Posted on 2022/03/25
3月19日開催「久石譲指揮 新日本フィルハーモーニー交響楽団特別演奏会」です。当初予定から2年越しの開催となりました。プログラムも新たにアップデートされ新日本フィル×三重公演はいつも早々と完売御礼になる人気公演です。
今回ご紹介するのは、スコア片手にふじかさんです。ミニチュアスコアをゲットして予習した「幻想交響曲」はとても具体的でわかりやすい観察眼です。4/3公演でもプログラム予定の作品です。ぜひこのレポートから聴きどころをチェックして会場へ足を運ぶことおすすめします。そして久石譲プログラムは疑うことなく音楽が雰囲気がありありと伝わってきます。
久石譲指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会
[公演期間]
2022/03/19
[公演回数]
1公演
三重・三重文化会館
[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
[曲目]
久石譲:DA・MA・SHI・絵
久石譲:Spirited Away Suite /「千と千尋の神隠し」組曲
—-intermission—-
ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14
—-encore—-
久石譲:Merry-Go-Round
[参考作品]
久石譲指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団特別演奏会のレポートをさせて頂きます。
2022年3月19日 三重県文化会館大ホール 16時開演
当初は2020年に公演予定でしたが、コロナ禍の影響で延期に次ぐ延期。2年越しにようやく今回の演奏会が実現しました。
2年という延期の為か、プログラムの良さなのか、チケットは即日完売。なんとかチケットを入手でき、コンサートを観ることができました。
ホール内に入ると指揮台の近くには大屋根を外したグランドピアノが備え付けられており、久石さんのコンサートに来たんだと実感。そしてステージの奥の方までぎっしりと並ぶ譜面台を見て、今回の編成の大きさに驚かされました。今回、私が当選した座席は2階下手側のボックス席。久石さんの手元から指揮台、そしてステージ全体まで見渡すことができる良席でした。
開演少し前になると、続々とオーケストラの団員達がステージに集合し、コンマスの西江さんも登場しました。久石さん×新日本フィルのコンサートで西江さんがコンマスを務めるケースはなかなか無く、新鮮な組み合わせにワクワクが増していきます。
チューニング後、久石さんが登場。いよいよコンサートが始まります。
・Joe Hisaishi『DA・MA・SHI・絵』
最近の久石さんのコンサートのプログラムの基本である、現代・映画音楽・クラシックという3本柱の構成。今回の現代パートは、『DA・MA・SHI・絵』がセットリスト入り。演奏されるのは、昨年9月の日本センチュリー交響楽団とのツアー以来となります。
今回、テンポは少し遅めな感じでスタート。1stヴァイオリンの導入から、煌めくミニマリズムの世界へと連れていかれます。指揮台がよく見える座席だったので、久石さんの手の動きでの指示もしっかりと見ることができました。金管のロングトーンが出てくるパートでは左手を使って全体の音量を調整。ゆっくりとボリュームを落としていく様子も見られました。
後半ではパーカッションが増えていき、どんどん盛り上がっていきますが、パーカッション担当も大忙しで演奏している様子も印象深かったです。
・Joe Hisaishi『Spirited Away Suite』
久石さんの海外演奏会ではよくプログラムされている本楽曲ですが、国内での演奏は2018年のWDOツアー以来となっていました。久石さんのピアノで始まり、ピアノで終わる、とても贅沢な『千と千尋の神隠し』交響組曲です。
冒頭は久石さんの和音で始まりますが、弾き始めるまでのタメが長かったです。久石さんが、ピアノに向かってから何度も鍵盤と膝の上を手が行ったり来たり。右手の様子もかなり気にしている動作もありました。骨折後の状態も少し心配になりました。
いざ演奏が始まるとあっという間に『千と千尋の神隠し』の世界へ。『あの夏へ』の切ない旋律は、久石さんのピアノの音色も加わって、とても繊細で美しい調べに。そこから始まる奇妙な世界へはスリリングなオーケストレーションで手に汗を握ります。
2018年のWDOでの初演では楽曲構成を聴くのが精いっぱいでしたが、今回は音源を何度も何度も聴いたので、安心して聴くことができました。それでも改めて聴くと、『夜来る』『底なし穴』『竜の少年』『カオナシ』などはとても激しい楽曲で、非現実的の世界で次々と起こる、これまた非現実な展開を激しい楽曲達で表現しているんだと思いました。それとともに艶やかで陽気的な『神さま達』、日常の朝を感じさせる『湯屋の朝』など本当に多彩な楽曲で構成されています。
後半での重要な楽曲『6番目の駅』。今回は久石さんは指揮のみで、ピアノは高橋ドレミさんが担当されていました。『ふたたび』では西江さんの美しいヴァイオリンの音色や、中間部での空中浮遊のシーンでの印象的なオーケストレーションもしっかり堪能できました。
そして『帰る家』での、華やかなお見送りから、『あの夏へ』のテーマの再現。こちらは久石さんが再び弾き振りで魅了します。エンディングでは久石さんのピアノソロで終わります。最後の和音では、久石さんのピアノの音色が消えるまで弦楽も静かにヴィブラート。とても繊細な演奏にとても感動しました。
ー休憩ー
休憩中に舞台替え。指揮台そばのピアノは撤去され、打楽器隊の楽器も配置が変わっていました。
Hector Berlioz『Symphonie fantastipue Op.14』
『ⅰ.Reveries,Passions』
冒頭の悲しげで途切れ途切れの旋律を1st Vn、2nd Vnへと指示を出す久石さん。対向配置によるステレオのようなサウンドから一気に夢か現実か分からない幻想の世界へ旅立ちます。
やがて、メインテーマと書いてしまうと少し違うかもしれませんが、解説等では「イデー・フィクス」と表記されている特徴的なメロディが姿を現します。久石さんのアプローチの仕方の特徴なのか、あまり歌わず、すっきりと縦軸がきっちりそろったような表現に感じました。
そこから様々な感情が揺れ動く、次々と雰囲気の変わる展開に落ち着く暇がありませんでした。ストリングスが大きく上下する箇所では、ザクッザクッと歯切れのよい演奏で、近年のブラームスやベートーヴェンの作品演奏に近い雰囲気も感じられました。
1楽章から2楽章の間の休みは短めで、すぐに2楽章に入りました。
『ⅱ.Un bal』
2楽章は優雅な舞踏会を表現した楽曲。心地よいワルツに、ハープの音色が華を添えます。テンポ感はあまり速くなく、明るく楽しげな様子が伝わってきます。1楽章で提示された「イデー・フィクス」も3拍子に変奏されて、とても美しいフルートの音色が印象的でした。久石さんも大きな振りで全体を牽引していっているようでした。華やかな盛り上がりがピークを迎えたのちに、少し寂し気な「イデー・フィクス」が木管の変奏で聴こえてくるのが印象に残ります。
『ⅲ.Scene aux champs』
冒頭のイングリッシュホルンとオーボエの掛け合いは、片方がステージ上手の舞台袖から音色が聴こえてきました。この楽章はのどかで牧歌的なはずなのに、とても悲しげ。「イデー・フィクス」もとても悲痛な感じに奏でられます。久石さんの、抑えて抑えて…「しーっ」というようなジェスチャーが何度も左手から指示されていました。
再度冒頭の木管のメロディが再び現れますが、掛け合いは無くなっていて、4人の奏者によるティンパニの演奏で遠くで鳴る雷鳴が表現されて、不気味な雰囲気で幕を閉じました。
『ⅳ.Marche au supplice』
タイトルの『断頭台への行進』とあるように、一番不気味でショッキングな4楽章。3楽章からは一転、激しいリズムと不気味な音色での力強い行進が始まります。久石さんもスピード感のある力強い指揮をしていました。
盛り上がりのピークを迎える後半部では、とてもエネルギッシュな演奏で、昨年9月に新日本フィルとの共演で披露されたマーラーの『Symphony No.1』の4楽章も感じることできました。
終盤の走馬灯のように少し流れる「イデー・フィクス」のメロディから断頭台にてギロチンが落ちる瞬間までの音色は本当に衝撃的でした。これが生演奏の醍醐味でありましたが、リアルすぎてかなりショッキングな瞬間でもありました。
『ⅴ.Songe d’une nuit du Sabbat』
4楽章から5楽章への繋ぎはアタッカで休む間もなく続けて演奏されました。
禍々しい雰囲気の最終楽章。すべての楽章で出てくる「イデー・フィクス」も装飾音がついたような不気味な変奏に変わり果ててしまっていました。上手の舞台袖から鐘の音色が聴こえ、チューバによる力強いメロディが続きます。混沌と不気味さ、非現実さ、様々な要素が渾然一体となって激しく力強いフィナーレへ向かいました。
ロマン派の始まりに位置されているというこの『幻想交響曲』。聴いてみるとベートーヴェンの死後、数年後に初演されているのにかかわらず、とても近代的な印象を受けました。恋人をモチーフにしたメロディが多用されるなど、この時代にはかなり前衛的な作品だったのだと思いました。
そして、どこまでが現実でどこまでが夢なのかわからないような構成。作品の規模は違いますが、どこか久石さんの『交響幻想曲 かぐや姫の物語』に通ずるものも感じました。『かぐや姫の物語』の作中でも『絶望』『飛翔』などのシーンでは、現実と夢との区別が曖昧です。牧歌的な『春のめぐり』や非現実的な『天人の音楽』、繰り返し表現される『なよたけ』のテーマなど、どこかこのベルリオーズの『幻想交響曲』と結びつくと思いました。
楽曲の雰囲気に圧倒されたのか、会場は拍手喝采。恒例の楽団メンバー紹介、何度かのカーテンコールの後に、アンコールへ。
Encore
・Joe Hisaishi『人生のメリーゴーランド』
最近のコンサートでのアンコールの鉄板となりつつある『人生のメリーゴーランド』がセレクトされました。軽やかなワルツが、会場を明るく、笑顔に包み込まれます。久石さんの軽やかなステップを踏みながらの指揮もカッコよく見えます。大きく転調したのちに、壮大なフィナーレへ。演奏が終わった後に、会場は割れんばかりの拍手に包まれました。
久石さんは何度かのお辞儀ののちに、弦楽のメンバーと腕を合わせコンサートは終わりました。その後、なかなか拍手が終わらず、楽団メンバーもステージから退場したのちに、久石さんが再登場。会場内に再度お辞儀と手を振って、大盛り上がりの三重公演は無事に終了しました。
4月も久石さんと新日本フィルの共演が続きます。各地でどのような音色が作られるのか、今後も楽しみです。
2022年3月23日 ふじか
さて、すっかりコンサート・レポートに魅了されてしまい、幻想交響曲を聴きながら書いています。聴いてみようかなと動かしてしまうほどですね。物語的・楽器的・歴史的、いろいろな視点からのポイントをうまくわかりやすくピックアップされていて、ちょっとこの楽章だけでも聴いてみたいと思った人もいるかもしれませんね。すごいです。
ステージにほどよく近い2階ボックス席で、ステージ上の動きを細かく観察できたのもよくわかりますね。本当に映像のように雰囲気が伝わってきます。1階最前列は贅沢席ですけれど、ステージを少し見上げるかたちになって、今どの楽器が鳴っているのか確認できないこともあります。後ろの方はほぼ見えません。そのぶん、体に響くほどの圧倒的な音量や指揮者や奏者の息づかいまでも聴こえてきそうで。贅沢で悩ましい。会場のどの場所で聴いた、コンサートの印象や記憶に残る大きなポイントのひとつです。どれだけコンサートに行っても、あのコンサートはあの辺りで聴いたなあと覚えていたりするものです。座席は選べませんけれど、思い出は自分でつくるものですからね。
コンサートに行ってからレポート書きあげるまでに約1週間ですね。日々の生活のなかでなので、やっぱりそのくらいは普通にかかるものです。しかも自分だけが見る日記じゃなくて、人に見てもらうためのレポート、人に伝わってほしいためのレポート、たくさんのエネルギーを注いでもらっていると思います。本当にいつもありがとうございます!予習に1週間、復習に1週間。コンサート1日分の感動は、こうして日常生活の前後に広がりながら、感動や記憶も膨らんで大きな思い出になっていきますね。
本公演の話。
会場で配布されたコンサート・パンフレットには、当日のオーケストラ編成表もはさまれていたようです。これがあると好きな奏者や好きな楽器もチェックしやすいですね。弦14型の3管編成で直近の久石譲コンサートのなかでは大きめの編成です。とてもステージぎっしりダイナミックな音楽だったと思います。
もうひとつ。
「DA・MA・SHI・絵」のプログラムノートが更新されていました。直近の新作では、久石さんが音楽的に語ってくれている楽曲解説が少し増えたように感じとてもうれしく思っていました。僕の知る限りで、CD・楽譜・コンサート、この解説は書き下ろしような気がします。曲を聴く手引きになってくれるから、これからもとても大歓迎です!
DA・MA・SHI・絵
「DA・MA・SHI・絵」は1985年の『α-BET-CITY』というソロアルバムのために作曲した。その後、小編成のアンサンブルで演奏していたが、2009年の『Minima_Rhythm』というアルバムのために、オーケストラ作品として完成した。
冒頭で演奏される第1ヴァイオリンのモチーフから発生した約8個のフレーズの組み合わせで全体を構成している。また金管楽器の激しい連打によって、キーがA majorとB flat majorに行き来することで全体のカラーを変えている。後半では8個のモチーフの組み合わせに金管楽器のコラールが加わり息の長いエンディングになっている。とても快活で前向きな曲になっている。
タイトルはM.C.エッシャーから触発されて付けた。彼の特定の絵ではなく、ロジカルであり、ユーモアもある作風に共感したからである。
久石譲
(楽曲解説 ~「久石譲指揮 新日本フィルハーモーニー交響楽団」コンサート・パンフレット より)
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reverb.
4月の展覧会の絵でお会いできるでしょうか(^^)
*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number]
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