンサートで初めて聴くような。7月にオンエアされたばかりの第2集からの音楽ではなく、8月にオンエア予定の第3集からのものかもしれません。「3.trieste」は明るく清らかなミニマル音楽だった印象で、「7.the origin of life」は生命の起源にふさわしく音楽の起源バロック音楽まで遡ったような優美な旋律だった印象。第2集はTV放送後何回もリピートしています、たぶん流れていなかったと思います。

エンターテインメント音楽(TV番組メインテーマ)としては贅沢なほどに作り込まれた完成度、楽器編成としても意欲作。久石譲オリジナル作品という位置づけでもまったくおかしくない最新の久石譲がたっぷりつまったメインテーマをはじめ、久石譲独特のミニマル・グルーヴを感じる楽曲群。TVでなんとか耳をすませ、コンサートで臨場感たっぷりに体感し、それでファンとして終われるはずがありません。もしオリジナル・サウンドトラックが発売されたとき、それは久石譲ミニマルアルバムという肩書きでもおかしくない逸品ぞろいです。「これサントラのクオリティ超えてるよね!久石さんのオリジナルアルバムかと思った!」なんて言いたい、そんな日がきっと訪れますように。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2017.9 追記

久石譲インタビュー

「やっぱり人間が住む世界とはちょっと違いますよね。だから「異空間」という、そういう感じを音楽でも表現できたらいいかなという気はしてましたね。6500m 7000m 海の底っていうのはすごいわけですよね。そういうところにいる生物、それを少し音楽でも手助けしてそういう雰囲気が出せるといいなと、そう思いました。」

「僕は本来、現代音楽として「ミニマルミュージック」というのをやっているので、その方法論をかなり思いっきり導入したというか、同じフレーズを何度も繰り返すような方法で、たぶんあまりテレビの番組でこういうものを音楽で起用することはないと思うんですけれども、結構実験的にそれをやらせてもらって、音楽的には非常に満足した仕事をさせていただいた。」

「最初のダイオウイカの時から始めて、そこで作ってきた音楽もだんだん回を重ねるごとに進化してきていて、とても映像との関係性も含めて新鮮なものができたと思うので、ぜひ皆さん楽しみにしていただきたいと思います。」

(久石譲さん「超深海は人が住む世界ではない、異空間」インタビュー~NHK公開動画より 書き起こし)

 

(動画よりキャプチャ)

 

 

 

 

レビュー

8月27日放送、第3集「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」を観て。最終回にあたる第3集でも新たな書き下ろし曲満載。「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2017」で披露された追加楽曲「3.trieste」「7.the origin of life」は、この第3集からのものでありTV放送に先駆けてコンサート初演であったことが確認できた。

第2集でもそうだったように、第3集新曲においてもオーケストラサウンドだけでなく、デジタルサウンドの比重が大きく多彩な音色を聴くことができた。今までにはない音や使い方をしていたのが興味深い。それは「NHK人体」シリーズなどでも堪能できる従来の久石譲デジタルサウンドではない。ラテンパーカッションやヴォイスをシーケンスしたような音ではない、これまでとは異なる種類の電子音。シンプルであり無機質であるといえるかもしれない。たとえばそれを聴いて懐かしさや情感をおぼえるようなことはない、同時にそれはポップス色を消す・エンターテイメント性を消すという相反するけれども確信めいた狙いも感じる。

2016年10月開催「ミュージック・フューチャー Vol.3」コンサートにて、新作オリジナル作品「2 Pieces for Strange Ensemble」が初演された。そのときの久石譲解説に「ニューヨークのSOHOでセッションしているようなワイルドなサウンド(今回のディレクターでもあるK氏の発言)を目指した、いや結果的になりました」とあったのを思い出した。デジタル音として求める音の志向性が変化していることを感じとれると同時に、それはオーケストラや生楽器というアコースティック音との融合においても、着実に進化しているのかもしれない。

そう想いめぐらせると、ますますこの「ディープオーシャン」シリーズのために書き下ろされた楽曲たちは、エンターテイメント音楽と久石譲オリジナル作品のクロスオーバー的ポジションが色濃く浮かびあがってくる。全3回放送のために作られた楽曲はおそらく15~20曲近くになるのではないか。CD盤1枚に完全網羅収まるか溢れるほどの質と量。ぜひ一旦の完結をみたこのタイミングにオリジナル・サウンドトラック盤のリリースを強く願っている。

メインテーマの別バージョンも第3集では聴くことができる。それはストリングス・パートを抜いたものもしくはそれぞれの楽器バランスをMIX調整したものなのか、変奏バージョンとして新たに構成されたものなのか。木管楽器が主体となったミニマル・サウンドで、これまた格別新しい表情を見せてくれる。バリエーション豊かなメインテーマの全バージョン全貌も気になってやまない。

 

 

第2集・第3集は、2017年11月DVD/Blu-ray化発売予定
(久石譲インタビュー動画も特典映像 収録予定)

 

 

2017.12 追記

 

なおこの放送回は2018年5月DVD化されている。

 

 

 

2018.6 追記

6月25日~29日ディープオーシャン関連番組が放送された。そのなかでも「ディープオーシャン 絶景 南極の海」(25日放送回)は30分間にわたって久石譲音楽とテロップのみによる放送という貴重な回となった。ナレーションなしで久石譲の音楽をたっぷりと堪能することができる。選曲はおなじみの深海シリーズ・ディープオーシャンシリーズはもちろん、これまでに聴いたことがない新曲もあったように思う(以後4回も同じく)。TV放送ながら音質もよく映像は既出からの再編集ではあるが、サウンドトラック盤がいまだ世に出ていない現状、永久保存版の放送なのは間違いない。

シリーズ・ディープオーシャンは、今後もつづくことを予感させる関連番組。そしてシリーズ完結を迎えるそのとき、サウンドトラックも発売されるのであろうと期待と希望がふくらむ。

 

 

 

 

 

2018.8 追記

久石:
ドキュメンタリーは個人的に大好きなんですよ。ディープオーシャンの話をいただいて、深海シリーズですね。すごく宇宙と同じぐらい海の中って広がりがあるんだなというので。どの作品も一生懸命作りますけれども、これももちろん一生懸命作って。ディープオーシャンは最終シリーズになるのかな、これに関していうと、初めてと言っていいぐらい全編ミニマルで推したんですよね。テーマのところから全部ミニマルで推した。深海シリーズの1、2はちゃんとしたメロディの普通だったんですが、ディープオーシャンの最後のシリーズに関しては完全にミニマルで推したんですよ。それがね、自分が想像した以上にナレーションといろんな映像とのマッチングがすごく良かったんですよ。なかなか自分の新しい挑戦がね、ちゃんとかたちになるケースって少ないんですけど、これはすごくかたちになった。やったあ!これで新しい音と映像の世界ができた!これからいっぱいそういう注文くるかなあと思ったけど1回も来ないねえ(笑)。なんかこうミニマルの仕事いっぱい来るかなあと思ったけど、なんもこないです(笑)。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

2019.8 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」にて披露。

Deep Ocean 【B】
2017年コンサートでも披露された作品。ピアノ2台をオーケストラが囲むというなかなかお目にかかれない編成の魅力。音階をもったカウベル(チューンドカウベル)や珍しいパーカッション群、いつもの楽器が特殊奏法で効果音のようだったりと、生楽器だけで多彩な音世界を魅せてくれる作品です。今回編成が少し大きくなっていました。弦14型(14.12. ~ 7.)と通常オーケストラサイズ、音やフレーズが追加されていたり、厚みが増していたり。……でもこれは、もしかすると編成が変わったことでのバランスの変化、今まで聴こえなかった音が聴こえてきた……気のせいかもしれません……内心気のせいだとは思っていない自分がいますけれども。テレビサントラはまだかな、コンサート音源はまだかな、とずっと追っかけている作品です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

NHKスペシャル

 

Disc. 久石譲 『Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE』 *Unreleased

2016年7月29日 世界初演

 

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE

宮崎駿監督が構想16年、製作日数3年を費やして完成された『もののけ姫』から。タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。そしてアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせていくうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める。

本日世界初演される「Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE」は、昨年初演された「Symphonic Poem NAUSICCÄ 2015」に続き、宮崎監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾。楽曲構成は次の通り。まず、アシタカが登場するオープニング場面の「アシタカせっ記」。アシタカがタタリ神と死闘を繰り広げる場面の「TA・TA・RI・GAMI」。大カモシカのヤックルに跨ったアシタカが、エミシの村から西の地に向かう場面の「旅立ち」(ここで「もののけ姫」のメロディーが初めて登場する)。負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが、森の精霊コダマと遭遇する場面の「コダマ達」。傷ついたアシタカを森のシシ神に癒やしてもらうため、サンがアシタカをシシ神のもとに連れて行く場面の「シシ神の森」。サンの介抱によって体力を回復したアシタカが、人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍う場面で流れる主題歌「もののけ姫」(本日は、ソプラノ歌手によって歌われる)。エボシ御前とサンの争いを仲裁したアシタカが、自ら負った瀕死の重症を顧みず、サンを背負って森に向かう場面の「レクイエム」。そして、久石のピアノ・ソロが登場する「アシタカとサン」は、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽である。

(楽曲解説:前島秀国 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

 

 

Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE 【A】
スタジオジブリ作品の交響組曲化シリーズ第2弾です。まずは作品の軌跡を紐解きます。

2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

 

『交響組曲 もののけ姫』(1998)
映画公開翌年、久石譲がチェコ・フィルハーモニー管弦楽団とともに完成させた作品。サウンドトラック盤の楽曲群を、映像やストーリーから解き放たれた音楽作品へ再構成した、もののけ姫交響組曲全8章です。今回の2016年版の原型ともいえるものです。あえて記すと、「もののけ姫」も「アシタカとサン」もフル・オーケストラによるインストゥルメンタル・ヴァージョンであり、2016年版 d)コダマ達 は、未収録楽曲でこのときには構成されていません。交響組曲もののけ姫歴史の始まりであり骨格をなす50分大作。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
f) もののけ姫 (inst.)
e) シシ神の森
g) レクイエム
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『交響組曲 もののけ姫』

 

『WORKS II』(1999)
『交響組曲 もののけ姫』から4楽曲を選りすぐり、短縮なく忠実に再現したLiveヴァージョン。

a) アシタカせっ記
f) もののけ姫 (inst.)
b) TA・TA・RI・GAMI
h) アシタカとサン (inst.)

久石譲 『WORKS2』

 

『真夏の夜の悪夢』(2006)
W.D.O.一夜限りのスペシャルコンサートを収録したLiveヴァージョン。『交響組曲 もののけ姫』より3楽曲を抜粋再構成した《もののけ姫組曲》として約8分半の作品に。主題歌の旋律はヴァイオリンをフィーチャー。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (inst.)

久石譲 WDO 『真夏の夜の夢』

 

『久石譲 in 武道館』(2008)
『真夏の夜の悪夢』で披露した組曲構成をほぼ継承したLiveヴァージョン。主題歌が林正子さんのソプラノによって歌われました。3楽曲すべてに迫力のあるコーラスが編成されています。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo)
*a) ~ f) with Chorus

またアンコールに、合唱版が初披露され大きな話題となりました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

『The Best of Cinema Music』(2011)
『久石譲 in 武道館』を継承した構成で、主題歌は英語詞によるヴォーカル・ヴァージョンが披露されています。合唱編成あり。東日本大震災のチャリティーコンサートを収めたLiveヴァージョンです。

a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
f) もののけ姫 (vo) English ver.
*a) ~ f) with Chorus

『久石譲 in 武道館』での記憶が甦る日本語合唱版も披露されました。
h) アシタカとサン (chorus)

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

 

 

以上、《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》の軌跡をたどりました。

 

 

《Symphonic Suite PRINCESS MONONOKE》2016年版
a) アシタカせっ記
b) TA・TA・RI・GAMI
c) 旅立ち
d) コダマ達
e) シシ神の森
f) もののけ姫 (vo)
g) レクイエム
h) アシタカとサン (vo)

2016年版では、f) もののけ姫 でのソプラノ歌手にくわえ、h) アシタカとサン においても久石譲によるピアノ演奏とソプラノ歌手による歌唱でフィナーレを迎えます。どちらも日本語詞で歌われ、h) アシタカとサンは『久石譲 in 武道館』(2008)の同歌詞(作詞:麻衣)です。d) コダマ達 は、これまでサウンドトラック盤のみに収録されていた楽曲で、太古の森をオーケストラによる弦楽ピッツィカート・木管・鍵盤打楽器・打楽器を中心に表現されていました(サウンドトラック盤はオーケストラ+シンセサイザープログラミング)。

a) アシタカせっ記のオープニングからすでに高揚感はピークに達し、b) TA・TA・RI・GAMIに象徴されるけたたましい金管と和太鼓の響きに圧倒され、久石譲ファンのなかでは秘めたる名曲として名高いc) 旅立ち もめでたく交響組曲に組み込まれました。e) シシ神の森では緊張感と威厳のある重厚さに、コントラバスなどの弓を弦に強くぶつけて発せられる効果音的演出。g) レクイエムは、『交響組曲 もののけ姫』(1998)収録の同曲が、あますところなく盛り込まれていました。曲後半はサウンドトラック盤にはない新たに築かれた世界観であり、それが2016年版に引き継がれたことは、もののけ姫の世界を一層壮大にしています。

久石譲が宮崎駿監督との約30年の歴史を経て、新たに取り組んでいるジブリ交響作品シリーズ。国内外からのニーズに応えるべく楽譜出版も並行される同企画は、まさに久石譲が未来へつなげる音楽と言えます。ジブリ作品は日本屈指のエンタテインメントであり、やはりそこには歌の持つ力が重要視されているようにも思います。聴かれつづけること、演奏されつづけること、そして歌い継がれること。久石譲が古典的オーケストラ編成に固執することなく、あらゆる独奏楽器・特殊奏法、そして歌による声や歌詞。音楽的素材を総動員することで、もうひとつのジブリ作品を築きあげる。豊かな表現、巧みなオーケストレーション、そして作品構成力。これは総決算とは決して言いたくない、今なお進化しつづける久石譲音楽です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2018.10 追記

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」にて 交響組曲「もののけ姫」2021 として構成楽曲新たに披露された。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

1997年のアニメーション映画「もののけ姫」に書いた音楽をもとに交響組曲として再構成した。数年前にW.D.O.で取り上げたのだが、何かしっくり来なかったので、今回再チャレンジした。

大きく変えた箇所は新たに世界の崩壊のクライマックスを入れたこと、それとスタジオジブリフィルムコンサート世界ツアーで使用しているオーケストレーションを関連楽曲に導入したことなどである。再構成したことでより宮崎さんが目指した世界に近づけたように思え、僕は満足している。

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・パンフレットより)

 

構成楽曲およびレビュー

 

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

もののけ姫 タイトルバック

 

Disc. 久石譲 『Life is』 *Unreleased

2016年7月29日 世界初演

 

エリエールブランドの大王製紙株式会社は、久石譲書き下ろしによるエリエールブランドテーマ曲を制作。当社では初めてとなる。また、同楽曲は7月29日に長野から始まる「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」において初披露。大王製紙エリエールは特別協賛をつとめている。

 

 

Life is

エリエールのブランドテーマ曲。本公演で初披露される「Life is」は、軽やかなメロディーが”Life”のように、やさしく、そして力強く躍動する。

(楽曲解説:前島秀国 ~「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2016」コンサート・パンフレットより)

 

Life is
とてもクラシカルな軽やかな旋律、バロック・古典音楽のような清いシンプルさ。主題を木管や金管が奏であいながら、弦楽やパーカッションを含めて壮大になっていきます。とても清涼感のある佳曲です。これがCM曲でもないブランドイメージ曲ですから、贅沢の極みですね。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2016.9.14 追記

9月21日~ CMオンエアスタート
「3日目の朝」篇

今回のTVCMの音楽は、作曲家 久石譲さんが書き下ろしたエリエールのブランドテーマ曲「Life is」をTVCM版として特別にレコーディングした曲です。

 

 

2016.9.21 追記

公式サイト:エリエール |CMライブラリ にてCM動画公開 (※2016.9.21現在)

  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 15秒
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 30秒
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 メイキング 1分
  • elis 朝まで超安心  「3日目の朝」篇 メッセージ 30秒 (有村架純さんコメント動画)

 

 

2016.11.14 追記

 

 

エリエール CM 久石譲 有村架純

 

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

2016年7月13日 CD発売 UMCK-1545/6
2016年7月27日 LP発売 UMJK-9062/3(完全限定生産)

 

大迫力のコンサート「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2015」を完全収録!壮大な交響詩として生まれ変わった完全版「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」も初音源化!

戦後70周年の特別な年に開催された「久石譲&W.D.O.2015」。「The End of the World」(声楽と管弦楽のための)+(久石 譲リコンポーズド「The End of the World」-ヴォーカルナンバー 「この世の果てまで」)の壮大な交響作品をはじめ、日本への想いを込めて書き下ろした「祈りのうた」(ピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版)、そして長年の時を経て壮大な交響詩として生まれ変わった「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」(映画『風の谷のナウシカ』より)の完全版が満を持して音源化。

根強いファンをもつ「il porco rosso」「Madness」(映画『紅の豚』より)、「Dream More」(サントリー ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム CMテーマ曲)、さらにアンコール曲「Your Story 2015」(映画『悪人』主題歌より)、「World Dreams」(W.D.O.テーマ曲 合唱付き)まで約2時間を超える迫力のコンサートの模様を完全収録!

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

アルバム『The End of the World』に寄せて

鎮魂の鐘で始まり、希望の鐘で終わる──。2015年8月に開催された久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)の全国ツアー(以下、W.D.O.2015)と、その演奏曲を完全収録した本盤『The End of the World』の内容を要約するならば、ズバリその一言に尽きる。戦後70周年という特別な年にふさわしい、練りに練られたプログラム。ただし、そこにたどり着くまでは、約1年にも及ぶ準備期間と、絶え間ない試行錯誤の繰り返しを必要とした。

2014年、すなわちW.D.O.結成から10年目の節目の年、久石は3年ぶりのW.D.O.のコンサートを指揮した。「ジャンルにとらわれず魅力ある作品を多くの人々に聴いてもらう」という結成当初からのコンセプトはそのままに、10年の間に飛躍を遂げたW.D.O.はポップス・オーケストラというカテゴリーの枠を大きく越え、”本物の音楽”を志向するオーケストラに成長していた。しかもW.D.O.は、日本人にとって特別な意味をもつ夏-広島・長崎の原爆投下と8月15日の終戦記念日を含む夏-という季節に限定してコンサートを開催する。そこで久石は、W.D.O.2014のテーマを「鎮魂の時」と位置づけ、クシシュトフ・ペンデレツキ作曲《広島の犠牲者に捧げる哀歌》、J・Sバッハ作曲《G線上のアリア》、それに太平洋戦争に関連する久石の映画音楽作品-アルバム『WORKS IV』にも収録されている《ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」》《「風立ちぬ」第2組曲》《小さいおうち》の3曲-を演奏した。このW.D.O.2014の演奏会は大きな反響を巻き起こし、演奏終了直後、久石は聴衆の前で翌年のW.D.O.ツアー開催を宣言した。久石とW.D.O.が提示したメッセージが見事に伝わり、これまでになかったようなシリアスなプログラムでも聴衆に受け入れてもらえる、という確信が得られたからである。

その翌月、久石は30年来の夢だった「現代のすぐれた音楽を紹介する演奏会」、すなわち「Joe Hisaishi presents MUSIC FUTURE」第1回演奏会(MF Vol.1)を開催し、かねてから彼が敬愛するホーリー・ミニマリズムの作曲家、ヘンリク・グレツキとアルヴォ・ペルトの作品を演奏・紹介した。祈りに満ちた彼らの音楽は、第2次世界大戦のホロコーストの悲劇や、冷戦時代の恐怖政治の抑圧と密接な関わりを持っている。ゴレツキとペルトの演奏は、来たる2015年にやってくる戦後70周年を久石に強く意識させることになった。

MF Vol.1の演奏会が成功裏に終わったその夜、久石は早くもW.D.O.2015の実現に向けて構想を練り始め、プログラムのテーマを「祈り」とする基本方針を固めた。ツアー開催地には、久石の強い希望で広島と仙台が含まれることが決まった。言うまでもなく、2015年の原爆投下70周年と、2011年東日本大震災から立ち直りつつある東北地方を意識しての決定である(奇しくも広島公演は、8月6日の原爆の日に開催されることになった)。その際、久石が強調していたのは「単に”追悼”や”鎮魂”を掲げるのではなく、そこから先の未来に向けたメッセージも伝えなくてはならない」という点だった。それが出来なければ、W.D.O.は真の意味で「ワールド・ドリーム」を名乗る資格がない──そのような強い決意のもと、久石はW.D.O.2015のプログラミングに着手した。

プログラムの中で最初に決まったのは、《Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015》である。久石の映画音楽作品、特に宮崎駿監督作品のための音楽は、日本のみならず海外でも演奏頻度が飛躍的に高まり、ここ10年は久石以外の指揮者に演奏を委ねる機会も増えてきた。そこで久石は、宮崎作品のオーケストラ譜を完全版(Definitive Edition)の形で整え、W.D.O.で順次初演していくという計画を立てた。その先陣を切る作品としては、やはり『風の谷のナウシカ』がいちばんふさわしい。宮崎監督と久石が初めてタッグを組んだ記念すべき第1作という歴史的意義に加え、『ナウシカ』が描いている”破壊と再生”というテーマがW.D.O. 2015のプログラムにふさわしいと、久石は判断した。

では、他の曲をどうするか? どうしたら、戦後70周年にふさわしく、かつW.D.O.らしいプログラムを組み立てることが出来るか? ここから、久石の長い格闘が始まった。ある段階では、第2次世界大戦の戦没者や犠牲者のために書かれたクラシック曲、あるいはもっと広い意味で”追悼”をテーマにしたクラシック曲なども、演奏の可能性がかなり真剣に検討された。しかしながら、W.D.O.は既存の常設オーケストラと異なり、クラシックだけを演奏する団体ではあに。レクイエム(鎮魂ミサ曲)のような作品ばかり並べた”追悼演奏会”にしたのでは、W.D.O.らしさが失われてしまう。そうは言っても、W.D.O.2015はヒロシマと東北に向けたステートメントをきとんと伝えなくてはならない──。このような雁字搦めの状況の中、ありとあらゆる可能性が候補に挙がり、また破棄されていった。

そうした中から生まれてきたのが、久石が2008年に作曲した《The End of the World》を、W.D.O.2015のプログラムの中で演奏するというアイディアである。もともとこの作品は、久石が2001年同時多発テロ(9.11)に着想を得て作曲したといういきさつがある。そして、W.D.O.のテーマ曲である《World Dreams》も、久石が9.11を強く意識して作曲した作品だ。原爆投下70周年と東日本大震災、これだけでも非常に大きいテーマであるが、久石はそこに9.11を加えることで、戦後70年のあいだに我々日本人が何を体験し、何を感じてきたか、その重みを世界全体の普遍性の中で捉え、《The End of the World》に集約して表現しようと考えた。そのアイディアと軌を一にする形で、東北に向けた新作をW.D.O.2015で演奏するというプランも生まれてきた。久石が《祈りのうた》を作曲したのは、そのプランが生まれてからすぐのことである。

かくして、”祈り”をテーマにしたW.D.O.2015のプログラムは《祈りのうた》《The End of the World》《ナウシカ》の3曲を中心にして構成する、という全体の骨格が固まった。原爆投下70周年の2015年8月6日に広島で演奏しても、東日本大震災の記憶が残る仙台で演奏しても、全く恥ずかしくないプログラムである。まさに「世界の終わり」を垣間見るような重量級の内容だが、そこまで徹底的に突き詰めてこそ、W.D.O.が振り子を揺り戻すようにエンタテインメント性豊かな音楽を演奏することの意味が生まれてくる。その部分に関しては、2015年の久石の新作《Dream More》と、宮崎作品の《紅の豚》を演奏することで万全を期した。

この間、久石は2015年2月の台湾公演と4月のイタリア公演、5月の新日本フィル演奏会(ペルトの交響曲第3番など)、アルバム『Minima_Rhythm II』の準備とリリース、それらと並行して山田洋次監督作『家族はつらいよ』をはじめとする数々のエンタテインメント音楽の作曲など、凄まじいスケジュールをこなしながらW.D.O.2015の準備を進めていった。特に《The End of the World》に関しては、「祈り」というテーマにふさわしい演奏にすべく、作品の構成そのものが大幅に見直された。試行錯誤の結果、《The End of the World》はリハーサル開始まであとわずかというギリギリのタイミングで、ようやく最終的な楽章構成が確定した。

2015年8月5日の大阪公演を皮切りに、全国5都市計6回の公演がもたれたW.D.O.2015。筆者はそのうち、東京公演2回を聴いたが、プログラム第1曲の《祈りのうた》がチューブラー・ベルズで始まり、最後のアンコール曲《World Dreams》の最終和音がチューブラー・ベルズで閉じられるのを聴いて、言葉では表現しようのない感動に打ち震えた。鐘で始まり、鐘で終わるW.D.O.2015。2つの鐘は、同じではない。最初は鎮魂の鐘、最後は希望の鐘だ。この2つの鐘が象徴しているように、W.D.O.2015はプログラム全体にわたり、「鎮魂から希望へ」というトータル・コンセプトが見事に貫かれていた。これほど考え抜かれたコンサートは、久石と言えども、そうそう作り上げることが出来るものではない。だからこそ、本盤『The End of the World』のリリースに際しては、アンコールを含むW.D.O.2015の全演奏曲が1曲も割愛されることなく完全収録されることになった(収録フォーマットの関係上、CDとLPでは曲順が若干異なる)。戦後70周年にふさわしい、久石譲&W.D.O.の歴史的名盤がここに誕生した。

 

 

楽曲解説

祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-

原曲は2015年1月、三鷹の森ジブリ美術館オリジナルBGMのピアノ独奏曲として書かれた。久石がホーリー・ミニマリズム(聖なるミニマリズム)の様式で初めて作曲した楽曲である。本盤に収録されているピアノ+弦楽合奏+チューブラー・ベルズ版はW.D.O.2015のプログラム第1番として演奏され、その際、「ヘンリク・グレツキへのオマージュ Homage to Henryk Górecki」という副題が付加された。グレツキは、アウシュヴィッツ強制収容所の悲劇-ヒロシマと共に第2次世界大戦を象徴する悲劇-をテーマにした《交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」》で知られるホーリー・ミニマリズムの作曲家である。冒頭、チューブラー・ベルズが弔鐘のように鳴り響くと、最初のセクションでピアノ独奏が透明感あふれる三和音のモティーフを導入し、中間部のセクションでピアノとヴァイオリンが悲しみに満ちた和音を演奏した後、嗚咽がこみ上げるような弦楽合奏が加わり、最初のセクションが再現されるという構成になっている。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
 I. Collapse - II. Grace of the St. Paul -
III. D.e.a.d - IV. Beyond the World

原曲は、久石が2007年秋にニューヨークを訪れた時の印象を基に作曲された。当初《After 9.11》というタイトルが付けられていたように、2001年同時多発テロ(9.11)による世界秩序と価値観の崩壊が引き起こした「不安と混沌」をテーマにした作品である。この楽曲は2008年の初演から本盤のW.D.O.2015ヴァージョンまで、かなり複雑な変遷をたどっているので、以下にその過程を列挙する。

(A)コンサート・ツアー『Piano Stories 2008』初演ヴァージョン(12本のチェロ、コントラバス、ハープ、パーカッション、ピアノのための)
I. Collapse - II. Grace of the St. Paul - III. Beyond the World の3楽章からなる組曲。

(B)アルバム『Another Piano Stories~The End of the World』(2009年2月リリース)収録ヴァージョン
上記(A)に後述のヴォーカル・ナンバー《The End of the World》(ヴォーカルは久石)を加えた4楽章の組曲版。

(C)アルバム『Minima_Rhythm』(2009年8月リリース)収録バージョン(合唱と管弦楽のための)
3楽章版(A)を大幅に加筆してフル・オーケストラ化。併せて第3楽章〈Beyond the World〉では、(A)の構想段階で終わっていた合唱の導入が初めて実現した。

(D)本盤収録のW.D.O.2015ヴァージョン(声楽と管弦楽のための)
(C)の〈Grace of the St.Paul〉と〈Beyond the World〉の合間に、新たな楽章〈D.e.a.d〉を追加。終楽章〈Beyond the World〉の後、ヴォーカル・ナンバー《The End of the World》が続き、全5楽章の組曲のように演奏される。

I. Collapse
グラウンド・ゼロの印象を基に書かれた楽章。冒頭、チューブラー・ベルズが打ち鳴らす”警鐘”のリズム動機が、全曲を統一する循環動機もしくは固定楽想(idéefixe)として、その後も繰り返し登場する。先の見えない不安を表現したような第1主題と、より軽快な楽章を持つ第2主題から構成される。

II. Grace of the St.Paul
楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。

III. D.e.a.d
原曲は、2005年に発表された4楽章の管弦楽組曲《DEAD》(曲名は”死”と、D(レ)E(ミ)A(ラ)D(レ)の音名のダブル・ミーニング)の第2楽章〈The Abyss~深淵を臨く者は・・・・~〉。原曲の楽章名は、ニーチェの哲学書『ツァラトゥストラはかく語りき』に登場する一節「怪物と闘う者は、その過程で自分が怪物にならぬよう注意せねばならない。深淵を臨くと、深淵がこちらを臨き返してくる」に由来する。今回、新たに声楽と弦楽合奏のために再構成され、久石のアイディアを基に麻衣が歌詞を書き下ろした。声楽パートをカウンターテナーが歌うことで、歌詞が特定の事件(すなわち9.11)や世俗そのものを超越し、ある種の箴言のように響いてくる。

IV. Beyond the World
「世界の終わり」の不安と混沌が極限に達し、同時にそれがビッグバンを起こすように、「生への意思」に転じていくさまを、8分の11拍子という複雑な変拍子と、絶えず変化を続ける浮遊感に満ちたハーモニーによって表現した壮大な楽章。アルバム『Minima_Rhythm』録音時に、久石自身の作詞によるラテン語の合唱パートが付加された。楽章の終わりには、チューブラー・ベルズの”警鐘”のリズム動機が回帰する。

Recomposed by Joe Hisaishi The End of the World
原曲は、ポップス歌手スキータ・デイヴィスが1962年にヒットさせたヴォーカル・ナンバー(邦題は《この世の果てまで》)。歌詞の内容は、作詞者のSylvia Deeが14歳で父親と死別した時の悲しみを綴ったものとされている。このヴォーカル・ナンバーは、上述の組曲《The End of the World》の作曲にも大きなインスピレーションを与えた。本楽曲のメロディーの美しさをかねてから高く評価していた久石は、アルバム『Another Piano Stories』の時と同様にヴォーカル・ナンバーをリコンポーズし、それを組曲のエピローグとして付加している。交響曲の中に世俗曲や民謡を引用した、グスタフ・マーラーの方法論にも近いと言えるだろう。〈D.e.a.d〉とは正反対に、愛する者を失った悲しみをエモーショナルに歌うカウンターテナーと、その嘆きを暖かく包み込む崇高な合唱。その背後で静かに鳴り響くチューブラー・ベルズのリズム動機は、もはや恐ろしい”警鐘”ではなく、祈りの弔鐘”へと優しく姿を変えている。かくして9.11の悲しみは、誰もが共感し得る私たち自身の悲しみに昇華して普遍化を遂げ、戦後70周年にふさわしい世界観を獲得することに成功している。

 

紅の豚
il porco rosso - Madness

世界大恐慌のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎駿監督の冒険ロマン。物語の時代が1920年代後半に設定されていたため、久石の音楽も1920年台のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤収録の2曲のうち、前半の〈il porco rosso〉はイメージ・アルバムで《マルコとジーナのテーマ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャージーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナの”ロマンス”をノスタルジックに演出する。後半の〈Madness〉は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家フィッツジェラルドをテーマにした久石の1992年のソロ・アルバム『My Lost City』(アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)に収録されていたが、宮崎監督の強い要望で本編使用曲に決まった、という逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半のバブルの”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した〈Madness〉。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブルは『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Dream More

サントリー「ザ・プレミアム・モルツ・マスターズドリーム」のCMテーマとして作曲された、2015年の久石の新作のひとつ。CM発表会見にて、久石は「ノスタルジックで感傷的なメロディー」を「いろいろな味わいのする多重奏」に仕上げたと語っている。本盤に収録されているのは、W.D.O.2015で世界初演されたフル・ヴァージョン。《Dream More》という曲名には、現状に満足せず、さらなる夢(ドリーム)を追い求めていこうとする久石とW.D.O.の飽くなきチャレンジ精神が込められているように思われる。

 

Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
(a)風の伝説 – (b)遠い日々 – (c)ナウシカ・レクイエム – (d)メーヴェとコルベットの戦い –
(e)谷への道 – (f)蘇る巨神兵 – (g)遠い日々 – (h)鳥の人 – (i)風の伝説

最終戦争「火の七日間」が勃発し、巨神兵が破壊の限りを尽くして崩壊した巨大産業文明。それから1000年後、荒廃した世界の中で暮らす少女ナウシカは、戦乱の中で自然との共生を強く訴えかけ、自ら命を投げ出すことで世界に奇跡を起こす。久石と宮崎監督がタッグを組んだ記念すべき第1作にして、久石の代表作のひとつでもある『風の谷のナウシカ』の音楽は、久石自身のコンサートに限っても、これまでさまざまな編成によって演奏されてきた。演奏会用の管弦楽曲に関しては、メインテーマ〈風の伝説〉の単独演奏ほか、すでに2つの組曲が交響詩の形で演奏されている。すなわち、アルバム『WORKS I』収録の1997年ヴァージョン(a, b, c, d, e, g, h, i)と、BD&DVD『久石譲 in 武道館』およびアルバム『The Best of Cinema Music』収録の2008年ヴァージョン(a, b, c, d, g, h, i)である。今回の演奏に際しては、久石は『ナウシカ』のために作曲した素材をすべて検討し直し、完全版となる新たなヴァージョンを作り上げた。この完全版は、近く楽譜出版が予定されている。

(a)風の伝説
本編オープニングタイトルの音楽。衝撃的なティンパニで始まる導入部の後、久石のソロ・ピアノが万感の想いを込めてメインテーマを演奏する。そのメロディーの冒頭部分は、あたかも1980年代の映画音楽のトレンドに真っ向から抵抗するかのように、コード進行をほとんど変えない形で作曲されている。ミニマル・ミュージックの作曲家ならではのストイックな音楽的姿勢と、文字通り身を削るようなナウシカの壮絶な生きざまが重なって聴こえてくるのは、筆者ひとりだけではないだろう。

(b)遠い日々
「ラン・ランララ・ランランラン」の歌詞で知られるモティーフを、オーケストラのみで扱った部分。軽やかな木管がモティーフを提示した後、バロック風のフーガが続く。このフーガは、チェロとピアノのために書かれた《「風の谷のナウシカ」より組曲5つのメロディー》第4曲のフゲッタを発展させたものである(蛇足だが、曲のイメージと本編の印象から、「ラン・ランララ・ランランラン」のモティーフを〈ナウシカ・レクイエム〉と表記する解説がしばしば見受けられるが、それらはすべて誤り。正しくは〈遠い日々〉のモティーフである)。

(c)ナウシカ・レクイエム
自らの命を犠牲にして、虫たちの暴走を止めたナウシカを人々が嘆き悲しむシーンの音楽。バロックの作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルにも通じる力強い楽想が、聴く者に強い印象を与える。日本武道館で演奏された2008年ヴァージョンより、この部分の音楽には合唱パートが付加され、レクイエム(鎮魂ミサ曲)の〈怒りの日〉のラテン語歌詞を歌う。歌詞と訳は次の通り。「Dies iræ, dies illa 怒りの日が到来する時/solvet sæclum in favilla この世は灰燼に帰すだろう/teste David cum Sibylla ダビデとシビラの予言のように/Quantus tremor est futurus その恐ろしさは如何ばかりか」。

(d)メーヴェとコルベットの戦い
小型飛行機メーヴェを操るナウシカがトルメキア軍の大型戦闘機コルベットの追撃をかわすシーンの、ダイナミックな音楽。

(e)谷への道
サントラ録音に先立ち、久石が宮崎監督の絵コンテを基に作曲・録音した『イメージアルバム 鳥の人…』および『シンフォニー 風の伝説』に収録されていた楽曲。本編では未使用に終わったが、『ナウシカ』の世界観を表現するのに欠かせない重要な音楽のひとつである。当初からチェロの音色を意識して作曲されたという経緯もあり、本盤に聴かれる演奏でも、チェロがモティーフに豊かな膨らみを与えている。

(f)蘇る巨神兵
今回、初めて交響詩の中に組み込まれたモティーフ。不気味なグリッサンドを歌う合唱パートが新たに付加され、巨神兵の恐怖を強調する。

(g)遠い日々
本編のクライマックス、絶命したはずのナウシカが蘇る感動的なシーンの音楽。サントラ録音時、まだ4歳だった久石の娘・麻衣が「ラン・ランララ・ランランラン」を歌い、絶大な効果を上げた逸話はあまりにも有名である。W.D.O.2015の演奏に先立つリハーサルでは、「オペラ歌手のように朗々と歌わず、あくまでも気負わないで」と久石が指示を与えていたのが印象的だった。

(h)鳥の人
上の(g)に続き、人々がナウシカの再生と平和の到来を喜ぶラストの音楽。壮大な合唱が「ラララン・ランランラン」と歌い、音楽は歓喜の頂点に達する。

(i)風の伝説
オーボエが〈風の伝説〉のモティーフをしみじみと回想した後、本編エンドロールの音楽を凝縮したエピソードで全曲が閉じられる。

 

Your Story 2015

原曲は、第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀音楽賞ほか5部門に輝いた李相日監督『悪人』の主題歌。W.D.O.2015のアンコールで、テナーとカウンターテナーのための新ヴァージョンが披露された(本盤の演奏では、高橋淳が両方の声域にまたがる形で歌唱を披露している)。2011年、東日本大震災の3ヶ月後に開催されたチャリティ・コンサートでは、久石が撮影してきた被災地のスチール写真の投影と共に《Your Story》が演奏され、聴衆に深い感銘を与えた。そこには「Your Storyとはあなたたち、わたしたち日本人のストーリー」という言外の意味が込められていたように思われる。以上のような文脈を考慮し、別掲の歌詞日本語訳は、サントラ盤所収の日本語訳とは異なる形で訳出した。

 

World Dreams  for Mixed Chorus and Orchestra

2004年、久石と新日本フィルがW.D.O.を立ち上げた歳に書き下ろした、W.D.O.テーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で・・・・』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国家のような格調のあるメロディーが頭を過った」。本盤では、2011年に麻衣が作詞した歌詞を合唱が歌うヴァージョンが演奏されている。久石とW.D.O.が奏で続ける”世界の夢”(ワールド・ドリーム)を象徴した、崇高なメロディー。そこに込められた”希望の力”を、チューブラー・ベルズが心に刻みこむよういして静かに鳴り響き、W.D.O.2015の幕となる。

2016年5月27日、オバマ大統領広島訪問の日に
前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(寄稿・楽曲解説 ~CDライナーノーツより)

 

 

World Dreams
作曲:久石譲 歌詞:麻衣

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の声は 希望の力
時を越え響き渡れ 愛を歌おう

哀しみにつまずけば 自由がみえる
歓びの灯が消えても 共に歩き続けよう
世界の夢よ 全ての人に
届けようこの歌声 愛を信じて

夢をみるひとすじの小さな光
千年の時を経て 明日を照らし続ける
愛を歌おう

遙かなるこの大地 朝日を浴び
澄み渡る青い空 時の歩みをうつす
世界の夢よ すべての人よ
誇り高きこの夢に 愛を誓おう
永久(とわ)に誓おう

(「World Dreams」歌詞 ~CDライナーノーツより)

※他作品歌詞もすべてライナーノーツ掲載あり

 

 

 

「The end of the World」について

-《The End of the World》は2008年に初めて発表したものを進化させ、楽章を増やしていますね。

久石:
この曲を作った直接的なきっかけは2001年に起こったアメリカ同時多発テロです。ニューヨークの世界貿易センタービルに飛行機が突っ込んだ映像をずっと自分の中で引きずっていて、グラウンド・ゼロを訪れたりする中で確実に世界の有り様が変わったのを感じていました。それが今に通じているところがあると思い、今回のツアーで演奏しようと思ったわけですが、もともとの3楽章に加え、さらに深いところに入っていけるような《D.e.a.d》という楽章を加えました。以前書いた《DEAD for Strings , Perc. , Harp and Piano》という組曲が《The End of the World》と通じる部分があったので、《DEAD》の第2楽章の弦楽曲をもとに新たに楽章を加え、全体を再構築しました。

-《The End of the World》は冒頭から鳴る鐘の音が印象的です。

久石:
鐘の音はまさに警鐘を意味しています。全楽章であのフレーズを通奏していますが、象徴しているのはいわば”地上の音”。それに対して入ってくる声は、人間を俯瞰で見るような目線です。地上にいる人間の業に対し、遠くから「どうなっていくんだろう」という問いかけをしているんです。

-前半の最後にはスキータ・デイヴィスのヒット曲でもある同名曲《The End of the World》も登場します。

久石:
この曲が最後にくることによって《The End of the World》を全部で5楽章と捉えられるような構成にしたいと思いました。”あなたがいなければ世界が終わる”というラブソングですが、”あなた”を”あなたたち”と解釈することもできて、そう考えるとこれは人類に対するラブソングでもある。だからといってそこにあるのは救いじゃないかもしれない。冒頭で示した鐘の音による旋律も入ってくるし、不協和音も漂っている。それをどう感じてもらえるかがポイントになってくると思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

「実は、直前まで決定するのに苦しんでいて、やっと「The End of the World」というタイトルに決まったんです。この「The End of the World」には同名のスタンダード曲も存在して、「あなたがいないと私の世界が終わる」というような意味のラブソングです。でも、この曲のあなたを複数形でとらえ、あなたたちが存在していなければ、世界は終わってしまうといった、もっと広い意味で捉えると、たぶん今、僕が考えている世界観にとても近いんじゃないかと感じて、敢えてこの同じタイトルを用いた理由です。楽曲は、1楽章は4分の6拍子から始まり、最終楽章が8分の11拍子という、大変難しい曲。おまけに、絶えずピアノが鳴らす基本リズムがあり、それに他の楽器が絡み合う、本当に”世界のカオス”、まさに”混沌”を表現するような、アンサンブル自体がカオスになってしまうんじゃないかというくらいの難曲になってしまいました。」

Blog. 「久石譲 ~Piano Stories 2008~」 コンサート・パンフレット より

 

 

 

「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」について

久石譲インタビュー:
オーケストラでのコンサートをずいぶんやってきましたが、映画音楽を演奏しようとすると一部分になってしまうことが多かったので、大きな作品として聴いてもらえるものを作りたいという思いがずっとありました。「風の谷のナウシカ」の組曲は以前に「WORKS I」というアルバムを作った時に、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団の演奏で録音したバージョンがあったのですが、それをベースに映画で使われているものを継承しながらさらにスケールアップさせようと思って取り組みました。ただ、いざやり始めてみると大変。映画自体が破壊と再生というテーマを持っていて、前半のプログラムと通じているところが多く、精神的に苦労しました。

これを機会に宮崎さんの作品を交響組曲として表現していくプロジェクトを始められたらと思っています。世界中のオーケストラから演奏したいという要望もありますし、今後続けられれば嬉しい。ただ、僕は毎回のコンサートを「これが最後」という気持ちで臨んでいるので、今回きちんと成功してやっと次が見えてくるんだと思います。

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2015」公式パンフレット インタビュー より)

 

 

 

 

 

 

The End of The World LP o

◆CD「The End of the World」
【DISC_1】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【DISC_2】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
5. Your Story 2015
6. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra

※初回生産限定スペシャルパッケージ(スリーブ付仕様)

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
(DISC 1 Track-6 Music Recomposed and Produced by Joe Hisaishi)

Conducted:Joe Hisaishi
Performed:New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Concert Master:Yasushi Toyoshima

Piano:Joe Hisaishi (DISC 1 Track-1 / DISC 2 Track-1,2,4,5)
Countertenor / Tenor:Jun Takahashi (DISC 1 Track-4,6 / DISC 2 Track-5)
Chorus:Ritsuyukai Choir (DISC 1 Track-5,6 / DISC 2 Track-4,6)
Chorus Master:Takuya Yokoyama (Ritsuyukai Choir)

Live Recorded at The
Symphony Hall, Osaka (5th August, 2015)
Suntory Hall, Tokyo (8th August, 2015)
Sumida Triphony Hall, Tokyo (9th August, 2015)

Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)

Photograph:Ryoichi Saito

and more…

 

 

◆LP「The End of the World」
【Side_A】
1. 祈りのうた -Homage to Henryk Górecki-
The End of the World for Vocalists and Orchestra
2. I. Collapse
3. II. Grace of the St. Paul
【Side_B】
The End of the World for Vocalists and Orchestra
4. III. D.e.a.d
5. IV. Beyond the World
6. Recomposed by Joe Hisaishi  The End of the World
【Side_C】
1. Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015
【Side_D】
1. il porco rosso
2. Madness
3. Dream More
4. Your Story 2015
5. World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra