Disc. 佐藤友紀 『いのちの名前』

2021年12月17日 CD発売 MYCL00024

 

心癒すトランペットの美しい調べ。
艶やかなサウンドが描くジブリ映画の名曲たち。

東京交響楽団首席トランペット奏者やソリストなどで活躍著しい佐藤友紀のソロ・アルバムです。「だれが聴いても、心温まるトランペット作品集を! 」というコンセプトのもと、本アルバムでは久石譲のジブリ映画音楽を中心に、誰もが知る名曲ばかりをセレクトしました。人の心に優しく寄り添う美しいメロディを、艶やかで豊かな音色のトランペットが奏でます。佐藤友紀の深みのある柔和なサウンドに心癒されることでしょう。また、クリスタルに煌めく大野真由子か奏でるピアノ。石川亮太の彩り豊かなアレンジにも注目です。音楽を愛するすべての人々に捧げる、癒しの名曲集です。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

 

<曲目>
1. 久石譲:いのちの名前
2. 木村弓:世界の約束
3. 久石譲:風のとおり道
4. ジョン・デンバー:カントリーロード
5. 久石譲:遠い日々
6. 久石譲:空とぶ宅急便
7. 久石譲:メイがいない
8. 久石譲:ねこバス
9. 久石譲:アシタカせっ記
10. S.キャビー、C.コルベル:アリエッティーズ・ソング
11. 谷山浩子:テルーの唄
12. 久石譲:君をのせて
13. 久石譲:真紅の翼
14. 久石譲:ハトと少年

<演奏>
佐藤友紀(トランペット…1、3、4、7-9、11、12、14、フリューゲルホルン…2、5、6、13、ピッコロトランペット…5、10)
大野真由子(ピアノ)

石川亮太(アレンジ)

<収録>
2021年5月11-13日
神奈川県、相模湖交流センター ラックスマンホール

 

Disc. 久石譲 『久石譲 presents MUSIC FUTURE V』

2021年10月20日 CD発売 OVCL-00765

 

久石譲主宰 Wonder Land Records × クラシックのEXTONレーベル
夢のコラボレーション第5弾!未来へ発信するシリーズ!

久石譲が“明日のために届けたい”音楽をナビゲートするコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、アルバム第5弾が登場。2020年のコンサートのライヴを収録した本作は、エネルギッシュなミニマル作品が集められ、エキサイティングなアルバムとなりました。ジョン・アダムズの「Gnarly Buttons」のソロを熱演したクラリネット奏者マルコス・ペレス・ミランダには、会場が大きな拍手を送りました。

日本を代表する名手たちが揃った「ミュージック・フューチャー・バンド」が奏でる音楽も、高い技術とアンサンブルで見事に芸術の高みへと昇華していきます。EXTONレーベルが誇る最新技術により、非常に高い音楽性と臨場感あふれるサウンドも必聴です。「明日のための音楽」がここにあります。

ホームページ&WEBSHOP
www.octavia.co.jp

(CD帯より)

 

 

解説 松平 敬

MUSIC FUTUREは、ミニマル音楽、あるいはその流れを汲む秀作を日本の聴衆に紹介する久石譲のコンサート・シリーズだ。そして、ここに収められた音源は、その第7回目のコンサートのライブ録音である。

ミニマル音楽は、その名のとおり、極端に限定された短いパターンの繰り返しや変容だけで構成される音楽である。聴く分には心地よい音楽であっても、演奏する側からみれば、少しのミスが致命傷となる演奏至難な音楽で、特にこうした音楽に慣れていない奏者にとっては、コンサートでの生演奏は恐怖そのものだろう。しかし、ここで演奏している奏者の大半は、このコンサート・シリーズの出演を重ね、ミニマル音楽の演奏スタイルが体に馴染んできているようだ。今回採用された、一部の楽器を除いてほとんど全員が立奏するスタイルも、音楽表現に対する積極性、自発性を高める効果を及ぼし、演奏もますますしなやかになっている。

今回の聴きどころは、ジョン・アダムズの『Gnarly Buttons』でソリストを務めるマルコス・ペレス・ミランダのクラリネット。ミニマル音楽でありながら古き良きアメリカ音楽を彷彿とさせる独特なソロ・パートの軽妙洒脱な演奏をお楽しみいただきたい。もちろん、ますます洗練度を高めてきた久石譲の二つの作品、ロック的な激しさが鮮烈なデスナーの作品も必聴だ。

 

久石譲:2 Pieces 2020 for Strange Ensemble

この作品は、MUSIC FUTURE Vol.3のために作曲された『2 Pieces for Strange Ensemble』の改訂版。旧ヴァージョンと基本的に同じ音楽であるが、オーケストレーションの細部が彫琢され、より洗練されたサウンドに生まれ変わっている。旧ヴァージョンはCD「Music Future II」に収録されているので、両方を聴き比べてみるのも一興だろう。

タイトル中の「for Strange Ensemble」という文言が示すとおり、この作品は、クラリネット、トランペット、トロンボーン、打楽器(2奏者)、2台ピアノ、サンプラー、チェロ、コントラバスという、かなり特殊な楽器編成のために作曲されている。2曲目では、金管楽器奏者がマウスピースのみで演奏することによって生まれる、人声そっくりの不思議な音色も使用されている。楽器編成だけでなく、それぞれの曲の「素早く動いている対比」、「漁師の妻たちと黄金比」というタイトルも独特だが、これらはダリの絵画からインスピレーションを得たもの。

どちらの曲も、音の鳴っていない沈黙の部分が印象的だ。音と沈黙を絶妙なバランスで配置するセンスは、絵画的な造形感覚を強く想起させる。

 

ジョン・アダムズ:Gnarly Buttons for Clarinet and Small Orchestra

ジョン・アダムズは、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなど、ミニマル音楽の開祖というべき作曲家の次の世代に当たる。ライヒやグラスの音楽では、反復されるメロディー・パターンの抽象的な変容が重視されているのに対し、アダムズの音楽には、そこにロマン派的な情緒や様々なポピュラー音楽の要素が組み込まれ、ミニマル音楽の新しい展開を示している。

さて、この作品を特徴づけるのは、ソリストを務めるクラリネットの音色だ。この楽器の音色は、ベニー・グッドマンやガーシュイン『ラプソディ・イン・ブルー』の冒頭部分など、古いジャズのノスタルジックなイメージと強く結びついているが、この作品では、そうしたクラリネットのイメージが効果的に利用されている。うねうねと続くメロディーから始まる第1楽章は、冒頭こそ抽象的に聴こえるが、バンジョーの音色、ウォーキング・ベースなどが加わってくることで、ジャズ的なニュアンスが強まってくる。

ジャズ以前のアメリカのフォーク・ミュージックを現代化させたような第2楽章(途中には牛の鳴き声も描写される!)、ギターによる柔和なハーモニーに乗って甘いメロディーが歌われるバラード調の第3楽章と、全体の構成にも趣がある。

 

ブライス・デスナー:Skrik Trio for Violin, Viola and Violoncello

ブライス・デスナーは、現代音楽の作曲家でありながら、ロック・バンド「ザ・ナショナル」のメンバーとしてギタリストとしての顔を持つ、異色の経歴が興味深い。

この作品は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによる弦楽三重奏、というクラシカルな編成のために作曲されているが、その音楽は、これらの弦楽器の優美なイメージとは正反対の、ロック的な荒々しさに満たされている。ロック的と言っても、実際に使われている作曲技法はミニマル音楽や、リゲティなどの現代音楽からの影響が強いもので、ロックのリズムが直接現れるわけではない。作品全体は、激しく錯綜するリズムを主体としたいくつかのセクションと、それらを引き裂くかのような持続音による、静的な楽想の交替で構成されている。

タイトルの「Skrik」とは、ノルウェー語で「叫び」を意味する。作曲者が見たオノ・ヨーコが叫んでいる映像が作曲の直接のきっかけとなっているが、まさにこのノルウェー語のタイトルを持つエドヴァルド・ムンクの有名な絵画も参照されている。

 

久石譲:Variation 14 for MFB

2021年に完成、初演された『交響曲第2番』の第2楽章を抜き出し、Music Future Bandの編成で演奏できるように作り直したもの。

テーマと14の変奏、コーダからなる楽曲構成は、伝統的な交響曲に類例がありそうだが、その鋳型に嵌め込まれた音楽は相当に個性的だ。パルス状のリズムで奏されるテーマは、沖縄やバリの音楽に通じるトロピカルな情緒を持っている。ほとんど全ての部分で、音楽は伴奏和声を伴わない単声で作曲されているが、メロディーの数音ずつを異なる楽器で受け継いでいくことによって、たった一本のメロディー・ラインから豊かな色彩感が生まれる。ヴァリエーションを重ねるごとにグルーヴ感が増幅していく展開は、絶妙なDJプレイによって紡がれるクラブ・ミュージックさながらだ。特に、途中から加わるラテン・パーカッションの効果は絶大で、シビアなアンサンブルが要求されるオーケストラと相まって、手に汗を握るスリリングな音楽が実現している。

(まつだいら・たかし)

(CDライナーノーツより)

 

 

ミュージック・フューチャー・バンド
Music Future Band

2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。

”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのもと、久石譲(1950-)の世界初演作のみならず、ミニマル・クラシックやポストクラシカルといった最先端の作品や、日本では演奏機会の少ない作曲家を取り上げるなど、他に類を見ない斬新なプログラムを披露している。これまでに、シェーンベルク(1874-1951)、ヘンリク・グレツキ(1933-2010)、アルヴォ・ペルト(1935-)、スティーヴ・ライヒ(1936-)、フィリップ・グラス(1937-)、ジョン・アダムズ(1947-)、デヴィット・ラング(1957-)、マックス・リヒター(1966-)、ガブリエル・プロコフィエフ(1975-)、ブライス・デスナー(1976-)、ニコ・ミューリー(1981-)などの作品を取り上げ、日本初演作も多数含む。”新しい音楽”を常に体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

Joe Hisaishi
2 Pieces 2020 for Strange Ensemble
1. Fast Moving Oppositions
2. Fisherman’s Wives and Golden Ratio

「2 Pieces 2020 for Strange Ensemble」は、MUSIC FUTURE Vol.3のために書いた楽曲です。誰もやっていない変わった編成で変わった曲を作ろうというのが始まりでした。

第1曲はヘ短調の分散和音でできており、第2曲は嬰ヘ短調でできるだけシンプルに作りました。

大きなコンセプトとしては、第1曲は音と沈黙、躍動と静止などの対比、第2曲は全体が黄金比率1対1.618(5対8)の時間配分で構成されています。つまりだんだん増殖していき(簡単にいうと盛り上がる)黄金比率ポイントからゆっくり静かになっていきます。黄金比率はあくまで視覚の中での均整の取れたフォームなのですが、時間軸の上でその均整は保たれるかの実験です。

第1曲「Fast Moving Opposition」は直訳すれば「素早く動いている対比」ということになり、第2曲の「Fisherman’s Wives and Golden Ratio」は「漁師の妻たちと黄金比」という何とも意味不明な内容です。これはサルバドール・ダリの絵画展からインスピレーションを得てつけたタイトルですが、絵画自体から直接触発されたものではありません。ですが、制作の過程でダリの「素早く動いている静物」「カダケスの4人の漁師の妻たち、あるいは太陽」が絶えず視界の片隅にあり、何らかの影響があったことは間違いありません。ただし、前者の絵画が黄金比でできているのに対し、今回の楽曲作りでは後者にそのコンセプトは移しています。

久石譲

 

Joe Hisaishi
Variation 14 for MFB (2020)  *World Premiere

「Variation 14 for MFB(Music Future Band)」は今年の4月に書いた「Symphony No.2」の2楽章として作曲した楽曲です。それをMUSIC FUTURE Vol.7で演奏できるようにRe-composeしました。音の純粋な運動性を追求した楽曲です。テーマと14の変奏、それとコーダで構成しています。約11分の楽曲ですが、分かりやすくシンプル(しかし演奏は難しい)な楽曲を目指しました。今は楽しめることが一番大切だと考えています。

久石譲

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.7」コンサート・パンフレットより)

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.7」コンサート・レポート より一部抜粋)

 

 

 

 

CD鑑賞 レビュー追記

久石譲作品について。

2 Pieces 2020 for Strange Ensemble(2016/2020)

2016年版と2020年版、ふたつの音源をならべてみると見事に収録時間が同じ、約1秒の誤差しかないことに驚く。すなわちテンポや小節数なども加味した全体の楽曲構成はほぼ同じということになる。

2016年版は、サンプラーによる重低音ベースやパーカッション(少しこもったポツポツした音)が全体を支配するほど、とてもパンチの効いた印象を受ける。2020年版は、聴こえる旋律たちの見通しがよいスッキリした印象を受ける。作品の性格は概ね変わらない。どこが変わったのだろう。聴いてすぐわかるピアノパートの変化などもあるが、細かい改訂の多くを見つけることは至難の業となる。

となるところが、ラップタイムが同じ。第1,2曲ともに約8分半で仕上がっている。極端な話、譜面がなくても小節時間の流れが同じゆえ、1分間ごとに区切って再生してほぼズレなく聴き比べることができる。…できた結果、聴きとれた範囲だけでもあちこち細かく散りばめられていることがわかった。

全体からみると、サンプラーの比重減、パーカッションパートの修正。ここが大きく改訂に貢献しているように聴こえた。特に、感覚的なパンチの効いたからスッキリしたという印象の変化は、サンプラーの比重からくるところが大きいように思う。求めたワイルドな音像からのサンプラー役割の変化、あるいは、各声部の改訂やより動きの細かくなった楽器音たちをもっと見せたいことからの変化か。興味は尽きない。

感覚的を否定しようとするなら、論理的(実質的)には2020年版は決してスッキリした改訂ではない。サンプラーに覆われたベールが晴れることで、音符の粒たちが縦横無尽に動き回るさまが見え、実際に動きも増えている。パーカションによるリズムもより細かく刻まれ、実際に種類も動きも増えている。つまりは精緻を磨いた改訂版といえる。

 

参考になればと今回聴き比べたときのメモを書き置く。1分間ごと区切ってもよかったが、楽曲の展開や流れもあるので任意で練習番号を振るかたちにした。

–memo–

1. Fast Moving Oppositions

A 0:01~
・低音サンプラー音量減

B 1:05~
・低音サンプラー音量減
・ピアノ/クラリネットパート変化
・ヴィブラフォン最後のフレーズ(2:12)変化

C 2:15~
・低音サンプラー音量減
・ウッドブロック追加
・シンバル(ハイハット)変化
・ピアノパート(リズム刻み)強調

D 4:10~
・低音サンプラー音量減
・シンバル(ハイハット)変化
・チェロ刻み音量減

E 5:15~
・金属音パーカッション削除(or音量減)

F 6:10~
・低音サンプラー音量減
・コントラバス強調(低音サンプラー同声部)
・シンバル(ハイハット)変化
・大太鼓からバスドラムへ変化?

G 6:50~
・低音サンプラー音量減

 

2. Fisherman’s Wives and Golden Ratio

A 0:01~
・低音サンプラー音量減

B 1:00~
・低音サンプラー音量減
・ウッドブロック追加
・タンバリン追加

C 2:00~
・シンバル(ハイハット)変化

D 3:00~
・低音サンプラー音量減

E 3:55~
・シンバル(ハイハット)変化
・大太鼓からバスドラムへ変化
・タムタム変化

F 5:25~
・低音サンプラー音量減

G 6:20~
・低音サンプラー音量減
・シンバル(ハイハット)削除
・ウッドブロック追加
・タンバリン追加

H 7:15~
・低音サンプラー音量減
・ウッドブロック変化

 

旋律やフレーズの変化を聴き分けられるほどの耳はないため、あくまでも音色的出入りやわかりやすい変化を見つけられたもの。ふたつのバージョンは楽器ごとの音配置(左右)や音量バランスも違う。「なかったものが追加された」or「あったものが強調された」、この聴こえ方の違いは聴く人それぞれに出てくる。スコアがあればそんな論争は着火しないかもしれない。あくまでも賛否両論の起こりにくいだろう明確な箇所だけをメモから書き置いた。

初心者耳という点はご了承いただいて、それでも、この細部の違いがわかったうえで聴くと、とても味わい深くおもしろく聴くことができる。ワイルドな音響を楽しみたいときは2016年版、アンサンブルの妙を楽しみたいときは2020年版、いろいろな聴き方ができる。感覚的であっても論理的であっても、ここに揃ったふたつのバージョンはそれぞれにしっかりとした空気感を持っている。

 

 

オリジナル版のコンサート解説・コンサート感想・CD解説など。

 

 

 

 

Variation 14 for MFB (2020)

楽曲解説(CDライナーノーツ/コンサート・パンフレット)にあるとおり、初演前の交響曲第2番から第2楽章を抜き出し2020年MFB版が先に披露された。そして2021年交響曲第2番は堂々世界初演を迎えることとなった。『久石譲:2 Pieces 2020 for Strange Ensemble』(2016/2020)の聴きくらべのように、いつか音源化されたときにさらに楽しみたい。交響曲第2番のプログラムノートやコンサート感想などはコンサート・レポートにまとめた。

 

 

 

なお、本作アルバムに収録されている久石譲2作品は、公式チャンネルにてコンサート映像が特別配信されている。(視聴可能 2021年10月20日現在)

 

 

 

 

 

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
2 Pieces 2020 for Strange Ensemble(2016/2020)
1. 1 Fast Moving Opposition
2. 2 Fisherman’s Wives and Golden Ratio

ジョン・アダムズ
John Adams (1947-)
Gnarly Buttons for Clarinet and Small Orchestra(1996)
3. 1 The Perilous Shore
4. 2 Hoedown (Mad Cow)
5. 3 Put Your Loving Arms Around Me

ブライス・デスナー
Bryce Dessner (1976-)
6. Skrik Trio for Violin, Viola and Violoncello(2017)

久石譲
Joe Hisaishi
7. Variation 14 for MFB(2020)[世界初演]

久石譲(指揮)
マルコス・ペレス・ミランダ(ソロ・クラリネット)3-5
ミュージック・フューチャー・バンド

2020年11月19、20日 東京・よみうり大手町ホールにてライヴ収録

 

JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE V

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Music Future Band
Live Recording at Yomiuri Otemachi Hall, Tokyo, 19, 20 Nov. 2020

Produced by Joe Hisaishi
Recording & Balance Engineer: Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineers: Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo

and more…

 

Disc. 白石光隆 『ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集』

2021年9月25日 CD発売 MM-4097

 

聴き終えて胸に深いものを残す

映画音楽の分野で極めた業績と名声によって、作曲家、ひいては音楽家としての全体像が見えにくくなっている。そんな人物がいるとすれば、イタリアの生んだニーノ・ロータ、そして日本の久石譲はさしずめ最右翼の存在ではないだろうか 。奇しくも共通点を持つ2人の音楽に共感を寄せるピアニストが、深々と響く美音によって、彼らの魅力を解き明かしてくれる。耳にはいたって優しく、しかし聴き終えて胸に深いものを残す。 そんな楽の音が刻み込まれ たアルバムだ。 (木幡 一誠)

(メーカーインフォメーションより)

 

 

久石譲作品はもちろん全曲において、オリジナル楽譜/音源をもとに演奏されている。クレジットもないように独自に編曲された曲はない。とても忠実で丁寧なピアノカバー作品になっている。純粋な聴きくらべを味わうことができる。

とりわけ「人生のメリーゴーランド」「Oriental Wind」の2曲はピアノ愛好家こそうれしい収録といえる。この2曲は久石譲によるピアノソロが録音されていないからだ。オリジナルアルバム『FREEDOM PIANO STORIES 4』(2004)で聴けるのはピアノと弦楽のアンサンブル。そしてピアノ譜『FREEDOM PIANO STORIES 4 -オリジナル・エディション-』はそれをもとにピアノソロ用に直したしたもの。本盤白石光隆のピアノ演奏は、このオリジナル楽譜を忠実に再現している。これは必聴というほかない。リスニングにお手本に。またひとつ聴く楽しみと弾く楽しみを運んでくれるアルバムの登場はこよなくうれしい。

 

 

 

 

 

 

 

ニーノ・ロータ
1. 15の前奏曲より 第2番
2. 15の前奏曲より 第6番
3. 15の前奏曲より 第9番
4. 15の前奏曲より 第10番
5. 15の前奏曲より 第13番
6. 戯れるイッポーリト
7. 子どものための7つの小品より 第1番 ジャンプとゲーム
8. 子どものための7つの小品より 第4番 小さな階段
9. 子どものための7つの小品より 第7番 アクロバット

久石譲
10. One Summer’s Day
11. HANA-BI
12. Ashitaka and San
13. Innocent
14. The Wind Forest
15. 人生のメリーゴーランド
16. Oriental Wind

ニーノ・ロータ
17. アマルコルド
18. 8 1/2
19. 甘い生活

ピアノ:白石光隆

 

Disc. クミコ 『十年/人生のメリーゴーランド』

2021年8月25日 CDS発売 COCA-17909

 

中島みゆき書き下ろし楽曲『十年』、映画『ハウルの動く城』テーマ曲に詞をのせた『人生のメリーゴーランド』、クミコが歌う大人のポップス2曲収録

 

 

2007年のアルバム『十年~70年代の歌たち~』の収録曲として発表した中島みゆきの書下ろしによる『十年』と、2006年のアルバム『わが麗しき恋物語』の収録曲として発表したジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲『人生のメリーゴーランド』。

「『十年』は、中島みゆきさんが書き下ろしてくださったのに、シングルにしないままおいてしまっていたし、『人生のメリーゴーランド』はせっかく宮崎駿監督にお許しをいただいて詞をつけたのに、ボーナストラックのようにアルバムに収録してしまっていたので、どちらも申し訳ないなと(笑)。今までもったいない扱いをしてしまっていた2曲を新録でリリースしました」

~(中略)~

一方『人生のメリーゴーランド』は、ジブリ映画『ハウルの動く城』の主題歌。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメントを提供することになり、映画を鑑賞したところ、スクリーンに響く楽曲に大感動。自ら監督に日本語詞をつけて歌わせてほしいと依頼し、快諾のもと実現した一曲だ。

アルバム収録時は、アレンジはバンド的なカルテットだったが、今回は、『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』などジブリ作品の楽曲を手がけ、映画『64-ロクヨン-前編』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を2年連続受賞した村松崇継がリアレンジ。詩人で作詞家の覚和歌子の詞の世界観と、村松らしいシンフォニックなアレンジが一体となり、スケール感のある作品に仕上がっている。

「村松さんには、映画を観て私が感動した、どこの国かわからないけれど、ヨーロッパの匂いのするワルツを再現するようなアレンジにしてほしいとお願いしました。レコーディングでは難しい命題がいろいろあって、『村松、歌いにくいぞーーー!』って(笑)苦労したんですけど、でも苦労がないとつまらないし、苦労した分、愛着も湧いています」

出典:うたびと より一部抜粋
https://www.utabito.jp/interview/8744/

 

 

 

歌手のクミコが、2007年のアルバム『十年~70年代の歌たち~』の収録曲として発表した「十年」と、06年のアルバム『わが麗しき恋物語』の収録曲として発表した「人生のメリーゴーランド」の2曲を新たに録音し、シングルとして8月25日に発売。

2曲ともクミコファンからシングル化を待ち望む声が多かった楽曲。10年間片想いし続ける女性の気持ちをつづった「十年」は、日本在住のブラジル人プロデューサーRenato Iwai氏を起用し、ブラジルの一流ミュージシャンが集結。ブラジルと日本をリモートで結んでのレコーディングが実現した。

「十年は長い月日か 十年は短い日々か」と歌詞にあるように、クミコは2011年3月11日に石巻で被災し、その後、両親の介護、そしてコロナ禍での音楽生活と、人生は順風満帆にはいかず、さまざまな出来事に苛まれた。そんな思い通りにならない人生の悲哀をラブソングに込めた1曲として仕上がっている。

クミコは「思えばこの十年は東日本大震災からの十年でもあり、その時『石巻』という甚大な被害を受けた街に、私はコンサートのために伺っていました。音楽は、歌は、いったい何の役にたつのだろうか。この問いは2021年の今も、コロナ禍の中で繰り返される問いになりました。『十年』は片恋の歌です。思いどおりにならない片思いの歌です。でも最後に主人公は『明日』への希望を持ちます」と楽曲について語っている。

一方「人生のメリーゴーランド」は、ジブリ映画『ハウルの動く城』のテーマ曲として制作された楽曲。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメント提供することとなり、映画を鑑賞したクミコが楽曲に惚れ込み、宮崎監督に日本語詞をつけて歌わせて欲しいと依頼した。監督の快諾のもと、詩人で作詞家の覚和歌子によって詞がつけられ、2006年に「人生のメリーゴーランド」として発表された。今回、村松崇継氏がリアレンジを担当している。

この曲を歌いたいと宮崎監督に願い出ると、監督は「クミコさんの『人生のメリーゴーランド』にしてください」は快諾してくれたと振り返るクミコ。「監督とのご縁をつないでくれた覚和歌子さん(「いつも何度でも」の作詞者)の言葉で2006年に出来上がったこの歌は、その年に発表したベストアルバムの中に入りました。この歌の主人公もまた思い通りにならない人生を生きていて、やはり最後に『明日』を見ます」と、「十年」と共通のテーマがあるようだ。

(WEBニュースより)

 

 

 

1.十年
作詞・作曲:中島みゆき 編曲:Renato Iwai
2.人生のメリーゴーランド
作詞:覚和歌子 作曲:久石譲 編曲:村松崇継
3.十年 (Instrumental)
4.人生のメリーゴーランド (Instrumental)

 

Disc. 久石譲 『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(Domestic / International)

2021年8月20日 CD発売 UMCK-1683/4

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第二弾!
映画・CM音楽、そしてライフワークのミニマル・ミュージックから構成された久石譲の多彩な世界に触れる一枚。

(CD帯より)

 

 

日本の巨匠・久石譲が本格的に世界リリース!

Deccaリリース第2弾となるベスト作品。

海外での認知度も高い映画音楽を中心に、彼の音楽人生を代表する名曲ばかり。北野武映画曲 “Kids Return” “HANA-BI” の新規録音を含む、全28曲。2枚組みアルバム。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

ミニマルミュージックから広告音楽まで、現代日本を代表する世界的作曲家、久石譲の多面的な才能と豊かな音楽性を凝縮した、DECCA GOLDからのベストアルバム第2弾。東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた「MKWAJU 1981-2009」は、久石の音楽の中核を成すミニマルミュイルージックのスタイルによる重要曲で、ここでは2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音されたバージョンで聴くことができる。また、映画音楽の巨匠としての魅力も満載で、宮崎駿、北野武、大林宣彦、山田洋次、澤井信一郎、滝田洋二郎といった名監督の作品に寄せた楽曲も多く収録されている。北野監督の映画のためのテーマ曲「Kids Return」と「HANA-BI」の新たに録音されたライブ音源も聴きどころだ。さらに、自ら奏でるソロピアノ曲やコマーシャルフィルムのための楽曲などもセレクトされており、Vol.1に当たる『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』と併せて入門編としても最適で、長年のファンも楽しめる充実のコンピレーションとなっている。

(iTunes レビューより)

 

 

 

The Essence of the Music of Joe Hisaishi

 『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』に続き、この『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol.2』を手にしておられるリスナーならば、おそらく久石譲というアーティストについて、すでにさまざまなイメージをお持ちではないかと思う。世界的な映画音楽作曲家、現代屈指のメロディメーカー、叙情的なピアノの詩人……などなど。それらの形容はすべて正しいが、これまで40年にわたり作曲家として活動してきた彼の足跡を、このアルバムに即して注意深くたどってみると、久石という人がつねにふたつの主軸に沿って音楽を生み出し続けてきたことがわかる。芸術音楽、すなわちミニマル・ミュージックの作曲と、久石がエンターテインメントと定義するところの商業音楽の作曲だ。どちらの作曲領域も、彼にとって欠くことが出来ない本質的な活動であるばかりか、ふたつの領域は時に重なり、影響し合うことで、彼独自のユニークな音楽を生み出してきた。本盤の収録楽曲は、これらミニマル・ミュージックとエンターテインメントというふたつの作曲領域が俯瞰できるように、バランスよく選曲されている。まさに、久石譲の音楽のエッセンス(the essence of the music of Joe Hisaishi)が収められていると言っても過言ではない。

 国立音楽大学で作曲を学んでいた久石は、アメリカン・ミニマル・ミュージック(作曲家にラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなど)やドイツのテクノバンド、クラフトワークの音楽に出会って衝撃を受け、理論偏重のアカデミックな現代音楽の作曲に見切りをつけると、自らもミニマル・ミュージックの作曲家を志すようになった。スワヒリ語でタマリンドの木を意味する《MKWAJU》(1981/2009)は、曲名が示唆するように東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた、久石最初期のミニマル・ミュージックのひとつとみなすべき重要作(本盤には2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音された管弦楽版が収録されている)。シンプルなリズムパターンを繰り返しながら、拍をずらしていくことによってパルス(=拍動、脈動)の存在を聴き手に強く意識させていく手法は、現在に至るまでの彼の音楽の原点となっていると言っても過言ではない。その4年後に作曲された《DA-MA-SHI-E》(1985/1996)の曲名は、オランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーの錯視画(だまし絵)に由来する。現実の世界に存在し得ない図形や模様があたかも存在しているように見る者を「だます」トリック的な効果を、久石はミニマル・ミュージックの作曲の方法論に応用し、同じフレーズや音型を繰り返すうちに音楽が新たな側面を見せていく面白さを生み出している。2007年作曲の《Links》はそうした方法論をさらに深化させ、ミニマル・ミュージック特有の力強い推進力は維持しながらも、変拍子のリズムの使用とシンフォニックな展開によって、シンプルにして複雑という二律背反を克服することに成功している。これら3曲に共通するのは、久石のミニマル・ミュージックが非常に知的かつ論理的な作曲に基づきながらも、つねにユーモアを忘れていないという点だ。決して、現代音楽の限られたリスナーに向けて書かれた、抽象的で深刻な音楽ではない。とてもヒューマンで、愉楽に満ちあふれた音楽なのである。しかしながら、久石はミニマル・ミュージック以外の現代音楽をすべて否定しているわけではなく、一例を挙げれば、新ウィーン楽派をはじめとする無調音楽を敬愛し、その影響も少なからず受けている。1999年に作曲された《D.e.a.d》(曲名が示す通り、D=レ、E=ミ、A=ラ、D=1オクターヴ高いレの4音をモティーフに用いている。弦楽合奏、打楽器、ハープ、ピアノのための4楽章からなる組曲「DEAD」として2000年に完成)は、そうした彼の側面が色濃く表れた作品のひとつである。

 次に、久石のもうひとつの重要なエッセンスである、エンターテインメントのための音楽について。

 久石の名を世界的に高めたきっかけのひとつが、宮崎駿監督のために作曲したフィルム・スコアであることは、改めて説明の必要もあるまい(そのテーマ曲のほとんどは『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』で聴くことが出来る)。その中から、本盤には『もののけ姫』(1997)のラストで流れる《Ashitaka and San》と、『紅の豚』(1992)のテーマ曲《il porco rosso》が収録されている。

 宮崎監督のための音楽と並んで世界的に有名なのは、北野武監督のために書いたフィルム・スコアであろう。ふたりがこれまでにタッグを組んだ計7本の長編映画は、初期北野作品の演出を特徴づけるミニマリズムと、久石自身の音楽のミニマリズムの美学が見事に合致した成功例として広く知られている。青春の躍動感と強靭な生命力を、ミニマル的なリズムに託した『キッズ・リターン』(1996)のメインテーマ《Kids Return》。言葉では表現できない夫婦愛を、表情豊かなストリングスで表現した『HANA-BI』(1998)のメインテーマ《HANA-BI》。シンプルで明快なピアノのテーマが、夏の日射しのように輝く『菊次郎の夏』(1999)のメインテーマ《Summer》。さらに久石は、単に映画の物語にふさわしいテーマ曲を作曲するだけでなく、映画音楽作曲の常識にとらわれないユニークな実験をも試みている。哀愁漂う《The Rain》が流れる『菊次郎の夏』のコミカルなシーンは、北野と久石が共に敬愛する黒澤明監督の『音と画の対位法』──コミカルなシーンに悲しい音楽を流したり、あるいはその逆となるような音楽の付け方をすることで、映像の奥に隠れた潜在的意味を強調する──を、彼らなりに応用した実験と言えるだろう。

 昨2020年に82歳で亡くなった大林宣彦監督のために久石が作曲したフィルム・スコアの数々は、宮崎作品や北野作品とは違った意味で、映画監督と作曲家が優れたコラボレーションを展開した例である。『ふたり』(1991)の物語の中で妹と死んだ姉が主題歌《草の想い》すなわち《TWO OF US》を口ずさむシーン、あるいは『はるか、ノスタルジィ』(1993)で過去の記憶を呼び覚ますように流れてくるメインテーマ《Tango X.T.C.》など、大林作品における久石の音楽は、物語の展開上、なくてはならない重要な仕掛けのひとつとなっている。また、『水の旅人 侍KIDS』(1993)の本編をたとえリスナーがご覧になっていなくても、主題歌《あなたになら…》すなわち《FOR YOU》の美しいメロディを聴けば、この作品が夢と希望にあふれたファンタジー映画だということがたちどころに伝わってくるであろう。

 これら宮崎、北野、大林監督のための音楽に加え、本盤には久石の映画音楽を語る上で欠かせない、3人の重要な日本人監督の映画のために書いたテーマ曲が収録されている。

 今年2021年に90歳を迎える日本映画界の巨匠・山田洋次監督と久石がタッグを組んだ第2作『小さいおうち』(2014)の《The Little House》は、主人公が生きる激動の昭和の時代への憧れを表現したノスタルジックなワルツ。久石に初めて長編実写映画の作曲を依頼し、これまでに計6本の作品で久石を起用している澤井信一郎監督の『時雨の記』(1998)の《la pioggia》は、定年を控える妻子持ちの重役と未亡人の純愛をマーラー風の後期ロマン派スタイルで表現したテーマ曲。そして、滝田洋二郎監督と久石が組んだ2本目の作品にして、アカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(2008)の《Departures -memory-》は、物語の中で主人公がチェロを演奏する設定を踏まえ、久石が撮影前に書き下ろした美しいメインテーマである。

 前述の映画音楽に加え、本盤にはエンターテインメントの音楽として、コマーシャル・フィルムに使われた《Friends》(TOYOTA「クラウン マジェスタ」)と《Silence》(住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」)も収録されている(後者は久石のピアノ演奏映像がCMで使用された)。いっさいの予備知識がなく、これらの楽曲に耳を傾けてみれば、短いCMで流れた作品とはとても思えないだろう。もちろん、久石は商品コンセプトを充分踏まえた上で作曲しているのであるが、楽曲に聴かれる格調高いメロディは、紛れもなく彼自身の音楽そのものだ。つまり久石は、商業音楽だからと言って、決して安易な作曲姿勢に臨んでいない。ミニマル・ミュージックの作曲と同じく、真剣勝負で取り組んでいるのである。

 この他、本盤には久石がソロ・アルバム(主として『ピアノ・ストーリーズ』を銘打たれたソロ・アルバム・シリーズ)などで発表してきた、珠玉の小品の数々が含まれている。《Lost Sheep on the bed》《Rain Garden》、あるいは《Nocturne》などのように、彼が敬愛するサティやショパンのような大作曲家たちにオマージュを捧げた作品もあれば、久石流のクリスマス・ソングというべき《White Night》のような作品もあるし、《WAVE》(ジブリ美術館の館内音楽として発表された)や《VIEW OF SILENCE》のように、ミニマリストとメロディメーカーのふたつの側面を併せ持つ作品もあれば、《Silencio de Parc Güell》のように、音数を極力絞り込むことで”久石メロディ”を純化させた作品、あるいは《Les Aventuriers》のように、アクロバティックな5拍子でリスナーを興奮させる作品もある。これらの楽曲だけでなく、本盤一曲目の『キッズ・リターン』~《ANGEL DOLL》から、最終曲《World Dreams》(久石が音楽監督を務めるワールド・ドリーム・オーケストラW.D.O.のテーマ曲)まで、すべての収録曲について言えるのは、久石が人間という存在を信じ、肯定しながら、希望の歌を奏でているという点だ。つまるところ、それがミニマル・ミュージックとエンターテインメントの作曲における、久石の音楽の本質なのである。

 つい2ヶ月ほど前、幸いにも僕は、久石自身の指揮によるW.D.O.のコンサートで《Ashitaka and San》と《World Dreams》を聴くことが出来た。『もののけ姫』の物語さながらに世界が不条理な状況に陥り、破壊的な悲劇を体験したいま、ピアノが確固たる信念を奏でる《Ashitaka and San》を耳にした時、『もののけ姫』のラストシーンで「破壊の後の再生」を描いたこの楽曲が、実は我々自身が生きるいまの世界をも表現しているのだと気付かずにはいられなかった。人間は、夢を捨てず、希望を持って前に進まなければいけない。それこそが久石譲の音楽のエッセンス、すなわち「Songs of Hope」なのだと。

前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2021年6月

(CDライナーノーツより)

 

 

CDライナーノーツは英文で構成されている。日本国内盤には日本語ブックレット付き(同内容)封入されるかたちとなっている。おそらくはアジア・欧米諸国ふくめ、各国語対応ライナーノーツも同じかたちで封入されていると思われる。

 

ベストアルバム収録曲のオリジナル音源は下記にまとめている。ライナーノーツには、各楽曲の演奏者(編成)とリリース年はクレジットされているが収録アルバムは記載されていない。

また本盤は、いかなるリリース形態(CD・デジタル・ストリーミング)においても音質は向上している。もし、これまでにいくつかのオリジナル収録アルバムを愛聴していたファンであっても、本盤は一聴の価値はある。そして、これから新しく聴き継がれる愛聴盤になる。

 

 

 

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第一弾!久石作品の中でも映画のために作られた珠玉のメロディが際立つ代表曲を中心に構成された愛蔵版。

 

 

 

 

 

 

オリジナルリリース

【Disc 1】
01. ANGEL DOLL
久石譲 『Kids Return』(1996)
02. la pioggia
03. il porco rosso
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Lost Sheep on the bed
久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』(2005)
05. FOR YOU
久石譲 『WORKS・I』(1997)
06. White Night
10. Rain Garden
久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』(1996)
07. DA-MA-SHI-E
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
08. Departures -memory-
久石譲 『おくりびと オリジナル・サウンドトラック』(2008)
09. TWO OF US
12. Summer
久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2000)
11. Friends
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
13. Les Aventuriers
久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009)
14. Kids Return
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)

 

【Disc 2】
01.Links
05. MKWAJU 1981-2009
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
02. VIEW OF SILENCE
久石譲 『PRETENDER』(1989)
03. Nocturne
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Silence
久石譲 『ETUDE ~a Wish to the Moon~』(2003)
06. Ashitaka and San
09. Tango X.T.C.
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
07. The Rain
久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』(1999)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
久石譲 『WORKS III』(2005)
10. The Little House
久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』(2014)
11. HANA-BI
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)
12. Silencio de Parc Güell
久石譲 『ENCORE』(2002)
13. WAVE
久石譲 『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』(2015)
14. World Dreams
久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』(2004)

 

 

 

 

【mládí】for Piano and Strings 【A】
Summer / HANA-BI / Kids Return
久石譲弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)コーナーです。Aプログラムでは北野武監督作品からおなじみのメインテーマをセレクトし久石譲ピアノと弦楽オーケストラによる演奏です。おなじみでありながらここ数年のコンサートでは聴く機会のなかった「HANA-BI」「Kids Return」というプログラムには多くのファンが歓喜したはずです。

「Summer」はピアノとヴァイオリン・ソロの掛け合いがみずみずしく爽やかで、弦楽もピチカートではじけています。きゅっと胸をしめつけられるような思い出の夏、日本の夏の代名詞といえる名曲です。この曲が生演奏で聴けただけで、今年の夏はいいことあった!と夏休みの絵日記に大きなはなまるひとつもらえた、観客へのインパクトと感動は超特大花火級です。

「HANA-BI」は一転して哀愁たっぷりでしっとりななかに内なるパッションを感じる演奏。特に後半はピアノで旋律を弾きながら、低音(左手)で重厚に力強くかけおりる箇所があるのですが、今回それを弦楽低音に委ねることでより一層の奥深さが際立っていたように思います。ピアノも同フレーズ弾いていましたけれど、従来のようなメロディを覆ってしまうほどの激しい低音パッションというよりも、ぐっとこらえたところにある大人の情熱・大人の覚悟のようなものを感じるヴァージョンでした。渋い、貫禄の極み、やられちゃいます。

「Kids Return」は疾走感で一気に駆け抜けます。弦のリズムの刻み方が変わってる、と気づきかっこいいと思っているあっという間に終わってしまいました。そして今回注目したのが中音楽器ヴィオラです。相当がんばってる!このヴァージョンの要だな、なんて思った次第です。ヴァイオリンが高音でリズムを刻んでいるときの重厚で力強い旋律、一転ヴァイオリンが歌っているときの躍動感ある動き、かなり前面に出ていたような印象をうけます。管弦楽版にひけをとらない弦楽版、フルオーケストラ版では主に金管楽器の担っている重厚で高揚感あるパートをストリングス版ではヴィオラが芯を支える柱として君臨していたような、そんな気がします。これはスカパー!放送でじっくり確認してみたいところです。

ピアノとストリングスで3曲コーナーか、なんて安直なこと思ったらいけません。こんなにも楽曲ごとに色彩豊かに表情豊かにそれぞれ異なる世界観を演出してくれる久石譲音楽。メロディは違っても楽器編成が同じだからみんな同じように聴こえる、そんなことの決してない三者三様の巧みな弦楽構成。清く爽やかで、憂い愛のかたち、ひたむき疾走感。それは誰もが歩んできた「mládí」(青春)のフラッシュバックであり、少年期・円熟期・青年期いつまでも青春そのもののようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2021.10 追記

第2弾ベストアルバムでは、一口コメント大募集企画として、全28曲から好きな1曲1ツイート「この曲好き!」その魅力・思い出を140文字で。よせがきのように集まったらいいなとTwitterで募集しました。

 

 

 

 

【Disc1】
01. ANGEL DOLL  (映画『キッズ・リターン』より)
02. la pioggia  (映画『時雨の記』より)
03. il porco rosso  (映画『紅の豚』より)
04. Lost Sheep on the bed
05. FOR YOU  (映画『水の旅人 侍KIDS』より)
06. White Night
07. DA-MA-SHI-E
08. Departures -memory-  (映画『おくりびと』より)
09. TWO OF US  (映画『ふたり』より)
10. Rain Garden
11. Friends  (TOYOTA「クラウン マジェスタ」CMソング)
12. Summer  (映画『菊次郎の夏』より)
13. Les Aventuriers
14. Kids Return  (映画『キッズ・リターン』より)  ※初収録

【Disc2】
01. Links
02. VIEW OF SILENCE
03. Nocturne
04. Silence  (住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」CMソング)
05. MKWAJU 1981-2009
06. Ashitaka and San  (映画『もののけ姫』より)
07. The Rain  (映画『菊次郎の夏』より)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
09. Tango X.T.C.  (映画『はるか、ノスタルジィ』より)
10. The Little House  (映画『小さいおうち』より)
11. HANA-BI  (映画『HANA-BI』より)  ※初収録
12. Silencio de Parc Güell
13. WAVE
14. World Dreams

 

All music composed by Joe Hisaishi

All music arranged by Joe Hisaishi
except
“For You” arranged by Nick lngman

All music produced by Joe Hisaishi
except
“la pioggia”,”il porco rosso”,”White Night”,”Rain Garden”,”Friends”,”Nocturne”,”Ashitaka and San”,”Tango X.T.C.” produced by Joe Hisaishi and Eiichiro Fujimoto
“Silence”,”Silencio de Parc Güell” produced by Joe Hisaishi and Masayoshi Okawa

Mastering Engineer: Christian Wright (Abbey Road Studios)

Mastered at Abbye Road Studios, UK

Art Direction & Design: Kristen Sorace

Photography: Omar Cruz

and more

 

Disc. 久石譲 『Minima_Rhythm IV ミニマリズム 4』

2021年7月7日 CD発売 UMCK-1682

 

待望の久石譲「ミニマリズム」シリーズ第4弾!!

「コントラバス協奏曲」「ホルン協奏曲」の2作品を豪華に収録。

「ミニマル×コンチェルト」新たな魅力に出会える1枚。

(CD帯より)

 

 

待望の久石譲「ミニマリズム」シリーズ第4弾!!

今作は「ミニマル×コンチェルト」がコンセプト。久石譲が書き下ろした協奏曲の中でも、際立つ存在の2作品を豪華に収録。世界でも稀有な存在である「コントラバス協奏曲」、そして「3本のホルンのための協奏曲」は、独奏楽器としての今までにない表現の可能性と限界に挑んだ意欲作。当代随一のソリストを迎え、今注目の久石譲指揮、フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)の演奏で、コンチェルト×ミニマル・ミュージックの新たな魅力に出会える一枚。

日本テレビの音楽番組『読響シンフォニックライブ』の委嘱作品として2015年に発表されたコントラバス協奏曲。世界初演時のソリストとして観客を魅了した石川滋さんが、2017年に、久石譲と再びタッグを組み、FOC(旧NCO)の演奏によりレコーディングされた。低音域のコントラバス(故にコンチェルトとしては稀有な存在である)とオーケストラの緻密に計算された絡み合いは必聴です。

NHK交響楽団の首席ホルン奏者でもある福川伸陽さんからの依頼をきっかけに、構想から丸一年をかけて作り上げられ、3本のホルンによる協奏曲として、2020年2月に発表された作品。収録音源は、久石自身の指揮、FOCの世界初演によるライヴ演奏。福川伸陽、そして豊田実加、藤田麻理絵による見事なコンビネーションで奏でられるホルン協奏曲。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

楽曲解説

Contrabass Concerto

「Contrabass Concerto」は日本テレビの「読響シンフォニックライブ」という番組でカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」と一緒に演奏する楽曲として委嘱された。ソロ・コントラバスは石川滋氏を想定して作曲し、両曲とも僕が指揮した。

作曲に当たってコントラバスの音を実体験するために楽器を購入し、毎日作曲の前に15~30分練習した。そのことによって響きを身体で覚えることができた。

2015年の春先から作曲を開始し、夏にコントラバスのパートとピアノスケッチを作り、秋にオーケストラのパートが完成した。全3楽章からできており約30分の作品になった。

初演は2015年10月29日 東京芸術劇場 コンサートホールにて、ソロ・コントラバス 石川滋氏(読響ソロ・コントラバス)と読売日本交響楽団によって演奏された。その後2017年7月16、17日にわたって長野市芸術館 メインホールにて同石川氏とフューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)によって再演され同時にレコーディングもされた。

第1楽章
F#-B-E-Aの4つの音が基本モチーフとして全体を支配している。この4度音程はソロ・コントラバスのオープンチューニング(通常はE-A-D-G)なのだが、展開していくと演奏する上では大変難しい音程でもある(ヴァイオリンの5度音程のように)。もともと軽快なテンポで始まる自由な形式の楽曲だったが、後に序奏と中間部に遅めにテンポのパートを作り、全体を立体的にした。

第2楽章
冒頭のコントラバスのピッツィカートはもちろんジャズからの影響であり、それがもっともこの楽器の良さを発揮すると考えたからである。その上にクラリネット、ホルンが奏でる、モチーフが全体の要になっている。その後コントラバスが同じモチーフを演奏しながら盛り上がり、静かな中間部になる。ちょっと複雑だが大きくは3部形式からなり、後半はベースランニングのアップビートで始まる。個人的にはもっとも無駄なく構成できた楽章で気に入っている。

第3楽章
この楽章では7度音程のモチーフで全体を構成している。スケルツォ的な明るさと終楽章としての重みが出るように気をつけた。一番ミニマル的な方法論に近い楽章になった。

 

 

The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra

「The Border」はホルン奏者の福川伸陽氏から依頼されて作曲した。全3楽章、約24分の作品になった。

初演は2020年2月13日 東京オペラシティ コンサートホールで、ソロ・ホルン 福川伸陽、豊田実加、藤田麻理絵の諸氏とフューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)によって演奏され、同時にレコーディングもされた。

I. Crossing Linesは、16分音符の3、5、7、11、13音毎にアクセントがあるリズムをベースに構成した。つまり支配しているのはすべてリズムであり、その構造が見えやすいように音の構造はシンプルなScale(音階)にした。

II. The Scalingは、G#-A-B-C#-D-E-F#の7音からなる音階を基本モチーフとして、ホルンの持つ表現力、可能性を引き出しつつ論理的な構造を維持するよう努めた。

III. The Circlesは、ロンド形式に近い構造を持っている。Tuttiの部分とホルンとの掛け合いが変化しながら楽曲はクライマックスを迎える。以前に書いた「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための室内交響曲」の第3楽章をベースに再構成した。ホルンとオーケストラによってまるで別の作品になったことは望外の喜びである。

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

久石譲の”ミッション・インポッシブル” ──『ミニマリズム4』について

コントラバスのための協奏曲と、ホルンのための協奏曲を、ミニマル・ミュージックの作曲家・久石譲が作曲する──。驚いた。あまりにも大胆不敵でチャレンジングな試み、ほとんど”ミッション・インポッシブル”と呼んでもよい試みだ。

なぜ”ミッション・インポッシブル”なのか?

まず、楽器という側面から見てみよう。そもそも、コントラバスのための協奏曲の数は少ないし、あったとしても、チェロ協奏曲の変種のように書かれている場合がほとんどだ。つまり、「この楽器でなければならない」という必然性を掘り下げる余地が、まだまだ多く残されている。ホルンのための協奏曲の場合は、まだコントラバスよりも作品が多く書かれているが、演奏頻度の高いレパートリーはモーツァルトやR・シュトラウスのような古典に偏り、20世紀以降の作品がなかなか演奏に恵まれていないのが実情である。

つまり、どちらの楽器も”協奏曲のスター”とは言い難いのだ。

そうした事情に加え、さらにミッションを困難にしているのが、それぞれの楽器の特性と、久石が得意とするミニマル的な音楽語法との相性である。

コントラバスは、和音の基音を鳴らしたり、あるいは低く呟くドローンのような持続音を演奏するのに適しているが、コントラバスが鳴らす低音は、音響学上、他の楽器の高・中音域に比べて到達が遅いというハンディがある。同様にホルンも、広大な空間を感じさせるロングトーンや印象深いメロディを演奏するのには適しているが、直接音を響かせる他の楽器と異なり、ホルンは壁の反射などを使った間接音を響かせる楽器なので、どうしても他の楽器との間にタイムラグが生じてくる。つまり、ピアノやヴァイオリンやマリンバがキレのあるミニマルのパッセージを弾くようには、コントラバスやホルンは弾けないのである。

だが、そうしたハンディに怯んでいては、作曲家としての久石の名が廃る。むしろ、誰も手を出したことのない領域にチャレンジするからこそ、久石の本領がいかんなく発揮されると言うべきだ。

では、久石は如何にして不可能なミッションを可能にしていったのだろうか?

《コントラバス協奏曲》(2015年作曲・初演)の場合、久石は現代のコントラバスの4度調弦を踏まえる形で4度音程の主要モチーフを導き出し、そのモチーフを展開していくという、いわば楽器そのものに寄り添ったアプローチで音楽を始めている。5度調弦を用いる他の弦楽器とコントラバスが異なる以上、まずは謙虚にコントラバスという楽器を見つめ、そこから音楽を始めていく──まさに最小限のアプローチと言い換えてもいい──というのが、《コントラバス協奏曲》での久石の方法論だ。

これに対して《The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra》(2020年作曲・初演)の場合は、曲名が示しているように、久石は独奏ホルン奏者を3人用意することで、ミニマル特有の素早いパッセージの演奏にもホルンを対応させ、3オクターヴ以上に跨るホルンの音域を存分に引き出しながら、オーケストラ作品にしばしば聴かれるホルン三重奏の美しい響き(たとえばベートーヴェンの《英雄》など)を独奏パートに付与することに成功している。「ホルン奏者を3人も用意するのか」と驚かれるリスナーもいらっしゃるかもしれないが、2管編成のオーケストラのために書かれた《The Border》の場合は、ホルン・セクションの奏者2人がそのまま独奏パートに加わるので、編成上、決して無理のない解決法となっている。

しかしながら、この2曲の協奏曲が真にユニークなのは、久石がこれらの独奏楽器をクラシックの文脈だけで扱うのではなく、それぞれの楽器に特有の伝統や楽器の起源といった、いわば”楽器の文化的な側面”まで作品の中に取り込んでいる点だ。

独奏楽器としてのコントラバスを考えた時、多くの人がイメージするのは、実はクラシックよりもジャズだろう(その場合は「ダブルベース」と英語読みにするのが適切である)。ダブルベースの名手たちが得意とする深々としたピッツィカート、つまりジャズ・ベースは、どんな楽器にも真似できないユニークで魅力的な音楽表現である。あたかもクライム・ストーリーを読むような”夜の音楽”として書かれた第2楽章のジャズ的な表現は、そうしたジャズ・ベースの伝統に由来している。

一方の《The Border》では、第2楽章冒頭のマーラー風の序奏、あるいは第3楽章最後に登場するアルペンホルンのようなカデンツァに、”角笛”から派生したホルンという楽器の出自がしっかりと刻印されている。山々や国々、ひいては文化圏や時空も超えて響きわたる”角笛”──それこれが曲名の《The Border》の意味するところなのかもしれない。

このように、久石はいくつもの困難なミッションをクリアし、コントラバスやホルンでなければならないという必然性を深く掘り下げながら、楽器そのものの魅力も充分に引き出し、しかも、どちらの協奏曲の終楽章もエネルギッシュなミニマル・ミュージックで締め括ることで、久石でなければ書けない音楽の必然性、つまり”ミニマリズム”を明確に打ち出している。久石の”ミッション・インポッシブル”が鮮やかに達成される瞬間の爽快感を、これ以上拙い文章で説明するような野暮な試みは敢えて慎み、あとは本盤に収録された演奏そのものに委ねたい。

例によって、リスナーもしくはその仲間が久石の”ミニマリズム”の魅力に捕らえられ、あるいは一生その魅力から抜け出られなくなっても、当方は一切関知しないので、そのつもりで。

2020年12月6日、久石譲の誕生日に
前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(CDライナーノーツより)

 

 

プロフィール

フューチャー・オーケストラ・クラシックス
Future Orchestra Classics(FOC)

2019年に久石譲の呼び掛けのもと新たな名称で再スタートを切ったオーケストラ。2016年から長野市芸術館を本拠地として活動していた元ナガノ・チェンバー・オーケストラ(NCO)を母体とし、国内外で活躍する若手トップクラスの演奏家たちが集結。作曲家・久石譲ならではの視点で分析したリズムを重視した演奏は、推進力と活力に溢れ、革新的なアプローチでクラシック音楽を現代に蘇らせる。久石作品を含む「現代の音楽」を織り交ぜたプログラムが好評を博している。2016年から3年をかけ、ベートーヴェンの交響曲全曲演奏に取り組み、2019年7月発売の『ベートーヴェン:交響曲全集』が第57回レコード・アカデミー賞特別部門特別賞を受賞した。現在はブラームスの交響曲ツィクルスを行いながら、日本から世界へ発信するオーケストラとしての展開を目指している。

(CDライナーノーツ より)

 

*CDライナーノーツ 全テキスト日文・英文を収載

 

 

 

TV番組内インタビュー

久石:
音がこもりがちになる低域の楽器をオケと共演させながらきちんとした作品に仕上げるのはハードルが高かったです。僕は明るい曲を書きたかったので、ソロ・コントラバス奏者の石川滋さんには今までやったことないようなことにもチャレンジしていただく必要もありました。

石川:
久石さんに曲を書いていただくということは夢のような出来事でした。ましてやソロ楽器としてはマイナーであるコントラバスで協奏曲を書いてくださったのは自分にとってとても貴重な経験になりました。

石川:
最初に譜面を見たときはその曲の素晴らしさに感動して、「ぜひ弾きたい!」と思ったのですが、冷静に譜面を見てみると「これは弾けるのだろうか?」と思うほど難曲でした。音の数や跳躍の多さ、それに音域がとても広く短時間の間に弾かなければならないなど…大変でしたね。

石川:
今久石さんがなさりたい音楽というものがすごくわかる中で、今まで培ってきた映画音楽などのポップな音楽性も随所に見られて、とても素晴らしい曲です。

(公式サイト:読響シンフォニックライブ | 放送内容より 編集)

Info. 2015/12/26 [TV] 「読響シンフォニックライブ」カルミナ・ブラーナ(12月) コントラストバス協奏曲(1月)  より抜粋)

 

 

「コントラバスを独奏楽器としてイメージしてみた時、真っ先に思い浮かぶのがロン・カーターのようなジャズ・ベーシストなんですよ。そうすると、これも当然”アメリカ”になってくる。よくよく考えてみると、今年の作曲活動のポイントは、じつは”自分の内なるアメリカ”を確認し直すことだったのかと。それが必然的な流れならば構わないし、結果的に良い作品が生まれればいい。チェロ協奏曲の延長として作曲しても面白くないですから。これはすごく面白い曲に仕上がると思いますよ。期待してください」

Blog. 雑誌「CDジャーナル 2015年11月号」久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「協奏曲も、やはりオーケストラに向けた作品ということが、作品を作る上で半分を占める重要な要素になりますね。オーケストラ作品を書く場合は、オーケストラの機能を最大限発揮出来るように書きますが、協奏曲の場合は、ソリストとオーケストラはある意味で五分五分の立場です。単純にオケが伴奏に回るような作品は書きたくないし、ソリストはオーケストラと対峙して、その全部を引き受ける形にもなるので、その楽器の特性をすべて発揮してもらいたい。それを踏まえて書くのが魅力的だし、とても大事なことだと思っています」

「やはり実際にその楽器触れてみないと分からないことがたくさんあるし、コントラバスは大きな楽器なので、どういう振動が身体に伝わるかなども知りたかったのです。それから、この音とこの音の組み合わせだと、弓がこう引っかかってしまうなとか、そういう細かなことも実際にやってみないと分からないことが多いのです。そのために、石川さんを通して楽器を購入した訳です」

「それから3本にすると、経済的な効果もあるのです。というのは、ホルン奏者がひとりであるオーケストラに協奏曲を演奏しに行った時に、そこのオーケストラのホルン奏者たちと共演できるスタイルにすれば、演奏機会が少なくなるということはないだろうと。例えば、福川さんひとりで海外のオケに行った時に、そこのホルン奏者と共演も出来る。」

「我々、作曲家の立場から言えば、作品が演奏されてなんぼだと思うのですよ、作品を書いた以上は。演奏してもらう上で、ものすごくハードルが高かったら演奏機会も少なくなりますよね。そういうことも踏まえた上で、福川さんのような優れた演奏家が世界のどこでも演奏できる作品ということを考えた時に、このやり方は間違っていないなと思いましたね」

「いわゆる国境、リミット・ラインというような意味ですが、ホルンの音がパルスのように連なって行くのが、地平線だったり水平線だったり、そういうイメージがあって、そのラインを上がったり下がったりして行く、それをちゃんと計算されたものとして作って行く時に、キーとなる言葉としてBorderという言葉がずっと頭の中にありました。」

Info. 2021/07/15 久石譲がコントラバス石川滋、ホルン福川伸陽と語る挑戦に満ちた協奏曲集『ミニマリズム4』(Web Mikikiより) より抜粋)

 

 

「どちらの楽器も、アンサンブルで他の人と演奏したときに能力を発揮する楽器なんですよ。例えば弦楽合奏にコントラバスがなければ、響かなくて音量が半分ぐらいに減りますし、ホルンのないオーケストラって想像できますか? でも今回はソロなので楽器をむき出しにして、この楽器の何が魅力なんだということを真剣に考え直したわけです。コントラバスは、ソロ楽器としてならやはりジャズのウォーキングベースが魅力的ですよね。それはなぜかといえば弦が長くて響くから。……ということはハーモニクスもきっちり使えば良い武器になるはず。でも、それらを十分に活用した楽曲はまだないんですよ。だから、どうやったらその部分が発揮できるのかを考えながら書きました」

「こちらもずっと意識してました(笑)。そのあとミュージック・フューチャー Vol.6(2019年10月25日)の前日か当日に、協奏曲のアイディアが急に浮かんだんですよ。パルスを刻んでいるところに、下から駆け上がってるラインと、逆に上から下へのラインが絶えずクロスしていく。ただそれだけしかない曲を書きたいと。それで2019年2月から構想を練り、およそ1年がかりで作曲しました。主要モティーフを頭に提示したら、それ以外の要素を使わないでロジカルに作ることを徹底した作品になったことで、ミニマル・ミュージックの原点に戻ってきたように聴こえるかもしれないですけど、そうでもないんです。この作品は個人的にとても大事なものになりましたが、それはいわゆる感性や感情、あるいは作曲家の個性に頼らないスタイルができたからです。第2楽章はフレーズのスケールが大きな福川さんだからこそできる音楽になっています」

Blog. 「音楽の友 2021年8月号」久石譲&石川滋&福川伸陽 鼎談内容 より抜粋)

 

 

 

コントラバス協奏曲

もう一度『コントラバス協奏曲』をじっくり聴いていきました。するとそこには管楽器や打楽器・パーカッションの融合からくる独特な響きがありました。

コントラバスを主役に据えるということは、実はものすごく挑戦的なことなのかもしれません。音域も狭いし低音、なかなか前面には出にくい、つまり埋もれてしまいやすい。同じ弦楽であるヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、これらの弦楽合奏を一緒に濃厚に奏でようものなら、コントラバスはいつもの低音域に追いやられ負けちゃいます。でもソリストとして独奏となった場合は、縦横無尽に動き回ったり、ピッツィカートなどで最大限の存在感をしめしたい。

この作品で久石譲が巧みにオーケストレーションしているのは、弦楽合奏にかえて管楽器・打楽器・パーカッション各々の楽器特性を活かし、色彩豊かに配置していることです。全体としては音の塊を厚くしすぎることなく、余白のある音楽、輪郭のくっきりしたそぎ落とした音像になっています。さらに薄くならない、単調にならない、間延びしないよう、絶妙にオーケストレーションされているのが管楽器・打楽器・パーカッション。そこにコントラバスを主役として迎えているように感じます。

この作品では、管楽器+パーカッション、打楽器+パーカッションという旋律を数多く聴くことができます。パーカッションがリズムを刻んだり、拍子を打つ役割だけではなく、管楽器や打楽器と同じフレーズで重ねられているということです。音程のある管楽器群や打楽器群と、基本的には音程のないパーカッションを重ねることで、なんとも魅力的な広がりあるカラフルな構成展開を実現しています。パーカッションの種類も豊富だし、同じ楽器の奏法バリエーションも引き出し多く、聴くたびに新しい発見があります。弦楽合奏で厚みをもたせたり、コントラバス以外の弦楽器たちが前面に出てしまうと負けてしまうコントラバス、その解決策として導き出したものだと思います。

従来の壮大なシンフォニックではない、この手法はまさにアンサンブル的です。「ミュージック・フューチャー」コンサートでアンサンブルを進化させ、さらに新しいオーケストレーションを施すようになったからこそできた作品、それが『コントラバス協奏曲』なのかもしれません。とても気に入っている作品です。

よし!今回は木管楽器(フルート、ピッコロ、オーボエ、クラリネット、ファゴット、コントラファゴットほか)に意識を集中させて聴いてみよう、次は金管楽器(ホルン、トランペット、テナートロンボーン、バストロンボーン)に、次は打楽器(マリンバ、ビブラフォン、グロッケンシュピール、シロフォンほか)に、次はいつもよりも奥に名脇役に徹しているピアノ、チェレスタ、ハープは? パーカッション(ドラムセット、カウベル、ウッドブロック、大太鼓、クラベス、トライアングルほか)だけを追いかけても、おもちゃ箱のようにいろいろなところから楽器が旋律が飛びこんでくる! そんな発見のできる作品です。

どこを切り取ってもいいなと思う作品です。なにが飛びすかワクワク楽しいおもちゃ箱のようです。そのくらい好きな作品です。

Blog. 次のステージを展開する久石譲 -2013年からの傾向と対策- 2 より修正)

 

 

 

久石譲:The Border ~Concerto for 3 Horns and Orchestra~ *世界初演

ホルンのために書かれた協奏曲です。3人のホルン奏者がフィーチャーされ、ステージ前面中央で主役を演じます。その音色から悠々とした旋律を奏でるイメージのあるホルンですが、この作品では、とても細かい音符をあくまでもリズムを主体とした音型を刻む手法になっていました。ずっと吹きっぱなしで、ミュートを出し入れ駆使しながら、さらにそれなしでも、おそらくは口と管に入れた手だけを調節して。ホルンという楽器にはこんなにもバリエーション豊かな音色があるんだと、感嘆しました。第2楽章では、ホルンのマウスピースだけで音とも声ともつかない音色を奏でたり。第3楽章は「エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための室内交響曲 第3楽章」をベースにしているとあるとおり、エレクトリック・ヴァイオリンの独奏パートがホルンに置き換えられ、1管編成の室内楽だったものが、オーケストラへと拡大されています。

生演奏で体感し、ホルンを味わい、オーケストラの重みも伝わり。この作品は、レコーディングされて、ホルンをはじめ個々のパートがそれぞれ浮き立って配置されたものをしっかりと聴けたときに、またいろいろな発見がおもしろみが感じられる。そう思っています。ホルン3奏者の役割分担や絡み合うグルーヴ、ホルンとオーケストラとのコントラスト。エレクトリック・ヴァイオリンが担っていたディストーションや重奏やループ機能までを、ホルン(単音楽器)×3へ分散させた術などなど。そんな日を願っています。

Blog. 「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス Vol.2」 コンサート・レポート より)

 

 

 

本盤収録作品は公式スコアもあります。

 

 

 

Minima_Rhythm IV
Joe Hisaishi

Contrabass Concert (2015)
1. Movement 1
2. Movement 2
3. Movement 3

The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra (2020)
4. I. Crossing Lines
5. II. The Scaling
6. III. The Circles

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Track 1-3
Contrabass Concerto

Shigeru Ishikawa (solo contrabass)
Joe Hisaishi (conductor)
Future Orchestra Classics (orchestra)
Kaoru Kondo (concertmaster)

Recorded at Nagano City Arts Center Main Hall (16-17 July, 2017)

 

Track 4-6
The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra

Nobuaki Fukukawa, Mika Toyoda, Marie Fujita (solo horns)
Joe Hisaishi (conductor)
Future Orchestra Classics (orchestra)
Kaoru Kondo (concertmaster)

Live Recording at Tokyo Opera City Concert Hall, Tokyo (13 February, 2020)

 

Recording & Mixing Engineer: Tomoyoshi Ezaki (Octavia Records Inc.)
Assistant Engineers: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.), Yasuhiro Maeda
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Disc. 久石譲 『十六茶』 *Unreleased

2021年3月8日 動画公開
2021年3月12日 TVCM放送

 

アサヒ飲料十六茶、新CMの音楽を久石譲が担当している。CMオリジナル楽曲を書き下ろしている。

 

「自然に、健康。編」
「環境にやさしいペットボトルでました編」
出演:新垣結衣、中村倫也
音楽:久石譲 曲名:十六茶

 

公式サイトCMギャラリーや公式チャンネルにてCM動画&メイキング動画 全8種 公開されている。(※2021年3月現在)

  • 十六茶 CM 「環境にやさしいペットボトルでました」編 新垣結衣
  • 十六茶 CM 「自然に、健康。」となりのお姉さん春編 15秒 新垣結衣
  • 十六茶 CM 「自然に、健康。」となりのお兄さん春編 15秒 中村倫也
  • 十六茶 CM 「自然に、健康。」となりのお姉さん春編 30秒 新垣結衣
  • 十六茶 CM 「自然に、健康。」となりのお兄さん春編 30秒 中村倫也

ほか

 

 

 

2021.05.27 追記

CM動画全8種公開。メイキング動画は、音楽をわりときれいな音源として聴くことができる。

 

 

 

聴いた瞬間にパッと爽やかになる、清涼感にあふれたメロディと音色。純度の高い旋律と純度の高い和音で透明感をつくっている。ピアノのメロディにグロッケンシュピールとハープが軽やかにバッキングを添える。春の待ち遠しい原曲版登場となった。

また15秒版と30秒版はメロディに変化を加えている。30秒版をベースにすると、Aメロ(00-10秒)Bメロ(11-20秒)Cメロ(21-30秒)となる。これできれいに起承転結、そしてきれいに着地している楽曲。

15秒版はAとCの2パートで構成され、Bメロはカットされている。AとCをつなぐ8-10秒あたりのメロディが変化している。これにより、縫い目よくメロディとパート展開をつなぎあわせている。30秒版からの切り貼りでもなく、15秒間流れるだけとおすでもなく、あえて修正を加えている。さりげないけれど、たしかな技でぬかりない。感嘆。

1回聴いただけで覚えてしまいそうな、軽く鼻歌してしまいそうな、リフレインするキャッチーなメロディ。”CMは15秒・30秒の勝負、もっと言うならセリフやナレーションの入ってくる前、最初の数秒が勝負” こんな久石譲のかつての発言が甦ってくる。感嘆。

これから季節ごとの新CM発表にあわせて、楽曲もバリエーションが増えていく、そんな期待と楽しみがある。

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『Good Morning Alice』 *Unreleased

2021年3月1日 動画公開

 

チョバニ(Chobani)の広告動画の音楽を久石譲が書き下ろしている。チョバニはギリシャヨーグルトで人気のアメリカ乳製品企業で、コマーシャル動画「Eat today, feed tomorrow」がウェブ動画公開された。本国TVCMとしてもオンエアされているかどうかはわからない。

 

音楽:久石譲
曲名:Good Morning Alice

 

公式サイトにて動画試聴可能(※2021年3月現在)

公式サイト:Chobani
https://www.thelineanimation.com/work/chobani

 

ノスタルジックで牧歌的な笛のメロディにのせて流れる。エスニックなパーカッションやピアノの伴奏なども入って異国情緒あふれる、小編成なアンサンブル構成になっている。また拍節ごとに絶妙な変拍子で30秒の音楽をおさめ、フェードアウトではなくきれいに着地している。

日本ならばすぐに久石譲音楽だとわかるくらいの久石メロディとハーモニーが、海を渡って海外で頻繁に流れ聴かれ、こういった久石譲音楽のテイストが浸透していくとうれしい。

 

 

2021.07 追記

新しい動画(ロングバージョン,約1分)が公開された。同じ音楽を使用しているがこちらも前回よりも長尺で聴くことができる。

 

動画視聴可(2021.7現在)

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『赤狐書生 (Soul Snatcher) オリジナル・サウンドトラック』

2021年2月19日 デジタルリリース

 

映画『赤狐書生 (Soul Snatcher)』
公開日:2020年12月4日 *中国
監督:宋灝霖(ソン・ハオリン)伊力奇(イー・リーチー)
主演:陳立農(チェン・リーノン)李現(リー・シェン)哈妮克孜(ハニ・ケジー)裴魁山 (ペイ・クイシャン)姜超(ジアン・チャオ)張晨光(ジャン・チェングアン)

 

日本公開日:2021年10月22日

中国・香港/2020年/125分
原題:赤狐書生
英題:SOUL SNATCHER
邦題:レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説

 

 

■メイキング動画について

映画予告映像、久石譲インタビュー、レコーディング風景で構成されたもの。

 

久石譲インタビュー 書き起こし

「今回の映画はとても素晴らしく出来ていると思います。ファンタジー・アクションといいますか、でもしっかりと二人の若者の友情みたいなものが、とてもしっかりと描かれていていたので。音楽的にも、通常よりもたくさん音楽を書いて。本当にエンターテインメントとして楽しめる、ダイナミックでありながら、やっぱりある程度こうきちんと知性もあるような。音楽が映像とマッチするように作ったと思っているので、音楽のあり方と映像のダイナミックさ。そういう音楽を目指したんですけれども、自分ではすごくよくできたと思って満足しています」

 

 

全体をとおして。

約2時間の上映時間に対して、約1時間半以上は音楽が配置されている。ファンタジー映画ということもあって、その世界観をつくりあげるための音楽配分は多めとなっている。39人編成オーケストラながら、乾いた重低感のあるパーカッションなどを巧みに盛りこむことで、土台のしっかりした足腰のつよい楽曲も存分にある。

音楽収録は2020年11月7日、ビクタースタジオにて、招集型オーケストラで行われている。新型コロナウィルスの影響によって、この規模のオーケストラへと予定変更を余儀なくされたのか、そもそもこの規模を予定していたのか。どちらかはわからない。いずれにしても、この39人編成オーケストラでありながら、ダイナミックに躍動感ある音楽には、打楽器群が大きく貢献している。

 

本作は、メインテーマやそのバリエーションといったメロディを展開する手法ではなく、ミニマルな手法をとっている。メインテーマに変わる、この映画のための第1主題・第2主題のような短いモチーフがあったとして、その短いモチーフたちを料理(交錯・分解・伸縮など)しながら、映像に対して一種の通奏低音のようにうまくなじませている。

映画鑑賞後に鼻歌で歌えるほどの、印象的なメロディはあまりないかもしれない。近年、久石譲の映画音楽に対する立ち位置の変化を現したような、かつ、クラシックの手法に重きを置いた音楽づくりになっている。映像と距離をとるための主張しすぎない音楽と、ファンタジー映画のために必要な音楽量とのバランス。

あえてイメージとして挙げるとするなら、映画『千と千尋の神隠し』のサウンドトラック「16.千の勇気」、千尋が油屋の階段を駆け下りるシーンなんかで使われていたと思う曲、こういったスリリングで緊迫感を演出する音楽テイストが多い。また、「3.誰もいない料理店」では、後半に「メインテーマ あの夏へ」の変奏旋律が登場するけれど、本作ではとにかくメロディにいかない。同曲前半のように、映像を補完する背景音楽のあり方で曲は流れていく。

ピッツィカートなどで奏される軽やかでコミカルな楽曲も、宴で艶やかに踊るような楽曲も、アジアン・ファンタジーらしく五音音階からなるものも多い。こういったことからも、無意識に『千と千尋の神隠し』を想起したのかもしれない。もちろん、似た曲があるかと言われたら、それはない。ハラハラドキドキ、緊迫シーン、戦う場面など、冒険ファンタジーなストーリー展開のなかで、ミニマル手法を駆使した楽曲が特徴といえる。

 

オーケストラサウンドに、エッセンスとしてシンセサイザー音もブレンドされている。シンセサイザーらしい音色の使い方や選び方をしている。生音のストリングスにシンセサイザーのストリングスを混ぜる手法(それもあるかもしれない、素人耳にはわからない)というよりも、『Deep Ocean』音楽のようにシンセサイザーにしか出せない音色をうまく組み合わせた楽曲たちが目立つ。

また、これまでにない久石譲音楽の特徴として、楽曲に使われている音楽的効果音(シンセサイザー音)と、本編に使われている映像的効果音(SE)が、くっきり区別することが難しいほど近い。これにより、SEから楽曲に自然と移っていったりその逆もあったりと、どこまでが曲でどこからがSEかの境界線が引きにくいという、音響全体(楽曲と効果音)の見事な通奏効果を生み出している。どこまで久石譲と音響効果の話し合いや調整による意図が働いているかはわからないが、今回の達成は、これからにつながる大きな成果ともいえるし、映画における音響芸術のクオリティをワンステップおしあげたともいえると思う。

 

 

少し個別に。

3つの主要テーマ。

運命のテーマ。プロローグから、ダイナミックな物語の展開を予感させる、緩急あるミニマル・モチーフが展開する。静謐な弦楽合奏によるミニマル旋律にはじまり、幾重にも交錯し、強弱と重厚の増減でうねりをともなっていく。パーカッションの鼓動やホイッスルの遠くへ伸びる旋律を織りまぜながら、ファンタジー感と神秘感を演出している物語のはじまり。プロローグからタイトルバックまでの約15分にわたってつづく音楽は、タイトルバックでピークを迎える弦楽器の精巧な音型もまた、ミニマルな旋律になっている。(Track.1-3,29)(Track.3ラストでタイトルバック)

友情のテーマ。こちらは大きな弧を描くようなメロディで、優しく温かい曲想。シンプルな旋律線と、エモーショナルになりすぎないハーモニー。主人公二人の友情の交流を描いたシーンに、たびたびバリエーションで登場する。状況にあわせて短調な旋律で奏されることもある。(Track.7,14,21,28,34)

愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る。(Track.17,20,25,27)

 

公式公開されていた映画ワンシーン動画(約1-2分)、そこでも聴くことができたホイッスルをメインとした楽曲は、ホイッスルが細かく精巧な節まわしを披露していて、伸びやかに広がっていく。(Track.15)

 

総じて、主要楽曲は、登場の多い順に、友情のテーマ、愛のテーマ、運命のテーマが、本作において印象的で重要な柱になっていると思われる。また、それらを合算したとしても30分前後としたときに、ほかの多くをミニマル手法の音楽によって、映像にうまくなじませている。ファンタジー世界に立体感をあたえている。メイキング動画からも、音楽割のMナンバー「M36」と、少なくとも36曲は書き下ろしていることもわかる。

 

 

映画エンドロールに流れる主題歌は、作曲・編曲ふくめて久石譲楽曲ではない。主演俳優が歌唱している。

 

 

2021.02 追記

「赤狐書生 オリジナル・サウンドトラック」デジタル・リリース。映画は中国公開の後、アメリカではVOD配信のかたちで公開されている。日本公開も待たれる。デジタルリリースのメリットも顕著で、CD収録時間を気にすることなく1時間20分の音楽が完全音源化されたこと、世界同時的に各国一斉に配信リリースされたこと。大きな可能性を示したリリースパターンといえ、映画音楽の認知や愛聴が広がる未来へのポテンシャルも感じる。サントラ・レビューも本文末にトラックナンバーを追記するかたちで補足した。

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートにて「英蓮 / Yinglian」が初演された。

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

 

 

1.狐と書生
2.月夜の集い
3.旅の始まり
4.蚌人探し
5.逃げるロバ
6.密談
7.静かな街
8.苦海書院
9.蛙の罠
10.妖怪蛙
11.傀儡書生
12.妖怪蛙との対決
13.作戦失敗
14.兄を探して
15.川下り
16.建康城の誘惑
17.英蓮
18.牡丹桜
19.悪霊の呪い
20.告白
21.奮起の雷
22.試験開始
23.悪霊の誘い
24.中陰界
25.誓い
26.真実
27.英蓮の死
28.決裂の時
29.天命
30.最後の願い
31.怒りの決戦
32.子進のために
33.本物の狐仙
34.小白と子進

音楽:久石譲

 

Soul Snatcher (Original Motion Picture Soundtrack)

1. A Fox and a Scholar
2. The Moonlight Gathering
3. The Beginning of the Journey
4. Finding My Clamen
5. Donkey Running Away
6. Secret Talk
7. A Quiet Town
8. The Academy of Miserable Sea
9. Frog’s Trap
10. The Frog Monster
11. Puppet Scholars
12. Battle with the Frog Monster
13. Mission Failed
14. Looking for Brother Daoran
15. Boat Ride
16. Temptation of Jiankang City
17. Yinglian
18. The Peony Brothel
19. Curse of the Evil Spirits
20. Proposal
21. Rousing of Thunderbolts
22. Starting the Imperial Examination
23. Lure of the Evil Spirits
24. The Bardo World
25. Promise
26. Truth
27. Death of Yinglian
28. Rupture of a Friendship
29. Providence
30. Last Wish
31. The Furious Showdown
32. For Zijin
33. A Real Immortal Fox
34. Xiao Bai and Zijin

Music by Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『Prayers』 *Unreleased

2020年10月19日 動画公開

 

明治神宮鎮座百年祭 記念曲「Prayers」

明治神宮公式チャンネルにて公開

 

 

明治神宮鎮座百年祭にあたり、わが国を代表する音楽家 久石譲氏に記念の楽曲をつくっていただきました。まるで森の中へと入っていくような、静けさと奥行きのある荘厳な調べは、まさに明治時代、日本の精神をもって西洋文明を取り入れた和魂洋才を思い起こします。この曲にあわせて編集された映像と共にご視聴ください。

作曲・編曲 久石譲
演奏 東京交響楽団
録音会場 ミューザ川崎シンフォニーホール
録音・ミキシング 江崎友淑・村松健(オクタヴィア・レコード)
映像編集 佐渡岳利・ 井上寛亮(NHKエンタープライズ)
映像撮影 宝貝社、凸版印刷、乃村工藝社・惑星社、HEXaMedia
アートディレクター 原研哉
写真 関口尚志
制作 サンレディ、ワンダーシティ
制作統括 明治神宮

from 明治神宮 公式チャンネル Meiji Jingu Official Channel

 

 

公開動画について

 

 

明治神宮の会員および関係者へ、CD+DVDパッケージ化したものが非売品として配布されている。音源も映像も公開されたものと同一収録されている。

 

 

 

 

 

和太鼓の強打によってはじまる曲は、静謐な五音音階的モチーフを幾重にも織りませながら厳かな雰囲気ですすめられる。いくつかの打楽器はあるものの、日本の伝統和楽器は使われていない。一般的な西洋オーケストラ楽器のみで、日本古来からの世界観を表現している。公式コメントにもあるとおり、まさに”和魂洋才”といえる。フルートやピッコロをはじめとした木管楽器で五音音階的ハーモニーや五音音階的不協和音を演出するなど、その響きは雅楽などにも共鳴するものがある。

この作品がエンターテインメントに属するかという点においても、レビューをためらう。聴いた感じやイメージで語ることはできたとしても、果たしていいのか、とためらう。信仰や宗教といった側面をもつこともあり単なるエンタメ気分だけで作曲していないことは確かだと思う。そうなると、信仰や宗教といったもの、それになぞらえたものを、どう音楽的手法に置きかえているのか、どこにコンセプトをおいているのか。そういった手引がないと、なにを表現しているのか、見当違いな回答を導きだしてしまう。それでいいのかもしれないけれど、やはりためらう。とっかかりがわかったほうがまっとうな理解は深まる。

「この曲を聴いて絵を書いてください」そう課題を出されたクラス全員の絵が、すべて違うような状態にある。もしそこに「作者は、森をイメージしたようです」「作者は、この楽器を火に見立てたようです」「作者は、このような儀式から着想を得ています」などと解説があれば、課題を出されたクラスの半数以上に、共通点が見つかる絵ができあがるかもしれない。ましてや鎮座百年という記念曲、歴史においても、ふたつの世界大戦をのみこむ長大な時間。そういうことです、レビューをためらう。

たとえば、印象にのこっているもののひとつに、執拗なトランペットの旋律、奏者にとっては最も過酷なパート(動画タイム 4:57-5:27 )。息つく間もなく祈りを唱えつづける言霊のようにも聴こえたり、はたまた、かがり火の炎がちりちりと火の粉たちをまき散らすようにも聴こえたり。容易に近づくことのできない信仰の集中力や、場の空気の緊張感といったものがひしひしと伝わってくる。

こういった部分的なイメージ空想の羅列になってしまうので、やっぱり控えることになる。シンプルに言うと「すごくかっこいいじゃないですか! That’ so Cool!!」と日本からも海外からも驚きと深い喜びでむかえられる楽曲。

この曲をひとつの楽章として置き、多楽章な作品へと発展する生命力を十分に宿した、今の久石譲を出し惜しみなく具現化した大曲。大衆性・芸術性の両軸をかねそなえた、歌わせる旋律とミニマルな旋律を交錯させた、日本と西洋を”いま”で表現した、そんな楽曲になっている。いつか、本人解説や楽曲コンセプトが知りたい。