Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

2000年5月17日 CD発売 POCH-1928

 

久石譲アンサンブルにイギリスの弦楽四重奏団 バラネスク・カルテットを迎え、それぞれの音の融合が生み出すミニマル・ミュージックをベースにした、スピード感リズム感溢れる演奏。世紀末に向けて書き下ろした新曲を含むファースト・アルバム。※

(メーカーインフォメーションより)

 

※本作品は発表時”久石譲アンサンブル”名義となっていたためファースト・アルバムと記されている

 

 

DEAD Suite

今回このコンサートのために書いた新曲「DEAD Suite」は、僕がクラシック、現代音楽の世界から離れて19年ぶりに書き上げた楽曲だ。DEAD-英語音名で言う「レ・ミ・ラ・レ」をモティーフにして作曲された楽曲だ。いささかポップスのフィールドを逸脱したかもしれないが、20代後半にポップスの世界に転向して以来初めての本格的な現代音楽作品になる。リズムが移り変わり、不協和音ぎりぎりのところで構成されたこの楽曲は、音楽家として生きてきた、自分のアイデンティティーのための曲である。

なぜ今まで音楽をやってきたのか? を問いつめながら、今世紀末のひとつの区切りとして僕にとって通らなくてはいけない道、なくてはならない楽曲となった。最終的には4曲から成り立つ組曲を考えているが、今回のコンサートえ披露できるのはその内の2曲までになる。後は来年書き足そうと思っている。

(「久石譲 PIANO STORIES ’99 Ensemble Night with Balanescu Quartet」 コンサート・パンフレットより)

 

 

「今年に入って、イギリスのバラネスク・カルテットという弦楽四重奏団を呼んで『Shoot The Violist』というソロアルバムを出したんです。これで非常に吹っ切れましてね。ああ、自分の代表作ができたなって。20代とか大学を出るところでね、こういう作曲家になりたいって思っていたことを20年かけて完成させたっていう感じかな。「ピアニストを撃て」という映画に掛けたタイトルなんだけれど、カルテットというのはヴァイオリンやチェロと違って、ヴィオラっていちばん埋もれがちになるんですね。カルテットの中では、弱者なんです。その弱者を撃てっていう反意語で使っていたものが、現実では17歳の子供がキレて弱者をねらってる。時代の最も悪い雰囲気を警鐘のように捉えられたアルバムになったなあって。これを作ったことで、自分の中で何かが吹っ切れましたよね。去年辺りまでクラシックなアプローチを極めてたりしたんですけれど、このままこの道を走るのかどうかすごく悩んだんですね。で、結果はそうじゃない道を選んだ。つまり巨匠じゃない道を歩んでいると(笑)。それがすごくよかったな、と。」

「僕がいまいるポジションというのは、クラシックの前衛芸術家という立場ではないですね。あくまで町中の音楽、つまりポップス。自分のソロアルバムを買ってもらう、一般に映画で見てもらうというのが自分の原点だから、自分が完成されていくっていうことよりも、自分と社会の関係の方が大切なんですね。今みんなが生きていて苦しんでいることを反映できないような曲を書き出したときには終わりだなって、いつも思っているから。そういう自分の生き方を踏まえたINGで動いてるっていう自分が確認できたことがうれしいってことかな。それにスタンスに余裕ができましたよね。音楽を作る上で、あるいは映画の音楽を作る上で何が必要で、自分に何が欠けているのか、それがすごく分かるようになってきたということですね。」

Blog. 「キネマ旬報 2000年7月上旬 夏の特別号 No.1311」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

アルバムタイトルは、映画「ピアニストを撃て」からきている。今回のアルバムのジャケットに『あなたは今、ピストルを持っている。そのピストルには2発の銃弾が込められていて、あなたは撃つことができる。目の前に3人の男がいる。サダム・フセイン、アドルフ・ヒットラー、ヴィオラ奏者…。さてあなたは誰を撃てば良いでしょうか?』というメッセージがある。

なぜヴィオラなのか。アンサンブルでもオーケストラでもなかなか目立たない存在だが、とても重要な楽器で、ヴィオラがしっかりしているオーケストラは素晴らしいものになる。そんなヴィオラにも目を向けてもらいたいと”ヴィオリストを撃て”というタイトルにした、と久石譲は当時語っている。

 

 

 

久石譲 『Shoot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

1. 794BDH
2. KIDS RETURN (映画「キッズ・リターン」より)
3. DA・MA・SHI・絵
4. DEAD Suite [d.e.a.d.]
5. DEAD Suite [愛の歌]
6. TWO OF US (映画「ふたり」より)
7. MKWAJU
8. LEMORE
9. TIRA-RIN
10. Summer (映画「菊次郎の夏」より)

Produced by JOE HISAISHI

All Composed and arranged by JOE HISAISHI

Joe Hisaishi Ensemble members:
Joe Hisaishi:Piano
Balanescu Quartet
Jun Sato:Bass
Hirofumi Kinjo:Woodwind
Masamiki Takano:Woodwind
Momoko Kamiya:Marimba
Marie Ohishi:Marimba & Percussion

Recorded at Sound City , Wonder Station

Recording & Mixing engineer: Masayoshi Okawa
Assistant engineers: Nobushige Mashiko (Sound City)
Hiroyuki Akita (Wonder Station Inc.)
Technical engineer: Suminobu Hamada (Wonder Station Inc.)
Editor: Hiroya Ishihara (Wonder Station Inc.)
Mastering engineer: Shigeki Fujino (Universal Music K.K.)

 

Shoot the Violist

1.794BDH
2.KIDS RETURN
3.DA-MA-SHI-E
4.DEAD Suite (d.e.a.d.)
5.DEAD Suite (Love Song)
6.TWO OF US
7.MKWAJU
8.LEMORE
9.TIRA-RIN
10.Summer

 

Disc. 久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』

久石譲 『WORKS2』

1999年9月22日 CD発売 POCH-1830

 

コンサートツアー「Piano Stories ’98 Orchestra Night」での名演を収録した7年振りの貴重なオーケストラ・ライブ録音

24bitデジタル・レコーディングによるナチュラルなサウンドで臨場感を余さず収録

 

 

寄稿

いい音楽には永遠の生命力がある。

時代とか流行、様式とか国籍…そうしたものすべてを超えて存在する音楽。「WORKS」と名づけられたシリーズは久石譲という稀有な才能を持った音楽家の”仕事”を数々の映画音楽の曲を中心にオーケストラとの共演という形で再構築していくものだが、新たに録音された曲を聞くと、改めてその音楽性の高さとオリジンルな魅力を実感することができる。一度聞いただけで記憶の奥底に刻みつけられてしまう美しいメロディと卓抜したアレンジ、それにピアニストとしての力量。今回の「WORKS II」は7年ぶりのオーケストラ・コンサートのライブ録音という形になっているが、ひとつひとつの音符の鳴り方、そこから紡ぎ出されたハーモニーの美しさは、驚くほどに完成度が高い。

だから、僕は出来ることなら可能な限りの音量でこのアルバムを聞いて欲しいと思う。収録された13曲は、インストゥルメンタルでありながら大量生産、大量遺棄されるヒット曲とは一線を画す本物の”唄”というのはどんなものかを教えてくれるし、ロマンティシズムとダイナミズムが完璧な形で同居し、輝ける結晶体になっていることがわかる。

そして、次にはそこに自分自身の記憶や思いを重ね合わせていくといい。映像は形になって残っているが、いい音楽というのはそこから離れて空間の中で旋回し始めるのである。「WORKS」はいい仕事の理屈抜きの証拠品である。

立川直樹

(寄稿 ~CDライナーノーツより)

 

 

 

久石譲 『WORKS2』

交響組曲「もののけ姫」より
1. アシタカせっ記
2. もののけ姫
3. TA・TA・RI・GAMI
4. アシタカとサン
5. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
6. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
7. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)
8. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
9. Sonatine (映画「Sonatine」より)
10. Tango X.T.C (映画「はるか、ノスタルジィ」より)
11. Madness (映画「紅の豚」より)
12. Friends
13. Asian Dream Song (長野パラリンピック冬季競技大会テーマ曲)

ピアノ:久石譲
指揮:曽我大介
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 (東京)
管弦楽:関西フィルハーモニー管弦楽団 (大阪)
録音:1998年10月19日 東京芸術劇場
録音:1998年10月27日 ザ・シンフォニーホール

 

WORKS II Orchestra Nights

1.The Legend of Ashitaka (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
2.Princess Mononoke (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
3.TA-TA-RI-GAMI (The Demon God) (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
4.Ashitaka and San (Symphonic Suite “Princess Mononoke”)
5.Nostalgia
6.Cinema Nostalgia
7.la pioggia
8.HANA-BI
9.Sonatine
10.Tango X.T.C.
11.Madness
12.Friends
13.Asian Dream Song

 

Disc. 久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』

1999年5月26日 CD発売 POCH-1788
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9006
2017年3月29日 CD発売 UPCY-9673
2021年11月27日 LP発売 PROS-7035

 

1999年公開 映画「菊次郎の夏」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

~STORY~

今日から楽しい夏休み。
しかし正男(関口雄介・子役)には宿題を見てくれたり、遊びに連れていってくれる人もいない。
たったひとりの家族であるおばあちゃん(吉行和子)はパートで忙しい。
そこで正男は遠くで暮らすお母さんに会いに行くことを決心、
わずかな小遣いを握りしめて飛び出した。
心配した近所のおばさん(岸本加世子)は、旦那・菊次郎(ビートたけし)に
正男を母親の元まで送り届けるように命令する。
しかし根っからの自由人である菊次郎は出発するなり競輪で旅費を使い果たし、
あげくの果てには正男の小遣いも奪ってしまいスッカラカンに。
そんなこんなで二人の珍道中は始まった…。

 

 

〈episode 5〉
ピアノの音色とわかりやすいシンプルな旋律の繰り返しという、音楽の核の部分のイメージは、武さんも久石さんも一致していました。音楽を発注する際に、武さんがいちばん具体的に発言した作品ですね。ウィンダムヒルのジョージ・ウィンストンが手がけた「オータム」に代表される季節を扱った曲を例に出して、今回はこういう世界観が欲しいんだと意思表示していたことを思い出します。その点においては珍しい例ですね。どちらかといえば、いつもは”お任せ”で、イメージを具体的に伝えるということは少ないんですけど、撮影を始めた当初からそのイメージは口にしていましたから、よほどのこだわりがあったんでしょう。結果、シンプルでなおかつ流れてきた瞬間夏を連想させるとてもキャッチーなメロディを含む、有無をいわせないくらい見事なサウンド・メイクをしていただきましたから、本人の満足度もかなり高かったと思います。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1998年10月6日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1998年10月7-10,12,21-23日 レコーディング作業。
1998年10月21日 ポリグラムスタジオにてオーケストラ・レコーディング。
1999年2月2-4日 ワンダーステーション六本木スタジオにてT/D。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

北野武さんの作品では、「あの夏、いちばん静かな海」から音楽を担当させていただいていますが、あの映画のときに北野さんと話したのは「通常音楽を入れるところは一切抜きましょう」ということ。例えば、盛り上がるシーンだからといって、盛り上げるための音楽を入れるのはやめましょうと。そういうのってすごく北野さんらしいところだと思うのですが、いわゆる劇伴的なものは本人が望んでいませんし、必要もないんですよ。

「菊次郎の夏」でも、メロディアスだけど絶対ベタベタした感じにならないように心がけました。北野さんの映画は、とにかく立ち振る舞いがすごくきれいで品があるんです。だから、音楽も下品になったり、表現しすぎてはいけない。それが、最も大切にしなければならないところでしょうね。「菊次郎の夏」に関しては、北野さんから「リリカルなピアノものでいきたい」というリクエストがあったんです。最初は、こんなにギャグの多い映画なのにいいのかな?と思ったんですが、実際にやってみたら、ギャグの中に、人間の孤独とか寂しさみたいなものが表現できた。もちろん、北野さんはそれを最初から狙っていたわけで「やっぱりこの人は天才だな」って思いましたね。

そして、北野さんのすごい点は、やはり個性的だということに尽きるでしょう。特に、海外での評価は絶大ですが、それはなぜかというと、個性があるからですよ。独特の映像美、たくさんの要素を入れない、ムダのない引き算のような絵作り……それが、あそこまで徹底できる人って、世界に何人もいません。ものすごく強い意志が必要なんだと思うのですが、北野さんはそれをやり抜いている。本当にすさまじい作業であり、ある意味、周囲のだれよりも孤独だと思うのですが、それをやり抜く意志の強さは本当に素晴らしい。だからこそ、”世界の北野武”なんでしょうね。

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「北野武監督はすごい人ですよね。僕はこの映画に一番ピッタリだと思う曲をメインテーマで書きます。それで副次的なサブテーマを書きます。聴いた武さんは、サブテーマを気に入ったりするんですよ。「監督、もっといいのありますから」と言っても、これなんですよ。なぜだろうと思うと、たいがいその場合、副次的テーマの方がシンプルなんですよね。それでそれをメインにすげ替える。映画の様相ががらっと変わるんですよ。その時に北野武という監督の嗅覚、感覚のすごさ、いまという時代に生きている彼が選ぶ、いいなと思うものというのが、一番ポップなんですよね。大衆との接点では大体あたるんですよ。テレビで大衆を目の当たりに日々闘っている、武さんの嗅覚というのは鋭いですね。僕らはこもって作っているから、どうしても頭で作ってしまいます。その分ステージは高いかもしれないけど、一般とのつなぎの部分で弱い時がよくあるんですよ。その時に武さんはぽーんとそれを見抜く。その能力はすごいですよね。『菊次郎の夏』でも、非常にシンプルなピアノの曲を書いたんですけど、武さんもすごく気に入って、結果的に非常にいい感じの分かりやすい音楽が主体になった。武さんも弾きたいっておっしゃったから、譜面を書いて送ったら、もう弾けるよって言ってましたけど。いまでも最低1日1時間はピアノを練習しているとか。秋の僕のコンサートの時に弾くって言ってますよ。3回くらい言ったから、本気なのかもしれない。」

「これが困ったんですよ。監督に聞いたんですけど「いままでうまく行ってるからいいんじゃない」それだけで終わってしまった。でも爽やかなピアノ曲というイメージはお持ちだったし、それは分かるなと。エモーショナルと言うよりは少年が主人公だし、ピアノ曲なんだけどリズムがあり、という感じで作ったんですけどね。あの映画で困ったのはギャグが満載なので、どうするんだと、実はちょっと思っていたんですよ。そうしたら武さんは大胆なことをおやりになった。「大ギャクをやっているところに悲しい音楽を流してみたら」って言って。大丈夫ですかね、と言って、長めに流したんですよ。そうしたら面白かったのは、それまでは、やってるやってる、というギャグが、全部悲しく見えるんですよ。「ああ武さん、これをやりたかったんだ!」と思って。菊次郎とか少年の持っている悲しみみたいなものが、画面が明るいだけにどんどん出て来ちゃって。あの時に「この映画、やった!」と音楽的にも思いましたね。あの辺を計算していたとしたら、北野さんはすごい人だと思います。普通に笑いを取るために笑いを取る音楽を付けたら自殺行為ですよね。人を好きだという時に、「好きだ」という台詞を書いたらバカ臭いじゃないですか。その時に「お前なんか嫌いだ」と書いた方が、そいつは好きかもしれないというのがあるじゃない。音楽もそういうのがあって、予定調和でこういうシーンだから、こういう音楽流せばと流してしまったら、コンクリートで固めたみたいで、そこから何も立ち上ってこない。ものを作るってそのくらい面白いものだと、最近思います。小説でも、「この主人公、こう動くな」と思っていて、その通りに動いたら、引きますよね。それがこちらの想像を超えていってくれるから引き込まれる。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「例を挙げると『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』。あれは僕にとっては第2テーマだったんです。もともと『菊次郎の夏』では北野監督が『絶対にピアノでリリカルなものを』というイメージをはっきりもっていたので、その意向に沿って第1テーマと、軽くて爽やかな『Summer』を作った。そして両方聴いて頂いたときに『あ、これ、いいね』と監督が洩らしたのが第2テーマだったんです。そう言われたら、こっちはパニック(笑)。つまり、映画のなかの重要な個所は第1テーマで押さえたつもりだったのに、監督が気に入ったのは第2テーマだから、全部入れ替えなければならない。しかし、そのときに監督が出した方向性というのは、実は圧倒的に正しいんですよ。僕なんかでは太刀打ちできない『時代を見つめる目』があるんです。軽かったほうの『Summer』が結局メインテーマになり、しばらくたってからそのテーマ曲が車メーカーに気に入られ、1年以上もCMで流れている。宮崎監督もそうですが、彼らは音楽が社会に出たとき、人々の耳にどのように聞こえるか、ちゃんと知っているんですね」

Blog. 「PREMIERE プレミア 日本版 October 2001 No.42」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

菊次郎の夏 サウンドトラック

1. Summer
2. Going Out
3. Mad Summer
4. Night Mare
5. Kindness
6. The Rain
7. Real Eyes
8. Angel Bell
9. Two Hearts
10. Mother
11. River Side
12. Summer Road

All music composed, arranged, produced & performed by 久石譲

Guest Musicians:潘寅林ストリングス(Strings)、鈴木理恵子(Violin Solo)、諸岡由美子(Cello solo)

Recording Engineers:浜田純伸・石原裕也(ワンダーステーション)
Mixing Engineer:浜田純伸(ワンダーステーション)
Assistant Engineers:秋田裕之(ワンダーステーション)、川下輝一(ポリグラム・スタジオ)

Recording Studio:ワンダーステーション、ポリグラム・スタジオ
Master Engineer:藤野成喜(ポリグラム・スタジオ)
Mastering Studio:ポリグラム・スタジオ DMR-1

 

Disc. 久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』

久石譲 『PIANO STORIES 3』

1998年10月14日 CD発売 POCH-1731

 

1988年から続くピアノ・ストーリーズ・シリーズ第3弾
北イタリアの情景をモチーフに作られた作品

 

 

イタリアには唄がある。
伸びやかなメロディーは人生の哀歓や、ユーモアをおりまぜひらすら唄う。
ふと、幸せという名前の思い出を数えてみた。
そのすきまからこぼれおちる哀しみの時間(とき)。
イタリアっ子は言うだろうな「Quel che sara sara -なるようになるさ」。
そして今日もまた唄っている。たぶん・・・・

久石譲

(CDライナーノーツより)

 

 

久石:
「Nostalgia」は、イタリアで現地のオーケストラとレコーディングしましたけど、オケには機能性よりも『唄』を望みました。多少荒っぽくても、そこには『唄』があるというアルバムを作りたかった。だからイタリアにしたんです。

次に自分のソロアルバムを、と考えたとき、根底に『唄』を表現したいということがありました。それは、去年「HANA-BI」でベネチアへ行って、公式記者会見で外国人記者から「音楽がすごくイタリア的なメロディだ」と指摘されて、「ああ、そうなのかな」と思ったのがきっかけです。確かにベネチアで「HANA-BI」を観たとき、自分でも「この音楽、イタリア的に聴こえるなあ」と思いました。そのあたりですね。イタリア的な『唄』を表現しようと思ったのは。

それと、今回のアルバムでは、イタリアというテーマの中でカヴァーをやってみたいと思って、サン=サーンスのオペラ「サムソンとデリラ」の有名なアリア(アルバムでは「バビロンの丘」)とニノ・ロータの「太陽がいっぱい」を、最もイタリア的な香りのするメロディということで選びました。アレンジという部分も自分の中の大事な要素ですから、人のメロディを借りてきても自分の世界が作れるというところにチャレンジしてみたかったのです。

技術的な面でも現時点で可能な限りの最先端の技術で録るという、徹底的にハードディスク・レコーディングを行いました。ここが大事なところなんだけど、古臭いやりかたでノスタルジックな音を録ったら、本当に古臭くなってしまう。それは僕の欲してる音ではないんですよ。それで、オケがそのレコーディング方式に不慣れだったってこともあって、レコーディングの2日目からは予定外に僕がピアノを弾いて、オケをひっぱるという、同時録音に切り替えざる得なかったんです。でも、そのうちに現場の雰囲気が一変して、オケがピタッとついてくるのがわかりました。そういう意味では柔軟性のある若いオーケストラでよかったですね。

イタリアにはやっぱり、日本のオーケストラにも、またイギリスのオーケストラにもない、独特のおおらかなメロディーの唄い方がありました。結果をみても、これはイタリアに行かなかったら成立しないアルバムだったと、今、改めて思っています。

(久石譲インタビュー ~「久石譲 PIANO STORIES ’98 Orchestra Night」 コンサートパンフレット より)

 

 

「サウンドはガッチリと構築するスタイルなのですが、このスタイルを一回壊してみたい。メロディに集約し直してみたい。僕の場合、作曲もアレンジも演奏も自分でやってしまいますから、少し荒っぽくてもいいから原質が出るような、そういうアルバムを作ってみたいなというのが一番根底にありました。で、北野武監督『HANA-BI』ベネチア映画祭出品の間などでイタリアへ行って、イタリア的ニュアンスなんだというのが自分なりに分かりましてね。イタリアというとカンツォーネだとかオペラだとか、歌という感じがありますね。何かそういうところのアプローチをしたいなという……。

タイトルが『ノスタルジア』だからといって、郷愁といったニュアンスでは作っていないんです。われわれふだんレコーディングしていると、どうしてもドンカマで作っていく傾向がすごく多い。そればっかりだと、揺らぎのある音楽から遠ざかっちゃうんですね。歌のエスプリみたいなものが最近の音楽では、ほとんど聴くことが出来ませんよね。今、忘れがちになっているそういう重要な要素に、もう1回スポットを当ててみたい。それが最も新鮮なんじゃないか。そういうのが大まかなコンセプトです」

Blog. 「FM fan 1998 No.25 11.16-11.29」 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

 

サウンドもアコーディオンやハーモニカがフィーチャーされイタリアンテイストたっぷりに仕上がっている。イタリア的な「唄」をコンセプトに、自身の作曲作品のみならず、イタリア名作映画からの映画音楽も選曲。

1998年、イタリアの古都モデナにて。「時代の波に流されずにひたむきに生き、個々それぞれの世界を築き上げた人々を描きたい」という久石譲はアルバムのイメージとしてこう語っている。

時代設定は「1930年台のイタリアを中心とするヨーロッパ」。そこでレコーディングはイタリアで行われることになった。「音楽の原点の”歌”に戻って」制作したというこのアルバムでは、ピアノが1930年イタリアという時空で交錯する人々の思いを、雄弁に語っている。

 

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 3』

1. Nostalgia (サントリー山崎CF曲)
2. 旅情
3. Cinema Nostalgia (日本テレビ系列「金曜ロードショー」オープニングテーマ)
4. il porco rosso (映画「紅の豚」より)
5. Cassanova
6. 太陽がいっぱい
7. HANA-BI (映画「HANA-BI」メインテーマ)
8. Nocturne
9. バビロンの丘
10. la pioggia (映画「時雨の記」メインテーマ)

指揮:レナート・セリオ 演奏:フェラーラ管弦楽団

Composed by JOE HISAISHI , except 6. 9.

Piano:JOE HISAISHI
Orchestra:ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
Conductor:RENATO SERIO

Piano,Rhodes:MASAHIRO SAYAMA 4.

(アコーディオン 2. / バンドネオン 6.)

Musicians
ORCHESTRA CITTA DI FERRARA
RENATO SERIO(Conductor)
Nobuo Yagi(Harmonica)
Fumihiko Kazama(Accordion)
Chuei Yoshikawa(Guitar)
Hideo Yamaki(Drum)
Kunimitsu Inaba(W.Bass)
Masahiro Sayama(Piano Rhodes)
Tomonao Hara(Flugel Horn)
Ryota Komatsu(Bandoneon)
etc.

Recorded at:
TEATRO STORCHI DI MODENA,KIOI HALL,Wonder Station
August-September, 1998

 

NOSTALGIA – PIANO STORIES III

1.Nostalgia
2.Sentimenti di Viaggio
3.Cinema Nostalgia
4.il porco rosso
5.Casanova
6.Plein Soleil
7.HANA-BI
8.Nocturne
9.A Hill of Babylon
10.la pioggia

 

Disc. 久石譲 『HANA-BI』

HANA-BI サウンドトラック

1998年1月1日 CD発売 POCH-1672
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9005

 

1998年公開 映画「HANA-BI」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし 他

 

 

〈episode 4〉
この作品の、例えばタクシーをパトカーに作り変えていくシーンには、組曲のようなものすごく長い音楽がついていますが、久石さんがかなり悩まれた証のようにも思えますね。そのシーン以外にも、武さん自身が描いた絵を、映像の中に巧みにインサートしている場面があって…。「キッズ・リターン」でも自分で描いた絵をポスターに使ってましたけど、ここではかなりの数の絵をカットの一つとして使っている。あの世界と対決するのは大変だったと思いますよ。当然あそこには音をつけてくれというカットですからね。無音でしかも動きのない絵を、いろんなカメラワークを駆使して撮っていますから、それときっちり向き合える音楽をつけるとなると、結構思案しますよね。われわれ自身も両者のイメージをすり合わせるために、かなり大変な思いをした記憶があります。ただどんなに陰惨な場面でも、そこに流れる久石メロディの美しさがインパクトにつながっている気がします。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1997年6月9日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング開始。
1997年6月11日 調布にっかつ撮影所にて監督と打ち合わせ。
1997年6月12-19日 ワンダーステーション代々木スタジオにてレコーディング。
1997年6月22日 ポリグラムスタジオAst.にて弦のレコーディング。
1997年6月23-24日 ワンダーステーション代々木スタジオにて映画用のT/D。
1997年7月10-11日 ワンダーステーション六本木スタジオにてCD用のT/D。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

「生のストリングスなどを使って、アコースティックな音に仕上げたいと考えたんです。きれいな音をつけてあげたい。かわりに暴力シーンには音楽はいらない。主人公と奥さんの関係、そして銃で撃たれて車椅子生活をおくっている主人公の同僚、その2つの関係を中心に音楽をつくっていこうと。全体的にあまりムーディーにならないようには心がけました。本当のメインテーマは最後の方に出てくる。音を抜くときいは思いっきり抜くことで次第に、後半に行くに従って情感が増してくるんです。この作品に限らず、沈黙をつくるのも、映画音楽の大事な仕事です」

Blog. 「ゾラ ZOLA 1998年2月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「今までの3作はどちらかというと、シンセサイザーやサンプリング楽器を多用していましたが、今回、監督からは、ストリングスや何かを使った「アコースティックな世界で、きれいな音楽があるといいね」と事前にオファーされたんです。ただ、それだと情緒的に流れすぎる可能性があるので、そうならないために、どういうスタンスをとるかということを一番考えました。今回は北野作品ではいちばんメロディを前面に出したんですよ。今までの作品はミニマル的な、音型の繰り返しみたいなのが多かったんだけれども。ただ、画面に音楽が寄り添わないで、外して、どこでどう「すき間」をつくるか、どうやって抜くかということに気をつかいました。『もののけ姫』もそうですが、97年の僕のテーマだったんですよ。」

「全然ないんです。本当に、「今回、どうします?」って聞くと、「今までうまくいってるからいいんじゃない?」って答えしか返ってこないですから(笑)。逆に言うと、すごく怖い監督ですよね。こちらがよりどころにしておくことが欲しいなと思っても、ぽーんと「はい、映像は撮ったから、後は久石さんヨロシク!」みたいな感じであずけられるから、それはすごいプレッシャーですよね。」

Blog. 「キネマ旬報増刊 1998年2月3日号 No.1247」北野武映画 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「これも北野さんの映画の中では、今までの集大成みたいな部分と、新しく歩みだそうという姿勢が結実していて、ある意味で分かりやすくて、本当に人に語りかける映画ですから、完成度がすごく高かったんですね。その音楽に関して自分は、アプローチは相当大胆にやったんですよ。

あの映画には3つの要素があると思うんです。主人公の刑事と、犯人に撃たれて下半身不随になる同僚との友情。夫婦の愛。それからバイオレンス。ぼくはこのバイオレンスのシーンに、音楽を一切付けなかったんです。通常はそういうシーンにも必要になるんですけれど、これはいりませんと言い切って。同僚が画家になっていくシーンと、夫婦のシーンにしか付けなかったんです。

そのことによって、非常に徹底した音楽を書いたという思いがある。それでも0号試写を見るまで、本当にそれで良かったのか悩んでいたんですが、すごくうまくいっていた。無難な路線を選ばない、徹底したアプローチが、映画として成功したのが、自分としてはものすごく満足しましたね」

Blog. 「ダカーポ 1998年2月18日号 NO.391」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「通常、北野監督は、あまり注文を出さないんです。ある意味でおまかせ状態。それが、この『HANA-BI』では、「暴力シーンとかいろいろあるけど、それとは無関係にアコースティックな弦などのキレイな旋律を流したらどうかな」というようなことを初めていわれて…。ですから、今回はその言葉がキーワードになっています。いままでの北野作品では、同じフレーズを繰り返すような曲を主体にやっていたんですが、今回は、弦を使うということで、曲調がメロディアスになったり、いままでよりもエモーショナルなサウンドになるかなって。そのあたりを監督に確認しながら作りました。」

Blog. 「FMステーション No.7 1998年4月5日号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「映画音楽を作るときは、よほどのことがない限りは、台本を読んで、ラッシュを見て、それからどういう世界観にするかを通常決めて行きます。『HANA-BI』のときは、わりと早い時期から、北野さんから大体の内容は聞いていたし、「今回はアコースティックで行きたい」と言われていた。北野さんとやってきた映画音楽は、『HANA-BI』で4本目なんですけど、それまでのものは実はミニマル的な扱いが多かったんですよ。感情表現というよりは引いてしまって、最少単位の音型が繰り返されるような。具体的にいうと、シンセサイザーをだいたいメインにして作ってきた。『HANA-BI』の場合は、暴力的なシーンでも、弦とかできれいな音楽が流れているようなのはどうですか、という話があった。それがキーワードになりました。ただ、弦を使っていると、どうしてもメロディラインがついて、エモーショナルな部分に走りやすくなるんですよ。北野さんの世界では、おいおい泣いたりするような、感情表現の場って少ないんですよ。そういうところにエモーショナルな音楽を付けると、ものすごくダサくなったり、かえって北野ワールドを壊してしまうんじゃないか、というのが一番心配だったですね。弦を使ってやっていくときに僕が大事にしたのは「格調」。一、二歩引いて、主人公たちの精神状態を奏でるというところから全体を構成していった。通常僕らが映画音楽を書くときは、映画1本で25~30曲くらい、各シーンに入れていくんです。だけど今回は10曲だった。短くなったと喜んでいたんですが、1曲1曲が8分だったり6分だったり長いんですよ。だから、音楽全体の長さは結局45分くらい、いままでと全く変わっていなかった。その分、入れるときはドンと入れる。抜くときは思い切り抜く。映画としての音楽的なメリハリはつけられたという気がします。」

Blog. 「音楽の友 1998年4月 特大号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

HANA-BI サウンドトラック

1. HANA-BI
2. Angel
3. Sea of Blue
4. …and Alone
5. Ever Love
6. Painters
7. Smile and Smile
8. Heaven’s Gate
9. Tenderness
10. Thank You,… for Everything
11. HANA-BI (reprise)

All music composed, arranged, produced and performed by Joe Hisaishi

Guest Musicians:
八木のぶお(Harmonica)
旭孝・篠原猛(Flute)
柴山洋(Oboe)
星野正(Clarinet)
前田信吉(Bassoon)
後藤勇一郎グループ(Strings)

 

Disc. 久石譲 『WORKS・I』

久石譲 『WORKS 1』

1997年10月15日 CD発売 POCH-1652

 

交響詩曲「ナウシカ」をはじめ、
久石譲の名曲があのロンドン・フィルとの共演で一堂に!
宮崎駿・北野武・大林宣彦監督作品より厳選。
記念すべき集大成シリーズ第1作。全曲書きおろし。

 

 

【監督コメント】

宮崎駿
「風の谷のナウシカ」のイメージアルバムから、僕はずっと久石さんと仕事をして来た。コンビだからとか、友情でとかではなく、自分達の作品に最もふさわしい才能を探したあげく、結局、いつも久石さんにたどり着くという繰り返しだったのだ。彼は本当にいい仕事をして来たと思う。映画「もののけ姫」では、もう別格の仕上がりで、おさまりの悪いシーンの断続するフィルムを、見事に音でつづりあわせ、更に全体を高い次元に引き上げてくれた。感謝、というしかない。

 

北野武
映画に音楽をつける時ってさ、結局イメージのすり合わせと言うか、ものすごく感覚的、抽象的な打ち合わせの上で作業してゆく訳だから、本当に大変なんだよね。ましてオイラは音楽的な専門知識なんてほとんど無いから、こんな感じってな言い方しかできないし…久石さんってすごい人だよね。映像のもってるニオイを生かしてくれるんだからさ。オイラの場合は『あの夏、いちばん静かな海。』からのお付き合いなんだけど、「シンプルなメロディーの繰り返しが好きなんですよ」って言ったら、あんな凄いテーマが出来ちゃった。オイラが映画を作る時、削ぎ落としって事をいつも意識してるんだけど、音を付ける作曲家にも同じコンセプトで曲作りをお願いする訳だから、相当ワガママだよね。それでも、久石さんはそのワガママを受け容れてくれるし、それどころか、映像がぐっと前に出てくる様な曲を作ってくれる。そしてそのひとつひとつの曲は、久石さんのニオイも放ちながら、オイラの作品を結晶させる。感謝。

 

大林宣彦
喩えばある風景を美しいと思うのは、ぼくらが「美しい」という言葉を持つからだ。映像も音楽ももし言葉を持たなければ、もっと純粋に美しいものであるかも知れないが、残念ながらぼくらの誰もがこの言葉の呪縛から逃れることはできない。僕も譲さんも、いつも映像や音楽についてお互いの言葉で語り合うのだが、世界を美しくするのも汚すのもつまるところはぼくらの言葉自身である。
譲さんは言葉をとても大切にしてくれる音楽家の友人だ。彼の美しいメロディーは、言葉自体の持つしたたかな論理性と一つ一つの言葉の響きに寄り添うたおやかな感性とに支えられて誕生してくる。それは言葉との闘争であり共存でもある。つまりは人間的な音楽であるわけだ。
ぼくの映画の多くは独立プロの小さな自主製作だが、譲さんは度々手弁当で参加してくれた。いつも手弁当に甘えるわけにはいかないが、ここ一番という時には必ずにこにこ駆けつけてくれる。では何がここ一番かと見極めるのも言葉の覚悟であり、そんなわけでお互いの言葉への信頼がともすると危ういこの世の人の関係に、強く深い友情の絆を紡いでくれているのだろう。
ぼくらが共に創造した映画がその証しであり、だからこのアルバムはぼくの誇りでもある。

(CDライナーノーツより)

 

 

 

 

(1) 「Symphonic Poem “NAUSICAÄ”」

映画『風の谷のナウシカ』を組曲化した17分33秒にも及ぶ大作である。映画本編のみならず、イメージアルバム、サウンドトラック、シンフォニー編という3作品から、映画本編では使用されなかった楽曲も含めたナウシカの壮大な世界を表現している。

パート1 ~ ティンパニの冒頭の力強い響きで一気にナウシカの世界へ引き込まれる。「風の伝説」からはじまり「ナウシカ・レクイエム」へと引き継がれる。フーガ調のメロディーの展開が奥行きと深みをましている。その後重厚な管弦楽にてレクイエムが響きわたる。

パート2 ~ 「メーヴェとコルヴェットの戦い」スリリングで高揚感のある見せ場である。その後、劇中には使用されなかったが風の谷の風景を見事に描いた「谷への道」が心地よい風を感じる悠々としたストリングスで奏でられる。再度「ナウシカ・レクイエム/遠い日々」の登場である。ここでは澄んだボーイ・ソプラノの歌声によって、劇中とはまたひと味違った格式高い品格へと昇華している。サントラ盤「王蟲との交流」をベースとしたアレンジである。

パート3 ~ 「鳥の人 ~エンディング」フルオーケストラによる壮大なクライマックス。コンサートの演目やアンコールとしても人気が高く、このパートのみ演奏されることも多い。

 

(2) 「FOR YOU」

映画『水の旅人 -侍KIDS』より主題歌「あなたになら…」フルオーケストラによるインストゥルメンタル。メインテーマ「水の旅人」とならんで人気のある楽曲である。メロディーメーカーとしての久石譲の実力が結晶した作品ともいえる。

フルートやヴァイオリンなど、ソロ楽器が優美に旋律をうたい、その楽曲のもつ透明感をひきたてた上品なアレンジが施されている。後半の転調によりより華やかに壮大な愛を奏でている。サントラ盤でも「夢を叶えて」というタイトルにて近いアレンジで収録されている。

 

(3) 「SONATINE」

映画『ソナチネ』よりメインテーマ。オリジナル版は、ピアノの短いモチーフによる繰り返しとシンセサイザー、パーカッションが絡み合うなんともエキゾチックな楽曲である。これを8分にも及ぶ大作に仕立ててしまう。オーケストラを駆使し、緊張感あるドラマティックなオーケストレーション。短い旋律の繰り返しからここまでの世界観を築き上げる手腕に唸ってしまう。本作品において、いい意味で裏切られた意欲的な力作である。

 

(4) 「TANGO X.T.C.」

映画『はるか、ノスタルジィ』にて「出会い ~追憶のX.T.C.~」という原曲にて誕生。その後自身のオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて「TANGO X.T.C.」という楽曲へと完成版をみた作品。オリジナル版では久石譲がこだわったというバンドネオンによるノスタルジックな響きが印象的であった。

ここではバンドネオンを排除しフルオーケストラ作品へと試みている。テンポもややゆっくりになり艶やかさがましている。後半にはドラムやウッドベースも加わり、実験的なオーケストレーションのなか大人なJAZZYな世界を漂わせている。

 

(5) 「TWO OF US」

映画『ふたり』の主題歌として大林宣彦監督×久石譲によるデュエットソングという伝説的楽曲。「草の想い -ふたり・愛のテーマ」というタイトルにてシングル化もされている。また「TANGO X.T.C.」同様にオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』にて自身のレパートリーとなるインストゥルメンタル作品へと昇華させている。

 

(6) 「MADNESS」

映画『紅の豚』本編にも使用され、コンサートやアンコールでも定番曲。この作品実はオリジナル・アルバム『MY LOST CITY』に収録されるものとして先につくられている。映画製作中であった宮崎駿監督が先に完成していた『MY LOST CITY』を聴いて気に入り使用されることになった。その逸話は有名である。

 

(7) 「SILENT LOVE」

映画『あの夏、いちばん静かな海。』にて印象的なメインテーマ曲。シンプルなメロディーの繰り返し。寄せては返す波のような冒頭の旋律から静かにそして煌めくようなオーケストレーション。オリジナル版のコーラスとシンセサイザーによる切なさを、ひときわ彩り豊かにドラマティックに昇華している。後半の転調もあいまって感情の高まりはおさえることができない。繊細で美しいメロディー、涙腺を刺激する。

久石譲の巧みなオーケストレーションによって、シンプルなモチーフであっても聴き飽きさせることのない技はさすがだが、「SONATINE」しかり、そのカギとなる数小節のシンプルなメロディーの力があってこそでもある。本作品のクライマックスにふさわしい、至極の名曲である。

 

 

本作品「WORKS I」は、久石譲が満を持して過去の映画作品として送り出した名曲たちをフルオーケストラへと昇華させた「WORKS」シリーズの記念すべき第1作目である。この作品の前に、フルオーケストラ作品をつくりあげるという新境地に挑み、久石譲音楽活動における大きな分岐点となった映画『もののけ姫』。この作品を経て1年後に実ったのがこの『WORKS I』である。

「WORKS」シリーズはこの後つづいていく。その時折の映画作品やCM音楽などを、オーケストラを主体とした音楽作品に再構築したものとして。大衆性(エンターテイメント)と芸術性(アーティスト)を両立させた久石譲の真骨頂として。「WORKS」シリーズは、久石譲によるシンフォニーの結晶である。

 

 

 

 

 

久石譲 『WOKKS1』

『風の谷のナウシカ』(宮崎駿監督 1984)より
1. Symphonic Poem “NAUSICAÄ”
-1 Part I
-2 Part II
-3 Part III
『水の旅人-侍Kids』(大林宣彦監督 1993)より
2. FOR YOU
『Sonatine』(北野武監督 1993)より
3. SONATINE
『はるか、ノスタルジィ』(大林宣彦監督 1992)より
4. TANGO X.T.C.
『ふたり』(大林宣彦監督 1992)より
5. TWO OF US
『紅の豚』(宮崎駿監督 1992)より
6. MADNESS
『あの夏、いちばん静かな海。』(北野武監督 1991)より
7. SILENT LOVE

久石譲 (ピアノ)
ニック・イングマン指揮
ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団
リアム・オッケーン(ボーイ・ソプラノ) - 1.

All composed and arranged by JOE  HISAISHI

Produced by JOE HISAISHI

recorded at Air Studios (LONDON) and Wonder Station (TOKYO)
recorded at August 1997

 

WORKS I

1.Symphonic Poem“NAUSICAÄ” (from “NAUSICAÄ of the Valley of the Wind”)
2.FOR YOU (from “Water Traveler – Samurai Kids”)
3.SONATINE (from “Sonatine”)
4.TANGO X.T.C. (from “Haruka, Nostalgia”)
5.TWO OF US (from “Futari”)
6.MADNESS (from “Porco Rosso”)
7.SILENT LOVE (from “A Scene at the Sea”)

 

Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1996年10月25日 CD発売 POCH-1604

 

 

【MEMORANDUM】

Friends
子供の頃思った。「お酒飲んでたばこ吸って、それにカウンターに座って寿司だっていつか食べてやる」気づいたらバーの片隅に一人座っていた。

Sunday
日曜日の午後、ふらっと画廊を訪れるのもよい。スコーンととびきり上等のアフターヌーンティーを飲みながら眺めるワッツの絵画は、本物の英国の香りがする。

Asian Dream Song
滔々と流れる黄河、人を寄せ付けないヒマラヤの山々、砂漠の民ベドウィン、インドの過去から未来に連なる永遠の時間の流れ、モダンでほんとうはヨーロッパよりも深い歴史と近代性をもっていた日本。僕はアジアの一員でしかも日本人であってほんとうによかった。

Angel Springs
6年間もあるウイスキーのコマーシャルにつき合った。何も足さない、何も引かない、このコンセプトは美しい。人が手を加えないことは現代では極めて難しい。例えばひとりの少年がいる。手を加えて型にはめるより、ほうっておいて発酵するのを待つ。もしかして天才が生まれるかも知れませんよ。

Kids Return
ミニマルミュージックの香りのする青春音楽。クールでどこか切なげ、ワイルドで繊細、淡々としているのに衝撃的、二律背反の世界、それが僕だ。僕の白は限りなく黒を連想させ、優しさは限りなく毒を含んでいる。見せかけのヒューマンは独裁者の心を隠し、愛と感動のメロディーは限りなく前衛の心の鎧となる。

Rain Garden
ふと、ラヴェルが弾きたくなった。その響きが心に微かな波紋となって広がっていく。フランス印象派は空ろいゆく時の陽炎(かげろう)。

Highlander
地図で見る英国は左の上の端にある。そのまた上の方にHighlanderがある。寒くて荒涼とした土地、手が届きそうに低く垂れ下がった天空。ケルトの里は何処か毅然としていて生きる厳しさと尊さを教えてくれる。

White Night
夕暮れ、密やかに闇が訪れ、家々の窓には灯がともる。空からは軽やかなダンスを踊っているかのような温かい(心の)雪が舞い降りている。もしかしたらマッチ売りの少女は幸せだったんだ。

Les Aventuriers
「冒険者たち」という映画があった。男はこの言葉が好きだ。冒険に乗りだす時の昂揚感、細心の注意と計画。大胆にも繊細な神経、思いがけない緊張感。でも実際の映画はふたりの男と一人の女の友情と愛情の物語り。はしゃぐ大人たちは幼稚な子供心を引きずったピノキオ。でもリノバンチュラだったら良いか?
PS.演奏が難しすぎた。プロのミュージシャンがほとんど弾けなかった。5拍子なんて人間の生理に合わないのか?でも「Take 5」や「Mission impossible」はとても心地良いのに…。ええい!一気の緊張、極限のスイードもありなんだよ。

The Wind of Life
日々の積み重ねの上に人の一生は成り立つ。淡々と繰り返される日々、でもその日々が大変だ。泣いたり怒ったり絶望したり歓喜の涙をこぼしたり誠に忙しい。でも同じ日は二度と来ないのだから日々を受け入れ真摯な精神で生きる事が肝心だ。生命の風、人の一生を一塵の風に託す。陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。風のように生きたいと思った。

(【メモランダム】 久石譲)

 

 

 

「難しかったんだよね。それまでガッチリとコンセプトを組んできたんだけれど、最後の最後で自分を信じた感覚的な決断をしたということです。あの弦の書き方って異常に特殊なんです。普通は例えば8・6・4・4・2とだんだん小さくなりますね。それを8・6・6・6・2と低域が大きい形にしてある。なおかつディヴィージで全部デパートに分けたりして……。チェロなんかまともにユニゾンしているところなんて一箇所もないですよ。ここまで徹底的に書いたことは今までない。結果として想像以上のものになってしまって、ピアノより弦が主張してる……ヤバイ……と(笑)。」

「僕は戻りって性格的にできないし、オール・オア・ナッシングなんですね。時代って円運動しながら前へ進んでいると思うんですが、自分にとってのミニマルとか弦とか、原点に立ち返るというのは前に戻るのではなく、そのスタイルをとりながら全く新しいところへ行くことだと。そうでなければ意味がない。単なる懐古趣味に終わってしまうでしょう。ピアノというコンセプトでソロアルバムを作るということに変わりはなかったけれども、思い切りターボエンジンに切り替える必要があったわけです。」

Blog. 「キネマ旬報 1996年11月上旬特別号 No.1205」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「8年前に出した時は、打ち込みを多用して音楽を作っていた時期だった。その時に、あえて「今自分ひとりで何ができるか」と立ち返ったのがピアノだったんです。つまり、いちばんピュアな音楽をやろうと思って作ったのが『Piano Stories』だった。そしてもう1度今、自分にとっていちばん原点になるべきものはなんだろうと考えたら、「ピアノとストリングスをメインにしたアルバム」だろう、ということになった。この1~2年ずっと考えていたことです。タイトルを『Piano Stories II』にしたのは、これが精神的に前作とつながるからです。」

「たとえば、クロノス・カルテットでジミ・ヘンドリックスの「パープル・ヘイズ」をやってますよね。僕もいろいろとリズムを作ってレコーディングをするからよくわかるんだけど、(リズムを)キープする楽器がない時って、実はすごく大変なわけ。でも、ドラムを入れてしまえばリズムがまとまるというものでもなくて、(そのドラムに)寄りかかってしまうわけだから、逆にそこからは細かいニュアンスって出てこない。弦楽カルテットとか今回のような編成の時は、そうとうしっかりしないとリズム・キープもまともにできない。だからみんな避けてしまうけど、あえて大変なところに今回は挑みました。ポップスの人がよく思い浮かべる弦楽カルテットは、ビートルズの「Yesterday」のバックとか(笑)そういう清らかなイメージかもしれない。でも、実は「Kids Return」のようにゴリゴリしていてすごく大変なリズムもある。中途半端にリズムが入っているものよりずっとワイルドな感じが出るんです。そういう方向でやってみたんですよ。」

「「Les Aventuriers」ですね。先日のリサイタルではやりませんでしたが、11月の赤坂Blitzではやりますよ。そうとう(演奏が)厳しいから(笑)。ソロ・アルバムの弦の音はずっとロンドンで録ってきていたので、日本で作ったのは本当に久しぶりなんです。それで、ちょっと”浦島太郎状態”になっちゃった曲です(笑)。つまり言い方はへんなんだけど、日本の(弦の)人たちはうまいけど、リズムが違うんですよ。僕が弦に託しているのは、打楽器扱いの弦みたいなリズミックな部分が大きいんです。そういうニュアンスが当たり前と思っていたんですが、それなりの訓練をしないと無理なわけで…。そのあたり、思いのままにはできなかったのでちょっと残念でしたけどね。」

「「Rain Gaeden」ですね。クラシックですよね。意外なんだけど、フランス印象派みたいなピアノ、ドビュッシーとかラベルとか、あのへんのラインを今まであまり自分の作品に取り入れていなかったんです。好きなんだけど、なぜかなかった。ただこのところ個人的に、練習のためにラベルとかクラシックをよく弾いているんです。ラベルのソナチネなんか弾いていると、自分がすごく好きだということがよくわかる。その中で出てきたアイディアで、たまたまこういう曲ができたんです。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年12月号 No.143」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

The Wind of Lifeは、「JOE HISAISHI PIANO STORIES 2000 Pf solo & Quintet」コンサートなどにおいて、原曲とは少し異なるアレンジ(和音)にて演奏されている。

 

 

 

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

1. Friends (トヨタクラウンマジェスタCMより)
2. Sunday (NHK「日曜美術館」テーマ曲)
3. Asian Dream Song (TOTATAカローラCMより / 1998年長野パラリンピックテーマ曲)
4. Angel Springs (サントリーウイスキー 山崎CMより)
5. Kids Return (映画「キッズ・リターン」より)
6. Rain Garden
7. Highlander
8. White Night
9. Les Aventuriers
10. The Wind of Life

Musicians
Pan Strings
Yuichiro Goto String Quartet
Daisuke Mogi(Oboe)
Takashi Asahi(Flute)
Masayoshi FUrukawa(Guitar)
etc.

Recorded at:
Wonder Station
Victor Studio
Sound City

 

Disc. 久石譲 『Kids Return』

久石譲 『Kids Return』

1996年6月26日 CD発売 POCH-1576
2005年10月5日 CD発売 UPCY-9003
2021年11月27日 LP発売 PROS-7035

 

1996年公開 映画「Kids Return」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:安藤政信 金子賢 他

 

 

[あらすじ]

懐かしい顔をシンジ(安藤政信)は見つけた。高校時代の同級生マサル(金子賢)。あの頃ふたりが熱中していたのは自転車の曲乗りだ。シンジがハンドルに後ろ向きに乗ってペダルを漕ぎ、マサルが荷台に跨って舵を取る。コツは息をぴったり合わせること。そうやって校庭に描いた軌跡のように、ふたりの道のりはいつまでも途切れず続くと思っていた。

マサルはやりたいと思えばすぐに行動し、ダメと分かればすぐあきらめて次のことをやる。自分がやりたいことだけをやってシンジとつるんで楽しく生きている。なじみのサテンで一服し、看板娘のサチコ(大家由祐子)に色目をつかうヒロシ(柏谷享助)を茶化し、気分が乗れば学校へ向かう。ホーキで作った”先公人形”を屋上から吊るし、キザな若手教師の自慢の新車を焼け焦げにしたり…そんなふたりは、担任(森本レオ)の目には”落ちこぼれ”としか映らない。

大学入試が近づき、授業もテクニック重視の実戦型に変わって、気ままなふたりの生活にも変化が訪れた。カツアゲた高校生の、助っ人ボクサーに叩きのめされたマサルはボクシングに励み、シンジも誘われるままジムに入門した。そんなある夜、いい気分で入ったラーメン屋でヤクザ(寺島進)に絡まれ、あわやのところを貫禄でさばいた若頭(石橋凌)にマサルは尊敬の眼差しを浮かべる。

数か月後、シンジは前座戦でデビューを飾り、やがて挑戦者の資格を得た。トレーナーがセンスを見抜き、コーチが口説いて、会長(山谷初男)以下ジムをあげてシンジをチャンピオン候補に育て上げてきたのだ。しかしジムにはマサルの姿はない。いつも後ろにつき従っていたシンジに、遊び半分のスパーリングで鮮やかなカウンターを食らって以来、マサルは姿を消したのだ……。

 

 

 

〈episode 3〉
特にこの作品のエンディングは、かなり印象的なシーンに仕上がりましたね。主人公の2人が「もう俺たち終ったのかな」「まだ始まってもいねぇよ」と言った瞬間にドーンとテーマ音楽とエンド・ロールが入ってくる。普通ロール・チャンスというと、映画の本編が終わり、ポツポツと立ち上がるお客さんに向けた”どうぞお帰り下さい”の合図みたいになりがちですが、でも「まだ始まってもいねぇよ」の台詞のあとにきわめて激しく飛び込んでくるこの作品の音楽は、ロール・チャンスをも作品の一部として取り込んでしまうほどの迫力があるし、それがあるから直前のシーンもより生きてくるという相乗効果をもたらしていると思うんです。メインテーマのキャッチーさでいえば、「菊次郎~」とともに、メロディメイカーとしての久石さんの力量を再認識させられます。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1995年10月27日 調布にっかつ撮影所にて前半部のラッシュを見る。その後打ち合わせ。
1996年2月16日 にっかつ撮影所にてオールラッシュ。監督を交え最終打ち合わせ。
1996年2月29日 代々木にあるワンダーステーション2st.にて音楽制作開始。
1996年3月13日 音楽制作日程終了。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

「音楽的にいうと、僕は10代・20代の子が主人公だから、音楽は元気なものでやる必要性を感じていたんで、相当リズミックにしましたね。底辺のベースにあるのはユーロビート、もっというとディスコビートみたいなもの、その上に来るのが印象に非常に残るのに、歌おうと思うと歌えないくらい、拒否しているメロディなんですよ。北野さんもあのメロディをすごく気に入ってくれて、「いや~、メロディ残るなあ。いいよこれは」っておっしゃって、すごくうれしかったですね。特にラストシーンがね、「まだ始まっちゃいねえよ」って言った瞬間に、ピストルの音をサンプリングしたんですけど、ドヒューンといって、エンドロールになりますよね。もう「この効果狙ったね」って言われるくらいハマっちゃったんでね。あそこは北野さんも喜んじゃって「あのエンドロールのために映画があったなあ」なんてね。

あれはね、不思議な話、北野さんの事故後の復帰の映画であると同時に、僕にとっても復帰作だったんですよ、こんなこと話すのは初めてなんだけど。映画音楽から離れて、自分のソロアルバムをつくったり、他人のプロデュースをしたりしていて、1年半か2年のブランクがあった。そこへちょうど偶然にも、日本を代表する二人の監督に同時に頼まれたんで、「これはもう復帰しなきゃな」と。先にできたのが『キッズ・リターン』で、その次に『もののけ姫』の準備にかかった。そういう意味で『キッズ・リターン』は相当大事にしてつくった作品です。」

Blog. 「キネマ旬報増刊 1998年2月3日号 No.1247」北野武映画 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「あれは本当に、最後の最後に録った。ピアノは、実際に弾いて入れた音はすごく少ないんですよ。でも、それが印象に残るぐらい、生の存在感ってあるんですよね。それはプレイヤーの質もあるけどね。でも、結果的にピアノが目立ってくれて、僕自身は本当にほっとしているし、嬉しく思いますね(笑)。」

「”ミニマル”っぽいやつね。あれは、すごく苦労しました。ヤマハのVP-1とVL-1に、いくつか音色をブレンドして、あの空気感が出るまでやってみたんです。だから、あれを聴いた人はなかなか打ち込みとは思わないと思う。」

Blog. 「KB SPECiAL キーボード・スペシャル 1996年8月号 No.139」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

 

 

久石譲 『Kids Return』

1. MEET AGAIN
2. GRADUATION
3. ANGEL DOLL
4. ALONE
5. AS A RIVAL
6. PROMISE…FOR US
7. NEXT ROUND
8. DESTINY
9. I DON’T CARE
10. HIGH SPIRITS
11. DEFEAT
12. BREAK DOWN
13. NO WAY OUT
14. THE DAY AFTER
15. KIDS RETURN

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi

プロデュース・作曲・編曲・演奏:久石譲

ゲスト・ミュージシャン
角田順(ギター)
梯郁夫(パーカッション)

レコーディング・スタジオ:ワンダーステーション
レコーディング・エンジニア:浜田純伸(ワンダーステーション)
アシスタント・エンジニア:石原裕也(ワンダーステーション)
シンセサイザー・オペレーター:山田友規(ワンダーステーション)

 

Disc. 久石譲 『Sonatine ソナチネ』

久石譲 『Sonatine ソナチネ』

1993年6月9日 CD発売 TOCT-8066

 

1993年公開 映画「Sonatine」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:ビートたけし

 

灼熱の太陽の下にひそむ無邪気さと凶気を
シンプルkつ美しく奏でた久石譲のエキセントリック・ワールド。

 

 

〈episode 2〉
これは久石さんと武さんの間で”ミニマル”というテーマ性で見事なコンセンサスがとれた作品じゃないでしょうか。「あの夏~」ってミニマル的要素はありながらも、決してミニマルな作品じゃありませんでしたけど、この「ソナチネ」は徹底的に”ミニマル”ですよね。

そういう意味では久石さんにとって本領発揮の場だったと思いますし、2人が真剣に勝負をし合った作品という印象が強いですね。武さんは音楽の専門家ではありませんから”ミニマル”という言葉をどこまで把握していたかはわかりませんが、基本的にシンプルなものの繰り返しという手法は、彼自身すごく好きですからね。例えば「あの夏~」の、主人公たちが歩いた同じ道を、次は違う登場人物が同じように歩いていくシーンとか。繰り返しながら、ちょっとずつ変化させる手法。そこに関しては、久石さんの得意とするミニマル・ミュージックがピッタリ合ったという印象でした。お互いが、本質的に好きな世界なんだと思います。

ただ、武さん自身も言っているように、この作品は、平均点でいえばたいした点ではないというか、国立大学は無理だねというような(笑)点だけど、勝負に出ている場面がある。本人曰く、目茶苦茶凄いシーンと、ありゃりゃ?というシーンが混在している。ゴルフに例えるなら、OBもあるんだけど、バーディどころかイーグルも幾つかある感じ。ホールによっては大勝負をかけたりもしている、ある意味とても実験的な試みをしている作品ですから、それに対して久石さんも自身の本領をミニマルでしっかりぶつけてきましたし、その結果としてあの独特の世界観が醸し出されたんだと思います。サンプリングも駆使されてますし、北野作品の中ではいちばん実験的な音楽といってもいいでしょうね。映画の中身以外の部分ではかなりの火花を散らしている作品といいますか…。そこが、多くの人に名作と言わしめたゆえんでしょうし、イギリスのBBC放送による「映画・世界の100本」に選出された要因なんじゃないでしょうか。ただ、世界中(公開された国の中)で日本人がいちばん見ていない作品で、興行的にはやや不幸な作品ではありましたが…(笑)。

 

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1992年6月1日
北野監督の次回作の音楽の依頼がある。出演者等詳細は未定。11月辺りの音楽制作の予定。
1992年7月31日
北野監督とロケ前に顔合わせ。音楽の方向性の打ち合わせをする。今回は石垣島がテーマになる模様。
1992年9月17-19日
久石氏石垣島のロケに同行。
1992年10月26日
当初11月頭から音楽制作に入る予定であったが、編集作業の進行の影響で中旬に変更となる。
1992年11月13日
ワンダーステーションにて音楽作業開始。
1992年11月19日
18時半に北野監督来訪、テーマ曲を決定。
1992年11月20-24日
ワンダーステーションにてダビング作業。
1992年11月25日
Dolby 4chのT/D。この日北野監督が再編集に入り、M14のシーンが全カットになり、M15に変更が入ったとの知らせあり。21時に監督がワンダーシティに確認のため来訪。
1992年11月26日
映画音楽作業終了。
1993年3月21-22日
ロンドンにあるTHE TOWN HOUSEにてCD用のMIXを行う。
1993年3月23日
Abby Road Studioにてマスタリング。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

 

「それは鋭いですね。あの頃ちょうど僕はロンドンに住みだしたばかりで、こっち(日本)に帰ってきて録った最初の仕事なんですね。しかも、あれは石垣島のロケにも付き合ったし。石垣島の持っているなにか異様な雰囲気にひかれて……その空気感を出したいとすごく思って。そういう気持ちとロンドンでの新生活によるテンションの高さが一緒に吐き出された感じで、つくっている最中も、不思議な熱気がありましたね。

映画とか音楽ですごく大事なのは空気感だと思うんです。あの時の石垣島の空気感というのがばっちり自分の中で理解できていたんで、それをどう出すかという、それに見合う音楽をすごく考えました。単に沖縄とか石垣の雰囲気を出すために、沖縄音楽を普通に取り込むのではなく、その音楽をこっち側までひっぱりこんでつくれたから、すごくうまくいきましたね。あと、石垣島に行ったとき、貝をずいぶん拾ってきたんで、貝をぶつける音をパーカッション代わりに使いましたね。別に石垣島の貝じゃなくてもよかったんだけど、気持ちの問題で(笑)。ただ、問題なのが、あの『ソナチネ』が自分の中でうまくいきすぎたために、それ以降北野映画をやるたびに、みんな頭の中で『ソナチネ』になっちゃうんです(笑)。今回の『HANA-BI』をやる時も「ああいうのが合うのかな?」って相当悩んだんです(笑)。」

Blog. 「キネマ旬報増刊 1998年2月3日号 No.1247」北野武映画 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「北野作品はどれも好きだけど、手掛けた音楽で一番好きなのは『Sonatine』。この作品から確信犯としてミニマル・ミュージックを前面に押し出した。僕自身、当時ロンドンに住み始めたこともあってハイテンションだったので、実験的要素も結構盛り込んでいる。録音したドラムのフレーズを逆回転させて、楽曲の後ろ全体にうっすらと敷いてみたり。映像としてもあの微熱に犯されながら進行していくようなクールさが好きだな」

Blog. 「SWITCH スイッチ JULY 2001 Vol.19 No.16」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石譲 『Sonatine ソナチネ』

1. Sonatine I 〜act of violence〜
2. Light and darkness
3. Play on the sands
4. Rain after that
5. A on the fullmoon of mystery
6. Into a trance
7. Sonatine II 〜in the beginning〜
8. Magic mushroom
9. Eye witness
10. Runaway trip
11. Möbius band
12. Die out of memories
13. See you…
14. Sonatine III 〜be over〜

All Composed & Arranged by Joe Hisaishi

Produced by Joe Hisaishi

Recorded at Wonder Station
Mixed at THE TOWN HOUSE
Mastered at Abbey Road Studios

Musicians
Piano & All Another Keybords:Joe Hisaishi
Bass:Chiharu Mikuzuki
Percussion:Ikuo Kakehashi
Fairlight Programming:Joe Hisaishi

 

Disc. 久石譲 『あの夏、いちばん静かな海 』

久石譲 『あの夏、いちばん静かな海。』

1991年10月9日 CD発売 TOCP-6907
2001年6月28日 CD発売 WRCT-1002

 

1991年公開 映画「あの夏、いちばん静かな海。」
監督:北野武 音楽:久石譲 出演:真木蔵人 他

 

 

映画「あの夏、いちばん静かな海」 プロデューサー 森昌行

「物事の決め事を、一度ははずして考える」-これは、映画に限らずタレント・ビートたけし、そして北野武の活動において、一環した姿勢の一つです。従って、「映画に音楽はつきもの」という常識は北野作品には通用せず、それが全く音楽のない前作「3-4X10月」を生み出しました。このことは逆に言えば、映像と音楽の関係について、その必然性においても、クオリティーにおいても、音楽のもつ力を大変重要視しているということです。

今回の作品については、その企画の段階から、音楽をつけることを前提としてスタートしました。というのは、セリフのない主人公にニュアンスをつけていくのは、数々の具体的なエピソードを映像でつみ重ねていくのではなく、音楽によって表現しようという意図を、明確に演出的な手法として導入したかったからです。ただ、実際、どんな音楽かということについては、漠然としたイメージはあったものの、正直言って久石さんに作っていただくまで、確信を持てずにいました。そういう意味では、今回の作品は久石さんの音楽に随分と助けていただいたと思います。あらためて、その才能に感謝したいと思います。

北野映画の中における音楽の位置づけというのは、今後作ってゆく作品にあっても、常に大きなテーマでありつづけると思います。それは、久石さんにとっても、同じだと思いますが、それにつけても今回の出逢いは素晴らしかったと思います。

(CDライナーノーツ より)

 

 

〈episode 1〉
この作品に関しては、監督自身も認めているように、もともと主人公の2人(生まれながらの聴覚障害者)に台詞がないところへもってきて、後半は台詞も何もなく、この作品そのものをふり返るように、主人公たちの思い出が日記帳のごとく滔々と連ねられているわけですが、あそこはどう考えても音楽がないと成立しない部分といいますか、音楽にあれこれ語ってもらったカットなんですね。

つまり最初から音楽を入れ込むことを想定して意識的に撮ったシーンなんです。武さんが自らの映像にあれほど音楽を求めたことは珍しいんじゃないですかね。久石さんとのコラボレーションはこの作品が最初だったわけですけど、登場人物の台詞が極端に少ないぶん、音楽がもたらす効用への期待感は、ほかのどの作品よりも高かったと思いますし、それだけに久石さんは苦労されたんじゃないでしょうか。結果的に、言葉(台詞)以上に主人公の感情や作品自体の情感を雄弁に物語るかのような音楽をつけていただいて、作品のクォリティや価値を随分高めていただいたような気がします。

〈サウンドトラック制作進行ノート〉
1991年7月 ワンダーステーション六本木にてレコーディング。

(「joe hisaishi meets kitano films」CDライナーノーツより)

 

 

「あのときは、ニューヨークでレコーディングをしていたときにプロデューサーから電話がかかってきて。「ビートたけしさんの映画をお願いしたいんですが」って言われて、「あ、なにかの間違いです」って思わず言っちゃったという(笑)。基本的には好きな監督だったんですよ。ただ、『その男、凶暴につき』とか『3-4×10月』をみると、僕のところに話が来ると思わなかったんですね。でも帰国してから、『あの夏、いちばん静かな海。』のラッシュをみたら、「これなら分かる」と。もっときちんとみていたら見落とさずに済んだんだけど、北野さんの作品というのはすごくピュアなんですよ。表面的には暴力があったりとかいろいろあるんだけれども、その奥の精神とか出てくる人間たちって、中途半端な屈折をしていないんですね。だからその一点で考えると、自分の音楽がなぜ必要とされるかというのがよく分かったんです。

ただ、やっぱり最初はね、台詞が極端に少ないし、劇的な要素もないし、どうしようかなと思ったんです。そしたら、北野さんが、「通常、音楽が入る場面から全部、音楽を抜きましょうか」というので、「そうですね。面白いですね」って僕も答えちゃって(笑)。それで通常音楽が入るところを極力音楽を抜いたんですよ。それがすごくうまくいったと思うんですよね。あとね、「朗々とした大きな感じじゃなくて、シンプルな、寄せてはかえすようなメロディ」と言われていて、僕としては「それはミニマルの精神と同じだから」と理解しましたね。」

Blog. 「キネマ旬報増刊 1998年2月3日号 No.1247」北野武映画 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

この映画の音楽制作にあたっては、当時コンサートツアーとスケジュールが重なっていた久石譲は一旦断ったという経緯がある。その時北野武監督はコンサートツアーが終わるまで一ヶ月間待つという決断をした。一般的にはあり得ない画期的なことで、音楽家のスケジュールのために映画スタッフをその間拘束することになり膨大な出費にもつながる。そこまでしての強いオファーだったことがうかがえるエピソードである。

当初想定していたメインテーマはサティ風のものだったが、「サイレントラブ」を聴いた北野武監督はこの曲をメインテーマにすえることを強く希望。結果こちらが採用され、サティ風の楽曲は映画のサブテーマにまわることになった。北野武監督は前作『その男、凶暴につき』でサティの楽曲を使用していて、そういう背景と監督の判断によるところも大きかったようだ。

 

 

久石譲 『あの夏、いちばん静かな海。』

1. Silent Love (Main Theme)
2. Clifside Waltz I
3. Island Song
4. Silent Love (In Search Of Something)
5. Bus Stop
6. While At Work
7. Clifside Waltz II
8. Solitude
9. Melody Of Love
10. Silent Love (Forever)
11. Alone
12. Next Is My Turn
13. Wave Cruising
14. Clifside Waltz III

All Composed by Joe Hisaishi
Produced by Joe Hisaishi
Arranged by Joe Hisaishi

Recorded at Wonder Station

Musicians:
Piano / Joe Hisaishi
Guitar / Hiroki Miyano
Bass / Makoto Saito
Violin / Masatsugu Shinozaki
Cello / Masami Horisawa
Vocal / Junko Hirotani
Fairlight Programming / Joe Hisaishi

 

 

なお発売後の経過により一度廃盤となった本作品は、2001年にワンダーランド・レコードより復刻・再販させることとなった。ジャケットが一新され、リマスター音源として復刻されている。収録内容はオリジナル盤と同一である。

 

2001年6月28日 CD発売 WRCT-1002

あの夏、いちばん静かな海 リマスター