Info. 2018/06/06 「二ノ国 II レヴァナントキングダム オリジナル・サウンドトラック」CD発売決定!! 【5/26 Update!!】

Posted on 2018/04/13

音楽「久石 譲」、キャラクターデザイン「百瀬義行」、超豪華キャストにて話題の超大作ゲーム「ニノ国」シリーズ最新作のサントラが発売!

全世界で約200万本のセールスを記録する、今春待望の超大作ゲーム「ニノ国」シリーズのサウンドトラック!! 音楽は世界の「久石譲」!! ファン待望の作品! “Info. 2018/06/06 「二ノ国 II レヴァナントキングダム オリジナル・サウンドトラック」CD発売決定!! 【5/26 Update!!】” の続きを読む

Info. 2018/Aug. Nov. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」「MUSIC FUTURE Vol.5」コンサート開催決定!! 【5/25 Update!!】

Posted on 2018/04/04

今年も久石の2大コンサートの開催が決定いたしました。

本日4月4日(水)午前10時から、
読売プレミアムと日テレゼロチケで最速先行抽選受付が、
4月9日(月)からはイープラス、ローソンチケットにおいて先行受付がスタートいたします。
一般発売は5月27日となりますので、どうぞお見逃しなく。 “Info. 2018/Aug. Nov. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2018」「MUSIC FUTURE Vol.5」コンサート開催決定!! 【5/25 Update!!】” の続きを読む

Disc. 久石譲 『妻よ薔薇のように 家族はつらいよ III オリジナル・サウンドトラック』

2018年5月23日 CD発売 UMCK-1599

 

2018年公開 映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよ III」
監督:山田洋次
脚本:山田洋次 平松恵美子
音楽:久石譲
出演:橋爪功 吉行和子 西村まさ彦 夏川結衣 中嶋朋子 林家正蔵 妻夫木聡 蒼井優 他

 

 

久石:
(「家族はつらいよ」)「東京家族」と出演メンバーも同じで、最初1回かなあと思ってたらどんどんシリーズ化されて。喜劇というのはすごく難しいんですよね。喜劇の音楽の書き方は大変難しいんです。どちらかというと色の濃い映画のほうが書きやすいんです。ラブストーリーとか戦争ものとか超悲劇とかね。そうするとこれは音楽も非常に色のはっきりしたものが書けるんだけど、普通の家族をテーマにすると、色をできるだけ薄めなきゃいけないんですよ。でないと音楽が浮いちゃうからね。なので喜劇は映画として撮るほうもすごく難しいんですよ。音楽も非常に難しい、なぜなら陳腐になりやすい。映画のほうでいうと、喜劇と悲劇は同じなんです。たとえば悲劇は、目の前で起こっている大変なことを大変だねって撮れば悲劇になる。ところがこれを喜劇にするときは、同じことを俯瞰で見て、バカな人間どもがああだこうだやってるねって笑い飛ばす方法をとって作らないと、本当の喜劇ってできないんですよ。喜劇って笑わせるんじゃないんですよ。悲劇と同じぐらいなものすごい深いものを抱えてるのを、笑い飛ばして見せるんだけども、観る人は感じさせるっていうね。だから喜劇は最も技術と能力がいる分野じゃないでしょうかね。その意味では山田監督はもう傑出している。今年86歳になられるんですが、考え方がどんどん若くなってて、しかももっと精鋭化してるというかどんどん変化してますね、素晴らしいです。そのエネルギーにつられて、こっちが作ってるって感じかな。(中略)オープニングのタイトルバックを作っているのが横尾忠則さん、毎回アーティスティックなとても素晴らしいオープニングを作ってますよね。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

 

「家族はつらいよ」シリーズ一貫してのメインテーマ、シリーズ第3作では華麗なワルツに変身している。喜劇のコミカルさ、踊るような軽やかさ、弦楽の流れるような優美さとの対比に、ティンパニなどパーカッション群や低音金管楽器など、これから始まる家族のドタバタ劇を予感させるところもおもしろい。

本作のもうひとつの主要テーマ曲となっている”妻のモチーフ”も新たに書き下ろされ、随所に散りばめられている。「3.溜息」「4.創作教室」「7.この狭い家の中で」「8.史枝の日常」「10.妻の覚悟」「17.ごめんね」「18.夫の覚悟」「19.薔薇のスカーフ」「21.雨降って地固まる」「23.妻よ薔薇のように」、こう並べてみるといかに重要な役割になっていることか。情感たっぷりの切なくも温まるメロディは美しい。映画エンドロールに流れる楽曲もメインテーマではなくこちらが使われている。このことからも本作を彩る象徴的な楽曲。”妻のテーマ”の対となっているともとれる「14.可哀想な幸之助」の旋律、そういう聴き方をするとおもしろい。

細かい話だけれど「4.自転車に乗って」、映像での自転車に乗る速度、気持ちの抑揚の変化に合わせて音楽もテンポ感に変化をもたせている。こういった繊細な配慮はさすがである。

リアリティのある物語ということもあって、シリーズ一貫して本作も音楽の入る場所はそう多くない。シンプルな小編成アンサンブルになっているのも、過剰な音楽効果をおさえたものだろう。それだけに旋律のひとつひとつが、楽器の音色がとても鮮度高く、身近で生音を聴いているような音楽の呼吸をも感じとることができる上品さがある。

「家族はつらいよ」シリーズも第3作をむかえ、久石譲によるメインテーマもシリーズごとにカラーを打ち出している。本作ではワルツ(3拍子)となり、それはさながら輪舞曲(ロンド)である。音楽におけるロンド形式とは、異なる旋律を挟みながら、同じ旋律(ロンド主題)を何度も繰り返す形式のこと。「家族はつらいよ」の物語もまた、おなじみの家族・主人公たちによる日常の喜劇と家族愛のくりかえし。

シリーズを重ねてストーリーや役者のアンサンブルは円熟味を増し、同じように音楽もアンサンブルが変化している。もし次回作を期待できるなら、新しいアンサンブルたちが楽しみな作品。

 

 

 

1. メインテーマ
2. 平和な朝
3. 溜息
4. 自転車に乗って
5. 創作教室
6. ミセス憲子
7. この狭い家の中で
8. 史枝の日常
9. 泥棒
10. 妻の覚悟
11. お兄ちゃん!
12. ダメおやじ
13. 二人のなれそめ
14. 可哀想な幸之助
15. 故郷
16. ボヤ騒ぎ
17. ごめんね
18. 夫の覚悟
19. 薔薇のスカーフ
20. おかえり
21. 雨降って地固まる
22. 憲子の想い
23. 妻よ薔薇のように

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi
Conducted by Joe Hisaishi

Performed by
Flute & Piccolo:Hideyo Takakuwa
Oboe:Satoshi Shoji
Clarinet & Bass Clarinet:Hidehito Naka
Bassoon:Tetsuya Cho
Horn:Yuta Ono, Jo Kishigami
Trumpet:Hitomi Niida
Trombone:Nobuhide Handa
Trombone & Bass Trombone:Takahiro Suzuki
Percussion:Tomohiro Nishikubo
Timpani & Percussion:Akihiro Oba
Percussion:Mitsuyo Wada
Harp:Kazuko Shinozaki
Piano & Celesta:Febian Reza Pane
Strings:Manabe Strings

Recorded at Victor Studio
Mixed at Bunkamura Studio

Recording & Mixing Engineer:Suminobu Hamada (Sound Inn)

and more…

 

Info. 2018/06/06 「羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL (CD2枚組)」久石譲×辻井伸行 収録 発売決定!! 【5/22 Update!!】

Posted on 2018/04/12

映画「羊と鋼の森」(監督橋本光二郎、6月8日公開)のエンディング曲で、日本を代表する音楽家2人が共演したことが話題になっています。数多くの映画音楽を手がける久石譲が作曲と編曲、ピアニスト辻井伸行がピアノ演奏を務めています。

そのエンディング曲「The Dream of the Lambs」を収録した映画サウンドトラック+音楽集 CD2枚組の発売が決定しました。劇中に使われるクラシック作品も辻井氏のピアノ演奏によるもの。多くのクラシックファン、ピアノ愛好家にとってもうれしい作品になりそうです。 “Info. 2018/06/06 「羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL (CD2枚組)」久石譲×辻井伸行 収録 発売決定!! 【5/22 Update!!】” の続きを読む

Info. 2018/05/15 「高畑勲 お別れの会」三鷹の森ジブリ美術館で開かれる 【5/19 Update】

2018.5.19 追記

金曜ロードSHOW!(日本テレビ)Friday roadSHOW.NTVTokyo 公式Facebookにて動画が公開されています。

宮崎駿監督「開会の辞」ノーカット 約10分
https://www.facebook.com/kinro.ntv/videos/1535557046570262/

「いのちの記憶」二階堂和美 独唱 ノーカット 約6分
https://www.facebook.com/kinro.ntv/videos/1535662363226397/

 

また下記本文(Webニュース各種)の「宮崎駿 開会の辞」全文 更新しています。 “Info. 2018/05/15 「高畑勲 お別れの会」三鷹の森ジブリ美術館で開かれる 【5/19 Update】” の続きを読む

Info. 2018/05/23 「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」オリジナル・サウンドトラック 発売決定 【5/17 Update!!】

Posted on 2018/04/18

久石が音楽を担当した山田洋次監督『家族はつらいよ』シリーズ最新作「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」のオリジナル・サウンドトラックが5月23日に発売されます。

──わたしたち<主婦>辞めます!
妻の反乱で、夫たちに史上最大のピンチが訪れる!!
全ての(ダメ夫を持つ)女性が笑って共感、しみじみ泣けて励まされる。
山田洋次監督が贈る、家族のラブストトーリー “Info. 2018/05/23 「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」オリジナル・サウンドトラック 発売決定 【5/17 Update!!】” の続きを読む

Info. 2018/05/07 《速報》久石譲特別公演「JOE HISAISHI IN CONCERT」(香港) プログラム 【5/17 Update!!】

Posted on 2018/05/07

香港フィルハーモニー管弦楽団2017-2018シーズン・コンサートプログラムにおける久石譲特別公演「JOE HISAISHI IN CONCERT」が開催されました。

当初の5月4日、5日(両日20時開演)の予定から、追加公演(6日15時開演)につぐ追加公演(5日15時開演)の決定と待ち焦がれたファンの熱気を感じます。それでも即SOLD OUTのチケット争奪戦、最先端の本人認証入場セキュリティなど万全の体制で準備は進められたようです。 “Info. 2018/05/07 《速報》久石譲特別公演「JOE HISAISHI IN CONCERT」(香港) プログラム 【5/17 Update!!】” の続きを読む

特集》 久石譲 × 高畑勲 エピソードアルバム

Posted on 2018/05/14

久石譲と高畑勲監督、出会いから約35年、作品を通してのエピソードを紐解きます。

 

 

Episode. “NAUSICAÄ”

宮崎・久石コンビはこうして生まれた

久石譲と宮崎駿が初めて出会ったのは、映画「風の谷のナウシカ」(1984年)の制作の時だから1983年だったと思う。

「ナウシカ」はその内容といいスケールの大きさといい、ハリウッド並みの超大作である。この超大作の音楽をやれるのは誰か、宮崎駿の要請で音楽監督を務めることになったプロデューサーの高畑(勲)さんと僕らは、いろいろな作曲家について検討を重ねた。というのも、この種の超大作は日本映画が得意とするジャンルでは無かったし、経験者も少なかった。坂本龍一、細野晴臣、高橋悠治、林光…さまざまな候補が上がり、そのうち何人かとは実際にお会いして相談にも乗ってもらったのだが、この壮大なシンフォニーを任せられる作曲家はなかなか見つからなかった。

そこに当時の徳間ジャパンの担当者が、候補として推薦してきたのが久石さんだった。今でこそ巨匠と呼ばれる久石さんだが、当時はCMやTVシリーズの劇伴の仕事を手がける傍ら、自らのアルバムではミニマルミュージックを発表し独自の世界を築いていた新進気鋭の作曲家のひとりだった。

これはひとつの賭けだった。「ひとりの少女が世界を救う」という、ある種とんでもない「作り話」に真面目に向き合うには、ある種の無邪気さが必要、「高らかに人間信頼を歌い上げることができる人」「信じたことをまっすぐな眼で伝えられる熱血漢」、時代の流行に左右されることなく、その要素を一番持っているのは久石譲しかいない、高畑さんがそう見抜いたのだ。こうして、「ナウシカ」の音楽は久石さんに決定した。

鈴木敏夫

Blog. 「Symphonic Special 2005」久石譲 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

すぐ彼に決まったわけではない。候補者には坂本龍一、細野晴臣、高橋悠治、林光といった錚々たる名前がずらり。前年に徳間グループ系列からアルバムを出していたので、その関係者の推薦でほとんど無名だった久石に声がかかったのだ。絵の作業に忙殺されていた宮崎駿監督の代わりにプロデューサーの高畑勲が音楽監督を務めていた。「ずいぶん悩んでましたが、結局高畑さんの決め手は性格でしたね」と語るのはスタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫である。「久石さんのそれまでに作った曲を聴いて、この人は高らかに人間信頼を歌い上げることのできる人だって見抜いたんです。賭けでした」

そこで高畑が久石に依頼したのがイメージレコードの制作だ。宮崎の書いたタイトルと詩に近いメモをもとにテーマ曲を書いてくれという宿題。「届いたメインテーマを聴いて不安は吹っ飛びました」と鈴木。「間違ってなかったと思った。本人は否定していますが、久石譲という作曲家を発見したのは高畑さんなんですよ。宮崎も絵を描きながらその曲を何度も何度も聴いていた」

それが「風の谷のナウシカ」(84年)のメインテーマとなった「風の伝説」である。それまでの久石のすべてが入っていてすべてが始まっている曲だ。映画は大ヒットした。この一作で久石は世に出た。

Blog. 久石譲 雑誌「AERA」(2010.11.1号 No.48) インタビュー より抜粋)

 

「『風の谷のナウシカ』の作曲者を決めるとき、当時はまだ新進気鋭だった頃の久石譲さんを最終的に推したのは高畑さん。「久石さんの作る曲がいいのもさることながら、あの人には音楽的素地に加えて教養がある。いろんな曲を知っていると、映画音楽として助かるんだ」と言ったプロの意見を、いまでもよく覚えています。」(鈴木敏夫)

Blog. 「オトナの!格言」 鈴木敏夫×久石譲×藤巻直哉 対談内容紹介 より抜粋)

 

「宮崎さんもそうですし特に高畑さんが音楽に大変くわしい方で、このお二人はもう異常に耳がいいみたいね(笑)。例えば最初に作った『腐海』という曲などは、後半に出てくるメロディーがドビュッシー的なので今度の映画には合わないんじゃないでしょうか──というくらいに突っこんだお話をなさるんです。曲のニュアンスがどうこうという点になると大変に熱心で、音楽の打ち合わせは毎回10時間くらい。えんえんとやっていましたよ(笑)」(久石譲)

「お二人ともメロディーはもう頭の中に入っているわけですから、じゃあこのテーマをもっと壮重な感じにして下さいとか、具体的な注文が次々に出てくるわけです。普通はある程度おまかせ的になるんですが、今回は音楽のイメージがはっきりしていますのでね。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「風の谷のナウシカ」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 Blog. 久石譲 「風の谷のナウシカ」 レコーディング スタジオメモ
 Disc. 久石譲 『風の谷のナウシカ サウントドラック はるかな地へ…』

 

 

 

Episode. “LAPUTA”

「『風の谷のナウシカ』をやって、徳間書店さんの大作アニメの二番目の作品である『アリオン』をやった後だったので、宮崎駿監督が新作を作っていると聞いても、僕に音楽が回ってくるとは思っていませんでした。でも、結局、久石がいいということになって、プロデューサーだった高畑勲さんと鈴木敏夫さんが、僕のところに依頼しに来て下さった時は、本当に嬉しかった。」(久石譲)

Disc. 久石譲 『Castle in the Sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン・サウンドトラック~』 より抜粋)

 

●6月23日(月)『ラピュタ』の制作をしている、スタジオジブリの近くにある喫茶店でBGMの本格的な打ちあわせ。3月に制作したイメージアルバム『空から降ってきた少女』をもとに、監督の宮崎駿さん、プロデューサーの高畑勲さん、音楽の久石譲さんが互いに意見を出し合って決めていく。1曲目からたちまち熱のこもった議論に。シータが捕らわれている飛行船に、海賊たちのフラップターが急襲するシーンに、音楽をつけるのかどうか、それはどんな曲か。熱論2時間、結局この曲は最後にもう一度話し合うことになった。午後4時から場所をジブリ第2スタジオ(実は仮眠室)に移して、深夜まで打ちあわせが行われた。

Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 レコーディング スタジオメモ より抜粋)

 

「高畑さんとは前回の『ナウシカ』のときの経験がありますから、むしろかなりラフにやっていたと思います。ただ密度そのものはかなり濃いんです。というのは、実際に映画用の音楽を書くまえに、イメージアルバム(『空から降ってきた少女』)を作っているでしょう。だから、高畑さんの頭にも、ぼくの頭にも、そのイメージアルバムのメロディが鳴っているわけです。たとえばこのシーンではあのテーマ、あのシーンには別のテーマ、というように、きわめて具体性があるんですね。おたがいにそのメロディを鳴らしながら、打ちあわせをしていくわけです。たぶんこんなことは、他の誰もやっていないでしょう。それだけレベルの高い打ちあわせなわけです。だから『ラピュタ』の音楽は、いわば2段階をへて書かれていったわけですね」(久石譲)

Blog. 久石譲 「天空の城ラピュタ」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

一方、久石・宮崎・高畑の間で解釈が異なり、議論で衝突したシーンもあった。まず、導入部の旅客船襲撃シーンについて、高畑は音楽なしを提案したが、久石は「入れたい」と希望。結局入れることに決まり、ギリギリの7月中旬に曲が書かれた。これとは逆に、ムスカがドームから軍の兵士を落下させる残酷なシーンについては、宮崎から「音楽を」と要請があったが、久石が「残酷さが強調された方が、シータとパズーの優しさや人間愛が胸を打つ」と音楽ナシを主張し、これが通った。ラピュタ崩壊シーンで流れる少女の合唱についても、高畑は「途中で止めるべき」、宮崎は「流し続けたい」と論議があったというが、高畑案が通ったようだ。

本編には主題歌は使われない予定であった。しかし、高畑は、観終わった観客に「宝を求めて行ったんだけれど、宝は手に入らなかった。かわりに何を手に入れたんだろう…」と和やかな気持ちで映画を反芻してもらいたい、そのためには歌があった方がいいのではないかと提案。急遽、高畑日く「映画全体と有機的に結びついた」主題歌制作が決定した。

高畑は宮崎に作詞を要請。曲は、「イメージアルバム」収録の「パズーとシータ」を元に中盤のサビを加えるよう久石に依頼した。高畑は久石と共に、メロディに合わせて助詞を添削してこれを補作し、主題歌「君をのせて」が出来上がった。レコーディングは86年7月7日であった。余りにもギリギリに完成したため、公開時にはシングルレコード発売は間に合わず、「サウンドトラック」に収録される形となった。

Disc. 久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎』 より抜粋)

 

「あれは夜中の11時ぐらいだったかな、他のシーンの音楽を書いていて疲れた時に、ふと浮かんだメロディだったんです。「ワクワクするような冒険活劇に暗いメロディは必要ないな」と、いったんはボツにしたんですが、宮崎さんとプロデューサーの高畑さんがとても気に入られて「歌詞を付けよう」という話になり、気がついた時には《君をのせて》がメインテーマになっていてビックリ(笑)。冒険活劇というと「スター・ウォーズ」に代表されるジョン・ウィリアムズのような曲を連想しますが、それとは正反対の《君をのせて》をメインテーマに据えることで、音楽の方向性が大きく変わった。宮崎さんと高畑さんが《君をのせて》のメロディに新たな意味づけをなされたおかげです。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

 

 

Episode. “TOTORO”

「それから、バス停のシーンに出てくる《トトロ》という曲。「ン・パ・パ・パ・パ・パ・ウン」という7拍子の変わった曲なんですが、これも実はミニマルなんですよ。このテーマが出来るか出来ないかが、この作品では実は結構カギだったんです。はじめ、宮崎さんは「バス停のシーンに音楽は要らない」とおっしゃっていたのですが、鈴木さんは「絶対に必要だ」と。そこで鈴木さんが高畑さんにこっそり相談したところ、「やっぱりあそこは音楽を入れたほうがいいんじゃないか」という答えが返ってきた。それで僕が書いた《トトロ》の曲を宮崎さんに聴いていただいたら、とても喜びながら「やっぱり、このシーンに音楽付けよう!」と。その時、鈴木さんが「(前2作で音楽演出を務めた)高畑さん抜きの、宮さんと久石さんが初めて生まれた」とおっしゃってくださいました。「トトロ」のトラックダウンをしている時、「いやあ、こんなに音楽の現場って楽しいとは思わなかった。いつもこれ、高畑さんがやっていたのか。ずるいな」という宮崎さんの言葉が、とても印象に残っています。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

「ここで問題となったのが、トトロが初めて登場するバス停のシーンについてだった。宮さんは、「ここには音楽はいらない。無音で行きたい」と主張したのである。本当にそれで良いのか、不安になった僕は再び、「火垂るの墓」で忙しかった高畑さんに助言を求めた。高畑さんの判断は、「音楽は必要」だった。当時の宣伝方針では、トトロの持つアイドル性に注目して、それを前面に打ち出した宣伝が行われようとしていた。それを良しと思っていなかった僕は、トトロの持つ精霊、自然の精としての神秘さを強調し、大人が鑑賞しても、その存在を信じられるシーンにすべきだと思ったのだ。そのためには音楽の力を借りる必要がある、これが高畑さんと僕の結論だった。再び賭けだった。久石さんに、このシーンのためにエスニックでミニマルな曲の作曲を依頼した。監督である宮さんには一切知らせなかった。宮さんは、できたものが良ければそれで良しとする人である。結果は、音楽は採用された。つまり、久石さんの音楽が監督宮崎駿を動かしたのだ。僕はここに、宮崎・久石コンビが誕生したことを確信した。」(鈴木敏夫)

Blog. 「Symphonic Special 2005」久石譲 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

「映画監督にはそういうところがあるものですが、一番大事なシーンに音楽を挿れずに画だけで見せたがる。『となりのトトロ』でサツキがトトロに出逢う雨のシーンがそうでした。子どもはトトロの存在を信じてくれるけど、大人まで巻き込むにはどうしようかと考えて、あのバス停のシーンが重要だと。それなのに宮さんは「画だけで」と言って。それを聞いた久石さんも「ハイ」と答える。

そこで、トトロの横で『火垂るの墓』を制作中の高畑さんに相談。音楽にも久石さんのことも詳しい彼は「あそこには音楽があったほうがいいですよ。ミニマル・ミュージックがいい。久石さんの一番得意なものができる」とアドバイスしてくれました。その高畑さんが言ったことは内緒にして久石さんに頼みに行きました。「でもここは宮崎さんはいらないって言ったけど、そんなことしてイイの?」と言う久石さんに、僕は言いました。「宮さんは、いいものができれば気が付かないから」。そして作曲してもらった。ジブリで完成した曲を聞く日、宮さんは「あっ、いい曲だ!」と喜び、あの幻想的なシーンが完成しました。僕は思うんですけど、久石さんはそんな綱渡りの状態のほうが、かえって名曲を生み出してくれるんです。」(鈴木敏夫)

Blog. 「オトナの!格言」 鈴木敏夫×久石譲×藤巻直哉 対談内容紹介 より抜粋)

 

「久石さんの音楽で僕が感心したことがあるんです。それは『となりのトトロ』で「風のとおり道」という曲を作られたのですが、あの曲によって、現代人が“日本的”だと感じられる新しい旋律表現が登場したと思いました。音楽において“日本的”と呼べる表現の範囲は非常に狭いのですが、そこに新しい感覚を盛られた功績は大きいと思います。」(高畑勲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

 

Episode. “KIKI”

「今回はぼくのほうのスケジュールがつまっていたものですから、高畑さんにはいろいろと助けていただきました。通常ですと、ぼくが自分で音楽監督も兼ねるわけですが、今回は時間的にむずかしかったので、高畑さんと宮崎さんが打ち合わせてどのシーンに音楽を入れるかというプランを立てて、それをもとにぼくが作曲するという形をとらせてもらったんです。宮崎さんはもちろんですけど、高畑さんも音楽にはたいへんくわしい方ですから、安心しておまかせしました。」(久石譲)

「おふたりのコンビネーションというのは、もう抜群ですね。『ナウシカ』『ラピュタ』のときのプロデューサーと監督という立場にしても、今回の音楽演出と監督という立場にしても、そばで見ていて非常に勉強になりました。おふたりとも、演出に関しては理論的といいますか、理知的な考えをもっていまして、ぼくもどちらかといえばそうなんです。たとえば、音楽のつけ方にしても感情に流されたつけ方は絶対にしませんから。そういう意味では、意見がくいちがうということはまったくないし、ぼくもおふたりを尊敬していますからいっしょに仕事をするのは楽しいですね。」(久石譲)

 

「この作品はいわゆるファンタジーではありません。『トトロ』もそうでしたが、大きな意味ではファンタジーに属するものでしょうが、もっと現実に近い物語であると宮さんは考えてつくった。たとえばキキは空を飛びますけど、それはカッコよく飛ぶのとはちがうし、ふつうの女の子の日常的な描写や気持ちが中心になっているんですね。ですから音楽が担当する部分も、世界の異質さとか戦闘の激しさとかを担当するわけではない。むしろふつうの劇映画のような考え方をして、しかもヨーロッパ的ふんいきをもった舞台にふさわしいローカルカラーをうち出そうということだったんです。それと、つらいところ悲しいところに音楽はつけない、とか、歌とは別にメインテーマの曲を設定して、あのワルツですが、あれをキキの気持ちがしだいにひろがっていくところにくりかえし使うとかが、音楽の扱いの上での特徴といえば特徴ではないでしょうか。はじめ、ホウキで空を飛ぶ、というのはスピード感もないし、変な効果音をつけるわけにはいかないので心配だったのですが、久石さんの音楽もユーミンの歌も、いまいったねらいにピッタリだったし、上機嫌な気分が出ていたのでホッとしているところです。」(高畑勲)

Blog. 久石譲 「魔女の宅急便」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 Blog. 久石譲 「魔女の宅急便」 レコーディング スタジオメモ

 

 

 

Episode. “KAGUYA”

「『ナウシカ』と『天空の城ラピュタ』で、宮崎×久石の名コンビが世間にも認知された。どちらも音楽担当をしていた高畑さんは、「だから自分が映画を制作するときには、久石さんに音楽を頼むことはできない」と話していたんです。ところが、突如『かぐや姫の物語』の音楽は、久石さんにお願いしたいと言い出した。当初、『風立ちぬ』との同日公開を目論んでいた僕は、困ってしまった。その両作を久石さんがやるのはどうかと。そこで宮さんがどう思うかと話しに行きました。「久石さんもかぐや姫の音楽をやりたがってるし、高畑さんもお願いしたいと言っている」と。そういうとき、宮さんはすこしキレ気味に、決まってこう言うんです。「そんなことは、久石さんが決めればいいんだ!俺の知ったこっちゃない」。このときもそう話した途端に、「久石さんやっちゃうよな~。マズイよ、鈴木さん。久石さんを阻止してよ。『風立ちぬ』だけでいいよ!パクさん(高畑勲)は他の人がいっぱいいるじゃん」と言うんですよ。結局、『かぐや姫』のほうの制作が遅れて、公開が4ヵ月延期されることになり、改めて久石さんにお願いしました。」(鈴木敏夫)

 

「初めて高畑さんと久石さんが組んだ『かぐや姫の物語』でも、同じように音楽の直しの指示を幾度も入れていた。そして気がつかないうちに久石さんの創る音楽がどんどん高畑さんの表現したい世界に近づいて行くんです。その裏で、「久石さんという人は、これだけの人じゃない。もっと出せるはずだ。このまま世に出したら、悔いが残るに違いない」、こんなふうに話していました。」(鈴木敏夫)

Blog. 「オトナの!格言」 鈴木敏夫×久石譲×藤巻直哉 対談内容紹介 より抜粋)

 

「僕はこれまで久石さんにわざとお願いしてこなかったんです。『風の谷のナウシカ』以来、久石さんは宮崎駿との素晴らしいコンビが成立していましたから、それを大事にしたいと思って。でも今回はぜひ久石さんに、と思ったのですが、諸事情で一度はあきらめかけた。しかし、やはり、どうしても久石さんにお願いしようという気持ちが強くなったんです。」(高畑勲)

「最初にお会いした時から尊敬していましたし、ぜひご一緒したいという気持ちはずっとあったので嬉しかったです。」(久石譲)

「その琴の曲がものすごくよかったんです。大事なテーマとして映画音楽としても使っていますが、初めて聴いたとき、お願いしてよかったと、心から安心したのを覚えています。」(高畑勲)

「久石さんは少しおおげさにおっしゃっています(笑)。でも主人公の悲しみに悲しい音楽というのではなく、観客がどうなるのかと心配しながら観みていく、その気持ちに寄り添ってくれるような音楽がほしいと。久石さんならやっていただけるなと思ったのは『悪人』(李相日監督)の音楽を聴いたからです。本当に感心したんですよ。見事に運命を見守る音楽だったので。」(高畑勲)

「高畑さんが持っている創造性がこちらに影響した結果ですよね。僕の場合、音楽の組み立て方は論理的に考えるんですよ。高畑さんが自ら書かれた「わらべ唄」が重要なところに何回か出てきますが、この曲は民謡などで使う5音音階的な方法を使っていて、気をつけないと非常に安直に聞こえてしまう。そこで整合性をとるために「わらべ唄」に乗せる和声やリズムを工夫したりして。」(久石譲)

「久石さんの作られた旋律と「わらべ唄」に一体感が出たのはうれしかったですね。」(高畑勲)

「当然。30年前からずっと思っていましたよ。30年越しの夢が叶かなった気分。」(久石譲)

「久石さんはすごく誠実な方なんです。いい音楽を書いてくださるというだけでなくて、こんなに映画のことを考えて、細部までしっかりちゃんとやってくださる方はなかなかいません。」(高畑勲)

「もちろん。でも久石さんのことは何も知らなかったんです。それが『風の谷のナウシカ』のイメージアルバムを作っていただき、それを繰り返し聴いているうちに、映画に必要なものがこの中に全部入っているんじゃないかと気がついた。これは驚きであり喜びでしたね。」(高畑勲)

「それがあったから僕は今こうしているんですよね。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

「高畑さんさんは音楽への造詣が深い方です。前に高畑さんが書かれた映画音楽についての文章を拝読したことがあるんですが、そこでは最終的な映画音楽の理想として「音楽と効果音が全部混ざったような世界」というようなことを書かれていました。なかなかそういうところまで理解する人はいませんし、そういうことも今回はできるという嬉しさを感じましたね。「光の音」についてはピアノを中心に、ハープ、グロッケン、フィンガーシンバル、ウッドブロックなどを掛け合わせて表現しています。今回は弦の特殊奏法も多いです。それは最近、現代音楽も手がけていることも含めた自分のパレットの中で、やれることは全部やろうとした結果ですね。その意味では比較的、自由に書いています。トータルで、今まであまりなかった世界に持ち込めたらいいなというのはありましたね。」(久石譲)

「皆さん、気に入ってくださっているみたいですね。そういう声をよく伺います。あの部分に関しては、最初から高畑さんは全くブレていませんでした。いわく「月の世界には悩みがない。喜びも悲しみもなく、皆、幸せに生きているのだから、幸せな音楽でなければいけない」と。つまり「悩みのない人たちの音楽」であると。最初「サンバみたいなものを考えている」とおっしゃっていて、それを伺ったときには本当にすごい方だなと思いましたね。発想が若いといいますか。わらべ唄にしても初音ミクでデモを作っているんですよ。あり得ないですよね?新しいものに貪欲というか、手段にこだわっていない姿勢といいますか。だから、天人の音楽にもそういう発想が持てるんですよね。結局、半年くらい寝かせた後に、今の天人の音楽を書いたんですけれども、却下されるかなと思っていたデモを高畑さんが「いいですね。気に入りました」とおっしゃってくださって。リズムとしてはアフロ系ですね。チャランゴやケルティック・ハープも使っていて、ちょっと民族音楽がかったものも入っているし、サンプリングでも邦楽の音とか入れています。できるだけ無国籍な、カオスのようなものにしようかなと思って作りました。作曲ではちょっと苦しみましたけれども。」(久石譲)

「これは非常に重要なところなんですが、高畑さんから持ち出された注文というのが「一切、登場人物の気持ちを表現しないでほしい」「状況に付けないでほしい」「観客の気持ちを煽らないでほしい」ということでした。つまり、「一切感情に訴えかけてはいけない」というのが高畑さんとの最初の約束だったんです。禁じ手だらけでした(笑)。例えば「”生きる喜び”という曲を書いてほしいが、登場人物の気持ちを表現してはいけない」みないな。ですから、キャラクターの内面ということではなく、むしろそこから引いたところで音楽を付けなければならなかったんですね。俯瞰した位置にある音楽といってもいいです。高畑さんは僕が以前に手がけた『悪人』の音楽を気に入ってくださっていて、「『悪人』のような感じの距離の取り方で」と、ずっとおっしゃっていました。『悪人』も登場人物の気持ちを表現していませんからね。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ビジュアルガイドより 抜粋)

 Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー キネマ旬報より

 

「普通なら、今回のように主題歌がついて、大事なところで使われる曲もすでにあったら間違いなく断っています。いろいろなものをくっつけられてしまうと最終的に音楽全部に責任持てないですから。でも高畑さんのことはとても尊敬していたので今回はお引き受けしたんです。」(久石譲)

「監督が音楽にそこまで詳しいというのは、ほとんどの作曲家は嫌だと思いますよ。こんな話がありました。僕、翌月からクラシックを指揮しなければいけないので、休憩中にミニチュア・スコアを持って見ていたんです。そこに高畑さんがいらして、ブラームスの交響曲第3番の話になったらスコアをパッと見て「ここですよねー、ここのラストが。ここまた、第一楽章のテーマに戻りますよね。ここがいいんですよ」って。こんな会話ができる監督は見たことがありません。」(久石譲)

「書いた曲のチェックは、高畑さんは「想像できるのでピアノスケッチで大丈夫です」と言ってくださっていたので、ピアノスケッチを送っていました。だんだんとそれにオーケストラの色をつけたものをまた送る。これを六十数曲ずっと繰り返したわけです。送るたびにバッと修正オーダーが来る。高畑さんの場合は特に多く、「また来たか」みたいな。「またこんなにですか(笑)」とか。ところがある時期を越えたら、台詞とぶつかると音楽が損だからと、台詞とメロディーの入るタイミングをちょっと遅らせて欲しいとか、そういう修正が多くなってきたんです。その辺りから完全に高畑さんとシンクロしましたね。」(久石譲)

「例えば、台詞とぶつかると音楽は小さくせざるを得ない。台詞が聞こえないと困るから。だから「音楽が損だから遅らせましょう、そうしたら小さくしないで済む」ということを具体的に言う監督は数えるほどしかいない。これは音楽を大切にしていただいている証拠です。どう考えても映画ですから、何をしゃべっているのか分からないとマズい。だから台詞は聞かせないといけない、でも音楽をそのために小さくするのは忍びない、だから、タイミングを変えて欲しい。という言い方ですから、これはもうほんとうにありがたいですよね。おかげで音楽は変拍子だらけになりましたけど、こんな素晴らしい人はそうそういません。」(久石譲)

「印象で言うと、この作品は、普通の映画2本分という感じがしますね。すごくいろんなものが詰め込まれて、なお且つきちっと組まれている。そうするとね、これだけ見事につくられた映画は、もうアートです。これはほんとうに歴史に残ると思います。高畑さんとの仕事は、それなりの覚悟がいると思っていました。いつだったか、監督といろいろ話しているうちに「月の世界とは何なんでしょう」というテーマになりまして、要するに人間世界ではないということだったら、あれはもしかしたらあの世なのかもしれないねと。もしそういう考え方をするならば、これはすごく宗教的にもなってきます。そのようないろいろな捉え方ができるなかで、高畑さんはこれを「この世は生きる価値がある」という一点に集約していく。「喜びも悲しみもいろいろあっても、生きる価値があるんだ」というところに持っていこうとするとても強い意志が伝わってきた(少なくとも僕にはそう思えた)ので、僕はずっとそれに共感しながらつくってきたというところです。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー 熱風より 抜粋)

 Blog. 「かぐや姫の物語をつくる」ドキュメンタリーより 久石譲音楽制作軌跡

 

 

 

Episode. “years…”

しあわせな出会い -久石譲と宮崎駿

「風の谷のナウシカ」のイメージレコード、「鳥の人…」。その第一曲「風の伝説」に針をおろす。風音の前奏に幅の広いリズムが打ちこまれ、やがてピアノが途切れがちにうたいだす……。すべてはここからはじまった。このピアノの音型は映画「ナウシカ」の中心テーマとなり、様々な姿をとりながら、久石氏のライトモチーフとして映画「天空の城ラピュタ」の重要なテーマにまで発展していく。

イメージレコード完成の半年後、映画「風の谷のナウシカ」のオールラッシュが行われ、映画音楽の打ち合わせに入った。おそらくこの時点で、宮崎駿の世界と久石譲の音楽がこれほど相性が良いと気付いていた人は誰もいなかっただろう。

無国籍でありながら、何らかの民俗色地方色をもち、とはいえ、土着の闇はなく、いわば都会的な「引用」であり、きわめて重いものを扱っていながら、どこか軽さがあり、現実にはあり得ない世界でありながら、密度濃いリアリティや存在感に支えられる必要があり、どんなにリアルにみえても、やはり人工的につくりあげられた自然や人物であり、自然をうたいながら、メカニックなものやスピードへの愛着もひとしおであり、必要な複雑さに到達しているイメージも、分解すれば、単純明快な要素の組み合わせであり、感情の表出は直接的であるよりは、情況のなかで支えられる必要があり……。

思えば、アニメーションファンタジィにとって、このような世界を音楽でしっかりと支えてくれる作曲家の出現こそ、待望久しかったのである。

高畑勲

Blog. 宮崎駿×高畑勲×鈴木敏夫、久石譲音楽を語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 第11回:「祝福したい関係」—後編

 

高畑さんは、プロデューサーを務めた「風の谷のナウシカ」(1984年)で久石さんを音楽担当に抜てきした。「宮崎さんや高畑さんが要求するハードルはものすごく高く、毎回ぼろぼろ」と言う久石さんは、「かぐや姫の物語」(2013年)で監督の高畑さんから「観客の感情をあおらず、登場人物の気持ちを表現し過ぎない」などと注文を受け、「何を作ればいいのか」と悩んだと明かした。高畑さんは「映画の空間を音楽で埋めたくなかった。久しぶりの大作で緊張し、新しいことに挑戦しなければとも思っていた」と振り返った。

Info. 2017/07/13 「久石譲さんと高畑勲さん ジブリ作品の舞台裏語る」(信毎Webより) 抜粋)

 

「最後に「天空の城ラピュタ」について。先日高畑勲監督と『かぐや姫の物語』の上映前にトークイベントをおこなったのですが、このラピュタについての話題がもっとも長かった。それだけ思い入れがあったわけです。考えてみれば宮崎監督、高畑勲プロデューサーという両巨匠に挟まれてナウシカ、ラピュタを作っていたわけですから、今考えれば恐ろしいことです(笑)。主題歌の「君をのせて」は多くの人々に歌われ、親しまれ作曲者としては嬉しい限りです。31年後の2017年、僕と新日本フィルハーモニーが主催 する World Dream Orchestra のコンサートのために交響組曲として再構成しました。」(久石譲)

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート  より抜粋)

 

 

 

2018年4月5日 高畑勲監督 逝去 享年82歳

「誠に残念です。『かぐや姫の物語』が遺作になるとは思っていませんでした。もっと作っていただきたかった。僕のコンサートにもいつも来ていただいて、クラシックや現代の音楽にも深い見識のある方でした。心からご冥福をお祈り申し上げます。」

(4月6日 追悼コメント 久石譲)

 

 

久石譲著書からの紹介はしていません。書籍を読むともっといろんなエピソードが紐解けると思います。ぜひ久石譲はじめ高畑勲、宮崎駿、鈴木敏夫、いろんな角度からも関連書籍など手にとってみてください。

 

 

2018.05.16 追記

Info. 2018/05/15 「高畑勲 お別れの会」三鷹の森ジブリ美術館で開かれる

 

 

2018.08.08 追記

僕は仕事や人間関係や、いろんなことで悩むとき、よく「宮崎さんだったらどうするだろう」「鈴木敏夫さんだったらどうかな」「養老孟司先生だったらどうするだろう」と考えます。そのとき最後にはやはり「高畑さんならどうするだろう」と考える。

僕の中では、思考するときの羅針盤みたいな存在なんです。論理的なものと、感覚的なもの。自分はいまどちらを取ろうとしているんだろう? 高畑さんならこっちだろうか? そうやって考えているとき、いつも決まって浮かんでくるのは高畑さんの笑顔です。そうすると、何だか希望が湧いてきて、次の自分の行動が決まります。

そういう意味では、高畑さんは、僕の中ではいまも生きています。

無名だった僕を『ナウシカ』で起用していただいてから35年。今日の僕があるのは高畑さんのおかげです。長い間、本当にお世話になりました。いっしょに仕事ができたことを誇りに思っています。心からご冥福をお祈りします。でも、お別れは言いません。またいつか、どこかでお会いしましょう。

Blog. スタジオジブリ小冊子「熱風 2018年6月号」《特集/追悼 高畑勲》 久石譲 内容紹介 より抜粋)

 

それまでの僕のやり方は、もう少し音楽が主張していたと思います。それに対して、『かぐや姫』以降は、主張の仕方を極力抑えるようになりました。音楽は観客が自然に映画の中に入っていって感動するのをサポートするぐらいでいい。そう考えるようになったのです。ただし、それは音楽を減らすという意味ではありません。『かぐや姫』では引いていながらも、じつはかなりたくさんの音楽を使っています。高畑さん自身、「こんなに音楽を付けるのは初めてです」とおっしゃっていたほどです。

矛盾するようですが、僕は映画音楽にもある種の作家性みたいなものが残っていて、映像と音楽が少し対立していたほうがいいと思うんです。映像と音楽がそれぞれあって、もうひとつ先の別の世界まで連れて行ってくれる──そういうあり方が映画音楽の理想なんじゃないでしょうか。そういう僕の考えを尊重してくれたのは、高畑さん自身が音楽を愛し、音楽への造詣がものすごく深い方だったからかもしれません。

Blog. 「ジブリの教科書 19 かぐや姫の物語」 久石譲 インタビュー内容紹介 より抜粋)

 

 

2018.8.24 追記

「風の谷のナウシカ」から「かぐや姫の物語」まで。久石譲が鈴木敏夫プロデューサーらと作品ごとに語った貴重なエピソード。ラジオ番組対談書き起こし。

 

about “NAUSICAÄ”

「イメージアルバムというのは高畑さんの発案。当時の日本映画って映像が出来てから慌てて音楽をやる。しかも期間にして1日か2日、それで映画音楽をつけなきゃいけない。つまり音楽を重視してこなかったんですよ。それを高畑勲という人は、その歴史を変えようと。音楽にたっぷり時間を作ろうと。最初自由にイメージして音楽を作ってもらう。それで図々しいこと考えたんですよ。作ってもらったなかに作品に合う良いものと悪いものがある。そうすると映画音楽を当てはめるまでに2回チャンスがある、音楽が充実する。それが高畑さんの考えだった。

数多くいる候補の中から「久石さんがいい」って高畑さんが言い出した。高畑さんの決め手は「久石さんは教養がある。要するにクラシック音楽の勉強をしてる。その基礎があると、映像に音楽を合わせてもらう映画音楽をつくるのにその教養が役に立つに違いない。それがないと注文しにくい。」って言ったんですよ。音楽を聴いて高畑さんはそれを発見するんですよ。周りの人たちがみんな反対するなか、そこが高畑勲のすごさ。ここで決まっちゃうんですもん、宮崎・久石コンビ。

イメージアルバムを作るときに、高畑さんが宮崎に頼んだのが、タイトルとイメージを文章にして渡すこと。こんな感じの曲があるといいというのを10個くらい書いた。だからこれも高畑さんが考えたこと。イメージアルバムを最初に聴いたのは僕と高畑さん。高畑さんは「いける」って言ったんですよ。その後宮崎に聴いてもらって一発で気に入った。当時はカセットテープ、宮崎はそれを一日中大音量で聴くわけですよ。しかも朝9時から午前4時まで同じテープを延々鳴りっぱなしなんですよ、周りは静かに作業してるなか。」(鈴木敏夫)

about “KAGUYA”

「それと僕が声を大にして言いたいのは、この「かぐや姫の物語」の映画音楽、大傑作ですよね。高畑さんと日常的にいろいろなこと話してたから、高畑さんは実をいうと、好みもあったんでしょうけれど、「ラピュタ」の音楽、大絶賛してたんですよ。そうするとね、高畑さんのなかにあったのは、全然違う作品なんだけれど映画音楽として、どういうものをやっていくかというときに、「ラピュタ」に勝ちたい、どっかにあったんじゃないかなあ。それを僕は実現したと思ったんですよね。明らかに久石さんの新たな面も見れたし、この人すごいなと思ったんですよ、まだ成長するんだって(笑)。」(鈴木敏夫)

and more…

 

 

 

 

 

Overtone.第17回 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」と「かぐや姫の物語」

Posted on 2018/05/13

ふらいすとーんです。

サウンドトラックがメロディの宝庫だった頃のお話。

1984年公開アメリカ・イタリア合作映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』。理想的な映画監督と映画音楽作曲家の関係にあったセルジオ・レオーネ監督とエンニオ・モリコーネによる作品でレオーネ監督の遺作でもあります。

1920年代初めから1960年代後半に至る、自由と夢を求めて新大陸アメリカに渡ったユダヤ系移民を描く物語、禁酒法・マフィア・ギャング団という構図の中で若者たちが成長する、今のアメリカを語る時に忘れてはならないユダヤ系移民たちの暗黒の物語。本編3時間半という大作でロバート・デ・ニーロが主人公を演じています。

レオーネ監督がこの作品のテーマとしておいたのは〈大人にとってのノスタルジー〉。メロディ展開の柔らかさや整然としたスコアが郷愁を誘うメロディメーカーとしてのモリコーネの代表作のひとつです。エッダ・デ・ローソによる美しいソプラノ・スキャットやパンフルートの第一人者であるゲオルゲ・ザンフィルによる素朴な音色。そしてモリコーネが丹精こめて紡ぎ出す至極のメロディたち。

 

 

撮影の1年半前から音楽制作にとりかかり、撮影を始めたころにはもうほとんどの楽曲がレコーディングされていた、現場でそれを流しながら俳優達は音楽にあわせて演技した、作品のテーマやムードをつかむのに重要な役割を果たした、といったエピソードもあります。

 

レオーネ監督とモリコーネのコメントが象徴的です。

「何ヵ月も前からモリコーネと話し合いを持った。実際に映画の中では、ある特定の情緒とかエモーションは音楽が導いてくれることがあるからね。彼には10から15、または20ぐらいのテーマ曲を作ってもらい、その中から一曲を選ぶ。映画のある瞬間やパートを最高に盛り上げるためには、その選んだ一曲がまず初めにセンセーションを与えるものでなくてはいけない。自分に課す、一番最初の音楽的なテストみたいなものだね。僕にとって音楽は台詞の一部なんだ。そして多くの場合台詞よりも重要だったりする。音楽はそれだけで完成された表現手段だからね。」(レオーネ)

「他の監督と比べてレオーネは音楽の重要性をはるかに認めている。彼にとって音楽は、台詞やその他の構成要素と同じくらい重要なものだったんだ。だからこそ、彼は撮影に入る前に僕に曲を書くことを依頼しておくことが大事だと思っていたんだろうね。…僕らの友情のためにしていたことではないんだ。それが彼独特のスタイルだった。音楽をとてもドラマチックで表現力のあるものだと考えていたから、彼は音楽のために時間と空間を使ったんだろう。」(モリコーネ)

 

監督と作曲家のタッグは『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『ウエスタン』などでもコラボレーションを築きあげ、エンニオ・モリコーネは他監督作品『1900年』『ミッション』『ニュー・シネマ・パラダイス』新しくは『海の上のピアニスト』などいずれも映画を印象づける名曲をのこし、今でも数多く演奏されています。

 

 

また映画ではモリコーネの曲以外に、作品の核となるフィーチャー・ナンバーがあります。「アマポーラ」、スペイン出身作曲家ジョセフ・ラカールによって書かれた歌で、この映画をきっかけに有名にその後日本でも幾多カバーされているスタンダード・ナンバーです。

いくつかの候補の中から選ばれたこの楽曲は、モリコーネの手によって美しいストリングスを奏でたり、クラリネットが主旋律を歌ったりいくつかのバージョンでアレンジされています。重要な楽曲として浮きでているだけでなく、音楽全体として一体感をもって溶け込んでいるのは、モリコーネの匠な手腕によるところが大きいと思います。”アマポーラがこれほど美しく思われたことはない” ”アマポーラもモリコーネの手によるものだと思っていた” という当時の評論もうなずけます。

そして、モリコーネが書き下ろした「デボラのテーマ」とスタンダード曲「アマポーラ」は映画の中で交錯し、ついにはひとつの楽曲として絡み合います(15. デボラのテーマ「アマポーラ」)。対位法的にふたつの曲のメロディが重なりあい、かけあい、流れていく。キャストや台詞と同じように音楽が呼応する。対となるふたつの曲が主人公たちと同じように呼吸し対峙し演じているようです。

 

 

エンニオ・モリコーネ指揮による2004年Live映像から、前半は主要テーマ曲「デボラのテーマ」、1曲はさんで6分前後からメインテーマ「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を聴くことができます。極上の調べに時間はとまり、記憶はよみがえる。まさに〈大人にとってのノスタルジー〉です。

映画から離れたところで、「デボラのテーマ」は歌詞がつけられセリーヌ・ディオンがカバーしたりもしています(曲名:I Knew I Loved You)。それだけに美しく輝いたメロディということですね。エンニオ・モリコーネが織りあげる名曲に、スタンダード曲「アマポーラ」が美しく絡み合う旋律は、ぜひサウンドトラックを聴いてみてください。

不朽の名作・不朽の名曲、サウンドトラックがメロディの宝庫だった時代。映画ももちろん素晴らしいですが《サウンドトラックはドラマティックである》そんな誇り輝いていた頃のお話。

 

Ennio Morricone – Once Upon In a Time In America 約7分半

 

 

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
ONCE UPON  A TIME IN AMERICA

1. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
2. つらい想い
3. デボラのテーマ
4. 少年時代の想い出
5. アマポーラ~愛のテーマ
6. ともだち
7. 禁酒時代挽歌
8. コックアイズ・ソング(やぶにらみの歌)
9. アマポーラ~パート2
10. 若き日のつらい想い
11. 想い出の写真
12. ともだち
13. 友情
14. もぐり酒場
15. デボラのテーマ「アマポーラ」

音楽:エンニオ・モリコーネ

 

 

映画『かぐや姫の物語』の音楽を聴いたときに、ふと思い起こしたのが上に書いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』でした。なによりも強く浮かんだのがふたつの異なる楽曲が対位法的にひとつの楽曲として新しい命を吹き込まれること。

映画『風の谷のナウシカ』から交流のあった高畑勲監督と久石譲がはじめてタッグを組んだ記念碑的作品、久石譲が書き下ろしたメロディと高畑勲監督も自ら作曲したメロディがとても重要な役割を果たしています。

 

少しだけ制作秘話を紐解きます。

 

「僕はこれまで久石さんにわざとお願いしてこなかったんです。『風の谷のナウシカ』以来、久石さんは宮崎駿との素晴らしいコンビが成立していましたから、それを大事にしたいと思って。でも今回はぜひ久石さんに、と思ったのですが、諸事情で一度はあきらめかけた。しかし、やはり、どうしても久石さんにお願いしようという気持ちが強くなったんです。」(高畑勲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

「2012年の暮れに鈴木(敏夫)さんから「『かぐや姫の物語』の公開が延期されたので、『風立ちぬ』共々ぜひやってほしい」とご依頼をいただきました。そのときはビックリしましたね。まさか高畑さんとご一緒できるとは思ってもいませんでしたから。でも、僕は高畑さんをとても尊敬していましたし、高畑さんとご一緒できるのだったら、ぜひやりたいと、返事をさせていただきました。」(久石譲)

「今回は高畑さん自身がお書きになった “わらべ唄” が映画のなかでしっかりした構造を持っていて、例えばオープニングにしても、「出だしをなよたけのテーマでワンフレーズ演奏したら、わらべ唄に移って、そしてテーマに戻って、またわらべ唄に…」という具合に、かなり具体的な注文をいただいていたんです。でも、そのまま交互にはせず、結果として対旋律のように同時進行させています。問題だったのは、そのわらべ唄が五音音階(1オクターブに5つの音が含まれる音階)だということです。この唄が重要な部分を占めている以上、劇中の僕の音楽もそれに合わせて整合性をとらなければなりません。でも、一歩間違えると、五音音階というのは陳腐になりやすい。なので、同じ五音音階を使っても日本人が考えるものとは全く違うものを作ろうと。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ビジュアルガイドより 抜粋)

 

 

最初にとりかかったのが、絵を書くために必要な映画のなかでかぐや姫が弾く琴の楽曲。それが《なよたけのテーマ》です。高畑勲監督はとても楽曲を気に入り、またそれ以前に自ら作曲していた「わらべ唄」と一体感が出たことをとても喜んだそうです。

映画はこのふたつの主要テーマ曲がたびたび登場します。ここでフォーカスしたいのは、ふたつの楽曲が対位法的にひとつの楽曲として絡み合う「1.はじまり」「33.月」、映画のオープニングとエンディングです。《なよたけのテーマ》(久石譲)と「わらべ唄」(高畑勲)のふたつのメロディを、久石譲曰く【対旋律のように同時進行させている】曲。

初めて「1.はじまり」を聴いたときは、ついに高畑勲×久石譲 が完全なコラボレーションを果たした瞬間、音楽として見事に融合した瞬間、約1分間の曲をくり返し聴きながらこみあげてくる感慨を覚えています。相思相愛でありながら一度もタッグを組まなかった高畑勲×久石譲、その積年の想いが結晶化されて音楽としてしっかりとかたちに残ったことは、うれしい・感謝の一言です。

サウンドトラック盤には、映画で使用されたすべての楽曲が初回プレス限定特典ディスクもふくめて完全収録されています。

 

かぐや姫の物語 サウンドトラック

 

 

〈宮崎駿×久石譲〉や〈レオーネ×モリコーネ〉などと同じように、理想的な映画監督と映画音楽作曲家の関係〈高畑勲×久石譲〉で映画がつくられたことは、さまざまな秘話から知ることができます。高畑勲監督が久石譲に求めたこと、久石譲が応えたこと、ふたりで到達したこと、鮮烈な印象を残した「天人の音楽」のこと。ぜひ紐解いてみてください。

 

 

時をおかず、映画『かぐや姫の物語』は音楽作品として組曲化されます。映画公開翌年のコンサートで初披露。

 

交響幻想曲 「かぐや姫の物語」

「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」でプロデューサーを務めた高畑勲監督が、旧知の久石に初めてスコアを依頼した記念すべき作品。今回演奏される曲は、本編の主要曲をかぐや姫の視点で繋げ、オーケストラ作品として書き改めたもの。木管が演奏する「なよたけのテーマ」と高畑監督が作曲した「わらべ唄」を対位法的に扱う〈はじまり〉の後、〈月の不思議〉のセクションをはさみ、東洋的な曲想が特徴的な〈生きる喜び〉の音楽へ。その後、3拍子のピアノが〈春のめぐり〉の音楽を導入するが、曲想が一転し、前衛的な語法を用いた暗い〈絶望〉に変わる。再び木管が「なよたけのテーマ」を演奏すると、オーケストラが〈飛翔〉の音楽を高らかに演奏し、久石エスニックの真骨頂〈天人の音楽〉へと続く。最後の〈月〉では「なよたけのテーマ」「わらべ唄」など主要テーマが再現し、幕となる。
★アルバム「WORKS IV -Dream of W.D.O.」 収録

Blog. 「久石譲 ジルベスター・コンサート 2014」(大阪) コンサート・レポート より抜粋)

 

サウンドトラック盤をベースに主要曲で構成され楽曲名も継承されていますが、この組曲化には高度な苦労も多かったようです。

 

「これはかなり苦しみました。何度もトライして、うまくいかないからやめたりもして(笑)。でも、しばらく経つと、挫折したような感覚が嫌になり、再びチャレンジするんです。その繰り返しで、最終的にはコンサートの一ヶ月くらい前に完成しました。」

「まず、本作の音楽としては「わらべ唄」という高畑さんご自身が作られた本当にシンプルな歌が基本にあるんです。それが重要なシーンに使われているから、僕の書く音楽にも五音音階を取り入れないとバランスが取れない。つまり、「ドミソラドレ」とか「ドレミソラド」というものですね。さらにこれをひとつ間違えると、すごく陳腐になり、不出来な日本昔話のようになってしまう(笑)。それをなんとか高畑さんのイメージに合うように工夫するのですが、高畑さん自身が音楽に詳しい方なので、細かい要求がたくさん出てくるんです。そのひとつひとつに応えていったことで、いろいろなスタイルの音楽が混在してしまうことになり、まとめるのが難しくなりました。

『風立ちぬ』でロシアの民族楽器を使ったように、「『かぐや姫の物語』は日本を題材とした映画だから、和製楽器の琴とオーケストラでやろう」というアイデアも出ました。ところが、そうすると逆にトリッキーになってしまう。一度聴く分には面白いんだけれど、きれいにはまとまらないんです。それで他の楽器を足すなど試行錯誤しましたが、オーケストラだけのシンプルな構成のほうが統一感がある、というところに行き着いて。そこに至るまでにけっこうな時間がかかりました。

また「天人の音楽」(天人が天から降りてくるときの音楽)は、もともとサンプリングのボイスなどを入れていたので、オーケストラとの整合性がうまくとれずに苦戦しましたね。ただ、それが現代的にかっこよく響いてくれれば成功するだろうという狙いが根底にありましたし、高畑さんも実験精神旺盛な方ですから、とがったアプローチをしても快く受け入れてくれました。「五音音階を使っているのに何故こんなに斬新なの?」と思わせるラインまではすごく時間がかかりましたが、結果として納得いくものができました。」

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより 抜粋)

 

「2013年は宮崎(駿)さん、高畑(勲)さん、山田(洋次)さんという3人の巨匠と向い合って映画を作るという非常にヘビーな年でもありました。この3作品を披露することは、今回のコンサートのもう一つの重要な要素です。いずれも”映画的”に作った曲ばかりで、台詞の邪魔をしないように構成しているため非常に音が薄いんです。それをコンサートで演奏する作品として書き直すのは、ゼロからリニューアルするのと一緒で本当に大変でした。特に「かぐや姫の物語」は昨年秋に公開されたばかりの作品で、まだそれほど時間が経っていない。自分の中でも消化しきれていない状態で作品化に取り組んだので、今までコンサート用に作品化した中で一番と言ってもいいくらい苦労しましたが、手ごたえはあります。」

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2014」 久石譲インタビュー 抜粋)

 

 

こうした経緯のなか華々しくコンサート披露され、ハイクオリティな技術を極めたLive音源としてCD化もされている「交響幻想曲 かぐや姫の物語」。サウンドトラック盤からさらに音楽的豊かになった「かぐや姫の物語」の世界。今だからこそ、もう一度しっかり耳を傾ける価値があります。

 

 

 

さてここで、久石譲インタビューでは語られていないことを考察します。

映画は「1.はじまり」で始まり「33.月」で終わります。このニ楽曲は《なよたけのテーマ》(久石譲)と「わらべ唄」(高畑勲)のふたつの旋律が対位法的に織りあげられています。もっと掘りさげると、「33.月」に使われているのは「わらべ唄」のモチーフではなく「天女の歌」のモチーフです。「わらべ唄」のメロディがより悲しい短音階の旋律になっている「天女の歌」は歌詞も異なります。

「わらべ唄」は地球・人間・生の世界を「天女の歌」は月・天女・死の世界を、と対になっているとしたら。「わらべ唄」の歌詞には自然・生き物・四季が高らかに歌われ【せんぐり いのちが よみがえる】(順繰り命がよみがえる)という歌詞が登場します。「天女の歌」はその正反対で【まつとしきかば 今かへりこむ】(本当にあなたが待っていてくれるなら、すぐにでもここへ帰ってきます)という歌詞が登場します。

高畑勲監督がつくった対となる「わらべ唄」「天女の歌」。映画では「1.はじまり」(なよたけのテーマ/わらべ唄)地球に生まれたときに始まり、「33.月」(なよたけのテーマ/天女の歌)月に帰っていくところで終わります。物語も音楽も。

 

でも、実は「交響幻想曲 かぐや姫の物語」はそうはなっていません。

「木管が演奏する「なよたけのテーマ」と高畑監督が作曲した「わらべ唄」を対位法的に扱う〈はじまり〉の後、 (~中略~)  最後の〈月〉では「なよたけのテーマ」「わらべ唄」など主要テーマが再現し、幕となる。」(コンサート・プログラムノートより)

とあるとおり、楽曲名は「月」と継承しながらも、そこで使われているモチーフは「天女の歌」ではなく「わらべ唄」です。これは何を意味するのか? とても興味があります。久石譲が音楽作品へ組曲化するにあたり再度検討したこと、高畑勲監督へ打診したことなどがきっとあると思います。インタビューでも語られていない高畑勲×久石譲のふたりだけが知る真実。

〈生にはじまり死におわる〉のではなく、〈生にはじまりまた生がめぐる〉。物語から少し自由になれる音楽作品への再構築だからこそ、強く生きること・生きる価値があることを響かせて幕をとじる作品にしたかった、一歩強く押し進めた「かぐや姫の物語」の音楽世界、…と個人的には思っています。そう思ったのは、数々のインタビューを読み返しながらお二人のやりとりを改めて見たときに、「交響幻想曲 かぐや姫の物語」音楽構成のクライマックスと糸がつながった気がしたからです。

 

高畑:
制作が本格化した頃に東日本大震災がありました。それによって内容が影響されたわけではありませんが、人がたくさん亡くなられたり、家が流されたりするのを見て、無常観というか、この世は常ならないんだとあらためて思い知らされました。生き死にだってあっという間に訪れる。にもかかわらず強く生きていかなくちゃならない。そこに喜びもある。そういうことと、この作品も無関係じゃないんです。

久石:
東洋の発想だと魂は死なずに、また生まれ変わる…。人間になるのか牛になるのかわからないんだけど繰り返す。ふと思ったのですが、つまりかぐや姫というのはそれをデフォルメしている物語なのかもしれませんね。「いつか帰らなきゃいけない」という命題に生と死が凝縮されている。

高畑:
そうですね。この土地、要するに地球は、すごく豊かで命に満ちあふれているわけですよね。それを考えたとき、月は対照的なものとしていいですよね。光はあるかもしれないけど太陽の光に照らされているだけで、色もなければ生命もない。そこにあるのは原作にも出てくる“清浄”だけ。地球は清浄無垢より大変かもしれないけど、生きる価値がある。そのことをもっと噛かみ締めたいという思いで作ったつもりです。

久石:
限りある命だからこそ、ですよね。

Blog. 久石譲 「かぐや姫の物語」 インタビュー ロマンアルバムより 抜粋)

 

 

高畑勲×久石譲 長い年月を経ての初タッグ辿り着いた到達点、化学反応を起こしたふたりの旋律《なよたけのテーマ》と《わらべ唄》。サウンドトラック盤と組曲版を聴き入りながら、念願のコラボレーションがつくりあげた作品の尊さとしっかり感じとることができる命のぬくもりのようなもの。

2015年には、映画『かぐや姫の物語』の劇中歌「わらべ唄」と「天女の歌」が女声三部合唱曲に。さらには久石譲作曲《なよたけのテーマ》に高畑監督が新たに詞を書き下ろし「なよたけのかぐや姫」として新しい命が吹き込まれました。映画制作時から「わらべ唄」は歌詞も切り離せない映画のなかで重要なものと語っていた高畑勲監督。そこへ歌詞が与えられて映画から羽ばたくことになった「なよたけのかぐや姫」。これらの楽曲は「アートメント NAGANO 2016」でCD盤と同じ東京混声合唱団によって初演されています。

 

 

 

こう想いめぐらせると。

理想的な映画監督と作曲家の関係があるということは、幸せなことであると同時にそれはまた奇跡です。お互いに尊敬し対等でもあるきびしい関係。そんな出会いによって生まれた楽曲たちもまた幸せものであると同時に強い生命力を持ちえます。名作に寄り添う名曲たちは、作曲家の創造性とポテンシャルを最大限に引き上げる監督の力と、見事に挑戦し打破した作曲家の新しい可能性の開花。

 

こう想いめぐらせると。

久石さんが手がけたスタジオジブリ作品は、メインテーマであり主題歌である楽曲もたくさんあります。また映画ではインストゥルメンタルとして主要テーマ曲だったものが、のちに歌詞をつけて生まれ変わった楽曲もたくさんあります。

後者でいえば、「アシタカとサン」(もののけ姫)、「いのちの名前」「ふたたび」(千と千尋の神隠し)あたりがすぐに思い浮かぶ名曲です。イメージアルバムでは歌曲中心だった映画『となりのトトロ』、映画『千と千尋の神隠し』、映画『崖の上のポニョ』、公開後歌曲集が企画された映画『魔女の宅急便』など。はたまた「人生のメリーゴーランド」(ハウルの動く城)も実は歌曲としてカバーされています。

そこには、歌であっても楽器であってもしっかりとした性格をもったメロディ、はじめから念頭に音楽制作されているという紛れもない事実。また映画監督の強い意志や要望があってはじめて生まれた楽曲もあるという紛れもない事実。作曲家と監督の強い化学反応によって書かれ導かれた幸せな曲たち。

いい音楽とは、聴き継がれるための、愛されつづけるための強いエネルギーをそのメロディに宿しているのかもしれませんね。スタジオジブリ音楽はメロディの宝庫である。久石譲音楽はメロディの宝庫である。

それではまた。

 

reverb.
イタリア的な「唄」をコンセプトにした久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)、自身の映画音楽からイタリア映画のカバーまで大人のノスタルジー漂うドラマティックな作品です♪

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Info. 2018/05/10 「ジブリの教科書 18 風立ちぬ」(文春ジブリ文庫)発売

実在の人物である零戦の設計家、堀越二郎をモデルに、堀辰雄の小説『風立ちぬ』にも着想を得て描かれた、宮崎駿原作・脚本・監督による2013年公開の作品。

国内外で高い評価を受けた本作について、柳田邦男をはじめ、武田頼政、小橋めぐみ、岡崎琢磨、岩宮恵子、半藤一利らが読み解く。

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