Overtone.第47回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2021/07/30

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、WDOだけでも3回連続(2018/2019/2021)でレポートしてくれる、ふじかさんです。さすが久石譲音楽を広く深く愛してやまない、ふじかさんです。過去作品たちから新作につながっているもの、そして未来の新作たちへつながるかもしれないもの。久石譲曲の点と点が線になっていて理解をやさしく助けてくれるレポートです。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

WDO2021東京芸術劇場公演の様子をレポートさせて頂きます。

2021年7月25日 東京芸術劇場 15:00開演

今回のWDO公演は新型コロナウイルスによる情勢の変化で大きく振り回されるツアーとなってしまいました。本来は4月末に開催予定でしたが、3度目の緊急事態宣言により公演は中止。およそ3か月遅れ、再度公演が設定されましたが、またしても4度目の緊急事態宣言が発令され、そのような状況下での開催となりました。ちょうど、東京オリンピックの開催とも重なり、会場では消毒・検温のほか、手荷物検査も実施されていました。個人的には2019年の静岡公演以来、約2年ぶりのWDOとなりました。

今回の目玉はコロナ禍で書き上げられた『Symphony No.2』。前作の交響曲となる『The East Land Symphony』からは早くも5年となり、待望の最新作の交響曲となりました。そして同時に演奏される『もののけ姫組曲』は2016年WDO公演にもプログラムされており、破壊と再生をキーワードにどんな世界観が構築されるのか本当に楽しみにしていました。

 

会場に入ると、ほぼ満席の客席。しかし、会話は少なく、いつもよりは静かな印象を受けました。

15時すぎに楽団員の登壇に続き、コンサートマスターの豊嶋さんが登場。チューニングののちにしばしの沈黙。ほどなくして、久石さんが登場。前回のFOC Vol.3と同様、コンマスとの握手はせず会釈のみで、指揮台へと上がります。

 

 

Joe Hisaishi 『Symphony No.2』

『1楽章 What the world is now?』

前作の交響曲『The East Land Symphony』では再生と東日本大震災以降の日本を軸に構成されていて、楽曲の始まりから重々しい雰囲気で導入されるのが印象的でしたが、今回の『No.2』ではプログラムにて「純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した」との記載がありました。

早速、導入部では前作のような重々しい和音ではなく、どこか浮遊感のある和音にストリングスが散発的に2音の音を折り重ねていくような展開から始まりました。同時にチェロによるモチーフが提示され、そのモチーフが木管へと引き継がれていきます。その後はストリングスが細かいパッセージを構成しながら、打楽器隊のパワフルな演奏が加わります。雰囲気としては先日のFOC Vol.3で披露されたレポ・スメラの『Symphony No.2』を彷彿とさせるものもありました。

テンポもリズムも大きく変わっていきますが、軸となるのは冒頭で提示されたチェロによるフレーズで、それらを取り込み、変容しながらフィナーレへと一気に駆け上がっていきました。息つく間もなく、次々と曲の構成が変わっていく様子はまさしくタイトルにもあるように、今日のコロナ禍での世界の様子を暗示させるものも感じました。

演奏後、一瞬拍手が入りそうになりましたが、間一髪で鳴りませんでした…

 

『2楽章 Variation 14』

去年のMusic Future Vol.7にて小さい編成での試演がされましたが、いよいよ完全版での披露となります。『1楽章』の雰囲気とは一気に変わり、どこか陽気でリズミックなモチーフが提示され、次々と変奏されていきます。このどこか陽気でリズミックなモチーフはまるで『Encounter』のようなユーモアも感じます。様々な音色とアレンジで受け継がれゆくモチーフは聴いていて本当に楽しく、後半にゆくにつれて体を揺らしていきたくなるようなわくわく感に包まれます。終盤は冒頭のモチーフが華やかなパーカッションとスピード感ある演奏により、スリル満点になります。その後、ストリングの短いフレーズを繰り返しながら、チェロの音色で終わります。

 

『3楽章 Nursery rhyme』

プログラムには「日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるのかの実験作である」と記載がありました。

わらべ歌のモチーフがコントラバスから始まり、チェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリンと受け継がれていきます。冒頭がコントラバスから始まることにびっくりしましたが、ある意味マーラーの『Symphony No.1 3楽章』のフランス民謡(日本語歌詞では「グーチョキパーでなにつくろう」)というモチーフを引用したような部分と共通のものも感じました。

わらべ歌モチーフがミニマル的なアプローチで発展をしていく様子は、以前『なよたけのかぐや姫(女声三部合唱のための)』にて実践してきた部分も取り入れられたような部分もあり、いままでの作品にて実験・実践してきた部分も活用し、今回の楽曲へ応用して取り組まれていった様子も感じることができ、それらを踏まえると前作の『The East Land Symphony』とはうって変わって、純粋に音の運動性を追求した作品であると改めて意識することができました。

ミニマルアプローチでの盛り上がりがピークに達したところ、一瞬演奏が途切れます。この瞬間に一瞬拍手がなるハプニングもありました。その後は、再度冒頭のコントラバスによるモチーフの再提示がありますが、副旋律も加わりより重厚な演奏になります。このモチーフを再度発展させていき、再び盛り上がりのピークへ。最終盤は、コントラバスソロによりモチーフを歌い上げ、静かに終わります。

 

 

今回の『Symphony No.2』から感じられたことは、ここ近年のミニマル作品にて取り入れてきた部分を様々な形で活用し、構成していった部分でした。各楽章ともそれぞれ、モチーフを提示し、アレンジさせ発展していきます。そしてただズレていくためだけのミニマルではなく、ミニマルもエッセンスの一つとして構成されています。

近年の『Single Track Music 1』『Chamber Symphony No.2』『I Want to Talk to You』『Encounter』『2 Pieces』などなど単旋律の追求、モチーフの発展の仕方など、様々な方法を実験し、行きついた作品が今回の交響曲であると感じました。そして、日本の作曲家だからこそできた西洋楽器と東洋のメロディ・モチーフとの融合。

今後、この楽曲は世界での演奏会でも数多く予定されていており、日本のエンターテインメント性をも訴えることができる作品だと思います。いずれは、日本を代表する交響曲のスタンダードとしてラインナップされるとファンとしてはうれしい限りです。もし、FOCなどでの少し小さい編成でのオーケストラにて演奏した場合、どのような表情へ変わるのか…音を運動性を追求した作品だけあって、今後の様々な発展も期待できる作品となりました。

 

 

Joe Hisaishi『Asian Works 2020』

2020年に発表されたエンターテインメント作品をピックアップしたコーナー。近年のエンタメ作品は発表のみでコンサートでの披露や音源化されることなく埋もれてしまうことが多かったですが、今回のコンサートでは一挙に3曲もコンサートのピースとして披露されました。本当にうれしい限りです。

 

『Ⅰ.Will be the wind』

ミニマルテイストを感じさせるピアノのフレーズを軸に、次々と様々な楽器が折り重なるように演奏されていきます。要所要所に入ってくるミニマル特有のズレが聴いていてなんともクセになります。後半に入るにつれ、加わってくる弦楽器の少し切なげなメロディとミニマルの交差から久石さんのエンターテインメント性が光ります。最後は力強く、バンっ!とフィニッシュです。

 

『Ⅱ.Yinglian』

香港映画の『赤狐書生オリジナルサウンドトラック』から『英蓮』がセレクト。ピアノの刻みから展開されるクラリネットから聴こえてくる、浮遊感のあり、掴みどころがないようなフワフワとしたメロディ。近年のエンタメ作品で実施されている引いた音楽がここでも実践されている気がしました。

 

『Ⅲ.Xpark』

最後は台湾の水族館のための音楽からセレクト。フルートの明るく楽しいミニマルを感じさせるメロディから始まり、木管の演奏へと続きます。ミニマル素材と海や深海などのテーマとの相性は抜群。水の流れを感じさせる雄大な弦の調べや、光を感じさせる伴奏のリズム。久石さん自身も楽しそうに体を揺らしながら指揮をしていたのが、印象的でした。最後は水の気泡が弾けるようなピチカートでポンッ!と終わりました。

 

近年のエンタメ作品では、ミニマルの要素が随所に取り込まれていて作品のクオリティが一段と高められています。納品先で流れて終わりではなく、コンサートで取り上げても作品として成立する完成度。この3曲を聴くと、いままで発表されコンサート等でのお披露目がまだの作品も今後の演奏があるのでは…!と期待のできるコーナーでもありました。

 

 

Joe Hisaishi『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

今回のコンサートのもう一つの目玉、『もののけ姫組曲』が満を持して登場です。ちなみに私自身、2016年版演奏時はプログラムされていないほうの公演(Bプロ)を聴いたため、この組曲はいまだに聴いたことがありませんでした。今回ようやく初鑑賞です。

 

『アシタカせっ記』

久石さんの大きな振りとともに轟く大太鼓の音色。一気に物語の世界観へといざないます。メロディの入口にはパーカッションも加わり、より壮大な印象へ。

『TA・TA・RI・神』

再び、久石さんの大きな振りとともに轟く大太鼓とさらに和太鼓の音色。緊張感あふれるメロディと吠える金管、炸裂するパーカッション。会場が揺れるような演奏の迫力に会場全体も圧倒されたような雰囲気を感じました。

『旅立ち~西へ~』

先ほどの緊張感からはうって変わり、『もののけ姫』のメロディを軸に楽曲が展開されていきます。後半での壮大なパートではメロディの美しさとアレンジの力強さが見事に伝わってきます。

『コダマ』

コダマの首を回す音は打楽器にて見事に表現。原曲でのシンセの音は木管や金管の息の長い音色で再現。コミカルで不思議な雰囲気のこの楽曲もオーケストラにて完全に構築されていました。

『呪われた力~神の森』

劇中にてアシタカが敵から襲われるスリリングなこの曲も取り込まれ、そのままシシ神のテーマへ。木管から紡がれる怪しい雰囲気から混沌を感じさせる激しいパートへ。

『もののけ姫』

ゲストソプラノが登場し、有名な主題歌を披露。途中から転調し、ソプラノの美しさがより感じられる場面では、生演奏だからこそ伝わってくる気迫も感じられ鳥肌が立ちました。

『黄泉の世界~死と生のアダージョ』

終盤に向けて組み込まれた世界崩壊のクライマックス。手に汗握るようなスリリングな楽曲に時折顔をのぞかせる『もののけ姫』のテーマ。

『アシタカとサン』

組曲の終盤を飾るのは、物語では再生のテーマとして流れた本楽曲。今回のアレンジでは豊嶋さんのヴァイオリンソロを堪能できるバージョンへと進化しており、久石さんも短いながら、ピアノの伴奏として参加します。後半ではソプラノが加わり、希望の歌詞を豊かに歌い上げ、希望の鐘も響きながら美しく幕を閉じました。

 

 

会場からは割れんばかりの惜しみない拍手。

何度かのカーテンコールののちにアンコールへと進みます。

 

Encore

Joe Hisaishi『World Dreams』

いままで、何度も聴いてきた本楽曲でここまで泣きそうになってしまったのは初めてでした。コロナ禍で日常はもちろん音楽を楽しむ状況まで一変し、いままでとはまったく違う世の中になってしまいました。今の世界の夢ははやく日常を取り戻すこと。そこへ向かいたいというエネルギーがこの楽曲に凝縮されていて、改めて元気と活力をもらうことができました。

「哀しみにつまずけば 自由がみえる 歓びの灯が消えても ともに歩き続けよう」

 

演奏が終わると再び、拍手喝さい。

なかなか鳴りやまない拍手の中、大盛況で振替公演1日目は幕を閉じました。

 

2021年7月28日 ふじか

 

 

 

純粋に読んでいて楽しいです。リラックスしていて力まずにすっと読みやすいというかなあ、自分のと比べるとなおさら(苦笑)。今回も共感できるところ、新しい発見なところ、おもしろい表現なところ、とマーカーを引いていったら、なんとカラフルになるだろう! そんな感想です。いつも素敵なレポートありがとうございます。

 

いつも楽しいツイートもチェックです。好きな音楽ジャンルでFFつながりたくなるかも(^^)

ふじかさん
@fujica_30k

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
レポート多いと感想や感動が立体的になってきてうれしいです(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第46回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by tendoさん

Posted on 2021/07/29

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、韓国からライブ・ストリーミング・レポートです。感嘆すると思います、日本ファン顔負けの精通ぶりに。もし僕が海外作曲家にお気に入りがいたとして、ここまでリアルタイムに正確に音楽活動を追っかけられるかな。時差なし!誤差なし!すごいですっ!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

はじめに

久石譲のアルバムは、多くの曲をTENDOWORKで扱ってきたが、いざジブリ曲は扱ったことがない。ジブリ曲はあえて私が説明しなくても広く知られていることもあるし、たくさん聴かれていることもあるからだ。また、久石譲が最終的に作曲家として追求したミニマル音楽をより応援したいこともあった。

それにもかかわらず、今回のコンサートは、久石譲の第二交響曲が演奏される歴史的なコンサートなのでしっかりレビューみたいという思いがした。

 

W.D.O.の紹介

W.D.O.は久石譲の代表的なコンサートシリーズだ。それほど歴史も深い。韓国にも来韓して素晴らしい演奏を披露したことがある(WDO2017)。特に2008年の「久石譲 in 武道館」公演をはじめ、数多くの公演を行い、2015年から、新しいプロジェクトとしてスタジオジブリ・アニメーション音楽の交響組曲に取り組んでいる。

 

紆余曲折の多かったコンサート

今回のコンサートは本当にいろいろな情報が何度も出入りした。それだけ紆余曲折が多かった。2019年を最後に再準備期間に突入したW.D.O.が、2年ぶりにW.D.O.2021に戻るというびっくりするニュースが流れてきた。2020年だけスキップして、1年ぶりに帰ってきたも同然だった。さらに、予想もしなかった4月の公演日程だった。(ほとんどW.D.O.公演は8月頃の夏に行われる。)次いでライブストリーミング公演の計画発表。しかし、「ワールド・ドリーム・オーケストラ」ツアーの途中、日本の緊急事態宣言でキャンセルされてしまう。

後に振替公演の知らせが聞こえてきたが、再び緊急事態宣言のニュースも聞こえてきてパニックに陥った。それにもかかわらず、結果的に公演が行われた。だからこそ、感慨深いコンサートではなかっただろうか。

 

これからしっかりコンサートのレビューを始める。

 

Joe Hisaishi:Symphony No.2

久石譲の第二交響曲だ。「久石譲の交響曲第1番は何か」というささやかな議論になるがパスしよう。

 

Mov.1 What the world is now?

 

第1楽章は、現在のパンデミックをはじめとする世界各国の悲劇を意識したようなタイトルの「What the world is now?」 悲壮な雰囲気が逸品だった。少し難しく感じられるミニマル曲だ。

 

 

久石譲の曲には、ウッドブロックが本当にたくさん入る。交響曲第2番の第1楽章からウッドブロックが登場する。チクトクチクトクする効果音を響かせた。(このコンサートでウッドブロックのすごい活用度を知ることができるだろう。)

このウッドブロックの音が鳴り止む頃にものすごく曲が激しくなるが、この時、登場するフレーズでフィリップ・グラスのGlassworksの素早く繰り返されるフレーズが思い浮かんだ。「The Border」では、だんだん低い音に下がっていくような印象的な部分があるが、今回の曲では似たような形だが、むしろだんだん高い音に上がっていくようなフレーズがあった。(これを狙ったのかもしれない。)

 

Mov.2 Variation 14

 

第二楽章の「Variarion14」は「MUSIC FUTURE VOL.7」でより小さな規模で演奏されたことがあった。リズム感とウィットに富んだ曲だ。名前にふさわしく、変奏曲形式である。久石譲の”Single Track Music”の手法が少し連想される面があり印象的だった。これはなんの和音もなく曲が成り立つ手法であるが、不協和音などに依存する現代音楽の限界を克服しようとする試みの一種であるように見えた。演奏されるメロディのいくつかの箇所で、他の楽器が同じ音に短く重ねて演奏する部分があり、リズム感もキープし雰囲気もアップする感じだった。(ただし、これによる演奏難易度は非常に上昇するものと予想された。)しかし、この曲は厳然として見れば”Single Track Music”ではない。中間部分からセクションが互いにすれ違いからだ。

 

 

最後の頃にはとても静かになり、グロッケンシュピールとヴィブラフォンが演奏される場面があるが、すぐに続く激しいトゥッティ演奏がハイライトだ。この部分は、僕のお気に入りの部分だ。”Single Track Music”の限界を振り切ってすっきりと演奏されるフレーズと、各楽器の激しい演奏が逸品だ。最後のチェロの締めも素晴らしい。

 

Mov.3 Nursery rhyme

 

最初コントラバスが奏でる童謡がテーマになる。なのでタイトルも「Nursery rhyme」。これは日本の童謡で、日本人のツイッターの反応を見ると、「かごめかごめ」という曲の少しの変形だと多く言われている。

静かで落ち着いた曲のように思えるが、すぐに拍子が速くなりテーマになるメロディも複雑になる。主題となるメロディがシンプルな童謡だったので、それでも比較的聴きやすかった。 (コロナ以降の楽めるコンサートが目標になっているため、第2、3楽章はわざとシンプルに書いた感じがする。)

このような強烈な速さで進行された後クライマックスに入る。この部分では、多くの人々が音楽が終わった感じることもあったようだ。しかし、クライマックスの後つかの間の静寂に続いて、再び重く荘重に変奏主題が演奏された後、コントラバスが静かにソロで演奏されて終わる。とても劇的な構成だ。

 

だから結論的に、久石譲の交響曲第2番は、全体的に変奏曲の形式で成り立っていて、ある意味退屈になりうる危険な構造だったかもしれないが、悩みと研究を重ねて交響曲まで成立させた大作とすることができるようだ。

 

 

Joe Hisaishi:Asian Works 2020

I. Will be the wind

 

中国で公開されたLEXUSテーマ曲「Will be the wind」だ。とても洗練された雰囲気の曲だ。典型的なメロディ+ミニマルな感じの曲。風が吹くような感じのモチーフが様々に変化し、心を揺さぶる。単純なモチーフの繰り返しではない、無意識の何かを引き出す不思議な魔法を使う曲だ。ピアノの旋律もとても印象的だ。また、久石譲の武器であるマリンバも欠かせない。最後までよどみなく吹き荒れる素敵な曲だ。

 

II. Yinglian

 

いよいよTENDOWORKでレビューしていた曲が登場した。(https://tendowork.tistory.com/66)「Yinglian」は『赤狐書生』という香港映画のラブテーマに当たる曲だ。とても魅惑的なメロディが印象的だ。特異な点は、「MUSIC FUTURE Vol.7」でも演奏されたジョン・アダムズの「Gnarly Buttons:Movement III – Put Your Loving Arms Around Me」ととても似た雰囲気の曲ということである。これは久石譲の意図なのか?聴き比べてみるのもおもしろいだろう。クラリネットのソロ演奏は本当に素晴らしかった。

 

III. Xpark

 

祭り的な雰囲気のとても明るい曲だ。Xparkの館内展示音楽として久石譲が作曲した曲は全7曲だが、このうち1曲がW.D.O.で演奏されたものである。YouTubeでXparkに関する動画を見ながらいくつかの曲の一部を聴いてみると、すべて美しく素晴らしい曲ばかりだ。海外に出て行くことができないため、実際に聴くことができない貴重な音源である。コンサートでこういう形でも1曲ちゃんと聴けてうれしい。

 

 

豊嶋泰嗣さんのヴァイオリン・ソロ部分でこんなに明るい笑顔を見せてくれる久石譲さん…!!!

 

 

Joe Hisaishi:Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

 

W.D.O.2016で演奏された交響組曲が完全版に進化した。2016年に演奏された「Symphonic Suite “Princess Mononoke”」は音源発売もされず、コンサートの映像化もされなかった。だからファンたちがとても熱望した曲だが、この機会にアルバム発売にもつながってほしい。やはりもののけ姫の曲は胸を鳴らし、耳を清めるような感じだった。

 

 

ウッドブロックをたたきながらコダマを表現した。(大太鼓の横の楽器もウッドブロックだろうか。 鉄製の感じがするんだけど… マレットの違いかも…)この曲は、1998年にアルバムとして発売された「交響組曲もののけ姫」になかった追加された部分だ。

 

 

ソプラノ安井陽子さんが「もののけ姫」を素敵に歌ってくれた。クライマックスの部分はいつ聴いても身の毛がよだつほどいい。

 

 

いまにも終わりそうだった交響組曲は、世界の崩壊を表現した楽曲が演奏され、再び緊張が高まる。コントラバスを下から上へ上から下へと演奏される技法が印象的だ。この部分が追加されることでもののけ姫の物語世界が完成されて、音楽的にもより完成された感じだ。

 

 

最後の曲「アシタカとサン」。個人的にもののけ姫で一番好きな曲だ。久石譲のピアノ演奏とコンサートマスター豊嶋泰嗣さんの素敵なヴァイオリン・ソロ演奏。久石譲のピアノは概ね伴奏にとどまりヴァイオリン・ソロがとても華やかだった。久石譲のピアノ演奏はいつ聴いてもいいが、「アシタカとサン」ピアノ・ソロとして多く演奏されてきたので、ヴァイオリン・ソロ演奏で聴くととても新鮮だった。特に今回のコンサートのために変形されたフレーズが心をつかんだ。次いでソプラノ安井陽子さんのボーカルバージョンが引き継がれた。 武道館の合唱バージョンはもうおなじみだったからソプラノバージョンもとても良かった。原曲のカウンターテナーともまた違った感じだ。

今回のコンサートでは、久石譲がコンサートの出演者紹介で「Conductor, Piano」ではなく、「Conductor」としてだけ紹介された。指の負傷の影響もあったはず、それでも指揮台からメインピアノに移動してピアノ演奏を披露するサプライズ演出を見せた。たとえ短い演奏でも、こんなファンサービスに感動した!!

 

World Dreams

 

コンサートのアンコール曲は「World Dreams」で終わる。W.D.O.の象徴になってしまった曲だ。2019年以降、「World Dreams」が終わるとマリンバの音が幻聴で聞こえてくる後遺症があるが、どうしようもない。

 

 

久石譲の今回の「ワールド・ドリーム・オーケストラ・2021」コンサートは、2016年のコンサートと似ている面がある。久石譲の「The East Land Symphony」と「もののけ姫交響組曲」が演奏された2016年、そして久石譲の「交響曲第2番」と「もののけ姫交響組曲2021」が演奏された2021年。本当に素晴らしい組み合わせだ。 2016年のコンサートが映像化されていないことが残念でならない。

また、リアルタイムストリーミングの利点は、彼のコンサートをリアルタイムで見て、感じた点を、日本の観客とすぐに共有することができるし、今すぐ映像と録音に残ったコンサートを何回も繰り返すことができるということだ。テレビやブルーレイとは異なり、編集の心配もなく、公演開始前の楽器のチューニング、舞台セッティングの過程などを生き生きと見ることができるのもいい。

これからもリアルタイムのストリーミングが慣行として残ってほしいという願いをもって終了。

 

2021年7月27日 tendo

 

出典:TENDOWORKS|久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2021 コンサート・レビュー
https://tendowork.tistory.com/70

 

 

tendo(テンドウ)さんのサイト「TENDOWORKS」には久石譲カテゴリーがあります。そこに、直近の久石譲CD作品・ライブ配信・オフィシャル特別配信をレビューしたものがたくさんあります。ぜひご覧ください。

https://tendowork.tistory.com/category/JoeHisaishi/page=1

 

”2019年以降、「World Dreams」が終わるとマリンバの音が幻聴で聞こえてくる後遺症があるが、どうしようもない。”

ここは、組曲「World Dreams」I.World Dreamsの終わり、ストリングの響きをのこしたまま II.Driving to Futureのマリンバへとつながっていく。組曲版が染みついてしまってるからの幻聴ですね♪ もしこの部分を見て、「それわかるっ! おなじくそうなるっ!」って思った人、tendoさんと楽しく仲良くなれると思います。ぜひツイッターでFFつながってください(^^)

tendo
@tendo01

 

tendoさんとはSNSで交流しています。ご自身のサイトに公開していたレポートを、日本語に翻訳するかたちで紹介させてもらうこと、快諾してくれました。なるべくオリジナルテキストの雰囲気が残るように必要な添削と最低限の補正にしています。複数の翻訳サイトを使って吟味しました。tendoさんのレポートおもしろかったですよね、 かなり伝わるもの多かったですよね。果汁100%のままとはいきませんが、80%くらいで美味しさ伝わったならうれしいです。

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
ライブ配信が海外ファンレポート第1号を叶えてくれました(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第45回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by A.Mさん

Posted on 2021/07/27

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、いち早く京都公演のコンサート・レポートを送っていただいていたA.Mさんです。ようやくオープンにすることができます。ありがとうございます。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

京都公演 コンサートレポート

4月21日に行われた京都公演に行ってきました。

私にとって、初めてのコンサートでした。

久石譲さんと彼の音楽に出会ったのは中学1年生の頃です。たまたまYouTubeで武道館公演の動画を見つけたのがきっかけです。初めて彼の音楽を聴いた時に本当に感動しました。音楽で人の心は動くのだと、そう実感した瞬間でした。そして、人生で1度は必ず久石譲さんのコンサートに行こうと決めた瞬間でもありました。

実際にコンサート会場を訪れて見ると、会場にいる人たちの年齢層の広さに驚きました。幼稚園生、小学生辺りの子どもから親世代の方々、ご年配の方まで、幅広い年代の方が男女問わず大勢訪れていました。久石譲さんの音楽はたくさんの人に年齢性別問わず愛されているのだと実感しました。

私にとってもののけ姫は人生のバイブルと言っても過言ではありません。アシタカを見ると真っ直ぐに生きなければと常に思います。そんなもののけ姫の音楽を生で聴くことが出来て本当に感無量でした。特にアシタカせっ記を聴いた時、全身を血が駆け巡ったようでした。心が震えるとはこのことなのかと感じました。アシタカせっ記の美しい音色や力強さはまさにアシタカの心、生き方そのものなのだと思いました。

ずっと前から画面越しに見ていた人、聴いていた音楽を今目の前にしている…あの瞬間は一生の思い出です。

辛い時や悲しい時、心を沈めたい時やリラックスしたい時にはいつも久石譲さんの音楽がありました。私にとって久石譲さんと彼の音楽は人生の大切な、大切な一部です。

本当に素敵な音楽をありがとうございます。これからも応援しています。

そして、久石譲さん、新日本フィルの皆様を初めとした、コンサートスタッフの皆様、今回の素晴らしいコンサートを実現していただいて本当にありがとうございました。一人一人の力のおかげで、コンサートは成り立ったのだと思います。これからもなかなか思うように行動できなかったり、自由を制限されることがあると思いますが、きっと私はコンサートの思い出と彼の音楽に心を何度も癒されることになるでしょう。

ずっとずっと久石譲さんの音楽が大好きです。

2021年4月24日 A.M

 

 

 

とても心伝わるレポートありがとうございます。初めてのコンサート、きっと一生の思い出になりますね。そんな大切な想いとコンサート感想をいただいてとても光栄です。書き残す場所として、伝える場所としてファンサイトに送っていただき本当にありがとうございます。

コンサート会場でプレゼントやお手紙を出演者へ預けることもできない今。ちょっとした声援、ファンとの一瞬の会話もできない今。きっと演奏者の皆さんへも観客の生の声が届きにくくなっていると思います。これまでコンサートのたびにお互い活力や喜びになっていたもの。

届くかはわかりませんが、めぐりめぐってきっと届く!もしそう信じてくれるのなら。コンサートの感動を伝える場所として、ファンサイトをひとつの選択肢にしてもらえたらうれしく思います。届きやすくなるように日々がんばっていきます(^^)

 

 

 

4/21京都公演

リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式Twitter
@joehisaishi2019

 

コンサート風景

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式Twitter
@newjapanphil

 

 

4/22兵庫公演

リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式Twitter
@joehisaishi2019

 

コンサート風景

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式Twitter
@newjapanphil

 

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
紹介できたこと、とてもうれしく思います♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Blog. 「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」キム・ジョンハク×久石譲 対談内容

Posted on 2021/07/21

テレビ情報誌「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」に収録された対談です。韓国ドラマ「太王四神記」特別企画としてカラー3ページになります。

 

 

《太王四神記》特別企画
豪華!韓日巨匠対談
監督 キム・ジョンハン × 音楽 久石譲

都内の完成な住宅街にあるレストラン・高矢禮(ゴシレ)。ペ・ヨンジュンがプロデュースするこの落ち着いたお店の一室で、韓日を代表する巨匠の対談が実現した。〈太王四神記〉の壮大な映像を創り出したキム・ジョンハン監督と壮大な音楽を紡ぎ出した久石譲。本作で出会い、深い絆を結んだという2人の、撮影後初再会という貴重な場に同席したステラが、取材に成功。2人の〈太王四神記〉への思いを聞いた。

 

1年ぶりの再会!

久石:
会いたかった~!(両手を広げて)

キム:
私もとても!(がっちり抱き合う)

久石:
けがをしたと聞いて心配でした。具合はどうですか?

キム:
一度手術(※1)をして、すぐに撮影に戻り、2か月後、再手術をしました。一歩まちがえると、死ぬところでした。久石さんのお顔も見られないところだった。

久石:
僕は、日本で状況がわからなくて、すっごく心配だった。

キム:
お花を届けてくださってありがとうございました。これから久石さんと一緒にやりたい仕事がたくさんあるから、死ぬわけにはいきませんでしたよ(笑)。

久石:
とにかく安心しました。

キム:
はい。

久石:
僕はね、今、字幕版の放送を毎週、見ているんです。

キム:
ということは、まだ最終回まではご覧になっていないんですね。

久石:
はい。音楽を手がけたドラマを毎週楽しみにしてるなんて(笑)。自分で録画予約するのも初めて。

キム:
(笑)感想はどうですか?

久石:
最近、作曲漬けで大変なんですけれども、週に1回の放送が唯一の楽しみになっています。

キム:
久石さんが作ってくださった最高の音楽に見合う作品になっているのか不安に思っていました。

久石:
いや。脚本に苦しんだと聞いていましたけど、人間関係がしかり描かれているし、本当にすばらしい作品。ヨン様もすてきだしね。

キム:
(笑)今回、久石さんにお会いすると話したら、ヨン様、イ・ジア、ユン・テヨン、ほかの俳優たちもうらやましがっていました。みんな、すてきな音楽を作ってくださった久石さんに感謝しているんです。

久石:
そうかぁ。うれしいですね。

キム:
特にヨン様は、自分のテーマ曲をチェロの演奏にしてほしいと言ったんですよね。久石さんはその要望どおりに作ってくださいました。とても喜んでいましたよ。

 

監督念願の久石音楽

久石:
それにしても、ほんとに迫力があって、一話一話が映画みたい。完成して心からおめでとうございますって言いたいです。

キム:
アリガトウゴザイマス(日本語)。苦労もたくさんしましたし、疲れ果てて、もう辞めたいと思ったこともありましたが、そんなときには、いつも、視聴者の方と久石さんの顔を思い浮かべましたよ(笑)。

久石:
(大爆笑)いちばん大変だったことって何ですか?

キム:
台本が遅れてしまい、時間に追われる形になったことです。それから、ヨン様がケガをしてしまったので、終盤は、かなりタイトなスケジュールでした。

久石:
そうか。なるほど……。もう1年前のことになるんですね。ちょうど去年の3月ぐらいにオーケストラを録ったんです。自分でも納得できるいい感じに仕上がってね。あまりに早くできたから、その後、何をしたらいいか考えてしまいました(笑)。音楽はどうでしたか?

キム:
私は、もともと久石さんの作ったアニメ映画の音楽が好きで、よく聴いていたんです。『ハウルの動く城』『となりのトトロ』、それから『千と千尋の神隠し』も好きですね。この作品では、日韓最高の作曲家にお願いしたかった。それで、久石さんに正式に依頼をしたのですが、お忙しい方ですから、まさかOKしてくださるとは思いませんでした。引き受けていただいたときは、天にも昇るような気持ちでした。

 

ぴたりと合った波長

キム:
お会いするまでは、気難しい方だったらどうしようと心配したのですが、すぐに友達になれて、とても心地よく一緒に作業をしていくことができました。2人の少年が出会ったようでしたね。とても幸せでした。

久石:
ほんとですね。やはり韓国の歴史上の人物の作品を日本人の僕が作るということで、できるだけスケール感のあるものをと考えました。同時にラブストーリーでもあるので、そこにいちばん、神経を使いましたね。

キム:
初めて聴いたとき、とても感動したんです。撮影中は、いつも頭の中に音楽を思い浮かべていました。それにしても、久石さんはセットしかご覧になっていない段階で、なぜ、あんなに映像とぴったりな音楽を作れたんでしょうか。一度聞いてみたかったんです。

久石:
(笑)

キム:
私は、2人の間に見えないけれども通じ合うインスピレーションがあったのではないかと思っています。

久石:
ほんと、そうですね。僕もこの曲は、こういう使い方をしてほしいなというのが、そのとおりになっていてね。音楽を生かしてもらったなあって、すごく感謝しています。これはね、多分に生理的に近いところがあって、監督が撮ったリズムと波長が一致していたんでしょうね。それと、監督の演出をちらっと見たときに、その一つ一つのやり方とかテンポに、優しさと激しさが同居していて、これが監督そのものだなと思ったんです。それは自分が持っている体質でもあるから、そのへんのところが合ったんじゃないかな。

キム:
久石さんは、一見、叙情的で穏やかな音楽を作りそうですが、スペクタクルを感じさせるテンションの高い音楽も作られるので、見た目とは違って意外に思いました(笑)。

久石:
そうですか(笑)。

キム:
私は、今回ご迷惑をかけてしまったので、次にご一緒するときは、事前に完成映像をお見せできるようにします。

久石:
でも、事前にキムさんとたくさん話をしたので、意外に早くその世界をつかむことができたんです。自分でも驚くくらいの集中力で、たくさんの曲ができて(※3)。すごくうれしかった。そういえば、去年、コンサートで、〈太王四神記〉のテーマをオーケストラでやったんですけど、お客さんがとても喜んでくださいました。地上波で吹き替え版の放送が始まったから、もっとたくさんの方が見てくださるんじゃないですか。

キム:
韓国では、時代劇は中高年の女性に人気なのですが、この作品は、10代20代が熱狂的に支持してくださいました。彼らは、やはり音楽にも注目しますので、モバイルダウンロードで1位になったんです。久石さんの音楽が韓国の若者に浸透するのに一役買うことができたと思います。久石さん、ますます有名になっていますよ。

久石:
それはうれしいですね(笑)。

 

2人の絆を結んだ1曲

久石:
僕はね、スジニのテーマが印象に残っているんです。あの曲は、実は、ちょっと冒険だったんです。それまでは、僕自身、歴史スペクタクルというとらえ方が強かったかもしれないんだけど、でも、監督はすごく気に入ってくださって。で、そのときにね、あっ、なるほどと思ったんです。このドラマは本当はラブストーリーでもあるんだなって実感したんですよね。わりと早い段階で、監督の目指すところが見えてね。だからとても印象に残っています。

キム:
そうなんです。久石さんが、済州島(チェジュド)にデモテープを持っていらっしゃって、そのとき、私がスジニのテーマを聴いて、「これは、私が考えている雰囲気そのものだ」と思ったんです。100回話し合って、説明するよりも、実際に音楽を聴き、セットや映像を見て、2人の考えが一つになって、あのときがスタートになったと思います。

久石:
うん。あの曲は、戦闘シーンでも使われているしね、自分でも満足していますね。

キム:
ベスト!

久石:
(大爆笑)

キム:
久石さんの音楽は迫力があるので、戦闘シーンでは、エキストラ1万人分ほどの効果があります。エキストラ代を節約してくれてありがとう。

ーここでSSDのスタッフより、「国際映画音楽批評家協会賞・オリジナル作曲賞」を受賞したと韓国からメールが入ったことが告げられるー

(一同拍手喝采)

久石:
ほんとに? すばらしい!

キム:
MBCの演技大賞では、ヨン様の大賞受賞をはじめ、私たちが全体の賞の3分の1を受賞しました。そのときに、ヨン様が久石さんをご招待して、パーティーを開こうと言っていたんです。スケジュールが合わずに実現しなかったのが残念です。

久石:
ぜひぜひやってください。いつでも行きますから!

 

ステラ読者へメッセージ

久石:
キム監督と出会えて、僕自身、一生懸命音楽を書き、今は、一視聴者として毎週放送を見ています。本当にわくわくする内容で、そういう気持ちになるというのは、作品が間違いなくいいという証拠。世界中に共通する、人間のスペクタクルとして、本当に楽しんでもらえると思う作品です。音楽も映像に負けないように一生懸命書いたので、注目してください。

キム:
アジアで最高の作曲家である久石さんと作りました。ペ・ヨンジュンさんのファンの方々、寒い冬も暑い夏も、いつも声援を送ってくださった日本の方々に対して、ありがたい気持ちでいっぱいです。この作品は韓国の物語ですが、韓国ドラマではなく、日本のドラマであると言っても過言ではありません。ぜひ、ご覧いただければうれしいです。可能であれば、一度見て、2度見て、3度見て……いただければ、作品のおもしろさ、そして、音楽の奥深さをさらに感じていただけると思います。ぜひ最後までご覧いただければと思います。

久石:
われわれの3年間のね、努力の結晶ですから。

キム:
その中の90㌫は久石さんの力。

久石:
いえいえ。また済州島に一緒に行きたいですね。

キム:
俳優たちも久石さんいごあいさつできればと思っていますし、仕事抜きで韓国にいらっしゃってください。私も俳優たちを連れて日本に来ます。ベストフレンド! アリガトウゴザイマス!

久石:
今度ゆっくりお酒を飲みましょう。きょうはありがとうございました。

 

※1:監督は、クランクアップの数か月前に、国内を車で移動中、交通事故に巻き込まれ内臓破裂という重症を負った。

※3:久石さんは〈太王四神記〉用に約60曲のオリジナル曲を作った。

(「NHKウィークリーステラ 2008年5/3~5/9号」より)

 

 

太王四神記 オリジナル・サウンドトラック vol.1

 

久石譲 『太王四神記 オリジナル・サウンドトラック 2 』

 

 

 

 

Overtone.第44回 新しいミニマリズムのかたち

Posted on 2021/07/20

ふらいすとーんです。

久石譲の真骨頂ミニマリズムについて、進化つづけるミニマリズムについてです。

 

ミニマリズムとは 

「Minima_Rhythm」というタイトルは、ミニマル・ミュージックの「Minimal」とリズムの「Rhythm」を合わせた造語だが、リズムを重視したミニマル・ミュージックの作品を作りたいという作家の思いからつけた。

不協和音ばかりに偏重してしまった現代音楽の中でも、ミニマル・ミュージックには、調性もリズムもあった。現代音楽が忘れてしまったのがリズムだったとするならば、それをミニマル・ミュージックは持っていた。

映画音楽やポップスのフィールドで仕事をしてきた。言うまでもなくポップスの基本はリズムであり、またメロディーにもある。そこで培ってきた現代的なリズム感やグルーヴ感、そういうものをきちんと取り入れて、両立させることで独自の曲ができるのではないか。もう一回、作品を書きたいという気持が強くなったとき、自分の原点であるミニマル・ミュージックから出発すること、同時に新しいリズムの構造を作ること、それが自分が辿るべき道であると確信した。それがごく自然なことだった。

(『Minima_Rhythm ミニマリズム』CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

久石譲が若い時代に封印したクラシックに戻り、つよく作品をのこしたいと作家性を解放しはじめることになったのが、『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)の発表です。ここから以前にまして、エンターテインメント音楽の大衆性とオリジナル作品の芸術性を両軸に、大きな翼を広げていくことになっていきます。

 

自らの原点であるミニマル・ミュージックを追求し、シンフォニックな作品を凝縮した記念碑的アルバム。フルオーケストラから室内オーケストラまで、クラシックの語法を施しながら、色濃く久石譲の作家性をもあぶり出してみせたミニマリズム出発点です。たとえて言うなら、シンフォニック・ミニマリズム。

久石譲 『ミニマリズム』

 

 

指揮者久石譲としての現代的アプローチも如実に、ソリッドな響きに磨きのかかったアルバム。室内楽編成で彩られた作品は、ピアノソロ、2つのマリンバ、4つのサキソフォンとパーカッション、弦楽四重奏という独創性あるもの。最小(音型・編成)にこだわった芸術性で新しい方向性をすでに示してします。たとえて言うなら、室内楽ミニマリズム。

 

 

いよいよ長大な交響曲が姿を現した、それは未完となっていた交響曲第1番の完全版なる作品を遂に収録したアルバム。おさまりきらないカオスは、パーカッションが炸裂しソプラノが浄化する。またファンファーレ感きらめく新たなコンセプトと着想でまとめあげた祝祭的作品も。たとえて言うなら、管弦楽ミニマリズム。

 

 

最新作は、ミニマル×コンチェルトという斬新なコンセプト。さらにはソリストに迎える楽器も、協奏曲の数が稀有なコントラバスと、これまでのイメージを覆し新しい表現力に挑んだ3本のホルン。久石譲にしか書けない協奏曲を、久石譲とともに現代的アプローチを磨いてきたFOCの演奏で収録。たとえて言うなら、協奏曲ミニマリズム。

 

 

このように振り返ってみると、ミニマリズムはシリーズをかさねるごとに、コンセプト・音楽構成・楽器編成と、それぞれの盤に独自のカラーとテーマ性で練られ、それぞれの立ち位置で堂々と君臨していることがわかります。すべてに共通しているのはクラシック・フィールドから発表されていることです。伝統的なクラシックの手法を受け継ぎながら、現代の作品として新しい可能性を追求しています。

 

 

久石譲の現代作品はこれだけでしょうか?

歩みのなかで忘れてはいけないこと、あくまでも”Minima_Rhythm”出発点は【原点のミニマル・ミュージックをベースに作品を書くこと】であったということです。すでに『ミニマリズム2』(2015)の時には出発点から大きく進化しています。一般的なミニマル・ミュージックの狭義から大きく飛び越えています。

“ミニマリズム Minima_Rhythm”アルバムには収録されていないけれど、久石譲オリジナル作品の多くにミニマル手法は盛りこまれ、あらゆるかたちでミニマルなエッセンスは散りばめられています。

 

主なオリジナル作品(2000-)

2005年
DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano
(『WORKS III』収録)

Links
(『Minima_Rhythm』収録)

Orbis
(『Melodyphony』収録)

MKWAJU 1981-2009 for Orchestra
(『Minima_Rhythm』収録)

DA・MA・SHI・絵
(『Minima_Rhythm』『Spirited Away Suite』収録)

Sinfonia for Chamber Orchestra
(『Minima_Rhythm』収録)

The End of the World
(『Minima_Rhythm』収録)

2010年
弦楽オーケストラのための 《螺旋》 *
*Unreleased

Prime of Youth *
*Unreleased

2011年
5th Dimension
(『JOE HISAISHI CLASSICS 4 』収録)

2012年
Shaking Anxiety and Dreamy Globe
(『Minima_Rhythm II』収録)

2014年
Single Track Music 1
(『Minima_Rhythm II』収録)

String Quartet No.1
(『Minima_Rhythm II』収録)

Winter Garden for Violin and Orchestra *
*Unreleased

2015年
祈りのうた ~Homage to Henryk Górecki~
(『The End of the World』収録)

The End of the World for Vocalists and Orchestra
(『The End of the World』収録)

室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
(『MUSIC FUTURE 2015』収録)

コントラバス協奏曲
(『Minima_Rhythm IV』収録)

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra *
*Unreleased

2016年
TRI-AD for Large Orchestra
(『Minima_Rhythm III』収録)

THE EAST LAND SYMPHONY
(『Minima_Rhythm III』収録)

2 Pieces for Strange Ensemble
(『MUSIC FUTURE II』収録)

2017年
Encounter for String Orchestra
(『Spirited Away Suite』収録)

ASIAN SYMPHONY
(『Symphonic Suite Castle in the Sky』収録)

室内交響曲第2番《The Black Fireworks》〜バンドネオンと室内オーケストラのための〜
(『MUSIC FUTURE III』収録)

2018年
The Black Fireworks 2018  for Violoncello and Chamber Orchestra
(『MUSIC FUTURE IV』収録)

2019年
Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
*Unreleased

2020年
The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra
(『Minima_Rhythm IV』収録)

2 Pieces 2020 for Strange Ensemble *
*Unreleased

Variation 14 for MFB *
*Unreleased

2021年
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~ *
*Unreleased

交響曲 第2番 *
*Unreleased

 

久石譲オリジナル作品一覧はこちらにまとめています。上記は大きく抜粋したものです。その全貌や変遷はこちらからどうぞ。

 

 

久石譲コンサート活動の転換点となった「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)」と「久石譲 presents ミュージック・フューチャー(MF)」、この2つのコンサート・シリーズは創作活動にも影響を与えている分岐点です。

コンサートそのものに大きなコンセプトを備えているので、おのずとそこで発表される久石譲新作も、コンセプトに沿ったものという新しい指向性をうみだすことになりました。最新アルバム『Minima_Rhythm IV』に収録された「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」はFOCコンサートで初演されたものです。

 

 

新しいミニマリズム 1

注目したいのは、MFコンサートで新作として初演される個性的で先鋭的な作品たちです。オーソドックスな楽器編成ではなく、ストレンジな特殊編成でつくりあげられているという点においても。

《ソリストのためのミニマリズム》です。こんなにおもしろい構成ってなかなかないと思います。変わった楽器編成かつソリストを迎えたかたちで、ミニマル手法を駆使した音楽を構成しています。ソリスト×ミニマルって世界中をみわたしても、作品群として築いている人ってそういないんじゃないかな。オーケストラとして、アンサンブルとしては、もちろんあります。でも、ソリストのためのミニマル作品ということは、ソリストを務める演奏者に求められるものも大きく、またソロ楽器のことも熟知したうえで表現力を開花できる作曲家、ということになるからです。

 

《Minima_Rhythm for Soloists》

室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
(エレクトリック・ヴァイオリン)

 

室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》
~バンドネオンと室内オーケストラのための~

 

The Black Fireworks 2018 for Violoncello and Chamber Orchestra
(チェロ)

 

Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
(2台のピアノ)*Unreleased

 

タイトルを見ただけでも、なんと意欲的で衝撃的な作品が並んでいることか。エッジの効いたサウンドはときにサンプラーやキーボードもアクセントになっています。実験性の高いというには完成度の高すぎる、その時期の創作活動のマイルストーンとなっている楽想・音色・コンセプト・手法・こだわりなどが濃厚に反映されている。そして、オーケストラ作品よりも編成規模も中、時間も中、ほどよい大きさと長さは、より一層ミニマル・ミュージックを突きつめるのにも適している。新しい感覚で聴き手を魅了し、躍動と静謐の緩急で覚醒させ、未来を切り拓いていこうとするエネルギーに溢れています。そして!(ここ大切)、ソリストをおくことで、呼吸するミニマル、エモーショナルなミニマルを強く打ち出しています。

 

広く協奏曲も for ソリスト。

最新作『Minima_Rhythm IV』に収録された「Contrabass Concerto」も「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」も協奏曲というグルーピングであり、ソリストを迎えある楽器にフィーチャーした音楽構成という意味では、上のMF作品群と同じです。一方では、MFの室内交響曲と銘打ったエレクトリック・ヴァイオリンやバンドネオンの作品も、音楽構成は協奏曲形式です。2つの協奏曲もMF作品群も《ソリストのためのミニマリズム》という大きなグルーピングにもなります。

音源化されていない「Winter Garden for Violin and Orchestra」もヴァイオリン協奏曲の構成をとった珠玉の作品です。まだかまだかと待ち望んでいるファンはとても多い。

久石譲の大きなこだわり。一貫してすべての作品で、ソロ楽器とオーケストラ(アンサンブル)が役割の切り離された主従関係のような構成をとっていません。ソロが主役、オケが伴奏ではなく、一体化して聴かせる音楽になっている。旋律も音色も融和することで、絶妙な調和をうみだし、ソリストふくめ全奏者がアンサンブルする一員となっている音楽構成です。

ソリストのために構成された音楽は、性格・カラー・コンセプトを決定づける大きな要素になります。そして、伝統的な協奏曲形式をとりながらも、斬新で意欲的な現代にしか書けないもの。久石譲の《ソリストのためのミニマリズム》とは挑戦であり開拓である、と強く感じます。

 

 

新しいミニマリズム 2

久石譲の音楽は、エンターテインメント音楽(大衆性)とオリジナル作品(芸術性)の二面性のバランスをとりながら、いずれか一方を強く打ち出すかたちで、境界線を引くように生みだされてきました。

近年は、エンターテインメント音楽とオリジナル作品の発表比率が5:5に近づいているだけではなく、エンターテインメント音楽においても、色濃く作家性をにじませた楽曲をつくっています。つまり大衆性と芸術性の二面性という境界線をクロスオーバーするような作風が目立ってきました。

《エンターテインメント・ミニマリズム》あるいは《クロスオーバー・ミニマリズム》です。エンターテインメントの壁をすり抜けて、ミニマルなアート性を貫いた楽曲たち。映画音楽やCM音楽という壁をすり抜けて、オリジナル作品へと昇華したり組み込まれた楽曲たち。

 

《Minima_Rhythm for Crossover》

ASIAN SYMPHONY
(『Symphonic Suite Castle in the Sky』収録)
映画『花戦さ』のために書き下ろされた楽曲が、ひとつの楽章として組み込まれています。

Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
*Unreleased
ダンロップCM音楽のために書き下ろした楽曲が、ひとつの楽章として組み込まれています。

 

ほかには、直近から映画『海獣の子供』『赤狐書生』、テレビ『ディープオーシャン』、プラネタリウム『ad Universum』、プロモーション『Will be the wind(レクサス中国)』『Prayers(明治神宮)』など、さまざまな機会でミニマル手法の多面性を開花させています。このなかには、すでに演奏会用に再構成された作品もあります。

ここでひとつ象徴的な言い方をしてみましょう。これまでは聴いてすぐ「あっ、久石メロディだ」とわかる楽曲がエンターテインメント音楽にありました。最近は、「あっ、この音楽久石さんかな」とわかるミニマル手法の楽曲がエンターテインメント音楽にあります。ミニマルなエッセンスが広くお茶の間にも顔をのぞかせしっかり浸透しはじめている。

 

少し横道に。

久石譲は「ASIAN SYMPHONY」を【メロディアスなミニマル】(2017)と言い、「DEAD」を【最も自分らしい曲でもある】(2018)と言っています。ここで引き出したいのは、メロディとミニマルを融合させるかたちをこの2作品はとっているということです。これこそが、久石譲独自の音楽を確立するひとつのモデルとなっています。

エンターテインメントとオリジナル作品、メロディアスとミニマル。エンターテインメントはメロディアス、オリジナル作品はミニマルと、これまでは並走する2本の線だったものが、4つの点を縦横無尽にクロスして、これまでの境界線をとっぱらって、なんの矛盾もなく共存できる、いかなる可能性をも秘めています。

 

 

《Minima_Rhythm for Soloists》×《Minima_Rhythm for Crossover》

Untitled Music *
*Unreleased
TV番組『題名のない音楽会』のために書き下ろされたテーマ曲で、番組司会を務めた五嶋龍さんに華を添えるように、ヴァイオリンをフィーチャーした楽曲になっています。久石譲の新しい方向性を導いたといってもいい、秀逸なエンタメ×ミニマルの結晶です。オリジナル作品一覧にラインナップしたいほどに。

The Dream of the lambs
(『羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL』収録)
映画エンディングテーマとして書き下ろされた曲で、久石譲と辻井伸行というコラボレーションは大きな話題にもなりました。ミニマルとメロディアスが交差するこの曲は、記憶にのこる印象的なメロディと高度な律動で、心地よい情感と緊張感に魅了されます。

 

この2曲は、今ある単曲としても素晴らしいです。もしかしたら、これから大きな作品へと再構成される可能性もないとは言えない、久石譲作品を並べるうえで外せない作品です。

リスペクトする演奏家、コラボレーションしたい楽器、ソリストのために書き下ろされる作品。世界で活躍する次世代を担う若きトッププレーヤー、五嶋龍(ヴァイオリン)、辻井伸行(ピアノ)、三浦一馬(バンドネオン)、現代的なアプローチとリズム感覚にも優れ、若い才能と強い個性で久石譲音楽を輝かせる。抜群の安定感と充実した表現力でリードするトッププレーヤー、西江辰郎(ヴァイオリン)、マヤ・バイザー(チェロ)、滑川真希(ピアノ)、石川滋(コントラバス)、福川伸陽(ホルン)、演奏不可能を可能にする熟練の技術と集中力。こういった一流演奏家たちこそ、100年後のソロ楽器レパートリーへと久石譲音楽をつないでくれる確かな先導者たちです。

 

 

新しいミニマリズム 3

久石譲の初期作品は、アンサンブル曲やシンセサイザー曲があります。のちに、オーケストラ作品として生まれ変わったものも数多くあります。「MKWAJU 1981-2009 for Orchestra」「DA・MA・SHI・絵」「DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano」「The End of the World」など。オリジナル版から発展させたもの、完全版へと昇華させたもの、これがこれまでのひとつの流れでした。

久石譲の近年作品は、完全版としてあるものを新たに置き換える、そんな手法も目立つようになりました。《リコンポーズ・ミニマリズム》です。楽器編成を拡大したり、反対に縮小したりすることで、その楽曲の核を強く浮かびあがらせる。あるいは、楽器や構成を換えても楽曲の核を失わないことを確かめるように。そのようにして再構成(リコンポーズ)していく。オリジナル版からリコンポーズまでの期間が短いというのも特徴といえます。

 

《Minima_Rhythm for Recomposed》

Shaking Anxiety and Dreamy Globe
[2台ギター版]
[2台マリンバ版]

Single Track Music 1
[吹奏楽版]
[サクソフォン四重奏と打楽器版]

Encounter
[弦楽四重奏版] 第一楽章
[弦楽オーケストラ版]

祈りのうた
[ピアノ版]
[ピアノと弦楽合奏とチューブラー・ベルズ版]

The Black Fireworks
[バンドネオンと室内オーケストラ版]
[チェロと室内オーケストラ版]

2 Pieces for Strange Ensemble *
(2016年版/2020年版 改訂)

Variation 14 for MFB *
(交響曲第2番からひと楽章を先行披露)

I Want to Talk to You *
(合唱版/器楽版 先に完成の合唱版は未初演)

*Unreleased

 

 

また、作品をまたいだ転用手法もあります。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
III.D.e.a.d
「D.E.A.D」第2楽章<The Abyss~深淵を臨く者は・・・・〜>がひとつの楽章として組み込まれています。

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
III. Mundus et Victoria ~世界と勝利
「Prime of Youth」をベースに合唱パートを加えひとつの楽章として再構成されています。

The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra
III. The Circles
「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」第3楽章をベースにひとつの楽章として再構成されています。

 

このように、一度コンポーズ(作曲・構成)したものを、柔軟にリコンポーズ(再構成)することで、久石譲作品の足腰はどんどん鍛えられ、強靭なコアを磨きあげていっている。クラシック音楽では、旋律の転用をはじめ楽曲まるまる転用という手法は一般的にあります。ベートーヴェンでもマーラーでもお気に入りのメロディをいろいろな作品に使っていたりします。そこには、作曲家のオリジナリティが強くあるもの、作曲家の執着が強いもの、作家性としてコアなパーツが転用されていると捉えることもできます。作曲家の視点でみるなら、転用に値すると判断したもの、ということでしょうか。

裏返せば、リコンポーズほど作家性が色濃く出る手法はありません。自作品であれば、リコンポーズするだけのオリジナル性をもっていないとBefore作品もAfter作品もその魅力を発揮でません。他作品であれば、オリジナル版から新しい魅力を引き出せる、あるいはリコンポーズした人が誰なのか聴いてわかるほどのアイデンティティをそこへ残せるか。「フィリップ・グラス:TWO PAGES」を久石譲がリコンポーズした版のように。

リコンポーズについては、これから先もふれることがあると思うので、いまはキーワードだけ残させてください。……リワーク、再構成、再構築、脱構築、再作曲、解体、変形、変容、再発見、再創造…どれも久石譲リコンポーズ・ワークスにつながるように思います。

久石譲は、自らを作曲家という肩書きにこだわっています。多種多彩なコンサート活動をみわたせば、プログラム(選曲)ふくめプロデューサーでもあります。指揮者として臨んだコンサートでも、古典作品と現代作品を同じアプローチで扱いソリッドに表現構成しています。コンポーズには作曲という意味がありますが、構成するという意味もあります。久石譲の活動をみると、大きく音楽を構成している人のようにも思えてきます。久石譲は作曲家であり音楽を構成するコンポーザー。現代における稀有な音楽家です。

 

 

新しいミニマリズム 4

最後はやっぱり《交響曲ミニマリズム》です。

 

《Minima_Rhythm for Symphony》

THE EAST LAND SYMPHONY

 

記念すべき第1交響曲は、「THE EAST LAND SYMPHONY」とされています。もともとは未完で発表された「交響曲第1番 第1楽章」を、そのまま第1楽章として継承し全5楽章からなる作品として誕生しました。

位置づけとしての番号付け【第1交響曲 / シンフォニーNo.1】はしていますが、作品名としての番号付け【交響曲第1番 / シンフォニー No.1】はされていません。このあたりの思いについて、以前少し語られたことがあります。

 

”これはすごく悩みます。シンフォニーって最も自分のピュアなものを出したいなあっていう思いと、もう片方に、いやいやもともと1,2,3,4楽章とかあって、それで速い楽章遅い楽章それから軽いスケルツォ的なところがあって終楽章があると。考えたらこれごった煮でいいんじゃないかと。だから、あんまり技法を突き詰めて突き詰めて「これがシンフォニーです」って言うべきなのか、それとも今思ってるものをもう全部吐き出して作ればいいんじゃないかっていうね、いつもこのふたつで揺れてて。この『THE EAST LAND SYMPHONY』もシンフォニー第1番としなかった理由は、なんかどこかでまだ非常にピュアなシンフォニー1番から何番までみたいなものを作りたいという思いがあったんで、あえて番号は外しちゃったんですね。”

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

さらに悩ましいことに、「THE EAST LAND SYMPHONY」(2016)を第1/No.1としてしまうと、それ以前の交響作品たちは??

 

多楽章で構成されたオーケストラ作品(改訂 発表順)

  • DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano ※弦楽オーケストラ
  • Sinfonia for Chamber Orchestra ※室内オーケストラ
  • Winter Garden for Violin and Orchestra ※協奏曲形式
  • The End of the World for Vocalists and Orchestra ※スタンダード曲含む
  • Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
  • ASIAN SYMPHONY
  • THE EAST LAND SYMPHONY ← 第1/No.1

 

実は、こう振り返ってみると、もし仮に過去作品から純粋な【久石譲 第1交響曲】を選ぼうとすると、、「Sinfonia for Chamber Orchestra」「Orbis for Chorus, Organ and Orchestra」「ASIAN SYMPHONY」あたりに絞られてくることにも気づいてきます。見方によるけれど「The End of the World for Vocalists and Orchestra」くらいの4作品まで。ふむ、4作品も候補があれば充分あふれてる気もしてくる。交響曲をフルオーケストラの管弦楽作品としたときにです。

個人的には、作品番号付けしてほしい派です。「THE EAST LAND SYMPHONY」ではなく、「交響曲第1番《THE EAST LAND SYMPHONY》」でも「交響曲第1番《THE EAST LAND》」でもいいので。

 

理由は2つです。

久石譲の交響作品がワンセットとして機能すること。「今日は3番聴こうかな、今日は5番な気分だな」とか、そういうあり方をひとつひとつの作品がしてくれることで、久石譲音楽が多面的に有機的に響きあうこと。数字的な無機質さの良さ(機会を狭めない)もあります。

もうひとつは番号付けによる関連付けです。未来の話をします。たとえば100年後、「久石譲:交響曲第5番《○○○》」が注目されたとします。引っ張られるように、ほかの番号作品は?と注目が連鎖していきます。歴史のなかで見直されてきたマーラー交響曲たちのように。もしこれが、《○○○》だけだったら注目が点で終わる可能性もあるのかもしれません。番号付けすることで交響作品の点と点が線となり、久石譲交響作品の歴史としてわかりやすくなります。

 

外堀から攻める。

「シューマン:交響曲 第4番」、作曲年次としては、第1番《春》に次ぐ2番目の交響曲であるが、改訂後の出版年次(1854年)により第4番とされた。(ウィキペディアより)

「メンデルスゾーン:交響曲 第4番」、第1番、第5番に次いで実質3番目に完成された。「第4番」は出版順である。(ウィキペディアより)

長い長い歴史でみたときに、実は完成はこっちが先とか初演はこっちが先とか、そういうことは、重要じゃない、いや重要なんです。聴く人が深く紐解こうとしたときに、聴く人が深く聴き入ろうとしたときに、トリビアな味わいになっていくじゃないかなあと思います。

 

 

そして第2交響曲は、「交響曲 第2番」として2021年に初演されたばかりです。なんとタイトルがなくなって純粋な作品番号だけになっています。…と書いていたところに、最新ウェブインタビューでその理由も知ることができました。

 

”でも、そういうタイトルを付けると、必ず〈Borderってどういう意味ですか?〉とか質問されるじゃないですか。そこで僕が言った言葉が聴く人にある種のイメージを付けてしまいますよね。現代音楽の人は実はそういうことが大好きなのですよ。そこで、僕はタイトルを付けることはやめてしまったのです。

例えば、〈9.11についての作品〉〈東日本大震災に向けたレクイエム〉〈政治に対する怒り〉といったきっかけで書かれた作品はすごく多い。でも、僕は、そういうのはゼロなんですよ。音の運動性をきちんと書きたい訳です。〈純音楽〉と言ったらいいのかな、バロック時代のように音のフレーズを運動体として、文学的な意図なんて一切無しに、音を論理的に構成していくことをやりたいんですよ。だから、タイトルを付けられないんですね。

今、9月の新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会のために書いている作品も、同時に演奏するマーラーと同じ編成のオーケストラ曲ですが、あくまでも〈交響曲〉というタイトルで、特にサブ・タイトルは付けません。そういう意味でも、今回の『ミニマリズム4』のアルバムは、ひとつの特徴ある作品集となったと思います”

Info. 2021/07/15 久石譲がコントラバス石川滋、ホルン福川伸陽と語る挑戦に満ちた協奏曲集『ミニマリズム4』(Web Mikikiより) 抜粋)

 

 

とても賛成です。なんだか勇み足だったかな。ポイントは【運動性】【純音楽】と前インタビューの【ピュア】といったキーワードに象徴されています。純粋に音の運動性で論理的に構成した作品ということですね。こうなってきたら、もっと柔軟に、ベートーヴェン交響曲のように(本人が付与したわけではないけれど)、サブ・タイトル付きの交響曲と番号のみ交響曲とが並んでていいんじゃないかなあと思います。だから、想いも込めた「交響曲 第1番《THE EAST LAND》」と次は「交響曲 第2番」そして次は、というように…しつこいかな。

過去の交響作品たちも、新しい番号をもらう日がくるかもしれません。たとえば、「The End of the World」が交響曲第○番とされる日には、今あるスタンダード曲の引用楽章はなくなるかもしれないとか、「DEAD」の弦楽オーケストラ構成が管弦楽に拡大されるならばとか、「Orbis」は完全版となって第9交響曲にあたるのかな!?とか…改訂や出版のタイミングで晴れて番号もらえる…しつこいかな。

「交響曲 第2番」についてのレビューは、少し先に控えています。「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2021」コンサート・レポートでたっぷり感想を語れたらと思っています。たぶん重複しますが、強く言いたいこと。「THE EAST LAND SYMPHONY」と「交響曲 第2番」の2作品だけを並べてみても、そこには大きな3つの要素があります。古典のクラシック手法、現代のミニマル手法、そして伝統の日本的なもの。この3つの要素と音楽の三要素(メロディ・ハーモニー・リズム)の壮大なる自乗によって、オリジナル性満ち溢れた久石譲交響曲は君臨しています。これは誰にもマネできるものではありません。《Minima_Rhythm for Symphony》、これこそまさに久石譲にしかつくれない交響曲であり、《総合的な久石譲音楽のかたち》と言うべきものです。

 

 

むすび。

今までの流れだけを見て、今の時点だけをとらえて、カテゴライズしてしまうのは可能性を狭めてしまいます。作品たちのそれぞれの立ち位置や、作品群としての位置関係などは、あとから大きく見たときにわかってくるでいい。そう思っています。むしろ、いろいろと楽しく推測したり空想広げたら、無限の方向性や新しい転換点がまだまだこの先待ちうけているんだろうなあという、予想もできないワクワク感でいっぱいになってきます。

 

2020年『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』久石譲音楽のメロディにフォーカスした自作品や映画音楽などからセレクトされた世界リリース・ベスト盤です。2021年『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』では、オリジナル作品からも収録されます。これまで以上に、世界中から注目を浴びることは間違いありません。

もっともっと先に、「ミニマリズム Minima_Rhythm」のワールド・ベストが発売されることにでもなれば、もっともっと久石譲作品が広く聴かれることになるでしょう。「Minima_Rhythmシリーズ」のユニバーサルミュージック、「MUSIC FUTREシリーズ」のオクタヴィア・レコード、ぜひレーベルの枠を越えてオールタイム・ミニマリズムになったら、なおいいなあと思います。

 

久石譲ミニマリズムの足跡をたどること、それは現代作曲家としての久石譲の足跡をたどることそのものです。時代ごとのアイデア・コンセプト・テーマを、純粋に音楽的に具現化されたもの。クラシック・現代音楽・最先端まで時代の語法を駆使しながら、論理的に構築された音楽たち。エンターテインメント音楽ではうかがい知れない、時代の空気を色濃くあぶり出しすような現代の音楽たち。点と点がしっかりと線になっている久石譲オリジナル作品は、20-21世紀の歴史を刻み未来のレパートリーとなりますように。《新しいミニマリズムのかたち ミニマリスト:久石譲》でした。

 

Modern Minima_Rhythm Style
Minimalist: Joe Hisaishi

 

それではまた。

 

reverb.
今回は、久石譲の音楽活動をリアルタイムに(必死についていこうと!?)歩んでいるファン、そんな歩速と歩幅で、足なみ緩めることなく一気に進みました。こんな作品知らなかった、こんなコンサート活動知らなかった、こんな歴史知らなかった、ということもあると思います。興味あるところからゆっくりのぞいてもらえたなら、じんわりたしかにわかってくることもあると思っています。いつも頭の中散らかっています(^^;

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Info. 2021/07/25 「久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ2021」ライブ配信決定!!

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「W.D.O.2021」2021/7/25ライブ配信決定!!

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Info. 2021/08/13,20,27 [TV]金曜ロードショー 3週連続 夏はジブリ「もののけ姫」「猫の恩返し」「風立ちぬ」放送

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