Posted on 2022/08/01
7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!
今回ご紹介するのはライブ配信レポートです。初登場むーんさんです。その人にしか書けない作品についてのことや想いってありますね。ひとつの作品に想いを込めた素敵なものを届けてくれました。どうぞお楽しみください。
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022
[公演期間]
2022/07/23 – 2022/07/29
[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール
[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣
[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU
久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon
—-intermission—-
久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵
久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon
—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams
[参考作品]
私は「My Lost City」が好きだ。
それは1992年の秋頃、いつものように入ったレコードショップ。クラシックの列をあらかた散策した私は「イージーリスニング」のコーナーへ向かった。
沢山あるアルバムの中にそれは埋もれていた。
当時は「久石譲」のコーナーなどどこにも無い。世間では、少なくとも私の周りの世間では久石譲の名を知る人もほぼ居ない。私も「ジブリの音楽書いてる人」位の印象しか無かったが、そのアルバムは何の気なしに私の目に止まった。
アルバム名は「My Lost City」
作曲者は「久石譲」
「へぇ。久石譲ってソロアルバムも出してるんだ」 何故か目にとまったそのアルバムを引き出しそう思う。「面白そう。買ってみようかな。」 それが久石さんと私の出会いである。
帰宅しアルバムを聴いた私は固まった。
当時、1番好きな曲はチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」。この世で1番美しい曲はモーツァルトのレクイエム。クラシックの中でも悲しい、暗い曲が好きだった私のその琴線にビビッと触れたそのメロディ。いや、触れたでは済まない。身体の中を衝撃が走り去った。この世を憂うような悲しむような美しい響きがこれでもかと流れてくる。
しかもアルバムの構成が良い。クラシックのように曲順や構成にも凝っている。それぞれの曲が独立しそれぞれのテーマを唄いながら、全体として1つの「意味」を持つアルバムになっている。アルバムを一通り聴き終わった時、私は既に久石さんの虜になっていた。
私にとってこれが
久石さんとの出会いであり、原点である。
だから、私は「My Lost City」が好きだ。
それから30年。
節目の年にその衝撃の出会いはまた訪れた。
2022.7.23午後。病院のベッドの上。今回の手術のためにコンサートチケット購入を断念した私は病室のベッドの上にタブレットを置き、ワイヤレスイヤホンをして寝ている。
身体は痛いし、看護師さんの目も気になるが、今年年頭に手術を取るかコンサートを取るか悩んだ末、手術を優先したのだ。多少の身体の痛みには一時的に大人しくして貰おう。年頭の深い悩みに比べれば看護師さんの目も大したことは無い。それよりもライブ配信に全神経を集中する。
そしてそれは始まった。
思いも掛けず流れる「Prologue」に背中がゾクゾクする感覚を覚える。「My Lost City」のアルバム構成を考えれば、これなくして「My Lost City」は始まらないが、WDOと言うコンサートの性質を考えれば、時間的にも曲の知名度としても入れるのは難しいのではと思っていたこの曲をさも当然のように持ってくる久石さんに、このコンサートへの意気込みを感じた。
「Two of Us」が始まった瞬間、私の身体には寒けが走った。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。想像していた理想の編成でその曲が演奏されたからだ。悲しさと寂しさ漂わせるバンドネオンの音色と、孤独さと哀愁漂うバイオリンの音色。それを優しく包むように響くピアノの音色。まさにこの曲の理想の形の一つでは無いだろうか。バンドネオンとバイオリンが重なる辺りから寒気も涙も止まらない。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。感動したからだ。余りの美しい響きに。私はこの響きを聴けて幸せである。
次の「狂気 MADNESS」には驚かされた。こんなにも間引かれたこの曲を聴いた事がない。この30年、この曲「狂気 MADNESS」は殆どその形を変えずに何度も演奏されている。久石さんにとってそれだけ思い入れのある曲であり、完成した曲なのである。それが引き千切られ、繋げられ、改変されている。この組曲の編成編曲に対する音楽家・久石譲の深い決断と並々ならぬ思い入れを感じずにはいられない。それを表すかのように、なんとこの曲のエネルギッシュなこと!ピリピリとした演奏はやがて各演奏者のボルテージをあげてゆく。打楽器のロールがさらにそれを加熱させ、その演奏は何かが取り憑いたようにも見える。まさに「狂気」である。
「Tango X.T.C.」、この曲は本来感傷的な曲である。久石さんご本人もそのアルバムの中で「なぜ1920年代のタンゴはセンチメンタルなのか?」と書かれている。だが、この演奏は実に伸びやかである。センチメンタル、感傷的と聞くと「哀しい」「つらい」と負のイメージが思い付く。それを表すかのようなバンドネオンのメロディライン。ではなぜ?
年齢を重ねるたびに深く思うが、哀しい、つらいと言った感情を感じるからこそ、嬉しい、楽しいと言った感情も感じることができる。若かった30年前には判らなかったそう言った表裏一体の感情を表すかのように、センチメンタルなバンドネオンのメロディラインを奏でつつ、曲は伸びやかに、自由気ままに。そして愉しげになってゆく。演奏者の動きや、久石さんの笑顔がそれを表すかのようだ。そして、人生のクライマックスが訪れるように曲は終わる。次の曲「My Lost City」があるのが判っていても拍手を送りたいと思った。いや送っていた。それほど、この「Tango X.T.C.」は素晴らしかった。
組曲が終わったとき、私は興奮し号泣していた。それが病院のベッドの上とかは、もはや関係ない。嬉しくて嬉しくて。この演奏を聴けた事に感謝して。その興奮は30年前を思い起こさせる。久石さんに初めてあったあの日のように。
身体に力が満ちてくる気がした。
来年は必ず演奏を聴きに行こう。
それまで頑張ろう。元気になろう。
その日を楽しみに。
こんな興奮をまた味わうために。
やはり、私は「My Lost City」が好きなのだ。
2022年7月28日 むーん
じんわりと胸に広がっていくものを感じます。こういった瞬間に触れると、本当にいろいろな環境や状況のなかから、コンサートへ行きライブ配信を視聴し、WDO2022を体感した一人一人にリアルなドラマがあるんだなと改めて切実に思います。次のコンサートはきっと行けますように!
当時の空気のなか手にとっていること、そこからずっと聴いていること、ほかのファンの人からしたらとてもうらやましい貴重な限られた体験だと思います。そして僕はひとつ気づいた。久石さんのフェアライトやデジタルといった80-90年代サウンドが好きでいつしか離れていった人はいるけれど、「My lost City」を好きになった人で離れた人はいない。この作品に出会ったときからずっとファンのまま歩んでいる。そういう作品なんです「My lost City」。
むーんさんは「久石譲の小部屋」でCD紹介ブログをしています。これまでに100枚を越える久石譲アルバムが魅力的な文章で紹介されています。これを見て驚くこと発見することたくさんあります。ご自身のリズムに合うペースで更新されています。くつろぎながら楽しめます。ツイッターと一緒にぜひチェックしてくださいね!
久石譲の小部屋
https://ameblo.jp/nanashi-no-gonbe2/
むーんさん
@HisaishiM
東京公演/配信
【WORLD DREAM ORCHESTRA 2022】
ツアー初日東京公演、ありがとうございました!配信アーカイブも1週間ご覧いただけます。https://t.co/3osUaWicg7 pic.twitter.com/2kxouS53vI— 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF (@joehisaishi2019) July 23, 2022
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reverb.
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