Overtone.第70回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート by むーんさん

Posted on 2022/08/01

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

今回ご紹介するのはライブ配信レポートです。初登場むーんさんです。その人にしか書けない作品についてのことや想いってありますね。ひとつの作品に想いを込めた素敵なものを届けてくれました。どうぞお楽しみください。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

私は「My Lost City」が好きだ。

 

 

それは1992年の秋頃、いつものように入ったレコードショップ。クラシックの列をあらかた散策した私は「イージーリスニング」のコーナーへ向かった。

 

沢山あるアルバムの中にそれは埋もれていた。

 

当時は「久石譲」のコーナーなどどこにも無い。世間では、少なくとも私の周りの世間では久石譲の名を知る人もほぼ居ない。私も「ジブリの音楽書いてる人」位の印象しか無かったが、そのアルバムは何の気なしに私の目に止まった。

 

アルバム名は「My Lost City」
作曲者は「久石譲」

 

「へぇ。久石譲ってソロアルバムも出してるんだ」 何故か目にとまったそのアルバムを引き出しそう思う。「面白そう。買ってみようかな。」 それが久石さんと私の出会いである。

 

帰宅しアルバムを聴いた私は固まった。

当時、1番好きな曲はチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」。この世で1番美しい曲はモーツァルトのレクイエム。クラシックの中でも悲しい、暗い曲が好きだった私のその琴線にビビッと触れたそのメロディ。いや、触れたでは済まない。身体の中を衝撃が走り去った。この世を憂うような悲しむような美しい響きがこれでもかと流れてくる。

しかもアルバムの構成が良い。クラシックのように曲順や構成にも凝っている。それぞれの曲が独立しそれぞれのテーマを唄いながら、全体として1つの「意味」を持つアルバムになっている。アルバムを一通り聴き終わった時、私は既に久石さんの虜になっていた。

 

私にとってこれが
久石さんとの出会いであり、原点である。

 

だから、私は「My Lost City」が好きだ。

 

 

それから30年。

節目の年にその衝撃の出会いはまた訪れた。

 

2022.7.23午後。病院のベッドの上。今回の手術のためにコンサートチケット購入を断念した私は病室のベッドの上にタブレットを置き、ワイヤレスイヤホンをして寝ている。

身体は痛いし、看護師さんの目も気になるが、今年年頭に手術を取るかコンサートを取るか悩んだ末、手術を優先したのだ。多少の身体の痛みには一時的に大人しくして貰おう。年頭の深い悩みに比べれば看護師さんの目も大したことは無い。それよりもライブ配信に全神経を集中する。

 

そしてそれは始まった。

思いも掛けず流れる「Prologue」に背中がゾクゾクする感覚を覚える。「My Lost City」のアルバム構成を考えれば、これなくして「My Lost City」は始まらないが、WDOと言うコンサートの性質を考えれば、時間的にも曲の知名度としても入れるのは難しいのではと思っていたこの曲をさも当然のように持ってくる久石さんに、このコンサートへの意気込みを感じた。

「Two of Us」が始まった瞬間、私の身体には寒けが走った。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。想像していた理想の編成でその曲が演奏されたからだ。悲しさと寂しさ漂わせるバンドネオンの音色と、孤独さと哀愁漂うバイオリンの音色。それを優しく包むように響くピアノの音色。まさにこの曲の理想の形の一つでは無いだろうか。バンドネオンとバイオリンが重なる辺りから寒気も涙も止まらない。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。感動したからだ。余りの美しい響きに。私はこの響きを聴けて幸せである。

次の「狂気 MADNESS」には驚かされた。こんなにも間引かれたこの曲を聴いた事がない。この30年、この曲「狂気 MADNESS」は殆どその形を変えずに何度も演奏されている。久石さんにとってそれだけ思い入れのある曲であり、完成した曲なのである。それが引き千切られ、繋げられ、改変されている。この組曲の編成編曲に対する音楽家・久石譲の深い決断と並々ならぬ思い入れを感じずにはいられない。それを表すかのように、なんとこの曲のエネルギッシュなこと!ピリピリとした演奏はやがて各演奏者のボルテージをあげてゆく。打楽器のロールがさらにそれを加熱させ、その演奏は何かが取り憑いたようにも見える。まさに「狂気」である。

「Tango X.T.C.」、この曲は本来感傷的な曲である。久石さんご本人もそのアルバムの中で「なぜ1920年代のタンゴはセンチメンタルなのか?」と書かれている。だが、この演奏は実に伸びやかである。センチメンタル、感傷的と聞くと「哀しい」「つらい」と負のイメージが思い付く。それを表すかのようなバンドネオンのメロディライン。ではなぜ?

年齢を重ねるたびに深く思うが、哀しい、つらいと言った感情を感じるからこそ、嬉しい、楽しいと言った感情も感じることができる。若かった30年前には判らなかったそう言った表裏一体の感情を表すかのように、センチメンタルなバンドネオンのメロディラインを奏でつつ、曲は伸びやかに、自由気ままに。そして愉しげになってゆく。演奏者の動きや、久石さんの笑顔がそれを表すかのようだ。そして、人生のクライマックスが訪れるように曲は終わる。次の曲「My Lost City」があるのが判っていても拍手を送りたいと思った。いや送っていた。それほど、この「Tango X.T.C.」は素晴らしかった。

組曲が終わったとき、私は興奮し号泣していた。それが病院のベッドの上とかは、もはや関係ない。嬉しくて嬉しくて。この演奏を聴けた事に感謝して。その興奮は30年前を思い起こさせる。久石さんに初めてあったあの日のように。

 

身体に力が満ちてくる気がした。

 

来年は必ず演奏を聴きに行こう。

それまで頑張ろう。元気になろう。
その日を楽しみに。

こんな興奮をまた味わうために。

 

 

やはり、私は「My Lost City」が好きなのだ。

 

2022年7月28日 むーん

 

じんわりと胸に広がっていくものを感じます。こういった瞬間に触れると、本当にいろいろな環境や状況のなかから、コンサートへ行きライブ配信を視聴し、WDO2022を体感した一人一人にリアルなドラマがあるんだなと改めて切実に思います。次のコンサートはきっと行けますように!

当時の空気のなか手にとっていること、そこからずっと聴いていること、ほかのファンの人からしたらとてもうらやましい貴重な限られた体験だと思います。そして僕はひとつ気づいた。久石さんのフェアライトやデジタルといった80-90年代サウンドが好きでいつしか離れていった人はいるけれど、「My lost City」を好きになった人で離れた人はいない。この作品に出会ったときからずっとファンのまま歩んでいる。そういう作品なんです「My lost City」。

むーんさんは「久石譲の小部屋」でCD紹介ブログをしています。これまでに100枚を越える久石譲アルバムが魅力的な文章で紹介されています。これを見て驚くこと発見することたくさんあります。ご自身のリズムに合うペースで更新されています。くつろぎながら楽しめます。ツイッターと一緒にぜひチェックしてくださいね!

久石譲の小部屋
https://ameblo.jp/nanashi-no-gonbe2/

むーんさん
@HisaishiM

 

 

東京公演/配信

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
突然に届くレポートって手紙と同じくらいうれしいものです。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Info. 2022/08/01 スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開! 音楽:久石譲

Posted on 2022/08/01

スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開!

2022年11月1日に愛・地球博記念公園(愛知県長久手市)に開園する「ジブリパーク」。 “Info. 2022/08/01 スタジオジブリ制作「ジブリパーク」チケット販売告知映像を公開! 音楽:久石譲” の続きを読む

Info. 2022/08/12,19,26 [TV] 金曜ロードショー 3週連続 夏はジブリ『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『耳をすませば』放送

Posted on 2022/07/22

今年の夏も!3週連続 夏はジブリ【8.12】『天空の城ラピュタ』【8.19】『となりのトトロ』【8.26】『耳をすませば』

「金曜ロードショー」では今年の夏も3週連続でスタジオジブリ作品を放送!8月12日は、『天空の城ラピュタ』、8月19日は『となりのトトロ』、8月26日は『耳をすませば』をお送りします。いずれも、11月1日に、愛知県にオープンするジブリパークに、関連する施設が建設中の注目作品です! “Info. 2022/08/12,19,26 [TV] 金曜ロードショー 3週連続 夏はジブリ『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『耳をすませば』放送” の続きを読む

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・レポート

Posted on 2022/07/20

7月14,16日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサートです。前回Vol.4は2月開催となんと半年も経っていない、そしてリアルチケットは完売御礼。Vol.2,3,4に引き続いてライブ配信もあり、国内海外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5

[公演期間]  
2022/07/14,16

[公演回数]
2公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール
長野・長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
久石譲:2 Dances for Orchestra

—-intermission—-

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

 

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

プログラムノート

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

*寺西基之氏による楽曲解説

 

久石譲:2 Dances for Orchestra
Mov.I How do you dance?
Mov.II Step to heaven

この曲は、昨年のMUSIC FUTURE Vol.8で「2 Dances for Large Ensemble」として世界初演した。ダンスなどで使用するリズムを基本モチーフとして構成しているのが特徴で、聴きやすそうでありながら、リズムが巧みに交錯した構造になっている。久石譲は発表時、「使用モチーフを最小限にとゞめることでリズムの変化に耳の感覚が集中するように配慮した。Mov.2では19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」と語っており、これは近年追及している方法の一つである「単一モチーフ音楽=Single Track」の最新版ともいえる。今回のFUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5では、もともと「for Large Ensemnble」としていた初演版から編成を拡大し、Future Orchestra Classicsにふさわしいバージョンとして初披露する。

(*筆者明記なし)

(*久石譲 挨拶文なし)

 

(「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・パンフレットより)

 

 

リハーサル風景/公演風景

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式Twitter
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ベートーヴェンらしい力強い序曲です。録音では交響曲とカップリングされることも多いですし、ベートーヴェン序曲集のようなアルバムには収録マストです。とても人気のある曲です。今の世界的状況をにじませた選曲なのか(作品についてはウィキペディアなどご参照)はわかりませんが、パフォーマンスとしてもFOCにぴったりの曲です。

快速でした。

久石譲指揮/FOC 6:25
ノリントン指揮/ロンドンクラシカル 6:54
ヤルヴィ指揮/ドイツカンマーフィル 8:04
その他一般的 8:00-9:00くらい

タイムを計っても一目瞭然です。雄渾に重厚感たっぷりに演奏することもできる曲です。がしかし、演奏に陶酔しすぎないように、あくまでもインテンポで、颯爽と疾走感たっぷりに駆け抜けていきます。久石譲指揮のポイントになっているリズム重視ということはもちろん、そこには演奏も精神も重くなりすぎないように、そんな印象を受けました。

上の久石譲からヤルヴィまでの3つは非常にアプローチの近い演奏に聴こえます。タイムを縮めていきましょう。ヤルヴィ版との違い、たとえば弦楽器と木管楽器が掛け合う序盤の2分あたり(何回も登場します)とか、木管の掛け合いがちょっと歌うようにゆっくりになったりします。久石譲版とノリントン版はあくまでもインテンポでテンポが落ちていないですね。気づいたことだけで1分間近いタイムは縮められていないですけれど。

ノリントン版との違い、終盤のコーダかな。久石譲版はコーダ突入が5:05-くらい、ノリントン版はコーダ突入が5:25-くらい。この時点で残りタイムは-1:20,-1:25くらいなので、コーダ以降のテンポはそこまで変わらないのかなと推察できます。久石譲版は序盤からここに来るまでがずっと速いんです!コーダとテンポが変わらないほどに。多くの演奏では、コーダの前と後ろでテンポが大きく変わって、それがコントラストにもなっていて終盤の迫りくるラストスパート感があります。久石譲版は頭から終わりまでノンストップぶっちぎり!フォームもかちっとした作品で、切れ味のよいオープニングでした。

ヤルヴィさんも、ノリントンさんも、久石さんラジオで登場したことのある指揮者/オーケストラです。だから手元に持っていたこともありますけれど、挙げて場違いではないと思うので、ぜひ聴いてみてください。とりわけノリントン版のテンポアプローチが念頭にあるんじゃないかと思わせてくれるほど楽しいです。

 

 

久石譲:2 Dances for Orchestra

先にプログラムノートから少し補足します。スケジュールからは、2022年9月24日開催「日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #267」にて世界初演(予定)となっていました。事前アナウンスのプログラム変更もあって、FOC Vol.5で繰り上げて初演を迎えることになった作品です。FOCコンサートはライブ配信が定着してくれていることもあって、聴ける!と喜んだファンはきっと多い。

難しい2 Dances。いや、感覚的にはすごく惹き込まれる作品で魅惑的です。実際にMF Vol.8で披露されたアンサンブル版のレビューには、タイトルにある「dance,heven」というキーワードから「踊る=生きる」としてみたり、のちに極上のサスペンス/ミステリーみたいに聴こえだしたときには「踊る=踊らされた人たち」「heven=解決,出口」としてみたり、この作品から受けたイメージを記していたと思います。聴くごとに印象は七変化して。そこには一貫した前向きなメッセージが込められているようにも感じています。

オーケストラ版に拡大された本作は、楽曲構成(パート展開)はほぼ同じようです。声部の追加や楽器の厚みはあるでしょう、なによりダイナミックです。ただ、カオスすぎるというかアンサンブル版よりもごちゃごちゃ感のある印象もありました。それは構成の難しさはもちろん、太鼓系パーカッションも拍子を刻むようなアタックをしていなくて、旋律的にもリズム的にも寄っかかれるところが少ない。僕は会場で聴いたときに、これは反響して音が回っているせいかなと思い、ライブ配信(ステージマイク)のものを聴いたときも、あまり印象が変わらなかったです。とにかく難しい。

……

と、さじを投げてはもったいないのでがんばりたい。虫めがねをこらすように覗いてみたい。まあ難しいんだけど。タイムを計るとMov.I アンサンブル版10:20、オーケストラ版10:25とほぼ同じです。細かく分数区切って聴き比べもしましたけれど、タイムからも楽曲構成が変わらないことはわかると思います。Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。詳しいことはまたあとに。

 

Mov.I How do you dance?

この曲はモチーフが少なくとも2~3つあります。なにが難しいかって、これらのモチーフが同時進行的に並走していること!これらのモチーフが同時進行的に変奏していること! どのモチーフを追いかけるかでわからなくなって道に迷ってしまう、モチーフの並走に気づかずに出くわす(聴こえてくる)モチーフごとに振り回されてしまう。

ライブ配信・アーカイブ配信は期間限定一週間です。特別配信のアンサンブル版は今のところ継続視聴できます。シンプルに聴き分けやすいのもあってこちらをベースにのぞいていきます。

 

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.8” Special Online Distribution

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

冒頭からモチーフAがヴィオラ・チェロで登場します(00:38-)。そのとき同音連打のモチーフCはファゴットです。少し遅れてモチーフBがトランペットや第1ヴァイオリンで登場しますが、すでにオーボエも拍子ズレして登場しています(00:42-)。モチーフBいろいろな楽器へと移り変わっていってクラリネットになったりします(01:10-)。そのときにはヴィオラなんかが拍子ズレして追いかけています。

…と開始1分間くらいだけでもう目が回りそう。僕は基本モチーフをABCの3つとしました。これらが3つの声部として3本ならまだいいんだけど、AもズレてA’が並走している、BもズレてB’が並走している、Cは律動ベースではあるから…少なくとも5本並走して交錯している。たとえばそんなイメージ。それはもう目が回るわけだ。

息つく間もなく、モチーフAはチェロで早くも変奏を始めた(01:33-)。突然、鋭く速い第1ヴァイオリンのパッセージが登場しますがモチーフBの変奏とみました(02:00-)。前述のクラリネット(01:10-)と聴き比べても、同じ音型からできていると思うからです。パーカッションが増えて一気に躍動的になるところは、同音連打のモチーフCからのバリエーションじゃないかな…と思わせといて不正解、ここでモチーフCはピアノで通奏しています(02:17-)。

こんがらがる。

わかりやすいモチーフのズレでいうと、モチーフAの聴きやすいところ。チェロ(02:47-)からトランペット・ファゴット(03:11-)。あ、このあたりのシンバルのリズムはモチーフCと同じ律動ですね(03:22-)。あ、拍節感なく無造作に音を出しているようなトロンボーンかホルンなんかの旋律もたぶんモチーフAのバリエーションです(03:47-)。

こんがらがるけれど。

もう一回同じところ、モチーフAのチェロ(02:47-)です。コントラバスが少し違う音型で重なってきます(02:57-)。これをモチーフAの変奏とみるのか。あるいはモチーフAチェロから少しずつ音を抜き取って同じ単音で重なっている単旋律とみるのか。おもしろいですね。僕は単旋律(Single Track)手法だと思っています。モチーフたくさん並走してる変奏してる変拍子にもなるズレる単旋律もある。まいった。

気づいたしこ言い出したら止まらなくなってしまう。こんな感じでABCにだけ集中して聴いたとしてもすごいことになります。さらに、別の旋律や別の展開に入ったり、気づいていない仕掛けやなんやもあるもう大変です。

一個だけでもとっかかりを見つけると楽しいです。モチーフAはいちばん要になっているように聴こえ、このぐっと魅惑的になるピアノも変奏されたものです(07:17-)。そこに基本型をヴィオラ・第1ヴァイオリンで登場させて変奏型と交錯させたり(08:20-)。そのあともグロッケン・ピッコロ・トランペットなどいろいろな楽器に移り変わっていき、9:30くらいまでの約2分間だけでもたくさんのモチーフAを聴くことができると思います。

 

Mov.II Step to heaven

Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。大きくふたつ、盛り上がりのピークを迎えるパートがやや速いか遅いか、それ以降の静かになる終盤コーダからのテンポがオーケストラ版のほうは顕著にゆっくりになっています。

プログラムノートにあるとおり「19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」です。主役は単一モチーフだから、Mov.Iよりも聴きやすいかもしれません。でも、なかなか歌えない憶えられない19小節なんですけれど。

ひとつのモチーフがズレることによってリズムやハーモニーが変化しているのは、聴いていてもなんとなくわかるような。いろいろなリズムエッセンスがあってタンバリンやカスタネットはスパニッシュだし、音符からは日本的だし。中間部あたりからシンバルがスウィングしだしてジャジーかなと思ったりもします。けれど、このときピアノや低音で単一モチーフを奏しています、付点リズムなんです。だから4ビートのジャズにはならない。微妙な塩梅でリズムがなっている。

改めてこの曲の七変化、シュールなカーニバルと日本民謡をブレンドさせたブラックユーモアのようにも聴こえてきます。わらべ唄とまではいかない、民謡や歌謡のような雰囲気をスタイリッシュにした感じ。イメージを押し売りしてはいけないのですが、大ヒットで認知もあるし軽く聞き流してください。たとえば『鬼滅の刃』の列車や遊郭、大正ロマンのような香り。ほんとおもしろい曲です。ヨーロッパの品格あるミステリーと思ってみたり、雅な日本を感じてみたり。饗宴乱舞です。

 

強く添えておきます。

上に書いたことハズレの可能性は十分にあります。何点もらえる答案用紙かはわかりません。アンサンブル版とオーケストラ版のテンポの差は、それぞれ今回のライブ演奏においては、です。音源化されたものがひとつの標準テンポになってくると思います。さて、アンサンブル版からの紐解きをもとに、オーケストレーションの増幅されたオーケストラ版を聴きわけていく。まだまだ道のりは長いです。ダンスもゆっくりからステップ覚えていってステップアップしていきたいところです。

 

 

 

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

ブラームス最後の交響曲です。久石譲FOCの編成規模は、弦8型(第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ5、コントラバス3)に木管2管と室内オーケストラくらいの大きさです。ブラームスらが当時演奏していたのもこのくらいの大きさだったとも言われています。前回Vol.4での第3番も同じ弦8型とコンパクトに臨んでいます。そして、久石譲指揮は対向配置です。さらに、久石譲が振る古典作品はバロックティンパニが使われています。本公演は古典も現代も全作品ともにこの小編成規模でパフォーマンスされています。FOCは立奏スタイルです。迫力や躍動はもちろん、楽器間のアンサンブルも目配せ以上に体でコンタクトとっているさまが楽しいです。

第2番のときにも見られたかもしれません、とても音価を短くした旋律のアプローチだったように聴こえました。第4番第1楽章はイントロもなく(言い方適切じゃない)頭からかの有名な第1主題が流れてきます。なんとも哀愁と孤高の極みのようなメロディです。久石譲版は、これすらもまるでモチーフや音型のようにリズムを区切っています。そう、メロディじゃなくて素材的な扱いにしたように。そのほかにしても、こんなフレーズだったっけ?こんな印象だったっけ?というところが全楽章をとおして随所に感じてきます。ベートーヴェン交響曲のアプローチに近いような気がしました。でもブラームスはロマンもたっぷり。古典かロマンか、むずかしい。

なるべく歌わせたくなかった。歌うとタメが抑揚が緩急が生まれる。そしてテンポが遅れてくる。なるべくそうはしたくなかった。と仮定したときに…なんでだろう? 僕なりの回答です。ひとつは、綿密に構成されたモチーフが展開したり変奏するさまをしっかり浮き立たせたかった。久石譲版を聴けば、あのフレーズここでも鳴ってたんだつながってたんだということなんかが新しく発見しやすいかもしれません。もうひとつは、ブラームスが特徴的にアンサンブルだから。フレーズを掛け合ったりすることの多い交響曲たちばかりです。それも一小節や二拍ごとといった細かいスパンでキャッチボールしている。だからかなと思いました。キャッチボールするならお互いテンポを合わせないとうまく進まないですよね。あうんの呼吸です。片方はとてもインテンポで投げてるのに、もう片方は速度遅かったりふりかぶるのに時間かかったりだと、トントンとリズムよくできません。そんなイメージです。インテンポで歌わせる、インテンポで歌えないなら、リズムをそろえるほうに舵を取る。僕なりの回答でした。

メトロノームのような機械的リズムの演奏とは違います。メトロノームのテンポにきっちり合っていてかつ独特のグルーヴ感を生み出す演奏っていっぱいありますね。その絶妙な機微のようなもの。また、久石譲のリズム重視のアプローチというのは、聴く人に印象を押しつけないためのものかな、そんなことも思います。メロディを煽りすぎない、リズムを煽りすぎない、想いを煽りすぎない。ミニマルもそうですけれど、なるべく演奏側はニュートラルでいることで、聴く人にいろいろなイマジネーションをもってもらえる。だからベートーヴェンもブラームスも重い演奏を排除することで、新しい風を運んでくれた。聴く人は新しいイマジネーションをもつことができた。ミニマルが得意な久石さんにかかると、こういうところも根源にあるような、潜在的武器としてそなわっていたような、そんなことも思います。

全楽章で拍手が入りました。びっくりです。第1楽章はまあわかる。力強くどっしり終わる。第2楽章はゆっくり穏やかに終わる。わりと半数以上の盛大な拍手がきた。第3楽章なんてフィナーレかと思うような終わりかたするからもう当然に。周りを見ても拍手していない僕がいけないんじゃないかとわからなくなる。第4楽章は満員御礼の大きな拍手が送られました。「楽章間で拍手が起こるのは、新しいお客さんが来ているか、それほどの演奏だったか、そのどっちかだからどちらあってもうれしい」、そんなことを語っていたオケ奏者のインタビューを思い出しました。

 

 

ーアンコールー

ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

ブラームス交響曲ツィクルスの「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSIC Vol.2-5」では、アンコールはハンガリー舞曲からセレクトされています。2020年 Vol.2「交響曲第1番」「ハンガリー舞曲第4番」、2021年 Vol.3「交響曲第2番」「ハンガリー舞曲第17番」、2022年 Vol.4「交響曲第3番」「ハンガリー舞曲第6番」、そして本公演になります。一番有名な「ハンガリー舞曲第5番」は過去にも数回演奏歴があり、ベートーヴェン交響曲ツィクルスのアンコールなどでも登場していました。

まったくウィキ的調べがヒットしませんでした。とても哀愁感のあるメロディで始まる曲は、交響曲第4番第1楽章をフラッシュバックしそうです。1分経過した頃から、打って変わって陽気に快活にひらけていきます。

 

 

本公演Vol.5をもってブラームス交響曲ツィクルスは完走です。作品ごとに多彩なブラームスを聴かせてくれました。ブラームスファンが増えたらうれしい。さてさて、ブラームス全集は発売されるのか?Vol.6以降はあるのか?あるならどんなシリーズか?今からもう待ち遠しいです。日本センチュリー交響楽団ともシューマン交響曲ツィクルスが予定されていたり、新日本フィルハーモニー交響楽団のシーズンプログラムにも登場したりと、話題は尽きません。

FOCでぜひ聴いてみたい久石譲作品は「Sinfonia」です。NOCで披露された「Orbis」もとてもよかったです。予定にあったベートーヴェン「大フーガ」もいつか聴きたいです。「Links」とかもいい感じになるのかな?「Untitled Music」とかもってこいじゃない?しれっとアピールは尽きません。

 

 

 

 

2022.08.18 追記

(up to here, updated on 2022.08.18)

 

 

FOCシリーズ

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

2022年7月20日 CD発売 UMCK-1715

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「もののけ姫」

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra

交響組曲もののけ姫
20年以上の時を経て蘇る

(CD帯より)

 

 

解説

久石譲が音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)は、2004年の結成以来、これまで数多くの名演を繰り広げてきた。そのどれもが忘れがたく、観客に熱い感動を与えてきたが、こと2021年の活動に限って言えば、「不条理との戦い」の一言に尽きるかと思う。オーケストラが置かれた社会的な状況という意味においても、また、公演で披露した演奏曲という意味においても。

結成10周年を迎えた2014年以降、W.D.O.は毎年夏にコンサート・ツアーを開催してきたが、2020年は(当初予定されていた)東京オリンピックのために演奏会場の確保が困難になると予想され、かなり早い段階でツアー開催の見送りが決まっていた。結果的に、2020年は新型コロナウィルスのパンデミックが猛威を振るっていた1年だったので、たとえ会場が見つかったとしても開催は不可能だった。問題は翌年の2021年である。

日本国内の感染状況とワクチン接種状況にあまり詳しくない海外のリスナーのために少し説明しておくと、2021年2月の段階でワクチン接種(1回め)は医療従事者などごく一部に限られ、一般人の接種時期はそれから数カ月後になりそうな状況であった。クラシックの演奏会に関して言えば、すでに2020年半ばから開催可能となっていたが、観客数を大幅に減らしたり、あるいはオーケストラの演奏曲目も2管編成を越えない程度の規模に限定したりするなど、さまざまな制約を余儀なくされる状態が1年近く続いていた。しかも、感染拡大状況に応じて日本政府から緊急事態宣言が発令された場合、その時点で予定されていた該当地域の演奏会はほぼすべて中止になる。そんなリスクを抱えながらも、演奏活動の火を絶やさないため、関係者が日夜努力を惜しまぬ状況が続いた。

こうした中、2021年1月から東京都を含む地域で約2ヶ月半継続していた緊急事態宣言が同年3月に解除されたことを受け、久石とW.D.O.は2年ぶりとなるツアー開催を決断し、4月21日から京都、神戸、東京の3都市でコンサートを開催することになった。ところがツアー開始後、大都市圏における変異株急増が深刻化し(日本国内でのいわるゆ第4波)、4月25日から緊急事態宣言(日本国内では3回目)が発令されることになった。W.D.O.が予定していた3回の東京公演のうち、辛うじて4月24日の公演は開催に漕ぎ着けることが出来たが、25日と27日の公演は会場そのものが臨時休館という形で閉鎖されたため、有観客演奏はもちろんのこと、無観客演奏による収録・配信も不可能になった。W.D.O.始まって以来のツアー中断という異例の事態。久石も、オーケストラの団員も、公演を支える関係者も、そして言うまでもなく観客も、誰もが不条理を感じていたに違いない。とりわけ、不条理を描いた『もののけ姫』の音楽を含むプログラムを用意していた今回のツアーにおいては。

タタリ神との闘いによって死の呪いを受けることになったアシタカは、不条理な運命を背負うことになった存在である。山犬に育てられ、もののけ姫として生きることを余儀なくされたサンも、やはり不条理な存在である。パンデミックの不条理とは若干異なるかもしれないが、不可抗力の事態によって生き方を変えることを余儀なくされたという意味においては、少なくとも2021年当初の我々がごく自然に共感できたキャラクターである。戦いに明け暮れる『もののけ姫』の中世であれ、パンデミックに苦しむ2021年であれ、人間が置かれている状況は、実はそれほど違っていない。だからといって、不条理な運命を悲しんでいるだけでは何も変わらない。いや、変わらないどころか、消滅してしまうだろう。だから、不条理と向き合い、戦わなければならない。『もののけ姫』の有名なキャッチコピー「生きろ。」も、おそらくそういう意味ではないかと思う。

久石が『もののけ姫』の作曲(より正確にはイメージアルバムの制作)に着手してから、すでに四半世紀以上の時間が経過しているが、今回のツアーで初めて披露された《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》に到るまで、久石がしばしば『もののけ姫』の交響組曲に取り組んでいるのは、『もののけ姫』という映画とその音楽が、「不条理と戦いながら生きる」という人間の本質をきわめて直截に表現しているからではないだろうか? わかりやすく言うと、我々が不条理な世の中に生きている以上、『もののけ姫』を繰り返し演奏していかなければならない。単に宮﨑駿監督の映画のために書かれた音楽という次元を越え、我々自身のことを描いている音楽だからである。そうした意味において、《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》は四半世紀以上にわたって取り組んできた久石のライフワークの、現時点における到達点と言えるだろう。

『もののけ姫』の最後に演奏される〈アシタカとサン〉の晴れやかな音楽のように第4波の猛威がようやく落ち着き、2021年6月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受け、開催中止を余儀なくされたW.D.O.の4月25日と27日の振替公演が7月25日と26日にようやく実現した。本盤に聴かれる《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》《Asian Works 2021》《World Dreams 2021》は、その時の演奏を収録したものである。

言わずもがなだが、本盤は久石とW.D.O.が向き合わざるえを得なくなった、パンデミックの不条理の単なる記録ではない。2022年、別の不条理が世界を覆っている現在にこそ聴かれるべきアルバムだ。不条理と戦いながら、夢を追って生きていく人間たちへの讃歌ーーW.D.O.というプロジェクトに込めた久石の意図が、これほどまでにリアルに感じられる時代はないからである。

 

 

楽曲解説

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。さらにアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせるうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める……。宮﨑駿監督が構想16年、製作日数3年を費やした『もののけ姫』(1997)は、作曲家としての久石にとっても大きなターニングポイントとなった最重要作のひとつである。映画公開の約2年前から作曲に着手した久石は、宮﨑監督の世界観を余すところなく表現すべく、大編成のシンフォニー・オーケストラ、シンセサイザー、邦楽器や南米の民俗楽器など、ありとあらゆる手段を投入してサウンドトラックを完成させ、当時の日本映画の制作現場では珍しかった5.1チャンネルの音楽ミックスにも初めて挑んだ。映画さながらの総力戦である。このような成り立ちゆえ、サウンドトラックはそのままの状態では演奏不可能なので、久石は常設の交響楽団で演奏可能な全8楽章の交響組曲を新たに作り上げ、1998年7月、すなわち『もののけ姫』公開1周年を記念する形でアルバム『交響組曲 もののけ姫』(1998年版)を発表した。それから18年後、宮﨑監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾といて、1998年版の組曲を大幅にブラッシュアップしたヴァージョン(2016年版)が2016年W.D.O.公演で初披露された。1998年版と2016年版の大きな違いは、1998年版に含まれていなかった〈コダマ達〉が追加され、さらにオーケストラの響きを出来るだけサウンドトラックの印象に近づけるべく、オーケストレーションそのものが大幅に見直された点などを挙げることが出来る。この2016年版をさらに改訂したものが、本盤に聴かれるヴァージョン(2021年版)である。2016年版に含まれていなかった映画終盤のクライマックスの音楽、すなわち「世界の崩壊」を表現した楽曲群を追加することで、宮﨑監督がこの映画に込めた「破壊と再生」というテーマが音楽だけではっきり伝わるようにしたこと、歌詞を聴き取りやすくするために主題歌〈もののけ姫〉のキーを下げたこと、さらに久石が海外で指揮しているコンサート「Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のためのオーケストレーションが採り入れられたことなどが、今回の改訂の大きなポイントとなっている。以下に、組曲を構成する各楽曲を解説する。

まず「むかし、この国は深い森におおわれ、そこには太古からの神々がすんでいた。」というタイトルと共に始まるオープニングの音楽〈アシタカ𦻙記(せっき)〉。あたかも古代の詩人が雄大な叙事詩を語り始めるような荘重な面持ちで奏でられるこのテーマは、映画本編の中で主人公アシタカを象徴するテーマとして何度も登場することになる。

続いてタタリ神とアシタカが死闘を繰り広げるシーンで流れる〈タタリ神〉。無調音楽のように敢えてメロディアスな要素を排除することで、タタリ神の持つ凶暴性を見事に表現したテーマだが、日本の伝統文化になじみの薄い海外のリスナーが聴くと、日本古来の祭の音楽、すなわり”祭囃子”にインスパイアされたダイナミックなオーケストレーションに驚かれるかもしれない。この”祭囃子”は、タタリ神がかけられた呪い(その呪いは実は人間に対する憎しみに由来する)が何らかの形で鎮めなければならない超自然的存在、すなわち厄災をもたらす神であるということを暗示している。

次の〈旅立ち~西へ〉は、タタリ神を倒した代償として死の呪いを受けたアシタカが、大カモシカのヤックルに跨り、呪いを解くために西の地に向かうシーンの音楽。ここでメインテーマ〈もののけ姫〉のメロディーが初めて登場し、アシタカが出遭うことになるサンすなわちもののけ姫の存在をほのめかす。

続いて、負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが森の精霊コダマと遭遇するシーンで流れる〈コダマ達〉。コダマは英語に直訳すると「木の精霊」となるが、久石は木質の打楽器や弦楽器のピツィカートを巧みに用いて”木の響き”を強調しながら、森の雰囲気を見事に表現している。

本編の物語の流れと前後するが、次の〈呪われた力〉は、アシタカの放った矢が略奪を繰り返す地侍に惨たらしい死をもたらすシーンの音楽。タタリ神の呪いは、人間に死をもたらすだけでなく、人間に超人的な能力を与えてしまう。そうしたメタフォリカルな設定を表現した音楽として、短いながらも強烈なインパクトをリスナーにあたえる楽曲である。

続く〈シシ神の森〉は、傷ついた人間に癒やしをもたらすシシ神のテーマを、ほぼフル・ヴァージョンで演奏した楽曲。ストラヴィンスキー風のオーケストレーションが、シシ神の森を覆うアニミズム的な世界観を暗示している。

そして〈もののけ姫〉は、サンの介抱によって体力を回復したアシタカが人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍うシーンで流れる主題歌。映画全体のメインテーマであり、もののけ姫のテーマでもあるが、サウンドトラックのヴォーカル・レコーディングに立ち会った宮﨑監督はこの主題歌を「アシタカのサンへの気持ちを歌っている」楽曲と位置づけている。

次の〈黄泉の世界〉から物語終盤の音楽となり、エボシ御前によって首を討ち取られたシシ神が液状化し、巨大なディダラボッチに変容する凄まじい光景が描かれる。途中、〈もののけ姫〉のテーマの断片と〈アシタカ𦻙記〉のテーマの断片が「森は死んだ…」「まだ終わらない」というサンとアシタカのやりとりを表現する。再び、シシ神すなわちディダラボッチの凶暴な音楽に戻った後、アシタカとサンがシシ神に首を返すシーンの〈生と死のアダージョ〉となり、凄まじいクライマックスを迎える。

朝日が差すように音楽が一転すると、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽〈アシタカとサン〉となる。宮﨑監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現出来た」と言わしめた名曲である。今回の組曲では、ヴァイオリンとピアノの二重奏の形でメロディが導入された後、麻衣が作詞した歌詞をソプラノ(本盤での歌唱は安井陽子)が歌う編曲となっている。

 

Merry-Go-Round 2019

荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮﨑駿監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》。本盤に聴かれる演奏は、2019年のW.D.O.公演で披露されたヴァージョンで、今回が初リリースとなる。楽曲の構成自体は本編のエンドクレジットで演奏されるメインテーマのフル・ヴァージョンとほぼ同じだが、序奏を演奏するハープやテーマ旋律を導入するチェレスタ、その旋律を優雅なワルツとして演奏するアコーディオンとマンドリンなど、新たなオーケストレーションを施すことによって、映画の世界観が見事に凝縮されたヴァージョンとなっている。

 

Asian Works 2020

パンデミックの真っ只中にあった2020年、久石が手掛けた商業音楽(エンタテインメント音楽)を3つの楽章から構成される組曲としてまとめたもの。アジア地域からの委嘱という共通点を除けば、3曲のあいだに直接的な関連はないが、こうして3曲続けて聴いてみると、ミニマリストとしての久石、メロディメイカーとしての久石、エンタテインメント音楽の第一人者としての久石と、彼の3つの側面が図らずもくっきり浮かび上がってくるのが、大変に興味深いところである。

 

I. Will be the wind

LEXUS CHINAの委嘱で作曲。2020年9月、中国市場向けのプロモーション映像のための音楽として初めて公開された。作曲にあたって久石が重視したという「疾走感」がミニマリズムの反復音形と鮮やかな転調の繰り返しによって表現されているが、同時にレクサスという車種にふさわしい重量感が巧みなオーケストレーションから伝わってくる。演奏時間がわずか4分ながら、きわめてコンセプチュアルに書かれた楽曲と言えるだろう。

II. Yinglian

2020年12月にワールドプレミアを迎えた中国・香港合作のファンタジー映画『Soul Snatcher』(原題は『赤狐書生』、日本では『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』の邦題で2021年10月劇場公開)の愛のテーマが原曲。かつて久石がスコアを作曲した『海洋天堂』(2010)も手掛けた香港の名プロデューサー、ビル・コン(江志強)が製作を務めており、彼の強い希望で久石との10年ぶりの再タッグが実現したという。人間の姿をした狐妖・十三(リー・シエン)が伝説の狐仙となるべく旅立ち、狐仙への変容の鍵を握る書生・子進(チェン・リーノン)と友情を育みながら、妖怪や悪霊に立ち向かうというのが、物語の大筋である。曲名の《Yinglian》は、ふたりが旅の途中で立ち寄る妓楼の遊女・英蓮(ハニ・ケジー)に由来する。どこか哀愁を帯びたクラリネットの優しいメロディが、英蓮の妖艶な美しさと哀しい運命を見事に描いている。

III. Xpark

2020年8月、台湾・高鉄桃園駅前にグランドオープンした新都市型水族館『Xpark』のために久石が書き下ろした全7曲の館内音楽から、水族館の「観客の皆さんが楽しい気分で帰って欲しい」と意図して作曲したEXIT用の楽曲。最初にフルートが導入する、足取りが軽くなるような親しみやすいテーマを変奏していく形で構成されているが、途中には台湾を意識したペンタトニック風の変奏も登場する。

 

World Dreams 2021

2004年、久石が新日本フィルと共にW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろしたテーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディーが頭を過った」。作曲から18年を経た2022年の今、この曲が以前にも増して力強いメッセージを伝えているように感じられるのは、おそらく筆者ひとりだけではないはずである。

 

前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2022/6/10

(CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツ 日・英文解説(英文ライナーノーツ封入)

 

 

補足)
上の楽曲解説は4月公演とそのプログラムノートに基づいており、7月公演を収めた本盤のライヴパフォーマンスとは一部異なる箇所もある。納得のいくまで作品の完成度を追求する一面がみえる。

 

 

 

以下の楽曲レビューは「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポートで記したものから一部抜粋している。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

<構成楽曲>
1.アシタカせっ記(交響組曲 第一章 アシタカせっ記)
2.タタリ神
3.旅立ち -西へ-
7.コダマ達
4.呪われた力
8.神の森(交響組曲 第五章 シシ神の森)
20.もののけ姫 ヴォーカル(交響組曲 第四章 もののけ姫)
28.黄泉の世界
29.黄泉の世界 II
30.死と生のアダージョ II
31.アシタカとサン(交響組曲 第八章 アシタカとサン)

Track.曲名『もののけ姫 サウンドトラック』(『交響組曲もののけ姫CD版』)

 

交響組曲作品『千と千尋の神隠し』や『魔女の宅急便』のあり方にならって、映画本編で使用した音楽を中心に、サウンドトラック盤ベースに楽曲構成するというコンセプトに大きく軌道修正したように思います。一方では、楽曲によって『交響組曲もののけ姫CD版』のオーケストレーションを活かしているところもあります。

『交響組曲もののけ姫CD版』にしかなかった独自のメロディやパートは極力除外したということになります。「神の森」は「交響組曲 第五章 シシ神の森」の楽曲構成に近いですが、イメージアルバム「シシ神の森」の楽曲構成と世界観から取り込んでいるとするのが、正しいに近いと思います。風の谷のナウシカの交響組曲もイメージアルバムから「谷への道」を導入したように。初期の構想からすでに生まれていたけれど映画本編には使われなかった曲。

「呪われた力」、2016年版「レクイエム」パート中にもありましたが、前半に単曲で新規追加されました。細かくいうとアレンジは交響組曲CD中のもの、およびサントラ盤「23.呪われた力 II」に近いです。物語にそった組曲を目指したこと、呪われた力の凶暴性を出すことで、のちのシシ神の森のシーンや終盤の黄泉の世界までしっかりとつながっていきます。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、久石譲楽曲解説に ”新たに世界の崩壊のクライマックスを入れた” とあたります。シシ神殺しのパートをダイレクトに入れ込むことで、破壊と再生、生と死、『もののけ姫』作品世界の内在する二極を表現しています。そして前半の「呪われた力」にあった、決して消えることのない痣、いつ濃くなり蝕むかわからない痣を思い起こさせます。それは、決して簡単に答えの出ない世界で生きていく私たちへと、しっかりと刻み込まれる思いがします。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、たしかにと納得してしまいます。これぞ入って『もののけ姫』の世界と強く膝を打ちたくなります。そうして、それでもしっかりと生きていかなければいけない私たちへと迫り浴びせられる地割れのする管弦楽の轟きの後、希望と再生へとつながっていきます。

「アシタカとサン」(vn/vo)、やっぱり導入は僕がエスコートしないと(幻の声)、1コーラス目は久石譲ピアノが迎え入れたソロ・ヴァイオリンが美しいメロディを奏でます。2コーラス目にソプラノによって丁寧に歌われることもあって、豊嶋泰嗣さんのフェイク(メロディラインの持つ雰囲気は残しつつも、ある程度装飾的な要素を加えつつ崩して演奏すること)が光っています。

「アシタカとサン」(vn/vo)、2コーラス目はソプラノによって歌われます。「信じて~」からの天からやさしく降りそそぐ光ようなストリングス(武道館verから)、チューブラーベルの希望の鐘が高らかに、やさしい余韻へと。(vo)についてはのちほど…。

 

2021年版を聴いて「歌は必要なんだ!」と強く思いました。『もののけ姫』という作品において、歌(言葉)による精神性の表現というのは大切なことなのかもしれません。世界ツアー版で「もののけ姫」はソプラノによる日本語歌唱、「アシタカとサン」はコーラスによる英語詞で歌われています。でも、だから2021年版もやっぱり歌で、と言っているわけじゃないんです。

それは、「日本語による歌唱」です。ここに強くこだわっているように思えてきました。世界ツアー版とは異なり、これから先《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》が海外公演されるときは、現地オーケストラと現地ソリストによる共演になります。そして、きっと2曲とも「日本語による歌唱」です。これはたぶん揺るがない。

《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》でめざしたのは、『もののけ姫』の世界を音楽で表現すること、日本的なメロディ・ハーモニー・リズムを余すことなく表現すること、そのなかに日本語の美しさを表現することも含まれる。そう強く思いました。オペラなどと同じように、純正の日本語でしっかりとした作品をのこす。「日本語っていいね、きれいな響きだね」と言われるものをつくる。

物語にそった音楽構成と日本語の美しさで『交響組曲 もののけ姫』完全版ここに極まる。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Merry-Go-Round 2019

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」アンコールで披露されたもの。

映画『ハウルの動く城』から「人生のメリーゴーランド」です。2018年NCO公演で初演されたヴァージョンで、それ以降海外公演でも披露されています。オリジナル版は言えばすぐ浮かぶ、ピアノの切ないイントロに始まり、ピアノの美しいメロディがつづきます。タイトル「Merry-Go-Round」となっているこのヴァージョンは、ピアノがありません。イントロをハープで、出だしのメロディをグロッケンシュピールとチェレスタで、というようにピアノパートがオーケストラ楽器に置き替わっています。楽曲構成は同じですが印象は変わります。よりヨーロッパになったかなあ、というか、これなら久石譲以外のコンサートでもっと爆発的に演奏されるんじゃないかな、そんな新しい魅力も。アメリカやヨーロッパをはじめ海外指揮者・海外オケによる純粋な管弦楽作品として披露できる。

おっと、これは言っておかないといけない。本公演は「交響組曲 魔女の宅急便」でマンドリンとアコーディオンが編成されていたこともあって、この曲にも特別に参加しているスペシャルヴァージョンです。よりサントラ版に近い印象で、すごくよかったです。いや、すごく得した気分です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Asian Works 2020

I. Will be the wind
叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

 

II. Yinglian
愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る(Track.17,20,25,27)。この曲はTrack.17「英蓮 / Yinglian」をフィーチャーしたもの。

 

III. Xpark
明るく軽やかな曲です。音符の粒の細かいメロディがつながってラインになって、楽しそうに転げているようです。そして広がりのある曲です。ありそうでなかった!そんな久石譲曲です。番組音楽に使わせてください!そんな久石譲曲です。後半のソロ・ヴァイオリンの旋律も耳奪われる演出です。ホンキートンク・ピアノのように、ちょっとチューニングの狂った調子っぱずれのニュアンスで、小躍りするほど浮足立った弾みを表現しているようにも聴こえてきます。してやったりなコンマスと指揮者の目配せに笑みこぼれます。こんな音楽でおでかけの楽しい一日が締めくくれたらなんて素敵だろう。

映画『海獣の子供』公開時、コラボレーション企画として国内いくつかの水族館で、この映画音楽を使ったショータイムが開催されました。撮影OK!拡散Welcome!ということもあって、よくSNSで動画見かけました。それを目にしてのオファーだったのかはわかりません。でも、久石譲のミニマル・オーケストレーションは、ほんと海や宇宙のミクロマクロな世界観と抜群Good!なことはわかります。

 

World Dreams 2021

「9.11」から20年の今年。このことだけでも重みのある一曲です。そして「Covid-19」の渦中にある今。どんな時でも必ず演奏される曲。こんな一面も、4月24日無念さを残しながら、それでも今できることをかみしめるように演奏したWDOオーケストラメンバーのSNSの声も印象的でした。観客だけじゃなく、楽団員にとっても大きな一曲は、中断を経て新しい完走地点の7月25,26日いろいろな想い駆け巡りながら、会場に響きわたりました。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
1. The Legend Of Ashitaka アシタカ𦻙記
2. TA TA RI GAMI タタリ神
3. The Journey Of The West ~ Kodamas 旅立ち―西へ― ~ コダマ達
4. The Demon Power ~ The Forest Of The Dear God 呪われた力 ~ シシ神の森
5. Mononoke Hime もののけ姫
6. The World Of The Dead ~ Adagio Of Life & Death 黄泉の世界 ~ 生と死のアダージョ
7. Ashitaka And San アシタカとサン

8. Merry-Go-Round 2019

Asian Works 2020
9. Ⅰ Will be the wind
10. Ⅱ Yinglian
11. Ⅲ Xpark

12. World Dreams 2021

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (solo concertmaster)

Recorded at
Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall (July 25th, 2021)
Sumida Triphony Hall (July 26th, 2021)

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Soprano: Yoko Yasui

Merry-Go-Round 2019
Accordion: Tomomi Ota
Mandolin: Tadashi Aoyama

Recording & Mixing Engineer: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.)
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO)

Art Direction & Design: Daisaku Takahama
Artwork Coordination: Maiko Mori (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Overtone.第69回 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASICS Vol.5」コンサート・レポート by tendoさん

Posted on 2022/07/19

7月14,16日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサートです。前回Vol.4は2月開催となんと半年も経っていない、そしてリアルチケットは完売御礼。Vol.2,3,4に引き続いてライブ配信もあり、国内海外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

今回ご紹介するのは、韓国からライブ・ストリーミング・レポートです。久石譲コンサートがライブ配信されたものは、ほぼ記しているだろうtendoさんです。ますますどんどん注目ポイントが鋭くなっていて圧倒されます。とても楽しかったです!

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5

[公演期間]  
2022/07/14,16

[公演回数]
2公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール
長野・長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
久石譲:2 Dances for Orchestra

—-intermission—-

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

 

 

はじめに

5回目のF.O.C.コンサートだ。今回の公演もリアルタイムストリーミングが決定し、日本公演を韓国で楽しむことができた。F.O.C.vol.5ももともとは2021年7月に開催される計画だったが、COVID-19の影響で1年遅れた。長い間待ってきたコンサートなので今回もコンサートレビューを書いてみようと思う。

 

F.O.C.シリーズについて

Future Orchestra Classics(F.O.C.)シリーズは久石譲の代表的コンサートシリーズの一つで、長野で活動していたN.C.O.を母体として再結成されたフューチャー・オーケストラ(Future Orchestra)が古典のクラシック作品を久石譲の作品などの現代作品とともに演奏するプログラムだ。フューチャー・オーケストラは厳選された首席演奏家で構成されており、久石譲は指揮を兼ねる作曲家として時代を先取りした指揮を追求している。今回のコンサートはブラームス交響曲第4番がメインで演奏され、ブラームスの交響曲ツィクルスの完結となる。

 

Beethoven:Overture to ‘Egmont’ Op.84

 

演奏が始まるや否や、尋常でない感じを受けた。導入部分からこの曲の他の演奏と比べて音符の長さと速度感が違うと感じた。実際9分弱の曲だが、FOCは6分30秒でこの曲を走破していた!

こんなに速いスピードが可能なのは、久石譲の作曲家として曲を積極的に再解釈して指揮しているおかげだ。そこに規模の小さいオーケストラに加え、レベルの高い演奏者で構成されているため、スポーツカーが運転するように速い方向転換が可能だと思う。

曲の雰囲気は完全に変わったようだった。若くて朗らかな感じに生まれ変わった!パワーも本当にすごかったと感じた!もう演奏が終わったの? と思うほど時間が経つのも忘れて聴いた。

 

 

また印象的だったのはティンパニの音だった。久石譲はいつからかクラシックを演奏する時、曲の特性と雰囲気に合うティンパニを使っている。この曲とブラームス交響曲第4番で使用しているティンパニはバロック・ティンパニであると把握している。マレットの頭も木の材質のものを使っている。ティンパニのボールが小さいだけに、音の持続する長さが短くなった。また、ティンパニのヘッドに革を使用してプラスティックヘッドとは異なる音色を感じることができる。

最近(2022年)海外日程の時からティンパニの位置も変化しているが、打楽器と指揮者の間の距離が遠すぎると感じられ、一般的な配置から変更しているとインタビューで明らかにしたことがある。

 

参照:Joe Hisaishi : “Pour composer ‘Princesse Mononoké’, Hayao Miyazaki me donnait parfois des poèmes”
https://www.telerama.fr/musique/joe-hisaishi

 

その他にも対向配置を使うとか、FOCでは演奏者が立って演奏するという点も一般配置との違いだ。演奏者が立って演奏する時には、指揮台も一般的な指揮台よりはるかに高いということも今回発見した事実だ。

果たして、未来を目指すオーケストラらしく、楽器の配置と舞台セッティングまでも多く吟味していることが分かる。

 

 

Joe Hisaishi : 2 Dances for Orchestra

 

久石譲のMFコンサートとWDOコンサートがVariation 14という曲で出会ったように、今回は2 Dancesという曲でMFコンサートとFOCが出会った!

2 Dancesは2021年に久石譲 presents Music Future Vol.8でLarge Ensembleバージョンで演奏された曲で、オーケストラバージョンで演奏されるのは今回が初めてだ。Large EnsembleバージョンについてもTENDOWORKで既にレビューしている。

 

参照:Overtone.第53回 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.8」コンサート・レポート by tendoさん

出典:TENDOWORKS|久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.8 콘서트 리뷰

 

タイトルからも分かるが、2 Dancesはダンスリズムで構成されているが、ダンスが踊れない曲というのがコンセプトのような曲だ。(しかし、まだどんなダンスリズムが使われたのかはよく分からない。)

オーケストラバージョンになって曲が大きく変化しているが、変化した部分に傾きながら聴取するのがとても面白かった。

大きないくつかの変化では、打楽器のリズムや種類が変化していて、曲の音程が高くなる部分もあって、ここで具体的に説明することは難しいが、新しく付け加えたり修正した部分もかなりあった。

こうしたポイントは、既存の曲をよく聴いていたファンの立場では比較したり気づいたりしながら感じる快感もあるように思う。2 Pieces 2020でも似たような経験をした。事実、久石譲のコンサートを見ていると、微妙な変化に気づくそのような経験をよくすることになる。

 

 

現代曲を演奏する時は、再び一般的なティンパニに戻っている。舞台配置上の問題なのか、場所も元の位置に戻った。

 

 

ミニマル曲にパーカッションをうまく活用する久石譲らしく、パーカッションも大きくなった編成に合わせてはるかに多くなり多彩になっている。まるでパーカッション博物館を見ているようだ。

バージョンアップされた2 Dancesは全体的にはるかに華やかで、より洗練された感じだった。Step to heavenのスピードが速くなって疾走する部分は、弦楽器を除いた楽器たちが少しテンポが遅くなったようでしたが、弦楽器は依然として速く演奏しているため、コントラストが際立って浮揚感が感じられた。クライマックスがもっと素敵になった!

このように魅力的な久石譲の最新ミニマル作品に出会えるのが、FOCの欠かせない魅力の一つだ!

 

 

Brahms : Symphony No.4 in E minor Op.98

 

ブラームス交響曲ツィクルスの完結となる交響曲第4番だ。

第1楽章はFOC演奏らしく強弱調節が絶妙で良かった。力が感じられる演奏だった。そしてティンパニが本当によかった。

第2楽章はどこか切なさが感じられる遅い楽章だ。ブラームスならではの憂鬱な感じがする。実は、第2楽章を聴く時、家にいた猫が突然鳴き始めた。幸いにも第2楽章が終わって拍手が出てきて、猫を落ち着かせることができた。

第3楽章は個人的に一番好きな楽章だ。明るくダイナミックだ。FOCの速い疾走が始まる。古典曲を演奏する前に現代曲を演奏する理由がこのようなところにあると思う。速くて難しい拍子からなる久石譲のミニマル曲を演奏し、そのような感覚でブラームスを演奏すれば、さらに演奏が良くなるという推測だ。ブラームスがトライアングルまで動員して第3楽章をこのように作曲したのは、第4楽章との対比のためだろうか?

 

 

第4楽章は荘厳で奥深い楽章だった。バッハのカンタータ「主よ、我は汝を求む (Nach dir, Herr, verlanget mich. BWV150)」の最後の楽章ベースラインからもってきた単純な主題がなんと32回変奏される。変化無双の変奏の饗宴だ。悲劇的な雰囲気で終わっていく終結部が本当に印象的だった。

 

 

Brahms : Hungarian Dance No.16

 

ツィクルスの最後を飾るアンコールはやはり最も有名なHungarian Dance No.5ではないかと思いましたが、久石譲はそんなに予測可能な人物ではない!Hungarian Dance No.5がブラームスの交響曲第4番に続いてアンコールで演奏されたら、多少軽薄(?)だったかもしれない。

やや厳粛に始まるハンガリー舞曲第16番は、少し明るい雰囲気を取り戻し、明るく活気に満ちたエンディングに。このような構成が本当に良かった。

 

 

長くて忙しかった海外日程を終えてすぐにFOC、そして一週間後にWDOツアーを始める久石譲は本当にすごいと思う。ブラームス全曲を収録した全集が出れば、ベートーヴェン全集と同じくらいよく聴くことになりそうだ!FOCのおかげでベートーヴェンに続いてブラームスの魅力にもハマった!これからFOCはどのように続けられるのかも楽しみだ。

 

2022年7月18日 tendo

 

出典:TENDOWORKS|히사이시조 – Future Orchestra Classics Vol.5 콘서트 리뷰
https://tendowork.tistory.com/88

 

 

日常生活のツイッターからも、久石譲にまつわるつぶやき満載でいつも楽しませてもらっています。リアルタイムの吸収力がハンパないというか、気づかせてもらうこともたくさんあります。今回のレポートにも随所に活きていますね。すごいです。

ティンパニのこともすごいけど指揮台の高さまでって(笑)「曲の音程が高くなる部分もあって~」どこでしょう? 第1ヴァイオリンの速いパッセージのところなんかは音程下がっていましたね。もっともっとたくさんのことを掘りあててくれそうです。自分だけじゃ発見足りないところを補強してもらえるのってほんとうれしいです。一人じゃずっと気づけないままだろう的なことがわかるって楽しい。

tendo(テンドウ)さんのサイト「TENDOWORKS」には久石譲カテゴリーがあります。そこに、直近の久石譲CD作品・ライブ配信・公式チャンネル特別配信をレビューしたものがたくさんあります。ぜひご覧ください。

https://tendowork.tistory.com/category/JoeHisaishi/page=1

 

 

こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

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reverb.
本公演から一週間後WDO2022!!

 

 

 

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