Blog. 「音楽の友 2022年8月号」久石譲×宮田大 対談内容

Posted on 2022/08/11

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年8月号」(7月15日発売)に掲載された久石譲と宮田大の対談です。[連載] 宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう コーナーの第3回ゲストとして久石譲が登場しました。

 

 

連載
宮田大 Dai-alogue~音楽を語ろう
Vol.3 ゲスト:久石譲

今回のゲストは作曲家・指揮者として世界的に活躍の久石譲さん。久石作品に大きな影響を受けてきたという宮田と、チェリスト宮田を高く評価する久石で、話しは大いに盛り上がった。それぞれが受けてきた音楽教育では共通点もあった。作曲家、演奏家それぞれの視点で、「作曲家、演奏家の音の個性とは?」などについて語る。

 

名演は作曲家と演奏家によって生み出される

二人の意外な共通点

宮田:
自分は久石さんの音楽が大好きなんです。たぶん最初に触れたのは、映画『天空の城ラピュタ』。1986年公開なので、自分と同い年なんです。学生時代には、監督もされた『Quartet カルテット』(2001年)を観て、その影響で仲間と弦楽四重奏を組みました。

クラシックの作品も聴いています。《DA・MA・SHI・絵》が大好きで、ずっと聴いているんですよ。だから今日はちょっとドキドキしています(笑)。

久石:
ほんとう!? それは嬉しい。娘の麻衣が宮田さんと親しくさせてもらっていて、宮田さんは現代音楽にも興味があると聞いたから、ああいうのを書いて、一緒に演奏したいと思っているんですよ。チェロは、いくつから始められたんですか。

宮田:
3歳からです。母がヴァイオリン、父がチェロの指導者だったので。

久石:
すごいですね。うちは親が化学の先生だから、音楽はまったく無縁でしたよ。地元が長野県だったので4歳から鈴木鎮一ヴァイオリン教室やスズキメソードで学びましたが、小さいころは耳から音楽を学ぶことが多かったので、楽譜を読むのに苦労しました。

宮田:
スズキで習われたんですか。うちは両親がスズキの先生なので、やっぱりまず耳から。

久石:
まず耳からなので、覚えるのは早くなったんだけど、譜面を見て弾くっていうのは、なかなかうまくいかなかった。

宮田:
自分は、今でも譜読みするときは指番号をぜんぶ自分で書いて、暗号のようにその番号を見て、あとはピアノとかクレッシェンドとかを確認しながら弾くスタイルになっていますね。自分のスタイルができたので、初見は苦手でも楽譜に書いてあることを時間をかけてしっかりと理解でき、今では私にとって最高のスタイルです。

久石:
仲間だな。スズキ・メソードは、海外での評価が圧倒的に高いんですよね。

宮田:
大人数で演奏する楽しさは、そこで学びました。だから今でも、いろいろなかたとアンサンブルするのが楽しいんです。

 

自分ではわからない「自分の音」

久石:
自分はチェロの音色がとても好きなんですよ。オーケストレーションをしているときにも、決めどころでチェロを使ったりします。

宮田:
いいところでチェロが鳴るので、嬉しいです(笑)。

ところで、いつも本番前に聴く久石さんの曲があるんです。『紅の豚』の《ポルコ・ロッソ》。あれを毎回聴くんです。そうするとすごく視野が狭まってくるというか、あれこれ頭が働いていたのが落ちついてきて、今からお客さんにこんな演奏をしたいとか、そうしたエゴがなくなってきて、今音楽を楽しみたいという気持ちにしてくれる曲なんです。

久石:
なるほど。

宮田:
いろいろな作品を聴かせていただいて思うのですが、ぜんぶ、”久石さんの音楽”じゃないですか。私もよく、お客さんや先生がたから、「宮田さんの音は宮田さんの音だってとてもよくわかるね」と言っていただけて、すごく嬉しいんですけど、どういうものが自分の音なのかは、自分ではわからない。久石さんご自身ではどう感じていらっしゃいますか。

久石:
やっぱり自分ではわからないですよね。もちろん、自分の曲は聴いたらわかる。昼間作った曲は夜にはもう完全に忘れていますけれどね。作り続けるためには忘れるのがいちばん大事で、空っぽにしないといけないから。そういう意味では忘れちゃうんだけど、どこかで鳴っていたら、僕の曲だってわかります。

それから、僕の曲を誰かがアレンジしたものもわかるんだけど、下手だなと思うことがあります(笑)。僕をメロディ作家だと思っている人は、メロディがあれば成立すると考えがちですが、シンプルなメロディにするためには、ほんのちょっとしたコードの差、ちょっとしたリズムの差などでアクセントをつけているんです。だから、メロディだけを抽出してアレンジしても、うまくいかないんです。

宮田:
そこに秘訣があるわけですね。

 

演奏家が補うことで作品が活かされる

久石:
ただ、その一方で、技術的にいちばん初歩の段階で素朴に歌う田舎のおばあちゃんに勝てるかって言ったら、僕は絶対勝つとは言えないんだよね。そこに音楽の怖さがあって、自分の歌いかた、自分の音で勝負できるという強い自信を持たないと、本当には勝負できないよね。

宮田:
日本人が今のコンクールになかなか優勝できないのは、そういうところかもしれません。

久石:
コンクールまでは勝てるんじゃないの?

宮田:
以前は上手であれば評価されたんですが、最近のコンクールは、個性もすごく評価される流れになっているんです。チェロでも、上手なのは当たり前で、さらに個性がある人が強い。今はYouTubeのような動画共有サイトで往年の巨匠の演奏を見て、真似をすることはできる。技術があるから真似はできるんです。でも自分がない。借り物ではなくて、本当のあなたはどんな音楽をしたいのかということを、これからは問われますね。

久石:
作曲をする立場で言うとね、最後、楽譜に表情記号を書くときには、じつはもう頭がクタクタになっているんです。そこまでの段階で、モティーフの構成に心身ともに全力を尽くしちゃっているから、もう譜面を見たくない状態なんです。クレッシェンドがどこから始まるかなんて、どっちだっていいよと言いたいぐらい。

演奏家は、基本的に作曲家が書いたものを大事にする。それは正しい。大事なんだけど、同時に作曲家の側が限界を感じながら書いているところもあるんです。そうすると、演奏家に補ってもらわないとできない部分が相当あるわけです。それをわかってくれて、一緒に演奏してくれる、作品を活かしてくれる演奏家と出会うことが、作曲家はいちばん嬉しいんです。

クラシックの過去の名曲だって、演奏の視点を変えれば、まだまだできることはあるし、そうしなきゃいけない。同じことの繰り返しでは古典芸能になってしまうけれど、身のまわりのことや現代の世界のことなどを反映させることは十分可能だと思います。宮田さんとは新曲だけでなく、クラシックの曲でもぜひ共演してみたいですね。

宮田:
喜んで。ドヴォルジャークの「チェロ協奏曲」など、ご一緒したいです!

取材・文=山崎浩太郎 写真=ヒダキトモコ

 

 

Column 3
映画を観て、聴いて感じてきたこと

私の好きなことの一つが、映画を観る&聴くことです。観るという表現に聴くという表現をなぜ加えたかというと、映画に使われる音楽が大好きで、観ていると同時に音楽も楽しんでいるからです。映画は、クラシック音楽、ジャズ、タンゴ、などのいろいろなジャンルの音楽が使われたり、映画のために作曲された新作が使われたりと、音楽の時代とジャンルを超えて一つの作品の中で表現されます。垣根をつくらず、良いと思った音楽を取り入れている映画の世界は、私にたくさんの刺激を与えてくれました。

私はいつも演奏する際に、どの作品にも物語を感じ、喜怒哀楽の感情表現や、世界中の景色をイメージするようにしています。映画を観て聴くことにより、頭の中のイメージの図書館がたくさん増えていきます。

特に久石譲さんは、私にたくさんの感情を与えてくださったかたです。映画のなかの人物が「どう悲しいのか、どのように嬉しいのか、なぜそのような感情が生まれたのか」を久石さんの音楽から感じた経験は、私の音楽人生の大切なコアになる部分を形成しています。

これからの演奏会でも、クラシック音楽だけではなく、いろいろなジャンルの中に生き続けているすばらしい作品をたくさん取り上げていきたいと思います。

(文=宮田大)

 

(「音楽の友 2022年8月号」より)

 

 

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

 

音楽の友 2022年8月号

特集
NIPPON・オーケストラ譚―過去から現在、そして未来へ

(奥田佳道/池田卓夫/佐渡 裕/片桐卓也/岡部真一郎/水谷川優子/山崎浩太郎/井形健児/西濱秀樹/桑原 浩/小倉多美子/セバスティアン・ヴァイグレ/山田治生/山本祐ノ介/三光 洋/下野竜也/堀江昭朗)
現在活動している日本のオーケストラは、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて創設されたものがほとんどだ。2022年、そのオーケストラのいくつかが創立50周年等の記念年を迎えた。この機会に日本のオーケストラの創設期から現在までをたどり、今後の行くべき方向性を考えてみようと思う。

●[Interview]篠崎史紀(vn)が語る演奏への信念(ふかわりょう/堀江昭朗)/[対談]篠崎史紀×ふかわりょう(堀江昭朗)
●[新連載]小林愛実ストーリー(1)(小林愛実/高坂はる香)
●[Report]第22回別府アルゲリッチ音楽祭&マルタ・アルゲリッチ(p) 東京公演3夜(澤谷夏樹/渡辺 和/池田卓夫/山田治生)
●[Report]ウィーン・フィルのサマーナイトコンサート2022(中村伸子)
●[Report]シャルル・デュトワ&新日フィルが48年ぶりの共演(長谷川京介)
●[Report]室内楽の饗宴 サントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン 2022」(山田治生)
●[Report & Interview]アリス=紗良・オット ~「エコーズ・オブ・ライフ」公演で描きたかったストーリーとは?(池田卓夫/伊熊よし子)
●[連載]楽団長フロシャウアーかく語りき「ウィーン・フィル、わが永遠のオーケストラ」(17)(ダニエル・フロシャウアー/渋谷ゆう子)
●[連載]宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう(3) ゲスト:久石譲(作曲・指揮)(山崎浩太郎)
●[連載]山田和樹「指揮者のココロ得」(3)(山田和樹)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし(24)/口福レシピ― ゲストに捧げる(3)―〈ゲスト〉大西宇宙(Br)(伊熊よし子)
●[連載]ショパンの窓から(15) ―フェルディナンド・ヒラー(川口成彦)
●[連載]わが友ブラームス(8) ゲスト:森野美咲(S)(越懸澤麻衣)
●[連載]和音の本音(24)― ロマン派のゆくえ(清水和音/青澤隆明)
●[告知]読者招待イヴェント「明日の巨匠は誰だ!」観覧者募集

別冊付録:コンサート・ガイド&チケット・インフォメーション

ほか

 

 

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート

Posted on 2022/08/04

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

ご来場の皆さん、2022年のWORLD DREAM ORCHESTRA(WDO)に来ていただきありがたく思っています。

本日演奏する交響組曲「Porco Rosso」とバンドネオンとオーケストラのための「My Lost City」について少し解説します。

「Porco Rosso」は宮﨑駿監督の映画「紅の豚」に書いた音楽をもとに交響組曲として再結成し、「My Lost City」は僕のソロアルバムとして発表した作品をバンドネオンと小オーケストラの楽曲として新たに構成し直しました。バンドネオン奏者の三浦一馬さんは僕の作品「The Black Fireworks」というとてつもなく難しい楽曲を演奏してもらいましたが、今回はもっとバンドネオンにふさわしい楽曲なので彼も安心して演奏できるのではないかと思っています、、、たぶん。

両作品とも1929年から始まった世界大恐慌の時代を舞台にしていて、方や当時のアメリカの象徴的作家であり破滅的な人生を送ったスコット・フィッツジェラルド、方や豚の風態を変えてしまったポルコと一見無関係に思える二人がそれぞれの主人公です。それは人が人でいられた時代から、そうで無くなった時代に馴染めなかった、あるいは否定した男たちの話です。

両作品ともバブルの時代の1992年に発表されました。個人的な思いとしてはバブルに浮かれている人たちへの警鐘の意味もありました。

これは誰にも言っていないことですが、イメージアルバムの「Porco Rosso」と「My Lost City」を同時に宮﨑さんにお送りしたら、「逆にしてほしいな」と言っていたそうです。つまり「My Lost City」を「Porco Rosso」の映画に使いたいということでした。冗談なのか本気なのか当時は意味がわからなかったのですが、今は少しわかります。宮﨑さんが「Porco Rosso」の音楽に求めていたのはもっと大人の、しかもパーソナルな音楽だったのかもしれません。その片鱗が「Madness」です。「My Lost City」の中の曲としてレコーディングしたのですが宮﨑さんがどうしても使いたい、ということで映画でも使用しています。だから今回は両作品で演奏します。

こんな秘密書いてもいいのかな?誰にも言わないでください、、、、

そして2022年の今、まるで「風の谷のナウシカ」の腐海に住むように我々はマスクを着用し、21世紀に起こるとは誰もが想像すらしなかったロシアによるウクライナ戦争が勃発しています。しかも信じられないくらいアナログで!

「僕たちはどこに行くのか?」という問いが「My Lost City」のテーマであり「Porco Rosso」のように豚になることで世間と距離を置くことが一つの答えかもしれません。しかし「飛べない豚はただの豚だ!」という明快な言葉が全ての答えであり、「しっかり生きる」ことが僕たちに一番必要なことだと僕は思います。

もう1つ大事なことがあります。それは大林宣彦監督へのオマージュです。2020年春に他界された大林監督とは公私ともにお付き合いさせていただきました。冒頭の「水の旅人」「FOR YOU」それに「My Lost City」の中では映画「ふたり」「はるかノスタルジー」からそれぞれ「Two of Us」「Tango X.T.C.」を演奏します。これらの作品はどれも大林監督の人を慈しむ思いが込められている素晴らしい映画であり、僕にとっても重要な音楽作品です。今日演奏できることはとても幸せです。

2022年7月
久石譲

 

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

今年のWDOもオール久石譲プログラム!スタジオジブリ作品交響組曲プロジェクト『紅の豚』、さらに時代をフラッシュバックするような珠玉の名曲たち。さて、今回は未知の新作が並ばなかったこともあって浮足立ったふわふわ感想もセーブできます。若い客層や新しいファンの集う場にもなっているWDOコンサートです。作品ごとにその経歴を振り返りながら少し落ちついて(ほんとに?!)ご紹介していきたいと思います。

 

水の旅人

映画『水の旅人 -侍KIDS-』(1993/大林宣彦)よりメインテーマ「Water Traveller」です。大きなメロディ、独特なハーモニーの流れ、咆哮する金管楽器、大きな水しぶきのようなシンバルやドラ。壮大な序曲のようにコンサートでも開幕を飾ることの多い曲です。ファンにとっては北極星のような曲のひとつだと思います。いろいろな音楽に触れて、いろいろな年月が流れて。でも、振り返ったらいつもそこに定点で輝いている曲。そうだったそうだったよね、久石譲の音楽の魅力ってこういうことだよね、って今の自分の居場所や方角から測ってくれるもの。

ファン投票にによって選ばれた楽曲を久石譲指揮・ロンドン交響楽団でレコーディングした『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』(2010)に収録されました。変わらぬ人気を現すように全世界リリースのベスト盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』(2020)に同音源が入っています。変わらぬなかに進化もあります。WDO2014以来のプログラムとなりましたが、本公演は1分弱ほどテンポが速くなっています。久石譲のテンポ処理やアクセントなどは、たしかに最新版となって輝きも磨かれています。

 

FOR YOU

映画『水の旅人 -侍KIDS-』(1993/大林宣彦)より主題歌です。「あなたになら…/中山美穂」として生まれたこの曲は英語版「I Believe In You」もあります。器楽版のタイトルは「FOR YOU」オーケストラ版のほかヴァイオリン&ピアノのデュオ版もあります。切なくて涙が溢れる久石メロディもあれば、この曲のように温かくて涙が溢れる久石メロディもあります。ピュアにハートウォーミングにまっすぐに。

宮﨑駿・北野武・大林宣彦監督作品より厳選された曲をロンドン・フィルと共演した『WORKS・I』(1997)に収録されました。全世界リリース第2弾となるベスト盤『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(2021)に同音源が入っています。久石譲の曲はチェロとホルンがいいところでいい感じに鳴るんだよ(誰の声?!)。そのとろけるようなスウィートな音たちに包まれる一曲です。2007年以来の登場にやられちゃいましたね。そんななかにも、中盤以降大きく金管楽器の出番が増えています。トランペットやトロンボーンあたり、Water Travellerとセットでみると厚みのバランスもとれているような気しますね。

 

大林宣彦×久石譲

久石譲が語ったこと、大林監督が語ったこと、一緒に作り上げた作品たち。それから、WDO2022プログラムを象徴しているようなもうひとつ、1990年代のテーマ”HOPE”について。いろいろなエピソードがここまでの時間をつくっています。よかったら見てください。

 

 

My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra

1992年映画『紅の豚』と同年に発表された久石譲オリジナルアルバムです。長いキャリアのなかで、久石譲本人も代表作のひとつだと公言しているほどの完全結晶。それは、巷に定着しつつあった”久石メロディ”を大きく凌駕して”久石譲というジャンル”を大きく拡げてみせた時代の渾身作です。紅の豚×My Lost CityがWDO2022で並ぶ双璧!

本公演で披露されたのはバンドネオンと小オーケストラのための約23分の作品です。アルバム『My Lost City』(全11曲)の8曲からなる組曲のような構成になっています。

 

Prologue
映画のオープニングのようです。なにかを予感させるプロローグ。洗練のストリングスが秀逸すぎます。霧のたちこめるニューヨーク、マンハッタン。

漂流者~Drifting in the City
My Lost Cityのテーマともいえる旋律がバンドネオンによって奏でられた瞬間、ぎゅっと胸を締めつけられたファンはきっと多いと思います。もうコンサートで聴けることはないかもしれないとまで思いつめてしまっていたあのメロディがホールを観客を僕を震わせている。再会とか久しぶりなんて軽く簡単に言えないたくさんのものを含んだ想いが一気に溢れ出そうになります。

三浦一馬さんの演奏すばらしかったです。どの曲もメロディの歌わせ方が絶妙なんです。バンドネオン特有の音の立ち消え方ってあります。弦楽器はすーっと音が持続するしピアノはポンと音が減衰する。そのちょうど中間のいい塩梅みたいに、音の立ち上がり方も鋭かったりそっと入ったり、音の消え方もパッと勢いまま切ったりそっと消えいったり。だから、ああこんなにバンドネオンって合うんだってこの曲も魅せられてしまった。

原曲からは、前半と後半とテーマが1コーラスずつカットされています。中間部の「Solitude~in her‥」パートもカットされています。原曲にはないオーケストレーションの継承についてはまたあとに。

Jealousy
ジャズタンゴと昭和ロマンをブレンドさせたような不思議な魅力をもった曲です。それはそのまま、1920年代のアメリカと日本をクロスオーバーさせて音楽的にあぶり出してみせた、と思うとかなりかっこいい一曲です。翻弄される魅惑さとそこに漂う危うさ、溺れてしまうともう元には帰れない。

原曲からは、サクソフォンがクラリネットになっていたり、ピアノよりもビブラフォンに振れていたりと、フィーチャーされる楽器が変わったことで雰囲気も印象も新しい魅力です。とりわけ、バンドネオンとクラリネットの組み合わせはこの作品全体のポイントのひとつ。この曲でいうと、お互いにセッションするように掛け合ったりしています。音が重なるときの魅力も以降の曲で魅せてくれます。

Two of Us
映画『ふたり』(1991/大林宣彦)より。主題歌で監督とデュエットしている歌曲版はタイトル「草の想い」です。久石譲アルバムでもオーケストラ版やアンサンブル版などあります。バンドネオンと久石譲ピアノでたっぷりと歌い、つづいてコンサートマスターのヴァイオリンも加わる三重奏を基調としています。弦楽オーケストラがやさしくそっと寄り添っています。コンサートでは、バンドネオンとヴァイオリンのソロをエスコートするところまでが久石譲ピアノでした。

原曲からは、チェロがバンドネオンへ、中間部のピアノソロはカットされています。それから『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2001)に収録されたバージョンは、チェロ・ヴァイオリン・ピアノのトリオです。『Songs of Hope』に同音源が入っています。ソロ楽器とアンサンブルするピアノパートの雰囲気はこのときに生まれ変わっています。【HOPE】Piano&Strings版と本公演のピアノはそれを継承した近いものです。

Madness
My Lost City×紅の豚、両作品で演奏された曲です。ピアノがバンドネオンになっています。それだけのようにも見えますが、オーケストレーションは別モノです。こちらでは、バンドネオンと相性のよいオーボエやクラリネットで旋律を分け合い、金管楽器は厚くなるからなるべく抑えて、打楽器からはシロフォンやグロッケンで彩りを加えています。バンドネオンが負けてしまわないように。使われている楽曲パートも少し短くなっています。

原曲からは、と言いたいところですけれど、近年演奏されるMadnessはもうこのオリジナルからは大きく離れています。ベースとなっているのは「交響組曲 紅の豚」にも登場する、みんなそれが自然になっている大迫力Madnessです。そこからこの組曲用に厚みが直されています。狂気の進化論はまたあとに。

冬の夢
この曲をコンサートで聴ける日がくるなんて。

原曲からは、チェロ・ピアノ・ストリングスとさながらPiano&Strings版だったものが、チェロはバンドネオンへ、そして木管楽器・金管楽器も入って色彩豊かになっています。内声や対旋律の美しい『Symphonic Best Selection』のオーケストレーションをふまえたものが聴ける日がくるなんて。

だけど、だけどどうしても言いたい。この曲はシューベルトなんですチェロなんです。その雰囲気をもった曲だと思っています。だからチェロとストリングスをメインとした曲想のほうがよかった。組曲のすべてでメインにバンドネオンを据えること、休める曲があってもいいこと。Two of Usのチェロがバンドネオンに置き換わるのとは異にすると思うんだけどな、僕の偏愛です。

Tango X.T.C.
映画『はるか、ノスタルジィ』(1992/大林宣彦)よりメインテーマです。久石譲のタンゴはいたく官能的です。ジャジーに展開していく後半のバンドネオンのアドリブも快感です。そしてこのパートでクラリネットと同じ旋律をユニゾンで奏でています。まるでひとつの楽器のように音色が溶け合っていて、こんな味わいの音になるんだと舌鼓を打ってしまいます。

原曲からは、もともとバンドネオンをフィーチャーした曲、楽曲構成もフルサイズで披露されました。フルオーケストラ版は、ホーンセクションのダンシングな合いの手も華やかで、そちらは『Songs of Hope』にも入っています。ダイナミックです。さておき、本家本元バンドネオンでこの曲が聴けるコンサートは、かなりかなり久しぶりですし、この先もなかなか(x2)ないと思いますよ。

My Lost City
表題曲です。曲が大きく展開していく「漂流者~Drifting in the City」とは異なり、メインメロディを丁寧に紡いでいって、終結部は「Prologue」と対をなすエピローグのような曲想になっています。

原曲からは、ピアノで1コーラス、ヴァイオリンで1コーラスと2回テーマを奏したあとに終結部に入ります。コンサートではピアノで1コーラスにバンドネオンが絡みながら終結部へ(東京・配信)、ヴァイオリンで1コーラスにバンドネオンが絡みながら終結部へ(広島以降)と変わっています。個人的には、My Lost Cityのテーマはピアノで紡いでこそ、「漂流者~Drifting in the City」でバンドネオンが奏していたぶん「My Lost City」最後はピアノでこそ締めてほしかった、そう思っています。

この曲、”出だしの音型を決めるのに10日以上悩んだ”っていうエピソードがあるんです。出だしだけでです。だから、久石さんがピアノで弾く姿、久石譲ピアノでおもむろに紡ぎだされていく音こそ、この曲そのものだ、と僕は強く思っているのです。東京公演/ライブ配信のあの瞬間は、当時メロディが生まれる瞬間そのすべての時間がつまっていた、と僕は強く思っているのです。

もうひとつ。これまでアルバム『My Lost City』の代表曲は「漂流者~Drifting in the City」と思っていました。それは変わりないのですが、なぜ同じメロディの表題曲「My Lost City」があっさりしてるのかなとも思っていました。たまたまコンサート前に一曲ずつ文章にしていたときにハッとしました。

「Prologue」という一曲があるなら「Epilogue」という一曲があっていい。でもなぜか「My Lost City」という曲のなかにエピローグ的曲想が含まれている。表題曲なのに。シングルカットしてもアルバムのエンディングが入ってきちゃう感じ。…いや違う!! ひとつの時代の終焉、1920年代の終わり、バブル崩壊。そしてマイ・ロスト・シティ、いち時代に生活した場所やひとつの故郷を失うこと。「My Lost City」という一曲には、そんな終わりが象徴的に含まれていたんだ、だからエピローグ的曲想が内包されているんだ。という結論へ1992-2022、30年の時を経て今思う。遅かったですか、そうじゃないですか、まだわかっていませんか。

 

作品至上主義
アルバム『My Lost City』からどうしてこの曲が選ばれたのか、選ばれなかった曲との違いは。コンサート直前に《号外》で楽曲レビューしたなかにもヒントあるかもしれません。よかったら見てください。

「My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra」は、「Two of Us」と「Jealousy」を除いて全て曲順とおりに構成されています。いかにコンセプトもストーリーも揺るぎないものがある、ということがわかってきます。コンサート・パフォーマンスだけなら、こっちのほうが盛り上がりやすいとか、観客が拍手のタイミングに迷わないとか、いろいろあるのかもしれません。でも、難しくてもそこにあるのは作品至上主義です。ライヴが求めるかたちではなく作品が求めるかたち。

小オーケストラ
コンサートを聴けばわかるんですけれど、バンドネオンをフィーチャーした時点で小オーケストラ(室内オーケストラ)だったんですね。弦8型です。通常オーケストラの編成の大きさだと12-14型になります。『Symphonic Best Sellection』のようなフルオーケストラにできなかった理由はここにあります。ラージオーケストラだと大きな音の時にバンドネオンが押され気味になってしまいます。「Madness」も厚みを回避することで対峙しています。

それでも「漂流者~Drifting in the City」の展開部のホルンの対旋律は『Symphonic Best Sellection』からもってきていますし、「冬の夢」の美しいホルンの対旋律なんかも同じです。『My Lost City』から『Symphonic Best Sellection』で拡大したものが、バンドネオンと小オーケストラのためにブラッシュアップされたものそれが本公演で聴けたものです。だから三つそれぞれに作品の味わいかたがあります。もしいつかの機会に音源化されるなら、ぜひとも現在入手しにくい2つのアルバムもあわせて復刻してほしい。そうしないと…ファンたちは…根無し草のように落ち着き場所を知らない漂流者のまま…。

 

 

 

My Lost City

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

 

 

ー休憩ー

……

休憩時間を使って。

久石譲×三浦一馬は、2017年開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.4」で共演しています。そのときに書き下ろされた新作が「室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》」です。直前になって想定していなかったタンゴをモチーフにした終楽章も追加されるなど燃焼度の高い作品です。『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』(2018)にライヴ音源収録されています。

そのタイミングで雑誌対談も実現し久石譲はこんなことをむすびに語っていました。

 

”今回は始まりです。だからやりたいんですよ。オケとやる。小さいオケでもいい。オケで演奏することになったら、そこでやんなきゃいけないのが、コンチェルトを作る。そうすると今の音は当然フィーチャーする楽器対オケになりますよね。ですから、そういう方法を取るなり、なんかでまた是非書きたいなと。”

 

「My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra」は、ひとつのアイデアとして実ったバンドネオン・コンチェルトともいえますね。

 

 

 

 

休憩ベルが鳴る。

……

 

 

MKWAJU

ムクワジュアンサンブル版(1981)をオーケストラ版に再構成したもの(2009)が『Minima_Rhythm』(2009)に収録されました。全世界リリース第2弾となるベスト盤『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(2021)に同音源が入っています。タイトルは「MKWAJU 1981-2009」です。

本公演は、サクソフォンがバスクラリネットやホルンとほかの楽器に置き換わっています。一般のオーケストラ編成にサクソフォンはありません。広くどのオーケストラでも演奏できるように改訂されているんだと思います。また、盛り上がるクライマックスのコンゴやティンパニも強調されているように聴こえ、より大地的な印象をうけました。それじゃなくても日本では2010年ぶりの披露です。久石譲指揮の対向配置にかかるとこの曲も魅力が倍増していることがよく実感できました。楽器編成のこともあり(もしかしたら細かい修正もかかっているかもしれない)年数表記もなくなった「MKWAJU」はたしかに進化を遂げた曲になっています。

 

DA・MA・SHI・絵

近年コンサートでよく演奏される曲です。その魅力もよく語られている曲です。

 

 

交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso

けっこう鼻を大きく膨らませてずっと待ち望んでいたファンは多い。けっこう鼻を大きく膨らませて当日を楽しみにしていたファンは多い。

構成楽曲はサウンドトラックからいうと「4. 帰らざる日々」「1 .時代の風 -人が人でいられた時-」「7. Flying boatmen」「10. Fio Seventeen」「6. セリビア行進曲(マーチ)」「8. Doom -雲の罠-」「15.アドリアの海へ」「12. Friend」後半「14. 狂気 -飛翔-」「4. 帰らざる日々」の順からなる約21分の作品です。少しピックアップします。

帰らざる日々
サウンドトラックでは「帰らざる日々」「セピア色の写真」「Porco e Bella」「失われた魂~LOST SPIRIT~」前半「Porco e Bella~Ending~」後半、イメージアルバムでは「真紅の翼」「マルコとジーナのテーマ」で聴ける『紅の豚』メインテーマです。武道館コンサート/世界ツアー版では「帰らざる日々/Bygone Days」となっているピアノソロからジャジーなアンサンブルに展開していく曲です。WDO2015で抜粋披露された「il Porco Rosso」はその前半部分ピアノ(+弦楽ver.)です。『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されています。交響組曲オープニングはそのピアノからイントロのみ奏されます。

時代の風 ~ Doom
「時代の風」チェロの弓で強く弦を叩く奏法がとても効果的でした。「Fio Seventeen」オーボエの奏でるメロディにハープやシロフォンをうまく重ねて、原曲マンドリンの雰囲気やトレモロ感を演出していました。つづく原曲ギターのアルペジオなんかも、ピアノや第2ヴァイオリン・ヴィオラのピッツィカートでうまく表現されていました。「セリビア行進曲」ピッコロやフルートの軽やかな装飾フレーズが加えられていてすぐに耳がいきます。

アドリアの海へ/Friend
映画ストーリーや使われたシーンに合わせて2曲をつないでいるというよりも、もともと同じテーマからなる曲、Friendのテーマとして再構成したものだと思います。

狂気 -飛翔-
Madnessです。久石譲アルバム『My Lost City』から監督の熱望で使用された一曲です。その嗅覚の鋭さとセンスに脱帽!もし久石譲があのシーンに新曲を書き下ろしていたらここまでの狂気はあったのか?!純度の高い化学反応で爆発しています。久石譲の作家性がジブリ作品に色濃く反映された転換点ともいえます。

『My Lost City』のピアノ&弦楽オーケストラにシンセサイザーも馴染ませていたものが原曲です。『WORKS・I』(1997)木管楽器は高鳴り金管楽器は炸裂し打楽器は跳ねるフルオーケストラへ。そこからスネアも加わり疾走感アップしたものが「久石譲 in 武道館」コンサート(2008)です。これを聴き親しんだ人も多いと思います。コンサートでも2011年まで一時代の定番曲でした。継承したものがWDO2015で披露され『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されています。今世界ツアー版で駆け巡っているのもこちらです。組曲の一部となったMadnessは短縮版になっています。

帰らざる日々(終曲)
もしも曲名をわけるならオープニングのほうは「Bygone Days」、こちら終曲は「il Porco Rosso」となるのでしょうかどうでしょうか。組曲オープニングでイントロのみ奏したピアノソロが再び導入からメロディへと流れていきます。WDO2019ではアンコールでピアノソロを抜粋披露していますし世界ツアー版でもおなじみのピアノパートです。ちょっと混乱しそうですが、ここで披露されたのはWDO2015版、『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されているピアノ+弦楽ver.を継承したものです。ここまでは曲序盤のお話。交響組曲版は、フリューゲルホルン・ソロやトランペット3奏者によるアドリブリレーをスタンディング演奏で聴かせてくれます。エレガントいっぱいに華やかさを極めたあとは久石譲ピアノによるエンディングになります。東京・広島公演を経て、名古屋公演からは序盤にフィンガースナップが追加されていたり、アウトロに美しく繊細なストリングスが添えられています。

 

『紅の豚』は根強いファンをもつ作品です。みんな大好き『となりのトトロ』などとは一種異なる、この作品を好きと言っている人は好きが強い、そんなイメージあります。それには到底及びませんがそれでもどうしてこの曲が入っていないの!?どうして順番が違うの!?と消化不良なところがありました。「遠き時代を求めて」「Porco e Bella~Ending~」「ピッコロの女たち」、メロディの際立つかつ映画シーンも印象的な曲が入っていない。もちろん、ここも好きな人によって候補曲が入れ替わってくると思います。

映画を見返しました。選曲や曲順の意図をつかみたくて。「セリビア行進曲」は2回流れていました。物語前半の軍隊パレードと物語終盤の決闘のはじまり。店主のセリフに「戦争で稼ぐ奴は悪党さ。賞金で稼げねぇ奴は能無しだ」というのが前半にあります。一方で戦争、一方で決闘。どちらもお祭り騒ぎにしていることへの嘲笑やシニカルさを含んでいるのかもしれません。その能天気さをさらに強調するような、組曲に書き加えられたピッコロやフルートの装飾フレーズ。そんなことを思い消化促進を図っているところです。

ツアー終了後にファン5人集まって座談会しました。もし叶うなら「Porco e Bella~Ending~」「遠き時代を求めて」この2曲を組曲に加えてほしいという強い要望になりました。たった5人の意見がどのくらい『紅の豚』ファンの賛同を得られるかは自信ありません。でも共感得られると直感は信じています。

 

 

ーアンコールー

One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)

アンコールにバンドネオンの再登場は大歓迎です。また違った夏の景色が見られた気分でした。チリチリした夏というか残暑感あるというか。ああ、こういうのも素敵だなと素直に思ってすっと沁みわたっていきます。タンゴのイメージの強いバンドネオンも、この曲にかかるとなんとも日本的な情感が生まれるものです。とても不思議でした。夏の終わり、虫の鳴き声、線香花火。移りゆく時間のグラデーションとピアノとバンドネオンの揺らぐ音色のグラデーション。とても素敵でした。

この曲は、世界ツアー版「One Summer’s Day」がベースになっています。麻衣ヴォーカル&久石譲ピアノによるもの。1番はピアノをメインにしてメロディを掛け合っています。歌詞のないヴォカリーズパートがバンドネオンです。2番はヴォーカルをメインに「いのちの名前」が日本語詞で歌われます。ここではバンドネオンがたっぷりと歌っています。

世界ツアー版では麻衣さんが参加しない公演のとき、1曲目の「One Summer’s Day」はおなじみ久石譲ピアノソロ版、開催地ヴォーカリストが2曲目の「Reprise ふたたび」のみを歌うこともあります。そういうこともあるのかないのか、歌曲版「いのちの名前」をつなげていますが曲名は「One Summer’s Day」で統一されているんだろうと思います。

それはそうと、こんなことができてしまってどうしますか!?これから先も多彩なソリストを迎えたコンサートがつづくと思います。チェロとのデュオ?!クラリネットもいける?!いろいろな可能性が輝きだしてしまいました。「Departures」はチェロと一途に、こちら「One Summer’s Day」はカラフルに、珠玉のデュオピースとなっていくかもしれませんね。すごいときめく。

 

World Dreams

WDOのテーマです。久石譲いわく「国歌のような格調あるメロディ」は、近年空を越えて海外オーケストラとも共演の歩みをはじめた一曲です。またコンサートに行けた、またコンサートで会えた、WDOコンサートには欠かせない一曲です。

原典『World Dreams』(『Songs of Hope』)、合唱版『The End of the World』、対向配置『Spirited Away Suite』、組曲版『Symphonic Suite “Kikiʼs Delivery Service”』、WDO2021版『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』と各アルバムに収録されています。

コンサートを聴いてとても引っかかって上の4つの音源を聴いていました。ラスト1分間弱の箇所を何回も何回も何回も聴きくらべていました(コワイ)。1コーラスをひとかたまりとするとその後半部分のところベルが入ってくる箇所です。トランペット、トロンボーン、ホルンなんかがメロディをハモりながら奏でているところです。会場や配信のどちらを聴いたときにも、今までよりも重いな、と直感で感じました。だから音源をグルグル聴きまわしていました。譜面変わった?いっしょ?このパートの重厚感は強調されているように感じています。

この曲は大きな改訂を経ることなく、いくつもの演奏が音源化されてきました。コロナ禍での開催となったWDO2021版が収録された『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』と、本公演WDO2022(ライブ配信音源)に共通している重みと聴こえました。大きな夢、明るい希望を描きながらも、今に照らし返したパフォーマンスになっている。踏ん張ったもの、重く強い願いのようなものが込められていると感じました。同じスコアを使いながら、今の世界を反映したアプローチで届けようとしている久石譲指揮。そう思うと年ごとに収録していることの意味が浮き立ってくるように思えてきます。僕の錯覚かどうかぜひいろいろ聴いてみてください。常に時代を映した鏡といえる曲です。時間の架け橋となってこれからも一緒に歩んでいく曲です。

 

 

今年のWDOコンサートも全公演SOLD OUT!全公演スタンディングオベーション!とてもとても熱い夏でした。新しいファンの生まれる場所にもなっていると感じています。会場の客層をみても感想の溢れるSNSをみても。「初めてのコンサート」はもちろん「曲名が知りたい」そんなキーワードもますます増えている。One Summer’s Dayのピアノイントロでどよめきが起こる。海外公演では象徴的だった光景がここ日本でも。はじめましてのファンが増えているたしかな証。

WDO2022コンサートの感動の余韻を日常生活へ持ちこもう。プログラムからもたくさん収録されているふたつのワールドベスト盤は入門編として太鼓判のおすすめです。久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋では、どのオリジナルアルバムに収録されていたのか、久石譲ファンの一口コメントで曲の魅力や思い出まで、たっぷりとご紹介しています。お気に入りの曲からどんどん巡って広がっていきますように。

 

「Water Traveller」「il porco rosso」「Madness」「One Summer’s Day」収録

 

「FOR YOU」「TWO OF US」「Tango X.T.C.」「MKWAJU 1981-2009」「DA・MA・SHI・絵」「il porco rosso」「World Dreams」収録

 

 

『紅の豚 サウンドトラック』もお忘れなく。

 

 

コンサート・パンフレットはWDO2021に引き続き販売はなく観客に配布されるものになっていました。各会場特設販売コーナーでは、ベストアルバムCDや最新スコアなどが並んでいました。新譜『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』(7月20日発売)もタイミングよくSNSで感想と一緒に写真をよく見かけました。販売コーナーは長い行列でしたもん。すごい。

 

WDOオリジナルTシャツのデザイナー丹羽マリアさん。SNSで見つけることができたので紹介させていただきます。

 

Theme
「集合した個体の”バランス”から産まれる
豊かなハーモニーに”無限の可能性”と世界の夢を乗せて」

from 丹羽マリア公式インスタグラム
https://www.instagram.com/artemaria061/

 

テーマにつづいて解説もあります。ぜひオリジナルテキストご覧ください。丹羽さんといえば、ピンときた人は鋭い、とても素敵なデザインです。久石譲ベートーヴェン交響曲全集の写真ほか丹羽大さん撮影です。とてもアーティスティックなご家族なんですね。

 

 

~お願い~

最終日の大阪公演の際、Tシャツ販売はありませんでした。ツアー中の状況をキャッチしていたファンはたくさんいます。確実にゲットしたいと早くから会場へ向かった人はいます。行ってみたらなかった。売切れてたことよりも事前にアナウンスがなかったことがとても残念です。そんな思いをした人が数十人、数百人といるかもしれない、これは小さいくすぶりではないと思います。せっかくのコンサートなのに心証が悪くなる。久石譲さんサイドも新日本フィルさんサイドも。そんなことは誰も望んでいないのに。どちらからでもいいので主催運営側として「本日の販売はありません」たったひとつのSNS発信してくれるだけでショックはだいぶん軽減できたかもしれません。せっかくのコンサート、小さいことではありますが、その小さいことの積み重ねでファンは楽しみをエネルギーにしています。関係者のみなさま、どうぞ今後の参考にしていただけたら幸いです。

 

 

 

みんなの”WDO2022”コンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2022 東京公演 (コンサートレポート)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

僕はショーさんのコンサート・レポートで育ってきたファンのひとり。そのくらいいつ読んでも楽しく心地よい安心感すらあります。会場の雰囲気からコンサートを追体験できるようなわかりやすいレポートのファンです。これからも書いていこう!と宣言してくれているので、これからも楽しみにしています。いろいろな人の感想が聞けるのって、自分が何人分もの楽しみ方をできたみたいでほんとうれしい。感動をどんどん吸収して感動がますます膨らんで。

 

 

2022.08.18 追記

(up to here, updated on 2022.08.18)

 

 

リハーサル風景/バックステージ

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

ほか

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

ほか

from 三浦一馬公式ツイッター
https://twitter.com/KazumaMiura_

 

ほか

from 三浦一馬公式インスタグラム
https://www.instagram.com/kazumamiuraofficial/

 

 

風物詩になっている。久石譲WDOコンサートにいけば体験できるスタンディングオベーションも再び!!次はこの光景のなかにいるかもしれない、次はこの光景をつくっているひとりかもしれない!

 

 

公演風景

 

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Overtone.第72回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2022/08/03

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

今回ご紹介するのは、おなじみふじかさんです。ご紹介するバリエーションが尽きてしまうくらい、いつもありがとうございます!さすが多彩な久石譲コンサートに足を運びつづけている、体感するものや感想がよりパーソナルなものになっていると感じてきます。ぐっと深く広がりをもった宝物の音楽体験。初めての久石譲コンサートから13年か、こちら26年くらい。ポテンシャルの差を感じてしまう(苦笑)こんなにたくさんのこと聴けないと思っている人も大丈夫ですよ。これから少しずつ一歩ずつ触れていけば、きっと音楽は豊かに響いてくれます。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

WDO2022浜松公演の様子をレポートさせて頂きます。

2022年7月28日 アクトシティ浜松 大ホール 18:30開演

 

今年のWDOは『My Lost City』と『紅の豚組曲』の2本柱を軸にプログラムされました。4月にコンサート情報が発表になった際は、久石さんファン界隈の中では驚きと喜びに溢れました。そしてようやく待ちに待った公演の7月。

今回は初日の東京公演の様子が配信されました。そのため、7月23日の東京公演の様子を配信でじっくりとチェックした後、7月28日の浜松公演を実際に行って公演を観るといういままでにない楽しみ方もすることができました。

久石さんの長年のキャリアの中で、音楽の街である静岡県浜松市でのコンサートは初だったのではないでしょうか? 新日本フィルとしては、5月に50周年記念ツアーにて、同じくアクトシティ浜松での演奏会が実施されていたようです。

 

チケットもぎりを通過し、会場内へ入るとステージにはすでにピアノがセッティング済み。いままでのコンサートは指揮台すぐ横のやや上手よりに鍵盤が来るように置かれることが多かったですが、今回はステージのほぼ中央にピアノが置かれていた印象があります。

座席につくと、ピアノの高橋さん用のピアノの調律中でした。調律が終わり、しばらくするとオーボエの神農さんがステージで練習されており、『漂流者』のメロディが時折聴こえてきて、その時点で期待でワクワクが止まりませんでした。

18:30すぎに続々と楽団メンバーも集結し、いよいよチューニングがスタート。暫しの静寂ののちに、久石さんが登場しました。ちなみにアクトシティ浜松の大ホールの下手には扉が二つあり、奥側の扉はコントラバス群で通り抜けが難しいこともあってか、久石さんは、客席に近い扉から出入りをする形なり、そちらの扉にはスポットライトも当たっていました。

 

 

Joe Hisaishi『Watar Traveller』

ピアノとハープのイントロのち、フルートが加わり、その後炸裂する大迫力のオーケストラの音色。コンサートの1曲目には相応しい祝典序曲のような力強さもある大迫力の楽曲からスタートです。WDOでは2014年以来、8年振りに披露されました。

テンポは少し速めで、全体的にキレがあり、とてもカッコいい演奏に仕上がっていました。サビの主旋律のメロディももちろん、同時に流れるホルンの副旋律も壮大で本当に好きな楽曲の一つです。中間部での野津さんによる美しいフルートソロには本当にうっとり。弦楽のパートでは、各パートに「さあここだよ!」という感じに次々と指示を飛ばす久石さんの姿もありました。終盤では銅鑼が加わり壮大に元気よくフィニッシュ!

この曲、私が初めて久石さんのコンサートに行った時の「ミニマリズムツアー2009」の時も演奏されていました。その時は、音源を持っていなくて(※メロディフォニーもまだ出ていません)まったく知らない曲でしたが、その力強さに圧倒されたのを今でも覚えています。その当時は導入のピアノソロを久石さんが演奏していた時代でもありました。初めての久石さんのコンサートに参加したときの楽曲を13年経て、再び堪能できるということも感慨深かったです。

 

Joe Hisaishi『FOR YOU』

前曲と同じく映画『水の旅人』より選曲。ホルンの導入からフルートの美しいメロディ、そしてチェロがそのメロディをさらに紡いでいきます。冒頭のフルートソロは、野津さんではなく渡辺さんが演奏されるところも見どころの一つだと思います。サビではヴァイオリンのメロディが花開き、本当に美しい久石さんのメロディを堪能できます。音色の使い方から、なんとなく印象派的な感じも受けるこの楽曲。今年4月に行われた新日本フィルとの「すみだクラシックへの扉」での印象派クラシックの指揮の成果も出ているような、本当に彩豊かな演奏でした。

浜松公演では拍手が鳴りやまず、ここで久石さんは再度袖から登場。普段とは違う出入り口から登場する久石さんも少し照れたのか、頭をポリポリと掻きながら再度ステージに登場されていました。

 

次の楽曲へしばし舞台替えとなります。

 

 

Joe Hisaishi『My Lost City』

いよいよ今回の2本柱のひとつ、『My Lost City』の始まりです。拍手喝采の中、バンドネオンの三浦さんと久石さんが登場しました。

『Prologue』
朧げなストリングの音色で一気に『My Lost City』の世界へと誘います。ヴァイオリンの乾いたような高い音色から、渦巻くような弦の旋律。スーッと伸びていく和音の先に響く音色は…

『漂流者~Drifting in the City』
バンドネオンのソロが、寂し気なメロディを紡いでいきます。もう本当に美しかった。原曲ではピアノの音色が印象的で、個人的にはどこかピアノの音色は俯瞰するような形で聴こえていました。それが今回はバンドネオンに置き換わることによって、リアルで、その物語の主人公が鼻歌で歌っているような雰囲気も感じました。それにしてもピアノの旋律しか似合わないと思い込んでいたこのメロディが、こんなにバンドネオンがはまることも衝撃的でした。

『Jealousy』
ここでまさかのこの曲!確かに原曲でもバンドネオンがフィーチャーされてましたが、まさか生で聴けるとは!!ピアノの高橋さんによるジャージーなメロディも堪能できました。バンドネオンの三浦さんはうっとりとした表情で時折笑顔で演奏されていたのも印象的でした。クラリネットのマルコスさんの音色も色っぽくてとっても素敵でした。曲の終わる部分では久石さんの指揮台を降り、ピアノの前で指揮をしていました。

『TWO OF US』
久石さんのピアノの伴奏に合わせ、バンドネオンの三浦さんがメロディを奏でていきます。続いてはコンマスの豊嶋さんによるヴァイオリンソロ。どちらも甲乙つけがたい美しさ。そして、バンドネオンとヴァイオリンが絡みつつ演奏していくシーンでは、豊嶋さんと三浦さんがアイコンタクトで息を合わていました。まるで「すみだクラシックの扉」でのコンマスのチェさんとソリストのリーウェイさんがアイコンタクトを取っているのを彷彿とさせる瞬間でした。

『Madness』
こちらもバンドネオンがメインメロディへと進化をした『Madness』。武道館や世界ツアーでの構成を元にしたショートバージョンのアレンジでしたが、より濃密な構成になっていました。

『冬の夢』
まさかこの曲も聴けるなんて思っていませんでした。原曲ではチェロがフィーチャーされているので、構成から外れるのではないかと予想していましたが、どんどん予想を裏切っていきます。中盤のバンドネオンソロになる箇所では、2ndVnかピアノはわかりませんが、音量を抑えて抑えて!と二度ほど指示する久石さん。その後の盛り上がりでは大きく!新たに指示もされていました。

『Tango X.T.C.』
もともとバンドネオンがフィーチャーされているので、力強さ、色気に圧倒されました。ここでも三浦さんが笑顔で演奏されているのも印象的でした。中間部でのピアノの高橋さんによるスケール的なピアノ伴奏も美しくて、カッコ良かったです。終盤ではパーカッションも入り、ジャージーなパートへ。

『My Lost City』
組曲の最後の曲は、原曲CDでも最後を飾るこの楽曲。東京公演では久石さんのピアノで始まっていましたが、浜松公演では豊嶋さんソロヴァイオリンに差し替えられていました。その後、冒頭の『Prologue』と同じパートを回想し、バンドネオンが音色を加えながら、静かに楽曲が終わりました。

 

改めて8曲で構成された今回の組曲の完成度は本当に高くて、本当に感動しました。なんとも贅沢な時間で、体感時間は本当に数分だった気がします。今回、このような形で改めて作品として残されたことにより、今後のコンサートでの演奏機会が増えることを期待するとともに、この感じでいけば、『Etude』もソリストを迎えて、新たな久石流ピアノコンチェルト作品も再現可能では?と妄想も膨らみました。

 

 

ー休憩ー

 

 

Joe Hisaishi『MKWAJU 1981-2009』

国内演奏ではこちらもかなりお久しぶりになる楽曲。2010年のアジアツアー以来でしょうか? 2台のマリンバの導入のちに、マルコスさんによるバスクラの音色。そこから始まるズレてズレて、たまに合って、またズレにズレまくる同じ旋律がぐるぐると円を描いてくような演奏。もう本当に聴いていて楽しい!ヴァイオリンの掛け合いになるパートも対向配置になっているため、右、左とヴァイオリンの音色が行ったり来たりするのも楽しいです。各パートもどんどん折り重なっていき、最後はダンッ!とフィニッシュです!

 

Joe Hisaishi『DA・MA・SHI・絵』

ここ数年、よくプログラムに組まれることが多くなったこの楽曲。新日本フィルとは3月4月の演奏会でもセットリスト入りしていました。今回は座席が3列目だっとこともあり、久石さんの指示が細かく各パートへ手の先から飛んでいくのもしっかりとみることができました。3月4月でも演奏してきた甲斐があってか、今回の完成度もさらにグッと高まっている気がしました。テンポは3月に比べて速かった感じがします。

個人的な話になりますが、先日「Just ear」というソニーのオーダーメイドイヤホンを購入しました。耳の型を取る前にどういう音の構成にするかを決める段階があるのですが、そこでの視聴をこの『DA・MA・SHI・絵』をチョイスしてみました。コンサートで実際にこの曲を聴くと、ステージのあちらこちらからそれぞれの音色が、立体的に渦を巻くように聴こえてきます。その生で聴いた感じが近い音のプリセットを選ぶのにこの曲を試しに聴いてみた…というこぼれ話です。

 

Joe Hisaishi『Symphonic Suite Porco Rosso』

2本柱のうちのもうひとつ。いよいよ『紅の豚組曲』の登場です。

『帰らざる日々(イントロピアノソロ)』
次の曲の『時代の風』から楽曲がスタートするかと思いきや、久石さんのピアノソロからの導入でびっくりしました。ノスタルジーを感じる印象的なピアノソロで『紅の豚』の世界へと誘います。

『時代の風~人が人でいられた時~』
ピアノを弾き終わって、ミニマルを感じさせる弦楽の音色に、力強い低弦の刻み。木管の愉快なメロディ。サントラでしか聴いてこなかった曲がどっと、目の前に押し寄せてきました。生で聴くと、体に伝わってくるドンドンドンドンという音色に圧倒されました。

『Flying Boatment』
チューバの佐藤さんによる力強い前奏に続き、トランペットのメロディが、あの少し間抜けな空賊の様子をいきいきと表現しています。途中の渡辺さんによるピッコロのソロも美しく、楽しげです。

『Fio-Seventeen』
フルートの野津さんによる導入から始まります。原曲ではここにマンドリン的なメロディが入っていましたが、今回の組曲ではその音色をなんとハープで表現。ハープでこんな再現の仕方ができるんだとびっくりしました。中盤のホルンとストリングが絡む部分は久石さんの雄大で伸びやかなメロディを堪能できます。終盤はテンポアップし、少しスリリング若干タンゴを感じさせるような雰囲気で終わります。

『セリビア行進曲』
こちらも賑やかな行進曲。大股でずんずんと歩くような2拍子に金管やパーカッションの音色が彩りを添え、愉快な一曲です。

『Doom~雲の罠~』
前曲の雰囲気とは一変、暗い雰囲気の導入から始まります。その後はハバネラを感じさせるような舞曲のような雰囲気。二ノ国のサントラの『水の都』に近い雰囲気があります。

『アドリアの海へ』
マルコスさんの伸びやなかなクラリネット音色に終始うっとり。日常を感じさせるようなさわやかで明るい雰囲気のこの曲も組曲に取り込まれたこともうれしく思いました。ワルツ調の3拍子の曲ですが、浜松公演では明らかに伴奏の3拍目を弱く演奏しているような感じでした。なにかの意図があるのでしょうか?

『Friend(後半)』
ハープから始まってストリングスが入り、少し暗い雰囲気を感じさせるこの曲は、『風立ちぬ』のサントラより、『菜穂子(会いたくて)』を連想してしまいます。

『Madness』
前半の『My Lost City』内ではバンドネオンメロディで演奏されていたものが、こちらでは満を持して久石さんのピアノにて披露されてました。東京公演の配信時では、若干オケとのズレもあり心配な箇所もありましたが、浜松公演ではピタリと演奏されていてとてもカッコよかったです。中盤のピッコロとオケとの掛け合いの部分も聴いていて楽しいんですよね。後半では再度久石さんがピアノに戻り、オケとの掛け合いへ。

『帰らざる日々』
冒頭のイントロ同様に久石さんのピアノがメインに、今回は優しくストリングスが包み込むようなアレンジに。浜松公演では久石さんのソロパートに、金管・木管メンバーによるフィンガースナップが追加されていました。前半の構成はWDO2015の際のものと類似していたと思います。

久石さんが指揮台へ戻ると、今度は転調し、ジャズパートへ。こちらは『Piano StoriesⅢ』の『il Porco Rosso』の後半を元にアレンジされていたと思います。フリューゲルホルンやトランペットがジャージーなメロディを次々とバトンをつなぐように演奏していました。盛り上がりのピークを迎えたのちに、再度『帰らざる日々』のメロディが顔を出し、久石さんが再度ピアノへ。

アウトロを久石さんが演奏するとともに、ピアノを包み込むように、まるでポルコの魔法が解けるかのような繊細なストリングスが浜松公演では追加されていました。

 

 

演奏が終わると拍手喝采。ここで何度かのカーテンコールのちに、恒例となった各楽器担当への拍手タイム。そして、Encoreへと移ります。

再度バンドネオン演奏用の椅子と譜面台が用意されたのち、三浦さんと久石さんが登場。久石さんが長く息を吐きながら、ピアノへ向かい譜面を用意しているのが印象的でした。

 

 

Encore1『One Summer’s Day』

アンコール1曲目は、バンドネオンとピアノによるスペシャルバージョンな『One Summer’s Day』。イントロからしばらくは久石さんのソロが続きますが、そこから三浦さんバンドネオンが入り、ピアノとバンドネオンが代わる代わる音色を紡いでいきます。中間部ではテレビ放送内で披露された「ラミレラーミレミ」というメロディがこちらでもしっかりと継承。

2番では久石さんは伴奏に徹し、三浦さんがソロのメロディを奏でていきました。終盤では再度久石さんによるアウトロのピアノソロ。最後はバンドネオンがスーッと息の長い音色とピアノが絡んでとても美しかったです。

 

Encore2『World Dreams』

WDOコンサートに来たら、この曲は絶対外せません。今回も最後のアンコールに披露。もう何回も何回もコンサートで聴いてきたのに、毎年変わる世の中の情勢に合わせて、この曲の聴こえ方もまったく変わってきます。

今年の演奏はより「世界の夢」を表現しているような感じがして、よりグッとくるものがありました。最後のチューブラーベルズの音が、より希望へ、平和へと歩みを照らす鐘の音に響いたように聴こえたのは私だけではないはずです。来年もこの曲が聴けますように。

 

 

演奏が終わると拍手喝采。その後の恒例の弦楽の皆様との腕合わせは、浜松公演では豊嶋さんと1st Vnの方のみで省略バージョンで終わりました。割と早めに楽団の皆様も退場しましたが、その後久石さんが再度豊嶋さんと三浦さんの三人で再登壇。

会場は一気に盛り上がり、スタンディングオベーションへ。ここのホールは4階席までありますが、すべて総立ちになるととても迫力がありました。お三方が深々と礼をしたのちに、ステージを後にしました。

大盛り上がりの浜松公演も無事に終了しました。

 

2022年8月1日 ふじか

 

曲ごとに丁寧でわかりやすい感想はすでに周知のとおりですね。WDO2022は初日から最終日に進むなかで修正が加えられている珍しいパターンです。ライブ配信では聴けなかった箇所があります。大きくは3つ、『My lost City』終曲のピアノからヴァイオリンへの変更、『Porco Rosso』終曲のピアノソロでのフィンガースナップ追加と、同曲アウトロでの弦楽追加です。そのあたりにも注目しながらもう一度読み返してみるとおもしろいですよ。

それから。

『漂流者』”その物語の主人公が鼻歌で歌っているような雰囲気”!なるほどとても新鮮でした。そんな発想のセンスなかったから、ぐっと物語が立ち上がってきますね。『アドリアの海へ』そうでしたね、テンポもゆっくりになって抑揚がついていましたし、後ろ髪をひかれるような、後ろにもたれかかった3拍子になっていました。軽快にワルツのリズムをキープしていた東京公演とは変わっていたと思います。カーテンコールの肘タッチはどの公演もコンマスとだけだったかもしれません。プログラム2時間いっぱいいっぱいでしたもんね。スタオベになる瞬間は肘タッチのときかご三人再登壇のときか、このあたりは総立ちタイミングが会場ごとに違ったかも。僕も肘タッチコーナーがつづくと思ってたから立ち上がるタイミング出遅れ組になってしまった。イヤホンうらやましいです。新しいオーディオ装置を買ったとき、初めての車を運転するとき、ここぞと選んでしまう曲のエピソードよくわかります。スマホを替えたときとかはもうそんな儀式的なことしなくなったけど。パーソナルなお返事のように書いてしまいました。みなさんもリプでどうぞ(笑)

 

 

静岡公演

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
コンサートレポートはいつでも大歓迎です!書いてみようかなと思ったらお待ちしています!

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第71回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート by tendoさん

Posted on 2022/08/02

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

今回ご紹介するのは、韓国からライブ・ストリーミング・レポートです。1-2週間ぶり!?(FOC Vol.5)の登場です。コンサート鑑賞のアングルとユーモアに拍車かかっています。楽しみにしている人きっと多いんじゃないかなと思います。僕もまだ答え合わせできていない箇所あるくらい…どうぞお楽しみください!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

はじめに

今年の夏もWDOがやってきた!FOCコンサートの一週間後にまたコンサートを見ることができるようになった!WDO2022コンサートもリアルタイムでストリーミングされ、韓国をはじめ世界中で楽しむことができた。コンサートの余韻が消えない。到底我慢できない!それで、今回のコンサートも自然にレビューすることになった。

 

W.D.O.の紹介

World Dream Orchestraは、久石譲の最も代表的なコンサートシリーズだ。韓国にも来韓して素敵な演奏を披露したことがある。(W.D.O.2017) 特に2008年の「久石譲 in 武道館」をはじめ数多くの公演を行い、2015年から新しいプロジェクトでスタジオジブリアニメーション音楽を交響組曲として進行している。2022年の交響組曲は紅の豚だ!

 

 

今回のコンサートは何度も嘆声をあげた。最初の嘆声は、舞台セッティングを見た時だった!

 

はじめから久石譲のメインピアノがセットされた!ということは、交響組曲ではない曲でも久石譲のピアノパートがあるということなのか?

落ち着こう···まだ下手な判断は早い。舞台のスペースが足りなくて先にセッティングされた場合もある。ピアノ演奏があるならピアノに楽譜を置くんじゃないかな?

 

 

楽譜を置いた!! しかも結構分厚いね!!まだチューニングも始まる前なのに、そうやってもう2回も嘆声をあげた。

 

 

Joe Hisaishi:Water Traveller

 

久石譲の以前のコンサートプログラムを見ると、「Water Traveller」と「FOR YOU」で始まる場合も多かった。オープニング曲にぴったりの素敵な曲だ。特に金管楽器の音が魅力的だった。久石譲がオーケストラに向けて連続で力強くパンチを放って締めくくり。曲が終わった後の静寂が本当に良かった。

 

Joe Hisaishi:FOR YOU

 

「水の旅人 侍KIDS」の主題歌の器楽バージョンとなる曲だ。メロディーメーカーの久石譲らしい本当に素敵な曲だ。「WORKS・I」または久石譲ベストアルバムVol.2(Songs of Hope)に収録されたものと似たバージョンだが、今回のコンサートのために金管楽器のフレーズが少し追加されたことが分かった。

今回のコンサートには、私が大変な時期を過ごした時に慰めになった大切な曲がたくさん演奏されたが、この曲のEnglishバージョンである「MELODY Blvd.」アルバムの「I Believe In You」も力になる素敵な曲の一つだった。

「水の旅人 侍KIDS」は、久石譲と親しくしていたAbey Road StudiosのミキシングエンジニアMike Jarratt氏と最後に一緒にした作品だったというエピソードがある。「My Lost City」も彼と一緒にしたアルバムなので、つながる面があるようだ。「地上の楽園」アルバムも大変だった時に大きな慰めを与えてくれたアルバムだが、このアルバムの「HOPE」という曲にも「Water Traveller」のいくつかのメロディーが入っている。

 

 

Joe Hisaishi:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra

 

「My Lost City」は1992年発売された久石譲のソロアルバムだ。宮崎駿がこのアルバムを聴いて「紅の豚」に数曲使ったというのは有名なエピソードだ。私が一番好きなアルバムだが、すでに生産中止となり、ストリーミングでも聴くことができない。(まだ中古市場で手に入れることはできる。)

今回のコンサートのためにバンドネオンを中心にアルバムが再構成された。バンドネオンの演奏者はMFコンサートで「The Black Fireworks」を完璧に演奏した三浦一馬さんだ。はじめに弦楽を中心に演奏される曲は「PROLOGUE」。 続いて演奏される曲は「DRIFTING IN THE CITY」だ。

暖かい音色のバンドネオンの雰囲気が本当に素敵だった。Chamber Orchestraでオーケストラの規模を縮小したのは、バンドネオンを際立たせるためではないかと考えた。

 

 

続いて演奏された曲は「JEAROUSY」。アルバムでも元々バンドネオンがメインになる曲で、コンサートで演奏されたことはほとんどない。バンドネオンのビブラート奏法が印象的だった。 うん?!演奏が終わって、急にピアノに向かう久石譲さん?!

 

 

続いて演奏された曲は、私の涙腺を刺激するその曲。「TWO OF US」です。WDO2017の韓国公演でも涙を流した曲だ。ピアノとバンドネオンの音色が本当によく似合っていた。

 

 

コンサートのマスター豊嶋泰嗣さんのヴァイオリンまで乗せて本当に幻想的だった。ヴァイオリンとバンドネオンの合奏もとても素敵だった。

そして次の曲は、Madness?!

やっぱり意表を突く久石譲だ。「紅の豚」でも演奏されるので除外されると思っていたが、「My Lost City」でも欠かせない「Madness」だと思っていたのだろうか。少し短いバージョンだったが、バンドネオンバージョンの「Madness」が演奏された。

 

 

「Madness」の演奏が終わってピアノを弾くために降りてくる久石譲?!一歩下がって再び指揮台に立ち、次の曲である「WINTER DREAMS」が演奏される。なぜこのような間違いが発生したのかは、後に「Symphonic Suite “PorcoRosso”」でわかりました。😂

「WINTER DREAMS」もピアノの伴奏が変化する部分がある。コンサートでアルバムとの違いを見つける楽しみ!これがコンサートの魅力だ。

 

 

次の曲は「Tango X.T.C.」この曲も大変な時にたくさん慰めになった大切な曲だ。 XTC、すなわちecstasy、恍惚そのものである曲だ。バンドネオンが演奏する「Tango X.T.C.」をコンサートとして見ることができてとても幸せだった。

シンバルが演奏する部分からが個人的に一番好きな部分だ。この曲が終わる最後の部分にマリンバが追加されている。 気づきましたか?!

 

 

そうやって終わるようにみえたが、予想外にまたピアノを弾き始める久石譲!「My Lost City」アルバムの最後の曲でタイトルとなる曲「MY LOST CITY」をピアノで演奏する!

「JEAROUSY」と同じくコンサートで演奏されたことが非常に稀な曲だった。短いバージョンだったけど、本当にびっくり選曲だった。(ピアノ楽譜が分厚い理由があった…)

そうして1992年に生まれたアルバム収録曲がバンドネオンに合わせて選曲、再構成され、まるでアルバム全体が一曲だったかのように生まれ変わった。

WDOコンサートでは「Asian Symphony」、[Woman]、[Hope]、[mládí] など過去のアルバムの名曲がコンサートプログラムに引き続いて登場している。これからもこのようなコーナーが続いたらいいな。例えば、Piano Stories シリーズはどうですか? 😊

 

 

Joe Hisaishi:MKWAJU

 

インターミッションが終わって最初の曲は本当に久しぶりに聴くミニマル曲「MKWAJU(ムクワジュ)」!久石譲の原点となる重要な曲である。以前、TENDOWORKでレビューしたことがある。

参照:히사이시조 – MKWAJU :: TENDOWORK

 

「MKWAJU」は2台の爽やかなマリンバで始まる。サックスは最近あまり編成しないため、バスクラリネットに置き換えられている。暑い夏を涼しくするミニマルサウンド!対向配置で聴くMKWAJU!

この曲もアルバムと違って聞こえる部分がある?トライアングルが追加された部分があります。見つけることができますか? 😂

 

 

ここでまたハプニングがあった。次の曲である「DA・MA・SHI・E」の楽譜が用意されていなかったこと!突発的な状況だったが、楽譜を受け取って拍手を誘導する久石譲だった。2011年の韓国公演で通訳が緊張しすぎて泣きそうな声を出した時を思い出した。このような場面がすべてライブコンサートの醍醐味ではないだろうか。(私はリアルタイムストリーミングだが。本当にリアルタイムという体感ができた。)

 

 

Joe Hisaishi : DA・MA・SHI・E

 

オランダの画家エッシャーのだまし絵をモチーフに作曲された曲だ。(タイトルのDA・MA・SHI・Eもだまし絵を日本語ローマ字表記にしたものだ。)だまし絵がどこに目を置くかによって同じ絵なのに別の絵に見えるように、この曲も耳を傾ける部分が低い音なのか高い音なのかによって、その時その時違うように聴こえるのが魅力だ。後半部の金管楽器が噴き出す部分はいつ聴いても本当にかっこいい!

「Water Traveller」はアルバム「Melodyphony」の初曲として収録された曲、「MKWAJU」と「DA・MA・SHI・E」はアルバム「Minima_Rhythm」に収録された曲。どちらもロンドンのAbey Road Studiosで録音されたアルバムだ。今回のコンサートの序盤にどこか暗い雰囲気が感じられるのはそのような理由からだろうか。

そして次は今日のハイライト、Symphonic Suite “PorcoRosso”!

 

 

Joe Hisaishi:Symphonic Suite “Porco Rosso”

この曲はいくつかの印象的な場面を中心にレビューしようと思う。

 

始まりと同時にピアノに座る久石譲!「Bygone Days」のテーマとなる「Il Porco Rosso」の導入部がピアノソロで演奏される。最初からピアノ演奏だなんて!すごく良かった!

 

 

しかし、曲がこれ以上長く続くことはなかった。この重要な曲がこんなにすぐ終わるの? 物足りなさを後にして、「紅の豚」の最初のトラックにつながる。この曲は「My Lost City」の「1920~AGE OF ILLUSION」から変形した曲で、私が大好きな曲の一つだ!

実は「1920~AGE OF ILLUSION」が原曲になるという事実を知って、勢い購入した中古CDを皮切りに本当に本格的な久石譲のファン活動が始まった。だから個人的に意味のある曲だ。

その後はサウンドトラックの中から数曲が選曲されて演奏される。サウンドトラックより短くなったり、順番が少し変わる部分もあるようだが、サウンドトラックで聴く時とは異なり、曲の間に柔らかく自然につながっていてとても良かった。

 

 

「紅の豚」の6番目のトラックである「セルビア行進曲」には、ピッコロにサウンドトラックとは異なるフレーズが追加されているが、とても軽快で溌溂としていて笑みがもれた。

 

 

そしていよいよ始まった「Madness」演奏!久石譲が「Madness」のピアノ・スタッカート部分を演奏する!WDO2015の時との楽曲と似ているが、タンタン-タタ!と演奏する部分のハーモニーが変化していた。オーケストラとピアノがやりとりするシーンは本当に好きなシーンだ。かつて、どれだけ「Madness」に心酔していたか分からない。この曲をライブで聴けてとても良かった。

 

 

そうして、Symphonic Suiteが仕上がると思ったが、再びひねった! また久石譲がピアノに向かう!そして「Il Porco Rosso」を再び演奏する。最初に短く演奏したのが終わりではありませんでしたか? さすが!

「My Lost City」での久石譲の勘違いがまさにこの部分のせいだったのだろう。「Madness」は今回のコンサートで2回演奏される。リハーサルの後半で「紅の豚」の「Madness」に続けて「Il Porco Rosso」を演奏したはずの久石譲だ。だから勘違いしたに違いない。 😂

今回の「Il Porco Rosso」はしっかりと演奏が続く。ヴァイオリンが空を突くように高い音を出す部分があるが、本当にとても良かった。ここからが本当のハイライトだ。

 

 

フリューゲルホルンがメインメロディーをかっこよく演奏し、コンサート会場は巨大なジャズバーに変わった。この部分からは曲を新しく書き込んだ部分のようだった。本当に素敵でエレガントな雰囲気を出している。隣のトランペットも立ち上がって演奏し、再びフリューゲルホルンが受け継いで演奏するが、オーケストラの演奏が尋常ではなかった。

生まれて初めて聴くメロディーが登場し、慌てながらもうっとりしているが、急激に拍子が速く変わると、再び雰囲気が変わった。

 

 

ピアノがメインテーマをまた演奏するのに、久石譲が動きだし、拍子がだんだん遅くなって···。

 

 

またピアノに向かう!!!
今日は本当にどうしたの!!!

続いて「Il Porco Rosso」の最後の部分をピアノで演奏する久石譲。冒頭の演奏と首尾一貫した。ここでは泣き出してしまった。「Spirited Away Suite」のときと似た演出だったが、全く予想できなかった。とても素敵な演奏だった。演出と構成もとても良かった。特に、最後のハイライトの瞬間は本当に素敵で華やかでした。

ベートーヴェン、ブラームスの交響曲を指揮し、自身の交響曲も3曲も作曲したおかげだろうか。ますます完成度が高くなり感情を掘り下げるように構成も緻密になるようだ。以前の交響組曲とは異なり、サウンドトラックから多くの変化が起き、新しく付け加えたりもしたのも印象的だった。

実は、WDO2021をはじめとする最近のコンサートでは、久石譲のピアノの比重が減り続けていた。残念ながら久石譲の年齢と指の負傷のお知らせのため理解するしかなかったし、短くても演奏してくれたことにも感謝していた。そんな状況で「My Lost City」をはじめ「Madness」「Il Porco Rosso」まで、ファンを十分に満足させる久石譲の演奏は本当に感激した。

 

 

Encore

 

アンコールは「One Summer’s Day」と「World Dreams」だった。それなら…公演前に見たツイッターはやっぱりネタバレだったのだろうか! 戸惑って少し裏切られた感じが…(今は削除されたツイートだ。)

「One Summer’s Day」はふだんコンサートでアンコールでよく演奏される曲だが、バンドネオンが添えられて本当に違う雰囲気になった。アンコールも久石譲のピアノって!とても幸せでした。

「World Dreams」は、WDOのテーマとなる重要な曲。WDOの毎公演ごとに欠かさず演奏される曲であるうえ、最近はアルバムごとに該当年度のライブ音源をきちんと収録している。ここで鳴るチューブラーベルが本当にいい。

最後のアンコールでこの曲が演奏されるとさよならを告げる惜しい感じだが、初期の頃にいつも最初の曲として演奏されたように、次の出会いを約束する曲かもしれない。

 

今回のコンサートは、長く記憶したい最高のコンサートだった。往年の名曲が一堂に会したうえ、コンサートで聴くことができないと思っていた曲をたくさん聴くことができて良かった。何よりまた久石譲のピアノが多くなってよかった!何度もびっくりしてコンサートが終わった後も落ち着くのが本当に大変だった。

来年には必ず韓国で直接聴くことができれば良いと思う。ぜひお越しください…!!

 

2022年7月29日 tendo

 

出典:TENDOWORK|히사이시조 & 월드 드림 오케스트라 2022 콘서트 리뷰
https://tendowork.tistory.com/89

 

今回もテンション高めおもしろかったですね!tendoさんのコンサート・レポートはいつも完成が早い。WDO2022は初日公演がライブ配信されて最終日まで一週間ほどの時間がありました。ツアー完走したらレポートを公開するという気配りも忘れないなか…早々と書き上げたtendoさんはたぶんコンサートが終わる時間を見計らって予約投稿してたんです(笑)待ちきれなかったでしょうね!

ライブ配信をリアルタイム視聴している瞬間に思ったことや気づいたことそのまま、まるで瞬間冷凍したように高い鮮度で封されている。だから臨場感あってホットに楽しめるんだろうなと思います。視聴しながらメモしてるのかな? 体感したテンションのままキープして文章に出せるってうらやましい。

本公演も楽曲の変化のことからステージでの微細な気づきまでアンテナMAXでした。僕も訳しながら驚きながら後でチェックしようととても忙しい。楽しい悲鳴です。もしも、WDO2022コンサートに行けなかった人やライブ視聴できなかった人が、これから先このレビューを見る日がきたら、きっと残念!悔しい!を連発するでしょうね。魅力をたっぷり詰めこんだコンサート・レポートありがとうございます!

tendo(テンドウ)さんのサイト「TENDOWORKS」には久石譲カテゴリーがあります。そこに、直近の久石譲CD作品・ライブ配信・公式チャンネル特別配信をレビューしたものがたくさんあります。ぜひご覧ください。

https://tendowork.tistory.com/category/JoeHisaishi/page=1

 

 

東京公演/Live Streaming

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
これからもライブ配信の機会が増えるといいですね!

 

 

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Overtone.第70回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート by むーんさん

Posted on 2022/08/01

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

今回ご紹介するのはライブ配信レポートです。初登場むーんさんです。その人にしか書けない作品についてのことや想いってありますね。ひとつの作品に想いを込めた素敵なものを届けてくれました。どうぞお楽しみください。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

私は「My Lost City」が好きだ。

 

 

それは1992年の秋頃、いつものように入ったレコードショップ。クラシックの列をあらかた散策した私は「イージーリスニング」のコーナーへ向かった。

 

沢山あるアルバムの中にそれは埋もれていた。

 

当時は「久石譲」のコーナーなどどこにも無い。世間では、少なくとも私の周りの世間では久石譲の名を知る人もほぼ居ない。私も「ジブリの音楽書いてる人」位の印象しか無かったが、そのアルバムは何の気なしに私の目に止まった。

 

アルバム名は「My Lost City」
作曲者は「久石譲」

 

「へぇ。久石譲ってソロアルバムも出してるんだ」 何故か目にとまったそのアルバムを引き出しそう思う。「面白そう。買ってみようかな。」 それが久石さんと私の出会いである。

 

帰宅しアルバムを聴いた私は固まった。

当時、1番好きな曲はチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」。この世で1番美しい曲はモーツァルトのレクイエム。クラシックの中でも悲しい、暗い曲が好きだった私のその琴線にビビッと触れたそのメロディ。いや、触れたでは済まない。身体の中を衝撃が走り去った。この世を憂うような悲しむような美しい響きがこれでもかと流れてくる。

しかもアルバムの構成が良い。クラシックのように曲順や構成にも凝っている。それぞれの曲が独立しそれぞれのテーマを唄いながら、全体として1つの「意味」を持つアルバムになっている。アルバムを一通り聴き終わった時、私は既に久石さんの虜になっていた。

 

私にとってこれが
久石さんとの出会いであり、原点である。

 

だから、私は「My Lost City」が好きだ。

 

 

それから30年。

節目の年にその衝撃の出会いはまた訪れた。

 

2022.7.23午後。病院のベッドの上。今回の手術のためにコンサートチケット購入を断念した私は病室のベッドの上にタブレットを置き、ワイヤレスイヤホンをして寝ている。

身体は痛いし、看護師さんの目も気になるが、今年年頭に手術を取るかコンサートを取るか悩んだ末、手術を優先したのだ。多少の身体の痛みには一時的に大人しくして貰おう。年頭の深い悩みに比べれば看護師さんの目も大したことは無い。それよりもライブ配信に全神経を集中する。

 

そしてそれは始まった。

思いも掛けず流れる「Prologue」に背中がゾクゾクする感覚を覚える。「My Lost City」のアルバム構成を考えれば、これなくして「My Lost City」は始まらないが、WDOと言うコンサートの性質を考えれば、時間的にも曲の知名度としても入れるのは難しいのではと思っていたこの曲をさも当然のように持ってくる久石さんに、このコンサートへの意気込みを感じた。

「Two of Us」が始まった瞬間、私の身体には寒けが走った。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。想像していた理想の編成でその曲が演奏されたからだ。悲しさと寂しさ漂わせるバンドネオンの音色と、孤独さと哀愁漂うバイオリンの音色。それを優しく包むように響くピアノの音色。まさにこの曲の理想の形の一つでは無いだろうか。バンドネオンとバイオリンが重なる辺りから寒気も涙も止まらない。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。感動したからだ。余りの美しい響きに。私はこの響きを聴けて幸せである。

次の「狂気 MADNESS」には驚かされた。こんなにも間引かれたこの曲を聴いた事がない。この30年、この曲「狂気 MADNESS」は殆どその形を変えずに何度も演奏されている。久石さんにとってそれだけ思い入れのある曲であり、完成した曲なのである。それが引き千切られ、繋げられ、改変されている。この組曲の編成編曲に対する音楽家・久石譲の深い決断と並々ならぬ思い入れを感じずにはいられない。それを表すかのように、なんとこの曲のエネルギッシュなこと!ピリピリとした演奏はやがて各演奏者のボルテージをあげてゆく。打楽器のロールがさらにそれを加熱させ、その演奏は何かが取り憑いたようにも見える。まさに「狂気」である。

「Tango X.T.C.」、この曲は本来感傷的な曲である。久石さんご本人もそのアルバムの中で「なぜ1920年代のタンゴはセンチメンタルなのか?」と書かれている。だが、この演奏は実に伸びやかである。センチメンタル、感傷的と聞くと「哀しい」「つらい」と負のイメージが思い付く。それを表すかのようなバンドネオンのメロディライン。ではなぜ?

年齢を重ねるたびに深く思うが、哀しい、つらいと言った感情を感じるからこそ、嬉しい、楽しいと言った感情も感じることができる。若かった30年前には判らなかったそう言った表裏一体の感情を表すかのように、センチメンタルなバンドネオンのメロディラインを奏でつつ、曲は伸びやかに、自由気ままに。そして愉しげになってゆく。演奏者の動きや、久石さんの笑顔がそれを表すかのようだ。そして、人生のクライマックスが訪れるように曲は終わる。次の曲「My Lost City」があるのが判っていても拍手を送りたいと思った。いや送っていた。それほど、この「Tango X.T.C.」は素晴らしかった。

組曲が終わったとき、私は興奮し号泣していた。それが病院のベッドの上とかは、もはや関係ない。嬉しくて嬉しくて。この演奏を聴けた事に感謝して。その興奮は30年前を思い起こさせる。久石さんに初めてあったあの日のように。

 

身体に力が満ちてくる気がした。

 

来年は必ず演奏を聴きに行こう。

それまで頑張ろう。元気になろう。
その日を楽しみに。

こんな興奮をまた味わうために。

 

 

やはり、私は「My Lost City」が好きなのだ。

 

2022年7月28日 むーん

 

じんわりと胸に広がっていくものを感じます。こういった瞬間に触れると、本当にいろいろな環境や状況のなかから、コンサートへ行きライブ配信を視聴し、WDO2022を体感した一人一人にリアルなドラマがあるんだなと改めて切実に思います。次のコンサートはきっと行けますように!

当時の空気のなか手にとっていること、そこからずっと聴いていること、ほかのファンの人からしたらとてもうらやましい貴重な限られた体験だと思います。そして僕はひとつ気づいた。久石さんのフェアライトやデジタルといった80-90年代サウンドが好きでいつしか離れていった人はいるけれど、「My lost City」を好きになった人で離れた人はいない。この作品に出会ったときからずっとファンのまま歩んでいる。そういう作品なんです「My lost City」。

むーんさんは「久石譲の小部屋」でCD紹介ブログをしています。これまでに100枚を越える久石譲アルバムが魅力的な文章で紹介されています。これを見て驚くこと発見することたくさんあります。ご自身のリズムに合うペースで更新されています。くつろぎながら楽しめます。ツイッターと一緒にぜひチェックしてくださいね!

久石譲の小部屋
https://ameblo.jp/nanashi-no-gonbe2/

むーんさん
@HisaishiM

 

 

東京公演/配信

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

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Info. 2022/08/01 スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開! 音楽:久石譲

Posted on 2022/08/01

スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開!

2022年11月1日に愛・地球博記念公園(愛知県長久手市)に開園する「ジブリパーク」。 “Info. 2022/08/01 スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開! 音楽:久石譲” の続きを読む

Info. 2022/08/12,19,26 [TV] 金曜ロードショー 3週連続 夏はジブリ『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『耳をすませば』放送

Posted on 2022/07/22

今年の夏も!3週連続 夏はジブリ【8.12】『天空の城ラピュタ』【8.19】『となりのトトロ』【8.26】『耳をすませば』

「金曜ロードショー」では今年の夏も3週連続でスタジオジブリ作品を放送!8月12日は、『天空の城ラピュタ』、8月19日は『となりのトトロ』、8月26日は『耳をすませば』をお送りします。いずれも、11月1日に、愛知県にオープンするジブリパークに、関連する施設が建設中の注目作品です! “Info. 2022/08/12,19,26 [TV] 金曜ロードショー 3週連続 夏はジブリ『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『耳をすませば』放送” の続きを読む

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・レポート

Posted on 2022/07/20

7月14,16日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサートです。前回Vol.4は2月開催となんと半年も経っていない、そしてリアルチケットは完売御礼。Vol.2,3,4に引き続いてライブ配信もあり、国内海外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5

[公演期間]  
2022/07/14,16

[公演回数]
2公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール
長野・長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
久石譲:2 Dances for Orchestra

—-intermission—-

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

 

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

プログラムノート

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

*寺西基之氏による楽曲解説

 

久石譲:2 Dances for Orchestra
Mov.I How do you dance?
Mov.II Step to heaven

この曲は、昨年のMUSIC FUTURE Vol.8で「2 Dances for Large Ensemble」として世界初演した。ダンスなどで使用するリズムを基本モチーフとして構成しているのが特徴で、聴きやすそうでありながら、リズムが巧みに交錯した構造になっている。久石譲は発表時、「使用モチーフを最小限にとゞめることでリズムの変化に耳の感覚が集中するように配慮した。Mov.2では19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」と語っており、これは近年追及している方法の一つである「単一モチーフ音楽=Single Track」の最新版ともいえる。今回のFUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5では、もともと「for Large Ensemnble」としていた初演版から編成を拡大し、Future Orchestra Classicsにふさわしいバージョンとして初披露する。

(*筆者明記なし)

(*久石譲 挨拶文なし)

 

(「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・パンフレットより)

 

 

リハーサル風景/公演風景

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式Twitter
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ベートーヴェンらしい力強い序曲です。録音では交響曲とカップリングされることも多いですし、ベートーヴェン序曲集のようなアルバムには収録マストです。とても人気のある曲です。今の世界的状況をにじませた選曲なのか(作品についてはウィキペディアなどご参照)はわかりませんが、パフォーマンスとしてもFOCにぴったりの曲です。

快速でした。

久石譲指揮/FOC 6:25
ノリントン指揮/ロンドンクラシカル 6:54
ヤルヴィ指揮/ドイツカンマーフィル 8:04
その他一般的 8:00-9:00くらい

タイムを計っても一目瞭然です。雄渾に重厚感たっぷりに演奏することもできる曲です。がしかし、演奏に陶酔しすぎないように、あくまでもインテンポで、颯爽と疾走感たっぷりに駆け抜けていきます。久石譲指揮のポイントになっているリズム重視ということはもちろん、そこには演奏も精神も重くなりすぎないように、そんな印象を受けました。

上の久石譲からヤルヴィまでの3つは非常にアプローチの近い演奏に聴こえます。タイムを縮めていきましょう。ヤルヴィ版との違い、たとえば弦楽器と木管楽器が掛け合う序盤の2分あたり(何回も登場します)とか、木管の掛け合いがちょっと歌うようにゆっくりになったりします。久石譲版とノリントン版はあくまでもインテンポでテンポが落ちていないですね。気づいたことだけで1分間近いタイムは縮められていないですけれど。

ノリントン版との違い、終盤のコーダかな。久石譲版はコーダ突入が5:05-くらい、ノリントン版はコーダ突入が5:25-くらい。この時点で残りタイムは-1:20,-1:25くらいなので、コーダ以降のテンポはそこまで変わらないのかなと推察できます。久石譲版は序盤からここに来るまでがずっと速いんです!コーダとテンポが変わらないほどに。多くの演奏では、コーダの前と後ろでテンポが大きく変わって、それがコントラストにもなっていて終盤の迫りくるラストスパート感があります。久石譲版は頭から終わりまでノンストップぶっちぎり!フォームもかちっとした作品で、切れ味のよいオープニングでした。

ヤルヴィさんも、ノリントンさんも、久石さんラジオで登場したことのある指揮者/オーケストラです。だから手元に持っていたこともありますけれど、挙げて場違いではないと思うので、ぜひ聴いてみてください。とりわけノリントン版のテンポアプローチが念頭にあるんじゃないかと思わせてくれるほど楽しいです。

 

 

久石譲:2 Dances for Orchestra

先にプログラムノートから少し補足します。スケジュールからは、2022年9月24日開催「日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #267」にて世界初演(予定)となっていました。事前アナウンスのプログラム変更もあって、FOC Vol.5で繰り上げて初演を迎えることになった作品です。FOCコンサートはライブ配信が定着してくれていることもあって、聴ける!と喜んだファンはきっと多い。

難しい2 Dances。いや、感覚的にはすごく惹き込まれる作品で魅惑的です。実際にMF Vol.8で披露されたアンサンブル版のレビューには、タイトルにある「dance,heven」というキーワードから「踊る=生きる」としてみたり、のちに極上のサスペンス/ミステリーみたいに聴こえだしたときには「踊る=踊らされた人たち」「heven=解決,出口」としてみたり、この作品から受けたイメージを記していたと思います。聴くごとに印象は七変化して。そこには一貫した前向きなメッセージが込められているようにも感じています。

オーケストラ版に拡大された本作は、楽曲構成(パート展開)はほぼ同じようです。声部の追加や楽器の厚みはあるでしょう、なによりダイナミックです。ただ、カオスすぎるというかアンサンブル版よりもごちゃごちゃ感のある印象もありました。それは構成の難しさはもちろん、太鼓系パーカッションも拍子を刻むようなアタックをしていなくて、旋律的にもリズム的にも寄っかかれるところが少ない。僕は会場で聴いたときに、これは反響して音が回っているせいかなと思い、ライブ配信(ステージマイク)のものを聴いたときも、あまり印象が変わらなかったです。とにかく難しい。

……

と、さじを投げてはもったいないのでがんばりたい。虫めがねをこらすように覗いてみたい。まあ難しいんだけど。タイムを計るとMov.I アンサンブル版10:20、オーケストラ版10:25とほぼ同じです。細かく分数区切って聴き比べもしましたけれど、タイムからも楽曲構成が変わらないことはわかると思います。Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。詳しいことはまたあとに。

 

Mov.I How do you dance?

この曲はモチーフが少なくとも2~3つあります。なにが難しいかって、これらのモチーフが同時進行的に並走していること!これらのモチーフが同時進行的に変奏していること! どのモチーフを追いかけるかでわからなくなって道に迷ってしまう、モチーフの並走に気づかずに出くわす(聴こえてくる)モチーフごとに振り回されてしまう。

ライブ配信・アーカイブ配信は期間限定一週間です。特別配信のアンサンブル版は今のところ継続視聴できます。シンプルに聴き分けやすいのもあってこちらをベースにのぞいていきます。

 

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.8” Special Online Distribution

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

冒頭からモチーフAがヴィオラ・チェロで登場します(00:38-)。そのとき同音連打のモチーフCはファゴットです。少し遅れてモチーフBがトランペットや第1ヴァイオリンで登場しますが、すでにオーボエも拍子ズレして登場しています(00:42-)。モチーフBいろいろな楽器へと移り変わっていってクラリネットになったりします(01:10-)。そのときにはヴィオラなんかが拍子ズレして追いかけています。

…と開始1分間くらいだけでもう目が回りそう。僕は基本モチーフをABCの3つとしました。これらが3つの声部として3本ならまだいいんだけど、AもズレてA’が並走している、BもズレてB’が並走している、Cは律動ベースではあるから…少なくとも5本並走して交錯している。たとえばそんなイメージ。それはもう目が回るわけだ。

息つく間もなく、モチーフAはチェロで早くも変奏を始めた(01:33-)。突然、鋭く速い第1ヴァイオリンのパッセージが登場しますがモチーフBの変奏とみました(02:00-)。前述のクラリネット(01:10-)と聴き比べても、同じ音型からできていると思うからです。パーカッションが増えて一気に躍動的になるところは、同音連打のモチーフCからのバリエーションじゃないかな…と思わせといて不正解、ここでモチーフCはピアノで通奏しています(02:17-)。

こんがらがる。

わかりやすいモチーフのズレでいうと、モチーフAの聴きやすいところ。チェロ(02:47-)からトランペット・ファゴット(03:11-)。あ、このあたりのシンバルのリズムはモチーフCと同じ律動ですね(03:22-)。あ、拍節感なく無造作に音を出しているようなトロンボーンかホルンなんかの旋律もたぶんモチーフAのバリエーションです(03:47-)。

こんがらがるけれど。

もう一回同じところ、モチーフAのチェロ(02:47-)です。コントラバスが少し違う音型で重なってきます(02:57-)。これをモチーフAの変奏とみるのか。あるいはモチーフAチェロから少しずつ音を抜き取って同じ単音で重なっている単旋律とみるのか。おもしろいですね。僕は単旋律(Single Track)手法だと思っています。モチーフたくさん並走してる変奏してる変拍子にもなるズレる単旋律もある。まいった。

気づいたしこ言い出したら止まらなくなってしまう。こんな感じでABCにだけ集中して聴いたとしてもすごいことになります。さらに、別の旋律や別の展開に入ったり、気づいていない仕掛けやなんやもあるもう大変です。

一個だけでもとっかかりを見つけると楽しいです。モチーフAはいちばん要になっているように聴こえ、このぐっと魅惑的になるピアノも変奏されたものです(07:17-)。そこに基本型をヴィオラ・第1ヴァイオリンで登場させて変奏型と交錯させたり(08:20-)。そのあともグロッケン・ピッコロ・トランペットなどいろいろな楽器に移り変わっていき、9:30くらいまでの約2分間だけでもたくさんのモチーフAを聴くことができると思います。

 

Mov.II Step to heaven

Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。大きくふたつ、盛り上がりのピークを迎えるパートがやや速いか遅いか、それ以降の静かになる終盤コーダからのテンポがオーケストラ版のほうは顕著にゆっくりになっています。

プログラムノートにあるとおり「19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」です。主役は単一モチーフだから、Mov.Iよりも聴きやすいかもしれません。でも、なかなか歌えない憶えられない19小節なんですけれど。

ひとつのモチーフがズレることによってリズムやハーモニーが変化しているのは、聴いていてもなんとなくわかるような。いろいろなリズムエッセンスがあってタンバリンやカスタネットはスパニッシュだし、音符からは日本的だし。中間部あたりからシンバルがスウィングしだしてジャジーかなと思ったりもします。けれど、このときピアノや低音で単一モチーフを奏しています、付点リズムなんです。だから4ビートのジャズにはならない。微妙な塩梅でリズムがなっている。

改めてこの曲の七変化、シュールなカーニバルと日本民謡をブレンドさせたブラックユーモアのようにも聴こえてきます。わらべ唄とまではいかない、民謡や歌謡のような雰囲気をスタイリッシュにした感じ。イメージを押し売りしてはいけないのですが、大ヒットで認知もあるし軽く聞き流してください。たとえば『鬼滅の刃』の列車や遊郭、大正ロマンのような香り。ほんとおもしろい曲です。ヨーロッパの品格あるミステリーと思ってみたり、雅な日本を感じてみたり。饗宴乱舞です。

 

強く添えておきます。

上に書いたことハズレの可能性は十分にあります。何点もらえる答案用紙かはわかりません。アンサンブル版とオーケストラ版のテンポの差は、それぞれ今回のライブ演奏においては、です。音源化されたものがひとつの標準テンポになってくると思います。さて、アンサンブル版からの紐解きをもとに、オーケストレーションの増幅されたオーケストラ版を聴きわけていく。まだまだ道のりは長いです。ダンスもゆっくりからステップ覚えていってステップアップしていきたいところです。

 

 

 

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

ブラームス最後の交響曲です。久石譲FOCの編成規模は、弦8型(第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ5、コントラバス3)に木管2管と室内オーケストラくらいの大きさです。ブラームスらが当時演奏していたのもこのくらいの大きさだったとも言われています。前回Vol.4での第3番も同じ弦8型とコンパクトに臨んでいます。そして、久石譲指揮は対向配置です。さらに、久石譲が振る古典作品はバロックティンパニが使われています。本公演は古典も現代も全作品ともにこの小編成規模でパフォーマンスされています。FOCは立奏スタイルです。迫力や躍動はもちろん、楽器間のアンサンブルも目配せ以上に体でコンタクトとっているさまが楽しいです。

第2番のときにも見られたかもしれません、とても音価を短くした旋律のアプローチだったように聴こえました。第4番第1楽章はイントロもなく(言い方適切じゃない)頭からかの有名な第1主題が流れてきます。なんとも哀愁と孤高の極みのようなメロディです。久石譲版は、これすらもまるでモチーフや音型のようにリズムを区切っています。そう、メロディじゃなくて素材的な扱いにしたように。そのほかにしても、こんなフレーズだったっけ?こんな印象だったっけ?というところが全楽章をとおして随所に感じてきます。ベートーヴェン交響曲のアプローチに近いような気がしました。でもブラームスはロマンもたっぷり。古典かロマンか、むずかしい。

なるべく歌わせたくなかった。歌うとタメが抑揚が緩急が生まれる。そしてテンポが遅れてくる。なるべくそうはしたくなかった。と仮定したときに…なんでだろう? 僕なりの回答です。ひとつは、綿密に構成されたモチーフが展開したり変奏するさまをしっかり浮き立たせたかった。久石譲版を聴けば、あのフレーズここでも鳴ってたんだつながってたんだということなんかが新しく発見しやすいかもしれません。もうひとつは、ブラームスが特徴的にアンサンブルだから。フレーズを掛け合ったりすることの多い交響曲たちばかりです。それも一小節や二拍ごとといった細かいスパンでキャッチボールしている。だからかなと思いました。キャッチボールするならお互いテンポを合わせないとうまく進まないですよね。あうんの呼吸です。片方はとてもインテンポで投げてるのに、もう片方は速度遅かったりふりかぶるのに時間かかったりだと、トントンとリズムよくできません。そんなイメージです。インテンポで歌わせる、インテンポで歌えないなら、リズムをそろえるほうに舵を取る。僕なりの回答でした。

メトロノームのような機械的リズムの演奏とは違います。メトロノームのテンポにきっちり合っていてかつ独特のグルーヴ感を生み出す演奏っていっぱいありますね。その絶妙な機微のようなもの。また、久石譲のリズム重視のアプローチというのは、聴く人に印象を押しつけないためのものかな、そんなことも思います。メロディを煽りすぎない、リズムを煽りすぎない、想いを煽りすぎない。ミニマルもそうですけれど、なるべく演奏側はニュートラルでいることで、聴く人にいろいろなイマジネーションをもってもらえる。だからベートーヴェンもブラームスも重い演奏を排除することで、新しい風を運んでくれた。聴く人は新しいイマジネーションをもつことができた。ミニマルが得意な久石さんにかかると、こういうところも根源にあるような、潜在的武器としてそなわっていたような、そんなことも思います。

全楽章で拍手が入りました。びっくりです。第1楽章はまあわかる。力強くどっしり終わる。第2楽章はゆっくり穏やかに終わる。わりと半数以上の盛大な拍手がきた。第3楽章なんてフィナーレかと思うような終わりかたするからもう当然に。周りを見ても拍手していない僕がいけないんじゃないかとわからなくなる。第4楽章は満員御礼の大きな拍手が送られました。「楽章間で拍手が起こるのは、新しいお客さんが来ているか、それほどの演奏だったか、そのどっちかだからどちらあってもうれしい」、そんなことを語っていたオケ奏者のインタビューを思い出しました。

 

 

ーアンコールー

ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

ブラームス交響曲ツィクルスの「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSIC Vol.2-5」では、アンコールはハンガリー舞曲からセレクトされています。2020年 Vol.2「交響曲第1番」「ハンガリー舞曲第4番」、2021年 Vol.3「交響曲第2番」「ハンガリー舞曲第17番」、2022年 Vol.4「交響曲第3番」「ハンガリー舞曲第6番」、そして本公演になります。一番有名な「ハンガリー舞曲第5番」は過去にも数回演奏歴があり、ベートーヴェン交響曲ツィクルスのアンコールなどでも登場していました。

まったくウィキ的調べがヒットしませんでした。とても哀愁感のあるメロディで始まる曲は、交響曲第4番第1楽章をフラッシュバックしそうです。1分経過した頃から、打って変わって陽気に快活にひらけていきます。

 

 

本公演Vol.5をもってブラームス交響曲ツィクルスは完走です。作品ごとに多彩なブラームスを聴かせてくれました。ブラームスファンが増えたらうれしい。さてさて、ブラームス全集は発売されるのか?Vol.6以降はあるのか?あるならどんなシリーズか?今からもう待ち遠しいです。日本センチュリー交響楽団ともシューマン交響曲ツィクルスが予定されていたり、新日本フィルハーモニー交響楽団のシーズンプログラムにも登場したりと、話題は尽きません。

FOCでぜひ聴いてみたい久石譲作品は「Sinfonia」です。NOCで披露された「Orbis」もとてもよかったです。予定にあったベートーヴェン「大フーガ」もいつか聴きたいです。「Links」とかもいい感じになるのかな?「Untitled Music」とかもってこいじゃない?しれっとアピールは尽きません。

 

 

 

 

2022.08.18 追記

(up to here, updated on 2022.08.18)

 

 

FOCシリーズ

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

2022年7月20日 CD発売 UMCK-1715

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「もののけ姫」

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra

交響組曲もののけ姫
20年以上の時を経て蘇る

(CD帯より)

 

 

解説

久石譲が音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)は、2004年の結成以来、これまで数多くの名演を繰り広げてきた。そのどれもが忘れがたく、観客に熱い感動を与えてきたが、こと2021年の活動に限って言えば、「不条理との戦い」の一言に尽きるかと思う。オーケストラが置かれた社会的な状況という意味においても、また、公演で披露した演奏曲という意味においても。

結成10周年を迎えた2014年以降、W.D.O.は毎年夏にコンサート・ツアーを開催してきたが、2020年は(当初予定されていた)東京オリンピックのために演奏会場の確保が困難になると予想され、かなり早い段階でツアー開催の見送りが決まっていた。結果的に、2020年は新型コロナウィルスのパンデミックが猛威を振るっていた1年だったので、たとえ会場が見つかったとしても開催は不可能だった。問題は翌年の2021年である。

日本国内の感染状況とワクチン接種状況にあまり詳しくない海外のリスナーのために少し説明しておくと、2021年2月の段階でワクチン接種(1回め)は医療従事者などごく一部に限られ、一般人の接種時期はそれから数カ月後になりそうな状況であった。クラシックの演奏会に関して言えば、すでに2020年半ばから開催可能となっていたが、観客数を大幅に減らしたり、あるいはオーケストラの演奏曲目も2管編成を越えない程度の規模に限定したりするなど、さまざまな制約を余儀なくされる状態が1年近く続いていた。しかも、感染拡大状況に応じて日本政府から緊急事態宣言が発令された場合、その時点で予定されていた該当地域の演奏会はほぼすべて中止になる。そんなリスクを抱えながらも、演奏活動の火を絶やさないため、関係者が日夜努力を惜しまぬ状況が続いた。

こうした中、2021年1月から東京都を含む地域で約2ヶ月半継続していた緊急事態宣言が同年3月に解除されたことを受け、久石とW.D.O.は2年ぶりとなるツアー開催を決断し、4月21日から京都、神戸、東京の3都市でコンサートを開催することになった。ところがツアー開始後、大都市圏における変異株急増が深刻化し(日本国内でのいわるゆ第4波)、4月25日から緊急事態宣言(日本国内では3回目)が発令されることになった。W.D.O.が予定していた3回の東京公演のうち、辛うじて4月24日の公演は開催に漕ぎ着けることが出来たが、25日と27日の公演は会場そのものが臨時休館という形で閉鎖されたため、有観客演奏はもちろんのこと、無観客演奏による収録・配信も不可能になった。W.D.O.始まって以来のツアー中断という異例の事態。久石も、オーケストラの団員も、公演を支える関係者も、そして言うまでもなく観客も、誰もが不条理を感じていたに違いない。とりわけ、不条理を描いた『もののけ姫』の音楽を含むプログラムを用意していた今回のツアーにおいては。

タタリ神との闘いによって死の呪いを受けることになったアシタカは、不条理な運命を背負うことになった存在である。山犬に育てられ、もののけ姫として生きることを余儀なくされたサンも、やはり不条理な存在である。パンデミックの不条理とは若干異なるかもしれないが、不可抗力の事態によって生き方を変えることを余儀なくされたという意味においては、少なくとも2021年当初の我々がごく自然に共感できたキャラクターである。戦いに明け暮れる『もののけ姫』の中世であれ、パンデミックに苦しむ2021年であれ、人間が置かれている状況は、実はそれほど違っていない。だからといって、不条理な運命を悲しんでいるだけでは何も変わらない。いや、変わらないどころか、消滅してしまうだろう。だから、不条理と向き合い、戦わなければならない。『もののけ姫』の有名なキャッチコピー「生きろ。」も、おそらくそういう意味ではないかと思う。

久石が『もののけ姫』の作曲(より正確にはイメージアルバムの制作)に着手してから、すでに四半世紀以上の時間が経過しているが、今回のツアーで初めて披露された《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》に到るまで、久石がしばしば『もののけ姫』の交響組曲に取り組んでいるのは、『もののけ姫』という映画とその音楽が、「不条理と戦いながら生きる」という人間の本質をきわめて直截に表現しているからではないだろうか? わかりやすく言うと、我々が不条理な世の中に生きている以上、『もののけ姫』を繰り返し演奏していかなければならない。単に宮﨑駿監督の映画のために書かれた音楽という次元を越え、我々自身のことを描いている音楽だからである。そうした意味において、《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》は四半世紀以上にわたって取り組んできた久石のライフワークの、現時点における到達点と言えるだろう。

『もののけ姫』の最後に演奏される〈アシタカとサン〉の晴れやかな音楽のように第4波の猛威がようやく落ち着き、2021年6月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受け、開催中止を余儀なくされたW.D.O.の4月25日と27日の振替公演が7月25日と26日にようやく実現した。本盤に聴かれる《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》《Asian Works 2021》《World Dreams 2021》は、その時の演奏を収録したものである。

言わずもがなだが、本盤は久石とW.D.O.が向き合わざるえを得なくなった、パンデミックの不条理の単なる記録ではない。2022年、別の不条理が世界を覆っている現在にこそ聴かれるべきアルバムだ。不条理と戦いながら、夢を追って生きていく人間たちへの讃歌ーーW.D.O.というプロジェクトに込めた久石の意図が、これほどまでにリアルに感じられる時代はないからである。

 

 

楽曲解説

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。さらにアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせるうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める……。宮﨑駿監督が構想16年、製作日数3年を費やした『もののけ姫』(1997)は、作曲家としての久石にとっても大きなターニングポイントとなった最重要作のひとつである。映画公開の約2年前から作曲に着手した久石は、宮﨑監督の世界観を余すところなく表現すべく、大編成のシンフォニー・オーケストラ、シンセサイザー、邦楽器や南米の民俗楽器など、ありとあらゆる手段を投入してサウンドトラックを完成させ、当時の日本映画の制作現場では珍しかった5.1チャンネルの音楽ミックスにも初めて挑んだ。映画さながらの総力戦である。このような成り立ちゆえ、サウンドトラックはそのままの状態では演奏不可能なので、久石は常設の交響楽団で演奏可能な全8楽章の交響組曲を新たに作り上げ、1998年7月、すなわち『もののけ姫』公開1周年を記念する形でアルバム『交響組曲 もののけ姫』(1998年版)を発表した。それから18年後、宮﨑監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾といて、1998年版の組曲を大幅にブラッシュアップしたヴァージョン(2016年版)が2016年W.D.O.公演で初披露された。1998年版と2016年版の大きな違いは、1998年版に含まれていなかった〈コダマ達〉が追加され、さらにオーケストラの響きを出来るだけサウンドトラックの印象に近づけるべく、オーケストレーションそのものが大幅に見直された点などを挙げることが出来る。この2016年版をさらに改訂したものが、本盤に聴かれるヴァージョン(2021年版)である。2016年版に含まれていなかった映画終盤のクライマックスの音楽、すなわち「世界の崩壊」を表現した楽曲群を追加することで、宮﨑監督がこの映画に込めた「破壊と再生」というテーマが音楽だけではっきり伝わるようにしたこと、歌詞を聴き取りやすくするために主題歌〈もののけ姫〉のキーを下げたこと、さらに久石が海外で指揮しているコンサート「Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のためのオーケストレーションが採り入れられたことなどが、今回の改訂の大きなポイントとなっている。以下に、組曲を構成する各楽曲を解説する。

まず「むかし、この国は深い森におおわれ、そこには太古からの神々がすんでいた。」というタイトルと共に始まるオープニングの音楽〈アシタカ𦻙記(せっき)〉。あたかも古代の詩人が雄大な叙事詩を語り始めるような荘重な面持ちで奏でられるこのテーマは、映画本編の中で主人公アシタカを象徴するテーマとして何度も登場することになる。

続いてタタリ神とアシタカが死闘を繰り広げるシーンで流れる〈タタリ神〉。無調音楽のように敢えてメロディアスな要素を排除することで、タタリ神の持つ凶暴性を見事に表現したテーマだが、日本の伝統文化になじみの薄い海外のリスナーが聴くと、日本古来の祭の音楽、すなわり”祭囃子”にインスパイアされたダイナミックなオーケストレーションに驚かれるかもしれない。この”祭囃子”は、タタリ神がかけられた呪い(その呪いは実は人間に対する憎しみに由来する)が何らかの形で鎮めなければならない超自然的存在、すなわち厄災をもたらす神であるということを暗示している。

次の〈旅立ち~西へ〉は、タタリ神を倒した代償として死の呪いを受けたアシタカが、大カモシカのヤックルに跨り、呪いを解くために西の地に向かうシーンの音楽。ここでメインテーマ〈もののけ姫〉のメロディーが初めて登場し、アシタカが出遭うことになるサンすなわちもののけ姫の存在をほのめかす。

続いて、負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが森の精霊コダマと遭遇するシーンで流れる〈コダマ達〉。コダマは英語に直訳すると「木の精霊」となるが、久石は木質の打楽器や弦楽器のピツィカートを巧みに用いて”木の響き”を強調しながら、森の雰囲気を見事に表現している。

本編の物語の流れと前後するが、次の〈呪われた力〉は、アシタカの放った矢が略奪を繰り返す地侍に惨たらしい死をもたらすシーンの音楽。タタリ神の呪いは、人間に死をもたらすだけでなく、人間に超人的な能力を与えてしまう。そうしたメタフォリカルな設定を表現した音楽として、短いながらも強烈なインパクトをリスナーにあたえる楽曲である。

続く〈シシ神の森〉は、傷ついた人間に癒やしをもたらすシシ神のテーマを、ほぼフル・ヴァージョンで演奏した楽曲。ストラヴィンスキー風のオーケストレーションが、シシ神の森を覆うアニミズム的な世界観を暗示している。

そして〈もののけ姫〉は、サンの介抱によって体力を回復したアシタカが人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍うシーンで流れる主題歌。映画全体のメインテーマであり、もののけ姫のテーマでもあるが、サウンドトラックのヴォーカル・レコーディングに立ち会った宮﨑監督はこの主題歌を「アシタカのサンへの気持ちを歌っている」楽曲と位置づけている。

次の〈黄泉の世界〉から物語終盤の音楽となり、エボシ御前によって首を討ち取られたシシ神が液状化し、巨大なディダラボッチに変容する凄まじい光景が描かれる。途中、〈もののけ姫〉のテーマの断片と〈アシタカ𦻙記〉のテーマの断片が「森は死んだ…」「まだ終わらない」というサンとアシタカのやりとりを表現する。再び、シシ神すなわちディダラボッチの凶暴な音楽に戻った後、アシタカとサンがシシ神に首を返すシーンの〈生と死のアダージョ〉となり、凄まじいクライマックスを迎える。

朝日が差すように音楽が一転すると、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽〈アシタカとサン〉となる。宮﨑監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現出来た」と言わしめた名曲である。今回の組曲では、ヴァイオリンとピアノの二重奏の形でメロディが導入された後、麻衣が作詞した歌詞をソプラノ(本盤での歌唱は安井陽子)が歌う編曲となっている。

 

Merry-Go-Round 2019

荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮﨑駿監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》。本盤に聴かれる演奏は、2019年のW.D.O.公演で披露されたヴァージョンで、今回が初リリースとなる。楽曲の構成自体は本編のエンドクレジットで演奏されるメインテーマのフル・ヴァージョンとほぼ同じだが、序奏を演奏するハープやテーマ旋律を導入するチェレスタ、その旋律を優雅なワルツとして演奏するアコーディオンとマンドリンなど、新たなオーケストレーションを施すことによって、映画の世界観が見事に凝縮されたヴァージョンとなっている。

 

Asian Works 2020

パンデミックの真っ只中にあった2020年、久石が手掛けた商業音楽(エンタテインメント音楽)を3つの楽章から構成される組曲としてまとめたもの。アジア地域からの委嘱という共通点を除けば、3曲のあいだに直接的な関連はないが、こうして3曲続けて聴いてみると、ミニマリストとしての久石、メロディメイカーとしての久石、エンタテインメント音楽の第一人者としての久石と、彼の3つの側面が図らずもくっきり浮かび上がってくるのが、大変に興味深いところである。

 

I. Will be the wind

LEXUS CHINAの委嘱で作曲。2020年9月、中国市場向けのプロモーション映像のための音楽として初めて公開された。作曲にあたって久石が重視したという「疾走感」がミニマリズムの反復音形と鮮やかな転調の繰り返しによって表現されているが、同時にレクサスという車種にふさわしい重量感が巧みなオーケストレーションから伝わってくる。演奏時間がわずか4分ながら、きわめてコンセプチュアルに書かれた楽曲と言えるだろう。

II. Yinglian

2020年12月にワールドプレミアを迎えた中国・香港合作のファンタジー映画『Soul Snatcher』(原題は『赤狐書生』、日本では『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』の邦題で2021年10月劇場公開)の愛のテーマが原曲。かつて久石がスコアを作曲した『海洋天堂』(2010)も手掛けた香港の名プロデューサー、ビル・コン(江志強)が製作を務めており、彼の強い希望で久石との10年ぶりの再タッグが実現したという。人間の姿をした狐妖・十三(リー・シエン)が伝説の狐仙となるべく旅立ち、狐仙への変容の鍵を握る書生・子進(チェン・リーノン)と友情を育みながら、妖怪や悪霊に立ち向かうというのが、物語の大筋である。曲名の《Yinglian》は、ふたりが旅の途中で立ち寄る妓楼の遊女・英蓮(ハニ・ケジー)に由来する。どこか哀愁を帯びたクラリネットの優しいメロディが、英蓮の妖艶な美しさと哀しい運命を見事に描いている。

III. Xpark

2020年8月、台湾・高鉄桃園駅前にグランドオープンした新都市型水族館『Xpark』のために久石が書き下ろした全7曲の館内音楽から、水族館の「観客の皆さんが楽しい気分で帰って欲しい」と意図して作曲したEXIT用の楽曲。最初にフルートが導入する、足取りが軽くなるような親しみやすいテーマを変奏していく形で構成されているが、途中には台湾を意識したペンタトニック風の変奏も登場する。

 

World Dreams 2021

2004年、久石が新日本フィルと共にW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろしたテーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディーが頭を過った」。作曲から18年を経た2022年の今、この曲が以前にも増して力強いメッセージを伝えているように感じられるのは、おそらく筆者ひとりだけではないはずである。

 

前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2022/6/10

(CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツ 日・英文解説(英文ライナーノーツ封入)

 

 

補足)
上の楽曲解説は4月公演とそのプログラムノートに基づいており、7月公演を収めた本盤のライヴパフォーマンスとは一部異なる箇所もある。納得のいくまで作品の完成度を追求する一面がみえる。

 

 

 

以下の楽曲レビューは「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポートで記したものから一部抜粋している。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

<構成楽曲>
1.アシタカせっ記(交響組曲 第一章 アシタカせっ記)
2.タタリ神
3.旅立ち -西へ-
7.コダマ達
4.呪われた力
8.神の森(交響組曲 第五章 シシ神の森)
20.もののけ姫 ヴォーカル(交響組曲 第四章 もののけ姫)
28.黄泉の世界
29.黄泉の世界 II
30.死と生のアダージョ II
31.アシタカとサン(交響組曲 第八章 アシタカとサン)

Track.曲名『もののけ姫 サウンドトラック』(『交響組曲もののけ姫CD版』)

 

交響組曲作品『千と千尋の神隠し』や『魔女の宅急便』のあり方にならって、映画本編で使用した音楽を中心に、サウンドトラック盤ベースに楽曲構成するというコンセプトに大きく軌道修正したように思います。一方では、楽曲によって『交響組曲もののけ姫CD版』のオーケストレーションを活かしているところもあります。

『交響組曲もののけ姫CD版』にしかなかった独自のメロディやパートは極力除外したということになります。「神の森」は「交響組曲 第五章 シシ神の森」の楽曲構成に近いですが、イメージアルバム「シシ神の森」の楽曲構成と世界観から取り込んでいるとするのが、正しいに近いと思います。風の谷のナウシカの交響組曲もイメージアルバムから「谷への道」を導入したように。初期の構想からすでに生まれていたけれど映画本編には使われなかった曲。

「呪われた力」、2016年版「レクイエム」パート中にもありましたが、前半に単曲で新規追加されました。細かくいうとアレンジは交響組曲CD中のもの、およびサントラ盤「23.呪われた力 II」に近いです。物語にそった組曲を目指したこと、呪われた力の凶暴性を出すことで、のちのシシ神の森のシーンや終盤の黄泉の世界までしっかりとつながっていきます。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、久石譲楽曲解説に ”新たに世界の崩壊のクライマックスを入れた” とあたります。シシ神殺しのパートをダイレクトに入れ込むことで、破壊と再生、生と死、『もののけ姫』作品世界の内在する二極を表現しています。そして前半の「呪われた力」にあった、決して消えることのない痣、いつ濃くなり蝕むかわからない痣を思い起こさせます。それは、決して簡単に答えの出ない世界で生きていく私たちへと、しっかりと刻み込まれる思いがします。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、たしかにと納得してしまいます。これぞ入って『もののけ姫』の世界と強く膝を打ちたくなります。そうして、それでもしっかりと生きていかなければいけない私たちへと迫り浴びせられる地割れのする管弦楽の轟きの後、希望と再生へとつながっていきます。

「アシタカとサン」(vn/vo)、やっぱり導入は僕がエスコートしないと(幻の声)、1コーラス目は久石譲ピアノが迎え入れたソロ・ヴァイオリンが美しいメロディを奏でます。2コーラス目にソプラノによって丁寧に歌われることもあって、豊嶋泰嗣さんのフェイク(メロディラインの持つ雰囲気は残しつつも、ある程度装飾的な要素を加えつつ崩して演奏すること)が光っています。

「アシタカとサン」(vn/vo)、2コーラス目はソプラノによって歌われます。「信じて~」からの天からやさしく降りそそぐ光ようなストリングス(武道館verから)、チューブラーベルの希望の鐘が高らかに、やさしい余韻へと。(vo)についてはのちほど…。

 

2021年版を聴いて「歌は必要なんだ!」と強く思いました。『もののけ姫』という作品において、歌(言葉)による精神性の表現というのは大切なことなのかもしれません。世界ツアー版で「もののけ姫」はソプラノによる日本語歌唱、「アシタカとサン」はコーラスによる英語詞で歌われています。でも、だから2021年版もやっぱり歌で、と言っているわけじゃないんです。

それは、「日本語による歌唱」です。ここに強くこだわっているように思えてきました。世界ツアー版とは異なり、これから先《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》が海外公演されるときは、現地オーケストラと現地ソリストによる共演になります。そして、きっと2曲とも「日本語による歌唱」です。これはたぶん揺るがない。

《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》でめざしたのは、『もののけ姫』の世界を音楽で表現すること、日本的なメロディ・ハーモニー・リズムを余すことなく表現すること、そのなかに日本語の美しさを表現することも含まれる。そう強く思いました。オペラなどと同じように、純正の日本語でしっかりとした作品をのこす。「日本語っていいね、きれいな響きだね」と言われるものをつくる。

物語にそった音楽構成と日本語の美しさで『交響組曲 もののけ姫』完全版ここに極まる。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Merry-Go-Round 2019

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」アンコールで披露されたもの。

映画『ハウルの動く城』から「人生のメリーゴーランド」です。2018年NCO公演で初演されたヴァージョンで、それ以降海外公演でも披露されています。オリジナル版は言えばすぐ浮かぶ、ピアノの切ないイントロに始まり、ピアノの美しいメロディがつづきます。タイトル「Merry-Go-Round」となっているこのヴァージョンは、ピアノがありません。イントロをハープで、出だしのメロディをグロッケンシュピールとチェレスタで、というようにピアノパートがオーケストラ楽器に置き替わっています。楽曲構成は同じですが印象は変わります。よりヨーロッパになったかなあ、というか、これなら久石譲以外のコンサートでもっと爆発的に演奏されるんじゃないかな、そんな新しい魅力も。アメリカやヨーロッパをはじめ海外指揮者・海外オケによる純粋な管弦楽作品として披露できる。

おっと、これは言っておかないといけない。本公演は「交響組曲 魔女の宅急便」でマンドリンとアコーディオンが編成されていたこともあって、この曲にも特別に参加しているスペシャルヴァージョンです。よりサントラ版に近い印象で、すごくよかったです。いや、すごく得した気分です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Asian Works 2020

I. Will be the wind
叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

 

II. Yinglian
愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る(Track.17,20,25,27)。この曲はTrack.17「英蓮 / Yinglian」をフィーチャーしたもの。

 

III. Xpark
明るく軽やかな曲です。音符の粒の細かいメロディがつながってラインになって、楽しそうに転げているようです。そして広がりのある曲です。ありそうでなかった!そんな久石譲曲です。番組音楽に使わせてください!そんな久石譲曲です。後半のソロ・ヴァイオリンの旋律も耳奪われる演出です。ホンキートンク・ピアノのように、ちょっとチューニングの狂った調子っぱずれのニュアンスで、小躍りするほど浮足立った弾みを表現しているようにも聴こえてきます。してやったりなコンマスと指揮者の目配せに笑みこぼれます。こんな音楽でおでかけの楽しい一日が締めくくれたらなんて素敵だろう。

映画『海獣の子供』公開時、コラボレーション企画として国内いくつかの水族館で、この映画音楽を使ったショータイムが開催されました。撮影OK!拡散Welcome!ということもあって、よくSNSで動画見かけました。それを目にしてのオファーだったのかはわかりません。でも、久石譲のミニマル・オーケストレーションは、ほんと海や宇宙のミクロマクロな世界観と抜群Good!なことはわかります。

 

World Dreams 2021

「9.11」から20年の今年。このことだけでも重みのある一曲です。そして「Covid-19」の渦中にある今。どんな時でも必ず演奏される曲。こんな一面も、4月24日無念さを残しながら、それでも今できることをかみしめるように演奏したWDOオーケストラメンバーのSNSの声も印象的でした。観客だけじゃなく、楽団員にとっても大きな一曲は、中断を経て新しい完走地点の7月25,26日いろいろな想い駆け巡りながら、会場に響きわたりました。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
1. The Legend Of Ashitaka アシタカ𦻙記
2. TA TA RI GAMI タタリ神
3. The Journey Of The West ~ Kodamas 旅立ち―西へ― ~ コダマ達
4. The Demon Power ~ The Forest Of The Dear God 呪われた力 ~ シシ神の森
5. Mononoke Hime もののけ姫
6. The World Of The Dead ~ Adagio Of Life & Death 黄泉の世界 ~ 生と死のアダージョ
7. Ashitaka And San アシタカとサン

8. Merry-Go-Round 2019

Asian Works 2020
9. Ⅰ Will be the wind
10. Ⅱ Yinglian
11. Ⅲ Xpark

12. World Dreams 2021

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (solo concertmaster)

Recorded at
Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall (July 25th, 2021)
Sumida Triphony Hall (July 26th, 2021)

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Soprano: Yoko Yasui

Merry-Go-Round 2019
Accordion: Tomomi Ota
Mandolin: Tadashi Aoyama

Recording & Mixing Engineer: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.)
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO)

Art Direction & Design: Daisaku Takahama
Artwork Coordination: Maiko Mori (UNIVERSAL MUSIC)

and more…