Disc. 久石譲 『人生のメリーゴーランド (ジブリパーク ver.)』 *Unreleased

2024年3月16日 オープン

2022年11月1日開設ジブリパーク、その新エリアがオープン。『魔女の谷』エリアの遊具「メリーゴーランド」で流れる音楽を久石譲が担当している。映画『ハウルの動く城』より「人生のメリーゴーランド」、当施設のための新しい編曲になっている。

 

 

メリーゴーランド

「年に一度、村にやってくる移動遊園地」をイメージした乗り物遊具です。『魔女の宅急便』や『ハウルの動く城』、『もののけ姫』といった作品に登場する乗り物や動物・キャラクターをモチーフに装飾しています。屋根には『ハウルの動く城』のハウルとソフィーの装飾があり、乗車中は特別にアレンジされた同作品の背景音楽「人生のメリーゴーランド」が流れます。

(ジブリパーク公式サイトより)

 

 

約2分半。原曲にもあったアコーディオンやマンドリンを前面に押し出し、手回しオルガンのような音色も追加されている。フル・オーケストラだったオリジナル版から、先の楽器にベースなども加えたアンサンブル編成になっている。小気味よく散りばめられたパーカッション群もチャーミングに効いている。

原曲にはなかった曲想に、イントロとアウトロに回転性を連想させるミニマルなパートを新たに施している。ワクワクちょっとこわい魔法の世界、そんな気持ちのアップダウンまで現わしているようだ。何回聴いても飽きのこない絶妙なアレンジに磨きあげられている。遊具「メリーゴーランド」にふさわしいメルヘンチックとマジカルさで、新たな装いに胸躍るニュー・バージョンとなっている。

未音源化作品。

 

*当ページで「人生のメリーゴーランド (ジブリパーク ver.)」と表記している曲タイトルは任意で仮のもの

 

 

(ジブリパーク公式サイトより)

 

Disc. 久石譲 『君たちはどう生きるか サウンドトラック』

2023年8月9日 CD発売 TKCA-75200
2023年8月16日 配信開始

 

宮﨑駿監督10年ぶりとなる、長編映画最新作 「君たちはどう生きるか」のサウンドトラック。
宮﨑監督のオリジナルストーリー作品。

2023年7月14日(金)全国劇場公開
スタジオジブリ最新作
「君たちはどう生きるか」
原作・脚本・監督:宮﨑駿
配給:東宝
製作:スタジオジブリ
音楽:久石譲

主題歌含む37曲収録

(メーカー・インフォメーションより)

 

 

久石さんからの誕生日プレゼント

年の初めに、いつのまにか恒例になった行事がある。毎年1月5日になると、久石譲さんが宮﨑駿のアトリエに顔を出す。その日、出来上がったばかりの曲を携えて。

1月5日は宮﨑駿の誕生日。その曲は、宮さんへの誕生日プレゼントだ。なにしろ、新曲だ。何時ごろ完成するのか、分からない。早いときもあれば、そうじゃない時もある。調子のいい悪いもあるだろう。

お迎えは、ずっとぼくと宮さんのふたり。そして、新しい曲をふたりで聴く。

この時、ぼくはいつも緊張が走る。いい曲であって欲しいと。祈りに近い。宮さんは大概、目を閉じている。宮さんの前でいつも笑顔を絶やさない久石さんも、その表情が変わる。

聞き終わる。宮さんが相好を崩す。久石さんとぼくは安堵する。こうして、ぼくらの新しい年が始まる。

プレゼントの曲は、ぼくの記憶だと、そのほとんどがミニマルミュージック。久石さんの得意とする音楽だ。久石譲さんといえばオーケストラと思う人が多いと思うが、それは映画音楽をやる時の久石さんの顔だ。本当は音楽大学で電子音楽を基調とするミニマルミュージックを専攻した人。つまり、現代音楽の勉強をした人だ。

これまでも、映画の時は、メロディを中心としたオーケストラで映画音楽を作って来た。しかし、大事な場面ではミニマルを挿入する。それが久石さんの大きな特徴だった。

「となりのトトロ」のサツキがトトロと出会う、雨のバス停のシーン。あのミニマルの曲はいまだに傑作だ。あのシーンはあの曲によって補完され、子どもたちはむろんのこと、大人たちもトトロの実在を信じることが出来たとぼくは思っている。

「君たちはどう生きるか」。この作品で久石さんは、大きな勝負に出た。ミニマルだけで、映画音楽を成立させることが出来るのか? ミニマルにはメロディらしいメロディは無い。聴く人によって、表情が変わるのがミニマルの大きな特徴だ。楽しい悲しいをフィルムに固定することも出来ない。

ぼくはドキドキしながら、映画の完成を待った。試写を見終わったぼくは、久石さんが、その勝負に、賭けに勝ったのだと思った。

使われた曲の多くは、誕生日プレゼントの曲だった。

「君たちはどう生きるか」プロデューサー
鈴木敏夫

(CDライナーノーツより)

 

 

久石さん やりましたね!
全部ミニマルで通すなんて.
ありがとう

みやざき

(CDライナーノーツより 直筆メッセージ)

 

 

 

2024.08 update

映画『君たちはどう生きるか』サウンドトラック楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)方法論
(3)方法論 継
(4)Ask me why
(5)白壁・聖域・祈りのうた
(6)青サギ・黄昏の羽根 ほか
(7)ワラワラ・炎の少女 ほか
(8)追憶・陽動 ほか
(9)眞人とヒミ・大伯父 ほか
(10)ネクストアップ

 

 

 

 

 

 

 

1. Ask me why(疎開)
2. 白壁
3. 青サギ
4. 追憶
5. 青サギⅡ
6. 黄昏の羽根
7. 思春期
8. 青サギⅢ
9. 静寂
10. 青サギの呪い
11. 矢羽根
12. Ask me why(母の思い)
13. ワナ
14. 聖域
15. 墓の主
16. 箱船
17. ワラワラ
18. 転生
19. 火の雨
20. 呪われた海
21. 別れ
22. 回顧
23. 急接近
24. 陽動
25. 炎の少女
26. 眞人とヒミ
27. 回廊の扉
28. 巣穴
29. 祈りのうた(産屋)
30. 大伯父
31. 隠密
32. 大王の行進
33. 大伯父の思い
34. Ask me why(眞人の決意)
35. 大崩壊
36. 最後のほほえみ
37. 地球儀 / 米津玄師

 

作曲・編曲・プロデュース:久石譲

指揮・ピアノ:久石譲
演奏:Future Orchestra Classics
ゲストコンサートマスター:郷古簾
コーラス:麻衣&リトルキャロル

マニピュレーター:前田泰弘
レコーディング&ミキシングエンジニア:秋田裕之
アシスタントエンジニア:安中龍磨(Bunkamuraスタジオ)、萩原雪乃(ビクタースタジオ)
マスタリングエンジニア:藤野成喜(ユニバーサルミュージック)

音楽制作マネージメント:川本伸治、佐藤蓉子、宮國力
楽譜制作:蓑毛沙織、蓮沼淳史
マネージメントオフィス:ワンダーシティ

スタジオ:Bunkamuraスタジオ、ビクタースタジオ

音楽製作:スタジオジブリ
製作プロデューサー:鈴木敏夫

 

主題歌
地球儀 米津玄師

作詞・作曲・プロデュース:米津玄師
編曲:米津玄師、坂東祐大

レコーディング ミックス:小森雅仁
マスタリング:ランディ・メリル/スターリングサウンド

ボーカル:米津玄師
ドラム:石若駿
ピアノ,シンセベース:坂東祐大
バグパイプ:十亀正司
制作:リイシューレコーズ

 

and more…

 

 

『The Boy and the Heron (Original Soundtrack)』
Joe Hisaishi

01 Ask Me Why (Evacuation)
02 White Wall
03 Gray Heron
04 Memories
05 Gray Heron II
06 A Feather in the Dusk
07 Adolescence
08 Gray Heron III
09 Silence
10 The Curse of the Gray Heron
11 Feather Fletching
12 Ask Me Why (Mother’s Message)
13 A Trap
14 Sanctuary
15 The Master of the Tomb
16 Ark
17 Warawara
18 Reincarnation
19 Rain of Fire
20 Cursed Sea
21 Farewell
22 Reminiscence
23 Close Encounter
24 Diversion
25 A Girl of Fire
26 Mahito and Himi
27 The Corridor Door
28 A Burrow
29 A Song of Prayer (The Delivery Room)
30 Granduncle
31 In Secret
32 The King’s Parade
33 Granduncle’s Desire
34 Ask Me Why (Mahito’s Commitment)
35 The Great Collapse
36 The Last Smile
37 Spinning Globe / Kenshi Yonezu

 

Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

2022年7月20日 CD発売 UMCK-1715

 

久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
交響組曲「もののけ姫」

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Joe Hisaishi & New Japan Philharmonic World Dream Orchestra

交響組曲もののけ姫
20年以上の時を経て蘇る

(CD帯より)

 

 

解説

久石譲が音楽監督を務める新日本フィルハーモニー交響楽団ワールド・ドリーム・オーケストラ(以下、W.D.O.)は、2004年の結成以来、これまで数多くの名演を繰り広げてきた。そのどれもが忘れがたく、観客に熱い感動を与えてきたが、こと2021年の活動に限って言えば、「不条理との戦い」の一言に尽きるかと思う。オーケストラが置かれた社会的な状況という意味においても、また、公演で披露した演奏曲という意味においても。

結成10周年を迎えた2014年以降、W.D.O.は毎年夏にコンサート・ツアーを開催してきたが、2020年は(当初予定されていた)東京オリンピックのために演奏会場の確保が困難になると予想され、かなり早い段階でツアー開催の見送りが決まっていた。結果的に、2020年は新型コロナウィルスのパンデミックが猛威を振るっていた1年だったので、たとえ会場が見つかったとしても開催は不可能だった。問題は翌年の2021年である。

日本国内の感染状況とワクチン接種状況にあまり詳しくない海外のリスナーのために少し説明しておくと、2021年2月の段階でワクチン接種(1回め)は医療従事者などごく一部に限られ、一般人の接種時期はそれから数カ月後になりそうな状況であった。クラシックの演奏会に関して言えば、すでに2020年半ばから開催可能となっていたが、観客数を大幅に減らしたり、あるいはオーケストラの演奏曲目も2管編成を越えない程度の規模に限定したりするなど、さまざまな制約を余儀なくされる状態が1年近く続いていた。しかも、感染拡大状況に応じて日本政府から緊急事態宣言が発令された場合、その時点で予定されていた該当地域の演奏会はほぼすべて中止になる。そんなリスクを抱えながらも、演奏活動の火を絶やさないため、関係者が日夜努力を惜しまぬ状況が続いた。

こうした中、2021年1月から東京都を含む地域で約2ヶ月半継続していた緊急事態宣言が同年3月に解除されたことを受け、久石とW.D.O.は2年ぶりとなるツアー開催を決断し、4月21日から京都、神戸、東京の3都市でコンサートを開催することになった。ところがツアー開始後、大都市圏における変異株急増が深刻化し(日本国内でのいわるゆ第4波)、4月25日から緊急事態宣言(日本国内では3回目)が発令されることになった。W.D.O.が予定していた3回の東京公演のうち、辛うじて4月24日の公演は開催に漕ぎ着けることが出来たが、25日と27日の公演は会場そのものが臨時休館という形で閉鎖されたため、有観客演奏はもちろんのこと、無観客演奏による収録・配信も不可能になった。W.D.O.始まって以来のツアー中断という異例の事態。久石も、オーケストラの団員も、公演を支える関係者も、そして言うまでもなく観客も、誰もが不条理を感じていたに違いない。とりわけ、不条理を描いた『もののけ姫』の音楽を含むプログラムを用意していた今回のツアーにおいては。

タタリ神との闘いによって死の呪いを受けることになったアシタカは、不条理な運命を背負うことになった存在である。山犬に育てられ、もののけ姫として生きることを余儀なくされたサンも、やはり不条理な存在である。パンデミックの不条理とは若干異なるかもしれないが、不可抗力の事態によって生き方を変えることを余儀なくされたという意味においては、少なくとも2021年当初の我々がごく自然に共感できたキャラクターである。戦いに明け暮れる『もののけ姫』の中世であれ、パンデミックに苦しむ2021年であれ、人間が置かれている状況は、実はそれほど違っていない。だからといって、不条理な運命を悲しんでいるだけでは何も変わらない。いや、変わらないどころか、消滅してしまうだろう。だから、不条理と向き合い、戦わなければならない。『もののけ姫』の有名なキャッチコピー「生きろ。」も、おそらくそういう意味ではないかと思う。

久石が『もののけ姫』の作曲(より正確にはイメージアルバムの制作)に着手してから、すでに四半世紀以上の時間が経過しているが、今回のツアーで初めて披露された《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》に到るまで、久石がしばしば『もののけ姫』の交響組曲に取り組んでいるのは、『もののけ姫』という映画とその音楽が、「不条理と戦いながら生きる」という人間の本質をきわめて直截に表現しているからではないだろうか? わかりやすく言うと、我々が不条理な世の中に生きている以上、『もののけ姫』を繰り返し演奏していかなければならない。単に宮﨑駿監督の映画のために書かれた音楽という次元を越え、我々自身のことを描いている音楽だからである。そうした意味において、《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》は四半世紀以上にわたって取り組んできた久石のライフワークの、現時点における到達点と言えるだろう。

『もののけ姫』の最後に演奏される〈アシタカとサン〉の晴れやかな音楽のように第4波の猛威がようやく落ち着き、2021年6月下旬に緊急事態宣言が解除されたことを受け、開催中止を余儀なくされたW.D.O.の4月25日と27日の振替公演が7月25日と26日にようやく実現した。本盤に聴かれる《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》《Asian Works 2021》《World Dreams 2021》は、その時の演奏を収録したものである。

言わずもがなだが、本盤は久石とW.D.O.が向き合わざるえを得なくなった、パンデミックの不条理の単なる記録ではない。2022年、別の不条理が世界を覆っている現在にこそ聴かれるべきアルバムだ。不条理と戦いながら、夢を追って生きていく人間たちへの讃歌ーーW.D.O.というプロジェクトに込めた久石の意図が、これほどまでにリアルに感じられる時代はないからである。

 

 

楽曲解説

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、エボシ御前が率いる村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。さらにアシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンの存在を知る。サンと心を通わせるうち、アシタカは人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める……。宮﨑駿監督が構想16年、製作日数3年を費やした『もののけ姫』(1997)は、作曲家としての久石にとっても大きなターニングポイントとなった最重要作のひとつである。映画公開の約2年前から作曲に着手した久石は、宮﨑監督の世界観を余すところなく表現すべく、大編成のシンフォニー・オーケストラ、シンセサイザー、邦楽器や南米の民俗楽器など、ありとあらゆる手段を投入してサウンドトラックを完成させ、当時の日本映画の制作現場では珍しかった5.1チャンネルの音楽ミックスにも初めて挑んだ。映画さながらの総力戦である。このような成り立ちゆえ、サウンドトラックはそのままの状態では演奏不可能なので、久石は常設の交響楽団で演奏可能な全8楽章の交響組曲を新たに作り上げ、1998年7月、すなわち『もののけ姫』公開1周年を記念する形でアルバム『交響組曲 もののけ姫』(1998年版)を発表した。それから18年後、宮﨑監督作品の音楽を交響組曲化していくプロジェクトの第2弾といて、1998年版の組曲を大幅にブラッシュアップしたヴァージョン(2016年版)が2016年W.D.O.公演で初披露された。1998年版と2016年版の大きな違いは、1998年版に含まれていなかった〈コダマ達〉が追加され、さらにオーケストラの響きを出来るだけサウンドトラックの印象に近づけるべく、オーケストレーションそのものが大幅に見直された点などを挙げることが出来る。この2016年版をさらに改訂したものが、本盤に聴かれるヴァージョン(2021年版)である。2016年版に含まれていなかった映画終盤のクライマックスの音楽、すなわち「世界の崩壊」を表現した楽曲群を追加することで、宮﨑監督がこの映画に込めた「破壊と再生」というテーマが音楽だけではっきり伝わるようにしたこと、歌詞を聴き取りやすくするために主題歌〈もののけ姫〉のキーを下げたこと、さらに久石が海外で指揮しているコンサート「Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」のためのオーケストレーションが採り入れられたことなどが、今回の改訂の大きなポイントとなっている。以下に、組曲を構成する各楽曲を解説する。

まず「むかし、この国は深い森におおわれ、そこには太古からの神々がすんでいた。」というタイトルと共に始まるオープニングの音楽〈アシタカ𦻙記(せっき)〉。あたかも古代の詩人が雄大な叙事詩を語り始めるような荘重な面持ちで奏でられるこのテーマは、映画本編の中で主人公アシタカを象徴するテーマとして何度も登場することになる。

続いてタタリ神とアシタカが死闘を繰り広げるシーンで流れる〈タタリ神〉。無調音楽のように敢えてメロディアスな要素を排除することで、タタリ神の持つ凶暴性を見事に表現したテーマだが、日本の伝統文化になじみの薄い海外のリスナーが聴くと、日本古来の祭の音楽、すなわり”祭囃子”にインスパイアされたダイナミックなオーケストレーションに驚かれるかもしれない。この”祭囃子”は、タタリ神がかけられた呪い(その呪いは実は人間に対する憎しみに由来する)が何らかの形で鎮めなければならない超自然的存在、すなわち厄災をもたらす神であるということを暗示している。

次の〈旅立ち~西へ〉は、タタリ神を倒した代償として死の呪いを受けたアシタカが、大カモシカのヤックルに跨り、呪いを解くために西の地に向かうシーンの音楽。ここでメインテーマ〈もののけ姫〉のメロディーが初めて登場し、アシタカが出遭うことになるサンすなわちもののけ姫の存在をほのめかす。

続いて、負傷した村人を背負って森の中を進むアシタカが森の精霊コダマと遭遇するシーンで流れる〈コダマ達〉。コダマは英語に直訳すると「木の精霊」となるが、久石は木質の打楽器や弦楽器のピツィカートを巧みに用いて”木の響き”を強調しながら、森の雰囲気を見事に表現している。

本編の物語の流れと前後するが、次の〈呪われた力〉は、アシタカの放った矢が略奪を繰り返す地侍に惨たらしい死をもたらすシーンの音楽。タタリ神の呪いは、人間に死をもたらすだけでなく、人間に超人的な能力を与えてしまう。そうしたメタフォリカルな設定を表現した音楽として、短いながらも強烈なインパクトをリスナーにあたえる楽曲である。

続く〈シシ神の森〉は、傷ついた人間に癒やしをもたらすシシ神のテーマを、ほぼフル・ヴァージョンで演奏した楽曲。ストラヴィンスキー風のオーケストレーションが、シシ神の森を覆うアニミズム的な世界観を暗示している。

そして〈もののけ姫〉は、サンの介抱によって体力を回復したアシタカが人間と森の共生をめぐり、犬神のモロの君と諍うシーンで流れる主題歌。映画全体のメインテーマであり、もののけ姫のテーマでもあるが、サウンドトラックのヴォーカル・レコーディングに立ち会った宮﨑監督はこの主題歌を「アシタカのサンへの気持ちを歌っている」楽曲と位置づけている。

次の〈黄泉の世界〉から物語終盤の音楽となり、エボシ御前によって首を討ち取られたシシ神が液状化し、巨大なディダラボッチに変容する凄まじい光景が描かれる。途中、〈もののけ姫〉のテーマの断片と〈アシタカ𦻙記〉のテーマの断片が「森は死んだ…」「まだ終わらない」というサンとアシタカのやりとりを表現する。再び、シシ神すなわちディダラボッチの凶暴な音楽に戻った後、アシタカとサンがシシ神に首を返すシーンの〈生と死のアダージョ〉となり、凄まじいクライマックスを迎える。

朝日が差すように音楽が一転すると、シシ神の消えた森に緑がよみがえり、アシタカとサンが互いの世界で生きていくことを誓い合うラストの音楽〈アシタカとサン〉となる。宮﨑監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現出来た」と言わしめた名曲である。今回の組曲では、ヴァイオリンとピアノの二重奏の形でメロディが導入された後、麻衣が作詞した歌詞をソプラノ(本盤での歌唱は安井陽子)が歌う編曲となっている。

 

Merry-Go-Round 2019

荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮﨑駿監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》。本盤に聴かれる演奏は、2019年のW.D.O.公演で披露されたヴァージョンで、今回が初リリースとなる。楽曲の構成自体は本編のエンドクレジットで演奏されるメインテーマのフル・ヴァージョンとほぼ同じだが、序奏を演奏するハープやテーマ旋律を導入するチェレスタ、その旋律を優雅なワルツとして演奏するアコーディオンとマンドリンなど、新たなオーケストレーションを施すことによって、映画の世界観が見事に凝縮されたヴァージョンとなっている。

 

Asian Works 2020

パンデミックの真っ只中にあった2020年、久石が手掛けた商業音楽(エンタテインメント音楽)を3つの楽章から構成される組曲としてまとめたもの。アジア地域からの委嘱という共通点を除けば、3曲のあいだに直接的な関連はないが、こうして3曲続けて聴いてみると、ミニマリストとしての久石、メロディメイカーとしての久石、エンタテインメント音楽の第一人者としての久石と、彼の3つの側面が図らずもくっきり浮かび上がってくるのが、大変に興味深いところである。

 

I. Will be the wind

LEXUS CHINAの委嘱で作曲。2020年9月、中国市場向けのプロモーション映像のための音楽として初めて公開された。作曲にあたって久石が重視したという「疾走感」がミニマリズムの反復音形と鮮やかな転調の繰り返しによって表現されているが、同時にレクサスという車種にふさわしい重量感が巧みなオーケストレーションから伝わってくる。演奏時間がわずか4分ながら、きわめてコンセプチュアルに書かれた楽曲と言えるだろう。

II. Yinglian

2020年12月にワールドプレミアを迎えた中国・香港合作のファンタジー映画『Soul Snatcher』(原題は『赤狐書生』、日本では『レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説』の邦題で2021年10月劇場公開)の愛のテーマが原曲。かつて久石がスコアを作曲した『海洋天堂』(2010)も手掛けた香港の名プロデューサー、ビル・コン(江志強)が製作を務めており、彼の強い希望で久石との10年ぶりの再タッグが実現したという。人間の姿をした狐妖・十三(リー・シエン)が伝説の狐仙となるべく旅立ち、狐仙への変容の鍵を握る書生・子進(チェン・リーノン)と友情を育みながら、妖怪や悪霊に立ち向かうというのが、物語の大筋である。曲名の《Yinglian》は、ふたりが旅の途中で立ち寄る妓楼の遊女・英蓮(ハニ・ケジー)に由来する。どこか哀愁を帯びたクラリネットの優しいメロディが、英蓮の妖艶な美しさと哀しい運命を見事に描いている。

III. Xpark

2020年8月、台湾・高鉄桃園駅前にグランドオープンした新都市型水族館『Xpark』のために久石が書き下ろした全7曲の館内音楽から、水族館の「観客の皆さんが楽しい気分で帰って欲しい」と意図して作曲したEXIT用の楽曲。最初にフルートが導入する、足取りが軽くなるような親しみやすいテーマを変奏していく形で構成されているが、途中には台湾を意識したペンタトニック風の変奏も登場する。

 

World Dreams 2021

2004年、久石が新日本フィルと共にW.D.O.を立ち上げた際に書き下ろしたテーマ曲。「作曲している時、僕の頭を過っていた映像は9.11のビルに突っ込む飛行機、アフガン、イラクの逃げまどう一般の人々や子供たちだった。『何で……』そんな思いの中、静かで優しく語りかけ、しかもマイナーではなくある種、国歌のような格調あるメロディーが頭を過った」。作曲から18年を経た2022年の今、この曲が以前にも増して力強いメッセージを伝えているように感じられるのは、おそらく筆者ひとりだけではないはずである。

 

前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2022/6/10

(CDライナーノーツより)

 

*ライナーノーツ 日・英文解説(英文ライナーノーツ封入)

 

 

補足)
上の楽曲解説は4月公演とそのプログラムノートに基づいており、7月公演を収めた本盤のライヴパフォーマンスとは一部異なる箇所もある。納得のいくまで作品の完成度を追求する一面がみえる。

 

 

 

以下の楽曲レビューは「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポートで記したものから一部抜粋している。

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

<構成楽曲>
1.アシタカせっ記(交響組曲 第一章 アシタカせっ記)
2.タタリ神
3.旅立ち -西へ-
7.コダマ達
4.呪われた力
8.神の森(交響組曲 第五章 シシ神の森)
20.もののけ姫 ヴォーカル(交響組曲 第四章 もののけ姫)
28.黄泉の世界
29.黄泉の世界 II
30.死と生のアダージョ II
31.アシタカとサン(交響組曲 第八章 アシタカとサン)

Track.曲名『もののけ姫 サウンドトラック』(『交響組曲もののけ姫CD版』)

 

交響組曲作品『千と千尋の神隠し』や『魔女の宅急便』のあり方にならって、映画本編で使用した音楽を中心に、サウンドトラック盤ベースに楽曲構成するというコンセプトに大きく軌道修正したように思います。一方では、楽曲によって『交響組曲もののけ姫CD版』のオーケストレーションを活かしているところもあります。

『交響組曲もののけ姫CD版』にしかなかった独自のメロディやパートは極力除外したということになります。「神の森」は「交響組曲 第五章 シシ神の森」の楽曲構成に近いですが、イメージアルバム「シシ神の森」の楽曲構成と世界観から取り込んでいるとするのが、正しいに近いと思います。風の谷のナウシカの交響組曲もイメージアルバムから「谷への道」を導入したように。初期の構想からすでに生まれていたけれど映画本編には使われなかった曲。

「呪われた力」、2016年版「レクイエム」パート中にもありましたが、前半に単曲で新規追加されました。細かくいうとアレンジは交響組曲CD中のもの、およびサントラ盤「23.呪われた力 II」に近いです。物語にそった組曲を目指したこと、呪われた力の凶暴性を出すことで、のちのシシ神の森のシーンや終盤の黄泉の世界までしっかりとつながっていきます。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、久石譲楽曲解説に ”新たに世界の崩壊のクライマックスを入れた” とあたります。シシ神殺しのパートをダイレクトに入れ込むことで、破壊と再生、生と死、『もののけ姫』作品世界の内在する二極を表現しています。そして前半の「呪われた力」にあった、決して消えることのない痣、いつ濃くなり蝕むかわからない痣を思い起こさせます。それは、決して簡単に答えの出ない世界で生きていく私たちへと、しっかりと刻み込まれる思いがします。

「黄泉の世界I,II~生と死のアダージョII」、たしかにと納得してしまいます。これぞ入って『もののけ姫』の世界と強く膝を打ちたくなります。そうして、それでもしっかりと生きていかなければいけない私たちへと迫り浴びせられる地割れのする管弦楽の轟きの後、希望と再生へとつながっていきます。

「アシタカとサン」(vn/vo)、やっぱり導入は僕がエスコートしないと(幻の声)、1コーラス目は久石譲ピアノが迎え入れたソロ・ヴァイオリンが美しいメロディを奏でます。2コーラス目にソプラノによって丁寧に歌われることもあって、豊嶋泰嗣さんのフェイク(メロディラインの持つ雰囲気は残しつつも、ある程度装飾的な要素を加えつつ崩して演奏すること)が光っています。

「アシタカとサン」(vn/vo)、2コーラス目はソプラノによって歌われます。「信じて~」からの天からやさしく降りそそぐ光ようなストリングス(武道館verから)、チューブラーベルの希望の鐘が高らかに、やさしい余韻へと。(vo)についてはのちほど…。

 

2021年版を聴いて「歌は必要なんだ!」と強く思いました。『もののけ姫』という作品において、歌(言葉)による精神性の表現というのは大切なことなのかもしれません。世界ツアー版で「もののけ姫」はソプラノによる日本語歌唱、「アシタカとサン」はコーラスによる英語詞で歌われています。でも、だから2021年版もやっぱり歌で、と言っているわけじゃないんです。

それは、「日本語による歌唱」です。ここに強くこだわっているように思えてきました。世界ツアー版とは異なり、これから先《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》が海外公演されるときは、現地オーケストラと現地ソリストによる共演になります。そして、きっと2曲とも「日本語による歌唱」です。これはたぶん揺るがない。

《Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021》でめざしたのは、『もののけ姫』の世界を音楽で表現すること、日本的なメロディ・ハーモニー・リズムを余すことなく表現すること、そのなかに日本語の美しさを表現することも含まれる。そう強く思いました。オペラなどと同じように、純正の日本語でしっかりとした作品をのこす。「日本語っていいね、きれいな響きだね」と言われるものをつくる。

物語にそった音楽構成と日本語の美しさで『交響組曲 もののけ姫』完全版ここに極まる。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Merry-Go-Round 2019

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」アンコールで披露されたもの。

映画『ハウルの動く城』から「人生のメリーゴーランド」です。2018年NCO公演で初演されたヴァージョンで、それ以降海外公演でも披露されています。オリジナル版は言えばすぐ浮かぶ、ピアノの切ないイントロに始まり、ピアノの美しいメロディがつづきます。タイトル「Merry-Go-Round」となっているこのヴァージョンは、ピアノがありません。イントロをハープで、出だしのメロディをグロッケンシュピールとチェレスタで、というようにピアノパートがオーケストラ楽器に置き替わっています。楽曲構成は同じですが印象は変わります。よりヨーロッパになったかなあ、というか、これなら久石譲以外のコンサートでもっと爆発的に演奏されるんじゃないかな、そんな新しい魅力も。アメリカやヨーロッパをはじめ海外指揮者・海外オケによる純粋な管弦楽作品として披露できる。

おっと、これは言っておかないといけない。本公演は「交響組曲 魔女の宅急便」でマンドリンとアコーディオンが編成されていたこともあって、この曲にも特別に参加しているスペシャルヴァージョンです。よりサントラ版に近い印象で、すごくよかったです。いや、すごく得した気分です。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

Asian Works 2020

I. Will be the wind
叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

 

II. Yinglian
愛のテーマ。主要キャラクターの一人、女性が登場するシーンで多く聴かれる楽曲。お香のような、ゆらゆらと、ふわっとした、無軌道な和音ですすむ。ゆるやかな独奏、メロディとアドリブのあいだのような、動きまわりすぎない加減の無軌道な旋律がのる。魅惑的で妖艶な曲想は、これまでの久石譲には珍しい。クラリネット、ピアノ、フリューゲルホルン、フルート、ストリングス。登場するたびにメロディを奏でる楽器たちを変え、まるで衣装替えに見惚れるように、つややかに彩る(Track.17,20,25,27)。この曲はTrack.17「英蓮 / Yinglian」をフィーチャーしたもの。

 

III. Xpark
明るく軽やかな曲です。音符の粒の細かいメロディがつながってラインになって、楽しそうに転げているようです。そして広がりのある曲です。ありそうでなかった!そんな久石譲曲です。番組音楽に使わせてください!そんな久石譲曲です。後半のソロ・ヴァイオリンの旋律も耳奪われる演出です。ホンキートンク・ピアノのように、ちょっとチューニングの狂った調子っぱずれのニュアンスで、小躍りするほど浮足立った弾みを表現しているようにも聴こえてきます。してやったりなコンマスと指揮者の目配せに笑みこぼれます。こんな音楽でおでかけの楽しい一日が締めくくれたらなんて素敵だろう。

映画『海獣の子供』公開時、コラボレーション企画として国内いくつかの水族館で、この映画音楽を使ったショータイムが開催されました。撮影OK!拡散Welcome!ということもあって、よくSNSで動画見かけました。それを目にしてのオファーだったのかはわかりません。でも、久石譲のミニマル・オーケストレーションは、ほんと海や宇宙のミクロマクロな世界観と抜群Good!なことはわかります。

 

World Dreams 2021

「9.11」から20年の今年。このことだけでも重みのある一曲です。そして「Covid-19」の渦中にある今。どんな時でも必ず演奏される曲。こんな一面も、4月24日無念さを残しながら、それでも今できることをかみしめるように演奏したWDOオーケストラメンバーのSNSの声も印象的でした。観客だけじゃなく、楽団員にとっても大きな一曲は、中断を経て新しい完走地点の7月25,26日いろいろな想い駆け巡りながら、会場に響きわたりました。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
1. The Legend Of Ashitaka アシタカ𦻙記
2. TA TA RI GAMI タタリ神
3. The Journey Of The West ~ Kodamas 旅立ち―西へ― ~ コダマ達
4. The Demon Power ~ The Forest Of The Dear God 呪われた力 ~ シシ神の森
5. Mononoke Hime もののけ姫
6. The World Of The Dead ~ Adagio Of Life & Death 黄泉の世界 ~ 生と死のアダージョ
7. Ashitaka And San アシタカとサン

8. Merry-Go-Round 2019

Asian Works 2020
9. Ⅰ Will be the wind
10. Ⅱ Yinglian
11. Ⅲ Xpark

12. World Dreams 2021

 

All Music Composed, Arranged and Produced by Joe Hisaishi

Conducted by Joe Hisaishi
Performed by New Japan Philharmonic World Dream Orchestra, Yasushi Toyoshima (solo concertmaster)

Recorded at
Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall (July 25th, 2021)
Sumida Triphony Hall (July 26th, 2021)

Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021
Soprano: Yoko Yasui

Merry-Go-Round 2019
Accordion: Tomomi Ota
Mandolin: Tadashi Aoyama

Recording & Mixing Engineer: Takeshi Muramatsu (Octavia Records Inc.)
Mixed at EXTON Studio Yokohama
Mastering Engineer: Shigeki Fujino (UNIVERSAL MUSIC STUDIOS TOKYO)

Art Direction & Design: Daisaku Takahama
Artwork Coordination: Maiko Mori (UNIVERSAL MUSIC)

and more…

 

Disc. 久石譲 『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(Domestic / International)

2021年8月20日 CD発売 UMCK-1683/4

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第二弾!
映画・CM音楽、そしてライフワークのミニマル・ミュージックから構成された久石譲の多彩な世界に触れる一枚。

(CD帯より)

 

 

日本の巨匠・久石譲が本格的に世界リリース!

Deccaリリース第2弾となるベスト作品。

海外での認知度も高い映画音楽を中心に、彼の音楽人生を代表する名曲ばかり。北野武映画曲 “Kids Return” “HANA-BI” の新規録音を含む、全28曲。2枚組みアルバム。

(メーカーインフォメーションより)

 

 

ミニマルミュージックから広告音楽まで、現代日本を代表する世界的作曲家、久石譲の多面的な才能と豊かな音楽性を凝縮した、DECCA GOLDからのベストアルバム第2弾。東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた「MKWAJU 1981-2009」は、久石の音楽の中核を成すミニマルミュイルージックのスタイルによる重要曲で、ここでは2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音されたバージョンで聴くことができる。また、映画音楽の巨匠としての魅力も満載で、宮崎駿、北野武、大林宣彦、山田洋次、澤井信一郎、滝田洋二郎といった名監督の作品に寄せた楽曲も多く収録されている。北野監督の映画のためのテーマ曲「Kids Return」と「HANA-BI」の新たに録音されたライブ音源も聴きどころだ。さらに、自ら奏でるソロピアノ曲やコマーシャルフィルムのための楽曲などもセレクトされており、Vol.1に当たる『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』と併せて入門編としても最適で、長年のファンも楽しめる充実のコンピレーションとなっている。

(iTunes レビューより)

 

 

 

The Essence of the Music of Joe Hisaishi

 『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』に続き、この『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol.2』を手にしておられるリスナーならば、おそらく久石譲というアーティストについて、すでにさまざまなイメージをお持ちではないかと思う。世界的な映画音楽作曲家、現代屈指のメロディメーカー、叙情的なピアノの詩人……などなど。それらの形容はすべて正しいが、これまで40年にわたり作曲家として活動してきた彼の足跡を、このアルバムに即して注意深くたどってみると、久石という人がつねにふたつの主軸に沿って音楽を生み出し続けてきたことがわかる。芸術音楽、すなわちミニマル・ミュージックの作曲と、久石がエンターテインメントと定義するところの商業音楽の作曲だ。どちらの作曲領域も、彼にとって欠くことが出来ない本質的な活動であるばかりか、ふたつの領域は時に重なり、影響し合うことで、彼独自のユニークな音楽を生み出してきた。本盤の収録楽曲は、これらミニマル・ミュージックとエンターテインメントというふたつの作曲領域が俯瞰できるように、バランスよく選曲されている。まさに、久石譲の音楽のエッセンス(the essence of the music of Joe Hisaishi)が収められていると言っても過言ではない。

 国立音楽大学で作曲を学んでいた久石は、アメリカン・ミニマル・ミュージック(作曲家にラ・モンテ・ヤング、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなど)やドイツのテクノバンド、クラフトワークの音楽に出会って衝撃を受け、理論偏重のアカデミックな現代音楽の作曲に見切りをつけると、自らもミニマル・ミュージックの作曲家を志すようになった。スワヒリ語でタマリンドの木を意味する《MKWAJU》(1981/2009)は、曲名が示唆するように東アフリカの伝統音楽にインスパイアされた、久石最初期のミニマル・ミュージックのひとつとみなすべき重要作(本盤には2009年にロンドン交響楽団の演奏で録音された管弦楽版が収録されている)。シンプルなリズムパターンを繰り返しながら、拍をずらしていくことによってパルス(=拍動、脈動)の存在を聴き手に強く意識させていく手法は、現在に至るまでの彼の音楽の原点となっていると言っても過言ではない。その4年後に作曲された《DA-MA-SHI-E》(1985/1996)の曲名は、オランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーの錯視画(だまし絵)に由来する。現実の世界に存在し得ない図形や模様があたかも存在しているように見る者を「だます」トリック的な効果を、久石はミニマル・ミュージックの作曲の方法論に応用し、同じフレーズや音型を繰り返すうちに音楽が新たな側面を見せていく面白さを生み出している。2007年作曲の《Links》はそうした方法論をさらに深化させ、ミニマル・ミュージック特有の力強い推進力は維持しながらも、変拍子のリズムの使用とシンフォニックな展開によって、シンプルにして複雑という二律背反を克服することに成功している。これら3曲に共通するのは、久石のミニマル・ミュージックが非常に知的かつ論理的な作曲に基づきながらも、つねにユーモアを忘れていないという点だ。決して、現代音楽の限られたリスナーに向けて書かれた、抽象的で深刻な音楽ではない。とてもヒューマンで、愉楽に満ちあふれた音楽なのである。しかしながら、久石はミニマル・ミュージック以外の現代音楽をすべて否定しているわけではなく、一例を挙げれば、新ウィーン楽派をはじめとする無調音楽を敬愛し、その影響も少なからず受けている。1999年に作曲された《D.e.a.d》(曲名が示す通り、D=レ、E=ミ、A=ラ、D=1オクターヴ高いレの4音をモティーフに用いている。弦楽合奏、打楽器、ハープ、ピアノのための4楽章からなる組曲「DEAD」として2000年に完成)は、そうした彼の側面が色濃く表れた作品のひとつである。

 次に、久石のもうひとつの重要なエッセンスである、エンターテインメントのための音楽について。

 久石の名を世界的に高めたきっかけのひとつが、宮崎駿監督のために作曲したフィルム・スコアであることは、改めて説明の必要もあるまい(そのテーマ曲のほとんどは『Dream Song: The Essential Joe Hisaishi』で聴くことが出来る)。その中から、本盤には『もののけ姫』(1997)のラストで流れる《Ashitaka and San》と、『紅の豚』(1992)のテーマ曲《il porco rosso》が収録されている。

 宮崎監督のための音楽と並んで世界的に有名なのは、北野武監督のために書いたフィルム・スコアであろう。ふたりがこれまでにタッグを組んだ計7本の長編映画は、初期北野作品の演出を特徴づけるミニマリズムと、久石自身の音楽のミニマリズムの美学が見事に合致した成功例として広く知られている。青春の躍動感と強靭な生命力を、ミニマル的なリズムに託した『キッズ・リターン』(1996)のメインテーマ《Kids Return》。言葉では表現できない夫婦愛を、表情豊かなストリングスで表現した『HANA-BI』(1998)のメインテーマ《HANA-BI》。シンプルで明快なピアノのテーマが、夏の日射しのように輝く『菊次郎の夏』(1999)のメインテーマ《Summer》。さらに久石は、単に映画の物語にふさわしいテーマ曲を作曲するだけでなく、映画音楽作曲の常識にとらわれないユニークな実験をも試みている。哀愁漂う《The Rain》が流れる『菊次郎の夏』のコミカルなシーンは、北野と久石が共に敬愛する黒澤明監督の『音と画の対位法』──コミカルなシーンに悲しい音楽を流したり、あるいはその逆となるような音楽の付け方をすることで、映像の奥に隠れた潜在的意味を強調する──を、彼らなりに応用した実験と言えるだろう。

 昨2020年に82歳で亡くなった大林宣彦監督のために久石が作曲したフィルム・スコアの数々は、宮崎作品や北野作品とは違った意味で、映画監督と作曲家が優れたコラボレーションを展開した例である。『ふたり』(1991)の物語の中で妹と死んだ姉が主題歌《草の想い》すなわち《TWO OF US》を口ずさむシーン、あるいは『はるか、ノスタルジィ』(1993)で過去の記憶を呼び覚ますように流れてくるメインテーマ《Tango X.T.C.》など、大林作品における久石の音楽は、物語の展開上、なくてはならない重要な仕掛けのひとつとなっている。また、『水の旅人 侍KIDS』(1993)の本編をたとえリスナーがご覧になっていなくても、主題歌《あなたになら…》すなわち《FOR YOU》の美しいメロディを聴けば、この作品が夢と希望にあふれたファンタジー映画だということがたちどころに伝わってくるであろう。

 これら宮崎、北野、大林監督のための音楽に加え、本盤には久石の映画音楽を語る上で欠かせない、3人の重要な日本人監督の映画のために書いたテーマ曲が収録されている。

 今年2021年に90歳を迎える日本映画界の巨匠・山田洋次監督と久石がタッグを組んだ第2作『小さいおうち』(2014)の《The Little House》は、主人公が生きる激動の昭和の時代への憧れを表現したノスタルジックなワルツ。久石に初めて長編実写映画の作曲を依頼し、これまでに計6本の作品で久石を起用している澤井信一郎監督の『時雨の記』(1998)の《la pioggia》は、定年を控える妻子持ちの重役と未亡人の純愛をマーラー風の後期ロマン派スタイルで表現したテーマ曲。そして、滝田洋二郎監督と久石が組んだ2本目の作品にして、アカデミー外国語映画賞を受賞した『おくりびと』(2008)の《Departures -memory-》は、物語の中で主人公がチェロを演奏する設定を踏まえ、久石が撮影前に書き下ろした美しいメインテーマである。

 前述の映画音楽に加え、本盤にはエンターテインメントの音楽として、コマーシャル・フィルムに使われた《Friends》(TOYOTA「クラウン マジェスタ」)と《Silence》(住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」)も収録されている(後者は久石のピアノ演奏映像がCMで使用された)。いっさいの予備知識がなく、これらの楽曲に耳を傾けてみれば、短いCMで流れた作品とはとても思えないだろう。もちろん、久石は商品コンセプトを充分踏まえた上で作曲しているのであるが、楽曲に聴かれる格調高いメロディは、紛れもなく彼自身の音楽そのものだ。つまり久石は、商業音楽だからと言って、決して安易な作曲姿勢に臨んでいない。ミニマル・ミュージックの作曲と同じく、真剣勝負で取り組んでいるのである。

 この他、本盤には久石がソロ・アルバム(主として『ピアノ・ストーリーズ』を銘打たれたソロ・アルバム・シリーズ)などで発表してきた、珠玉の小品の数々が含まれている。《Lost Sheep on the bed》《Rain Garden》、あるいは《Nocturne》などのように、彼が敬愛するサティやショパンのような大作曲家たちにオマージュを捧げた作品もあれば、久石流のクリスマス・ソングというべき《White Night》のような作品もあるし、《WAVE》(ジブリ美術館の館内音楽として発表された)や《VIEW OF SILENCE》のように、ミニマリストとメロディメーカーのふたつの側面を併せ持つ作品もあれば、《Silencio de Parc Güell》のように、音数を極力絞り込むことで”久石メロディ”を純化させた作品、あるいは《Les Aventuriers》のように、アクロバティックな5拍子でリスナーを興奮させる作品もある。これらの楽曲だけでなく、本盤一曲目の『キッズ・リターン』~《ANGEL DOLL》から、最終曲《World Dreams》(久石が音楽監督を務めるワールド・ドリーム・オーケストラW.D.O.のテーマ曲)まで、すべての収録曲について言えるのは、久石が人間という存在を信じ、肯定しながら、希望の歌を奏でているという点だ。つまるところ、それがミニマル・ミュージックとエンターテインメントの作曲における、久石の音楽の本質なのである。

 つい2ヶ月ほど前、幸いにも僕は、久石自身の指揮によるW.D.O.のコンサートで《Ashitaka and San》と《World Dreams》を聴くことが出来た。『もののけ姫』の物語さながらに世界が不条理な状況に陥り、破壊的な悲劇を体験したいま、ピアノが確固たる信念を奏でる《Ashitaka and San》を耳にした時、『もののけ姫』のラストシーンで「破壊の後の再生」を描いたこの楽曲が、実は我々自身が生きるいまの世界をも表現しているのだと気付かずにはいられなかった。人間は、夢を捨てず、希望を持って前に進まなければいけない。それこそが久石譲の音楽のエッセンス、すなわち「Songs of Hope」なのだと。

前島秀国 Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター
2021年6月

(CDライナーノーツより)

 

 

CDライナーノーツは英文で構成されている。日本国内盤には日本語ブックレット付き(同内容)封入されるかたちとなっている。おそらくはアジア・欧米諸国ふくめ、各国語対応ライナーノーツも同じかたちで封入されていると思われる。

 

ベストアルバム収録曲のオリジナル音源は下記にまとめている。ライナーノーツには、各楽曲の演奏者(編成)とリリース年はクレジットされているが収録アルバムは記載されていない。

また本盤は、いかなるリリース形態(CD・デジタル・ストリーミング)においても音質は向上している。もし、これまでにいくつかのオリジナル収録アルバムを愛聴していたファンであっても、本盤は一聴の価値はある。そして、これから新しく聴き継がれる愛聴盤になる。

 

 

 

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム第一弾!久石作品の中でも映画のために作られた珠玉のメロディが際立つ代表曲を中心に構成された愛蔵版。

 

 

 

 

 

 

オリジナルリリース

【Disc 1】
01. ANGEL DOLL
久石譲 『Kids Return』(1996)
02. la pioggia
03. il porco rosso
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Lost Sheep on the bed
久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』(2005)
05. FOR YOU
久石譲 『WORKS・I』(1997)
06. White Night
10. Rain Garden
久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』(1996)
07. DA-MA-SHI-E
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
08. Departures -memory-
久石譲 『おくりびと オリジナル・サウンドトラック』(2008)
09. TWO OF US
12. Summer
久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2000)
11. Friends
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
13. Les Aventuriers
久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』(2009)
14. Kids Return
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)

 

【Disc 2】
01.Links
05. MKWAJU 1981-2009
久石譲 『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)
02. VIEW OF SILENCE
久石譲 『PRETENDER』(1989)
03. Nocturne
久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』(1998)
04. Silence
久石譲 『ETUDE ~a Wish to the Moon~』(2003)
06. Ashitaka and San
09. Tango X.T.C.
久石譲 『WORKS II Orchestra Nights』(1999)
07. The Rain
久石譲 『菊次郎の夏 サウンドトラック』(1999)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
久石譲 『WORKS III』(2005)
10. The Little House
久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』(2014)
11. HANA-BI
※初収録  (Live recorded at Tokyo International Forum, August 16, 2017)
12. Silencio de Parc Güell
久石譲 『ENCORE』(2002)
13. WAVE
久石譲 『Minima_Rhythm II ミニマリズム 2』(2015)
14. World Dreams
久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『WORLD DREAMS』(2004)

 

 

 

 

【mládí】for Piano and Strings 【A】
Summer / HANA-BI / Kids Return
久石譲弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)コーナーです。Aプログラムでは北野武監督作品からおなじみのメインテーマをセレクトし久石譲ピアノと弦楽オーケストラによる演奏です。おなじみでありながらここ数年のコンサートでは聴く機会のなかった「HANA-BI」「Kids Return」というプログラムには多くのファンが歓喜したはずです。

「Summer」はピアノとヴァイオリン・ソロの掛け合いがみずみずしく爽やかで、弦楽もピチカートではじけています。きゅっと胸をしめつけられるような思い出の夏、日本の夏の代名詞といえる名曲です。この曲が生演奏で聴けただけで、今年の夏はいいことあった!と夏休みの絵日記に大きなはなまるひとつもらえた、観客へのインパクトと感動は超特大花火級です。

「HANA-BI」は一転して哀愁たっぷりでしっとりななかに内なるパッションを感じる演奏。特に後半はピアノで旋律を弾きながら、低音(左手)で重厚に力強くかけおりる箇所があるのですが、今回それを弦楽低音に委ねることでより一層の奥深さが際立っていたように思います。ピアノも同フレーズ弾いていましたけれど、従来のようなメロディを覆ってしまうほどの激しい低音パッションというよりも、ぐっとこらえたところにある大人の情熱・大人の覚悟のようなものを感じるヴァージョンでした。渋い、貫禄の極み、やられちゃいます。

「Kids Return」は疾走感で一気に駆け抜けます。弦のリズムの刻み方が変わってる、と気づきかっこいいと思っているあっという間に終わってしまいました。そして今回注目したのが中音楽器ヴィオラです。相当がんばってる!このヴァージョンの要だな、なんて思った次第です。ヴァイオリンが高音でリズムを刻んでいるときの重厚で力強い旋律、一転ヴァイオリンが歌っているときの躍動感ある動き、かなり前面に出ていたような印象をうけます。管弦楽版にひけをとらない弦楽版、フルオーケストラ版では主に金管楽器の担っている重厚で高揚感あるパートをストリングス版ではヴィオラが芯を支える柱として君臨していたような、そんな気がします。これはスカパー!放送でじっくり確認してみたいところです。

ピアノとストリングスで3曲コーナーか、なんて安直なこと思ったらいけません。こんなにも楽曲ごとに色彩豊かに表情豊かにそれぞれ異なる世界観を演出してくれる久石譲音楽。メロディは違っても楽器編成が同じだからみんな同じように聴こえる、そんなことの決してない三者三様の巧みな弦楽構成。清く爽やかで、憂い愛のかたち、ひたむき疾走感。それは誰もが歩んできた「mládí」(青春)のフラッシュバックであり、少年期・円熟期・青年期いつまでも青春そのもののようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

 

2021.10 追記

第2弾ベストアルバムでは、一口コメント大募集企画として、全28曲から好きな1曲1ツイート「この曲好き!」その魅力・思い出を140文字で。よせがきのように集まったらいいなとTwitterで募集しました。

 

 

 

 

【Disc1】
01. ANGEL DOLL  (映画『キッズ・リターン』より)
02. la pioggia  (映画『時雨の記』より)
03. il porco rosso  (映画『紅の豚』より)
04. Lost Sheep on the bed
05. FOR YOU  (映画『水の旅人 侍KIDS』より)
06. White Night
07. DA-MA-SHI-E
08. Departures -memory-  (映画『おくりびと』より)
09. TWO OF US  (映画『ふたり』より)
10. Rain Garden
11. Friends  (TOYOTA「クラウン マジェスタ」CMソング)
12. Summer  (映画『菊次郎の夏』より)
13. Les Aventuriers
14. Kids Return  (映画『キッズ・リターン』より)  ※初収録

【Disc2】
01. Links
02. VIEW OF SILENCE
03. Nocturne
04. Silence  (住友ゴム工業「デジタイヤ プレミアム VEURO」CMソング)
05. MKWAJU 1981-2009
06. Ashitaka and San  (映画『もののけ姫』より)
07. The Rain  (映画『菊次郎の夏』より)
08. DEAD for Strings, Perc., Harpe and Piano: 1. D.e.a.d
09. Tango X.T.C.  (映画『はるか、ノスタルジィ』より)
10. The Little House  (映画『小さいおうち』より)
11. HANA-BI  (映画『HANA-BI』より)  ※初収録
12. Silencio de Parc Güell
13. WAVE
14. World Dreams

 

All music composed by Joe Hisaishi

All music arranged by Joe Hisaishi
except
“For You” arranged by Nick lngman

All music produced by Joe Hisaishi
except
“la pioggia”,”il porco rosso”,”White Night”,”Rain Garden”,”Friends”,”Nocturne”,”Ashitaka and San”,”Tango X.T.C.” produced by Joe Hisaishi and Eiichiro Fujimoto
“Silence”,”Silencio de Parc Güell” produced by Joe Hisaishi and Masayoshi Okawa

Mastering Engineer: Christian Wright (Abbey Road Studios)

Mastered at Abbye Road Studios, UK

Art Direction & Design: Kristen Sorace

Photography: Omar Cruz

and more

 

Disc. 久石譲 『Prayers』 *Unreleased

2020年10月19日 動画公開

 

明治神宮鎮座百年祭 記念曲「Prayers」

明治神宮公式チャンネルにて公開

 

 

明治神宮鎮座百年祭にあたり、わが国を代表する音楽家 久石譲氏に記念の楽曲をつくっていただきました。まるで森の中へと入っていくような、静けさと奥行きのある荘厳な調べは、まさに明治時代、日本の精神をもって西洋文明を取り入れた和魂洋才を思い起こします。この曲にあわせて編集された映像と共にご視聴ください。

作曲・編曲 久石譲
演奏 東京交響楽団
録音会場 ミューザ川崎シンフォニーホール
録音・ミキシング 江崎友淑・村松健(オクタヴィア・レコード)
映像編集 佐渡岳利・ 井上寛亮(NHKエンタープライズ)
映像撮影 宝貝社、凸版印刷、乃村工藝社・惑星社、HEXaMedia
アートディレクター 原研哉
写真 関口尚志
制作 サンレディ、ワンダーシティ
制作統括 明治神宮

from 明治神宮 公式チャンネル Meiji Jingu Official Channel

 

 

公開動画について

 

 

明治神宮の会員および関係者へ、CD+DVDパッケージ化したものが非売品として配布されている。音源も映像も公開されたものと同一収録されている。

 

 

 

 

 

和太鼓の強打によってはじまる曲は、静謐な五音音階的モチーフを幾重にも織りませながら厳かな雰囲気ですすめられる。いくつかの打楽器はあるものの、日本の伝統和楽器は使われていない。一般的な西洋オーケストラ楽器のみで、日本古来からの世界観を表現している。公式コメントにもあるとおり、まさに”和魂洋才”といえる。フルートやピッコロをはじめとした木管楽器で五音音階的ハーモニーや五音音階的不協和音を演出するなど、その響きは雅楽などにも共鳴するものがある。

この作品がエンターテインメントに属するかという点においても、レビューをためらう。聴いた感じやイメージで語ることはできたとしても、果たしていいのか、とためらう。信仰や宗教といった側面をもつこともあり単なるエンタメ気分だけで作曲していないことは確かだと思う。そうなると、信仰や宗教といったもの、それになぞらえたものを、どう音楽的手法に置きかえているのか、どこにコンセプトをおいているのか。そういった手引がないと、なにを表現しているのか、見当違いな回答を導きだしてしまう。それでいいのかもしれないけれど、やはりためらう。とっかかりがわかったほうがまっとうな理解は深まる。

「この曲を聴いて絵を書いてください」そう課題を出されたクラス全員の絵が、すべて違うような状態にある。もしそこに「作者は、森をイメージしたようです」「作者は、この楽器を火に見立てたようです」「作者は、このような儀式から着想を得ています」などと解説があれば、課題を出されたクラスの半数以上に、共通点が見つかる絵ができあがるかもしれない。ましてや鎮座百年という記念曲、歴史においても、ふたつの世界大戦をのみこむ長大な時間。そういうことです、レビューをためらう。

たとえば、印象にのこっているもののひとつに、執拗なトランペットの旋律、奏者にとっては最も過酷なパート(動画タイム 4:57-5:27 )。息つく間もなく祈りを唱えつづける言霊のようにも聴こえたり、はたまた、かがり火の炎がちりちりと火の粉たちをまき散らすようにも聴こえたり。容易に近づくことのできない信仰の集中力や、場の空気の緊張感といったものがひしひしと伝わってくる。

こういった部分的なイメージ空想の羅列になってしまうので、やっぱり控えることになる。シンプルに言うと「すごくかっこいいじゃないですか! That’ so Cool!!」と日本からも海外からも驚きと深い喜びでむかえられる楽曲。

この曲をひとつの楽章として置き、多楽章な作品へと発展する生命力を十分に宿した、今の久石譲を出し惜しみなく具現化した大曲。大衆性・芸術性の両軸をかねそなえた、歌わせる旋律とミニマルな旋律を交錯させた、日本と西洋を”いま”で表現した、そんな楽曲になっている。いつか、本人解説や楽曲コンセプトが知りたい。

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『Will be the wind』 *Unreleased

2020年9月15日 動画公開

 

LEXUS(レクサス中国市場向けプロモーション)
テーマ曲「Will be the wind」

中国国内メディアにて一斉に動画公開

 

 

叙情的でミニマルなピアノの旋律と室内オーケストラ編成で構成されている。オーケストラの音源はシンセサイザーによる割合も大きいように聴こえる。ミニマルなモチーフのくり返しを基調とし、奏でる楽器を置き換えたり、モチーフを変形(変奏)させたり、転調を行き来しながら、めまぐるしく映り変わるカットシーンのように進んでいく。

後半はミニマルなピアノモチーフの上に、弦楽の大きな旋律が弧を描き、エモーショナルを増幅しながら展開していく。かたちをもたない風、安定して吹きつづける風、一瞬襲う強い風、淡い風、遠くにのびる風。決して止むことのない風、それは常に変化している、それは常にひとつの場所にとどまらない。ミニマルとメロディアスをかけあわせた、スマートでハイブリットな楽曲。

エンターテインメントとしても、とても聴きやすい音楽になっているけれど、「ミュージック・フューチャー・コンサートシリーズ」などで、この曲をひとつの楽章として置き、多楽章な作品へと発展する可能性をも感じる、久石譲の今の作風を表した楽曲になっている。

オリジナルはシンセサイザー音源になっている。Covid-19のなか生楽器を集めてのセッション・レコーディングができない時期だったためと思われる。久石譲らしい完成度の高いデモ音源がそのまま納品されたレアケースともとれる。

 

 

公開動画について

 

 

2021.07 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートにて初演された。

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『Xpark(館内展示エリア音楽)』 *Unreleased

2020年8月7日 開館

 

2020年8月7日グランドオープン
新都市型水族館『Xpark』(台湾・高鉄桃園駅前)
館内展示エリアの楽曲(全7曲)書き下ろし

曲名・分数・編成などは不明

 

 

“久石譲さんによる7曲の館内音楽は、コロナの影響でリモート会議による打ち合わせを行ったという。巨大水槽で行われる魚群ショーや各ゾーンのイメージを伝えて打ち合わせを重ね、コロナの影響でオーケストラでのレコーディングができないなどの困難を乗り越えで完成した。”

(台北経済新聞 より抜粋)

 

 

メディア・旅行代理店向けに行われた内覧会の様子を動画で見たかぎり、TV『Deep Ocean シリーズ』、プラネタリウム『ad Universum』、映画『海獣の子供』の音楽づくり線上にあるような、ミニマルベースの心地よい、時間軸や空間軸の無数の広がりを感じる音楽となっている。また、生楽器のレコーディングが難しい環境下だったからだろうか、シンセサイザーベースの音楽になっていて、ほとんど生楽器は使っていないように聴こえる。そのぶん、シンセサイザー構成ならではの音やフレーズが飛び交っていて、近年の久石譲音楽制作からすると、貴重な音源といえるかもしれない。生楽器ならば微細な質感や音感でニュアンスに広がりや表情をもたせられることに対して、今回のシンセサイザーベースの楽曲は、パート数・トラック数といった旋律の数を多くすることで、表情を豊かにカラフルにしているように聴こえた。

 

 

なお、公式CM動画公開(2020年9月28日)でも、少しだけ音楽を聴くことができる。

 

 

いつかオリジナル音源や、演奏会用の作品として聴いてみたい。

 

 

 

2021.7 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートにて「Xpark」が初演された。

 

”台湾の水族館のために作曲した。いわば環境音楽のように観に来ていただいた人々に寄り添う音楽を書いたが、この曲はExitの音楽として観客の皆さんが楽しい気分で帰って欲しい、と思い作曲した。”

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

 

2021.11 追記

久石譲インタビュー動画が公開された。また11月11日からは新しいフルオーケストラ・バージョンが館内で公開されることになった。あわせて全7曲のタイトルも発表された。

1.entrance 『Xpark 〜introduction〜』
2.福爾摩沙 『Sea mystery』
3.銀鯧幻影之美『Rainbow in curved fishes』
4.暖海生機 『Fish around the sea』
5.癒見水母(前半) 『Floating the space』
6.癒見水母(後半) 『Kaleidoscope』
7.Xcafe~EXIT 『Xpark 〜ending〜』

 

 

 

2022.07追記

アルバム『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』に収録された。

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』(Domestic / International)

2020年2月21日 CD発売 UMCK-1638/9

 

世界同日リリース&ストリーミングリリース

 

NYに拠点を置くクラシック・レーベル DECCA GOLD世界同日リリースのベストアルバム!

久石作品の中でも映画のために作られた珠玉のメロディが際立つ代表曲を中心に構成された愛蔵版。

(CD帯より)

 

 

iTunes紹介

宮崎駿監督作品や北野武監督作品の音楽を数多く手掛け、世界中の音楽ファンを魅了する作曲家/ピアニスト、久石譲。NYに拠点を置くクラシックレーベルDECCA GOLDからリリースされた、全28曲収録のベストアルバム。作曲家として注目を集めるきっかけとなった、二人の監督の代表作を含めた映画のサウンドトラックを中心に、CMソング、オリジナル曲など、幅広いジャンルから選曲。映画に使用されたオリジナルトラックのほか、2004年に新日本フィルハーモニー管弦楽団と共に立ち上げたWORLD DREAM ORCHESTRAによるライブ演奏”il porco rosso”と”Madness”、管弦楽曲用にまとめた”My Neighbour TOTORO (from “My Neighbor Totoro”)”、ピアノソロで演奏された”Ballade (from “BROTHER”)”、”HANA-BI (from “HANA-BI”)”、斬新な楽器編成に編曲し直された”Ponyo on the Cliff by the Sea (from “Ponyo on the Cliff by the Sea”)”など、さまざまなアレンジも楽しめる。代表曲と共に、久石譲という音楽家のキャリアを一望できる構成になっており、入門盤としてはもちろん、長年のファンも満足のできる充実の一作。現代音楽の実験性と美しいメロディを融合させた珠玉の名曲たちを堪能しよう。

このアルバムはApple Digital Masterに対応しています。アーティストやレコーディングエンジニアの思いを忠実に再現した、臨場感あふれる繊細なサウンドをお楽しみください。「Apple Digital Master is good! 高音域が聴こえるね。とても良い音だと思います」(久石譲)

 

およびApple Music関連インタビュー

 

 

 

An Introduction to the Music of Joe Hisaishi

 日本映画とその音楽を支えてきた作曲家、と聞いて、日本以外に暮らす映画ファンや音楽ファンのみなさんは誰を連想するだろうか? 黒澤明監督の名作のスコアを作曲した早坂文雄、『ゴジラ』をはじめとるす東宝怪獣映画の音楽を手がけた伊福部昭、あるいは勅使河原宏や大島渚などの監督たちとコラボレーションした武満徹くらいはご存知かもしれない。大変興味深いことに、これらの作曲家たちは映画音楽作曲家として活動しながら、クラシックの現代音楽作曲家としても多くの作品を書き残した。そして久石譲も、基本的には彼らと同じ伝統に属する作曲家、つまり映画音楽と現代音楽のふたつのフィールドで活躍する作曲家である。

 映画音楽(テレビ、CMなどの商業音楽を含む)作曲家としての久石は、宮崎駿監督や高畑勲監督のスタジオジブリ作品のための音楽、それから北野武監督のための音楽などを通じて、世界的な名声を確立してきた。一方、現代音楽作曲家としての久石は、日本で最初にミニマル・ミュージックを書き始めたパイオニアのひとりであり、現在は欧米のミニマリズム/ポスト・ミニマリズムの作曲家たちとコラボレーションを展開している。幅広い聴衆を前提にしたエンターテインメントのための作曲と、実験的な要素の強いミニマル・ミュージックの作曲は、一見すると互いに相反する活動のようにも思えるが、実のところ、このふたつは彼自身の中で分かちがたく結びついている。そこが久石という作曲家の最大の特徴であり、また美点だと言えるだろう。

 日本列島の中腹部、長野県の中野市に生まれた久石は、4歳からヴァイオリンを学び始める一方、父親の仕事の関係から、多い時で年間300本近い映画を観るという環境に恵まれて育った。そうした幼少期の体験が、現在の彼の活動の土台になっているのは言うまでもないが、久石は当初から映画音楽の作曲家を志していたわけではない。国立音楽大学在学時、彼が関心を寄せ、あるいは強く影響を受けたのは、シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの新ウィーン楽派の作曲家たちであり、シュトックハウゼン、クセナキス、ペンデレツキといった前衛作曲家たちであり、あるいは彼がジャズ喫茶で初めて知ったジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィス、マル・ウォルドロン、そして友人宅で初めて聞いたテリー・ライリー、ラ・モンテ・ヤング、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスのアメリカン・ミニマル・ミュージックの作曲家たちであった。大学卒業後、スタジオ・ミュージシャンとして活動しながら、現代作曲家としてミニマル・ミュージックの新作を書き続けていた久石は、1982年にテクノ・ポップ色の強いアルバム『INFORMATION』をリリースし、ソロ・アーティスト・デビューを飾る。このアルバムをいち早く聴いたのが、当時、宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』の製作に携わっていた高畑勲と鈴木敏夫だった。

 映画のプロモーションを盛り上げるため、音楽による予告編というべきアルバム『風の谷のナウシカ イメージアルバム』のリリースを計画していた高畑と鈴木は、『INFORMATION』のユニークな音楽性に注目し、久石をイメージアルバムの作曲担当に起用した。宮崎監督の説明を受けながら『風の谷のナウシカ』の絵コンテ(ストーリーボード)を見た久石は、(まだ完成していなかった)映画本編の映像に対して作曲するのではなく、宮崎監督が映画で描こうとしている”世界観”に対して直接作曲することになった(そこから生まれた曲のひとつが、本盤に収録されている《Fantasia》の原曲《風の伝説》である)。イメージアルバムの仕上がりに満足した宮崎監督、高畑、鈴木の3人は、久石に『風の谷のナウシカ』映画本編の作曲を正式に依頼。かくして、久石は『風の谷のナウシカ』で本格的な長編映画音楽作曲家デビューを果たすことになった。

 この『風の谷のナウシカ』の経験を通じて、久石は「監督の作りたい世界を根底に置いて、そこからイメージを組み立てていく」という映画音楽作曲の方法論、すなわち監督の”世界観”に対して音楽を付けていくという方法論を初めて確立した。つまり、単に映画の物語の内容を強調したり補完したりする伴奏音楽を書くのではなく、あるコンセプトに基づいた音楽──例えば絵画や文学を題材にした音楽──を作曲するのと基本的には同じ姿勢で、映画音楽を作曲するのである(もちろん映画音楽だから、映像のシーンの長さに合わせた細かい作曲や微調整は必要であるけれど)。そうした彼の方法論、言い換えれば音楽による”世界観”の表現が最もわかりやすい形で現れたものが、日本では”久石メロディ”と呼ばれ親しまれている、数々の有名テーマのメロディにほかならない。久石がメロディメーカーとして天賦の才に恵まれているのは事実だが、それだけでなく、映画やテレビやCMなどの作品の核となる”世界観”をどのように音楽で伝えるべきか、彼がギリギリのところまで悩み苦しんだ末に生まれてきたものが、いわゆる”久石メロディ”なのだということにも留意しておく必要があるだろう。

 『風の谷のナウシカ』以降、久石は現在までに80本以上の長編映画音楽のスコアをはじめ、テレビやCMなど膨大な数の商業音楽を作曲しているが、その中でも、彼自身が得意とするミニマル・ミュージックの音楽言語を商業音楽の作曲に応用し、大きな成功を収めた例として有名なのが、『あの夏、いちばん静かな海。』に始まる一連の北野武監督作品の音楽である。セリフを極力排除し、いわゆる”キタノブルー”で映像の色調を統一した北野監督のミニマリスティックな演出と、シンセサイザーとシーケンサー、あるいはピアノと弦だけといった限られた楽器編成でシンプルなフレーズを繰り返していく久石のミニマル・ミュージックは、それまでの映画表現には見られなかった映像と音楽の奇跡的なマリアージュを実現させた。

 ”久石メロディ”が映画の”世界観”を凝縮して表現する場合でも、あるいは彼自身のミニマル・ミュージックの語法が映画音楽の作曲に応用される場合でも、久石は一貫して「映像と音楽は対等であるべき」というスタンスで作曲に臨んでいる。そうした彼の作曲姿勢、言い換えれば彼の映画音楽作曲の美学は、彼が敬愛するスタンリー・キューブリック監督の全作品──とりわけキューブリックが自ら既製曲を選曲してサウンドトラックに使用した『2001年宇宙の旅』以降の作品──から学んだものが大きく影響していると、久石は筆者に語っている。映像と音楽が同じものを表現しても意味がない、映像と音楽が対等に渡り合い、時には互いに補いながら、ひとつの物語なり”世界観”なりを表現したものがキューブリックの映画であり、ひいては久石にとっての映画音楽の理想なのである。同時に、「映像と音楽は対等であるべき」とは、作曲家が映画監督とは異なる視点で物語を知覚し、それを表現していくということでもある。そうした作曲上の美学を、久石はミニマル・ミュージックの作曲、特にオランダの抽象画家マウリッツ・エッシャーをモチーフにした作品の作曲を通じて自然と体得していったのではないか、というのが筆者の考えである。若い頃からエッシャーのだまし絵(錯視画)に強い関心を寄せてきた久石は、エッシャーのだまし絵が生み出す視覚的な錯覚と、ミニマル・ミュージックのズレが生み出す聴覚上の錯覚との類似性に注目し、それを実際のミニマル・ミュージックの作曲に生かしていった(例えば1985年作曲の《DA・MA・SHI・絵》や2014年作曲の弦楽四重奏曲第1番など)。そうした音楽を書き続けてきた久石が、映画音楽の作曲において、映像作家が視覚だけでは認識しきれない物語の”世界観”を、作曲家という別の視点で認識し、それ(=世界観)を表現するようになったとしても、べつだん不思議なことではない。つまり久石の映画音楽は──エッシャーのだまし絵がそうであるように──物語から音楽というイリュージョン(錯覚)を作り出し、それによって物語の”世界観”を豊かにしているのである。そこに、長年ミニマル・ミュージックの作曲を手がけてきた久石が、映画音楽の作曲において発揮する最大の強みが存在すると、筆者は考える。だからこそ彼の映画音楽は──本盤の収録曲に聴かれるように──映画から切り離された形で演奏されても、きわめて雄弁に語りかけてくるのだ。

 本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』には、映画やテレビのために書かれた音楽を独立した作品として書き直したり再構成し直したりしたバージョンが数多く収められている。最初に触れたように、久石は映画やテレビの単なる伴奏音楽を書くのではなく、その”世界観”に対して音楽を付けるというスタンスで作曲に臨んでいる作曲家である。その”世界観”の表現は、必ずしもオリジナル・サウンドトラックの録音とリリースで完結するわけではなく、まだまだ発展の余地が残されていることが多い。その発展を彼のソロ・アルバムの中で実現したものが、すなわち本盤に収録された有名テーマの演奏に他ならない。その演奏において、久石自身のピアノ・ソロが大きな比重を占めているのは言うまでもないが、ここでひとつだけ指摘しておきたいのは、彼がピアノのテーマを作曲する時は日本人の掌の大きさを考慮し、4度の音程を意識的に多用しながら作曲しているという点だ。もし、海外のリスナーが久石の音楽を日本的、アジア的、東洋的だと感じるならば、それは彼が音楽を付けた日本映画や日本文化の中で描かれている、日本特有の”世界観”を表現しているだけでなく、日本人(を含むアジア人)にとって肉体的に無理のない形で音楽が自然に流れているからだ、というこをここで是非とも強調しておきたい。

 そして、急いで付け加えておきたいのは、CD2枚組という収録時間の関係上、本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』に収まりきらなかった久石の重要作、人気作がまだまだ山のように存在しているという事実である。特に、近年彼が手がけた映画音楽──今年2019年に日本公開された『海獣の子供』や『二ノ国』など──は、ミニマル・ミュージックの作曲家・久石の特徴と、映画音楽作曲家・久石の実力が何ら矛盾なく共存する形で作曲されており、これまでにない彼の新たな魅力が生まれ始めている。さらに、ミニマリストとしての久石の活動も、フィリップ・グラスやデヴィッド・ラングといった作曲家との共演やコラボレーション、あるいはマックス・リヒター、ブライス・デスナー、ニコ・ミューリー、ガブリエル・プロコフィエフといった作曲家の作品を彼が日本で演奏・紹介する活動を通じて、新たな側面を見せ始めている。本盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』は、そうした音楽家・久石譲の全貌からなる壮大な物語”ヒサイシ・ストーリーズ”のほんの序曲に過ぎない。これまで久石がリリースしてきたアルバムに倣い、仮に本盤のアルバム・タイトルを「HISAISHI STORIES 1」と呼び直してみるならば、いち早く「HISAISHI STORIES 2」を聴いてみたいと思うのは、筆者だけではないはずである。

 

 

DISC 1

One Summer’s Day
Kiki’s Delivery Service
米国アカデミー長編アニメ映画賞を受賞した宮崎監督『千と千尋の神隠し』(2001)のメインテーマ《One Summer’s Day》(あの夏へ)と、宮崎監督が角野栄子の同名児童文学を映画化した『魔女の宅急便』(1989)のメインテーマ《Kiki’s Delivery Service》(海の見える街)は、それぞれのヒロインがそれまで親しんだ日常と異なる”異界”──『千と千尋の神隠し』の場合は千尋が迷い込む湯屋の町、『魔女の宅急便』の場合はキキが新たな生活を始める大都会コリコ──に足を踏み入れていく時に感じる、そこはかとない期待と不安を表現しているという点で、対をなす2曲ということが出来るかもしれない。ピアノがニュアンスに富んだ響きを奏でる《One Summer’s Day》と、ピアノがメロディをくっきりと演奏する《Kiki’s Delivery Service》。少女の自立と成長という共通したテーマを扱い、しかもピアノという同じ楽器を用いながらも、作品の世界観に見合った音楽を書き分け、弾き分けている久石の音楽の多様性に注目したい。

 

Summer
夏休み、どこか遠くで暮らしているという母親に会うため、お小遣いを握りしめて家を飛び出した小学3年生の正男と、彼の旅に同行することになったチンピラ・菊次郎の心の交流を描いた、北野武監督作品『菊次郎の夏』(1999)のメインテーマ。弦楽器のピツィカートがテーマのメロディを導入した後、久石のピアノ・ソロが軽やかにテーマを演奏する。当初、久石はエリック・サティ風の楽曲をメインテーマ用に作曲し、《Summer》をサブテーマとして使う作曲プランを抱いていたが、両者を聴き比べた北野監督の判断により、サティ風の楽曲に比べてより軽くて爽やかな《Summer》がメインテーマに決まったという。

 

il Porco rosso ー Madness
世界大恐慌後のイタリアを舞台に、豚の姿に変わった伝説のパイロット、ポルコ・ロッソの活躍を描いた宮崎監督『紅の豚』(1992)より。物語の時代が1920年代後半に設定されているため、久石の音楽も1920年代のジャズ・エイジを強く意識したスコアとなった。本盤で演奏されている2曲のうち、前半の《il porco rosso》は、イメージアルバムの段階で《マルコとジーナ》と名付けられていた、《帰らざる日々》のテーマ。ジャジーなピアノが、マルコ(ポルコの本名)と美女ジーナのロマンスをノスタルジックに演出する。後半の《Madness》は、ポルコがファシストたちの追手を逃れ、飛行艇を飛び立たせるアクション・シーンの音楽。もともとこの楽曲は、小説家F・スコット・フィッツジェラルドをテーマにした久石のソロ・アルバム『My Lost City』(1992、アルバム名はフィッツジェラルドのエッセイ集のタイトルに由来)用に書き下ろした楽曲だが、宮崎監督の強い要望で『紅の豚』本編への使用が決まったという逸話がある。大恐慌直前のジャズ・エイジの”狂騒”と、1980年代後半の日本のバブル経済の”狂騒”を重ね合わせて久石が表現した《Madness》。その警鐘に耳を傾けることもなく、日本のバブル経済は『My Lost City』リリースと『紅の豚』公開の直後、崩壊した。

 

Water Traveller
一寸法師を思わせる水の精・墨江少名彦(すみのえの・すくなひこ)と小学生・悟(さとる)の友情と冒険を描いた、大林宣彦監督の冒険ファンタジー映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)のメインテーマ。日本映画としては破格の制作費を投じたこの作品は、きわめて異例なことに、サウンドトラックの演奏をロンドン交響楽団(LSO)が担当した。そのため、久石はLSOのダイナミックかつ豊かなサウンドを意識しながら、自身初となる大編成のフル・オーケストラによる勇壮なフィルム・スコアを書き上げた。本盤には、映画公開から17年後の2010年、久石自身がLSOを指揮して再録音した演奏が収録されている。

 

Oriental Wind
原曲は、サントリーが2004年から発売している緑茶飲料「伊右衛門」のCM曲として、久石が”和”のテイストを基調としながら2004年に作曲。通常、日本のCM音楽では、作曲家は実際のオンエアで使用される15秒もしくは30秒ぶんの音楽しか作曲しない。そのため、新たな音楽素材を追加し、演奏会用音楽としてまとめ直したものが、ここに聴かれるバージョンである。追加された部分では、久石自身のルーツであるミニマル・ミュージック的な要素や、新ウィーン楽派風のストリングス・アレンジも顔を覗かせる。

 

Silent Love
サーフィンに熱中する聾唖の青年・茂と、同様に聾唖の障害を持つ恋人・貴子のラブストーリーを静謐なスタイルで描いた、北野監督『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)のメインテーマ。久石が北野作品のスコアを初めて担当した記念すべき第1作であり、北野監督のミニマルな演出法と久石のミニマル・ミュージックが奇跡的に合致した映画芸術としても忘れがたい作品である。セリフが極端に少ない本作において、久石のスコアはサイレント映画の伴奏音楽のような役割を果たし、シンセサイザーとシーケンサーによる幻想的なサウンドを用いることで、言葉では表現できない豊かな情感と詩情を見事に表現していた。嬉しいことに、本盤にはオリジナル・サウンドトラックの録音がそのまま収録されている。

 

Departures
米国アカデミー外国語映画賞を獲得した滝田洋二郎監督『おくりびと』(2008)の音楽より。オーケストラ解散のため職を失ったチェロ奏者が、家族を養うためにやむなく就いた葬儀屋、すなわち納棺師の仕事を通じて、人間の死生観を問い直すという物語だが、本編の中でチェロの演奏シーンが登場することもあり、久石は撮影に先立ってチェロのテーマを書き上げた。本盤に聴かれる演奏は、生の喜びに満ち溢れたメインテーマ《Departures》と、チェロの相応しい哀悼の感情を表現したサブテーマ《Prayer》から構成されている。

 

”PRINCESS MONONOKE” Suite
(The Legend of Ashitaka ~ The Demon God ~ Princess Mononoke)
公開当時、日本映画の興行記録を塗り替えた宮崎監督作『もののけ姫』(1997)より。タタリ神によって死の呪いをかけられた青年アシタカは、呪いを解くために西の地に向かい、タタラ場の村に辿り着く。そこでアシタカが見たものは、村人たちが鉄を鋳造するため、神々の森の自然を破壊している姿だった。アシタカは、森を守るためにタタラ場を襲う”もののけ姫”サンと心を通わせていくうちに、人間と森が共生できる道が存在しないのか、苦悩し始める。本盤に収録された組曲では、最初にアシタカが登場するオープニングの音楽《アシタカせっ記》が、壮大な叙事詩に相応しい風格で演奏される。続いて、アシタカがタタリ神と死闘を繰り広げる部分の音楽《TA・TA・RI・GAMI》。この部分は、”祭囃子”にインスパイアされた音楽で、演奏には和太鼓や鉦など、伝統的な邦楽器が使用されている(祭囃子は、タタリ神が何らかの形で鎮めなければならない超自然的な存在だということを暗示している)。そして、人間と森の共生をめぐり、アシタカが犬神のモロの君と諍うシーンで流れる《もののけ姫》の音楽へと続く。

 

The Procession of Celestial Beings
子供のいない竹取とその妻が、竹の中から見つけた女の赤子を育てるが、絶世の美女・かぐや姫として成人した彼女は生まれ故郷の尽きに戻ってしまう、という話が書かれた日本最古の文学「竹取物語」を、高畑勲監督が独自の解釈で映画化した遺作『かぐや姫の物語』(2013、米国アカデミー賞長編アニメ賞候補)の音楽より。『風の谷のナウシカ』をはじめ、いくつかの宮崎作品でプロデューサーや音楽監督(ハリウッドのミュージック・スーパーバイザーに相当する)を務めた高畑は、久石の映画音楽作曲に大きな影響を与えた人物のひとりだが、監督と作曲家という関係でふたりがコラボレーションを実現させたのは、この『かぐや姫の物語』が最初にして最後である。この作品で、久石はチェレスタやグロッケンシュピールといったメタリカルでチャーミングな音色を持つ楽器を多用し、「かぐや姫」の名の由来でもある彼女の光り輝く姿を表現した。仏に導かれ、月からかぐや姫を迎えに来た天人たちが雲に乗って現れるクライマックスシーンの音楽《天人の音楽》では、久石は「サンバ風に」という高畑監督のアイディアを踏まえ、さまざまなワールド・ミュージックの音楽語法を掛け合わせることで”彼岸の音楽”を表現している。

 

My Neighbour TOTORO
母親の療養のため、田舎に引っ越してきた姉妹サツキとメイが、森の中で遭遇する不思議な生き物トトロとの交流を描いた宮崎監督『となりのトトロ』(1988)の主題歌が原曲。宮崎監督は本作の企画書段階から、子供たちが「せいいっぱい口を開き、声を張り上げて唄える歌」と「唱歌のように歌える歌」が本編の中で流れることを希望していた。そのため、久石は本編のスコア作曲に先駆け、宮崎監督と童話作家・中川李枝子が歌詞を書き下ろしたイメージ・ソングを10曲作曲し、実質的には新作童謡集の形をとった『となりのトトロ イメージ・ソング集』を録音・リリースした。その中の1曲、宮崎監督が作詞を手がけた主題歌《となりのトトロ》のメロディは、久石が風呂場で「ト・ト・ロ」という言葉を口ずさんでいるうちに、自然と生まれてきたという驚くべきエピソードが残っている。ここに聴かれるバージョンは、ブリテン作曲《青少年のための管弦楽入門》やプロコフィエフ作曲《ピーターと狼》と同じく、ナレーションつきの管弦楽曲としてまとめられた《オーケストラ・ストーリーズ「となりのトトロ」》の終曲。演奏は、ブリテンの曲と縁の深いロンドン交響楽団が担当している。

 

 

DISC 2

Ballade
アメリカに逃亡したヤクザが、兄弟仁義に拘りながら、現地のギャングとの抗争の果てに自滅する姿を描いた、北野監督『BROTHER』(2000)のメインテーマ。サウンドトラックではフリューゲル・ホルンがソロ・パートを演奏していたが、本盤にはソロ・ピアノ・バージョンが収められている。北野監督が初めて海外ロケを敢行した作品であり、久石も作曲に先駆け、実際にロサンゼルスの撮影現場を訪れた。その時に北野監督と久石が交わしたキーワード”孤独と叙情”が、作曲の大きなヒントになったという。

 

KIDS RETURN
高校時代、共にボクシングに熱中しながらも、ヤクザに転落していくマサルと、プロボクサーへの道を歩み始めるシンジの友情と挫折を描いた、北野監督の青春映画『Kids Return』(1996)のメインテーマ。「俺たち、もう終わっちゃったのかな」と弱音を吐くシンジに対し、「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」と吐き捨てるように答えるマサルのセリフと共に、「淡々としているのに衝撃的な」ミニマル・ミュージックの匂いを漂わせたメインテーマが流れ始めるラストシーンは、北野映画屈指の名シーンとして知られている。ここに聴かれる演奏は、イギリスの弦楽四重奏団バラネスク・カルテットと久石のピアノが共演する形で書き直されたバージョン。

 

Asian Dream Song
原曲は、1998年長野パラリンピック大会のテーマソング《旅立ちの時~Asian Dream Song~》。久石は長野県出身ということもあり、この大会で開会式総合プロデューサーも担当。開会式のフィナーレで聖火が灯る中、少女が天に向かって上っていく情景において、この曲が演奏された本盤に聴かれる演奏では、アジアの悠久の歴史を感じさせる、東洋的な音階を用いた中間部が挿入されている。

 

Birthday
2005年にリリースされたアルバム『FREEDOM PIANO STORIES IV』のために書き下ろした作品。いわゆる”久石メロディ”の代表作のひとつとして、日本では多くのピアノ愛好家によって愛奏されている。ピアノの単音がよちよちと紡ぎ出すメロディを、弦楽合奏が温かい眼差しで見守るような音楽が、小さな生命の誕生と成長を表現しているようでもある。なお、現在に至るまで、久石は誰の誕生日のためにこの曲を作曲したのか明らかにしていない。

 

Innocent
宮崎監督『天空の城ラピュタ』(1986)のメインテーマ《空から降ってきた少女》のソロ・ピアノ・バージョン。この曲に宮崎監督が作詞した歌詞を付けたものが、本編のエンドロールで流れる主題歌《君をのせて》である。『天空の城ラピュタ』は子供から大人まで楽しめる明快な冒険活劇を意図して作られたが、久石は宮崎監督やプロデューサーの高畑と相談の末、ハリウッド映画音楽の真逆をいくように、敢えてマイナーコードを用いたメロディをメインテーマに用いることにした。その音楽が、映画全体に深みを与えたことは改めて指摘するまでもないだろう。余談だが、2019年に来日した作曲家マックス・リヒターが、リハーサルの合間に突然この曲を弾き始め、その場に居合わせた筆者をはじめ、関係者一同が驚くという出来事があった(久石は指揮者/演奏家としてリヒターの作品を日本で紹介している)。

 

Fantasia (for Nausicaä)
宮崎監督のスコアを久石が初めて担当した記念すべき第1作『風の谷のナウシカ』(1984)のメインテーマ《風の伝説》を、ピアノ・ソロの幻想曲(ファンタジア)として書き直されたもの。同作のプロデューサーを務めた高畑(および鈴木敏夫)から作曲依頼を受けた久石は当時、実験的なミニマル・ミュージックの現代音楽作曲家として活動していたにもかかわらず、商業用の映画音楽を書かなくてはならないというジレンマに立たされた。しかしながら、久石は自己のアイデンティティを殺すことなく、当時の日本のポップスの流行に真っ向から対抗するように、メロディの冒頭部分を(ミニマル・ミュージックのスタイルに従って)コード進行をほとんど変えず、ストイックなメインテーマを書き上げてみせた。そうした彼のストイックな音楽的姿勢が、ナウシカというヒロインの壮絶な生きざまに重なって聴こえたのは、筆者ひとりだけではあるまい。なお、久石が筆者に語ったところによれば、この時期の彼のピアノのタッチは、高校時代から敬愛するジャズ・ピアニスト、マル・ウォルドロンの影響を強く受けているという。

 

HANA-BI
余命いくばくもない愛妻と最期の時を過ごすため、犯罪に手を染めることになる元刑事の生き様を描いた、北野監督作『HANA-BI』(1998)メインテーマのソロ・ピアノ・バージョン。この作品で北野監督はヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞したが、現地での公式上映には久石もわざわざ駆けつけた。陰惨なシーンと関係なくアコースティックできれいな音楽が欲しいという北野監督の要望を踏まえ、久石はそれまでの北野作品で用いなかったクラシカルなスタイルに基づくスコアを作曲し、北野監督の演出意図に応えている。

 

The Wind Forest
宮崎監督『となりのトトロ』の《風のとおり道》が原曲。この楽曲も主題歌《となりのトトロ》と同様、本編のスコアの作曲に先駆け、イメージ・ソングの形で作曲された。ミニマル・ミュージック風の音型が小さき生命の存在をユーモラスに表現し、日本音階を用いた東洋的なメロディが森の中に棲む大らかな生命を謳い上げる。久石自身は、この《風のとおり道》を「映画全体の隠しテーマとなっている重要な曲」と位置づけている。

 

Angel Springs
Nostalgia
2曲ともサントリーのシングルモルトウィスキー「山崎」(サントリー山崎蒸溜所に由来する)のCMのために書かれた楽曲で、「なにも足さない。なにも引かない」という「山崎」の商品コンセプトに基づき作曲された。1995年作曲の《Angel Springs》では、冒頭のチェロの音色が琥珀色の「山崎」の深みを表現。1998年の《Nostalgia》では、久石のピアノがジャジーなメロディを奏でることで、「山崎」を味わうに相応しいノスタルジックな”大人の時間”を演出している。なお、「山崎」に限らないが、アルコール飲料などのCM曲において、久石は一定期間その飲料を実際に味わいながら作曲の構想を練るという。

 

Spring
ベネッセ進研ゼミ「中学講座」CMのために2003年に作曲。曲名が示唆しているように、『菊次郎の夏』のメインテーマ《Summer》と兄弟関係にある楽曲である。そこに共通しているのは、健やかに成長していく子供に向けた期待と喜びの表現と言えるだろう。本盤の演奏で弦楽パートを担当しているのは、カナダを拠点に活動している女性弦楽アンサンブル、アンジェル・デュボー&ラ・ピエタ。

 

The Wind of Life
1996年にリリースされたアルバム『PIANO STORIES II The Wind of Life』収録曲。久石は、作曲メモを次のように著している。「生命の風、人の一生を一塵の風に託す。/陽は昇り、やがて沈む。花は咲き、そして散る。/風のように生きたいと思った」。ポップス・メロディの作曲家としても、久石が第一級の才能を有していることを示した好例と言えるだろう。

 

Ashitaka and San
宮崎監督『もののけ姫』のラスト、”破壊された世界の再生”が描かれる最も重要なシーンにおいて、久石はそれまで凶暴に鳴り続けていたオーケストラの演奏を止め、シンプルなピアノだけで希望のメロディを奏でてみせた。その音楽を聴いた宮崎監督は、「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現できるか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現できた」と語ったという。

 

Ponyo on the Cliff by the Sea
アンデルセンの「人魚姫」に想を得た宮崎監督が、さかなの子・ポニョと人間の子・宗介の出会いと冒険を描いた『崖の上のポニョ』(2008)のメインテーマ。絵コンテを見た久石は、「ポニョ」という日本語の響きから発想を得たメロディを即座に作曲。そのメロディに基づくメインテーマのヴォーカル・バージョンが、映画公開の半年以上前にリリースされた。ここに聴かれるのは、チェロ12本、コントラバス、マリンバ、打楽器、ハープ、ピアノという珍しい編成でリアレンジされたバージョン。伝統的な管弦楽法からは絶対に思いつかない発想だが、チェロのピツィカートとマリンバの倍音が生み出すユーモラスな響きが、不思議にもポニョのイメージと一致する。

 

Cinema Nostalgia
国内外の話題作・ヒット作の映画をプライムタイムにテレビ放映する日本テレビ系「金曜ロードショー」オープニングテーマとして、1997年に作曲。久石の敬愛する作曲家ニーノ・ロータにオマージュを捧げたような、クラシカルな佇まいが美しい。実際の放映では、初老の紳士が手回し撮影機のクランクを回すアニメーション(製作は宮崎監督)がバックに用いられた。

 

Merry-Go-Round
荒地の魔女の呪いにより、90歳の老婆に姿を変えさせられた帽子屋の少女ソフィーと、人間の心臓を食べると噂される魔法使いハウルのラブストーリーを描いた、宮崎監督『ハウルの動く城』(2004)のメインテーマ《人生のメリーゴーランド》(曲名は、宮崎監督の命名による)のリアレンジ。「ソフィーという女性は18歳から90歳まで変化する。そうすると顔がどんどん変わっていくから、観客が戸惑わないように音楽はひとつのメインテーマにこだわりたい」という宮崎監督の演出方針を踏まえ、久石は「ワルツ主題《人生のメリーゴーランド》に基づく変奏曲」というコンセプトで映画全体に音楽を設計した。ここに聴かれるバージョンも、演奏時間こそ短いが、変奏曲形式に基づいている。

 

2019年12月6日、久石譲 69歳の誕生日に。
前島秀国 / Hidekuni Maejima
サウンド&ヴィジュアル・ライター

(CDライナーノーツ より)

 

 

 

CDライナーノーツは英文で構成されている。日本国内盤には日本語ブックレット付き(同内容)封入されるかたちとなっている。おそらくはアジア・欧米諸国ふくめ、各国語対応ライナーノーツも同じかたちで封入されていると思われる。

 

ベストアルバム発売におけるプロモーション、Music Video公開、および収録曲のオリジナル収録アルバムは下記にまとめている。ライナーノーツには、各楽曲の演奏者(編成)とリリース年はクレジットされているが、オリジナル・リリースCDは記載されていない。

また本盤は、いかなるリリース形態(CD・ストリーミング各種)においても音質は向上している。もし、これまでにいくつかのオリジナル収録アルバムを愛聴していたファンであっても、本盤は一聴の価値はある。そして、これから新しく聴き継がれる愛聴盤になる。

 

 

 

 

公式特設ページ(English)
https://umusic.digital/bestofjoehisaishi/

 

 

 

 

 

オリジナルリリース

DISC 1
Track.1,2,3,6,7,9,12
Disc. 久石譲 『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』

Track.4,5
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

Track.8
Disc. 久石譲 『THE BEST COLLECTION presented by Wonderland Records』

Track.10
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『真夏の夜の悪夢』

Track.11
Disc. 久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』 *抜粋

DISC2
Track.1,7,13
Disc. 久石譲 『ENCORE』

Track.2
Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

Track.3,9,12
Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

Track.4,11,16
Disc. 久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』

Track.5,6,8
Disc. 久石譲 『Piano Stories』

Track.10,15
Disc. 久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』

Track.14
Disc. 久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』

 

Also included in
DISC2 Track.5,6,8,9,12,15
Disc. 久石譲 『Piano Stories Best ’88-’08』

DISC1 Track.1,2,12 & DISC2 Track. 6,8,13,14
Disc. 久石譲 『Ghibli Best Stories ジブリ・ベスト ストーリーズ』

 

 

 

DISC 1
1. One Summer’s Day 映画『千と千尋の神隠し』より
2. Kiki’s Delivery Service 映画『魔女の宅急便』より
3. Summer 映画『菊次郎の夏』より
4. il porco rosso 映画『紅の豚』より
5. Madness 映画『紅の豚』より
6. Water Traveller 映画『水の旅人 侍KIDS』より
7. Oriental Wind サントリー緑茶『伊右衛門』CMソング
8. Silent Love 映画『あの夏、いちばん静かな海。』より
9. Departures 映画『おくりびと』より
10. “PRINCESS MONONOKE” Suite 映画『もののけ姫』より
11. The Procession of Celestial Beings 映画『かぐや姫の物語』より
12. My Neighbour TOTORO 映画『となりのトトロ』より

DISC 2
1. Ballade 映画『BROTHER』より
2. KIDS RETURN 映画『KIDS RETURN』より
3. Asian Dream Song 1998年「長野冬季パラリンピック」テーマソング
4. Birthday
5. Innocent 映画『天空の城ラピュタ』より
6. Fantasia (for Nausicaä)  映画『風の谷のナウシカ』より
7. HANA-BI 映画『HANA-BI』より
8. The Wind Forest  映画『となりのトトロ』より
9. Angel Springs サントリー「山崎」CMソング
10. Nostalgia サントリー「山崎」CMソング
11. Spring ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」CMソング
12. The Wind of Life
13. Ashitaka and San 映画『もののけ姫』より
14. Ponyo on the Cliff by the Sea 映画『崖の上のポニョ』より
15. Cinema Nostalgia 日本テレビ系「金曜ロードショー」オープニング・テーマ曲
16. Merry-Go-Round 映画『ハウルの動く城』より

 

DISC 1
1. One Summer’s Day (from Spirited Away)
2. Kiki’s Delivery Service (from Kiki’s Delivery Service)
3. Summer (from Kikujiro)
4. il porco rosso (from Porco Rosso)
5. Madness (from Porco Rosso)
6. Water Traveller (from Water Traveler – Samurai Kids)
7. Oriental Wind
8. Silent Love (from A Scene at the Sea)
9. Departures (from Departures)
10. “PRINCESS MONONOKE” Suite (from Princess Mononoke)
11. The Procession of Celestial Beings (from The Tale of Princess Kaguya)
12. My Neighbour TOTORO (from My Neighbor Totoro)

DISC 2
1. Ballade (from BROTHER)
2. KIDS RETURN (from Kids Return)
3. Asian Dream Song
4. Birthday
5. Innocent (from Castle in the Sky)
6. Fantasia (for Nausicaä) (from Nausicaä of the Valley of the Wind)
7. HANA-BI (from HANA-BI)
8. The Wind Forest (from My Neighbor Totoro)
9. Angel Springs
10. Nostalgia
11. Spring
12. The Wind of Life
13. Ashitaka and San (from Princess Mononoke)
14. Ponyo on the Cliff by the Sea (from Ponyo on the Cliff by the Sea)
15. Cinema Nostalgia
16. Merry-Go-Round (from Howl’s Moving Castle)

 

All Music Composed & Arranged by Joe Hisaishi

Produced by Joe Hisaishi

except
“Ballade” “HANA-BI” “Ashitaka and San”
produced by Joe Hisaishi & Masayoshi Okawa

“Asian Dream Song” “Angel Springs” “Nostalgia” “The Wind of Life” “Cinema Nostalgia”
produced by Joe Hisaishi & Eichi Fujimoto

Design: Kristen Sorace
Photography: Omar Cruz

and more

 

 

DISC 1

M1
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M2
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M3
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M4
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2016 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M5
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2016 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M6
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M7
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M8
Joe Hisaishi – Piano
Hiroki Miyano – Guitar
Makoto Saito – Bass
Masatsugu Shinozaki – Violin
Masami Horisawa – Cello
Junko Hirotani – Vocal
Joe Hisaishi – Fairlight Programming
® 1991 Wonder City Inc.

M9
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M10
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2006 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M11
Joe Hisaishi – Piano
New Japan Philharmonic World Dream Orchestra
Solo Concertmaster: Yasushi Toyoshima
Conductor: Joe Hisaishi
® 2014 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M12
Joe Hisaishi – Piano
London Symphony Orchestra
Orchestra Leader: Roman Simovic
Conductor: Joe Hisaishi
® 2010 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

DISC 2

M1
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M2 Joe Hisaishi – Piano
Balanescu Quartet:
Alexander Balanescu – Violin 1
Thomas Pilz – Violin 2
Chris Pitsillides – Viola
Nick Holland – Violoncello
Jun Saito – Bass
Hirofumi Kinjo – Woodwind
Masamiki Takano – Woodwind
Momoko Kamiya – Marimba
Marie Ohishi – Marimba & Percussion
® 2000 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M3
Joe Hisaishi – Piano
Pan Strings – Strings
Conductor: Joe Hisaishi
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M4
Joe Hisaishi – Piano
Koike Hiroyuki Strings – Strings
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M5
Joe Hisaishi – Piano
® 1986 Wonder City Inc.

M6
Joe Hisaishi – Piano
® 1988 Wonder City Inc.

M7
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M8
Joe Hisaishi – Piano
® 1988 Wonder City Inc.

M9
Joe Hisaishi – Piano
Pan Strings – Strings
Conductor: Joe Hisaishi
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M10
Joe Hisaishi – Piano
Orchestra Città di Ferrara
Nobuo Yagi – Harmonica
Conductor: Renato Serio
® 1998 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M11
Joe Hisaishi – Piano
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M12
Joe Hisaishi – Piano
® 1996 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M13
Joe Hisaishi – Piano
® 2002 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M14
Joe Hisaishi – Piano
12 Special Violoncello:
Ludovit Kanta, Nobuo Furukawa, Yumiko Morooka, Akina Karasawa, Mikio Unno, Eiichiro Nakada, Robin Dupuy, Mikiko Mimori, Shigeo Horiuchi, Eiko Onuki, Takayoshi Sakurai, Keiko Daito
Igor Spallati – Contrabass
Momoko Kamiya – Marimba
Reiko Komatsu – Marimba, Percussion
Yuko Taguchi – Harp
Micol Picchioni – Harp
® 2009 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M15
Joe Hisaishi – Piano
Orchestra Città di Ferrara
Conductor: Renato Serio
® 1998 UNIVERSAL J, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

M16
Joe Hisaishi – Piano
Angèle Dubeau & La Pietà:
Angèle Dubeau – Solo Violin
La Pietà: Émilie Paré, Natalia Kononova, Natacha Gauthier, Myriam Pelletier, Marilou Robitaille, Gwendolyn Smith, Anne-Marie Leblanc, Mariane Charlebois-Deschamps
Sawako Yasue – Percussion
® 2005 UNIVERSAL SIGMA, a division of UNIVERSAL MUSIC LLC

 

Disc. 久石譲 『ad Universum』 *Unreleased

2018年12月19日 公開

 

コニカミノルタプラネタリアTOKYO
オープニング記念作品
DOME2 プラネタリウムドームシアター作品
『To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲』

上映期間:2018年12月19日~2019年12月18日
上映時間:約40分
上映時刻:12時/14時/16時/18時/20時
音楽:久石譲
ナレーション:夏帆

 

コニカミノルタプラネタリウム“天空”in 東京スカイツリータウン
上映期間:2019年10月12日~ *

*台風のため10月12日は休館。初上映は10月13日 15時~の回より。

 

 

プラネタリウムの音楽を書き下ろすのはキャリア初、全編書き下ろし。自らタクトを振るい『宇宙』をテーマにオーケストラ編成による壮大なサウンドスケープ。本作は最新の立体音響システム「SOUND DOME®」に対応、まるで実際に目の前でオーケストラが演奏しているかのような、重厚かつ繊細な音響空間を構築。本作のテーマは、宇宙飛行士が体験した“本当の宇宙”。日本人宇宙飛行士の土井隆雄さん、山崎直子さん、大西卓哉さんの体験を元に、そこから見える宇宙の光景(すがた)を、コニカミノルタプラネタリウムの最新投映機「Cosmo Leap Σ(コスモリープ シグマ)」と全天周CG映像で再現。

43.4ch音響。SOUND DOMEは、ドーム裏側に配置された43個のスピーカーと、壁背面の4個のウーファーで構成した立体音響システム。前後左右に加え上下や回転といった、きめ細かな音像移動を表現。オーケストラによる演奏や環境音を忠実に再現することで、リアルな体験を提供。

(作品案内より)

 

 

To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲 約30秒

(*公開終了)

コニカミノルタプラネタリウム Official チャンネル より

 

 

12月17日ラジオJ-WAVE「GOOD NEIGHBORS」に生出演した際には、本作品の音楽について語られ、エンディングに流れる「AD UNIVERSUM」(約3分)楽曲がオンエアされた。

 

「結果的に書いてよかったです。自分が書きたいミニマルベースな方法論で書けました。地面じゃない音楽っていう言い方は変かな、例えば深海シリーズとかディープオーシャン、ちょっと日常ではない世界、宇宙とかね、そういう音楽って意外に音楽の持っている力がけっこう発揮しやすい。そういう意味では、わりと書きたいように書かせていただいたし、この間試写を観たときにすごく「あっ、これはかなりいいねえ」と僕は思いました。」

「宇宙は実は一個問題があって、キューブリックの『2001年宇宙の旅』という映画があって、なぜか宇宙空間になると(あのワルツの)パターンができちゃってるんで、これを壊さなきゃいけないというのがちょっとありますよね。やっぱり僕はすごいと思う、あのアイデアはね。そういう方法をとらないで、ミニマルをベースにしたので大丈夫だったんですが、やっぱり宇宙だと一回ああいう衝撃的な音のつくり方をされると、これけっこうみんな残っちゃいますよね。」

「まだちゃんとしたミックスもしてなくて音質も悪いです。ただ一番レアなものだということで聴いていただけたらいいかなあと思います。タイトル言いましょうか。「To The Grand Universe」よりエンディングを聴いてください。」

(J-WAVE GOOD NEIGHBORS 出演トークより 一部書き起こし)

 

 

 

2019.1.8 追記

レビュー

久石譲のラジオインタビューにあるとおり、ミニマル手法をベースに全編音楽構成された作品。メインテーマがありオープニングやエンディングで流れ本編ではそのバリエーション(変奏・アレンジ)が流れるという構成ではなく、全編書き下ろされた楽曲になっているのも大きな特徴と言える。

主張するようなはっきりとした性格をもったメロディではないけれど、ミニマルという最小限のモチーフながら広がりや無限さを感じさせる巧みな音づくり。聴き飽きることのない音楽、ずっとループしていたいような音楽宇宙。アプローチとしては深海シリーズやディープオーシャンに通じる小編成オーケストラで、切れ味のよいソリッドな響き、リズミックな刻みが心地いい。ピアノ・マリンバ・ハープといった久石譲のミニマル・エッセンスに欠かせない楽器たちが絶妙なバランスでブレンドされている。

たとえば、プラネタリウムから連想するきれいで優しくてゆったりとした、楽器でいうとストリングスが悠々と流れシロフォンがキラキラと輝き。そんなイメージを打破してくれる久石譲のモダンでミニマルな音楽構成はとても新鮮で、新しい表現を提示してくれたこと、見事に映像と音楽で宇宙を描けていることは画期的とも言える。

ひとつだけ例をあげると、満点の星空がゆっくりと時間をかけて一周するシーンがある。久石譲のミニマル・ミュージックだけで約数分間静かに確かに推しきっている。そしてこれは星の動きが終わりなく永遠であること、ミニマルの調べもまた永遠であることと強く共鳴し印象的なシーン。

良い意味で映画のように制約が少ない音楽づくりは、とても久石譲がやりたいイメージで伸び伸びと発揮されているように思うし、映画ではここまでミニマル・ミュージックを貫けないだろうという点でも貴重な音楽作品。ナレーション付きだけれど、しっかりと音楽だけを聴かせる箇所も複数あり、効果音がうるさくぶつかることも少ない。まるでMusic Videoを観ているように久石譲音楽をたっぷりと聴くことができる。上映作品名に久石譲の名前がついているだけあって、音楽を大切につくられたプラネタリウム作品であることが伝わる。

映画サウンドトラックよりも、久石譲の明確なアプローチやコンセプトをもった、オリジナルアルバムに近い位置づけとできる音楽たち。上映時間約40分中、音楽は2/3以上配置されている。ぜひミニアルバムなどのCD化を強く願っている。また「Deep Ocean組曲」のように演奏会用音楽作品としても再構築され、コンサートで演奏されることも期待したい。それほどまでに現在進行形の久石譲が凝縮された最先端の音楽が届けられたとうれしさ満点。

エンドロールがとても駆け足で音楽関連情報をほとんど把握することができなかった。演奏はオーケストラ団体名はなく、Violin誰々というように全楽器奏者の個人名がクレジットされていた。おそらく約40人規模ぐらいの編成だったのではないかと思う。もうひとつ取り上げたいのが、公式PVで映像がはさまれていたレコーディング風景の1コマ2コマ、奏者の服装に半袖や腕をまくった人が多かったこと。この時は、秋にかけてレコーディングしたのかなと推察していた。そしてエンドロールのクレジットを組み合わせる。オーケストラ団体名ではなかったのは、今回のレコーディングメンバーは、ナガノ・チェンバー・オーケストラのメンバーがベースとなっているのではないだろうか。時期的にも「第九」公演にて完結した2018年夏からまもなくであり、久石譲の現代的アプローチを見事に表現できる室内オーケストラ、3年間久石譲と互いに磨きあげた信頼関係と演奏技術。まったくの勝手な推測の域を出ないけれど、この作品の音楽の”音”を思い出すたびにそんな気がしてくる。いつか演奏者や合唱団についての詳細が明らかになるとうれしい。

 

久石譲が紡ぎあげる宇宙空間。こんなにも贅沢な非日常イマジネーション豊かな音楽を、飽きのこない広がりある心地よい無重力ミニマル・ミュージックを、日常生活のなかでいつも包まれ聴きたい。

 

プラネタリアTOKYOオープニング作品(期間限定)、再上映予定なし、未CD化作品。

 

 

 

2019.8.14 追記

2019年8月1日「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ」にて組曲化、世界初演。

 

ad Universum
1.Voyage
2.Beyond the Air
3.Milky Way
4.Spacewalk
5.Darkness
6.Faraway
7.Night’s Globe
8.ad Terra

 

ーAプロでは次の曲が「ad Universum」です。

久石:
今年オープンしたプラネタリウム(コニカミノルタ プラネタリウム)のために書いた曲を組曲として構成し直しました。宇宙がテーマだったので、ミニマル・ミュージックでありながら聴きやすさを大事にして作った曲です。つまり相反する要素を一つの曲の中で表現している。そういう意味ではBプロで演奏する深海をテーマにした「Deep Ocean」の続編としての側面もあります。

(久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

 

ad Universum 【A】
コニカミノルタプラネタリアTOKYO『To the Grand Universe 大宇宙へ music by 久石譲』のために書き下ろされた曲たちが『ad Universum』というタイトルで組曲化されました。この作品についてはとても曖昧な印象、な話になってしまいます。現在もロングラン上映中かつ未CD化のオリジナル楽曲たちだからです。

おそらくほとんどの曲が組曲化で盛り込まれているような気はします。小さい編成のオーケストラ+シンセサイザーで組み立てられたオリジナル版は、ミニマル手法を貫いた楽曲たちです。コンサートの印象では、やや編成を大きくし、アクセントやパンチの効いたダイナミックなオーケストレーションも施され、あくまでも管弦楽をベースとして必要最小限のキーボードによる電子音使用、まさに演奏会用の音楽作品に再構成されているんだろうと思います。静かな曲での電子音はエッセンスとしてとても効果的で、オーケストラも厚すぎず、散りばめられた星たちが適度な距離感でまたたくように、音たちもそれぞれの距離感で奏であい、、やっぱり曖昧な印象になってしまう。

エンディングに流れる曲はオリジナル版では合唱編成あり、この楽曲だけラジオO.A.音源として聴くことができます。コーラスの厚みが金管楽器などに置き換わっていました。さすが演奏会用に昇華されたダイナミックなエンディング曲です。ということで、、プラネタリウム鑑賞時のレビューのほうが各楽曲について細かく記しているかもしれません。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

ad Universum
プラネタリウムの為に書き下ろされた楽曲達が再構成されて、コンサートで披露されました。ミニマルミュージックを軸に構成されており、反復で表現されていく様子はまさしく音のプラネタリウムでした。8曲から構成され、プラネタリウムで使用された楽曲はほとんど使用されていたのはないでしょうか? 絶え間なく演奏され、1曲ずつの感想は書けませんが、印象に残ったことを書いていきます。

冒頭(1.Voyage)では、ゆったりとしたストリングの調べから、突如マリンバのソロが入ります。そこから繰り広げられていくミニマルの刻み。『D.E.A.D』組曲の三楽章『死の巡礼』のように迫りくるリズムが続きます。

2.Beyond the Airでは『The East Land Symphony』の二楽章『Air』のような浮遊する雰囲気を感じられます。全体としてメロディの要素は少ないですが、途中で現れる「ラレド♯ー」のような特徴的なメロディの欠片からは流れ星の煌めきを連想させます。低音から高音へ、波の揺らぎのような部分からは『Deep Ocean』のような雰囲気も。

終盤(8.ad Terra)からは大迫力のミニマルワールド。ひたすら繰り返されるリズムの刻みに終始圧倒されました。大迫力のフィナーレのあと、マリンバのソロで静かに終わるのが印象的でした。

Overtone.第24回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート by ふじかさん より抜粋)

 

 

 

 

 

Disc. 久石譲 『栃木市民の歌 -明日(あす)への希望-』 *Unreleased

2015年11月13日 発表

 

市歌「栃木市民の歌 ~明日(あす)への希望~」
作曲:久石譲 作詞:麻衣

 

栃木市市制5周年記念式典にて発表。麻衣の歌唱により初披露、小学生との合唱も披露された。

 

麻衣は、太平山を何度も訪れたことがあったという。市歌の制作が決まってからはさらに構想を練るため、渡良瀬遊水地や市中心部の巴波川など市を3度訪問。「父とたくさん話し合い、栃木の人たちの地元への思いを表現した」と語る。

市長は市歌について「地元を離れた人の郷愁を誘う曲になるとうれしい」と期待を寄せている。

 

市歌はCDを市図書館などで貸し出すほか、市ホームページで試聴もできる。
https://www.city.tochigi.lg.jp/soshiki/8/121.html

 

栃木市ホームページによって視聴・ダウンロードできるのは下記4項目である。

  • 栃木市民の歌~明日への希望~(歌:麻衣)
  • 栃木市民の歌~明日への希望~(ピアノ伴奏)
  • 譜面(メロディ譜)
  • 譜面(ピアノ伴奏)
  • 譜面(混声四部合唱)
  • 歌詞カード

 

 

老若男女が歌えるシンプルで清らかな歌曲である。

楽譜にも「Giocoso」と明記されているが、《陽気に、楽しく》という音楽用語であり、市民みんなで楽しく歌いあってほしいという表れであろう。

また珍しい点といえば、シンプルな旋律ながら付点8分音符が多く見られ、このことがリズミカルで快活な歌曲/合唱曲への一役を担っているといえる。(8分音符の連続の場合”タタタタ”となり、付点8分音符の連続の場合は”タータタータッ”となる)

これから先市民の歌として愛されるなかで、同市で久石譲コンサートなどが企画された際には、オーケストラと合唱での共演などの可能性もあるかもしれない。

 

 

 

2018.3 追記

 

 

 

栃木市

 

栃木市民の歌 アスへの希望 ジャケット 2