Info.2019/01/11 ニコ・ミューリー オペラ《マーニー》MET初演 映画館上映 久石譲コメント

2018年11月10日MET初演、現代音楽の若き鬼才ニコ・ミューリーが手がける《マーニー》が1月18日(金)~1月24日(木)まで全国の映画館で1週間限定上映されます。それにあわせて久石譲がコメントを寄せています。

「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.1」コンサート(2014)にて「Seeing is Believing」ニコ・ミューリー作品を取り上げています。本作品も予告やリハーサル風景などの動画を見るだけでも興味わいてくる音楽です。 “Info.2019/01/11 ニコ・ミューリー オペラ《マーニー》MET初演 映画館上映 久石譲コメント” の続きを読む

Blog. 「キーボードスペシャル 1994年2月号 NO.109」 久石譲とRoland SH-5 内容

Posted on 2019/01/10

音楽雑誌「キーボードスペシャル 1994年2月号 NO.109」に掲載された久石譲インタビューです。「なつかしのファースト・キーボード」コーナーに登場した回です。

 

 

KEYBOARD FILE No.38
なつかしのファースト・キーボード
1st KEYBOARD

久石譲とRoland SH-5

『風の谷のナウシカ』をはじめとした数々の映画音楽を手がけ、多くのファンを持つ作曲家でありキーボード・プレイヤーである久石譲さんが、現代音楽に夢中だった青春時代に初めて手にした機種は…? 華麗なる音楽キャリアとともに語っていただきましょう。

 

とてもフィットした現代音楽

僕は4歳の頃からバイオリンを始めたんですけど、すごく音楽が好きな子どもで、3~4歳の頃から毎日いろんなレコードを聴き漁っていたんですね。それで、ある日、楽器屋の前を通ったときにバイオリンが目に入って”これをやりたい”と思ったんです。

バイオリンは小学校の高学年まで続けたんですが、週1回レッスンに通っていたところでオルガンやピアノも同時に教わっていました。あくまでも付属的だったんですけどね。そのあとはしばらくブランクがあって…中学のときにブラスバンドはやっていたんですが…中学3年のときに”音楽大学に入りたい”って思って、もう1回すべてのレッスンをスタートさせたんです。

その頃はクラシックにいちばん興味が向いていて…当時は、日本で言えば武満徹であったりとか、ジョン・ケージだったりとか、そういう現代音楽を中心に聴いていました。ポップスは、やっぱり僕らの世代はビートルズで、好きだったし聴いてましたね。高校に入った時点で、ベーシストやドラマーを志すヤツがひとりでもいたら、いまみたいな道にはたぶん行ってなかったと思う(笑)。幸か不幸か、いなかったんですよ。それでけっきょく現代音楽にドップリとのめりこんでいっちゃって。ロック・バンドを組んで活動したことがないんですよ。困ったことですね(笑)。

現代音楽へのとっかかりは…なんていうのかな…”こうやっても音楽になるんだ”みたいな感覚がすごく刺激的で、現代音楽というのはそういう世界でしたからね。最初は、不協和音聴いて”なんなんだコレは?”って思ったんだけれど(笑)やっていくうちに、それが自分にはすごくフィットすることに気づいて。

 

衝撃のテリー・ライリーとの出会い

音楽大学を志望したのも”現代音楽をやりたかったから”というのがいちばんの理由で、クラシックを勉強するというよりは、音楽をやる連中が集まる場に行きたかったんですよ。見事に違いましたけどね(笑)。作曲を志す人間が何人もいれば「もうバルトークなんか古い!」って言って、当然のようにジョン・ケージだとかクセナキスだとかペンデレツキとかっていう話をすると思っていたんだけど、みんな知らないの(笑)。だから、えらくギャップがあって。

そんなある日、テリー・ライリーの「レインボウ・イン・カーブド・エア」という曲を友人に聴かされて、すごいショックを受けて、しばらく悩んで、ミニマルな作風に変えたんです。「レインボウ・イン・カーブド・エア」はドイツに”カーブド・エア”というバンドがあったぐらいで、プログレをやっていた連中…とくにロックをやっていた連中には、ものすごい影響を与えたんですよね。だから、タンジェリン・ドリームにしてもクラフトワークにしても、みんな根っこは同じですよね。

 

SH-5を買った理由はミニマル音楽に合うと思ったから

当時、僕のメイン・インストゥルメンツはオルガンでした。それもハモンドですね。ミニマル系のバンドをやっていたとき、ローランドからちょうどシンセサイザーが出始めたんですよ。ミニマル音楽というのは同じフレーズを繰り返すもので、それを全員でオルガンでやっていたんだけど、もう少し音色のチェンジが欲しいなと思っていたところにシンセが出てきたんですよ。それで、ローランドのSH-5とかストリングス・アンサンブルとかを導入していって、シンセサイザーとも、わりと自然とつながっていったんです。

ホントは、SH-3をいちばん最初に買ったはずなんだけど、あまり印象になくて。だからSH-5が僕にとっての1st Keyboardと言えますね。22歳くらいのときに買って、ずいぶん長いこと使っていましたし。その前からハモンドは使ってて…僕が持っていたのはSH-5とほぼ同時期に買った小さいタイプのものだったんで、コンサートのときは2段鍵盤の足つきのやつを借りてました。あとはね、けっこうピアノの内部奏法が多かったんですよ。ピアノの弦のあいだにゴムとか洗濯バサミとかはさんで弾くという。それとね、ドラをスーパーボールでこすると不思議な音がするんです。そういう得体のしれない打楽器とかの音色は、ずいぶん使ってました。

SH-5を選んだ理由は…当時、同じような機種がコルグからも出ていたと思うんですけど、僕にとってはローランドの音はミニ・ムーグに近い感じがして、コルグの音はアープのオデッセイの音色の華やかな感じに近い感じがしたんですよ。で、僕がやっていたミニマルにはローランドのほうが合うだろうと思って。そんなに機種がたくさんある時代じゃなかったんで、それほど選択の余地はなかったんですけどね。

SH-5は2VCOのモノフォニックで、それをなんとかポリ風に聞かせるテクはないかということで(笑)かなり苦労した思い出があります。たとえばアルペジオ風にうんと速く弾いて、それでなんとか和音的なものが出たようなフリをするとか。そんな苦労をしてました。

 

Prophet-5とフェアライト

その頃からスタジオでアレンジの仕事をやっていたから、だんだんと機材も増えていって、その次に買ったのがProphet-5。あ、SH-5レベルでの似たような楽器はいくつも買ったんですよ。ステップ・アップという意味で買った楽器がProphet-5とリンのドラムと、シーケンスとしてMC-4。それが3種の神器みたいな感じで(笑)。当時、みんなそうだったと思うんだけど。そこにDX7が入ってきて、そのレベルでの周辺機材がふえていったって感じでしたね。

ちょうど『ナウシカ』(映画『風の谷のナウシカ』サントラ)を作った頃ですかね、あるアレンジャーでギタリストの人の家でフェアライトに出会うんです。それで、うなされるほど欲しいと思って…一千何百万とか言われたんですけど、清水の舞台から10回くらい飛び降りたつもりで(笑)フェアライトIIを買ったんです。

 

現代音楽からポップスへ…

話が前後しますけど、国立音大に入学したものの、僕は突出した存在で、先生からも「授業に出なくていい」って言われちゃったんです。授業でやることは全部わかっていたんですよ。で、先生は困っちゃうわけですね。それで「単位はあげるから出ないで」って(笑)。だから、学校には行かないわりに成績よかったんです。

卒業したあとも就職するつもりはなくて、音楽のことしか考えていませんでした。4年生の頃からスタジオでの仕事をやっていたから”このラインでやっていくな”という予感はありました。メインはあくまで現代音楽なんですけどそれはお金を稼げる世界ではありませんから。

20代は、ミニマルのアンサンブルを作って、定期的なコンサートを開いたりとか…そのあたりから、オルガンなんかを使っての本格的なコンサートは多くなったんです。もちろん、小さいところでのものでしたけど。そういう活動を続けながら、片方ではレコーディングのアレンジとかをどんどんやっていきました。

転機となったのは30歳くらいのときで…当時打楽器アンサンブルを中心にしたユニットも組んでいたんですが、そこの打楽器だけを独立させて”ムクワジュ”というグループを作ったんです。そのムクワジュとしてコロムビアから日本初のミニマル・アルバムを出すことになるんですが、その段階で、クラシックの世界に身を置いていたことが、なんか違うんじゃないかと思い始めちゃったんです。というのは、超前衛音楽なのに、それをやっている人たちは前衛的な新しい思考を持っていなかったからなんです。それで”こういう状況からは、絶対新しいものは生まれない”と思っちゃったんですよ。それでフッと横を見たら、ロキシー・ミュージックからはブライアン・イーノが出てきて、で、クラフトワークもいてという状況になっていたわけですよ。彼らはロックをベースにして登りつめてきてミニマル的なことをやってて、僕は現代音楽のほうからきてミニマルをやってたんだけど、両者のやっている内容はそんなに違わなかったんですよ。それなら飛んじゃったほうがいいやと思って。ポップスというフィールドがすごく新鮮に見えたんですよ。ポップスの世界に行ったほうが、よりアヴァンギャルドなことができると思ったんです。で、僕は不器用なもので、ふたまたをかけることができなくて、ポップスの世界に入ったときからクラシックの作品を書くのはやめたんです。

 

いろいろなことが起こった1984年

それで、JAPANレコードから最初のソロ・アルバムを出したんだけど…当時、矢野顕子さんとかP-MODELとかムーンライダーズとか、前衛っぽい人たちがいっぱいいたレーベルだったんで、いいなと思って僕も契約したんですけど売れなくてね(笑)。困ったなあと思ってたら、JAPANレコードが徳間JAPANというレコードになったんです。で、社運を賭けて『風の谷のナウシカ』というアニメーションをやることになって、たまたま僕のディレクターが推薦してくれてイメージ・アルバムを作ったら、(原作者の)宮崎駿さんがすごく気に入ってくれて、そこからいわゆるメジャー路線っていうか(笑)、暗いミニマル路線から、いきなり”メロディ・メイカーの久石譲”となっちゃったんです。

『ナウシカ』が公開されたのは84年だったんですけど、あの年はいちどにいろんなことが起こりまして、映画では薬師丸ひろ子の『Wの悲劇』を担当して、アレンジでは井上陽水の『9.5カラット』をやって、CMではカネボウの男性化粧品のハシリだった商品を手がけて。それまで全然実績がなかったのに各分野でNo.1をとっちゃったんです。

それを契機にポップスの世界でどんどん仕事をしてきて、今年は『水の旅人』のサントラや中山美穂さんとの仕事もしました。いまは次のソロ・アルバムにとりかかっているところで…ホントは(93年の)2月に出るはずだったんですけどね(笑)。あとは4月から始まるNHKの朝の連続ドラマの音楽を担当することになったんで、並行しながらグジャグジャとやっているところなんです(笑)。

(キーボードスペシャル 1994年2月号 NO.109 より)

 

 

Info. 2019/01/09 [CM] 三井ホームCM「TOP OF DESIGN」 久石譲音楽担当 New動画公開

1月9日、三井ホームの新しい広告動画が公開されました。2016年4月に登場した三井ホーム「TOP OF DESIGN」シリーズは、久石譲が音楽を担当しています。今回も同じ楽曲が使用されています。

動画は三井ホームの公式サイト内「広告ライブラリー」からもご覧いただけます。 “Info. 2019/01/09 [CM] 三井ホームCM「TOP OF DESIGN」 久石譲音楽担当 New動画公開” の続きを読む

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2018 in festival hall」 コンサート・レポート

Posted on 2019/01/03

2018年12月31日、大晦日に開催「久石譲 ジルベスターコンサート 2018 in festival hall」です。一旦休止をはさみながらも2014年から再び5年連続開催、一年を締めくくるスペシャルコンサートです。

まずは、コンサート・プログラム(セットリスト)および当日会場にて配布されたコンサート・パンフレットより紐解いていきます。

 

 

久石譲 ジルベスターコンサート 2018 in festival hall

[公演期間]  
2018/12/31

[公演回数]
1公演
大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団
ソプラノ:安井陽子
メゾソプラノ:中島郁子
テノール:望月哲也
バスバリトン:山下浩司
オルガン:室住素子
合唱:関西フィルハーモニー合唱団

[曲目]
久石譲:「天空の城ラピュタより」 *世界ツアーバージョン 日本初演
久石譲:Orbis

—-intermission—-

ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

 

 

久石譲のプログラムノート

「天空の城ラピュタ」より

今回演奏する「天空の城ラピュタ」は、世界ツアーで演奏しているバージョンです。これは去年パリから始まり、メルボルン、サンノゼ、ロサンゼルス、ニューヨークなどで行われました。

冒頭から鳴り響く金管楽器の「ハトと少年」はバンダによって演奏されます。バンダというのは会場に楽器を配置し、あるいは舞台の裏などで演奏する演奏手法のひとつです。トランペットとホルンを会場内に配置することで、まるで天上から降り注ぐように会場に響きます。続いてコーラスと弦楽器を除いた木管・金管楽器で「君をのせて」を演奏します。オープニングにふさわしい作品だと思い選曲しました。

 

「Orbis」

曲名はラテン語で”環”や”繋がり”を意味します。2007年の「サントリー1万人の第九」のとき、冒頭に演奏する序曲として委嘱されて作りました。サントリーホールと大阪城ホールを二元中継で”繋ぐ”という発想から生まれました。祝典序曲的な華やかな性格と、水面に落ちた水滴が波紋の”環”を広げていくようなイメージを意識しながら作曲しています。

歌詞に関しては、ベートーヴェンの《第九》と同じように、いくつかのキーワードとなる言葉を配置し、その言葉の持つアクセントが音楽的要素として器楽の中でどこまで利用できるか、という点に比重を置きました。”声楽曲”のように歌詞の意味内容を深く追求していく音楽とは異なります。言葉として選んだ「レティーシア/歓喜」や「パラディウス/天国」といったラテン語は、結果的にベートーヴェンが《第九》のために選んだ歌詞と近い内容になっています。作曲の発想としては、音楽をフレーズごとに組み立てていくのではなく、拍が1拍ずつズレていくミニマル・ミュージックの手法を用いています。そのため演奏が大変難しい作品です。約10分の長さですが、11/8拍子の速いパートもあり、難易度はかなり高いものがあります。

 

ベートーヴェン《第九》

ジルベスターコンサートでは、2015年以来、関西フィルハーモニー管弦楽団とは初めての演奏です。

ベートーヴェンの晩年の大作である《第九》は、音楽史の頂点に位置する作品のひとつです。その最大の特徴は第4楽章に声楽を入れたことです。今日ではマーラーなどの交響曲で声楽が入ることに何の抵抗もないのですが、約200年前の当時、純器楽作品とりわけ交響曲に使用するなどということは、まったくなかったのです。

今までに何度か演奏してきてわかったことは、《第九》は理屈や論理を超えたもっと大きなもの、もちろん単なる感情でもない、何かに突き動かされているということです。その何かはとても言葉では表現できません。毎回演奏する度に湧きおこる深い感動は《第九》特有の魅力だと思っています。

2年前から長野で、ナガノ・チェンバー・オーケストラとベートーヴェンの交響曲全曲演奏とCD化に取り組んできましたが、今年の夏の《第九》で終了しました。従来の方法ではなくリズムをベースにしたまるでロックのような新しいベートーヴェンに取り組んだわけです。

その演奏を収録したライヴ盤をいち早く今日から発売しますのでもし興味があったらお買い求めください(笑)*

今日の演奏もそのリズムをベースにした新しいベートーヴェンに挑みます。が、室内オーケストラではなく大きな編成でのチャレンジはタンカーをモーターボートのように操縦するわけですから大変です。かれこれ20年近く一緒に演奏してきた関西フィルへの信頼がないとできません。

2018年を締めくくる最後の《第九》を、皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

2018年12月
久石譲

(「久石譲 ジルベスターコンサート 2018 in festival hall」コンサート・パンフレット より)

 

 

*会場限定先行販売は諸事情により中止となりました。(2019年1月23日CD一般発売予定)

 

 

「それから、作曲家としてもう一回クラシック音楽を再構築したいっていうふうになるわけですね。どういうことかというと、指揮者の人が振る時の指揮の仕方って、やっぱりメロディだとかフォルテだとかっていうのをやっていくんだけど、僕はね作曲家だから、メロディ興味ないんですよ。それよりも、この下でこうヴィオラだとかセカンド・ヴァイオリンがチャカチャカチャカチャカ刻んでるじゃないですか。書くほうからするとそっちにすごく苦労するんですよ。こんなに苦労して書いてる音をなんでみんな無視してんだコラっ!みたいなのがある。そうすると、それをクローズアップしたりとか。それから構成がソナタ形式ででてるのになんでこんな演奏してんだよ!と。たとえばベートーヴェンの交響曲にしてもね。そうすると、自分なら作曲家の目線でこうやるっていうのが、だんだん強い意識が出てきちゃったんですよね。そして、それをやりだしたら、こんなにおもしろいことないなあと思っちゃったんですよ。たとえば、ベートーヴェンをドイツ音楽の重々しいみたいな、どうだっていいそんなもんは、というふうに僕はなっちゃうんですよ。だって書いてないでしょ、譜面に書いてあることをきちんとやろうよ、っていうことにしちゃうわけです。そうするとアプローチがもうまったく違う。ドイツの重々しい立派なドイツ音楽で聴きたいなら、ベルリン・フィルでもウィーン・フィルでも聴いてくれよと。僕は日本人だからやる必要ないってはっきり思うわけね。そういうやり方で迫っていっちゃうから。」

「それともう一個あったのは、必ず自分の曲なり現代の曲とクラシックを組み合わせてるんです。これは在京のオーケストラでもありますね、ジョン・アダムズの曲とチャイコフスキーとかってある。ところが、それはそれ、これはこれ、なんですよ、演奏が。だけど重要なのは、ミニマル系のリズムをはっきりした現代曲をアプローチした、そのリズムの姿勢のままクラシックをやるべきなんですよ。そうすると今までのとは違うんです。これやってるオケはひとつもないんですよ。それで僕はそれをやってるわけ。それをやることによって、今の時代のクラシックをもう一回リ・クリエイトすると。そういうふうに思いだしたら、すごく楽しくなっちゃって、やりがいを感じちゃったもんですから、一生懸命やってる(笑)。」

「一緒に考えるということですよね。たとえばミニマル系の現代曲をといっても、実は譜面どおりに弾くなら日本の人はうまいんですよ。すごくうまいんですよ、その通りに弾く。たぶん外国のオケよりもうまいかもしれない。だが、それを音楽にするのがね、もう一つハードル高いんですよね。たとえば、非常にアップテンポのリズムが主体でちょっとしたズレを聴かせていくってなると、リズムをきちんとキープしなければならない。ところが、このリズムをきちんとキープするっていうこと自体がすごく難しいんですよ。なおかつオーケストラになりますと、指揮者と一番後ろのパーカッションの人まで15メートル以上離れてますね。そうすると、瞬間的にザーンッ!だとかメロディ歌ってやるのは平気なんだが、ずっとリズムをお互いにキープしあわないと音楽にならないっていうものをやると、根底からオーケストラのリズムのあり方を変えなきゃいけなくなるんですね。もっとシンプルなことでいうと、ヴァイオリンを弾いた時の音の出る速度と、木管が吹くフルートならフルートが吹く音になる速度、ピアノはもう弾いたらすぐに出ますね、ポーンと出ますよね。みんな違うんですよ。これをどこまでそろえるかとかっていう。これフレーズによってもきちっとやっていかなきゃいけない。ところがこれって、そういうことを要求されてないから一流のオケでもアバウトなんですよ。だからミニマルは下手なんです。で、結局これって言われないと気がつけませんよね。0.0何秒でしょうね。こういうふうにもう全然違っちゃうんですよ。そういうことを要求されたことがない人たちに、いやそれ必要なんだよって話になると、自分たちもやり方変えなきゃいけなくなりますよね。で、その経験を積ませないと、この手の音楽はできない。ということを、誰かがやってかなきゃいけないんですよ。と思って、それでできるだけ、日本にもそういう人がいるっていうのを育てなきゃいけない、そういうふうに思ってます。」

Blog. TBSラジオ「辻井いつ子の今日の風、なに色?」久石譲ゲスト出演 番組内容 より抜粋)

 

 

 

ここからは個人的感想、コンサートレポートです。

 

久石譲ファン恒例行事として楽しみにしていた人、大晦日の特別な一日としてイベント感楽しみにしていた人、「第九」をはじめて聴く人、海外からのお客さん。それぞれの日常と環境のなかで、この日会場に集まった観客の期待と終演後の感動は、溢れたSNSからたくさん見ることができました。

 

「天空の城ラピュタ」より

久石譲解説にあるとおり、世界ツアーバージョンのこの作品は日本初演です。『WORLD DREAMS』(2004・CD)に収録されたトランペットをフィーチャーしたヴァージョンとも、『交響組曲 天空の城ラピュタ』(2017・CD)に収録された組曲中同楽曲ともヴァージョンは異なります。

世界ツアーでは現地マーチングバンドの若者たちと合唱団による「天空の城ラピュタ」コーナーで構成されています。「久石譲 in 武道館」コンサート(2008)と同じ編成です。もうひとつ、マーチングバンドが編成されない公演では、現地の共演オーケストラと合唱団による「天空の城ラピュタ」コーナーになっていて、それが今回披露されたヴァージョンになります。

楽器編成は久石譲解説にあるとおり、会場を包みこむバンダ演出によるパノラマ音空間と、オーケストラの主要である弦楽器を除くことでコーラスの圧倒感を前面に引き出す構成になっています。「ハトと少年」は、客席2階席両サイドから吹かれるトランペットの音色が、まるでスラッグ渓谷を見渡せる屋根上でパズーが演奏している映画シーンのように、地平線の遠くまで響きわたるよう。すごくいい。「君をのせて」はフルコーラス歌われ、ステージ中央から聴こえる管楽器たちとバンダの金管楽器たちがコーラスと立体的にかけあい、後半にすすむにつれてコーラスの重厚さを支えるどっしりとしたティンパニやスネアによる荘厳なマーチ風リズムが印象的です。冒険活劇、夢や希望にあふれたラピュラの世界とはまた違った、畏敬の念をまとった俯瞰して地球を見るようなラピュラの世界、そんな気がします。

思えば、2018年は高畑勲監督が逝去された年。”あらかじめ予定されていた”偶然のプログラムとなった「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」での「かぐや姫の物語 組曲」や直前プログラム更新の「The Path of the Wind 2018」。8月TV放送NHK特番「ジブリのうた」での「風のとおり道 久石譲×五嶋龍」演奏(高畑勲監督が絶賛していた曲)、「君をのせて」への久石譲コメント。映画『天空の城ラピュタ』は宮崎駿監督とのタッグながら、音楽プロデューサーを務めた高畑勲監督とも深くかかわり、「君をのせて」の主題歌化や歌詞の補作という共同作業。久石譲は、2018年という一年間をとおして高畑勲監督への追悼の想いを表したかったとすれば、本公演での「天空の城ラピュタ」より世界ツアーバージョンのひと足早い日本初演は、特別な想いがあったのかもしれません。

久石譲と高畑勲監督のエピソードや「W.D.O.2018」プログラム詳細は下記ご参照ください。

 

 

また記憶に新しいところでは、2018年8月NHKFM「今日は一日”久石譲”三昧」ラジオ番組での、鈴木敏夫プロデューサーのトークも、そうだったんだ!と新発見がありました。

 

「それと僕が声を大にして言いたいのは、この「かぐや姫の物語」の映画音楽、大傑作ですよね。高畑さんと日常的にいろいろなこと話してたから、高畑さんは実をいうと、好みもあったんでしょうけれど、「ラピュタ」の音楽、大絶賛してたんですよ。そうするとね、高畑さんのなかにあったのは、全然違う作品なんだけれど映画音楽として、どういうものをやっていくかというときに、「ラピュタ」に勝ちたい、どっかにあったんじゃないかなあ。それを僕は実現したと思ったんですよね。明らかに久石さんの新たな面も見れたし、この人すごいなと思ったんですよ、まだ成長するんだって(笑)。」(鈴木敏夫)

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

ニューヨーク・カーネギーホール公演でも演出されたバンダ。こんなにも早く体感できて幸せです。バンダ演出ってどういうの? カーネギー公演風景をご覧ください。

 

 

「Orbis」

久石譲オリジナル作品の代名詞のひとつ、絶大な人気を誇る作品です。近年ではベートーヴェン《第九》との並列プログラミングが多いです。あまり比べることはしないのですが、2018年「ナガノ・チェンバー・オーケストラ 第7回定期演奏会」のNCO演奏とは少し印象が異なりました。それは完成度なのか、リハ不足なのか、思い切りの良さが足りなかったのか、この作品のパフォーマンスとしてはちょっともったいなかったかな、というのが正直な感想です。

少し視点をかえて。2015年「Orbis」は全3楽章作品としても初演されていますが、それ以降の公演ではすべて2007年オリジナル版(2015年版第1楽章にあたる)のプログラムです。これをどう見るか? 「新版・Orbis」はまだまだ納得していない、修正の余地が多分にある…そんなことはないんじゃないかなあと思っています。ズバリ、絶対的な自信があるんだろうと僕は勝手に確信しています。だからこそ、「Orbis」の完全版は久石譲オリジナル交響作品の到達点を飾る大作にふさわしい。近年、久石譲オリジナル作品とジブリ交響組曲化の大きく2本柱で構成されるW.D.O.コンサート。「The End of the World」や「ASIAN SYMPHONY」は、「THE EAST LAND SYMPHONY」という新作シンフォニーをはさみながらも、再構築や完全版として昇華・進化・完結へと流れています。久石譲オリジナル交響作品の9番目に値する作品、それこそが「Orbis for Chorus, Organ and Orchestra」完全版なのではないか。そこにこそ《第九》に捧げる序曲であり、《第九》と同じ9番目のシンフォニーとして君臨する久石譲オリジナル作品。だから僕は、2015年以降「新版・Orbis」が封印されていることも、その日まで2007年版「Orbis」でのプログラムであることも、そうだろうなあと寛大な心持ちな自分がいたりします。「MKWAJU組曲」「D.E.A.D組曲」も生まれ変わるかもしれない、「Winter Garden」もある。まだまだやることたくさん&新作もつくり続ける…そんな久石譲の声が聞こえてきそうです。勝手な推測なので鵜呑みは禁物です。でも、これだけは言える!いつかきっと満を持して「Orbis完全版」は日本各地で海を渡って世界各国で公演される日がくるでしょう!その日まで元気に待ちましょう!

 

 

ベートーヴェン《第九》

さりげなく衣装チェンジして(気づいた人どのくらいいたかな前列くらいかな)、後半プログラムに臨んだ久石譲です。NCO版室内オーケストラとは違い、関西フィルの大きな編成ながら、アプローチは同じという挑戦。”リズム”をとことん追求した《第九》。それぞれのパートが鋭くソリッドでティンパニも乾いた響きで推進力や躍動感溢れるスポーティなNCO版が、大きなオーケストラ編成でどのように印象が変化するのか楽しみにしていました。NCO版に負けず劣らずの快速《第九》でした。

 

「今年の夏「第九」やったんですよ、僕の「第九」ちょうど57分、すべてのくり返しやって57分ちょっとだった。(フィナーレのマーチのところのテノール)最初合わせの日にやりたいテンポでやったら目丸くして緊張してて。ゲネプロでちょっと遅くしたんですね、そしたらちょっと安心したんですよ。当然本番はテンポ上げました(笑)。」(久石譲)

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

なんて語っているとおりの快速《第九》です。通常だと約65分前後が平均演奏時間だと思います。5分違うだけでもテンポ感はかなり大きな印象差になります。関西フィルとの信頼関係なくしてと記されていましたが、まさに「信頼してオレについてこい!」「なにがあっても信じてついていきます!」そんな指揮者とオーケストラのお互いのリスペクトがないと完走できないテンポとアプローチだと思います。

《第九》についてはNCO公演レポートで感想や、久石譲の《第九》によせる想いをまとめていますのでご参照ください。

 

今回特に思ったのは、フレーズ(歌うように)で演奏するのではなく、モチーフや音型として各パート・各楽器セクション演奏することにより、ある種ミニマル手法を駆使した久石譲作品のアプローチに近いなと発見できたこと。ミニマル・ミュージックではないのでズレるのではないですが、最小限の音型が第1ヴァイオリンから第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスへと流れて繰り返す第1楽章冒頭。すべてはこのアプローチを基調としているように思います。そこには、弦楽器が折り重なることの感情表現やエモーショナルに横揺れするフレーズ表現とは対極にある、リズムを重視した音符や音型の音価や強弱といったものをきっちりとそろえるアプローチ。最小限の音型という小さい要素たちが、集合体となって大きな有機物を創りあげるようなイメージ。「Orbis」に共鳴するアプローチでもあります。極論すれば、作品に込める精神性を表現するヨーロッパ的アプローチと真逆に位置する、作曲家視点・譜面重視・リズムに軸を置いた久石譲の《第九》。スコアはNCO演奏版と同じベーレンライター版です。

 

 

《第九》プログラムのときは、アンコールなしが常です。それでもカーテンコールの拍手は鳴り止まず、大所帯のコーラスも順繰り退場し、もう何も起こる気配のないステージに向かって拍手は大きな手拍子へと変わりどんどん膨らむ反響音。想定外の久石譲も、衣装からラフな服装へと着替えかけの状態でステージ再登場!登場しならがら上着パーカーのチャックを締めていた久石譲もステージ中央に着いた頃には一気に総立ちスタンディングオベーション!拍手喝采!

久石譲作品で終わったわけでもなく、アンコールもなかったなかで、この光景に一番驚き喜んだのは久石譲ご本人かもしれませんね。久石譲からの一年を締めくくるギフト、観客からの感動と感謝、ひとつになった瞬間です。

 

from SNS

 

こちらは《第九》を彩ったソリストの皆さん(左よりSop安井陽子、Ten望月哲也、Mez中島郁子、B-Bar山下浩司)。

from 二期会 公式Twitter  *終演後

 

 

2018年も話題に事欠かない久石譲でした。そんななかでもコンサートの充実ぶりは内容はもちろんのこと数字から見ても歴然です。コンサート計11企画、計38公演、うち海外計22公演! 2019年もこの勢いは止まりそうにありません。

 

 

Info. 2019/01/06,13 [ラジオ] NHK FM「現代の音楽」久石譲ゲスト出演 【12/30 Update!!】

Posted on 2018/12/27

作曲家の西村朗さんがナビゲーションを務めるラジオ番組「現代の音楽」に久石がゲスト出演いたします。作曲家同士の貴重なトークも必聴です。お正月明けの放送回より2回連続放送予定です。

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Info. 2019/01/23 久石譲指揮「ベートーヴェン:交響曲 第9番『合唱』」CD発売決定!! 【12/27 Update!!】

Posted on 2018/12/17

久石譲 指揮《ベートーヴェン・ツィクルス第4弾》
ベートーヴェン:交響曲 第9番のCD発売が1月23日に決定!

<久石譲×NCO ベートーヴェン・ツィクルス 第4弾>
久石譲の呼びかけのもと、トッププレーヤーたちが集結したスーパーオーケストラ!
渾身のベートーヴェン・ツィクルス 第4弾!
── ベートーヴェンは、ロックだ! “Info. 2019/01/23 久石譲指揮「ベートーヴェン:交響曲 第9番『合唱』」CD発売決定!! 【12/27 Update!!】” の続きを読む

Info. 2018/12/26 「週刊新潮 2019年1月3・10日新年特大号」掲載 祝・麻衣さん ご結婚

「週刊新潮 2019年1月3・10日 新年特大号」(12月26日発売)に、久石譲の愛娘 麻衣さんの結婚記事が掲載されています。

丹羽大さん(41)と麻衣さん(39)は、2017年9月に出会い、翌2018年6月に入籍。すでに、麻衣さんのお腹には新たな命が宿り2019年6月には新しい家族がふえる予定とのこと。記事には、お二人のプロフィールや家族構成、出会いからの馴れ初めをお二人のコメントまじえて紹介、指輪をはめたツーショット写真などが掲載されています。 “Info. 2018/12/26 「週刊新潮 2019年1月3・10日新年特大号」掲載 祝・麻衣さん ご結婚” の続きを読む

Info. 2019/02/14 「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(ブリュッセル) 開催決定!!

Posted on 2018/12/22

2019年2月14日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がベルギー・ブリュッセルにて開催決定!

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。

1984年公開の「風の谷のナウシカ」から2013年公開の「風立ちぬ」まで、宮崎駿監督と久石譲コンビが手がけた全10作品の音楽を演奏するスペシャルなジブリフィルムコンサート。巨大スクリーンに映し出される映画の名シーンと共に奏でられるオーケストラの迫力の音楽。指揮・ピアノはもちろん久石譲、共演オーケストラは…。 “Info. 2019/02/14 「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(ブリュッセル) 開催決定!!” の続きを読む

Info. 2019/01/01 [TV] 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」BS日テレ TV放送決定!!

2018年8月国内9都市と中国で開催された「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」コンサートツアー。いよいよTV放送決定です!

サントリーホール公演(Bプログラム)を収録!宮崎駿監督の楽曲を交響組曲にするプロジェクト第4弾「千と千尋の神隠し」など名曲を演奏! “Info. 2019/01/01 [TV] 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」BS日テレ TV放送決定!!” の続きを読む