2025年11月19日 CD発売 OVCL-00896
久石譲主宰 Wonder Land Records×クラシックのEXTONレーベル
夢のコラボレーション第7弾!未来へ発信するシリーズ!
久石譲が”明日のために届けたい”音楽をナビゲートするコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」より、アルバム第7弾が登場。
今回は「ミュージック・フューチャー・バンド」のメンバーが、様々な組み合わせで展開するプログラムで、ストリングカルテット、木管、金管、室内オーケストラと形を変え、カラフルな音色を奏でていきます。レコーディングは「EXTON」レーベルが担当し、音楽性高い臨場感のあふれるサウンドを作り出しています。「明日のための音楽」がここにあります。
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(CD帯より)
『久石譲 presents ミュージック・フューチャー VII』について
サウンド&ヴィジュアル・ライター
前島 秀国
久石譲が2014年に開始したコンサートシリーズ「MUSIC FUTURE」は、今年2025年10月で第12回目の開催を迎えようとしている。最初の「MUSIC FUTURE VOL.1」の開催が、つい先日のことのように思い出されるが、もちろん当時は10年後のことなど想像もつかなかった。だが、日本で初めてミニマル・ミュージックの魅力と意義を前面に押し出したコンサートを開催する喜びとプライドと高揚感は、10年前から現在に至るまでいささかも変わっていないように思う。
「MUSIC FUTURE」は、いわゆる”ゲンダイオンガク”を紹介するプロジェクトとは完全に一線を画している。聴衆のことなどほとんど考慮せず、己の作曲テクニックの誇示と、譜面上の美しさだけを追求するような”ゲンダイオンガク”は、1970年代に作曲を学んでいた若き日の久石に大きな疑問符を投げかけ、それが彼をミニマル・ミュージックの作曲に向かわせたのだが、彼がミニマルの魅力に開眼した半世紀前も、「MUSIC FUTURE」を開始した10年前も、そしていま筆者が拙稿を書いている2025年も、ミニマルは日本のクラシック音楽家で市民権を得ているとは言えない。一例を挙げれば、これまで外国人演奏団体の来日公演でしか演奏されなかったスティーヴ・ライヒの《18人の音楽家のための音楽》は、2025年10月開催予定の「MUSIC FUTURE VOL.12」で初めて日本人中心の演奏が実現するのだが、海外ではすでに多くの音楽大学のアンサンブルがこの楽曲を演奏している(つまり”教材”になっている!)のが現実である。そう考えると、「MUSIC FUTURE」が10年後の未来にも開催されるとして(もちろん筆者はそうなると固く信じているが)、ミニマル・ミュージックとその作曲家を紹介していくこのコンサートシリーズは──日本の常設演奏団体が何の偏見もなくミニマルに取り組むような未来が実現しない限り──今後もユニークかつ重要な役割を担い続けていくのではあるまいか。
話がFutureに飛びすぎた。2024年7月に開催された「MUSIC FUTURE VOL.11」の演奏曲を収めた本盤『久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vll』の意義を明らかにするためにも、これまでの「MUSIC FUTURE」の軌跡を簡単に振り返っておこう。
筆者が記憶している限りでは、久石は「MUSIC FUTURE」の開始に際して次の3つの指針を打ち出していた。①”未来に伝えたい古典”というべき、評価の定まった重要な作品を紹介すること。②久石より下の世代に属する注目の作曲家を紹介すること。③作曲家・久石の作品を初演または演奏すること。まず①に関しては、久石自身が強く影響を受けたアメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家(テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスとやや年下のジョン・アダムズ)は言うに及ばず、ヨーローッパのホーリー・ミニマリズムの作曲家(アルヴォ・ペルト、ヘンリク・グレツキなど)の音楽がこれに該当するが、その代表的な例として、フィリップ・グラスの《String Quartet No.5》が本盤に収録されている。②に関しては、ニューヨークの現代音楽プロジェクト「Bang on a Can」を共同創設したデイヴィッド・ラング、イギリスでクラシックとエレクトロニカを融合したジャンル「ポスト・クラシカル」を提唱したマックス・リヒター、そして彼らよりも下の世代に属するニコ・ミューリーやブライス・デスナーといった作曲家の作品が紹介されてきた。本盤ではラングの《Breathless》とリヒター/久石の《On the Nature of Daylight》が演奏されている。
10年以上前に「MUSIC FUTURE」が始まった当時、①や②の作曲家たちは久石と直接の面識を持っているわけではなかった。ところが「MUSIC FUTURE」が回を重ねていくにつれ、久石はライリーやグラスと親交を温めるようになり、リヒター、ラング、ミューリーらがいずれも久石の音楽の熱烈なファンだということが明らかになった。これが「MUSIC FUTURE」最大の”嬉しい誤算”であり、このコンサートシリーズを継続していくうえでの大きな力を与えたという点は、もっと広く知られて然るべきだろう(彼らの協力も得て、2018年と2022年にはニューヨーク公演も実現している)。「MUSIC FUTURE」は、もはや単なる日本国内のコンサートシリーズというより、ミニマリスト、ポスト・ミニマリスト、ポスト・クラシカルの作曲家たちがコラボレートする世界的なプロジェクトに成長したのではないか、というのが筆者の考えである。
そして、③についても急いで触れておかなければならない。現時点で、久石の作曲活動における「MUSIC FUTURE」の最大の意義は、彼がこのコンサートシリーズにおいて初演したいくつもの作品によって、「シングル・トラック・ミュージック」と名付けられたミニマルの方法論を発展・確立した点にあると思う。2015年開催の「MUSIC FUTURE VOL.2」で初演された《Single Track Music 1 for 4 Saxophones & Percussion》で初めて試みられたこの方法論は、本盤収録の《The Chamber Symphony No.3(室内交響曲第3番)》や『君たちはどう生きるか』(2023)などの映画音楽でも重要な役割を果たしている。
鉄道の単線(シングル・トラック)に由来する「シングル・トラック・ミュージック」は、ある単旋律(フレーズ)がユニゾンで何度も演奏されていくうち、単旋律の中のいくつかの音が高く/低く再配置されることで、別のフレーズが浮かび上がったり、それらが重なることで偶発的なハーモニーが生まれたりするという、シンプルだが多くの可能性を秘めた方法で作られている。《室内交響曲第3番》を例に挙げれば、第1楽章「Symphonia」の冒頭でピアノ、クラリネット、弦が提示する威勢のよい単旋律が何度も繰り返され、オーケストレーションを変えていきながら、多種多様な音風景を生み出していくが、最初に提示された単旋律はリスナーの耳にはっきり残っているので、音楽の変容のありさまを即座に理解できる。単旋律の音が再配置されることで生まれる別のフレーズは、ちょうど単線鉄道の車窓から外を眺めていると、ビルの窓ガラスや川のっ水面に自分の姿の反射が映ってハッとするような、意外な面白さを秘めている。第2楽章「Invention for two voices」の、どことなく乾いたユーモアを備えたピアノの主題についても同じことが言えるが、第1楽章が都会を走る”快速”ならば、第2楽章は郊外の田舎風景を走る”各駅停車”か。そして”暴走特急”に変わった第3楽章「Toccata」は、その名の通り”脱線”や”正面衝突”の危険も顧みずに各奏者が驚くべき名人芸を披露していく。
こうした面白さを実現するためには、基本となる単旋律が思わず口ずさみたくなるような親しみやすさを持ちながら、同時に高度な可塑性に耐えうる可能性を潜在的に備えていなければならない。つまり、久石のようにキャッチーなメロディを書ける作曲家でなければ「シングル・トラック・ミュージック」の方法論は成立しないのだ、ということをここでぜひとも強調しておきたい。
これまで「MUSIC FUTURE」が育んできた作曲家同士の友愛とリスペクト、そして久石ならではのミニマルな方法論を収めたアルバムが、すなわち本盤なのである。
(まえじま・ひでにく)
(CDライナーノーツより)
曲目解説
久石譲:The Chamber Symphony No.3 [世界初演]
原曲のPiano Sonataは2020年にピアニストの滑川真希さん、Philharmonie de Paris、Art Electronica Festivalからの共同委嘱で作曲を開始したが、Covid-19によりコンサートが2022年に延期されたため楽曲の仕上げも2022年の春となった。
当初、Sonatineと題して3楽章の楽曲として完成したが、作曲が遅かったせいで初演は第3楽章のToccataのみとなった。誠に反省しているのだが、その時の真希さんのパフォーマンスはパリの観客を完全に魅了した。
そして今年MUSIC FUTURE用に書き直せないか?と思いつき、その年の1月より編曲を試みたが、実際原曲自体も修正して全く別の作品に仕上がった。そこでタイトルもThe Chamber Symphony No.3(室内交響曲第3番)とした。
4月には完成したが、元々ピアノのソロという制約もあったので同時に多くの要素を入れることはできなかった。そのため2声部を基本に作曲したので(のちに3声部に変えたため作曲が大幅に遅れた)、それを活かせる方法として僕のSingle Track Musicという単旋律を基本としたオーケストレーションを導入した。その説明は省くが、その方法によりピアニスティックなパッセージとうまくマッチして立体的な楽曲に仕上がった。
全3楽章、約22分の作品となった。
久石譲
(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.11 コンサート・パンフレット」/ 「MUSIC FUTURE VII」CDライナーノーツより)
*曲目解説は、2024年7月25-26日 MUSIC FUTURE Vol.11 プログラムノートより転載
(CDライナーノーツより)
他作品の楽曲解説は前島秀国氏によるものが掲載されている。
ミュージック・フューチャー・バンド
Music Future Band
2014年、久石譲のかけ声によりスタートしたコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」から誕生した室内オーケストラ。現代的なサウンドと高い技術を要するプログラミングにあわせ、日本を代表する精鋭メンバーで構成される。
”現代に書かれた優れた音楽を紹介する”という野心的なコンセプトのものと、久石譲 (1950-) の世界初演作のみならず、ミニマル・クラシックやポストクラシカルといった最先端の作品や、日本では演奏機会の少ない作曲家による作品を取り上げるなど、他に類を見ないプログラムを披露している。これまでに、シェーンベルク (1874-1951)、ヘンリク・グレツキ (1933-2010)、テリー・ライリー (1935-)、アルヴォ・ペルト (1935-)、スティーヴ・ライヒ (1936-)、フィリップ・グラス (1937-)、ジョン・アダムズ (1947-)、レポ・スメラ (1950-2000)、デヴィット・ラング (1957-)、マックス・リヒター (1966-)、ガブリエル・プロコフィエフ (1975-)、ブライス・デスナー (1976-)、ニコ・ミューリー (1981-)などの作品を取り上げ、日本初演作も多数含む。
”新しい音楽”を常に体験させてくれる先鋭的な室内オーケストラである。
(CDライナーノーツより)
The Chamber Symphony No.3
I. Symphonia
II. Invention for two voices
III. Toccata
Piano Sonata
I. Heavy Metal
II. Blues Invention
III. Toccata
Piano Sonataの姉妹作品にあたるThe Chamber Symphony No.3は、久石譲が提唱するSingle Track Music(単旋律)の手法が使われています。その説明は「ここ数年僕は単旋律の音楽を追求しています。一つのモチーフの変化だけで楽曲を構成する方法なので、様々な楽器が演奏していたとしても、どのパートであっても同時に鳴る音は全て同じ音です(オクターヴの違いはありますが)」(久石譲)とあるとおりです。
The Chamber Symphony No.3の第2楽章は「II. Invention for two voices」です。つまりタイトルそのまま2声のインヴェンションで作られている。そこに単旋律の手法が加わることで、ある音だけ同時に複数の楽器で鳴っていたり、ドとかレとか同じ音だけどオクターヴ高いまたは低い音でこれもまた必ず同時に鳴っていたり。
Piano SonataもThe Chamber Symphony No.3も第2楽章は2声で書かれていると思います。単旋律の手法を取り入れることで複数のモチーフ(声部)があるような錯覚効果もありながら、実は上のように同じ音が重なっていてモチーフ自体は2声になることをタイトル「II. Invention for two voices」が示しています。また楽器の出し入れで楽想がカラフルになることもあってPiano Sonataの「II. Blues Invention」からくるブルースの雰囲気はなくなっていると感じました。いろいろな意図やコンセプトでタイトルが変わっているのかもしれません。
(Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.12」コンサート・レポート より抜粋)
久石譲の室内交響曲第1番は「Chamber symphony for Electric Violin and Chamber Orchestra」(2015/『久石譲 presents MUSIC FUTURE 2015』収録)、室内交響曲第2番は「”The Black Fireworks” for Bandoneon and Chamber Orchestra」(2017/『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』収録)である。

久石譲
Joe Hisaishi (1950-)
The Chamber Symphony No.3 [世界初演]
1. I Symphonia
2. II Invention for two voices
3. III Toccata
フィリップ・グラス
Philip Glass (1937-)
String Quartet No.5
4. I
5. II
6. III
7. IV
8. V
Vn1 郷古 廉、 Vn2 小林 壱成、
Va 中村 洋乃理、 Vc 中 実穂
マックス・リヒター/久石譲
Max Richter (1966-) / Joe Hisaishi (1950-)
9. On the Nature of Daylight
Hr1 福川 伸陽、 Hr2 信末 碩才、
Tp 辻本 憲一、 Tb 青木 昂、B.Tb 野々下 興一、
Cl マルコス・ペレス・ミランダ、 Fg 向後 崇雄
デヴィッド・ラング
David Lang (1957-)
10. Breathless
Fl 柳原 佑介、 Ob 坪池 泉美、
Cl マルコス・ペレス・ミランダ、
Fg 向後 崇雄、 Hr 信末 碩才
久石譲(指揮)1-3
Joe Hisaishi (Conductor)
ミュージック・フューチャー・バンド 1-3
Music Future Band
2024年7月25−26日 東京、紀尾井ホールにてライヴ収録
Live Recording at Kioi Hall, Tokyo, 25-26 July 2024
JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VII
Conducted by Joe Hisaishi
Performed by Music Future Band
Live Recording at Kioi Hall, Tokyo, 25-26 July 2024
Produced by Joe Hisaishi
Recording & Balance Engineer: Tomoyoshi Ezaki
Assistant Engineers: Takeshi Muramatsu, Masashi Minakawa
Mixed and Mastered at EXTON Studio, Tokyo
Production Management: Wonder City Inc.
Music Sheet Preparation: Saori Minomo
A&R: Moe Sengoku
Cover Design: Miwa Hirose
Executive Producers: Ayame Fujisawa (Wonder City Inc.), Tomoyoshi Ezaki
Special thanks to MUSIC FUTURE Vol.11, Kenichi Yoda (ntv)
WELLFLOAT products were used in this mastering process.
Joe Hisaishi by the courtesy of Deutsche Grammophon GmbH

















