Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲

Posted on 2024/10/20

つづけて、第2部(第六回~第九回)使用楽曲をみていきましょう。

 

 

 

*間違いがあったら修正お願いします

*<89分版>オリジナル版をもとにしています

*<44分版>は編集に伴い音楽の追加・削除・差し替えなど一部異なる放送回があります(第二回/第三回/第四回/…2024年再放送にてリアルタイム確認中)

 

 

第2部

第六回 日英同盟

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:30- 旅立ち [1] 未収録ver.2 (調性、オーケストレーション)
  • 00:06:00- 未収録楽曲(オーケストラ)*第七回/第十回/第十三回
  • 00:08:20- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第七回/第九回/第十三回
  • 偵察 [2]
  • 列強と日本 [2]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 少年の国 III [3]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • アリアズナ [2] [総]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 狼煙 [2]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 疵 [2]
  • 大英帝国のテーマ [3]
  • 蹉跌 [1]
  • 01:04:20- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第七回/第八回
  • 01:09:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第七回/第八回/第九回/第十回
  • 慕情 [2]
  • 若き精鋭たち [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第七回 子規、逝く

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 奇跡の時 [2]
  • 00:07:25- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第八回
  • 00:10:00- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第八回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 赤い花 [3]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 偵察 [2]
  • 00:27:25- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第六回/第九回/第十三回
  • 00:30:30- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第二回/第五回
  • 00:32:45- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第八回/第九回/第十回
  • 蹉跌 [1]
  • 開戦への決意 [2]
  • 赤い花 [3]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 00:52:25- 終の住処 [2]  未収録ver.(オーケストレーション)*第三回/第五回
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • 01:02:05- 未収録楽曲(オーケストラ)*第六回/第十回/第十三回
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 01:13:45- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第八回
  • 01:19:05- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第八回
  • 01:21:50- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第八回/第十一回/第十三回
  • 激動 [1]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第八回 日露開戦

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:00- 獣たちの宴 [3] 未収録ver.(コーラスなし)
  • 00:05:55- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第七回
  • 00:08:35- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第七回/第十一回/第十三回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 00:31:00- 未収録楽曲(オーケストラ)*第二回/第三回/第五回
  • 偵察 [2]
  • 00:37:10- 時代の風 [1] 未収録ver.2(オーケストレーション)*第三回/第四回/第五回
  • 疵 [2]
  • 00:44:10- 若き精鋭たち [3] 未収録ver.2(中間部オーケストレーション)
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 旅立ち [1] [総]
  • 狼煙 [2]
  • 01:08:00- 疵 [2] 未収録ver.(トランペットなし、オーケストレーション)
  • 01:12:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第九回/第十回
  • 狼煙 [2]
  • 01:19:55- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第七回
  • 開戦への決意 [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第九回 広瀬、死す

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 開戦への決意 [2]
  • 00:06:55- 旅立ち [1] 未収録ver.3(後半部調性、オーケストレーション)
  • 00:09:00- 未収録楽曲(ピアノ、パーカッション)
  • 獣たちの宴 [3]
  • 列強と日本 [2]
  • アリアズナ [2] [総]
  • 00:20:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第八回/第十回
  • 時代の風 [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 奸計 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 疵 [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 若き精鋭たち [2]
  • 00:53:00- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第六回/第七回/第十三回
  • 慕情 [2]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 列強と日本 [2]
  • 破局の始まり [2]
  • 時代の風 [1] [総]
  • 狼煙 [2]
  • 広瀬の最期 [2] [総]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • 若き精鋭たち [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

 

一口コメント

第2部で一番使われたサントラ楽曲は「律 ~愛と悲しみ~」(5回)です。第2,3部と正岡律の登場しない場面でも流れています。登場人物ごとにテーマをつけるのではなく、その時代の若者達を群像としてとらえてテーマを書いていることがわかります。ここでは「愛と悲しみ」のテーマ、作品のなかで哀歌(エレジー)として幾度響いています。

もっと広げて、アレンジ・ヴァージョンや未収録ver.も含めたテーマからみると「Stand Alone」(13回)「若き精鋭たち」(8回)「旅立ち」(6回)などになります。また第1部と同じく「疵」(5回)です。全編をとおして鎮魂(レクイエム)のように響く楽曲です。

『サウンドトラック 2』はロシアが色濃く反映された楽曲が並んでいます。第1部未収録楽曲も合わせて、時代の渦の重厚さに覆われています。『同 1』とはまた違った世界観を堪能できるアルバムです。「アリアズナ」で使われているバラライカはロシアの楽器です。映画『風立ちぬ』(2013)でも登場することになります。

「真之と季子」「強国ロシア」は本編ではサントラ未収録ver.のみが使われています。(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

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2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、第3部使用楽曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲

Posted on 2024/10/17

つづけて、第1部(第一回~第五回)使用楽曲をみていきましょう。

 

 

 

*間違いがあったら修正お願いします

*<89分版>オリジナル版をもとにしています

*<44分版>は編集に伴い音楽の追加・削除・差し替えなど一部異なる放送回があります(第二回/第三回/第四回/第五回)

 

 

第1部

第一回 少年の国

  • (オープニング) Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第二回/第四回
  • Human Love [1] [総]
  • 00:10:40- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第二回/第四回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 00:12:35- 未収録楽曲(オーケストラ、マリンバ)
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2] (= 少年の国 III [3] 後半部)
  • 夢 [3]
  • 00:29:40- Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲 [1] 未収録ver.(ヴォーカルなし、ピアノなし、終結部調性とピアノ)
  • 夢 [3]
  • 蹉跌 [1]
  • ガキ大将!真之 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 少年の国 III [3]
  • 旅立ち [1] [総]
  • 青春 [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2] (= 少年の国 III [3] 後半部)
  • 狼煙 [2]
  • 奇跡の時 [2]
  • 少年の国 [2] [総]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第二回 青雲

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 夢 [3]
  • 00:11:05- 未収録楽曲(バスクラリネット、パーカッションほか)
  • 青春 [1] [総]
  • 奇跡の時 [2]
  • 00:21:35- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第五回/第七回
  • Human Love [1] [総]
  • 青春 [1] [総]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 少年の国 [2] [総]
  • 00:47:50- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第四回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 00:53:55- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第四回
  • 00:56:20- 未収録楽曲(パーカッションのみ、トランペットは状況内音楽)
  • 00:58:30- 未収録楽曲(トロンボーン、テューバ、オーケストラ)*第三回/第五回/第八回
  • 01:07:30- 奇跡の時 [2] 未収録ver.1(ホルン調性、後半は同じ)
  • Human Love [1] [総]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]
  • 01:20:30- 少年の国 [2] 未収録ver.(冒頭ハープ伴奏、後半は同じ)
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第三回 国家鳴動

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:03:35- 蹉跌 [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 最後のサムライ [1]
  • 00:17:50- 青春 [1] 未収録ver.(オーケストレーション)
  • 夢 [3]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • Human Love [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 疵 [2]
  • 00:46:10- 奇跡の時 [2] 未収録ver.2(パーカッションなし、オーケストレーション)
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • 00:53:45- 未収録楽曲(トロンボーン、フルート、オーケストラ) *第二回/第五回/第八回
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 00:58:55- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)*第四回/第五回/第八回
  • 狼煙 [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 疵 [2]
  • 01:16:30- 終の住処 [2] 未収録ver.(オーケストレーション)*第五回/第七回
  • 少年の国 [2] [総]
  • 激動 [1]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第四回 日清開戦

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 狼煙 [2]
  • 時代の風 [1] [総]
  • 00:14:30- 偵察 [2] 未収録ver.(ピアノ、オーケストレーション)
  • 激動 [1]
  • 疵 [2]
  • 蹉跌 [1]
  • ふるさと ~松山~ [1]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 激動 [1]
  • 疵 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 01:05:50- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)**第三回/第五回/第八回
  • 01:09:30- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 終の住処 [2] [総]
  • 01:23:05- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第二回
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第五回 留学生

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:35- 未収録楽曲(オーケストラ)*第二回/第三回/第八回
  • 疵 [2]
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 狼煙 [2]
  • 00:25:25- 未収録楽曲(木管、オーケストラ)
  • 奇跡の時 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 00:45:25- 未収録楽曲(パーカッションのみ)
  • 狼煙 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 00:57:25- 未収録楽曲(オーケストラ)
  • 激動 [1]
  • 01:03:45- 終の住処 [2]  未収録ver.(オーケストレーション)*第三回/第七回
  • 01:09:05- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)*第三回/第四回/第八回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 01:18:30- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第二回/第七回
  • 少年の国 [2] [総]
  • (第2部予告)破局の始まり [2]
  • (エンディング)Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

 

一口コメント

記念すべき第一回放送は『サウンドトラック 1』収録楽曲のほか、『サウンドトラック 2』より「少年の国」「Stand Alone for Violin & Violoncello」、『サウンドトラック 3』より「夢」「少年の国 III」などがすでに流れています。テレビ放送と同じく3年間にわたってリリースされたサウンドトラックです。各話とも『同 1・2・3』を並べてみていきます。

第一回だけ長めのオープニングは「Stand Alone」も映像にあてて作られています。全3部を通して未収録ver.1,2とありますが、キー(調性)がそれぞれ半音ずつ異なる/オーケストレーションが異なると微細な変化になっています。「旅立ち 未収録ver.1(Piano & Strings)」は全十三話中で7回も登場している殊勲賞ものです。ぜひともサウンドトラック収録してほしかった。

第1部で一番使われたサントラ楽曲は「Human Love」(8回)です。もっと広げて、アレンジ・ヴァージョンや未収録ver.も含めたテーマからみると「Stand Alone」(20回)「旅立ち」(13回)「少年の国」(11回)などになります。第1部の視聴者としてもぴったりの印象になりますね。その中で「疵」(5回)は注目です。全編をとおして鎮魂(レクイエム)のように響く楽曲です。

「Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲」(日本語歌唱)は本編では使われていません。(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

二口コメント

久石譲コメントより

ーーーー

「でも、司馬さんがこの作品で表現したかった精神世界や明治という時代の空気感を描くためには、個々の人間をクローズアップする手法ではニュアンスは伝わらない。それよりは時代に衝き動かされた若者達を群像としてとらえて、それをテーマに曲を書く方がいいと考えました。」

「『坂の上の雲』の音楽を制作するにあたり、その時代の高揚感を日本の五音階の世界観と西洋のモダンな和音の感覚を融合させながら描き出したいと考えました。そして敢えて協和音と不協和音がせめぎあう大人の音楽を目指しました。さらに音楽の手法として、僕の原点であるミニマル・ミュージックを随所で取り入れ、「激動」や「蹉跌」などでそれを前面に打ち出しています。」

ーーーー

 

第1部は青春期であり西洋への憧れです。実は、第1部は未収録楽曲も一番多く土着的な曲想をもっていたりもします。物語の年代や舞台とリンクしているところもありますが、サウンドトラックにはあえて収録しなかったという見方もできそうです。「ふるさと ~松山~」「最後のサムライ」といった楽曲も1回しか使われていません。日本的すぎるものよりも、西洋との融合にバランスを合わせることで未来につながっていく若者達の姿、サウンドトラックもその世界観に統一されています。

「広瀬 ~快活な人物~」は第一回放送から流れています。もちろんまだ広瀬武夫は登場していません。全3部を通して登場人物ごとにテーマをつけるのではなく、その時代の若者達を群像としてとらえてテーマを書いていることがわかるひと場面です。言うなればここでは「快活な人物」のテーマということになるのかもしれませんね。

『サウンドトラック 1』は時代の変化を感じながら生き生きと進む若者達、力強く活力に満ちた楽曲たちが並んでいます。一方では、全編で繰り返し使われることになる「蹉跌」「激動」「戦争の悲劇」といった楽曲も聴き逃せません。「戦争の悲劇」には、『ストラヴィンスキー:春の祭典』にも聴けるモチーフが登場しています。そこに共鳴するキーワードは、戦争・生贄・犠牲者です。ロシア民謡からいくつかの素材が使われているとも言われる『春の祭典』です。坂の上の雲の世界もまたロシアは大きな舞台のひとつです。

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、第2部使用楽曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(5)組曲

Posted on 2024/10/14

つづけて、「坂の上の雲」組曲をみていきましょう。現在、三つの組曲があります。

 

 

CD発売日

 

 

(A)Saka No Ue No Kumo(2010)

『Melodyphony』に収録されました。構成楽曲は順番に「Stand Alone」「時代の風」「蹉跌」「戦争の悲劇」「Stand Alone」です。演奏は久石譲指揮・ロンドン交響楽団で、オーケストラ通常配置で録音されています。『サウンドトラック 1』と『サウンドトラック 2』の間ということもあり第1部楽曲から中心に構成されています。とはいえ全3部を通して数多く使用された楽曲です。一方では、「青春」「少年の国」「旅立ち」といった快活な楽曲は選ばれていません。「坂の上の雲」の重厚で厳しい時代を描いた一つのかたちとなる音楽作品です。「Stand Alone」もまた組曲のためのオーケストレーションです。さらなる高揚感と壮大なスケールを味わうことができます。

『サウンドトラック 3』に収録されました。構成楽曲は同じ、演奏は外山雄三指揮・NHK交響楽団で、オーケストラ通常配置で新録音されています。こちらの同音源は『総集編』にも収録されています。

メロディフォニー版は約10分半、サントラ版は約11分半、同じ組曲で約1分の違いがあります。クラシック音楽の交響曲約40分の作品でも約4~6分違うだけで聴いている体感は大きく異なってきます。そこからするとこの組曲の約1分の差異は大きい。

 

ラップタイムをみてみましょう。

「Stand Alone」がオープニングを飾る組曲は、次の「時代の風」に移る時にメロディフォニー版(M版)3:30/サントラ版(S版)3:40とここで10秒の差が開きました。次の「蹉跌」に移る時にはM版5:07/S版5:20と15秒の差に少しだけ進んでいます。次の「戦争の悲劇」に移る時にはM版6:19/S版6:44とさらに25秒に広がっています。最後の「Stand Alone」に移るときにはM版8:44/S版9:14と30秒の差に少しだけ進んでいます。そしてラストスパートを駆け抜けゴールを迎えたときは一気に約1分の差が生まれています。

つまりは各パートの演奏時間でみると、エンディング「Stand Alone」で30秒、オープニング「Stand Alone」と「蹉跌」で各10秒、それぞれ演奏時間が異なっています。ピックアップして聴き比べてみるとテンポ感を如実に体感できます。こうして実は2つの「Saka No Ue No Kumo」を楽しむことができます。緩急自在に躍動感のあるM版、丁寧に整然感のあるS版、あなたの好みはどちらでしょうか。

 

 

 

(B)「坂の上の雲」組曲(2009)

(C)「坂の上の雲」第二組曲(2011)

コンサートのみで披露された組曲で音源化はされていません。(B)は『Melodyphony』よりも前で一番最初の組曲にあたります。『サウンドトラック 1』発売直後でありエンターテインメントらしいコンサートに映える楽曲が選ばれています。(C)は『サウンドトラック 3』発売後で遂にTV放送も第3部完結を迎えたタイミングです。そういったことも踏まえながらここでは時系列にみてみましょう。

 

コンサート・プログラム歴

  • 久石譲 ジルベスターコンサート 2009
  • 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ ニューイヤーコンサート (2010)

「坂の上の雲」組曲
時代の風
旅立ち
青春
戦争の悲劇
Stand Alone

司馬遼太郎の長編小説『坂の上の雲』が初の映像化。同名のNHKスペシャルドラマとして2009年11月から放送を開始した。音楽を担当した久石は、「史実・そこに立ち向かう人々の”凛とした”生き様を描きたかった」という。今回はその作品群の中から『時代の風』『旅立ち』『青春』『戦争の悲劇』『Stand Alone』と5つのテーマを選りすぐり、組曲形式に再構築した。あえて日本の五音階と西洋のモダンな音階を融合させることにより、独特の世界観を引き立たせている。明治時代、近代国家として新しく生まれ変わろうとする「日本」。純粋さやひたむきさだけでなく、高み=”坂の上”を目指そうとする人々の強い志と貪欲さが時代を動かす風となっていく。世界の歌姫サラ・ブライトマンが歌う『Stand Alone』は、明治の人々の”凛として立つ”美しき姿をイメージしたというメインテーマ。今回はオーケストラとピアノのバージョンで演奏する。自然と口ずさんでしまいような普遍的なメロディと壮大なオーケストレーションが秀逸。
*NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』オリジナル・サウンドトラック収録

(久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ ニューイヤーコンサート コンサート・パンフレット より)

 

  • 西本願寺音舞台 2011

Saka No Ue No Kumo

 

  • アルモニーサンク北九州ソレイユホール 1周年記念「久石譲コンサート」(2011)
  • 久石譲 ジルベスタ―コンサート 2011

「坂の上の雲」第二組曲
第3部序幕
少年の国
真之と季子
煉獄と浄罪
絶望の砦〜二○三高地ニ起ツ〜
日本海海戦
終曲
Stand Alone

司馬遼太郎の長編小説『坂の上の雲』が映像化。NHKスペシャルドラマとして2009年11月~12月に第1部。2010年12月に第2部、今年12月に完結編となる第3部が放送されたばかり。明治時代、近代国家として新しく生まれ変わろうとする「日本」。純粋さやひたむきさだけでなく、高み=”坂の上”を目指そうとする人々の強い志と貪欲さが時代を動かす風となっていく。ドラマの枠を超え、壮大なスケールで描かれた作品は日本中に感動と衝撃を与えた。

音楽を担当した久石は、「史実・そこに立ち向かう人々の”凛とした”生き様を描きたかった」という。今回はその作品群の中から第3部を中心に「第3部序幕」「少年の国」「真之と季子」「煉獄と浄罪」「絶望の砦~ニ◯三高地ニ起ツ~」「日本海海戦」「終曲」「Stand Alone」の8曲を選りすぐり、組曲形式に再構築した。第3部のメインテーマ「Stand Alone」を歌うのはヴォーカリスト、麻衣。彼女の透きとおった歌声は、番組プロデューサーの耳に留まり3年目を迎える今年、第3部の歌手として抜擢された。2011年の締めくくりにふさわしい重厚且つ壮大なオーケストレーションが秀逸。
*「NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」オリジナル・サウンドトラック2・3」「Melodyphony」 収録

(ジルベスター・コンサート 2011 コンサート・パンフレット より)

 

  • クラブツーリズムスペシャルコンサート 久石譲 オーケストラの世界 (2013)

久石譲:組曲「坂の上の雲」

 

 

「坂の上の雲」組曲は、TVドラマから音楽作品へと再構成され録音された(A)Saka No Ue No Kumo(2010)、演奏会作品へと再構成され披露された(B)「坂の上の雲」組曲(2009)と(C)「坂の上の雲」第二組曲(2011)、三つの組曲があります。これから先、コンサート演奏されたり録音されたりするといいですね。

 

 

次回は、第1部使用楽曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(4)サウンドトラック

Posted on 2024/10/10

つづけて、サウンドトラックをみていきましょう。

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』(2009)

1. Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲
2. 時代の風
3. 旅立ち
4. ふるさと ~松山~
5. 青春
6. 蹉跌
7. Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲
8. 最後のサムライ
9. Human Love
10. 激動
11. 戦争の悲劇
12. Stand Alone for Orchestra

Bonus Track
13. Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲

Total Time:約53分

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

演奏:NHK交響楽団
指揮:外山雄三

歌:サラ・ブライトマン (M1, M7, Bonus Track)
ピアノ:久石譲 (M1, M7, Bonus Track)

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2 』(2010)

第1部:未収録楽曲より
1. 少年の国
2. ガキ大将!真之
3. 奇跡の時
4. 悪ガキ行進曲
5. Stand Alone for Violin & Violoncello
6. 疵
7. 偵察
8. 狼煙
9. 破局の始まり
10. 終の住処
11. 少年の国 for Woodwinds & Strings
12. 広瀬 ~快活な人物~
13. Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲(Bonus track)

第2部:新録音楽曲より
14. 若き精鋭たち
15. 真之と季子
16. 律 ~愛と悲しみ~
17. 強国ロシア
18. アリアズナ
19. 列強と日本
20. 奸計
21. 慕情
22. 開戦への決意
23. 広瀬の最期
24. Stand Alone 歌/森麻季(ソプラノ)

Total Time:約76分

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

指揮:外山雄三
演奏:NHK交響楽団 (第2部メインテーマ:M24)

ピアノ:久石譲 (M13, M24)

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』(2011)

第3部:新録音楽曲より
1. 第三部 序章
2. 孤影悄然
3. 大地と命と
4. 煉獄と浄罪
5. 二人の将
6. 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~
7. 海と命と
8. 天気晴朗ナレドモ波高シ
9. AIR
10. 運命の死地
11. 日本海海戦
12. 終曲
13. Stand Alone 久石譲×麻衣

第1部:未収録楽曲より
14. 少年の国 III
15. 夢
16. Stand Alone for Clarinet & Glockenspiel

第2部:未収録楽曲より
17. 大英帝国のテーマ
18. 獣たちの宴
19. 赤い花

ボーナス・トラック
20. Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲
21. Saka No Ue No Kumo

Total Time:約72分

All Music Composed and Produced by Joe Hisaishi
Orchestrated by 山下康介 宮野幸子 久石譲

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団

指揮:外山雄三
演奏:NHK交響楽団 (M11, 第3部メインテーマ:M13, M21)

ピアノ:久石譲 (M20)
ヴォーカル:麻衣 (M9, M13)
コーラス:栗友会合唱団 (M13, M18)

 

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』(2012)

1. Stand Alone for Orchestra
2. 時代の風
3. 旅立ち
4. 青春
5. Human Love
6. Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石 譲
7. 少年の国
8. アリアズナ
9. 終の住処
10. 広瀬の最期
11. Stand Alone 歌/森麻季(ソプラノ)
12. 第三部 序章
13. 絶望の砦 ~二〇三高地ニ起ツ~
14. 天気晴朗ナレドモ波高シ
15. 日本海海戦
16. Stand Alone 久石譲×麻衣

ボーナス・トラック
17. Saka No Ue No Kumo

Total Time:約83分

All Music Composed and Produced by Joe Hisaishi
Orchestrated by 山下康介 宮野幸子 久石譲

指揮:久石譲
演奏:東京ニューシティ管弦楽団 (M7-10, M12-14)

指揮:外山雄三
演奏:NHK交響楽団 (M1-6, M11, M15-17)

 

 

 

 

アレンジ・ヴァージョン

Track.

  • 2.時代の風(サウンドトラック 1, 総集編)
  • 19. 列強と日本(サウンドトラック 2)

Track.

  • 3. 旅立ち(サウンドトラック 1, 総集編)
  • 3. 奇跡の時(サウンドトラック 2)
  • 15. 夢(サウンドトラック 3)

Track.

  • 5. 青春(サウンドトラック 1, 総集編)
  • 4. 悪ガキ行進曲(サウンドトラック 2)

Track.

  • 1.少年の国(サウンドトラック 2, 総集編)
  • 11. 少年の国 for Woodwinds & Strings(サウンドトラック 2)
  • 14. 少年の国 III(サウンドトラック 3)

 

*「Stand Alone」はサントラ収録9ヴァージョン(3)Stand Alone 頁をご覧ください

 

 

 

モチーフ

ひとつの曲のなかにいくつかのテーマやモチーフが織りこまれています。

Track.

  • 22. 開戦への決意(サウンドトラック 2)
  • 2. 孤影悄然 (サウンドトラック 3)

「時代の風」のテーマが後半部/終結部に織りこまれています。

Track.

  • 10. 広瀬の最期(サウンドトラック 2)

「広瀬 ~快活な人物~」のモチーフが短調のハーモニーで包まれるほか「アリアズナ」のモチーフも奏でられています。

Track.

  • 1. 第三部 序章(サウンドトラック 3, 総集編)

「開戦への決意」「激動」「Stand Alone」「激動」のパートが順に奏でられています。

Track.

  • 12. 終曲(サウンドトラック 3)

「Stand Alone」のメロディが織りこまれています。

 

 

 

サントラ未使用曲

Track.

  • 1. Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲(サウンドトラック 1)
  • 3. 大地と命と(サウンドトラック 3)
  • 10. 運命の死地(サウンドトラック 3)
  • 21. Saka No Ue No Kumo(サウンドトラック 3, 総集編)*組曲化

 

 

サントラver.未使用曲

Track.

  • 15. 真之と季子(サウンドトラック 2)

本編ではチェレスタに始まりオーケストレーションも異なるサントラ未収録ver.のみが使われています。

 

Track.

  • 17. 強国ロシア(サウンドトラック 2)

本編ではコーラスなしのサントラ未収録ver.のみが使われています。

 

 

*詳しくは(6~8)使用楽曲 頁をご覧ください

 

*一番使用されたサントラ曲/一回だけ使用されたサントラ曲/一番使用されたテーマ/サントラ未収録ver.一覧は(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲 頁末をご覧ください

 

 

 

一口コメント

『サウンドトラック1・2・3』は、それぞれ第1部・第2部・第3部のTV放送開始前にCD発売されています。しかし、ご覧のとおりアルバムを飛び交って使用楽曲が収録されています。わかりやすいところでは、たとえば記念すべき第一回放送は『サウンドトラック 1』収録楽曲のほか、『サウンドトラック 2』より「少年の国」「Stand Alone for Violin & Violoncello」、『サウンドトラック 3』より「夢」「少年の国 III」などがすでに流れています。第一回使用楽曲がほぼ出揃うのは3年待たなければいけなかったわけですね。3年待って収録されてよかったですね。

 

 

演奏

近年のNHK大河ドラマでは、オープニング主題曲のみNHK交響楽団による演奏、そのほかの楽曲は作曲家の創作活動や演奏活動に即した演奏者によることが主流です。この作品はほぼ全てオーケストラ楽曲ながら、NHK交響楽団と東京ニューシティ管弦楽団の二つのオーケストラ団体で録音されている理由のひとつです。NHK交響楽団を指揮するのは正指揮者等になります。

『サウンドトラック 1』は全曲NHK交響楽団による演奏で録音されていることは特記です。まさにNHKあげての一大プロジェクト、スペシャルドラマにふわさわいスペシャルな音楽収録になっています。

一方では、『サウンドトラック 2』に収録された『サウンドトラック 1』からもれた第1部未収録楽曲は東京ニューシティ管弦楽団です。ここでひとつの仮説です。もしかしたら、『同1』はスタジオジブリ作品のイメージアルバムのように、早い段階で出来上がっていたテーマごとの楽曲群だった?! そして撮影が続いていくなかで追加で書き足されていった楽曲たち、あるいは主要曲のアレンジ・ヴァージョンらが、東京ニューシティ管弦楽団で時期を追って録音された(録音日クレジットなし・不明)のかもしれませんね。いや、他の諸事情でアルバム分かれたのかもしれませんね。

『サウンドトラック 2・3』も主題歌はNHK交響楽団による演奏です。注目1は、『サウンドトラック 3』「日本海海戦」だけぽつんとNHK交響楽団になっていることです。上の仮説の流れからみると、「日本海海戦」もまた早い段階から出来上がっていた楽曲のひとつかもしれない。『同1』音楽収録の時に一緒に録音していたものかもしれない。はたまた、『Saka No Ue No Kumo』新録音の時かもしれない。いろいろな想像ができそうですね。

注目2は、その「Saka No Ue No Kumo」です。『Melodyphony』(2010)のときに組曲になって久石譲指揮(ロンドン交響楽団)で録音されています。ここではNHK交響楽団で新録音されています。あえて久石譲指揮(東京ニューシティ管弦楽団)にならなかったところに注目しています。「Stand Alone」がオープニングとクライマックスを飾る組曲です。坂の上の雲サウンドトラックに収録するのであれば、主題曲/主題歌と同じ扱いを受けた!? ということでしょうか。いろいろな想像ができそうですね。

 

*「Saka No Ue No Kumo」の聴き比べは(5)組曲 頁をご覧ください

 

 

録音

外山雄三(指揮)NHK交響楽団、久石譲(指揮)東京ニューシティ管弦楽団、いずれもオーケストラ楽器配置は通常配置です。クラシック音楽活動を本格化させていく2010年代前半から、久石譲は演奏会・音楽収録ともに対向配置を採用していきます。『Melodyphony』(2010)はまだ通常配置です。CD作品では『The End of the World』(2016)あたりから、サウンドトラックでいうと『花戦さ』(2017)あたりから対向配置の響きになっています。『坂の上の雲』の音楽は通常配置で聴く、将来コンサートでプログラムされるときは対向配置で聴ける、さらに新しい響きを届けてくれそうです。

 

 

総集編

第1部からだ第3部までの主要曲が公平に順番に収録されています。各部主題歌も収録されています。組曲も入って約83分のボリュームです。これは入っててほしい曲がわりときれいに入っている総集編です。Track.1-6『サウンドトラック 1』収録、Track.7-11『サウンドトラック 2』収録、Track.12-16, Bonus Track.17『サウンドトラック 3』収録。

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、組曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(3)Stand Alone

Posted on 2024/10/06

つづけて、主題歌「Stand Alone」をみていきましょう。

 

 

Stand Alone

作詞:小山薫堂 作曲:久石譲
歌:サラ・ブライトマン(第1部)・森麻季(第2部)・麻衣(第3部)

ちいさな光が 歩んだ道を照らす
希望のつぼみが 遠くを見つめていた
迷い悩むほどに 人は強さを掴むから 夢をみる
凛として旅立つ 一朶の雲を目指し

あなたと歩んだ あの日の道を探す
ひとりの祈りが 心をつないでゆく
空に 手を広げ ふりそそぐ光あつめて
友に 届けと放てば 夢叶う
はてなき想いを 明日の風に乗せて

わたしは信じる 新たな時がめぐる
凛として旅立つ 一朶の雲を目指し

 

 

 

楽曲について語られたこと

久石譲

「シンプルであり品格のある音楽にしたい。そして皆さんにぜひ歌っていただきたい。江戸から明治に時代が変わるとき、イギリス文化が取り入れられました。そして音楽教育のベースにもそういった音楽があったんです。小学校の教科書にはスコットランドやアイルランドの民謡が載っています。素朴でどこか懐かしい。いつまでも心に残るような。そんなテーマ曲が書けないかと思いました。キーワードにしたのは”凛として立つ”ということ。明日に向かって”凛として立つ”明治の人々の美しき姿を壮大なオーケストラの演奏だけではなく、普遍性のあるメロディの歌で伝えたいと思ったのです。第1部はサラ・ブライトマンのスキャット、第2部は森麻季さんの歌、第3部はコーラスを入れました。「Stand Alone」がスタンダードとして長く歌い継がれていくことを望んでいます。」(オリジナル・テキスト集より要約 編)

 

小山薫堂

「実はこのタイトルは僕がつけたものではない。作曲者の久石譲から曲をいただいたとき、すでに「Stand Alone」という素敵なタイトルがつけられていた。」

「そう、「Stand Alone」とは、音の光。もしこの楽曲が、あなたの心を照らすささやかな光になっているとするならば、僕がこれ以上語ることは何もない。」

 

藤澤浩一

「新しい「Stand Alone」を聴いたとき、「鎮魂の祈り」と「未来への希望」という言葉が浮かんだ。このドラマの締め括りにふさわしい音楽になった。ひとつの曲がドラマの各部ごとに変貌を遂げたというだけでなく、この3年間の社会の変化を敏感に反映しているように感じる。久石さんのマジックである。」

 

*テキスト集は(2)語られたこと 頁をご覧ください

 

 

 

サウンドトラック

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 サウンドトラック』1・2・3 にわたって全9ヴァージョンの「Stand Alone」が収録されています。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』

  • Track.1 Stand Alone/サラ・ブライトマン×久石譲 
  • Track.7 Stand Alone (Vocalise)/サラ・ブライトマン×久石譲 **
  • Track.12 Stand Alone for Orchestra **
  • Track.13 Stand Alone with Piano/サラ・ブライトマン×久石譲(Bonus track)””

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2』

  • Track.5 Stand Alone for Violin & Violoncello
  • Track.13 Stand Alone with Piano/サラ・ブライトマン×久石 譲(Bonus track)””
  • Track.24 Stand Alone/森麻季(ソプラノ)**

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3』

  • Track.13 Stand Alone/久石譲×麻衣 **
  • Track.16 Stand Alone for Clarinet & Glockenspiel
  • Track.20 Stand Alone with Piano/サラ・ブライトマン×久石譲(Bonus track)””
  • Track.21 Saka No Ue No Kumo(Bonus track)**

**総集編収録 ””重複

以上9ヴァージョン

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』

  • Track.1 Stand Alone for Orchestra  [サントラ1]
  • Track.6 Stand Alone (Vocalise)/サラ・ブライトマン×久石譲  [サントラ1]
  • Track.11 Stand Alone/森麻季(ソプラノ) [サントラ2]
  • Track.16 Stand Alone/久石譲×麻衣  [サントラ3]
  • Track.21 Saka No Ue No Kumo(Bonus track)  [サントラ3]

 

 

 

モチーフ

ひとつの曲のなかにStand Aloneのメロディが織りこまれています。「第三部 序章」「終曲」(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3』収録)があります。

 

 

サントラ未収録ver.

本編では「Stand Alone for Orchestra」の調性(キー)やオーケストレーションが異なる2つのヴァージョン、「Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲」のヴォーカルとピアノを抜いたヴァージョン、これら3つのサントラ未収録ver.が使われています。サウンドトラック収録の計9ヴァージョンと合わせても「Stand Alone」は確認できるだけでも計12ヴァージョンあります。さらにモチーフで織りこまれた楽曲を合わせると本当にドラマの象徴として流れるStand Aloneです。

 

 

使用放送回

第一回

  • (オープニング) Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第二回/第四回
  • 00:29:40- Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲 [1] 未収録ver.(ヴォーカルなし、ピアノなし、終結部調性とピアノ)
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

第二回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 00:53:55- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第四回
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

第三回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

第四回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 01:23:05- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第二回
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

第五回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

第六回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

第七回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

第八回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

第九回

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

第十回

  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

第十一回

  • 01:15:00- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.2(調性、オーケストレーション)*第十三回
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

第十二回

  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

第十三回

  • 01:23:10- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.2(調性、オーケストレーション)*第十一回
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

 

 

*「Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲」(日本語歌唱)は未使用楽曲です

*「Saka No Ue No Kumo」は未使用楽曲です。ドラマを越えて音楽作品として組曲化されたものです

*「第三部 序章」「終曲」も含めたStand Aloneメロディ使用放送回は(6~8)使用楽曲 頁をご覧ください

 

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

 

スコア

 

 

カバー曲

セルフカバー

森麻季(ピアノ・アレンジ)
アルバム『日本の歌~花は咲く』(2012)

麻衣 with リトルキャロル
アルバム『BEAUTIFUL HARMONY』(2022)

 

カバー

歌曲版・合唱版・吹奏楽版などがあります。詳しくは【Stand Alone(ウィキペディア)】をご参照ください。紹介されていないもので器楽版もあります。アルバム『MY JAPANESE FRIENDS / Jouko Harjanne』はトランペット&ピアノ版です。ほかにも国内外の音源化されている演奏あったらぜひ教えてください。全ては把握しきれていない多くの歌声や楽器でカバーされています。

 

 

一口コメント

名曲です。数ある久石メロディ・久石譲ソングのなかでもたしかな名曲のひとつです。2オクターヴに広がる美しい器楽的なメロディは、坂を登っていくように音符も駆けあがっていく力強さと羽ばたきに満ち溢れています。鮮やかに光を感じる稀有な楽曲です。第1部から第3部へと歌いつないでいくこともまた運命的です。社会や時代はめまぐるしく変化していく中でこれからもそのときの現在(いま)で歌い継がれてほしい一曲です。

思えば、久石譲においてヴィオラが歌う曲は名曲が多い。「World Dreams」も「組曲 Word Dreams より III.Diary」も「JAL 明日の翼」もそうです。ヴィオラからメロディを歌いはじめる曲はたしかに名曲が多い。「Oriental Wind for Orchestra」にもそういったところがあります。ヴィオラに旋律をたくすとき、そこには久石譲の揺るがない想いがあるのかもしれませんね。

 

 

次回は、サウンドトラックです。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(2)語られたこと

Posted on 2024/10/04

つづけて、「NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲」語られたエピソードをみていきましょう。久石譲(音楽)、小山薫堂(作詞)、麻衣(歌)、本木雅弘(出演)、藤澤浩一(チーフ・プロデューサー)の順になっています。

 

 

久石譲

明治を生きた若者達の群像。坂の上を目指し、”凛として立つ”彼らを音楽で描く。

今から十数年前に司馬遼太郎さんの著書を夢中で読み漁ったことがあります。いずれも名作でしたが、なかでも明治以降の日本を描いた『坂の上の雲』は、特に興味深く、この時代を生きた人々の純粋なエネルギーに心惹かれました。ドラマ化の話を聞いた時はすごく嬉しかったです。

映像のための音楽を制作する場合、いくつか方法があります。たとえば、エンターテイメント性の高いアクション映画だと、登場人物ごとにテーマ曲を作ることがあります。でも、司馬さんがこの作品で表現したかった精神世界や明治という時代の空気感を描くためには、個々の人間をクローズアップする手法ではニュアンスは伝わらない。それよりは時代に衝き動かされた若者達を群像としてとらえて、それをテーマに曲を書く方がいいと考えました。

明治は、近代日本において重要な時代です。若者を中心に長い鎖国から開放された人々は、驚くほど純粋で、素直に西洋に目を向けて世界の強国に追いつくためにひたむきに”坂の上”を目指していました。そのために西洋の文化も貪欲に取り入れようとしました。

音楽でいうと、当時はイギリスの教育を模倣し、教科書にはスコットランドやアイルランド民謡が多く載っています。その時に日本古来の文化を切り離そうとしたのは反省すべき点だとは思いますが、いずれにしても日本人が初めて西洋の音楽に触れた時代です。

『坂の上の雲』の音楽を制作するにあたり、その時代の高揚感を日本の五音階の世界観と西洋のモダンな和音の感覚を融合させながら描き出したいと考えました。そして敢えて協和音と不協和音がせめぎあう大人の音楽を目指しました。さらに音楽の手法として、僕の原点であるミニマル・ミュージックを随所で取り入れ、「激動」や「蹉跌」などでそれを前面に打ち出しています。

また、構想を練る段階でこれまでの「NHKスペシャルドラマ」の音楽にはない新しいチャレンジをしたいと考えました。そこから生まれたのが「Stand Alone」です。明日に向かって”凛として立つ”明治の人々の美しき姿を壮大なオーケストラの演奏だけではなく、普遍性のあるメロディの歌で伝えたいと思ったのです。そして、この歌を歌う最高のシンガーとしてクラシックとポップス両方の組成を持つサラ・ブライトマンさんに歌っていただきました。

このサウンドトラックには「Stand Alone」の4ヴァージョンが収録されています。サラさんの日本語の歌とヴォカリーズ、僕がピアノを弾いたボーナス・トラック、さらにオーケストラのインストゥルメンタル・ヴァージョンです。それぞれ違いを楽しんでいただけるかと思います。

今はさわやかな達成感とともに、「Stand Alone」がスタンダードとして長く歌い継がれていくことを望んでいます。

(2009年9月25日都内にて/取材・構成:服部のり子)

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』CDライナーノーツより)

 

 

『坂の上の雲』の音楽

スペシャルドラマ『坂の上の雲』の音楽担当の話が来たのはもう7、8年前になります。司馬遼太郎さんの原作が大好きでしたから、ぜひ担当したいとお引き受けしました。

『坂の上の雲』についてはトータルで約80曲作りました。自分ではテレビドラマというより映画音楽として考えて作りました。通常のテレビドラマの音楽は1分とか1分半などの短い曲をたくさん作るようですが、僕は3分前後の曲を多く書いたので、実質膨大な量になりました。今回の作品は現代音楽からメロディアスな音楽まで、自分が作ってきたすべてを総動員して力を入れて作りました。今は3年間の放送を終えてとても嬉しい気持ちです。

最も重要だったのはやはりメインテーマです。番組の顔に相当するメインテーマをどう作るのか一番時間をかけて悩みました。

明治という時代には前体制が壊れて新しい体制に向かっていく楽天主義的な夢がたくさんある。そういう世界観を描きたい。最初にスコットランドやアイルランドの民謡が頭に浮かびました。素朴でどこか懐かしい。いつまでも心に残るような。そんなテーマ曲が書けないかと思いました。

そしてこれだけスケール感あるドラマなら音楽はシンプルにしたい。特にメインになる曲はどこまでシンプルにできるかにこだわりました。また、この物語は「英雄物語」ではなく、一生懸命生きた人間が巨大な戦争に巻き込まれていく話です。歴史の重要な1ページを描くには品格のある音楽を、しかもドラマティックすぎずに描かなくてはいけない。結果として誕生した曲がメインテーマ「Stand Alone」でした。そしてこれだけシンプルだったら、ぜひ皆さんに歌っていただきたいと思い、映画『おくりびと』の脚本家、小山薫堂さんの詞を得て”歌”にしました。

考えてみると、小学校の教科書には「蛍の光」「ロンドンデリーの歌」といったスコットランドやアイルランドの民謡が載っています。江戸から明治に時代が変わるとき、イギリス文化が取り入れられました。そして音楽教育のベースにもそういった音楽があったんです。僕たちは小さい頃からそういった音楽で育っているんですね。意識していなかったのですが、スコットランド民謡のような曲を書こうと思ったこと、最初にイギリス人歌手であるサラ・ブライトマンを起用しようと思ったこと、『坂の上の雲』の音楽を作るにあたってすべてが”イギリス”に向いていました。自分の中にある”イギリス”は『坂の上の雲』の音楽を作らせた大きな要因の一つでした。

昨年震災が起こりました。モノを創る人間として大変大きな衝撃がありました。何を目指して作っていけばよいのか、みんな分からなくなってきています。また、21世紀に入ってから今までの価値観ではやっていけないという事実に直面しています。そんな中、今回の音楽にかけて言うなら大事なのは”Stand Alone”という境地ではないかと感じています。

”Stand Alone”とは独りで立つということ。個人主義ではなく、自分は孤独で独りである、と認識すること。そうすれば人にやさしくすることも、人と力を合わせることも喜びに感じる。僕は最近、「目ざせ、Stand Alone」ということを懸命に考えています。

久石譲

(本原稿は2011年12月3日大阪府東大阪市:司馬遼太郎記念館/特別講演会「坂の上の雲と音楽」より談話を一部抜粋・加筆して再構成したものです)

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』CDライナーノーツより)

 

 

作品にある純朴さを表現

宮崎駿監督の『もののけ姫』の音楽を担当すると決まったころ、宮崎さんと司馬遼太郎さんの対談が行われることになったんです。それで「宮崎さんが傾倒する司馬さんの作品って、どんなものなんだろう」と思い、1年くらいかけて司馬さんの全集を読みました。そのとき、いちばん自分の中に響いた作品が『坂の上の雲』だったんです。「いつか、この音楽を作ってみたい」と思っていたところ、今回、依頼をいただいたので、すごくうれしかったですね。

ドラマの脚本を読んで感じたのは、とにかく”ピュア”ということでした。長かった鎖国が解かれて、近代的な体制の諸外国に「追いつけ、追い越せ」という目標をもって生きる純粋な情熱。自分の人生を世の中を変えることに向ける姿が、とても印象に残りました。今の日本が先進国になって、もう失ってしまっている純朴さ、いちずさみたいなものがあるんですね。それを音楽でどう表現するのかを、すごく考えました。

メインテーマの「Stand Alone」は、第1回から4回までの演出を担当した柴田岳志ディレクターと打ち合わせをしているとき、「スコットランド民謡みたいな、シンプルな曲が1曲あるといいよね」という話が出て、そこから誕生した曲です。キーワードにしたのは”凛として立つ”ということ。人と人が寄り添いながら生きているのもすばらしいことなのですが、最後は1人ですくっと立つことができる、それが人間としてすごく大事なことではないかと思ったのです。それは〈坂の上の雲〉の時代だけじゃなく、今の時代にも共通して言えることではないでしょうか。

明治の人たちと重なるような音楽をイメージしたとき、明治時代に日本がイギリスから学んだものを考えました。実は私たちが学校で習う西洋音楽は、イギリス民謡から始まっているものが多いんです。たとえば、「蛍の光」や「ロンドンデリーの歌」。だから僕の音楽にも、スコットランド民謡やアイルランド民謡といったものがベースにある。個人的なことですが『風の谷のナウシカ』の音楽も、海外では「イギリス的なにおいがする」とすごく言われたので。その根底にあるのは、やはり明治からの音楽教育なんですよ。そういう自分の思いと、東洋的な5音階のやり方と、イギリス民謡のような素朴な音と、そういうものを自分の中でミックスしていく……。その過程を音楽でやりたいと思いました。

ですから、いわゆる劇音楽という使い方はしないで、僕が手がけていたミニマルミュージックをベースにした音楽で。泣かせようとか、盛り上げようとかではなく、役者さんたちの演技を信じて、ちょっと引いた感じで、そのうえで、できるだけシンフォニックに作りました。

Blog. 「NHKウィークリーステラ 2009年12/5~12/11号」久石譲インタビュー内容 より)

 

 

「大型ドラマというと通常はオーケストラ作品。でも今回ちょっと違うものをやりたかった。そこでヴォーカルを入れようと。大きなドラマに対して誰が一番合うのか。国際的世界的スケール、そして日本が明治と変わっていく、それをアピールできる歌手を探していてサラ・ブライトマンさんになりました。」実際にサラが歌ったメインテーマを聴いての感想については「声が若々しく、こちらが思っていたスケール感が出ていたので、個人的に満足しています」と笑顔を見せた。

Info. 2009/10/22 NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』で、久石譲とサラ・ブライトマンがコラボ より抜粋)

 

 

「私がNHKの知り合いのディレクターから「坂の上の雲」の音楽担当を依頼されたのは、もうずいぶん前のことです。大好きな作品だし、ぜひやりたいと思った。2011年で放映3年目。司馬さんは他の作品にも通じますが、秋山好古、真之兄弟のように、本当のエリートではなく2番手3番手に光を当てるのがとてもうまいですね。最初の第1部は青春期、第3部は二◯三高地の戦いと日本海海戦と決まっていましたから、第2部は少し心配していたんですが、子規の死にポイントをあててうまくいった。渡辺謙さんのナレーションと、よく合っていました。番組の最後に流れるテーマ曲「スタンドアローン」は、第1部はサラ・ブライトマンのスキャット、第2部は森麻季さんの歌、第3部はコーラスを入れました。第3部は「救済の音楽」。希望の見える音楽をテーマにしています。」

Blog. 「週刊 司馬遼太郎 8」(2011) 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「それはすごく嬉しいです。ああいう大型のドラマになると、大河ドラマのオープニングみたいに、「ジャジャジャ~ン!」という派手な音楽で出るのがふつうなんでしょうけれども、僕、そうはしたくなかったんです。あれだけの大作なんだから、その精神を受け止めるような、バラード的なもののほうがあの世界観が出るんじゃないかと思ったんです。」

Blog. 「週刊朝日 5000号記念 2010年3月26日増大号」久石譲×林真理子 対談内容 より抜粋)

 

 

 

小山薫堂

「音の光」

知人から、時々こんなことを言われる。
「Stand Aloneというタイトルが、まず素晴らしいですね」

実はこのタイトルは僕がつけたものではない。作曲者の久石譲から曲をいただいたとき、すでに「Stand Alone」という素敵なタイトルがつけられていた。

久石さんの曲を聴く前に、まず脚本を読むことにした。イメージを膨らませて、言葉の欠片をできるだけたくさん頭の中に並べ、すでに出来上がっている曲とお見合いさせようと思ったからだ。

しかし、物語は壮大過ぎた。人間の尺度で話は紡がれるが、それは国、やがては時代のスケールで語られる。この世界観をそのまま歌にするのはとても難しい。それでも、時を経ても色褪せることのない普遍的な楽曲にしたい、と思った。

言葉に行き詰まってしまった時、初めて楽曲を聴いた。背筋をピンと伸ばし、誰もいない仕事場で大きく深呼吸して、CDプレイヤーのプレイボタンを押したのを覚えている。

それから先、どういう想いのもとにこの詞が完成したかは、あえて伏せておくことにしよう。ドラマの主題歌として皆さんがそれぞれのイメージを抱いている今、その誕生秘話を語るなんて野暮な話だ。

ただ…、ひとつだけ明かすとするならば、僕の頭の中にはずっと「光」のイメージがあった。闇の中にいる人たちにとって、この歌が「光のような存在」になればいいと思った。

光を一方的に求めているだけでは何も始まらない。人間ひとりひとりが自分なりの光を見つけ出し、それを仲間と共有したときはじめて、私たちは大きな光に照らされるのである。

そう、「Stand Alone」とは、音の光。もしこの楽曲が、あなたの心を照らすささやかな光になっているとするならば、僕がこれ以上語ることは何もない。

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 総集編』CDライナーノーツより)

 

 

麻衣

「はじめて「Stand Alone」を聴いたのは、3年前にデモが完成したときでした。私自身『坂の上の雲』は原作も大好きだったので、楽曲を聴いた瞬間の感動は、今でも忘れられません。何より、まさか自分が歌えることになるとは思っていなかったので、とても光栄です。父から制作現場の話を聞く機会などもあり、個人的にもこの楽曲には3年間向き合ってきましたので、強い想いがあります。自分らしい「Stand Alone」を歌うことができたと思っています。「Stand Alone」は、「凛として立つ」という意味だそうです。それぞれが強い意思をもって生きた明治時代の人そのものだと感じています。この時代に生きた人々が築いた「日本」という国を、私は心から誇りに思います。なにがあっても後ろを振り向かない「前をのみ見つめながら歩く」という姿勢は、今の私たちに最も必要なことだと思っています。最大の敬意と感謝を込めて歌っていきたいと思います。」

「父は、私がこの曲を歌うことになるなんて、全く想定していなかったと思います。大好きなこの作品に、父と一緒に参加できたことは、自分の中でとても嬉しい出来事でした。」

Info. 2011/12/18 麻衣の歌う『坂の上の雲』メインテーマ「Stand Alone」に注目 より抜粋)

 

 

本木雅弘

寄稿

曲が自分を追い越していきました。

身体を通過して、物語を通過して、知らないうちに久石さんの音楽が物語の高揚感とか、もしくは後味みたいなものを先導している形になっていました。

一言でいえば頼もしいというか、守られているというか。ドラマの撮影中「Stand Alone」にそんな不思議な力を感じていました。

(NHK BS「ザ☆スター」インタビューより談話抜粋・一部加筆修正)

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』CDライナーノーツより)

 

 

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」
チーフ・プロデューサー 藤澤浩一

風が吹いた瞬間

もう正確な日付は覚えていないのだが、NHK交響楽団の演奏による録音を控えたある日のこと。久石譲さんから、何曲か音楽のデモが出来たとの連絡があり、演出家と音響効果のディレクターそして私の3人で、いささか緊張しながら久石さんの事務所へ向かった。そこは西麻布の一角にあり、六本木通りという日本でも有数の繁華な場所の近くにしては非常に閑静な住宅街の中で、もう日も暮れようとしている頃だった。

緊張していたというのは、映画音楽の第一人者のデモをその本人を前にして聞くということもあったのだが、事前の打ち合わせで、ドラマの登場人物に即した音楽は作らないと決めていたこともあって、一体どのようなプレゼンテーションになるのか予測がつかなかったからだ。例えばこのドラマで言えば、秋山真之のテーマだとか好古のテーマといったものは出来るだけ作らない。「坂の上の雲」の世界を構成するテーマを大掴みにして、そこからイメージする曲をひとつの作品として作ってゆく。打ち合わせで久石さんが提示したコンセプトはそういうことだったと思う。

予測がつかないまでも、「明治の青春」を感じさせる曲をいくつか聞けるのではないかという予想はあった。久石さんの周辺からもそんな情報が入っていたと思う。ドラマ全13本のうち初年度に放送する5本は、まさに「坂の上の雲」の「青春篇」というべきもので、生まれたばかりの「明治日本」という若い国の姿を主人公たちの青春像とが、折り重なるように描かれてゆく。その意味で青春をモチーフとした曲は重要だったし、久石さんもそういう曲から作るのではないかと想像した。

果たして、久石さんのワーキングスペースに通された私たちに渡されたリストには、「青春」や「旅立ち」といった曲名がある。そして、リストの最後には”Stand Alone”と記されていた。「???」。曲名からは何をモチーフとした曲なのかわからなかった。

その曲は美しい旋律で、デモの段階では英語の歌詞が乗っていた。大地に颯爽と立つ少年が風に吹かれている。その風は時に優しく、時に厳しく吹いているが、少年は空に輝く雲を見つめ、そこに向かって歩みを進めてゆく。そんなイメージが頭に浮かんだ。

聞き終わった瞬間、部屋の中に風が吹いた、本当に。そう感じるほど、感動していた。打ち合わせに来たはずが、最後には「久石譲コンサート」の聴衆になっていた。

そうした作品の数々が、外山雄三さん指揮によるNHK交響楽団の演奏や小山薫堂さんの歌詞、サラ・ブライトマンさんのヴォーカルという素晴しい援軍を得た。

みなさんの所にも、きっと気持ちの良い風が届けられることと思います。

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック』CDライナーノーツより)

 

生みの苦しみ、生みの喜び

ドラマの第1部はいわば「青春編」だった。日本が国際社会という舞台に初めて立ち、主人公たちがそれぞれの道を歩き始めるというストーリーだった。第2部は「友情編」である。ロシアとの関係が緊張を増し、ついに開戦となるなか、秋山真之の二人の親友、正岡子規と広瀬武夫が壮絶な最期を遂げる。兄の好古はロシアや清国の、本来は対決するはずの人々と親交を結んでゆく。子規や広瀬の死は音楽的にも大きなテーマだし、ロシアを音楽でどう表現するのかなど、久石さんのマラソンコースの上で、難所だったに違いない。

そしてメインテーマだ。ドラマは3部構成であり、しかも3年に亘って放送する。物語は激しく展開し、時代は変わり、見ている人たちも作っている私たちも変わってゆく。ならばメインテーマも変わっていったらどうだろうか。そう思っていたのは私だけではなく、久石さんも同じだったようだ。しかし、英国の歌姫のイメージを踏襲しながら、違和感なく新しいヴァージョンを創り出すのはかなりの難産だった。けれど、森麻季さんの歌声と久石さんの手腕で素晴しい曲に仕上がった。

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 2 』CDライナーノーツより)

 

久石譲さんのマジック

スペシャルドラマ「坂の上の雲」第3部は戦争を描いている。映像では砲煙が立ち込め、激しく土煙が舞い上がる。銃口からは火花が散り、何隻もの軍艦が波しぶきを立てながらターンしてゆく。戦争の映像を作るために、制作現場も戦争のようになっている。最新の映像合成技術は凄まじく、リアルな戦場の映像を作り出してゆく。しかしドラマ制作の手間が減った訳ではない。コンピューターのキーを叩けば映像が生み出されるものではなく、結局は手作業だ。多くのスタッフが精魂込めて作業している。職人仕事の積み重ねで映像ができてゆく。この10年間で、撮影から放送にいたるドラマの制作環境はデジタルへと変わったが、やることは変わらない。デジタルを使ったアナログな作業だ。議論と試行と失敗とを積み重ね、現場から番組が生まれる。

音楽も同じであると思う。久石譲さんとわれわれスタッフが議論を積み重ね、できるだけ音楽イメージを共有しようとする。音楽という言葉にならないものについて話し合っている現場は、傍からはかなり滑稽に見えるかもしれない。しかし、音楽が生まれる端緒はそういう現場である。

議論の場における、われわれのある種滑稽な言葉と未完成の映像が、久石さんのもとに残される。そこからは久石さんの作曲家としての孤独な作業だ。ドラマは大勢のスタッフと出演者の共同作業によって作られるが、その中でも孤独な仕事を強いられるのが脚本家と作曲家である。しかし、その孤独な仕事から生み出されるものは素晴らしい。脚本家の原稿の一行が迫真の映像となり、作曲家のスコアは大編成のオーケストラが奏でる美しい音響となる。

第3部の音楽では、ひとつだけわがままを言った。メインテーマである「Stand Alone」を麻衣さんに歌ってほしいということである。麻衣さんは久石さんの娘さんで、3年前に「Stand Alone」のデモを聴いたときに歌っていたのが麻衣さんだった。そのときの鮮烈な印象が忘れられず、是非にとお願いした。

新しい「Stand Alone」を聴いたとき、「鎮魂の祈り」と「未来への希望」という言葉が浮かんだ。このドラマの締め括りにふさわしい音楽になった。ひとつの曲がドラマの各部ごとに変貌を遂げたというだけでなく、この3年間の社会の変化を敏感に反映しているように感じる。久石さんのマジックである。

(『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 オリジナル・サウンドトラック 3 』CDライナーノーツより)

 

 

次回は、主題歌「Stand Alone」です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(1)イントロダクション

Posted on 2024/10/01

テレビ史上これまでにない空前のスケールで描かれた不朽の名作「NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲」です。

 

 

番組について

司馬遼太郎が10年の歳月をかけ、日露戦争とその時代を生きた明治の青春群像を渾身の力で書き上げた「坂の上の雲」を原作として描く人間ドラマ。

明治維新によって、はじめて「国家」というものをもち、「国民」となった日本人。近代国家をつくりあげようと少年のような希望を抱きながら突き進んだのが「明治」という時代であった。
松山に生まれた3人の男、バルチック艦隊を破る作戦を立てた秋山真之、ロシアのコサック騎兵と対等に戦った秋山好古、そして俳句・短歌の革新者となった正岡子規。彼らは、時代の激流に飲み込まれながら、新たな価値観の創造に立ち向かい、自らの生き方を貫き、ただ前のみを見つめ、明治という時代の坂を上っていった。生まれたばかりの「少年の国」である明治の日本が、世界の中でいかに振る舞っていったかを描く。

【原作】
司馬遼太郎
※「遼」の字は、本来「しんにょうの点がふたつ」です

【脚本】
野沢尚
柴田岳志
佐藤幹夫
加藤拓

【音楽】
久石譲

【メインテーマ】
「Stand Alone」
第1部 サラ・ブライトマン
第2部 森麻季
第3部 麻衣

【語り】
渡辺謙

【出演】
本木雅弘 阿部寛
香川照之 菅野美穂
松たか子 石原さとみ
藤本隆宏 原田美枝子
竹下景子 伊東四朗
西田敏行 石坂浩二
高橋英樹 加藤剛
渡哲也 ほか

【初回放送】
89分版
第1部 2009年11月29日から12月27日
第2部 2010年12月5日から12月26日
第3部 2011年12月4日から12月25日
総合テレビにて放送

44分版(全26回を通して放送した日)
2014年10月5日から2015年3月29日
BSプレミアムにて放送
(44分版は、随時再放送しています)

 

 

2024年再放送

スペシャルドラマ「坂の上の雲」 89分版をBSP4Kで、44分版を総合で再放送!

日本を代表する豪華キャストが集結し、激動の時代を描いた司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」。テレビドラマの常識を超えて3年に渡って放送された超大作を一挙放送。

【放送予定】
<44分版>
2024年9月8日より 毎週日曜日
午後11時から午後11時44分
全26回 ※89分版を前編・後編に再編集したものです
総合テレビ
NHKプラスでもご覧いただけます。

<89分版>
2024年10月4日より 毎週金曜日
午後8時15分から午後9時44分
全13回
BSプレミアム4K

 

出典:スペシャルドラマ「坂の上の雲」 – NHK
https://www.nhk.jp/p/ts/X7PG14YX57/

 

 

放送日程/CD発売日程

第1部

  • 第一回 少年の国(放送日:2009年11月29日)
  • 第二回 青雲(放送日:2009年12月6日)
  • 第三回 国家鳴動(放送日:2009年12月13日)
  • 第四回 日清開戦(放送日:2009年12月20日)
  • 第五回 留学生(放送日:2009年12月27日)

 

 

第2部

  • 第六回 日英同盟(放送日:2010年12月5日)
  • 第七回 子規、逝く(放送日:2010年12月12日)
  • 第八回 日露開戦(放送日:2010年12月19日)
  • 第九回 広瀬、死す(放送日:2010年12月26日)

 

第3部

  • 第十回 旅順総攻撃(放送日:2011年12月4日)
  • 第十一回 二〇三高地(放送日:2011年12月11日)
  • 第十二回 敵艦見ゆ(放送日:2011年12月18日)
  • 第十三回 日本海海戦(放送日:2011年12月25日)

 

 

 

コンサート・プログラム歴

  • 久石譲 ジルベスターコンサート 2009
  • 久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ ニューイヤーコンサート (2010)
  • 西本願寺音舞台 2011
  • アルモニーサンク北九州ソレイユホール 1周年記念「久石譲コンサート」(2011)
  • 久石譲 ジルベスタ―コンサート 2011
  • クラブツーリズムスペシャルコンサート 久石譲 オーケストラの世界 (2013)

*詳しくは(5)組曲 頁をご覧ください

 

 

スコア

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、語られたことです。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Info. 2024/09/30 [TV] 日本テレビ系「ZIP!」SHOWBIZ SPECIAL 久石譲インタビュー出演

Posted on 2024/09/30

日本テレビ系「ZIP!」番組コーナー「SHOWBIZ SPECIAL」にて久石譲が特集されました。ジブリフィルムコンサートの番組取材や久石譲インタビューによる貴重な約10分間映像となりました。 “Info. 2024/09/30 [TV] 日本テレビ系「ZIP!」SHOWBIZ SPECIAL 久石譲インタビュー出演” の続きを読む

Info. 2024/09/15 作曲家・久石譲さん「生成AIに新しい曲は生み出せない」(日本経済新聞より)

Posted on 2024/09/15

作曲家・久石譲さん「生成AIに新しい曲は生み出せない」

スタジオジブリの映画音楽で知られる作曲家の久石譲さんが、公演で訪れた米サンフランシスコで日本経済新聞の取材に応じた。AI(人工知能)がコンテンツを量産する近未来に、人は芸術の分野で価値を示し続けることができるのか。久石さんは「生成AIに新しい曲は生み出せない」と断言する。AIは模倣しかつくれないという主張だ。 “Info. 2024/09/15 作曲家・久石譲さん「生成AIに新しい曲は生み出せない」(日本経済新聞より)” の続きを読む

Blog. 「君たちはどう生きるか」(LP・2024)新ライナーノーツより

Posted on 2024/09/15

2023年7月公開スタジオジブリ作品『君たちはどう生きるか』のサウンドトラックがいよいよアナログ盤で発売!ジャケットの絵柄も新しく、書き下ろし解説には、英文も掲載。アナログ盤ならではの音をお楽しみください。

全37曲 ダブルジャケット2枚組
三つ折りライナー、前島秀国氏の解説(日本語・英語)掲載。

Ⓒ2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

(メーカーインフォメーションより)

 

 

『君たちはどう生きるか』サウンドトラック
ライナーノーツ

前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)

 宮﨑駿監督と久石譲のコラボレーション最新作『君たちはどう生きるか』(2023、英語タイトルは『The Boy and the Heron』)は、両者が初めてタッグを組んだ『風の谷のナウシカ』(1984)から数えて11本目の劇場用長編映画、前作の『風立ちぬ』(2013)以来10年ぶりの顔合わせとなった作品である。映画監督と作曲家が約40年もの長期間にわたってコラボレーションを継続している例は、スティーヴン・スピルバーグ監督とジョン・ウィリアムズのコンビをのぞいて世界的にほとんど例がないし、そのスピルバーグ作品でさえ、いくつかの映画ではウィリアムズ以外の作曲家が音楽を手がけている。ひとりの映画監督が40年にわたって作り上げてきたすべての長編映画のスコアを、たったひとりの音楽家が作曲し続けている例は、映画音楽史上ほとんど皆無だと言っていいだろう。その事実ひとつだけに注目してみても、『君たちはどう生きるか』はまさに驚嘆に値する作品だと言える。しかしながら、この作品の真の凄さは、宮﨑監督と久石の継続性そのものにあるのではない。今回の作品を手がけるにあたり、宮﨑監督と久石はこれまでふたりが確立してきた方法論をほぼ完全に放棄した。つまり『君たちはどう生きるか』の音楽は、『風立ちぬ』までの宮﨑作品とは大きく異なるアプローチで作られているのである。宮﨑監督と久石ほどの業績を残している芸術家が、これまでの比類なき業績に胡座をかくことをせず、なおも新たな方法論を模索しチャレンジしていく姿に、筆者は何よりも深い感銘を受けた。この作品の音楽そのものが、映画のタイトル『君たちはどう生きるか』が投げかけている問いかけのひとつの解答なのではあるまいか。

 久石のファンならすでにご存知のように、『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』までの宮﨑監督の長編映画においては、映画本編の制作中から宮﨑監督と久石が音楽打ち合わせを開始し、宮﨑監督から提示されたコンセプトやキーワード、それにストーリーボード(絵コンテ)を参照しながら、久石がいくつかのテーマを作曲していくことで、音楽制作が開始されるのが通例だった。その段階で作曲されたテーマのほとんどは、最終的に完成した映画本編のスコアの中でも大きな役割を果たすことになる。しかしながら、その前にもうひとつ重要なプロセスを踏んで音楽が練り上げられるのが、これまでふたりが培ってきた方法論の非常にユニークな点である。具体的に説明すると、久石は本編のためのスコアの作曲に着手する前に、それらのテーマを用いて宮﨑監督の世界観を表現したイメージアルバム(一種のコンセプト・アルバム)をあらかじめ録音し、映画の公開日よりかなり前のタイミング(短い場合で公開日の約2ヶ月前、最長で1年前)でそのイメージアルバムをリリースする(『風立ちぬ』の時は諸般の事情でイメージアルバムのリリースが見送られた)。その後、映画が完成段階に近づくと(通常は映画公開日の約2ヶ月前)、久石が本編の尺に合わせて作曲したスコアを録音し、最終的にサウンドトラックの音楽が完成する。つまり、久石は『崖の上のポニョ』(2008)までの宮﨑作品の音楽を担当するたびに、作曲の作業を事実上2回おこなってきたことになる。そうした複雑な手順を踏むことで、当然のことながら音楽もそれだけ完成度の高いものに仕上がるわけだが、非常に興味深いのは、イメージアルバムの存在が宮﨑監督の作画にも影響を与える場合が少なからずあったという点である(宮﨑監督作品の制作過程を撮影したドキュメンタリー番組などで、宮﨑監督がイメージアルバムを聴きながら作画する様子がたびたび描かれている)。そして忘れてはならないのが、『風の谷のナウシカ』と『天空の城ラピュタ』(1986)でプロデューサーを務め、この2作品で(宮﨑監督の負担を減らすために)イメージアルバムを土台にしながら久石と共に音楽の構成を練り上げていった高畑勲の存在である(高畑はクラシックの譜面が読めるほど音楽に精通していたので、具体的なやりとりが詳細をきわめたと久石は回想している)。

 以上、これまでの宮﨑監督と久石が築き上げてきた方法論を簡単にまとめたが、先述のように、今回の『君たちはどう生きるか』においては、その方法論がほぼ完全に放棄されることになった。本作の具体的な作曲過程に関しては、『熱風』2023年10月号および『君たちはどう生きるか』公式ガイドブックに掲載されたインタビューの中で久石本人が詳細に述べているので、その要点を以下に紹介する。

 2021年11月、久石は宮﨑監督から『君たちはどう生きるか』の作曲を正式に依頼されたが、翌年の夏ぐらいまでにほぼ映像ができあがる予定なので、それを先入観なしに観てほしい、それまでは絵コンテも読まないほうがいいと宮﨑監督から伝えられ、映画の内容に関する具体的な話は出なかった。次に久石が宮﨑監督と会ったのは年明けの2022年1月5日、すなわち宮﨑監督の誕生日である。毎年、久石は監督への誕生日プレゼントとしてピアノ曲を作曲・録音し、それを本人に届けるのが恒例となっているが、2022年の誕生日プレゼントとして書かれた新曲《Ask me why》を久石から贈られた宮﨑監督はこの曲を大変気に入り、宮﨑監督の希望でこの映画のテーマ曲に用いられることになった。それから7ヶ月後の同年7月7日、久石はようやく本編映像の試写に臨み(その段階で映像は95%以上完成していたという)、本作の内容を初めて知る。しかしながら、これまでの作品で必ずおこなわれてきた宮﨑監督との音楽打ち合わせはいっさいなく、「あとはよろしく」の一言だけで久石は宮﨑監督から音楽の作曲を一任された。試写で受けた衝撃を消化するのに数ヶ月を要した久石は、海外ツアーの合間にデモ曲の作曲に着手すると同時に、これまで宮﨑監督の誕生日プレゼントとして作曲したピアノ曲のいくつかをサウンドトラックに用いるという決断をした。11月15日、久石は映画の主要なシーンに10曲ほど仮付けしたものを宮﨑監督と鈴木敏夫プロデューサーに聴かせ、両者の了承を得る。そして11月後半から本格的な作曲作業に入り、翌2023年1月21日からオーケストラの収録がスタートし、その後まもなくサウンドトラックが完成した。

 つまり『君たちはどう生きるか』の音楽は、久石がイメージアルバムの制作で音楽のコンセプトを明確にしてから実際のサウンドトラックに着手するという、これまでの宮﨑作品の作曲に見られた手順をすべて省略し、ほぼ完成した映像に対して久石がいきなりスコアを作曲するという手法で作られている。ある意味では、通常の長編映画の作曲の手法にも近いと言えるが、だからと言って、世の中にありふれているような映画音楽のスタイルに近くなったかと言えば、むしろ逆である。久石はこの作品に見合うだけの高い音楽性を担保するため、つぎの2点に留意しながらスコアを作曲している。

(i)主人公・眞人が暮らす現実世界すなわち「上の世界」を描いた前半部と、眞人が足を踏み入れた塔の中で体験する「下の世界」を描いた後半部で映画の内容が大きく変わるので、前半部の音楽は眞人の心情に寄り添う形でピアノ・ソロもしくはピアノ・トリオのような最小限の編成で音楽を付け、後半部に入ってから初めてオーケストラを使用する。かつ、前半部も後半部もミニマル・ミュージックのスタイルを用いて作曲し、スコア全体の統一感を生み出す。

(ii)これまで久石が宮﨑監督の誕生日プレゼントとして書いたピアノ曲(いくつかはジブリ美術館のBGMとして使用されている)を本編の音楽に用いることで、映像と音楽が対等の関係を結ぶような効果を生み出す。音楽用語のアナロジーを用いれば、画と音がユニゾンでべったり進んだり、どちらかがホモフォニカルに従属したりするのではなく、ポリフォニックな関係によって互いの存在を引き立たせるということである。その際、宮﨑監督の画に対するカウンターポイントとして対置される久石の音楽は、もともと久石が宮﨑監督を念頭に置いて作曲した曲なので、宮﨑監督の自伝的要素が少なからず含まれる本作の内容から著しく逸脱することはない。そして、スタンリー・キューブリック監督が『2001年宇宙の旅』(1968)でクラシックの既成曲を選曲て大きな効果をあげたように、久石自身がそれらのピアノ曲を選曲し、スコアの中で使用することで、映像と音楽が織りなす予想外の対位法的効果をもたらすことができる。

 本盤に収録された『君たちはどう生きるか』のスコアを聴くにあたっては、これまで述べてきた解説以上の情報は、おそらく不要だろう。『君たちはどう生きるか』という映画が全編にわたって暗喩的・象徴的・多義的な表現がこめられている以上、リスナーは誰かの考察に頼ることなく、自分自身で久石の音楽が意味するところを考え、咀嚼し、味合うべきであるし、それがこの音楽に最もふさわしい鑑賞法ではないかと思う。以下に記す楽曲解説は、あくまでも筆者という映画の一観客の拙い考察であって、作曲者自身の公式見解ではない。それどころか、久石の作曲意図と大きく食い違っている可能性も高いので、それをあらかじめお断りしておく。

 

I.既存の楽曲から選曲された音楽

《Ask me why(疎開)》《Ask me why(母の思い)》《Ask me why(眞人の決意)》

 上述のように久石が本編の試写を観る前、すなわち2022年1月はじめに宮﨑監督の誕生日祝いとして書かれた楽曲で、宮﨑監督の希望により、映画全体のメインテーマとなった。曲のイメージのインスピレーションは宮﨑監督に由来しているが、久石がインタビューで述べているところによれば、本編の内容と全く関係ない形で作曲したわけではないという。曰く、「宮﨑さんが新作の制作に入ってからは、青サギが出てくるらしいということやインスピレーションを得た小説の話などは知っていましたが、具体的な内容はわからないけど、ちょっと心に引っかかりを持った少年の話になるみたいだと聞いてはいたんですね。頭にそれがあるから、5日に曲を書くとき、素直に宮﨑さんに聴いてもらいたいとい気持ちと同時に、そのイメージが入ってくるんですよ、なんとなく」。この《Ask me why》は、久石自身が述べているように”眞人のテーマ”の役割を担っているが、それにもかかわらず、本編の中ではわずか3回しか登場しない。すなわち《Ask me why(疎開)》は「戦争の3年目に母さんが死んだ」という眞人のセリフが入るシーン、《Ask me why(母の思い)》は母が残した吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』を眞人が偶然発見し、それを読み進めるうちに涙を流すシーン、そして《Ask me why(眞人の決意)》は「君の塔を築くのだ、悪意から自由な王国を…」という大伯父の懇願に対し、眞人が「夏子母さんと自分の世界に戻ります」と拒否の意思を示すシーンとなっている。このテーマの旋律が初めて完全な形で演奏されるのは《Ask me why(母の思い)》のシーンだが、そのシーンはこの映画のタイトル、すなわち『君たちはどう生きるか』と直接結びついている。

 

《祈りのうた(産屋)》

 原曲は2015年1月5日、すなわち宮﨑監督74歳の誕生日に献呈されたピアノ曲《祈りのうた》で、もともとは三鷹の森ジブリ美術館のBGMとして作曲された。同年夏に開催された久石指揮新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)のツアーで初演され(本盤と同じピアノ、弦楽合奏、チューブラーベルズのためのヴァージョンで演奏された)、その際、「Homage to Henryk Górecki(ヘンリク・グレツキへのオマージュ)」という副題が附された。その副題が暗示しているように、《祈りのうた》は久石が(ポーランドの作曲家グレツキの音楽で知られる)ホーリー・ミニマリズムの様式を強く意識して作曲し、東日本大震災の犠牲者追悼の意味を込めた作品である。曲の構成は、ピアノだけで演奏される主部、弦楽器が加わった中間部、そして主部の再現という三部形式で作られているが、中間部の終わりに聴こえるチューブラーベルズは弔鐘、つまり追悼の鐘にほかならない。出産を控えた夏子と眞人が産屋で再会するシーンにおいては、そのチューブラーベルズが鳴り響く瞬間、音楽は感情的に最も激しいクライマックスを迎えるが、そのシーンの映像と《祈りのうた》の音楽が生み出す、いわば”生”と”死”が隣り合わせになった凄絶な表現は、もはや筆舌に尽くしがたい。

 

《聖域》《墓の主》《別れ》

 宮﨑監督の誕生祝いとして書かれた《祈りのうたII》(2016)が原曲。本編のスコアにおいては、眞人が降りていく「下の世界」のテーマとみなすことができる。エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトに代表されるティンティナブリ様式(鈴鳴り様式、鐘鳴り様式)の三和音の分散音型で書かれており、ゆるやかな3拍子のリズムと合わさり、永遠に回転運動を続けていくような印象をもたらす。その独特な時間感覚が、「下の世界」を支配する時間の流れ、つまり現実の「上の世界」とは異なる時間の流れを象徴していると考えることができる。

 

II.なんらかのテーマと見なしうる音楽

《青サギ》《青サギII》《青サギIII》《青サギの呪い》

 これら4曲は、いずれも青サギを表す短いモティーフに基づいて書かれている。最初の《青サギ》に聴かれるように、このモティーフはミと4度下のシのたった2音だけで構成されているので、実際の青サギの鳴き声を模したわけではないにせよ、鳥の鳴き声のような音型で青サギを象徴していると考えることができる。映画の前半部において、この2音のモティーフは青サギが登場するたびに反復され、伴奏が付加され、オーケストレーションが厚みを増していく。したがって、これら4曲を続けて聴けば、それ自体がミニマル・ミュージックのような展開で作曲されていることに気づくだろう。しかも興味深いことに、この青サギのモティーフは、青サギが塔の中でサギ男として正体を現してからは全く登場しなくなる。言い換えれば、最終的に眞人の友達になるサギ男のキャラクターと、青サギのモティーフはいっさい関係を持たない。あくまでも塔の中に眞人を誘う不気味な存在としての青サギのテーマと捉えるべきである。

 

《火の雨》《炎の少女》《回廊の扉》

 ヒミのテーマに基づく音楽だが、女声コーラスの歌声(歌唱は麻衣&リトルキャロル)が端的に示しているように、母性そのものを象徴した音楽と捉えるのが自然である。

 

《大伯父》《大伯父の思い》《大崩壊》

 大伯父の比類なき存在感を、ピアノの厚い和音で表現したテーマ。場面の状況に応じて伴奏音型が加えられるが、大伯父をピアノの和音で象徴する作曲コンセプトは3曲とも同じである。このテーマで注目すべきは、大伯父を表す和音の動きが、《Ask me why》、すなわち眞人のテーマの冒頭で弾かれるピアノの和音をかすかに連想させるという点である。つまり、眞人と大伯父はキャラクター設定の上でも音楽の上でも、文字通りの血縁関係で結ばれた存在と解釈することが可能である。

 

《ワラワラ》《転生》

 本作のスコアの中でもとりわけユーモラスな音楽として書かれた、ワラワラのテーマ。日本の観客ならば、メロディの曲調から日本の伝統的な「わらべ歌」を即座に連想するであろう。宮﨑監督がワラワラというキャラクター名を「わらべ」から発想したと仮定するならば、久石がそのテーマとして一種の「わらべ歌」を作曲したのは、非常に納得がいく。メロディの合間に聞こえてくるサンプリング・ヴォイスの掛け声も、おそらくはこの曲の「わらべ歌」な性格を強調するための隠し味であろう。ベートーヴェンの《月光ソナタ》を思わせるアルペッジョで始まる《転生》は、《ワラワラ》と全く異なる詩情豊かな音楽として書かれているが、熟したワラワラたちが夜空に飛び始めると、ワラワラのテーマが断片的に聴こえてくる。

 

《黄昏の羽根》《回顧》

 これら2つのミステリアスな曲は、オーケストレーションの違いを除き、実質的に同じ音楽として書かれている。比較的小さな編成で書かれた《黄昏の羽根》は、眞人が初めて塔の中に足を踏み入れるシーンの音楽。そして、より厚みのあるオーケストラで演奏される《回顧》は、眞人の父・勝一がばあやのひとりから塔の正体を教えられるシーンの音楽。つまり、塔のテーマとみなすことができる。

 

《矢羽根》《急接近》

 いずれも、眞人が折畳式ナイフで工作をするシーンで流れてくる。流れるような3拍子で書かれた軽やかな曲調が、工作に熱中する眞人の純真さを表現していると解釈することも可能だが、ここで注目すべきは、《矢羽根》が流れてくるシーンにおいては眞人が青サギを仕留めるために矢羽根を作っているのに対し、《急接近》のシーンでは飛べなくなったサギ男の窮状を救うため、眞人が嘴に空いた穴(眞人が放った矢が原因)を塞いでやるというように、同じテーマが使われていてもシーンの状況が真逆に変化しているという点である。そうした点を踏まえると、実は眞人と青サギの友情(の芽生え)を表現したテーマのようにも思われる。

 

a.《追憶》《静寂》および
b.《陽動》《巣穴》《隠密》《大王の行進》

 実はこれら6つの楽曲に、本作の謎めいた象徴表現を読み解く重要な鍵が隠されていると、筆者は考えている。便宜的にa.とb.のふたつのグループに分けて分析していくと、まずa.の《追憶》と《静寂》は、いずれも眞人が自室のベッドで横たわっているシーンで流れてくる楽曲。2曲とも、同音反復を特徴とするミニマルなモティーフと静かな和音が交互に登場する形で始まる。物語の状況に沿って聴くならば、ミニマルなモティーフは外から眞人の様子を伺っている青サギの気配を、静かな和音は眞人の孤独な心情を代弁していると言えるかもしれない。そして、ミニマルなモティーフと和音が繰り返された後、ピアノがリズミカルなモティーフを新たに導入する。そのモティーフが何を意味するのか、《追憶》と《静寂》が流れてくる時点ではわからない。しかし物語が後半部に入ると、このリズミカルなモティーフはb.のグループの4曲において、全く予想外の形で再登場する。b.の4曲は、「下の世界」にあふれかえったインコのテーマとして書かれているが、その楽想は弦楽器がピツィカートで演奏するユーモラスなモティーフ──ここでは仮にインコのモティーフと呼んでおく──を中心にして構成されている。そのピツィカートのモティーフ、すなわちインコのモティーフこそ、実はa.の2曲に出てきたリズミカルなモティーフにほかならない。なぜ、インコのモティーフが、物語前半部の眞人のシーンの音楽にも登場するのか? 作曲者の久石がインコのモティーフをa.の楽曲の中に意識的に仕込んだことは間違いないが、その真の理由は、作曲者以外に誰もわからないし、おそらく本人もそれを明かすことはないだろう。答えは観客ひとりひとりの解釈に委ねられている。

 

III.その他の楽曲

 上に述べた楽曲以外に、どちらかといえば物語の状況に寄り添って書かれたと推測される音楽が存在する。ここで注目すべきは、たとえそれらの楽曲がそうした目的で書かれていたとしても、上記の楽曲と音楽のスタイルや作曲の語法を共有しているので、全体としてミニマル・ミュージックとしての統一感が保たれているという点である。例えば、眞人とキリコが塔の中に入っていくシーンの《ワナ》は、ふたりの状況を過度にドラマティックな音楽で強調することはせず、ミニマルなフレーズを繰り返すうちに緊張感を高めていくという手法で作曲されている。さらに眞人とヒミがヒミの家で食事をするシーンで流れる《眞人とヒミ》は、《祈りのうたII》と同じく、ピアノの左手の伴奏部が三和音の分散音型を繰り返す形で書かれている(したがってこの楽曲も「下の世界」を表現した楽曲のひとつとみなしうる)。そして《最後のほほえみ》は、ピアノが旋律の断片とおぼしきフレーズを演奏するものの、実質的にはアルペッジョの反復と木管楽器のパルスだけで構成された楽曲であり、つまりはミニマル・ミュージックのエッセンスだけで書かれた音楽と言っても過言ではない。

 

 以上、『君たちはどう生きるか』のスコアを主要曲を中心に概観してきた。では、なぜ久石はここまでミニマル・ミュージックにこだわってスコアを作曲したのか? 作曲のプラグマティックな側面に即して言えば、これまで述べてきたように、前半部と後半部でオーケストレーションが変わるのでスコア全体に統一感を与えるためである。そして、久石譲という音楽家に即して言えば、『風の谷のナウシカ』で宮﨑監督に出会う以前から世界的な指揮者となった現在に至るまで、彼がミニマル・ミュージックにこだわり続けてきた作曲家だからである。だが、それだけが理由ではないだろう。

 大雑把に言えば、ミニマル・ミュージックとはひとつのフレーズやリズムや和音を繰り返しながら、それらを徐々に変化させ、聴き手にその「差異」を強く意識させることで、既存の音楽のあり方に疑問を投げかけるような音楽である。同じであると思っていたものが実は違う、常識であると思っていたことが実は違う。そうした疑問の投げかけにこそ、ミニマル・ミュージックを聴く意義が存在し、聴く楽しみが存在する。

『君たちはどう生きるか』という映画も、ある意味では同じである。青サギと思われていた鳥がサギ男であり、「上の世界」で老婆だったキリコが「下の世界」で若い働き手であるというように、この映画で描かれている「同一性」と「差異」のさまざまな例をあげていけば、キリがない。だからこそ、この映画の音楽がミニマル・ミュージックで書かなければいけなかった必然性が生まれてくる。ひとつのキャラクターに特定のメロディを記号的に与えていくような、エンタテインメント作品でおなじみの映画音楽のやり方では、この映画のユニークな特徴を埋もれさせてしまうからだ。

『君たちはどう生きるか』の真に驚くべき点は、そうした「同一性」と「差異」という問題意識を、音楽の制作そのものにまで徹底させたところにある。この映画の音楽は、久石が宮﨑作品のために書いたスコアという点では、これまでの10本の長編映画のスコアと「同一性」を保っている。だが、当然のことながら、それら10本はすべて異なった音楽として書かれている。つまり、これまでの作品はすべて「差異」を含んでいるのである。ならば、イメージアルバムを制作してから本編の作曲に取り組むような、これまでのやり方を捨て去ったとしても、つまり作曲の方法論そのものに大幅な「差異」をもたらしたとしても、久石のスコアは宮﨑作品のための音楽という「同一性」を保てるのか? たとえ、ふたりが意識的に方法論を変えなかったとしても、つまり「差異」を自ら受け入れなかったとしても、「差異」はひとりでにやってくる。この映画に登場する大伯父のモデルとされる高畑勲──彼がこれまでの方法論の礎を築き上げた──が2018年に亡くなってしまったからだ。高畑の生前と高畑の死後という「差異」を受け入れざるを得なくなった現在、ふたりはどのように進んでいくべきなのか。その誠実な解答がすなわち『君たちはどう生きるか』という作品であり、その音楽なのである。

 

『君たちはどう生きるか』アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞が報道された『風の谷のナウシカ』日本公開40周年の記念日、日本時間2024年3月11日に。

前島秀国(Hidekuni Maejima)

 

参考文献:
久石譲「宮﨑さんが行こうと思っているんだったら僕もそこに行く。こんなの見たことないよねということを、一緒にやると決めたんです」『熱風』2023年10月号 スタジオジブリ
久石譲「宮﨑さんのすべてがつまった映画」『君たちはどう生きるか』ガイドブック 東宝

(LPライナーノーツより)

 

 

 

 

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音楽:久石譲
主題歌:米津玄師
価格:5,280円(税込)
発売日:2024年7月3日 (水)
品番:TJJA-10063
レーベル : 徳間ジャパンコミュニケーション
発売国:日本
フォーマット:2枚組アナログレコード