Posted on 2023/08/04
米津玄師「地球儀」インタビュー
「君たちはどう生きるか」主題歌制作の4年を振り返って
米津玄師の新曲「地球儀」についてのインタビューが実現した。 “Info. 2023/08/04 米津玄師「地球儀」インタビュー (Web 音楽ナタリーより)” の続きを読む
Posted on 2023/08/04
米津玄師「地球儀」インタビュー
「君たちはどう生きるか」主題歌制作の4年を振り返って
米津玄師の新曲「地球儀」についてのインタビューが実現した。 “Info. 2023/08/04 米津玄師「地球儀」インタビュー (Web 音楽ナタリーより)” の続きを読む
Posted on 2023/07/31
7月21~24日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」です。今年は国内3都市3公演と少なめのスケジュールだったこともあり、チケットを取るのは例年以上に至難だったかもしれません。またコロナ禍以降の新定番となりつつあったライブ配信も今年は見送りとなりました。会場に集まれた人たちは期待と興奮の熱気をおび各会場とも大きな歓声とスタンディングオベーションで最高潮を迎えました。
今回ご紹介するのは、WDO2018/2019/2021/2022/2023と足かけ5回連続WDOレポのふじかさんです。とくれば読みごたえもお墨付き。正直に言っちゃうと、これはオーケストラやコーラスの皆さんが喜んでくれるだろうレポートです。ここまでしっかり聴いてくれてるんだ、と。スマホのカメラが3眼になったみたいに、豊かな解像度にびっくりします。それはもちろん久石譲ファンが見ても新しい発見や新しい面白さのアングルの玉手箱。どうぞお楽しみください!
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023
[公演期間] 
2023/07/21,22,24
[公演回数]
3公演
7/21 東京・サントリーホール
7/22 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/24 大阪・フェスティバルホール
[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣
合唱:栗友会合唱団(東京/名古屋)日本センチュリー合唱団(大阪)
[曲目]
クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
1.Woman
2.Ponyo
3.Les Aventuriers
—-intermission—-
モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」 / Symphonic Suite “Ponyo”
—-encore—-
Ask me why
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra
[参考作品]

WDO2023東京公演の様子をレポートさせて頂きます。
2023年7月21日 サントリーホール 19:00開演
今年のWDOは『交響組曲 崖の上のポニョ』、ドビュッシーの『交響詩 海』の2曲を軸に構成し、~French Connection~という副題がつくコンサートになりました。
今回は例年より少なく3公演。チケット入手は困難を極めていたと思います。幸いにも4月の最速先行にて、東京公演を当選。サントリーホールに行くのは2011年のWDO以来となりました。
会場の18時前にカラヤン広場へ到着。広場自体も広いため、いつものような熱気の溢れる開場待ちという雰囲気ではなく、新日本フィルの定期演奏会のようなゆったりとした時間が流れていました。チケットもぎりを過ぎると、コロナ5類へ移行したこともあり、バーカウンターも営業再開中。本当にコロナ前のような雰囲気に戻っていました。
ホール内に入ると、ホールの美しさにうっとりしてしまいます。ステージを囲むような座席配置、美しい形状の照明器具。宝石箱のような雰囲気にわくわくします。徐々にステージに楽団メンバーが現れ、音出し練習。今回は木管の音色で『海』のフレーズが垣間見えました。
19:00ちょうどくらいに楽団メンバーが全員登壇。チューニングののちに、いよいよ久石さんの登場です。今回は久石さんと豊嶋さんがガッチリと握手ができるようになっていました。
Claude Debussy『La Mer,trois esquisses symphoniques pour orchestre』
第1楽章『De l’aube a midi sur la mer(海上の夜明けから真昼まで)』
コントラバスとティンパニの導入から、泡を感じさせる2台ハープの音色。チェロとヴィオラの1つ目の動機が顔出すとヴァイオリンのトレモロ、さらに木管により1つ目の動機が次々と顔を覗かせます。イングリッシュホルンとトランペットにより2つ目の動機が流れると、盛り上がり始め、主題が流れてきます。雄大で壮大な海の旅へ誘います。
ドビュッシーの曲は2022年4月の『牧神の午後への前奏曲』の時もそうでしたが、生で聴くと音源と全然印象が変わってきます。冒頭のストリングスのトレモロの美しさ、オーボエとソロヴァイオリンの掛け合いの繊細さ。旋律の裏で彩りを添えるフルートの美しさ。中間部でチェロが4パートに分かれるところは、男性テノールのような迫力がありました。後半は様々な楽器が絡み合い、まさしく海のようなうねりを聴かせてくれました。
第2楽章『Jeux de vagues(波の戯れ)』
タイトル通り、どのパートも波を表すような上下へ細かく動く旋律が随所に散りばめられています。冒頭のヴァイオリンのトレモロを伴うメロディも美しく、そのメロディはフルートへと受け継がれます。時折出てくるハープのグリッサンドも目を惹きます。楽曲が激しく動くところでは、久石さんも大きな身振りで全体に指示を出していきます。コーダ部に出てくるハープの音色は深海のような雰囲気も感じさせ、静かに終わります。
第3楽章『Dialogue du vent et de la mer(風と海の対話)』
怪しげな低弦の序章とともに1楽章でのモチーフが次々と聴こえてきます。テンポが上がってくるところは、久石さんも重心を右に傾けて全体を引っ張ていくような指揮をしていました。弦楽のうねりに2つのモチーフが次々と折り重なると、本当に大海原のような壮大な風景が浮かんできます。中盤ではホルンによるコーラルのような美しいハーモニーも聴こえてきます。2つのハープが再び聴こえてくるシーンは後半に流れるであろう『深海牧場』のような雰囲気も感じさせます。最後は再び2つのモチーフが次々となだれ込み、大きなうねりになって壮大なフィナーレとなりました。
FOCでは主に古典を、新日本フィルや日本センチュリーでの定期演奏会では近現代の曲を演奏したりとクラシックでも様々な曲の指揮をしている久石さん。今回のこの曲の選曲は2022年の「すみだクラシックへの扉」の延長線にあるような気がしました。古典曲よりも抽象的な表現が増えた印象派の曲たちを作曲家の目線での解釈と演奏は毎回楽曲の雰囲気をガラッと変えてくる感じがします。2024年2月の新日本フィルとの『春の祭典』も楽しみになりました。
Joe Hisaishi『Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings』
国内では2019年WDO以来の演奏となりました。公演直前に急遽演奏が発表されたこの小品。確かにFrench Connectionにふさわしい楽曲となりました。
『Woman』
複雑な伴奏のリズムに乗る優雅で可憐な雰囲気のメロディ。ですが、疾走感もあり短めの曲ですが、いろんな表情を魅せてくれます。途中ピアノが若干遅れるように聴こえる部分がありましたが、久石さんが指揮にて操縦してもとに戻るシーンもあったような気がします。演奏後のハープとピアノへの拍手が若干小さく、客席に拍手を煽るように指示する久石さんの姿も。
『Ponyo』
昨年のWDOでは『Madness』が2度ほど演奏されましたが、今回は『Woman』が入ったため、2曲目の『Ponyo』が前半でも後半でも演奏する形に。演奏が始まって2ndヴァイオリンがピチカートでメロディを奏でる部分では、久石さんがにこやかに微笑みながら指揮していたのが印象に残りました。後半、コントラバスソロとピアノのみになるところ、お互いの距離は10メートルくらいは離れているのでしょうか? かなりの距離があるように感じましたが、ピタリと息の合う演奏には感激しました。最後はピチカートでポンッとフィニッシュです。
『Les Aventuriers』
久石さんは5拍子をわかりやすく指揮をしていました。テンポの速い5拍子のリズムは聴いていてわくわくします。サビの部分では久石さんも楽しそうにステップを踏むように指揮をしていました。2回目、3回目のサビではこのアレンジから追加になったヴィオラの副旋律をしっかり堪能。最後はズチャッ!とカッコよくフィニッシュでした。
休憩
休憩中にピアノが指揮台の手前に設置されました。4月、コンサート発表時には「指揮・ピアノ 久石譲」と記載がありましたが、しばらくすると、いつの間にか「指揮 久石譲」のみの記載に変更になっていました。今回は久石さんのピアノはお預けかな?と思っていましたが、プログラムにもしっかりと「Conductor,Piano : Joe Hisaishi」と書いてありましたので、うれしく思いました。再び休憩中にも木管の音色が聴こえてきました。『La Valse』や『ポニョ』のメロディが会場に響いていました。
Mrurice Ravel『La Valse,Poeme choregraphique pour orchestre』
後半の最初はラヴェルの『La Valse』からスタート。怪しげな音型の低弦からはじまり、木管もそれに続き怪しいメロディを紡ぎます。徐々にワルツが顔を出してきます。優雅なワルツの雰囲気になると、久石さんもゆったりと指揮をしていたのが印象的。激しい部分では強めに指揮棒を振り下ろしたりするような仕草も。
ワルツといえば、2022年3月指揮の『ベルリオーズ:幻想交響曲』の2楽章でも優雅な雰囲気のワルツを披露していました。楽曲が進むにつれて、転調を繰り返し、ワルツの形を保ちながらも徐々に崩れていき、テンポも速くなったり遅くなったり、2拍目3拍目が強調されたりなど、だんだん踊るのが難しくなってくるような展開が聴いていてとても面白かったです。激しさがピークを迎えたとき、ダン!ダダダダ、ダン!!と爆音で突如曲が終わりました。
Joe Hisaishi『Symphonic Suite“Ponyo”』
そして、本編最後の曲は、ジブリ作品交響組曲化の最後になった『ポニョ組曲』です。こちらは聴きながら、わかる範囲でサントラの曲目を交えながら感想を綴っていきます。途中、サントラとは構成が異なっている部分もあるので、不確かな部分もかなりあります。参考程度にどうぞ。
1.『深海牧場』
雄大な弦の調べに、ハープの水流のような音、コーラスのハーモニーが一気に『崖の上のポニョ』の世界へと誘います。中間部のピチカートにグロッケンの音で『ポニョ』のテーマが見え隠れするところも加わっていました。最後の豊嶋さんのヴァイオリンソロが美しく曲を閉めます。
2.『海のおかあさん』
今回はソプラノのゲストはいませんでしたので、この楽曲は混成合唱曲へとアレンジされていました。女性パートから入り、「きょうだいたち~」のパートから男声も加わります。中盤ではコーラス、オーケストラの伴奏に加わるヴァイオリンソロパートもありました。
3.『出会い』
ピチカートの導入で始まる、ポニョと宗介の出会いも組曲へ
4.『浦の町』
ポニョを乗せて、宗介とリサがドライブするシーンにかかるこの曲。途中、トライアングルの音色がよく響ていました。中盤はフジモトのテーマが勇ましく入ってくるところは壮観でした。
5.『クミコちゃん』
ポニョに水をかけられて泣いてしまうクミコちゃんのシーンも音楽で完全再現です。
6.『ポニョと宗介』
海からポニョを連れ戻すために波が襲ってくる不気味な低音が印象に残ります。
7.『からっぽのバケツ』
ポニョが海へ連れ去れた後の宗介の心情を現した曲。冒頭のメロディを2nd Vnがゆったりと奏でて、途中から1st Vnへバトンタッチ。ライブならではと対向配置による音の臨場感でとても琴線に響きます。
8.『波の魚のポニョ』
ポニョが再び宗介の元へ向かう力強い楽曲。この組曲では一部『トキさん』のパートが混ざっていた気がします。
9.『ポニョと宗介Ⅱ』
このあたりが曲が色々混ざっていた箇所で、結構記憶があやふやです。進むにつれて『ポンポン船』や『赤ちゃんとポニョ』、『船団マーチ』の一部も入っていたような… 収録も入っていたので、TV放送や配信時には要チェックが必要かと思います。
10.『宗介のなみだ』
お母さんに会いたくなって、思わず涙してしまう宗介にそっと寄り添うこの曲。久石さんも指揮をやめ、ピアノへ。オケが鳴りやみ、静まり返った空間に、久石さんの優しいピアノソロが会場に温かく広がります。サントラより少し長く、コーダでは転調をして、次の曲への橋渡しも。
11.『母の愛』
久石さんのピアノから受け継いで、続くのは美しいコーラスの響き。
12.『いもうと達の活躍』
そして、組曲も終盤へ。明るく快活なメロディに、宗介のテーマも彩を添えます。『深海牧場』のテーマが顔を出すと、物語のフィナーレへ。
13.『崖の上のポニョ』
最後はメインテーマで。12~13の流れは世界ツアーバージョンと同じ流れでした。シンプルで誰でも口ずさめるメロディを壮大なオーケストラで。コーラスによる歌詞は、今回は英詞。久石さんも楽しそうにリズムを取りながら指揮をしていました。2回目のBメロのピアノソロは、2011年くらいまでは久石さんが弾いていましたが、今回は指揮のみに変更。最後は大きく盛り上がりながらフィナーレへ向かいました。
曲が終わるやいなや、爆発するような大きな拍手。ここからは恒例の奏者への紹介&拍手のシーンへ。楽団メンバーも笑顔満点でこちらも笑顔がこぼれます。そして、何度かのカーテンコールののちにアンコールへ。
Encore
Joe Hisaishi『Ask me why』
アンコール1曲目はピアノソロとは予想はしていましたが、演奏された曲はまさかの公開されたばかりの映画『君たちはどう生きるか』からでした。コンサートの直前に丸の内にてこの映画を見たばかりで、まさかすぐのコンサートでスクリーンから流れていた曲を、作曲者本人の演奏で聴けるなんて!本当にびっくりしました。美しい和音からはじまり、連打音が続くシンプルなメロディ、どこか懐かしさのあるサビ。2コーラスくらい繰り返した構成になっていたと思います。
Joe Hisaishi『World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra』
最後の楽曲は恒例になったこの曲に、豪華合唱付き。大好きな大好きなこの曲ですが、今回はアンコール1曲目の衝撃が強すぎてあんまりじっくり聴けてなかったのが心残りです笑
WDO2ndシーズンは今回で終わりで、数年休むとの記載がプログラムにありました。幸運なことにこの2ndシーズンは2014年から欠かさずにコンサートへ行くことができました。およそ10年の間にも世界は目まぐるしく変わりました。そしてコンサートで毎回演奏されるこの曲も、その年その年で大きく意味合いが変わり、本当に大事な1曲となりました。
当初は戦後の鎮魂の意味合いも含まれていましたが、2020年以降はコロナ禍での人々の願い、そして近年では大きな戦争の終結と平和への願いを込めて。いまではWDOのテーマ曲でありながら、久石さんの海外公演でも積極的に演奏するようになりました。「世界の夢」を希望の鐘の音色に乗せてこれからも世界中に響き続けますように。
演奏が終わると再び会場は割れんばかりの大きな拍手の渦へ。次々とお客さんが立ち上がり、総立ちで拍手喝采となりました。久石さんは何度かお辞儀をしたあと、弦楽の主要メンバーと握手を交わしていました。その後、楽団メンバー、合唱団のメンバーも退場した後も拍手は鳴りやまず、久石さんが再びステージへ。歓声と拍手で大盛り上がり、東京公演は無事に幕を閉じました。
WDOは数年の休止に入るようですが、久石さんの活動はまだまだ続いていきます。国内での次回公演は同じく新日本フィルとの定期演奏会。久石さんも新曲を書き下ろし、マーラーの『交響曲5番』を振ります。次回はどんな素晴らしい演奏になるか今から楽しみにしています。
2023年7月28日 ふじか

コンサートが近づいてくると音源で予習するふじかさんです。そこからコンサートの楽しみは始まっているんですね。さらに上をいくのがクラシック作品のスコアにまで目を通して、その作品の機微をつかもうとしている。なかなかここまではできません。だから超広角から望遠まで3眼レンズなレビューになるんですね!ほんとすごいっ!
レビューにもありました、ドビュッシー作品は生で聴くと音源とは全く印象が変わってくる、ほんとそうだと思います。指揮者とオーケストラの表現、そして聴いている客席の場所、いろいろなものが合わさってその時だけの響きのグラデーションに包まれるような気がします。
『交響組曲 崖の上のポニョ』のサントラ曲目について、僕のメモしていたものとほぼ同じです。「ポンポン船」や「赤ちゃんとポニョ」もパートが入れ替わったりしていたような気もしますけれど、そのほか含めリストアップするならこの曲目たちになるのかなと思います。ちょっと不確かなところもあるので僕のレビューには記しませんでしたけれど、、同じです。間違ってたら、、同じです。配信や放送が待たれるところです。
東京公演
リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019
公演風景
【WORLD DREAM ORCHESTRA 2023】東京公演、熱狂で終了!熱い拍手ありがとうございました。明日は名古屋です! pic.twitter.com/0EbbIQ0asX
— 久石譲コンサート2025 (@joehisaishi2025) July 21, 2023
ワールド・ドリーム・オーケストラ2023@サントリーホール
万雷の拍手の中終演です!👏👏👏👏🎥#久石譲 の”一般参賀”のご様子をお届けいたします。
暑い夏を吹き飛ばす爆裂のラ・ヴァルス、そして交響組曲『崖の上のポニョ』の大いなる愛の力に感激の声続々です。ご来場ありがとうございました☺️… pic.twitter.com/RCW8iAUwd0
— 新日本フィルハーモニー交響楽団 (@newjapanphil) July 21, 2023
こちらは、いつものコンサート・レポートをしています。

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」
久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。
みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。
reverb.
初めてのコンサートも、回数重ねたコンサートも、記憶や思いはそのままにしておくと忘れていってしまいます。もったいない!ちょっとでも書きのこすところから。

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number]
このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪
Posted on 2023/07/27
2024年6月20-22日、久石譲コンサートがカナダ・トロントで開催されます。2022年の初登場からふたたび共演オーケストラはトロント交響楽団です。 “Info. 2024/06/20-22 「Hisaishi Conducts Hisaishi」久石譲コンサート(トロント)開催決定!!” の続きを読む
Posted on 2023/03/18
NHK「ディープオーシャン」シリーズ第2弾が決定しました。2023年度、今後NHK総合でも放送予定となっているようです。 “Info. 2023/03/19 [TV] NHK「ディープオーシャンII」放送決定! 音楽:久石譲 【7/27Update!!】” の続きを読む
Posted on 2023/07/26
7月21~24日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023」です。今年は国内3都市3公演と少なめのスケジュールだったこともあり、チケットを取るのは例年以上に至難だったかもしれません。またコロナ禍以降の新定番となりつつあったライブ配信も今年は見送りとなりました。会場に集まれた人たちは期待と興奮の熱気をおび各会場とも大きな歓声とスタンディングオベーションで最高潮を迎えました。
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023
[公演期間] 
2023/07/21,22,24
[公演回数]
3公演
7/21 東京・サントリーホール
7/22 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/24 大阪・フェスティバルホール
[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣
合唱:栗友会合唱団(東京/名古屋)日本センチュリー合唱団(大阪)
[曲目]
クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
1.Woman
2.Ponyo
3.Les Aventuriers
—-intermission—-
モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」 / Symphonic Suite “Ponyo”
—-encore—-
Ask me why
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra
[参考作品]
さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。
今年のWORLD DREAM ORCHESTRA(WDO)は”French”がテーマです。
クラシックではドビュッシーの交響詩「海」とラヴェルの「ラ・ヴァルス」、エンターテインメントとしては「Woman」と最新の交響組曲「崖の上のポニョ」を演奏します。また、今回は合唱も入ります。東京と名古屋では栗友会の皆さん、大阪では日本センチュリー合唱団の皆さんと共演します。
WDOは優れた楽曲をオーケストラ作品にするというコンセプトで2004年に始まり、2011年まで続きました。いわゆるファースト・シーズンです。その後数年、休止しましたが、2014年にセカンド・シーズンとして自作のミニマル音楽と宮崎駿さんの映画に提供した音楽を再構成した「Symphonic Suite(交響組曲)」を発表してきました。
今年で8作目になりますが、「シンフォニック・ヴァリエーション・メリーゴランド」(「ハウルの動く城」)、「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」がすでにあるので、新作を除く全作完了です。つまりセカンド・シーズンも終了です。
しばらく休止して、新たなアイデアが浮かび次第、また再開します。
応援していただいた皆様に感謝するとともに、今夜のコンサートを楽しんでいただけたら幸いです。
2023年7月
久石譲
ここからはレビューになります。
今年のWDOはテーマに「フレンチ・コネクション」を掲げ、昨年までのオール久石譲プログラムとは異なりクラシック作品からも並んだことが大きな特徴です。それでもいつものクラシック演奏会とはやっぱり雰囲気がちがう、若い客層や初めてのコンサートの人も多く、オーケストラ・コンサートに触れるきっかけとしてもWDOはその裾野を広げていると感じます。全公演SOLD OUT&スタンディングオベーションの大盛り上がり、すでにあらかじめ約束されたことのようです。
クロード・ドビュッシー:「海」管弦楽のための3つの交響的素描
La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre
第1楽章 海上の夜明けから真昼まで De L’aube a midi sur la mer
第2楽章 波の戯れ Jeux de vagues
第3楽章 風と海との対話 Dialogue du vent er de la mer
久石譲のコメントから振り返ります。
”「ポニョ」では、クラシックの純正なスタイルをそのまま採りました。宮崎さんは、どちらかというと印象派のドビュッシーやラヴェルのような音楽で情景を描き出すのはお好きではないと思うので、僕も印象派的なアプローチをずっと避けてきたんです。しかし今回は”海”を舞台にしたファンタジーですし、これだけイマジネーション豊かな世界が展開しますから、音楽を書くための方法論として、印象派的なテイストが少し入ってもいいかな、と。”
(Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より 抜粋)
2008年当時こう語っていたとおり、すべてはここを起点としています。WDO2023でフランス印象派といわれるドビュッシーやラヴェルの作品をプログラムした理由が見えてきます。宮崎駿監督もまた映画『崖の上のポニョ』製作前に「オフィーリア」という一枚の絵を見て絵の描き方に強く影響を受けたというエピソードもあります。印象派より少し前ラファエル前派の時代です。今回はコンサート・パンフレットも上述の簡潔な久石譲メッセージのみでした。もう少し過去の久石譲コメントから振り返ってみます。
”この曲は小節数にするとそんなに長いものではないんですが、この中に今後の音楽の歴史が発展するであろう要素が全部入っていますね。音楽というのは基本的に、メロディー・ハーモニー・リズムの3つです。メロディーというのはだんだん複雑になってきますから、新しく開発しようとしてもそんなに出来やしないです。そうすると「音色」になるわけです。この音色というのは現代音楽で不協和音をいっぱい重ねて特殊楽器を使ってもやっぱり和音、響きなんですね。そうするとそっちの方向に音楽が発達するであろう出だしがこの曲なんだと思います。20世紀の音楽の道を開いたのはこのドビュッシーの「牧神」なんじゃないかなと個人的にすごく思いますね。
(Blog. 「読響シンフォニックライブ 2012年8月15日」 放送内容 より抜粋)
”ラヴェルはピアノ曲でも精密なハーモニー。要するに、ざっくり言うとフランス人の作曲家は響きが重要。その響きを重要視する音楽のあり方というのがドイツとは全く違う。その違う流れってけっこうそのまま来てて。例えば、ドイツ流のやり方がそのまま現代音楽に来るかというと意外に違う。ウェーベルンとか新古典主義でつくってきてるものと、それから同じウェーベルンの影響を受けたとはいえブーレーズやなんかのフランス流のやり方って全然ちがう。音色がちがう。その起点になるのはたぶんドビュッシー。現代にまで通じる音楽になっている気がする。”
(Info. 2022/04/04 久石譲が語る組曲「展覧会の絵」そしてドビュッシー 動画公開 より抜粋)
コンサート歴をみても
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
2012年 読響シンフォニックライブ 「深夜の音楽会」
2018年 Joe Hisaishi Symphonic Concert(台北)
2022年 新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6
ドビュッシー:交響詩「海」
2023年 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023
2023年 Joe Hisaishi and La mer(ハリウッド)(予定)
2024年 日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #279(予定)
ラヴェル:ラ・ヴァルス
2023年 Joe Hisaishi in Concert(シンガポール)
2023年 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2023
そのほか「ドビュッシー:小組曲」「ラヴェル:ピアノ協奏曲」「ラヴェル:ボレロ」「ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ」など、たびたび作品を取り上げています。
これはレビューから。
思いめぐらせると、フランスや印象派といった音楽からの影響は、初期の久石譲から、いや初期の久石譲曲ほど如実に香りたちこめています。『PIANO STORIES』(1988)からは「A Summer’s Day」「Lady of Spring」「Green Requiem」など。『My Lost City』(1992)「Cape Hotel」など。『PIANO STORIES II』(1997)「Rain Garden」など。
オリジナル作品から『WORKS III』(2005)「DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Pianoより II.The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜」、『Minima_Rhythm III』(2015)「THE EAST LAND SYMPHONYより II.Air」、そして2022年2月待望のFOC披露「Winter Gardenより 2nd movement」。
(Blog. 「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6」コンサート・レポート より抜粋)
2022年のコンサート・レポートに書いていました。もしドビュッシーやラヴェルの作風を気に入ったなら、『崖の上のポニョ』の音楽はもちろんこういった久石譲音楽の聴こえ方もまた変わってくるかもしれませんね。折しも、2023年3月に逝去した坂本龍一さん、その音楽ルーツのなかでも色濃くあるのはドビュッシーやラヴェルです。久石譲と同じように、ピアノソロ曲や映画音楽オーケストラで、印象派のスタイルや響きを聴くことができます。この「La Mer」でも戦メリやラストエンペラーのそれを思い浮かべる人ももしかしたらいるかもしれません。日本を代表する二人の現代作曲家/商業作曲家が強く影響を受けている、音楽が時代を越えて受け継がれていることに楽しくなってきます。表立って交わることのなかった現代の作曲家が、深いところでは同じルーツを持って交わっていることに何か尊いものを感じてきます。
久石譲:Woman for Piano, Harp, Percussion and Strings
1.Woman
2.Ponyo
3.Les Aventuriers
WDO2019で初演されたコーナーです。のちにアルバムとして音源化もされています。パンフレットになかったのでCDライナーノーツから楽曲解説をご紹介します。
2009年にリリースされたアルバム『Another Piano Stories ~The End of the World~』に収録されていた3つの楽曲をピアノ、ハープ、パーカッション、弦楽合奏で演奏可能なように再構成した作品。曲名通り、いずれの楽曲もすべて女性に因んでいる。
Woman
原曲は、2006年にオンエアされた婦人服ブランド「レリアン」CMのために書かれた楽曲。アルゼンチン・タンゴ、より正確には久石が敬愛するアストル・ピアソラのタンゴを意識したスタイルで作曲されている。
Ponyo on the Cliff by the Sea
さかなの子・ポニョと人間の子・宗介の出会いと冒険を描いた宮崎駿監督『崖の上のポニョ』のメインテーマ。弦楽器やハープのピツィカートとマリンバのトレモロが生み出すユーモラスな響きが、不思議にもポニョのイメージと一致する。
Les Aventuriers
久石のお気に入りの映画のひとつで、ジョアンナ・シムカス演じるヒロインを軸にしながらアラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの2人が冒険を繰り広げる『冒険者たち』から自由にイメージを羽ばたかせ、演奏者たちに5拍子という”冒険”を要求する作品。『冒険者たち』をご覧になったことがあるリスナーなら、ドロン扮するパイロットが複葉機で凱旋門をくぐり抜けようとするシーンを想起されるかもしれない。映画の中で曲芸飛行は失敗に終わるが、本楽曲においては演奏者たちが鮮やかな”曲芸飛行”を決める。
(CDライナーノーツより)

一口メモです。
Woman
全3曲ともこのコーナーのピアノはオーケストラ奏者によるものです。同じようなピアノ&ストリングス版で構成される《Hope》や《mládí》は久石譲によるピアニズムが必須の涙腺解放コーナーですが、《Woman》はわりとパキパキとしたピアノのニュアンスもあってかそうなっているようにも思います。
フランスをはじめヨーロッパで流行したアルゼンチン・タンゴは、のちのコンチネンタル・タンゴ(フランス)へと広がっていきます。またアルゼンチンで生まれたピアソラは、フランスで作曲を学び活動と人気を広めていきました。
Ponyo
2008年映画公開です。2009年全米公開時は「Ponyo on a Cliff by the Sea」となっていましたが、現在は最終的に「Ponyo」が英語タイトルとして採用されています。2019年版から曲名が変わっているのはこれに合わせたかたちかもしれません。同じように本公演でお披露目された交響組曲「崖の上のポニョ」もSymphonic Suite “Ponyo”となっています。
すべて音を弾(はじ)いて出す楽器および奏法で始めから終わりまで。コロンと。まるで泡のように。グランマンマーレの台詞に「私たちは泡から生まれたのよ」とあります。音と泡と、その世界観はつながっていると思っています。エンターテインメントの表向きにはポニョのかわいらしさを表現しながら、隠されたテーマは泡=生命=音の粒であるかのように。
Les Aventuriers
レザヴァンテュリエ(読み)です。一日一回唱えて覚えましょう。フランス映画『冒険者たち』(1967)同名タイトルからインスピレーションを得て作られた曲です。
この版は、サビの駆け上げるカウンタメロディが印象的です。2019年時はヴィオラだと勘違いしていましたが、チェロのようです。2022年パリ公演の配信や今回WDO2023の会場で最終確認いたしました。チェロパート全員ではなく数名で奏でているようでした。やっとここに修正いたします。
モーリス・ラヴェル:管弦楽のための舞踏詩「ラ・ヴァルス」
La Valse, Poeme choregraphique pour orchestre
とても人気の高かった、SNS感想もたくさん見ました。久石譲らしい緩急自在に操る指揮にぐっと引き込まれます。ブラームスのハンガリー舞曲もそう、ハチャトゥリアンの仮面舞踏会もそう、久石譲のMerry-go-roundもそう。久石譲さんは舞曲やワルツをまるで魔術師のように観客の心をときめかせ射抜いてしまいます。得意を超えています。
「ドビュッシー:海」も「ラヴェル:ラ・ヴァルス」もハープ2台を基本編成としています。「久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」」もハープ2台でした。久石譲の創りだすハープ・パートはミニマルに欠かせません。同じように久石譲作品の《海》を表現するときに欠かせない楽器がハープです。
いろいろな資料・動画を一気に振り返りました。ハープ2台が確実に使われているのはレコーディング風景動画やコメントみてNHK「深海」と「ディープオーシャンII」です。
久石譲のコメントから振り返ります。
”ただ、宇宙と深海の大きな違いは「水」ですから、今回ハープを2台起用して、フランス印象派的な、ドビュッシーやラヴェルのような世界観を持ち込もうというのが最初の狙いでもありましたね。
このハープがさまざまなパッセージを奏でているところに、和音感などの凝った形を取ることで、深海の不思議な感じを出せるのではないかなと考えました。”
(Disc. 久石譲 『NHKスペシャル 深海の巨大生物 オリジナル・サウンドトラック』 より抜粋)
ハープ1台ながら大活躍している《海》は、映画『海獣の子供』『海洋天堂』、TV『ディープオーシャンI』、水族館『Xpark』、コンサートプログラム『Deep Ocean』などがあります。さて、Womanコーナーはハープ1台です。さて、交響組曲「崖の上のポニョ」はプログラム上あったからハープ2台置いたのか、はたまたハープ2台は必要条件なのか。これから映像や音源で細かくチェックできる機会がきたときに、ハープ2台それぞれの役割にフォーカスしてみたいと楽しみにしています。
久石譲:交響組曲「崖の上のポニョ」
Symphonic Suite “Ponyo”
スタジオジブリ作品交響組曲化シリーズ、『崖の上のポニョ』もストーリーの流れに沿って組曲化されていました。サントラからこの曲この曲とさすがにセレクトできないのですが、おそらく曲順にも沿っていると思います。ポイントは、ポニョと宗介の二人に軸を置いた組曲化がされていることだと思います。だから、ポニョのメロディがたくさん、シンフォニック・ヴァリエーション「ハウルの動く城」のように、随所に登場してきます。変奏のように変化もするし、宗介のモチーフと掛け合ったりもしています。
印象に残った曲からいうと、オープニングの「深海牧場」はそのままたっぷりと、「海のおかあさん」はコーラスバージョンで、快活な「浦の町」も聴けてうれしい、「宗介のなみだ」は久石譲ピアノで、「崖の上のポニョ」は英詞で大合唱!このあたり強く残っています。今回はコンサートマスター豊嶋泰嗣さんのヴァイオリン・ソロをフィーチャーした楽曲はなかったですが、「海のおかあさん」でコーラスと繊細に絡み合った旋律を奏でていました。「崖の上のポニョ」は世界ツアー版がおなじみです。グラモフォン新譜『A Symphonic Celebration』にも待望の収録となりました。そうきたところ今回さらに上をいった交響組曲版は、曲尺も長めで転調もあって高く高く昇っていくコーラスとオーケストラの謳歌は圧巻でした。特にラストのキーがものすごく高くなる合唱は、まるでポニョからいもうと達への受け継ぎや広がりのように感じたほどです。
そういったわけで、サウンドトラック/イメージアルバムでも印象の強いほかの曲「いもうと達」「フジモトのテーマ」「ひまわりの家の輪舞曲」あたりは選ばれず、一貫してポニョと宗介の出会いから交流や成長といった二人の物語に集約されているようでした。そう思ってサントラを聴き返してみると、この曲やこの曲かなと絞れてくるところもあるかもしれません。早くまた聴きたい!
コーラスとてもよかったです。とてもきれいでした。オーケストラとのバランスも絶妙すぎました。会場でご一緒できたファンみんな口をそろえて「コーラスよかった」をこだましていました。思えば、明るい印象に終始したことも大きいかなとも思いました。久石譲作品の合唱付きというと「風の谷のナウシカ」「The End of the World」「Orbis」などがすぐに浮かびますが、どの作品も短調的だったり陰影のある合唱の響きをもっています。そこへきて「崖の上のポニョ」は深海牧場も主題歌もどちらかというと光を帯びた明るさを維持しています。「崖の上のポニョ」は、まるでベートーヴェン《第九》の大合唱のように、聴く人に力強いエネルギーと明るい希望を照らしてくれるような、そんな作品に育っていきそうな気がしてきました。育つ、そうですね、公式スコアが世の中に出てきたとき、この作品をプログラムしたいオーケストラ+合唱団はきっと多いと思います。「となりのトトロ」と同じように、演奏して聴いて広く大きく育っていきそうな作品です。子供の歌を超えたハイブリッド・スタンダードな曲になったなあと言いたいくらい。これはもう生命の讃歌です。
—-encore—-
Ask me why
映画『君たちはどう生きるか』から久石譲本人が奏でる珠玉のピアノ曲、スペシャル・サプライズでした。7月14日映画公開からちょうど一週間後という奇跡の選曲にもびっくりしますが、この曲が何たるかをちゃんとわかっている観客も多かったことにもまたびっくりです。みんな公開が待ち遠しかった、すぐに映画館に足を運んだ証ですね。サウンドトラックは8月9日発売です。
一切の宣伝をしない、情報もいまだ少ない映画です。WDO2023はライブ配信は叶いませんでしたが、しっかり収録用のカメラもマイクもありました。時期をずらして年末あたりにでも配信や放送があるといいなと切望しています。そのときには映画の情報もだいぶん広まっているでしょうし、「アンコールでこの曲やったんだ!!」というのがもっともっと奇跡的なうらやましいトピックとして広まっていることでしょう。映画ロングランを盛り上げる相乗効果ともなることでしょう。祈っています!
ウェブレポートにはこんな舞台裏な情報も。
”アンコールの1曲目、久石がピアノで弾いたのは公開中の映画『君たちはどう生きるか』(宮﨑駿監督)の楽曲。コンサートでの演奏は初めてで、なんと初日の東京公演では出演者、スタッフが誰も知らされてなかったサプライズ。映画を観たであろう観客が感激のあまり涙をぬぐう姿もあった。”
World Dreams for Mixed Chorus and Orchestra
WDOのテーマ、その歌版が披露されたのはWDO2015以来でしょうか。そのときのプログラムは合唱付きの「風の谷のナウシカ」や「The End of the World」でした。歌詞は麻衣さんによるもの。音符ひとつひとつに丁寧に歌われる言葉ひとつひとつが胸に響いてきます。2011年「西本願寺音舞台」で初演されたときには、へぇー歌になったんだ!という驚きと新鮮さだったかもしれません。そして今、世界や社会、自分の身近な日常までも見渡してみたときに、より切実に迫ってくるもの、より切実に願いたい何かを感じたように思います。オーケストラと合唱が拮抗する重厚さと広がりはホールでしか味わえません。あらためて、人の声のもつ力を感じたコンサートの締めくくりでした。
忘れてはいけない。
僭越ながらしっかり物申させていただきます。
WDOファースト・シーズン、セカンド・シーズン、本当にありがとうございました!「毎年開催」という冠はなんだかレールを敷かれたような窮屈さとすぐに次の構想を練らないといけない切迫感と、常に休まるところのない状況下にあるようで…。久石さんのハイクオリティ精神とサービス精神はさらに拍車をかけるようで…。ほかにもFOC、MF、所属指揮者としての定期演奏会や特別演奏会、そして海外公演。引っ張りだこの中いつもWDOの夏を届けてくれてありがとうございます。
ファンにとっては、毎年夏のWDOはとてもスペシャルな一大イベントになっています。ない年がつづくととても寂しい。いつでもサードシーズン始められるようにファンは心待ち待機中に入ります。
”今年で8作目になりますが、「シンフォニック・ヴァリエーション・メリーゴランド」(「ハウルの動く城」)、「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」がすでにあるので、新作を除く全作完了です。つまりセカンド・シーズンも終了です。”
ここははっきり言わせてください。そんなことはないです!「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」もアルバム発表の2002年版とWDO2017などはオーケストレーションが進化しています。「かぐや姫の物語」もWORKSIVとWDO2018はオーケストレーションがより精緻になっていたと譲れません。「風立ちぬ」も久石譲inパリから『A Symphonic Celebration』版に至るまで改訂を続けているように追いかけています。「ハウルの動く城」もストーリーに沿った組曲化をするなら新たに組み込まれる楽曲があるのかもうれしい。「紅の豚」は?そして「君たちはどう生きるか」はどんな組曲になるのか予想もつきません!
”今年で8作目になる”その8作品をみても、これからますますの再演を希望します。その年のWDOに行けなかったファン、そして新しいファンもたくさんいます。スタジオジブリ作品交響組曲シリーズは、作品によって、独奏楽器・ソリスト・合唱など、なかなかふつうのコンサートではプログラムできないフルスペックなフルオーケストラです。WDOでやらなくてどこできる?! やるならツアーでやるくらいじゃないと!! そんな大所帯の結集です。
WDOの来ない夏なんて!ひとつとして同じ夏はないように、どんなコンサートもファンにとっては喜びと楽しみの一期一会です。必ずまたきっと戻ってきてください。WDOコンサートに行くことは、ファンにとってファンの証にまでなっています。
むすび。
会場でお会いできた皆さん、ご一緒できた皆さん、ありがとうございました。とても楽しい時間でした。SNSでの匿名性のつながりが心地よいときもあります。でも、実際にお会いするだけで親近感やつぶやきの人間味すら増して感じるようになってくるから僕は好きです。自己紹介すらほぼすっ飛ばしてファン同士の安心感とうれしさだけで盛り上っています。自分の好きを語ることが自己紹介になるくらいほんと楽しいひとときです。
これからも少しずついろんな人にお会いできたらと思っています。コンサート前に行くことを事前にSNSで言うこともあるかもしれません。もしお近づきになれるチャンスがあったらよろしくお願いします。バッジプレゼントしています。

みんなのコンサートレポート!
正直に言っちゃうと、これはオーケストラやコーラスの皆さんが喜んでくれるだろうレポートです。ここまでしっかり聴いてくれてるんだ、と。スマホのカメラが3眼になったみたいに、豊かな解像度にびっくりします。
コンサートの時間をそのままエスコートしてくれるようなわかりやすさは定評あり。追体験できるおもしろさをぜひ。けっこう大切な記録です。
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2023 愛知・名古屋公演(2023.7.22)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda
リハーサル風景
東京公演

名古屋公演

大阪公演

from 久石譲コンサート公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019



from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/
名古屋公演(リハーサル/本演)


大阪公演(リハーサル/本演)


from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil
大阪公演(合唱)


from 日本センチュリー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/Japan_Century
公演風景/バックステージ
東京公演
【WORLD DREAM ORCHESTRA 2023】東京公演、熱狂で終了!熱い拍手ありがとうございました。明日は名古屋です! pic.twitter.com/0EbbIQ0asX
— 久石譲コンサート2025 (@joehisaishi2025) July 21, 2023
ワールド・ドリーム・オーケストラ2023@サントリーホール
万雷の拍手の中終演です!👏👏👏👏🎥#久石譲 の”一般参賀”のご様子をお届けいたします。
暑い夏を吹き飛ばす爆裂のラ・ヴァルス、そして交響組曲『崖の上のポニョ』の大いなる愛の力に感激の声続々です。ご来場ありがとうございました☺️… pic.twitter.com/RCW8iAUwd0
— 新日本フィルハーモニー交響楽団 (@newjapanphil) July 21, 2023
名古屋公演
【WORLD DREAM ORCHESTRA 2023】名古屋公演も盛り上がりました!
明後日は最後の大阪!明日23日午前10時よりローチケにて当日引換券を若干数販売します。 pic.twitter.com/ZB9QUVWNiE— 久石譲コンサート2025 (@joehisaishi2025) July 22, 2023
大阪公演
【WORLD DREAM ORCHESTRA 2023】全公演終了!熱い拍手ありがとうございました!次は9月のマーラーでお会いしましょう!https://t.co/g5YPuUJ3gz pic.twitter.com/c2taTPNaRW
— 久石譲コンサート2025 (@joehisaishi2025) July 24, 2023

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil
最後まで読んでいただきありがとうございます。

Posted on 2023/07/25
久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による熱狂のツアーが閉幕、オフィシャルレポートが公開
2023年7月21日(金)東京にて開幕し、愛知、そして24日(月)大阪にて閉幕した『久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2023』。この度、オフィシャルレポートが届いたので紹介する。 “Info. 2023/07/25 久石譲と新日本フィルハーモニー交響楽団による熱狂のツアーが閉幕、オフィシャルレポートが公開(Web SPICEより)” の続きを読む
Posted on 2023/02/08
2023年8月24日、久石譲コンサートがアメリカ・ハリウッドで開催されます。ハリウッド・ボウルは野外音楽堂、共演オーケストラはロサンジェルス・フィルハーモニックです。同オーケストラは毎年夏この場所で演奏会を開催しています。その一連イベントのひとつにあたるかもしれません。 “Info. 2023/08/24 「Joe Hisaishi and La mer」久石譲コンサート(ハリウッド)開催決定!! 【7/25 update!!】” の続きを読む
2023年7月21日 CD発売 RBCP6825
2023年7月21日 LP発売 RBJE2078
スタジオ・ジブリの素晴らしい映画音楽が、美しいピアノソロ作品に!
フィリップ・グラス、フランツ・リスト、クロード・ドビュッシー、エリック・サティらといったクラシック曲の名演で世界的に名を馳せ、名誉あるスタインウェイ・アンド・サンズ アーティストにも選出されているフランス人ピアニスト”ニコラ・ホルヴ”によるアレンジとピアノソロ演奏による作品。久石譲の公式ピアノスコアに基づきながらも新鮮さに溢れるアレンジと、どこまでも美しいピアノソロの音色は、ジブリ・ファンのみならず、音楽ファンをも新たな音世界へと誘います。
(メーカー・インフォメーションより)
CD1枚組全23曲
LP2枚組全24曲
Deep Sea Pastures (CD Edition only)
Starting the Job (Vinyl Edition only)
Mother Sea (Vinyl Edition only)
2023年6月1日より先行デジタル配信/サブスク開始
CD/LP収録曲違い含め全25曲
原曲を基本としながら端正で流麗なピアノ演奏を楽しむことができる。またオーケストラ曲からピアノアレンジされたものも多く、たしかなテクニックで魅せる仕上がりになっている。ふだんピアノソロとして聴けないような楽曲もあり、ピアノ好きな人には、まるで上級用楽譜をまるごと一冊聴いて楽しめるような、クラシカルなピアノアルバムだ。
ダイジェスト動画も公開されている。
Studio Ghibli Piano Collection (約19分)
from Wayo Records YouTube
Studio Ghibli – Wayo Piano Collections (CD)


01 Fantasia for Nausicaä
02 The Road to the Valley
03 Confessions in the Moonlight
04 The Lost Paradise
05 The Wind Forest
06 My Neighbor Totoro
07 Kiki’s Delivery Service
08 Heartbroken Kiki
09 Porco e Bella
10 Madness
11 Ashitaka and San
12 Kodamas
13 Princess Mononoke
14 One Summer’s Day
15 Sootballs
16 The Sixth Station
17 Merry-Go-Round of Life
18 Deep Sea Pastures
19 Ponyo on the Cliff by the Sea
20 A Journey (A Dream of Flight)
21 Nahoko (An Unexpected Meeting)
22 The Procession of Celestial Beings
23 When I Remember This Life
Time: 79:16
輸入盤:国内流通仕様
デジパック仕様
Studio Ghibli – Wayo Piano Collections (LP)


SIDE A
01 Fantasia for Nausicaä
02 The Road to the Valley
03 Confessions in the Moonlight
04 The Lost Paradise
05 The Wind Forest
06 My Neighbor Totoro
SIDE B
01 Kiki’s Delivery Service
02 Starting the Job
03 Heartbroken Kiki
04 Porco e Bella
05 Madness
06 Ashitaka and San
SIDE C
01 Kodamas
02 Princess Mononoke
03 One Summer’s Day
04 Sootballs
05 The Sixth Station
06 Merry-Go-Round of Life
SIDE D
01 Mother Sea
02 Ponyo on the Cliff by the Sea
03 A Journey (A Dream of Flight)
04 Nahoko (An Unexpected Meeting)
05 The Procession of Celestial Beings
06 When I Remember This Life
Time: 80:50
輸入盤:国内流通仕様
Posted on 2023/07/20
このたび「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」は10周年を迎えました。いつもご覧いただき本当にありがとうございます。 “《久石譲ファンサイト響きはじめの部屋10周年》hibikihajime.com 10th Anniversary!!” の続きを読む
2023年7月19日 CD-BOX発売 OVCL-00820
ロックなベートーヴェンから最先端のブラームスへ!
未来のクラシックを問う久石譲とFOCの「ブラームス交響曲全集」ついに完成!
クラシック音楽へのかつてないアプローチが大きな話題を集める、久石譲とFOCによる挑戦。このブラームス全集は、2020年から取り組んだブラームス・ツィクルスより第2番・第3番・第4番と、新たにセッション録音をした第1番が収録されています。3年半という時間をかけた入魂のアルバムです。
久石譲のもと若手トッププレーヤーが集結したFOCは、瞬発力と表現力が爆発。作曲家ならではの視点で分析された演奏は、常識を打破するような新しいブラームス像をうち立てています。
(メーカー・インフォメーション/CDBOX装丁 より)
久石譲ロングインタビュー「ブラームスはヘビメタだ!」
聞き手・構成:柴田克彦(音楽評論家)
オブザーバー:江崎友淑(録音プロデューサー)
▼トピック紹介▼
・ブラームスの難しさ
・FOCのブラームスとは?
・録り直した第1番
・第2番の独自性
・第3番への思い
・第4番の罠
・最後に
(ブックレット p.2-12掲載)
曲目解説 寺西基之
(ブックレット p.13-19掲載)
久石譲/フューチャー・オーケストラ・クラシックス/オーケストラ メンバーリスト
(ブックレット p.20-25掲載)
Brahms is Heavy Metal!
*久石譲ロングインタビュー 英文
(ブックレット p.26-34掲載)
Music Commentary
*楽曲解説 英文
(ブックレット p.34-41)
Profile Joe Hisaishi / Future Orchestra Classics(FOC)
*英文
(ブックレット p.42-44)
ブラームスはヘビメタだ!
聞き手・構成:柴田克彦(音楽評論家)
オブザーバー:江崎友淑(録音プロデューサー)
ブラームスの難しさ
柴田:まずは、フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)の演目として、ベートーヴェンの次にブラームスの交響曲を選ばれた理由からお聞かせください。
久石:ベートーヴェンに並ぶ作品といえばやはりブラームスしかない。まだ早いかもしれないと思いながらも、チャレンジすることにしました。ただ、ブラームスは本当に難しい。
柴田:どんな点が難しいのでしょう?
久石:ベートーヴェンはもちろん、歌謡的なイメージのあるシューベルトでさえも、交響曲ではモティーフを重要視してきちんと作ってあります。モティーフ的な楽曲は、論理的な構造を明確にできるので、全体の構成もクリアになります。でもブラームスは、歌謡的なメロディを無理矢理モティーフ化しようとしている。その扱い方がとても難しいのです。
柴田:ブラームスの交響曲の満足いく演奏は、意外に少ないですね。
久石:マーラーなどに受け継がれていく歌謡メロディ的な要素、すなわち非常にロマン的な体質と、ベートーヴェンに憧れている論理的な部分が混然としているので、指揮者にとっては難儀なのです。だから僕も若干躊躇しました。
しかも、ドイツ音楽という括りの重い演奏=「これぞブラームス!」との見方が横行してしまった。FOCでもその問題が出てしまうので、改めて「うちはチャンバー・オーケストラで、スポーツカーだから」と言わないといけなかった。フル・オーケストラはダンプカーで、カーブもゆっくりとしか曲がれない。でもスポーツカーはきゅっと曲がれます。FOCではそれをやりたいのに、皆少しずつ次を待ってしまう。
ブラームスも初期の時はFOCと同じくらいの編成なので、そんなに重く弾いているわけではない。ところが一般的なアプローチは、後期ロマン派のマーラーなどへ繋がり、さらには20世紀のドイツ的な重い表現へと繋がっていった。すると演奏家がそこから抜け出すのはすごく難しい。
柴田:確かにそうですね。
久石:FOCのブラームスでも、1番は一度録音し、リリースもしています。でもそれを聴くと、速いテンポで論理的に扱おうとし過ぎたために、歌っていない。なので1番だけセッションで録り直しをしました。歌謡的な要素と論理的な部分のマッチングを上手くやらないとブラームスは成立しないというのが、今回よく分かりましたね。
FOCのブラームスとは?
柴田:前のベートーヴェンの交響曲全曲演奏の際に「ロックやポピュラー音楽を知った上でのベートーヴェン」という話をされていましたが、今回その点はどうですか?
久石:今回その発想はあまりありません。それよりも、今まで聴いてきた重すぎるブラームスはやりたくないとの思いが強かった。とはいえアップテンポにしてただ縦を合わせたような演奏だとブラームスにならない。従って、現代的なテンポやインテンポを基準にはするが、必ず大きく歌う。その点をものすごく気にかけました。
柴田:ベートーヴェンの時はリズムを相当意識されていましたが、今回はどうですか?
久石:とても大事にしています。ただ、ブラームスに颯爽という印象はないでしょう? 遅くはないが、颯爽ではない。アップテンポにすると絶対弾けないくらい難しいところが出てきます。だから、テンポを上げればいい、リズムを強調すればいいってものでもない。ブラームスの難しさはそういうところにもありますね。
柴田:では、ベートーヴェンの時に話されていた「ロックのような」という要素は?
久石:もちろんその要素はあります。でも音楽が軽くない。ブラームスの場合は、聴覚的に感じる1拍目が実際の1拍目ではなく、裏拍が多いので緊張させられます。それでも、テンションを保つリズムの要素はすごくあるので、リズムから追い込んでいく僕のスタイルは変わっていません。そう、ベートーヴェンがロックだとすれば、ブラームスはヘビメタ。重い。同じリズムだけど性格が違う。
柴田:「ブラームスはヘビメタだ!」というのはキャッチーですね(笑)。
久石:そこだけ切り取られると困るけど(笑)。
柴田:ビブラートに関してはどうですか?
久石:ベートーヴェンの時から基本的にかけていません。例えば、玄関のピンポーンってチャイム。あれは正弦派に近いです。正弦波はピュアで音がすごく通る。例えばうちの犬は、テレビの中のドラマでチャイムの音が鳴ると、慌てて玄関に吠えて行きます。つまり正弦波だと距離感がわからない。でもビブラートをかけると波形がぐちゃぐちゃになる。そのように複雑になればなるほどニュアンスが出るわけです。ところがビブラートなしで出す音は正弦波に近い。すると遠くまで届くのですが、そばで聞いている人には細く感じる。しかもビブラートがないと味気なくなるので、指の速度や弓の返しでニュアンスを出すといった別の工夫が必要になります。ともかくFOCがビブラートなしで演奏する理由は、遠くまで聞こえるその抜けの良さを一番大事にしたいから。それによって管楽器のアンサンブルも見通しがよくなります。
江崎:1番の第4楽章の最後は、普通は弦楽器や管楽器がティンパニに消されて聞こえないんですよ。だけどFOCは明確に聞こえている。不思議に思っていたんですよね。
柴田:あとブラームスでは立奏をされていますね。
久石:室内オケなので、ホールが大きくなるとちょっともの足りないと思うことがありました。そういう時に立った方が寂しくないという、非常に単純な理由でした。またクルレンツィス率いるムジカエテルナの立奏に刺激されたのも一因ですし、僕がやっている現代音楽の公演も立奏が多い。それに今回実験したんですよ。座って一部録った後に立って演奏してみた。すると立った方が音の抜けがいい。ですから今回は全部立奏での録音です。
柴田:ナガノ・チェンバーからFOCへ、メンバーも替わりながら続けてきて、オーケストラ自体の変化は感じられますか?
久石:コアなメンバーはあまり変えていないから、どうでしょうか。コンサートマスターの近藤さんやホルンの福川さん、チェロの向井さんあたりが引っ張ってくれている。
江崎:オケの”音”はもう完全に定着しましたね。ブラームスの4番は普段のメンバーとかなり違うんですよ。だけど全く音色に遜色がない。
久石:弾き方が違う奏者がいると皆分かる。若干遅れるなど、少し浮くんです。それが2、3日すると気にならなくなる。僕も「うちはスポーツカーなんだから、溜めるんじゃない」などとしつこく言ってはいます。でも皆な理解して最後はFOCの音になっている。
柴田:それにしても、ブラームスはピリオド系の演奏を含めてなかなか成功しないですよね。
久石:この数年、フランソワ=グザヴィエ・ロトとレ・シエクルのフランスものが一番トレンドな演奏になっていますよね。ピリオド系の人達は、基本的にいま主流になりました。あと、レコード芸術誌の「新時代の名曲名盤500」で、僕が日本人で初めてベートーヴェンの交響曲第7番で1位になったんですよ。FOCの演奏が、カラヤン、フルトヴェングラーなどを含めた全部のCDの中で1位になった。8番も2位になりました。もちろんフランスものなどはほとんどロトが1位です。ところが、ブラームスだけは昔のまま往年の指揮者やオーケストラがトップです。先ほど言ったように、ロマン的な体質と論理的な体質の、どちらかに焦点を当てても、何か足りない面があるので最も現代的な演奏に行き着けないのではないですか?
柴田:すると、今回の録音がベートーヴェンの7番8番にあたるかもしれませんね。
久石:そうであって欲しい(笑)。
柴田:ところで、今回時間的にはCD2枚に入る4曲を、3枚に分けた理由はあるのですか?
久石:1番と4番はとりわけ納得がいく出来栄えだったので、それぞれ1曲をじっくり聴いてほしいと思い、ディスクを独立させることにしました。特にこの全集のために改めてセッションを組んだ1番は、演奏への思い入れも強かったのです。
録り直した第1番
柴田:1番を録り直したのは、やはり「歌っていない」点が最大の理由ですか?
久石:そうですね。アップテンポであることに気を遣い過ぎ、斬新さを求め過ぎてしまった。でも今回の再録音でやっとできたという感じがしています。
柴田:基本的なテンポなどは前と一緒ですか?
久石:第1楽章の冒頭部分だけは、少しゆったりさせました。
柴田:あそこはウン・ポコ・ソスティヌートであって、アンダンテやアダージョではないんですよね。
久石:そうです。だが普通は迷宮に入るみたいに重く始まるケースが多く、それは違うと僕はずっと思っていました。今回はそこをちゃんとできた。テンポは変わらず速いですが、前回よりもある意味自然になっています。でも1番が一番難しい。作曲に時間かけ過ぎなんです。
柴田:構想から完成まで約20年というのは、作曲家の立場で見てどうなんですか?
久石:やり過ぎ。20年かかった意味はスコア見ればわかるのですが、3オクターヴに亘って三度で動かしたりする。例えば、高い方をフルート、1オクターヴ下をクラリネット、もう1オクターヴ下をファゴット、場合によってチェロなどで弾いたりする。だから厚ぼったい。時間をかけるとそのようにクドくなるんです。なので今回は、例えば一番下のパートに「弱く吹いてください」とお願いし、抜けをできるだけ良くするよう心がけました。僕らもそうですが、時間をかければかけるほど厚くなる。スコアを眺めていると「うーん…重ねておこうかなぁ」と。作曲家の心理として必ずありますね。
柴田:久石さんは、作曲にそれほど年数をかけたことはありますか?
久石:一番長くなったのは交響曲第1番。第1楽章を書いて、第2楽章の80%くらいできた時に、これでいいのか?と。そこで躓いて、2~3年ほどブランクがあり、結局7年ちょっとかかった。でも第2番は6ヶ月。オーケストレーションは翌年でしたが、かなり速い。
柴田:ブラームスと同じですね。それは解放感によるものでしょうか?
久石:交響曲とはこういうものだと分かるのに時間がかかるんです。ブラームスの場合は、あまりにも巨大なベートーヴェンの作品があるから、それを意識し過ぎたのでしょう。なので、これでいいのだと実感するのに、すごい時間がかかった。まだ足りないのではないかと、絶えず思ってしまうわけです。
柴田:やはり交響曲は特別なのですね。
久石:特別になってしまいますね。僕の交響曲で言うと、2番3番はコンセプチュアルなんですよ。ミニマルを完全に前面に押し出しているので、各楽章のテーマやリズムがわりとはっきりしている。1番の時はそれがはっきりせず、交響曲はこうあるべきだなど、色々な思いが入ってきてしまった。他は全部ミニマル的な単一動機の延長で行けたのが、1番だけ違うんですよ。だからブラームスも2番は非常にコンセプチュアルです。
第2番の独自性
柴田:2番はやはり”自然”や”田園”がコンセプトでしょうか?
久石:1番と2番の関係は、ベートーヴェンの5番「運命」と6番「田園」にあたります。2番は基本的に「田園」を意識していますね。ただ、深刻な音楽と深刻ではない音楽というよりも、純音楽的な要素で作ったものと情景的な要素を入れて作ったもの、と考えた方がいいと思います。
柴田:2番は特に第1楽章の演奏が難しいように感じます。
久石:ソナタ形式というのは、呈示部で、激しく男性的な第1主題、優しい第2主題を出して、展開部と再現部があるのが基本です。でも2番の場合は、第1主題と第2主題のキャラクターの差があまりないんです。しかも似通った別の経過的なフレーズもメロディに聞こえるので、呈示部だけで5つか6つくらいの主題が出てくる感じがする。そこがまず演奏を難しくしています。
柴田:呈示部を繰り返すとさらに大変ですね。
久石:ゴルフ場で3ホール前にアイアンを忘れてきたようなものです。普通3ホールも戻れない。何が言いたいかというと、僕はいつも呈示部を必ず繰り返します。ブラームスは、主題が一杯あって山越え谷越えしてきているから、もう一回戻るのは本当に大変です。でも僕は行う。テンポを速くして、思い入れを込めすぎないようにします。
特に2番は、1番で苦しんだ後なので旋律が自然に浮かんでそのまま書いたという感じがします。主題になるようなフレーズを山ほど出すので、全体の構成がはっきりしない。再現部でもう一回呈示部と同じことを繰り返す時も辛い。まだやるのかって(笑)。その後終結部が来ると途端に元気になって、バタバタして終わる。演奏が息切れするんです。そうしないためには呈示部をあっさりと表現する。いつも出てくるメロディに全部気持ちを込めていったら、息切れするに決まっています。
第3番への思い
柴田:3番も扱いが難しい曲ですね。
久石:僕は一番好きです。まずは冒頭の主題のリズムの凄さ。6/4拍子なのに聴覚上の1拍目と6拍目が区別できない。これが独特の緊張感を出しています。また有名な第3楽章のメロディもいい。
柴田:3番は力強い曲なのに、全楽章が弱音で終わります。これは珍しいですよね。
久石:僕はあまり意識していませんが、斬新ではありますね。特に、曲の最後に冒頭のテーマが出てくる箇所。そのまま出したらわざとらしいので、全部トレモロなんです。遠くに去っていく感じをさりげなく出したいということでしょうね。
柴田:意識しないということは、3番目になると結構自然に書かれている?
久石:3番の構成力のシンプルさに感心しています。カタルシスをその前にはっきり出しているので、静かに終わるのはすごくいいなといつも思っていますね。
この曲は、ジブリの監督の高畑勲さんが大好きだったんですよ。《かぐや姫の物語》のファイナルミックスの時に、ロビーで3番のポケットスコアを見ていたら、高畑さんがスコアを取り上げて、「ここ、ここなんですよ、これが良いんですよね」と、その最後の主題が戻る箇所を指摘されたんです。映画監督でそこまでわかる人はまずいない。ちょっとびっくりしましたね。いつも3番を演奏すると、高畑さんを思い浮かべます。
柴田:それはすごいですね。
久石:ただ、あの部分は譜面通りにやるとメロディが絶対聴こえない。そこで、これは秋山和慶先生から教わったのですが、弦を半分普通に弾いて、半分はトレモロで、と。僕は最初、譜面通りにやっていたのですが、後で聴くと全然メロディが出てきていない。先生の仰る通りだなと思って、以後はその通りにやっています。
第4番の罠
柴田:4番についてはいかがでしょうか?
久石:4番は、第1楽章の冒頭部が象徴的です。「ティーラ、ターラ」「ティーラ、ターラ」と続く下行上行の動きは、全て同じ音型。とても論理的です。しかしどの指揮者も、ものすごくロマンティックに表現する。皆がそこに命をかけて、ムードたっぷりなんです。冒頭部にそうした思いを込めすぎると後が大変なので、僕はそうしません。
柴田:あの出だしにはロマンティックな演奏伝統のようなものがありますね。
久石:逆に言うと、あれが一番ブラームスらしいところ。論理的で明快な音型なのに、演奏者はなぜかものすごくロマンティックにやろうとする。これがブラームスの危険さ!なのです。つまりロマン的に書いていながら、次のメロディに発展させず、あくまで論理的に処理している。そこに論理的でありロマン的でもあるというブラームスの罠が全部仕込まれています。
江崎:音大なんかでも、音が出る前からビブラートをかけろなどと教わりますからね。
久石:そのくらいにブラームスはこうあらねばと皆が思ってしまっている。なので今回、真逆なことをやっています。
あと4番の場合は、第4楽章のパッサカリアがすばらしい音楽ですよね。4番には2番の時に話した主題の出し過ぎがない。整備されていて、最後がパッサカリアでしょう。結局構成に関してはバロック時代に戻っている。だからすごく明快になっています。
江崎:言わせてください。今回の第3楽章。この快速をこのように弾けてる演奏は他にないですよ。もう痛快以外の何物でもないです、本当に。
久石:プロデューサーに褒められて嬉しいね。まあ第4楽章に話を戻すと、当時一番新しかったのは多分リストで、交響詩がソナタ形式に変わるシステムとして登場し、物語性を盛り込んでいった。しかしブラームスは最も古臭いと言われる位置にいて、ソナタ形式にこだわってきた。その彼が最終的に選んだのがパッサカリア。この意味はすごく重いと思います。8小節の低音のラインは変えず、上の動きで変えていく。それによって生まれる構成力が、おそらくブラームスが最終的に行き着いた答えの一つではないでしょうか。
柴田:重くたっぷりと表現されがちな第4楽章も、久石さんの演奏はわりと普通に進みますよね。あそこもアレグロ・エネルジコ・エ・アパッショナートで、別に遅いテンポではない。
久石:そう、全然遅くない。皆は重いと思っているけど、我々はスポーツカーですから。
最後に
久石:ブラームスを振るのは重荷ではありましたが、幸せでもありました。論理的な部分と感覚的な部分の両立は誰にとっても生きて行く上での最大の課題です。その課題が一番顕著に出てくるのがブラームス。両方を融合させなければいけない。今回出来たかどうか分からないけど、最大限頑張りました。
でも、当時1番の初演を聞いた人が「第4楽章の主題はベートーヴェンの9番の主題に似てませんか?」と訊いた時、ブラームスは「そんなことは馬でもわかる」とはっきり言ってる……(笑)。僕はそういうブラームスが好きです。あの人はユーモアもクールです。決して深刻な人じゃないんですよ。だから誰があんな深刻な音楽(演奏)にしたんだ!と言いたい。それからブラームスが「ドヴォルザークがクズ箱に捨てたスケッチで僕はシンフォニー1曲書ける」と言ったという有名な逸話があります。彼はドヴォルザークのメロディがすごいことをちゃんと言う。俺が!俺が!ではないですよね。その意味でもブラームスを堅苦しくなく演奏できる状態にしたいですね。
(2023年5月11日)
(久石譲ロングインタビュー「ブラームスはヘビメタだ!」 ブックレットより)


過去コンサート・レポートなど
ブラームス:交響曲全集《特別装丁BOX》 久石譲&FOC

[Disc1]
交響曲 第1番 ハ短調 作品68
[Disc2]
交響曲 第2番 ニ長調 作品73
交響曲 第3番 ヘ長調 作品90
[Disc3]
交響曲 第4番 ホ短調 作品98
久石譲 (指揮)
フューチャー・オーケストラ・クラシックス
〈録音〉
第1番:2023年5月10-11日 長野市芸術館 メインホール(セッション)
第2番:2021年7月8日 東京オペラシティ コンサートホール、7月10日長野市芸術館 メインホール(ライヴ)
第3番:2022年2月9日 東京オペラシティ コンサートホール(ライヴ)
第4番:2022年7月14日 東京オペラシティ コンサートホール、7月16日長野市芸術館 メインホール(ライヴ)
SACD Hybrid
2ch HQ (CD STEREO/ SACD STEREO)
●初回限定 特別装丁BOXケース&紙ジャケット仕様
●豪華ブックレットには久石譲ロングインタビューを掲載
●第1番は当全集のために新たに行なったセッション録音を収録
Producer: Joe Hisaishi
Recording & Balance Engineer: Tomoyoshi Ezaki
Recording Engineer: Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo
Production Management: Shinji Kawamoto (Wonder City Inc.)
A&R: Moe Sengoku
Photo: Dai Niwa (Box, P.7)
Cover Design: Miwa Hirose, Ayumi Kishimmoto
Executive Producer: Ayame Fujisawa (Wonder City Inc.), Tomoyoshi Ezaki
Joe Hisaishi by the courtesy of Deutsche Grammophon GmbH