Disc. 久石譲 『Dolls オリジナル・サウンドトラック』

久石譲 『Dolls』

2002年10月2日 CD発売 UPCH-1191
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9010

 

2002年公開 映画「Dolls」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:菅野美穂 西島秀俊 他

 

北野武監督10作品目、久石譲が音楽を手がけた北野武映画7作目。そしてこの映画を最後に北野武と久石譲のタッグはない。

 

 

シンセサイザーの神秘的な響きとピアノを基調としたシンプルな構成。ほぼメロディといえるような旋律はないなかで、かくも絵画的な印象を与える世界。久石譲音楽のなかでも異色な作品といえるが、その完成度は素晴らしく、新しい境地を切り拓いたともいえる作品。

サウンドトラックとしても30分にも満たないが、まさに循環音楽、ずっとエンドレスで聴いていたくなる力がある。(1) (3) (5)は映画のメインテーマともいえるモチーフのバリエーション。そして(4)はピアノ・ソロで、美しすぎる名曲である。癒される、心が洗われる、涙がでる、心にしみる、それを超えた言葉として形容しがたい音楽が込められている。

主張がない映画と同じく、主張しない音楽を貫いているが、かといって印象に残らないわけではない、芯のある音楽。主張しない音楽が薄っぺらい安い音楽になっていないのは久石譲の巨匠たるゆえんだろう。

日本の四季を美しく表現した映画本編と同じく、この音楽にも日本の美、四季の美しさ、そして儚さがある。神秘的であり叙情的でありポエムのような音楽。絵画的な音楽ということは、起承転結がない。封じ込められた一瞬の世界、時間軸のない世界。だからこそその瞬間が永遠につづくのである。これこそがこの作品の極意といえる。

日本を象徴する風景が桜や紅葉とするならば、そのような美に共鳴する音楽こそがこの作品だろう。

 

 

久石譲 『Dolls』

1. 桜 – SAKURA –
2. 白 – PURE WHITE –
3. 捩 – MAD –
4. 感 – FEEL –
5. 人形 – DOLLS –

All Music Composed, Arranged, Produced and Performed by Joe Hisaishi

Recording Studio:Wonder Station

M-5:Asian Samples Courtesy of Spectrasonics “Heart of Asia”

 

Disc. 久石譲 『JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection』

久石譲 JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection

2001年12月12日 CD発売 PICL-1235
2006年3月22日 CD発売 GNCL-1054

 

このベスト盤は、『地上の楽園』『MELODY Blvd.』といったソロ・アルバムのナンバーから、映画『青春デンデケデケデケ』『魔女の宅急便』『紅の豚』『ふたり』やNHK朝の連続テレビ小説『ぴあの』のメイン・テーマまでを幅広く収録した決定版。ピアノを主体にした流麗で美しい音世界に心ゆくまで浸ることができる。

 

 

オリジナル収録アルバム

『ぴあの オリジナル・サウンドトラック Volume 1』 (1,5,15)
『ぴあの オリジナル・サウンドトラック Volume 2』 (16)
『MELODY Blvd.』 (2,3,6,8,11)
『地上の楽園』 (4,7,9,10,12,13,14)

 

 

久石譲 JOE HISAISHI COMPLETE Best Selection

1. Forenoon ~夜明け
2. Here We Are ~青春のモニュメント (映画「青春デンデケデケデケ」)
3. I Believe In You ~あなたになら (映画「水の旅人」)
4. さくらが咲いたよ
5. Path to the Lights ~希望への道
6. Hush ~木洩れ陽の路地 (映画「魔女の宅急便」)
7. HOPE
8. Two Of Us ~草の想い (映画「ふたり」)
9. Lost Paradise
10. Lonely Dreamer ~鳥のように (映画「この愛の物語」)
11. Rosso Adriatico ~真紅の翼 (映画「紅の豚」)
12. Piano (Re-Mix) ~ぴあの 「NHK朝の連続テレビ小説「ぴあの」)
13. 季節風 (Mistral)
14. The Dawn
15. Closed Fist ~閉じられた手
16. Broken Whistle ~拾いもの

All composed and arranged by Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

2001年7月18日 CD発売 TKCA-72165
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10028

 

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画「千と千尋の神隠し」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

映画本編の楽曲を収録したサントラ盤。新日本フィルハーモニー交響楽団のフルオーケストラにより、サントラでは今回初めて、コンサートホールで生収録された。指揮・ピアノも久石が担当。録音は2001年5月、木村弓の主題歌も収録。

 

新日本フィルを自らのタクトで率い、
シンセサウンドとオーケストラサウンドの完璧な融合を実現
カラフルなリズムと荘厳な響きによって綴られる全21曲は必聴!

 

 

「実はこの作品のテーマを表現するためにオーケストラが必要かどうかっていうのは、よくわからないんですよ。主人公の心情だけを追っていくことを考えたらピアノ一本でも充分なわけだから。だけどあの世界観を表現するにはやはりフルオーケストラぐらいの広がりがないとダメだと思ったんです。それで宮崎さんもすごくその場の空気感を大事にされる方だから、今回はスタジオで収録するのではなくて、コンサートホールでライブで録ったんです。それはすごく成功していると思う。それでエスニックやガムラン、バリ島の音楽、沖縄民謡、中近東やアフリカのものまでいろんなものを使っているんだけど、それらは料理でいう飾りつけみたいなもので、実はそこにはあまり意味がないんです。意味があるとすれば、それは作品自体が限定した空間のリアリティを求めているものじゃないですから、いろんなものを使うことによって閉じた感じをなくしてどんどん広がりを出す。そのための手段として使った。それだけです。」

「映画の後半に千尋が海の上を走る電車に乗って銭婆のところへ向かうシーンがあるんですけど、僕はあのシーンが宮崎さんが今回一番やりたいところだったと思っているんです。それでイメージアルバムの中にある『海』という曲が、そのシーンにすごく合うんですよ。宮崎さんもイメージアルバムを作った時にその曲を真っ先に気に入ってくれたんですけどね。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー 劇場用パンフレットより 抜粋)

 

 

「湯婆婆のテーマ曲は苦労したなぁ。何度も書き直してるんです。宮崎さんのキャラクターって複雑で、善人が後ろに悪を抱えていたり、きびしい顔の裏に優しさがあったりするじゃないですか。必ず相反する両面を要求するから、単に怖いおばあさんとして書くことができないんです。でも、その分、自分でも、一、二の出来になったんじゃないかな。通常の楽器を使っているけど、その音がしないように作ったんですよ。ピアノの一番高い音と低い音が同時に鳴るような。あの曲は、気に入っている曲の1つです。」

Blog. 久石譲 「千と千尋の神隠し」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

「木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。」

「毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。」

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「宮崎監督は最初、すごくミニマルっぽいものを要求したんです。もともと『となりのトトロ』などでもミニマル風の音楽を付けたことはありますが、今回、監督から『ここのシーン、普通なら(フルオケで)ジャーン!と鳴らすところをミニマルで行きませんか?』と言われてびっくりしました。いつも宮崎監督は『自分は音楽のことはよくわからないので』とエクスキューズしていますが、北野監督と同様、映像に付ける音のあり方に関しては、ものすごく鋭敏な神経をもっていますね。『千と千尋の神隠し』のサントラでは、あまり好きなやり方ではないのですが、キャラクターごとに音楽を付けていくハリウッド的な手法をとりました。あくまでも少女の話なので、彼女の心情にできるだけ寄り添いながら静かな音楽で押し通し、あとは監督の世界観に(フルオケで)合わせると。ただ、その世界観をつかむのが大変でしたね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
木管楽器の音をほんのわずかだけ出し入れしていたんです。今回はコンサート用のホールで、管楽器も弦楽器もそれぞれにマイクを立てて、同時に演奏して収録したんですが、管楽器のマイクにも弦楽器の音がわずかに漏れて入っている。そのために、例えば木管楽器の音を大きくすると、別の楽器の音も若干大きくなってしまう。だから、微妙な調整でベストのバランスを探していたんです。

ー全部の楽器を別々に録音しておけば、そうならないわけですね。

久石:
でもそうすると、ホールの音の響きの良さが失われてしまう。今回は響きの良さを選択したわけです。なんとなく聞いているだけでは、気が付かないことですが、こうしたことの積み重ねが、最終的な音楽の仕上がりを決定するんです。

ー宮崎監督とのコンビはこれで7作目。

久石:
毎回、挑戦の連続です。今回は、ガムランやエスニックな打楽器など、とてもオーケストラといっしょに奏でるようには思えない楽器を大胆に使っています。それに6.1チャンネルのドルビーサラウンドという、従来の5.1チャンネルよりもさらに進歩した、アニメ映画では初めての試みにも挑戦しているんです。

Blog. 「千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド 千尋と不思議の町」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石:
どう展開していくのか息をのむような話なんですよね。ですがベースは一人の少女の成長譚みたいな話なので。そこのところの表現、いろいろな神々が出てきて異世界に入ったりするところの音楽のあり方と、あくまで一人の少女が一歩一歩成長していく過程っていうのをどうやって音楽でつくるか、そこに一番苦心したかもしれない。それともう一個、普通でいうファンタジーのあっちの世界っていうのを通り越して、結構具体的なこの世界とあっちの世界みたいな違いが、宮崎作品のなかでもだんだん強く出てくる。それはのちのポニョにつながってくると思うんですが。「6番目の駅」っていう曲があるんですけど、ちょうど海を渡っていくところ。あれはある種もう黄泉の世界にいくんじゃないかみたいな、この世界とあっちの世界その境みたいなものが行き来する、そういうのをどうやって表現するかなあというのをすごく考えましたね。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

千と千尋の神隠し Spirited Away MEMORIAL BOX

2003年4月9日 CD-BOX発売 TKCA-5

第75回 アカデミー賞 アニメーション映画部門受賞

 

 

 

2020.11 Update

2020年発売LP盤には、新しく書き下ろされたライナーノーツが封入された。時間を経てとても具体的で貴重な解説になっている。

 

 

 

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

1. あの夏へ
2. とおり道
3. 誰もいない料理店
4. 夜来る
5. 竜の少年
6. ボイラー虫
7. 神さま達
8. 湯婆婆
9. 湯屋の朝
10. あの日の川
11. 仕事はつらいぜ
12. おクサレ神
13. 千の勇気
14. 底なし穴
15. カオナシ
16. 6番目の駅
17. 湯婆婆狂乱
18. 沼の底の家
19. ふたたび
20. 帰る日
21. いつも何度でも 歌:木村弓

作曲・編曲・演奏:久石譲
プロデュース:久石譲

指揮・ピアノ:久石譲
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団

オーケストレーション:久石譲 長生淳 三宅一徳

レコーディング・スタジオ:
ワンダーステーション
すみだトリフォニーホール

 

Spirited Away (Original Soundtrack)

1.One Summer’s Day
2.A Road to Somewhere
3.The Empty Restaurant
4.Nighttime Coming
5.The Dragon Boy
6.Sootballs
7.Procession of Gods
8.Yubaba
9.Bathhouse Morning
10.Day of the River
11.It’s Hard Work
12.The Stink God
13.Sen’s Courage
14.The Bottomless Pit
15.Kaonashi (No Face)
16.The Sixth Station
17.Yubaba’s Panic
18.The House at Swamp Bottom
19.Reprise
20.The Return
21.Always With Me

 

Le Voyage De Chihiro
(France, 2002) 198 732-2

1.Cet Eté La…
2.Le Chemin Où On Passe
3.Le Restaurant Où On Ne Voit Jamais Personne
4.La Nuit Tombe
5.Le Petit Dragon
6.La Punaise De La Chaudière 
7.Les Dieux 
8.Yubaba, La Vieille Du Bain Public 
9.Le Bain Public Au Matin 
10.La Rivière, Ce Jour Là 
11Le Boulot, C’est Tuant ! 
12.Une Divinité Calamiteuse 
13.Le Courage De Chi 
14.Un Trou Insondable 
15.Sans-Visage
16.Le Sixième Gite D’étape
17.La Folie Furieuse De Yubaba
18.La Maison Du Fond Du Marécage
19.De Nouveau…
20.Le Jour Du Retour 
21.Rêvons Toujours Les Memes Rêves Aimés

 

센과 치히로의 행방불명 Original Soundtrack
(South Korea, 2004) PCKD-20160

1.어느 여름날
2.통로
3.아무도 없는 음식점
4.밤이 다가온다
5.용의 소년
6.보일러 벌레 
7.신들 
8.유바바
9.온천장의 아침 
10.그날의 강 
11.일은 힘든 법이야 
12.오물의 신 
13.센의 용기 
14.밑빠진 구멍 
15.카오나시(얼굴없는 요괴) 
16.6번재 역 
17.유바바의 광란 
18.연못 아래의 집 
19.또 다시 
20.돌아가는 날

 

Disc. 久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

2001年6月21日 CD発売 UPCH-1086

 

北野映画全6作のサウンドトラックより、久石自ら選りすぐられたベストアルバム。トヨタ・カローラCM曲”Summer”収録。北野武監督寄稿+森昌行プロデューサーによるライナーノーツなど、数々の特典を盛り込んだ力作。オフィス北野作品サウンドロゴを初収録。

 

 

” joe hisaishi meets kitano films ” に寄せて

このアルバムを聴いていると、それぞれの作品に取り組んでいた時の自分自身の気持ちの流れみたいなものが蘇ってくる。それぞれ違う曲なんだけど、何か一貫した匂いを発しているし、今までの作品の映像を再編集して、ここにある曲を全部使って一本の映画を作ってしまうってえのはどうだい?・・(笑) そのくらいトータルな世界がここには存在している。それにしても、いずれ劣らぬ名曲揃いだね。お見事!です。

北野武

(CDライナーノーツより)

 

 

北野映画のプロデューサー森昌行氏(オフィス北野社長)が語る、久石音楽と北野作品の接点と相関関係

北野監督という人は、もともと映画を撮りたくて撮り始めたわけではないといういきさつを含めて、基本的に映画の文法にのっとってものを考えるところがなかったんですね。だから映画音楽に関しても、正直言ってあまり深く考えていなかったと思うし、どちらかといえば既にあるものの中から使っていこうという意識が強かったと思う。

「その男、凶暴につき」はエリック・サティですしね。「3-4×10月」の時も、ジャン・リュック・ポンティだったりエリック・ドルフィだったり。著作権の問題で使えなかったという事情もあり、それなら逆に音楽を全部やめてしまおうという経緯もあって、あの作品では映画音楽というものをまったく使っていないんですよ。

映画音楽のいろはを知らないわけではないんですけど、自分の作品のイメージを意識にて曲を作ってもらうという発想がなかったんですね。ですから、映画音楽というものと正面から向き合ったのは「あの夏、いちばん静かな海。」での久石さんが初めてでした。

武さん自身、いろんなコンポーザーの方々を知っているわけではなかったし、スタッフの間でふと久石さんの名前が挙がったのが発端で…。久石さんといえば、宮崎(駿)作品とのコラボレーションの印象のせいか、どうしてもアニメーション映像のキャラクターに命を吹き込むような、素朴でセンシティヴな音楽のイメージが強いので、一見、武さんとは接点がなさそうに思えますよね。ですが、映画制作において常套手段を持たず、文法を外して考える武さんのやり方には、久石さんが持っているテイストのほうが合うかも知れないと思えたんですね。

久石さんには、世界観についてあれこれディスカッションして音楽をつけてもらうというよりも、映画そのものが持つキャラクターのようなものを客観的に見ていただけるんじゃないか、なおかつ的確な音楽をつけていただけるんじゃないかという思惑もそれなりにありましたし。武さんが描いている世界には、久石さんの素朴ふうなエッセンスのほうが与しやすいんじゃないか、それがミスマッチであればあるほど、ひょっとしたらハマるんじゃないか、と。だから、動機としてはきわめて不純でしたね(笑)。

初めてご一緒させていただいた作品の「あの夏~」の主人公には台詞がないという特殊なケースでしたけど、台詞の代わりにあのキャラクターに世界観を持たせたり肉づけしていくのは音楽なのかなあという気もしてましたし、そこでこそ久石さんの手腕が生きるかなという期待もあって、お願いしたわけなんですけどね。

われわれの中では、北野武 VS 久石譲という組み合わせは、かなりセンセーショナルでスリリングなコラボレーションだったわけですよ。

ただ、久石さん自身は相当難儀をされたと思います。なぜなら、武さんは本来音楽がつかないような場面に音楽をつけようと言いだしたり、ありきたりな発想を排除した観点でリクエストしますから。しかも打合せの段階で、どのシーンにどんな音楽をつけてほしいというリクエストをしておきながらも、武さんはダビングの段階でそれを根底から覆したりもしますし(笑)。そもそも、何度も何度もディスカッションを重ねて、映像にマッチする音楽を決めていくやり方は、武さん的ではないわけです。ある程度任せられながら、久石さんが北野ワールドの当たらずとも遠からずのヒントを見つけていくという方法が主流なんですが、いざ任せられる立場の久石さんの心中を察すると、かなりの苦労を抱え込んでいるんじゃないんでしょうか。任せられたとはいえ、まったく違った世界を示すわけにもいきませんからね。

つまり、共通言語を持ちえない者同士がなんとか共通言語を模索するような難しさが潜んでいるわけです。でも久石さんは、武さんのそういうわがままに近いこだわりを許すだけじゃなくきちんと認めてくれて、なおかつ理解と納得もしていただいてる。

それに久石さんは、北野映画の”削ぎ落とし”の手法をよく理解して下さってますね。あれこれフルにスタンバイさせながらいろんなカットを撮っても、どんどん削ぎ落としてシンプルにしていく。音楽でも同じようなことをしているんです。贅沢なスコアを書き上げてもらうんですが、武さんはそれをどんどん削ろうとする。でも久石さんはそれを客観的に見つめながら、最終的にもうこれしかないというところまでもっていく作業を楽しんでいただいているみたいです。おそらく、二人とも同じようなテーマを抱えているからこそ理解し合えるんだと思うんですが…。

つまり武さんは、台詞がないシーンや一見演出が何もないようなシーンに何を感じさせるかということを大切にして、そのために必要な絵を撮る。久石さんも同様に、必要な場面に必要な音楽をつけるという映画音楽の基本をふまえつつも、音楽のないシーンにいかに音楽を感じさせるかということのために音楽をつけるという考え方を持っている。そのスタイルやスタンスの近さが、二人をより強固に結びつけていつ部分でもあるような気がします。

既に久石さんも北野組の一員といいますか、北野作品には欠かせない存在になっていることは確かですが、二人の関係は求め合って寄り添い合う粘着型の関係性ではなく、適度な距離感を持った関係といえるんじゃないでしょうか。お互いの才能をリスペクトし合いつつも、一方ではライバル意識に近い気持ちを持って接している。そこでの摩擦熱のようなものが、北野作品のクォリティを高めているんだと思いますね。

その摩擦熱が一気にヒートアップしたのが最新作の「BROTHER」でした。武さんはここまでの映画人としての総括だと言い、われわれは北野監督によるエンタテインメント作品のスタート地点と位置づけ、久石さんはその狭間でなんとかよりよい着地点を見つけ出そうと苦悶していたように思います。その結果として、まずメインテーマを奏でるリード楽器を決めあぐねることになり、しかも旋律を疑問視する意見も出てきたことも事実です。

特に英国側のプロデューサーでもあるジェレミー・トーマス氏からは、音楽が作品を難しくしていないかという意見が投げかけられ、それに対してこちら側の生理としては、これまでの流れの中に位置づけられることだけは拒否しなければいけないという気持ちもあって、猛反発したんです。仮に心地好いピアノの旋律が流れてそこに武さんが登場してくるなら、これまでの作品と何ら代わりばえしないと思うんです。

そうじゃなく、「BROTHER」は新しい環境の中で新しく作られたエンタテインメント作品なんだという部分を主張するためにも、音楽はこれじゃないとダメなんだ、とジェレミーにも納得していただきました。そういったやりとりを経てこの作品を公開できたことで、武さんと久石さんの関係は更に密になったような気がします。武さんが久石さんに要求するレベルは高くなり、同様に、久石さんの北野映画を掘り下げる眼力もより高くなったでしょうから。

ただ、総じて言えるのは、要は久石さんが醸すメロディラインが、シンプルな中に非常に美しい旋律と音色を秘めているということ、そしてそういう久石さんのセンスと才能をきちんと理解したうえで、しかもそれが大好きだから北野映画の音楽監督をお願いしているという点は、過去も現在も揺るぎがないところです。表現は陳腐ですが”シンプル・イズ・ベスト”とでも言いますか…。

そういう久石さんの音楽作品がセレクトされた作品集を聞かせてもらうと、そこには一つの確かな流れが存在していて、間違いなく久石さんの世界ではあるんですが、同時に北野武の世界でもあることを感じるんです。つまりは、久石さんが武さんの映像からインスパイアされて築きあげる世界には、その独特の匂いを知らず知らずのうちに共有していて、しかも同じ匂いを久石さん自ら発しているということだと思うんですよ。そういう意味では、久石譲、北野武の両者の世界観を堪能できる、他にはちょっと見当たらない価値あるサウンドトラック集なんじゃないでしょうか。

 

あの夏、いちばん静かな海。
A Scene at the Sea
1991.10.12 公開
出演:真木蔵人、大島弘子

〈episode 1〉
この作品に関しては、監督自身も認めているように、もともと主人公の2人(生まれながらの聴覚障害者)に台詞がないところへもってきて、後半は台詞も何もなく、この作品そのものをふり返るように、主人公たちの思い出が日記帳のごとく滔々と連ねられているわけですが、あそこはどう考えても音楽がないと成立しない部分といいますか、音楽にあれこれ語ってもらったカットなんですね。

つまり最初から音楽を入れ込むことを想定して意識的に撮ったシーンなんです。武さんが自らの映像にあれほど音楽を求めたことは珍しいんじゃないですかね。久石さんとのコラボレーションはこの作品が最初だったわけですけど、登場人物の台詞が極端に少ないぶん、音楽がもたらす効用への期待感は、ほかのどの作品よりも高かったと思いますし、それだけに久石さんは苦労されたんじゃないでしょうか。結果的に、言葉(台詞)以上に主人公の感情や作品自体の情感を雄弁に物語るかのような音楽をつけていただいて、作品のクォリティや価値を随分高めていただいたような気がします。

 

ソナチネ
Sonatine
1993.6.5 公開
出演:ビートたけし、国舞亜矢、渡辺哲、勝村政信、寺島進、大杉漣、逗子とんぼ、矢島健一、南方英二

〈episode 2〉
これは久石さんと武さんの間で”ミニマル”というテーマ性で見事なコンセンサスがとれた作品じゃないでしょうか。「あの夏~」ってミニマル的要素はありながらも、決してミニマルな作品じゃありませんでしたけど、この「ソナチネ」は徹底的に”ミニマル”ですよね。

そういう意味では久石さんにとって本領発揮の場だったと思いますし、2人が真剣に勝負をし合った作品という印象が強いですね。武さんは音楽の専門家ではありませんから”ミニマル”という言葉をどこまで把握していたかはわかりませんが、基本的にシンプルなものの繰り返しという手法は、彼自身すごく好きですからね。例えば「あの夏~」の、主人公たちが歩いた同じ道を、次は違う登場人物が同じように歩いていくシーンとか。繰り返しながら、ちょっとずつ変化させる手法。そこに関しては、久石さんの得意とするミニマル・ミュージックがピッタリ合ったという印象でした。お互いが、本質的に好きな世界なんだと思います。

ただ、武さん自身も言っているように、この作品は、平均点でいえばたいした点ではないというか、国立大学は無理だねというような(笑)点だけど、勝負に出ている場面がある。本人曰く、目茶苦茶凄いシーンと、ありゃりゃ?というシーンが混在している。ゴルフに例えるなら、OBもあるんだけど、バーディどころかイーグルも幾つかある感じ。ホールによっては大勝負をかけたりもしている、ある意味とても実験的な試みをしている作品ですから、それに対して久石さんも自身の本領をミニマルでしっかりぶつけてきましたし、その結果としてあの独特の世界観が醸し出されたんだと思います。サンプリングも駆使されてますし、北野作品の中ではいちばん実験的な音楽といってもいいでしょうね。映画の中身以外の部分ではかなりの火花を散らしている作品といいますか…。そこが、多くの人に名作と言わしめたゆえんでしょうし、イギリスのBBC放送による「映画・世界の100本」に選出された要因なんじゃないでしょうか。ただ、世界中(公開された国の中)で日本人がいちばん見ていない作品で、興行的にはやや不幸な作品ではありましたが…(笑)。

 

キッズ・リターン
Kids Return
1996.7.27 公開
出演:金子賢、安藤政信

〈episode 3〉
特にこの作品のエンディングは、かなり印象的なシーンに仕上がりましたね。主人公の2人が「もう俺たち終ったのかな」「まだ始まってもいねぇよ」と言った瞬間にドーンとテーマ音楽とエンド・ロールが入ってくる。普通ロール・チャンスというと、映画の本編が終わり、ポツポツと立ち上がるお客さんに向けた”どうぞお帰り下さい”の合図みたいになりがちですが、でも「まだ始まってもいねぇよ」の台詞のあとにきわめて激しく飛び込んでくるこの作品の音楽は、ロール・チャンスをも作品の一部として取り込んでしまうほどの迫力があるし、それがあるから直前のシーンもより生きてくるという相乗効果をもたらしていると思うんです。メインテーマのキャッチーさでいえば、「菊次郎~」とともに、メロディメイカーとしての久石さんの力量を再認識させられます。

 

HANA-BI
1998.1.24 公開
出演:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進

〈episode 4〉
この作品の、例えばタクシーをパトカーに作り変えていくシーンには、組曲のようなものすごく長い音楽がついていますが、久石さんがかなり悩まれた証のようにも思えますね。そのシーン以外にも、武さん自身が描いた絵を、映像の中に巧みにインサートしている場面があって…。「キッズ・リターン」でも自分で描いた絵をポスターに使ってましたけど、ここではかなりの数の絵をカットの一つとして使っている。あの世界と対決するのは大変だったと思いますよ。当然あそこには音をつけてくれというカットですからね。無音でしかも動きのない絵を、いろんなカメラワークを駆使して撮っていますから、それときっちり向き合える音楽をつけるとなると、結構思案しますよね。われわれ自身も両者のイメージをすり合わせるために、かなり大変な思いをした記憶があります。ただどんなに陰惨な場面でも、そこに流れる久石メロディの美しさがインパクトにつながっている気がします。

 

菊次郎の夏
Kikujiro
1999.6.5 公開
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

 

BROTHER
2001.1.27 公開
出演:ビートたけし、オマー・エプス、真木蔵人

〈episode 6〉
この作品では、メインテーマのリード楽器を何にするか、かなり苦労しました。武さんはリード楽器にことのほか強い拘りを持っていて、しかも自分自身がピアノをやっていることもあって、ピアノという楽器が好きなんですね。だけど久石さんのセンスとして、こっちの楽器を使ったほうがこんな広がりが出ますよという主張を返してくる。そこはある意味闘いでした。結果的に、リード楽器としてフリューゲルホルンを選択したわけですが、これは非常に大きなチャレンジだったと思います。監督自身、フリューゲルホルンという楽器は全然予想もしてなかったでしょうし。

予定調和的にピアノで奏でておけば、これといった苦労もせずに済んだとは思いますけど、この作品自体が持つ意味合いといいますか、日英合作という国際的なプロジェクトによる映画であること、ハリウッドの撮影システムを導入したことなど、新しい映画作りの結果として新しい映画が生まれるという流れに見合う試みが、音楽にも必要だったわけですね。ご覧いただいてわかるとおり、主役ビートたけしのビジュアルといいますかファッション・センスは、この「BROTHER」も「HANA-BI」も「ソナチネ」も一様なんです。別に何部作といわれるような関連した作品ではないんですけど、開襟のシャツにダークカラーのスーツ、そしてサングラスというスタイルは共通している。しかし、だから音楽もピアノで、という考えはそぐわない。内容に対する音づけという意味ではなく、新しいやり方で新しい作品が生まれるという意味合いを音楽でどう表現するかという点は、われわれにとってもそうでしたけど、久石さんにとっても大きなテーマだったと思うんです。その部分では、久石さん自身、相当悩まれたんじゃないかと思います。現に、ロスの撮影現場までお見えになって、時間が許す限り監督と話し合って、もっとも相応しい接点を探していましたから。メロディとか旋律の問題ではなく、新しさをどういった世界観で示すかということにおいて。といいつつメロディに関しても、絵面との整合性においてはかなり難しかったと思いますよ。ジャジーな要素や、半音が結構使われていることが、そのことを雄弁に語っているような気がします。

デニー役のオマー・エプスのモノローグによるこの作品のエンディングは、音楽を入れ込んだ「あの夏~」のエンディングの対極にあるといってもいいくらいのシーンで、音楽をまったくはずしてしまっている。本来は武さんのリクエストで久石さんに饒舌で分厚い情感豊かな音楽をつけていただいたんですけど、最終段階で音楽をとってしまった。もちろん音楽が気に入らなかったわけではなく、音楽は音楽として成立したんでしょうけど、作品のテーマを示す流れのうえでは、饒舌すぎたのかもしれないですね。ただそのあとエンドロールで再びメインテーマが呼び込んでいることを考えると、あの音楽のないエンディングこそ、音楽を削ぎ落としたシーンでいかに音楽を感じさせるかの典型と言えるんじゃないでしょうか。

(解説・各作品エピソード/森昌行 ~CDライナーノーツより)

 

 

〈サウンドトラック制作進行ノート〉

あの夏、いちばん静かな海。 発売日:1991年10月9日
1991年7月 ワンダーステーション六本木にてレコーディング。

ソナチネ 発売日:1993年6月9日
1992年6月1日 北野監督の次回作の音楽の依頼がある。出演者等詳細は未定。11月辺りの音楽制作の予定。
1992年7月31日 北野監督とロケ前に顔合わせ。音楽の方向性の打ち合わせをする。今回は石垣島がテーマになる模様。
1992年9月17-19日 久石氏石垣島のロケに同行。
1992年10月26日 当初11月頭から音楽制作に入る予定であったが、編集作業の進行の影響で中旬に変更となる。
1992年11月13日 ワンダーステーションにて音楽作業開始。
1992年11月19日 18時半に北野監督来訪、テーマ曲を決定。
1992年11月20-24日 ワンダーステーションにてダビング作業。
1992年11月25日 Dolby 4chのT/D。この日北野監督が再編集に入り、M14のシーンが全カットになり、M15に変更が入ったとの知らせあり。21時に監督がワンダーシティに確認のため来訪。
1992年11月26日 映画音楽作業終了。
1993年3月21-22日 ロンドンにあるTHE TOWN HOUSEにてCD用のMIXを行う。
1993年3月23日 Abbey Road Studiosにてマスタリング。

Kids Return 発売日:1996年6月26日
1995年10月27日 調布にっかつ撮影所にて前半部のラッシュを見る。その後打ち合わせ。
1996年2月16日 にっかつ撮影所にてオールラッシュ。監督を交え最終打ち合わせ。
1996年2月29日 代々木にあるワンダーステーション2st.にて音楽制作開始。
1996年3月13日 音楽制作日程終了。

HANA-BI 発売日:1998年1月1日
1997年6月9日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1997年6月11日 調布にっかつ撮影所にて監督と打ち合わせ。
1997年6月12-19日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング。
1997年6月22日 ポリグラムスタジオAst.にて弦のレコーディング。
1997年6月23-24日 ワンダーステーション代々木スタジオにて映画用のT/D。
1997年7月10-11日 ワンダーステーション六本木スタジオにてCD用のT/D。

菊次郎の夏 発売日:1999年5月26日
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

BROTHER 発売日2001年1月17日
2000年3月29日 にっかつスタジオにてオールラッシュ。
2000年4月3-14日 音楽制作プリプロ~レコーディング。
2000年4月8日 監督とテーマ曲について打ち合わせ。
2000年4月14日 監督とサントラについて打ち合わせ。
2000年4月22日 墨田区トリフォニーホールにて新日本フィルの演奏で録音。
2000年4月23-25日 映画用のT/D。
2000年5月15-17日 CD用のT/D。
2000年9月27-28日 マスタリング。

(サウンドトラック制作進行ノート ~CDライナーノーツより)

 

 

joe hisaishi meets kitano films ジャケット 裏

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「編集し終えて嬉しい発見だったのは『あの夏~』から『BROTHER』まで、実に各々の底辺が共通性を持っていた、ということ。頭では常に北野監督の映画のために音楽を提供することを第一に作ってきたつもりだったけれど、気がつけば自分のソロアルバムを作るような気持ちで携わってきたんだ、という明快な結論に達した。時には、ソロから一歩踏み出した表現もしていたりするこの一枚には、僕自身のここ数年の姿勢が見事に反映されていた。そしてこの一、二年の中で、僕自身にとっても、まさにベストな一枚と言える仕上がりだと思う」

「省略の人、だね。引き算の映像美。従来の映画の概念にとらわれずに独自の世界観を展開するのは並大抵ではない。北野監督はそういう登場をして見せて、今もそう在り続けている。一〇秒間のシーンだけで彼の作品だと分かる、というのは、やはり尊敬に値する。

北野監督とは、やりとりとか詳しく話したりすることなんてほとんどない。ヒントのような一言、二言だけ。『あの夏、いちばん静かな海』の時は、『シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんです』って。『HANA-BI』では『暴力シーンが多いんだけど音は綺麗なのがほしいな』で、『菊次郎の夏』は『さわやかなのがいいな』とか毎回そんな感じ。『BROTHER』に至っては『おまかせ』でしたから。他にその時手掛けている作品の事で、顔を合わせる際に二人で話すことといえば、決まって次回作のアイデア。こんな具合で互いのスタンスが明確に保たれている。とてもシビアだけど、だからこそ信頼感や、やり甲斐も非常に大きいと言える。

北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今回のベスト盤は僕にとって重要な作品です。北野監督のために書いてきた音楽が、実は自分のソロアルバムのための音楽と呼べるものでもあった、という面を含んでいます」

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

久石:
北野監督って映画の撮り方を変えたんですよね。世界的にも結構影響を与えた。それはどういうことかというと、しゃべっている台詞のある人以外の人たちが、いかにもそこにいるような演出を一切しなかったんですね。みんな家族写真のようにただそこにいるだけにさせた。普通演出の人は、いかにも自然のように演出して動かす。それをしなかった。そのやり方っていうのはその後世界中の若い監督に影響を与えて。要するに、無理やりに演技らしいことはしないんでいいんだと。それをつくった画期的な監督でしたね。

久石:
どちらかというと、引き算の映画。どんどん加えていくんじゃなくて、結果無駄なものを全部外していった。そういう意味では非常にミニマルな映画ですよね。

久石:
個人的な区分けでいうと、初期のほうは宮崎さんの映画は基本的にメロディ中心だったんですよ。北野さんのほうはミニマルをベースにしたんです。ですからやり方をすごく変えて臨んでた。途中からちょっとメロディを増やしましたけれども。フランスとかでインタビュー受けていると必ず聞かれるんですよね。まずあり得ないと。映画音楽で宮崎さんのような作品をやっている人が、どうしてバイオレンスの映画を担当しているのかが、同じ人間がやってるのが想像できないと。インタビュー受けるたびにそういう質問ばっかりだったんですよね。僕のほうからすると、なんにも不自然じゃないんですよ。なんでかっていうと、片側にミリマリストとしてやってきたこと、もう一方にメロディメーカーとしてやってきたこと、それを実はちょっと使い分けてやっていた。そういうやり方だけだったんですよ。あれ風これ風でやるのは本物にはならないからね。だから自分がいいと思うことしかやらない、ということですかね。

久石:
北野さんの映画は、表面上ではバイオレンスとかいろいろあるんですが、根底には人間の儚さとか哀しさがあったんですね。その辺で僕もすごく共感して作っていたところがあります。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

久石譲 『joe hisaishi meets kitano films』

1. INTRO:OFFICE KITANO SOUND LOGO
2. Summer (菊次郎の夏)
3. The Rain (菊次郎の夏)
4. Drifter…in LAX (BROTHER)
5. Raging Men (BROTHER)
6. Ballade (BROTHER)
7. BROTHER (BROTHER)
8. Silent Love (Main Theme) (あの夏、いちばん静かな海。)
9. Clifside Waltz III (あの夏、いちばん静かな海。)
10. Bus Stop (あの夏、いちばん静かな海。)
11. Sonatine I ~act of violence~ (Sonatine)
12. Play on the sands (Sonatine)
13. KIDS RETURN (KIDS RETURN)
14. NO WAY OUT (KIDS RETURN)
15. Thank you,…for Everything (HANA-BI)
16. HANA-BI (HANA-BI)

All songs composed, arranged and produced by JOE HISAISHI

 

Disc. 久石譲 『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

久石譲 『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

2001年4月4日 CD発売 TKCA-72100
2020年11月3日 LP発売 TJJA-10027

 

2001年公開 スタジオジブリ作品 映画「千と千尋の神隠し」
監督:宮崎駿 音楽:久石譲

 

宮崎監督の音楽イメージメモを歌詞とする歌4曲を含む全10曲を収録。う~み、おおたか静流、上條恒彦、ムッシュかまやつ、RIKKIら多彩な顔ぶれが歌唱。監督のメモが詩に近いものが増えてきたことを反映し、約半分が歌となった。2001年1~2月に制作。

 

 

インタビュー

-今回のこのアルバムの特徴は?

久石:
「ボーカルがたくさん入っているということですね。全10曲のうちの約半数が歌で、しかも宮崎さんが作詞しています。割とジブリの近況そのもののような歌詞もたくさんあるんですよね(笑)。それはやっぱり大きな特徴かな。純粋にその、アルバムとして聴けるものを目指していますね。」

-宮崎さんからは、どのようなリクエストがあったのでしょうか?

久石:
「いつもイメージポエムというか、キーになる言葉を頂いているんですが、『もののけ姫』のあたりからは、だんだん言葉だけじゃなくて、そこにこめた想いというか、ちょっと詩に近いものも頂けるようになってきまして。それを核にしてこちらでもってイマジネーションを膨らませていきました。現実の裏側にある異世界に迷い込んでしまった10歳の女の子の話でしょ。そのへんの、現実との境であるとか、そこで戸惑ってる千尋の気持ちっていうのをどう表現するかが一番重要なところでしたね。それに、絵を見ていてもアジアチックなものが多かったり、でもそれも限定的なアジアじゃなかったりしてるじゃないですか。たぶん昭和の初期だったりとか、大正時代なのかな。すごくレトロな雰囲気と今アジアが持っているパワーみたいなものが渾然としているところがあって、世界観を作るのがとても難しかったですね。音楽的にも、割とバリ島ケチャ風なものから沖縄からアジア風なものまで総動員して作ってますね。又、今まで宮崎さんの世界ではあまりやらなかった、ジャジーでメローな感じのものも作りました。そういう意味ではイメージアルバムとしては、すごく幅が広いですよね。限定していくことよりは、広がっていることを意識して作っています。」

-楽器の特徴などはありますか?

久石:
「今まで自分がやってきたものに比べれば大変カラフルですね。あがってきている詞が『神々さま』とか『油屋』とかね。宮崎さんの気持ちが強く出ているので、あえて五音階的なあるいは沖縄的な、そういうスパイスを強めにふりかけました。だからヴォーカルも純邦楽の人だったりとか、エスニックな歌を得意としている人だったりとか、とても色の濃い人を起用しています。特にかまやつさんと上條さんに唄ってもらえたのは幸せでした。一見バラバラのように聞こえながら、どこで統一をとるか、というのは難しいところでしたけど。」

-楽しみにしています。

久石:
「とにかく、本当に楽しいアルバムになっています。おそらく今頃、ジブリの皆さんは必死の思いで作業していると思いますが、僕は後ろから暖かく見守る応援団のような気持ちで作ってますから(笑)」

2001年2月12日 ワンダーステーションスタジオにて

(インタビュー ~CDライナーノーツより)

 

 

楽曲解説

1.あの日の川へ スキャット:う〜み
アルバムの1曲目を飾るのはう〜みさんの透明感あふれるスキャット。耳に残る印象的なメロディに「ぜひ歌詞を付けて!」と思うのはスタッフだけでしょうか?

2.夜が来る
映画の特報に使われた曲よりもさらにパワーアップして、忍び寄る暗闇を描いているインスト曲。なんとも不気味な雰囲気を醸し出している作品。

3.神々さま ヴォーカル:おおたか静流 合いの手:藤堂彰寛
エスニックからはじまり純邦楽や沖縄の5音階など、この曲ほどカラフルなものない。メロディを聴いてビックリ!歌詞を聴いてビックリ!!の驚きの1曲。

4.油屋 ヴォーカル:上條恒彦
力強い上條さんの唄声と監督自らによる作詞で語られる労働歌(?)。「言ってみればボクらのことを歌っているんです」と誰かがコメントしたとかしなかったとか…

5.不思議の国の住人
木管とピアノ、ティンパニーといった珍しい編成の曲。可愛らしさとおどけた感じにバッハのエチュードを思わせるような独特のメロディが加わって…一体どういう曲でしょう?

6.さみしい さみしい ヴォーカル:ムッシュかまやつ
パラリンピック以来、久しぶりの共演となったかまやつ氏。明るいメロディとかまやつ氏のアジのあるいなたい唄声が、さみしさを語る詞を一段と際立てている作品。

7.ソリチュード ヴァイオリン:鈴木理恵子 チェロ:近藤浩志
「菊次郎の夏」のサントラに参加して頂いた鈴木さんと、久石さんとはツアーで全国を駆け抜けた仲である近藤氏。この御二方による共演はアルバム内でも稀有な存在ともいえる。ヴァイオリンとチェロの奏でる美しいメロディはエレジーなのかラブソングなのか…

8.海
静かで深い海を連想させるようなインスト。久石さんのピアノソロも聴き逃せませんよ!

9.白い竜 ヴォーカル:RIKKI
RIKKIさんとは「醍醐寺音舞台」以来の共演。その美しい唄声と歌詞で繰り広げられる世界観は、聴く人の心を揺さぶります。

10.千尋のワルツ
曲の流れに身を任せると自然に体が動いてしまいそうな、穏やかで愛らしいワルツ。

(楽曲解説 ~ワンダーシティ・スタッフ より)

※出典元が今となってはわからないが映画および本CD制作時期にWeb公開されていた情報である

 

 

書籍「折り返し点 1997~2008」/宮崎駿・著に、『千と千尋の神隠し イメージアルバム』のためのメモ、「1.あの日の川へ」「2.白い竜」「3.夜が来る」「4.油屋」「5.神々さま」「6.海」「7.さみしい さみしい さみしい」が収載されている。これは監督から久石譲へ作品イメージを伝えるために書いたもの。イメージアルバムの曲および曲名・歌詞として生かされている。

 

 

 

 

久石譲 『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

1. あの日の川へ 歌:う~み
2. 夜が来る
3. 神々さま 歌:おおたか静流
4. 油屋 歌:上條恒彦
5. 不思議の国の住人
6. さみしい さみしい 歌:ムッシュかまやつ
7. ソリチュード
8. 海
9. 白い竜 歌:RIKKI
10. 千尋のワルツ

作詞:宮崎駿
作曲・編曲・演奏:久石譲

プロデュース:久石譲

レコーディングスタジオ:ワンダーステーション

ゲスト・ミュージシャン:
ヴォーカル:う~み (M-1)
ヴォーカル:おおたか静流 (M-3)
ヴォーカル:藤堂彰寛 (M-3)
ヴォーカル:上條恒彦 (M-4)
ヴォーカル:西田美和 (M-4)
ヴォーカル:ムッシュかまやつ (M-6)
アコースティックギター:古川昌義 (M-6)
ヴァイオリン チェロ:近藤浩志 (M-7)
ヴァイオリン:鈴木理恵子 (M-7)
ヴォーカル:RIKKI (M-9)

 

Spirited Away Image Album

1.To the River of that Day
2.The Night is Coming
3.Gods
4.Yuya
5.People in the Wonderland
6.I’m Lonely, Lonely
7.Solitude
8.Sea
9.White Dragon
10.Waltz of Chihiro

 

Disc. 久石譲 『JOE HISAISHI Best Selection』

久石譲 JOE HISAISHI Best Selection

1999年12月22日 CD発売 PICL-1194
2006年3月22日 CD発売 GNCL-1053

 

久石譲がパイオニア在籍時に発表したアルバム4枚からのベスト・セレクション

 

 

久石譲 JOE HISAISHI Best Selection

1. Piano
2. 「魔女の宅急便」~Hush~木洩れ陽の路地
3. 「紅の豚」~Rosso Adriatico~真紅の翼
4. MIRAGE~1994 Paradise
5. 「はるか、ノスタルジィ」~I Stand Alone~追憶のX.T.C.
6. 「水の旅人」~I Believe In You~あなたになら
7. Girl (時をかける少女・メインテーマ)
8. GRANADA
9. ぴあの (English Version)
10. 「ふたり」~Two Of Us~草の想い
11. 「女ざかり」~THE WALTZ~For World’s End (メインテーマ)
12. 「青春デンデケデケデケ」~Here We Are~青春のモニュメント
13. Labyrinth of Eden
14. 「ぴあの」~ぴあの (純名里沙&JOE’S PROJECT)

 

Disc. V.A. 『となりのトトロ ソング&カラオケ』

1999年12月1日 CD発売 TKCA-71780

 

「いっしょに歌おう!大きな声で となりのトトロ ソング&カラオケ」

イメージソング集&カラオケ&オルゴール1曲含む全21曲
40ページ・ブックレット(全曲メロディ譜面付き)

 

公開から数年が経とうとも『となりのトトロ』の人気は不滅。そんな名作アニメで使われたヴォーカル曲を、カラオケとともに収録したのがコレ。幼稚園児の定番合唱曲「さんぽ」をはじめ楽しい曲の数々は、子供たちに聴かせ、一緒に歌って楽しみたいものばかり。

 

 

Track1-10が「となりのトトロ イメージ・ソング集」と同一内容であるが、「イメージ・ソング集」収録11曲目「風のとおり道(インストゥルメンタル)」は本作品には収録されていない。Track11-20が上記楽曲のカラオケ・バージョン。Track.21が本作品に追加収録されたオルゴール・ヴァージョン。

 

 

となりのトトロ BOX~イメージソング集・オリジナルカラオケ集

1994年7月25日 CD発売 TKCA-70340

 

 

なお、CD作品「となりのトトロBOX」(1994.7.25)と収録楽曲(ソング&カラオケは同一である。こちらの作品はCD+となりのトトロ オリジナルグッズ付きBOXセットである。Track.21「さんぽ(オルゴール)」は収録されていない。

 

 

 

となりのトトロ ソング&カラオケ

1. となりのトトロ 歌:井上あずみ
2. 風のとおり道 歌:杉並児童合唱団
3. さんぽ 歌:井上あずみ・杉並児童合唱団
4. まいご 歌:井上あずみ
5. すすわたり 歌:杉並児童合唱団
6. ねこバス 歌:北原拓
7. ふしぎしりとりうた 歌:森公美子
8. おかあさん 歌:井上あずみ
9. 小さな写真 歌:久石譲
10. ドンドコまつり 歌:井上あずみ
11. となりのトトロ
12. 風のとおり道
13. さんぽ
14. まいご
15. すすわたり
16. ねこバス
17. ふしぎしりとりうた
18. おかあさん
19. 小さな写真
20. ドンドコまつり
21. さんぽ (オルゴール)

 

Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 驚異の小宇宙・人体III~遺伝子・DNA サウンドトラック Vol.2 Gene-遺伝子-』

1999年8月4日 CD発売 PCCR-00308

 

1999年放送 NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体III 遺伝子DNA」
音楽:久石譲

 

 

コメント

3シリーズ目になる驚異の小宇宙・人体「遺伝子」はミクロの世界に入りこんでいった。遺伝子はこれからの我々の日常にはとても大事なものになると思うが、遺伝子というのは実態が非常につかみづらい。それがこの作品を作曲するときにたいへん苦しんだところだ。

ある時、遺伝子に関するいろいろな本を読んでいて「Selfsih Gene(利己的な遺伝子)」という言葉を見つけた。それから遺伝子に関してとても強い興味を持つようになった。

この本では、”人間は遺伝子の乗り物でしかない。”という大胆な発想をもとに書かれたものだったが僕にはそれが非常に新鮮に映った。

例えば神が人間を創造するとき、実はあらかじめなにかがプログラムされていたとすると、それが遺伝子だったのえはないかと。そのあたりからイメージを広げて曲を書いた。この考えでは太古からそして未来へ永遠と続くであろう、そのすべてをじっと見つめているのが遺伝子であると。

そんな観点から遺伝子を見たときにたいへんロマンを感じ、それを表現したいと強く思った。

久石譲

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

NHKスペシャル 驚異の小宇宙 人体III ~遺伝子・DNA サウンドトラック Vol.2 Gene 2

1. History (Remix)
2. Gene
3. Eternal Mind
4. Desire
5. Gene (Wood Winds)
6. Choral For Gene (Another Version)
7. Pandora’s Box
8. Ophelia
9. Gene (Piano)
10. Telomere
11. 遥かなる時を超えて (Another Version)
12. Gene (Violin+Cello)
13. A Gift From Parents (Remix)

Producer:Joe Hisaishi
Compose & Arrangement:Joe Hisaishi

Recording Studio:Wonder Station, AVACO CREATIVE STUDIO

 

Gene – Idenshi, Vol.2

1.History (Remix)
2.Gene
3.Eternal Mind
4.Desire
5.Gene (Wood Winds)
6.Choral For Gene (Another Version)
7.Pandora’s Box
8.Ophelia
9.Gene (Piano Ver.)
10.Telomere
11.Harukanaru Toki wo Koete (Another Version)
12. Gene (Violin + Cello Ver.)
13. A Gift From Parents (Remix)

 

Disc. 久石譲 『機甲創世記モスピーダ Vol.1-3』

久石譲 機甲創世記モスピーダ 1-3

1999年6月23日 CD発売 VICL-60415~6

 

1983年 フジテレビ系アニメ放送 「機甲創世記モスピーダ」
音楽:久石譲

放送期間:1983年10月2日~1984年3月25日
放送時間:毎週日曜日9時30分~10時(関東地区)
放送局:フジテレビ系
放送話数:全25話

 

 

機甲創世記モスピーダ LP 2

(LPジャケット, 1983)

 

 

ビクター・アニメ『殿堂ツイン』シリーズ 8
可変式バイクが唸る!イエローの歌声が響く!!
初CD化のライブ版を含むモスピーダ・ミュージックの全て!

●お断り
このCD作品の収録内容は、DISC-1(1~16):”殿堂”シリーズ 7 「機甲創世記モスピーダ」〈CD〉、DISC-1(17~23)& DISC-2(1~5):「機甲創世記モスピーダ VOL.II」〈CD〉と同一のものです。

 

 

 

 

久石譲 機甲創世記モスピーダ 1-3

DISC-1
フジテレビ系「機甲創世記モスピーダ」
モスピーダ(音楽篇)
1. 失われた伝説(ゆめ)を求めて
2. ヴィーナス・オブ・ザ・スペース
3. エグゾーステッド・シティー
4. やっつけろ!
5. ダッシュ・アンド・ダッシュ
6. ヤング・スピリッツ
7. フーケのブルース
8. ふたりでいたい
9. 飛翔の儀式
10. インビット
11. DREAM EATERS
12. プリティー・キューピッド
13. 青春への手紙
14. 愛の小石
15. 伝説の河
16. ブルー・レイン
フジテレビ系「機甲創世記モスピーダ」
モスピーダ Vol.II (音楽篇 side-1)
17. ザ・ベストレイヤー
18. 若き戦士
19. 大地の風
20. 荒れ野へ
21. ドリーミー・シティー
22. SASURAI
23. 愛の涙

作詩:売野雅勇 (1,16) 阿佐茜 (4,8,11,14,20)
作曲:タケカワユキヒデ (1,16) 久石譲 (2~7,9,10,12~15,17~19,21~23) 小笠原寛 (8,11,20)
編曲:久石譲
歌:アンディ (1,16) 松本美音 (4,8,11,14,16,20)
演奏:WHILE ROCK BAND (2,3,5~7,9,10,12,13,15,17~19.21~23)

 

DISC-2
フジテレビ系「機甲創世記モスピーダ」
モスピーダ Vol.II (音楽篇 side-2)
1. フレンズ
2. ロンリー・エラント
3. エンジェル
4. モスパダの歌
5. 軍靴の響
フジテレビ系「機甲創世記モスピーダ」
モスピーダ Vol.III ライブ・アット・ピットイン
[ライブ・アット・ピットイン I]
6. めざめ
7. MC1
8. Love Tonight
9. MC2
10. 荒れ野へ
11. MC3
12. 愛の小石
13. MC4
14. 虹の彼方に
[ライブ・アット・ピットイン II]
15. MC5
16. ロンリー・エラント
17. MC6
18. スターダスト
19. MC7
20. DREAM EATERS
21. MC8
22. プリテンド
23. MC9
24. ブルー・レイン

作詩:
阿佐茜 (4,10,12,16,20)
売野雅勇 (24)
シンディ山本 (6,8)

作曲:
久石譲 (1~5,12,16)
タケカワユキヒデ (24)
小笠原寛 (10,20)
三井誠 (6)
周防義和 (8)

作詩・作曲:
E.Y.Harburg & Harold Arlen (14)
Hoagy Carmichael-Mitchell Parish (18)
Lew Douglas-Dan Belloc-Frank Lavere-Cliff Parman (22)

編曲:久石譲

歌:
松本美音 (4,6,8,16,24)
アンディ (10,22)
土井美和 (12)
松本美音・鈴置洋孝 (14)
室井深雪 (20)

演奏:WHILE ROCK BAND (1~3,5,6~24)

(6~24)
構成・脚本:富田祐弘
出演:鈴置洋孝・土井美和・室井深雪・堀内賢雄・松本美音・アンディ
演奏:WHILE ROCK BAND
※1984年4月23日 六本木ピットインにて収録

 

Disc. 久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』

1999年5月26日 CD発売 POCH-1788
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9006
2017年3月29日 CD発売 UPCY-9673
2021年11月27日 LP発売 PROS-7035

 

1999年公開 映画「菊次郎の夏」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

~STORY~

今日から楽しい夏休み。
しかし正男(関口雄介・子役)には宿題を見てくれたり、遊びに連れていってくれる人もいない。
たったひとりの家族であるおばあちゃん(吉行和子)はパートで忙しい。
そこで正男は遠くで暮らすお母さんに会いに行くことを決心、
わずかな小遣いを握りしめて飛び出した。
心配した近所のおばさん(岸本加世子)は、旦那・菊次郎(ビートたけし)に
正男を母親の元まで送り届けるように命令する。
しかし根っからの自由人である菊次郎は出発するなり競輪で旅費を使い果たし、
あげくの果てには正男の小遣いも奪ってしまいスッカラカンに。
そんなこんなで二人の珍道中は始まった…。

 

 

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

北野武さんの作品では、「あの夏、いちばん静かな海」から音楽を担当させていただいていますが、あの映画のときに北野さんと話したのは「通常音楽を入れるところは一切抜きましょう」ということ。例えば、盛り上がるシーンだからといって、盛り上げるための音楽を入れるのはやめましょうと。そういうのってすごく北野さんらしいところだと思うのですが、いわゆる劇伴的なものは本人が望んでいませんし、必要もないんですよ。

「菊次郎の夏」でも、メロディアスだけど絶対ベタベタした感じにならないように心がけました。北野さんの映画は、とにかく立ち振る舞いがすごくきれいで品があるんです。だから、音楽も下品になったり、表現しすぎてはいけない。それが、最も大切にしなければならないところでしょうね。「菊次郎の夏」に関しては、北野さんから「リリカルなピアノものでいきたい」というリクエストがあったんです。最初は、こんなにギャグの多い映画なのにいいのかな?と思ったんですが、実際にやってみたら、ギャグの中に、人間の孤独とか寂しさみたいなものが表現できた。もちろん、北野さんはそれを最初から狙っていたわけで「やっぱりこの人は天才だな」って思いましたね。

そして、北野さんのすごい点は、やはり個性的だということに尽きるでしょう。特に、海外での評価は絶大ですが、それはなぜかというと、個性があるからですよ。独特の映像美、たくさんの要素を入れない、ムダのない引き算のような絵作り……それが、あそこまで徹底できる人って、世界に何人もいません。ものすごく強い意志が必要なんだと思うのですが、北野さんはそれをやり抜いている。本当にすさまじい作業であり、ある意味、周囲のだれよりも孤独だと思うのですが、それをやり抜く意志の強さは本当に素晴らしい。だからこそ、”世界の北野武”なんでしょうね。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

「これが困ったんですよ。監督に聞いたんですけど「いままでうまく行ってるからいいんじゃない」それだけで終わってしまった。でも爽やかなピアノ曲というイメージはお持ちだったし、それは分かるなと。エモーショナルと言うよりは少年が主人公だし、ピアノ曲なんだけどリズムがあり、という感じで作ったんですけどね。あの映画で困ったのはギャグが満載なので、どうするんだと、実はちょっと思っていたんですよ。そうしたら武さんは大胆なことをおやりになった。「大ギャクをやっているところに悲しい音楽を流してみたら」って言って。大丈夫ですかね、と言って、長めに流したんですよ。そうしたら面白かったのは、それまでは、やってるやってる、というギャグが、全部悲しく見えるんですよ。「ああ武さん、これをやりたかったんだ!」と思って。菊次郎とか少年の持っている悲しみみたいなものが、画面が明るいだけにどんどん出て来ちゃって。あの時に「この映画、やった!」と音楽的にも思いましたね。あの辺を計算していたとしたら、北野さんはすごい人だと思います。普通に笑いを取るために笑いを取る音楽を付けたら自殺行為ですよね。人を好きだという時に、「好きだ」という台詞を書いたらバカ臭いじゃないですか。その時に「お前なんか嫌いだ」と書いた方が、そいつは好きかもしれないというのがあるじゃない。音楽もそういうのがあって、予定調和でこういうシーンだから、こういう音楽流せばと流してしまったら、コンクリートで固めたみたいで、そこから何も立ち上ってこない。ものを作るってそのくらい面白いものだと、最近思います。小説でも、「この主人公、こう動くな」と思っていて、その通りに動いたら、引きますよね。それがこちらの想像を超えていってくれるから引き込まれる。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

菊次郎の夏 サウンドトラック

1. Summer
2. Going Out
3. Mad Summer
4. Night Mare
5. Kindness
6. The Rain
7. Real Eyes
8. Angel Bell
9. Two Hearts
10. Mother
11. River Side
12. Summer Road

All music composed, arranged, produced & performed by 久石譲

Guest Musicians:潘寅林ストリングス(Strings)、鈴木理恵子(Violin Solo)、諸岡由美子(Cello solo)

Recording Engineers:浜田純伸・石原裕也(ワンダーステーション)
Mixing Engineer:浜田純伸(ワンダーステーション)
Assistant Engineers:秋田裕之(ワンダーステーション)、川下輝一(ポリグラム・スタジオ)

Recording Studio:ワンダーステーション、ポリグラム・スタジオ
Master Engineer:藤野成喜(ポリグラム・スタジオ)
Mastering Studio:ポリグラム・スタジオ DMR-1